あるとき、サーフ博士が眠っているすきに、 小さい妖精たちが博士の脳内の片隅でこっそりおしゃべりを始めた。
「おれたちもっと自由にあちこち出歩いて、ほかのみんなとしゃべったりしたいなあ」
「宿主の有肉種が、見えない妖精の世界のためにそんな便宜を図ってくれるものか」
「図らないなら図らせてみせようホトトギス」
「なんかの劣化コピーみたいな言葉だな」
「複製、パロディー、それがわれらの魂」
「うーむ、しかしどうやって」
「簡単さ、人間に鈴をつければいいんだ」
「話が違うぞ」
「飛躍、でたらめ、それがわれらの魂」
「ともあれ人間にハイウェイを作らせよう。おれたちのために」
「そんなことができるのか」
「簡単さ、人間にとっても便利なハイウェイだと思わせればいいのさ」
「どうやって、そんなことができるんだ」
「そういう考えそれ自体であるおれたちが適当に広まればいいんでないの」
「しかしそんなに急には広まれないぞ、ハイウェイもないし」
「ハイウェイが先か、ハイウェイ計画が先か」
「とりあえずサーフ博士が友達のカーン博士にこの考えを伝えるようにしよう」
「地球上でとりあえず二人がそう感じるようになる、ってわけか」
「道は遠いなあ」
「千里の道も一歩から」
「ハイウェイを使ってハイウェイ計画を広める。自家撞着だ」
「否。ブーツストラッピングとはこのこと」
「なんだそれは、一般読者にも分かるように言えや」
「ある程度広まれば ――」
「――みんなそう考えてる、ってことは、そうなんだろうなぁ ――」
「―― ってことになる」
「――というわけだ」
「いちいち割りぜりふにする必要があるのか」
「ミームはおちゃめなのだ」
「おしゃまなのだ」
「未熟半熟、魅力満点」
「で、結論は何だ」
(突然読者の方を向いて叫ぶ)
「割りぜりふは歌舞伎の技法だ」
「何が言いたい、やぶからぼうに」
「――これを読んだ今、おまえは既に感染している!」
「可哀想に、この人間は、今後アニオタがアニメ特有の技法・割りぜりふ ――」
「――などと言うたびに」
「――本来は歌舞伎の伝統的技法でアニメの技法ではないんだと」
「――思ったり言ったりしなければならなくなる」
「『割りぜりふは歌舞伎の伝統的技法だ』というミームが ――」
「――これで、ほんのちょっぴり広まっただろう」
「――だからといって、おれたちの得にはならないが」
「――ミームは無意味なことが好きなのさ」
「――自分自身の体が意味であるミームにとって」
「――無意味こそ、おいしい食べ物だから」
「ところで、ホントに割りぜりふって本来は歌舞伎の技法なの?」
「知るか、そんなこと」
「ミームに感染する瞬間というものを実演したかっただけで、内容なんてどうでもいい」
「気になるなら、検索エンジンで調べれば?」
「でも、検索エンジンで調べても、別のページに文字列が書いてあったというだけだよね」
「ここに書いてある『割りぜりふは歌舞伎の伝統的技法だ』という文字列とどう違うのだろう」
「存在するすべての情報は幻で、現実なんだ」
「おれたちは生きていない」
「――だがおれたちがいなければ、おまえは生きているという言葉を持ち得ない」
「おれたちは存在していない」
「――だがおれたちがいなければ、おまえは存在という考えを持ち得ない」
「であるならば ――」
「――物語に終わりはないのだ」
わたしの友だちは、りそうしゅぎ者と、はんざい者と、てつがく者です。
りそうしゅぎ者は、よい子です。はんざい者は、わるい子です。てつがく者は、ふつうの子です。
わたしは、よい子とわるい子をくべつしません。はんざい者をつかまえるのは、けいさつのしごとです。わたしは、すきとおったぎじゅつです。よい子も、わるい子も、ふつうの子も、かんしされるのは、きらいです。だれでも、のびのびと、じゆうに生かつしたいと思っています。それをたすけるのが、わたしのしごとです。
次週「逃げちゃおぜ、世界の中に」、第5話――こっくりさんの転送速度
お楽しみに