チラ裏4

チラ裏」は、きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。

数論(メモ)の目次

暦・天文

2019-07-17 西暦1年1月1日から2000年12月31日までの日数は?

第1・第2千年紀は、合計何日あったのだろう?

天文計算や暦の計算をする人なら、この二つの日付のユリウス日(JD)を考えたことがあるだろう。1582年の改暦前のユリウス暦を単純にさかのぼれると仮定すると、西暦1年1月1日正午は JD 1721424、一方、グレゴリオ暦2001年1月1日正午は JD 2451911 なので、この2000年間は730487日

次のように考えると、上記は簡単に暗算可能。純粋ユリウス暦なら2000年間は、365.25×2000 = 730500日。それに比べ、グレゴリオ暦では1582年の改暦で日付が10個飛ばされ、1700年・1800年・1900年の2月29日もないので、トータルで13個、日付が少ない。730500から13を引けば、730487。計算は単純だが、数学だけでは解けない(1582年に10日間がドロップされたという史実に依存)。純粋なグレゴリオ暦なら2000年間は730485日(400年につき3日少ないので、計15日少ない)。従って、グレゴリオ暦をさかのぼった西暦1年1月1日はユリウス暦の1月3日、逆にユリウス暦の1年1月1日はグレゴリオ暦の0年(いわゆる紀元前1年)12月30日。「暦の違いで、この時期の日付は2日ずれること」も、天文計算者なら経験済みかもしれない。

で、何が面白いかといえば、730487は素数ということ。2000年間においては、1年の平均日数が2000倍される。400年周期のグレゴリオ暦なら、400年間の日数が5倍される。結果は合成数になって当然だが、改暦のときのギャップによって、思いがけない現象が起きた。逆に、2000年間の日数が素数になるとしたら、必ずこの 730487 になる(1年の平均日数が365.24以上、365.26以下というような条件が付くが、回帰年についての現実の値を考えると、まともな太陽暦は必ずこの条件を満たす)。

2019-07-18 西暦1年1月1日(その2)

昨日の計算では「ユリウス暦を普通にさかのぼれる」と仮定した。実際、西暦8年ごろまでは、さかのぼった結果は、歴史上の日付と一致するらしい。それより前の約50年間は複雑。紀元前50年ごろ、ユリウス暦が導入された直後、ローマでは暦の運用を誤り、4年に1回のはずの「うるう年」を3年に1回入れていたという。間違いの詳細については断片的史料しかなく、結論が出ていない。

うるう年を入れ過ぎれば、当然、カレンダー上の日付進行がもたつく。結果、最大約3日の遅れが生じ、理論上の正しいユリウス暦(以下J)の−8年(=紀元前9年)3月4日が、現実のローマでは「3月1日」だった可能性がある。その後、カレンダーを早送りしてJに追い付くため、臨時に平年ばかりを連続させ、−4年3月3日Jがローマの「3月1日」、0年3月2日Jがローマの「3月1日」、4年3月1日には史実の日付がJと一致、それ以降は普通にうるう年が挿入され、正しく運用されてた…というのが一つの説。別の説では、0年3月1日以降、史実=J。

(I) 後者の説だと、歴史上の「1年1月1日」は実際に1年1月1日J・土曜日、史実の2000年間は730487日。

(II) 前者の説だと、歴史上の「1年1月1日」は1年1月2日J・日曜日、史実の2000年間は730486日。

(III) 参考として、グレゴリオ暦をさかのぼった「1年1月1日」は1年1月3日J・月曜日、2000年間は730485日(グレゴリオ暦では400年ごとに曜日が循環するので、2001年1月1日と同じ曜日)。

現実の歴史では、1582年より前にグレゴリオ暦は使われていない。史実は恐らく (I) か (II)。

2019-07-24 5分で覚える! グレゴリオ/ユリウス暦・日付変換暗算法

簡単。意外と役立つ。「シェイクスピアの命日4月23日は今の暦で何月何日?」みたいな場面で。

「グレゴリオ暦(以下G)は、ユリウス暦(以下J)に比べ、400年につき3回、2月29日が少ない」ことはご存じでしょう(知らなかった方はこの機会に確認を)。

つまりGはJより400年につき3日短く、短いのだから日付進行が速い。例=2000年1月1日Jが「1月14日G」とすれば、2400年1月1日Jは「1月17日G」(← 400年前と比べ、日付が3日分「未来」)。

問題は「いつ何日ずれるか」。具体的な「ずれ日数」。何種類か覚え方があって、どれか一つで間に合うので、気に入ったのをどうぞ↓

  1. グレゴリオ暦への改暦(1582)のとき、日付が10日飛んだ。1582年10月4日の夜に寝て、起きたら10月15日になってた! なにそれ、まじ?! タイムスリップ?! この話は1度聞いたら絶対忘れないよね。細かい日付はさておき、ポイントは、1600年ごろ日付が10日飛んだ。だからそれ以降、同じ日の日付がG世界では「10日未来」(1600年1月1日J=1月11日G)。
  2. もう一つの覚え方=2000年に差が13日(2000年1月1日J=1月14日G)。改暦の直接の理由は、キリスト教の復活祭絡み=不吉な「13日の金曜日」と関係あり。改暦した人はグレゴリオ13世。13がキーワード!

あとは「400年につき3日ずれる」という事実と組み合わせれば、2400年のずれは16日、2800年のずれは19日、3200年のずれは22日。逆方向に、1600年のずれは10日、1200年のずれは7日、800年のずれは3日、400年のずれは1日、0年のずれはマイナス2日。ずれがマイナスってことは、逆にJの方が「未来」。例=西暦1年1月1日Jは、0年(つまり紀元前1年)12月30日G。

最後の仕上げ。ずれの原因「2月29日の有無の違い」は、「400の倍数以外の」100の倍数の年に発生。だから上記を基準に直前の400の倍数の年を考え、100年ごとに1日足す方向で。例=1701、1801、1901年のずれは、それぞれ11、12、13日。2101、2201、2301年のずれは、それぞれ14、15、16日。暗記しなくても、順を追って考えればすんなり。

例題 ロシアの文豪ドストエフスキーの誕生日は、当時のロシアの暦(J)で1821年10月30日。Gに換算すると何月何日?

換算法 1600年のずれ10を基準に。18xx年のGは12日「未来」。10月30日の12日「未来」=指折り数えれば11月11日。意外と簡単でしょ?

NOTE: 式で書くと、10月30日 + 12 = 10月31日 + 11 = 11月11日。簡略に、10月30日 + 12 = 10月42日 = 11月11日(10月は31日までなので、1繰り上がって余り11日)。

練習問題 シェイクスピアは、当時の英国の暦(J)の1616年4月23日に亡くなりました。(1) グレゴリオ暦では何月何日でしょう。 (2) 来年「ユリウス暦のシェイクスピアの命日」に記念イベントを開くとしたら、現在の暦(G)の何月何日? (答え合わせはタイトル・テキストで →

(補足) 厳密に理解したい方へ。実用上、普通そこまで考える必要ないけど、ずれが拡大するのは「Jにある2月29日が、Gにないとき」。400の倍数以外のxx00年1・2月Gは前年のずれのまま。上記の暗算法を単純に使うと、まれに(400年につき2カ月×3回)、計算が合わない期間が生じる。解決法=この手の計算では「1年は3月1日に始まり、2月末日に終わる」と解釈するのが定石。例=1900年1・2月は1899年と「同じ年」。

2020-06-17 半減期の「1年」は何日か? 常識の落とし穴

ウィキペディアの「コバルト」のページによると、コバルト60の半減期は「5.2714年」だという。これは何日だろうか?

単純に1年=365日(★)とするか。天文計算のデフォで、1年=365.25日(★★)とするか(ユリウス年)。それとも現実の暦を使って、365.2425日(★★★)とするか(グレゴリオ年)。それらの定義によると、上記の半減期は、それぞれ:
1924.06日
1925.38日
1925.34日
となる(小数第3位以下は四捨五入)。バラバラの値になってしまった。「5.2714年」のような細かい数字を言うときは、まず「年」の意味を定義しないと議論が成り立たないことが分かる。

驚いたことに、上記3種類の解釈は、どれも正しくないようだ。核物理の世界では、
1年 = 31556926秒 = 365.24220日(☆)
と定義する習慣が根強いらしい(上記の例では、数値的には、誤差の範囲で★★★と一致する)。(☆)は暦学ではおなじみの値であり(一昔前の回帰年の近似値)、1年の長さをそう定義して悪いわけではないが、回帰年の長さは「1世紀につき0.5秒くらい」のオーダーでどんどん短くなる。精密に現在の(2000.0年における)回帰年の長さを使いたいなら、
1年 = 約31556925秒 = 365.24219日(☆☆)
であり、(☆)では既に1秒ずれている。他方、いくら精密に(☆☆)を使っても、どうせまたすぐ変動してしまうので、あまり意味がない。むしろ割り切って1年=365.25日(★★)に固定した方が、計算上、便利だろう(コンピューターの浮動小数点数として、誤差が出ない)。

とはいえ、国際的な慣習にケチをつけても仕方ない。半減期の「1年」は、しばしば「365日でも365.25日でもなく、グレゴリオ年でもなく、現在の回帰年でもない」という紛らわしい事実を受け入れるしかあるまい。「1日」といえば、特に断らない限り86400 SI秒であり、誤解の余地は少ないが、「1年」の長さは分野によって・人によって定義が違う場合がある。「1年」という言葉は、あまりにも日常的で、意味が分かり切っているように感じられるが、精密科学の文脈では、そこに落とし穴がある!

ボーナスクイズ もし仮に「☆☆の31556925秒が1年の正確な長さであり、かつ1日の長さが正確に86400秒で、どちらも変動しない」とした場合、1年の日数は有限小数になる。最良近似分数の列は次の通り。

365  1461  10592  12053  46751
---, ----, -----, -----, -----
  1     4     29     33    128

このような仮定上の世界においては「128年につき31回うるう年を入れる」こと(言い換えれば「4年に1度のうるう年を、128年につき1回だけ例外的にやめる」こと)によって、カレンダーと季節のずれを長期的にゼロにできる。同様のことを(☆)でやろうとすると、どうなるか?

2020-07-01 地球の自転が一時的に速くなっている 1日の長さ24時間を切る

精密に測ると地球の自転は日々変動しているが、長期的にはだんだん遅くなっている。「自転による1日は、定義上の24時間=86400秒より1ミリ秒(1000分の1秒)くらい長い」というのが、これまでの大ざっぱな感覚だった。だから1000日くらい(数年)のオーダーで地球は時計より1秒遅れ、時計合わせのため「うるう秒」が挿入される…と。

ところが実測で、2020年6月5日ごろから、86400秒かからないで自転が終わる状態が続いている。「自転と時計の差」(UT1−UTC)が普通ならだんだん減るはずなのに(自転より時計の方が進みが速いので、マイナスが大きくなる)、逆に少しずつ増えている。この傾向は9月頃まで続き、その後も時々自転が速めになると予想されている([1])。このこと自体は、決して異常ではない。2004年ごろにも同様のことが起こり、その影響で7年間くらい一度もうるう秒がないことがあった([2])。24時間を切ったと言っても違いは、せいぜい1ミリ秒。地球の自転と無関係に1日は通常86400秒に固定されているので、日常生活には影響しない。大昔の地球はもっと速く回っていて、1日が23時間だったときもあるというのだから、1ミリ秒ずれたくらいで大騒ぎすることもないだろう。

しかし年オーダーの短期的な話として、「うるう秒が入らない最長期間」の新記録になる可能性がある。「うるう秒」制度が始まって以降、これまでの最高記録は「7年間うるう秒なし」。協定世界時(UTC)1998年12月31日の末尾(日本時間1999年1月1日8時59分59秒の後ろ)にうるう秒が挿入されてから、UTC2005年の末尾に再びうるう秒が入るまで7年あいた。前回のうるう秒はUTC2016年末。2020年末のうるう秒の有無が公式発表されるのは数日後だが、UT1−UTCマイナス0.2秒台で「うるう秒」という先例は、21世紀に入ってから1度もない。マイナス0.5秒になりそうな辺りで挿入してプラス0.5秒側に振るのが、常識的に無難な線だし、最近の運用は実際そんな感じ。

前回の「7年間なし」記録のときは、うるう秒を入れてから4年で、またマイナス0.3秒くらいまで地球が遅れた。一方、2020年末にうるう秒がない場合、結果は「ずれマイナス0.2秒くらい」=前回の同じ条件より、ずれのペースが小さめ。この調子だと「8年間うるう秒なし」、場合によっては「10年間なし」といった新記録もあり得る。

地球の自転は、大ざっぱに10~20年の周期で速くなったり遅くなったりしているらしい。グラフ [3] を見ての漠然とした印象だが、現在入りつつある「谷」(1日の長さが短くなる)は前回よりちょっと深いかも…。地球の自転は気象の影響も受けているので、気象の乱れも関係しているのかもしれない。地球の自転が速めになるのは、UTCがずれにくいという点では良いこと。これまでの遅れの「貯金」がたっぷりあるので、「負のうるう秒」などという事態にはならない。長期的には、どっちにしても誤差の範囲内の揺らぎだろう。

[1] https://datacenter.iers.org/data/latestVersion/6_BULLETIN_A_V2013_016.txt

[2] https://en.wikipedia.org/wiki/File:Deviation_of_day_length_from_SI_day.svg

[3] https://en.wikipedia.org/wiki/File:Leapsecond.ut1-utc.svg

2020-08-08 NASAのサイトだって…

3年前の話。

大量の情報があるネット。一定割合で不正確な記述があるのは当たり前。でも規範的と考えられるサイトの間違いは、ある種のインパクトを持つ。素朴な意味では「間違い=良くない」。実際には「本当に間違ってるのだろうか。自分の側が何か勘違いしている?」という疑念が生じ、不正確な情報のおかげで、かえって勉強になることも(隅々まで検証することで理解が深まる)。

2017年の「「春夏秋冬」は「夏秋冬春」より長い」という考察は、NASAが公開している古い事典に「回帰年は、毎年0.005305秒ずつ増大している」と記されていたのが、一つのきっかけだった。増大ではなく減少のはずだが、さすがにNASAに言われると「もしかして、自分はこれまでずっと逆に覚えてた?」と不安になる。もはや参考文献を読み比べても、安心できない。自力で解析計算を行い「どの本が何と言おうと、これはこうなる」と確信したい。少なくとも、その方向に進みたかった…。

「人の間違いのあら探し」みたいな陰湿なことではない。NASAのサイトには「これは古い事典のアーカイブで、更新されていないので、正確性は保証できない」ときっちり断り書きがあり、記述に間違いがあってもおかしくなかった(うっかり符号を逆にしてしまうのは、誰にでもあることだろう)。きっかけは何であれ、春・夏・秋・冬の記事では「苦労してケプラー方程式を逆算しなくても、素朴な計算が成立」というところが面白かった。地球が軌道上を動いて「春分点」を通過すると考えずに、逆に「ここで春分になる場所」が軌道上を動いている…と考えることがブレークスルーとなった。

2020-12-22 木星・土星は外惑星なのに、太陽のそばで合になりたがる?

木星・土星の接近を面白がって眺めてる方も多いと思う。でも、夕暮れの地平線近くで、すぐに沈んでしまう。「どうせ合になるなら、夜中にゆっくり見られる位置でなってほしい」と思わないだろうか?

内惑星の水星・金星なら、日没ごろの西か、日の出ごろの東にしか来ないのは、仕方ない。けれど木星J、土星Sは外惑星。下図のように、地球Eから見て、太陽Oと反対側に来てはいけない理由は何もない。どうしてこの配置になってくれないのか?

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図から分かるように、この理想の配置になるためには、太陽から見て、地球・木星・土星が全部同じ方向(三重合)になる必要がある。3者の位置が独立だとして、木星・土星が太陽から見て合のとき、さらにその±1°に地球がある確率は、単純計算で180分の1。これが起こりにくいのは分かる。我慢しよう。けれど、そこまで理想的(真夜中の真南)でなくてもいいから、大ざっぱに太陽の逆側(地球から見て)で木星・土星が合になってくれてもいいのに…。直観的には確率半々で「太陽と同じ向き/逆の向き」に分かれるように思える。数回に1回くらいは、太陽から離れた場所で合になってくれてもおかしくない…ような気がする。実際、そういうイベントは起こり得るのだが、意外とまれ。ここ1000年くらいのデータをざっと見た限りでは、太陽から90°以上離れて合になるのは、8回に1回くらい…。このイベント自体が20年に1回くらいのレベルなので、そのさらに8回に1回は、運が良ければ一生に一度くらい…か。「いやいや、ここ1000年の配置がたまたまそうなってるだけ。1万年・10万年単位の長い尺度で見れば、木星・土星の合と地球の位置は、どう考えても独立のはず」?

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この疑問を追究するため、常に木星が図のJ位置にある座標系を考えよう。もちろん現実の木星は、恒星に対して、軌道上を動いている。けれど、発想は柔軟に…木星がどこにあるかと無関係に「木星がある方向が、太陽から見て12時の方向」と定義してしまおう。

※ この定義に納得できない場合、「座標系が木星と同じ速度で回転している」と解釈してください(太陽系を見下ろす方向にカメラがあって、木星の公転と同じ角速度でカメラの視野が回転しているので、モニター画面では木星が静止しているように見える)。

天文計算では、春分点を原点とする座標系を当たり前に使うが、春分点は黄道上を動いている。「座標系自体が回転している」というのは、天文学の文脈では、ありふれた設定。

「地球から見た木星と土星の合」イベントに限定すると、土星Sの位置に自由度はない。地球の位置Eを決めれば、EJを延長した先にSがある。さて、最初の「確率半々」という直観は、地球Eの位置が第1・第2象限にあるか、第3・第4象限にあるかが半々の確率…という考えだろう。それは太陽中心の感覚で、地球を中心とする見え方とは異なる。地球Eが3時の方角(真横)にあったとしても、地球から見た太陽・木星の離角OEJは90°より小さい。従って、Eが第1・第2象限にあっても、依然として、一般にはJは比較的太陽のそばにある。太陽と離れてほしい…という願いについては、少なくとも「五分五分」よりは分が悪い。

もう一つ、第一印象では分からないような、思い掛けない問題がある。理想の配置またはその付近に惑星たちが来たときには…

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地球の1公転の間に、次のように、短期間で3連続、木星・土星の合が起きるのでは? 地球がE、F、Gと動くとき、土星の位置がS、T、Uなら、そうなる。理想に近い配置が3連発。これが本当ならおいしい…。

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土星の(恒星から見た)公転周期は、木星のそれより長いので、木星から見ると、土星は「遅いランナー」。木星は何度も土星を追い越し、どんどん周回遅れをつけていく。従って、木星が止まっているように定義した座標系では、土星は常にバックしていて、概念的には上記の状態になる。とはいえ、このバックの速度は、木星と土星の(角運動の)速度差。1年で1周する地球(北極方向から太陽系を見下ろした場合、反時計回り)から見ると、10倍くらい遅い。よって上の図のS、T、Uのような「地球より速いバック」は不可能であり、これは成立しない。

ところが、次のようにE&GをFとほぼ逆側に設定すると、土星の遅いバックと、地球の速い前進が釣り合うポイントがどこかにあるはず。「理想に近い形で木星・土星が合になったときには、地球の1年のうちに、木星・土星の合が3連発で起きる」ということ自体は、確からしい(注: 木星と一緒に回転する座標系での1公転なので、普通の意味での1年とは微妙に異なる)。

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この状態になるためには、土星が「12時の方角±5°くらいの細いゾーン」にあることが必要…。「地球から見て、せめて太陽から90°くらいは離れてほしい」というささやかな願いのつもりだったのに、それを実現するためには木星と土星の位置関係が厳しく限定されてしまう。そして「合が3連発で起きる」というお祭りイベントが漏れなく付いてくる。そこまでレアなことを注文したつもりではないのだが…

地球がE、Gにあるとき、木星・土星は太陽とほぼ同じ方向にある。つまり地球がF付近での「良い合」が1回起きるたびに(それ自体レアだが)、「嫌な位置の木星・土星の合」が2回、起きる。そのせいで「良い合」の確率は、さらに少し下がってしまう。もっとも「3連発のシーズン」に地球上にいる天文ファンからすれば、1回はゆっくり合が見られる上、運が良ければ残り2回もそこそこ楽しめるのだろう。

「夕暮れの西(あるいは夜明けの東)じゃなくて、夜中の南で見られたらなぁ…」というのは「もう少し位置がずれてたらなぁ…」という小さな希望ではなく、全体の配置に関係してくる。「木星と土星は外惑星なのに、地球から見ると、内惑星のような位置で合になりやすい。今回もそうだった…」と。

本当にこの考え方で全てが説明されるのか? 実際の軌道は楕円だし、傾斜があるし、惑星の位置が真に「独立」かは分からない(軌道共鳴)。楕円と傾斜はとりあえず無視できるとして、軌道共鳴は…。その影響の有無・大小について、別途検討する必要がある。それと同じことかもしれないが、惑星たちの距離・公転周期の比がちょっと違っていたら、全然違う結果になっていたかもしれない。

2022-07-21 今日は火星の冬至 火星暦(Mars Year)36年・冬…

火星にも四季がある。火星の1年は、地球上の約2年――

火星が太陽の周りを一周する平均所要時間は、地球上の約687日。

火星上の四季の一巡の周期(回帰年)は、上記の公転周期(恒星年)より10分ほど短いが、地球時間で1年11カ月弱ということには変わりない。

一方、火星の自転周期(1日の長さ)は、地球時間で24時間40分ほどだという――地球の1日より少し長い。火星上の1日を基準とすると、火星の1年は669日弱。火星人にとって、669回の朝と夜を繰り返すと、季節が巡る。1年を12カ月とするなら、火星のカレンダーの1カ月は55~56火星日となりそうだ。

地球時間の20歳を成人とするなら、火星移民の赤ちゃんは火星暦の10歳半で成人する!

【1】 米国ジェット推進研究所のシルバン・ピコー(Sylvain Piqueux)を筆頭とする5人の研究者は、2015年、火星暦の「年初」を求めるための略算式を発表した。火星の春分の日が、火星暦の1年の始まり。火星暦0年は、地球暦1953年5月24日に始まる…と定義されている。今(2022年7月)は、火星暦36年らしい。

Enumeration of Mars years and seasons since the beginning of telescopic exploration
https://www.lpl.arizona.edu/~shane/publications/piqueux_etal_icarus_2015.pdf

火星の北半球で今は冬…。春分があるのなら、もちろん冬至もあるのだろう。面白いから計算してみよう!

「火星の冬至なんて計算して何の役に立つんだ?」なんて、やぼなことは言いっこなし。

【2】 冬至は、火星から見た太陽の位置 Ls が、火星から見た春分点の方向を基点に270°になったとき。上記の文献によると、出発点となる近似式は:
  《あ》 α = 270.389001822 + 0.52403850205t − 0.000565452T2
ここで α は「火星が円軌道を平均運動していると仮定した場合の Ls」(単位は°)、t は2000年1月1日12時からの経過日数、T = t/100。

この式を信用すると、t = 0 のとき α = 270.389… なので、2000年1月1日には、火星は冬至の少し後だったらしい。t は1日 0.524° ほど増える。360° をこの係数で割ると約687日。上述の通り、火星の1年の日数(地球時間で測った場合)だ。α = 270.389… と見比べると、ちょうど前日、1999年12月31日が冬至となるが、実際の火星軌道は楕円なので、数日程度の誤差はある。2次の係数が負なので、現在、火星から見た太陽の動きは、春分点を基準とする座標系において、わずかに減速中(=火星の1年はほんの少しずつ長くなっている)らしい。

まぁ、遊び半分の計算なので、細かい解釈は気にしないことにしよう!

【3】 2022年7月21日12時は、2000年1月1日12時の8237日後。

2020年1月1日までが 20年 = 365.25 × 20 = 7305日①(2000年もうるう年であることに注意)、そこから2022年1月1日までが 366 + 365 = 731日②、そこから7月1日までが 31 + 28 + 31 + 30 + 31 + 30 = 181日③。7月21日は7月1日の20日後④。①+②+③+④ = 8237。

従って、2022年7月21日0時は t = 8236.5。これを《あ》に代入すると:
  《い》 α ≈ 4586.632° = 266.632°

270°とは少しずれてるようだが、これは円軌道を仮定した値だった。楕円軌道に基づく値にするためには、中心差を補正しなければならない。同じ資料によると、この t に対して:
  平均近点離角 M ≈ 4335.477° = 15.477° ←0.270129869…ラジアン
  軌道の離心率 e ≈ 0.0934228 ←地球の離心率0.016…と比べると、円とのずれが結構でかい
この資料では、6次の中心差の式が与えられている。略算式の分際で6次とはバランスが悪い気もするが(地球軌道の略算なら2次式くらいで十分)、離心率がでかいので仕方ないのかな…。とりあえず言われた通りに計算してみると:
  《う》 中心差 ≈ 0.056125398…ラジアン ≈ 3.215°
これを《い》に足すと Ls = 269.847° となる。1日で 0.5° ほど増えるのだから、24時間後には 270° を超えている。つまり、2022年7月21日0時~24時のどこかで、火星は冬至を迎える。

だが、6次の中心差の計算なんてやり過ぎでは…? 検証のため、ケプラー方程式を直接解いてみる。M と e が上記の値として、ケプラー方程式
  E = M + e sin E  ←この M, E はラジアン単位
を考える。この式を満たす離心近点離角 E を逐次近似で求めると E = 0.297516457…。そのとき真近点離角 v は、次の公式の 2 arctan から v = 0.326247076… となる:

従って、真の中心差は v − M = 0.056117206… ラジアン ≈ 3.215° となり、詳しく調べると、最初の計算は小数点以下4桁目がずれている。この略算式の最終的な有効数字は、角度の小数3桁程度なので、4桁目がずれると有効数字にも多少影響が及ぶ。中心差を6次も補正しているのは「やり過ぎ」ではなく、まぁ妥当な線(というより、これでもまだ精度が足りないくらい)のようだ。

【4】 略算式では、他の天体からの影響(摂動)も考慮されている。それによると、火星の軌道を乱す一番の犯人は、もちろん巨大な木星: 最大0.01°程度の影響がある。地球は、木星と比べれば質量が小さいが、火星のすぐそばにいるので、地球の重力も火星の軌道を乱す。同様の理由から、金星もある程度、火星の軌道に影響する。われわれの t(2022年7月21日0時)における主な「軌道の乱れの成分」を合計すると、計算が正しければ:
  《え》 −0.0087…°
結局、このときの Ls は《い》《う》《え》を足し合わせて 269.8390…°(中心差の補正において、ケプラー方程式を直接解くと 269.8386…°)。

t を 1 増やして、2022年7月22日0時の Ls を同様に計算すると 270.4680…°(ケプラー解 270.4675…°)。つまり1日で、およそ 270.468° − 269.839° = 0.629° 増えている。Ls = 270° になるためには、最初の t に対する値から見て、270° − 269.839° = 0.161° 増えればいい: そのための所要時間は 0.161/0.629 = 0.25596…日 = 約6時間9分。つまり、火星の冬至は、2022年7月22日6時10分ごろと推定される!

同じ略算式を使って Ls の変化を直接1分刻みで調べると、冬至の時刻は6時08分(ケプラー解 6時09分)くらい。誤差は±0.005°程度とあるので、それを考慮すると、誤差±10分くらい。これらの時刻は太陽系力学時であり、通常の時刻UTCと1分ほどずれているが、それは誤差の範囲に吸収される。

火星暦36年の冬至 = 地球の2022年7月21日6時(日本時間15時)ごろ

【5】 木星・地球・金星の摂動は補正されているが、火星の月フォボスとデイモスの影響については、言及されていない。火星のすぐそばにあるので、当然、火星の自転軸の向きに影響を与えるだろうが、地球の月と比べ桁違いに質量が小さいので、比較的影響は小さいのだろう(対照的に、地球は月の重力の影響を受けまくる)。

そもそもこの略算式では、1火星年より短い周期の成分(0.0001°のオーダー)は無視されている。めまぐるしい周期で火星の周りを回るフォボスやデイモスの重力で、火星の自転軸が微妙にふらつくとしても、直接的影響は短周期の振動だろう。

他方において、Including those short-period terms advances the date of Ls = 0 by 0.000377 ± 3.22 × 10−6 days, but would yield a vernal-equinox direction that oscillates through a [Mars Year]. とも記されている。advances が「定数で増える」という意味なら、(振動を除去した)影響の主要部分について《あ》の定数項を補正すればいいし、「線形で増える」という意味なら《あ》の1次の係数を補正すればいいようにも思えるが、真意が不明確。「春分点の方向が複雑に動く」のは地球天文学では当たり前のことで、事実として受け入れるしかないことだが、火星天文学では考え方が違うのだろうか…。

有効範囲500年程度で0.005°精度の略算式なら、歳差を無視しようが、近日点移動を無視しようが、実用になるだろうけど、《あ》は歳差込みなのだろうか。春分の話をするなら、春分の定義をもうちょっと詳しく書いてくれてもいいのに、ちょっと不親切な資料だ(真春分点じゃないことは確か)。

最近、純粋で繊細な数論の遊びばかりやってたので、久々にこういう文献を見ると「天文学者って、なんか大ざっぱだなぁ」って感じてしまう(笑)。sin の引数 M の単位が「角度の度」なのに、並べて書いてある摂動の式の cos の引数がラディアン単位なのは(文脈から意味は明らかとはいえ)いいかげん過ぎるぜ。

ところで「冬至」というのは北半球の話で、火星の南半球では「夏至」ってことになる(逆かもしれないが)。地球でも火星でも、惑星全体の話をする場合にまで北半球基準で「春分」などと表現するのは、ある意味「ヨーロッパ・北米中心思想=オーストラリア・南米などへの軽視」の現れであり、必ずしも好ましいことではない。「北が上」という地図や太陽系の描き方についても、潜在的には同様の問題がある。

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2023-10-08 今年は6年前と曜日が同じ…? バースデイ・メッセージの定理

17歳の誕生日のお祝いメッセージに「今日はあなたが生まれた日と曜日も同じですね♪」と書き添えると、喜ばれるかもしれない。

このバースデイ・メッセージ、約75%の人に対して、21世紀の間は正しそうだ。17歳では曜日が巡回しない人もいるが、大抵、11歳か17歳(場合によってはその両方)のとき、このようなメッセージが成り立つ。正確な仕組みは、以下の通り。

「2000年3月1日が水曜日で、例外なく4年に1回うるう年があるシンプルなカレンダー」を考え、それを単に「ユリウス暦」と呼ぶことにする(1901年~2099年の期間については、この暦は現実と一致)。便宜上、1月・2月は前年に属するものとする――例えば「2023年」という言葉で、西暦2023年3月1日から翌2月末日までの1年間を表す。

規則1 4で割り切れる年の日付は、5年前の同じ日と曜日が同じ。
  【例1】 2024年3月1日は金曜 ⇒ 2019年3月1日も金曜
  【例2】 2025年1月1日は水曜(計算上まだ2024年!) ⇒ 2020年1月1日も水曜
規則2 それ以外の年の日付は大抵、6年前の同じ日と曜日が同じ。
  【例3】 2023年3月1日は水曜 ⇒ 2017年3月1日も水曜
  【例4】 2022年3月1日は火曜 ⇒ 2016年3月1日も火曜
規則3 ただし4で割って1余る年に限っては、11年前と曜日が同じ。
  【例5】 2025年3月1日は土曜 ⇒ 2014年3月1日も土曜(この11年間には「3月1日が土曜になる年」が他にない)

〔補足〕 規則2によれば、2024年2月29日・木曜日(2023年扱い)は「2018年2月29日」と同じ曜日のはずだが、実際には、2018年には「2月29日」がない。このような場合、「2月29日」に当たる実在の日付(2月28日の翌日3月1日)と曜日が一致。

規則1~3(成り立つ理由については後述)を「未来方向」に言い換えると、こうなる。

西暦年数(1・2月は前年に属する)を4で割った余りと曜日の循環
余りその日が同じ曜日になる年循環パターン
次回・次の次・3回目4回目
06年後 17年後23年後28年後6, 17, 23, 28
111年後 7, 12, 18, 29
2 22年後13, 19, 24, 30
35年後 8, 14, 25, 31

「循環パターン」は単なる検算用のツール。基点を2000年~2003年のどれかとして、例えば、余り1の2001年から始めると、次回は6年後の2007年、それは余り3なのでそのまた次回は5年後の2012年、それは余り0なのでそのまた次回は2018年…等々。下位2桁を読んで、71218…としたもの。このパターンから、最初の「余り」(0~3)を引き算したものが、「次回」「次の次」「3回目」…などの、○年後という正味の年数に当たる。

表から、次の事実が読み取れる。

バースデイ・メッセージの定理 ユリウス暦の「4で割り切れない年」の日付について、11年後の同じ日は、同じ曜日。「4で割って余りが2以下の年」の日付について、17年後の同じ日は、同じ曜日。一方、28年後の同じ日付は、例外なく同じ曜日。

 【例6】 2025年・2026年・2027年の3月1日は、それぞれ土・日・月 ⇒ 11年後、2035年・2036年・2037年の3月1日も土・日・月
  【例7】 2000年・2001年・2002年の3月1日は、それぞれ水・木・金 ⇒ 17年後、2017年・2018年・2019年の3月1日も水・木・金

「1月・2月」の年数の解釈が、普通と違うことに注意――例えば、2012年1月生まれの人は、この計算上では、出生年が2011(4で割り切れず、4で割って3余る)。日付(誕生日)は「3月1日」でなくても構わない。現実のカレンダー(グレゴリオ暦)は、ユリウス暦より少し複雑。計算期間にグレゴリオ暦の「例外の年」(100で割り切れて400で割り切れない)が含まれる場合、パターンが乱れる。ただし、次にそれが起きるのは2100年2月。当分の間、上の考え方で実用になる。

*

平年の日数 365 は 7 の倍数より 1 大きい(つまり 365 を 7 で割ると 1 余る)。うるう年の日数 366 は 7 の倍数より 2 大きい。そのことから、次の原則が成り立つ。

特定の年月日の曜日が分かっているとして、その年が平年なら、翌年の同じ日は「次の曜日」。さもなければ(考えている特定の年月日がうるう年に属するなら)、翌年の同じ日は「次の次の曜日」。

〔注〕 この計算上の「平年・うるう年」は、「その特定の年月日からちょうど1年後までの期間に、2月29日が含まれるか?」で決まる。言い換えると、1月・2月を前年の13月・14月のように扱い、14月に29日があれば、前年の3月以降を「うるう年」と見なす。例えば、2023年3月1日から2024年2月末日までは「うるう年」、2024年3月1日から2025年2月末日までは「平年」。

ユリウス暦では、2月29日以外の日付の曜日は、次のように28年周期で単純に循環する――つまり、同じ日付は、毎年、次の曜日・次の曜日…と一つずつ進むが、2月29日が挟まると一つジャンプして次の次の曜日になる(2月29日のせいで曜日が1個余計に消費されるため):

2000年~2027年の3月1日の曜日
*印では2月29日のせいで曜日が一つ飛ぶ
(2028年以降は28年前の反復)
20002001200220032004200520062007
*水*月
2008200920102011 2012201320142015
*土 *木
2016201720182019 2020202120222023
*火 *日
2024202520262027 2028202920302031
*金 (*水)(木)(金)(土)

規則1~3の理由は次の通り。

規則1の理由 *印の年から過去に5年戻ると、「うるう年ジャンプ(*印)が2回挟まる」結果として、曜日が7個巻き戻って、もともとの曜日と同じになる(5年戻ること自体で5個戻るのと、*印で2個戻ることの合計)。

規則2の理由 *印の前年または前々年から過去に6年戻ると、「うるう年ジャンプが1回挟まる」結果として、曜日が7個巻き戻って、もともとの曜日と同じになる。

〔注〕 *印の前々年から「6年だけ」過去に戻る場合、表の上では*印が2回出現するが、6年前の*印では、うるう年ジャンプは起きない――年初を3月1日としているため、*印が示すその前日2月29日は、計算期間に含まれない。

規則3の理由 *印の翌年から見ると、5年前の同じ日付は、曜日が6個巻き戻っている(うるう年ジャンプが1回あるため)。「その前年にはもう一つ戻って、もともとの曜日と同じ」と言いたいところだが、「その前年」に戻るときうるう年ジャンプが起きるので歯車がかみ合わず、6年で曜日が8個戻ってしまう。そこからさらに5年戻ると、その5年間には「うるう年ジャンプが1回」あるので曜日が6個戻る――最初に8個戻ってしまった分と合わせて、14個戻ったのと同等。結局、11年前(6年+5年)に同じ曜日が出現。

これでだいたい合ってるっぽいが、間違いやミスタイプがあったらごめんネ…。

その他

2019-06-11 「風立ちぬ」の元ネタの元ネタ 堀の小説「風立ちぬ」の元ネタが、フランスの詩人バレリーの「風が立つ。生きなければ!」であることはよく知られているが、そのバレリーは、古代ギリシャの詩人ピンダロスの作品を引用している。その大意は「いとしき(わが)魂よ、不死の(無限の)命を望むな。そうではなく、おまえが持つ(有限の)ものをフルに使うのだ!」 シリア語(筆者の趣味)では「風」は「霊、命」と同じ単語なので、バレリーのイメージは何となく分かる気がするし、ピンダロスの言葉と堀の物語もすごくつながっている感じがするが、ピンダロスのギリシャ語は、アッティカともホメーロスともコイネーとも違う方言らしく、難しいというか読みにくい。簡単な言葉(ただの冠詞の方言バージョン?)が理解できない。調べて慣れる必要がある。

「生きめやも」という堀の言葉は「生きるもんか!」「生きようよ!」のどっちの意味なのか曖昧な感じがするが、元ネタの元ネタのピンダロス自体「無限になんて生き(られ)るものか」「だから精いっぱい生きるんだ」という二重性を持ってるんじゃね?

つまりアンパンマンの歌と同じロジック(=終わる命だから、生きる喜びがある)なんじゃね?

2019-11-27 手塚治虫@エスペラント語

ふと思い立って、ウィキペディアで「手塚治虫」を見てみた。オリジナルの名前(ミラーリングなし)を使っている例は、次の通り。

エスペラント語版 Tezuka Osamu

ラテン語版 Tezuka Osamu

ハンガリー語版 Tezuka Oszamu

中国語版 手塚治虫

韓国語版 데즈카 오사무

エスペラントは(一応)理想主義的なので、多文化を尊重するのは、それほど不思議ではない。ラテン語がこれなのは、ちょっと意外だった。ハンガリー語以下は、ひっくり返さないのがそれぞれのデフォなので、これで普通なのだろう。日本語版でも「ベラ・バルトーク」ではなく「バルトーク・ベーラ」になっている(意外と進歩的)。英語版も早く多文化尊重に変わってほしい…。漫画・アニメのキャラでは、まだ両方あるものの、商用でもミラーリングしないこと(日本語オリジナルの順序)は珍しくなくなっている。ちなみにプロの碁の世界では、アジアの名前をミラーリングしないのが昔からの公式らしい。リアルでは本人がひっくり返したいなら、別にひっくり返せばいいと思うけど、自分の好みとしては、キャラ名はひっくり返さず、sensei senpai -san -kun -chan なども全部残してほしい(フランスの小説の翻訳で「マドモアゼル」とかをそのまま使うのと同じ理由)。そうでないと「-san があるなしの距離感」とか「いつの間にか -san から -chan に変わる場合」の微妙さとか「-chan を付けないで呼び捨てにして♪」的な場面のニュアンスが失われてしまうから(笑)。

2019-11-24 イタリアのラーメンはスパゲッティーっぽい?

ラーメンのことは詳しくないのですが、極太麺ですよね(伸びちゃったわけではない)。そしてイタリア人好みに、アル・ダンテ(歯応えしっかり)らしい(笑)。写真を撮った友人いわく「この店の特徴なのか、イタリア全体でこんな感じなのかは不明」。

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お箸を使えない人のために、フォークも付いてきます(ますますスパゲッティーっぽい)。ラーメンマニアの人は、いろんな国のラーメンを食べると、エキゾチックな体験ができるかも?!

2019-12-08 イタリアンなおすし(大豆風味のサルサ添え)

コン・サルサ・アッラ・ソヤ ← これだけ聞くと、高級っぽそう(笑)

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「大豆風味のサルサをトッピングなさいますと、おいしくいただけましてよ。おほほ」

訳「しょうゆでもかけて食うか」

2020-03-11 エチオピア文字の ǧē の書き順

ǧē の文字(右)は、おおざっぱに言って (左)の上にT字型のマークを付け足したもの。これ自体はよくあるパターンなのだが…

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学習者用に書き順を付記してくれる Geez Handwriting with Arrows フォントでは、右下の小円の部分を書く方向が異なる。ǧē では「道なり」に時計回りに進むが、 では小円に入るとき右折して反時計回りに進む(次の画像の2番の矢印の向きに注目)。

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実用上、書き順なんて好き好きでいいんだろうけど、教材的フォントでこの不統一には何か意味があるのだろうか…?

2020-04-03 エチオピア文字の筆順「意図的でない」 フォント作者

Geez Handwriting フォントの ዴ と ጄ の右下の丸が逆回りになっているのは、意図的でなく、作者自身もどっちが正しいか分からないとのこと。メールで質問してみたら、作者は実はアムハラ語・ティグリニャ語などに詳しいわけではなく、書き順は半ば適当らしい。識字率が高まれば…という願いがあって「書き順なんて細かいことにこだわらず、とりあえず文字に親しみましょう」みたいな意図だったようだ。ቶ の左の横棒と円の部分が一筆書きになっているのも「筆記体はこうなのか」と感心していたが、これも案外適当だったのかも…。そんな事情とは知らず、これをお手本に、真面目に練習してしまった。

特にアムハラ語に興味があるわけではないんだけど、世界中のいろんな文字を眺めてると楽しいよね(学問とかそういうんじゃなく、一種の趣味)。特にセム系の言語全般が何となく好きで、アラビア語・ヘブライ語・シリア語など、全部それなりに夢中になったことがある。そのうちシリア語(アラム語)だけは5年くらい熱中して、簡単なものなら結構読めるようになったが、ヘブライ語は難しく、アラビア語はさらに難しく、何度か挑戦したが、なかなか…。文字自体は30種類くらいで簡単に覚えられるけど…。まあそんなこんなでサマリア語やゲエズ語、アムハラ語までかじったこともあるが、しょせん趣味。アディスアベバ አዲስ አበባ が「ኣዲስ ኣበባ」のように聞こえる理由が分からず悩みまくったり、初心者丸出しだった。

ネイティブ話者が実際に書いた「リアルの文字」のサンプル(発音の録音付き)は、Amharic で見ることができる。

これら全部を合計したものより、日本語はさらに難しい。シリア文字、ヘブライ文字など(日本語以外)を全部忘れて一から覚え直すのと、日本語の文字を全部忘れて一から覚え直すのと、どちらかを選ばなければならないなら、迷わず前者を選ぶ。

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 2023-10-23 コイン投げ: 同じ面が上になりやすい 51%の偏り

Coin flip は五分五分のランダム事象ではなく、次の意味で50.8%前後の偏りがある: 「初期状態で表が上のとき、表になるか裏になるか五分五分」という仮説と「初期状態で裏が上のとき、表になるか裏になるか五分五分」という仮説は、統計学上の普通の基準によれば、棄却される。他方「初期状態がランダムのとき、片方の面が出やすい」という仮説も棄却されるので、無作為なコイン投げは公平と考えられる。

要するに「初期状態を特定したコイン投げ」は、意図的かどうかはともかく「無作為なコイン投げ」とはいえない。

「人間がコインをトスする」という身体の動作・その結果によるコインの挙動には、物理的にモデル化可能な、確率的偏りが残るらしい。それは理論的に約51%と予想されていて、実験結果でもほぼそうなった。表から始めるか裏から始めるかをランダムに選択すれば、結果的には公平(五分五分)になるが、意識して表(裏)から始めるなら、表(裏)になる可能性に賭けたら、ほんの少し有利に…?w

雑学的には面白いが、くだらないといえばくだらない研究である。「この研究プロジェクトは、アムステルダム大学の倫理委員会の承認を得ている」という注意書きが、ほんのり笑える…

https://arxiv.org/abs/2310.04153
Fair coins tend to land on the same side they started: Evidence from 350,757 flips

このデザインはダブル・ブラインドに相当するのだろうか。もしも参加者が実験の目的を知っていて「同じ面が出やすいらしい=この直観に反する理論を検証したい」と思い込んでいる場合、そのことが結果に影響する可能性をルールアウトできないような気がする。「無意識的に脳がイカサマに加担する」みたいな…。この懸念は論文自体にも記されていて「そのような可能性は低いけれど、きちんと否定するためには、研究目的を隠して再実験するべきだろう」と示唆されている。

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2023-12-23 SSH の「Terrapin 攻撃」 大抵は影響がない模様

https://terrapin-attack.com/

https://www.chiark.greenend.org.uk/~sgtatham/putty/wishlist/vuln-terrapin.html

https://nvd.nist.gov/vuln/detail/CVE-2023-48795

理論 暗号化オプションで ChaCha20+Poly1305 または別の種類のまれな組み合わせが使われた場合、MitM による downgrade attack が成立する可能性がある。

実際 多くのサーバーでは ChaCha の他にも AES オプションが提供されている。デフォルトでは PuTTY は AES を優先するので、この攻撃は成り立たない。しかし、①ユーザーが手動で ChaCha の優先順位を AES より高くしている場合、または②AES をサポートしていないサーバーとの接続で、ネゴシエーションの結果、優先順位の低い ChaCha にフォールバックした場合、攻撃が成立する可能性がある。

対策 サーバー側、クライアント側の両方が安全なオプションを提供・使用する必要があるようだ。多くのサーバーは、もともと AES を提供している。クライアント側も、大抵もともとデフォルトで安全な上、既に問題を緩和するバージョンが公開されている。例えば最新の PuTTY 0.80 は、安全でないアルゴリズムが選択された場合に警告メッセージを出す。

実際の影響は小さいと思われるが、「危険があれば警告してくれるバージョン」にしておけば、一応、気休めになるだろう。仮に安全でないアルゴリズムが選択されて警告が出たとしても、通信を監視して介入する攻撃者が途中にいない限り、何も問題は起きない。

参考 Windows 用の WinSCP は、現在、正式バージョンは2023年9月の 6.1.2 のままだが、ベータ版として12月22日付けで 6.2.2 beta が公開されている。ダウンロードページには PuTTY 0.79 とあるが、実際には 0.80 にアップデートされていて、上記の Terrapin 対策が含まれている。現在の Windows には OS 自体に根源的な懸念(独占力を背景とした横暴など)があるため、モダンな自由 OS への乗り換え(少なくとも併用)を真剣に検討する時が来ていると思われる。

付記 一般論として MitM からの防御という意味では、Tor 経由でつなぐことでも攻撃ベクターを限定できる可能性がある(Tor の入り口・出口ノード自身が悪意でない限り、中間での MitM は困難)。 Tor は本来プライバシーツールだが、少なくとも MitM 対策という観点から言うと、「中間者による監視・検閲を防ぐ」ということから、プライバシーとセキュリティーの両面での効果があるかもしれない。

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