他のメモへのリンク集。リンク集を飛ばして、このページの前書きへ。本文の目次へ。21、22などの数字は、メモの番号です。
きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。
お札の肖像などは格好よく描くのがお約束とはいえ、ずいぶん偉そうなオイラー。
2025-04-06 1 + 1/22 + 1/32 + … = π2/6 の別証明 ☆総和記号不使用☆
12, 22, 32, ··· という平方数。それらの逆数を無限に足し合わせると、「円周率の平方÷6」に等しくなる。なんともミステリアスな現象だ!
その簡単な証明を既に紹介したが、「簡単な」といっても、総和記号の繊細な処理が必要だった。総和記号 ∑ や積分記号 ∫ ってやつは、慣れてしまえば「これほど便利なツールはない」とも思えるが、なにやら小難しいムードを漂わせてるのも事実。以下で記す別証明では、これらの難しい(?)記号を一切使わない。しかも、入り口の部分が大変美しく、後半も面白い。楽しい散歩道だ。
だが、うまい話には裏があるんだぜ。最初に紹介した「簡単な証明」は、三角関数の基本さえ知ってれば他にはほとんど予備知識不要、という内容だった。それに対して、今回の別証明では、三角関数の基本に加えて、二項定理が必要(二項係数の操作は不要で、定義だけ知ってれば十分だが)。のみならず「ド・モアブルの定理」「多項式の根と係数の関係」も必要で、一瞬だが複素数の範囲で考えなければならない。一般向けっていうより、高校生向けかも。複素数が嫌いな方には、向かないかな。その代わり、総和記号が苦手でも安心、みたいな?
この味わい深いアイデアは、1970年代に Holme [1] と Papadimitriou [2] によって、独立して公表された。総和記号を使わないアレンジは一見不可能(不自然)なようだが、やってみたら意外とできた。以下の記述のほとんどは [2] と [7] に基づく。便宜上、三つの部分に分ける。
〔追記〕 書き終わってから知ったことだが、同様の証明のアイデアは古くからあり、この形式で最初に軽妙にまとめたのは Yaglom 兄弟 [6] のようだ。このメモの続編や補足編も公開した。(2025年4月11日)
第一部
cot θ は、 tan θ の逆数つまり
1/(tan θ) を意味する(「コタンジェント(cot)プチ入門」参照)。 180° = π を n 等分した角度のうち(n は 3 以上の奇数)、 0° より大きく 90° より小さい角度に対する cot2 を足し合わせると、次のような印象的なパターンが現れる。
cot2 (π/3) = (1)/3
cot2 (π/5)
+
cot2 (2π/5)
=
(1 + 2 + 3)/3 = 2
cot2 (π/7)
+
cot2 (2π/7)
+
cot2 (3π/7)
=
(1 + 2 + 3 + 4 + 5)/3
=
5
cot2 (π/9)
+
cot2 (2π/9)
+
cot2 (3π/9)
+
cot2 (4π/9)
=
(1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7)/3
= 28/3
証明については後回しにして、とりあえず「なかなかきれい」。一般に n = 2m + 1 を 3 以上の奇数とすると:
cot2 [π/(2m+1)]
+
cot2 [2π/(2m+1)]
+
···
+
cot2 [mπ/(2m+1)]
=
m(2m − 1)/3 《あ》
本題と関係ないが、《あ》右辺の分子 m(2m − 1) は、 1 から 2m − 1 までの整数の和に等しい(三角数の一種)。事実、
1 + 2 + ··· + A = A(A + 1)/2
という基本公式に A = 2m − 1 をぶち込むと、こうなる:
1 + 2 + ··· + (2m − 1) = (2m − 1)(2m)/2 = (2m − 1)m
さて、《あ》の証明を後回しにしたままで、「《あ》を使えば、無限の和 1 + 1/4 + 1/9 + 1/16 + ··· の答えが意外と簡単に出る」ってことを先に示す。
0 < θ < π/2 のとき tan θ > θ > sin θ なので†(そしてそれらの数は正なので)、それぞれの逆数を考えると:
cot θ < (1/θ) < csc θ ← 数が大きいほど逆数は小さい。 csc は sin の逆数
∴ cot2 θ < (1/θ)2 < csc2 θ ← 上記の数は全部正。それぞれ平方しても大小関係は不変
csc2 θ = 1 + cot2 θ なので、次の関係が成り立つ。
0 < θ < π/2 ならば
cot2 θ < (1/θ)2 < 1 + cot2 θ
今、 θ = π/(2m+1)
の場合や
θ = 2π/(2m+1)
の場合などについて(0 < θ < π/2 という前提で)、上記の不等式を考えると:
cot2 [π/(2m+1)] < ((2m+1)/(π))2 < 1 + cot2 [π/(2m+1)]
cot2 [2π/(2m+1)] < ((2m+1)/(2π))2 < 1 + cot2 [2π/(2m+1)]
︙
cot2 [mπ/(2m+1)] < ((2m+1)/(mπ))2 < 1 + cot2 [mπ/(2m+1)]
これら m 個の不等式を縦に足し合わせ、 cot2 の和の公式《あ》を使うと、こうなる:
m(2m − 1)/3 < S < m + m(2m − 1)/3 《い》
ただし S は真ん中の列の和で、具体的には次の通り。
S
=
((2m+1)/(π))2
+
((2m+1)/(2π))2
+
···
+
((2m+1)/(mπ))2
=
((2m+1)/(π))2 × [1 + (1/2)2 + ··· + (1/m)2]
=
(2m + 1)2/(π2) × [1 + 1/22 + ··· + 1/m2] 《う》
《い》の右辺を通分すると 3m/3 + (2m2 − m)/3
=
(2m2 + 2m)/3
=
m(2m + 2)/3
なので、《い》をこう変形できる。
(1/6)(2m)(2m − 1) < S < (1/6)(2m)(2m + 2) 《え》
S つまり《う》の × の前の分数を除去するため、不等式《え》で大小を比較されている三つの値を、それぞれ π2 倍して (2m + 1)2 で割ると:
(π2/6)((2m)/(2m + 1))((2m − 1)/(2m + 1)) < 1 + 1/22 + ··· + 1/m2 < (π2/6)((2m)/(2m + 1))((2m + 2)/(2m + 1))
m が ∞ に向かうとき、この不等式の左辺も右辺も π2/6 に向かう。というのも、
左辺の因子 (2m)/(2m + 1)
=
((2m + 1) − 1)/(2m + 1)
=
1 − (1)/(2m + 1)
は、 m が ∞ に向かうとき 1 に向かうし(なぜなら、そのとき (1)/(2m + 1) は 1/∞ = 0 に向かう)、
因子 (2m − 1)/(2m + 1)
=
((2m + 1) − 2)/(2m + 1)
=
1 − (2)/(2m + 1)
についても同じことがいえる。右辺の因子についても同様。
従って、 m が ∞ に向かうとき、左右二つの極限値の間にある和
1 + 1/22 + ··· + 1/m2
もまた、 π2/6 に向かうしかない。
エレガントな議論だが、この証明を完成させるためには、《あ》が正しいことを示さなければならない。
† 「小地域が大地域の一部なら、小地域の面積は大地域の面積より小さいじゃん?」(当たり前)みたいな話(図解)。
第二部
《あ》を証明するための準備として、ド・モアブルの定理を使って、三角関数の「多倍角の公式」を導く。それ自体は古典的な操作で応用範囲も広いが、ここでは cot2 の和がターゲットなので、普通の多倍角とはちょっと違う形式を利用。
ド・モアブルの定理、
cos nθ + i sin nθ = (cos θ + i sin θ)n
から、次のように sinn θ をくくり出そう。
= [sin θ (cos θ/sin θ + i)]n
= sinn θ (cos θ/sin θ + i)n
= sinn θ (cot θ + i)n 《お》
《お》によると、例えば n = 3 なら:
cos 3θ + i sin 3θ = sin3 θ (cot θ + i)3
= sin3 θ (cot3 θ + 3⋅i1⋅cot2 θ + 3⋅i2⋅cot θ + i3)
= sin3 θ (cot3 θ + 3i cot2 θ − 3 cot θ − i)
両辺の虚部の比較から(実部と虚部に分けて虚部だけを取り出す)、
sin 3θ = sin3 θ (3 cot2 θ − 1)
仮に y = cot2 θ と置けば:
sin 3θ = sin3 θ (3y − 1)
つまり sin 3θ = sin3 θ × (y についての1次式) の形になる。
また例えば n = 5 なら:
cos 5θ + i sin 5θ = sin5 θ (cot θ + i)5
= sin5 θ (cot5 θ + 5⋅i1⋅cot4 θ + 10⋅i2⋅cot3 θ + 10⋅i3⋅cot2 θ + 5⋅i4⋅cot θ + i5)
i の偶数乗は実数、奇数乗は虚数なので、 cot θ の奇数乗を含む項は実数、偶数乗を含む項は虚数。虚部の比較から:
sin 5θ = sin5 θ (5 cot4 θ − 10 cot2 θ + 1)
y = cot2 θ と置けば:
sin 5θ = sin5 θ (5y2 − 10y + 1)
つまり sin 5θ = sin5 θ × (y についての2次式) の形になる。
一般に n が正の奇数のとき、 sin nθ = sinn θ (···) の (···) は、 y つまり cot2 θ についての多項式になる。実際、《お》に二項定理を適用して、虚部だけを抜き出すと、次の通り(二項定理によって生じる ik の形の因数は、 k の値に応じて ±i or ±1 に置き換わる。虚部だけを抜き出すなら、それは各項の頭の符号に置き換わり、 + と − が交互に現れる)。
sin nθ = sinn θ [(n C 1) cotn−1 θ − (n C 3) cotn−3 θ + (n C 5) cotn−5 θ − ···]
n が奇数 2m+1 なら、 n−1 = 2m は偶数、 n−3, n−5, ··· は 2 ずつ小さくなる偶数であり、上の式はこうなる:
sin nθ = sinn θ [(n C 1) cot2m θ − (n C 3) cot2m−2 θ + (n C 5) cot2m−4 θ − ···] 《か》
∴ sin nθ = sinn θ × (cot θ についての 2m 次式)
∴ sin nθ = sinn θ × (y についての m 次式)
y = cot2 θ なので、 y の指数は cot θ の指数の半分。
y についてのこの m 次式――つまり《か》の [ ] 内――を f(y) としよう:
f(y) = (n C 1) ym − (n C 3) ym−1 + (n C 5) ym−2 − ···
n = 2m+1 なので:
f(y) = (2m+1 C 1) ym − (2m+1 C 3) ym−1 + (2m+1 C 5) ym−2 − ··· 《き》
以上をまとめると、《か》はこうなる:
sin (2m+1)θ = sin2m+1 θ × f(y) 《く》
ここで y は cot2 θ であり、 f(y) はその y を入力とする m 次式。要するに《く》は、「θ の奇数倍の角度に対する sin の値」(sin 3θ, sin 5θ, sin 7θ など)を、「sin θ の奇数乗」と「y(つまり cot2 θ)についての多項式」の積として、表したもの。いわゆる「3倍角の公式」「5倍角の公式」等々の一種だ。
〔注〕 多倍角の sin や cos を「シンプルな sin θ と cos θ の組み合わせ」で表すのが、通常の発想。けれど、ここでは cot2 θ に関する式《あ》の導出が目的であり、 cot2 θ を使った表現《く》が絶妙な働きをする(下記)。
第三部
《く》の左辺は、ゼロになり得るであろうか?
θ = 0° なら左辺は sin 0° = 0 だが、ここでは 0° < θ < 90° と仮定しているので、角度 (2m+1)θ が 0° ということはない。しかし角度が 0° でなくても、 180° や 360° に対する sin の値もゼロだ。例えば 2m+1 = 3 として sin 3θ が 0 に等しくなり得るか。もし θ = 60° なら sin 3θ = sin 180° はゼロなので、答えは yes。もしも θ = 120° という選択が許されるなら、そのときも sin 3θ = 0 だが、この議論の仮定上では θ が 90° 以上になることは許されていない。よって、この例では、 θ = 60° が、 sin (2m+1)θ = sin 3θ の値をゼロにするための唯一の選択肢。
また例えば 2m+1 = 5 として sin 5θ が 0 に等しくなり得るか。 θ = 36° なら sin 5θ = sin 180° = 0 なので、答えは yes。のみならず、その 2 倍の θ = 72° の場合にも sin 5θ = sin 360° = 0 だ。もしも 36° の 3 倍という選択が許されるなら、そのときも sin 5θ = 0 だが、それは仮定上、許されていない。よって、この例では θ = 36° とその 2 倍の角度の二つが、 sin (2m+1)θ = sin 5θ の値をゼロにするための選択肢。
同様の理屈から、 3 以上の奇数 2m+1 が与えられたとき、 θ が 180° = π の 1/(2m+1) の角度であれば (2m+1)θ = 180° になって、それに対する sin の値はゼロになるし、より一般的に θ が 180° = π の k/(2m+1) の角度のときに(k: 整数)、すなわち
θ = kπ/(2m+1)
のときに、 (2m+1)θ は π の k 倍だから、それに対する sin の値はゼロになる。ただし、ここでは 0 < θ < π/2 という制約があるので、
θ = kπ/(2m+1) (k = 1, 2, ···, m) 《け》
のちょうど m 個の角度だけが、条件を満たす。もしも k = m+1 だったら、
θ = (m+1)π/(2m+1)
=
(m+1)⋅2/(2m+1) × π/2
=
(2m+2)/(2m+1) × π/2 > π/2
となって条件に反するので、 k が m+1 以上になることはできない。《け》の m 種類の θ の他に、条件を満たす角度がないことは、明らかだろう。
結局 θ が《け》の m 種類の値のいずれかのとき、《く》の左辺はゼロになる――そのとき、それに等しい《く》の右辺 sin2m+1 θ × f(y) も、当然ゼロになる。しかし θ は 0° より大きく 90° より小さいので sin θ ≠ 0 であり、 0 でない数の 2m+1 乗も sin2m+1 θ ≠ 0 であるから、《く》の右辺がゼロになるということは、必然的に f(y) = 0 を意味する。
次のロジックは、本質的に難しい内容ではないものの、微妙にトリッキーかも。 f(y) = 0 は y についての m 次方程式なので、その解は m 個以下だが、 f(y) = 0 を満たす m 種類の実数 y が存在することは、実は既に判明している――というのも、
θ の値が《け》のいずれか ⇒ 《く》の両辺はゼロ ⇔ f(y) = 0
であるが、 y というのは cot2 θ のことなので、
θ の値が《け》のいずれか ⇒ f(y) = f(cot2 θ) = 0
だ。ところが θ は 0° より大きく 90° より小さいので、《け》の m 種類の角度に対する tan θ の値は相異なり、従ってそれらの逆数の平方も相異なる。つまり、《け》の m 個の θ のそれぞれに対応する y = cot2 θ という実数は、どの二つも値が異なり、それら m 種類の y が f(y) = 0 の解なのだ。《け》を参照すると、 f(y) = 0 を満たす m 個の y の値は、次の三角関数表現を持つ。
cot2 [π/(2m+1], cot2 [2π/(2m+1], ···, cot2 [mπ/(2m+1] 《こ》
他方において、 m 次方程式 f(y) = 0 の意味は、
(2m+1 C 1) ym − (2m+1 C 3) ym−1 + (2m+1 C 5) ym−2 − ··· = 0 《さ》
であり(《き》参照)、その m 個の解の和は、解と係数の関係から、以下の通り。《さ》に関して、まず最高次より一つ下(m−1 次)の項の係数の符号を変えたもの、つまり
(2m+1 C 3)
= (2m+1)(2m)(2m−1)/3!
を考え、次に最高次(m 次)の項の係数、つまり
(2m+1 C 1) = 2m+1
を考えよう。前者を後者で割ったもの、
(2m+1)(2m)(2m−1)/3! ÷ (2m+1)
= (2m)(2m−1)/6
= m(2m−1)/3
が m 個の解の和だ。そして、それら m 個の解の一つ一つは、具体的には《こ》に等しいので、われわれは次の結論に至る。
cot2 [π/(2m+1)] + cot2 [2π/(2m+1)] + ··· + cot2 [mπ/(2m+1)]
= m(2m−1)/3
これこそが、証明したかった《あ》の関係だ。∎
この軽妙な証明法は、ロシアの Yaglom 兄弟によって 1954年の [6] に記された。
〔追記〕 初出は1953年。
А. М. Яглом, И. М. Яглом, “Элементарный вывод формул Валлиса, Лейбница и Эйлера для числа π”, УМН [Успехи математических наук], 8:5(57) (1953), 181–187
https://www.mathnet.ru/rus/rm8256
https://www.mathnet.ru/eng/rm8256
「西側」では、1970年の Finn Holme [1] によって再発見され、ノルウェー語で出版された。アテネの Ioannis Papadimitriou も独立に同じアイデアを得て、それを米国の Apostol にギリシャ語で書き送った。 Apostol は、有名な教科書複数を書いたギリシャ系米国人。1973年、 Papadimitriou の代理として英語で [2] を公表し、 1974年の自著 [3] にも、練習問題の一部として、同じ内容を収録(ζ(4) への拡張とともに)。この本によってアイデアはさらに広く知られるようになり、1999年、 Chapman [4] が ζ(2) の値について14種の証明法をリストアップしたときにも、「証明9番」として紹介された。別のメモにある2002年のオーストリアの Hofbauer の証明 [5] は、この「証明9番」などに触発されたものだという。
類似の「エレガントな証明」「初等的な証明」は繰り返し再発見・紹介され、 THE BOOK [8] にも収録されている(THE BOOK とは、「天界に、最も美しい証明だけを集めた神の証明集があるとしたら、こんな感じだろう」みたいな発想の本)。アイデアの源泉は、既に1908年の Bromwich [9] に現れる([5] の記述・文献欄参照)。 1821年の Cauchy [11] にも関連する記述がある。
以前、いわゆる Morrie の法則との関連で、
tan2 10° + tan2 30° + tan2 50° + tan2 70° = 28/3
に気付いたが、それは、第一部冒頭の、
cot2 20° + cot2 40° + cot2 60° + cot2 80° = 28/3
と同等だ。今年(2025年)、円周率の日にちなんで π2/6 についてチラッと書いたのがきっかけで、この問題の歴史について少し調べてみた。 Euler への尊敬の念が一段と深まった。
[References]
[1] Finn Holme (1970), En enkel beregning av ∑(1/k2)
https://normat.no/innhold/600dpi/1970-v18-3.pdf
(pp. 91–92 in Norwegian, Summary in English on p. 120)
[2] Ioannis Papadimitriou (1973), A simple proof of the formula ∑ k−2 = π2/6
https://www.math.uwaterloo.ca/~krdavids/M148/Papadimitriou.pdf
[3] Tom M. Apostol (1974), Mathematical Analysis, Exercises 1.49, 8.46
[4] Robin Chapman (1999), Evaluating ζ(2)
https://empslocal.ex.ac.uk/people/staff/rjchapma/etc/zeta2.pdf
[5] Josef Hofbauer (2002), A Simple Proof of 1 + 1/22 + 1/32 + ⋯ = π2/6 and Related Identities
https://homepage.univie.ac.at/josef.hofbauer/piq6.htm
[6] A. M. Yaglom & I. M. Yaglom (1954 in Russian; English tr. in 1967), Challenging Mathematical Problems with Elementary Solutions, Volume 2, Problems 142, 145
https://archive.org/details/akivaisaak-m-yaglom.-challenging-mathematical-problems-with-elementary-solutions-vol-2/page/24/mode/1up
(Original title: Неэлементарные задачи в элементарном изложении; the orig. prob. numbers 140, 143)
https://math.ru/lib/book/djvu/yaglom/ne-elem-zadachi.djvu
See also: The USSR Olympiad Problem Book, Problem 233
https://archive.org/details/shklarsky-chentzov-yaglom-the-ussr-olympiad-problem-book/page/53/mode/1up
https://math.ru/lib/book/djvu/bib-mat-kr/shk-1.djvu
(Prob. 332)
[7] Jiří Herman, et al. (1996 in Czech; English tr. in 2000), Equations and Inequalities, pp. 80–81
(Original title: Metody řešení matematických úloh I)
[8] Martin Aigner & Günter M. Ziegler (1998), Proofs from THE BOOK
[9] T. J. l’A. Bromwich (1908), An introduction to the theory of infinite series (1st ed.), Chap. IX
https://archive.org/details/introductiontoth00bromuoft/page/187/mode/1up
(2nd ed. in 1926 with T. M. Macrobert; reprinted several times, e.g. in 1949)
[10] T. J. Ransford (1982), An Elementary Proof of ∑1/n2 = π2/6
https://archive.org/details/eureka-42/page/3/mode/1up
(rediscovered; attributed to John Scholes)
[11] Augustin Louis Cauchy (1821), Cours d’analyse
https://archive.org/details/coursdanalysedel00cauc/page/556/mode/1up
2025-04-09 π4/90 = 1.082323233… バーゼル問題の次の一歩
前回、バーゼル問題 1 + 1/22 + 1/32 + 1/42 + 1/52 + ··· = π2/6 のエレガントな別証明を紹介した。同じ証明法の自然な応用として、4乗数の逆数の和 1 + 1/24 + 1/34 + 1/44 + 1/54 + ··· = π4/90 を考えてみたい。
π2 は 9.87 に近い――「987ノテッペンカラトビウツレ」(モトネタは漫画「わたしは真悟」)ってのは、この値を指す。そのまた平方に当たる π4 は、大ざっぱに 102 = 100。もうちょい精度、上げると:
9872 = (1000 − 13)2
= 100万 − 2万6000 + 132 = 97万4000 + 132
下3桁の 132 = 169 を無視すると 97.4万。 100 のオーダーの π4 にスケールを合わせれば、立派な近似値 π4 ≈ 97.4 を得る。 9 で割ると商が 10 で余り 7.4。その余りをさらに 9 で割ると 0.8222… なので:
π4/9 ≈ 10.82 つまり π4/90 ≈ 1.082
この最後の値は 1 + 1/24 + 1/34 + 1/44 + 1/54
= 1.0803… に近い。
真の値は:
π4
= 97.409091034002…
π4/90
= 1.0823232337111…
この特徴的な桁の配列は、単に「たまたま十進法ではそうなる」という偶然だろう。だが Euler も、これらの数値を導出したとき「ふ~む」と、しげしげ眺めたのではないだろうか!
単純な分数計算(少々面倒だが)によると、
1 + 1/24 + 1/34 + 1/44 + 1/54
=
1
+ 1/16
+ 1/81
+ 1/256
+ 1/625
=
14001361/12960000 ㋐
= 1.08035192 901234567 901234567 901234567···
もう1項 1/64 = 1/1296 まで足すと:
14011361/12960000 ㋑
= 1.08112353 395061728 395061728 395061728···
㋐と㋑がそっくりなのは、コピペミスではない。分母が同じまま、分子の「1万の位」だけが 1 増える。 1/1296 = 10000/12960000 という関係を考えれば、不思議ではない。だがこの和が π4/90 に接近していくのは、非常に不思議な現象だ。100項目まで足すと小数5桁まで一致、1000項目まで足すと9桁まで一致、10000項目まで足すと11桁まで一致、等々。
14, 24, 34, ··· の逆数を無限に足すと π4/90 になることを証明したい。
証明法は前回と同様で、必要な予備知識もほとんど同じ。方針の整理のため、前回の内容を振り返ってみる。任意の θ についての、次の不等式が土台となるのだった。
0 < θ < π/2 ならば cot2 θ < (1/θ)2 < 1 + cot2 θ
われわれはこの θ に m 種類の角度を当てはめ、得られた m 個の不等式を辺々足し合わせることによって、
A < S(1 + 1/22 + 1/32 + ··· + 1/m2) < B
の形を得た。ここで A, B は、どちらも cot2 を m 個含む和だが、実は有理数。 m についての有理式で表される。一つ一つの角度 θ は「有理数 × π」の形を持つ。 S はその逆数の平方和で、 m についての有理式 × 1/π2 の形を持つ。不等式の各辺を S で割ると、
A/S < 1 + 1/22 + 1/32 + ··· + 1/m2 < B/S
の形に。ここで A/S と B/S は、どちらも m についての有理式の π2 倍で、 m → ∞ のとき、同じ値(π2 の有理数倍)に向かう。この極限値こそが、
平方数の逆数の無限和 1 + 1/22 + 1/32 + ···
に他ならない。
cot2 の和が有理数になる、というのが少し不思議で面白くもある。その有理式の導出はややトリッキーだが、「計算が大変」という意味での難しさはなく、軽妙なハイキング・コースだった。
この手法を少し発展させると、
4乗数の逆数の無限和 1 + 1/24 + 1/34 + ···
も似た形―― π4 の有理数倍――に収束することが示される。それには、土台となる不等式の各辺を平方したもの、すなわち…
不等式 θ が 0° より大きく 90° より小さいとき:
cot4 θ < (1/θ)4 < (1 + cot2 θ)2 = 1 + 2 cot2 θ + cot4 θ 《し》
…を利用し、やはり θ に m 種類の角度を当てはめて辺々足し合わせればいい。その際、 cot2 の和がどうなるかは既に分かっている。新たに必要になるツールは cot4 の和の公式。それが第一の攻略目標だ。
前回 cot2 の和の公式を導出したのは、有理係数の多項式の「根の和」としてだった。全く同じ多項式の「根の平方和」を考えれば、自然と cot4 の和の公式が得られる。
簡単な具体例の観察から。2次方程式
(5)/(1)y2 − (5⋅4⋅3)/(1⋅2⋅3)y + (5⋅4⋅3⋅2⋅1)/(1⋅2⋅3⋅4⋅5)
= 0
つまり 5y2 − 10y + 1 = 0
を考える。その二つの解を y1, y2 とすると、解と係数の関係から:
y1 + y2 = −(−10)/5 = 2
2解は
cot2 (π/5), cot2 (2π/5) に等しいので、上の関係をこう書くことができる:
cot2 (π/5) + cot2 (2π/5) = 2
y についての2次式との関連では、上記は単なる根の和(1乗和)。ただし根 y が y = cot2 θ の形式で三角関数表現可能なので、その表現を使うと、見かけ上 cot の2乗が現れる。それが前回使った手法。
解と係数の関係から、解の平方和について、次の等式も成り立つ†:
(y1)2 + (y2)2 = 22 − 2⋅1/5
= 4 − 2/5
= 18/5
∴ cot4 (π/5) + cot4 (2π/5) = 18/5 《す》
三角関数表現 y = cot2 θ により cot の4乗が現れるが、上記は、 y についての2次式との関係では、根の平方和(2乗和)だ。
† x2 + bx + c = 0 の解が p, q なら p + q = −b, pq = c。つまり、方程式の係数さえ分かれば、具体的な2解 p, q の値が不明でも、2解の和 p + q や積 pq は直ちに決定される。そして、和と積が分かっていれば、
解の平方和 p2 + q2 = (p + q)2 − 2(pq)
も、容易に求まる――和と積についての上記の事実から = (−b)2 − 2(c) = b2 − 2c だ。3次方程式以上も含めて、一般に、最高次の項の係数を 1 とすると、最高次より一つ下の係数の平方から、最高次より二つ下の係数の 2 倍を引き算すれば、それが解の平方和(解説)。例えば、5次方程式 x5 + 7x4 + 4x3 + ··· = 0 の5解の平方和は 72 − 2⋅4 = 41 に等しい(この例で、具体的な一つ一つの解の値は2次以下の係数によって異なるが、5解の平方和は、3次の係数までの情報だけで確定してしまう)。
別の例として、3次方程式
(7)/(1)y3 − (7⋅6⋅5)/(1⋅2⋅3)y2 + (7⋅6⋅5⋅4⋅3)/(1⋅2⋅3⋅4⋅5)y
− (7⋅6⋅5⋅4⋅3⋅2⋅1)/(1⋅2⋅3⋅4⋅5⋅6⋅7)
= 0
つまり 7y3 − 35y2 + 21y − 1 = 0
の3解を y1, y2, y3 とすると:
y1 + y2 + y3 = −(−35)/7 = 5
3解は y = cot2 (kπ/7) の形を持つので(k = 1, 2, 3)、上の等式は、
cot2 (π/7)
+ cot2 (2π/7)
+ cot2 (3π/7)
= 5
を含意する。さらに:
(y1)2 + (y2)2 + (y3)2 = 52 − 2⋅21/7
= 25 − 6
= 19
∴ cot4 (π/7)
+ cot4 (2π/7)
+ cot4 (3π/7)
= 19 《ず》
当たり前のことのように書いてるけど(実際、論理的には当たり前なのだが)、感覚的には結構ゾクッとする。半円を7等分した割線。第一象限の3本を抜き出して、それぞれの傾きの逆数を4乗して足したら、和がきっかり整数 19 に。この現象は一体…。「同じ整係数3次方程式の3解になるんなら、普通の現象。全然驚くことじゃない」と頭では分かっていても、《ず》のような和を見ると、なんつーか「おおおっ!」と思う。
一般に 2m+1 を 5 以上の奇数として、 m 次方程式、
((2m+1))/(1)ym − ((2m+1)(2m)(2m−1))/(1⋅2⋅3)ym−1 + ((2m+1)(2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3))/(1⋅2⋅3⋅4⋅5)ym−2
− ···
= 0
が与えられたとしよう(前回の《き》《さ》だ)。両辺を 2m + 1 で割って、分数を約分すると:
ym − ((2m)(2m−1)/6)ym−1
+ ((2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)/120)ym−2 − ··· = 0 《せ》
ym − (m(2m−1)/3)ym−1
+ (m(2m−1)(m−1)(2m−3)/30)ym−2 − ··· = 0
この m 次方程式の解の平方和(m 個の解をそれぞれ平方して足し合わせたもの)は:
[m(2m−1)/3]2
− 2⋅(m(2m−1)(m−1)(2m−3)/30)
= m2(2m−1)2/9
− (m(2m−1)(m−1)(2m−3)/15)
= 5m2(2m−1)2/45
− (3m(2m−1)(m−1)(2m−3)/45)
= {m(2m−1)[5m(2m−1) − 3(m−1)(2m−3)]}/45
分子の [ ] 内を展開すると
10m2 − 5m − 3(2m2 − 5m + 3) = 4m2 + 10m − 9
なので:
上記の分数 = m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45
〔注〕 [1] には誤字があり、2次の因子の定数項「−9」が「−7」になっている(3カ所で)。
かくして cot4 の和についての、次の公式を得る。
cot4 [π/(2m+1)] + cot4 [2π/(2m+1)] + ··· + cot4 [mπ/(2m+1)] = m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45 《そ》
〔検算〕 m = 2 の場合(2m+1 = 5)。《そ》の分子 = 2(4 − 1)(16 + 20 − 9) = 2⋅3⋅27 = 2⋅3⋅(3⋅9) で、《そ》の分母 45 と 9 が約分され、《そ》 = 18/5。前述の具体例《す》と一致。
〔検算2〕 m = 3 の場合(2m+1 = 7)。《そ》の分子 = 3(6 − 1)(36 + 30 − 9) = 3⋅5⋅57 = 3⋅5⋅(3⋅19) で、分母の 45 と約分され、《そ》 = 19。《ず》と一致。
前回使った cot2 についての同様の和《あ》を再掲する。
cot2 [π/(2m+1)] + cot2 [2π/(2m+1)] + ··· + cot2 [mπ/(2m+1)] = m(2m − 1)/3 《あ・再掲》
《あ》と比べると、《そ》では分子に2次の因子 4m2 + 10m − 9 が加わり、分母が 3 から 45 に増えている。《そ》の導出では、便宜上 2m−1 を 5 以上の奇数としたが、 2m−1 = 3 の場合(m = 1)にも、《そ》は有効。 m = 1 の場合の《あ》の意味は、
tan 60° = √3
の逆数を平方すれば 1/3 に等しい――っていう当たり前のこと。《そ》は、同じ tan 60° の逆数の4乗は 1/9 に等しいよ、と。 m = 1 に対して《そ》が 1/9 = 5/45 になるってことは、そのとき、分子の2次の因子は = 5 になるはず。事実 4m2 + 10m − 9 に m = 1 を代入すれば 4 + 10 − 9 = 5 だ。
〔付記〕 以上によって、 m = 1, 2, 3 について《そ》が正しいことが検証された。 m = 0 の場合(0 個の cot4 の和)はもちろんゼロ。《そ》でもそうなるので、実質、四つの m について《そ》は正しい。「計算ミスやミスタイプはなさそう」という確信が得られる――というのも、値が4次式で表現されることを前提とするなら、四つの入力に対して正しい出力を返す4次関数は、あらゆる入力に対して正しい出力を返す(多項式論法)。
今、 k = 1, 2, ···, m として、不等式《し》に θ = (kπ)/(2m + 1) を次々に代入すると:
cot4 [π/(2m+1)] < ((2m+1)/(π))4 < 1 + 2 cot2 [π/(2m+1)] + cot4 [π/(2m+1)]
cot4 [2π/(2m+1)] < ((2m+1)/(2π))4 < 1 + 2 cot2 [2π/(2m+1)] + cot4 [2π/(2m+1)]
︙
cot4 [mπ/(2m+1)] < ((2m+1)/(mπ))4 < 1 + 2 cot2 [mπ/(2m+1)] + cot4 [mπ/(2m+1)]
これら m 個の不等式を辺々足し合わせよう。左の列の和を A とすると、《そ》から
A = m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45
だ。次に、右の列の和だが、第1項については 1 が m 個あるので和は m、第2項の和は《あ》の 2 倍なので和は
m(2m − 1)/3
の 2 倍に等しく、第3項の和は《そ》と同じ。よって、右の列の和を B とすると:
B = m + 2m(2m − 1)/3
+ m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45
= m + m(2m − 1)⋅30/45
+ m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45
= m
+ m[(2m − 1)(4m2 + 10m + 21)]/45
ここで [ ] 内 = (8m3 + 20m2 + 42m) − (4m2 + 10m + 21)
= 8m3 + 16m2 + 32m − 21 なので:
B = 45m/45
+ m(8m3 + 16m2 + 32m − 21)/45
= m(8m3 + 16m2 + 32m + 24)/45
= 8m(m3 + 2m2 + 4m + 3)/45
最後の分子の ( ) 内の4次式は、奇数番目の係数の和と偶数番目の係数の和が等しいので(どちらも 5)、 m = −1 を入れると値がゼロ。つまり m + 1 で割り切れる。割り算を実行し†、次の結論に至る:
B = 8m(m + 1)(m2 + m + 3)/45
最後に、不等式の真ん中の列を足し合わたものを S として、前回の《う》と同様に共通因子をくくり出すと:
S = (2m + 1)4/(π4) × (1 + 1/24 + ··· + 1/m4)
A < S < B の各辺を π4/((2m + 1)4) 倍して:
m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)π4/(45(2m + 1)4) < 1 + 1/24 + ··· + 1/m4 < 8m(m + 1)(m2 + m + 3)π4/(45(2m + 1)4) 《た》
《た》の両端の分子・分母は、それぞれ m についての4次式。 m が ∞ に向かうとき、4次式の値は4次の項に支配され、3次以下の項は(
上記の主張は簡単に証明可能だが、 [1] では少し違う論法を使って同じ結論を導いている。参考までに、それを紹介しよう。《た》左辺を次のように変形する。
π4/90 × [(2m)/(2m + 1)][(2m − 1)/(2m + 1)][(4m2 + 10m − 9)/(2m + 1)2]
この三つの [ ] 内が、 m → ∞ のとき 1 に向かうことを示せば、《た》左辺の極限値は π4/90 × 1⋅1⋅1 = π4/90 だ、という結論になる…よね?
このうち、一つ目と二つ目の [ ] 内は、 m → ∞ のとき確かに 1 に向かう。というのも、一つ目の [ ] 内は、
((2m + 1) − 1)/(2m + 1)
=
1 − (1)/(2m + 1)
に等しいが、 1 から引き算されている分数は m → ∞ のとき 1/∞ = 0 に向かうので、この引き算は 1 − 0 = 1 に向かうし、同様に、二つ目の [ ] 内は、
((2m + 1) − 2)/(2m + 1)
=
1 − (2)/(2m + 1)
に等しいので、やはり 1 − 2/∞ = 1 に向かう。
三つ目の [ ] 内について。分子 4m2 + 10m − 9 を 2m + 1 で割ると商が 2m + 4 で余りが −13 なので(あるいは、同じことだが、
4m2 + 10m − 9 = (4m2 + 10m + 4) − 13 = (2m + 1)(2m − 4) − 13
なので):
三つ目の [ ] 内 =
((2m + 1)(2m + 4) − 13)/(2m + 1)2
=
(2m + 4)/(2m + 1) − (13)/(2m + 1)2
= ((2m + 1) + 3)/(2m + 1) − (13)/(2m + 1)2
=
1 + (3)/(2m + 1) − (13)/(2m + 1)2
この右辺は、 m → ∞ のとき 1 + 3/∞ − 13/∞2 = 1 + 0 − 0 = 1 に向かう。要するに、《た》左辺の極限値は上述の通り。
一方、
《た》右辺 = π4/90 × [(4m(m + 1))/(2m + 1)2][(4(m2 + m + 3))/(2m + 1)2] 《ち》
については、
= π4/90 × [(2m)/(2m + 1)][(2m + 2)/(2m + 1)][((2m + 1)(2m + 1) + 11)/(2m + 1)2]
と考えるなら、左辺と全く同様に処理可能。あるいは《ち》の二つの [ ] 内のそれぞれで、分子・分母が定数項を除き同じであることに着目して、次のように変形することもできる(その方がやや省力的):
《ち》 = π4/90 × [(4m2 + 4m)/(4m2 + 4m + 1)][(4m2 + 4m + 12)/(4m2 + 4m + 1)]
= π4/90 × [((4m2 + 4m + 1) − 1)/(4m2 + 4m + 1)][((4m2 + 4m + 1) + 11)/(4m2 + 4m + 1)]
= π4/90 × [1 − (1)/(2m + 2)2][1 + (11)/(2m + 2)2]
この最後の二つの [ ] 内は、 m → ∞ のとき 1 に向かう。要するに、《た》右辺の極限値も上述の通り。証明が完了した。∎
† 実際の割り算:
m^2 + m + 3 ┌──────────────────── m + 1 │ m^3 + 2m^2 + 4m + 3 m^3 + m^2 ────────── m^2 + 4m m^2 + m ──────── 3m + 3 3m + 3 ────── 0
この場合、多項式の割り算(筆算)は、整数の割り算 1243÷11 = 113 と実質同じ(係数が全部1桁で、繰り上がり・繰り下がりの副作用がなければ、そうなる)。比較:
113 ┌───── 11 │ 1243 11 ── 14 11 ── 33 33 ── 0
バーゼル問題を解決した Euler は、問題を拡張して、4乗数の逆数の無限和や、同種の幾つかの無限和を求めた。本文の結論については、既に Euler も熟知していた。紹介したエレガントな証明法は、ソビエト連邦(現ロシア)の Яглом (Yaglom) 兄弟 [1] による。この解法が可能であること自体は、 Apostol [2] にも(解答なしの練習問題の形で)記述がある。 Apostol [3] では、同様のアプローチが、さらに一般化された形で論じられている。 [1] では 1 + cot2 θ の代わりに csc2 θ が使われている(どちらも同じ値なので、本質的な違いはない)。
2007年、 Euler 生誕300年にちなんで、ロシアでは2ルーブル記念銀貨が発行されたという。その硬貨に刻印されているのは、バーゼル問題の式なのだ!
普通に考えれば、 Euler を代表する式は、 eiπ = −1 あたりだろう。それではなく、あえてこっちの式を選んだところが面白いし、ある意味「通」かも。国家としてのロシアについてはさまざまな意見があるとしても、 Euler についての記念硬貨を出し、そこにこの無限和を刻印する文化的風土は、印象深い(Euler はロシアと縁が深いから、という背景もあるのだろう)。 Euler の姿が、まるで「英雄の像」のように、とことん美化されてるのは、別の意味で「ソビエト」っぽい…
〔参考文献〕
[1] А. М. Яглом & И. М. Яглом (1954), 問題143 (68ページ; 449–450ページ; 541ページ)
https://math.ru/lib/book/djvu/yaglom/ne-elem-zadachi.djvu
https://math.ru/lib/files/djvu/yaglom/ne-elem-zadachi.djvu
[2] Tom M. Apostol (1974), Mathematical Analysis, Exercises 1.49, 8.46
[3] Tom M. Apostol (1973), Another Elementary Proof of Euler’s Formula for ζ(2n)
https://www.math.uwaterloo.ca/~krdavids/M148/Apostol.pdf
〔追記〕 参考文献 [1] の英訳が下記の場所にある。若干の説明が追加され、原書の誤字も修正されている。(2025年4月28日)
https://archive.org/details/akivaisaak-m-yaglom.-challenging-mathematical-problems-with-elementary-solutions-vol-2/page/131/mode/1up
2025-04-11 n 次式の根の和・平方和など 「エレガントな証明」の補足
ヤグロム(Yaglom)兄弟によるバーゼル問題の解法・応用はエレガントで美しいが、 m 次方程式の扱いの部分に、難しい要素がある。テクニカルな細部のせいで、アイデアの素晴らしさを味わえない・共有できないとしたら残念なんで、ちょっと解説めいたことを。
いったんハードルを下げ、次の素朴な問題を考えてみよう。
2次式 x2 + 3x − 10 = (x − 2)(x + 5) が与えられたとする。その根(式の値がゼロになるような入力)は x = 2 と x = −5 だが、なぜだろうか?
与えられた左辺と右辺は同一の2次式だ†、ということを大前提として(右辺を展開してみれば、その事実を確認できる)、 x = 2 のとき、
与えられた右辺 = (2 − 2)(2 + 5) = 0⋅(2 + 5) = 0
だし、 x = −5 のとき右辺は、
与えられた右辺 = (−5 − 2)(−5 + 5) = (−5 − 2)⋅0 = 0
なので、式の値はゼロ。なぜ 0 になるのかといえば、「右辺が 0 倍の掛け算になるから」。さらにいえば、次のような暗黙の前提があるからだ。
暗黙の前提 A = 0 または B = 0 の少なくとも一方が成り立つとき(そしてそのときに限って)、積 AB は = 0 になる。
通常の数の世界で、この前提が成り立つことは、まぁ当たり前だろう。
与えられた左辺の2次式に直接 x = 2 や x = −5 を代入してみても、値がゼロになることを確認できるけど、「1次式の積に分解された形」で考えることが役立つ。1次式の積への分解が実際には困難(または不可能)な場合でも、「1次式の積に分解された理論上の形」を想定してみることは、できる。
† これは「左辺と右辺が等しくなるような x は何か?」という問題ではない。左辺と右辺は多項式として等しく、入力 x が何であっても、両辺の値は常に等しい。例えば、まぁ適当に x = 5 でも入れてみると、左辺は 25 + 15 − 10 = 30 だし、右辺は 3 × 10 = 30 となって、一致。 他方、その「等しい両辺の値」が = 0 になるような入力 x は、特定の値に限られる(それが根)。
同様に考えると、一般に、
x についての2次式 x2 + a1x + a2 《つ》
があったとして、それが = (x − r1)(x − r2) と分解されるとき、その2次式の根は x = r1 と x = r2 だ。なぜなら x がそのどちらかの値なら(そしてそのときに限って)、二つの丸かっこの少なくとも一方の中身が 0 になり、 0 倍の掛け算になって積はゼロだから。逆にいうと、「係数とかは分かんないけど、とにかくその2次式の根は r1 と r2 だよ」という場合、その2次式を、
(x − r1)(x − r2)
と書くことができる。 x − r2 を B と置いて展開すると、
= (x − r1)B = xB − r1B
= x(x − r2) − r1(x − r2)
= x2 − r2x − r1x + r1r2
= x2 − (r1 + r2)x + r1r2
となり、《つ》の形式で書くなら、 a1 は根の和 r1 + r2 の符号を変えたものに等しく、 a2 は根の積 r1r2 に等しい。
例えば、冒頭の具体例 x2 + 3x − 10 = (x − 2)(x + 5) において、根の和 2 + (−5) = −3 は、確かに左辺の「+3」の符号を変えたものに等しく、根の積 2 × (−5) = −10 は、確かに左辺の「−10」に等しい。つまり、2次式に話を限るとすれば、二つの根の和は1次の係数の −1 倍に等しく、二つの根の積は定数項に等しい。
以上が「根と係数の関係」の一例だが、少し視野を広げ、3次式・4次式などを含む「一般の n 次式」の根と係数の関係を考え、さらに話を「根の和」に限らず、根の2乗和・3乗和なども問題にしたい。 n 次式の根というのは、その n 次式を = 0 と置いた n 次方程式の解に他ならない。
バーゼル問題 1 + 1/4 + 1/9 + 1/16 + 1/25 + ··· = ?
とその拡張に対する Yaglom 流のアプローチにおいては、その発想が鍵となる。
§1. 「別証明」の解説
「1 + 1/22 + 1/32 + … = π2/6 の別証明 ☆総和記号不使用☆」での、多項式の扱いについて。
今、
3次式 x3 + a1x2 + a2x + a3 《て》
が与えられたとして、その根を r1, r2, r3 と仮定すると、《て》は多項式として、
(x − r1)(x − r2)(x − r3) 《と》
に等しい。というのも、 x が r1, r2, r3 のどれかに等しいとき(そしてそのときに限って)、《と》の三つの丸かっこ内の少なくとも一つはゼロになり、従って《と》の積は = 0 になる。しかも、以下で見るように、《と》を展開すると《て》の形の3次式になる。仮定により《て》は根が r1, r2, r3 の3次式なので、《て》と《と》は同じのはずだ。
〔注〕 上記の説明は、あまり厳密ではない。しかし感覚的には「n 個の根が全部一致する n 次式は、本質的に同じ n 次式」ってことは、まぁ当たり前だろう(当たり前と思えないとしたら、このメモの説明不足のせいで、読者のせいではないが)。
B = x − r2, C = x − r3 と置いて《と》を展開すると:
(x − r1)(x − r2)(x − r3) = (x − r1)(BC) = x(BC) − r1(BC)
= x(B)C − r1(B)C
= x(x − r2)C − r1(x − r2)C
= (xx − xr2)C − (r1x − r1r2)C ← 普通に書けば xx は x2 だが、あえてこう表記
= xxC − xr2C − r1xC + r1r2C
= xx(x − r3) − xr2(x − r3) − r1x(x − r3) + r1r2(x − r3)
これをさらに展開すると、合計八つの項が生じる。
= xxx − xxr3 − xr2x + xr2r3 − r1xx + r1xr3 + r1r2x − r1r2r3 《な》
核心は、次の観察:
(x − r1) と (x − r2) と (x − r3) の積
を徹底的に展開し、同類項を整理せず「生の」状態で見た場合、どの項も三つの因子の積から成る。三つの因子の内訳は、
先頭にあるのが、第一の丸かっこから選ばれた x または r1
中間にあるのが、第二の丸かっこから選ばれた x または r2
末尾にあるのが、第三の丸かっこから選ばれた x または r3
だ。先頭で x を選んだ場合、もし中間で x を選べば、 xxx または xxr3 が生じ、もし中間で r2 を選べば、 xr2x または xr2r3 が生じる。一方、先頭で r1 を選んだ場合、もし中間で x を選べば、 r1xx または r1xr3 が生じ、もし中間で r2 を選べば、 r1r2x または r1r2r3 が生じる。二者択一の機会が連続3回あるので、トータルでは 23 = 8 個の項が生じる。のみならず r にはマイナスが付いているので、 r を含まない xxx はプラスの符号となり、 r を 1 個だけ含む項(言い換えれば x をちょうど 2 個含む項)はマイナスの符号となる。 r を 2 個だけ含む項(言い換えれば x をちょうど 1 個含む項)はプラスの符号となり、 r を 3 個含む r1r2r3 は再びマイナスの符号となる。
x の次数(x が何個あるか)を基準に同類項を整理すると、下記の通り。このことは、以上の考察からも、《な》の直接観察からも、明白だろう。
x3
+ {一つずつ・符号は負}x2
+ {二つずつ・符号は正}x
+ {三つずつ・符号は負}
= x3
− (r1 + r2 + r3)x2
+ (r1r2 + r1r3 + r2r3)x
− (r1r2r3)
ただし「一つずつ」というのは、全部の根を一つずつ足し合わせたもの、「二つずつ」というのは、番号が異なる二つの根の積を足し合わせたもの、「三つずつ」というのは、番号が異なる三つの根の積の和(和といっても、この場合 r1r2r3 の 1 種類しかないが)。《て》の形式 x3 + a1x2 + a2x + a3 と比較するなら、
a1 = −(r1 + r2 + r3)
a2 = +(r1r2 + r1r3 + r2r3)
a3 = −(r1r2r3)
となる。
なぜ x2 の係数が「一つずつ」かといえば、 x をちょうど 2 個含む項は r をちょうど 1 個含むから(r1xx または xr2x または xxr3)。なぜ x の係数が「二つずつ」かといえば、 x をちょうど 1 個含む項は r をちょうど 2 個含むから。その際、 r1 の選択の機会は 1 回のみ、 r2 の選択の機会も r3 の選択の機会も 1 回のみなので、 r を 2 個といっても、 (r1)2 や (r2)2 や (r3)2 のように、番号が同じ r が重複して選ばれる可能性はない†。
† もし r1 = r2 のような重根があれば、結果的に「別々の根がたまたま同じ値を持つ」ことは起こり得る。たまたま値が同じでも、別の番号の r は別の番号の r であり、結論に影響はない。例えば、もし仮に r1 = r2 なら r1r2 は (r1)2 と等しい値になるが、 a2 の和に含まれるのは、あくまで r1r2 だ。
同様に考えると、一般に x についての n 次式が n 個の根 r1, r2, ··· , rn を持つ場合、その n 次式は、多項式として
(x − r1)(x − r2)···(x − rn)
に等しく、それを徹底的に展開して同類項を整理すると、次の形になる。
xn − E1xn−1 + E2xn−2 − E3xn−3 + ··· 《に》
ここで E1 = r1 + r2 + ··· + rn は根の和。 E2 = r1r2 + r1r3 + ··· は、二つの(別々の)根を選んで、両者の積を足したもの。 E3 = r1r2r3 + r1r2r4 + ··· は、三つの(別々の)根を選んで、それらの積を足したもの。等々。
結局、何次式であっても、最高次の項の係数が 1 である限り、根の和は「最高次より一つ下の係数」の符号を変えたものが等しい。一般には、
n 次方程式 axn + bxn−1 + cxn−2 + dxn−3 + ··· = 0 《ぬ》
において、最高次の係数 a が 1 とは限らないけれど、 a ≠ 0 なら、その両辺を a で割って、
xn + (b/a)xn−1
+ (c/a)xn−2
+ (d/a)xn−3
+ ··· = 0
の形にすることができる。この左辺は《に》と同じ形なんで、ここから同様の結論が得られる。すなわち、《ぬ》の左辺の形の n 次式の根の和 E1 は、最高次より一つ下の係数 b を最高次の係数 a で割って符号を変えたものに等しい。
以上が「別証明」の第三部で使われているロジックだ。ちなみに E2 以下についても同様。最高次の係数 a が 1 でなければ、単に全体を a で割って考えればいい。
〔補足〕 上記では、係数の範囲などが明示されていないが、一応、多項式の係数は実数の範囲、根は複素数の範囲(実数かもしれないが、非実数かもしれない)ということにしておく。
§2. 「次の一歩」の解説
「π4/90 = 1.082323233… バーゼル問題の次の一歩」での、多項式の扱いについて。
「次の一歩」では、
根の平方和 (r1)2 + (r2)2 + ··· + (rn)2
が活用される。例えば 2次式 x2 + 3x − 10 = (x − 2)(x + 5) の根は r1 = 2 と r2 = −5 であるから、それらの平方和は、
22 + (−5)2 = 4 + 25 = 29
だ。具体的な根の値が不明確でも、「最高次より一つ下の係数」の平方†から「最高次より二つ下の係数」の 2 倍を引けば、直ちに根の平方和が得られる(最高次の係数が 1 でなければ割り算で 1 に調整してから)。
x2 + 3x − 10
の例では、 32 − 2(−10) = 9 + 20 = 29 という計算になる。
† 「解の和」の平方、といってもいい。「最高次より一つ下の係数」と「根の和」は(0 でなければ)符号が逆だけど、平方する場合、符号の違いは問題にならない。
根の平方和が、この方法で求まる理由。2次式・3次式などを別々に考えるときりがないので、一般の n 次式で考える。まず「最高次より一つ下の係数」は、
根の和 E1 = r1 + r2 + ··· + rn
の符号を変えたもの −E1 に等しい。それを平方すれば、
(−E1)2 = (E1)2 =
(r1 + r2 + ··· + rn)2
になる。これは n 項式の自乗であり、次のように単純計算可能。
= (r1 + r2 + ··· + rn) × (r1 + r2 + ··· + rn)
= (r1 + r2 + ··· + rn)E1
= r1E1 + r2E1 + ··· + rnE1
展開すると:
= r1(r1 + r2 + ··· + rn)
+ r2(r1 + r2 + ··· + rn)
︙
+ rn(r1 + r2 + ··· + rn) 《ね》
《ね》を徹底的に展開して、整理前の「生」の形を眺めるなら、 rjrk の形の n2 個の項が生じる。ここで j と k は、それぞれ独立に 1, 2, ···, n の範囲を動く。その際、1行目の1項目は r1r1 だし、2行目の2項目は r2r2 だし、最後の行の最後の項は rnrn だし、一般に j = k になることが起こり得る。より正確に言うと、 n 個の番号のそれぞれに関して、 j = k がその値になることが、ちょうど一度ずつ発生する。
実際 j = k のときの rjrk に着目すると、 (E1)2 の n2 個の項のうち、 j = k となる n 個の項の和は、
根の平方和 (r1)2 + (r2)2 + ··· + (rn)2
に等しい。この部分は、まさにわれわれの求めたいものだ。問題は残りの n2 − n 個の項。それは j ≠ k のときの rjrk であり、われわれの求めるものと違う邪魔な項。うまく引き算して、邪魔物をきれいに消去する必要がある。
邪魔物の正体は何か? もし《ね》の1行目から r1r2 が発生するなら、2行目から r2r1 が発生することは、明らかだろう。同様に、1行目から r1r3 が発生するなら3行目から r3r1 が発生するし、2行目から r2r3 が発生するなら3行目から r3r2 が発生する。一般に、任意の j ≠ k に対して(ただし、両者は 1 以上 n 以下の番号)、 rjrk と rkrj は「値が等しいが別々の項」(同類項)であり、一方が有効な番号の組み合わせなら他方も必ず有効。よって、邪魔な n2 − n = n(n − 1) 個の項においては、「何か」がちょうど2回ずつ発生している。
「何か」とは? 「番号が異なる二つの根の積」の和、すなわち E2 だ。 n 個の物から 2 個を取り出す選択肢の数は (n C 2)
=
n(n−1)/2 であり(二項係数)、その 2 倍は n(n − 1) に等しい。
邪魔物の正体は E2 の n(n−1)/2 個の項が、それぞれ 2 回ずつ、
と考えると、つじつまが合う。結局、 (E1)2 は、根の平方和プラス 2E2 に等しい。言い換えると、根の平方和が欲しければ (E1)2 から 2E2 を引けばいい。
〔補足〕 E2 は、「番号が異なる二つの根」の積の総和だが、 n 個の根から二つの根を選ぶとき、実質的に、選ぶ順序(番号の順序)の区別はない。例えば r1r3 と r3r1 は「同じ二つの根」(1番と3番)の積であり、和 E2 においては、例えば前者を含めるなら、後者を重複して含めてはいけない。 E2 の起源を考えると、「順序の区別がない」というより「順序は固定されていて反転できない」というべきかも。つまり、
(x − r1)(x − r2)(x − r3)···
からちょうど二つの r が選ばれるとして、それらが r1 と r3 であるとするなら、必ず r1 が前にある。一方、上記「邪魔物」の rjrk においては、 j と k がそれぞれ独立して 1 から n の範囲を動く。よって r1r3 と r3r1 は別々にカウントされる。和が E2 の2倍の大きさなのは、この「二重カウント」のため。
n 次式の n 個の根の平方和 n 次の係数が 1 であることを前提に、 n−1 次の係数を −E1、 n−2 次の係数を E2 とすると:
(r1)2 + (r2)2 + ··· + (rn)2
=
(E1)2 − 2E2
この場合、実際の計算では、 E1 が正でも負でも、符号を無視して構わない(平方すれば、結果はどのみち同じ)。
例題1 3次方程式 7y3 − 35y2 + 21y − 1 = 0 の解を α, β, γ とする。 α2 + β2 + γ2 を求めよ。
〔解〕 まず最高次の係数を 1 にするため、両辺を 7 で割ると:
y3 − 5y2 + 3y − 1/7 = 0
従って、解の平方和は 52 − 2⋅3 = 25 − 6 = 19。
この場合、具体的な解 α, β, γ を代数的に求めることは可能だが少し面倒だし、それらを平方して足し合わせる処理は困難。けれど具体的な解を求めるまでもなく、与えられた式の係数だけを見て、単に 5 を平方して 3 の 2 倍を引けばいい。将棋には「銀は成らずに使え」という格言があるが、「方程式は解かずに使え」だ。前回の《す》は、この計算に基づく。
このような易しい算数を利用して、 1 + 1/24 + 1/34 + ··· = π4/90 という、美しく神秘的な結論が得られる。軽妙で、味わい深い。
根の平方和(前回のメモで使った)についての説明は、一応これでおしまい。
§3. 付録 根の立方和
せっかくなので、自然な発展として n 次式の「根の立方和」について考えてみたい。
根の和の立方 (E1)3 = (r1 + r2 + ··· + rn)3
を展開すると、 rjrkrℓ の形の n3 個の項の和となる。ここで j, k, ℓ は、それぞれ独立に 1 から n まで動く。そのうち j = k = ℓ の場合の n 項が、
根の立方和 (r1)3 + (r2)3 + ··· + (rn)3
に当たる。それ以外の n3 − n 個の項は、三つの番号 j, k, ℓ が「全部等しいわけではない場合」――それを二つに分けて考えよう。
第一に、「三つの番号の二つは等しいが、残りの一つは別の値」という場合。 r1 から rn の n 個の根から、異なる二つ(u, v とする)を選んで、 u2v の形の積を考えればいい。 u2v と v2u は別物なので、この u, v には順序の区別†がある。のみならず、特定の同じ (u, v) の組み合わせでも、
(E1)3 = (r1 + r2 + ··· + rn) × (r1 + r2 + ··· + rn) × (r1 + r2 + ··· + rn)
の右辺の三つの丸かっこのどれから v を取り出すか、3種類の選択肢がある(それを決めれば、残りの二つの丸かっこから同じ u を取り出すしかなく、そこに選択の余地はない)‡。つまりこの掛け算では、 u2v の形の積は、それぞれちょうど 3 回ずつ生じる。
† 順序を区別して n 個から 2 個を選ぶ場合の選択肢の数は n(n − 1) だ。比較として、順序を区別せずに n 個から 2 個を選ぶ場合の選択肢の数は n(n − 1)/2 だ(「二項係数・超入門」参照)。
‡ 例えば u = r4, v = r1 とすると、 u2v は r1⋅r4⋅r4 としても生じるし、 r4⋅r1⋅r4 としても生じるし、 r4⋅r4⋅r1 としても生じる。
第二に、「三つの番号がどれも異なる」という場合。大ざっぱには、解の三つずつの積の和 E3 と同じだが、 E3 には番号の順序の区別がない。一方、この場合、選んだ三つの解を a, b, c とすると、 abc だけでなく、 abc, acb; bac, bca; cab, cba のどの順序も有効¶なので(3! = 6 パターン)、それらを同じ一つの abc で表すなら、その積 abc は 6 回生じる。他の積も同様なので、このケースの積の和は 6E3 に等しい。
¶ 例えば a = r2, b = r3, c = r4 とする。 rj⋅rk⋅rℓ の形の項が、総当たり的に生じて、全部足し算されるのだが、そのうち j = 2, k = 3, ℓ = 4 の場合が abc に当たる。しかし j, k, ℓ はそれぞれ独立して 1 から n を動くので、例えば j = 2, k = 4, ℓ = 3 という値を取ることもできる(acb に当たる)。より一般的に、 abc を並び替えた6パターンの全てが、ちょうど 1 回ずつ生じる。
以上のことから:
(E1)3 =
[(r1)3 + (r2)3 + ··· + (rn)3]
+ 3(∑ u2v)
+ 6E3 《の》
右辺の [ ] 内が根の立方和で、 n 項ある。 (∑ u2v) は、相異なる二つの根 u, v の全ての組み合わせ(順序の区別あり)なので計 n(n − 1) 項あり、さらに上記の理由から 3 倍されている。 末尾の項は、「選ぶ順序を区別して n 個の根から 3 個を選ぶ」もので、計 n(n − 1)(n − 2) 項(E3 の項数から見ると 6 倍)。よって右辺の項の「生」の総数は次のようになり、つじつまが合う(左辺の項数と一致):
n + n(n − 1)⋅3 + n(n − 1)(n − 2) = n + n(n − 1)[3 + (n − 2)]
= n + n(n − 1)(n + 1) = n + n(n2 − 1) = n(1 + n2 − 1) = n(n2) = n3
〔例1〕 3次式の根を a, b, c とすると、上記の関係は:
(a + b + c)3 = a3 + b3 + c3 + 3(a2b + a2c + b2a + b2c + c2a + c2b) + 6(abc)
3乗される項の係数が 1 であること、「2乗・1乗の積」の項の係数が 3 であること、「1乗・1乗・1乗の積」の項の係数が 6 であることは、《の》の通り(これらの係数の値は、三項定理からも説明可能)。
〔例2〕 4次式の根を a, b, c, d とすると:
(a + b + c + d)3 = a3 + b3 + c3 + d3 + 3(a2b + a2c + a2d + b2a + ···) + 6(abc + abd + acd + bcd)
係数は、多項定理からも説明可能。
《の》から、
(r1)3 + (r2)3 + ··· + (rn)3
=
(E1)3 − 3(∑ u2v) − 6E3 《は》
となるから、 (∑ u2v) さえうまく扱えれば、根の立方和を E1, E2, E3 の組み合わせで表現できる。
三つの根の積(番号が同じ根が重複して掛け算されるケースも含む)を扱うとき、 (E1)3 と E3 の他に E1E2 を利用できる:
E1E2 =
[∑{j=1 to n} rj][∑{k=1 to n} ∑{ℓ=k+1 to n} rkrℓ]
= [r1 + r2 + ··· + rn][r1r2 + r1r3 + ··· + rn−1rn]
右辺右側の [ ] 内には、相異なる二つの根の積が全て現れる(積の順序の区別なし。つまり、順序が違うだけの積については、重複してカウントしない)。積の一つを rkrℓ としよう。右辺左側の [ ] 内の n 項のうち、ある項 rj を選択して右側の [ ] と掛け算するとしよう。もし j が k または ℓ に等しいなら、
(rk)2⋅rℓ または rk⋅(rℓ)2
すなわち u2v の形が生じる。右側の [ ] 内には全種類の uv が過不足なくあるので、この積によって全種類の u2v が過不足なく、ちょうど 1 回ずつ生じる(右側の [ ] 内に同じ番号の根の平方はないので、この掛け算では u3 の形は生じ得ない)。他方において、もし j が k とも ℓ とも等しくないなら、
rj⋅rk⋅rℓ ただし j ≠ k, j ≠ ℓ, k ≠ ℓ
すなわち uvw の形が生じる。のみならず、この掛け算では、同一の積 uvw がちょうど 3 回ずつ生じる: 第一に E1 から u が選ばれ E2 から vw が選ばれた場合、第二に E1 から v が選ばれ E2 から uw が選ばれた場合、第三に E1 から w が選ばれ E2 から uv が選ばれた場合だ。要するに:
E1E2 = 3E3 + ∑ u2v
∴ ∑ u2v = E1E2 − 3E3 《ひ》
〔例3〕 a2b + a2c + b2a + b2c + c2a + c2b = (a + b + c)(ab + ac + bc) − 3(abc)
直観的に、左辺は 6 項しかないが、右辺の (a + b + c)(ab + ac + bc) からは 9 項が生じるので、何かを三つ消す必要がある。 − 3(abc) がその答え。 (a + b + c)(ab + ac + bc) という掛け算からは、同類項を整理する前の状態において、同じ積 abc が 3 回生じることに注意。
〔例4〕 a2b + a2c + a2d + b2a + ··· + d2c = (a + b + c + d)(ab + ac + ad + bc + bd + cd) − 3(abc + abd + acd + bcd)
左辺の ∑ u2v では、四つの根から順序を区別して二つが選ばれる: 4 × 3 = 12 項。右辺左側の掛け算は 4項 × 6項 = 24項 なので、12項を消す必要がある。この掛け算からは abc, abd, acd, bcd つまり E3 の各項がちょうど 3 回ずつ生じる。
最後に《ひ》を《は》に代入して:
(r1)3 + (r2)3 + ··· + (rn)3
=
(E1)3 − 3(E1E2 − 3E3) − 6E3
= (E1)3 − 3E1E2 + 9E3 − 6E3
= (E1)3 − 3E1E2 + 3E3
n 次式の n 個の根の立方和 n−1 次の係数を −E1、 n−2 次の係数を E2、 n−3 次の係数を −E3 とすると:
(r1)3 + (r2)3 + ··· + (rn)3
=
(E1)3 − 3E1E2 + 3E3
「0 次の項」は定数項で、その係数は定数項そのもの。多項式には「−1 次の項」なんてものは、存在しない。しかし「存在しない項は 0 であり、 0 の係数は 0」と解釈すれば、上記は2次式(や1次式)に関しても有効。
〔注意〕 立方和では、係数の符号を慎重に考慮する必要がある(E1, E3 は、対応する係数の −1 倍)。平方和では符号の扱いがのんきなこともあって、立方和に進んだとき、符号ミスが起きやすい。
例題2 x2 + 3x − 10 = 0 の解を α, β とする。 α3 + β3 は何か?
〔解〕 (−3)3 − 3⋅(−3)⋅(−10) + 3⋅0 = −27 − (90) = −117。
検証として実際の解 α = 2, β = −5 を使うと、 23 + (−5)3 = 8 − 125 = −117 となり一致。
例題3 5次方程式 11y5 − 165y4 + 462y3 − 330y2 + 55y − 1 = 0 の解を α, β, γ, δ, ε とする。 α2 + β2 + γ2 + δ2 + ε2 と α3 + β3 + γ3 + δ3 + ε3 を求めよ。
見かけ倒しの問題。5次方程式という言葉にびびらず、単に最高次の係数を 1 にしてから、それより下の三つの係数に「小学生の算数」を適用するだけ。
〔解〕 まず両辺を 11 で割って、
y5 − 15y4 + 42y3 − 30y2 + 5y − 1/11 = 0
とする。解の平方和は、
152 − 2⋅42 = 225 − 84 = 141
だ。次に解の立方和。係数 −15 と −30 の符号が反転すること、 +42 の符号がそのままであることに注意して、
(+15)3 − 3⋅(+15)⋅(+42) + 3⋅(+30) = 3375 − 1890 + 90 = 1575
を得る。この筆算は、もちろん易しい。暗算の場合、 152 = 225 の 15 倍は、 2250 とその半分 1125 の和。次の項は 45 × 42 なので 45 × 40 = 1800 に 45 × 2 = 90 を足せばいい。
多項式の根の和、根の平方和は、それぞれ ζ(2) と ζ(4) の計算に活用された。同じ多項式の根の立方和を使うと、 ζ(6) を求めることができる。例題3の平方和・立方和は、次の二つの和に対応している(《ふ》で m = 5 の場合)。
cot4 (π/11)
+
cot4 (2π/11)
+
cot4 (3π/11)
+
cot4 (4π/11)
+
cot4 (5π/11)
= 141
cot6 (π/11)
+
cot6 (2π/11)
+
cot6 (3π/11)
+
cot6 (4π/11)
+
cot6 (5π/11)
= 1575
n 次方程式の「根の和・平方和・立方和・4乗和・5乗和などの計算法」を Newton が記したのは、1665~1666年ごろ(1707年に出版?)。 Newton の恒等式として知られる。実際には Newton よりもっと前に、 Girard が「根の和・平方和・立方和・4乗和の計算法」を記している†(1629年に出版)。少なくとも4乗和までに関しては、 Girard の公式と呼んでもいいだろう。 Newton の記述は、5乗和以上を含む「根の m 乗和」に関するもので一般性が高い。ただし証明は記されていない‡。
偉そうに「解説」などと銘打ってるが、実際には、自分自身の知識の整理のために書いている。遊び気分で面白そうな問題を考え、あっちふらふら、こっちふらふらしているうち、たまさか美しい定理や証明に出会うと、とてもうれしい。
† D. J. Struik (1969), A Source Book in Mathematics, 1200–1800
https://archive.org/details/B-001-001-112/page/n107/mode/1up
https://archive.org/details/B-001-001-112/page/n114/mode/1up
‡ H. Gray Funkhouser (1930), A Short Account of the History of Symmetric Functions of Roots of Equations
2025-04-12 ζ(6) = π6/945 そろりと二歩目
ゼータ関数 ζ(x) = ∑{k=1 to ∞} 1/kx について、バーゼル問題に当たる ζ(2) と、次の一歩に当たる ζ(4) の値を求めた。「二歩目」として、同じ初等的方法に基づき ζ(6) = 1 + 1/26 + 1/36 + ··· を求める。
2m + 1 を 3 以上の奇数とする。
m 次式 (2m+1 C 1) ym − (2m+1 C 3) ym−1 + (2m+1 C 5) ym−2 − ···
の根、言い換えれば、
ym − ((2m)(2m−1)/3!)ym−1
+ ((2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)/5!)ym−2 − ··· 《ふ》
の根は(二項係数の上側インデックスが、下側インデックス以上という前提で)、次の値に等しい(《き》《け》・《せ》参照):
cot2 [π/(2m+1], cot2 [2π/(2m+1], ···, cot2 [mπ/(2m+1]
簡潔化のため、《ふ》の係数を次のように書こう(奇数番号の E は符号を反転):
ym + E1ym−1 + E2ym−2
+ E3ym−3 + ···
ここで:
E1 = (2m)(2m−1)/(2⋅3)
=
m(2m−1)/3
E2 = (2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)/(2⋅3⋅4⋅5)
=
m(2m−1)(m−1)(2m−3)/30
E3 = (2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)(2m−4)(2m−5)/2⋅3⋅4⋅5⋅6⋅7)
=
m(2m−1)(m−1)(2m−3)(m−2)(2m−5)/630
···
この表記を使い、《ふ》の根の立方和を求めよう:
(E1)3 = m2(2m−1)2(2m2 − m)/27
3E1E2 = m2(2m−1)2(2m2 − 5m + 3)/30
∴ (E1)3 − 3E1E2
= m2(2m−1)2[(20m2 − 10m) − (18m2 − 45m + 27)]/270
= m2(2m−1)2(2m2 + 35m − 27)/270
= m(2m−1)(4m4 + 68m3 − 89m2 + 27m)/270
3E3 = m(2m−1)(4m4 − 28m3 + 71m2 − 77m + 30)/210
従って、根の立方和 (E1)3 − 3E1E2 + 3E3 は次の通り:
m(2m−1)[7(4m4 + 68m3 − 89m2 + 27m) + 9(4m4 − 28m3 + 71m2 − 77m + 30)]/1890
= m(2m−1)(64m4 + 224m3 + 16m2 − 504m + 270)/1890
この値は、次のように cot6 の和に等しい(2 で約分して表記)。
cot6 [π/(2m+1)]
+
cot6 [2π/(2m+1)]
+
···
+
cot6 [mπ/(2m+1)]
= m(2m−1)(32m4 + 112m3 + 8m2 − 252m + 135)/945 《へ》
ζ(2), ζ(4) の場合と全く同様の不等式から、《へ》は、
(2m + 1)6/(π6) × (1 + 1/26 + ··· + 1/m6) 《ほ》
の下界となる。言い換えると、
1 + 1/26 + ··· + 1/m6 《ま》
の一つの下界は、
《へ》 × π6/((2m + 1)6)
だ。《へ》の最高次の(m6 の)係数は 64/945 で、上記 × の後ろの分母の最高次の係数は 64 なので(なぜなら (2m + 1)6 = (2m)6 + 6(2m)5 + ··· = 64m6 + 196m5 + ···)、この下界は m → ∞ のとき π6/945 に収束。一方、 (1 + cot θ)6 の《へ》と同様の和が、《ほ》の上界。その上界を表す有理式の m6 の係数も 64/945 であり、それに対応する《ま》の上界も、 m → ∞ のとき π6/945 に収束。それが《ま》の極限値。
次のように、一種の再帰的アルゴリズムによって、根の平方和・立方和・4乗和などを機械的に求めることもできる。
最高次の項の係数が 1 の m 次式
ym + s1ym−1 + s2ym−2 + s3ym−3 + ···
が与えられたとする。根の d 乗和(を表す多項式)を pd としよう。 p1 とは、根の和(1乗和)であり、 m−1 次の係数 s1 の符号を変えたものに他ならない。われわれの m 次式《ふ》においては、
p1
= m(2m − 1)/3
= (2m2 − m)/3
であった。 s1, s2, s3 などは、(符号も含めて)多項式の係数そのもの。 E1, E2, E3 など(根についての基本対称式)と比べると、絶対値が等しく、奇数番号のものは符号だけ反転する(偶数番目のものは符号も一致)。《ふ》の例では:
s1 = −m(2m − 1)/3
= −m(2m − 1)⋅1/3
s2 = +m(2m−1)(m−1)(2m−3)/30
= +m(2m − 1)⋅(2m2 − 5m + 3)/30
s3 = −m(2m−1)(m−1)(2m−3)(m−2)(2m−5)/630
= −m(2m − 1)⋅(4m4 − 28m3 + 71m2 − 77m + 30)/630
実は、どんな多項式であっても、その係数 s たちと、根のべき和 p たちの間には、以下のような、一連の普遍的関係(Newton の恒等式)が成り立つ。普遍的関係を表す恒等式の例と、それを《ふ》に当てはめた場合の具体例を、それぞれ幾つか記す。まず:
p2 = −s1p1 − s2⋅2
= −[−m(2m − 1)⋅1/3]⋅(2m2 − m)/3
− [+m(2m − 1)⋅(2m2 − 5m + 3)/30]⋅2
= m(2m − 1)⋅((2m2 − m)/9
− (2m2 − 5m + 3)/15)
= m(2m − 1)⋅((10m2 − 5m)/45
− (6m2 − 15m + 9)/45)
= m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45
この結論は《そ》と一致。
次に、今求めた p2 を使って:
p3 = −s1p2 − s2p1 − s3⋅3
= −[−m(2m − 1)⋅1/3]⋅m(2m − 1)(4m2 + 10m − 9)/45
− [+m(2m − 1)⋅(2m2 − 5m + 3)/30⋅(2m2 − m)/3]
− [−m(2m − 1)⋅(4m4 − 28m3 + 71m2 − 77m + 30)/630]⋅3
= m(2m − 1)[(8m4 + 16m3 − 28m2 + 9m)/135 − (4m4 − 12m3 + 11m2 − 3m)/90 + (4m4 − 28m3 + 71m2 − 77m + 30)/210]
= m(2m − 1)(32m4 + 112m3 + 8m2 − 252m + 135)/945
この結論は《へ》と一致。
こうして得られた p1, p2, p3 を使えば、同様に
p4 = −s1p3 − s2p2 − s3p1 − s4⋅4
として、多項式《ふ》の根の4乗和 p4 を機械的に計算することも可能。ここで、
s4 = (2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)(2m−4)(2m−5)(2m−6)(2m−7)/(2⋅3⋅4⋅5⋅6⋅7⋅8⋅9)
= m(2m−1)(m−1)(2m−3)(m−2)(2m−5)(m−3)(2m−7)/(3⋅4⋅5⋅6⋅7⋅9)
= m(2m − 1)⋅(8m6 − 108m5 + 590m4 − 1655m3 + 2552m2 − 2007m + 630)/22680
は、《ふ》において s3 より一つ下の項の係数。
この方法の大きなメリットとして、 2 以上の整数 d について根の d 乗和を求めたいとき、個別的な「根の d 乗和の公式(の導出)」が必要ない(単に同じアルゴリズムを反復適用すればいい)。アルゴリズムの概要は次の通り。
問題 n 次式の n 個の根に関連して、根の n−1 乗和 pn−1 までの情報はあるが、根の n 乗和 pn が分からない。それを求めたい。
解法 pn は、次の関係を満たす。
pn + s1pn−1 + s2pn−2 + ··· + sn−1p1 + sn⋅n = 0
従って、
pn = −s1pn−1 − s2pn−2 − ··· − sn−1p1 − sn⋅n
となる。「n 次式の根の n 乗和」に限らず、任意の正の整数 d について、「n 次式の根の d 乗和」は、同様の関係を満たす:
pd = −s1pd−1 − s2pd−2 − ··· − sd−1p1 − sd⋅d
《ふ》の根の平方和・立方和などの計算(上記で例示したもの)は、この方法の実例。
アルゴリズムの詳細とその正しさの証明については、後述する。
2025-04-14 「ニュートンの式」軽妙な入門 ライヒシュテインによる
普通に考えると、例えば「3次式の三つの根をそれぞれ3乗して足し算」ってだけで、ややこしそう。ところがニュートンの式は、それよりはるかに抽象的。一般の m, n について「n 次式の根の m 乗和」を扱う。
式が役立つ場面は限られてるものの、内容を理解すること自体は、意外と易しい。ライヒシュテイン(Reichstein)による証明をベースに、一見難解なニュートンの恒等式たちの真意について、順を追って整理してみたい。
Reichstein はロシア生まれの数学者。ソビエト連邦(当時)では、全体主義やユダヤ人差別のため自由に数学の勉強ができず、18歳の頃、いちかばちかの国外移住を試みた。当てもなく英語も不得意だったが、さいわい、1980年、カリフォルニア工科大学への入学を許された。現在は、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の教授。ここで紹介する証明法は「高校生向け」として、2000年、ロシアの出版物で公開された。やむなく祖国を捨てたものの、故郷への思いもあるようだ。
(1/5) 2次式の根の2乗和
比較的なじみ深い「2次式」から。「2次式の根」とは、その2次式イコール 0 と置いた2次方程式の、二つの解のこと。以下の内容については、既にご存じの方も多いでしょうけど、それを出発点にある種の「トリック」を導入します。
S1, S2 を定数(係数)とする。 2次式 f(y) = y2 + S1y + S2 の根が y = a, b だとしよう。つまり f(y) は、
(y − a)(y − b) = y2 − (a + b)y + (ab)
に等しく、 a と b は f(a) = f(b) = 0 を満たす、と(説明)。このとき、 f(y) に関する二つの表現の係数の比較から、
根と係数の関係 S1 = −(a + b), S2 = ab
が成り立つ。さらに f(a) = f(b) = 0 という仮定から:
f(a) = a2 + S1a + S2 = 0
f(b) = b2 + S1b + S2 = 0
この二つの等式を「縦に足し算」すると:
(a2 + b2) + S1(a + b) + 2S2 = 0 《み》
根と係数の関係から《み》を次のように書くことも可能:
(a2 + b2) + [−(a + b)](a + b) + 2(ab) = 0
つまり (a2 + b2) − (a + b)2 + 2(ab) = 0 《む》
《む》は、「任意の2次式 f の根 a, b について成り立つ等式」を表している。っつーか a, b が根であろうがあるまいが、《む》は任意の a, b に対して成り立つ恒等式だが、ともかく重要なこととして、《み》や、それと同等の《む》の「構成要素」たち、つまり…
根の平方和 a2 + b2
根の1乗和 a1 + b1 = a + b
1次の係数 S1 = −(a + b)
0次の係数(定数項) S2 = ab
…は、どれも a と b について対称的な式。その意味は「a と b の値をスワップしても、式の値は変わらない」。変数が三つ以上(例えば a, b, c)でも同様で、変数名をどう交換しても式の値は不変、という性質を「対称的」と表現する(例えば a, b, c の平方和 a2 + b2 + c2 は対称的。旧 a, b, c の値をそれぞれ c, a, b などとしても、式の値は変わらない)。
対称的な式を足したり掛けたりした結果も、依然として対称的。つまり《む》自体もまた、全体として対称的な多項式(a と b の値を入れ替えても、値は不変)。のみならず、 a, b を変数とする多変数の多項式と見た場合、《む》を展開した各項は、どれも同じ次数 2 を持つ(各項が a または b の 2 個の積と係数から成る、という意味。例えば a2 = 1⋅aa とか b2 = 1⋅bb とか 2⋅ab のように)。
2次式 f(y) が f(a) = 0 を満たすなら f(y) が y − a で割り切れることは(上記のことから)明白だが、同じことは f(y) が任意の多項式の場合にも成り立つ。なぜなら、もし f(y) が1次式以上なら f(y) = (y − a) g(y) と分解されるし(ここで g(y) は f(y) より次数が 1 小さい多項式。 f を y − a で割った商に当たる)、もし f(y) が1次式未満で f(a) = 0 を満たすなら、 f(y) = 0 は恒等的に 0 に等しい(ゼロ多項式)。 0 = (y − a)⋅0 なので、そのような f(y) も一応 y − a で割り切れる(商 g(y) = 0 もゼロ多項式)。
対称的な多項式 F(a, b, c) は、もし F(a, b, 0) = 0 なら c で割り切れるが、 b と c の値を入れ替えたとすると対称性から F(a, 0, c) = 0 でもあるので、 F は b でも割り切れる。同様に F は a でも割り切れる。変数の数が幾つでも同様。
(2/5) 3次式以上の根の2乗和
さて、100万ドルの問題です! もしも f(y) が2次式でなく3次式だったら、 f(y) には三つの根 a, b, c がありますが、それら三つの根も《む》と同様の対称的な関係、
(a2 + b2 + c2) − (a + b + c)2 + 2(ab + ac + bc) =? 0 《むむ》
を満たすでしょうか。
むむっ…? 実際に左辺を展開して計算してみれば = 0 になるか否かは、機械的に検証可能(慣れてる人ならチラッと見ただけで答えは分かるだろう)。でも、「ちょっとした考え方」によって、実際に計算しなくても答えを出せる。この「考え方」が全体の鍵となる…
もし仮に c = 0 なら《むむ》の左辺は《む》の左辺と等しいので、そのとき《むむ》は、《む》と同じく = 0 となる。《むむ》を c についての多項式と解釈してみよう。ムードを出すため c の代わりに文字 x を使って、
F(x) = (a2 + b2 + x2) − (a + b + x)2 + 2(ab + ax + bx)
と書き変えてみると、いかにも x についての多項式だ(文字が c のままでも、全く同じ意味だが)。で、まあ F(x) は x についての多項式だけど、 c = 0 と置くと《むむ》は = 0 になるんだから(そしてわれわれは単に気分で、文字 c の代わりに文字 x を使ってるだけで、 c と x は同じ意味なので)、 x = 0 のとき F(x) = 0 ってことになる。つまり F(0) = 0。だから F(x) は x − 0 で割り切れ、要するに x で割り切れる。ムードを出すために使った文字 x を本来の c に戻すと、《むむ》の左辺は c で割り切れる。
ところが《むむ》は a, b, c について対称的なので、《むむ》が c で割り切れるのなら、《むむ》は b でも割り切れるし、 a でも割り切れる。つまり《むむ》は a, b, c のどれでも割り切れ、従ってそれらの積 abc で割り切れる。
だが《むむ》は a, b, c について対称的で各項は2次なんだから、それを整理した結果も a, b, c について対称的な2次の項の和のはず。
2次の項の和から成り a, b, c について対称的で、しかも abc で割り切れるような多項式
なんてもんが存在するんだろうか。なんか、ちょっと変な感じ…。その謎の式は、
F(a, b, c) = u(a2 + b2 + c2) + v(ab + ac + bc) + w
みたいな形をしてる、と推定される(u, v, w は何らかの定数)。このような F(a, b, c) が、多項式として――つまり a, b, c の値と無関係に、常に―― abc で割り切れるとしたら、 u = v = w = 0 でなければならない。何のことはない、「謎の式」の正体は、
F(a, b, c) = 0(a2 + b2 + c2) + 0(ab + ac + bc) + 0
であり、恒等的にゼロに等しい多項式 F(a, b, c) = 0 に過ぎない。
くだらねぇ~と言うべきか、ふ~むと感心するべきか。まぁ、確かに多項式 F(a, b, c) = 0 は a, b, c について対称的(そもそも右辺は a, b, c を含んでないので、対称もヘチマもないが、それでも「a, b, c の変数名を入れ替えても値が変わらない」という対称性の定義を満たしている。ゼロでなんにもないんだから、非対称になる原因もない)。そして F は多項式 abc の 0 倍に等しいんで、もちろん abc で割り切れる。逆に、もしも F が「ゼロ多項式」以外の式だったとしたら、 F は2因子の積の和なんだから、3因子の積 abc で割り切れるわけないし。
以上の考察によって、実際に計算するまでもなく、《むむ》の左辺は恒等的にゼロに等しい。
〔注〕 《むむ》についてだけなら、こんなトリッキーな論法を使わなくても、直接計算した方が手っ取り早く結論を出せる。あえてこの論法を記したのは、同じ論法が、証明全体の要となるから。
結局、3次式 y3 + S1y2 + S2y + S3 の根を a, b, c とすると、
(a2 + b2 + c2) − (a + b + c)2 + 2(ab + ac + bc) = 0
が成り立つ。根と係数の関係 S1 = −(a + b + c), S2 = ab + ac + bc に注意しつつ、
3次式の根の2乗和を p2 = a2 + b2 + c2
3次式の根の1乗和を p1 = a + b + c
で表すと、上記の関係を次のように表現できる:
p2 + S1p1 + 2S2 = 0
既に見たように(《み》《む》)、2次式 y2 + S1y + S2 の根を a, b とすると、
(a2 + b2) − (a + b)2 + 2(ab) = 0
が成り立つ。根と係数の関係 S1 = −(a + b), S2 = ab に注意しつつ、
2次式の根の2乗和を p2 = a2 + b2
2次式の根の1乗和を p1 = a + b
で表すと、上記の関係を次のように表現できる:
p2 + S1p1 + 2S2 = 0
f(y) が2次式でも3次式でも、その根の2乗和・1乗和・その式の係数の間には、
同一の関係 p2 + S1p1 + 2S2 = 0
が成り立つ!
もし f(y) が4次式だったら? 4次式の四つの根 a, b, c, d は、
G(a, b, c, d) = (a2 + b2 + c2 + d2) − (a + b + c + d)2 + 2(ab + ac + ad + bc + bd + cd) = 0
を満たすであろうか。イエス! その場合、もし d = 0 なら G(a, b, c, 0) は《むむ》と一致するんで、多項式 G の値は 0 に等しい(少なくとも d = 0 のときには)。先ほどと同様の論法によって G は d で割り切れ、対称性によって a でも b でも c でも割り切れ、従って abcd で割り切れる。これは G がゼロ多項式であることを含意する。
この論法は何度でも反復できるので、 f(y) が2次式以上の何次式でも、根の2乗和 p2 は、
同一の関係 p2 + S1p1 + 2S2 = 0 《め》
を満たす。
(3/5) 根の3乗和・4乗和など
ここまでは m = 2 を固定し、幾つかの n について「n 次式の根の2乗和」を考えました。今度は m の方を動かして「根の3乗和」「根の4乗和」などを考えてみます。
3次式 f(y) = y3 + S1y2 + S2y + S3 の三つの根を a, b, c とする。つまり:
f(a) = a3 + S1a2 + S2a + S3 = 0
f(b) = b3 + S1b2 + S2b + S3 = 0
f(c) = c3 + S1c2 + S2c + S3 = 0
縦に足し算して:
(a3 + b3 + c3)
+ S1(a2 + b2 + c2)
+ S2(a + b + c)
+ 3S3 = 0
根の3乗和 a3 + b3 + c3 を p3 とすると、こうなる:
p3 + S1p2 + S2p1 + 3S3 = 0 《も》
《め》と《も》の類似性は明らかだろう。《め》は根の2乗和を1乗和で表した式、《も》は根の3乗和を1乗和・2乗和で表した式。のみならず、4次式の四つの根 a, b, c, d の3乗和についても、《も》と同一形式の次の等式が成り立つ。
(a3 + b3 + c3 + d3)
+ S1(a2 + b2 + c2 + d2)
+ S2(a + b + c + d)
+ 3S3 = 0
実際、この左辺で d = 0 とすると、3次式の場合の《も》の左辺と同一になり、そのとき左辺の値は = 0。従ってこの式は d で割り切れる。対称性から、同じ式は a, b, c のどれでも割り切れ、よって abcd で割り切れる。しかし、この式のどの項も次数は 3 なので、 abcd で割り切れるためには、値が恒等的に 0 でなければならない。同じ論法は何度でも反復できるので、3次式以上の多項式の根の立方和は、いずれも《も》を満たす(もちろん n 次式を考えているとき、 p3 は n 個の根についての3乗和を表す。 p2, p1 についても同様)。
たった今、「n 次式の根の3乗和」(m = 3)について n = 3 からスタートし n = 4 以上にも拡張できることを述べた。これは n 個の根をそれぞれ3乗して、足し合わせた値だ。
次に、似てるようだが違う話題。「n 次式の根の4乗和」(m = 4)について、 n = 4 の場合を考えてみる(m = n = 4)。つまり 4 個の根 a, b, c, d をそれぞれ4乗して、足し合わせた値 a4 + b4 + c4 + d4 だ。4次式 f(y) に y = a, b, c, d を入れると値が 0 になることから、四つの等式が得られる。縦に足すことで、《も》と同様の次の形になる:
p4 + S1p3 + S2p2 + S3p1 + 4S4 = 0
これまでと同じ論法によって、この等式は、5次式・6次式などの根の4乗和にも拡張される。この等式を p4 について解くことで、根の4乗和を、1乗和・2乗和・3乗和によって表すことができる。
さらに m = n の場合の一般論として、 m 次式の m 個の根を r1, r2, ···, rm として、
根の m 乗和 pm = (r1)m + (r2)m + ··· + (rm)m
を考えよう。今までと全く同様、 m 個の等式を縦に足し算するだけで、 pm の値を p1, p2, ···, pm−1 と関連付けることができる:
pm + S1pm−1 + S2pm−2 + ··· + Sm−1p1 + Sm⋅m = 0 《や》
のみならず、例の論法によって n+1 = m+1 次式の根の m 乗和や、 n+2 = m+2 次式の根の m 乗和などについても、同じ形式の等式が成り立つ。
(4/5) 多項式の次数 n が指数 m より小さい場合
以上によって、かなり一般的に、
n 次式の根の m 乗和 (r1)m + (r2)m + ··· + (rn)m
を求める手掛かりが得られました。もはや Newton の式を理解できたも同然。ただし、ここまでは「m 乗和」の m という指数について、多項式の次数 n がそれと等しい場合を出発点とし、その拡張として n が m 以上の場合を考えてきました。この限定を外す最後の詰め。
実は、多項式の次数 n は 1 以上の整数なら何でもよく、 m より小さくても構わない。その場合「無いデータは 0 とみなす」(後述)というだけで、引き続き全く同じ形式の等式が有効。例えば、 a, b, c を根とする3次式、
f(y) = (y − a)(y − b)(y − c) = y3 + S1y2 + S2y + S3
の根の3乗和 p3 について、
p3 + S1p2 + S2p1 + 3S3
が成り立ち(《も》参照)、同じ形式の等式は、4次式以上の根の3乗和についても成り立つ(m = 3, n ≥ 3)。では、
2次式 (y − a)(y − b) = y2 + S1y + S2
の二つの根 a, b の3乗和(m = 3, n = 2)については、どうか?
その場合、概念的には、与えられた2次式にダミーの根 c = 0 を追加して、
3次式 (y − a)(y − b)(y − 0) = y3 + S1y2 + S2y + 0 《ゆ》
を考えれば、その根の3乗和は上記の基本公式に従う(ダミーの根を含む3次式でも、3次式には違いないので)。「勝手にダミーの根を追加したら、与えられた式とは違う多項式になってしまうのでは?」という疑問について。確かにダミーの3次式は与えられた2次式とは別物だが、ここで求めたいのは、与えられた式の根の3乗和 a3 + b3 であり、従って、
a, b, 0 を三つの根とする3次式の根の3乗和 a3 + b3 + 03
を求めても、同じこと。 2次式 y2 + S1y + S2 には係数のデータが「S の2番」までしかないのに、公式 p3 + S1p2 + S2p1 + 3S3 は「S の3番」を含む。「3次式だったら S3 = abc だ」という事実と「ダミーで追加した根は c = 0 に当たる」という事実を考慮すると、 S3 = abc を ab × 0 = 0 とすれば、つじつまが合う。実際、ダミー3次式《ゆ》において、 S3 に当たる定数項は 0 に等しい。
一般に、ある n 次式の「根の m 乗和」を求めたいとき、 n が m より小さい場合には、公式の上で「その n 次式には存在しないデータ」が必要になるかもしれない。そのような「存在しないデータ」については、単に 0 と見なせばいい(ダミーの根 0 を m − n 個追加する処理に相当)。
かくして、任意の正の整数 m, n について、 n 次式の n 個の根の m 乗和を扱うことができる。
Newton の恒等式たちのポイント
m 乗和 pm の公式の形は、本質的に m によって決まり、多項式の次数 n に依存しない。
〔例〕 n が何であっても、 n 次式の根の2乗和は (S1)2 − 2S2 に等しい(それが多項式 p2 である)。
(5/5) まとめ・実際の活用例
n を正の整数とする。 n 次式 f の最高次(n 次)の係数が 1 であると仮定する。 n−1 次の係数を S1、 n−2 次の係数を S2 などとする。「0 次の係数」とは f の定数項である。もし「負の次数の項の係数」が必要になったら、その値は 0 としよう。
f の n 個の根の1乗和を表す多項式を p1 とし、2乗和を表す多項式を p2 とする。 p3 以降も同様に定義しよう。ただし、1次式の場合(根が一つしかない)、「根の m 乗和」とは一つの根それ自身の m 乗を表すものとする。
任意の正の整数 m について、最高次の係数が 1 であるような任意の n 次式の根は、次の性質を持つ。
pm + S1pm−1 + S2pm−2 + ··· + Sm−1p1 + Sm⋅m = 0 《や》再掲
和に含まれる p の番号は、 m 番から 1 番まで、だんだん小さくなる。最初にある m 番の p には、特別な係数なし。 m 番より小さい p があれば、それには、もともとの多項式 f の係数が掛け算される(掛け算される係数 S の番号は、 m から p の番号を引いたもの†)。形式的に考えると、 p1 を含む項の後ろに、最後の項として Smp0 があるはずだが、実際には、その p0 に当たる因子は整数 m になる。
〔補足〕 m = n の場合に限っては、この整数を文字通りに p0 つまり、
根の 0 乗和 (r1)0 + (r2)0 + ··· + (rn)0 = n = m
と考えることができる(《み》の 2、《も》の 3 のように)。 m ≠ n の場合、この整数は、多項式の根の 0 乗和 n とは一致しない(この式は n に依存せず m のみによって決まるのだから、 m ≠ n なら n ではなく m を含む)。「○次式の根の○乗和では、○個の等式を縦に足し算」という基本形を一般化した式なので、末尾の S○ は ○ 倍される。
† 言い換えると、p の番号と、掛け算される係数 S の番号の和は、一定の値 m を保つ。よって形式的に考えると、先頭の p0 には、 f の最高次の係数 S0 = 1 が掛かっている(そう考えてもいい)。
m = 1 の場合の p1 は、根の1乗和(根の和)を表す。《や》は、
p1 + S1⋅1 = 0 つまり p1 = −S1
となる。 m = 1, n = 1 の場合、これは 1次式 x + S1 の根が −S1 だ、という当たり前のことを意味する。 m = 1, n ≥ 2 の場合、これは n 次式の根の和が、「最高次より一つ下の係数 S1 の符号を変えたもの」に等しい、という「根と係数の関係」を意味する。
m = 2 の場合、《や》は、
p2 + S1p1 + S2⋅2 = 0
つまり p2 = −S1p1 − 2S2
となる。 m = 1 のケースから p1 = −S1 であり、それを代入すると:
p2 = −S1(−S1) − 2S2
∴ p2 = (S1)2 − 2S2
これは、根の2乗和(平方和)が、「一つ目の係数の平方から、二つ目の係数の 2 倍を引いたもの」に等しいことを意味する。
m = 3 の場合、《や》は、
p3 + S1p2 + S2p1 + S3⋅3 = 0
つまり p3 = −S1p2 − S2p1 − 3S3
となる。 m = 1 のケースから p1 = −S1 であり、 m = 2 のケースから p2 = (S1)2 − 2S2 なので、それらを代入すると:
p3 = −S1((S1)2 − 2S2) − S2(−S1) − 3S3
= −(S1)3 + 2S1S2 + S1S2 − 3S3
∴ p3 = −(S1)3 + 3S1S2 − 3S3
これは、根の3乗和(立方和)が、次の値に等しいことを意味する。「一つ目の係数を立方して符号を変え、一つ目の係数と二つ目の係数の積の 3 倍を足し、三つ目の係数の 3 倍を引いたもの」。
以下、同様に p4, p5 なども計算可能。
Newton の式の核心
Newton の式というのは「具体的な一つの公式」ではない。根の1乗和 p1 や2乗和 p2 や3乗和 p3 などなどの、式たちの関係を記述した「メタ公式」(公式についての公式)。このメタ公式を使うことで、必要に応じて、具体的な「2乗和の公式」「3乗和の公式」等々を次々と生成できる。
m が 2 以上のとき、 m 番の p は、 m−1 番以下の p たちと S たちの組み合わせで表されるが、下位の番号の p についての同様の表現を再帰的に代入することによって、究極的に pm は、係数 S たちだけを使って表現される。実用上、このような還元は必須ではない。例えば、特定の多項式について p3 の値を求めることが目的だとして、 p2 以下の値が既知なら、
p3 = −S1p2 − S2p1 − 3S3
を使って、直ちに p3 を求めても構わない。
S たちは多項式 f の「係数そのもの」であり、奇数番目の S は、対応する基本対称式とは符号が逆。係数 S1, S2, S3, ··· による表現を、基本対称式 E1, E2, E3, ··· による表現に変換したい場合、番号が奇数の S については、偶数乗されている場合を除き、符号を変える必要がある。例えば:
p3 = −(S1)3 + 3S1S2 − 3S3
= (E1)3 − 3E1E2 + 3E3
この最後の式は、(多項式の積に関する順列・組み合わせ的な発想を使って)直接的に導出することもできる。それはそれで面白いけど、 Newton の式を使うと、数行の簡単な計算だけで、同じ結論が淡々と得られる。
m = 1, 2 の場合(「根の和」「根の平方和」)については、こんな大げさな装置を使うまでもなく、直接的に考えた方が分かりやすいでしょう。 m = 3 の「根の立方和」の直接的導出もさほど難しくありませんが、 m = 4 は、直接やるとかなり面倒で、上記で使った「縦の足し算」を考える方が便利。立方和あるいは4乗和あたりから Newton の式は真価を発揮するようです。
Reichstein の出身地ヤロスラブリ(Yaroslavl)の風景
モスクワから約 200 km [2009年撮影・パブリックドメイン]
〔参考文献〕
[1] Z. Reichstein (2000), An inductive proof of Newton's identities
https://personal.math.ubc.ca/~reichst/nf-ind.html
英語版 [1] には、数式の誤字が多い。数式は言語と関係ないので、ロシア語版 [2] も参考にするといい。
[2] З. Б. Райхштейн (2000), Тождества Ньютона и математическая индукция (pages 204–205)
https://old.mccme.ru/free-books/matpros5.html
[3] Jane S. Dietrich (1983), To Do Mathematics: The Odyssey of a Soviet Emigré
https://calteches.library.caltech.edu/3365/
2025-04-19 ζ(2d) の再帰的な一般公式 三歩進んで
d を正の整数とする。 Yaglom 流では、次の多項式の根の d 乗和を経由して ζ(2d) を求めることができる:
ym − ((2m)(2m−1)/3!)ym−1
+ ((2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)/5!)ym−2 − ···
ここで ζ(N) は 1N, 2N, 3N, ··· の逆数の無限和。 d = 1, N = 2 の場合が有名なバーゼル問題だ。
この方法で ζ(2), ζ(4) を求めることは比較的容易で、面白い。原理的には、同じ方法をそのまま拡張して ζ(6), ζ(8), ζ(10) などを求めることも可能だが、効率が悪い。強引に推し進めず、簡単化を考えてみたい。結論を先に記すと、
ym
− (22/3!)ym−1
+ (24/5!)ym−2
− ···
の根の d 乗和を qd として、
ζ(2d) = qd/22d × π2d
となる。この観点の方が見通しが良く、 ζ(2), ζ(4) などの値も、軽快な方法で再び得られる。
この方法の出発点となるのは、 θ が直角未満の正の角度のとき、
不等式 cot2 θ < (1/θ)2 < 1 + cot2 θ
が成り立つという事実であった。一定の方法で選択した m 種類の角度をこの θ に入れることで、 m 個の不等式が得られ、それらを辺々足し合わせることで、
(2m + 1)2/(π2) × [1 + 1/22 + ··· + 1/m2]
の値が、 m についての2次式(最高次の係数が同じ)によって、上下から挟み撃ちされる。アイデアの核心は、 y = cot2 θ の和が「m についての(有理係数の)多項式」の根の1乗和で表されること。これによって m → ∞ のときの上記 [ ] 内の値、すなわち ζ(2) の値を決定できる。 Yaglom 兄弟によって記述され、ノルウェーやギリシャでも再発見されたこのエレガントな論法は、「神の証明集」にも収録されている。
Yaglom 兄弟はさらに、同じ多項式の根の2乗和によって同様に ζ(4) が求まることを記し、 ζ(6), ζ(8) なども同様に求められると付記している。しかしながら「そろりと二歩目」として試してみたところ、この方法を額面通りに適用して ζ(6) 以降を求めることは可能だが、あまり見通しが良くない。 Newton の式が事実上不可欠のツールとなるが、そのツールを使っても、多項式の根の d 乗和を(それ自体 m についての多項式として)正直に求めるのは、面倒。
問題を簡単化するため、まず次の点を明確にしておく: 「分子・分母がどちらも m についての4次式であるような分数」の極限値(m → ∞ のときの。以下同じ)は、「分子・分母それぞれの4次の係数」のみによって決まり、3次以下の項は結論に影響しない。実際、
(Am4 + Bm3 + Cm2 + Dm + E)/(Pm4 + Qm3 + Rm2 + Sm + T)
の形の分数を m4 で約すと、
(A + B/m + C/m2 + D/m3 + E/m4)/(P + Q/m + R/m2 + S/m3 + T/m4)
の形になるが、 m → ∞ のとき、分子・分母それぞれの2項目以降(例えば A/m や B/m2 などの項)が → 0 であることは明白(有限の A, B などが ∞ で割り算されるのだから)。よって、この分数の極限値は A/P であり、もともとの4次式の最高次の係数のみによって決まる。一般に、分子・分母がどちらも 2d 次式の場合、同様の議論によって、極限値は「最高次の係数の比」のみに依存する。そのことから、この問題においては、多項式の根の d 乗和を求めるとき、最高次の係数だけが本質的で、それ以外の情報を最初から無視することができる。
さらに、
f(y) = ym − ((2m)(2m−1)/3!)ym−1
+ ((2m)(2m−1)(2m−2)(2m−3)/5!)ym−2 − ···
の根の d 乗和 pd を考える代わりに、もっと簡単な多項式、
g(y) = ym − ((2m)2/3!)ym−1
+ ((2m)4/5!)ym−2 − ···
の根の d 乗和を考えても、極限値に関する限り、同じこと。理由は以下の通り。
f(y) の m−k 次の項の係数 sk は、明らかに「m についての 2k 次式」。それに関連して、次の命題が成り立つ。
命題 pd は m についての 2d 次式で、その 2d 次の項は、各 sk, pk の最高次の項のみによって決まる。
d = 1 の場合に関して、すなわち m についての2次式 p1 = −s1 = 4m2/3! に関して、この命題が正しいことは自明。帰納法による証明のため、命題が p1, p2, ···, pd−1 について正しいと仮定すると、この命題は pd についても正しい。実際、 Newton の恒等式から、
pd = −s1pd−1 − s2pd−2 − ··· − sd−1p1 − sd⋅d
であるが、 pk の次数(k ≤ d−1)に関する帰納法の仮定から、その右辺の第1項は2次式と 2d−2 次式の積、第2項は4次式と 2d−4 次式の積、等々となるから(そして sd は 2d 次式だから)、右辺各項は 2d 次式。よって、それらの(見かけ上マイナス符号が付いた項たちの)和である左辺 pd も 2d 次式であり、しかもその 2d 次の項は、 s1, s2, ···, sd; p1, p2, ···, pd−1 のそれぞれの最高次の項のみによって決まる。
さて、《ほ》《ま》以下と同様に ζ(2d) の値は、
pd/(2m + 1)2d × π2d
の極限値。 pd の最高次の項を Am2d とすると、上記の左側の分数の極限値は Am2d と (2m)2d の比†なんで、この比を簡約して m を取り除くことができる。要するに、 g(y) をさらに簡単化した有理係数の多項式
h(y) = ym
− (22/3!)ym−1
+ (24/5!)ym−2
− (26/7!)ym−3
+ (28/9!)ym−4
− ···
=
ym
− (2/3)ym−1
+ (2/15)ym−2
− (4/315)ym−3
+ (2/2835)ym−4
− ···
の根の d 乗和を qd とすると、次が成り立つ:
ζ(2d) = qd/22d × π2d 《よ》
† 分母の (2m + 1)2d を二項定理で展開すると、最高次の項は (2m)2d に等しい。より低い次数の項、例えば 2d(2m)2d−1 等も発生するけれど、最高次の項以外は極限値に影響しないので、われわれはそれらを無視する。
Newton の恒等式たちを使って d = 1, 2, 3 の場合の qd を具体的に求めてみる。 h(y) の係数を、
t1 = −2/3, t2 = +2/15, t3 = −4/315, ···
とすると:
q1
=
−t1⋅1
=
−(−2/3)⋅1
=
2/3
q2 = −t1q1 − t2⋅2
=
−(−2/3)⋅(2/3) − (2/15)⋅2
= 8/45
q3 = −t1q2 − t2q1 − t3⋅3
=
−(−2/3)⋅(8/45) − (2/15)⋅(2/3) − (−4/315)⋅3
= 64/945
ここでは Newton の式からの直接的な結論に従って、あえて二重のマイナス符号を使った複雑な表記をしている。 t1, t2, ··· では負の値と正の値が交互に現れること、および各 qd は正であること(なぜなら ζ(2d) = 1 + 1/22d + ··· は明らかに 1 より大きいので、 qd ≤ 0 という想定は等式《よ》に反する)を考慮すると、 qd は、上記形式において「プラスの項とマイナスの項が交互に現れる交代和」として表現される。つまり、奇数番目の項については(二重のマイナスを省いて)最初からプラスの値だと決め付けて構わない。
このようにして、簡単な分数計算で得られる q1, q2, q3 について、《よ》に従ってそれぞれ 22 = 4, 24 = 16, 26 = 64 で割り算すると、その商が ζ(2), ζ(4), ζ(6) における π2, π4, π6 の係数となる。この係数がそれぞれ 1/6, 1/90, 1/945 であることを(比較的面倒な方法で)既に求めたが、今述べた方法では、簡潔に同じ結論に至る。 ζ(2) を求めるだけなら Yaglom の論法はエレガントだし、 ζ(4) への応用も実用になるが、 ζ(6) 以降も含めてもう少し一般的に ζ(2d) の値を考える場合には、このように議論を練り直しておくと都合がいい。
〔付記〕 Apostol, 1973 ではさらに、本質的に同じ結論を(再帰的にではなく)直接的に表現することが試みられている。
《よ》によって、われわれは(再帰的ではあるが)本質的には小学生の算数によって、次々と ζ(2d) の値を決定できる立場となった。上記 q3 などの途中計算をもう少し詳細に記しておく。 t1 = −22/3! = −4/6 = −2/3 から q1 = 2/3 を得る部分には、疑問の余地はない。
t2 = 24/5! = 24/(1⋅2⋅3⋅4⋅5)
においては、分母に因子 2 がちょうど 3 個あるので、約分すると = 2/(3⋅5) = 2/15 となる。よって:
q2 = (2/3)(2/3) − (2/15)⋅2 = 4/9 − 4/15 = 20/45 − 12/45 = 8/45
さて、
t3 = −26/7! = −26/(1⋅2⋅3⋅4⋅5⋅6⋅7)
においては、分母に因子 2 がちょうど 4 個あるので、約分すると = −22/(3⋅5⋅3⋅7) = −4/315 となる。この分母は 3⋅3⋅7 = 63 の 5 倍に等しいので、因子 3 をちょうど 2 個含む。一方、
−t1q2 = (2/3)(8/45) = 16/135
の分母は、因子 3 をちょうど 3 個含むことから、 q3 の計算では、分母を 315 × 3 = 945 に通分することになる(945 は 135 の 7 倍。 135 は 45 の 3 倍なので、 945 は 45 の 21 倍):
q3 = (2/3)(8/45) − (2/15)(2/3) + (4/315)⋅3
= 16/135 − 4/45 + 12/315 = 112/945 − 84/45 + 36/945 = 64/945
今、 ζ(8) を求めるため、
t4 = 28/9! = 28/(1⋅2⋅3⋅4⋅5⋅6⋅7⋅8⋅9)
を考える。この分母には、因子 2 がちょうど 7 個ある。この形の分数は一般的にどう約分されるのか?という好奇心が湧くが、ここまでのところ、分子側の因子 2 の方が少し数が多く、分母の階乗の因数は約分されて全部奇数になっている。
t4 = 2/(3⋅5⋅3⋅7⋅9) = 2/2835
t4 の分母では、掛け算が一番楽な 5 を(計算が一番面倒な)最後の積に活用するなら、 3⋅3⋅7⋅9 = 81 × 7 = 567 を 5 倍すればいい(つまり 5670 を半分にすればいい)。このことから、分母 2835 は = 34⋅5⋅7 で、因子 3 を 4 個、因子 5 を 1 個、因子 7 を 1 個含む。
一方、
q4 = −t1q3 − t2q2 − t3q1 − t4⋅4
= (2/3)(64/945) − (2/15)(8/45) + (4/315)(2/3) − (2/2835)⋅4
= 128/2835 − 16/675 + 8/945 − 8/2835
= 120/2835 − 16/675 + 8/945
の最初の引き算の分母 675 は = 33⋅52 であり、因子 5 を 2 個含む。よってこの引き算では、分母を 34⋅52⋅7 = 2835 × 5 = 14175 に通分すればいい。 675 = 33⋅52 から見ると 3⋅7 = 21 倍なので:
120/2835 − 16/675 = 600/14175 − 336/14175 = 264/14175 = 88/4725
この最後の約分は、 264 と 14175 がどちらも 3 の倍数であることに基づく。結局、
q4 = 88/4725 + 8/945 = 88/4725 + 40/4725 = 128/4725
となる(4725 は 945 の 5 倍)。《よ》に従い、上記 q4 を 28 = 256 で割ることにより、われわれは、
ζ(8) = 1/9450 × π8
を得る。
2025-04-20 ζ(12) を見たときの不思議な気分 ダダッとダッシュ
ζ(2) = 1 + 1/22 + 1/32 + ··· = 1/6 × π2 は、素朴に好奇心を刺激する。これは孤立的な事例ではなく、
ζ(4) = 1 + 1/24 + 1/34 + ··· = 1/90 × π4
ζ(6) = 1 + 1/26 + 1/36 + ··· = 1/945 × π6
のように、 N が正の偶数のとき ζ(N) = 有理数 × πN となる。
謎めいた分数 1/6, 1/90, 1/945, ··· の素性(どういうパターンで並んでるのか)は、まだよく分からない。でも、この分数を単純計算(小学生の算数)で次々に決定できるところまで、問題を煮詰めた。 ζ(10), ζ(12) など、もう少しサンプルを増やせば、何か手掛かりが得られるかも…
y についての m 次式、
h(y) = ym
− (22/3!)ym−1
+ (24/5!)ym−2
− (26/7!)ym−3
+ (28/9!)ym−4
− ···
=
ym
− (2/3)ym−1
+ (2/15)ym−2
− (4/315)ym−3
+ (2/2835)ym−4
− ···
の m 個の根を、それぞれ d 乗して足し合わせた和を qd とすると、次が成り立つ。
ζ(2d) = qd/22d × π2d 《よ》再掲
ここで m の具体的な値は、どうでもいい(小さ過ぎなければ)。例えば、 m = 3 とすれば、上記は
y3
− (2/3)y2
+ (2/15)
− (4/315)
という3次式を意味し、 m = 4 とすれば、
y4
− (2/3)y3
+ (2/15)y2
− (4/315)y
+ (2/2835)
という4次式を意味する。根の d 乗和 qd は d のみによって決まり、多項式の次数とは関係ないので、上の3次式・4次式のどちらを考えても q2 や q3 の値は変わらない。ただし、この場合 q4 を正しく求めるには3次式では情報(係数の数)が足りず、 q5 を求めるには4次式では情報が足りない(計算上、ダミーの 0 になってしまい、情報が欠落)。ターゲットとなる d に応じて、 m は d 以上であることが必要。
m 次式の(m−1 次以下の)個々の係数を、次のように略記しよう。
t1 = −22/3! = −2/3
t2 = 24/5! = 2/15
t3 = −26/7! = −4/315
t4 = 28/9! = 2/2835
t5 = −210/11! = −4/155925
t6 = 212/13! = 4/6081075
このとき Newton の式から:
q1 = −t1⋅1 = 2/3
q2 = −t1q1 − t2⋅2 = 8/45
q3 = −t1q2 − t2q1 − t3⋅3 = 64/945
q4 = −t1q3 − t2q2 − t3q1 − t4⋅4 = 128/4725
q5 = −t1q4 − t2q3 − t3q2 − t4q1 − t5⋅5 = 1024/93555
q6 = −t1q5 − t2q4 − t3q3 − t4q2 − t5q1 − t6⋅6 = 2830336/638512875
q4 までの途中計算については、前回、細かく記した。内容は「小学生の算数」(単純な分数計算)だった。 q6 が、 q5 以下と比べ急に複雑になるのがちょっと気になるが、ともあれ、こうして得られた六つの分数を《よ》に従って、それぞれ
22 = 4, 24 = 16, 26 = 64, 28 = 256, 210 = 1024, 212 = 4096 で割ると、次のように、 ζ(2d) における π2d の係数が得られる(d = 1, 2, ···, 6):
ζ(2) = 1/6 × π2
ζ(4) = 1/90 × π4
ζ(6) = 1/945 × π6
ζ(8) = 1/9450 × π8
ζ(10) = 1/93555 × π10
ζ(12) = 691/638512875 × π12
〔注〕 q6 の分子 2830336 は = 212⋅691 = 4096 × 691。
この「12番が急に複雑になって、その分子は 691」という事実を見たとき、
Bernoulli 数 B12 = −691/2730
と似ている、と感じられる。偶然かもしれないけど、 ζ(2) の係数 1/6 も B2 そのものだし…
もし仮に ζ(12) の分子にある 691 が B12 の分子 −691 と関係あるとして(符号は逆だが)、分母の 638512875(無味の葉、恋に花子)は B12 の分母 2730 と関係あるか?
試しに「恋に花子」を 2730 で割ってみると、
638512875/2730 = 467775/2
となって割り切れない。前者は奇数、後者は偶数なので、割り切れないのは当たり前。しかし「恋に花子」の 2 倍なら、ちょうど 2730 で割り切れることが分かる(商は 467775)。
他の分母は、どうか。 ζ(10) の分母 93555 を B10 = 5/66 の分母 66 で割ってみると、
93555/66 = 2835/2
となって、やはり「2 倍すると、ちょうど割り切れる」。 ζ(8) の分母 9450 を B8 = −1/30 の分母 30 で割ってみると、
9450/30 = 315
となって、今度は割り切れる(従って、もちろん 2 倍した 9450 × 2 も、ちょうど割り切れる)。 ζ(6) の分母 945 を B6 = 1/42 の分母 42 で割ってみると、
945/42 = 45/2
となって「2 倍すると、割り切れる」。
ζ(2d) の係数を 2 倍するか、あるいは 2 で割るかすると、もしかすると Bernoulli 数 B2d との関連性が分かるのかもしれない…という漠然とした感覚が得られる。理論的裏付けはないけど、あれこれ試行錯誤を続けると、次のような規則性が見つかる(少なくとも d ≤ 12 に関しては):
ζ(6) の係数 1/945 を 2 倍した 2/945 を
6! = 720 倍して 26 = 64 で割ると B6 = 1/42 になる。
ζ(8) の係数 1/9450 を 2 倍した 2/9450 を
8! = 40320 倍して 28 = 256 で割ると B8 = −1/30 と絶対値が一致。
ζ(10) の係数 1/93555 を 2 倍した 2/93555 を
10! 倍して 210 で割ると B10 = 5/66 になる。
ζ(12) の係数 691/638512875 を 2 倍した 1382/638512875 を
12! 倍して 212 で割ると B12 = −691/2730 と絶対値が一致。
ζ(4) の係数 1/90 を 2 倍した 1/45 についても、 4! = 24 倍して 24 = 16 で割った 1/30 は、 B4 = −1/30 と絶対値が等しい。 ζ(2) の係数 1/6 を 2 倍した 1/3 についても、 2! = 2 倍して 22 = 4 で割った 1/6 は、 B2 = 1/6 に等しい。
一般に、 ζ(2d) の係数の 2 倍を (2d)! 倍して 22d で割ると B2d と絶対値が一致する、と予想される。
逆に言えば、 Bernoulli 数 B2d を 22d 倍して (2d)! で割り、さらに 2 で割ったものが、 ζ(2d) における π2d の係数である、と予想される。 22d 倍して、後から 2 で割るということは、トータルでは 22d−1 倍することに当たる。つまり次の式が成り立つようだ。
ζ(2d) = 22d−1 |B2d| / (2d)! × π2d
とりあえず絶対値記号を付けておいたが、 B2d は d が偶数のとき(番号 2d が 4 の倍数のとき)値が負で、 d が奇数のとき値が正なのだから、 d が偶数なら −1 倍して符号を反転させ正にして、 d が奇数なら何もせずそのままにすればいい。すなわち (−1)d+1 を掛け算するか、あるいは、同じことだが (−1)d−1 を掛け算すればいい。きれいに整理して書くと…
予想 ζ(2d) = (−1)d−1⋅22d−1 π2d B2d/(2d)!
ゼータ関数に正の偶数 2d を入れたときの値(無限の和)は、円周率の 2d 乗と Bernoulli 数 B2d によって制御される!
う~む、なんとも「高級そう」な話だ…
2d が大きいとき、 1/22d や 1/32d などはかなり小さい数なので、
ζ(2d) = 1 + 1/22d + 1/32d + ···
は 1 に近い(明らかに 1 よりは大きい)。例えば†:
ζ(12) = 691/638512875 × π12 = 1.0002460865 53308…
よって ζ(2d) ≈ 1 として、「予想」の式を B2d について解くと、 B2d の近似値が、円周率の 2d 乗の有理数倍として求まるであろう。この方法で得られる B2d の近似値には、実用上の価値があるかもしれない。というのも、 Bernoulli 数の小数部分については von Staudt–Clausen の定理によって容易に確定可能。よって、たとえ小数部分が不正確でも、整数部分さえ決定できれば、 B2d の正確な分数表現を確定できるはず。
† 収束も速い。例えば 1 + 1/212 + 1/312 = 1.0002460223… であり、最初の 3 項だけで、既に ζ(12) と小数第7位まで一致。
3月14日にバーゼル問題に関連することをチラッと書いたのは、単に「円周率の日」にちなんだネタというだけで、その時点では、このような探索を行う計画はなかった。数日後、オーストリアの Hofbauer による簡潔な証明を紹介したけれど、話題はあくまでバーゼル問題 ζ(2) であり、 ζ(2d) の一般論の予定はなかった。けれど Hofbauer が付記した参考文献を幾つか確認し、参考文献のそのまた参考文献欄を次々とたどるうち、 Chapman 経由で Apostol の論文を知り、ロシアの Yaglom 兄弟の問題集のことも知り、にわかに ζ(4) 以降に対する好奇心が高まった。やってみると、 Yaglom の方法で ζ(6) 以降に進むことは、可能だが面倒。若干の試行錯誤によって、歩きやすい道が見つかった。
Yaglom 兄弟は、大変含蓄のあることを記している。いわく(大意):
強調しておくが、問題を解ことする試みには大きな価値がある――たとえ結果が不成功であっても。それによって、初めて問題の核心に近づくことができるのだ。
「結果の成功・不成功を平等視して、作業それ自体に価値を見いだす」というのは、ギーター的な哲学でもある。果たして、この探索は「成功」だったであろうか。今回の到達地点は「予想」に過ぎず、きちんと証明されたわけではないので、極論すれば「何の成果もなかった」。 Yaglom の方法での ζ(6) の計算も、後から考えると、無駄な回り道だった。けれど「無駄な回り道」をしたからこそ「これでは面倒」ということが実感され、「もっと簡単にできないものか」と考えるモチベーションが得られた。回り道も含めて、収穫の多いハイキングだった。特に h(y) は、どこかに書いてあったのを読んだわけではなく、自力で再発見。客観的には大したことじゃなくても、うまい方法が見つければ、素朴にうれしい。やり残したことは、いろいろあるし、本当の冒険はこの先なんだろうけど、それは後日の楽しみとしたい――機会に恵まれれば。
『遊びの数論41』へ続く。