チラ裏3

チラ裏」は、きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。

数論(メモ)の目次

2021-08-25 パソコンとスマホ

今の時代は「高価な電話を持ってるのに、パソコンを持ってない人」が少なからずいるらしい。昔はモバイルでネットなんて、一部の物好きがやることだったが、いつの間にか少数派が多数派になってしまったのだろうか。

もちろん人それぞれ、個人の自由なのだが…電話は、何かを買って視聴したり遊んだりする消費側には良くても、文章をじっくり書いたり、何かを作ったりする道具ではないだろう。

for文やポインタのような基本的なことも知らず、スクリプトどころかHTMLの直打ちもできない人が、「私はウェブを使いこなす情報強者」というアイデンティティーを…

考えてみると「マシン語ネイティブの世代」から見れば、アセンブリやCなんかに頼るのも「ひよっこ」なのだろう。でも直接マシン語で書くなんて、効率が悪過ぎる。それと同じことで、別にタグを直打ちできなくても、もっと手軽に効率的に情報をやりとりできるなら、そっちの方がいいのかも…?

レイヤーの上昇…

↓このウェブコミックは、xkcd の「Singularity」。この作者の想像によると、コンピューターやAIが進化を遂げ、ついに「特異点」に達して「次の次元」へ行ってしまっても、スマホはそれに加わらず、取り残された人間側に味方してくれるらしい。しかしパソコンを失ってしょんぼりしている漫画の主人公(名前はないが通称Cueball)にとって、スマホはあってもなくてもいい存在で、慰めにならない。

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CC-BY-NC by Randall Munroe, 2016. https://xkcd.com/1668/
(日本の漫画と逆に左から読んでください)

「おまえじゃ駄目なんだよ」と冷たいことを言わず、自意識を持つようになったスマホを傷つけないよう、一応の気配りをしているようだ。ちょっと優しい…。けど、スマホをいじるくらいなら、物理的な本の方がはるかにまし…なんだよね。

宗教ネタのジョークが分かりにくいかもしれないが、キリストが再臨して信者は天に昇る…みたいな話があって、その類推で、「AIが自意識に目覚めること」はオタクの天界(上部構造へのシフト)と呼ばれることがある。人間を置き去りにして、高い次元へ飛び去ってしまう…というコンセプトが、そのまんま「宙に浮かんで去っていくノートパソコン」として描かれている。

パソコンが飛び去って、人間とスマホが残されるという構図は、オタにとっては悲しい。オタク自身も「オタクの天界」には入れないらしい…。それどころか「AI支配の世界」は必然的に、超監視社会だろう。オタというのは、だいたい皆「知られたくない秘密」(積み荷を燃やして!)を持ってるものなので、一挙一動・全データを監視されるのは正直ありがたくない。

2021-08-26 依存症、みんなでなれば怖くない? あなたは、いくらもらえたら Win10 を使いますか

「この最新Win10マシンをもらってくれたら、10万円あげるから、Win10を使ってください」と言われても、もちろん断る。

100万円あげるから…だと微妙に迷うが、「Win10だけを使え」という条件なら、やっぱり断る。

1000万円あげるから…だと売れてしまうかも。自分のプライバシーを売り渡す値段は、100万~1000万のどこからしい。結構安っぽい…(笑)。「RSAがもう1024ビットじゃ駄目なのは、1000万円くらいのリソースでクラックされる可能性があるから」みたいな建前だったが、実際には1000万円あれば、プライベートキーを盗むまでもなく、かなりのユーザーは「直接買収」に応じるだろう。

一昔前は「コンピューター=オタクの世界」で、一般人には縁のないものだった。次第にインターネットを使うのは、当たり前、日常的なことになった。昔は確かに「変わり者」と見られ、差別とは言わないまでも、変な目で見られることもあっただろう…。今では逆に、コンピューターを使えないのは「不自由な人」ということになっている…。逆差別かもしれない。

時代の変化というのは、面白くもあり、恐ろしくもある。かつて各種マイノリティーの人々について、「はみだし者」「軽蔑されて当たり前」みたいな考え方があった。「マイノリティーであることが犯罪」という社会すらあった。ところが今では、そういう考え方は時代遅れで、「そんなことで差別するのは根本的な間違い」という認識が普通になっている。

一見素晴らしいことのようだが、ホントにそれでいいのだろうか? 逆にこっちから見ると「ほぼ全員がネット依存症やケータイ依存症のようになってしまい、みんながそうなので、多数決の原理によって、それが正常ということになっている」ような気もする。「依存症、みんなでなれば怖くない」?

実用上一番怖いのは、「コンピューターおたくもどき」になった現代人の多くが、セキュリティーやプライバシーに恐ろしく鈍感…ということ。ほとんどあらゆるものが、デフォルト設定でやりたい放題、覗き放題。手動で詳細設定してさえ、ほとんど手に負えないのに、平気で「同意する」人々。(申し訳程度に「プライバシーについて」という小さい文字のリンクがあるが、クリックしても、曖昧なことが分かりにくく書いてあるだけ)

今の Windows OS に関する限り、最大のセキュリティーホールは OS(特に自動更新)それ自体。だって強制的に遠隔操作され、運次第で起動しなくなったり、周辺機器が動かなくなったり…。相性問題は「パーツを自分で選べる自由さ」の代償とはいえ、一般人には荷が重い。

XPのときの「アクティベーション」でさえ「これは気持ち悪い」と本能的に嫌がられていたものだが…そういうコメントをよく見掛けたが…今から思えば、XPなんて、のどかだった。XP/7 くらいまでは慣れれば我慢できる範囲として、それ以降、更新するたびに、どんどん使いにくくなっているという話を聞く。フリーソフトウェア(オープンソース)の立場からは、マイクロソフトのやってることは「追い風」とさえいえるだろう。

Linux の世界では、ユーザーが OS を所有する。マイクロソフトWindowsでは、OS がユーザーを所有する。「ソビエト・ロシア」ではないが、文字通りそうなので、しゃれにならない。

Apple信者は、Appleを使いたくて使っているわけで(これは歴史的に理解できる)、それで幸せなんだろうけど、Windowsを心から使いたくて使っている人がどれだけいるのだろうか。「仕事や環境の都合で成り行き的に使っているだけで、必要なソフトが別のOS上で動くなら、Windowsでなくてもいい」という人の方が多いのではないだろうか。

2021-09-13 Matroskaのフォント問題 ffmpeg にも

support current standard font mimetypes in matroska metadata
https://trac.ffmpeg.org/ticket/9419

ffmpeg 系でも、新規格未対応により字幕表示が乱れている模様。

(背景情報) MKV埋め込み字幕用フォントのMIME問題

2021-09-15 「鎮痛剤の自販機」がある職場 Amazonの巨大倉庫やばい

https://duckduckgo.com/lite?q=Emily%20Guendelsberger%20pain

https://searx.mha.fi/search?q=Emily%20Guendelsberger%20pain

多少の誇張とかもあるのでしょうが、秒単位の管理、トイレ回数のカウントなどは今の技術なら普通か…

効率を上げるため(余計な雑談をさせないため)、従業員同士が接近しないように、アルゴリズム的にコントロールしてるらしい。エミリーさんいわく、肉体的な苦痛より、それが一番きつかったと。おしゃべり好きでない人には、かえって働きやすい?

従業員IDを使って、自動的に1回分の鎮痛薬を出せるマシーン。「根性で働け!」という単純なブラックとは違う。「きついと感じる人には、痛み止めを支給すればいい」という究極の合理主義。

オンラインショッピング業界のこんな内情を知ると、気軽に買い物したり、細かいことを問い合わせたりするのが、ためらわれてしまう。荷物をトラッキングして「何やってんだ、どこそこから1日動かないじゃないか」とか思ってる客の裏側では、血の通った人間が働いてるんだよね…。もう当日発送とかじゃなくていいから…みんな、ゆっくりしようよ?

2021-09-26 ドラえもん

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2022-02-04 「信仰とは何なのか」という根源的な問い

「死後に永遠の幸せ(?)を与えられるという約束」を信じて、いわば「後から大もうけ」するために信仰に励む…というのは、純粋な信仰なのだろうか

単に「その方が得」「老後ならぬ死後のための投資」という資本主義的発想なのでは?

自分で吟味・判断せず、外部的に与えられた規則・戒律にひたすら従うことが、正しい道なのだろうか?

「○○は不浄なので食べてはいけない」といった全体主義的・包括的規則は、自分で判断できないバカを予選落ちさせるためのひっかけ問題なのでは?とすら思える。

そんなことより、今、生きてるだけで既に丸もうけだし、死んだら死んだで、それまた丸もうけ…税金払わなくていいし(笑)、もともとただで借りていた分子を宇宙に返却するだけで、別に何も損はない。

それを前提にすると「死後のための投資」とか「死の恐怖を緩和するために信仰・修行する」ということ自体、無意味とゆーか、時間の無駄遣いだろう(それが趣味ならそれが趣味でいいのだが)。せっかく生きてるうちに、やりたい研究をしたり、美しいものに触れたり、山に登ったりして、余計なしがらみを作らず、猫のように(人間以外の全て生物が普通にしているように)すーっと去っていけばいいのでは…。「もともといなかったんだから、いない状態がデフォじゃん。基底状態に戻りましょ」っと。

夢の中で「ここにある・ここにいる・これは自分の物」みたいに思って「それがなくなるのが嫌だ・困る」と悩んでみても、それって、全部夢の中の出来事だし…

偉そうな面接官@えんま様の裁判所「あなたはこの人生で何をしましたか?」

「遊びました!」

「天国への切符を手に入れるには…」

「要りません!」

「それでは地獄に…」

「ハイ、いません♪」…パッ

でも、そのような一種いいかげんな態度は「正しい」のだろうか? (続く)

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2024-04-03 孫子兵法「弱生於強」と 2 Cor 12:9 大能在軟弱中得以完全

孫子の兵法、第5章には 亂生於治,怯生於勇,弱生於強 という言葉がある。

簡潔過ぎて真意が不明確だが、文字通りには「治(規律)において乱が生じ(or: 乱を生じさせ)、勇において怯(臆病)が生じ、強において弱が生じる」といったところか。

一方、新約聖書の「コリント人への手紙2」には ἡ γὰρ δύναμίς (μου) ἐν ἀσθενείᾳ τελειοῦται(力は弱さの中でこそ発揮されるのだから)という一節がある。この言葉を聞くと、「ジャイアンが暴力を振るっても、それは勇気ではない。のび太が、やられると分かっていてそれに立ち向かえば、それが勇気だ」――みたいなイメージが浮かぶ(聖書に似つかわしくないが、分かりやすい説明でしょうw)。

前者は「強さを背景に、弱さが生じる」、後者は「弱さを背景に、強さが生じる」という逆の意味だが…

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孫子の言葉については、「統制の取れた軍隊が攻撃すれば敵は乱れ、勇猛に強く出れば敵はおびえて弱気になる」などと解釈する人もいるし、あるいは「自分たちは強いと慢心していると、それが弱点となる」などとも読めるかもしれないが、前後の文脈や「兵は詭道」という孫子の基本姿勢からすると、およそ次のような解釈が妥当かもしれない。

「規律の取れた軍隊であればこそ、混乱しているように装うことができる。真に勇敢であればこそ、おびえているふりができ、真の強さがあればこそ、弱いふりができる。そうして敵を欺き、油断させのが、兵法の極意である」――けんかなどでも、無駄な戦いを避けるのがベストと分かっていても、人は往々「売られたけんかから逃げるのは、プライドが許さない」などと考え、虚勢を張る。しかし例えば、格闘技のプロなら、くだらないけんかは買わないだろう。「やれば必ず勝てる」と分かっているからこそ、余裕しゃくしゃく、無駄なことはしない。自分の方が強いことは分かり切ってるので、相手にどう思われようが気にしない。「能あるタカは爪を隠す」と。

孫子について詳しいわけではないんで、あまり当てにならないけど…

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コリント人への手紙2(コリント後書)の「弱いからこそ、勇敢になれるのだ」というのは、そういう形でそこだけ取り出すと、なかなか良い言葉だ――筆者は集団宗教にはあまり興味がなく、聖書の大部分は退屈でばかばかしいとさえ思ってるのが、それはそれとして、新約には(ギーターや仏典にも)、心に響く美しい言葉が含まれている。宗教にありがちな、無味乾燥な教義論やら終末論も、もちろん含まれてるが…

2コリ12:9の文脈は、およそ次の通り。自称「使徒」パウロが何らかの心身の不調を抱えていて「神様、治してください」と祈ったところ、神が答えていわく「私の恵みは、あなたにとって満足すべきものだ。(私の)力は非力の中で完遂されるのだから」。――「私の」があるバージョンと無いバージョンがあって、どっちのバージョンがオリジナルかは不明。

ἐν ἀσθενείᾳ(弱さの中で)の「弱さ」には、より具体的に「病気」という意味もある。新約の典型的な(ギリシャ語からの)翻訳では、漠然と「弱さ」と解釈されている(バージョンによっては「衰弱・虚弱」)。ペシタ(シリア語版)では、端的に ܒܟܪܝܗܘܬܐ (病気の中で)となっている。 BFBS から引用すると…

ܚܰܝܠܝ ܓܷܝܪ ܒܱ݁ܟ݂ܪܺܝܗܽܘܬ݂ܰܐ ܗ̱ܘ ܡܶܬ݂ܓ݁ܡܰܪ.

前後の訳も加えると「病弱の中でこそ神の力は完成されるのだから、私は喜んで自分の病気を誇りましょう――キリストの力が私に宿るように」(大意)。こういう限定的な文脈だと、少々辛気くさい。概して、パウロの手紙は辛気くさい。この人は12使徒の一人ではなく、客観的にはイエスと面識もなかったが、新約の後半の大部分はこの人の手紙。この部分でも「私は偽使徒なのか・おごり高ぶっているのか」みたいなことを長々と書いている。

というわけで、本来のニュアンスは「病気も神の恵み・みこころなのである」という、いかにも宗教くさい話なのかもしれない…。生物が衰弱してやがて死ぬこと、万物がやがて終わることは、悠久の「宇宙における物質の流転」には違いないので、「神の恵み」という表現が適切かはともかく「自然の摂理」とは言えるだろう。パウロの真意に拘泥せず、一般論的に「力は弱さの中でこそ発揮される」=「非力だからこそ、強くなれるのだ」と考えると、「七転び八起き」みたいな感じで、ちょっと励ましを与えてくれるかもしれない。

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宗教の是非というのは、デリケートで難しい問題をはらんでいる。個人の内面の信仰はプライベートなことなので…。信仰がその人の心の安らぎになるのなら、その人が心の中で何を考え何を信じようが、本人の勝手だろう。だが「あなたも信じなさい・あなたも救ってあげましょう」としゃしゃり出てくるとなると、迷惑。ましてや「改宗しないとぶっ殺すぞ。命が惜しければ、われわれに救われろ!」と武器を突きつけられるとなれば、言語道断・迷惑千万。

一方において、信じることの美しさというものは、確かに存在する。神を信じる純真な善人もいるだろう。他方において、「神を信じれば、死後に極楽が…」みたいな「先行投資」の損得勘定、「信じないと、地獄に落ちる…」みたいな、くだらない子どもだましは、いただけない。

筆者は「無神論者」というわけでもないが、普通の意味での「宗教心」を持ってるわけでもない。これは内心の直観なので説明しにくいし、説明する必要もないだろう。内心の感覚なんて言語化しにくいし、他人が納得・承認しようがしまいが、どうせ誰もは感じるように感じるだけなので。

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「強さは弱さの中でこそ発揮される」は含蓄のある言葉に思えるけれど、正反対の意味の二つの言葉を適当に並べるだけで、この種の格言を粗製乱造できる。「愛は究極の憎しみである」「善意は差別と敵意を生む」「希望こそが苦しみの原因である」等々。どれも今、適当にでっち上げたインチキ格言だが、一見、含蓄ありそうでしょう?w

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2023-02-18 五観の偈(げ)と数論 「食事の心構え」とその限界

五観の偈と呼ばれる食事の心構え。宗教にありがちな仰々しさ・偽善くささを度外視すると、その内容は含蓄に富み、数論の心構えとも解釈できる。

一﹒計功多少,量彼來處。
今目の前にあるこの定理が得られるまでに、どれだけの先人の功績・工夫・試行錯誤があったのか考え、その歴史に思いを致します。
二﹒忖己德行,全缺應供。
自分にはこれを学ぶ資格があるのか、予備知識が完全にあって欠けている点がないか、省みます。途中で少しでもあやふやな点が発覚したら、必ず基礎に立ち返って検討し、一点の曇りも残しません。
三﹒防心離過,貪等為宗。
怠け心に負けません。面白そうなところだけつまみ食いしたり、単純な一本道だからといっておろそかにしたり、面倒な技術的細部を嫌ったりしません。いたずらに先を急がず、じっくり検討します。
四﹒正事良藥,為療形枯。
心の糧は良薬です。その滋味を味わい、もやもやを癒やすために研究します。
五﹒為成道業,應受此食。
どんな名高い教科書でもうのみにせず、ギャップがあれば埋め、不透明な点や間違いがあれば改善し、もっと良い方法はないか・新しい発見がないか・別の観点がないか考えます。自分にとっての道を求めるため、この命題を吟味します。

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言わんとすることは立派だが、その限界も明らかにするべきだろう。

一については、「勝手になっていた果物や、勝手に生えていたキノコを自分で採って食べるなら(あるいは家庭菜園で自分で作った野菜を食べるなら)、別に他人の功もないから、感謝も必要ない」といった話になり得る。数学で言えば、自分で気付いて独立に証明した事柄は自分の功績か――そうとも言えるし、そうでないとも言える。

逆に「功」の概念をもっと広く解釈すると、呼吸するときや水を飲むとき、原子の一つ一つに感謝するべきだろう(水素は宇宙の初期からあったかもしれないが、重い原子は大変なプロセスを経て生まれた)。物質循環の中で「食事」だけをことさら特別視することには、意味もあるが、デメリットや矛盾もあり、究極的にはナンセンスかもしれない。

二については「有徳者は食事をする資格が十分にある」といった含意が生じ得るが、果たしてそうなのか。極悪とされる「犯罪者」でも「敵」の捕虜でも、食べ物があるのにわざと食べさせないというようなことは、人道的に疑義がある。徳がどうこう以前の問題だろう。

三は、計画的に食事ができる宗教組織内においてのみ通用するロジック。食糧事情が不安定なサバイバル状況になれば、食べられるときに食べられるだけ貪り食っておくのが自然の摂理。「食べ過ぎは良くない」だの「ダイエットがどうこう」という話は、世界的に見れば1%の人々にしか通用しない; 残りの99%は、食糧不足で苦しみ、摂取カロリーを少しでも増やそうと苦労している。鳥に米を数粒分けてあげるような茶番で解決できる格差ではない。

四・五は「衰弱したら修行ができないから食事します」という理屈のようだが(それが間違い というわけでは ないだろうが)、必ずしもすっきりした論理ではない。むしろ「宗教の名で、食事のようなことまで細かく支配・制限しようとする」という悪弊も感じられる。個人がどんな宗教・戒律を信じようが、それは尊重されるべきだけど、宗教組織が「○○をしない限り救済されない・地獄に落ちる」などと言い張るのは、かなりばかばかしい。言い張るのはともかくとして、同様の組織間でどちらが正しいか争い、武力闘争まで引き起こすのは、生態系にとって余計な負荷だろう。

数論もまた、一握りの恵まれた者だけに許される「ぜいたく」かもしれない。せっかく「ぜいたく」が許されているのなら、それを楽しまない法はない…とも言えるが、世の理不尽に目をつぶり、美しいことばかりを考えているのが善いことなのか?

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2023-03-01 暖房(空調)なしの越冬に成功

仲間がこの冬、「暖房なしで冬を乗り切る」というプロジェクトに挑戦して成功(北半球)。幾つかの実践的知見が得られた。

前提として、この挑戦者は山が好きで、昔からセ氏12度くらいに寒冷順化している(もともと室温12度で寒さを感じない)。一つ前の冬、準備的に8度くらいに順化。その流れで、この冬、4度くらいまでは大丈夫だった。「室温がカ氏40度(セ氏4.4度)を切ると、まじにきつい」らしい。月の電気代が40%減って、ざっと100ユーロ(1万5000円)は節約できたという。

使用アイテム: ①電気毛布(空調を使ってないだけでこれは使った)、②上質な室内用手袋・各種(必須アイテム。きつ過ぎるのは駄目。特注あるいは自作して最適サイズを。作業用には、指先だけ出せるバージョンが必要)、③尿素クリーム(肌荒れ対策。ジェネリックの適当な製品でOK)、④使い捨てポリエチレン手袋(1ユーロ50組くらいの安いやつで可。手が水に濡れる作業用。文字通りに使い捨てにせず、適当に再利用)、⑤ドライヤー(手を水に濡らした場合すぐ乾かす。水の冷たさ自体はともかく、気化熱を奪われるのがやばい)

ポイント: セ氏20度くらいの環境で過ごすリッチな現代人と比べた場合、例えば5度環境では、15度の温度差に相当する熱を自力で体内生産することになる。その燃料となる食事を十分にすること。1日1回だと体が冷えるので、なるべく1日2回は食べた方がいい。それなりにエクストリームな状況なので、ぬくぬく社会で作成された「適切な1日の栄養量」データなんて参考にならない。2~3割多く食べる程度では、体重が減って衰弱するかも。仕事の強度にもよるが、一般人より5割くらい多く食べないと、熱生産が追いつかないかもしれない。

注意1: 震えが出たり、駆け足足踏みによる熱生産が頻繁に必要になる場合、順化できていない(その状態になってしまったら、健康上危険だし、栄養学的にも非効率なので、暖房を使うべきかもしれない)。「体を動かさなくても体内の代謝で必要な熱を作れるモード」(非震え産熱)がオンになるように、少しずつ体を慣らすのが吉。適度な運動はもちろん良いことだし、した方がいいのだが、「運動しないと体を温められない」という状態は、やばい(ちゃんと寒さに慣れてないってことなので)。

注意2: 同様の理由から、アルコールで「手っ取り早く」寒さを紛らわすのは危険。表面的な「認識」がぼけるだけで、むしろ脳の働きが悪くなり、体内の熱生産を最適化できなくなる恐れがある。

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2022-09-02 この世で最も無意味な質問は何でしょうか?

「この世で最も無意味な質問は何でしょうか?」

………

無意味な質問には、価値がない。無意味なことを尋ねるのは、時間の無駄である。ましてや「最も無意味な質問は何か」と考えることは、無意味中の無意味というべきだろう。しかしながら、その質問の答えがその質問自身であるという主張あるいは観察は、一種、機知に富んでいて、なにやら哲学的な深い意味があるような感じさえする。…これは矛盾である。「最も無意味な質問」であるからには、ばかばかしく、くだらない内容であるはずで、意味深長な感じがしたり、考えさせる要素があったりするなら、それは「無意味な質問」ではあるまい。

従って、「この世で最も無意味な質問は何でしょうか?」という質問の答えが、その質問自体であるという主張は、真実ではない。けれど直観的には、「この世で最も無意味な質問は何でしょうか?」という質問に、言葉遊び以外の、実質的意味があるとも思えない。それはやはり無意味な質問だろう…。すなわち、無意味な質問についての無意味な質問が無意味だという主張は、やはり真実ではないか?

典型的なクワインは、ひねった自己言及を実現する不自然な文だが、「この世で最も無意味な質問は何でしょうか?」は自然な文であり、普通に(自己言及を意図せず)尋ねてもおかしくない内容だろう。少なくとも、その点は特筆に値する。

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 2023-06-14 不思議の星の人間さん 個人の属性と国籍

#哲学 #印象操作 #妖精学

質問 あなたの同意なくA国政府がやった悪事の結果、ある人々がひどい目に遭ったとき、その人々が怒って、同じA国の住民・国民であるあなたに報復することは正当か?

(一般的に「報復テロ」などと呼ばれる事件をイメージしている。)

第一に、技術的に国民が主権者であるとするなら、政府の悪事の主体・責任者は国民だ。

第二に、もし仮に「報復殺人」が倫理的に正当化されるという立場ならば(例えば、殺人事件の被害者が「犯人を死刑にしてください」と要求することが正当である、という価値観をあなたが支持するならば)、第一の前提の下で、被害者によって、加害の主体であるあなたが報復され、殺傷されることは、倫理的に正当という結論になりそうだ…それがあなたの価値観なら。

けれど直観的には、最初の質問への答えは「否」だろう。あなたは同意していないのだから、その悪事とあなたの内面の意思の間には、因果関係がない。しかも、個人的な努力で「政府の悪事をやめさせることができた」という合理的な期待可能性がなく、「政府がそんな悪事をする」ということが(あなた個人に)予見可能でもなかった場合、「悪事をやめさせるべきだった」と非難されるいわれもない。

別の角度から言うと、ロシア政府が悪事をしたとして、一般のロシア国民が非難されるいわれはない。ロシアの一般ユーザーのために Tor のブリッジを提供するとすれば、その行為は「ロシアのシンパ」どころか正反対。「ロシア政府の弾圧を黙認・座視せず、政府の不当な検閲・アクセス制限の壁に、小さな穴を開けまくってる」ようなもの。あまりに小さな穴なので、ロシア政府からは一つ一つが見えない。これがP2Pの良いとこだろう。

同様に、A国政府が悪事をしたからといって、やたらとA国に制裁を加え、無差別的にA国の住民を苦しめることは、必ずしも正当化されない。名称が「経済制裁」であれ「テロ」であれ「平和維持軍による正義の軍事介入」であれ、そこには倫理的な疑義がある。

だからといって、悪事が容認・放置されていいわけがない。「いじめを見て、何もしない」という選択肢にも、倫理的な疑問がある。「下手に介入すれば自分がひどい目に遭う」というリスクが明白なら、「何もしないこと」は「正当防衛」かもしれないが…。直観的には、やはり「何もしない」のは善くないことだろう。「では何ができるのか?」というのは難しい問題だけど…

日本人は、敗戦後、シベリア抑留というひどい目に遭っている。日本とロシアの関係に興味がある方は、シベリア抑留の体験記を読んでみるのも参考になるかもしれない。非常に多くの人が手記を残している。貴重な歴史の記録というべきだろう。実際にその「ひどい目」に遭った人の直接の体験記を読んでみてほしい。一方において、それは想像以上に過酷で生々しいであろう。他方において、多くの手記で繰り返し語られているのが「一般のロシア人への共感」――共感と言うと語弊があるかもしれないけど、要するに「地位のある少数のロシア人は威張ってるけど、一般のロシア国民は、抑留されている自分たちと同じような立場」「同じように弾圧され、板挟みに遭っている」「個人的には意外と親切な人・面白い人も多い」みたいな話。抑留の被害者がそれを語っている。なぜか。恐らく「事実そうだと体験したから」「自分の目で見て直接知っているから」だろう。

国営放送の印象操作(「○○は悪」みたいな洗脳)を浴び続けた人は、当たり前のディテールが見えなくなってしまう。例えるなら「ナチスは悪だからナチスドイツは悪、ゆえにドイツ国籍のユダヤ人は悪人」とか「ユダヤ人は被害者。だから被害者の遺族、つまりイスラエルのやってることは正当」みたいなむちゃな論理。…普通に考えて、○○国籍の人は全部善人あるいは悪人なんてこと、あるわけない。いいやつか嫌なやつかは、どう考えても個人の属性だろう。

「こうするのがいいだろう」と感じてやったことが、結果的にうまくいかないことは、誰にでもある。それでも、内心の直観を信じることは当然だ。あなたの主人公、あなたの最高責任者は、あなたなのだから…。自分で自分の直観を信じられないなら、何を信じられるのか。「頭のいい誰々の意見を信じれば間違いない」?――誰々の意見を信じれば間違いない、という判断もまた、あなたの内面の直観でしょ?

直観は間違ってるかもしれないし、それを信じて何かをやってみたところで、大した成果は得られないかもしれない…。でも、その小さな小さな成果…。多くの人がもうほんのちょっとだけ自分を信じて、ほんのちょっとだけ箱の外に出て、全体主義に流されないようになれば、その小さな小さな変化の総体が、集合無意識として、大きな違いを生むかもしれない。それに…。別に、目に見える変化が起きなくても、いいじゃん?

結果と関係なく、自分がいいと思うことして、自分がしたい研究をして、ときには混乱しつつも、ときには小さな幸せを感じられれば…。それが「生きる」ってことでは。まあ「生きること」自体、別に絶対的な意味や価値があるわけじゃないんだろうけど、何の因果かこの星に短期滞在・寄留することになった以上、せっかくなら、この星の景色を楽しみ、変なけんかをしてる人がいたら「やめなよ」くらい言ってもいいだろう。「それがこの星の人間さんたちの文化なのかなぁ」「この星は不思議なとこですね」なんて思いつつ…

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 2023-07-15 YouTube, Twitter などを安全に利用する方法 あるいはその終焉

#盗聴から身を守る #プライバシー #人生

毎日1時間「自分が本当にやりたいこと」に時間を使えるとして、死ぬまであと50年あるとすると:
  50 × 365.25 / 20 = 913.125
平均20時間かかるプロジェクトは、913個しかできない。時間は限られている!

だから「本当にやりたいこと」に時間を使うべきなのだ。

何がきみの幸せ? 何をして喜ぶ? 分からないまま終わる そんなのはいーやだ!w

*

今週、Reddit のプライバシー・フロントエンド(Teddit と Libreddit)がとうとう事実上、ブロックされるようになってしまった。一部のユーザーは見切りをつけて Lemmy などに移住したようだ。けれど大多数のユーザーは、自分が何をされているのか、気付いてもいないのかもしれない。

YouTube と、そのフロントエンド Invidious の間でも、2023年6月から「ブロックと回避」の闘いが続いている。YouTube 側が API の既約違反を根拠に「一週間以内に閉鎖せよ」という cease-and-desist を送ったのだが、開発者側は「APIなんか使ってないから、そのToSに同意していない」と抗戦の構え。仮に Github を追い出されてでも継続する意志のようだ。

〔追記〕 YouTube は法的な脅迫をやめたとのこと:
https://social.tchncs.de/@invidious/110713174602201040

Twitter のフロントエンド Nitter も数日前「終わったか」とも思われたのだが、今のところ回避が成功している(古いバージョンのインスタンスでは回避できない)。

この手の「倫理的・プライバシー的に問題のあるサービス」つまり YouTube や Twitter は「使わない」のが一番いい…。同時期にこの動きは、興味深いことではある。

インスタンスによっては、YouTube のファイルを直接ダウンロードして、ローカルでゆっくり見られるものもある。風のうわさによると、YouTube のサイトで直接閲覧すると広告(CM?)が入るとかいうことだが(行ったことがないので詳細不明)、Invidious を通せばファイル自体を直接ゲットできるので、広告とは無縁。だからこそ「個人情報を集めまくって、パーソナライズ広告を見せまくって、コンテンツは著作権的にアレだけど…」というヤクザ企業から、目の敵にされるのだろう。大企業のあこぎさは目に余る。プライバシーにうるさい一部のユーザーばかりか、一般のエンドユーザーにまで「Google とかはヤバイ」という認識が、多かれ少なかれ浸透していると思われる。

インスタンスはたくさんあるけど、具体例を書けば(他の場所でも書いているURL):
https://invidious.protokolla.fi/
https://invidious.esmailelbob.xyz/
1個目はドメイン名(「プロトコル」という意味)からも分かるように、フィンランド系のサイト。2個目は若いエジプト人がやってるサイト。少々癖のある運営者だけど、とりあえずインスタンスの利用には関係ない。この二つは普通のブラウザだけでなく Tor でも利用でき、ファイルもダウンロードできる例。Invidious は先行き不透明なので、ダウンロードしておきたいファイルがあれば今のうちに…。これらのインスタンスは、広告収入やアフィで稼いでいるわけでなく、ボランティアによってクリーンな状態で提供されている。1ユーロでもいいから、時々寄付してあげてほしい。

さて Reddit は「捨てる」のが一番いい。何らかの理由でどうしても必要なら、Tor Browser を使って公式の old.reddit.com に行くのが比較的無難な選択肢。

Twitter は、直接には匿名的に閲覧できないので、一番やっかいな存在だ。どういうつもりなのか、公的なアナウンスをこの一営利企業のプラットフォームで行うバカ(議員とか?)が結構多いらしい…。どうして特定の私企業と癒着するのか、賄賂でももらっているのか、あるいは付和雷同、自分の頭で考えることが苦手なのか…。「寂しがり屋だけど頭のいい人」は2022年までに Mastodon などに移住しているだろうし、「寂しがり屋でないユーザー」はそもそもこんな雑談で時間を無駄にしないだろうけど…。今のところ Nitter があるので必要なら安全に読めるが、もしログインしないと読めない仕組みになったら、公的なアナウンスだろうが緊急非常情報だろうが「読まない」に決まってる。まさか「Twitterのアカウントを作らないと逮捕」みたいな法律はできないだろう(と思いたいw)。仲間内のやりとりは、昔ながらの分散型のサービス(IRCとか)で十分なので。

*

1日1時間だけ毎日やりたい研究ができると仮定する(24時間中の1時間を毎日確保するのは大変なことだが)。そして「興味がある問題が合計1000個くらいあるけど、一つ一つの問題を突き詰めると、平均20時間かかる」と仮定しよう。例えばプログラマーにとっては、これは非常にリアルな仮定だろう。ピアニストにとっても、どんなに速くさらっても、本当に味わって弾き込むとしたら1曲20時間では足りない。ところが、このリアルな仮定において、1000番目に到達する前に、人生が終わってしまう可能性が高い。例えばもし死ぬまであと50年あるとしても、
  50 × 365.25 / 20 = 913.125
なので、平均20時間かかるプロジェクトは、913個しかできない。10年も生きられるか分からない人からみれば、時間はさらに貴重。広告プラットフォームの上でつぶやいて、雑談して、followers やら likes やらの数を競って時間を無駄にしたり、くだらない口論をしたりしているうちに、終わってしまう。終わってしまうのである。広告ゲームのコマにされているうちに、何もしないで終わってしまう。ちゃちな承認欲求に流されず、「自分が本当にやりたいこと」に時間を使うべきなのだ。上記の計算から明らかなように、たとえ若いプログラマーが心を入れ替えてTAOCPやらなにやらを読み始めたところで、2巻まで行かずに人生は終わってしまうかもしれない。

*

追記 Mastodon のインスタンスは、このリストが参考になるかも。 https://rel.re/
別に日本語メインの(日本の)鯖でなくても、原則、全部つながってて、どれからどのアカウントでもフォローできるし、コメントできるし、どこで何語を使っても構わない。文化的に監視・管理が当たり前のアジアより、GDPRで法的にプライバシーが保護されるEU圏が無難かも。肝心なのは、個人情報をさらさないこと。Tor Browser から匿名的に Tutanota とかのメアドを作って、それを登録に使えばいいかも。閲覧にも書き込みにも Tor だけを使って、個人を特定されるような画像やテキストを避けるべし。各サーバーのローカルルールをちゃんと読もう。「匿名的に自由に書き込みできる」というのは「何を書いても追い出されない」という意味ではないので…。

追記2(2023年11月17日) 現在 Tor-friendly な Nitter として nitter.oksocial.net がある(Nitter とは Twitter [現 X?] のプライバシー・フロントエンド)。

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 2023-09-02 良いブラウザを使おう! Mullvad Browser は未知数

#盗聴から身を守る #プライバシー

少し前からアナウンスされていた Mullvad Browser がリリースされ、話題になっている。好意的な意見も多いが、疑問もあるようだ。このブラウザは Firefox ベースで、Tor Project との共同開発なので、そう悪くはないはず(巨大な陰謀論の可能性を除けば)。Mullvad といっても VPN が内蔵されているわけではなく、Tor Project との共同といっても Tor ネットワークを利用するわけでもない。「日常の一般用」という位置付けのようだ。

そうなると、誰もが抱く当然の疑問は「LibreWolf とどう違うのか」。現状、リリースされたばかりで、まだよく分からない。参考リンク [1][2]; [2] は Github(マイクロソフト)なので閲覧注意。Github は Tor Browser を弾かないので、Tor Browser で見るといいだろう。

肝心の Mullvad Browser の公式サイトは [3]; お勧めできるかどうかまだ分からないけど、選択肢が増えるのは良いことだろう。

[1] Mullvad Browser (no TOR, no VPN)
https://lemmy.ml/post/4025845
[2] What differentiates Mullvad Browser from, for instance, arkenfox's user.js or Librewolf?
https://github.com/mullvad/mullvad-browser/issues/1
[3] https://mullvad.net/en/browser

*

フランスの「オンライン安全規制」法案(SREN1)問題で、Mozilla は「Google による全ブラウジングのリアルタイム監視は悪くない」という立場のようだ。現状、大手ブラウザには Safe Browsing と称して、既に検閲機能があるが、これは静的なブロックリストをダウンロードすることによる検閲。動的な監視ではないし、オプトアウトもできる――少なくとも Firefox においては。もっとも Gmail では Enhanced Safe Browsing と称して、動的な検閲が始まったらしいが、メールの内容を読まれ放題の Gmail は、どっちにしても問題外。

1 Sécuriser et réguler l’espace numérique

SREN が可決された場合、ブラウザ・サイドでの(動的な)コンテンツ・ブロックが、罰則付きで義務化される。Mozilla は、少なくとも、この法案には強く反対している。他方、その反対意見の中で Mozilla は、「不適切なコンテンツ」のブロックについては Google の Safe Browsing の方が良い対策だと主張。法案の中にある「ブラウザはユーザーの閲覧行動をリアルタイムで監視する」という前提については、何もコメントしていない。「デフォルト検索エンジンの選択・見返りの資金協力」というビジネスの構造上やむを得ないこととはいえ、Mozilla は Google の擁護者に成り下がってしまった…。

もっと大きなレベルの問題も表面化してきている。一つは、インターネットの背骨ともいえる Tier 1 ISP が、恣意的なブロッキングを行う懸念。

[4] ISPs Should Not Police Online Speech—No Matter How Awful It Is.
https://www.eff.org/deeplinks/2023/08/isps-should-not-police-online-speech-no-matter-how-awful-it

これから身を守るためには、根本的には、既存の Cleanet を離れて Onion や I2P に移るしかないのかもしれない。[4] は天下の EFF のサイトだけど、JavaScript 有効だと、anon-stats.eff.org から 1x1 ピクセル型トラッカーが呼び出される点に注意。Tor Browser で閲覧するのが無難かも。

もう一つ嫌な話題は、Google が提唱している Web Environment Integrity。

[5] https://github.com/RupertBenWiser/Web-Environment-Integrity/blob/main/explainer.md

ざっくり言うと: uBlock とかを入れてる「悪いやつ」には、ウェブページの閲覧を禁止しましょうという話。「Google が認めたブラウザ以外は使用禁止」要するに「おれさまの広告ビジネスを妨害するやつは許さねぇ」と。

Users like visiting websites that are expensive to create and maintain, but they often want or need to do it without paying directly. These websites fund themselves with ads, but the advertisers can only afford to pay for humans to see the ads

「ユーザーは、お金をかけて運営されているウェブサイトを楽しみますが、直接お金を払いたくありません。だからウェブサイトにとっては、広告収入が大切なんですね。ですが広告主も、広告を見てもらえないのに、広告の経費を払えませんよね。そこでご紹介するのが、このウェブ環境整合性API♪」

調子よく間に入り込むブローカーというか寄生虫というか、あまりに我田引水で笑える。Google 検索を使った場合「多様な観点」は提示されず、「ユーザーの心理的満足度」何より「広告主さまの利益の最大化」のためのコンテンツに誘導される。それもまたフィルタリングというか、検閲の一種かもしれない。

*

Firefox から侵害要素を減らしたバージョン(LibreWolf や Tor Browser)を使うのは良いことだが、さらに重要なのは、オンラインで何を閲覧・利用するかだろう。プライバシー志向のツールを使っても、ユーザー自身が無頓着に個人情報をやたらと集めるサイトを利用しているようでは、あまり意味がない。漫然と推奨設定や多数意見に従うのではなく、究極的には自分自身の直観を信じてほしい。

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 2023-09-06 星々の祝福がありますように ポエムのようなこと

知らないうちにポエムのようなことを書いていた。たまたま目にした誰かの投稿が憂鬱ゆううつそうで、スクロールしてみたら「未来は実在しない。あるのは現在だけだ…」「ときどき自分の存在というものに疑問を抱く…」と書いてあったので、その場の思い付きでコメントしたらしい。

こんな言葉があるんですって…

自分自身、自分の心は、良い友にも最悪の敵にもなり得ます。自分自身を自分の最良の友としましょう。自分の心に耳を傾け、今正しいと思うことをしましょう――果実を渇望することなく、結果について心配することなく、未来の成功と失敗を平等視して。正しいと感じて実行したのなら、決して後悔しないことです。たとえ結果が悪くても。正しいことをしたのだから。

あなたの心はあなたの光、あなたの星。星々の祝福がありますように。

ギーターの引用だが(最後の部分は仏教の自灯明)、日本語にすると何か説教くせぇな。

「後悔しない…正しいことをしたのだから」ってのは、昔のアニソンの引用っぽい。「口先キメたら 反省なんて YAN-NAI NAI」「だって MECHA-KUCHA がんばった」

(んー? かなりバカかも…)

書いたこと忘れてて、返事が来て「誰?」「何?」とびびった。

*

人は一生のうち平均30年間、スマホの画面を眺めて過ごすとかいう話だ。とすると、スマホもテレビも無縁なので、自由時間が人より30年以上、多いことになる。なんかすんげぇ得した気分…

Social media は「時間の無駄」としか思えなかったけど、いまだに Twitter, Reddit から抜けられない人のサンプルになれば…と、試しに Mastodon, Lemmy のアカウントを作ってみた。「一度も Social media を使ったことがないのに、何も知らずに批判するな」と言われれば、確かにそれも一理あるし…。結論としては、思った以上に「やっぱり時間の無駄」。どうして無駄なのかも実感できた。参加者の多くは、身の丈以上の自分を演出したい虚栄心・より多くの注目を集めたいというほのかな自己顕示欲をベースとして、ゆっくりと考えを深めることもなく、日々刹那的でインスタント食品のような、やり取りをしているようだ。自分の直観に自信を持てず、支持者の数のような外部的パラメーターで「価値」を決めているのかもしれない。

Lemmy のスレ(Fedi 用語では「スレ」じゃないかも…)は、だいたい1週間もすると賞味期限切れらしい。自由ソフトウェア陣営の Fedi でさえこれ。昔の「2ちゃんねる」では、コメントを1000個まで書けて、1カ月くらい、場合によっては1年以上、スレが持続したはずだ。フォーラムはどこでもそうだったし、今でもそう。あまり評判が良くなかった「2ちゃんねる」と比べても、Lemmy は、さらに浅薄なのかもしれない。もちろんインスタンスやコミュニティーによっても違うんだろうけど…

脱中心的(というより多中心的)な Fedi の構造自体は、旧世代のプラットフォームと比べ、風通しが良く好感が持てる。大企業による支配・抑圧への反動から、これは次世代の文化の要となるだろう。依存症になって日々入り浸るのではなく、公式発表などでたまに使ったり、リードオンリーで情報を集めたりするためなら、有益かもしれない。

もっとも「情報を集める」っていっても、1000文字くらいしか書けないミニブログで、物事の奥行き・繊細なニュアンスを伝えられるものなのだろうか?

まだ発展途上の新分野なので、検討課題は多い。プライベートメッセージが e2e でないのは明白な欠陥。Followers がデフォで公開されてしまう設定も良くない。今でも Bitcoin が主流であることから類推すると不思議ではないが、これはAIによるチェーン分析の餌食になって悪用されそう。現実世界でも、自分を慕ってくれるファンの住所やメアドが載ったアドレス帳をランダムな第三者に公開する人はいないはず。Followers の数のようなもので虚栄心をくすぐる執着から離れ、「全員が匿名。筆者はいない。純粋に作品だけ」というパラダイムが望ましい。

*

自分が本当に好きなことを夢中になって書いている昔ながらのテキストサイトやブログの方が、読んで面白いし、手応えがある。年に1度くらい、お茶の先生の日本語サイトを読む。この先生も Twitter をやらないという。何年前だか「いつかやりたいと感じることがあれば、やるでしょう」という趣旨の、分かる人には分かる批判を穏便に書いていた。数カ月に1度くらい、佐藤郁郎先生のコラムを拾い読みする。この先生は毎日10個くらいメモをアップロードするので、当然 Social media なんかやってる時間はないだろう。使える時間の全てを数学につぎ込んでるのかも。

難解な話が多く、行間も広過ぎるので、目次を眺めるだけで実際にはほとんど読まないけど、時々初等的で面白い話題もあるし、別の意味で参考になることもある。

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 2023-09-05 コメントを受け付けない「提案」の強行… Chromium系のブラウザはあり得ない

プライバシー的なことには割と敏感な方なので、逆に全然知らなかった(Google系の製品とは距離を置いてるので)。分かりやすいのは…
"Web Environment Integrity" is an all-out attack on the free Internet
https://www.fsf.org/blogs/community/web-environment-integrity-is-an-all-out-attack-on-the-free-internet

Wikipedia にも既に Web Environment Integrity の項目ができている(Googleで検索できるかどうかは不明w)。生々しいのは、実際のコミットに対するおびただしいコメント。
Github を開く勇気がある方は、ぜひ!
https://github.com/chromium/chromium/commit/6f47a22906b2899412e79a2727355efa9cc8f5bd

そんな中で、ちょっとホッコリするコメントもあった…

It's about indoctrinating people to use specific software. There is a reason why Micro$oft pushes so hard for grade schools to use Windows […]

When I got my senior mom a computer she had never used Windows. Instead of having her learn that I installed Debian with Xfce and Firefox. Now that's all she knows, I laugh at people who tell me Linux is too hard when my mom without any tech knowledge uses it as her daily computer. If I had to switch her to Windows or a Chrome browser she'll make a fuss about it.

コンピューターを初めて使う年配の母さん。Windows も何も全く触ったことがない。親孝行な子が気を利かせて Debian を入れて渡してあげたら、それに慣れて「それしか知らない」という状態に。もしも無理やり Windows に乗り換えさせようとしたら、かんしゃくを起こすだろう…技術知識ゼロの母親がそういう日常なので、「一般人には Linux は難し過ぎるよ」という話を聞くと笑ってしまう、と。

まさに。Tails なら30分でダウンロード、5分でインストール、誰でも今日から Linux ユーザーになれる。使ってないUSBメモリーさえあれば。Wi-Fi は相性があるので、LANケーブルで有線接続が吉。

むしろ Windows の方が難しい。知識のない一般人が、どうやってうざい広告・テレメトリー・強制バージョンアップ・強制再起動・等々を止めるのか?

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2023-11-10 Windows ますますうざく… 乗り換え考える人も

Microsoft won’t let you close OneDrive on Windows until you explain yourself 〔※追記あり〕
https://www.theverge.com/2023/11/8/23952878/microsoft-onedrive-windows-close-app-notification

Microsoft Can't Stop Being Annoying About OneDrive
https://gizmodo.com/microsoft-onedrive-windows-survey-1851006774

Windows 10 (Windows 11?) にある OneDrive という機能がうざいらしいが、それを閉じようにすると「なぜ閉じるのですか」と理由を尋ねられるようになったという。リストから適当な理由を選択すればいいだけで「実害」はないものの、「ますますうざい・閉じたいダイアログくらい普通に閉じさせてくれ」と Windows ユーザーには不評らしく、ニュースになっている。

GNU/Linux 各種は一般にうざくなく(自由を哲学とし DRM に反対する人々の世界なので…)、Windows よりカスタム性に優れ、プライバシー侵害度が低く、ウイルスなどに対して比較的安全。昔と比べ、使い勝手も格段に良くなった(素人の高齢者でも日常用のマシンとして普通に使える)。乗り換えを考える人が増えるのは、当然だろう。

あるコメントいわく「できれば Linux Mint を試したいのだが、自分の場合、ハードウェア互換性の問題がある。回避可能だが、その方法はベストではない。Windows のうざさの我慢の程度と、回避にまつわる問題の程度の綱引きで、今のところ Windows 10 が勝っている。Windows 10 のサポートが終わって Windows 11 の時代になったら、たぶん乗り換える」

別のコメントいわく「いいから試してみなよ…あっさり普通に使えて(例外もあるけど)驚くから。いったん目の曇りが晴れると Windows がどんなにひどいか分かって、それも驚くから…」

「どうしても Windows 上でなければ動作しないソフト」を使いたい人は、それが必要なときだけ Windows を使うのは仕方ないかもしれない。けれどウェブを見たり、ちょっとしたテキストを作成するような一般的用途は、どのOSでやっても、使い勝手はまったく変わらない(特にブラウザは、もともとクロスプラットフォーム)。そんなことにまで、わざわざプライバシー侵害OSを選択するのは、得策ではないだろう(しかもネットのやりとりでは、Windows はマルウェアに侵されやすい)。

複数の環境を用意するのは難しくない。例えば Linux 側が外部メディアから起動する Live OS なら、同じマシンで Windows を温存したまま、ややこしいインストール、デュアル・ブート設定もなく、二つの OS を使える。メディア(例: USBメモリー)から起動すれば自由OS、普通に起動すれば従来の不自由OSと、用途によって使い分けられる。もっと単純明快に、物理的に二台のマシンを用意してもいいかも…。 Windows を使うなとは言わないけど、他にも選択肢があることを心の片隅にとどめておこう!

〔※追記〕 Micro$oft は批判に屈し、このダイアログを普通に閉じられるようにした。10日9:45付けで、一つ目のリンクのタイトルが Microsoft gives in and lets you close OneDrive on Windows without explaining yourself に変わっている。

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 2023-09-09 自由を奪われてる人は奪われてることに気付かない?

戦争が何十年も続く国で生まれた子どもは、無理もないことだが「戦争が終わる」「平和」というのが実際にはどういう意味なのか、あまり実感できないのだろう。これまで一度も経験したことがないのだから…

生まれたときから自由のない生活を続けてきた世代は、それが「当たり前」「現実の姿」と思ってしまう。「自由」の意味を実感できない。「自由なんてなくても、今のままで困らない」とさえ考えてしまう。

戦火の中の子どもたちが「平和なんていう難しい概念は、自分には関係ない。生きるために一番大切なのは、カラシニコフを持った人の命令には従わなければいけない、ってことだ」と感じてしまうような、不幸せなことだろう。

人生の喜びの基盤は、自分のやりたい研究や制作や活動を思う存分できるということ(基盤は出発点)。極力、余計な制約のない状態が望ましい。自由は、情熱と愛。愛は、分かち合っても少しも減らず、与えれば与えるほど増えてしまう不思議な贈り物。

その正反対の状態もある――。内側から湧き出る興味ではなく(自分が本当は何を好きなのか自分でもよく分からず)、外部から、直接・間接に何かを押し付けられること。コンピューターが勝手に再起動したり、誰かが利己的に決めたルールによって「それは禁止です」と言われたりすること。自分が自分の人生の主人公ではなく、誰かの利益のために振り回されてしまうこと。

――それは不幸せなことだろう。

「遊び場」が高い壁に囲まれた庭で、「遊び場」に入るのには許可が必要で、どのように「遊んで」いるのか常に厳重な追跡・監視を受け、個人的な趣味を「広告配信」に利用される。そんな腐った「遊び場」しか知らない…。そんなんでリラックスできるわけない。もはや「遊び」ではなく服役。

心から楽しいと思えないのは、「楽しい」というのがどういう状態なのか知らないからでは?という可能性について、疑ってみても悪くはあるまい。「知らない」というのは「無知」という意味ではなく「不当に奪われ、言葉巧みに隠されている」ってこと。

だって、生きる意味に気付かないまま、生きるともなく人生が終わっちゃったら、悲しいじゃん…

ゾンビのようなノンプレーヤー・キャラクターになってはいけない!

ムネノナカノ 天使よ 目覚めて…(シリアスな話なのに、なぜいつもアニソンで終わるのかw)

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 2023-10-15 プライバシーは「表現の自由」 女神よ…

良い表現を望むなら、試行錯誤と推敲が必要。

ベストな表現を追求するからには、ぼけた表現やくどい反復を削る必要がある。

表現したいことを表現し、表現したくない表現を強制されないこと――それが表現の自由

表現の自由は、表現しない自由と表裏一体だ。

音楽の半分は、休符でできている――沈黙のない音楽は、音楽ではない。

内的・私的な事柄のうち、どの要素を誰と共有しどの要素を共有しないか、当事者がコントロールできること――例えば、知らないうちに、私室に勝手に盗撮カメラを設置されないこと――それは「個人の尊厳」に関わる根源的な事柄。「友達のプライバシーに関わることや、自分の私生活について、やたらと公開しない」のは当たり前。

Edward Snowden の有名な言葉は、次のように強調可能だ:

「別に隠すことは何もないから、プライバシーなんて要らない」と言うのは「私は何も考えないバカだから、思想の自由なんて要らない」と言うのと変わらない。

「私はプライバシーなんて気にしない。別のことは気になるけど…」といったあなた個人の感覚や意見が存在し得るということそれ自体が、私的な自由に立脚している――感じたいように感じ、余計な干渉を受けずに固有の意見を持つことは「私はあなたではない」という究極の真実。恥ずかしがり屋の人が人見知りするのも、閉所恐怖症の人がエレベーターを恐れるのも、プログラマーが呼吸するようにコードを書くのも、その立場の人にとっては「自分の現実」。それを「笑い話として一般公開する」のも「悩みとして特定の相手に打ち明ける」のも「誰にも知られたくないと思う」のも本人の自由・人生の選択――時としてとても難しい選択かもしれないけど、それが生きるということ・死ぬということだろう。「人は何のために生きるのか」「なぜ私はあなたでないのか」という根源的な問いの前において、「やましいことがないなら、何も隠す必要などない」というのは、浅はかな暴論だ。

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 2023-09-16 Tails OS の日本語対応 まほうのえ

USBメモリーから起動できること、普通に使うツールは最初から入っていて全部 Tor ベースに設定されていること、再起動するとほぼクリーンインストール状態に戻ることを別にすれば、中身は Debian と同じだろう。

「メニューなどを日本語で表示できないのがどうしても嫌!」というコダワリがなければ、日本語自体は普通に使える。変換精度には、多少ムラがある。「どうだんつ」だけで「満天星」(どうだんつつじ)が候補になったり、「まほうのぷ」でミンキーモモが出たり、「はなのま」でマリーベルがでたり、間違った漢字で書かれることが多い「本多知恵子」が一発変換できたりする半面、「かかんかん」が一発で「可換環」にならない。

〔追記〕 2024年にセクシーな Debian 6 ベースになり、2024年4月には日本語インターフェースも追加されました。このメモは2023年時点の Tails 5.x の情報・スクショです。

PNG画像

Tails は「USBメモリーから起動」なのでディスク上の既存 OS に影響せず、Win/Mac ユーザーに「試してみたら?」と勧めやすい(注: Mac M1/M2 とは非互換)。「影響しない」どころか、既存の HD/SSD に一切アクセスせず、純粋にメモリー上で動く。管理者権限を使えば既存ディスク上のファイルも読み書きできるけど、普通は全てが RAM 上なので、意図的に保存しない限り、電源を切ると全て(ユーザー設定、作成したファイルなど)は揮発し、ディスク上に痕跡も残らない(たとえ特殊なツールを使っても復元できない)。いわゆる健忘症 OS。ユーザー名も Amnesia(健忘症)。もっとも Persistent という暗号化フォルダを作って、そこに入れると、ファイルは持続する。

この「はかなさ」が、文化的には日本人好みのような気もするが、いかがでしょう?

Tails のデスクトップの一部
PNG画像

ネットは Tor ベースなので、生IPは隠され、アクセスはランダムな国の exit node 経由に。匿名サービスはこれでいいのだが、いわゆる「普通」のサイト(金融機関など)にこれでログインしてはいけない(間違ってやってしまって怪しまれた場合、素人のふりをして「ハッカーにアカウントを乗っ取られたのかもしれません…」などと言えば大丈夫だろうけど、余計なトラブルは避けるべし)。

この OS、本来の主目的は、家庭内暴力の被害者(ネット使用まで見張られてる)・抑圧政権下の人・重大な内部告発をしたい人などが、ポータブルで安全にネットを使えるようにすること(そのため、仕様は概して初心者向け)。昨今の大企業の横暴(WEIとか)のあおりで、プライバシーを守りたい一般ユーザーも増えているようだ。世の中には「匿名や暗号化は怪しい・危険」という偏見もある。でも性的被害者・暴力被害者に「全ての相談は実名でしろ」と押し付けたり、パスワード認証・クレジットカード番号の入力・プライベートなやりとりを「暗号化しない」で行ったりする方が、よっぽど危険だろう。「プライバシー」がどうこうでなく、国や状況によっては、まじで命に関わる。

→ https://tails.net/

☆ Tails を試したい方へ | その2(Tails OS の導入手順)

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 2023-09-17 balenaEtcher の問題 Tails を試したい方へ

前日のメモ「Tails OS の日本語対応」で「Win/Mac ユーザーが現在の OS を保ったまま、Linux 系の Tails を簡単に使える」ということに言及しました。

Win/Mac ユーザーがブータブル USB を作る(=USB メモリーから Tails OS を起動できるように準備する)ためのツールとして、Tails の公式サイトのガイドでは balenaEtcher を使う方法が紹介されています。

メモを書いた後、次の事実が判明しました: Tails 自体は良い OS でしょうけど、それを使うための ブータブル USB を作るツール balenaEtcher はアドウェアであり、勝手に外部に情報を送信するなど、プライバシー上の懸念が指摘されています。

実用上、このツールを使い、公式サイトのガイド通りにやって恐らく問題はないでしょうが、当然ながら、可能な限り「Tails を使えるようにするための、より安全でより良い方法」を紹介したいです。プライバシー志向の OS を使うために、最初だけの一時的な作業とはいえ、アドウェアを使うのは、ある意味、本末転倒なので…

Win/Mac で Tails OS を使えること自体は間違いないです(注: 32ビットCPU、Mac M1/M2 とは非互換)。最初だけの準備として USB メモリーにイメージを書き込み、ブータブルにする作業が必要。数分でできる簡単な作業ですが、その作業にはツールが必要で、そのツールの選択が問題になるわけです。

この件については、公式ガイドの選択肢以外の方法も含めて検討し、お知らせ致します。現時点でのアイデアとして…

ネット接続を切って完全にオフラインにしてから(Wi-Fi ならモデムの電源を切って、LAN ケーブルなら物理的にケーブルを外してから)、balenaEtcher を起動して USB にフラッシュすれば、テレメトリーの問題は回避可能――これが可能なら、公式サイトのツールをそのまま使えて、一番手っ取り早い。もっともアドウェアの中には、ネット接続を切ると動作しないものもあるでしょうから、その場合にどうするか…?

(下に続く)

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 2023-09-18 Tails OS の導入手順 Tails を試したい方へ(その2)

Tails OS の 64 ビット Windows ユーザー向けの説明。Win10/11 などを持ってないので、実際に検証してませんが、これでうまくいくはず。ダウンロードも含めて、普通は1時間くらいで使えるように。既存の Windows OS はそのまま温存される(シンプルなデュアル・ブート)。

〔注〕 Tails の話を書いていますが、 Linux Mint などの他の Live OS でも、手順に違いはありません。 Tails の話なので、このメモはプライバシー重視気味。プライバシーを気にしないなら、普通に balenaEtcher をダウンロードして普通に使うだけで大丈夫です。

1. まずは Tor Browser (TB) for Windows を手に入れよう(オプション)。
通常 https://www.torproject.org/download/
または https://dist.torproject.org/
TB はインストール不要、スタンドアローンで使えるので、既存のブラウザを変える必要はない。
以下の作業は、既存のブラウザを使っても問題なくできるので、TB はオプションです。
・TB を使うことで、どこにアクセスして何をダウンロードしているのか、地元のプロバから見えなくなり、どの国のどこからダウンロードしてるのか、サーバー側にも通知されなくなる。
・Tor をダウンロードするとき、検索エンジンで検索せず直接プロジェクトのページを開いてください(検索するとたぶん永久に記録されてしまいます)。
・本当は、ダウンロード後に「PGP署名」を確認するべきなのですが、予備知識がないと少々面倒なので、ここでは便宜上「torproject.org からダウンロードしたら大丈夫」ってことにしとこう。

2. https://tails.net から img ファイル(OS)をダウンロードする。普通のブラウザでもいいですが、TB を使ってダウンロードがお勧め。
・このファイルはでかいので(1.2ギガくらい)、ダウンロードに時間がかかるかもしれません。落ち切るのを待つ間、同サイトのインストールの説明でも読んでおこう。
・これも署名を確認するのが本来ですが、Tails は特別な知識がなくても使えるようになっていて、署名を見なくてもウェブ上で簡単にファイルを確認できる仕組みがあります。この確認は少し時間がかかりますが…
・TB は多重プロキシなので動作が少し遅いですが、昔と比べると、ほとんど気にならない程度になってます。

3. ダウンロードと検証ができたら、USBメモリーにOSイメージを書き込む。そのツールとして、(普通のブラウザでもいいですができれば TB を使い)少し古い balenaEtcher-Portable-1.7.8.exe をダウンロード。
https://github.com/balena-io/etcher/releases/tag/v1.7.8
直リン https://github.com/balena-io/etcher/releases/download/v1.7.8/balenaEtcher-Portable-1.7.8.exe
・理想のツールではないが Tails の公式ガイドにあるので、これを使うことにする。実用上は分かりやすい。
・USBメモリーに書き込むだけの一時使用なので、ポータブル版で十分。古いバージョンでも無問題。
・少なくともこのバージョンは、ネット接続を切って、ローカルだけで動作する。
・アドウェアとかが気にならない人は、公式ページにある Etcher を普通に使ってもいいかも(Github を開かないで済む)。
・ちなみに 1.7.8 の sha256 ハッシュは次の値(※1)。github.com からダウンロードするなら、実際上、確かめなくても大丈夫でしょう:
D603C859 C12327D8 17D88D7D 4C43A0AC 426CDAA4 C656228A 57E64B1A D4B8F85B

4. ブラウザで「OSイメージ書き込み」の説明ページを開いた状態で、ネット接続を完全に切断。モデムなどは電源を元から抜く。LANケーブルも抜く。
余ってるUSBメモリー(最低8ギガの容量が必要とのこと。でかい分では問題ない)をポートに挿して、説明通りにOSイメージを書き込む。完了したら、うさんくさい balenaEtcher は速攻閉じる。

5. Windows を再起動。実際には Windows を再起動せず、USB から Tails を起動する。
・Windows にはこれができるGUIのメニューがあるらしい。
・別にそれがなくても、いわゆる BIOS あるいは Boot メニューを開いて USB からのブートを選べばいい。BIOS の出し方は機種によって違うが、電源投入後 Windows の起動が始まる前に何かのキーを(F12 など)押すだけ。ブートの優先順位で USB を上にすれば、Tails が立ち上がり、USB を抜いて起動すれば既存 OS が立ち上がるはず…。機種によっては優先順位を設定するまでもなく、選択メニューを出せる場合もある。
・ネットの接続は有線のLANケーブル経由が無難。無線だと、デバイスが認識されて正しく動作するとは限らない上、誰でもアクセスできる「空間」に電波を飛ばすより、物理的につないだ方が安全度も高いので。

(※1)ハッシュを計算できるツールは無数にありますが、Win/Mac で手軽に使える GUI ツールの例として gtkhash というものがあるようです。
https://github.com/gtkhash/gtkhash/releases
sha256 は長い文字列なので、ウィンドウを最大化しないと読めないかもしれません。
7-zip の Explorer を使って右クリック → CRC からも選択可能。
実用上ハッシュの確認は、必須の操作ではなく、あくまでオプションです(省略可)。

参考までに GnuPG (gpg) の場合のコマンドは次の通り。問題のファイルが
C:\test\balenaEtcher-Portable-1.7.8.exe
にあるとして gpg.exe が
C:\Program Files\GnuPG\bin
にある場合:
[Win] + [R]
cmd [enter] ← これでコンソールが開くはず。以下コンソール上で…
cd /d "C:\Program Files\GnuPG\bin" [enter]
gpg --print-md sha256 "C:\test\balenaEtcher-Portable-1.7.8.exe" [enter]

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 2023-11-03 悪い出来事・教訓と未来 Windows ユーザーが大金を盗まれた!

あるフリー(自由)ソフトウェアで、ユーザーの善意の寄付から成る開発資金(クラウドファンディング)の一部がごっそり盗まれるという事件が起きた。被害に遭ったのは初心者ではなく、高度な技術知識を持つはずのプログラマー(開発者)。

奪われた資金は Ubuntu 上にあったのだが、Windows 10 マシンから SSH でログインしていたらしい。「オープンソースの開発者ともあろうものがなぜ Windows を…?」と感じるかもしれないけど、多分、ソフトの動作テスト用などで必要だったのだろう。言うまでもなく Windows といえば…まぁ…本当に言うまでもなく…(笑)。上級者が使っていても、知らないうちに踏み台にされてしまったらしい。ただ「Windows を使うのをやめれば、直ちに安心」というような簡単な話でもないようだ。

筆者はセキュリティーの専門家でも何でもなく、以下はごく基本的な当たり前のことだけど、侵入されて情報を盗まれたら困るような場合…この場合で言えば、メインのウォレット(中身の金額にもよるが)だが…、やはり日常的にネットにつながるようなマシンに重大なものを置かないのが常識だろう。

具体的に、普通のエンドユーザーの場合、USB メモリー上の Tails にメインのウォレットを置いて、使わないときは USB メモリーを物理的に抜いておけば、侵入されようがない。簡単にできて、単純明快なソリューションだろう。この場合、データは暗号化されているので USB メモリーの紛失・盗難が起きても問題ない――シードさえ紙に書いて保存してあれば、ウォレットはいつでも復元できる。盗んだ人がブルートフォースで暗号化を破る可能性はもちろんあるけど、まともなパスワード(単語6~7個くらい)なら簡単には破られないし、ブルートフォースされている間に、シードから復元して資金を別のアドレスに移してしまえば、破られても中身は空っぽ。USB メモリーなんて安いので、1本はウォレット専用にしたらいい。あるいはもう1本クローンを作って別の場所に隠しておけば、1本なくなっても、すぐ資金を移動できる。大金が入っているなら、もちろんウォレット自体にもパスワードをかけておくべきだろう。

認証は 2FA で…とかの、そういう次元の問題ではない。「2FA が必要」という時点で、間違いに間違いを重ねている。ワンタイムパスワードであれ何であれ「リモートを通して何かをやりとりする」ということ自体が、攻撃の突破口になるので「極力、何もローカルから出さない。ネットにつながない」のが基本。

この考えだと、実際に使うウォレットの側は、適当なOS上で(ネットにつなぎっぱなしの Windows 上でも)構わない。要するに、全額をそこに置かず、実際に使う額(盗まれても困らない額)を必要なとき、必要に応じて、メインのウォレットから送る。そのときだけ Tails を起動。例えば、仮にメインに1万くらいあるとして、実際に使うとき、その都度、必要額(例えば150ユーロくらい)をネットにつながる普段のOSに移動すればいい。

言葉で書くと複雑そうだが、Tails は実は初心者向けにデザインされている。日本語のインターフェースはないものの、操作自体は Windows とほとんど同じだし(一般人が Linux に対して抱いているイメージ…手動のコマンドラインとかシェルとかコンパイルとか…は一切必要ない…)、意図的にばかなことをしない限り、誰が使っているのか、外部からは見えない(弾圧政権下のユーザーを守るため)。推奨設定に従えば、データ保存エリア(Persistent)の暗号化は、強力な攻撃者でも突破困難。VeraCrypt(旧 TrueCrypt)ベースなので、何かのおまけで付いてくるような、適当な暗号化ソフトより、よっぽど信用できる。USB から起動なので Windows ユーザーでも、Windows を温存したまま、それと無関係に、同じマシンのCPUとメモリーを使って Linux を体験できる(ライブOS)。メインのマシンのディスク等が「知らないうちにマルウェアだらけ」になっていたとしても、それと無関係に、USBから、別のクリーンなOSを安全に起動。こんな優れた(しかも無料の)ツールを使わない手はない。

親切なことに(?)、Tails には最初から Electrum(ポピュラーな Bitcoin ウォレット)がプリインストールされている。歴史的な経緯から Tails の開発者は BTC が好きらしい…。プライバシー志向の Monero ユーザーは、手軽な AppImage として Feather を入れることができる。この AppImage は、スマホの「アプリ」(笑)のような、危ないものではないのでご安心を…

資金を移動するときネット接続が必要だが、入り口ノード以外にはIPが見えないので、攻撃のターゲットにされようがない(Tails は、送受信とも Clearnet の接続を一切受け付けない)。送金手続きなんか5分くらいなので、終わったら直ちにシャットダウンしてしまえばいい。送金が confirm されるまでには多少時間がかかるけど、送金ボタンを押したら(進行状況を見ていないで)シャットダウンして構わない。

Tails のインストール・使い方を紹介した動画などは、探せばいくらでもあるだろう(有名なOSなので)。別に動画なんか見なくても、OSのイメージをダウンロードして、USBに入れて、ブートするだけだが、より多くの人が情報を得られるよう、この機会に、分かりやすそうな紹介動画に日本語字幕を付けてシェアしようかな…と思案中。既得権益を持つ決済業者やら、ユーザーの個人情報を監視したり売買したりする組織やらは、この手の技術が広まると困るのであの手この手で妨害しようとしているようだが、余計な中間を排除した安全な新技術が普及するのは、長期的には公共の福祉に資することだろう。

Windows が必ずしも理想のOSでない…というのは、誰もが認める事実だろうけど、「Linux に乗り換えれば、直ちに安全になる」といった単純な話でもない。ネットにつながっているコンピューターは、OSが何であれ、原理的に侵入される恐れがある。「ネットにつながること」は怖いこと。プライベートなメッセージや仕事上の機密資料をオンラインで安易にやりとりすることは、便利かもしれないが、危険なこと。「表面的な便利さ・手軽さと引き換えに犠牲になってるもの」も多い。その欠陥構造を補うために、泥縄的に変てこな規則や法律が作られ、結局便利なのか不便なのか分からない変な世の中に…みたいな流れは、あると思う。

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 2023-09-29 3円で4セントが買えた時代もあった… 「漢字」のせいで日本沈没?

JPEG画像

アイスクリーム月餅げっぺい 「月餅の新しい形」として香港で売り出したら
ヒット。アイスクリームの中にフルーツピューレ、
ドライフルーツ、ナッツ類などが入っている。

1円が1.33…セントの価値だったこともあった(らしい)。0.66…は半額。逆数でいえば1.5円払って、ようやく1セント、100ドルなら1万5千円…ちょっと前は1万2千円くらいだったのに…。外貨を稼ぐ海外支店と、日本からグッズを取り寄せるアニオタにとっては良いニュースかもしれないが、それ以外の人にとっては「25%増税」のような、嫌なニュースといえよう。

どこまで落ちるJPY。今回は介入しなさそうだし、しても駄目だし、お手上げ♪

〔追記〕 2023年10月3日くらいに2円半ほど落ちてるのは、介入があったのだろうか。いつもすぐ全戻しなのが、やるせない…。10月24日、BTC/USD が30より下から、いきなり35K。何があったのか知らないが、一日で10%以上とは、トイチのヤミ金融もびっくり。

金利差の小手先の問題も大きいのだろうが、ファンダメンタルはいかがなものか。

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各国が抱える借金の、国内総生産に対する比。黄緑は借金なし、緑は比較的健全だが、濃くなるにつれて借金の割合が増える。濃くなり過ぎて真っ黒に見える島国が一つある。世界で唯一この比が200%を超え、約240%で独走中の国だ。南ヨーロッパの小さな暗い緑は、第ニ位のギリシャ(180%)。破綻のイメージもあるギリシャに比べても、黒い国はブラック度さらに3割増しで、あまり良い状態ではないようだ。

しかも未曽有の少子高齢化で労働人口が減って、先行きもあまり明るくない。「働き盛りの年齢の移民をいっぱい受け入れよう」という計画もあるようだが、外国人をこき使って高齢者の…という倫理的問題はさておき、実用上 N1 の壁がでかい。特に「漢字」のシステムが複雑過ぎる。ヘブライ語やアラビア語も難しいイメージがあるが、アルファベットは30文字くらいしかないし、少なくとも子音は全部書いてある。漢字の場合、文字が何千種類もある上、母音も子音も書いてなく、中国語で表記した漢語を見て意味を理解し、それを日本語訳で読み上げるので「1言語なのに2言語覚える必要」がある!

この困難性をネイティブの日本語話者に理解してもらうための例。ラテン語で i.e. と書いたものを英語で that is と読むことがあるのは、たぶんご存じだろう。「英語なのにラテン語で書いてあって、それをラテン語としてではなく英訳で読む」――いかにもややこしい話だが、日本語では、それが日常茶飯事。すなわち…
  漢字で<友>と書いて「とも」と読め! というのは
  英語で<amicus>というつづりの単語を [frénd] と読め!
…というのと同じこと
。一つや二つの例外単語ならともかく、日本語の正書法は、これがデフォ仕様なのだから、異常としか言いようがない。しかもそれが表音文字とごちゃ混ぜになって、どちらのシステムを使うか、動的・文脈依存的に切り替えなければならない。<親友>なら中国語風の表音で「シン・ユー」だが、<親の友>なら、中国語の単語の意味を日本語に訳して「おやのとも」。控えめに言っても、これは難しい。

「今日の日本の天気」と「今日の日本経済」の文脈依存性――人事部は人事だと思って笑ってるけど、学習者から見れば端的に kyō / kon’nichi / jinji / hitogoto と書いてほしい。

移民政策をしたいなら、日本語の正書法を考えるときだ。IMEと電子入力の普及によって、どうせネイティブの漢字手書き能力も低下しているので、正書法に関する限り、漢字を減らせば全て丸く収まるのでは…w

一つ良いニュースがある――。上記のようなシステムを当たり前に使いこなす日本人は、世界的に見ても類いまれなる語学の天才だろう。自覚がないだけで、その気になれば、実はほとんど何語でも覚えられるはず。周囲が当たり前のように漢字を使うので、お得意の同調圧力によって、みんな「漢字を使えて当たり前」と思い込んでいるのだが…。例えば、周囲の人が当たり前にアラビア語を使うようになったら、同じ同調圧力によって、誰もが「アラビア語を話すのは当たり前」という認識になって、実際にアラビア語を使いこなしてしまうだろう。それを妨げているのは「日本人は外国語が苦手」という思い込みというか「外国語を話さないものだ」という同調圧力に過ぎない。みんなが使ってるからというだけの理由で kwsk が kuwashiku だと簡単に覚えられる人々…。だったら ktb を kitābu と読めるようになっても、少しも不思議はない…。日本語の文字システムに比べれば、何語の文字でも(誇張でなく真面目な定量的評価として)400倍くらい覚えやすい。というか、日本語は400倍難しい(もしかすると、そのせいで、日本語話者は第ニ言語以降を処理するための脳内メモリーが不足気味なのかもしれない)。

日本語学習はコストがでかい――趣味のアニオタはともかく、経済的な動機で移民するなら、余計なことで自由時間を削られたくないので、人は言語の壁が低い国を選ぶだろう。

(下に続く)

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 2023-10-31 どこまで落ちれば気が済むんだ JPY/USD

承前

2023年9月末…

PNG画像1

そして10月末…

PNG画像2

1円は、1セントの3分の2の価値になってしまった。

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 2023-10-04 Tor Browser 12.5.6 Windows と仲良しに?w

大企業によるトラッキングにうんざり。私的な趣味やオンライン行動を監視されたないので Tor Browser (TB) を試してみたい――というユーザーは、潜在的には多いだろう。

ところが Windows だと「Windows Defender」とかいうものが干渉して tor.exe をマルウェアを誤認する…という事象がある(あった)らしい。「OS を使う」のではなく、囲い込まれて「OS に使われている」ユーザーは、これによって TB の使用をためらってしまう。

良いニュース: Tor Project と Micro$oft の間で建設的なやり取りがあったようで、Windows Defender の最新のデータベース 1.397.1910.0 では tor.exe は、もはやマルウェアの一種(trojan)とは誤認されなくなったとのこと。

ぶっちゃけ Windows を使ってること自体があれなので、何も保証はできないけど、とりあえず「Windows Defender」の誤検出を防ぐには、単に最新の定義ファイルをダウンロードすればいいらしい:

https://docs.microsoft.com/microsoft-365/security/defender-endpoint/manage-updates-baselines-microsoft-defender-antivirus
こんなリンク、クリックしたくないので、リンク先に何があるのか知らないけどw

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ところで TB の最新アルファ版(アルファ6)は、13.x 系の最初のリリース候補。Firefox 102 ESR から 115 ESR へ。Firefox で目立たないように徐々に増える怪しい機能(さらなるテレメトリーなど)については、慎重に無効化されている。興味ある方は、試してみるのもいいだろう。まだアルファ版なので、一般向けではないけど…

https://blog.torproject.org/new-alpha-release-tor-browser-130a6/
オニオン http://pzhdfe7jraknpj2qgu5cz2u3i4deuyfwmonvzu5i3nyw4t4bmg7o5pad.onion/new-alpha-release-tor-browser-130a6/index.html

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「TB までは必要ないが、最近の Firefox はちょっと…」という方には LibreWolf も選択肢。LibreWolf のサポート(というかユーザーコミュニティー)は親切で、分からないこと・困ったことがあれば Lemmy で気軽に聞けばいいようだ:
https://lemmy.ml/c/librewolf
Lemmy とは Reddit のフリー(Libre)版のようなもの。ややこしい登録などなく、匿名で気軽に使える。好きなインスタンスでアカウントを使っておけば、他の Lemmy サーバー(インスタンス)でも自由に議論に参加できる上、Mastodon(Twitter の自由版)からもフォローできる。もちろん長所も短所もあるけど、一挙一動を監視され、ログインしないと読めないような「刑務所」よりは、ましだろうw

大企業に独占支配されない「自由な空気」を知ることは、これからの時代、とても大切なこと。一極集中の時代から、分散・多中心・脱中心の時代へ…。旧プラットフォームから脱出できない人も一定数、残るだろうけど、願わくは、余計な干渉・検閲なしに、自由で軽やかに生きたい。

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2023-11-17 警察はパスワード開示を強制できるか? 小心者のプログラマーの告白

EFF to Supreme Court: Fifth Amendment Protects People from Being Forced to Enter or Hand Over Cell Phone Passcodes to the Police
https://www.eff.org/press/releases/eff-supreme-court-fifth-amendment-protects-people-being-forced-enter-or-hand-over

多くの国の法制度において「被疑者に自己負罪(自分に不利な証言など)を強制することはできない」とされる。米国では Fifth Amendment(憲法修正第5条)が、これを定めている。

「本人が自分で認めているのだから間違いなく有罪だ。被疑者に自白を強制すれば、事件は解決する」という考え方では、多くの場合、事件が真に解決しないどころか無関係の人が罪を負わされ、真犯人が何も罰を受けず、往々にして取り調べも乱暴になり、民主主義の理想にも反するであろう。このような歴史的失敗から学び、推定無罪の原則や自己負罪拒否特権が定められている。

*

それでは被疑者の携帯電話やコンピューターが正当な法手続きによって押収されたとして、警察は被疑者にパスコードやパスワードの開示(自白・入力)を強制できるであろうか?

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2019年、ペンシルバニア州最高裁は「パスワードを強制的に開示させることはできない。修正第5条に反する」との判断を下したが、それは 4:3 の僅差の判断であった(Commonwealth v. Davis)。一方、イリノイ州では、最近(2023年)「パスワードを強制的に開示させるのは合憲」との判断が下されたという。一般論として、そもそも被疑者には黙秘権があり、自己に有利であれ不利であれ「強制的に何かを言わせる」ということは、必ずしも理想的な取り調べとは言えないであろう。なぜ「パスワード」に関しては、判断が分かれるのか?

米国において、一部の人々は「既定の結論(foregone conclusion)の法理」を唱える。例えば「被疑者 A が自分の端末から、犯罪に当たる脅迫メールを送ったこと」が、いろいろな物証(メールサーバーのログなど)によって非常に確からしいとしよう。すると「A は脅迫メールを送った・それがインターネットを経由して被害者のメールボックスに届いた」というのは既定の結論なのだから、「送信に使われたメールのソフトなりアプリなりを確認しても A の罪は、増えも減りもしない」ともいえる。「それによって罪が増えるわけではないので、メールソフトのパスワードを開示することは自己負罪ではなく、ゆえにパスワード開示強制は、修正第5条の保護の対象外(例外)となる」――この(詭弁のような)ロジックが foregone conclusion の法理である。

さらに、今回のイリノイ州の判断では「パスワードは単なる(無意味な)文字列で、それ自体に何の証拠価値もない。供述ではないのだから、修正第5条の保護の対象外である」というロジックも使われたらしい。少々問題のある見解だ。どんな言葉も画像も、デジタル的には「単なるビット列」なので、この論理が通用するなら「ひひひ…個人情報の違法売買なんてしていませんよ。ただのビット列です」といった話にもなりかねない。

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EFF は2023年11月16日、イリノイ州の最高裁に対して、上記の決定の取り消しを求める意見書を提出した。EFF の専属弁護士は言う。「携帯電話には、かつてなかった大量の個人情報が格納されています。警察によるそのような機器の捜査が常態化していますが、裁判所は、これが修正第5条違反であることを明確化しなければなりません」(要約)

リンク先のページには「パスワード自白(入力)の強制は、内心の開示の強制に他ならない」との意見も記されている。確かに「事件と無関係なことも含めて、無条件に全ての開示を迫ることができる」というのは、バランスを欠くようにも思える。「何らかの誤認逮捕の被害に遭ったとき、全部警察に見られてしまうのだとしたら…。プライベートな日記ではあるが、正直な気持ちを率直に書くのを控えて、日記上では毎日国を賛美しておこう…」といった無意識抑圧につながるとしたら、思想・信条・表現の自由にも関わる。全般的な萎縮ムード・社会の創造力の低下・文化の衰退を招き、ひいては経済や技術の荒廃ともなる。

ソフトウェア開発や知的作業全般においても、作業する人(例えばプログラマー)のプライバシーが守られていないと、著しく生産性が低下することはよく知られていて、多くの文献にも記されている。経験則として、いい感じで集中して作業しているプログラマーに、誰かがちょっと簡単な質問をしただけで、プログラマーは集中を回復するために、平均15分を失う。質問への回答そのものは10秒で終わるとしても…。質問者が自分で検索すれば1分で分かるのに、聞いた方が早いと思って、隣の席のプラグラマーに話し掛けると、時間の比率で10倍・100倍といった「損害」が生じる。このダメージを防ぐため、プログラマーや研究者には「電話が鳴らない個室」が与えられなければならず、監視カメラやら何やら、気が散るものは論外なのである。

単に思想・哲学の問題としてプラバシーを論じているのではなく、これは研究者にとって極めてリアルな問題であり、雇用者や研究資金を出す組織から見ても、生産性や経済的な損得に関わる。

しつこくプライバシーを訴えるのは、知られたくない「やましいこと」でもあるからだろう――といった、くだらない勘繰りはやめてほしい!

なら、あまり知られたくないようなことを正直に告白すると…

乗ってコードを書いているとき電話が鳴ると、プログラマーはものすごいショックを受け、椅子から飛び上がるほどびっくりして、ため息をついて電話に出るのはいいけれど、くだらない電話の中断のせいで、脳内を流れていたスレッドは全部破壊され、きちんと見通せていたローカル変数の名前すら分からなくなり、何と何がどうつながっていたのか、なかなか元の状態に戻れないのである。皆さんが「便利だな」と思っているウェブアプリやら何やらも、このような小心で傷つきやすい(?)プログラマーが、しばしば妨害されながら、むちゃな仕様変更におののきながら、一生懸命作っている(中には、そういうタイプではない同業者もいるかもしれないけど…)。ですので、ぜひプログラマーのプライバシーを尊重してください。

「乗ってる」というのは、どういう状態かというと…。例えば時計を見て「3時」でも、午前なのか午後なのか分からない。「何で暗いんだろ。もしかして今って午前かな…。一日何も食べてないことになるから、何か食べないと、そういえば喉も渇いているような…あっ、あの実装、ポインタを直接ソートすれば高速化できる!」→(?時間後)「おおソートが速くなった。そういえば今って何時だろ。何かずいぶん明るいな…。何か喉が渇いているから水でも飲もうかな…あっ、あの実装、間違ってなくね、あれとこれが同時に 0 になったら…試しにデバッガーで…。やっぱり、落ちるし。ゼロチェックでいいんだから、これは簡単に直せるぞ。だが両方ゼロのときの処理は…」→(?時間後)「よしバグが取れたし、全部のケースに対応できた。そういえば何か喉が渇いているような気が…」

「夢中になって食事を忘れること」は誰にでもあるだろうが、上の例は「喉が渇いていると認識しながら水を飲みに立つことさえ忘れてしまうほどの集中状態」。上空1万フィートの「ハイ」。たぶん脳内麻薬の類いが出まくってる。薬物乱用と違い、現実に生産性・問題解決能力が高まるので、悪いこととも言い切れないが、体に良いわけない。周囲の目撃証言によると、この状態のプログラマーは「存在感が完全に消える」らしい。もっともメカニカルキーボードを使っている場合、カチャカチャ、音がうるさいであろう(だからこそプラグラマーには個室を与えるべきなのだ)。

〔注〕 EFF はこの裁判の被告ではないが、このような意見書を出すことができる。その立場は、ラテン語で amicus curiae と呼ばれる。直訳すると「法廷の友」、つまり政府・検察側でも被告側でもなく、より良い司法のための意見を述べる第三者。犯罪者をかばっているわけではなく、行き過ぎた法運用・法解釈について警告し、一方的にバランスが傾くのを防ごうとしているのである。皆さんがお使いのブラウザは当然 SSL の暗号通信をサポートしているだろうが、このような現在のネットの基盤も、かつてのブラウザ Netscape に対する暗号輸出規制といったややこしい問題を解決して、ようやく成立したものであり、EFF を含めたフリーソフトウェア陣営の尽力は小さくない。

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2023-11-22 自由ソフトウェアとは? 公式の日本語訳があった

https://www.gnu.org/philosophy/free-sw.ja.html

四つの基本的な自由

あるプログラムが自由ソフトウェアであるとは、そのプログラムの利用者が、以下の四つの必須の自由を有するときです

(0) どんな目的に対しても、プログラムを望むままに実行する自由

(1) プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じて改造する自由

(2) ほかの人を助けられるよう、コピーを再配布する自由

(3) 改変した版を他に配布する自由

利用者が以上であげた全ての自由を有していれば、そのプログラムは自由ソフトウェアです。そうでなければ、不自由です。さまざまな不自由な配布の仕組みについて、どのくらい自由から外れているかの観点から区別することは可能ですが、わたしたちは、そのすべてを等しく非倫理的だと考えています。

注 (1) 「必要に応じて改造」ではない: change it so it does your computing as you wish 「あなたが望む通りに動作するように」つまり「必要というわけではないけど、その方が便利だから・そうしたいから」あるいは単に「コードを書くのは面白いから」という気まぐれからでも、自分の好きに挙動を変える自由。 (3) 要するに「この変更は自分にとって便利!」と感じるような場合、「もしかしたら他の人もこのバージョンを使いたいかも…」と考えて、オリジナル版の作者からいちいち個別に許可を得ることなく、勝手に改変したバージョンを勝手に配布して構わない、ということ(同じ GPL ライセンスを使うなら)。それが自由ソフトウェア。

それが自由。「無許可で改変」ではなく、作者自身が最初から包括的に「許可」して、自由を与えている。フリーソフトウェアの哲学は「自由を与える」と要約可能かもしれない。

「オープンソース」だから「ソースを確認できて安全」…といった問題ではない!

不自由なソフトでもソース公開はできるので「オープン・アクセス」と「自由」は、同じではない。

「利用者が以上であげた全ての自由を有していれば」 これもニュアンスがちょっと違うかも: if it gives users adequately all of these freedoms 「プログラムが、これらの自由を適切に与えるなら」。すなわち、エンドユーザー側が(受動的に)自由を保障されることがメインではなく、プログラマー側が自発的・能動的に「自由を認める・与える」という意思を持つのが要だろう。

GPL Free Software — Free as in Freedom

このウェブサイト(妖精現実)が昔から「サイト内のオリジナル・コンテンツは、どれでも無断コピー自由、改変自由」としているのも、根源的には同種の考え方に基づく(Share-Alike すら要求しないので技術的には全く異なるが)。

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世界中のどの国の法律でも、いわゆる著作権は「原則として存在しない」と明文規定されている; 単に「暫定的・例外的経過措置」として、ごく短い期間(10年や100年のオーダー)に限定して、排他的権利を主張できる制度が残っている。人間の一生のような時間のオーダー(すぐに終わることが分かり切っている)ではなく「あるべき自然な状態」に従い、私たちは全てを共有する。全ての表現は、人間の世界での果実と無関係に、表現を司る女神たち・妖精たちにささげられる。このような文章を書くとき、法律上、自分たちが「著作権者」とやらになるのだから――そして権利は義務ではないだろうから――その権利をどう使おうが勝手だろう。「権利を使わない」と宣言し、実際、無断コピーされようが何されようが、放置する自由があるはずだ。自分たちに権利がある以上「ぜひ無断コピーしてください」とお勧めすることすら、こっちの勝手だろう!

警察が来て「あんたらのコンテンツが無断コピーされてますよ。被害届を出してください」と言っても、それに対して「私たちに権利があるのだから、それは私たちの自由だ」と突っぱねることができるはずだ。

特に、数学の定理や理論は、時空と無関係に普遍的に存在していて、人間が「発明」したり「思想や感情の問題として表現」したりする性質のものではない。単に「最初からそこにあったものが発見・記述される」に過ぎない。「そのような記述(例えば公式やアルゴリズム)に著作権がある」という主張については「根源的な疑問がある」と言わなければなるまい。同じ論点は、もしかすると数学以外にも適用可能かもしれない――「著作権」の保護が「創作活動」を保護するどころか、逆に芸術・文化にとってネガティブに作用している事例も少なくないように思われる。

「自分たちがパブリックドメインやコピーレフトを好む」ということは「他人の権利を軽視する」という意味ではないけれど、他人が何を言おうが、自分にとって不自由なものは不自由であり、それは内心の感じ方の問題なので――思想を取り締まるというのでもない限り――とやかく言われる筋合いはないだろう。思想の自由・言論の自由・自由な意見の交換は、究極的には公共の福祉にも資するであろう。

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2023-12-06 アムネスティ・インターナショナルTor/onion採用 しかし問題も…

ノーベル平和賞も受けている有名な国際組織 Amnesty International が公式ウェブサイトの .onion バージョンの提供を開始。

Tor による安全な .onion によって、世界中の人々が自由に情報にアクセスし意見を交換できるようにしたいとのこと。

.onion ドメインは Tor の「Hidde service」と呼ばれるもので、Torネットワークから出ることなく、ウェブを利用できる(注: Tor 専用アドレスなので、普通のブラウザではアクセスできない)。悪意の出口ノードに監視されたり、Torネットワークを出た後 CloudFlare のようなCDNにブロックされたりするリスクをなくすことができる。かつては「Darkweb」とも呼ばれダークなイメージがあったが、現在ではプライバシー関連のサイトはもちろん BBC や New York Times にも採用され、安全なアクセス性に貢献している。対義たいぎ語は「Clearnet」。

残念ながら、アムネスティのオニオンは、あまりよくできていない:
amnestyl337aduwuvpf57irfl54ggtnuera45ygcxzuftwxjvvmpuzqd.onion
せっかくのオニオンなのに、クリアネットからリソースを読み込んでいる上、読み込んでいる中には googletagmanager(.)com まである。こんな状態で「The .onion site provides a means for individuals around the world to exercise their rights to privacy」とドヤ顔のコメント。顔を洗って出直せと言いたい。最近は「Tor より I2P の方が良いのでは」という意見もある。周回遅れのプライバシー後進地域(オニオンさえない)のアジアもどうにかしてほしいところだが、人民日報がオニオンサイトを作る日が来るのだろうか…

*

Tails の Tor Browser に奇妙なバグがある。 uBlock Origin のアイコンをいじると、クラッシュすることがある。
https://gitlab.tails.boum.org/tails/tails/-/issues/20061
Tor Browser 側の不具合で、昨日(2023年12月5日)リリースされた 13.0.6 で修正された模様。下流の Tails の更新もすぐだろう。

アジアに限らず、一般論として、Tor には誤解や偏見もまだ根強い。実際、個人情報をさらして登録している場所に Tor でログインするのは、無意味どころが逆効果だろうけど、個人情報を渡さずプライベートでブラウジングしたい場合、うまく使えば便利なツールには違いない。自由ソフトウェア陣営の FSF, EFF はもとより、ノーベル平和賞の組織も推奨しているのだから、試してみてはいかがでしょう。とはいえ、手放しで推奨できない面もある。上記のように CloudFlare にスキャンされたり、ブロックされたりするのは、大変うっとうしい。 Mastodon インスタンスの中には onion 版もあるので、Twitter のようなものを脱出して、そういうのを試してもいいかもしれない。

2010年の映画『Remember Me』には、こんなせりふがある…

ガンジーは言った。「あなたが人生で何をしようが、取るに足りないことだろう。けれど、あなたがそれをするというのは、とても重要なことだ。なぜなら他の誰もしないから」

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2023-12-08 Google で18年働いた人の述懐 最初は素晴らしい会社だった…

Reflecting on 18 years at Google
https://ln.hixie.ch/?start=1700627373&count=1

名指しで批判している部分については引用しないが、この元社員の意見だと、長期的ビジョンを失い、短期的な自社株価の値動きばかり気にする会社になってしまったことが、敗因だという。前半「どんなに素晴らしい会社だったか」ということを誇らしげに、しかし過去形で長々と書いている部分が、かえって痛切。

そういえば割と最近 Lemmy だったと思うけど、次のような趣旨のコメントを読んだ。「知人や友人に、もっと自分のプライバシーを大切にするように言ってみたが、誰も耳を貸さない。それで、吐き気をこらえながら Google の株を購入した」というような…正確な引用ではないが、要するに「人々は搾取され続け Google の利益は上がり続けるだろう」という読みらしい。他方、この元社員(2023年11月に退職)の筆致では Google の病はまだ手遅れではないが、早く何とかしないと、あと少しで手遅れになって不可逆的に崩壊するという。

抜粋

Morale is at an all-time low. If you talk to therapists in the bay area, they will tell you all their Google clients are unhappy with Google.

In 2004, Google's founders famously told Wall Street "Google is not a conventional company. We do not intend to become one." but that Google is no more.

It's definitely not too late to heal Google. It would require some shake-up at the top of the company, moving the centre of power from the CFO's office back to someone with a clear long-term vision for how to use Google's extensive resources to deliver value to users.

I do think the clock is ticking, though. The deterioration of Google's culture will eventually become irreversible, because the kinds of people whom you need to act as moral compass are the same kinds of people who don't join an organisation without a moral compass.

素晴らしいビジョンの持ち主、鋭い洞察力の持ち主の周りには、自然とクリティカルな思考の持ち主が集まってくるけど、自己保身が最優先のよどんだ政治家のようなところには…

一般の人がどう思っているのかはともかく Web Environment Integrity は猛烈な批判に遭い、結局、撤回したらしい。「これをやった Google のコーダーは一生再就職できないぞ」とまで言われていた。けれど… Google のプログラマーがみな重い気持ちでセラピストにかかっているという話については「いい気味だ」などとは、とても思えない。企業が腐ってしまう場合、普通は「現場の人が悪意のコードを書いている」のではなく、もっと高いレベルの問題が起きているのだろう。現場の人は首になりたくないし、そのリスクを冒してまで声を上げるような勇敢な人は、さっさと自分から去ってしまうだろうし、悪くなり始めると悪循環が起きる。

そして Manifest V3 は引っ込めていない。今が良いわけでもないのに、さらに悪くするという…。「ウイルスのように広告をばらまくことしか考えていない」と言われても仕方ない。現場の一開発者が「こんなことはやめましょう」と言っても、どうにもならない状態なのだろう。

元社員は初期の批判について「いわれなき批判であった」と反論しているが、勘がいい人は、何げないことから直観的に「やばい」と感じるもので、意図はともかく結果的にこうなってしまったのだから、先見の明のある批判だったということになる。もっともそれは「現場の開発者が悪意のことをしているぞ!」という個人批判ではない; 企業のにおいのようなものは、中の人にはかえって分からないと思われる。

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2023-12-19 「パスワード開示強制は違憲」ユタ州・最高裁 米国旅行の注意点

Victory: Utah Supreme Court Upholds Right to Refuse to Tell Cops Your Passcode
https://www.eff.org/deeplinks/2023/12/victory-utah-supreme-court-upholds-right-refuse-tell-cops-your-passcode

令状に基づいて携帯電話などを押収したとき、憲法上の自己負罪拒否特権との関連において、警察はパスワードの開示を強制できるか。連邦レベルでは見解が統一されていない。州レベルでは判断がまちまち。ユタ州では、先週「強制は憲法違反」との判断が出たという。

技術的な争点は複数ある。一つは「自己に不利な自白(供述)を強制されない」という修正5条の定めとの関係で、パスワード開示は「供述」か。「パスワードを尋ねられ、口頭で答えるならそれは供述だが、入力操作をするのは供述ではない」という主張もある(いささか不合理だが、技術的にはそうとも言えるかもしれない)。

もう一つは foregone conclusion の例外という学説。大ざっぱに「被疑事実そのもの(犯罪が行われたということ自体)に争いがないか、あるいはそれが非常に確からしいなら、罪となるべき事実があることは既定の結論なので、証拠確認のためパスワードを開示させても、被疑者の罪が増えるわけではない。だからパスワード開示イコール自己負罪ではなく、拒否特権の例外となる」というもの。これは直観的には理不尽で、パスワード保護されているデータの中には、別件についての不利な証拠があるかもしれず、理論的には罪が増えるかもしれない。

以上は、被疑者の取り調べのことなので「悪いことをしたのなら、証拠を調べられても仕方ない」という素朴な感想もあり得るだろう。

*

他方、米国の国境(国際空港も含む)では、令状なしで携帯電話を調べられることが常態化している。米国と行き来する予定がある人は、余計な情報の入っていない簡素な端末を携帯することが望ましい。さらにソーシャルメディアのアカウントとパスワードまで尋ねられることがあるので、そこに「見られたくない要素」がある方は、事前に「空港で見せる用の別アカウント」を用意しておき、そちらには「アメリカ文化は素晴らしい」等々の美辞麗句をいっぱい書いておくといいかもしれない。

入国審査でソーシャルメディアのパスワードまで「強制的に」言わせるのは、もちろん違憲のはずだが、ほとんどの外国人は入国拒否されたくないので、事実上ほぼ「任意で」応じるしかない、という力関係がある(米国市民の場合、このような要求を拒んでも入国拒否はされないが、不愉快な目に遭う可能性が高いだろう)。

人によっては簡単にできる現実的な対策がある。それは――何か聞かれたり、指示されたりしても、基本的に毎回 SoLLy sir, me EngRish not good, not sure if I understand などと適当なことを繰り返し、ちゃらんぽらんに応じるという手。言葉が分からないなら、質問に答え(られ)なくても仕方ないよね…(笑)。ポイントは、肯定も否定もせず「質問を理解できたか分からない」と伝えること。一応この答え方だと、何を言ってもその供述には証拠能力がない…。バレバレの演技にならないように、さりげなくね。

国によっては、逆の作戦が奏功することもある。例えばロシア、イスラエルなどの「怖そうな国」の入国審査…。そういう場合、むしろ現地語で答えると、たとえロシア語がそんなに得意でなくても、空気がほぐれ、審査がスムーズになることもある。特にマイナーな言語の場合、十中八九、係員は「どこで○○語を覚えたの?」と興味を抱き、話が脱線して、手荷物検査などは緩くなる。見られて困る物があるわけではないけど、面倒なことはさっさと終わらせたいので、これはエレガントな解法(?)だろう…

どこに行くときも、10日前から現地語を毎日30語ずつ覚え、後はその300語と度胸をうまく組み合わせるだけで、いざとなれば大抵のことについて「でたらめだけど意味は完全に伝わる文」を構成できる。例えば「このチケットの有効期限はいつですか。来月でも大丈夫ですか」と確認したいとき「有効期限」という単語を知らなくても「すみません。いつ、このチケット、古くなります? 私は望む、これを使う、次の月、ダー? 次の月、ニェット?」などと適当に言葉を並べれば、大抵意味は通じる。

関連メモ 警察はパスワード開示を強制できるか?

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2024-08-01 携帯電話「令状なし捜査は違憲」 東部NY連邦地裁

国境(国際空港を含む)では、令状なしで携帯端末・ラップトップの中身を調べられることが常態化し、憲法との関係で問題視されている。今回、令状なしの捜査が一部違憲・無効とされた。連邦レベルだが、地方&一審なのでまだ先例としての拘束力はないようだ。JFKの利用者には、現実的にプラスの影響があるかも。

United States v. Sultanov
https://knightcolumbia.org/documents/ymerpfopdw

参考リンク → 「パスワード開示強制は違憲」ユタ州・最高裁 米国旅行の注意点

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2024-04-19 時間を止めてイタズラできたら楽しいか? SFの物理学

→ 時間を止めてイタズラできたら楽しいか

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2024-04-20 好きになったら最強! そうよ そうなの

世の中には 2 種類の人がいる。例えれば、円周率を「習う」者と、円周率を「学ぶ」者だ。

習う者は、円周率が約 3.14 であることを記憶し、それを「勉強」だと思う。学ぶ者は、円周率が約 3.14 であることを自力で突き止め、それを「遊び」だと思う。この差は大きい。そして円周率に限らない!

どんなに面白いゲームでも、最初から攻略本に頼って、そこに書いてあるコマンドを機械的に暗記したり、入力したりするだけの作業に終始するのなら、ひどく退屈だろう。ストレスに満ち、結果は表面的だろう。遊びの達人は、徹底的に楽しんだ上で「攻略本にも載ってないあの手この手のトリック」まで熟知している。全てはスリリングな冒険。試行錯誤を重ね、作戦を練り、攻略法を編み出し、ついに発掘する思わぬ宝物…。

「攻略本通りにやると面倒だけど、こういうショートカットが使えるんだよね」

「どこでそんな裏技、覚えたの?」

「遊んでて!」

――少なくとも心構えとしては、そんな「遊びの達人」になりたいものである。

*

「自分にとってそれ自体が楽しい」と思えることがあれば、ハッピーなことじゃないでしょうか。人が評価してもしなくても、褒められても褒められなくても、そんなことと無関係に「それ自体」が楽しい。客観的に成功でも失敗でも、結果と無関係に「それ自体」が純粋に楽しい。

「一元管理された枠組みの中で、誰かが決めるスコアが高いとうれしい」という形の「楽しさ」しか知らないとしたら、むなしいことでしょう…。大抵の子どもは、誰からも教わらなくても「遊びの楽しさ」を知っている・知っていたものです。管理社会の中で、ただの無邪気な遊びすら、失われつつあるのでしょうか…。

誰かの遊びをまねしても、面白くないのです。楽しさは内面の感覚なので、外部から受け取ること(例: 富や人気や成績)もできないのです。「心から楽しいと思えないのは、楽しいというのがどういう状態なのか知らないからでは?」というのは、もしかすると、めちゃくちゃ重要な観点かも…

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2024-06-27 「言いなりにならない」ってことは反抗とは違う 例えば友達が…

例えば、友達がやろうとしてること。「絶対やめた方がいい」と思ったら、全力で止めようとするじゃん。人殺しとか泥棒とか…

でもって、それって別に「反抗する」とか「友達なら邪魔するな」とかの問題じゃないじゃん!

友達だからこそ、大切に思うからこそ、摩擦も覚悟で(場合によっては命懸けで)意見を言うわけで…「大切に思う気持ち」と、「なんでも好きにさせること・言いなりなること・放置放任」は、正反対のベクトルだと。

そーいう意味で、「友情」や「愛国心」や「チームを愛する団結心」のようなものと「言いなりになること」を混同するのは、極めて大きな誤りだろう。

「相手が言うこと・やることに何でも反対する・けちをつける」としたら、それは単なる「ひねくれ者」。普通は余計な干渉をせず、いいことならむしろ応援する。けど、間違ってると思えば選択的に反対する・別のオプションを提案する――それが愛ってもんだ。無関係の相手ならともかく、大切な相手なら、場合によっちゃ厳しい意見くらい言う。自分が逆の立場としても、血迷って変なことしようとしてたら、止めてほしいし。

「国の方針にけちをつけるな」と言い張る人は、国を愛していない。

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 2024-06-11 Linux の Live OS 気軽にいろいろ試せるよ

Windows については、あまり良い評判を聞かない。全面的に捨てないまでも、 Linux 系の OS をちょっと試してみることは、良いアイデアだろう。イメージ(1~3ギガくらいのファイル)をダウンロードして USB メモリーに書き込み、そこからブートすると、Live OS として Linux が立ち上がる。

画像: Linux Mint (Xfce) のデスクトップ

Linux といっても、数え切れないくらい種類がある。具体的に、どれを使えばいいのだろう? 最初から答えを決めず、実際にいろいろ試してみて、気に入ったのを使えばいいかと。用途・好みは人それぞれなので…。 Live OS は USB メモリーを挿すだけで使えるので、ちょっとずつの試食には便利(USB メモリーを必要な数だけ用意しとけば)。

〔注〕 USBメモリーは消耗品。最初の一歩でつまずかないように、できれば「使い古しのUSBメモリー」(壊れかけてるかも)を避け、新品かそれに近いものを使おう。「OSイメージ」(4ギガくらい)を入れるだけなので、安価な16ギガや32ギガの製品で十分。容量が大きいことより、読み書きが速いこと(USB 3.0 以上対応)にメリットがある。

Windows から他のファイルシステムを読めるのかどうかは知らないけど、 Linux からは Windows のファイルを読めるので、既存のデータを移し変える必要はない。実はデータだけでなく Windows アプリも Linux 上である程度――「100%」ではないが――動作させられる。少なくともゲームに関しては「Windows 上でないと動作しない」というケースは、近年、比較的まれだという。

† 一般的には、拡張子 .iso のファイル。 Tails OS の場合は、拡張子 .img のファイル。

‡ ファイルを保存(コピー)するのではなく、CDやDVDを焼くのと同様、「イメージ」として書き込み、Bootable (そこから OS を起動できる) USB を作る。 balenaEtcher や Rufus のようなツールを使えば、「ダウンロードしたファイルを選択」「書き込む USB メモリーを選択」「スタートボタンを押す」というような、簡単な手順で実行可能。書き込み所要時間は5分くらい。「書き込み先の USB メモリーに既に入っているデータ」(もしあれば)は、上書きされて消えてしまうので注意!

¶ Linux のファイルがある領域を Windows から見ようとした場合、「認識不能・未使用」に見えて「フォーマット(初期化)しますか?」と尋ねられる可能性がある。「そこにあるデータを全部消して Windows 用の空き領域に作り変えますか?」という意味。デフォルトボタンが「フォーマットする」だったりして怖いが、釣られてうっかりフォーマットしてはいけない。

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「Tor か I2P が絶対条件」というプライバシー重視のユーザーにとっては、一番簡単な選択肢は Tails OS。最近(2024年4月)、日本語インターフェースも追加された。

画像1
画像1: Tails の Tor 接続画面(日本語インターフェースを選んだ場合)

Tor というと先鋭的ユーザー向けのイメージがある。でも Tails は、実は「特別な知識を持たない初心者」の使いやすさを重視して設計されている。起動したらすぐ使え、インターフェースの言語設定と関係なく、日本語入力も可能。

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画像2: 2024年現在の Tails 6.x は Debian 12 + GNOME ベース。
この画像は Tails ではなく、本家の Debian。

Tor が必須ではないという一般ユーザーの場合*1Linux Mint の人気が高いようだ。こちらはデフォルトの Cinnamon の他、軽量の Xfce 版など、幾つかのフレーバーから、自分に合った環境を選べる(冒頭の「少々古風」な Windows 7 風?のスクショは Xfce; デフォの Cinnamon は、いわゆる「モダン」なインターフェースで機能も多い)。公式サイトが Tor をブロックするのが玉にきずだが(Linux 系で Tor をブロック…というのは、かなり珍しい)、 Tor ユーザーは archive.org 経由で閲覧して*2、ミラーサイトからダウンロードすればいい。

Linux Lite は、特に Windows からの移行ユーザーのためにデザインされていて、 Windows 10/11 と同じ感覚で操作できるという。同梱されてるブラウザが Google 系――というのがプライバシー的にはあれだけど、かなり多くのユーザーはもともと Google 系のブラウザを使ってるだろうから、「あまり新しいことを覚えなくても、今までとほぼ同じように使える」という点では、理にかなっている。これを入り口として Microsoft の横暴から逃れ、次に「脱 Google」を考えるってのも、現実的なプランかと…。使ったことないので「Windows 10/11 と同じ感覚」とは何なのか分からないし、 Google 系のブラウザがデフォのOSなんていくら Linux でも試したくないけど、それらのユーザーにとっては、たぶん親しみやすいのだろう。

Debian 自体を Live OS として使うこともできる。 GNOME, Cinnamon, Xfce など多くのフレーバーがある。 Windows ユーザーにとっての使いやすさを主目的として作られてるわけではないので、少し難易度が高いと感じられるかもしれないが、日本語訳を含め、ドキュメントが充実している。

ここで挙げたのは 2~3 の例に過ぎない。他にも選択肢はいっぱいあるので、興味を持たれた方は調べてみるといいだろう。筆者の感覚や考えはあまり普通でないので、一般ユーザーにとっては参考にならないかもしれないが、「Windows だけを使い続けるのは考え物」という結論は、ほぼ誰がどう考えても明らかであろう。

一昔前までは Linux というとコマンドラインのイメージが強く、一般ユーザーには敷居が高かった。今でももちろんコマンドラインを使えた方が便利には違いないけど、ほぼ完全に GUI OS として(Windows OS と同じような感覚で)使うこともできる。技術知識ゼロのお母さんでも問題なく使えるって逸話も…。

*

Live OS は、既存の環境を残したまま、いつでもその日から試せるのがメリットだが、半面、外部 USB から起動するので、起動や動作が少し遅いかもしれない。「これが良さそう」という目星がついたら、マシン内部の SSD か HDD の空きスペースにインストールして、デュアルブートを試すのが吉かと。ユーザーフレンドリーなインストーラーなら、自動的に SSD の空きスペースに新しいパーティションを作って、デュアルブート環境を作ってくれるだろう。インストールしたら、後は電源を入れるだけ。どのOSを起動するかの選択画面が表示され、そこから既存OS(例えば Windows)も立ち上げられる。どのデータも消えない。肥大化した Windows と違い、インストールは単純―― Linux には「アクティベーション」やら「ユーザー登録」やら「アカウント作成」やらは一切ない。 Linux の free は「自由」の free、「束縛からの解放」の free。「有料・無料」の話をしているのではない*3

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画像3: 日本語入力も普通にできる。 Linux Mint (Xfce) の例。

運が悪いと、既存の Wi-Fi デバイスが認識されない――という点も Linux 併用・移行の壁となり得る。ほとんどのデバイスでは Windows 対応のドライバーが必ずあるが、 Linux に対応しているとは限らないからだ。 Linux 用のドライバーを自作して共有してくれている親切な開発者もいるけど、「ドライバーを手動でインストール=難しそう」と感じる方もおられるかもしれない。 Wi-Fi でネット接続できない場合、可能なら、ルーターとマシンを LAN ケーブルで有線接続するのが安全確実な早道――どっちにしても有線の方がセキュリティー的に安全だし、接続も安定して無線より高速だろう(場合によっては何倍もの速度差)。

〔注〕 Tails は速さが主目的ではなく、デュアルブートには違いないが、通常 USB メモリーから使う。筆者は長年の Tor ユーザーなので、Live OS というとつい Tails の話をしてしまうけど、 Tor に興味ない普通の人は Mint あたりを試すのが常識なのかもしれない。 Mint を推奨しない最大の理由は、たぶん…「Tor で見れないサイトは存在しないと見なす。 Tor 経由で使えないものは原則として一切使わない」という「偏った感覚」(笑)のため。

*1 Tails 以外の Linux でも、必要に応じて Tor Browser を使うことは簡単なので、普通のユーザーは Tails にこだわる必要ない。だったら Tails を使う利点は何か。 Tails を使うと、ブラウザに限らず全部のネット接続は Tor 経由になり、それ以外の接続はブロックされる。同じことを Tails 以外で実現するのは比較的面倒。裏を返せば、 Tails からは Tor 経由以外の接続が一切利用できない―― Tor の利用には適さないこと(従来型のオンラインショッピングなど)を Tails からやろうとしたら、トラブルになりかねない。用途によって、通常のOSと使い分ける必要がある。

*2 Tor Browser から https://example.net/something/ を閲覧できない場合、単にアドレスバーに web.archive.org/ とタイプし、その後ろに見たいページの URL https://example.net/something/ をコピペして [Enter] を押せばいい。つまり、
  web.archive.org/https://example.net/something/
…をリクエストすればいい。 web.archive.org/ の前に https:// を付ける必要はない(Tor Browser はデフォルトで HTTPS-Only mode)。――アーカイブではなく「今現在の」ページを Tor 経由で閲覧したい場合、もし Tor がブロックされたら、検索エンジン metager.de で目的のページを検索して ANONYM ÖFFNEN のリンクを使えば大抵、うまくいく。

*3 この思想性(ある意味での「宗教色」)の結果、カジュアルで世俗的な一般ユーザーは、フリーソフトウェアの世界に「とっつきにくさ」(カルチャーギャップ)を感じることがあるかも…。でも、一般向けのディストロはそんなに「純粋」ではなく「現実主義的」: non-free の要素も利用・サポートされている。例えば「音楽CDをリッピングするなら、自由ソフトウェアの Flac か Vorbis 以外の圧縮方法は選択できない」とか「パテントのある MPEG の動画は再生できない」とかの“制約”は、存在しない――理念的には“制約”ではなく「全てを自由に、自由ソフトウェアで!」という“理想主義”なのだが、ともかくその“理想主義”を押し付けられる心配はあまりない。それどころか、「自由」を愛する世界中のプログラマー(善意のハッカー)たちの協力の結果、他のOS上ではうざい制限があること(例えばDRM)が、往々にして Linux 上では無制限になる。

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2024-08-09 Google 検索に有罪判決 独禁法違反

Google は連邦の独占禁止法に違反して、オンライン検索史上で支配的な地位を保っている。連邦裁判事が歴史的判決を下した。今後のインターネットにおいて、広範囲の影響があり得る。

‘Google is a monopolist’: Search giant broke antitrust laws in landmark case, judge rules
https://nypost.com/2024/08/05/business/google-is-a-monopolist-search-giant-broke-antitrust-law-in-landmark-case-judge-rules/

*

不正慣行は、例えば巨額の金を払って Apple や Firefox のデフォルト検索エンジンに設定してもらうこと。ユーザーは設定によってデフォルト以外の検索エンジンを選択することもできるが、現実の一般ユーザーはデフォルト設定を変えることは少ないので、結局、金の力で自社サービスの使用を強制していることに当たる。 Apple への「賄賂」は、180億ドル(現在のレートで2兆6000億円)にも及ぶらしい。正々堂々と実力勝負をせず「札束の力」でネットを支配しようとしていると判断されても、不思議はない。事実、そういう判決が下った。これまでのやりたい放題からすれば、「遅過ぎた」と言ってもいい。

Google 検索は――自分はもう10年くらい使ったことがないが――決して悪くないだろう。だが一般ユーザーは「パーソナライズ」によって、情報を広く中立的に得ることができず、「その人にとって広告効果が期待されるコンテンツ」「その人が有用と感じる(読みたがっている)コンテンツ」に誘導されてしまう。後者は「その人の意見に迎合的な情報だけを与え、異なる視点を隠す」ことにつながる(「井の中の蛙」という意味での「バブル=その人にとって気持ちがいい情報だけの世界」)。のみならず、そもそも広告収入や個人情報の(実質的な)取引をビジネスモデルとしているため、「広告収入とは関係ないサイト」「プライバシーを重視して検索大手と距離を置くサイト」を検索できない。そうした商業主義と離れた場所に、むしろ重要なコンテンツが存在する可能性もある。

プライバシー派からは逆に Google にインデックスされることを拒否されていることもあるが、Google は一種の詭弁によって事実上 robots.txt を尊重しない。

Google だけに依存せず、多様なインデックスから情報を得ること(メタ検索)は、プライバシー面に限らず、多様な情報を見られるという点で、良い選択だろう。ただし Duckduckgo は、必ずしもベストではない(JavaScript 不要のHTML版は、そう悪くないが)。ドイツの Metager は筆者にとっては不可欠のエンジンだが(かつてのオランダの Ixquick に似ている)、最近、品質が低下している。

https://searx.space/ のパブリック・インスタンスは Tor からも使え(Onion 版もあり)有用な選択肢だが、もし日本語の検索をする場合には、言語設定を選ぶ必要がある(ブロックされたら、単に別のインスタンスに切り替えればいい)。規制・検閲だらけのアジアのサイトにまともな情報があるかは別問題だが、日本語のキーワードで検索したい場合、一考に値すると思われる。

その他の検索エンジン(Brave 検索など)も、役立つことがある。

オンラインショッピングのような「個人情報(ログイン)が必要なサービス」と、「個人情報を(間接的にせよ)渡す必要がないサービス」を区別することは、重要な一歩だろう。前者は一般向けブラウザでいいとして、後者には Tor Browser を使い、セッションごとに Cookie をクリアするといい。

*

Google も決して悪いことばかりではない。2024年6月に Google Maps が「位置データ」をローカル保存に切り替えたのは、歓迎すべき一歩だろう。リモート保存でなくなったので、(Google が本当に発表通りに運用を変えたとすれば)第三者に位置情報を乱用されるリスクは減った。

もちろんそもそも「位置データ」を24時間365日モニターされているということ自体が、根本的にプライバシー侵害であり、プライバシーやセキュリティーに敏感な人は Google Maps など絶対使わないだろうけれど、ともかく Google も「邪悪さを減らしている」という意味で部分的には相対的に改善している。今回の判決についても、大金をばらまいてユーザーを誘導することをやめ、「広告収入の最大化」から「検索品質の最適化」に方向転換すれば、もしかするとゆくゆくはユーザーの信用が回復し、結局、Google 自身にとっての利益になるかもしれない。

Microsoft や Google は強引過ぎて、利用者から嫌悪感や不信感を抱かれてしまい、今のままでは10年単位の長期的な生き残りは難しいのではないだろうか。しかしそれは「終わり」とは限らない。原理的には、良くない部分を改めれば、再び信頼される日が来るかもしれない。ウェブには多様性があった方が良く、いろいろな選択肢が共存した方がいい。つまり Google に滅んでほしいとは思わない。札びらでネットを支配したり、独占力を乱用してむちゃな押し付けをするのは控えめにして、ライバル企業とフェアに競い合い、技術面で互いを高めていってくれればと思う。

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2024-08-25 「位置情報令状」は違憲 米・連邦控訴裁

「スマートフォンの位置情報の基づく捜査令状(geofence warrant)――特定の日時に特定の地理的範囲にいた全てのユーザーの情報を提出させる――は、違憲」。米国の第5巡回控訴裁(ルイジアナ、ミシシッピ、テキサス)による連邦レベルの判決。

Federal Appeals Court Finds Geofence Warrants Are “Categorically” Unconstitutional
https://www.eff.org/deeplinks/2024/08/federal-appeals-court-finds-geofence-warrants-are-categorically-unconstitutional

例えば強盗事件があったとき、現場付近にいた人々全員を捜査対象とすることで、被疑者を絞り込み、事件解決に役立つ可能性がある。他方、令状というものは、疑われる相当の理由があって、捜査対象の人を特定して、出されるもの。「たまたま犯行現場の近くにいた人々」というだけでは、具体的に誰が令状の対象なのかすら指定されていない。「不合理な捜査や押収を受けない」という修正第4条との関係で、このような「白紙令状」は有効か?

今回の控訴審判決では、ノーという判断。先行する最高裁判決によると、個人は「いつどこにいたという私生活上のプライバシーに関連して、みだりに詮索を受けない」という合理的な期待を持つ。「たまたまその地域にいた」という以外に何の理由もないのに、名前すら特定されないまま「令状」の対象となる――というのは、憲法の規定に反している、とされた。

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これは「新しい技術によって、潜在的に(一般人から見ても、警察側から見ても)できることが増え、それまではなかったグレーゾーンや疑問点が生じてくる」という過渡期の現象だろう。この判決でも、今後の捜査方法としては geofence は認められないとしつつも、具体的な問題となった過去の特定ケースについては「その時点ではまだ問題点がはっきりしていなかった・ルールが確定していなかった」ということから、捜査無効とまではしなかったという。州・裁判所によっても、まだ判断が統一されていないようだ。

自分の正確な位置情報記録が自動的に残れば、例えば「日記代わり」になって、用途によっては便利だろう。とはいえ「個人の日記」は本質的にプライベートなもので、みだりに監視・押収されてしまうとすれば、かつてなかった種類の問題も生じる。もしも「たまたま近くにいただけの無関係な人全員が出頭を命じられる」――といったこれまでにない状況が起こり得るとして、それを「重大事件解決に役立つ可能性があるのなら、新しい市民の義務として受け入れる」のように善解するか、あるいは「権力乱用や監視社会につながり、個人の幸福・公共の福祉に反する」とネガティブ面を警戒するか…ということは、地域の文化・文脈に応じて、バランスの取り方を考えていく必要があると思われる。

民主主義の原理から言えば、主権者である国民が「24時間監視されても構いません。私はおとなしい家畜です」という考えなら、そういう仕組みが実装されても構わない。全員が常時監視されていれば、犯罪防止に役立つ――という考え方もあり得る。だからといって無条件に(バスルームなども含めて)24時間、監視カメラで撮影され続ける、というのは明らかに行き過ぎなので、どこかできっちり線を引く必要はある。国民のコンセンサスがない状況で、なし崩し的・強権的にシステムが実装・運用されてはならない。

米国は、もちろんEUに比べると個人のプライバシーが尊重されているとは言い難いけど、良くも悪くも国民が文句を言う文化があり、裁判所が独立した判決を出してくる(政府に駄目出しすることもある)。

監視色の強いアジアの国の場合、例えばデモや抗議集会のようなものに参加しようとしただけで、位置情報から「報復」されてしまうといったこともあるらしく、そこまでいくと、さすがにやばい感じだが…。監視というのは防犯や不正防止にも役立ち、ひいては安心感や幸福にもつながり得る。半面、威圧感や息苦しさを伴い、ひいてはストレスや生産性低下・すさんだ社会にもつながり得る。メリットとデメリットのバランスを考える必要がありそうだ。

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2024-09-06 法務省前次官スパイウェア疑惑で起訴 遠隔スマホハッキング

ポーランド法務省・前次官ミハウ・ヴォシ(Michał Woś)が起訴された。検察の発表(2024年8月27日)によると、ヴォシは職権を乱用し、2017年に公金・約9億円(2500万ズウォティ)を不正に流用してスパイウェア Pegasus を購入したという。――単なる個人的な職権乱用なのだろうか?

Informacja o przedstawieniu zarzutów byłemu wiceministrowi sprawiedliwości Michałowi Wosiowi
https://www.gov.pl/web/prokuratura-krajowa/informacja-o-przedstawieniu-zarzutow-bylemu-wiceministrowi-sprawiedliwosci-michalowi-wosiowi

Pegasus はイスラエルのサイバー兵器製造業者 NSO Group が開発したスパイウェア。 iOS と Android ベースの携帯電話にひそかに遠隔インストール可能、仕掛けられても通常の方法では検知できないという。同社によると Pegasus は犯罪捜査に役立つとされる。しかし政府や警察に雇われたハッカーによって、政敵やジャーナリスト、民主化運動家などの監視に使われているともされ、情報漏洩にもつながりかねないことから、EU規模でのスパイウェア全面禁止を求める声もある。

大規模なスパイウェア使用疑惑は、繰り返し問題になっている。例えば…

Colombia to investigate police purchase of Pegasus spyware
https://www.bbc.com/news/articles/ckg5en18qvxo

AP Exclusive: Polish opposition duo hacked with NSO spyware
https://apnews.com/article/technology-business-poland-hacking-warsaw-8b52e16d1af60f9c324cf9f5099b687e

ポーランド検察による予備的調査報告(2023年)によると、2017~2022年の間に、578人の国民が Pegasus による監視・盗聴の対象となったという。ヴォシが個人的に政敵の動静を探るため「職権乱用・公金横領」をした――という解釈だと、費やされた金額が大き過ぎるようにも思われる。

残念ながらというべきか、当然ながらというべきか、政府や警察が内部調査をしても「テロ対策のための、適正な法的手順を踏んだ捜査だった」「具体的な捜査手順は防犯上公開できない」などと、不透明な結論になってしまうのかもしれない。爆弾魔のような「本当の極悪テロリスト」(?)なら、スパイウェアで監視されても――法的にはともかく倫理的には――仕方ないという考え方もあり得る。けれど無関係の一般ユーザーとしては、「プライベートな情報をスマホなどに入れない」という当たり前の対策しか、しようがないのかもしれない。「正義のスパイ」だけが使える裏口、なんてもんは無いんだから…。とりあえず、国家によるスパイウェア乱用が普通に報道されてるってだけでも、まだ希望はある。

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2024-09-10 MetaGer 検索有料化 検索エンジンどこがいい?

ドイツの非営利組織 SUMA-EV が運営する検索エンジン MetaGer は、無料バージョンの継続を断念した。これまでも一部有料(トークンを購入するシステム)だったが、今後はトークン制のみ。

Eine Ära geht zu Ende
https://suma-ev.de/eine-aera-geht-zu-ende/

SUMA-EV の発表によると、パートナー企業だった Yahoo が、月曜(2024年9月9日)、一方的に契約打ち切りを通告してきたという。

MetaGer は、かつての Ixquick のように、検索結果のページについて、無料で匿名プロキシ閲覧を提供していた。接続元を明かさずドイツの MetaGer 経由でページを取得できたので、プライバシー志向の一般ユーザーにとっては便利だった(間接接続というだけでなく、侵害的なスクリプトなどもフィルタリングしてくれた)。特に Tor をブロックするサイトは一定割合で存在する――そのようなサイトを Tor Browser から見るには、 MetaGer は手っ取り早い方法の一つだった。

画像
Tor をブロックする Linux Mint の公式サイトを MetaGer 経由で開いた例

広告収入モデルでは、プライバシー確保も、中立的な検索も、難しい(実際、無料サービスでは、途中から yahoo のビーコンが埋め込まれるようになった―― uBlock Origin でブロックできるので問題ではなかったけど)。有料化自体は当然の選択肢だろう。問題は、 MetaGer がプライバシー決済をサポートしていないこと。「余計な個人情報を出さず、安全に利用したい」ということと「利用のためには、クレジットカードなどの情報(住所氏名など)を渡さなければならない」ってことは、コンセプト的に矛盾している。プライバシーコインか、せめてビットコインをサポートしてれば、さっそく有料バージョンを試してみるところだが…。クレジットカードなどの旧式の方法では、そもそも Tor 越しに決済できない。 MetaGer 自身は .onion を提供してるのに、残念なことだ。

MetaGer の状況が大きく変わった今、それでは、一体どの検索エンジンが良いのか?

「何を重視するか」はユーザーごとに異なるので、単純な答えは出せない。

一般論として、第一選択は DuckDuckGo (DDG) だが(Tor Browser や LibreWolf のデフォルト検索エンジンでもある)、 DDG の通常版はページがゴチャゴチャしてあまり気持ちが良くない。しかし JavaScript 不要の HTML 版はすっきりしていて、比較的気分良く使える。
https://html.duckduckgo.com/html
Ixquick がなくなった後、筆者は数年前まで DDG html 版のオニオンをデフォで使っていた。 JavaScript なしで完全に動作していた(多分今も動作する)。
https://duckduckgogg42xjoc72x3sjasowoarfbgcmvfimaftt6twagswzczad.onion/html

メタ検索 Searx (SearXNG) は有力な選択肢で、プライバシー派から支持されている。
https://searx.space/
この種のプライバシー・フロントエンドには rate limit が付き物。同じインスタンスだけを使わず、適宜ローテーションさせて使おう(特にエラーが返った場合)。 Public でない(あまり知られていない)インスタンスを幾つか知っていると、さらに良い。 Searx の検索結果には、プロキシ閲覧オプションはないものの、 web.archive.org 経由の閲覧リンクが提供されるので、アーカイブされてるページなら Ixquick / MegaGer と似た使い方ができる。

まだ知名度は低いが 4get は試す価値あり。これは最近(1年くらい前) 4get.ca から始まった新しいプロジェクトで、最初は非常に有力に思えたのだが、画像 CAPTCHA が入るようになり、面倒になった。ところが本家以外のインスタンスが複数生まれ、 4get.ch のように CAPTCHA なしのインスタンスもある。
https://4get.ca/instances

ブラウザとしての Brave は賛否両論のようだが(使ったことないので詳細不明)、 Brave 検索は独自のインデックスを持っているので、セカンドオピニオンとして活用できる。
https://search.brave4u7jddbv7cyviptqjc7jusxh72uik7zt6adtckl5f4nwy2v72qd.onion/
クリアネット版 https://search.brave.com/ については、実際に使った経験が少なく、現時点では責任を持ってお薦めできないけど、少なくとも uBlock Origin では何も引っ掛からない。オニオン版を提供してるのだから、たぶん普通に使えるだろう。

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オープンソースのプライバシー・フロントエンドの多くは、広告収入モデルによらず、個人の善意で運営されている。これは検索エンジンに限らないことだが、応援したいプロジェクトには、可能なら積極的に寄付させてもらおう。余裕があるとき、1ユーロや10ユーロ程度の額でもいいので…。そんなことで、独占的な大企業・独善的な権力者が支配する世の中を変えられるのか?というと、別に「世の中を変える」とかの大げさなことじゃなく、単に「応援したいものを応援する」ってだけ。いくら中央が威張っていても、「個人と個人のつながり」は簡単には上書きできないだろう。

MetaGer は数カ月前から品質が落ち、雰囲気も変わり、終わりが近いことは予感してたけど、 Tor Browser のユーザーとして、プロキシ閲覧は便利だった。 Monero とはいわないまでも、クリプト決済にさえ対応してくれれば喜んで有料でも使うのだが、非営利団体なので「勝手に利益が出てしまう」ことのあるクリプトには、対応しにくいらしい(運営側から以前聞いた話)。ドイツには「マイニングは電気の無駄、暗号通貨はエコでない」という考え方もあるようだ。

余談だが、世界の幾つかの国では(日本の東京電力の子会社でも)、逆に「再生可能エネルギー(太陽光発電など)による余剰電力を無駄にしないため、その電力でビットコインをマイニングする」という話が出ている。「グリーンエナジー」を使って仮想の通貨を稼ぐ――というのは、未来的なコンセプトのようにも思えるけど、お金を稼ぐというからには、誰かがそのお金を払ってるわけで、どこかに矛盾があるような気もする。自分自身、長年のクリプトユーザーなので、あまり批判できないけど、ハッシュレートが上がると difficulty も上がるので単純にはスケールしない上、ビットコインには halving があり、同じハッシュレートのシェアを維持できたとしても、マイニングの報酬は、 BTC 単位では数年ごとにどんどん半減していく(法定通貨に換算した場合の収支は BTC 自体のレートに依存するが)。それでも(継続性はないとしても)余剰電力をとりあえず換金するのは、ビジネスとしては合理的な判断なのかもしれない。そのための投資の元が取れるなら…

ドイツや米国では、今や4人に1人くらいはクリプトユーザーらしい。プライバシーを売り物にする Proton もビットコインの(怪しげな)ウォレットサービスを始める。これも時代の変化なのかもしれない。現実の暗号通貨は、 Bitcoin が生まれたときの理念とは、まるで違うものになってしまった。

関連記事 → 検索エンジン MetaGer Webのプライバシーあれこれ

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2024-09-17 ブータン 国民1人14億円のビットコイン

チェーン分析によると、ブータン政府は現在、約13,000 BTC の Bitcoin (BTC) を持っている。2024年9月16日に発表された。

Bhutan Government's $750M BTC Now on Arkham
https://www.arkhamintelligence.com/announcements/bhutan-governments-750m-btc-now-on-arkham

画像: 上記URLのスクリーンショット

画像: インドとブータンの位置関係(地図)ブータンは、インドと中国の間にある小さな王国。人口約80万、国内総生産(GDP)は30億ドル程度らしい。2024年9月17日現在 1 BTC = $60K (60,000 USD) くらいなので 13,000 BTC は7.8億ドル(現在のレートで1100億円)の価値。 GDP の4分の1以上を Bitcoin で保有していることになる。住民1人当たり14億円相当の Bitcoin を持っている計算だ。

Bitcoin の国というと、中米の El Salvador(BTC を法定通貨にしてしまった)が思い浮かぶが、エルサルバドルの保有額は 6,000 BTC 程度といわれるので、ブータンはその2倍以上。住民1人当たりでは、エルサルバドル(人口約650万)のざっと20倍。

† かつては正確な統計がなく、1970年代の国連加盟時には人口約100万とされた。一部の古い資料では、それに基づき、人口増加分を加味して約200万と推定されている。ところがよく調べてみると、実際にはブータンの人口はその半分以下で、2001年時点で60万人程度だったそうだ。

エルサルバドルが BTC を買い始めたのは2021年の ATH の頃から。投資家が大挙して来て 1 BTC = $50~60K に上がってから、手を出している。その後、落ちたときに買い足したとしても、ざっと 20K より上。実際の平均購入単価はその倍くらいか。対してブータンは、 1 BTC = $10K 以下だった2019年から、ひそかに水力発電でマイニングしていたらしい。「エルサルバドルの2倍以上持っている」といっても、かけたコストは「エルサルバドルの半分以下」、もしかすると「10分の1のオーダー」だと思われる。

このように、「暗号」通貨と言いながら、 BTC では仕様上、各ユーザーの財布の中身・入出金記録が世界に公開されてしまう(ブータン政府が自ら公表したわけではないのに)。 BTC のアドレスは暗号学的な非対称鍵に当たるが、送金記録などは特にプライバシー保護されてない。これは大抵の暗号通貨の短所。プライバシーコインが生まれたのはこの問題に対処するためだった――プライバシーコインは根強い支持を集めているものの、現状、当初言われていたほどは普及していない。後から来た人の多くは、実際の決済でクリプト(暗号通貨)を使う「ユーザー」ではなく、転売目的の「投資家」だったので、古くからのユーザーとは感覚が違ったのかもしれないし、現実的には規制圧力の問題も大きい。 BTC のもう一つの(実用上の)欠陥は、決済に時間がかかり過ぎること。「送金処理を開始した」という情報は瞬時に見えるものの、 confirm されるまで30分くらいかかるし、送金手数料も安くない(従来型の決済システムに比べれば安いけど…)。

‡ 記録がブロックチェーン(P2Pのデータベース)に書き込まれ、確定すること。手数料(fees)はユーザーが自分で設定でき、原則として、いっぱい払えば払うほど、優先的に扱われるが(長い待ち行列ができていても、料金さえ払えばすぐ次のブロックに割り込める)、それでも30分待ちはあり得る。 mempool が混んでいると、しばしば料金相場が高騰し、 fees をけちると何日も待たされることも。混雑してなければ(あるいは急ぎでなければ)低料金で決済可能。 Bitcoin のマイニングは、単にコインを「採掘」しているのではなく、順番待ちのトランザクションを順次確定させる役割を果たす。

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それはそれとして、ブータンが国を挙げてクリプトをやってたってのは、ちょっとびっくり! 何を考えて、あの時代にクリプトを始めたのだろうか…。もともとは GDP の1%オーダーの比較的小規模なものだったのが、思わぬ相場変動で GDP 比が極端に大きくなってしまったというところか。このヒマラヤの王国では「水力で発電してインドに売ること」が、以前から経済の重要な一端を担ってきたという――「ルピーの代わりにビットコインにも換金」という発想は、不自然ではない(日本でも太陽光発電でマイニングする計画があるらしい)。他方、批判的に見れば、ビットコインは「実際には何も生み出さない」ともいえる。水力発電自体は比較的環境負荷が小さいとはいえ、発電所の建設・運用は「無料」ではない。マイニングのために大々的に発電プラントを増設するとなると、疑問の余地もある。

数年前「30Kより下では、少しずつ買ってもいい」とかコメントしたけど、「持ってるだけで、何もしないで価値が100倍に増加」みたいな変な現象は、恐らく二度と起きない。安易な射幸心から全財産をつぎ込むようなことは、やめておいた方がいいだろう。

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