ミリマノフ多項式(遊びの数論45)

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English ]

きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。

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Non-trivial factors of Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n, i.e. generalized Cauchy–Mirimanoff polynomials En(x), have some curious roots for n = 9, 10, and 12. Their arguments are nearly equal to some simple rational multiples of pi. Especially, two roots of E12 (whose absolute values are 1) are almost equal to exp(πi⋅11/12) and exp(πi⋅13/12). They are
−0.9659258241… ± i⋅0.2588190531…
while the above-mentioned primitive roots of unity are
−0.9659258262… ± i⋅0.2588190451…
Well, that is rather impressive.

Cauchy’s theorem tells us that Pn(x) has trivial factors Qn(x) = (x2 + 1)κ(x2 + x + 1)λ, where κ = n%2 and λ = −n%3, and by En(x), we mean a polynomial Pn(x)/Qn(x), whose degree is a multiple of 6. We do not know if this curious phenomenon is already known or not. On July 7, 2025 (UTC) we first noticed that these “mildly interesting arguments” shared by the six roots of E9(x), but assumed that it was probably just a coincidence. But then today on July 9, 2025 (UTC), we noticed that similar things do happen for n = 10, 12 too. Since there are at least three such n’s, this is probably not coincidental; something interesting must be happening here, though it might be above my head. [2025-07-09T18:37Z]

Additional notes (in Japanese).

PS. As it turned out, the phenomenon is something more general. Some of the roots of xn = −1, i.e. some of the 2n-th roots of unity, are nearly equal to some roots of En(x), which is true for any n ≥ 6 except for n = 7. Memo in Japanese. [2025-07-12Z]

PPS. Let n ≥ 9 be odd. If x = exp (iθ) is a root of En(x) and if 0 < θ < π, then θ is a zero of 2n−1 cosn (θ/2) − cos (nθ/2) (see Helou [2]). These zeros occur when θ is near ℓπ/n, where ℓ is an odd integer such that 2/3 < ℓ/n < 1, except ℓ = (2n + 1)/3 will be excluded if n ≡ 1 (mod 6). For example, ℓ = 23, 25, 27, or 29 for n = 31 (ℓ = 21 will be excluded). [2025-07-13Z]


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2025-07-01 コーシー/ミリマノフ多項式(その2) 根の実部 −1/2 について

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

Cauchy 型の分解 (x + 1)11 − x11 − 1 = 11x(x + 1)(x2 + x + 1) E(x) において、
  E(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1
の根のうち二つは 1/2 ± i⋅1.7023216604… つまり実部がちょうど 1/2。なぜ?

シンプルで基本的な事実のはずだが、どの文献にも記載がない。

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E(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1 = 0 の解を考える。この6次式の係数は回文的(1, 3, 7, 9, 7, 3, 1)であり、両辺を x3 で割ると、
  x3 + 3x2 + 7x + 9 + 7x−1 + 3x−2 + x−3 = 0
  つまり (x3 + x−3) + 3(x2 + x−2) + 7(x + x−1) + 9 = 0  ☆
となる。

次の性質は、明らかだろう: x にある数 w を入れたとき ☆ が成り立つのなら、 x に 1/w = w−1 を入れたときも ☆ は成り立つ。というのも、例えば (x3 + x−3) に x = w を代入したときの
  w3 + w−3
は、同じ (x3 + x−3) に x = w−1 を代入したときの
  (w−1)3 + (w−1)−3 つまり w−3 + w3
に等しい。 (x2 + x−2) と (x + x−1) についても同様だから、 ☆ の左辺の x に、任意の(0 以外の)数 w を代入したときの値は、同じ ☆ の左辺にその w の逆数 1/w を代入したときの値と同一。より一般的に:

n 次式 ƒ(x) = anxn + an−1xn−1 + ···  + a1x1 + a0x0 が、
  an = a0, an−1 = a1, ···, an−ℓ = a, ·· ·  ただし 0 ≤ ℓ ≤ n/2  
を満たすとき、この多項式 ƒ(x) の係数を回文的と形容する。係数が回文的な多項式そのものを「回文的」「回文多項式」と呼ぶこともある。この定義との関係においては、係数 a0, a1, ··· の範囲はおおむね何でも構わない。しかし、ここでは係数の範囲は「整数・有理数・実数・複素数のどれか」とする。もちろん最高次の係数 a0 については ≠ 0 という制約を付ける(もしも a0 = 0 だったら、もはや n 次式とは呼べない)。

ƒ(x) の根、つまり方程式 ƒ(x) = 0 を満たす解 x を問題にする場合、この方程式の両辺を a0 で割っても解(根)の集合は変わらない(もしそのような割り算を実行すると、最高次の項 xn の係数は 1 になる)。よって、そうしたければいつでも、一般性を失うことなく(=根の性質について、余計な追加条件を加えることなく)最高次の項の係数は 1 であると仮定できる(そのような割り算を行えば、係数が整数の多項式が有理係数に変わることはあり得るけれど、根の個数や値には何の影響も生じない)。もし回文的な多項式の最高次の係数が 1 ならば、もちろんその多項式の定数項は 1 だ。

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定理1 ƒ(x) を回文的な多項式とする。 0 でない任意の複素数 w について、もし ƒ(w) = 0 が成り立つなら ƒ(1/w) = 0 も成り立つ。

まず上記の具体例 ☆ の扱いと同様の証明を記す。この証明法はあまり簡潔ではないけど、「実際に回文的多項式を扱うときの定石的な手法」をそのまま応用しているという意味で「実践的」。すぐ後で、より簡潔な別証明も紹介する。

証明 第一に、次数 n が偶数 2m の場合(項数は 2m+1 個)を考えよう。 ƒ(x) の回文的な係数は、左端から右に
  a0, a1, a2, ·· · , am−1
と進む(小計 m 項)。右端からも逆順で同じ係数が現れる(小計 m 項)。最後に、中央の項の係数を am と書くことができる(合計 2m+1 項)。すなわち:
  ƒ(x) = a0x2m + a1x2m−1 + a2x2m−2 + ···  + am−1xm+1
   + amxm
   + am−1xm−1 + ···  + a2x2  + a1x1 + a0x0

同じ係数の項をまとめると:
  ƒ(x) = a0(x2m + x0) + a1(x2m−1 + x1) + a2(x2m−2 + x2) + ···  + am−1(xm+1 + xm−1) + am(xm)

この多項式の両辺を x−m 倍すると、各 x の指数は、 m だけ小さくなる(言い換えれば −m が足し算される):
  ƒ(x)⋅x−m = a0(xm + x−m) + a1(xm−1 + x−m+1) + a2(xm−2 + x−m+2) + ···  + am−1(x1 + x−1) + am(x0)
定理の仮定により ƒ(w) = 0 なので:
  0 = ƒ(w)⋅x−m = a0[wm + w−m] + a1[wm−1 + w−(m−1)] + a2[wm−2 + w−(m−2)] + ···  + am−1[w1 + w−1] + am(w0)

もし、この最後の式に含まれる各 w のひとつひとつを 1/w つまり w−1 に置き換えると、もともとの w は (w−1) = w−ℓ に置き換わり、もともとの w−ℓ は (w−1)−ℓ = w に置き換わる(ℓ = 1, 2, ··· , m)。つまり w と w−ℓ が入れ替わるだけで、この置き換えによって各 [ ] 内の和 w + w−ℓ は変化しない。 w0 = (w−1)0 = 1 なので、 am(w0) の値も、この置き換えによって変化しない。結局 ƒ(1/w)⋅w−m = ƒ(w)⋅w−m だ。この右辺 ƒ(w)⋅w−m は = 0 だから(∵仮定により ƒ(w) = 0)、それに等しい左辺 ƒ(1/w)⋅w−m も = 0。ここで w−m ≠ 0 だから(∵ w ≠ 0)、 ƒ(1/w) = 0 でなければならない。

第二に ƒ(x) の次数 n が奇数 2m − 1 の場合。その場合、項数が偶数 2m なので、「ど真ん中で孤立」している項 amxm がなくなる。従って、「w0 と (w−1)0 は値が同じ」という上記の議論が不要になる。それ以外の部分については、上記の証明がそのまま通用する。∎

〔注〕 w は 0 でないとする、という断り書きは、定理の有効範囲を狭めるものではない。というのも最高次の係数 a0 は ≠ 0 であり、回文多項式 ƒ(x) の定数項はこの a0 に等しい。従って、どんな場合でも ƒ(0) = a0 ≠ 0 であり、 x = 0 は ƒ(x) = 0 の解になり得ない(つまり解 w が ≠ 0 というのは最初から分かり切ったことで、実質的に追加条件ではない)。にもかかわらず w ≠ 0 と断るのは、「証明で使う 1/w という値の分母が 0 になってほしくない」(ゼロ除算エラー回避)というテクニカルな理由による。

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次の証明法は、より簡潔。「次数 n が偶数か奇数か」の場合分けが必要ない。

定理1の別証明 任意の回文的 n 次式
  ƒ(x) = a0xn + a1xn−1 + a2xn−2 + ···  + a2x2 + a1x1 + a0x0  ★
を考える。

★ の両辺を x−n 倍すると:
  ƒ(x)⋅x−n = a0x0 + a1x−1 + a2x−2 + ···  + a2x−n+2 + a1x−n+1 + a0x−n
この式に x = w を代入すると、どうなるか? 仮定により ƒ(w) = 0 なので、次のように値が 0 になる!
  0 = ƒ(w)⋅w−n = a0w0 + a1w−1 + a2w−2 + ···  + a2w−n+2 + a1w−n+1 + a0w−n  ★★

一方、 ★ に x = w−1 を代入すると:
  ƒ(w−1) = a0(w−1)n + a1(w−1)n−1 + a2(w−1)n−2 + ··· + a2(w−1)2 + a1(w−1)1 + a0(w−1)0
     = a0w−n + a1w−n+1 + a2w−n+2 + ··· + a2w−2 + a1w−1 + a0w0

この最後の式の右辺は ★★ の右辺(の項を逆順に並べたもの)と同一なので、その和は ★★ と同じく 0 に等しい。要するに ƒ(w) = 0 と仮定すると、 ƒ(w−1) つまり ƒ(1/w) も必然的に = 0。∎

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回文的な多項式 ƒ(x) の典型的な扱い方は、次のようなものだ。 y = x + 1/x なり z = x + 1/x と置いて、新しい変数 y なり z なりについての半分の次数の多項式を得る。その根を求め、変数の置換を戻して、もともとの ƒ(x) の根を求める…。この定石は、ここでの本題との関連では、あまり役立たない(理由は下記)。

回文多項式 E(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1 において z = x + 1/x と置き整理すると、 z についての3次式、
  z3 + 3z2 + 4z + 3
を得る。この3次式の根を求めると次の通り(途中計算略。別のメモと末尾の付録1参照)。
  z1 = −1 − (3/6)(R − S) = −1.6823278038…
  z2 = −1 + (3/12)(R − S) + (i/4)(R + S) = −0.6588360980… + i⋅1.1615413999…
  z3 = −1 + (3/12)(R − S) − (i/4)(R + S) = −0.6588360980… − i⋅1.1615413999…
ここで R, S は、それぞれ次の実数:
  R = 3(431 + 427)
  S = 3(431 − 427)

上記の zj たち(j = 1, 2, 3)を使い x + 1/x = zj つまり x2 − zjx + 1 = 0 をそれぞれ解くことで E(x) = 0 の解を求めることは可能だが、そうして得られた六つの解のうち二つの実部が −1/2 になることを直接的に示すのは、困難だろう。 zj 自身が複雑な二重根号(R や S で表される。外側は立方根号)を含み、それを係数に持つ x2 − zjx + 1 = 0 の解は三重根号(立方根号を含む)で表される複素数を含む。力技でこれらの多重根号を処理することは困難、あるいは不毛かもしれない。

別の方向からアプローチすることで軽快で見通しの良い議論が可能となり、 Cauchy–Mirimanoff 多項式に対する重要な知見も得られる。

〔付記〕 上記 R, S の代わりに、
  R′ = 3(31 + 27) と S′ = 3(31 − 27)
を使って、次の例のように表記することも可能。
  z1 = −1 − (343/6)(R′ − S′) = −1 − (6432/6)(R′ − S′)
  あるいは z1 = −1 − 2−1/3 3−1/2 (R′ − S′) = −1 − 108−1/6(R′ − S′)

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n を 5 以上の何らかの整数とし、その n に応じて定まる整係数の多項式 Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1 を考えると、 Cauchy の定理により、次の分解が成り立つ。
  n が 6k + 1 型の奇数なら Pn(x) = x(x + 1)(x2 + x + 1)2 E(x)
  n が 6k − 1 型の奇数なら Pn(x) = x(x + 1)(x2 + x + 1) E(x)
ここで E(x) は Pn(x) を x(x + 1)(x2 + x + 1)2 ないし x(x + 1)(x2 + x + 1) で割った商――それは n に応じて定まる次数 0 以上の整係数多項式であり、
  m(x2 + x + 1)s[x(x + 1)]t
の形の項、またはその形の項の和として表すことができる(m は正の整数、 s, t は 0 以上の整数)。その理由は、帰納法を用いた Cauchy の定理の証明から、直ちに明らかだろう。すなわち、
  pn(a, b, c) = an + bn + cn
を任意の3変数 a, b, c の n 乗和とし(n は 0 以上の任意の整数)、 U = −(ab + ac + bc), C = −abc と置き、 a + b + c = 0 と仮定すると、
  p0(a, b, c) = 3, p1(a, b, c) = 0, p2(a, b, c) = 2U
  n ≥ 3 ⇒ pn(a, b, c) = Upn−2 + Cpn−3
が成り立つのであった。よって、任意の整数 n ≥ 2 について pn(a, b, c) は mUsCt の形の項、またはその形の項の和。ところが Pn(x) は、この pn(a, b, c) に
  a = x + 1, b = −x, c = −1
を代入し n を 6k ± 1 型の奇数に限った場合の、 x についての(1変数の)多項式と同等。このとき、
  U = −[x⋅1 + x(−x − 1) + 1⋅(−x − 1)] = x2 + x + 1
  C = −[x⋅1⋅(−x − 1)] = x2 + x = x(x + 1)
であり、簡単な議論によると、
  Pn(x) = x(x + 1)(x2 + x + 1)λ E(x)
と書くことができるのであった(n が 6k − 1 型か 6k + 1 型かに応じて λ = 1 または 2)。これが Cauchy の定理だ。多項式 Pn(x) は、その構成法から明らかなように、上記 U, C の組み合わせから成る――より正確に言うと、
  mUsCt つまり m(x2 + x + 1)s(x2 + x)t
の形の一つ以上の項から成る。もちろん同じ性質は、 Pn(x) から因子 UλC を取り除いた余因子 E(x) についても成り立つ(n が小さいとき、この余因子が0次式 E(x) = 1 になることはある。その場合 m = 1, s = t = 0)。

〔付記〕 この形の多項式 E(x) は Cauchy–Mirimanoff 多項式と呼ばれる(少なくとも n が奇数の場合には)。多項式の定数倍の違いは本質的ではないが、 n が素数なら、通例、最高次の係数を 1 として記される。

以上のことから、次の定理を得る。

定理2 n ≥ 2 を整数とし、 Cauchy 型の多項式 P(x, y) = (x + y)n + (−x)n + (−y)n において y = 1 に固定した多項式を単に P(x) と書くことにする(もちろん多項式 P(x) の具体的内容は n によって異なる)。任意の複素数 w について P(w) = P(−w − 1) が成り立つ。特に w が P(x) の根の一つなら、 −w − 1 も P(x) の根。同様の性質は P(x) の因子 E(x) についても成り立つ。

〔例1〕 n = 5 の場合。 (x + y)5 − x5 − y5 において y = 1 に固定した次の多項式を考えよう。
  P(x) = (x + 1)5 − x5 − 1 = 5x4 + 10x3 + 10x2 + 5x = 5x(x + 1)(x2 + x + 1)
このとき、例えば w = 2 とすると P(w) = P(2) = 10⋅3⋅7 = 210 と P(−w−1) = P(−3) = −15⋅(−2)⋅7 = 210 は等しい。

〔例2〕 n = 11 の場合。 E(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1 = (x2 + x + 1)3 + [x(x + 1)]2 について、例えば w = 3 とすると、
  E(w) = E(3) = (9 + 3 + 1)3 + (3⋅4)2 = 133 + 122 = 2197 + 144 = 2341
となる。これは E(−w − 1) = E(−4) = (16 − 4 + 1)3 + (−4⋅3)2 に等しい。

証明 上述のように、 P(x) もその因子 E(x) も、 m(x2 + x + 1)s[x(x + 1)]t の形の項、またはその形の項の和として表現可能(m は正の整数、 s, t は 0 以上の整数)。よって x = −w − 1 のときの U(x) = x2 + x + 1 の値と C(x) = x(x + 1) = x2 + x の値が、それぞれ U(w), C(w) に一致することを示せば十分。
  C(−w − 1) = (−w − 1)2 + (−w − 1) = (w2 + 2w + 1) − w − 1 = w2 + w = C(w)
は、確かに成り立つ。従って―― U(x) = C(x) + 1 に留意すると――
  U(−w − 1) = C(−w − 1) + 1 = C(w) + 1 = U(w)
も、確かに成り立つ。∎

定理2は、平易だが重要。「3次式 t3 − Ut − C の根 a, b, c のべき和」についての再帰的公式を利用する初等的な証明法は、軽妙だと思われる。次の定理3は、 Cauchy–Mirimanoff 多項式に関する基本的な事実であり、定理1・定理2から、容易に導かれる。

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定理3(Mirimanoff [1]: 1903年) n を 5 以上の素数とし、 Cauchy 型の多項式 Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1 を考える。もし複素数 w が Pn(x) の一つの根なら、次の六つの複素数は、いずれも Pn(x) の根(ただし分母が 0 になる分数を除く)。
  w, 1/w, −w − 1, −1/(w + 1), −1 − 1/w, −w/(w + 1)
拡張 同様のことは、 Pn(x) の因子である Cauchy–Mirimanoff 多項式 En(x) についても成り立つ。のみならず、定理が有効な n の範囲を「5 以上の素数」から「3 以上の奇数」に広げることが可能。

証明 特別な場合。もし w = 0 なら「−1 も Pn(x) の根であること」を示せば十分であり、もし w = −1 なら「0 も Pn(x) の根であること」を示せば十分。ところが、 n が 5 以上の素数なら、 Cauchy の定理から Pn(x) は x(x + 1) で割り切れるので、 x = 0, −1 は Pn(x) の根。 n = 3 の場合の P3(x) = 3x(x + 1) もまたしかり。

一般の場合。 w を Pn(x) の任意の根(ただし w ≠ 0, −1)とする。このとき、定理1により 1/w も根であり、定理2により −w − 1 も根。よって、再び定理1により、 −w − 1 の逆数 1/(−w − 1) = −1/(w + 1) も根。のみならず、 1/w が根であることから、定理2により
  −(1/w) − 1 = −1 − 1/w = (−w − 1)/w
も根であり、定理1により、その逆数 −w/(w + 1) も根。「拡張」については後述(定理5)。∎

補題 もし二つの複素数 u, v が u + v = −1 を満たし、かつ積 uv が 1/4 以上の実数なら、 u と v は共役複素数で実部が 1/2 に等しい。

証明 u, v は2次式 x2 − (u + v)x + uv の根。 c = uv と置くと、仮定 u + v = −1 により、 u, v は2次方程式 x2 + x + c = 0 の解であり、
  u, v = [−1 ± (1 − 4c)]/2
となる。仮定により c は 1/4 以上の実数。もし c = 1/4 なら u = v = −1/2 であり、補題は自明。一方、もし c > 1/4 なら、上記分母の根号下は負の実数なので、この平方根は純虚数であり、 u, v の実部に影響しない。その場合、 u, v は虚部の符号のみが異なり、どちらも実部 −1/2。∎

定理4(実部 −½ の根の存在の例) E11(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1 = (x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2 は Cauchy–Mirimanoff 多項式の一つであり、その六つの根 x のうち、ちょうど二つは「自分自身とその逆数の和 x + 1/x が実数」という性質を持つ。 x = w がそのような根の一つなら、
  u = −1/(w + 1), v = −w/(w + 1)
も E11(x) の根であり、 u も v も実部が 1/2 に等しい。

証明 前述のように E11(x) の根は、
  x + 1/x = z1 または x + 1/x = z2 または x + 1/x = z3
を満たす計 6 個の複素数 x だ(付録1も参照)。ここで z1, z2, z3 は、3次方程式 z3 + 3z2 + 4z + 3 = 0 の三つの解であり、そのうち一つ(z1 とする)は実数 −1.6823278038… で、残りの二つは非実数。今、
  x + 1/x = z1 つまり x2 − z1x + 1 = 0
を満たす二つの x の一方を任意に選んで、その値を x = w としよう。この w は E11(x) の一つの根。定理3により u, v も E11(x) の根であり、しかも、
  u + v = −1/(w + 1) + −w/(w + 1) = −(w + 1)/(w + 1) = −1
を満たす。のみならず、積
  uv = −1/(w + 1) × −w/(w + 1) = w/(w + 1)2 = w/(w2 + 2w + 1)
を考えると、その逆数、
  (uv)−1 = (w2 + 2w + 1)/w = (w + 1/w) + 2 = z1 + 2
は、 z1 についての仮定により実数。 z1 ≈ −1.68 なので、 (uv)−1 は 1 未満の正の実数であり、従って積 uv は 1 以上の実数。ゆえに補題から、 u も v も実部が −1/2 に等しい。∎

x2 − z1x + 1 = 0 の解は:
  x = −0.84116 39019 14009… ± i⋅0.54078 02604 72586…

複号で表される二つの複素数のどちらを x としても x + 1/x = z1 なので、一方を w とすると他方は 1/w に等しい。仮に複号で + を選んだものを w とすると:
  u = −1/(w + 1) = −1/2 + i⋅1.70232 16604 69838…
  v = −w/(w + 1) = −1/2 − i⋅1.70232 16604 69838…
u と v は、判別式が負の(実係数の)2次方程式の解なので、共役複素数。 w, u, v とそれぞれの逆数 1/w, 1/u, 1/v の計 6 個の複素数が、 E11(x) の根だ(定理1参照)。もし x の複号で − を選んだものを w とするなら、上記の u と v の値が入れ替わる。

E11(x) の六つの根は、互いに逆数の三つのペアに分かれるばかりか(定理1)、互いに共役の三つのペア(互いに逆数とは限らない)にも分類可能。すなわち、第一に w と 1/w は互いに逆数で、しかも互いに共役。第二に u と v は互いに共役。従って、第三に、共役な複素数 u, v それぞれの逆数 1/u, 1/v も、互いに共役。

付記 実係数の任意の多項式
  ƒ(x) = a0x0 + a1x1 + ··· + anxn  (係数 aj は実数)
が複素数の根 w を持てば、共役複素数 w* も ƒ(x) の根。このことは、係数の回文性やその他の条件とは無関係に成り立つ。実際、 ƒ(w) の各項 ajxj の値は、対応する ƒ(w*) の各項の値と共役だから、 ƒ(w*) = [ƒ(w)]* だ。よって、もし ƒ(w) = 0 なら ƒ(w*) = [0]* = 0。より具体的に、任意の複素数 w について ƒ(w) と ƒ(w*) は実部が等しく、虚部の符号だけが逆になる。特に、もし ƒ(w) = 0 なら、その実部も虚部も 0 に等しい。

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これら六つの「6次の複素数」のうちの二つが、有理数 −1/2 の実部を持つことは印象的であり、そうなる理由は一見したところ明らかではない。当初、根号表現を操作することで――すなわち「3次方程式の解を係数とする2次方程式」の解の公式を経由して――実部が −1/2 になるケースを直接的に検出できるのではないかとも思われたが、うまくいかず、仮に実行可能だとしてもそのアプローチでは見通しが悪そう。次に「根の軌道」を利用しつつ、「二つの複素数が共役であること」(付録1参照)を経由して(例えば和が −1 で差が純虚数になることから)実部 −1/2 という結論を導くことを試みたが、簡潔な形でまとめることができなかった。

若干の試行錯誤の結果、上記の手順が見つかった。分かってみると大したことではなかったが、この種のアプローチは、別の文脈(べき和に関連する多項式など)でも応用が利きそう。 Cauchy–Mirimanoff 多項式と Bernoulli 数が本質的に深く関連しているのかどうかは分からないが、前者の根の一部が実部 −1/2 を持つ「形式的なメカニズム」には、確かにある種の共通性があるようだ。

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付録1 E11(x) の六つの根が「3ペアの共役複素数」から成ることの直接的証明。

11乗の二項展開に関連する Cauchy の恒等式
  (x + y)11 − x11 − y11 = 11(x2 + xy + y2)⋅xy(x + y)⋅Q(x, y)
を考える。ここで:
  Q(x, y) = x6 + 3x5y + 7x4y2 + 9x3y3 + 7x2y4 + 3xy5 + y6
y を 1 に固定すると Q(x, y) は x についての回文的6次式、
  E11(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1  (☆)
となる。以下、この6次式を単に E(x) と記す。

E(0) = 1 だから x = 0 は E(x) の根ではない。(☆)の根を求めるため、その両辺を x3 (≠ 0) で割り z = x + 1/x と置くと、3次式
  ƒ(z) = z3 + 3z2 + 4z + 3
を得る。

整係数の3次方程式 ƒ(s − 1) = s3 + s + 1 = 0 は、一つの実数解と、二つの非実数解を持つ。実際、方程式を解くと
  s1 = (3/6)(R − S) = −0.6823278038…
は実数解。ただし、
  R = 3(431 + 427) と S = 3(431 − 427)
は実数。残りの2解は、次の共役複素数。
  s2, s3 = (3/12)(R − S) ± (i/4)(R + S)

従って ƒ(z) の三つの根は、
  実数 z1 = −1 − (3/6)(R − S) = −1.6823278038… と
  共役複素数 z2, z3 = −1 + (3/12)(R − S) ± (i/4)(R + S)
だ。次のように書くこともできる(いわゆる分母の有理化をするかしないかの違い)。
  z1 = −1 − (R − S)/(23) = −1.6823278038…
  z2 = −1 + (R − S)/(43) + i⋅(R + S)/4 = −0.6588360980… + i⋅1.1615413999…
  z3 = −1 + (R − S)/(43) − i⋅(R + S)/4 = −0.6588360980… − i⋅1.1615413999…

根号表現を含む分数には、表記上、多少のバリエーションが考えられるが、いずれにしても |z1| < 2 だから (z1)2 − 4 は負の実数。便宜上、
  ((z1)2 − 4) = {[−1 − (3/6)(R − S)]2 − 4}1/2
   = i⋅1.0815605209… = i⋅K
と書くと K は実数。一方、 z2 と z3 は共役だから (z2)2 − 4 と (z3)2 − 4 も互いに共役であり、前者と後者それぞれの平方根(複素数)の主値も互いに共役。実数 L, M を
  ((z2)2 − 4) = {[−1 + (3/12)(R − S) + (i/4)(R + S)]2 − 4}1/2
   = 0.3411639019… − i⋅2.2431019209… = L + i⋅M
のように定めると、
  ((z3)2 − 4) = L − i⋅M
である。

E(x) の六つの根のうち二つは、 x + 1/x = z1 の解、つまり x2 − z1x + 1 = 0 の解であり、共役複素数
  α = (z1 + i⋅K)/2 と α* = (z1 − i⋅K)/2
だ。同様に、 x2 − z2x + 1 の根
  β = (z2 + L + i⋅M)/2 と γ = (z2 − L − i⋅M)/2
も E(x) の根であり、 x2 − z3x + 1 の根
  [z3 + (L − i⋅M)]/2 = [(z2)* + L − i⋅M]/2 = β* と
  [z3 − (L − i⋅M)]/2 = [(z2)* − L + i⋅M]/2 = γ*
も E(x) の根。すなわち E(x) の六つの根は、互いに共役の三つのペアから成る。

〔参考文献〕
[1] Mirimanoff (1903), Sur l’équation (x + 1) − x − 1 = 0, pp. 385–397
https://www.numdam.org/item/NAM_1903_4_3__385_0/
[2] Charles Helou (1997), Cauchy-Mirimanoff Polynomials, pp. 51–57
[Pennsylvania State University 教授。同名の元レバノン大統領とは別人。حلو はアラビア語で「善良な・心地良い・甘い」]
https://mathreports.ca/article/cauchy-mirimanoff-polynomials/
[3] Paulo Ribenboim (1999), Fermat’s Last Theorem for Amateurs, pp. 222–225
https://web.archive.org/web/20240724071719/https://euc.education/library/paulo-ribenboim-fermats-last-theorem-for-amateur

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2025-07-04 コーシー/ミリマノフ多項式(その3) E(x) は実根を持たない

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

1839年、 Cauchy (コーシー)と Liouville (リューヴィル) は次の定理を記した。 x, y を変数とする多項式 (x + y)p から xp と yp を引いたものは(p: 素数)、 pxy(x + y) で割り切れるだけでなく、 p > 3 なら x2 + xy + y2 でも割り切れる――特に p が 6 の倍数より 1 大きいときには、 (x2 + xy + y2)2 で割り切れる。この結果、
  (x + y)5 − x5 − y5 = 5xy(x + y)(x2 + xy + y2)
  (x + y)7 − x7 − y7 = 7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2
  (x + y)11 − x11 − y11 = 11xy(x + y)(x2 + xy + y2)⋅Q11
  (x + y)13 − x13 − y13 = 13xy(x + y)(x2 + xy + y2)2⋅Q13
    ︙
のような、美しい恒等式が成り立つ。 p = 5, 7 の場合、割り切れた結果の商は 1 だが、 p = 11, 13 の場合の商 Q11, Q13 は6次式で、幾つかの興味深い性質を持つ。 y = 1 として x についての多項式として見た Q11, Q13 が、どちらも実部 −1/2 の根を二つずつ持つ――という数値的観察(予想)を一つの手掛かりとして、あまり研究されていないであろうこのマイナーな野原で、もう少し遊んでみたい。

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1841年、 Cauchy はこの定理を部分的に少し拡張した。すなわち n が 3 で割り切れない(正の)奇数(必ずしも素数とは限らない)のとき、
  (x + y)n − xn − yn
は多項式として xy(x + y) で割り切れるだけでなく x2 + xy + y2 でも割り切れる。特に n が 6 の倍数より 1 大きいときには (x2 + xy + y2)2 で割り切れる。

〔注〕 1839年バージョンでは、例えば n が合成数 25 のときの (x + y)25 − x25 − y25 は定理の対象外だが、1841年バージョンでは、この多項式も、 n = 7, 13, 19 などの場合と同様に xy(x + y)(x2 + xy + y2)2 で割り切れる――ということが含意される。定理をさらに拡張して、 n が任意の正の奇数あるいは正の整数である場合を扱うこともできる。しかし、ここでは Cauchy のオリジナルに近い次の形式で、この定理を記述しておく。

Cauchy の定理(1841年) n が 5 以上の奇数のとき、整係数の多項式 (x + y)n − xn − yn は xy(x + y)(x2 + xy + y2)λ で割り切れる。ただし n が 6 の倍数より 1 小さいときは λ = 1 で、 n が 6 の倍数より 1 大きいときは λ = 2。特に y = 1 の場合、定理の内容は次の通り:
  (x + 1)n − xn − 1 は x(x + 1)(x2 + x + 1)λ で割り切れる

† https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k2968p/f360.item

‡ https://archive.org/details/exercicesdanaly02caucrich/page/n142/mode/1up

以下では y = 1 に固定したバージョンを扱う。具体例として n = 11, 13 の場合について、分解の導出などの入り口の部分を詳細に記す。

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上側インデックス 11 の二項係数――すなわち (x + y)11 の展開に現れる回文的な係数――は:
  1, 11, 55, 165, 330, 462; 462, 330, 165, 55, 11, 1
  [獣医が午後、拾った子。耳丸、白豚]
もちろんこれらの係数については、いちいち覚えていなくても、二項係数の定義から容易に計算可能:
  (11 C 2) = 11⋅10/2! = 11⋅5 = 55
  (11 C 3) = 11⋅10⋅9/3! = 55⋅9/3 = 55⋅3 = 165
等々。これらの係数を使うと、
  (x + 1)11 − x11 − 1 = 11x10 + 55x9 + 165x8 + 330x7 + 462x6
   + 462x5 + 330x4 + 165x3 + 55x2 + 11x
であり、各係数は 11 で割り切れ(いわゆる新入生の夢)、のみならず Cauchy の定理から、この10次式は x(x + 1)(x2 x + 1) で割り切れる(割り切った商を E11(x) としよう)。ただし、正面から筆算で割り算するのでは、背後にある面白い構造が見えてこない。

とりあえず、もう一つの具体例として n = 13 の場合を記しておく。

上側インデックス 13 の二項係数を使うと、
  (x + 1)13 − x13 − 1
  = 13x12 + 78x11 + 286x10 + 715x9 + 1287x8 + 1716x7
  + 1716x6 + 1287x5 + 715x4 + 286x3 + 78x2 + 13x
  [瞳でナンパ、二人でハロー、何ていい子、人に花、人七色]

この場合も各係数が 13 で割り切れ、 Cauchy の定理によって、多項式として x(x + 1)(x2 + x + 1)2 で割り切れる。さて、どのようにすれば、
  (x + 1)11 − x11 − 1 = 11x(x + 1)(x2 + x + 1) E11(x)
  (x + 1)13 − x13 − 1 = 13x(x + 1)(x2 + x + 1)2 E13(x)
の因子 E11(x) および E13(x) の明示的表現をうまく求められるのだろうか?

〔注〕 上記の第一式は10次式、第二式は12次式だが、 E11(x) と E13(x) はどちらも6次式。というのも、第一式には4次の因子 x(x + 1)(x2 + x + 1) があるので余因子 E11(x) の次数は 10 − 4 だが、第二式には6次の因子 x(x + 1)(x2 + x + 1)2 があるため、余因子 E13(x) の次数は 12 − 6。 多項式 (x + 1)n − xn − 1 から Cauchy の定理によって存在が保証されている因子を除去した余因子 En(x) は、 Cauchy–Mirimanoff 多項式(コーシー/ミリマノフ・たこうしき)と呼ばれる。定数倍の違いは多項式の本質に関係ないが、 n が素数の場合の Cauchy–Mirimanoff 多項式は、通例 n で割って最高次の係数を 1 とした状態で記される(下記の実例参照)。

Cauchy の定理によって存在が保証されている因子 x2 + x + 1 および x(x + 1) = x2 + x を、それぞれ U および C と略すと、実は、
  E11(x) = U3 + C2
  E13(x) = U3 + 2C2
というシンプルな関係が成り立つ。言い換えれば:
  (x + 1)11 − x11 − 1 = 11UC(U3 + C2)
  (x + 1)13 − x13 − 1 = 13UC(U3 + 2C2)

以下、その根拠(具体的な導出法)を記す。

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a, b, c を根とする3次式が、
  x3 − (a + b + c)x2 + (ab + ac + bc)x − abc
の形を持つことは、よく知られている。特に、条件 a + b + c = 0 が満たされる場合には、上記の3次式は、
  x3 + (ab + ac + bc)x − abc
の形となり、 B = −U = ab + ac + bc, C = abc と置くと、
  x3 + Bx − C つまり x3 − Ux − C
と書くことができる。根のべき和 pn = an + bn + cn について、
  p2 = −2B = 2U, p3 = 3C, p4 = 2B2 = 2U2
が成り立つことも、よく知られている(Girard の公式で A = a + b + c が = 0 の場合)。再帰的関係 pn = pn−3C + pn−2U が成り立つので(これは Newton の公式の一種)、機械的な単純計算から、
  p5 = (2U)C + (3C)U = 5UC
  p6 = (3C)C + (2U2)U = 2U3 + 3C2
  p7 = (2U2)C + (5UC)U = 7U2C
  p8 = (5UC)C + (2U3 + 3C2)U = 2U4 + 8UC2
  p9 = (2U3 + 3C2)C + (7U2C)U = 9U3C + 3C3
  p10 = (7U2C)C + (2U4 + 8UC2)U = 2U5 + 15U2C2
  p11 = (2U4 + 8UC2)C + (9U3C + 3C3)U = 11U4C + 11UC3
となり、従って:
  p13 = p10C + p11U = (2U5 + 15U2C2)C + (11U4C + 11UC3)U
   = (2U5C + 15U2C3) + (11U5C + 11U2C3) = 13U5C + 26U2C3

特に x を変数として a = x + 1, b = −x, c = −1 と置くと、条件 a + b + c = 0 が恒等的に満たされる。このとき、
  pn = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
  U = −B = −(ab + ab + bc) = −[(x + 1)(−x) + (x + 1)(−1) + (−x)(−1)] = x2 + x + 1
  C = abc = (x + 1)(−x)(−1) = x2 + x = x(x + 1)
であるから:
  p11 = (x + 1)11 − x11 − 1 = 11U4C + 11UC3 = 11UC(U3 + C2)
  p13 = (x + 1)13 − x13 − 1 = 13U5C + 26U2C3 = 13U2C(U3 + 2C2)

Cauchy の恒等式
  (x + 1)11 − x11 − 1 = 11x(x + 1)(x2 + x + 1) E11(x)
  (x + 1)13 − x13 − 1 = 13x(x + 1)(x2 + x + 1)2 E13(x)
と置くと:
  E11(x) = (x2 + x + 1)3 + [x(x + 1)]2 = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1
  E13(x) = (x2 + x + 1)3 + 2[x(x + 1)]2 = x6 + 3x5 + 8x4 + 11x3 + 8x2 + 3x + 1

これは、それ自体としても美しく印象的な関係だが、さらなる奥深さを秘めている。

話を進める前に、 E11(x) と E13(x) を展開した係数について一言。整数演算 1112 = 12321 と 1113 = 1367631 と全く同様の「筆算」によって、次の回文的展開が成り立つ。

(x2 + x + 1)2 = x4 + 2x3 + 3x2 + 2x + 1
(x2 + x + 1)3 = x6 + 3x5 + 6x4 + 7x3 + 6x2 + 3x + 1

下記右側の多項式の掛け算は、左側の3桁の掛け算と本質的に同じ(従って、左側の簡単な計算で代用可能)。

   111                   x^2 +x   +1
   111                   x^2 +x   +1
 ─────                   ───────────
   111                   x^2 +x   +1
  111               x^3 +x^2 +x     
 111           x^4 +x^3 +x^2        
 ─────         ─────────────────────
 12321         1x^4+2x^3+3x^2+2x  +1

下記では U3 = (x2 + x + 1)3 を筆算するために、上記 U2 = (x2 + x + 1)2 の結果をもう一度 U = x2 + x + 1 倍したい。実際には、簡単な整数計算 1113 = 12321 × 111 で代用可能。

  12321                   x^4+2x^3+3x^2+2x  +1
    111                             x^2+x   +1
───────                   ────────────────────
  12321                   x^4+2x^3+3x^2+2x  +1
 12321               x^5+2x^4+3x^3+2x^2+x
12321          x^6 +2x^5+3x^4+2x^3 +x^2
───────        ───────────────────────────────
1367631        1x^6+3x^5+6x^4+7x^3+6x^2+3x  +1

E11(x), E13(x) の展開では、この U3 の回文的6次式に、
  C2 = [x(x + 1)]2 = x2(x2 + 2x + 1) = x4 + 2x3 + x2
  ないし 2C2 = 2[x(x + 1)]2 = 2x4 + 4x3 + 2x2
をそれぞれ足せばいい。すなわち、
  回文的係数 1, 3, 6, 7, 6, 3, 1
6, 7, 6 の部分にそれぞれ 1, 2, 1 ないし 2, 4, 2 を足せばいい。結果は、それぞれ:
  1, 3, 7, 9, 7, 3, 1 ないし 1, 3, 8, 11, 8, 3, 1

定理5 Cauchy–Mirimanoff 多項式 En(x) の任意の一つの根を x = w とする。このとき w ≠ 0, −1 であり、次の集合の元は、どれも En(x) の根:
  Ow = {w, −w − 1, 1/w, −1/w − 1, −1/(w + 1), 1/(w + 1) − 1 = −w/(w + 1)}
これら六つの数を根とする6次式は回文的で、最高次の係数を 1 とすると、
  x6 + 3x5 + τx4 + υx3 + τx2 + 3x + 1
の形を持つ。

証明 集合 Ow の元は (x + 1)n − xn − 1 の根であり(定理3参照)、従って x(x + 1)(x2 + x + 1)λ の根 0, −1, ω, ω2 のどれかであるか(λ = 1 or 2)、または En(x) の根のどれか。後述のように En(x) の根は実数ではないので(定理7)、 w = 0, −1 の可能性はなく、 0, −1 ∈ Ow も不可能。のみならず ω, ω2 ∈ Ow も不可能(定理10の系2)。よって Ow の六つの複素数は、どれも En(x) の根。

6次式の6次の項が 1 のとき、5次の係数は、その6次式の六つの根の和の −1 倍に等しい。すなわち、
  −[w + (−w − 1) + (1/w + −1/w − 1) + (−1/(w + 1) + 1/(w + 1) − 1)] = −[−1 + (−1) + (−1)] = 3
に等しい。任意の x ∈ Ow に対して 1/x ∈ Ow も同じ6次式の根だから、係数は回文的(定理1の逆): 0次・1次・2次の項の係数は、それぞれ6次・5次・4次の項の係数に等しい。4次・3次の項の係数をそれぞれ τ, υ と置けば、定理5の結論に至る。∎

〔参考〕 実は υ = 2τ − 5 が成り立つ(定理9)。問題の6次式の係数は、両端が 1, 3, ··· , 3, 1 に固定され、中央の三つは一つのパラメーター τ のみによって決まる(τ, 2τ−5, τ)。例えば E11(x) では τ = 7, υ = 2τ − 5 = 9。 E13(x) では τ = 8, υ = 2τ − 5 = 11。

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われわれは定理4として、既に E11(x) が実部 −1/2 の根を持つことを証明したが、その証明は E11(x) の根に関する具体的な数値計算(関連する実数 z1 が約 −1.68 であること)に依存していて、拡張性に乏しい。今、この点をいくらか改善し、若干の仮定の下で、任意の En(x) について同様の結論が得られることを示す。

定理6(実部 −½ の根: 定理4の改善) n ≥ 11 を 3 の倍数ではない任意の奇数とする。 Cauchy–Mirimanoff 多項式 En(x) の任意の根を w とし、 w に関連する六つの根の集合、
  Ow = {w, −w − 1, 1/w, −1/w − 1, −1/(w + 1), 1/(w + 1) − 1 = −w/(w + 1)}
を考える。これらの六つの複素数を根とする回文的6次式
  x6 + 3x5 + τx4 + υx3 + τx2 + 3x + 1
について、係数 τ, υ が実数あると仮定しよう。このとき Ow に属する根の中には、実部が −1/2 に等しいものが存在する。

† n が 3 の倍数ではないという仮定(制限)は、本質的には必要ないと思われる。具体例 E9(x) をまだ検討していないので、暫定的にこの条件を付けておく。

証明 集合 Ow の元は、回文的な6次方程式
  x6 + 3x5 + τx4 + υx3 + τx2 + 3x + 1 = 0  ア
の六つの解と一致する(定理5)。アの両辺を x3 で割ると:
  (x3 + x−3) + 3(x2 + x−2) + τ(x + x−1) + υ = 0  イ
x = 0 はアの解ではないから、アの解はイの解で、逆もまた真。 z = x + x−1 と置くと、
  z2 = (x + x−1)2 = x2 + x−2 + 2 つまり x2 + x−2 = z2 − 2
  z3 = (x + x−1)3 = x3 + x−3 + 3(x + x−1) つまり x3 + x−3 = z3 − 3z
であるから、イを次のように変形できる:
  (z3 − 3z) + 3(z2 − 2) + τ(z) + υ = 0
  すなわち z3 + 3z2 + (τ − 3)z + (υ − 6) = 0  ウ

複素数 x がアを満たす必要十分条件は、3次方程式ウの三つの解 z1, z2, z3 のどれかについて、 x が
  x + x−1 = zj つまり x2 − zjx + 1 = 0
を満たすこと(j = 1, 2, or 3)。仮定により τ, υ は実数なので、ウは(z についての)実係数の3次方程式。実係数の3次方程式が少なくとも一つの実数解を持つことは、よく知られている。そこで、ウの実数解({もし複数あるなら、そのうち任意に選んだ一つ})を z1 とすると、実係数の2次方程式
  x2 − z1x + 1 = 0  エ
の解は、アの解のどれかだ(言い換えれば Ow の六つの元のいずれか)。後述のようにアは実数解を持たないので(定理7)、エも実数解を持たない。ゆえにエの判別式 (z1)2 − 4 は負であり、不等式
  −2 < z1 < 2  オ
が成り立つ。

容易に確かめられることとして、 Ow に属する六つの解のうちの任意の一つ(それを X とする)を選んで、それを基に Ow と同様の集合 OX を作ると、 OX は Ow と同一の集合。つまり Ow に属する六つの解のうち、任意の一つをあらためて w と名付けても、集合 Ow の内容は変化しない(解を並べる順序は変化するかもしれないが、集合においては、要素を並べる順序の違いは区別されない)

そこでエの解の一つを任意に選んで、それを w としよう(この w は、もちろんアの解でもある)。このとき、
  u = −1/(w + 1), v = −w/(w + 1)
は Ow の元であり、どちらもアの解。定理4と同様に、 u + v = −1 であり、 uv = w/(w + 1)2 = w/(w2 + 2w + 1) であるから、
  (uv)−1 = w + 1/w + 2 = z1 + 2
が成り立つ。不等式オから、この最後の右辺は――従って (uv)−1―― 4 未満の正の実数。ゆえに、その逆数 uv は 1/4 より大きい正の実数であり、補題により u, v は実部が −1/2 の共役複素数。∎

定理4は、特定の一つの多項式 E11(x) についての議論だったが、定理6では、議論が任意の En(x) へと拡張され、好ましい方向に前進していると思われる。半面、定理6は、幾つかの未証明の仮定に依存している。未証明の仮定の第一は、 Ow の六つの数を根とする6次式の係数が実数、というもの。 n = 11, 13 の場合に関しては、既に見たように En(x) 自身が整係数の6次式であり、この仮定が正しいことは明白。しかし一般の n について同じことが成り立つかどうかは、自明ではない(後に定理9として証明する)。

未証明の第二の仮定は、 En(x) は実数の根を持たない、というもの――「多項式が実数の根を持つか持たないか・幾つ持つか」といったことは、重要な基本情報だ(実際、定理5・定理6の両方が、この仮定に依存している)。実は簡単に証明できるので、以下ではそれを片付けておく。

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補題2 n を 2 以上の任意の整数とする。
  ⦅i⦆ (x + 1)n + xn + 1 = 0 を満たす正の実数 x は存在しない。
  ⦅ii⦆ (x + 1)n − xn − 1 = 0 を満たす正の実数 x は存在しない。

証明 ⦅i⦆は明白。⦅ii⦆について: ƒ(x) = (x + 1)n − xn − 1 は次数 1 以上の多項式であり、その各項の係数は正の整数(二項係数)。よって x が正の実数なら ƒ(x) の各項の値は正の実数であり、従って、それらの和である ƒ(x) は 0 より大きい。∎

〔例〕 n = 4 なら ƒ(x) = 4x3 + 6x2 + 4x。もし x が正の実数なら各項の値は正なので、 ƒ(x) = 0 は不可能。

定理7(Cauchy–Mirimanoff 多項式には実根が無い) n ≥ 5 を 3 で割り切れない任意の奇数とする。
  En(x) = [(x + 1)n − xn − 1]/[x(x + 1)(x2 + x + 1)λ]
は実数の根を持たない。ただし n ≡ 1 or 2 (mod 3) に応じて λ = 2 or 1 とする。
拡張 n ≥ 2 を任意の整数とする。
  En(x) = [(x + 1)n + (−x)n + (−1)n]/[(x2 + x)κ (x2 + x + 1)λ]
は実数の根を持たない。ただし n = 偶数 or 奇数に応じて κ = 0 or 1 とし、 n ≡ 0, 1, 2 (mod 3) に応じて λ = 0, 2, 1 とする。

注意 定理7の形式で En(x) を定義する場合、その分子・分母はいずれも(x についての)整係数の多項式であるが、この分数は多項式として割り切れ、結果は整係数の多項式となる。この事実を見るためには、拡張された Cauchy の定理で y = 1 と置けばいい(定理10も参照)。

証明 n = 3, 5, 7 なら 0次式 En(x) = 1 は全く根を持たないので、定理は自明。以下 n ≥ 9 とし En(x) の代わりに、単に E(x) と記す。補題2から (x + 1)n − xn − 1 は、正の実数の根を持たない。その因子 E(x) も、もちろん正の実数の根を持ち得ない。のみならず、多項式 E(x) は回文的であり、最高次の係数を 1 とすれば定数項は 1 なので、 x = 0 も E(x) の根ではない。要するに 0 以上の実数は E(x) の根になり得ず、 E(x) が実数の根 x = w を持つとすれば w は負。

† x = w が E(x) の任意の根なら x = 1/x も E(x) の根(定理3)。ゆえに定理1の逆から E(x) は回文的。

仮に −1 以下の負の実数 w が E(w) = 0 を満たしたとしよう。すると、定理2から E(−w − 1) = 0 が成り立つ。しかしこの仮定上では (−w) ≥ 1 なので、 x = (−w) − 1 は 0 以上の実数。上述のように、そのような実数 x が E(x) = 0 を満たすことはあり得ず、この仮定(から生じる結論)は不合理。ゆえに E(x) = 0 を満たす −1 以下の実数 x は存在しない。

一方、もし仮に −1 以上 0 未満の負の実数 w が E(x) = 0 を満たしたとすると、定理1から E(1/w) = 0 が成り立つはずだが、それは「−1 以下の実数 x = 1/w が E(x) = 0 を満たす」という意味であり(∵この仮定上では 1/w ≤ −1)、それが不可能なことは上記の通り。

結局、 E(x) は 0 以上の実数の根を持たず、 0 未満の実数の根(−1 以下であれ −1 以上であれ)も持ち得ないので、実数の根を全く持たない。拡張版も、同様の手順で示される。∎

定理7の補足 En(x) の次数は 6 の倍数。その次数を 6m とすると、 En(x) は、
  a = w, b = −a − 1; c = 1/a, d = −c − 1; e = 1/b, f = −e − 1
の形式の「根の六つ組」をちょうど m 個持つ(m は 0 以上の整数)。ここで w は En(x) の任意の一つの根(もし根の個数が 0 でないなら)。

証明 En(x) の定義・拡張版(定理7参照)から En(x) の次数を検討する。 n を 6 で割った余りを r としよう。第一に r が偶数なら、 En(x) を定義する分数の分子(の多項式)の次数は n であり、 r = 0, 2, 4 のとき、それぞれ κ + λ = λ = 0, 1, 2 であるから、分母の次数は 0, 2, 4。よって En(x) の次数は 6 の倍数。第二に r が奇数なら分子の次数は n − 1 であり、 r = 1, 3, 5 のとき、分子の次数はそれぞれ ≡ 0, 2, 4 (mod 6) だ。ところが、この場合分けに応じて λ = 2, 0, 1 であり κ + λ = 1 + λ = 3, 1, 2 であるから、分母の次数はそれぞれ 6, 2, 4 ≡ 0, 2, 4 であり、やはり En(x) の次数は 6 の倍数。六つ組の形については、定理5参照。∎

〔注意〕 もし En(x) が6次式なら、任意に選んだその一つの根 w に対応して、「定理5」ないし「定理7の補足」の六つの複素数は、その根の一覧表(六つの根のどれを w として選んでも、対応する六つ組 Ow は集合として同一)。もし En(x) の次数が 12 以上なら、 E(x) の根の(重複度も含めた)個数は 12 以上だから、そのうち任意の一つを w として、それに対応する六つ組 Ow の 6 個の根以外にも根が存在する。そのような「新しい」根を w′ とすると、この w′ に対応して、再び(同じタイプの)根の六つ組 Ow′ が存在することは、言うまでもない。しかし、12次以上の En(x) が「同じ六つ組」を二重に持ち得るか否か(より広く、 En(x) が重根を持ち得るか否か)は、自明ではない({この点については後述する予定})。

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付録2 E13(x) の幾つかの根についての数値的検討。特に「互いに逆数かつ互いに共役」という状況について、代数的な直接確認。

E13(x) = (x2 + x + 1)3 + 2(x2 + x)2 = x6 + 3x5 + 8x4 + 11x3 + 8x2 + 3x + 1

0 は E13(x) の根ではないので、 E13(x) の根を求める代わりに、
  E13(x)/x3 = (x3 + x−3) + 3(x2 + x−2) + 8(x1 + x−1) + 11 = 0
の解を求めても同じこと。 (x3 + x−3) = z3 − 3z, (x2 + x−2) = z2 − 2 なので、
  E13(x)/x3 = (z3 − 3z) + 3(z2 − 2) + 8(z) + 11 = 0
  つまり z3 + 3z2 + 5z + 5 = 0  ‥‥①
を z について解けば、①の一つ一つの解 z に対して2次式 x2 − zx + 1 の根が E13(x) の根。

〔付記〕 ①の左辺を z についての実関数 ƒ(z) = z3 + 3z2 + 5z + 5 と見ると、 z が十分小さいときには ƒ(z) < 0 だが ƒ(0) = +5 なので、 ƒ(z) = 0 を満たす負の実数 z が存在する(中間値の定理)。すなわち①は、少なくとも一つの負の実数解を持つ。

①の2次の項を除去するため、その左辺で z = s − 1 と置くと:
  (s − 1)3 + 3(s − 1)2 + 5(s − 1) + 5
   = (s3 − 3s2 + 3s − 1) + (3s2 − 6s + 3) + (5s − 5) + 5
   = s3 + 2s + 2  ‥‥②
対応する2次式 t2 + 2t − (2/3)3 の根、
  t = −1 ± (1 + 8/27) = −1 ± (35/27)
は実数なので、②は一つの実数解 s1 と二つの共役複素数解 s2, s3 を持つ:
  s1 = 3[−1 + (35/27)] − 3[1 + (35/27)]
   = 27−1/6⋅(3(35 − 27) − 3(35 + 27))
   = −3−1/2⋅(3(35 + 27) − 3(35 − 27))
便宜上、
  R = 3(35 + 27), S = 3(35 − 27)
と略すと:
  s1 = −(3/3)(R − S) = −0.7709169970…
s2, s3 の一方は、
  −(3/3)(R⋅(−1 + i3)/2 − S⋅(−1 − i3)/2)
   = (3/6)(R − S) − (i/2)(R + S) = 0.3854584985… − i⋅1.5638845105…
であり、従って他方は、
  (3/6)(R − S) + (i/2)(R + S) = 0.3854584985… + i⋅1.5638845105…
だ。両者のうち、虚部が正のもの(後者)を s2 と呼び、虚部が負のものを s3 と呼ぶことにしよう。

上記 s1, s2, s3 に対応して、①は一つの実数解 z1 と二つの共役複素数解 z2, z3 を持つ(前述のように①は{負の実数解を持つ}ので、唯一の実数解 z1 は必然的に負)。すなわち、置換された変数 z = s − 1 を元に戻すと:
  z1 = −1 − (3/3)(R − S) = −1.7709169970…
  z2, z3 = −1 + (3/6)(R − S) ± (i/2)(R + S) = 0.6145415014… ± i⋅1.5638845105…

E13(x) の六つの根のうち二つ(x1, x2 とする)は、 x2 − z1x + 1 = 0 の解。すなわち、
  x2 + [1 + (3/3)(R − S)]x + 1 = 0
の解。つまり:
  x1, x2 = −(1/2)[1 + (3/3)(R − S)] ± (1/2){[1 + (3/3)(R − S)]2 − 4}1/2  ‥‥③
ここで z1 は絶対値が 2 未満の実数なので、③の { } 内 = (z1)2 − 4 は負の実数(言い換えれば、 x2 − z1x + 1 の判別式の値は負)。よって③の { }1/2 の部分は純虚数であり、③は共役複素数解を持つ:
  x2 = (x1)*

実数 R, S の積が = 3(35 + 27) × 3(35 − 27) = 3(35 − 27) = 2 であることに留意すると、
  [1 + (3/3)(R − S)]2 = 1 + (23/3)(R − S) + (1/3)(R − S)2
   = 1 + (23/3)(R − S) + (1/3)(R2 − 2⋅2 + S2)
   = (1/3)[−1 + 23(R − S) + R2 + S2]
となって、③の { } 内は、次の負の実数に等しい:
  (1/3)[−13 + 23(R − S) + R2 + S2]
ゆえに、③の共役複素数 x1, x2 の虚部は:
  ±(1/2){(1/3)1/2[13 − 23(R − S) − R2 − S2]}
   = ±(3/6)[13 − 23(R − S) − R2 − S2] = ±0.4647184603…  ‥‥④
一方 x1, x2 の(共通の)実部は:
  (−1/6)[3 + 3(R − S)] = (3/6)[3 + (R − S)] = −0.8854584985…  ‥‥⑤
ここで、数値的には、
  R = 3(35 + 27) = 2.2315182141…
  S = 3(35 − 27) = 0.8962508068…
  (R ± S)2 = R2 + S2 ± 4
であり、
  R2 = 3(35 + 23527 + 27) = 3(62 + 6105)
であるから:
  R2 = 3(2⋅31 + 6105) = 3(2961 + 2945) = 4.9796735402…
  S2 = 3(2⋅31 − 6105) = 3(2961 − 2945) = 0.8032655088…

③の共役複素数 x1, x2 のそれぞれについて、実部⑤の平方は、
  (1/12)[3 + 23(R − S) + R2 + S2 − 4]
で、虚部④の平方は、
  (1/12)[13 − 23(R − S) − R2 − S2]
であるから、両者の和は 1。すなわち x1 も x2 も絶対値 1。両者は共役なので、積は正の実数: 従って x1x2 = 1。つまりこの二つの根は、互いに逆数。

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このような計算には、それ独特の面白さがある。とはいえ、こんな面倒なことをしなくても、本文のようにして E(x) が実数の根を持たないことを一般的かつ平易に証明でき、そのことから x2 − z1x + 1 = 0 の判別式は負。その不等式を利用して、実部 −1/2 の根の存在を示すことができる。

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2025-07-05 コーシー/ミリマノフ多項式(その4) 6次式の形

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

Cauchy–Mirimanoff 多項式 En(x) というのは、
  (x + 1)n − xn − 1
を (x2 + x)(x2 + x + 1)m で割ったとき(多項式として割り切れる)の商。ここで n は(とりあえず) 3 以上の奇数。 n を 3 で割った余りが 0, 1, 2 のどれになるかに応じて m = 0, 2, 1 とする。

話の前提として、例えば
  (x + 1)11 − x11 − 1
は (x2 + x)(x2 + x + 1) で割り切れ(商 x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1 は Cauchy–Mirimanoff 多項式の例)、
  (x + 1)13 − x13 − 1
は (x2 + x)(x2 + x + 1)2 で割り切れる! これはそれ自体としても特筆すべき事柄であり(Cauchy の定理)、 Wolstenholme のパズルなど、幾つかの美しい恒等式とも関連する。割り切れた後に残る商が、また面白い。ロシアで生まれ、後にスイスに移住したドミトリイ・ミリマノフ(Dmitry Mirimanoff, 1861–1945)によって、その研究が始まった。ミリマノフの先祖はジョージア(グルジア)に住んだが、アルメニア系の名家めいか、曽祖父は有力者だったとい本人が「アルメニア系」という民族意識を持っていたのかは不明。数学上の業績にもかかわらず、アルメニアでは知名度が低いという。

† https://web.archive.org/web/20111020210717/http://www.reporter.am:80/go/article/2011-09-25-armenia-honors-mathematician-dmitry-mirimanoff

‡ https://edic-baghdasarian.com/Edic%20-%20New/img/Books/82-History%20of%20Mathematics%20in%20Armenia-E.pdf p. 181

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根の六つ組の基本性質をまとめておく。副産物のように「六つ組のうち二つは実部が −1/2 に等しいこと」(定理6)が、再び証明される(定理6の証明では、六つ組を根とする6次式が実係数であることを仮定したが、そのような天下り的な仮定は必要なく、この6次式が実係数であることは自然な帰結だ)

定理8(根の六つ組の基本性質: 定理6のさらなる改善) Cauchy–Mirimanoff 多項式の根の六つ組
  a, b = −a − 1; c = 1/a, d = −c − 1; e = 1/b, f = −e − 1
は、どれも実数ではない(定理7)。
  ⦅i⦆ 六つ組は、それぞれ「一方を X とすると他方が −X − 1 であるような」三つのペアから成る。
  ⦅ii⦆ 六つ組は、それぞれ「互いに逆数」である三つのペアから成る。「互いに逆数」のペアのうち一つは、和が実数。
  ⦅iii⦆ 六つ組は、それぞれ「互いに共役複素数」である三つのペアから成り、そのうち一つのペアは「互いに逆数かつ互いに共役複素数」。さらに、共役複素数のペアの一つは、実部が −1/2 に等しい。

証明 ⦅i⦆ もし X = a なら b = −X − 1 = −a − 1 で、もし X = b = −a − 1 なら a = −X − 1 = −(−a − 1) − 1 だ。 {c, d}, {e, f} についても同様。

⦅ii⦆ a と c = 1/a は互いに逆数。 b と e = 1/b も互いに逆数。
  d = −c − 1 = −(1/a) − 1 = (−1 − a)/a = −(a + 1)/a と
  f = −e − 1 = −(1/b) − 1 = (−1 − b)/b = (−1 − (−a − 1))/(−a − 1) = a/(−a − 1) = −a/(a + 1)
も互いに逆数。

ある一つの六つ組は、(それに対応して定まる)実係数の3次方程式の3解を z1, z2, z3 としたときの、三つの2次方程式
  x + x−1 = zj つまり x2 − zjx + x = 0  (j = 1, 2, or 3)
の計 6 個の解である。実係数の3次方程式の解のうち、{少なくとも一つ}(それを z1 としよう)は実数。よって 6 個の解のうち二つは、実係数の2次方程式
  x2 − z1x + x = 0  (✽)
の2解である。その一方を a としよう(対称性により、同じ六つ組に属する根のうちどれを a と呼んでも {a, b, c, d, e, f} は同じ集合であり、どの根を a としても構わない)。 x = a は x + x−1 = z1 の解だから、
  a + a−1 = z1
が成り立つ。すなわち六つ組に属する一つの数とその逆数は、和が実数。

⦅iii⦆ Cauchy–Mirimanoff 多項式は実数の根を持たないので(定理7)、(✽)の2解は共役複素数。解と係数の関係から(✽)の2解の積は 1。よって(✽)のもう一つの解は a の逆数、すなわち c = 1/a であり、 a と c は互いに逆数かつ互いに共役複素数。 a と c が共役なので −a と −c も共役であり、従って b = −a − 1 と d = −c − 1 も互いに共役複素数。

最後に f = −a/(a + 1) であり(上述)、
  e = 1/b = 1/(−a − 1) = −1/(a + 1)
と f の和は (−a − 1)/(a + 1) = −(a + 1)/(a + 1) = −1。一方、
  ef = a/(a + 1)2
  ∴ (ef)−1 = (a2 + 2a + 1)/a = (a + a−1) + 2 = z1 + 2
であるが、(✽)の判別式は負だから、
  (z1)2 − 4 < 0 つまり −2 < z1 < 2
であり、従って (ef)−1 = z1 + 2 は 4 未満の正の実数。その逆数 ef は 1/4 より大きい実数。ゆえに、補題から e と f は共役複素数で、どちらも実部が −1/2 に等しい。要するに {a, c}, {b, d}, {e, f} は、それぞれ互いに共役複素数。∎

† (✽)の2解のどちらを a としても構わない。議論をより具体的にしたければ、虚部が正の解を a としてもいいだろう。

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Cauchy–Mirimanoff 多項式の「六つ組」を根とする6次式が、実係数であること。定理6ではその事実を暫定的に仮定したが、以下ではこれを定理として証明する。

補題3 複素数 a, b, c, d, e, f を Cauchy–Mirimanoff 多項式の根の六つ組として、この六つの数だけを根とする6次式を ε(x) とする。言い換えれば、
  ε(a) = ε(b) = ε(c) = ε(d) = ε(e) = ε(f) = 0
とする。このとき:
 ⦅i⦆ もし x = w が ε(x) = 0 を満たす任意の複素数なら(つまり w が a, b, c, d, e, f のどれか一つなら)、 x = −w − 1 も ε(x) = 0 を満たす(つまり ε(−w − 1) = 0 が成り立つ)。
 ⦅ii⦆ 逆に、もし x = −w − 1 が ε(x) = 0 を満たすなら x = w も ε(x) = 0 を満たす。

〔注〕 六つ組の性質(定理8)から上記の内容は自明に近いが、便宜上、補題として整理しておく。

証明 六つ組の根は {X, −X − 1}, {X′, −X′ − 1}, {X″, −X″ − 1} の形の3ペアから成る(定理8)。具体的な六つの根のどれを a と呼ぶか、どれを b と呼ぶか、等々は自由なので、
  a = X, b = −X − 1; c = X′, d = −X′ − 1; e = X″, f = −X″ − 1
の形になるように、根に変数名を割り当てたとしよう。このとき x = a と x = c と x = e が補題3⦅i⦆の性質を持つことは明白。実際 x = a について、
  ε(−a − 1) = ε(−X − 1) = ε(b) = 0
が成り立つ(x = c と x = e についても同様)。のみならず x = b も補題3⦅i⦆の性質を持つ。実際、
  ε(−b − 1) = ε(−(−X − 1) − 1) = ε((X + 1) − 1) = ε(X) = ε(a) = 0
が成り立つ(x = d と x = f についても同様)。一方、 x = b と x = d と x = f が補題3⦅ii⦆の性質を持つことは明白。のみならず、他の三つの根も同じ性質を持つ。なぜなら、例えば x = −w − 1 とは x = a のことだとするなら(つまり a = −w − 1 なら)、そのとき ε(w) = ε(−a − 1) = ε(b) = 0 が成り立つ。 x = c と x = e についても同様。∎

† 平明に ƒ(x) と書きたいところだが、ここではむしろ 6 個の根を表す文字として平明な a, b, c, d, e, f を使いたいので、多項式の名前としては小文字の f を使えない。もし E(x) が6次式なら ε(x) は E(x) そのものであり、もし E(x) が12次式なら E(x) = ε(x) ε′(x) の形になる(18次以上の場合も同様)。そう考えると、多項式 E(x) を構成する6次の因子たちを ε の文字で表すことは、自然な発想だろう。 Mirimanoff 自身も、このような6次式を e1(x), e2(x) などと表現している。われわれは文字 e の代わりにギリシャ文字 ε を使う(理由: 上記のように、ここでは e を別の目的で使うし、そのうち指数関数を表すために e を使うかもしれない)。――大文字の F(x) を使うのも一案だが、 F(f) = 0 という表現が生じるとこが、いまいちかと。

定理9(六つ組を根とする6次式: 定理5の精密化) E(x) を次数が 6 以上の Cauchy–Mirimanoff 多項式とする。 E(x) の根の六つ組――もし E(x) が 12 個以上の根を持つなら、任意に選んだ一セットの六つ組――は、ある一つの「実係数の6次式」の根。その6次式は、係数が回文的で、次の形を持つ。
  x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
ここで τ は、六つ組に応じて定まる実数。

証明 ある複素数 α とその共役複素数 β のちょうど二つの根を持つ多項式は、実係数の2次式だ。実際、 α = u + vi と β = u − vi を任意の共役複素数のペアとすると(u, v: 実数)、 α, β を根とする多項式は:
  (x − α)(x − β) = x2 − (α + β)x + αβ
ここで、
  α + β = (u + vi) + (u − vi) = 2u
  αβ = (u + vi)(u − vi) = u2 − (vi)2 = u2 + v2
は実数。つまり、上記の多項式(それは2次式である)の1次の係数 −2u も、定数項 u2 + v2 も実数。この実係数の2次式を簡略に、
  x2 + Ax + B
と書くことにしよう(A = −2u と B = u2 + v2 は共役複素数のペア {α, β} に応じて定まる実数)。

Cauchy–Mirimanoff 多項式の六つ組は、3ペアの共役複素数 {α, β}, {α′, β′}, {α″, β″} から成るので、各ペアは実係数の2次式の根であり、これら六つの数を根とする多項式は、
  (x − α)(x − β)(x − α′)(x − β′)(x − α″)(x − β″) = (x2 + Ax + B)(x2 + A′x + B′)(x2 + A″x + B″)
という形を持つ。実係数の2次式三つの積に等しいのだから、展開すれば実係数の6次式。この実係数の6次式を ε(x) とすると、それは定理5により次の形を持つ:
  ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + υx3 + τx2 + 3x + 1  (✽)
ここで係数 τ, υ は実数。 υ = 2τ − 5 を示せば、定理9の証明は完了する。

補題3により、 x = w が ε(x) の根なら x = −w − 1 も ε(x) の根。言い換えると、6次式 ε(x) の任意の根は、 ε(−x − 1) を展開した6次式の根でもある。逆に x = w が ε(−x − 1) を展開した6次式の任意の根なら、 x = w は ε(x) の根でもある。ゆえに ε(−x − 1) を展開した6次式と6次式 ε(x) は(どちらも同じ六つの根を持つから)多項式として等しい(同一の根を持つ二つの多項式では、一方の各係数が「対応する他方の係数」の定数倍になっている可能性がある。その場合でも、その定数で割って最高次の係数が同じになるように調整すれば、両者の対応する係数は全て一致する)。(✽)から:
  ε(−x − 1) = (−x − 1)6 + 3(−x − 1)5 + τ(−x − 1)4 + υ(−x − 1)3 + τ(−x − 1)2 + 3(−x − 1) + 1
   = (x + 1)6 − 3(x + 1)5 + τ(x + 1)4 − υ(x + 1)3 + τ(x + 1)2 − 3(x + 1) + 1
累乗の部分を二項展開すると:
   = (x6 + 6x5 + 15x4 + 20x3 + 15x2 + 6x + 1)
   − 3(x5 + 5x4 + 10x3 + 10x2 + 5x + 1)
   + τ(x4 + 4x3 + 6x2 + 4x + 1)
   − υ(x3 + 3x2 + 3x + 1)
   + τ(x2 + 2x + 1)
   − 3(x + 1)
   + 1

これをさらに全部展開して整理してみるのが最も実直だが、とりあえず上記の右辺で x6 を含む項は冒頭の x6 だけなので、この展開の結果の最高次の係数は(✽)の最高次の係数と一致(どちらも 1)。よって上記を整理した結果のどの係数も、対応する(✽)の各係数と一致しなければならない。整理した結果に含まれる定数項(0次の係数)は:
  1 − 3 + τ − υ + τ − 3 + 1 = 2τ − υ − 4
これが(✽)の定数項 1 と一致するのだから、
  2τ − υ − 4 = 1
  ∴ υ = 2τ − 5
が成り立つ。∎

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補足 検算を兼ねて、上記の二項展開の結果を簡約しておく。二項係数は左右対称なので、便宜上、ひっくり返して次数が小さい順に項を並べる。
   = (1 + 6x + 15x2 + 20x3 + 15x4 + 6x5 + x6)
   − (3 + 15x + 30x2 + 30x3 + 15x4 + 3x5)
   + (τ + 4τx + 6τx2 + 4τx3 + τx4)
   − (υ + 3υx + 3υx2 + υx3)
   + (τ + 2τx + τx2)
   − (3 + 3x)
   + 1
同じ次数の項たちを縦に足し算(符号が交互に変わることに注意):
   = (1 − 3 + τ − υ + τ − 3 + 1)
   + (6 − 15 + 4τ − 3υ + 2τ − 3)x
   + (15 − 30 + 6τ − 3υ + τ)x2
   + (20 − 30 + 4τ − υ)x3
   + (15 − 15 + τ)x4
   + (6 − 3)x5
   + x6
x6 の係数は 1 で、 x5 以下の係数はそれぞれ上記六つの ( ) 内の値だ:
   = x6 + 3x5 + τx4 + (4τ − υ − 10)x3 + (7τ − 3υ − 15)x2 + (6τ − 3υ − 12)x + (2τ − υ − 4)

最初の三つの項の係数は、既に(✽)と一致している。定数項の比較から得た定理9の結論 υ = 2τ − 5 を代入すると:
  3次の係数 = 4τ − (2τ − 5) − 10 = 2τ − 5 (= υ)
  2次の係数 = 7τ − 3(2τ − 5) − 15 = τ
  1次の係数 = 6τ − 3(2τ − 5) − 12 = 3
となり、全ての係数のつじつまが合う! 定数項 = 2τ − (2τ − 5) − 4 も、もちろん(✽)の定数項 1 と一致(定理9の証明では、これが一致するように υ を設定したのだから当然)。

論理的には定理9の証明本文だけで十分とはいえ、やはり展開結果を最後まで見届け、どの係数についてもつじつまが合うことを確かめないと、気分的にすっきりしない。数論の理想は「玲瓏として些の陰翳をも留めざる」である!

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6次式 ε(x) の3次の係数 υ は、4次・2次の係数 τ を使って 2τ − 5 と表される――興味深い事実だ。例えば、この種の6次式の積を二つの6次式に分解したいような局面において、未知数の数を一つ減らしてくれることにつながり、実用上も役立つかもしれない。右も左も分からなかった手探り状態の中で、ほんの少し景色が見えてきた。

〔追記〕 このメモの最初のバージョンでは、もっと面倒な方法で定理9を証明し、「手法としては6変数の対称多項式をガリガリ計算しただけだが(もっと良い方法はないのか?)」とコメントしていた。比較的見通しの良い方法が分かったので、定理9の証明を更新し、関連して補題3と補足も追加した。参考までに、最初のバージョンも、別証明(付録3A・付録3B)として残しておく。(2025年7月8日)

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付録3A 定理9の別証明。根と係数の関係による直接計算。

一般性を失うことなく、回文的6次式 ε(x) の6次の係数は 1 と仮定できる(従って定数項も 1)。 ε(x) の任意の一つの根を w として、根の六つ組を
  a = w, b = −a − 1; c = 1/a, d = −c − 1; e = 1/b, f = −e − 1
としよう。これら六つの数の和は −3 だから、 ε(x) の5次の係数は 3 である(従って 1 次の係数も 3)。今、 ε(x) の4次の係数 τ を w の式として表してみる。それには六つ組の六つの数を二つずつ掛けて足し合わせたもの、すなわち、基本対称式
  ab + ac + ad + ae + af
   + bc + bd + be + bf
   + cd + ce + cf
   + de + df
   + ef
  = a(b + c + d + e + f) + b(c + d + e + f) + c(d + e + f) + d(e + f) + e(f)
の値を求めればいい。

a + b = −1, c + d = −1, e + f = −1 に留意する。従って c + d + e + f = −2 であり、 a + b + c + d + e + f = −3 であり、例えば、
  b + c + d + e + f = (a + b + c + d + e + f) − a = −3 − a = −3 − w
のような計算が成り立つ。
  a = w, b = −w − 1, c = 1/w, d = −(1/w) − 1 = (−1 − w)/w
であり、
  e = 1/b = 1/(−w − 1) = −1/(w + 1)
  f = −e − 1 = 1/(w + 1) − 1 = −w/(w + 1)
であるから、上記の計算法を利用すると:
  カ a(b + c + d + e + f) = a(−3 − a) = w(−3 − w) = −w(w + 3)
  キ b(c + d + e + f) = b(−2) = 2w + 2 = 2(w + 1)
  ク c(d + e + f) = c(−2 − c) = (1/w)(−2 − 1/w) = (−2w − 1)/w2
  ケ d(e + f) = d(−1) = (w + 1)/w
  コ e(f) = −1/(w + 1) × (−w/(w + 1)) = w/(w + 1)2

カキクケコの和が τ だ! 分数が入り乱れた計算を避けるため、分母を全部払ってしまおう。すなわち、カキクケコをそれぞれ (w + 1)2w2――言い換えれば (w2 + 2w + 1)w2――してから足し算し、 τ(w2 + 2w + 1)w2 を求めることにしよう。カククケコは、それぞれこうなる:
  ガ −w[(w + 3)(w2 + 2w + 1)] × w2 = −w【1 5 7 3】 × w2 = −【1 5 7 3 0 0 0】
  ギ 2 × [(w + 1)(w + 1)2] × w2 = 2 × 【1 3 3 1】 × w2 = 【2 6 6 2 0 0】
  グ −[(2w + 1)(w2 + 2w + 1)] = −【2 5 4 1】
  ゲ (w + 1)(w + 1)2 × w = 【1 3 3 1】 × w = 【1 3 3 1 0】
  ゴ w × w2 = w3 = 【1 0 0 0】
ここで例えば 【1 5 7 3】 は 1w3 + 5w2 + 7w + 3 を略したもので、ガの
  (w + 3)(w2 + 2w + 1) = 【1 3】【1 2 1】 = 【1 5 7 3】 = w3 + 5w2 + 7w + 3
という計算は、普通の整数の掛け算 121 × 13 = 1210 + 363 = 1573 と同じ(この速算術は、係数の符号にマイナスがないときに、繰り上がりが起きないことを条件として有効)。

ガギグゲゴの和は、下記の筆算から、
  −w6 − 3w5 (+ 0w4) + 5w3 + (0w2) − 3w − 1
に等しい。

- 1  5 7 3 0  0  0 ガ
+    2 6 6 2  0  0 ギ
-        2 5  4  1 グ
+      1 3 3  1  0 ゲ
+        1 0  0  0 ゴ
──────────────────
 -1 -3 0 5 0 -3 -1

結論として τ(w2 + 2w + 1)w2 = −w6 − 3w5 + 5w3 − 3w − 1 となり、この等式の両辺を w4 + 2w3 + w2 で割ると:
  τ = (−w6 − 3w5 + 5w3 − 3w − 1)/(w4 + 2w3 + w2) = [−(w3 + w−3) − 3(w2 + w−2) + 5]/[(w + w−1) + 2]
二つ目の等号では、分子・分母を w3 で割った(一種の約分)。

w + w−1 を z とすると、 z2 = (w + w−1)2 = w2 + w−2 + 2 なので w2 + w−2 = z2 − 2 だ。そして z3 = (w + w−1)3 = w3 + w−3 + 3(w + w−1) なので w3 + w−3 = z3 − 3z だ。これらを上記の分数に代入して:
  τ = [−(z3 − 3z) − 3(z2 − 2) + 5]/(z + 2) = (−z3 − 3z2 + 3z + 11)/(z + 2)  ★

六つ組の六つの元のどれを w と呼ぶかによって、この分数の分子・分母の値は異なるが、 w の選択と無関係に τ の値は一定(対称性による)。 τ に限らず ε(x) の全係数が実数であることは、上述の通り。

〔参考〕 τ が実数であることをより直接的に証明する方法。六つ組の中には X + 1/X が実数であるような元 X, 1/X が必ず存在するので(定理8)、 w としてそのような X を選択したとすれば、 z = w + w−1 は実数、と仮定できる。しからば、上記 τ は(分子も分母も実数なので)実数。同じ論法は下記 υ についても適用可能。

次に ε(x) の3次の係数(υ としよう)を検討する。それは、六つ組の根の三つずつの積の和、つまり基本対称式
  abc + abd + ··· + cde
の符号を変えたものに等しい。 τ についてやったのと同様、直接計算(付録3B)から次の結論に至る。
  −υ = (2w6 + 6w5 + 5w4 + 5w2 + 6w + 2)/(w4 + 2w3 + w2) = [2(w3 + w−3) + 6(w2 + w−2) + 5(w + w−1)]/[(w + w−1) + 2]
   = [2(z3 − 3z) + 6(z2 − 2) + 5z]/(z + 2) = (2z3 + 6z2 − z − 12)/(z + 2)
  ∴ υ = (−2z3 − 6z2 + z + 12)/(z + 2)  ★★

★ と比べると ★★ は、分母が等しく、分子がちょうど2倍に近い。実際、
  2τ = (−2z3 − 6z2 + 6z + 22)/(z + 2) = υ + (5z + 10)/(z + 2) = υ + 5
であるから υ = 2τ − 5 が成り立つ。∎

〔例〕 E13(x) = x6 + 3x5 + 8x4 + 11x3 + 8x2 + 3x + 1 は、和が次の実数 z に等しいような二つの根 w, 1/w を持つ(前回の付録2参照)。
  z = w + 1/w = −1 − (3/3)(3(35 + 27) − 3(35 − 27)) = −1.7709169970…
この z の値を ★ に代入すると、 τ = 1.8326640235… / 0.2290830029… = 8.0000000000… を得る(理論上、ちょうど整数 8 になるはずだが、ここでは PARI の数値演算で検証している)。同じ z の値を ★★ に代入すると、 υ = 2.5199130323… / 0.2290830029… = 11.0000000000… を得る。 υ = 11 は 2τ − 5 = 2⋅8 − 5 に等しい。

† この関係を導くだけなら、 w を使った前記の表現(z を使った表現に変換しない)、
  −υ = (2w6 + 6w5 + 5w4 + 5w2 + 6w + 2)/(w4 + 2w3 + w2)
  −τ = (w6 + 3w5 − 5w3 + 3w + 1)/(w4 + 2w3 + w2)  ‥‥㋐
をそのまま使い、次のようにできる。
  (−υ) − 2(−τ) = (5w4 + 10w3 + 5w2)/(w4 + 2w3 + w2) = 5
  両辺を −1 倍して υ − 2τ = −5 つまり υ = 2τ − 5

〔追記〕 一般的・形式的に Mirimanoff の回文6次式([1], p. 392)を ε(x) = ε(x, T) = x6 + 3x5 + Tx4 + (2T − 5)x3 + Tx2 + 3x + 1 とすると(T はパラメーター)、特定の En(x) の特定の「解の六つ組」に対応する τ をこの T に入れたものが、それに対応する6次式 ε(x) = ε(x, τ) だ。一方、㋐の分子は、同じ式で T = 0 とした ε(w, 0) に当たる。ある w ∈ Ow に関連する −τ の値は(従って τ の値も)、 w を Ow の任意の元(1/w, −1 − w など)に置き換えても不変。ゆえに㋐自身も Mirimanoff 型の六重対称性を持つ。(2025年7月11日)

〔追記2〕 ㋐に 6 = 6⋅(w4 + 2w3 + w2)/(w4 + 2w3 + w2) を足すと −τ + 6 = (w6 + 3w5 + 6w4 + 7w3 + 6w2 + 3w + 1)/(w4 + 2w3 + w2) = (w2 + w + 1)3/[w2(w + 1)2]。両辺を −1 倍して:
  τ − 6 = −(w2 + w + 1)3/[w2(w + 1)2]
この等式が表すのは、ある6次式 ε(x) = ε(x, τ) = 0 の任意の解 w と、その6次式に対応する(特定の実数値の)パラメーター τ の関係だ(cf. [1], p. 392, Eq. (5))。(2025年7月13日)

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付録3B −υ を表す基本対称式の値の途中計算。処理を分かりやすくするため、 {a, b}, {c, d}, {e, f} がそれぞれ互いに逆数になるように、六つ組 {a, b, c, d, e, f} を並び替える。例えば、こうしよう:
  a = w, b = 1/w; c = −w − 1, d = −1/(w + 1); e = −1 − 1/w = (−w − 1)/w, f = −w/(w + 1)
求めたい和(6変数の三つずつの積の基本対称式)は、
  −υ = (abc + abd + abe + abf) + (acd + ace + acf) + (ade + adf) + (aef)
   + (bcd + bce + bcf) + (bde + bdf) + (bef)
   + (cde + cdf) + (cef)
   + (def)
であるが、 ab = cd = ef = 1 なので、次のように簡略化される。
  −υ = 1⋅(c + d + e + f) + (a⋅1 + ace + acf) + (ade + adf) + (a⋅1)
   + (b⋅1 + bce + bcf) + (bde + bdf) + (b⋅1)
   + 1⋅(e + f) + (c⋅1)
   + (d⋅1)
上記には a + b + c + d + e + f = −3 に当たる 6 項が二組含まれているので、それら 12 項を −6 で置き換えると:
  −υ = (ace + acf) + (ade + adf)
   + (bce + bcf) + (bde + bdf) − 6
   = a(ce + cf + de + df) + b(cd + cf + de + df) − 6
   = (a + b)(ce + cf + de + df) − 6
   = (a + b)(c + d)(e + f) − 6

結局、次の三つの和を求めてそれらを掛け合わせ、 6 を引けばいい。ばか正直に最初の 20 項の和(各項は三つの数の積)を求めることと比べれば、予想外に少ない計算量で済みそうだ!
  サ a + b = w + 1/w = (w2 + 1)/w
  シ c + d = −(w + 1) − 1/(w + 1) = −[(w + 1)2 + 1]/(w + 1)
  ス e + f = −[(w + 1)/w + w/(w + 1)] = −[(w + 1)2 + w2]/(w2 + w)

サシスの分子の積は(シスの先頭の − は打ち消し合う):
  (w2 + 1)[w2 + 2w + 2][2w2 + 2w + 1] = (w2 + 1)【1 2 2】【2 2 1】
   = 【1 0 1】【2 6 9 6 2】  ∵ 122 × 221 = 24400 + 2440 + 122 = 26962
   = 【2 6 9 6 2 0 0】 + 【2 6 9 6 2】  ← 繰り上がりが生じるので単純な整数演算での代用はできない
   = 【2 6 11 12 11 6 2】 = 2w6 + 6w5 + 11w4 + 12w3 + 11w2 + 6w + 2
一方、サシスの分母の積は:
  w(w + 1)[w(w + 1)] = w2(w2 + 2w + 1) = w4 + 2w3 + w2 = 【1 2 1 0 0】
ゆえに、サシスの積から 6 を引くと:
  −υ = 【2 6 11 12 11 6 2】/【1 2 1 0 0】 − 6
   = 【2 6 11 12 11 6 2】/【1 2 1 0 0】 − 【6 12 6 0 0】/【1 2 1 0 0】
   = 【2 6 5 0 5 6 2】/【1 2 1 0 0】
   = (2w6 + 6w5 + 5w4 + 0w3 + 5w2 + 6w + 2)/(w4 + 2w3 + w2) 以下、付録3Aの通り。

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2025-07-06 コーシー/ミリマノフ多項式(その5) 因子の個数

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

Cauchy の定理から、例えば (x + y)7 − x7 − y7 は因子 (x2 + xy + y2)2 を持つことが保証されている。つまり x2 + xy + y2 で(少なくとも)2 回割り切れる。
  (x + y)13 − x13 − y13
  (x + y)19 − x19 − y19
等々もまたしかり。では、このタイプの式が x2 + xy + y23 回以上、割り切れることは起こり得るか?
  (x + y)61 − x61 − y61
みたいなものすごい指数の多項式が、ひょっとして (x2 + xy + y2)3 で割り切れたとしても、まぁ「あり得ない」という感じはしない。60次くらいありゃぁ、ひょっとしてゴチャゴチャ因子もいっぱいあるかもね、と。だがしかし、この因子に関する限り「そんなことはあり得ない」と断言できるのであるっ!

(この形の多項式に Cauchy の定理が示す因子以外の因子が全くないのか?というのは、現在でも一般には未解決の難問らしい…)

✿

定理10(Cauchy の定理の拡張と精密化) n を 0 以上の整数とする。 x, y を不定の変数とする多項式
  pn = (x + y)n + (−x)n + (−y)n
は、 n ≠ 1 のとき、因子 U = x2 + xy + y2 と因子 C = xy(x + y) をちょうど次の個数だけ持つ。
  U の個数: n を 3 で割った余り 0, 1, 2 に応じて、それぞれ 0 個、 2 個、 1 個。
  C の個数: n が偶数なら 0 個、 n が奇数なら 1 個。

この定理は「コーシーの定理の簡単化」とほぼ同内容。ただし、因子が存在する場合の個数に「ちょうど」という限定が付いている。例えば (x + y)7 − x7 − y7 は因子 U をちょうど 2 個だけ持つ(3 個以上は持たない。つまり、多項式として (x2 + xy + y2)2 で割り切れるが (x2 + xy + y2)3 では割り切れない)。因子の個数を正確に決定することは、一見、地味でテクニカルな議論だが、そこから派生する事実は非常に役立つ。

この定理は、大抵、微分を使って証明されるようだ。以下では「コーシーの定理の簡単化」と同じアイデアによる初等的証明を記す。古典的な Cauchy の定理(1841年)では n が 6k ± 1 型の奇数の場合がメインになっている。そろそろ n が 3 の倍数のケースも考えてみたいので、その伏線って意味もある。

証明 n = 0, 1, 2 の場合、
  p0 = (x + y)0 + (−x)0 + (−y)0 = 3
  p1 = (x + y)1 + (−x)1 + (−y)1 = 0
  p2 = (x + y)2 + (−x)2 + (−y)2 = 2x2 + 2xy + 2y2 = 2U
であり、それらを基に n ≥ 3 については再帰的関係
  pk+3 = Cpk + Upk+1  (✽)
成り立つ(k ≥ 0)。例えば、
  p3 = C⋅3 + U⋅0 = 3C
は、 (x + y)3 + (−x)3 + (−y)3 = 3xy(x + y) = 3C に一致する。
  p4 = C⋅0 + U⋅(2U) = 2U2
は、 (x + y)4 + (−x)4 + (−y)4 = 2x4 + 4x3y + 6x2y2 + 4xy3 + 2y4 = 2(x + xy + y)2 = 2U2 に一致する。同様に進めて:
  p5 = C⋅(2U) + U⋅(3C) = 5UC
  p6 = C⋅(3C) + U⋅(2U2) = 3C2 + 2U3
  p7 = C⋅(2U2) + U⋅(5UC) = 7U2C
    ︙

以下の議論のほとんどは、再帰的関係(✽)に基づく。 U = x2 + xy + y2 と C = x(x + y) が、多項式として互いに素であることに留意しよう。 k は 0 以上の整数を表す(従って k+3 は 3 以上)。

(✽)の右辺第2項は U で割り切れ、第1項の因子 C は U で割り切れない。よって pk+3 が U で割り切れるための必要十分条件は、 pk が U で割り切れること。 p0 は U で割り切れず、 p1, p2 は U で割り切れるので、それらの事実と帰納法から、もし n が 3 の倍数なら pn は U で割り切れず、もし n が 3 の倍数でなければ pn は U で割り切れる。従って k と k+1 がどちらも 3 の倍数でない場合には――言い換えると k+3 が 3 の倍数より 1 大きい場合には――、もし pk が U2 で割り切れるなら pk+3 も U2 で割り切れる。 p1 は U2 で割り切れるので、その事実と帰納法から、 n が 3 の倍数より 1 大きいなら pn は因子 U2 を持つ。

同様に pk+3 が因子 U2 を持つための必要十分条件は、⦅i⦆ pk が因子 U2 を持ち、かつ⦅ii⦆ pk+1 が因子 U を持つこと。上述のように mod 3 で k ≡ 1 ならこの条件が満たされるから、 n = 4, 7, 10, ··· のとき pn は因子 U2 を持つ。一方 k ≡ 0 なら⦅i⦆が満たされず、 k ≡ 2 なら⦅ii⦆が満たされない(∵そのとき k+1 は 3 の倍数)。直接確認によると p0, p2 も因子 U2 を持たない。

従って pk+3 が因子 U3 を持つとしたら k ≡ 1 の場合に限られ、その必要十分条件は、⦅i⦆ pk が因子 U3 を持ち、かつ⦅ii⦆ pk+1 が因子 U2 を持つこと――しかし、そのとき k+1 ≡ 2 なので、条件⦅ii⦆は決して満たされない。結局 n = 4, 7, 10, ··· のとき、 pn は因子 U を 2 個持つが 3 個は持たない。

一方、 pk+3 が因子 C を持つための必要十分条件は、 pk+1 が因子 C を持つこと。 p1 は因子 C を持ち、 p2 は因子 C を持たないので、それらの事実と帰納法から、もし n が奇数なら pn は因子 C を持ち、もし n が 2 以上の偶数なら pn は因子 C を持たない。直接確認によると p0 も因子 C を持たない。よって pk+3 が因子 C2 を持つ可能性があるとすれば、 k+3 が奇数の場合に限られ、その必要十分条件は、⦅i⦆ pk が因子 C を持ち、かつ⦅ii⦆ pk+1 が因子 C2 を持つこと――しかし、そのとき k は偶数なので、条件⦅ii⦆は決して満たされない。ゆえに n = 3, 5, 7, ··· のとき、 pn は因子 C を 1 個持つが 2 個は持たない。∎

要約 n = 1 の場合を例外とすると(そのとき p0 は零多項式)、 n ≡ 0, 1, 2 (mod 3) に応じて、 pn が持つ因子 U の正確な個数はそれぞれ 0, 2, 1 であり、 n が偶数か奇数かに応じて、 pn が持つ因子 C の正確な個数はそれぞれ 0, 1 である。

✿

定理10の系1 n ≥ 3 が奇数のとき、多項式 Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1 は、
  nx(x + 1)(x2 + x + 1)λ En(x)
と分解される。ただし n ≡ 0, 1, 2 (mod 3) に応じて、それぞれ λ = 0, 2, 1 とする。ここで En(x) は有理係数の多項式。 En(x) は(多項式として)因子 x2 + x + 1 を持たない。

〔注〕 この En(x) は、もちろん Cauchy–Mirimanoff 多項式。ただし、ここでは最高次の項の係数 n をくくり出し En(x) の最高次の項の係数を 1 としておく。 n が素数なら En(x) は整係数だが、さもなければ、整数ではない有理数の係数が生じ得る。最高次の係数を 1 に限らなければ、係数の分母を払って、整係数とすることは常に可能。――多項式の定数倍の違いは「その多項式がある因子を持つか持たないか」という問題とは無関係なので、整係数・有理係数のどちらの表記を使うかは、とりあえずどっちでもいい。

証明 定理10において、 n ≥ 3 が奇数なら:
  pn = (x + y)n − xn − yn
特に y = 1 に固定したものを x について1変数の多項式と考えれば、
  Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1
となる。定理10により Pn(x) は因子 C = x(x + 1) をちょうど 1 個だけ持ち、因子 U = x2 + x + 1 をちょうど λ 個だけ持つ。ゆえに、それらの因子を除外した余因子 En(x) は、因子 C も 因子 U も持たない。∎

〔コメント〕 実は En(x) は、因子 C = x(x + 1) を持たないばかりか、因子 x も因子 x + 1 も持たない。というのも、もしもそのような因子を持つとしたら、 En(x) は根 0 または −1 を持つことになってしまうが、それは不可能。なぜなら Cauchy–Mirimanoff 多項式は、実数の根を持たない(定理7)。他方において、 En(x) が因子 U = x2 + x + 1 を持たないという事実は自明ではなく、論理的に重要。それが定理10の直接のモチベーション。

定理10の系2 1 の原始立方根
  ω = (−1 + i3)/2 および ω2 = (−1 − i3)/2
は、そのどちらも、決して Cauchy–Mirimanoff 多項式 E(x) の根とはならない。

〔注〕 「解はこれこれだっ!」ならともかく「この数は根ではありません」なんて否定的命題、役立たないように思えるかもしれない。でも、この場合に関しては「これは絶対に根にならない」という保証が予想外に大活躍する(特に定理11参照)。

証明 ω⋅ω2 = ω3 = 1 なので、 ω と ω2 は互いに逆数。よってCauchy–Mirimanoff 多項式の性質から、もしも ω と ω2 の一方が E(x) の根なら、逆数である他方も E(x) の根であり、つまり ω と ω2 は両方とも E(x) の根、ということになってしまう。その仮定上では多項式 E(x) が、因子
  (x − ω)(x − ω2) = x2 − (ω + ω2)x + (ω⋅ω2) = x2 + x + 1
を持つことになるが、それは定理10の系1に反し不合理。∎

† ω + ω2 = −1 について。露骨に計算するなら、
  (−1 + i3)/2 + (−1 − i3)/2
なので、虚部はプラマイ・ゼロ、実部は (−1/2) + (−1/2) = −1 となる。別の考え方として、{1, ω, ω2} は x3 − 1 = 0 の3解なので、解と係数の関係から 1 + ω + ω2 = 0 であり、従って ω + ω2 = −1。第三の考え方として、
  1, ω, ω2
を初項 1、公比 ω の3項の等比数列と見て、等比数列の和の公式を使っても、同じ結論に至る:
  1 + ω + ω2 = 1⋅(ω3 − 1)/(ω − 1) = (1 − 1)/(ω − 1) = 0
第四の考え方として、 1, ω, ω2 を三つのベクトルだと思えば、それらの和は 0 ベクトル――とイメージすることもできる(120° の等間隔の三つの方向から、絶対値 1 の同じ力で原点を引っ張ったら、力が釣り合ってしまい原点は動かないだろう、と)。

補足 もし仮に ω (またはその共役)が根の六つ組の一つだとしたら、六つ組では ω と ω2 がどちらも三重根となり E(x) は U3 = (x2 + x + 1)3 で割り切れる。 Cauchy の定理の背景にある再帰的公式の原理からいって、そんな因子が生じるわけないことは、まぁ感覚的には明らかだろう――もしもそんな特筆すべき因数分解が成り立つなら、当然とっくに Cauchy か誰かが発見してるはずだし、 E(x) の既約性をめぐる Mirimanoff 予想はたちまち否定的に解決され、未解決の懸案となるわけもあるまい。

とはいえ「もし仮に ω が六つ組に入り込めたとすると、六つ組がどんな変な状態になるか?」という仮定上の(仮想世界内の)検討は、それなりに面白い。一つの根を元に、「符号を変えて 1 を引く」と「逆数にする」の二つの操作によって、六つ組が生じるのであった。もしも、
  x1 = ω = (−1 + i3)/2
が E(x) の根の一つだったら、
  x2 = −x1 − 1 = (+1 − i3)/22/2 = (−1 − i3)/2
も同じ六つ組の根(根を並べる決まった順序はないので x2, x3 などの番号には、本質的な意味はない)。これは ω の共役複素数 ω2 に他ならない。出発点となる根 x1 の逆数、
  x3 = 1/x1 = 1/ω
も普通なら立派な六つ組の一員だが、この場合 ω の逆数は再び ω2 なので、重根が生じる。次にこの x3 = ω2 に対して「符号を変えて 1 を引く」処理を実行してみる(普通なら、これで六つ組のメンバーが増える):
  x4 = −x3 − 1 = (+1 + i3)/22/2 = (−1 + i3)/2
もともとの ω に戻ってしまい ω 自体も重根に。それでは x2 の逆数はどうか?
  x5 = 1/x2 = 1/ω2 = ω
またもや ω に戻ってしまう。最後にこの x5 に対して「符号を変えて 1 を引く」処理を行えば、本来なら六つ組が全員集合するのだが…
  x6 = x2 のときと同じ計算 = ω2
結局、 ω と共役の ω2 がそれぞれ三重根になって、六つ組といっても「中身は二つ」というありさま!

✿

あくまで「仮定上」の話。現実にはこんなことは起きない。 E(x) は因子 x2 + x + 1 を持たない――という定理10の系2は「こんな異常事態は起きないよ」ってことを保証してくれている。一見地味だが、やがてこれが「詰めの一手」のような重要な役割を果たすであろう。

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2025-07-07 コーシー/ミリマノフ多項式(その6) 109.90004°

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

古人いわく、数学は科学の女王であり、数論は数学の女王である。女王は必要性ゆえにではなく、その美しさゆえに愛される。

優雅な恒等式
  (x + 1)9 − x9 − 1 = 9(x2 + x) × [(x2 + x + 1)3 + (1/3)(x2 + x)2]
  (x + 1)11 − x11 − 1 = 11(x2 + x)(x2 + x + 1)
               × [(x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2]
  (x + 1)13 − x13 − 1 = 13(x2 + x)(x2 + x + 1)2
               × [(x2 + x + 1)3 + 2(x2 + x)2]

n = 9 の式は、あえて 9 をくくり出すのがチャームポイント? ←本質と関係ないw

いやぁ、なかなかきれいじゃありませんか。いえいえ、だからなんだというわけでも、これが何に役立つというわけでもないんですが。――といっても、たぶん多くの人は、このような「数式」を見ると「学校の勉強」とか「公式の暗記」とか「受験競争」とかを連想し、あまり愉快ではない気分になるのだろう。美しいものの美しさが無視され、むしろ苦痛を生むものとして受け止められている現状(教育のあり方・数学の扱われ方)は残念なことであり、美の女神に対する冒瀆ぼうとくともいうべきであろう。

✿

拡張された Cauchy の定理から、
  (x + 1)9 − x9 − 1
   = 9x8 + 36x7 + 84x6 + 126x5  [来る、見ろ、蜂よ、一匹踏む
   + 126x4 + 84x3 + 36x2 + 9x  [一匹踏む、蜂よ、見ろ、来る
   = 3(3x8 + 12x7 + 28x6 + 42x5 + 42x4 + 28x3 + 12x2 + 3x)
は、因子 x(x + 1) をちょうど 1 個持つ(そして因子 x2 + x + 1 を持たない)。つまり、
   = 3x(x + 1) Q(x)
と分解される。このうち x をくくり出すのは簡単。単に指数を 1 ずつ減らして、
   = 3x[3x7 + 12x6 + 28x5 + 42x4 + 42x3 + 28x2 + 12x + 3]
とするだけ。当面の問題は、この [ ] 内が (x + 1) Q(x) と分解される、という点。

因子が分かってんだから、筆算で [ ] 内を x + 1 で割るのは簡単だが…。ミリマノフ多項式の性質(定理9)から、その商(6次の余因子。六つ組の根を持つ6次式)は、6次の係数を 1 とすると、
  x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
の形を持つ。ここでは [ ] 内の最高次の係数が 3 なので、上の式を 3 倍したもの、
  3x6 + 9x5 + 3τx4 + (6τ − 15)x3 + 3x2 + 9x + 3
が商 Q(x) となるはず。すなわち:
  3x7 + 12x6 + 28x5 + 42x4 + 42x3 + 28x2 + 12x + 3  ㊧
   = (x + 1)[3x6 + 9x5 + 3τx4 + (6τ − 15)x3 + 3x2 + 9x + 3]  ㊨
と分解できるはず。例えば、㊨を展開した6次の係数 9 + 3 = 12 は㊧の6次の係数と一致している。㊨を展開した5次の係数 3τ + 9 が㊧の 28 に一致するので:
  3τ = 28 − 9 = 19 よって4次の係数は
  6τ − 15 = 19⋅2 − 15 = 23
これらを㊨に代入して:
  ㊨ = (x + 1)[3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3]

結局、次の分解を得る:
  (x + 1)9 − x9 − 1 = 3x(x + 1) E9(x)
  ここで E9(x) = 3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3

✿

上記 E9(x) は n = 9 のミリマノフ多項式の一つの表記だが、本質的に同じ意味の表記法は他にも存在する。実際、 E9(x) = 0 を満たす解を求めたい場合、その E9(x) = 0 の両辺を 3 で割って最高次の係数を 1 として、代わりに有理係数の
  E′9(x) = x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1 = 0
の解をを考えても同じこと。

〔補足〕 E′9(x) を使うことは、上記 3x(x + 1) E9(x) の左端の係数「3」を 3 倍して、代わりに E9(x) の各係数を 1/3 にすることに当たる。つまり、
  3x(x + 1) E9(x) の代わりに x(x + 1) E′9(x)
と表記したわけである。逆に E9(x) = 0 の両辺を 3 倍して――つまり 3x(x + 1) E9(x) の左端の係数を無くす代わりに E9(x) の各項を 3 倍して、
  x(x + 1) E″9(x) ここで E″(x) = 9x6 + 27x5 + 57x4 + 69x3 + 57x2 + 27x + 9
と分解しても、本質的に同じこと。

どうして「本質的に同じ」? これらの式は、
  E9(x) = 3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3
  E′9(x) = 1/3 × E9(x) = x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1
  E″9(x) = 3 × E9(x) = 9x6 + 27x5 + 57x4 + 69x3 + 57x2 + 27x + 9
という関係にある。よって、もし x = w が E9(x) の根で E9(w) = 0 を満たすなら、同じ w は、
  E′9(w) = 1/3 × E9(w) = 1/3 × 0 = 0
をも満たすので E′9(x) の根でもある。同様に、同じ w は E″9(x) の根でもある。逆に E′9(x) の根、あるいは E″9(x) の根は、他の二つの多項式の根でもある。要するに、三つの多項式のどれも根は同じ。その意味で、本質的に同じ式といえるっ!

実用上、係数が分数より整数の方が扱いやすいし、 E″9(x) のように各項の係数が 3 で割り切れるなら、 3 で割って係数を小さくした方が扱いやすい。よってここでは上記の E9(x) の形を使うことにする。

〔付記〕 これまで n = 11 や n = 13 のケースで、こうした表記の問題が表面化しなかったのは、 n が素数の場合 (x + 1)n − xn − 1 の各係数は n で割り切れ、自然に En(x) は「最高次の係数が 1 の整係数多項式」になるため。「最高次の係数が 1 の整係数多項式」は最も扱いやすい形であり、実用上、わざわざ複雑に書き換える理由もない。一方 n が素数でないときは、今言ったことが成り立たない。 n = 9 の場合、これまでになかった「表記の問題」が浮かび上がってきた。

✿

E9(x) = 3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3 を Cauchy の恒等式風に、 U = x2 + x + 1 と C = x(x + 1) の組み合わせとして、書いてみたい。 E11(x) と E13(x) の場合には、
  U3 = (x2 + x + 1)3 = x6 + 3x5 + 6x4 + 7x3 + 6x2 + 3x + 1
がベースとなっていた。 E9(x) も同じ感じで行けるか? E9(x) と係数がだいたい同じになるよう 3 倍すると:
  3U3 = 3x6 + 9x5 + 18x4 + 21x3 + 18x2 + 9x + 3
  ∴ E9(x) − 3U3 = x4 + 2x3 + x2 = x2(x + 1)2
  ∴ E9(x) = 3U3 + C2 = 3(x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2

Cauchy 風の恒等式
  (x + 1)9 − x9 − 1 = 3(x2 + x) × [3(x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2]

なかなか美しいっ! 軽くアレンジして、 n = 11, 13 の元祖 Cauchy の恒等式(の y = 1 バージョン)と並べてみたのが、冒頭の三つの恒等式。

† この U3 も六つ組の式と同じ x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1 の形の回文的係数を持つ(τ = 6)。 U3 は「もし仮に ω が六つ組の一つになった場合に現れる六つ組の根の6次式」だから。現実には ω が E(x) の根となることはない(定理10の系2参照)。

しかし上記の導出は「U3 がベースかな?」という「勘」に依存していて、結果的にはうまくいったものの「黒魔術」のようなものだ。再帰的公式により、同じ結論をもっと透明に再導出しておく。
  p6 = 2U3 + 3C2
  p7 = 7U2C
  ∴ p9 = C⋅(2U3 + 3C2) + U⋅(7U2C) = C(2U3 + 3C2 + 7U3) = 3C(3U3 + C2)
     = 3(x2 + x)[3(x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2]

逆にこの [ ] 内が E9(x) なので、
  3(x2 + x + 1)3 = 3(x6 + 3x5 + 6x4 + 7x3 + 6x2 + 3x + 1)
   = 3x6 + 9x5 + 18x4 + 21x3 + 18x2 + 9x + 3
の中央の三つの係数に (x2 + x)2 = x4 + 2x3 + x2 の係数 1, 2, 1 を足して:
  E9(x) = 3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3

既に得た6次式と一致。「4次の係数を τ とすると3次の係数は 2τ − 5」という事実も、この場合、手軽な検算法となる。その場合、まず最高次の係数を 1 にする(全体を 3 で割る)必要がある: τ = 19/3, 2τ − 5 = 38/3 − 15/3 = 23/3 となり、上記 3 次の係数 23 を 3 で割ったものと一致。

✿

回文6次式を z = x + x−1 についての3次方程式に変換。
  E9(x) × x−3 = 3(x3 + x−3) + 9(x2 + x−2) + 19(x + x−1) + 23
   = 3(z3 − 3z) + 9(z2 − 2) + 19(z) + 23
   = 3z3 + 9z2 + 10z + 5 = 0  ‥‥①
両辺を 3 で割って:
  z3 + 3z2 + (10/3)z + (5/3) = 0
2次項を除去するため z = s − 1 と置くと:
  (s − 1)3 + 3(s − 1)2 + (10/3)(s − 1) + (5/3)
   = (s3 − 3s2 + 3s − 1) + (3s2 − 6s + 3) + (10/3)s − (10/3) + (5/3)
   = s3 + (1/3)s + (1/3) = 0  ‥‥②
対応する2次方程式は:
  t2 + (1/3)t − (1/93) = 0
  その判別式は (1/9) + (4/93) = (85/93) = (85/36)
  解は t = (1/2)(−1/3 ± 85/27) = −1/6 ± 85/54 = (−9 ± 85)/(2⋅27)

よって s についての3次方程式②の実数解は:
  s1 = 2−1/3⋅3−1 (3(85 − 9) − 3(85 + 9))
   = −2−1/3⋅3−1 (3(85 + 9) − 3(85 − 9))
   = −(34/6)(3(85 + 9) − 3(85 − 9))
残りの2解は:
  s2, s3 = (34/12)(3(85 + 9) − 3(85 − 9)) ± i⋅(343/12)(3(85 + 9) + 3(85 − 9))

変数置換 z = s − 1 を元に戻して、 z についての3次方程式①の(唯一の)実数の解は:
  z1 = −1 + s1 = −1 − (34/6)(3(85 + 9) − 3(85 − 9))
   = −1.53656 51646 72222 91875…

E9(x) の根の六つ組のうち、逆数の和が実数になるものは、
  x + x−1 = z1 つまり x2 − z1x + 1 = 0  ‥‥③
の解。解と係数の関係から、③の2解の積は 1。よって解の一方を w とすると、他方は 1/w。さらに、2解の和は z1 なので w + 1/w = z1 = 上記の実数。のみならず z1 の絶対値は 2 未満なので、③の判別式は負であり、③の解 w と 1/w は互いに共役複素数。

③の2解 w, 1/w ――それらは E9(x) の六つの根のうちの二つでもある――は互いに逆数なので、どちらも絶対値が 1 に等しい。よって「原点を中心とする単位円」上にあり、しかも互いに逆数であるから、一方の偏角(の主値)を θ とすれば他方の偏角は −θ だ。この場合、互いに逆数であると同時に、互いに共役となる(補題4参照)。虚部が正のものを w としよう。数値計算によると:
  θ = 2.44695 01408… = 140.19991 57487…° = 140°11′59″.696…
すなわち w, 1/w は、単位円上で偏角が ±140.2° に非常に近い(角度の誤差、約 0.00008° ≈ 0.303″)。

〔注〕 数値的には、③の解は、
  x1, x2 = −0.76828 25823 36111 45937… ± i⋅0.64011 08292 15500 86534…
であり、その一方(虚部が正のものを選択するのが自然だが、逆の選択でも構わない)を w とすれば、上記の関係を検証できる。2次方程式の解の公式から、この複素数の実部は z1/2 に等しい。

140.2° に非常に近いという事実は、もちろん「偶然」だろう。この事実が何かの役に立つとも思えない。とはいえ心の躍る「発見」だ!

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E9(x) の根のうち二つ x1 = w, x2 = 1/w について、それなりに鮮明なイメージが得られた。両者は 1 の原始立方根 ω, ω2 とやや似ているが、偏角が ±120° ではなく、もう少し深い約 ±140° の方位にある。

根の六つ組の性質から、 −w − 1 と −(1/w) − 1 も E9(x) の根であり、両者も互いに共役。実際 −w と −(1/w) は上記 w, 1/w の 180° 反対側だから、単位円周上で偏角 ∓40° ほどの場所にあり、互いに共役。それぞれに同じ実数 −1 を足したものも、再び互いに共役。もしも出発点が ω と 1/ω (= ω2) だったら、 −ω − 1 と −(1/ω) − 1 は、もともとの ω と 1/ω を入れ替えたものに過ぎないが(単位円上の偏角 ∓60° の点と偏角 ∓120° の点は、距離がちょうど 1 だから)、われわれの −w と −(1/w) は偏角が ∓40° ほどなので実部がもう少しでかく、 −1 を足しても単位円の円周上に戻ってこられない(縦軸を挟んだ単位円上の反対側の点との距離は 1 より大)。ゆえに −w − 1 と −(1/w) − 1 は、単位円の円周上ではなく、円の内側(第4・第3象限)の点で、絶対値が 1 より小さいはず。

〔注〕 実際、数値的には、両者は:
  x3, x4 = −0.23171 74176 63888 54062… ∓ i⋅0.64011 08292 15500 86534…
絶対値の2乗は (−0.25)2 + (0.666…)2 = 1/16 + 4/9 = 73/144 未満だから 1 未満であり、絶対値は 1 未満。およそ 731/2/12 ≈ 641/2/12 = 8/12 = 0.75 だ(正確な値は 0.68 台)。

びっくりすること! これら二つの根の偏角は ∓109.90004 21256…° = ∓109°54′00″.002… なのであるッ! 「だからどうした。 w の偏角が約 140.19991° なんだから、それに 180° か何かが加減されて、結果が約 109.90004 になっただけだろ?」と思いたくなるかもしれないが、待て待て、これはそんな単純な話じゃないぞ。 −w の偏角が約 −39.80008° ってとこまでは、確かに今言ったような単純な話だけど、「単位円上のその偏角の点」から左に 1 行った場所(もはや単位円上ではない)の偏角が、なぜか 109.9° になる(誤差 0.003″ 未満)。ここまでくると「偶然」ではないのかもしれないが、たぶん「偶然」なのだろう…?

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根の六つ組の残る二つのメンバーを考えよう。 x3 = −w − 1, x4 = −(1/w) − 1 それぞれの逆数 x5, x6 だ。逆数であるから、 x3 と x5 = 1/x3 も、 x4 と x6 = 1/x4 も、それぞれ偏角の符号が反対。ところが x3, x4 の偏角は約 ∓109.90004° だから x5, x6 の偏角は約 ±109.90004° であり、結局 x3 と x6 は原点から第4象限に伸びる一つの半直線の上にあり、 x4 と x5 は原点から第3象限に伸びる一つの半直線の上にある。逆数であるから、絶対値の積は 1 だ。 x3, x4 の絶対値は 1 より小さかったので、 x5, x6 の絶対値は 1 より大きい。つまり後二者は、単位円の外側にある。

E9(x) の根の六つ組のうちの四つ
実部 虚部 偏角
x3 −0.23171 74176 −0.64011 08292 −109.90004°
x4 +0.64011 08292 +109.90004°
x5 1/2 +1.38123 15786
x6 −1.38123 15786 −109.90004°

{x3, x5}, {x4, x6} はそれぞれ互いに逆数。 {x3, x4}, {x5, x6} はそれぞれ共役なので、
  x3 + x5 と x4 + x6
も互いに共役複素数であり(前者の虚部が正)、この二つの和は、3次方程式①の共役複素数解 z2 と z3 に他ならない。
  z2 = x3 + 1/x3 = x3 + x5
   = −1 + (34/12)(3(85 + 9) − 3(85 − 9)) + i⋅(343/12)(3(85 + 9) + 3(85 − 9))
  z3 = x4 + 1/x4 = x4 + x6
   = −1 + (34/12)(3(85 + 9) − 3(85 − 9)) + i⋅(343/12)(3(85 + 9) + 3(85 − 9))

もし誰かが個々の xk の根号表現が望むなら(k = 1, 2, ···, 6)、対応する zj の根号表現を使って(j = 1, 2, 3)、2次方程式 x2 − zjx + 1 = 0 を解けばいい。

最も特筆すべきこととして、単位円の外にある x5, x6 は、実部が −1/2 に等しい! もともとこの(n = 11 の同様の式で現れる)実部 −1/2 が印象的で、それがこの探検を始めるきっかけとなったのであった。最初、この現象のメカニズムが分からず、いろいろ迷ってうろうろしたけど、今、それをかなり透き通らせることができる。

定理11(実部 −1/2 の根) n を 9 以上の奇数とする。 Cauchy–Mirimanoff 多項式 En(x) の任意の根の六つ組は、実部 −1/2 の共役複素数のペアを必ずちょうど一つだけ含む。

証明 六つ組を根とする6次式 ε(x) は実係数かつ回文的だから(定理9)、 z = x + 1/x と置くことで z についての実係数の3次式の問題となる。この3次式の実数の根を z1 とすると、六つ組の根のうち二つは、
  x + 1/x = z1 つまり x2 − z1x + 1 = 0  ‥‥⓵
の解。 ε(x) は実数の根を持たないから⓵の解も実数ではない。よって⓵の判別式は負であり、
  (z1)2 − 4 < 0 つまり −2 < z1 < 2  ‥‥⓶
が成り立ち、⓵は共役複素数解を持つ――解のうち実部が正のものを x1 = w とすると、他方の解は x2 = 1/w だ。なぜなら、解と係数の関係から⓵の2解の積は 1 なので、一方の解が w なら他方の解は 1/w。よって、仮定⓵から、
  w + 1/w = z1  ‥‥⓷
が成り立つ。⓵の2解は互いに逆数でしかも共役なので絶対値が 1 であり、複素平面上では原点を中心とする単位円上にある。ところで、もしも⓵の2解の実部が −1/2 だったとしたら、これら2解は ω と ω2 であるが、それは不可能であり(定理10の系2)、⓵の解の実部は −1/2 ではない。

六つ組の基本性質(定理8)から、
  x3 = −x1 − 1 = −w − 1
  x4 = −x2 − 1 = −(1/w) − 1 = (−1 − w)/w = −(w + 1)/w
も同じ六つ組に属する根。 {x1, x2} は共役なので {x3, x4} も共役。さらに、
  x5 = 1/x3 = 1/(−w − 1) = −1/(w + 1)
  x6 = 1/x4 = −w/(w + 1)
も同じ六つ組に属する根であり、共役の {x3, x4} それぞれの逆数なので {x5, x6} も共役。

さて、 x5 と x6は −1 に等しい。実際:
  x5 + x6 = −1/(w + 1) + −w/(w + 1) = −(w + 1)/(w + 1) = −1

一方、 x5 と x6 x5x6 = w/(w + 1)2 について、その逆数を考えると:
  (x5x6)−1 = (w + 1)2/w = (w2 + 2w + 1)/w = w + 2 + 1/w = z1 + 2  ‥‥⓸
最後の等号は⓷による。⓶から、⓸は 4 より小さい正の実数。ゆえに x5x61/4 より大きい。よって補題から共役複素数 {x5, x6} は実部が −1/2 に等しい。六つ組には実部 −1/2 の共役複素数が少なくとも一組含まれていることが示された。

最後に、六つ組には「実部 −1/2 の共役複素数」を(上記のように必ず一組持つが)二組以上は持たないことを示す。前述のように、共役複素数 {x1, x2} の実部が −1/2 でないことは既に分かっている。 {x3, x4} の実部も ≠ −1/2 だということを示そう。

図解: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置六つ組は実数を含まないので x3, x4, x5, x6 は、いずれも実数ではない。ところで、実数以外の「共役複素数のペア」は、偏角(の主値)の符号が逆であり(偏角の絶対値は同じ)、実数以外の「互いに逆数の複素数のペア」についても、同じことがいえる。ゆえに、実数でない任意の複素数 X に関して、 X の共役複素数 X* と X の逆数 1/X は、(符号も含めて)偏角が等しい。 x3 から見ると x4 は共役なので、 x4 と x5 = 1/x3 は偏角が等しく、 x4 から見ると x3 は共役なので、 x3 と x6 = 1/x4 は偏角が等しい(具体的な数値例)。従って x4 と x5 は、原点からある方向に伸びる同じ半直線の上にある(画像の緑の矢印)。 x3 と x6 についても、またしかり。

{x5, x6} は、虚部 = −1/2 を表す縦線(画像ではオレンジ)の上に乗っているが、「原点からある方向に伸びる一つの半直線」(緑)と、この「横座標 −1/2 の縦線」(オレンジ)が交わる機会は、{あるとしても}一度しかない。すなわち、同じ半直線の上にある x4 と x5 が、どちらも実部 −1/2 を持つことは、たまたま x4 = x5 である場合を除けば、あり得ない。 x3 と x6 についても同様。

よって x4 ≠ x5 かつ x3 ≠ x6 を示せば、証明が完了する。 {x5, x6} は実部 −1/2 であるが、定理10の系2から ≠ {ω, ω2} なので、どちらも単位円上にはない。すなわち x5, x6 の絶対値(原点からの距離)は 1 ではない。ところが {x4, x5} は互いに逆数(つまり積が 1)なので、(x5 の絶対値が 1 でないことの結果として)その一方の絶対値は 1 より大きく、他方の絶対値は 1 より小さい。絶対値が異なる複素数が等しいことはあり得ないので x4 ≠ x5 だ。同様に x3 ≠ x6 だ。∎

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もともと定理10の系2は、定理5にあったテクニカルな小さいギャップ――ω, ω2 ∈ Ow が不可能という主張を後回しにしていたこと――を埋めるために導入したもので、正直「つまらない命題」とも思えた。が、「実部 −1/2 の謎」の解明でも「重要な詰めの一手」として、予想外に活躍。

ようやく少し状況が見えてきた。二つの根は偏角が同じで、同じ半直線の上にあったのか~! きちんとした教師もなく、自己流で適当にやってると、そんな基本的なことにもなかなか気付けない(笑)。これが「学習」だったら、非効率もいいところ。遊びの数論なんで、効率とか成果とかは、まぁどうでもいいんだけど…

Euclid alone has looked on Beauty bare

何かを垣間見たような瞬間、ワクワクして、さらによく見ようとする。そしてそこに、より深い闇があることに気付く。よく見れば見るほど、いかに見えない事柄が多いかを思い知る。いつも結末には多少の悲しさ、はかなさがある。それでも「これまで見えなかった景色」が見えたときの喜びは、それがいかにささいなものであれ、かけがえのない真実なのだっ!

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2025-07-08 コーシー/ミリマノフ多項式(その7) 回文多項式について

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

ƒ(x) が回文的な多項式のとき、 x = w が ƒ(x) の根なら x = 1/w も ƒ(x) の根(定理1)。この定理の「逆」も成り立つ。「定理」と呼ぶほどの大げさなことでもないけど、 Cauchy–Mirimanoff 多項式の研究の土台ともいえるので、明示的に証明しておく。

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定理1の逆定理1参照) もし多項式 ƒ(x) が、
  その任意の根 x = w について、必ず x = 1/w も ƒ(x) の根である
という性質を持つなら、 ƒ(x) の係数は回文的。

証明 例えば ƒ(x) を4次式として = ax4 + bx3 + cx2 + dx + e としよう。仮定により、
  ƒ(w) = aw4 + bw3 + cw2 + dw + e = 0  ‥‥①
を満たすような任意の w について、
  ƒ(w−1) = aw−4 + bw−3 + cw−2 + dw−1 + e = 0  ‥‥②
が成り立つ。なぜなら ƒ(w−1) の第1項は a(w−1)4 = aw−4 だし、第2項以降も同様。②の両辺を w4 倍すると:
  aw0 + bw1 + cw2 + dw3 + ew4 = 0
  つまり ew4 + dw3 + cw2 + bw + a = 0  ‥‥③
①と③は、どちらも(重複度を含めて)四つの根の値 w について成り立つのだから、それぞれの左辺は、(定数倍の違いを度外視すると)同じ4次式でなければならない。すなわち、両者の係数比較から、 a = ke, b = kd, c = kc, d = kb, e = ka が成り立つ必要がある(k: 定数)。明らかに k = 1 であり、もともとの多項式 ƒ(x) は、
  ax4 + bx3 + cx2 + bx + a
の形を持つ。つまり係数が a, b, c, b, a と回文的。 ƒ(x) の次数が幾つであっても同様。∎

ここで多項式が回文的というのは、その多項式の次数を正の整数 n として、
  0 次の係数(定数項) = n 次の係数(最高次の係数)
  1 次の係数 = n−1 次の係数
  2 次の係数 = n−2 次の係数
   ︙
  ℓ 次の係数 = n−ℓ 次の係数
   ︙
が 0 ≤ ℓ ≤ n/2 の範囲の全部の整数 ℓ について成り立つ場合を指す。係数を両端から二つずつペアにすると、
  a, b, c, d, d, c, b, a
のように、各ペアが等しい値を持つ(次数が偶数のときは、項の数が奇数なので、真ん中にはペアにならない係数が生じる。その場合、真ん中の係数の値は何でもいい。次数が奇数のときは、そのような係数が生じず、全部の係数が二つずつペアになる)。もちろん最高次の係数は(従って定数項も) 0 であってはならない。

「回文的」と呼ぶのは、‘たけやぶやけた’の文字のように、左から読んでも右から読んでも同じだから。「自己逆数的」とかなんとか、同じ意味の他の用語もあるだろうし、もしかすると別の表現の方がもっとポピュラーなのかもしれないが、ともかくここで「回文多項式」というのは、上記の意味、と。

† (self-)reciprocal polynomial。 Helou [2] では reciprocal polynomial と呼ばれる。日本語では「相反多項式」いう用語が使われることがあるようだ。

‡ palindromic polynomial。

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実は「定理1の逆」は、既に何度か無証明で使ってしまっていた。ささいなことではあるが、「神は細部に宿る」ともいうし、気付いたギャップは埋めておく。といっても、間違いや不備、計算ミス、タイプミスなどは他にもいっぱいあると思われるが…

付記 定理9の証明では当初やや強引な力技(6変数の対称式の直接計算)を使っていた。もっと見通しの良い方法が分かったので、それに置き換えた。当初のバージョンも付録3A・付録3Bとして残してある。

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2025-07-09 コーシー/ミリマノフ多項式(その8) 新発見

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式

図解: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置すごい発見をしたッ! (x + 1)n + (−x)n + (−x)n の因子 En(x) のうち E9 と E10 は根の六つ組を一つ持ち、 E12 は根の六つ組を二つ持つ(ε12, ε′12 とする)。各六つ組に属する根の偏角は ±θ, ±η の形の4種だが、次の六つの角度は極めて特徴的な形をしている:
  E9 ⇒ θ ≈ 140.199915748°, η ≈ 109.9000421256°
  E10 ⇒ θ ≈ 162.0000514913°, η ≈ 98.9999742543°
  ε12 ⇒ θ ≈ 164.9999995217°, η ≈ 97.5000002391°
特に ε12 の θ は 165° = 11π/12 とほぼ等しい。その結果、 E12(x) の根のうち
  −0.9659258241… ± i⋅0.2588190531…
の二つは 1 の原始24乗根 exp(πi⋅11/12) と exp(πi⋅13/12)、
  −0.9659258262… ± i⋅0.2588190451…
に極めて近い(実部・虚部とも小数8桁程度まで一致)。

この現象が既知なのかどうかは不明。2025年7月5日に En(x) の根の面白い偏角に気付き心の躍る「発見」だ!, 「偶然」ではないのかもしれないが、たぶん「偶然」なのだろう…? とコメントしたが、2025年7月7日(UTC)、 n が偶数のケースへの拡張を試していて n = 10, 12 の場合にも似た現象が起きることに気付いた。

〔追記〕 この現象の詳細については「その10」、発生理由については「その11」参照。

(A short summery in English.)

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En(x) の意味、および「根の六つ組」が複素平面上でどのように配置されているかを検討する。

n ≥ 3 が奇数の場合、 Pn(x) で次のような多項式を表すことにしよう。
  P3(x) = (x + 1)3 − x3 − 1 = 3x(x + 1)
  P5(x) = (x + 1)5 − x5 − 1 = 5x(x + 1)(x2 + x + 1)
  P7(x) = (x + 1)7 − x5 − 1 = 7x(x + 1)(x2 + x + 1)2
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = q⋅x(x + 1) E9(x)
    ︙
  Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1 = q⋅x(x + 1)(x2 + x + 1)λ En(x)

q の意味については後述するが、ひとまずその q を無視するなら、要するに (x + 1)n の二項展開から、最高次の項 xn と定数項 1 を引き算した残りが Pn(x) だ(n ≥ 3 が奇数の場合には)。この Pn(x) は必ず因子 n(n + 1) ちょうど 1 個持ち、 n が 3 の倍数でなければ、因子 n2 + n + 1 をちょうど 1 個またはちょうど 2 個持つ。 因子 n2 + n + 1 の個数を λ とし Pn(x) から、これらの因子 x(x + 1)(x2 + x + 1)λ を除去した後に残る余因子を En(x) としよう。 n = 3, 5, 7 のとき En(x) は0次式(単なる定数)であり、面白くない。 n が 9 以上の場合、 E9(x), E11(x), E13(x) は6次式、 E15(x), E17(x), E19(x) は12次式、等々と次数は 6 の倍数になる。

二項展開 (x + 1)n の係数は、もちろん正の整数(二項係数)であり、そこから xn と 1 を引いた結果も整係数。一般には、係数から共通因子 q をくくり出すことができる。具体例として、
  P3(x), P5(x), P7(x)
の場合、上記の表記では、それぞれ q = 3, 5, 7 をくくり出している。一方、
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = x(x + 1)(9x6 + 27x5 + 57x4 + 69x3 + 57x2 + 27x + 9)
の場合には、右端の ( ) 内の各係数は q = 3 の倍数なので、次のように整理することもできる:
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 3⋅x(x + 1)⋅(3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3)
この場合、このように q = 3 をくくり出すなら、結局、
  E9(x) = 3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3
ということになる。しかし q = 1 のまま係数の公約数を放置して、
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 1⋅x(x + 1)⋅(9x6 + 27x5 + 57x4 + 69x3 + 57x2 + 27x + 9)
として、
  E9(x) = 9x6 + 27x5 + 57x4 + 69x3 + 57x2 + 27x + 9
としても構わない。「おいおい、それじゃぁ E9(x) の定義が曖昧じゃねぇか、ハッキリ決めろよ」と感じるかもしれないが、一つ目の定義の E9(x) は二つ目の定義の E9(x) から見ると (1/3)⋅E9(x) だし、逆に二つ目のやつは一つ目から見ると 3⋅E9(x) なんで、どっちの定義の E9(x) でも、その定義で E9(x) = 0 なら(そしてその場合に限って)、他方の定義の E9(x) も = 0 になる。 E9(x) = 0 を満たす x ――すなわち E9(x) の根――を考える上では、どっちの定義でも同じなのだ!

同じ理由から、整係数にこだわらず q = 9 をくくり出して、
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 9⋅x(x + 1)⋅(x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1)
として、この最後の ( ) 内を E9(x) としても、構わない。「係数に分数がない方がシンプルでいいじゃん」ってのも確かだが、「多項式っつーのは、最高次の係数が 1 の方が扱いやすい」ってのも事実。まぁ q は、好みや処理の都合に合わせて使うオプションの整数ってことで。

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定義を拡張して n ≥ 2 が偶数の場合についても考えてみたい。拡張の仕方は一つに限らないかもしれないけど、ここでは、 n ≥ 2 については、
  Pn(x) = (x + 1)n + xn + 1
と約束しよう。「n が奇数でも偶数でも
  Pn(x, y) = (x + y)n + (−x)n + (−y)n  (✽)
と定義した」と考えるなら、元祖 Cauchy の多項式
  (x + y)n − xn − yn  ただし n ≥ 3 は奇数
は(✽)において n が奇数の場合と一致するので、元祖バージョンは、より一般的なバージョン(✽)の特別な場合となり、逆に言えば、(✽)は元祖バージョンの自然な拡張といえる。そして y = 1 に固定するなら、 n が奇数の場合はもとより、偶数の場合にも、上述のわれわれの定義となる。具体例として:
  P2 = (x + 1)2 + x2 + 1 = 2x2 + 2x + 2 = 2(x2 + x + 1)
  P4 = (x + 1)4 + x4 + 1 = 2x4 + 4x3 + 6x2 + 4x + 2 = 2(x2 + x + 1)2
  P6 = (x + 1)6 + x6 + 1 = 2x6 + 6x5 + 15x4 + 20x3 + 15x + 6x + 2
  ︙
などとなり、 n ≥ 2 が偶数の場合にも、 n が 3 の倍数(従って 6 の倍数)の場合を除き Pn(x) は x2 + x + 1 でちょうど 1 回またはちょうど 2 回、割り切れる。つまり、 n ≥ 2 が偶数でも奇数でも、
  Pn(x) = q⋅(x2 + x)κ(x2 + x + 1)λ En(x)
と書くことができる。 n が奇数なら必ず因子 x(x + 1) = (x2 + x) がちょうど 1 個あるので κ = 1 だが、 n が偶数ならこの因子はないので κ = 0。一方、 λ の値は、 n が奇数か偶数かにかかわらず、 n を 3 で割った余りが 0, 1, 2 のとき、それぞれ λ = 0, 2, 1 となる。

要約 任意の整数 n ≥ 2 に対して、上のように定義された多項式 Pn(x) は、因子 x2 + x を κ 個、因子 x2 + x + 1 を λ 個、持つ(κ, λ の値は n に応じて定まる)。これらの因子で Pn(x) を割ったときに残る余因子をここでは En(x) とする。ただし、オプションとして、 En(x) の全部の係数を整数 q ≠ 0 で割っても、多項式としての En(x) の本質は変わらない(普通は q として各係数の公約数を選択するが、 q = 1 のまま放置してもいいし、あるいは「q = 1 の状態での En(x) の最高次の係数」をあらためて q とすることで、 En(x) の最高次の係数を 1 にする選択肢も可)。

† Helou [2] は、 n の偶奇にかかわらず Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1 と定義している。その場合、 n が偶数なら κ = λ = 0 となる。

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具体例としては、 n = 9, 11, 13 の場合の En(x) が別のメモでかなり詳細に検討されている。一般論として En の解はどのような集合か?

En(x) の根は、六つ一組で、緊密な集団を成す(定理8)。 根の六つ組 {x1, x2, x3, x4, x5, x6} は軌道とも呼ばれる。もし En(x) が6次式なら、それは一つの六つ組だけから成る。もし En(x) が12次式なら、それは二つの六つ組を持つ。以下同様だが、もし En(x) が0次式なら、それは六つ組を 0 個持つ(n = 2, 3, 4, 5, 7 の場合)――もちろんそれはつまらないケースであり、少なくとも一つの六つ組が存在するためには、 n が 6 以上の偶数であるか、または 9 以上の奇数であることが必要。

六つ組は、実係数の回文的6次式 ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1 の根として、表現可能(τ は個々の六つ組に応じて定まる実数の定数)。もし En(x) が6次式なら、 ε(x) は定数倍の違いを除き En(x) 自身に等しい(より詳しく言えば En(x) をその最高次の係数で割ったものが ε(x) だ)。根の六つ組の「幾何学的イメージ」は次の通り。複素平面上、原点を中心とする半径 1 の円(単位円)を考える(画像のオレンジの円)。六つ組の中に、実数の根は一つもない(定理7)。どの根も虚部が ≠ 0 であり、横軸(実軸)上ではなく、その上方または下方にある。

⦅i⦆ 六つ組のうち二つの根(それらを x1, x2 としよう)は、必ず単位円(の円周)上にあり、従って、絶対値が 1。しかも両者は共役複素数であり、横座標(実部)が等しく、縦座標(虚部)の符号だけが反対。よって、横軸に対して、上下に対称の位置にある。虚部が正のものを x1 とする。 {x1, x2} はどちらも絶対値が 1 で、偏角の符号だけが反対なので、互いに逆数でもある。 x1 = w とすると、 w 自体は実数ではないものの、 x1 + x2 = w + 1/w は(共役複素数の和なので)実数。 z = x + 1/x と置くことで、 x についての6次方程式 ε(x) = 0 を z についての3次方程式に変換できるが、 x1 + x2 = w + 1/w は、この3次方程式の実数解だ。

図解: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置⦅ii⦆ ある六つ組に属する任意の根 X について、 −X − 1 も同じ六つ組に属する(補題3)。ゆえに −x1 − 1 も六つ組の根(それを x3 とする)。 −x1 は、単位円上で x1 の 180° 反対側にある(画像の赤い点線の先)。 −x1 − 1 は、この −x1 から負の方向(真横・左方向)に 1 進んだ位置にある(画像の青い矢印)。 x1 の偏角が 120° より大きい限りにおいて、もちろん −x1 の偏角は −60° より小さく cos (−x1) は 1/2 より大きいので、 −x1 の点から左に 1/2 進んだだけでは、まだ第4象限から出られず、従って、さらに 1/2 進んでも単位円の円周には到達できない(ただし cos (−x1) は 1 未満なので、第2象限には入る)。すなわち x3 = −x1 − 1 は、第3象限において単位円の内側にあり、従ってその絶対値は円の半径 1 より小さい(x1 の偏角が 120° より大という前提において)。

⦅iii⦆ 同じ前提において、全く同様に x4 = −x2 − 1 は第2象限において単位円の内側にある。 {−x1, −x2} は共役だから、それぞれの実部に −1 を足した {x3, x4} も互いに共役であり、横軸の下と上の対称の位置にある。

⦅iv⦆ 六つ組の構造から、 x3 の逆数 x5 = 1/x3 も、同じ六つ組の根。のみならず、任意の複素数 X について、 X の共役複素数 X* と X の逆数 1/X は偏角が同じ。 x3 から見ると x4 は共役、 x5 は逆数なので、 {x4, x5} は原点から第2象限の一定方向に伸びる一つの半直線の上にある(画像の緑の矢印: この矢印の傾きが x4 の偏角であり、 x5 の偏角でもある)。 x4 の逆数 x6 = 1/x4 と x3 の関係も全く同じ。しかも {x5, x6} は、互いに共役の複素数 {x3, x4} のそれぞれの逆数だから、再び共役であり、横軸を挟んで上下の対称の位置にある。

⦅v⦆ {x5, x6} はどちらも実部が −1/2。つまり横座標 −1/2 の点を通る縦線(画像のオレンジの直線)上にある。六つ組に属する共役複素数ペアの一つは、実部 −1/2 ――という事実については、比較的簡単に証明可能だが(定理11)、論理的には根拠のあることでも、なんとなく、魔法のような感じがする…。一つの六つ組の中には、実部 −1/2 の複素数が必ず二つ(1ペア)あるが、ちょうど二つしかない。というのも、六つ組の各根は ω にも ω2 にも等しくない(定理10の系2)。従って、第一に、単位円上の {x1, x2} は ≠ {ω, ω2} なので――言い換えると、偏角 ±120° ではないので――、実部 −1/2 ではない(オレンジの縦線上に乗らない)。第二に、 {x4, x5} は、原点から第2象限の一定方向へ伸びる同じ半直線上にあるので、 −1/2 + 0i を通るオレンジの縦線と交わる機会はちょうど一度しかない。ゆえに {x4, x5} の中に実部 −1/2 のものがあるとしたら、どちらか一方に限られ、両方ともが実部 −1/2 ということは不可能。同じ理由から、 {x3, x6} の中に実部 −1/2 のものがあるとしても、どちらか一方に限られる。要するに、実部 −1/2 の根があるとしたら(実際あるのだが)、 {x4, x5} の一方と、その共役複素数の計2個。

実際には x5, x6 が実部 −1/2 を持つ。 x3 or x4 の実部が −1/2 になるためには、単位円上の点 −x1 or −x2 の実部が +1/2 でなければならない。これは {x1, x2} = {ω, ω2} を含意するが、それは不可能。

† 特殊な可能性として、もしも x4 = x5 が成り立ち、しかもその実部が −1/2 だったら、 x4, x5 の両方が実部 −1/2 を持つ。しかるに、この「もしも」が成り立つためには、 x3 の共役 x4 と、 x3 の逆数 x5 が一致しなければならない。それが起きるのは x3 が ω または ω2 の場合に限られるが、それは不可能(定理10の系2)。

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図解: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置具体例としている画像は E9(x) の六つの根の位置関係を示している。偏角が π の簡単な有理数倍に近い――という発見との関連では、次の通り。

単位円上の根 x1 の方向(赤い矢印)を示す偏角 θ は、
  θ = 140.19991 57487 6995 14095…° = 140°11′59″.696695…
   = 2.44695 01408 34686 86376… [radians]
であり、
  701π/900 = 2.44695 16112 96050 06684…
に近い。 x2 の偏角 −θ についても同様。この事実は、それ自体としては「単なる偶然」としか思えない。

根 x4, x5 の方向(緑の矢印)を示す偏角 η は、
  η = 109.90004 21256 1502 42952…° = 109°54′00″.151652…
   = 1.91811 75831 72449 80658… [radians]
であり、
  1099π/1800 = 1.91811 68479 41768 20503… に近い。 x3, x6 の共通の偏角 −η についても同様。

これも単体なら「偶然」で済ますことは可能だろう。実際、最初にこれに出会ったときには「偶然だろう」と想定した。しかし冒頭で言及した E10(x) および E12(x) の同様の現象を観察すると、 E9(x) の現象は孤立的ではなく、もう少し広い文脈で「意味」があるのではないか――例えば、何らかの無限級数の「ラマヌジャン的」いたずらのような――という印象が生じる。特に、 E12(x) の一つの六つ組において ±θ に当たる角度が 1 の (180 ± 15)° 小数7桁ほどのオーダーで接近し、結果的に、単位円上の {x1, x2} が 1 の原始24乗根 ζ12±1 とほとんど一致することは、「偶然」かもしれないけれど、 n = 12 という設定との関連性も含めて、偶然にしては出来過ぎているとも思われる。

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偶然か否かはさておき、この「発見」は Cauchy–Mirimanoff 多項式 En(x) について、 n が偶数の場合に拡張するとどうなるか?という、興味本位の探究の産物。偏角を radians だけで扱ってたら、気付けなかったかもしれない。

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遊びの数論46』へ続く。

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