メモ(数論14): べき和の秘密

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「チラ裏」は、きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。

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2023-03-16 14+24+34+…+104 のような和 直接的アプローチ

#数論 #二項定理

1 + 2 + … + 10 のような計算は、よく知られている。同様な和の2乗バージョン(12 + 22 + … + 102)や3乗バージョンも、常識の範囲かもしれないが、往々「公式が天下り的に与えられ、帰納法で確認してよしとする」という状況がある。そのような証明に甘んじると、4乗や5乗バージョンが欲しいとき、手も足も出ない!

このメモでは、初等的・構成的な方法を紹介したい。Bernoulli 数を使う方法に比べると古風で泥くさいものの、単純な機械的計算によって「2乗バージョン、3乗バージョン、4乗バージョン…」を自力で導出できる。このアプローチは、本質的には Pascal の発見らしいが、江戸時代の和算家 せき孝和たかかずも同様の計算をしたという。Bernoulli は
  110 + 210 + 310 + … + 100010
7分くらいで計算できる!と豪語した――どっちが速いか関孝和と競争したら、面白かったかも(笑)。

「7分程度で筆算する方法」については、末尾§7で具体的に考察する。

Bernoulli 数は古典的な話題のようだけど、ごく最近、2021~2022年に Knuth が B1 の定義を変更、複数の著書でかなりのページを書き換える「事件」があった。「自著にどんな小さな誤り・不備も許さない。1文字の誤字も許さない」「誤りの発見者には賞金を払う」という態度のあの Knuth が、「私は何十年もずっと間違っていた」「従来の定義は間違いだった」と判断したのだ。歴史上・理論上の是非はさておき、広く使われている長年の慣用なんだから、ちょっと脚注を追加するくらいでうやむやにしても誰も文句を言わないのに、全部書き換えて、改訂版の無料配布までした――何という厳しい態度。計算機科学の権威中の権威による根拠のある判断なので、各方面に実質的影響を与え、現在もその余波は続いている。その意味では、今ホットな話題。

「著者や実装によって定義が違う」というのはよくあることで、Knuth の復古的な定義が「正しい」かどうかは、相対的な問題だろう。けれど「どんな小さなことでも妥協しない」というそのスタンスは、鮮烈だった。

*

§1. 最初の3節では、同じようなことを3回やる。冗長な反復みたいだけど、「パターン」の存在を体感するには、実際にやってみるのが一番だろう。まず 1 + 2 + … + n を2乗和に帰着させる――「簡単にできることをわざわざ複雑にしてる」みたいだが、以下の方法には、2乗バージョンより上への拡張性がある。

1 から n までの各整数の2乗和を A とする:
  A = 12 + 22 + 32 + 42 + … + n2  【あ】
この値が具体的にどうやって計算されるのか?は、とりあえずどうでもいい。とにかく「こういう足し算」を考える。

同様に 1 から n + 1 までの各整数の2乗和を B とする:
  B = 12 + 22 + 32 + 42 + … + (n + 1)2  【い】
同じ意味だが、こう書くことにしよう:
  B = 12 + (1 + 1)2 + (2 + 1)2 + (3 + 1)2 + … + (n + 1)2  【う】

ここで (x + 1)2 = x2 + 2x + 1 という関係を使うと:
  B = 1 + (12 + 2⋅1 + 1) + (22 + 2⋅2 + 1) + (32 + 2⋅3 + 1) + … + (n2 + 2⋅n + 1)
足し算の順序を変えて、2乗の和、2倍の和などをそれぞれまとめると:
  B = 1 + (12 + 22 + 32 + … + n2) + (2⋅1 + 2⋅2 + 2⋅3 + … + 2⋅n) + (1 + 1 + 1 + … + 1)  【え】
【え】の3個の丸かっこ内は、どれも n 項ある*1。整理すると:
  B = 1 + (12 + 22 + 32 + … + n2) + 2(1 + 2 + 3 + … + n) + n  【お】

*1 【い】つまり【う】は n+1 項あるが、それらの最初の項 12 は【え】では丸かっこの外にあるので、丸かっこ内の項数は n+1 より一つ少ない。

【い】と【あ】はそれぞれ「左辺と右辺が等しい」という等式なので、【い】の左辺から【あ】の左辺を引いたものと、【い】の右辺から【あ】の右辺を引いたものは、もちろん等しい(等しいものから等しいものを引くんだから):
  B − A = (n + 1)2  【か】
同様に【お】から【あ】を引くと:
  B − A = 1 + 2(1 + 2 + 3 + … + n) + n  【き】
【か】の右辺と【き】の右辺は、どちらも B − A という等しい値なので:
  (n + 1)2 = 1 + 2(1 + 2 + 3 + … + n) + n = 2(1 + 2 + 3 + … + n) + (n + 1)
この式の右端の (n + 1) を移項すると:
  (n + 1)2 − (n + 1) = 2(1 + 2 + 3 + … + n)  【く】
【く】の左辺は (n + 1)(n + 1) − (n + 1) = (n + 1)[(n + 1) − 1] = (n + 1)n なので、結局【く】は:
  (n + 1)n = 2(1 + 2 + 3 + … + n) つまり 2(1 + 2 + 3 + … + n) = n(n + 1)
両辺を 2 で割ると:

1 から n までの和 1 + 2 + 3 + … + n = n(n + 1)/2

〔例1〕 1 + 2 + 3 + … + 10 を直接計算すると:
  1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7 + 8 + 9 + 10 = 55
上の公式を使うと:
  10 × 11 / 2 = 5 × 11 = 55

§2. 1 から n までの各整数の3乗和を C とする:
  C = 13 + 23 + 33 + … + n3  【さ】
この場合も「3乗和の公式はどうだったけ?」とか「確か帰納法で…」とかの、余計な心配は無用――それを今から自分で作る!

1 から n + 1 までの各整数の3乗和を D とする:
  D = 13 + 23 + 33 + … + (n + 1)3  【し】
同じ意味だが、こう書くことにしよう:
  D = 13 + (1 + 1)3 + (2 + 1)3 + … + (n + 1)3  【す】

ここで (x + 1)3 = x3 + 3x2 + 3x + 1 という関係を使うと:
  D = 1 + (13 + 3⋅12 + 3⋅1 + 1) + (23 + 3⋅22 + 3⋅2 + 1) + … + (n3 + 3⋅n2 + 3⋅n + 1)
足し算の順序を変えて、3乗の和、2乗の和の3倍、3倍の和などをそれぞれまとめると:
  D = 1 + (13 + 23 + … + n3) + (3⋅12 + 3⋅22 + … + 3⋅n2) + (3⋅1 + 3⋅2 + … + 3⋅n) + (1 + 1 + … + 1)  【せ】
【せ】の4個の丸かっこ内は、どれも n 項ある。整理すると:
  D = 1 + (13 + 23 + … + n3) + 3(12 + 22 + … + n2) + 3(1 + 2 + … + n)+ n
上記「1 から n までの和」の公式を使うと:
  D = 1 + (13 + 23 + … + n3) + 3(12 + 22 + … + n2) + 3[n(n + 1)/2] + n  【そ】

今、【し】から【さ】を引くと:
  D − C = (n + 1)3  【た】
【そ】から【さ】を引くと:
  D − C = 1 + 3(12 + 22 + … + n2) + 3[n(n + 1)/2] + n  【ち】
【た】と【ち】はどちらも D − C で等しいので:
  (n + 1)3 = 3(12 + 22 + … + n2) + 3[n(n + 1)/2] + (n + 1)
右辺の第2・第3項を移項すると:
  (n + 1)3 − 3[n(n + 1)/2] − (n + 1) = 3(12 + 22 + … + n2)  【つ】

機械的な単純計算によると、【つ】の左辺は n(n + 1)(2n + 1)/2 に等しい*2

*2 左辺 = (n + 1)[(n + 1)2 − 3n/2 − 1] = (n + 1)(n2 + 2n + 1 − 3n/2 − 1)
= (n + 1)(n2 + n/2) = n(n + 1)(n + 1⁄2) = n(n + 1)(2n + 1)/2

結局【つ】は 3(12 + 22 + … + n2) = n(n + 1)(2n + 1)/2。両辺を 3 で割ると:

12 から n2 までの和 12 + 22 + … + n2 = n(n + 1)(2n + 1)/6

〔例2〕 12 + 22 + … + 102 を直接計算すると:
  1 + 4 + 9 + 16 + 25 + 36 + 49 + 64 + 81 + 100 = 385
上の公式を使うと:
  10 × 11 × 21 / 6 = 5 × 11 × 7 = 55 × 7 (= 350 + 35) = 385

パターンが何となく分かりかけてきた。やってることは単純で…
  ① 1e + 2e + 3e + 4e + … + ne + (n + 1)e
から
  ② 1e + 2e + 3e + 4e + … + ne
を引き算するだけ(上記 C, D では e = 3)。そのとき①で e 乗されてる数…
  1, 2, 3, 4, … , n+1
…の最初の項と最後の項以外を
  1, 1+1, 2+1, 3+1, … , n+1
のように表現すると、①の最初の項以外は全部 (○ + 1)e の形になる。それを展開して、そこから②を引き算すると、○e の形の項が全部消える。残った部分を機械的に整理するだけで、(e−1 乗和の)「新しい公式」は、(e−2 種類の)「古い公式」の組み合わせの単純計算になる!

修行のため、もう一つ上で、次の「新しい公式」を導いてみよう――今度は「古い公式」を2種類使うことになる。

§3. 1 から n までの各整数の4乗和を E とする:
  E = 14 + 24 + 34 + … + n4  【な】

1 から n + 1 までの各整数の4乗和を F とする:
  F = 14 + 24 + 34 + … + (n + 1)4  【に】
同じ意味だが、こう書くことにしよう:
  F = 14 + (1 + 1)4 + (2 + 1)4 + … + (n + 1)4  【ぬ】

ここで (x + 1)4 = x4 + 4x3 + 6x2 + 4x + 1 という関係を使うと:
  F = 1 + (14 + 4⋅13 + 6⋅12 + 4⋅1 + 1) + (24 + 4⋅23 + 6⋅22 + 4⋅2 + 1) + … + (n4 + 4⋅n3 + 6⋅n2 + 4⋅n + 1)
足し算の順序を変えて、4乗の和、3乗の和の4倍、2倍の6倍の和などをそれぞれまとめると:
  F = 1 + (14 + 24 + … + n4) + (4⋅13 + 4⋅23 + … + 4⋅n3)
   + (6⋅12 + 6⋅22 + … + 6⋅n2) + (4⋅1 + 4⋅2 + … + 4⋅n) + (1 + 1 + … + 1)  【ね】
整理すると:
  F = 1 + (14 + 24 + … + n4) + 4(13 + 23 + … + n3) + 6(12 + 22 + … + n2) + 4(1 + 2 + … + n)+ n
前記「1 から n までの和」の公式、「12 から n2 までの和」の公式を使うと:
  F = 1 + (14 + 24 + … + n4) + 4(13 + 23 + … + n3) + 6[n(n + 1)(2n + 1)/6] + 4[n(n + 1)/2] + n  【の】

今、【に】から【な】を引くと:
  F − E = (n + 1)4  【は】
【の】から【な】を引くと:
  F − E = 1 + 4(13 + 23 + … + n3) + 6[n(n + 1)(2n + 1)/6] + 4[n(n + 1)/2] + n  【ひ】
【は】と【ひ】はどちらも F − E で等しいので:
  (n + 1)4 = 4(13 + 23 + … + n3) + 6[n(n + 1)(2n + 1)/6] + 4[n(n + 1)/2] + (n + 1)
右辺の第2~第4項を移項すると:
  (n + 1)4 − 6[n(n + 1)(2n + 1)/6] − 4[n(n + 1)/2] − (n + 1) = 4(13 + 23 + … + n3)  【ふ】

機械的計算によると、【ふ】の左辺は n2(n + 1)2 に等しい*3

*3 左辺 = (n + 1)4 − [n(n + 1)(2n + 1)] − 2[n(n + 1)] − (n + 1)
= (n + 1)[(n + 1)3 − n(2n + 1) − 2n − 1]
= (n + 1)(n3 + 3n2 + 3n + 1 − 2n2 − n − 2n − 1)
= (n + 1)(n3 + n2) = (n + 1)n2(n + 1) = n2(n + 1)2

結局【ふ】は 4(13 + 23 + … + n3) = n2(n + 1)2。両辺を 4 で割ると:

13 から n3 までの和 13 + 23 + … + n3 = n2(n + 1)2/4

1 + 2 + … + n = n(n + 1)/2 なので、上記はちょうどその平方に当たる:
  13 + 23 + … + n3 = (1 + 2 + … + n)2

(3乗和の公式) = (1乗和の公式)2 なので、実用上、ほとんど何も覚える必要ない!

〔例3〕 13 + 23 + … + 103 を直接計算すると:
  1 + 8 + 27 + 64 + 125 + 216 + 343 + 512 + 729 + 1000 = 3025
上の公式を使うと:
  102 × 112 / 4 = 100 × 121 / 4 = 25 × 121 = 3025
(別解)「2乗するだけ」の方法: 1 + 2 + … + 10 = 55 を使うと 552 = 3025

§4. これでやり方というか、レシピはだいたい分かった。【く】【つ】【ふ】から、次のパターンが観察される。
  (n + 1)2 − (n + 1) = 2(1 + 2 + … + n)
  (n + 1)3 − 3[n(n + 1)/2] − (n + 1) = 3(12 + 22 + … + n2)
  (n + 1)4 − 6[n(n + 1)(2n + 1)/6] − 4[n(n + 1)/2] − (n + 1) = 4(13 + 23 + … + n3)

パターンを見やすくするため、1 + 2 + … + n を ∑k と略し、12 + 22 + … + n2 を ∑k2 と略し、一般に 1e + 2e + … + ne を ∑ke と略すと:
  (n + 1)2 − 1(n + 1) = 2(∑k)
  (n + 1)3 − 3(∑k) − 1(n + 1) = 3(∑k2)
  (n + 1)4 − 6(∑k2) − 4(∑k) − 1(n + 1) = 4(∑k3)
ここで左辺の引き算に現れる係数は:
  (n + 1) が 2 乗される場合、2 乗の二項係数 1 2 1 の右端 1 個
  (n + 1) が 3 乗される場合、3 乗の二項係数 1 3 3 1 の右端 2 個
  (n + 1) が 4 乗される場合、4 乗の二項係数 1 4 6 4 1 の右端 3 個
公式の導出過程を吟味すれば、そうなって当然だろう。

〔注〕 正式には ∑ の下には小さい文字で k=1 が付き、上には n が付くのだが、このメモではそれらの表記を省く――つまり ∑ はインデックス k=1 から n までの総和を表す、と約束する。

〔補足〕 e 乗の二項係数の「右端 e − 1 個」ということは、言い換えると(e 乗の二項係数は全部で e + 1 個なので)、二項係数のうち、最初の2個を除いた3番目以降に当たる:
  (e + 1) − 2 = e − 1
理論的には、右端の「係数 1 がある項」は、次の例のように「0乗和」に対応し、さらに定数項 −1 がある:
  (n + 1)4 − 6(∑k2) − 4(∑k1) − 1(∑k0) − 1
けれど ∑k0 = n を定数項とまとめて −1(n + 1) と解釈すると、全部の項が共通因子 (n + 1) を持ち、計算しやすい。

この観察に基づくと、「次の世代」において、
  (n + 1) が 5 乗される場合、5 乗の二項係数 1 5 10 10 5 1 の右端 4 個(3番目以降)
が使われるはずで、つまり、4乗和の公式を下記の等式から導出できるはず。
  (n + 1)5 − 10(∑k3) − 10(∑k2) − 5(∑k) − 1(n + 1) = 5(∑k4)
ここで ∑k3, ∑k2, ∑k は、それぞれ3乗和・2乗和・1乗和の公式で、既に導いた。上の式を整理して全体を 5 で割れば ∑k4 になるはず。

以下では、この計算を実行する。3乗和までの公式の導出と同様に、全ステップを明示的に表記する。

§5. 1 から n までの各整数の5乗和を G とし、1 から n + 1 までの各整数の5乗和を H とする:
  G = 15 + 25 + 35 + … + n5 = (∑k5)  【ま】
  H = 15 + (1 + 1)5 + (2 + 1)5 + … + (n + 1)5 = (∑k5) + (n + 1)5  【み】

二項展開 (x + 1)5 = x5 + 5x4 + 10x3 + 10x2 + 5x + 1 を使うと:
  H = 1 + (15 + 5⋅14 + 10⋅13 + 10⋅12 + 5⋅1 + 1)
   + (25 + 5⋅24 + 10⋅23 + 10⋅22 + 5⋅2 + 1)
   + … + (n5 + 5⋅n4 + 10⋅n3 + 10⋅n2 + 5⋅n + 1)
足し算の順序を変えて:
  H = 1 + (15 + 25 + … + n5) + 5(14 + 24 + … + n4) + 10(13 + 23 + … + n3)
   + 10(12 + 22 + … + n2) + 5(1 + 2 + … + n) + (1 + 1 + … + 1)
すなわち:
  H = 1 + (∑k5) + 5(∑k4) + 10(∑k3) + 10(∑k2) + 5(∑k) + n
   = (∑k5) + 5(∑k4) + 10(∑k3) + 10(∑k2) + 5(∑k) + (n + 1)  【む】

【み】から【ま】を引いたものと、【む】から【ま】を引いたものは、どちらも H − G で等しい。従って:
  (n + 1)5 = 5(∑k4) + 10(∑k3) + 10(∑k2) + 5(∑k) + (n + 1)
つまり:
  5(∑k4) = (n + 1)5 − 10(∑k3) − 10(∑k2) − 5(∑k) − (n + 1)
3乗和・2乗和・1乗和の公式を使うと:
  5(∑k4) = (n + 1)5 − 10[n2(n + 1)2/4] − 10[n(n + 1)(2n + 1)/6] − 5[n(n + 1)/2] − (n + 1)  【め】

少し面倒だが機械的計算の結果として、【め】の右辺は n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/6 に等しい*4

*4 【め】の右辺を R として、共通因子 (n + 1) をくくり出し、残った部分を展開すると:
  R = (n + 1)[(n + 1)4 − 5n2(n + 1)/2 − 5n(2n + 1)/3 − 5n/2 − 1]
  = (n + 1)[n4 + 4n3 + 6n2 + 4n + 1 − 5n3/2 − 5n2/2 − 10n2/3 − 5n/3 − 5n/2 − 1]
上の式の角かっこ内を整理・通分すると:
  n4 + 3n3/2 + n2/6 − n/6 = n(6n3 + 9n2 + n − 1)/6 = n(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/6  〔注1〕
つまり【め】の右辺は:
  R = (n + 1)[n(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/6]

〔注1〕 この場合、6n3 + 9n2 + n − 1 が因子 2n + 1 を持つことは、事前に予想がつく(後述)。たとえその予想がないとしても、
  f(n) = 6n3 + 9n2 + n − 1 = 0
に有理数の解があるなら、解の分母最高次の係数(この例では 6)の約数、解の分子は定数項(この例では −1)の約数なので、可能性は次の4パターンしかない(符号は正負どちらにもなり得る):
  n = ±(1/1) = ±1, n = ±(1/2), n = ±(1/3), n = ±(1/6)
このうち f(n) = 0 を満たすものがあれば、見つけたい。 f(1) = 6 + 9 + 1 − 1 = 15 は値が大き過ぎる。f(−1) = −6 + 9 − 1 − 1 = 1 は(惜しいが)条件を満たさない。f(1/2) = 6/8 + 9/4 + 1/2 − 1 は計算するまでもなく大き過ぎる。f(−1/2) = −6/8 + 9/4 − 1/2 − 1 = −3/4 + 9/4 − 2/4 − 4/4 = 0 は条件を満たす。つまり n = −1⁄2 は f(n) = 0 の解で、多項式 f(n) は n + 1⁄2 で割り切れる――この場合、式の定数倍の違いは「割り切れるかどうか」と関係ないし、整数の係数の方がすっきりするので、n + 1⁄2 で割る代わりに、それを 2 倍した 2n + 1 で割ってもいい。つまり…
  (6n3 + 9n2 + n − 1) / (n + 1⁄2) = 6n2 + 6n − 2
…でもいいのだが、その代わりに、次のようにしてもいい:
  (6n3 + 9n2 + n − 1) / (2n + 1) = 3n2 + 3n − 1  〔注2〕
(「定数項」「最高次の係数」と解の関係についての)上記と同じ理由から、もしも g(n) = 3n2 + 3n − 1 = 0 に有理数の解があれば n = ±1 or ±1/3 だが、どちらも g(n) = 0 を満たさない。要するに 3n2 + 3n − 1 は、有理数の係数の範囲では「既約多項式」(もっと小さい次数の多項式の積に分解できない)。

〔注2〕 多項式の割り算は普通の割り算と同様:

         3n^2 +   3n - 1
       /---------------------
 2n+1 /  6n^3 + 9n^2 + n - 1
         6n^3 + 3n^2
        -------------
                6n^2 + n
                6n^2 + 3n
               -----------
                      -2n - 1
                      -2n - 1
                     ---------
                            0  ← 余りゼロで割り切れた

*

結局【め】は 5(14 + 24 + … + n4) = R = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/6 となる。両辺を 5 で割ると:

4乗和の公式
 14 + 24 + … + n4 = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30
 12 + 22 + … + n2 = n(n + 1)(2n + 1)/6 ← この基本公式の発展形のようなもの

3乗和の公式は「1乗和の公式の平方」という分かりやすい形になってくれたが、4乗和の公式は「2乗和の公式の平方」ではない。それでも、どちらも同じ因子 n(n + 1)(2n + 1) を持つ。∑k4 は ∑k2 の (3n2 + 3n − 1)/5 倍に当たる:
  (14 + 24 + … + n4) = (12 + 22 + … + n2) × (3n2 + 3n − 1)/5  【も】

〔例4〕 14 + 24 + 34 + 44 + 54 = 1 + 16 + 81 + 256 + 625 = 979 について。4乗和の公式を使うと、n = 5 のとき…
  3n2 + 3n − 1 = 3 × 25 + 3 × 5 − 1 = 75 + 15 − 1 = 89
…なので:
  ∑k4 = 5 × 6 × 11 × 89 / 30 = 89 × 11 = 979
別解として、もし
  12 + 22 + 32 + 42 + 52 = 55
から出発して【も】を使うなら:
  ∑k4 = 55 × 89/5 = 11 × 89 = 979

〔例5〕 n = 10 のとき 3n2 + 3n − 1 = 329 となる。12 + 22 + … + 102 = 385 なので(例2参照):
  14 + 24 + … + 104 = 385 × 329 / 5 = 77 × 329 = 25333

§6. 同様にして、5乗和の公式は、次の等式から導出可能。ここでは 6 乗の二項係数 1, 6, 15, 20, 15, 6, 1 を使う*5:
  (n + 1)6 − 15(∑k4) − 20(∑k3) − 15(∑k2) − 6(∑k) − 1(n + 1) = 6(∑k5)  【や】

*5 語呂合わせは「ジャム、イチゴの煮汁、イチゴジャム」だが、個別に暗記しなくても、二項係数の一般公式から 6/1! = 6, 6⋅5/2! = 15, 6⋅5⋅4/3! = 20 などとすればいい(10乗くらいまでなら、パスカルの三角形の利用が手っ取り早い)。

【や】に4乗和・3乗和・2乗和・1乗和の公式を代入して整理すると*6、最終的には意外とシンプルな形になる:
  ∑k5 = (2n6 + 6n5 + 5n4 − n2)/12 = n2(n + 1)2(2n2 + 2n − 1)/12

*6 【や】の左辺を L として (n + 1)6 = (n + 1)(n + 1)5 を展開すると:
  L = (n + 1)(n5 + 5n4 + 10n3 + 10n2 + 5n + 1)
    − 15[n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30] − 20[n2(n + 1)2/4]
    − 15[n(n + 1)(2n + 1)/6] − 6[n(n + 1)/2] − 1(n + 1)
この両辺を (n + 1) で割ると:
  L/(n + 1) = (n5 + 5n4 + 10n3 + 10n2 + 5n + 1)
    − n(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/2 − 5n2(n + 1) 
    − 5n(2n + 1)/2 − 3n − 1
第1項(最初の丸かっこ内)の +1 と末尾の −1 は打ち消し合うので、上の式には定数項がなく、どの項も n で割り切れる。両辺を n で割ると:
  L/(n + 1)/n = n4 + 5n3 + 10n2 + 10n + 5
    − (2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/2 − 5n(n + 1)
    − 5(2n + 1)/2 − 3
  = n4 + 5n3 + 10n2 + 10n + 5
    − 3n3 − 3n2 + n − 3n2/2 − 3n/2 + 1/2 − 5n2 − 5n
    − 5n − 5/2 − 3
整理すると、定数項が消える:
  L/(n + 1)/n = n4 + 2n3 + n2/2 − n/2 = n(n3 + 2n2 + n/2 − 1/2)
両辺を 2n(n + 1) 倍して分母を払うと:
  2L = n2(n + 1)(2n3 + 4n2 + n − 1)
最後の丸かっこ内は n = −1 のとき 0 なので n + 1 で割り切れる。筆算などでこの割り算を実行すると:
  (2n3 + 4n2 + n − 1) / (n + 1) = 2n2 + 2n − 1
  つまり 2n3 + 4n2 + n − 1 = (n + 1)(2n2 + 2n − 1)
  だから 2L = n2(n + 1)(2n3 + 4n2 + n − 1) = n2(n + 1)(n + 1)(2n2 + 2n − 1)
両辺を 2 で割ると、【や】の左辺つまり 6(∑k5) は:
  L = n2(n + 1)2(2n2 + 2n − 1)/2
これを 6 で割れば ∑k5 になる。

3乗和の公式 ∑k3 = n2(n + 1)2/4 と比較すると、次のことが観察される。

5乗和の公式
 15 + 25 + … + n5 = [n(n + 1)]2 (2n2 + 2n − 1) / 12
 13 + 23 + … + n3 = [n(n + 1)]2 / 4 ← この基本公式の発展形のようなもの

〔例6〕 n = 10 のとき 2n2 + 2n − 1 = 219。例3から 13 + 23 + … + 103 = 3025 なので:
  15 + 25 + … + 105 = 3025 × 219 / 3 = 3025 × 73 = 220825

――以上の手法で、原理的には、任意の正の整数 e に対し、次々と「e 乗和の公式」を生成できる。単純な加減乗除の計算だけで!

とはいえ、よほどの計算マニアでもない限り、この方法での手計算の気力が湧くのは「5乗」くらいまでだろう。w

コンピューター(自由ソフトウェア「PARI」)を利用して得た結果を、12乗まで記す。生成される式は、この形式で表すと一種カオティックで、何が起きているのか簡単には見通せない。
  ∑k = n(n + 1)/2
  ∑k2 = n(n + 1)(2n + 1)/6
  ∑k3 = n2(n + 1)2/4
  ∑k4 = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30
  ∑k5 = n2(n + 1)2(2n2 + 2n − 1)/12
  ∑k6 = n(n + 1)(2n + 1)(3n4 + 6n3 − 3n + 1)/42
  ∑k7 = n2(n + 1)2(3n4 + 6n3 − n2 − 4n + 2)/24
  ∑k8 = n(n + 1)(2n + 1)(5n6 + 15n5 + 5n4 − 15n3 − n2 + 9n − 3)/90
  ∑k9 = n2(n + 1)2(n2 + n − 1)(2n4 + 4n3 − n2 − 3n + 3)/20
  ∑k10 = n(n + 1)(2n + 1)(n2 + n − 1)(3n6 + 9n5 + 2n4 − 11n3 + 3n2 + 10n − 5)/66
  ∑k11 = n2(n + 1)2(2n8 + 8n7 + 4n6 − 16n5 − 5n4 + 26n3 − 3n2 − 20n + 10)/24
  ∑k12 = n(n + 1)(2n + 1)(105n10 + 525n9 + 525n8 − 1050n7 − 1190n6 + 2310n5 + 1420n4 − 3285n3 − 287n2 + 2073n − 691)/2730

厳密な証明ではないが、これらの具体的な式からの観察として、偶数乗の和の場合、因子に n(n + 1)(2n + 1) があり、1乗以外の奇数乗の和の場合、因子に n2(n + 1)2 が現れる。4乗和の公式の導出で不透明に思われた因子 2n + 1 は、2乗和の式にも含まれるお約束の因子。事前に予想がつく。一方、お約束の因子以外の「残りの部分」が既約なのか、あるいは(9乗和・10乗和のように)さらに分解できるのか――という確実な判定は(手計算では)面倒そうだ。一般論としては、多項式の因数分解のようなことを考えず、やはり分数を使った Bernoulli 形式が賢明なのかもしれない。

「12乗和」の因子の10次式は、第一印象、すんげぇカオス。それより下では係数はせいぜい20程度なのに、突然4桁の係数が大暴れ…。12番の Bernoulli 数が、突然複雑な分数 −691/2730 になることと対応してる。その背景として 12 は多くの約数を持ち(1, 2, 3, 4, 6, 12)、そのうち 3 以外の各約数について「約数プラス1」が素数(2, 3, 5, 7, 13)。分母 2730 は、この5素数の積に当たる(詳しくは§16で)。

〔例7〕 n = 3 のとき 3n4 + 6n3 − 3n + 1 = 243 + 162 − 9 + 1 = 397 なので:
  ∑k6 = 3 × 4 × 7 × 397/42 = 794
これは 16 + 26 + 36 = 1 + 64 + 729 = 794 と一致。同様に:
  ∑k8 = 3 × 4 × 7 × 7305/90 = 6818
これは 18 + 28 + 38 と一致。
  ∑k10 = 3 × 4 × 7 × 11 × 4291/66 = 60074 = 110 + 210 + 310
  ∑k12 = 3 × 4 × 7 × 10511789/2730 = 535538 = 112 + 212 + 312

〔例8〕 n = 3 のとき 3n4 + 6n3 − n2 − 4n + 2 = 243 + 405 − 9 − 12 + 2 = 386 なので:
  ∑k7 = 9 × 16 × 386/24 = 2316
これは 17 + 27 + 37 = 1 + 128 + 2187 = 2316 と一致。同様に:
  ∑k9 = 9 × 16 × 11 × 255/20 = 20196 = 19 + 29 + 39
  ∑k11 = 9 × 16 × 29866/24 = 179196 = 111 + 211 + 311

§7. Bernoulli によると、
  110 + 210 + 310 + … + 100010
…は 9140穣 9924𥝱 2414垓 2424京 3424兆 2419 2424 2500 になるという。上記 ∑k10 の式でも確かにそうなるが、その場合、分子が
  1000 × 1001 × 2001 × 1000999 × 3009001989003009995
  = 6033054999934000065999967000005000
となって、それを 66 で割る必要がある。制限時間7分の筆算はきつい。そこで直接 Bernoulli 形式を使うと:
  n11/11 + n10/2 + (5⁄6 × n9) − n7 + n5 − n3/2 + (5⁄66 × n)
この経路だと、n = 1000 の場合、末尾の 5000/66 以外の項は、原理的には一瞬で計算可能。

90909090909090909090909090909090.90 a
  500000000000000000000000000000.   b
     833333333333333333333333333.33 c
         -1000000000000000000000.   d
                1000000000000000.   e
                      -500000000.   f
                              75.75 g

しかも b, d, e, f は実質一桁の足し算または引き算。a+c を先に実行すると、24がリピートする単純パターンになって…

90909924242424242424242424242424.24 a+c
  500000000000000000000000000000.   b
         -1000000000000000000000.   d
                1000000000000000.   e
                      -500000000.   f
                              75.75 g

b, d, e, f の一桁処理は簡単にできて…

91409924241424243424241924242424.24 a+c+b+d+e+f
                              75.75 g

結果は整数なので、下3桁が500になるのは明白。確かに7分程度でできそう。ゼロの数、間違えなければ…w

*

二項係数に基づく e 乗和の公式の再帰的な導出法は、Pascal が発見したという(このメモの内容は自己流だが、実質同じのはず)。Bernoulli のアプローチは、もっとエレガントで体系的(ちょっぴり敷居が高いけど、美しく、奥深い)。もう一つの重要なジャンルとして、∑k3 や ∑k5 などの奇数乗の和の結果(k = 1, 2, …, n)を――常識的に n の式で表すのではなく―― T = ∑k の式で表す、という秀逸な観点がある(例えば ∑k3 = T2 となる)。こっちは「Faulhaber の公式」と総称される。掘り下げて研究する探検の余地が、いっぱいありそうだ!

⁂

2023-03-18 14+24+34+…+104 のような和(その2) ベルヌーイの数

#数論 #二項定理 #ベルヌーイ数

前回の方法は愚直でシンプルだが、結果としてカオスのような公式になり、全体像を見通せないし、正直、導出は面倒くさい!

その点、Bernoulli の方法だと、たった三つの分数
  1/6 −1/301/42
を心に刻むだけで、9乗和までの公式を全部覚えたのと同じことになる。

*

§8. 前回§7でチラッと例を挙げたが、Bernoulli は ∑k2 = n(n+1)(2n+1)/6 のような「普通の公式」を使わず、全部展開して項ごとにバラバラにした形を問題にした。例えば…
  ∑k1 = (1/2) n2 + (1/2) n1
  ∑k2 = (1/3) n3 + (1/2) n2 + (1/6) n1
  ∑k3 = (1/4) n4 + (1/2) n3 + (1/4) n2
  ∑k4 = (1/5) n5 + (1/2) n4 + (1/3) n3 − (1/30) n1
  ∑k5 = (1/6) n6 + (1/2) n5 + (5/12) n4 − (1/12) n2
  ∑k6 = (1/7) n7 + (1/2) n6 + (1/2) n5 − (1/6) n3 + (1/42) n1

この形式では、一般的に「e 乗和の公式」はどういう形になるか?

第一に、e + 1 を a とすると、最高次の項は na で、その係数は 1/a。第二に、どの公式でも、第2項は (1/2) ne に固定されている。第三に、この固定された項を別にすると、a が偶数なら偶数乗の項だけがあり(定数項つまり「0 乗の項」はない)、a が奇数なら奇数乗の項だけがある。以上三つのポイントは、上の具体例を見るだけでも、容易に想像がつく。

要するに、この形式で書いた場合、最初の2項は分かり切っていて、問題は、第3項以降(指数は 2 ずつ減っていく)の係数。

例えば e = 7 の場合、次のような形式になり、6乗・4乗・2乗の項があって、5乗・3乗・1乗の項はない。
  ∑k7 = (1/8) n8 + (1/2) n7 + □ n6 + □ n4 + □ n2

〔参考〕 実は、第3項の係数は常に e/12 になる(3項以上ある場合)。

§9. Bernoulli は □、□、□ のような「謎の係数」のパターンを見破った! 魔法の数…
  1/6, −1/30, 1/42
…を使って、次のように計算できるのだ。
  □ = 7/2! × (1/6) = 7/12
  □ = 7⋅6⋅5/4! × (−1/30) = 7⋅6⋅5/24 × (−1/30) = −7/24
  □ = 7⋅6⋅5⋅4⋅3/6! × (1/42) = 7/2 × (1/42) = 1/12
魔法の数(Bernoulli 数)は、偶数乗の公式の最後の項の係数に当たる。具体的な「謎の係数」を確定させるためには、魔法の数に、次の形の分数を掛け算すればいい:
  ① 1個目の「謎の係数」を求めるには e/2!
  ② 2個目の「謎の係数」を求めるには e(e − 1)(e − 2)/4!
  ③ 3個目の「謎の係数」を求めるには e(e − 1)(e − 2)(e − 3)(e − 4)/6!
  etc.
掛け算される分子は、「e から始まって一つずつ小さくなる数」奇数個の積。分母は 2! から始まって、偶数の階乗。

〔注〕 階乗とは次のような積。2! = 2⋅1 = 2, 4! = 4⋅3⋅2⋅1 = 24, 6! = 6⋅5⋅4⋅3⋅2⋅1 = 720。実際の計算では、適当に約分してもいい。

原理を検討せずやり方だけ考えるのは、良いことではない。それを承知の上、あえて ∑k2 から ∑k6 を使って説明すると――
  ∑k2 = (1/3) n3 + (1/2) n2 + (1/6) n1
  ∑k3 = (1/4) n4 + (1/2) n3 + (1/4) n2
  ∑k4 = (1/5) n5 + (1/2) n4 + (1/3) n3 − (1/30) n1
  ∑k5 = (1/6) n6 + (1/2) n5 + (5/12) n4 − (1/12) n2
  ∑k6 = (1/7) n7 + (1/2) n6 + (1/2) n5 − (1/6) n3 + (1/42) n1

まず ∑k2 の第3の係数が謎だが、規則①から 2/2! × (1/6) = 1/6。これは最初の魔法の数自身に他ならない。∑k3 の第3の係数も謎だが、規則①から 3/2! × (1/6) = 1/4 と分かる。

∑k4 の第3の係数は、規則①から 4/2! × (1/6) = 1/3。第4の係数は、規則②から 4⋅3⋅2/4! × (−1/30) = −1/30。これは二つ目の魔法の数自身。

∑k5 の第3の係数は、規則①から 5/2! × (1/6) = 5/12。第4の係数は、規則②から 5⋅4⋅3/4! × (−1/30) = −1/12。

∑k6 の第3の係数は、規則①から 6/2! × (1/6) = 1/2。第4の係数は、規則②から 6⋅5⋅4/4! × (−1/30) = −1/6。第5の係数は、規則③から 6⋅5⋅4⋅3⋅2/6! × (1/42) = 1/42 だが、これは三つめの魔法の数自身。∑k7 については、最初に例として取り上げた。

§10. ∑k8 と ∑k9 では、四つ目の魔法の数が必要。都合がいいことに(?)、その数は二つ目と同じ −1/30
  ∑k8 = (1/9) n9 + (1/2) n8 + (2/3) n7 − (7/15) n5 + (2/9) n3 − (1/30) n1
  ∑k9 = (1/10) n10 + (1/2) n9 + (3/4) n8 − (7/10) n6 + (1/2) n4 − (3/20) n2
  ∑k10 = (1/11) n11 + (1/2) n10 + (5/6) n9 − (1) n7 + (1) n5 − (1/2) n3 + (5/66) n1

8/2! × (1/6) = 2/3。8⋅7⋅6/4! × (−1/30) = 14 × (−1/30) = −7/15。8⋅7⋅6⋅5⋅4/6! × (1/42) = 28/3 × 1/42 = 2/9

∑k8 の末尾の項の係数 8⋅7⋅6⋅5⋅4⋅3⋅2/8! × (−1/30) = −1/30 は、四つ目の魔法の数それ自身(二つ目の魔法の数と同じ)。

9/2! × (1/6) = 3/4。9⋅8⋅7/4! × (−1/30) = 21 × (−1/30) = −7/10。9⋅8⋅7⋅6⋅5/6! × (1/42) = 21 × 1/42 = 1/2

∑k9 の末尾の項の係数は、9⋅8⋅7⋅6⋅5⋅4⋅3/8! × (−1/30) = 9/2 × (−3/20)

10/2! × (1/6) = 5/6。10⋅9⋅8/4! × (−1/30) = 30 × (−1/30) = −1。10⋅9⋅8⋅7⋅6/6! × (1/42) = 42 × 1/42 = 1。ここで整数 −1, 1 が出現するのが印象的。

∑k10 の末尾から2番目の項の係数は、10⋅9⋅8⋅7⋅6⋅5⋅4/8! × (−1/30) = 15 × (−1/30) = −1/2。末尾の係数 5/66 は、五つ目の魔法の数に当たる。

「魔法の数」の正式名称は、偶数番目の Bernoulli 数。次のように、B2 が正で、それ以降、正と負の分数が交互に現れる:
  B2 = 1/6, B4 = −1/30, B6 = 1/42, B8 = −1/30 (= B2),
  B10 = 5/66, B12 = −691/2730, B14 = 7/6, B16 = −3617/510, …
奇数番目の Bernoulli 数は、B1 を除いて全部 0。多くの資料では B1 = −1/2 とされているが(2023年現在)、最近 Knuth は符号を変更し、B1 = 1/2 を採用した。「定義の問題」なので、どちらかが絶対的に正しいわけではないけど、「e 乗和の公式」に関する限り、e + 1 乗の項を第0項、e 乗の項を第1項、e − 1 乗の項を第2項、e − 2 乗の項を第3項…と考えると、「第1項以外の奇数番目の項の係数は 0、第1項の係数は B1 = 1/2」という取り決めは、筋が通っている。

偶数番目の Bernoulli 数の性質上、第2項・第4項・第6項(消えてしまわずに残る項)…ではプラスとマイナスが交互に現れる。例えば:
  ∑k10 = (1/11) n11 + (1/2) n10 + (5/6) n9 n7 + n5 (1/2) n3 + (5/66) n

必要に応じて、Bernoulli 形式の公式を通分して「普通の形」(既約多項式の積)に変換することは、∑k8 までは機械的にできるが(パターン通りに分解すると余因子は既約)、∑k4 より上では、多項式の割り算が必要。

〔例9〕 ∑k3 = (1/4) n4 + (1/2) n3 + (1/4) n2 = n2(n2 + 2n + 1)/4 = n2(n + 1)2/4

〔例10〕 ∑k4 = (1/5) n5 + (1/2) n4 + (1/3) n3 − (1/30) n1
   = n[6n4 + 15n3 + 10n2 − 1]/30

パターンとして、∑k2 と同様、この分子は n + 1 と 2n + 1 で割り切れるはずだ(明示的に確かめると、角かっこ内の4次式に n = −1 を入れれば、正になる項の和が +16、負になる項の和が −16 になり、n = −1⁄2 を入れれば、それぞれ +23/8 と −23/8 になる)。その割り算を実行すると、商は 3n2 + 3n − 1、前回得たのと同じ「普通の公式」を得る:
  ∑k4 = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30

∑k9 と ∑k10 に関しては、パターンに従って分解した場合、余因子が既約ではなく、どちらも n2 + n − 1 という因子を持つ(§6参照)。つまり、これらの10次式・11次式を実変数の関数と考え場合、黄金比の逆数と負の黄金比 (−1±5)/2 が零点になる。この現象自体は不思議で面白いのだが、実際問題、この零点を見つける簡単な方法があるのだろうか*7。∑k8 についても、6次の余因子が既約かどうか判定する簡単な方法があるのだろうか。多項式の因数分解まで含めると、素朴なアプローチでは ∑k7 が限界かもしれない…。

*7 有理係数の範囲で「因数がある」ことが事前に分かっているなら、手間を惜しまなければ(少なくとも1次式・2次式の因数については)機械的に見つけられるが、そもそも因数があるかどうかが分からない。

逆に普通の公式 ∑k2 = n(n + 1)(2n + 1)/6 を展開すれば、1次の項 (1/6) n の係数が B2 になり、∑k4 = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30 を展開すれば、1次の項 (−1/30) n の係数が B4 になる。

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2023-03-20 14+24+34+…+104 のような和(その3) 秋山・谷川の三角形

#数論 #ベルヌーイ数

○乗和で、面白い数を幾つか見つけた。一等賞の「金メダル」は、この5乗和:
  15 + 25 + 35 + … + 135 = 1002001 = 10012
和の形もきれいだし、それが平方数になるとこが すてきでしょ?

ところで――二項係数を全然覚えてなくても「パスカルの三角形」を知ってれば大丈夫なのと同様に――、メモ用紙の隅に走り書きして Bernoulli 数をその場で作る方法がある。単純な引き算と掛け算だけで…。「パスカルの三角形」ならぬ「秋山・谷川の三角形」という。1999年ごろ、日本の研究者が発見したらしい。

☆秋山茂樹 http://math.tsukuba.ac.jp/~akiyama/

*

§11. 12 + 22 + 32 + … + n2 の計算はよく知られている: n と n+1 と 2n+1 を掛けて(例えば n = 10 なら 10 と 11 と 21 を掛けて)、6 で割ればいい。
  12 + 22 + 32 + … + 102
   = (10 × 11 × 21) / 6
   = 5 × 11 × 7  ← 分子の10を約分(10/6 = 5/3)、さらに分子の21を約分(21/3=7)
   = 55 × 7 = 350 + 35 = 385

4乗和 14 + 24 + 34 + … + n4 の場合、それと似ているが、もう一つの因子 3n2 + 3n − 1 を掛けて(例えば n = 10 なら 300 + 30 − 1 = 329 を掛けて)、30 で割る。
  14 + 24 + 34 + … + 104
   = (10 × 11 × 21 × 329) / 30  ← 分子に 3⋅102+3⋅10−1 を追加、分母は30
   = 1 × 11 × 7 × 329 = 329 × 77  ← 分子の10を約分(10/30 = 1/3)、さらに分子の21を約分(21/3=7)
   = 23030 + 2303 = 25333  ← 330×7なら2100+210=2310、実際には329×なので7引いて2303

「もう一つの因数」の本質が謎だが、「4乗和」では 3n2 + 3n − 1、「5乗和」では 2n2 + 2n − 1 が現れる。さらに「9乗和・10乗和」では n2 + n − 1 という因子が現れる。 C2 + Cn − 1 の形(C は定数)に意味があるらしいが、この2次式の因子はむしろ例外で、上記4カ所でしか現れない。

遊んでて見つけた面白い数:
  14 + 24 + 34 + … + 504 = 65666665

n = 50 のとき 3n2 + 3n − 1 = 7500 + 75 − 1 = 7574 だが、たまたま…
  65666665 = 7649 × 8585
…で、n(n + 1)(2n + 1)/30 = 50 × 51 × 101/30 = 8585 になっている!

n = 10000 くらいまでの範囲で、2乗和から20乗和くらいを調べたが、こういう「ぞろ目」っぽい数は、二つしか見つからなかった。面白さ、銀メダル!

銅メダルはこれ。平凡な1乗和だけど、数の並びは面白い。
  1 + 2 + 3 + … + 8 = 36 = 62
  1 + 2 + 3 + … + 62 = 666
  1 + 2 + 3 + … + 666 = 222111

「666」の式については、次のように、いくらでも拡張できる:
  1 + 2 + 3 + … + 6666 = 22221111
  1 + 2 + 3 + … + 66666 = 2222211111

金メダルをあげたいのは、この5乗和。
  15 + 25 + 35 + … + 135 = 1002001 = 10012
和自体もシンメトリックできれいだが、それがさらにシンメトリックな数の平方になってる!

5乗和の公式では「3乗和」の分子に因子 2n2 + 2n − 1 を追加、4 で割る代わりに 12 で割る(§6):
  分子 = 132 × 142 × (2⋅132 + 2⋅13 − 1) = 12024012
この右辺の整数自体、桁の並びがきれいだが、それを12で割ると上記の「金メダルの数」になる!

〔追記〕 135 までの5乗和はいかにもきれいなので、有名な等式のはずだが、ネット上の検索エンジンでは、これについての言及がヒットしない。似たパターンの数をブルートフォースで探すと:
  n = 133 のとき 15 + 25 + … + 1335 = 9712992
  同様に n = 1321 のとき、∑k5 = 9421622992
  n = 13081 のとき、∑k5 = 9138964911012, etc.
この 13, 133, 1321, 13081 を使ってOEISを検索したところ、https://oeis.org/A031138 [Numbers k such that 1^5 + 2^5 + ... + k^5 is a square.] がヒットした。ブルートフォースでは、和が(平方数に限らず)立方数・4乗数などになる可能性も同時に調べたが、5乗和は(自明な 1 を除くと)立方数以上にはならず、平方数にしかならないようだ。(2023年3月22日)

*

§12. 気まぐれな「数の遊び」ばかりでなく、少しはまじめなことも…。Bernoulli 数という分数が理論上重要だが、これらの分数をどうやって生成するか?は(原理的には§4の方法が使えるのだが)、実際上、簡単な問題ではない。

そんな中で「秋山・谷川三角」というのが、シンプルで分かりやすい。端的にやり方だけメモ。

まず何番の Bernoulli 数まで作りたいか決めて(以下の例では 6 とする)、それより一つ多い個数だけ、次のように 1, 2, 3, … の逆数を書く。

1   1/2   1/3   1/4   1/5   1/6   1/7

①隣り合う数の、左から右を順に引き算する。ここでは引き算の結果を丸かっこ内◎にメモしてる。

1   1/2   1/3   1/4   1/5   1/6   1/7
(1/2   1/6   1/12  1/20  1/30  1/42)◎

②丸かっこ内の数を左から順に、それぞれ1倍・2倍・3倍…する。例えば 1/12 を3倍、1/20 を4倍する。

1   1/2   1/3   1/4   1/5   1/6   1/7
(1/2   1/6   1/12  1/20  1/30  1/42)◎
 1/2   1/3   1/4   1/5   1/6   1/7

1回目だけは、結果的に、最初の行の 1/2 以降をそのままコピペしたのと同じことになる。――新しくできた行に対して、もう一度①をやり②をやって、さらに新しい行を作る。それをどんどん繰り返す。右端の分数が比較的複雑だが、単なる分数の引き算なので、やればできる。

1   1/2   1/3   1/4   1/5   1/6   1/7
(1/2   1/6   1/12  1/20  1/30  1/42)◎
 1/2*  1/3   1/4   1/5   1/6   1/7
   (1/6   1/12  1/20  1/30  1/42)◎
    1/6*  1/6   3/20  2/15  5/42
       (0    1/60  1/60   1/70)◎ (2x14-5x5)/210=3/210=1/70
        0*   1/30  1/20   2/35
         (-1/30 -1/60 -1/140)◎   (1x7-2x4)/140=-1/140
         -1/30* -1/30 -3/140
             (0   -1/84)◎        [-1x14-(-3x3)]/420=-5/420=-1/84
              0*  -1/42
               (1/42)◎
                1/42*

行の左端、*印の 1/2, 1/6, 0, −1/30, 0, 1/42 が、それぞれ B1, B2, B3, B4, B5, B6 に当たる!

同じくらいの手間で B8 までも可能。頑張れば B10 も十分可能。分数計算をいとわなければ、原理的にはいくらでもできるが、実際問題 B12 より先はゴチャゴチャする。

〔追記〕 B12 までに関しては、もっと簡単で実用的な導出法がある。

§13. ∑k9 と ∑k10 の二つがなぜ謎の因数(黄金比と関係ある。§10参照)を持つのか分からないが、数値的検証によると、∑k1000 までの範囲において、この二つだけが例外的のようだ。すなわち e を 2 以上の整数とすると、e が奇数なら、e = 9 の場合を除き、∑ke を n2(n + 1)2 で割った商は(有理係数の範囲で)既約; e が偶数なら、e = 10 の場合を除き、∑ke を n(n + 1)(2n + 1) で割った商は既約。

〔注〕 「数値的に検証すると、そうなってるらしい」という観察に過ぎず、理論的・文献的な裏付けはない。

ウェブ上の資料を幾つか見てみたが、結論として、手計算で高次の多項式を分解すること・既約判定することは困難。PARI の factor を使えば一瞬なので、明快なアルゴリズムがあるんだろうと思ってたが、そうではなく、非常に深い理論が必要らしい…。

Bernoulli 形式に関する限り「因数分解形式の普通の公式」に変換することは、事実上、機械的にできる。上記のように、e = 9, 10 の場合の因子 n2 + n − 1 だけ特別扱いすれば、それ以外の因子はパターン通りで、多項式の割り算をすると、商(つまり余因子)は既約多項式になるようだ(少なくとも1000乗までは)。e = 9, 10 のときの例外的な因子は、∑k5, ∑k4 の余因子(それぞれ 3n2 + 3n − 1 と 2n2 + 2n − 1)と似た形を持つ(§11参照)。

〔追記〕 数値実験によると、e が大きくなるにつれ(例えば e = 50 や 100)、 ∑ke の実数の零点は総体的には個数がだんだん増え、−1/2 を中心にほとんど 1/2 の間隔の対称の位置に、内側から外側へと、より多くの個数、並ぶようになる(内側の根の誤差は極めて小さい)。この総体的な現象との関連では、e = 9 と 10 のときの根 −1.6180339887… と +0.6180339887… は(それ自体としては黄金比と関連する値だが)、それぞれ −2 と +1 へ収束しようとする無理数の、初期の近似値といえる。現象の最初の兆候は e = 16 において観察される。すなわち、そのとき −1.4999978485… と +0.4999978485… という根が現れ、−3/2 と +1/2 に異様に近い。e = 4 のときの非自明な根 −1.2637626158… と +0.2637626158… も(それ自身は −5/4 と +1/4 に近いのだが)、それぞれ −3/2 と +1/2 の近似値に当たる。――全体的な方向性として以上のようになるのは確からしいが、個々の e に対する細かい挙動には「ランダム性」がある。ある程度は 4 を周期に動いている。特に e ≡ 3 (mod 4) なら、初等的なケース e = 3 と同様、実数の範囲では、自明な2種類の重解だけを持つようだ。(2023年4月12日)

〔追記2〕 e = 14 のときの実数の根 0.5000523990… も 1/2 に近い。(2024年2月16日)

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2023-03-25 ベルヌーイ数・速算術 B12 まで楽々暗算

#数論 #ベルヌーイ数

1 + 2 + 3 + … + 10 = 55 のような計算や、その2乗・3乗バージョンはよく知られているが、4乗バージョン以上はどうなるんだろう? 最初のメモで、とりあえず4乗・5乗バージョンを求めた。
  ∑k4 = n(n+1)(2n+1)(3n2+3n−1)/30
  ∑k5 = [n(n+1)]2(2n2+2n−1)/12

これらの分子は、それぞれ基本公式…
  ∑k2 = n(n+1)(2n+1)/6
  ∑k3 = [n(n+1)]2/4  ← これは ∑k = n(n+1)/2 の右辺の平方
…の分子に ○n2+○n−1 を追加しただけだし、その気になれば、上記を覚えることは難しくない。でも、きれいなパターンはここまで。∑k6 以上に進もうとすると、どんどんカオスに…

ベルヌーイ形式を使うことで、カオスは解消され、内容はすっきり整理される。けど今度は、ベルヌーイ数をどうやって導くか?という、別の問題が生じる――「秋山・谷川三角」はその目的で利用可能だが、もっと手っ取り早く、実用的な方法を紹介したい。B12 まで対応可能。B10 までなら暗算でも楽勝。

*

§14. 話の背景。 ∑k4 = n(n+1)(2n+1)(3n2+3n−1)/30 のような「分子が多項式の積」の形で ∑ke を表現しようとすると、e = 5 くらいまではともかく、もっと上ではどんどん複雑な形になる。それに引き換え、ベルヌーイ形式なら、次のように一定の整然としたパターンで全てを表現できる。
  ∑k2 = n3/3 + n2/2 + (2)/(2) B2 n1
  ∑k3 = n4/4 + n3/2 + (3)/(2) B2 n2
  ∑k4 = n5/5 + n4/2 + (4)/(2) B2 n3 + (4⋅3⋅2)/(4⋅3⋅2) B4 n1
  ∑k5 = n6/6 + n5/2 + (5)/(2) B2 n4 + (5⋅4⋅3)/(4⋅3⋅2) B4 n2
  ∑k6 = n7/7 + n6/2 + (6)/(2) B2 n5 + (6⋅5⋅4)/(4⋅3⋅2) B4 n3 + (6⋅5⋅4⋅3⋅2)/(6⋅5⋅4⋅3⋅2) B6 n1
  ∑k7 = n8/8 + n7/2 + (7)/(2) B2 n6 + (7⋅6⋅5)/(4⋅3⋅2) B4 n4 + (7⋅6⋅5⋅4⋅3)/(6⋅5⋅4⋅3⋅2) B6 n2

  ………
上記の形式もそれなりに複雑だが、とにかく明確な一定パターンになってるので、原理的には何乗の和でも扱える。

それはいいのだが…。今度はベルヌーイ数 B2 = 1/6, B4 = −1/30, B6 = 1/42, … を覚えておくか、その都度、資料を調べるか、どうにかしてその場で導く必要がある。身近な問題でこの種の公式を活用するためには、小さい番号のベルヌーイ数が(毎回資料を調べなくても)パッと分かれば便利だろう。

ベルヌーイ数の基本: B0 = 1, B1 = 1/2, B3 以降の奇数番目の数は全部 = 0。問題は B2 以降の偶数番目のベルヌーイ数だ。

§15. 実際の例で説明した方が分かりやすい。

「2」番目のベルヌーイ数 B2 を知りたい場合
  → 「2」の約数をリストアップ → 1 と 2
  → それぞれ 1 を足す → 2 と 3
  → 素数だけを残す(1 と自分自身以外の約数がある数を消す) → 2 と 3 は両方残る
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 = 1/6  得られたこの分数が B2

☆ 暗算では、順々に引き算すればいい: 1 − 1/2 = 1/2 そして 1/2 − 1/3 = 3/6 − 2/6 = 1/6

「4」番目のベルヌーイ数 B4 を知りたい
  → 「4」の約数をリストアップ → 1, 2, 4
  → それぞれ 1 を足す → 2, 3, 5
  → 素数だけを残す(1 と自分自身以外の約数がある数を消す) → 2, 3, 5 は全部残る
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 − 1/5 = 1/6 − 1/5 = 1/30  得られたこの分数が B4

☆ 1 − 1/2 = 1/2 そして 1/2 − 1/3 = 3/6 − 2/6 = 1/6 そして 1/6 − 1/5 = 5/30 − 6/30 = −1/30

「6」番目のベルヌーイ数 B6 を知りたい
  → 「6」の約数をリストアップ → 1, 2, 3, 6
  → それぞれ 1 を足す → 2, 3, 4, 7
  → 素数だけを残す(1 と自分自身以外の約数がある数を消す) → 2, 3, 7 が残る(4 は約数 2 を持つので消える)
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 − 1/7 = 1/6 − 1/7 = 1/42  得られたこの分数が B6

☆ 1 − 1/2 − 1/3 = 1/6 までは既にやった計算と同じ。そして 1/6 − 1/7 = 7/42 − 6/42 = 1/42

😆秋山・谷川三角より、圧倒的に簡単。余裕で暗算もできる!

調子に乗って、もっと先まで行くぜぃ!

「8」番目のベルヌーイ数 B8 を知りたい
  → 「8」の約数をリストアップ → 1, 2, 4, 8
  → それぞれ 1 を足す → 2, 3, 5, 9
  → 素数だけを残す → 2, 3, 5 (9 は約数 3 を持つので消える)
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 − 1/5 = 1/6 − 1/5 = 1/30  得られたこの分数が B8

上の分数計算は B4 のときと同じ。ある意味、B4 = B8 になる「理由」だ。

「10」番目のベルヌーイ数 B10 を知りたい
  → 「10」の約数をリストアップ → 1, 2, 5, 10
  → それぞれ 1 を足す → 2, 3, 6, 11
  → 素数だけを残す → 2, 3, 11 (6 は約数 2, 3 を持つので消える)
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 − 1/11 = 1/6 − 1/11 = 11/66 − 6/66 = 5/66  得られたこの分数が B10

§16. B10 までが分かれば、11乗和の公式までを作れるので、初等的な応用には十分に役立つ。使用頻度が高いのは…
  B2 = 1/6, B4 = −1/30, B6 = 1/42, B8 = −1/30 (= B4)
これらは全部分子が 1、分母は「残った素数」の積に等しい。例えば B6 の場合、約数リスト「1, 2, 3, 6」→ 1 を足して「2, 3, 4, 7」→ 素数を残して「2, 3, 7」→ 2 × 3 × 7 = 42 となる(B10 から先でも分母はこの積に等しいが、分子は ±1 にならない)。

そして B2 以降の偶数番目のベルヌーイ数は、交互に正の分数・負の分数になる(1/2, −1/30, 1/42, −1/30, 5/66, …)。計算ミスが心配な場合、分母が「残った素数の積」ってことと、符号が交互になることを利用すれば、簡易的なチェックができる。

B12 も同じ方法で計算可能。分数が少々複雑だが、筆算なら易しい…。

「12」番目のベルヌーイ数 B12 を知りたい
  → 「12」の約数をリストアップ → 1, 2, 3, 4, 6, 12
  → それぞれ 1 を足す → 2, 3, 4, 5, 7, 13
  → 素数だけを残す → 2, 3, 5, 7, 13
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 = 1/6 そして 1/61/5 = 1/30 ← ここまでは B4 = B8 と同じ

1/30 − 1/7 = −7/210 − 30/210 = −37/210

37/210 − 1/13 = (−37 × 13 − 210)/(210 × 13) = 691/2730  得られたこの分数が B12

B12 を暗算したい場合、−1/30 から 1/7 と 1/13 を2回に分けて引くのではなく、
  1/7 + 1/13 = (13 + 7)/(7 × 13) = 20/91
をまとめて一気に引くと楽:
  −1/30 − 20/91 = (−91 − 20 × 30)/(30 × 91) = (−91 − 600)/2730 = −691/2730
この方法だと、通分の分子が 20 × 30 なので簡単だし、分母も 91 × 3 = 273 の 10 倍。どこにも繰り上がりがないので、暗算しやすい。

〔付記〕 「1項ずつ素直に計算する方法」に必要な 37 × 13 = (40 − 3) × 13 = 520 − 39 = 520 − 40 + 1 = 481 という関係(つまり 481 が13の倍数という事実)は微妙に面倒だが、別の場面(500までの素数判定の「ふるい」など)でも役立つ。

§17. 以上の便利な方法には、限界がある―― B14 以降には使えない! もしも機械的にやると…

「14」番目のベルヌーイ数 B14 を知りたい
  → 「14」の約数をリストアップ → 1, 2, 7, 14
  → それぞれ 1 を足す → 2, 3, 8, 15
  → 素数だけを残す → 2, 3
  → それらの逆数を 1 から引く:
  1 − 1/2 − 1/3 = 1/6

計算自体は簡単だが、答えは事実と合わない――事実が上記の計算通りなら B14 = B2 になって覚えやすいのだが、実際には B14 の場合、1 から引くのではなく2 から引く必要がある:
  2 − 1/2 − 1/3 = 7/6  この分数が B14

上記の方法で一般のベルヌーイ数を計算する場合、「素数の逆数」の分数たちをどういう整数 x から引くかについては、簡単な規則はない。2番から12番までのベルヌーイ数に関しては、どれも x = 1 でお手軽だけど、B14, B16, B18, B20, … に対しては、それぞれ x = 2, −6, 56, −528, … という不規則っぽい数になる [3]。

x = 1 固定の簡易計算はB2 ~ B12 にだけ有効。それでも、12番までのベルヌーイ数が分かれば十分役立つし、やり方も分かりやすく B10 までは余裕で暗算できるのだから、知ってて損はないだろう。

一般の場合、x の値が分からないので、この方法では Bj の整数部分を確定できないが(j は正の偶数)、Bj の小数部分を特徴付けることができる――この性質は von Staudt–Clausen の定理(フォン・シュタウト&クラウセンの定理)と呼ばれる([2] には B24 までの等式が明示的に記されている)。Conway & Guy [6] はこれを便利な計算法として紹介(乱用?)した。

〔文献〕
[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Von_Staudt%E2%80%93Clausen_theorem
[2] https://fr.wikipedia.org/wiki/Th%C3%A9or%C3%A8me_de_von_Staudt-Clausen
[3] https://oeis.org/A000146 [From von Staudt-Clausen representation of Bernoulli numbers: a(n) = Bernoulli(2n) + Sum_{(p-1)|2n} 1/p.]
[4] Hardy & Wright, §7.9, Theorem 118
[5] Borevich & Shafarevich (1966), Théorie des nombres, p. 431, Théorème 4
[6] Conway & Guy (1995), The Book of Numbers, p. 109
[7] Graham & Knuth & Patashnik, Concrete Mathematics (1994), Exercise 6.54: hence there is actually a “simple” pattern to the Bernoulli numbers displayed in the text, including −691/2730 (!).

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2023-03-29 2乗和~5乗和の公式を1分で導く方法 ∑k13 まで実用に

#数論 #べき和

∑k = n(n + 1)/2 = (1/2)n2 + (1/2)n という関係(本文参照)だけを使って、画像のようにして、2乗和の公式・3乗和の公式・4乗和の公式…を次々と素早く生成できる。

PNG画像1

原理的には、この方法、何乗和まででも行けるが、一応「13乗和」までが実用になる。使用頻度の高い「5乗和」までなら1分以内、「7乗和」までなら、ゆっくりやって5分というところか…。便宜的な方法とはいえ、ベルヌーイ数・速算術とセットで使うと手軽で便利。

出力はベルヌーイ形式。∑k3 = n2(n + 1)2/4 のような「因数分解された形」にしたければ、手動で変形する必要がある。

*

§18. 「e 乗和の公式 ∑ke が分からないから、作りたい。一つ下の ∑ke − 1 の公式なら分かる」というとき、次の分数計算をすればいい。

原理 生成したい式の各項について、「○次の項の係数」は、「一つ下の公式」の対応する係数を e 倍して○で割ったもの。「対応する係数」とは、次数が 1 小さい項の係数。

〔例〕 「一つ下の公式」の2次の係数が、作りたい公式の3次の係数に対応(画像参照)。

(必ずしも ∑k から始める必要はない。例えばもし ∑k3 の式を確実に覚えているなら、そこからスタートして4乗和の公式・5乗和の公式…などを生成してもいい。)

ベルヌーイ形式のパターンを把握しておくと、見通しがいい。

その1 ∑ke第1項(最高次の項)の指数は e + 1、係数は 1/(e + 1) で、第2項の係数は 1/2。対応する係数を「e 倍して○で割る」という原理からも同じ結果になるが、この二つの係数は決まった値になる。それを逆用して「それぞれの項を何倍して何で割るか」判断してもいい。

〔補足〕 第3項の係数は e/12。 e = 2, 3, 4, 5, 6, … に対して、それぞれ 2/12=1/12, 3/12=1/4, 4/12=1/3, 5/12, 6/12=1/2, …。

〔参考〕 ∑ke の主要項が ne + 1/(e + 1) になるのは、こうイメージできる。∑ke とは、大ざっぱには x = 0 から x = n までの範囲で、e 次関数 f(x) = xe のグラフの下の面積を求めること(正確には連続関数の曲線の下の面積ではなく、刻み幅 1 で階段状に「近似」した面積を求める)。だから大ざっぱに、∑ke は f(x) の原始関数 F(x) = xe + 1/(e + 1) について F(n)−F(0) に等しい。この e は単に正の整数を表す文字であり、自然対数の底ではない。

その2 第3項までは1次ずつ次数が下がり、そこから後は、2次ずつ次数が下がる第4項以降の偶数番目の係数(第4項・第6項…)はマイナス、それ以外の係数はプラス。末尾の項は、e の偶数なら1次、奇数なら2次。

〔例〕 ∑k10 = n11/11 + n10/2 + (5/6) n9 − (1) n7 + (1)n5 − (1/2) n3 + (5/66)n1

〔補足〕 定数項がないことは、「0 個の項の和が 0」ってこと、つまり f(0) = 0 から明らか。

e = 2, 4, 6, … が偶数の場合の1次の係数(画像の赤い分数)については、「一つ下の式」に対応する項がないので、上記の原理を使えない。その場合には…

その3(偶数乗のべき和の1次の係数) ベルヌーイ数 B2, B4, B6, … を覚えてれば、それをそのまま書けばいい。もし覚えてなくても、例えば n = 1 のとき f(n) = ∑k2 は「最初の 1 個の平方数の和」なので f(1) = 12 = 1 になるが、それが成り立つためには、この1次の係数を B2 として
  13/3 + 12/2 + B2⋅1 = 1 つまり 1/3 + 1/2 + B2 = 1
が成り立つ必要がある――そこから逆算すれば B2 = 1 − (1/3 + 1/2) = 1/6 と分かる。

〔補足〕 実用上、B12 までは前回の方法で求めるのが便利だが、それと無関係に、今回のアルゴリズムだけでもベルヌーイ数を決定できる――前回の方法と違い、原理的には B14 以降にも対応可能だ(この件については次回)。

*

§19. さっそく実践してみる。∑k = n(n + 1)/2 はよく知られている。次のように ∑k を二つ(二つ目は逆順に)並べて縦に足すと、項がそれぞれ n 個あって、各項の和が n + 1 だから…。

1   +   2   +   3   + ... +   n
n   +  n-1  +  n-2  + ... +   1
n+1    n+1     n+1            n+1 ← 縦の和

例
1  +  2  +  3  + ... +  10 = A
10 +  9  +  8  + ... +   1 = A
11 + 11  + 11  + ... +  11 = 11x10 = 2A

A = 2A/2 = 11x10/2 = 11x5 = 55

この ∑k = n(n + 1)/2 = (1/2)n2 + (1/2)n を出発点に、下記画像の不明の係数――4個の □ の値――を決定しよう。

PNG画像2

∑k3 の末尾の項は 1/6 を 3 倍して 2 で割ればいい。1/6 の 3 倍は 3/6 = 1/2、それを 2 で割れば 1/4。

その 1/4 を使って、今度は ∑k4 の第3項を求めると 1/4 × 4/3 = 1/3。最後の係数 B4 = −1/30 は知っていれば手っ取り早いが、覚えていなくても、簡単に逆算できる:
  1/5 + 1/2 + 1/3 + B4 = 1
  B4 = 1 − (1/5 + 1/2 + 1/3) = 1 − 31/30 = −1/30

∑k5 の第3項は 1/3 × 5/4 = 5/12、末尾の項は −1/30 × 5/2 = −1/12。

〔注〕 普通にやっても簡単な計算だけど、∑ke の第3項の係数が e/12 であることを利用すれば、最初の三つの □ は一瞬で分かる! 実質、四番目の □ だけ、−1/30 × 5/2 = −1/12 を計算すればいい。「5乗和までの公式を1分で」は誇大広告ではなく、まじ(やり方を知ってれば)。

結局、次のように5乗和までの公式が得られる:

PNG画像1

*

同様にして、7乗和の公式まで導出を進めると、次の画像のようになる。

PNG画像3

〔注〕 ∑ke の第3項の係数が e/12 であることを利用すれば、新たに計算する必要がある係数は実質三つだけ。 −1/12 × 6/3 = −1/12 × 2 = −1/6 はカンタン、それ掛ける 7/4 は −7/24(約分のない単純な掛け算)。 1/42 × 7/2 = 1/6 × 1/2 = 1/12 も、別に難しくない! B6 = 1/42 を覚えてない場合、ベルヌーイ数・速算術が手っ取り早いが、今回の方法でも、次の係数和が 1 に等しいことから、B6 を決定できる:
  1/7 + 1/2 + 1/2 − 1/6 + B6 = 1/7 + (1/2 + 1/2) − 1/6 + B6 = 1 − 1/42 + B6 = 1
  (なぜなら 1/7 − 1/6 = −1/42)
「2~7乗和の公式をゆっくりやっても5分で作れる」ってのも、誇大広告じゃないよ♪
(説明を読んだだけじゃ理解しにくいかも。メモ用紙に書いて、自分で試してみよう)

§20. 元祖ベルヌーイ形式の式をベタで書くと:
  ∑k2 = n3/3 + n2/2 + (2)/(2) B2 n1
  ∑k3 = n4/4 + n3/2 + (3)/(2) B2 n2
  ∑k4 = n5/5 + n4/2 + (4)/(2) B2 n3 + (4⋅3⋅2)/(4⋅3⋅2) B4 n1
  ∑k5 = n6/6 + n5/2 + (5)/(2) B2 n4 + (5⋅4⋅3)/(4⋅3⋅2) B4 n2
  ∑k6 = n7/7 + n6/2 + (6)/(2) B2 n5 + (6⋅5⋅4)/(4⋅3⋅2) B4 n3 + (6⋅5⋅4⋅3⋅2)/(6⋅5⋅4⋅3⋅2) B6 n1
  ∑k7 = n8/8 + n7/2 + (7)/(2) B2 n6 + (7⋅6⋅5)/(4⋅3⋅2) B4 n4 + (7⋅6⋅5⋅4⋅3)/(6⋅5⋅4⋅3⋅2) B6 n2

  ………
例えば ∑k6 の5次の係数 (6)/(2) B2 は ∑k5 の対応する係数を 6 倍して 5 で割ったものだし、同様に前者の4次の係数 (6⋅5⋅4)/(4⋅3⋅2) B4 は後者の対応する係数 (5⋅4⋅3)/(4⋅3⋅2) B4 を 6 倍して 5 で割ったものなので、§18の計算が成り立つのは、当たり前。文献的には David M. Bloom [1] がこの事実を明記している――その Bloom 自身は、 Harold M. Edwards の Fermat’s Last Theorem: a Genetic Introduction to Algebraic Number Theory (1977) からヒントを得たという。性質自体はトリビアルなので、昔からいろんな人によって再発見されているに違いない。日本語圏では Edwards–Owens–Bloom Algorithm と呼ばれることがある(これは Doucet & Saleh-Jahromi [2] が使った仮の名称で、一般的な用語ではない)。

2005年、北海道の加藤秀隆先生も、この計算法を独立に再発見したらしい [3]。 e ∑ke−1 の 0 から n までの定積分プラス Be n が、∑ke であることを指摘して、「積分計算なので力任せではなく、ベルヌーイ数のリストさえ入手していればよく連続的に冪和計算することができます」とコメントしている(注: ベルヌーイ数のリストは、係数の和が 1 になることによって、この方法自体でも生成可能)。

〔追記〕 文献 [2] で使われている Edwards–Owens–Bloom という表現において、「Edwards」は上記の Harold M. Edwards を指す。紛らわしいことに、べき和の話題では、同姓の別人 A. W. F. Edwards の方がはるかに多く参照される。Harold M. Edwards は、べき和自体ではなく Bernoulli 数を話題にしている(Fermat の最終定理の歴史では、正則素数が重大なので)。案の定、このアルゴリズムは何度も再発見され、いろいろな資料で言及されている(e.g. [4][5])。

このアルゴリズムの長所は、シンプルで手軽なことだろう。

一方、短所として、計算が再帰的なため、例えば ∑k10 だけが欲しい場合でも、その導出のために ∑k9, ∑k8, ∑k7, … が全て必要になる。再帰的計算の特性として、1カ所でも計算ミスをすると、そこから先が全部間違いになってしまう。二項展開などに基づく通常のベルヌーイの公式なら、そのような問題はなく、例えば ∑k10 だけを直接計算できる。

*

番号の小さいベルヌーイ数については、使ってるうち自然に覚えてしまうのが理想だろうが、原理的には、上記の方法でも「係数の和が 1 になること」から、ベルヌーイ数を導出できる。速算術(Conway & Guy による von Staudt–Clausen の定理の「乱用」である!)などの別ルートでベルヌーイ数を導出できるようにしておけば、逆に「係数の和が 1 になること」を(チェックサムのように)検算に使うこともできる。素朴な「乱用」では B14 以降を作れないので、今回の計算法では ∑k13 がとりあえず一応の限界。「8乗和」以降については、次回。

〔文献〕
[1] David M. Bloom: An Old Algorithm for the Sums of Integer Powers
https://www.maa.org/sites/default/files/An_Old_Algorithm-Bloom31184.pdf
[2] Doucet & Saleh-Jahromi: Sums of Powers of Integers
https://web.archive.org/web/20031231233734if_/http://psystat.sowi.uni-mainz.de:80/wermuth/pdfs/sumint.pdf
[3] 加藤秀隆「不定積分による冪和計算」
http://izumi-math.jp/H_Katou/H_Katou.html
[4] Mike Raugh: The Bernoulli Summation Formula: A Pretty Natural Derivation
https://www.mikeraugh.org/Talks/BernoulliSummation-LACC.pdf
[5] Mohammad Torabi-Dashti: Faulhaber’s Triangle
https://www.maa.org/sites/default/files/Torabi-Dashti-CMJ-2011.pdf

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2023-03-31 14番目のベルヌーイ数を求めて 愚かさは美しい曲線

#数論 #べき和

前回、7乗和までの公式を図解入りで手軽に導いた。あのトリックは一応「13乗和」まで実用になる。「14乗和」については、便宜的な方法で B14 を決定できない…という問題がある。

114 + 214 + 314 + … + 6114 などの14乗和が必要なとき(どんなときだ?)、とても困る…かもしれない(説得力がねぇ)。いやいや「この方法は B12 までしか使えない」って言われると、意地でもどーにかして B14 を求めたくなるじゃん!

*

§21. ∑k10 までは既に§10で導いてあるが、あらためて。前回得た…
  ∑k7 = n8/8 + n7/2 + (7/12)n6 − (7/24)n4 + (1/12)n2
…をベースに:
  ∑k8 = n9/9 + n8/2 + (8/12)n7 − (X)n5 + (Y)n3 − (1/30)n
最初の3項はお約束のパターン(第3項の係数はもちろん 2/3 に約分できる)、最後の −1/30 は B8 なので、係数 X, Y だけを求めればいい(符号は分かっているので、絶対値だけ考える。以下同じ)。原理に従って、「一つ下の公式」の対応する係数を基に 8 倍して次数で割ると:
  X = 7/24 × 8/5 = 7/15, Y = 1/12 × 8/3 = 2/9 つまり
  ∑k8 = n9/9 + n8/2 + (2/3)n7 − (7/15)n5 + (2/9)n3 − (1/30)n
同様に:
  ∑k9 = n10/10 + n9/2 + (9/12)n8 − (C)n6 + (D)n4 − (E)n2
について、9倍して次数で割ると:
  C = 7/15 × 9/6 = 7/10, D = 2/9 × 9/4 = 1/2, E = 1/30 × 9/2 = 3/20 つまり
  ∑k9 = n10/10 + n9/2 + (3/4)n8 − (7/10)n6 + (1/2)n4 − (3/20)n2
最後に:
  ∑k10 = n11/11 + n10/2 + (10/12)n9 − (F)n7 + (G)n5 − (H)n3 + (5/66)n について
  F = 7/10 × 10/7 = 1, G = 1/2 × 10/5 = 1, H = 3/20 × 10/3 = 1/2
10乗和の公式は、超シンプルな係数 1, 1, 1⁄2 になる!

∑k10 = n11/11n10/25/6n9 − (1)n7 + (1)n5 − 1/2n3 + 5/66n

初めの3項と末尾の B10 = 5/66 は分かり切ってるんで、真ん中の 1, 1, 1⁄2 だけに注意すればいい。自力で導出したら、嫌でも心に焼き付くきれいな式――ベルヌーイがこれを引き合いに出して「7分30秒以内」の自慢をした気持ちも分かる。われわれは、この「ベルヌーイの最終公式」をベースキャンプとして、さらに先へ!

*

§22. まずは ∑k10 の式を使って、∑k11 を求めよう。最初の3項は分かり切っている。第4項以降の係数は…
  (1) × 11/8 = 11/8, (1) × 11/6 = 11/6, (1⁄2) × 11/4 = 11/8, (5/66) × 11/2 = 5/12
こりゃまた楽な計算だ。分子11の四連続がなかなか印象的↓

∑k11 = n12/12 + n11/2 + (11/12)n10 − (11/8)n8 + (11/6)n6 − (11/8)n4 + (5/12)n2

次に ∑k12 の第4~第7項の係数は:
  (11/8) × 12/9 = 11/6, (11/6) × 12/7 = 22/7, (11/8) × 12/5 = 33/10, (5/12) × 12/3 = 5/3
これらと、第3項の係数 12/12 = 1 そして B12 = 691/2730 に注意すると:

∑k12 = n13/13 + n12/2 + (1)n11 − (11/6)n9
   + (22/7)n7 − (33/10)n5 + (5/3)n3 + (691/2730)n

〔検算〕 上の式を通分すると:
  ∑k12 = (210n13 + 1365n12 + 2730n11 − 5005n9 + 8580n7 − 9009n5 + 4550n3 + 691)/2730
n = 10 のとき、分母は 3733079903643090。 2730で割ると 1 3674 2853 6133。 112 + 212 + … + 1012 を直接計算したものと一致。分母の12次式は、例によって n(n + 1)(2n + 1) = n3 + 3n2 + n で割り切れ、商は§6で得た「カオス」に含まれる10次式。それを f(n) とすると f(10) = 1616051906339 で、その 10⋅11⋅21 = 2310 倍は上記1兆3674億…と一致。ちなみに 2310 = 10⋅11⋅21 = (2⋅5)(11)(3⋅7) = 2⋅3⋅5⋅7⋅11 は最初の5個の素数積だ。

従って ∑k13 の第4項以降の係数は:
  (11/6) × 13/10 = 143/60, (22/7) × 13/8 = 143/28, (33/10) × 13/6 = 143/20,
  (5/3) × 13/4 = 65/12, (691/2730) × 13/2 = 691/420 [2730 = 2600+130 = 13×(200+10)]

∑k13 = n14/14 + n13/2 + (13/12)n12
   − (143/60)n10 + (143/28)n8 − (143/20)n6 + (65/12)n4 − (691/420)n2

分子に 143 = 11⋅13 が三連続。

参考までに、因数分解した形:
∑k13 = n2(n + 1)2(30n10 + 150n9 + 125n8 − 400n7 − 326n6 + 1052n5 + 367n4 − 1786n3 + 202n2 + 1382n − 691)

〔検算〕 直接計算すると 113 + 213 + … + 1013 = 13 2028 6076 1145。上の2種類の公式に n = 10 を入れても同じ結果に。

§23. いよいよ本題の ∑k14 ―― B14 が分からないので、手間が増える。第1項~第3項(の係数)は、お約束:
  1/15 ①
  1/2 ②
  14/12 = 7/6 ③
第4項~第8項も、∑k13 をベースにいつもの分数の掛け算。分子 143 の三連続ヘアピン。
  (143/60) × 14/11 = (11⋅13⋅14)/(60⋅11) = 13⋅7/30 = 91/30 → −91/30 ④
  (143/28) × 14/9 = (143⋅14)/(2⋅14⋅9) = 143/(2⋅9) = 143/18 ⑤
  (143/20) × 14/7 = (143⋅14)/(2⋅10⋅7) = 143/10 → −143/10 ⑥
そして:
  (65/12) × 14/5 = (13⋅5⋅2⋅7)/(2⋅6⋅5) = (13⋅7)/6 = 91/6 ⑦
  (691/420) × 14/3 = (691⋅14)/(14⋅30⋅3) = 691/90 → −691/90 ⑧

この8個の分数を 1 から引き算する必要がある(第4・6・8項は負であることに注意)。というのも、上記の情報だけでは次の X すなわち B14 が分からない(B2, B4, …, B12 は事前に分かってたので、13乗和までについては、この手間が不要だった)。
  f(n) = ∑k14 = n15/15 + n14/2 + (7/6)n13
   − (91/30)n11 + (143/18)n9 − (143/10)n7
   + (91/6)n5 − (691/90)n3 + (X)n
n = 1 の場合 f(n) = 114 = 1 で、そのとき上記右辺において n15, n13 などは全部 1 なので、結局「1 = 右辺の係数の和 = ①~⑧の和 + X」が成り立ち、従って X は「1 から ①~⑧の和を引いたもの」。単純計算とはいえ、ちょっと面倒――もっとも B14 が正であることは分かってるし、フォン・シュタウト&クラウセンの定理から、X = 整数 + 1/6 = 1/6 or 7/6 or 13/6 or … ということも分かってるので、結果は比較的簡単な分数になるはず。

まずは①~⑧の和…。じろじろ眺めると分母 90 で通分できる。実行すると*8:
  (6/90 + 45/90 + 105/90 − 273/90 + 715/90) − 1287/90 + 1365/90 − 691/90
この分子の計算だが、最初の5項については普通に:
  6 + 45 + 105 = 156, 156 − 273 = −117, 715 − 117 = 598
ここで「4桁の 1287 を引いてから、ほぼ同じ大きさの 1365 を足す」より、1365 − 1287 = 78 を足すのが得策だろう:
  598 + 78 = 676, 676 − 691 = −15
結局、求める和は −15/90 = −1/6、従って X = 1 − (−1/6) = 7/6B14 が求まった

*8 ⑥を通分した分子 −143 × 9 = −1287 について。もちろん普通に計算してもいいのだが、143 = 11 × 13 なので、その 9 倍は 13 × 99 = 1300 − 13 に等しい。1287 は13乗の二項係数の一つで、Pascal の三角形の「最初の4桁の数」だ。

∑k14 = n15/15 + n14/2 + (7/6)n13 − (91/30)n11 + (143/18)n9
   − (143/10)n7 + (91/6)n5 − (691/90)n3 + (7/6)n

ベルヌーイ形式は比較的シンプルだが、因数分解が面白いのは10乗和までで、11乗より上はカオス:
∑k14 = n(n + 1)(2n + 1)(3n12 + 18n11 + 24n10 − 45n9 − 81n8 + 144n7 + 182n6 − 345n5 − 217n4 + 498n3 + 44n2 − 315n + 105)

〔検算〕 どちらの公式も n = 61 を入れると 45𥝱 2929垓 7117京 1662兆 6750 3905 4111 になる。114 + 214 + 314 + … + 6114 を直接計算すると結果が一致!

*

B14 = 7/6 が分かったので、∑k15 は ∑k13 までと同様に導出できるはず。けれど B14 = 7/6 をもっと楽に導出できないものだろうか。二項定理を使う方法でも面倒な分数計算になるだろうが、比較でいえばどっちが楽なのか(二項定理を使う方法は、umbral 計算と呼ばれる形式的記号操作で、手法としては非常に興味深い)。

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2023-04-03 14+24+34+…+104 のような和(その4) 雑草の生えた道

#数論 #べき和

1番目の数が 14 = 1。 2番目の数が 14 + 24 = 1 + 16 = 17。 3番目の数が 14 + 24 + 34 = 1 + 16 + 81 = 98。…このようにして作った次の表を見ると、番号 n が 6 の倍数(6, 12, 18, …)のとき n 番目の数 Q(n) が 5 の倍数になるように思える。

<表1> 4乗和 Q(n) = 14 + 24 + … + n4
n Q(n) n Q(n) n Q(n)
1 1 7 4676 13 89271
2 17 8 8772 14 127687
3 98 9 15333 15 178312
4 354 10 25333 16 243848
5 979 11 39974 17 327369
6 2275 12 60710 18 432345

実際 Q(24) = 1763020 も 5 の倍数。予想は正しそうだ。しょせんは足し算、単純なループといったところか。…と思って油断すると、予想に反して次の Q(30) = 5273999 は 5 で割り切れない!

一体何が起きているのか?

*

§24. もっと小さい数 3 で割った余りで実験。自然数 n を 3 で割ると、余りは 0 か 1 か 2 だ(余り 0 のときが、割り切れるとき)。
  1, 2, 3; 4, 5, 6; 7, 8, 9; 10, 11, 12; …
という数は、3 で割った余りという観点では:
  1, 2, 0; 1, 2, 0; 1, 2, 0; 1, 2, 0; …  「ワルツ♪」
それぞれ平方(自乗)すると、
  1, 4, 0; 1, 4, 0; 1, 4, 0; 1, 4, 0; …
となるけど 4 は 3 で割った余りという観点では 1 と同じなので、要するにこう。
  1, 1, 0; 1, 1, 0; 1, 1, 0; 1, 1, 0; …  「2乗のワルツ♫」
意味 → 3, 6, 9, … などの数(3 の倍数)の平方は 3 で割り切れ、それ以外の数の平方は 3 で割ると 1 余る。

〔例1〕 32 = 3 × 3 や 62 = 6 × 6 が 3 で割り切れるのは当たり前だろう。もともと 3a の形なんだから(a: 整数)、平方すれば (3a)2 = 3(3a2) となり、少なくとも 3 で 2 回割り切れる。

〔例2〕 それ以外の平方数、つまり 12 = 1 や 22 = 4 や 42 = 16 や 52 = 25 などは、全部 3 で割ると 1 余る。

3 で割って 2 余る数(例: 17)は、もちろん 3 の倍数より 2 大きい(例: 3 × 5 + 2)。3 の倍数より 1 小さい、ともいえる(例: 3 × 6 − 1)。だから「ワルツ♪」をこう書いても良かった。
  1, −1, 0; 1, −1, 0; 1, −1, 0; 1, −1, 0; …
この書き方なら「2乗のワルツ♫」が上記の形になるのは、一目瞭然。(±1)2 = 1 なんで。

3 で割り切れない整数は、3a + 1 または 3a − 1 の形を持つ。それを平方すると:
  (3a ± 1)2 = 9a2 ± 6a + 1 = 3(3a2 ± 2a) + 1
この数を 3 で割ると確かに 1 余る――右辺の第1項は 3 の倍数だから 3 で割り切れ、右端の 1 が余る。

要するに 3 の倍数は平方しても 3 の倍数だし、3 の倍数±1 は平方すると 3 の倍数より 1 大きくなる。このことを簡略に次のような記号で表す。
  k ≡ 0 (mod 3) なら k2 ≡ 0 (mod 3)
  k ≡ ±1 (mod 3) なら k2 ≡ 1 (mod 3)
mod 3 は「3 で割った余りを基準に考えると」というような意味。

2乗(平方)したものをもう一度、平方すると、最初から見て4乗。結局 mod 3 では k ≡ 0 なら k4 ≡ 0 で、k ≡ ±1 なら k4 ≡ 1:
  14 = 1 ≡ 1, 24 = 16 ≡ 1, 34 = 81 ≡ 0
  44 = 256 ≡ 1, 54 = 625 ≡ 1, 64 = 1296 ≡ 0
  ………
このことから mod 3 では、次のようになる:
  14 + 24 + 34 + 44 + 54 + 64 + 74 + 84 + 94 + …
  ≡ (1 + 1 + 0) + (1 + 1 + 0) + (1 + 1 + 0) + …
だから n = 1, 2, 3, … に対して第 n 項までの和は、順に ≡ 1, 2, 2; 3, 4, 4; 5, 6, 6 ≡ 1, 2, 2; 0, 1, 1; 2, 0, 0; …。そっから先は(9 項単位の同じパターンで)ループ。n = 3, 6, 9, … のとき、直前の項と比べて余りが変化しない理由は、「3 の倍数の 4 乗」自身も 3 の倍数だから―― 3 の倍数を足しても 3 で割った余りには影響しない。

自然数 n が 9 の倍数か、それより 4 か 8 大きいなら――記号で書くと n ≡ 0, 4, 8 (mod 9) なら―― Q(n) は 3 で割り切れる。それ以外なら 3 で割り切れない: n ≡ 1, 5, 6 (mod 9) か n ≡ 2, 3, 7 (mod 9) かに応じて、Q(n) は 3 の倍数より 1 大きいか 1 小さい。

〔例3〕 Q(9) = 15333, Q(18) = 432345 は 3 で割り切れる。Q(4) = 354, Q(8) = 8772 も 3 で割り切れ、Q(13) = 89271, Q(17) = 327369 も 3 で割り切れる。3 で割った余りは、桁の和を 3 で割った余りで判定できる。例: 15333 → 1+5+3+3+3 = 15 → 3 で割り切れる(この判定では、桁 3, 6, 9 を無視して構わず、途中で和が 3 の倍数になったら、その和も捨てて構わない)。

〔例4〕 Q(5) = 979 は 3 で割り切れない(1 余る)。979の両端の桁を無視し真ん中の 7 で判定すれば、確かに 3 で割ると 1 余る。

§25. 同様に 1, 2, 3, 4, 5 は mod 5 では、それぞれ ≡ 1, 2, −2, −1, 0。平方すると ≡ 1, 4, 4, 1, 0 ≡ 1, −1, −1, 1, 0。もう一度平方すると(最初から見ると4乗) ≡ 1, 1, 1, 1, 0。つまり、5 の倍数は 4 乗しても 5 で割り切れ(当たり前)、それ以外の数は 4 乗すると「5 の倍数より 1 大きい数」――つまり末尾が 1 or 6 ――になる!
  14 = 1, 24 = 16, 34 = 81, 44 = 256, 54 = 625, 64 = 1296, 74 = 2401, …
これはすごい発見だッ(笑)!

〔別の角度から〕 ねぇねぇ、フェルマーの小定理を使うと、この「発見」をもっとエレガントに証明できるんじゃない? フェルマーの小定理 → 「整数 b が素数 p の倍数でないとき bp−1 ≡ 1 (mod p) が成り立つ」。mod 5 だから p = 5 とすると…!

mod 5 では、14 + 24 + 34 + … という和は
  ≡ (1 + 1 + 1 + 1 + 0) + (1 + 1 + 1 + 1 + 0) + …
となって、n = 1, 2, 3, … に対して第 n 項までの和は、順にこうなる:
  ≡ 1, 2, 3, 4, 4; 5, 6, 7, 8, 8; 9, 10, 11, 12, 12; 13, 14, 15, 16, 16; 17, 18, 19, 20, 20; …
  ≡ 1, 2, 3, 4, 4; 0, 1, 2, 3, 3; 4, 0, 1, 2, 2; 3, 4, 0, 1, 1; 2, 3, 4, 0, 0; …

あたかも 6 項ごとに ≡ 0 になり 5 で割り切れるように見えるが、その短周期は全体像じゃない; ホントは 25 項単位の長周期でループ。

n ≡ 0, 6, 12, 18, 24 (mod 25) なら Q(n) は 5 で割り切れ、それ以外なら 5 で割り切れない。言い換えれば「n を 25 で割った余り」が 6 の倍数なら、Q(n) は 5 で割り切れる。

結果的に n が 25 未満なら「n が 6 の倍数のとき Q(n) が 5 で割り切れる」。Q(6), Q(12), Q(18), Q(24) は 5 で割り切れる――そこだけ見ると、次は Q(30) が 5 で割り切れるように思えてしまうが、実は Q(24) と連続で次の Q(25) = 2153645 も 5 で割り切れる。で Q(25), Q(31), Q(37), Q(43), Q(49) が 6 個おきに 5 で割り切れ、Q(49) = 59416665 と連続で次の Q(50) = 65666665 ――「銀メダル」の数――も 5 で割り切れる。以下同様に周期25でループ。

p = 3 で割った余りは周期 9 でループ、p = 5 で割った余りは周期 25 でループ。「さては素数 p で割った余りは p2 周期でループするんだな」と予想したくなるが、実は p = 3, 5 は例外ケースで、p が 7 以上の素数の場合、素直に周期 p でループする――例えば p = 7 なら n ≡ 0, 3, 6 (mod 7) のとき Q(n) は 7 で割り切れ、p = 11 なら n ≡ 0, 5, 10 (mod 11) のとき Q(n) は 11 で割り切れる。

勘がいい人なら「なるほど n ≡ 0, (p−1)/2, p−1 (mod p) のとき、Q(n) が p で割り切れるんだな」と予想したくなるかもしれない。

確かにそれは、割り切れるための十分条件。でも、絶対必要な条件じゃないっぽい…。最初の反例は p = 17 のケース。今の原則からすれば n ≡ 0, 8, 16 (mod 17) のとき Q(n) が 17 で割り切れるわけだが――それは事実だが――、それ以外で n ≡ 2, 14 (mod 17) でも構わない。実際 Q(2) = 17 は明らかに 17 で割り切れる。Q(14) = 127687 = 17 × 7511 も 17 で割り切れる。

上記の十分条件から、Q(14) は 7 でも割り切れ、29 でも割り切れるが、それ以外に 37 でも割り切れる。十分条件をはみ出した 17 やら 37 の挙動は一体…?

§26. 整数の4乗の和は、もちろん整数。従って、4乗和の公式
  Q(n) = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30
…の値は整数であり、その分子は常に分母 30 で割り切れる(n: 自然数)。上記 Q(n) の分子は 30 = 2 × 3 × 5 で約分されるので、分子が 2 or 3 or 5 の倍数だとしても、Q(n) 自体はそれらの倍数にならないかもしれない(約分の結果、因子 2, 3, 5 は一つずつ消えるので)。一方、分子が 30 = 2 × 3 × 5 に含まれない素因数 p を持つなら(要するに p が 7 以上の素数なら)、その p が約分で消えることはないので、Q(n) 自体も因子 p を持ち p で割り切れる:
  n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1) ≡ 0 (mod p)
その自明な解 n ≡ 0, −1, (p − 1)/2 は「第 n 項において Q(n) は p で割り切れる」という十分条件を与える。けれど、もう一つの因子がある:
  g(n) = 3n2 + 3n − 1 ≡ 0 (mod p)
この2次式が mod p で解を持つかどうか・解を持つとして具体的に解が何かは、自明ではない。n = 1 のときの g(1) = 5 は分母由来の例外ケースに吸収されてしまうが、n = 2 のときの g(2) = 17 によって、p = 17 の場合、十分条件からのはみ出しが起きる。一般に 7 以上の素数 p が g(n) の値またはその約数になる場合、Q(n) ≡ 0 (mod p) は非自明な解を持つ。

g(n) は2次式なので、平方剰余の問題として解決するんだろうけど、この観点からの Q(n) の特徴付けは、あまり人通りのない雑草の生えた道みたいだ…。g(n) そのものが素数になる形は https://oeis.org/A171838 [Primes of the form 3*k^2 + 9*k + 5.] として一応誰かがメモしてるものの、手入れされずに放置されてる(注: 「3k2 + 9k + 5 型」の数は、k = n−1 と置けば「3n2 + 3n − 1 型」なんで、呼び方が違うだけで g(n) と同じ)。専門の研究者の視点では「たわいもない、つまらない問題」だから、見向きもされないのだろう。娯楽のパズルとしても地味な内容だし…。でも4乗和・5乗和などは高次元の図形数のようなもんなんで、掘り下げてみると、意外とワクワクするようなことが出てきそうな予感もする。(続く)

〔補足〕 p = 2, 3, 5 が例外的になるのは、Q(n) の分母 30 と互いに素でないからで、言い換えると Bernoulli 数 B4 = −1/30 の分母と互いに素でないから。べき和なので Bernoulli 数が絡んでくるのは、不思議ではない。

〔追記〕 https://oeis.org/A004538 [a(n) = 3*n^2 + 3*n - 1.] では、この形の数と4乗和の関連が、指摘されている。(2023年4月4日)

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2023-04-07 14+24+34+…+104 のような和(その5) るり色のグラフ

#数論 #べき和

14+24+34+…+104 = 25333 が 49 で割り切れる理由。その種の一般論。そのため「解の公式を使わず自力で2次方程式を解く」。

直接関係ないが Q(n) = 14 + 24 + … + n4 のグラフをプロットしてみた(n を実数に拡張)。Bernoulli の公式が n = 1/2 に対して左右対称の零点を持つことが、可視化されている。解析的数論の片りんを垣間見ることができる。

PNG画像1 PNG画像2

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§27. Q(1) = 14 = 1, Q(2) = 14 + 24 = 1 + 16 = 17, Q(3) = 14 + 24 + 34 = 1 + 16 + 81 = 98, … のように、1 以上の整数の4乗を次々と n 個、足した和は、次の値を持つ:
  Q(n) = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1) / 30
分子は4種類の整数 n, n + 1, 2n + 1, 3n2 + 3n − 1 の積。

このことから、例えば n が 7 の倍数なら Q(n) は 7 の倍数――なぜならそのとき、分子の積の一つ目の整数 n が 7 の倍数になり(つまり素因数 7 を持ち)、分母 30 は 7 の倍数でないので、因数 7 が約分で消える心配もない。

〔検証1〕 n = 7 なら、分子 = 7 × 8 × 15 × (3⋅49+21−1) なのだから、丸かっこ内のゴチャゴチャはともかく、全体が 7 の倍数になることは明白。だが、具体的に直接、確かめてみよう:
  14 + 24 + 34 + 44 + 54 + 64 + 74
   = 1 + 16 + 81 + 256 + 625 + 1296 + 2401
   = (17) + 81 + 256 + 625 + 1296 + 2401  地道な足し算も修行の道w
   = (98) + 256 + 625 + 1296 + 2401 = 100 + 256 − 2 + 残りの項
   = (354) + 625 + 1296 + 2401
   = (979) + 1296 + 2401 = 979 + 1300 − 4 + 残りの項
   = (2275) + 2401
   = (4676)  これを 7 で割ってみると…
   = 668 × 7 ← 予想通り 7 の倍数だッ!
ちなみに4乗数が分からんときは、次のような感じで、暗算してもいいかと:
  74 = 492 = (50 − 1)2 = 2500 − 100 + 1
  64 = 362 = (40 − 4)2 = 1600 − 320 + 16
または 182 = 92⋅22 = 81⋅4 = 324 を使って:
  64 = 362 = 182⋅22 = 324⋅4 = 1296

同様の理由から、二つ目の整数 n + 1 が 7 の倍数のときも――すなわち n が 7 の倍数より 1 小さいなら――、Q(n) は 7 の倍数。例えば Q(6), Q(13), Q(20) は 7 の倍数。

〔検証2〕 検証1の途中計算から Q(6) = 2275。 7 で割ると商は 325 で割り切れる。確かに 7 の倍数。

全く同様に、三つ目の整数 2n + 1 が 7 の倍数のときも――すなわち n の 2倍が 7 の倍数より 1 小さいなら――、Q(n) は 7 の倍数。例えば Q(3), Q(10), Q(17) は 7 の倍数。この 3, 10, 17, … については「7 の奇数倍の半分(端数切り捨て)」とも表現できるし、「7 の倍数より 1 小さい数の半分」とも表現できる。

〔検証3〕 検証1の途中計算から Q(3) = 98。これは 7 × 14 なので、確かに 7 の倍数。

以上の例の 7 という数を 7 以上の別の素数、例えば p = 11 や p = 13 に置き換えても、全く同様の議論が成り立ち、次の結論に至る。

4乗和の素朴な性質 p を 7 以上の素数とする。 Q(n) = 14 + 24 + … + n4 は、次のどの場合にも p の倍数になる: n が p の倍数の場合、 n が p の倍数より 1 小さい場合、 n が「p の倍数より 1 小さい数」の半分の場合。

〔例〕 Q(11), Q(10), Q(5) は 11 で割り切れ、Q(13), Q(12), Q(6) は 13 で割り切れる。このうち Q(5) = 979, Q(6) = 2275 は検証1で計算済み。前者が 11 で割り切れること、後者が 13 で割り切れることは、容易に確認可能。他の具体例(<表1>参照)についても、上記の性質を確認できる。

p = 2, 3, 5 の場合にも、
  Q(n) = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1) / 30
の分子については同様の性質が成り立つが、これらの場合、分子が p の倍数になっても、分母 2⋅3⋅5 との約分によって、その p が消えてしまう心配がある。例えば上の法則をそのまま適用すると Q(5) は 5 の倍数になるはずだが…。確かに n = 5 のとき
  分子 = 5⋅6⋅11⋅89
は 5 の倍数だけど、分母の 2⋅3⋅5 との約分の結果、残るのは 11⋅89 = 979 なので Q(5) = 979 は 5 の倍数にならない。 7 以上の素数という限定が付いているのは、そのため。

p = 3, p = 5 のとき、いつ Q(n) が p の倍数になるか?については、前回、既に個別に調べた。p = 2 の場合については、要するに Q(n) が奇数か偶数かという問題。 1, 2, 3, … では奇数と偶数が交互に並んでいること、奇数の4乗は奇数、偶数の4乗は偶数ということ、奇数と奇数の和は偶数といったことから、次の結論が出る――「n が 4 の倍数のときと、4 の倍数より 1 小さいとき Q(n) は偶数、それ以外のとき Q(n) は奇数」。

気になるのは、分子の四番目の因数 3n2 + 3n − 1 の存在。例えば、もしこの数が 7 の倍数になるなら、そのときにも分子は 7 で割り切れるはずだ。だとすると Q(n) が 7 の倍数になるのは「素朴な性質」にいう3つの場合だけでなく、“第4のケース”が存在するのかもしれない。具体例として…
  n = 2 のとき 3n2 + 3n − 1 = 3⋅4 + 3⋅2 − 1 = 17
  n = 14 のとき 3n2 + 3n − 1 = 3⋅196 + 3⋅14 − 1 = 588 + 42 − 1 = 629 = 37 × 17
…なので、3n2 + 3n − 1 は 17 の倍数になることがあって、例えば n = 2, n = 14 のとき Q(n) は 17 で割り切れる。

Q(2) = 17 はもちろん 17 の倍数だし、Q(14) = 127687 = 7 × 17 × 29 × 37。約数 7 と 29 の存在は「素朴な性質」から説明がつくが、約数 17 と 37 の存在は「素朴な性質」では説明がつかない――これらは 3n2 + 3n − 1 という部分と関係あるらしい。

従って、上記「4乗和の素朴な性質」は、まだ完成形とはいえない。 p = 17 のとき、「素朴な性質」によれば Q(17), Q(16), Q(8) などは 17 の倍数だが、それだけでなく、「素朴な性質」では全く言及されていない Q(2), Q(14) も 17 の倍数だ!

§28. 疑問点を整理しよう。n を自然数、p を 7 以上の素数とする。 3n2 + 3n − 1 が p の倍数になるという現象は、いつ、どういう条件で発生するのか。 n = 2, n = 14 のとき、上記の通り 3n2 + 3n − 1 は p = 17 の倍数になるが、n = 1 のとき 3⋅12 + 3⋅1 − 1 = 11 は 17 の倍数ではない。「p = 17 に対して条件を満たす n が存在する」のは確かだが、無制限に存在するわけでもない。

疑問点1 任意の p に対して、必ず 3n2 + 3n − 1 が p の倍数になるような n が存在するのか。それとも特定の p に対してだけ、条件を満たす n が存在するのか。だとしたら「特定」の p というものは、具体的にはどうやって「特定」されるのか?

〔例〕 3n2 + 3n − 1 が 11 の倍数になるような n が存在するか?

疑問点2 仮に、ある特定の p に対して、3n2 + 3n − 1 が p の倍数になるような n が「存在する」という抽象的事実だけが分かっているとして、どうやって 3n2 + 3n − 1 が p の倍数になるような具体的な n の値を確定できるのか?

〔例〕 3n2 + 3n − 1 が 101 の倍数になるような n が存在することが、証明されたとする。具体的な n の値を決定したい。

疑問点1は、2次の合同式、見掛けは古典的な話題だ。疑問点2は、伝統的な初等整数論の範囲を少々はみ出しているが、mod p 内の平方根の話――楽しい探検コースとなるだろう。

この問題は「あまり人の通らない雑草の生えた道」で、そのやぶの奥には、どの文献にも載ってないような「秘密の花園」が潜んでいるようだ…。

(一般向けでないので斜め読み推奨→) というのは、例えば mod 17 に2個の「パラレル虚数」 37 を添加した拡大パラレル世界は、四則演算について閉じているようだ。 mod 17 では 3 も 7 も平方非剰余。 37 も、その世界内に存在しない「パラレルワールドの虚数」。普通の整数の世界に、2次の無理数(例えば −1)を1個添加した世界(ガウス整数など)はオーソドックスな話題だが、それの有限体バージョンも普通に考えられ、そればかりか、この場合、2個添加してもゴチャゴチャにならない(?)。鍵となるのは、非剰余と非剰余の積は平方剰余という事実。つまり 21 は mod 17 内に戻って、このことから、x + y3 + z7 の形の「三元数」同士の足し算・掛け算は再び「三元数」になり、しかも「三元数」には ≡ 0 の場合を除き、同じ世界内に逆数が存在する。ただし 21 は2種類あるので、いろいろな一意性(逆数の一意性など)が破れてしまうのかもしれない。四元数は有名だが「三元数」はうまくいかないはず。だから、この「秘密の花園」には何か「恐ろしいわな」があるのかもしれない。好奇心をそそられる。

やぶの奥の秘密はさておき、「雑草の生えた道」の入り口部分。数論的な言葉で状況を整理すると…

4乗和の性質 p を 7 以上の素数とする。mod p で n ≡ 0, (p−1)/2, p−1 のとき Q(n) ≡ 0。ここまでは「素朴な性質」と全く同じ意味だが、それに加えて…。3n2 + 3n − 1 ≡ 0 を満たす n に対しても Q(n) ≡ 0 が成り立つ。 n がこれらのどれかの条件を満たすとき(そしてそのときに限って)、Q(n) は n の倍数となる。

手近な攻略目標は 3n2 + 3n − 1 ≡ 0 (mod p) の解の有無。解が無いなら話は簡単だが(その場合、素朴な性質だけで必要十分)、解が有る場合には「どうやって一般解を求めるか」という話に発展する。

§29. この問題は、実数の世界での 3x2 + 3x − 1 = 0 とそっくりなので、普通の「2次方程式の解の公式」をそのまま使えれば手っ取り早い。けれど mod p の世界と普通の世界は、別のもの。世界が違うと計算上の法則が違う場合もある。天下り的に解の公式を使うことなく、2次方程式
  3n2 + 3n − 1 = 0  ‥‥①
を実数の範囲で解いてみて、同じ方法が mod p の世界でも通用するか考えてみたい。

①を「1次式の2乗=定数」の形に変形できれば――つまり、
  (An + B)2 = C  ‥‥②
の形に変形できれば、両辺の平方根を考えることで、問題は1次方程式に帰着される。②の左辺を展開すると
  A2n2 + 2ABn + B2  ‥‥③
なので、①と2次の係数を比較すると A2 = 3 つまり A = 3(A = −3 でもいいが、その件は後述)。従って、1次の係数を比較すると 2AB = 2(3)B = 3 つまり B = 3/(23)。結局②の左辺は:
  [3 n + 3/(23)]2 = 3n2 + 3n + 9/(4⋅3) = 3n2 + 3n + 3/4  ‥‥④
だいぶ①と近くなったぞ。そーゆーことなら、①をこう変形する一手:
  3n2 + 3n + 3/4 − 7/4 = 0  ← ①の −1 の代わりに同じ意味の 3/4 − 7/4 を使用
  [3 n + 3/(23)]2 − 7/4 = 0  ← ④の左辺で置き換えた
  [3 n + 3/(23)]2 = 7/4
両辺の平方根(正でも負でもOK。左辺の側に複号を付けておく)を考えると:
  3 n + 3/(23) = ±7 / 2  ‥‥⑤
  3 n = −3/(23) ± 7 / 2 = −3/(23) ± 21 / (23)
両辺を 3 で割ると:
  n = −3/6 ± 21 / 6 = −1⁄2 + 21 / 6

少々強引だが、解が求まった。けれど、検討の余地が多い。まず A = −3 の可能性について。その場合、④の 3 が −3 に置き換わり、B = 3/(23) の符号もマイナスになる。その結果、同様に進めると⑤の左辺が −3 n − 3/(23) に変わるが――つまり上記と比べて −1 倍されるが――、そのバリエーションは既にカバーされてる。上記⑤で「左辺・右辺は ± どっちでもOK」と認めてるから、A の符号の違いは問題にならない。

一方、この方法だと、あちこちに 37 が出現する。われわれの真の目的は mod p でこの計算を実行すること。その世界には、そもそも 3 や 7 の平方根が存在する保証がない(平方非剰余かもしれない)。極力、途中計算での平方根を回避するか、さもなければ「平方すると何々になる数が存在しない世界でも、一種の“虚数”として、そういう数を使った計算が成り立つ」という理論構成を行う必要がある。後者は刺激的なオプションだが、この場合、穏便な解決策は、①の両辺を 3 倍して、
  9n2 + 9n − 3 = 0  ‥‥①×3
にすることだろう。そうすれば係数比較のとき A2 = 9 つまり A = 3 となり、3 の発生源を排除できる。このとき 2AB = 6B = 9 つまり B = 9/6 = 3/2。従って:
  (An + B)2 = (3n + 3/2)2 = 9n2 + 9n + 9/4
このことから、①×3をこう変形すればいい。
  9n2 + 9n + 9/4 − 21/4 = 0
  (3n + 3/2)2 − 21/4 = 0 つまり (3n + 3/2)2 = 21/4
  3n + 3/2 = ±21 / 2 つまり 3n = −3/2 ± 21 / 2
  n = −1/2 ± 21 / 6 = (±21 − 3) / 6

mod p の世界内では、平方根の計算ができる保証はないけど、足し算・引き算・掛け算・割り算なら実行可能だ(割り算は「逆数の掛け算」。普通の世界と同様に、ゼロでの割り算は禁止されている)。だから、上の計算法は mod p の世界でも有効――最終的に「答えが出る」ためには、その世界に 21 という数が存在することが必要だが、それだけで十分。つまり r2 ≡ 21 (mod p) を満たす r がその世界内に存在するなら(そして、そのときに限って)、n ≡ (r − 3) / 6 が 3n2 + 3n − 1 ≡ 0 の解となる。もちろん r を −r ≡ p − r に置き換えても構わない。6 で割る計算は、この世界での 6−1 の掛け算を表す。

〔例1〕 p = 17 の場合。 4 = 22 は平方数なので、 r2 ≡ 21 ≡ 4 (mod 17) は、解 r ≡ ±2 ≡ 2, 15 (mod 17) を持つ。そして 6 × 3 = 18 ≡ 1 (mod 17) だから 6−1 ≡ 3。従って、求める n は (2 − 3) / 6 ≡ −1 × 3 ≡ −3 ≡ 14 または (15 − 3) / 6 = 12 × 3 = 36 ≡ 2 (後者の計算については、逆数を使わず単に (15 − 3) / 6 ≡ 12 / 6 ≡ 2 ともできる)。つまり n ≡ 2, 14 が 3n2 + 3n − 1 ≡ 0 を満たし、そのとき Q(n) ≡ 0 になる(言い換えれば、Q(2), Q(14) などは 17 で割り切れる):
  n ≡ 2 のとき 3(2)2 + 3(2) − 1 ≡ 12 + 6 − 1 ≡ 17 ≡ 0
  n ≡ 14 ≡ −3 のとき 3(−3)2 + 3(−3) − 1 ≡ 27 − 9 − 1 ≡ 17 ≡ 0

〔例2〕 p = 11 の場合。 r2 ≡ 21 ≡ −1 (mod 11) を満たす解 r は存在しない(これは第一補充法則から明らかだが、11種類の入力 p ≡ 0, ±1, ±2, …, ±5 を一つずつ試す原始的な方法でも、確かめられる)。だから Q(n) が 11 の倍数になるのは「素朴な性質」の場合に限られる。

〔例3〕 p = 7 の場合。 r2 ≡ 21 ≡ 0 (mod 7) は、解 r ≡ 0 (mod 7) を持つ。6 ≡ −1 の逆数は −1 自身。従って (r − 3) / 6 ≡ (0 − 3) × (−1) ≡ 3。この場合 r ≡ −r なので、他の種類の解はない(重解)。 n ≡ 3 (mod 7) のとき Q(n) が 7 で割り切れることは「素朴な性質」として既に分かっていることだが、その根拠は「n ≡ 3 なら Q(n) の分子の因子 2n + 1 は 7 の倍数」ということだった。今、新たに分かったこととして、「n ≡ 3 なら因子 3n2 + 3n − 1 も 7 の倍数」。
  n = 3 のとき 3n2 + 3n − 1 = 27 + 9 − 1 = 35 = 7⋅5
  n = 10 のとき 3n2 + 3n − 1 = 300 + 30 − 1 = 329 = 7⋅47
言い換えると n ≡ 3 (mod 7) なら、Q(n) の分子は因子 7 を少なくとも2個持ち、その結果 Q(n) は 72 = 49 で割り切れる。特に、次の二つの数は 49 で割り切れる:
  Q(3) = 14 + 24 + 34 = 98 = 49 × 2
  Q(10) = 14 + 24 + … + 104 = 25333 = 49 × 517

われわれは今、実際に計算する前から Q(17) = 14 + 24 + … + 174 や Q(24) = 14 + 24 + … + 244 が 49 で割り切れることを予言できる立場になった。これはすごい発見だぞッ(笑)。うれしいので太字で書いておこうw↓

4乗和における因子7 7 が Q(n) を割り切ることは n ≡ 0, 3, 6 (mod 7) と同値。特に n ≡ 3 なら Q(n) は 72 の倍数。

p = 2, 3, 5, 7 のケースは片付いた。そして、一般の場合のスタートラインとして――

4乗和の素因子の特徴付け 法 p を 11 以上の素数とする。
  (i) n ≡ 0, (p−1)/2, p−1 のとき p は Q(n) を割り切る。
  (ii) もし r2 ≡ 21 を満たす r が存在すれば、n ≡ (±r − 3) / 6 のときも p は Q(n) を割り切る。
  (iii) n がそれ以外のとき p は Q(n) を割り切らない。

第2部では、この問題――特に上記の (ii) ――を追究したい。

*

§30. 趣向を変えて、グラフの観察。関数 Q(n) の本来の意味は「自然数の4乗和」だが、n を実数としてプロットしている。

Q(n) = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1)/30 = n5/5 + n4/2 + n3/3 − n/30 は、n が大きくなれば n5/5 が支配的になり、値は急激に増加。逆に負の n がどんどん小さくなれば、Q(n) は急激に減少。一方、0 付近のおよそ n = −1.5 から 0.5 の範囲では、微妙なでこぼこを持つ。画像は、その部分。グラフの挙動を見やすいように、縦のスケールを拡大している(二つ目の画像は縦の縮尺を変えたもの)。

PNG画像1Q(n) は5次式なんで、最大5個の根(零点)を持つ。 Q(n) の場合、根が5種類あり、全部、実数。横軸と 5 回交わる!

一見してまず、グラフが n = −1/2 の縦線を軸に「ひっくり返しの左右対称」になってるのが印象的(点対称)。その縦線より左側の値の正負を反転させると、右側と左右対称になる。事実 n = −1/2 の縦線が新しい座標軸 X = 0 になるように、変数変換 n = X − 1⁄2 をすると:
  Q(X − 1⁄2) = X5/5 − X3/6 + (7/240)X
3個の奇関数(奇数乗の項)の値を足し合わせたものが Q の値だ。――入力の符号が反対になるとき、奇数乗は、絶対値が同じで符号が逆(二つ目の画像参照)。それらの和も同じ性質を持つ(絶対値が同じで符号が逆の数たちの和は、やっぱり絶対値が同じで符号が逆)。 X = 0 付近(n = −1/2 付近)では、1次の項(緑の直線)が支配的。それ以外では(1次の項を無視すると)、増加する5次の項(赤)と、減少する3次の項(緑の点線)の綱引き。最終的には5次の項が圧勝、結果として、るり色の Q(n) は一方的に増加するのだが、3次の項の方が横軸から離れる「立ち上がり」が良く、一時的に、ほんの少しだが5次の項を圧倒して、るり色を負にまで引き下げる(n = 0 から B までの間)。例えば n = 0.25 の縦線では(X = 0.75)、5次の項(赤)はまだ +0.05 未満だが、3次の項(緑の点線)は −0.07 まで下がっている。1次の項(緑の直線)も5次の項に加担してるけど、プラスとマイナスの綱引きの結果、トータルではマイナス・チームが僅差で勝利*9

縦線 n = −1⁄2 を軸に、左右対称に零点がある。そのうち対称軸上の n = −1⁄2 自身と、そこから両側に 1⁄2 ずれた n = −1, 0 は有理数の点―― Q(n) の式の形から Q(n) = 0 を満たす。この性質は、実数の世界だけでなく、mod p の世界でも成り立つ。

横軸との交点 A と交点 B が 3n2 + 3n − 1 = 0 の解に対応する無理数の零点。前節で計算したように n = −1⁄2 ± 21/6 に当たる(mod p の世界では、この数は存在することも、しないこともある)。

PNG画像2具体的数値を大ざっぱに暗算してみる。 452 = (9⋅5)2 = 81 × 25 = 8100/4 = 2025。 462 = (23⋅2)2 = 529 × 4 = 2116。つまり:
  4.52 = 20.25  4.62 = 21.16
このことから 21 は 4.5 と 4.6 の間。21 と比べ 20.25 は誤差が −0.75。 21.16 は誤差が +0.16。暗算の便宜上*10、後者を +0.15 と見なすと、誤差の絶対値の比は 0.75:0.15 = 5:1。すなわち「4.5 と 4.6 の間で 5⁄6 くらいの割合で 4.6 側に近い」。
  21 ≈ 4.5 + 0.1 × 5⁄6 = 4.5 + 0.08333… ≈ 4.583
という近似値を得る。それ割る 6 は約 0.764 なので、3⁄4 = 0.75 より約 0.014 大きいはず。グラフの観察からも、横座標の値について A は −0.5 − 0.75 = −1.25 よりわずかに小さく、B は −0.5 + 0.75 = 0.25 よりわずかに大きい。グラフの縦線の間隔は 0.25 だが、「わずか」のずれは、その間隔の10分の1未満(つまり 0.025 未満)のように見える。約 0.014 という見積もりは、おおむね正しそうだ。

正確な横座標は下記の通り。1⁄4 の倍数とのずれは 0.01376…。
  A: n = −1⁄2 − 21/6 = −1.2637626158…
  B: n = −1⁄2 + 21/6 = +0.2637626158…
AB 間では、グラフは2回極大・2回極小になるが、このでこぼこは繊細で、横軸からほとんど離れない(絶対値は最大でも 0.0049 程度)。

*9 n = 0.25 のとき X = 3/4 = 0.75。 X5/5 = 243/5120 ≈ 0.0474。 −X3/6 = −9/128 ≈ −0.0703。 (7/240)X = 7/320 ≈ 0.0219。 それらの和 ≈ −0.0010 は、正確にはちょうど −1/1024 = −0.0009765625。極めて 0 に近い負数であり、そのわずかに先の n = 0.26… で Q(n) = 0 になることも納得がいく。

*10 この便宜的処理によって 4.6 側の誤差が過小評価され、結果は 4.6 側に偏って過大になると推測される。もし誤差比 75:16 から 21 ≈ 4.5 + 0.1 × 75/91 = 4.58241… とすれば 21 の真の値 4.58257… の良い近似値を得る。簡易的な暗算では、むしろもっと大ざっぱに「誤差比 4:1 くらいで 4.6 に近い」と見積もって 21 ≈ 4.58 として、その6分の1を約 0.763 とすれば十分実用になる。

次の表現が成り立つ。
  Q(X − 1⁄2) = X5/5 − X3/6 + (7/240)X
  = (48X5 − 40X3 + 7X)/240
  = X(4X2 − 1)(12X2 − 7)/240
  = X(X2 − 1⁄4)(X2 − 7⁄12)/5
  = X(X + 1⁄2)(X − 1⁄2)(X + 7/12)(X − 7/12) / 5

分数 7/12 = 7/(23) は 21/36 = 21/6 に等しい。X = 0 つまり n = −1⁄2 と、その両側 ±1⁄2 の地点、 ±21/6 の地点が Q(n) の零点になることが、式の上でも明確になった。

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