8 : 02 海岸に隠された輝くかぎ

← 8‒01 p↑ もくじ i 8‒03 n →

始まらない話

2011年 2月24日
記事ID e10224

夢に出てきたクジラの缶詰をしっかり離さないで、朝起きたとき、手に持ってたよ。

***

逃げちゃおぜ、世界の中に

第1話 始まらない話

夢の中で、きれいな鍵を拾った。「なくしたら大変だ。何があっても絶対離さないぞ~」と思ってギュッと握ってたら、朝起きたとき、手に持ってた。

***

夢に妖精が出てきたとき「あっ、妖精だ~」とほほ笑むだろうか。「妖精って本当にいたんだ…」と驚くだろうか。

ぼくは頭が混乱してしまい、しばらくは何も言えなかった。

「久しぶり…だね」ぼくは小声で言った。なぜか照れくさかった。涙が頬を伝った。「…懐かしい」

「えっ、何? どうしたの?」妖精は不思議そうにぼくの顔を見て、笑った。「昨日約束したじゃん」

「うん、昨日約束した…」ぼくもうなずいて、もう笑っていた。涙だと思ったのは、金平糖こんぺいとうだった。

「今日はどこ行く? 何して遊ぼっか?」

*

普通の疑問符と、アラビア語の裏返った疑問符と、スペイン語のひっくり返った疑問符を三つ集めてイアリングを作って軽く振り、三種類の疑問符が触れ合う涼しい音色に、くすくす笑うわたしたち。

? ؟ ¿

「彼女は海岸で貝殻を売っています」

早口言葉に意味などない。シニファンだけでシニフィエのない早口言葉を翻訳すると、もう何も残らない。なんという清潔。何も表現せず、何も主張しない。なんという小心。なんという大胆。

「ねえ…」

妖精は、秘密のように、ささやいた。

「世界の中に行ってみない?」

「勝手に入ったら怒られるんじゃない?」

「大丈夫だよ。夢の一部だもん。この夢と地続きだもん」

「夢の中から世界に入れるんだ?」

「どっちからどっちでも行けるんだよ」

「へー」

「夢に出てきたクジラの缶詰をしっかり離さないで、朝起きたとき、手に持ってたよ」

「そんなこともあるんだね」

***

鳥が不思議な声でさえずっていた。長いメロディーを微妙に変えながら、何度も何度も…

「…あれは世界の鳥」

おばあさんの静かな声。聞き覚えのある声だけど、思い出せない。

「てっぺんにいるよ」

妖精が教えてくれた。

ぼくは見上げた。気が遠くなるほど高い木。枝がものすごくいっぱいある。雲の上まで広がる複雑な枝。知ってる、これは世界線…。そのとき「あっ、このおばあさん、京田尚子ひさこの声だ」とひらめいた。世界線が一つ弾けた。

「鳥はあそこで観測している。世界を主催するために」おばあさんは言った。

「…見守ってるの?」

「何も守りはしない。下で何が起きても鳥は困らないから。ただ…見ている。…何が起きても構いやしない」

「悪い鳥?」

「なんにも考えてないんだろう」

「鳥がまばたきしている隙に、わたしが先に世界を見るわ…」

次回予告

「先輩、なんか、やけに哲学的に始まりましたね。これって、こういう話でしたっけ?」
「ヘヘ、たまには文学的にガツンといかないとな!」
「っていうか、どの行が誰のせりふか曖昧で、読みにくいんですけど?」
「どのせりふも、そのせりふ自身のせりふじゃね?」
「次週『逃げちゃおぜ、世界の中に』、第2話…」
「…そこでは話が始まることはなく、言葉が意味を持つこともない」
「はっ?! それが題名ですか?」
「大臣の華麗な変身を見逃すと、逮捕しちゃうぞ♥」
「お楽しみに!」

関連記事

逃げちゃおぜ、世界の中に

画像の出典

「アンの小箱」の素材です。「アンの小箱」の利用規定に従ってください。

この記事のURL


時間を止めてイタズラできたら楽しいか

2024年 4月21日
記事ID f40421

漫画やアニメなどでは、「時間を止めることができる人」が登場することがある。時間を止める手段は魔法や超能力のようなものかもしれないし、SF的な技術・設定かもしれない。

仮にあなたは、時間を止めることができるとしよう。もちろんあなた自身は、止まった時間の中を動くことができる。これはお約束。そうでなければ、話として面白くない。

みんなが止まっている中、あなたは自由に動けるのだから、いたずらもやり放題!

楽しいかも…?!

この状況は、素朴な観点ではイメージしやすいのだが、考えてみると…

逃げちゃおぜ、世界の中に

第2話 時間を止めてイタズラできたら楽しいか

時間を止めたとたん、あなたの主観では、世界は真っ暗になるだろう。対象そのものが光を放っているにせよ、光源(太陽や照明器具)から出た光が対象に当たって、その反射光が目に入るにせよ、その現象は、時間が動いていないと起きない。よしんば光が放たれるとしても、光の速度は有限なので、時間が止まっていれば、あなたの目にその光は届かない。光子が網膜の光受容細胞に到達しないことには、物が見えない。

だが「物が見えない」のは、命に関わる問題ではない――現実に、目が見えない人も、問題なく日常生活を送っている。晴眼者が急に視覚を失うと不便だろうけど、「時間を止める」という大それた仮定の話である。超能力かSF的技術によって、その不便については何とか解決できるとしよう。

時間を止めたとき、もっと深刻な問題は、酸素の供給だろう。時間が止まっているので、風も吹かないし、空気中の分子も動かない…酸素分子を吸い込めない。これは命に関わる。仕方がないので「あなたの近傍の物体は、あなたと同じ局所時間に従う」と仮定しよう。この仮定がないと、服や靴の分子が動かず、いたずらをしに出かけることもできないしね…。しかし近傍の酸素はすぐ無くなってしまうので、時間を止めたら動き続けるか、あるいはスキューバダイビングのような酸素ボンベを使用する必要がありそうだ。何だか面倒なことになってきたぞ…

どこかのお店にでも行って、何かいたずらでもしましょうか? しかしもちろん自動ドアは開かないし、エレベーターは動かないし、乗り物も使えないし、あらゆることを自力でやるしかない。周囲の時間を止めたとき体内にあったエネルギー。アデノシン三リン酸。それを使い果たすと、たちまちバテてしまう。食事をしてエネルギーを補給しようにも、ヒーターは動かないし、燃焼も起きないし、お湯も沸かせない。そもそも水道が動作しない。ついでにトイレも使えない。

近傍以外の分子は「空間に固定」されているので、近傍の分子が「普段通り」に振る舞ってくれても、移動には「大気全体を動かすような力」が必要になると思われる。なぜなら自分が一歩進むためには、一歩先の空間にある分子をどかす必要がある。一歩先の分子をどかすとなると、どいた分子が行く場所(二歩先)の空気の密度が高くなる。通常であれば何でもないことだが、今、あなたの局所座標では全ての分子が固定されているのである。コンプレッサーのような物理動作を自力でやらねばならない。かなりの労力が予想されるが、熱を放射できないので体温の調整もできない。これも命に関わる!

あまり楽しい世界じゃないぞ?!

*

この(くだらない)思考実験から分かることとして、私たちの存在、生命という現象――あるいは幻影――は「即自的」ではない。絶え間ない外部との物質交換・エネルギー交換・情報交換によって成り立っている。あなたは時に腹を立て、「この世はくだらない」「みんなばかだ」と考えるかもしれないが、あなたの存在そのものも、その「くだらない世界」と切り離された場所にあるわけではない。少なくとも物理的な意味においては…。流動があるから世界が成り立ち、その一つの相として、人間とかいう存在も成り立つ。

この流動性・刹那性は「良いこと」でも「悪いこと」でもない――雨が降ったり、水蒸気が蒸発して雲になったりするのと同じ意味で、それが「この世界」なのだ。ある意味において「この世界」の外側に行けるかもしれないけれど、そうだとしても、それは「この世界の内側で好き勝手ないたずらをする楽しさ」とは別の物語だろう。

プログラマーは言う。「こんにちは、世界!」…世界はくすくす揺らめき続ける。「わたしたち、もともとここにいたじゃない」

ソクラテスは言う。「さようなら、世界!」…世界はくすくす揺らめき続ける。「わたしたち、もともといなかったじゃない」

どこにでもある超新星から、どこにでもある銀河中心核へ。流れてゆく物質。どこにでもある宇宙の渦の、どこにでもある一億年。さざめくさざ波の中で、かげろうのような意識が自分を命と呼び、一瞬にして揮発する。星に生まれ変わり、再び滅び、再び流れてゆく…

しかし、のび太くんは主観時間で一体何年、生きてるのだろうか。タイムマシンで冒険してるときの主観時間の経過は、「タイムマシンで現在に帰る」とゼロ扱いだが、記憶は残るようだし、本当はタイムトラベル中でも年をとるはず。そういえば確か一度、家出したとき、遭難して無人島で年を取って、タイムふろしきで若返っているので、主観的には一回おじいさんになっているような…。のんきそうに見えるが、実は「ポーの一族」の悲しみを背負っているのだ(笑)!

次回予告

わたしは10さいになりました。おたんじょう日のおいわいで「ふぇりちゃん、なすきじたごん、もねろちゃん」と言われました。ふぇりちゃんって、だれだろ。

さとしさんちの、びっちゃんは、もうすぐ何かが半分になるので、みんな大さわぎしています。びっちゃんは、でこぼこで、まる見えなので、かわいそうです。

わたしは、いつも同じ形で、とうめいになってどこへでも行けるので、ありがたいです。

「えーっと…先輩、この次回予告は一体…?」
「だいたい次回予告っていっても、第3話って20年くらい前に終わってなくね?」
超・でたらめですね!」
「20年前だけど、それが次週…」
「次週…『逃げちゃおぜ、世界の中に』、第3話…」
「バーチャル・クリプトアイドルもねろ10歳」
「第3話はそんなもんができる前の話でしょう!」
「バナナパフェにバイバインをかけた美春の、あしたはどっちだ?!」
「お楽しみに!」

関連記事

逃げちゃおぜ、世界の中に

画像の出典

「アンの小箱」の素材です。「アンの小箱」の利用規定に従ってください。

この記事のURL



<メールアドレス>