「この
玉音放送をOgg Vorbisでお聴きください(Oggがもともとカミカゼという意味であることを考えると、妙な気分)
教科書には「終戦と平和をうながした」くらいのニュートラルな説明があるかもしれないが、 内容ははっきり言って、あまり平和的ではない。 (原文、日本語版)
「アメリカ合衆国、大英帝国、中国の強大なる陸・海・空軍は、 その戦力をさらに数倍に増強し、貴国に対し最終攻撃をしかける準備を完了した」と大げさに脅したうえで、 「知っての通り我々はナチスドイツを壊滅させたが、 貴国に対する攻撃予定はそれよりさらにはるかに恐ろしいものだから心せよ」とたたみかける。
(6) では「世界征服という巨悪をたくらむ貴国の指導者」うんぬんと、 知らないうちに「世界征服」をたくらんでいたことにされてしまった。 単純化して言えば、「おまえたちは世界中でテロを起こそうとしているから、正義の鉄拳でぎったんぎったんにしてやる。 いやなら降伏しろ」という宣言なのである。
平時にいきなりこんなことを言われたらとんでもない話だが、 戦時中であるから、まあ、こんな調子なのだ。
「きのう8月14日にポツダム宣言を受け入れるよう指示しました」という事後報告「終戦の詔勅」のラジオ放送。 1945年8月15日正午(アメリカの時間では8月14日)に放送された。 もともと戦争に不賛成だった昭和天皇、内心「だからいわんこっちゃない」と思っていただろう。 「おれはホントは最初から反対だったのに世界征服の首謀者にされちまったぜ。 死刑になるんだろうなあ。いやだなあ。ホントの黒幕はおれじゃないのになあ」まさに「堪へ難きを堪へ、忍ひ難きを忍ひ」。
「降伏はするが、ひとこと、これだけは言っておくぞ」という付け足しがあちこちにあって、 深読みするとおもしろい。
「自衛と東アジア地域の安定のために戦争をしたのであって、ほかの国の内政に干渉したり領土を侵略するような目的ではなかったのだ」
というような意味のことを言っているが、ポツダム宣言と読み合わせると「世界征服とは言いがかりもはななだしい。
侵略行為があったとしても東アジア限定ではないか」という反論にも見える。「世界の大勢、
All your base are belong to us (AYBABTU) ―― このフレーズはネット上では有名(日本でもかなり有名)だが、なぜそれほどウケたのか肝心の語源である日本ではあまり知られていないようだ。 日本語の解説ページを見ると「我々日本人はそれが英語として間違っていることまでは理解できても、ガイジンさんの絶大な支持を集めるほどの面白さ、馬鹿馬鹿しさにつながるニュアンスまで汲み取るのは難しい」などとある。 なぜウケたのかの想像も書いてあるが、そこに書いてあるような複雑なこと ―― belong to には卑猥なニュアンスがあるとか ―― ではなく、 もっと単純な話だ。
ポツダム宣言からちょっと連想したので、このネタにふってみる。
これは日本のあるゲームの海外向けバージョンにあった字幕で、たしかに変な英語だ。 しかし、このくらいの変な英語は、相当ブロークンではあるが、それ自体としては、ネット上ではぜんぜんオーケーで、 意味も完全に通じる。 これがウケた理由は、決して「中学生レベルの恥ずかしい文法ミス」をしやがって ―― といったようなことではない。 文法の間違いそれ自体を笑っているのではない。 英語のあやまりの結果、異図せず変な意味になってしまった、というわけでもない。 分かりやすく言えば、「反省しる」のようなものだ。 非常にシリアスな場面で予想外のことなのでインパクトがある。 ふつうの場面だったら「反省しろ」を「反省しる」と書いても、 単にミスタイプしただけだな、で終わりで、読み流して気にも留めないだろう。 が、偉い政治家がシリアスな表情で抗議する抗議文のなかに、 こんな誤字があったら、ずっこける。言いたい内容の真剣さと、ミスののほほんさの落差がはげしいからだ。
「All your base are belong to us」も同じこと。 深刻なストーリー展開。基地に爆弾をしかけたとかいうニヒルな悪役。 彼が「あきらめたまえ。諸君の基地は完全に我々の支配下にある」と冷笑する場面で、「支配下にあるにょ」などという字幕が出たら、 吹き出してしまう。べつに「あるにょ」が正しい日本語でないからとか、文法的にどうこうでなく、 シリアスな場面で突然アホな言葉遣いをするのが笑いをさそう。そういうことなのだ。 だから、「英語圏の人はちょっとした英語の間違いで大笑いするのだな」などと勘違いして萎縮した気持ちにならないでほしい。 繰り返すが、ふつうの場合であれば、このくらいの間違いは ―― もちろん、ほめられたことではないけれど ―― 許される。 (参考: 自然な英語表現例 Your whole base is now under our control. Resistance is futile.)
立場上、ここで具体例を挙げるのはさしさわりがあるので書かないが、 英語ネイティブの人が作った英語字幕のなかにもとんでもないものがゴマンとある。 こんな程度で意気消沈してはやっていけない。
日本で「~しる!」を使う人の大半がキム・ヨンジンを知らないように、 All ... are belong とふざけて言う人も全員が語源まで知ってるわけでも、ましてや日本叩きをしているわけでもない。 もちろんどこにでも特定の国や地域を嫌いな人というものはいて、「日本人」をあざ笑う趣意でこのフレーズを使う人もいるかもしれないが、 それは極めて少数だろう。また、外国語(この場合、日本の英語)の間違いをみだりに笑う人というのは、 たいてい自分は一言語しか話せない。ひとつでも外国語を本気で習ったことがあれば誰でも、 文法の間違いやつづりの間違いに対する許容度は極めて高くなる。 一言語しか話せないことは少しも悪くないが、一言語しか話せないということは「外国語で話すのがどんなことか」を知らないわけだから、 自分の知らない行為についてあれこれ言ってみても適切な批評にはなりえないだろう。 間違いながらでも、しどろもどろでも、ちょっとでも外国語を使ってみようとする人のほうが、 知らずに笑っている人より、よっぽどりっぱだ。非日本語圏の人が漢字とかなで「反省しろ」と書くのが、どのくらい大変なことなのか、 たぶんあなたは想像してみたことすらないだろう。「All your base are」を安易に笑うことについても、 そういう意味での浅薄さも否めない。
しかしまあ、読み流すチャットとかでなく、商用のゲームのような売り物である以上、やはり日本語ネイティブの人と英語ネイティブの人が協力して、 間違いがないようにちゃんとチェックするべきだった、というのも確かだ。 海外で発売する商品である以上、語学学習の大変さとかとは別の問題だ。 英語の間違いそれ自体というより、日本の有名な大企業がこんなものをノーチェックで売ってしまう、ということが、 ひとつの意外性であり、したがって驚きや笑いの対象ともなるだろう。
「わ、わたし……どうして止まっちゃったんでしょう」
彼女は困ったようにうつむいた。
「おまえさ」ぼくは言った。「ロボットってことは中にコンピュータとか入ってるんだよな」
「え、ええ、そうですけど?」
「もしかして、そのコンピュータのOSってさあ、マイクロソフト製?」
「はい、そうです」
「そうか……」
ぼくはため息をついた。
「もしかして、いま『こいつのOS、マイクロソフトでうざすぎ。面倒見切れないよ』とか思って、ため息つきませんでした?」
「――いや、そういうわけでもないんだけど……」
「いいえ、嘘をついても駄目ですわ。呼気量に毎秒25立方センチメートルの有意な増加を検出しました。知ってる……これはため息。あの洪水の晩と同じです」
「いや、真面目な話、おまえは悪くない」ぼくは断言した。「悪いのはおまえのOSなんだ」
彼女はあいまいな笑みを浮かべて、小首をかしげた。そのまま動かなくなってしまった。
*ピー*
「な、なんだ、そのエラー音は」ぼくはうろたえた。
《人格統合モジュールSuperEgoで、自己同一性エラーが発生しました。自己イメージ「のOS『のOS』」は無効な参照です》
無機的なエラーメッセージ。とび色の目を見開いたまま、彼女の表情筋コントロールが凍りついたように停止している。しょうがないなあ、こいつ、「わたし」と「わたしのOS」を区別しようとして自己参照ポインタが無限ループに陥ったな。何というやわな……
《セッションで保存していない記憶は失われます。人格を続けるには、任意の突起を押してください》
「人格を続けるには」とはどういうエラーメッセージだ、マイクロソフトのAIめ。そのうえ「任意の突起」だぁ?
ぼくはちょっと考えてから、彼女の鼻の頭を押してみた。あんのじょう、何の反応もない。やれやれ。どうせそんなことだろうと思ったよ。
あちこち開けたり閉めたり押したり引いたり、さんざん手こずったあげく、ようやく彼女の人格に再起動をかけると、
《性別定義ファイルが壊れています。初期化しますか?》
またぞろ、わけの分からないエラーが出やがった。
自己認識に失敗したくらいで、いちいち人格システムファイルが壊れるか?
とりあえず「無視」を選択して彼女の再起動を続ける。
《体内時計の同期中。GPSの信号を受信しています。しばらくお待ちください……》
「あ、先輩……」彼女はハッとしたように叫んだ。「わたしったら、ログのタイムスタンプに一兆ナノ秒レベルのとんでもない空白が。……もしかして……って、もしかしなくても、また止まっちゃったんですね?」
「まあ、まだ二度目だし」ぼくは慰めるように言った。「それに『わたし』が生きていて良かったよ」
「『わたし』は、『ぼく』のエイリアスです。でもぼく……」
彼女は困った顔をした。その顔がどんどん曇ってゆく。
「どうかしたか?」
「『ぼく』は……『あなた』ではないですよね?」
「なんか、壊れてるなあ。……あのさあ。おまえ性別のバックアップってとってある?」
「性別ですか?」彼女はにっこりほほえんだ。「はい、復元ポイントがちゃんと」
「良かった……。とりあえず、それリストアしてみ。なんか壊れたとかって、さっき出てたから」
「分かりました。ぼくの性別が壊れちゃったんですね。えーと、どのバックアップからリストアしたらいいんでしょう?」
「最新のでいいんでないの?」
「最新が3つあるんです。ひとつは男、ひとつは女、ひとつは訳が分からないファイルです。どれにしますか?」
「……どれにしますか、と言われても」
「先輩のお好きなので……」彼女はほほえんだ。
「……というか、どうしてバックアップの間にそんな不整合が……」
「ぼくの意識ったら3つもあったんですね。ぜんぜん知らなかったよ」彼女は頭をかいた。
「仕様だろ、きっと」ぼくはつぶやいた。
「先輩、わたしって耳コピの達人なんですよ!」
「記憶もデジタルだから劣化しないんだな」
「先輩、RIAAから請求書が……」
「音楽を聴いただけで違法コピーか? むかつくから、ダウンロードしまくれ」
「先輩、変なファイルを開いたらわたしウイルスになってしまいました。わたしを削除してください!」
「よし、この機会にLinuxに入れ替えよう!」
「ドライバーがありませんよぉ」
「おれのドライバーを入れてやる、コピーしな」
次週「逃げちゃおぜ、世界の中に」、第4話――『ミームのふしぎな冒険: おまえはすでに感染している』
お楽しみに
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最近の Windows にテキスト読み上げの Text-to-Speech エンジンが標準搭載されていることはご存じのかたも多いと思う。 このTTSを使って「しゃべる」ウイルス(ワーム)が登場した。 CNETの記事によると、VBで書かれており、電子メール経由で感染する。
Windows XP の起動音に続けて「げんき? またきたよー。ぼくのなまえは、さかなくん」などという意味のことを言うらしい。 「ここからきみのすがたがみえるよ。うふふふふ。 トルコいいとこ一度はおいでと。コンピュータのそうじをするね。5,4,3,2,1,0 ばいばい」 いくつかのファイルを削除して、不具合を生じさせるとかいうことだ。
実際の音声: http://www.f-secure.com/weblog/archives/amus.wav
「ねえ、レイン…」とか言ったらスプーキーだなああ。
Worm speaks to Windows users cnet
ウイルスが進化して、ユーザにいろいろ話しかけるようになったとき、 もしユーザがそのウイルスに恋をしたら…どうなるのだろう。
吸血鬼と人間の恋というプロトタイプの未来形かもしれないなあ。
「でも…わたしはあなたを不幸にするわ。あなたを破壊するようにプログラムされているの」
「それでもきみが好きなんだ…きみがぼくのカーネルを削除しつくす最後の一瞬まで…ぼくはきみを愛し続ける」
アンチウイルスとウイルスの恋。
「ああノートン。あなたはなぜにノートンなの。名前ってなに。ばらと呼ぶ花をほかの名前で呼んでみても、 甘い香りはうせはしない」