2 : 01 劣化ウラン弾

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[yu]米軍の劣化ウラン弾、イタリアも抗議

2001年 1月 4日
記事ID d10104

この記事は、2001年1月に、当時の BBC News の記事 Alarm over Nato uranium deaths をベースに書かれたものです。

NATOは、アメリカに主導され、本来、必要ないのにユーゴスラビアでの紛争に軍事介入して問題をますますこじらせたが、米軍の戦闘機がばらまいた劣化ウラン(DU)弾による健康被害の不安は、深刻な置きみやげとなった。

気流にのって北欧まで

劣化ウランは大気の流れにのってポーランドとフィンランド、そしてハンガリー、ギリシャ、イタリアにまで降下し、発ガンなどの被害をもたらすと予測されている

フィンランド、スペイン、ポルトガル、フランスは、すでに懸念を表明していたが、最近、イタリアもNATOへの詳しい調査を要求した。バルカン帰りのイタリア兵があいついでガン(ないし白血病)になりすでに6人、死亡したことをうけたもの。

「当然すぎる不安」

イタリア共和国のジュリアーノ・アマート首相は、「バルカン症候群」をめぐりイタリア国内にもある不安は、「当然すぎるもの」だと語った。バルカン症候群とは、NATO軍のユーゴ空爆後にコソボでふえたなぞの症状で、「からだから力が抜ける」「せきが止まらない」といったもの。もし原因がウラン汚染なら、現在はまだ「潜伏期」で、本格的な症状が広がるのは2、3年後だという。

「NATOは、劣化ウランの性質について、完全な調査を行い報告すべきだ」アマート首相は、訴えた。「我々が繰り返し聞かされていたのは、劣化ウラン弾が健康に影響するのは、ごく例外的な場合 ―― 例えば、肌に直接つけて、その肌に傷口がある場合 ―― だけで、それ以外の、ふつうの場合には、少しも危険性がないという話だった。しかし事実は、それほど単純でないと考えざるを得ない状況になっている」

NATO軍は、コソボ以前のバルカン紛争においても、ボスニアで劣化ウラン弾を使ったとされる。

水銀中毒に似た化学毒性

誤解されやすいが、劣化ウラン弾というのは、決して核兵器を意図したものでは、ない。ウランと聞くだけでおびえるかたも多いと思うが、天然のウランの99.3%は放射能のない「ただの金属」(ウラン238)で、核燃料となる放射性のウラン235は0.7%ほどにすぎない。「劣化ウラン」というのは変な訳語だが、depleted uranium の deplete というのは鉱山などから鉱石を掘りつくして、そこは、もう廃坑にするしかというような意味で、文字通りで言えば、放射性のウランをとりつくしてしまった残りかす(核燃料としては使えないただの金属)ということになる。

このほか、天然のウランのなかには、極微量(0.005%)の「ウラン234」が含まれる。含有量は少ないが放射能は強いらしい。

鉛中毒、水銀中毒などと同様に、ウラン238にも(放射能はないが)化学毒性がある。また、核燃料になるウラン235を100%完璧に分離して取り出せるわけでないので、実際の劣化ウランには、わずかながら、「堀り残した」放射性のウランも含まれている。

劣化ウランで作った金属部品がそのへんに置いてあっても、それ自体は、ただちに危険では、ない。実際、民間のジャンボジェット機の部品として、用いられたりもした。鉛以上の重金属(高密度)なので、小さなスペースに効率よく重いおもりをつけるには、つごう良く、材料も核燃料のしぼりかすなので安く手に入る。

兵器の砲弾の場合も、密度が高いほうが威力が大きい。雪合戦で、同じ重さの雪の玉を投げる場合でも、ちいさくぎゅっとにぎった雪玉のほうが、当たると痛い。そんなわけで、次々と死の兵器を開発して大儲けするれいのあの国が、「劣化ウランを砲弾に使ったら安上がりで強烈なのができまっせ。微量の放射能汚染? いや今まで一度もそんな報告はないですよ、廃物利用のリサイクルで環境にも優しい兵器です」などと考えたのか(この説明は、もちろん半分冗談です)、ハイテク兵器見本市「湾岸戦争」で1991年に使ったのが初めとされる。イラクに対する新型の対戦車砲弾として、米軍が使用したのだ。枯れ葉剤にせよトマホークにせよ、まったくもって、あれやこれやと変なもんを思いつくものだ。

たしかに、砲弾として、メッキもはげずに原形をとどめている限り、とくに危険なものでは、ないと思われる。この点、アメリカの主張も基本的に正しいのだ。ただ、実際には、目標に命中した劣化ウラン弾は、装甲を貫くときに激しい摩擦熱でウランを気化拡散させるので、「からだに入らなければだいじょうぶ」といっても、空気に混ざってしまえばもう問題外だ。

ウランの毒性については、アメリカの環境有害物質・特定疾病対策庁(ATSDR)が一般向けのFAQ「ATSDR - Public Health Statement: Uranium (1990)」を公開している。こう書いてある:「天然ウランの毒性については、よく分かっていませんが、ウラン鉱山の労働者は肝臓障害を起こしやすく、実験動物でも肝障害が確認できます。食物、水、空気、または皮膚のどの経路からの摂取でも、同じ結果になります。また、放射能の影響による発ガン性も考えられます。ウランを実際に摂取してから長期ののちに発症する可能性もあります。動物実験では、生殖障害や催奇性(胎児への悪影響)も示されています。」

このコップ、持てる?

鉛というと重さの代名詞だが(「腕が鉛のように重い」とか)、劣化ウランは、その鉛よりさらに2倍近く密度が高く 19g/cm3 だという。コップ一杯の水というのは200gくらいの重さだが、もしコップのなかに同じ容積の金属ウランが入っていると、それは約4kgという計算で、持とうとすると「なんでこれこんなに重いの?」とぎょっとするに違いない。コップ1杯のつもりで片手でひょいと持とうとしたら、ざっとお米の5kgの袋くらいの重さがあるんだから……。また、そういう性質があるからこそ、飛行機のおもり部品や、戦車の装甲(そうこう)を破るための砲弾に使われた。たしかに、その驚異的な貫通力は高く評価されている。

タングステンも同じ密度だが、タングステン弾より威力があるという。コスト的にも高価なタングステンと違って、じゃまなゴミである劣化ウランを兵器に転用するのは、たしかに効率的なリサイクルだ。

劣化ウランが拡散した場合の毒性の強さは、もちろんそういうデータはこれまでないからハッキリしないのだけれど、東京消防庁のマニュアルによれば、許容濃度は空気1立方メートルあたり0.25ミリグラムだという。「ミリグラム単位あっても大丈夫」というとそんなに猛毒でもない、という感じもするが、密度が上記のごとくだから、0.25ミリグラム、すなわち1グラムの4000分の1といえば、おおざっぱに「0.1ミリメートル未満の目に見えないくらいの粒が1立方メートルにつきたった1個浮遊しているだけで、もうアウト」なのであって、弾丸が飛び交い空爆があり物がすぐ粉々になる戦場において、弾丸の成分にそんな物質を使うのは非常識きわまる ―― 敵国に被害を与えたいという意図はともかくとして、これでは軍事行動を行う味方だって危ない。枯れ葉剤の二の舞だ。ましてや今度は化学毒性だけでなく、放射能もあるのだから。それを空から3万1千発も撃ちまくったという(1発でもかなり巨大な砲弾=写真。いったい合計で何トンのウランをまいたことになるのだろう)。―― さらに、劣化ウランは、湿った空気に触れると毒性の強いフッ化物を生成するともいう。おまけに、沸点3000℃台だから激しい炎に包まれる戦場では、あっけなく気化してほうぼうに散らばってしまう。

実際、湾岸戦争に従軍した兵士の多くは、「湾岸症候群」として知られるさまざまな健康障害の原因は、この劣化ウラン(DU)弾だと考えている。

劣化ウラン弾は、ただ置いてあるだけでは、さして放射能もない。けれど、戦車の装甲などを貫通する際、劣化ウランそのものが高温で燃焼し、微細な粒子(蒸気)となって空中に拡散する。アメリカ国防省も、この粉じんが危険であることを認めており、DU弾で破壊した戦車のなかに入るときは注意するように言っている。しかし、アメリカ国防省は、「粉じんが危険なのは短時間だけで、着弾地点から遠くに広がる可能性は低い」と言い張っている。中立の立場からの実験によると、その主張は正しくなく、粉じんは何十キロも先まで飛んでゆくことがあることが分かっている。

アメリカとイギリスの軍事担当は、「DUの危険は、重金属としての毒性のみで、放射能のほうは無視できる」などと言を左右にしている。仮にそうだとしても、例えば「水銀には放射能がないので、川に流しても平気です」というのだろうか。

三分の二の兵士の体から検出

米軍の元大佐で今は医学の教授である Dr Asaf Durakovic は、昨年、湾岸戦争に参加した17人の兵士の検査を行った。3分の2の兵士からは、相当量のDUが検出された。「体内にあった粒子の一部は、呼吸によって吸い込まれたものです。もし仮に吸収できないほど大きい粒子であれば、そのまま肺にとどまって、肺ガンの原因になる可能性があります」という。

米軍・環境政策研究所の報告書でも「体内に入ったDUの危険性には、化学毒性と放射能の二面がある」とされている。「DU弾の砲撃を受けた戦車等の内部または付近にいた人間は、相当量のDUの体内被曝を受ける可能性がある」

湾岸戦争に参加した兵士のなかには、そのご先天的障害を持つ子が生まれ、自分がDUを浴びたからだと考えている者も複数いる。敵国とされたイラクでも、1991年にDU兵器が使用された地域では、一般住民(文民)の発ガン率が高まっているとの報告がある。

不安を持つのは知らないうちにDUにさらされたかもしれない現地および周辺の住民も同じだ。支援活動のため現地にいたスタッフやジャーナリストにも不安が広がる。

ヨーロッパのいくつかの国の政府は、自国の兵士に対して、現地のものを食べないように指示し、飲料水も外部から飛行機で補給していたと言われる。しかし、そこにいた人間のほとんど ―― つまり現地の住民たち ―― は、そのような安全な水を分けてもらえたわけでは、ない。

東西冷戦の終結にともなうNATO不要論の流れのなかで、NATOの「新たな存在意義」をアピールすることが主目的の理不尽な軍事介入ショーだったのだから、せめてもう少しきれいに戦うべきでは、なかったか。いくらアメリカ合衆国内で劣化ウランが余って保管に困っているからといって、「在庫処分の良い機会」とばかりに(というわけでもあるまいが)、湾岸戦争でその非人道性が分かっている兵器を大量に投入した点、第二の枯れ葉剤として、のちのちまで批判にさらされるだろう。いや、枯れ葉剤のときは、まだダイオキシンの危険が知られていなかった。今回は、知っていてやったのだ。

米軍の一般兵士に罪はない。自分たち自身も、この武器がどんなに危険か知らされず、知らないうちに同じ被害にあっていた(枯れ葉剤のときもそうだった)。自分が使っている兵器が本人にとっても危険であり、しかもそのことを上層部は知っていながら教えてくれないなんて、敵の非人道的兵器でやられるよりさらに非人道的だ。

リンク

更新履歴

2001年1月 初版。

2003年4月 中国新聞(広島)の特集記事「劣化ウラン弾 被曝深刻」へのリンクを追加。

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