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遊びの数論52の続き。誤字脱字・間違いがあるかも。

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2025-12-23 n が 4 の倍数のときのガウス和 ふたやふたやよ
次のような和 W を考える。
n = 4 の例。 1 の原始4乗根(§7)のうち偏角 90° のものを r とする、つまり r = √−1 = i と。
W = r0 + r1 + r4 + r9
は何になるか(r の肩の指数は、四つの平方数 02, 12, 22, 32)。 r4 = 1 に留意して、指数を簡約(4 で割った余りで置き換える):
W = r0 + r1 + r0 + r1 = 2(r0 + r1)
4項の和のうち、前半2項と後半2項が同じ値の反復。もちろん = 2(1 + i) = 2 + 2i、あえて書けば √4 + i√4 だ。
n = 8 の例。 1 の原始8乗根のうち偏角 45° のものを r とする、つまり r = √i
=
√2/2 + i√2/2
と†。
W = r0 + r1 + r4 + r9 + r16 + r25 + r36 + r49
は何になるか(指数は八つの平方数 02, 12, 22, ···, 72)。
r8 = 1 に留意して指数を簡約(8 で割った余りで置換):
W = r0 + r1 + r4 + r1
+ r0 + r1 + r4 + r1
= 2(r0 + r1 + r4 + r1)
8項の和のうち、前半4項と後半4項は、同じ値の反復。
で、 r4 = (r2)2
= ((√i)2)2
= (i)2
= −1 なんで:
W = 2(1 + r + (−1) + r) = 2(2r) = 4r
= 4(√2/2 + i⋅√2/2)
= 2√2 + 2i√2 = √8 + i√8
同様の計算をすると n = 12 なら W = √12 + i√12 になり、 n = 16 なら W = √16 + i√16 になる(= 4 + 4i)。要するに n が 4 の倍数なら W = √n + i√n になる、ってことは予想がつく。こんなきれいで単純なパターン、簡単に証明できそうに思える。大数学者ガウスも、このパターンを発見したとき、自信たっぷりにそう考えたに違いない。
ところで √2 = 1.41421356…(
† 「8乗」は「4乗」の平方。 i は「1 の4乗根」なので、「平方すると i になる数」つまり √i は「1 の8乗根」。 √2/2 + i√2/2
が i の平方根であることを確かめるには、平方が = i になることを見ればいい:
(√2/2 + i√2/2)2
= 2/4
+ 2⋅√2/2⋅i√2/2
+ −2/4
= 2⋅2i/4 = i
つーか、まぁ、 cos 90° + i sin 90° の 1/2 乗は cos 45° + i sin 45° ってだけの話だが…
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§17 n が 4 の倍数のときのガウス和の積表現
r を 1 の原始 n 乗根とする(よって rn = 1)。 n が 4 の倍数のとき、 n 項の和
W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−1)⋅(n−1)
において、前半の n/2 項と、後半の n/2 項は、同じ値の反復。というのも、
「前半」の指数は 02 から (n/2 − 1)2 まで
「後半」の指数は (n/2)2 から (n − 1)2 まで
であるが、末尾の (n − 1)2 は (n/2 + n/2 − 1)2 なので、
「前半」の指数は ℓ2
「後半」の指数は (n/2 + ℓ)2
ただし ℓ = 0, 1, 2, ··· , n/2−1
ともいえる。ところが、
(n/2 + ℓ)2 = n2/4 + nℓ + ℓ2 = n(n/4 + ℓ) + ℓ2
が r の肩に乗るとき、 rn(n/4+ℓ)+ℓ2 = rn(n/4+ℓ)⋅rℓ2 = rℓ2 なので、「後半」の各指数は、 r の肩に乗った場合には、 ℓ2 つまり前半の各指数と同じこと――実際、仮定により n/4 は割り切れるので、 rn(n/4+ℓ) = rn(整数) = (rn)整数 = 1整数 = 1。
簡潔化のため n の半分(Hanbun)を H = n/2 と置くと、上記の観察から、
W = 2[r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(H−1)⋅(H−1)] タ
となる。タの [ ] 内の値を求めるためには、若干の準備を要する。ここで、前回導出した「第二の恒等式」が関係してくる。
問題 公式13…
1
+ t⋅(1 − t2m)/(1 − t2)
+ t2⋅[(1 − t2m)(1 − t2m−2)]/[(1 − t2)(1 − t4)]
+ t3⋅[(1 − t2m)(1 − t2m−2)(1 − t2m−4)]/[(1 − t2)(1 − t4)(1 − t6)]
+ ···
+ tm
= (1 + t)(1 + t2)(1 + t3)···(1 + tm)
…に t = −y を代入すると、どうなるか(y は何らかの値を表す文字)。
解 (−y) の偶数乗は y の偶数乗と同じだが、 (−y) の奇数乗は y の奇数乗の −1 倍。よって t の肩の指数が偶数なら、文字 t が単に y に置き換わる。 t の肩の指数が奇数なら、 t が y に置き換わるだけでなく、その項の符号が反転する。つまり:
1
− y⋅(1 − y2m)/(1 − y2)
+ y2⋅[(1 − y2m)(1 − y2m−2)]/[(1 − y2)(1 − y4)]
− y3⋅[(1 − y2m)(1 − y2m−2)(1 − y2m−4)]/[(1 − y2)(1 − y4)(1 − y6)]
+ ···
± ym
= (1 − y)(1 + y2)(1 − y3)···(1 ± ym)
複号は m が偶数なら上、奇数なら下。∎
さて t = −y と置くのはやめて、代わりにその逆数を代入、 t = −y−1 としよう。結果は上記とほとんど同じで、単に各指数が −1 倍される(上の式の y = y1 は、もちろん逆数 y−1 に変わる)。すなわち…
公式14(Gauß [0] p. 27, [1] p. 477) m が正の整数のとき、次の恒等式が成り立つ(左辺は m+1 項、右辺の因子は m 個)。
1
− y−1⋅(1 − y−2m)/(1 − y−2)
+ y−2⋅[(1 − y−2m)(1 − y−2m+2)]/[(1 − y−2)(1 − y−4)]
− y−3⋅[(1 − y−2m)(1 − y−2m+2)(1 − y−2m+4)]/[(1 − y−2)(1 − y−4)(1 − y−6)]
+ ···
± y−m
= (1 − y−1)(1 + y−2)(1 − y−3)···(1 ± y−m)
複号は m が偶数なら上、奇数なら下。
今、公式14で y = r と置き(つまり文字 y を r と読み替えて)、 m = n/2 − 1 とする。このとき、
−2m = −2(n/2 − 1) = −n + 2
−2m + 2 = −2(n/2 − 1) + 2 = −n + 4
−2m + 4 = −2(n/2 − 1) + 4 = −n + 6 等々
なので、公式14の分子に現れる因子たちは:
1 − r−2m = 1 − r−n+2 = 1 − r2
1 − r−2m+2 = 1 − r−n+4 = 1 − r4
1 − r−2m+4 = 1 − r−n+6 = 1 − r6 等々
よって、補題7に留意すると、公式14の各分数は、
(1 − r2)/(1 − r−2) = −r2
(1 − r4)/(1 − r−4) = −r4
(1 − r6)/(1 − r−6) = −r6 等々
を順に 1 個、 2 個、 3 個…掛けたものに他ならない(§8とほぼ同様。符号に注意)。結局、公式14の左辺は、こうなる:
1 − r−1⋅(−r2) + r−2⋅(−r2)(−r4)
− r−3⋅(−r2)(−r4)(−r6) + ···
= 1 + r−1+(2) + r−2+(2+4) + r−3+(2+4+6) + ··· チ
〔注〕 因子の符号の取りまとめについて: もともとマイナスだった項では、分数からマイナスの因子 (−r指数) が奇数個生じ、因子のマイナスが(もともとのマイナスも含めて)合計偶数個なので、整理するとプラスに。もともとプラスだった項は、分数からマイナスの因子が偶数個生じ、整理するとプラスのまま。要するに、もともとマイナスだった項も含めて、全部プラスの項になる。―― r の指数の整理について: 暫定的に一部マイナスが残り、各指数は −N+(N個の偶数の和) の形になる。
公式14の分母に現れ得る y の累乗は、指数の絶対値がどんなに大きいとしても、 y−2m まで。現在の仮定では m = n/2 − 1 なので、 y−2m は r−2(n/2−1) = r−(n−2) に当たる。つまりこれらの分母には、 r2, r4, ···, rn−2 の逆数をそれぞれ 1 から引いたものだけが、因子として含まれ得る。 r が原始 n 乗根であるという前提の下で r2, r4, ···, rn−2 はどれも ≠ 1。よって、それぞれの逆数も ≠ 1 で、分母が = 0 になる心配はない。
さて、チの r の肩に乗っている各指数は、
−N + (N個の偶数の和) = −N + 2(1 から N までの和) = −N + 2⋅N(N + 1)/2
= −N + N2 + N = N2 ただし N = 1, 2, 3, ···
であるから、チは 1 + r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· に等しい。この ··· は、どこまで続くか(それを確定させないと、和がはっきりしない)。公式14の左辺は m+1 項あり、チは公式14の左辺にて m = n/2 − 1 = H − 1 と置いたものだから、チは (H − 1) + 1 = H 項ある。従って、チは、
1 + r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + r(H−1)(H−1) ツ
に等しい、と確定。ツは、懸案のタの [ ] 内だ! 公式14の右辺から(y = r, m = n/2 − 1 = H−1)、チ = ツは次の積に等しい。
(1 − r−1)(1 + r−2)(1 − r−3)···(1 − r−(H−1)) テ
末尾の因子の ± は下(公式14参照)。なぜなら m = H−1 について、 n は 4 の倍数なので H = n/2 は偶数、 H−1 は奇数。
タの W は、ツの 2 倍。ツ = テなんで、 W はテの 2 倍。よって、次の積表現を得る。
命題15(Gauß [0] p. 29, [1] p. 479) n が 4 の倍数のとき:
W = 2(1 − r−1)(1 + r−2)(1 − r−3)(1 + r−4)···(1 + r−(H−2))(1 − r−(H−1))
〔例〕 n = 8, H = 4 の場合。 r の偏角を 45° として W = 2(1 − r−1)(1 + r−2)(1 − r−3) を数値的に計算すると、約 2.82842712 + 2.82842712i になる。この小数(ふたや・ふたやよ・ふたナイフ)は √8 だ。――しかし「1 の原始8乗根」は四つある。 r の偏角を −45° として同じ計算をすると結果は W = √8 − i√8 になり、偏角を 135° とすると W = −√8 + i√8 になり、偏角を −135° とすると W = −√8 − i√8 になる。 n が一般の 4 の倍数のとき、 W の実部・虚部の絶対値は単に √n になるとしても、2カ所(4パターン)の符号の決定は、ややこしそう。
§18 「足し算」を「引き算」に
命題15では、 r の指数 k が(負の)奇数か偶数かに応じて、引き算 (1 − rk) の形の因子と、足し算 (1 + rk) の形の因子が、交互に現れる。全部 (1 − rk) の形に統一できれば、
(1 − r)(1 − r2)(1 − r3)···(1 − rn−1) = n
と連携させられる(§10参照)。大筋においてはこの = n の積が W2 と関係していて、従って W は √n に関係している(n = 8 の例で √8 が現れるのは、そういうこと)。
補題16 n = 2H を偶数とする。 r が 1 の原始 n 乗根のとき rH = −1, r−H = −1 が成り立つ(H = n/2 は、もちろん整数)。
証明 仮定により rn = r2H = 1 が――言い換えると
r2H − 1 = (rH + 1)(rH − 1) = 0 (✽)
が――、成り立つ。従って、
(rH + 1) と (rH − 1)
の少なくとも一方は 0 に等しい(さもなければ両者の積 ≠ 0 となり(✽)と矛盾)。しかし、もしも
rH − 1 = 0 つまり rH = 1
だとしたら、 r が原始 n 乗根という仮定に反する。ゆえに、
rH + 1 = 0 つまり rH = −1
でなければならない。 −1 の逆数は −1 自身なので、この最後の式の両辺の逆数を考えると r−H も = −1。∎
〔注〕 直観的には: 円周を n 等分して印を付けた。ある印を基準に n 個目の印は、一周して 360° つまりもともとの印に戻る。だから n/2 個目の印は、もともとの印の正反対、つまり −1 倍の位置。反時計回りでも、時計回りでも、出発点から ±180° は、同じ正反対の場所。
補題16に留意すると、例えば 1 + rk の真ん中の符号 + が気に食わなければ、
1 + rk = 1 − (−1)⋅rk = 1 − rH⋅rk = 1 − rH+k ナ
として、真ん中の符号を強制的に反転できる! われわれの目的上、
(1 − r−1)(1 + r−2)(1 − r−3)(1 + r−4)···(1 + r−(H−2))(1 − r−(H−1)) ニ
という H−1 因子の積(それぞれ 1 ∓ r−k の形)の偶数番目にある 1 + r−2 等を 1 − r−2 等に変換したいのだが(命題15参照)、単にナで k = −2 とすると、
1 + r−2 = 1 − rH−2
となって、それは欲しいものと微妙に違う。しかし rH−2 とその逆数 r−(H−2) の積は 1 なので、
1 + r−2 = 1 − rH−2 = rH−2(r−(H−2) − 1)
と変形でき、この r−(H−2) − 1 は、欲しいものに近い――すなわちニの後ろから2番目の因子 1 + r−(H−2) には 1 − r−(H−2) になってもらいたいわけで、それは r−(H−2) − 1 のちょうど −1 倍。そこで 1 + r−2 を直接 1 − r−2 に変換することにこだわらず、
① 1 + r−2 を原料に 1 − r−(H−2) を作る
② 一方 1 + r−(H−2) を原料に 1 − r−2 を作る
というように、「因子が足し算」の項を両端から二つずつペアにして処理することで、「因子を引き算」に変更できる:
① 1 + r−2 = 1 − rH−2 = rH−2(r−(H−2) − 1) = −rH−2(1 − r−(H−2))
② 1 + r−(H−2) = 1 − rH−(H−2) = 1 − r2
= r2(r−2 − 1) = −r2(1 − r−2)
とすればいい。
〔注〕 ①の二つ目の等号までは前述の通り。三つ目の等号は (A − B) の形から −1 をくくり出して −(B − A) の形に変えただけ。この 1 + rℓ = −rH−ℓ(1 − r−(H−ℓ)) のテンプレに ℓ = H−2 を入れれば、②になる。実際、そのとき H−ℓ = H−(H−2) = 2。
このペアに①②の処理を施すと、足し算が引き算に変換されるが、その代償として、因子 −r2 と因子 −rH−2 がくくり出される(右端の丸かっこの前の部分)。同様に 1 + r−4 とその相棒を処理すると、因子 −r4 と因子 −rH−4 がくくり出される。等々、われわれはニの全因子を引き算の形に変換できるけど、その代償として、
(−r2)(−r4)(−r6)···(−rH−6)(−rH−4)(−rH−2) ヌ
という因子を追加する義務を負う。
〔補足〕 ①タイプと②タイプは、どちらもそれ単体で有効な等式。「必ずペアで使わないと駄目」ということはない。変換したい因子が奇数個の場合、端から二つずつペアにしていくと、中央ではペアにならない因子が一つ残る。そのような中央の因子に対しては、①②は全く同じ意味(例えば H = 12 と仮定し「2」を「6」で置き換えると、そうなる)。その場合、もちろん一方だけが実行され、追加の因子も(ペアではなく)一つだけ発生する。
ヌを一つの因子にまとめると:
±rA ここで A = 2 + 4 + 6 + ··· + (H − 2)
A は 2 から H − 2 までの各偶数の和。それは 1 から H/2 − 1 までの(H/2 − 1 個の)整数の和の 2 倍なので:
A = 2 × [(H/2 − 1)⋅H/2]/2
= H2/4 − H/2
= H2/4 − H/2
(H は 4 の倍数 n の半分なので偶数。よって H/2 は割り切れる。)上記 A の項数のカウントと平行的に、ヌの因子は H/2 − 1 個ある。よって ±rA の複号は H/2 − 1 が偶数なら上、奇数なら下。ゆえに:
±rA = (−1)H/2−1⋅(rH2/4−H/2)
この因子が、ニの全因子を引き算の形にした場合に、その代償として追加される。命題15にこの結論を適用すると:
命題17 n が 4 の倍数のとき:
W = 2(1 − r−1)(1 + r−2)(1 − r−3)···(1 + r−(H−2))(1 − r−(H−1))
= 2(−1)H/2−1⋅(rH2/4−H/2)⋅[(1 − r−1)(1 − r−2)(1 − r−3)···(1 − r−(H−2))(1 − r−(H−1))]
§19 n が 4 の倍数のときのガウス和の平方
命題17の [ ] 内には、因子 (1 − r−k) が k = 1, 2, ···, H−1 に対して存在する。これをさらに k = H, H+1, H+2, ···, n−2, n−1 まで拡張できれば、それら全体に含まれる n−1 種類の r−k たちは、 xn = 1 の x = 1 以外の全種類の解。従って、それら n−1 種類の (1 − r−k) の積は = n だ(§10)。この拡張工事は、今やった命題17の導出より易しい。単に ℓ = 1, 2, ··· , H−1 に対して、
1 − r−ℓ = r−ℓ(rℓ − 1) = −r−ℓ(1 − rℓ)
とすれば、命題17の [ ] 内の 1 − r−1, 1 − r−2 等々を原料に 1 − r1, 1 − r2 等々を作れる。これらは 1 − r−n+1, 1 − r−n+2 等々と等しく†、言い換えれば
1 − r−(n−1), 1 − r−(n−2) 等々
と等しい。要するに:
1 − r−ℓ = −r−ℓ[1 − r−(n−ℓ)] ネ
† rℓ と r−n+ℓ = r−n⋅rℓ は等しい。なぜなら r−n = (rn)−1 = 1−1 = 1。
かくして k = H, H+1, ··· , n−2, n−1 に対する (1 − r−k) のうち、 k = H の場合以外の H−1 個が、逆順で生じる――ネで ℓ = 1, 2, ··· , H−1 とすれば。命題17の左辺 [ ] 内の因子が、ちょうど一つずつ、欲しかった因子に変換される。変換コストとして ℓ = 1, 2, ···, H−1 に対する −r−ℓ たちが、追加因子となる(ネの[ ] の前の部分)。追加される因子たちを一つに合体させると:
(−r−1)(−r−2)(−r−3)···(−r−(H−1)) = −r−B
(H は偶数だから、追加される因子の個数 H−1 は奇数、よって ±r−B の符号はマイナス。)ここで:
B = 1 + 2 + 3 + ··· + (H−1) = (H − 1)H/2 = H2/2 − H/2 = H2/2 − H/2
∴ −r−B = −r−(H2/2−H/2) = −r−H2/2+H/2
この結論を命題17と組み合わせると、
W = 2(−1)H/2−1⋅rH2/4−H/2⋅[−r−H2/2+H/2⋅(1 − r−(H+1))(1 − r−(H+2))···(1 − r−(n−2))(1 − r−(n−1))]
となる。これを整理しよう。
rH2/4−H/2 と −r−H2/2+H/2 の積
の指数†は H2/4 − H/2
+
−H2/2 + H/2
=
H2/4 + −H2/2
=
−H2/4 = −H2/4 なので:
W = 2(−1)H/2−1⋅(−r−H2/4)⋅[(1 − r−(H+1))(1 − r−(H+2))···(1 − r−(n−2))(1 − r−(n−1))] Ⓐ
† r 自身の前にあるマイナス符号は、 r の肩の指数の計算に、影響しない。例えば r3 × r2 = r5 の指数も、 r3 × (−r2) = −r5 の指数も、 3 + 2。実際、 rrr と ±rr の積は、明らかに ±rrrrr だ。
等式Ⓐと、命題17の等式
W = 2(−1)H/2−1⋅(rH2/4−H/2)⋅[(1 − r−1)(1 − r−2)(1 − r−3)···(1 − r−(H−2))(1 − r−(H−1))] Ⓑ
の積を考えると:
W2 = 4⋅(−r−H/2)⋅[(1 − r−1)(1 − r−2)··· (1 − rH−1) × (1 − rH+1)(1 − rH+2)···(1 − rn−1)] ノ
なぜならば、ⒶⒷ両方の右辺にある (−1)H/2−1 は(当然)同一の数を表し、両方 +1 または両方 −1 なので、両者の積は +1 で、これらの因子は無いのと同じ。そして −r−H2/4 と rH2/4−H/2 の積は −r−H2/4+H2/4−H/2 = −r−H/2 に等しい。
ノの [ ] 内では × の位置で (1 − rH) が「抜けて」いる(単調に 1 ずつ変化して並んでいる r の指数が、そこだけ 2 変化している)。この因子を補ってやれば [ ] 内の積は n に等しくなる。というのも、
積 P = (1 − r−1)(1 − r−2)···(1 − r−(n−1))
の右辺に現れる n−1 個の数 r−1, r−2, ··· , r−(n−1) は、逆順で、それぞれ r1, r2, ··· , rn−1 に等しい(§7)。つまり、これらの r−k たちは、全体として、「1 の n 乗根」(原始 n 乗根に限らない)のうち 1 以外のものを、全種類一つずつ、過不足なく含む。よって§10ヤ・ユの理由から P = n だ。
ノの右辺に因子 (1 − rH) を追加するには、もちろん左辺も (1 − rH) 倍する必要がある。ところが、補題16から 1 − rH = 1 − (−1) = 2 だ。ゆえにノの両辺を 1 − rH 倍(= 2倍)した結果を、こう整理できる:
2W2 = 4⋅(−r−H/2)⋅[n]
∴ W2 = −2r−H/2⋅n
再び補題16に留意すると r−H/2 = r−H+H/2 = r−H⋅rH/2 = (−1)⋅rH/2 となり、上の式の余計な符号を除去できる:
W2 = −2(−1)⋅rH/2⋅n = 2rH/2⋅n
H = n/2 なので H/2 = n/4 であり、ついに次の結論を得る。
定理18(Gauß [0] p. 30, [1] p. 480) n を 4 の(正の)倍数、 r を 1 の原始 n 乗根とする。このとき、
W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−1)(n−1)
について、次が成り立つ:
W2 = 2rn/4⋅n = ±2i⋅n
2rn/4 = ±2i について。補題16から rH = rn/2 = −1 なので、 (rn/4)2 = rn/2 = −1 となる: rn/4 は「平方すると −1 になるような数」つまり i または −i だ。
§20 既に W2 に ± の揺れがある
もし r が「基本」の原始 n 乗根なら(つまり、もし r の偏角が θ = 360°/n なら)、 r の n/4 乗の偏角は 360°/n × n/4 = 90° で、 rn/4 = i だ。そのときには、定理18は W2 = 2i⋅n を含意する。のみならず、もし r の選択を変え、その偏角が 4θ = 4⋅360°/n 単位でずれたとしても――その「ずれ」の n/4 倍は 360° の倍数であるから――、 r を n/4 乗した結果の偏角(方位)には影響しない。つまり原始 n 乗根の選択として、もし r の偏角が θ であるか、それと 4θ 単位のずれがあるなら(一般的に言うなら、 u を整数として r の偏角が (4u + 1)θ の形なら)、定理18は W2 = 2i⋅n を含意する。
一方、もし r の偏角が逆向きの −θ = −360°/n なら、その n/4 倍は −90° なので、 rn/4 = −i だ。上記と同様の考察から、一般に、 r の偏角が (4u − 1)θ なら――あるいは、同じことだが (4u + 3)θ の形なら――、定理18は W2 = −2i⋅n を含意する。
n が奇数のときの W の符号の決定は難問題だったが、少なくとも W2 の符号は明快だった: もし n が 4u + 1 の形なら(r の選択と無関係に)必ず W2 = n で、もし n が 4u + 3 の形なら(r の選択と無関係に)必ず W2 = −n だ(定理9)。 W2 ではなく W 自身の符号を決定しようとするとき、初めて r の選択が問題となってくる(n が奇数なら)。これに反して n が 4 の倍数の場合、 W2 = ±2i⋅n の符号の選択は、既に r の選択に依存する。もっとも、この段階の符号は、上記のように単に r の偏角によって決まり、平方剰余・非剰余のような概念は絡まない。
で、まぁ、とりあえず n が 4 の倍数のときも、 W2 が +2i⋅n か −2i⋅n か、符号を決定できた、としましょう(実際、できたし)。
それからどうなるの? 何して遊ぶ?
もちろん W 自身を求めたいっ!
よろしい、ならば W だ。――機械的に言えば、
W2 = 2i⋅n のときは W = ±√(2i⋅n)
W2 = −2i⋅n のときは W = ±√(−2i⋅n)
(複号については未詳)
となるけど、複号の謎はさておき、
√(2i⋅n) = √(2i)⋅√n
の √(2i) の部分をもうちょっとなんとか整理するべきだろう(できれば実部・虚部を明確化して)。
〔コメント〕 冒頭に記したように √i は、
√2/2 + i√2/2 (✽)
であり、その知識を前提とするなら、 √(2i) = √2⋅√i が(✽)の √2 倍、つまり
2/2 + i⋅2/2 = 1 + i
であることは、すぐ分かる。でもこの考え方は「事前の知識」を前提とするので発展性に乏しい、ともいえる。以下では別の観点から、同じ結論を導いておく。
2i は偏角 90° で絶対値 2 なので、その平方根の一つは、明らかに偏角 45° で絶対値 √2 だ(平方すると偏角は 2 倍になり、絶対値は 2 乗される)。そのような点は 1 + i に他ならない。実際、代数的に言えば、 (1 + i)2 = 1 + 2i + (−1) = 2i だし、幾何学的に言えば 0, 1, 1 + i, i の四つの数に対応する四つの数点は、一辺の長さ 1 の正方形を成す: 1 + i の(0 から見た)向きはその対角線なので、右斜め上 45° だし、絶対値はその対角線の長さなので √(12 + 12) だ。
1 + i の平方は 2i ⇒ 2i の一つの平方根は 1 + i
ということは、もちろん自動的に、
−(1 + i) = −1 − i の平方も 2i ⇒ 2i のもう一つの平方根は −1 − i
を含意する。同様に、容易に確かめられることとして、 −2i の平方根は 1 − i または −(1 − i) = −1 + i。
今、定理18を(ほんの少しだけ)精密化できる。
定理19(Gauß [0] p. 30, [1] p. 480) n を 4 の(正の)倍数、 r を 1 の原始 n 乗根、 θ を 360°/n とする。このとき、
W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−1)(n−1)
について、次が成り立つ:
① もし r の偏角が (4u + 1)θ の形なら W = ±(1 + i)√n
② もし r の偏角が (4u + 3)θ の形なら W = ±(1 − i)√n
〔例〕 命題15の例(n = 8)として、既に次の趣旨のことを記した。 1 の原始8乗根のうち偏角 45° のものを R すると、 1 の原始8乗根 r = R1 に対して W = √8 + i√8 であり、別の原始8乗根 r = R−3 = R5 に対して W = −√8 − i√8 である。これは現象①だ。さらに r = R−1 = R7 に対して W = √8 − i√8 であり、 r = R3 に対して W = −√8 + i√8 である。これは現象②だ。①では R の指数が 4 の倍数より 1 大きく、②では R の指数が 4 の倍数より 3 大きい。
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ガウス和の平方(定理18の W2 = ±2i⋅n)の複号を解決できても――つまり①と②の分かれ道を正しく見分けられたとしても――、ガウス和 W それ自体を求めるには、①と②それぞれにおいて、再び複号の分かれ道が生じる。そのことを明示した定理19も終着点ではなく、未定の複号が、中ぶらりんのまま残っている。とはいえ、ここまで来たら、少なくとも「基本」の原始 n 乗根(偏角 360°/n)に関しては、あと一歩で解決できるであろう。
今回の内容は、なかなか楽しい尾根道だ。最初にこの内容を読んだときには、ガウスについて行くだけで精いっぱいだったけど、細部を確認しながら何度か歩いてみると、景色を楽しむ余裕が出てくる。省略記法 H = n/2 が奏功し、見通し良く指数計算ができた。ガウスは (−1)r−B の先頭の符号(必ずマイナス)を単に − とせず、 (−1)n/2−1 のように記している。そのせいで、ⒶとⒷでは (−1) の指数が別々になってしまい、ノの積を作るとき「同じ因子 (−1)H/2−1 が二つあるなら、問答無用でそれらを除去」という小技を使えない。この種の(論理的にはどっちでもいいような)実装について、ガウスは、あえて愚直に、ベタで記しているようだ。いわば「疑似コードによるコンセプト提示」では、小細工のような最適化をせず淡々と処理を記述した方が分かりやすい、ということかもしれない。
〔付記〕 原論文第15節の式7(このメモの公式14)には、バージョンによっては、誤植がある。初出とドイツ語版は正しい。全集版では、分母の −6 が −5 になっている。全集版のテキスト化では、分子の −2m+4 が −2m+2 になっている。他にも若干のささいな不具合が散在するようだ。
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