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きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。
2024-05-20 標準形3次式の根の n 乗和 奇妙きてれつ15乗和
一般の多項式の根の和・平方和・立方和・4乗和については、一応解決した。5乗和以上の一般論は面倒だが、「2次項のない3次式」の場合、便利な方法がある。次のびっくり15乗和を発見!
cos15 40° + cos15 80° + cos15 160°
= cos3 40° + cos3 80° + cos3 160°
= −3/8
これは「偶然」なのか? 「原始9乗根の対称性が絡む何かが、3乗と15乗でシンクロする?」…とも思ったけど、300乗和までの全数検索によると、この場合、15乗和だけが特別らしい。
⑴ 一般に、3次方程式 x3 + Hx2 + Px + Q = 0 の解が x = a, b, c なら、解と係数の関係から:
a + b + c = −H
ab + bc + ca = P
abc = −Q
以降、2次項のない3次式(つまり H = 0 の場合)だけを考える。そのような3次方程式…
x3 + 0x2 + Px + Q = 0
つまり x3 + Px + Q = 0 《ア》
…を標準形と呼ぶことにしよう。標準形も3次方程式の一種なので、上記「解と係数の関係」に従う。つまり、解が x = a, b, c なら:
a + b + c = −H = −0 = 0 《イ》
ab + bc + ca = P 《ウ》
abc = −Q 《エ》
x3 + Px + Q = 0 の3解の和はゼロ。
〔例1〕 x3 − 19x + 30 = 0 の3解の和は何か。――具体的な解が何かは、一見しただけでは分からない。けれど、解を求めるまでもなく、3解の和がゼロであることは、一見しただけで断言できる。なかなかクール!
仮定により x = a と x = b と x = c は《ア》の3解なので、《ア》を満たす。つまり、次の三つの等式が成立。
《カ・キ・ク》の左辺・右辺をそれぞれ縦に足し合わせると:
整理すると:
a3 + b3 + c3 + P(a + b + c) + 3Q = 0
a + b + c = 0 の場合を考えてるので〔《イ》参照〕、 P(a + b + c) は消滅して:
a3 + b3 + c3 + 3Q = 0 つまり a3 + b3 + c3 = −3Q
標準形3次式 x3 + Px + Q の根が a, b, c なら、それらの立方和は定数項の −3 倍。
a3 + b3 + c3 = −3Q
〔例2〕 x3 − 19x + 30 = 0 の3解の立方和。――具体的な解が何であれにせよ、とにかくそれらの立方和が −90 であることは、一見しただけ明らか(定数項 30 の −3 倍)。これは超クール! 具体的な解は x = 2, 3, −5 なので、確かに:
23 + 33 + (−5)3 = 8 + 27 − 125 = −90
一方、平方和は1次の項の −2 倍。なぜなら《イ・ウ》を使うと:
a2 + b2 + c2 = (a + b + c)2 − 2(ab + bc + ca) = 02 − 2P = −2P
x3 + Px + Q の根が a, b, c なら:
a + b + c = 0 ‥‥①
a2 + b2 + c2 = −2P ‥‥②
a3 + b3 + c3 = −3Q ‥‥③
⑵ 以上の基本を土台に、4乗和・5乗和…の式を容易に導出できる。《カ・キ・ク》を再掲すると:
第1式の両辺を a 倍、第2式の両辺を b 倍、第3式の両辺を c 倍すると:
《ガ・ギ・グ》を縦に足し合わせると:
次の結論に至る。
a4 + b4 + c4 = 2P2 ‥‥④
一般形の3次式 x3 + Hx2 + Px + Q についての Girard の公式:
a4 + b4 + c4
= H4 − 4PH2 + 4QH + 2P2
…その式で H = 0 としても④になるが、 H = 0 に限定するなら、上記の導出は段違いに軽快!
〔例3〕 x3 − 19x + 30 = 0 の3解の4乗和は、 2P2 = 2(−19)2 = 2 × 361 = 722。実際、24 + 34 + (−5)4 = 16 + 81 + 625 = 722(例2参照)。
同じ手法は、
縦に足すと a5 + b5 + c5 + P(a3 + b3 + c3) + Q(a2 + b2 + c2) = 0
③②から a5 + b5 + c5 + P(−3Q) + Q(−2P) = 0
∴ a5 + b5 + c5 = 3PQ + 2PQ = 5PQ ‥‥⑤
同様に、④③を使って:
6乗和 + P(4乗和) + Q(3乗和) = 6乗和 + P(2P2) + Q(−3Q) = 0
∴ a6 + b6 + c6 = −2P3 + 3Q2 ‥‥⑥
⑤④を使って:
7乗和 + P(5乗和) + Q(4乗和) = 7乗和 + P(5PQ) + Q(2P2) = 0
∴ a7 + b7 + c7 = −5P2Q − 2P2Q = −7P2Q ‥‥⑦
⑥⑤を使って:
8乗和 + P(6乗和) + Q(5乗和) = 8乗和 + P(−2P3 + 3Q2) + Q(5PQ)
= 8乗和 − 2P4 + 3PQ2 + 5PQ2 = 8乗和 − 2P4 + 8PQ2 = 0
∴ a8 + b8 + c8 = 2P4 − 8PQ2 ‥‥⑧
一般に、4 以上の n について、n 乗和 = −P(n−2 乗和) − Q(n−3 乗和) となる。
〔補足〕 n = 4 の場合: 根の2乗和は −2P、根の1乗和は 0 だから、4乗和は −P(−2P) − Q(0) = 2P2。 n = 5 の場合: 3乗和は −3Q、2乗和は −2P だから、5乗和は −P(−3Q) − Q(−2P) = 5PQ。等々。この漸化式は、実は n = 3 に対しても有効: 0乗和は a0 + b0 + c0 = 1 + 1 + 1 = 3 なので、 −P(1乗和) − Q(0乗和) = −P(0) − Q(3) = −3Q。さらに n = 2 に対しても有効: −1乗和 = 1/a + 1/b + 1/c = (bc + ca + ab)/(abc) = P/(−Q) なので〔《ウ・エ》参照〕、 −P(0乗和) − Q(−1乗和) = −P(3) − Q(−P/Q) = −3P + P = −2P。実用性はともかく、興味深い。ところで「漸化式」の「漸」はゼンと読まれる(「漸次・漸進的・漸近線」も同様)。形成文字の音符、つまり「さんずい」の右側にあるのは「斬」(ザン)なのに――「斬新・斬首」などで使われる――、少々紛らわしい。
問題1 cos4 20° + cos4 40° + cos4 60° + cos4 80° を求める。
これを最初に例題として取り上げたときは Girard の公式を使って解決した。別解として「平方和としての4乗和」というトリックも紹介した。ここでは標準形3次式を利用して軽快に処理する。参考として、多倍角の公式経由の別の解法を後述する。
解法 次の3次式の根は a = cos 160° = −cos 20°, b = cos 40°, c = cos 80° であり、 cos 160° = −cos 20° なので、 cos 20° の偶数乗は a = cos 160° の偶数乗に等しい。
x3 − (3/4)x + 1/8 = 0
よって④から、4乗和 = 2(−3/4)2 = 9/8。 cos4 60° = (1/2)4 = 1/16 を足すと、答えは 19/16。瞬殺!w
問題2 cos6 20° + cos6 40° + cos6 60° + cos6 80° を求める。
解法 問題1と同様に、⑥から:
cos6 20° + cos6 40° + cos6 80°
= −2(−3/4)3 + 3(1/8)2 = 57/64
これに cos6 60° = (1/2)6 = 1/64 を足すと、答えは 29/32。
Morrie 風の6乗和(4項) cos6 20° + cos6 40° + cos6 60° + cos6 80° = 29/32
問題3 cos8 20° + cos8 40° + cos8 60° + cos8 80° を求める。
解法 問題1・問題2と同様。⑧から 2(−3/4)4 − 8(−3/4)(1/8)2 = 93/128 を得て、(1/2)8 = 1/256 を足すと、答えは 187/256。この8乗和は既に「平方和としての4乗和」で取り上げた。
ついでに参考として、⑤⑦から:
cos5 40° + cos5 80° + cos5 160° = 5(−3/4)(1/8) = −15/32
cos7 40° + cos7 80° + cos7 160° = −7(−3/4)2(1/8) = −63/128
問題4 cos3 40° + cos3 80° + cos3 160° = cos15 40° + cos15 80° + cos15 160° を示す。
解法 左辺の3乗和は −3Q = −3(1/8) = −3/8 に過ぎないが、右辺の15乗和に驚く。末尾付録1の n = 15 の式を使うと†:
−3Q5 + 50P3Q3 − 15P6Q
= −3(1/8)5 + 50(−3/4)3(1/8)3 − 15(−3/4)6(1/8) = −3/8
びっくり15乗和 cos15 40° + cos15 80° + cos15 160° = cos3 40° + cos3 80° + cos3 160° = −3/8
† −3/215 − 50⋅33/215 − 15⋅36/215
= [−3 − 33(50 + 15⋅33)]/215
= [−3 − 33(50 + 5⋅34)]/215
= [−3 − 33(50 + 5⋅81)]/215
= [−3 − 33(455)]/215
= [−3 − 3(9⋅455)]/215
= [−3 − 3(4095)]/215
= −3(4096)/215
= −3(212)/215
= −3/23
無意味に余弦を15乗して足してみる「ばか」だけが、見ることのできる神秘の世界w
3乗・4乗くらいならともかく15乗って…。面白い発見には違いないが、ほぼ何の役にも立たないであろう!
付録1 標準形3次式の根の1乗和~20乗和
a^n + b^n + c^n, where a, b, c are the roots of x^3 + P*x + Q n = 1 : 0 n = 2 : -2*P n = 3 : -3*Q n = 4 : 2*P^2 n = 5 : 5*P*Q n = 6 : 3*Q^2 - 2*P^3 n = 7 : -7*P^2*Q n = 8 : -8*P*Q^2 + 2*P^4 n = 9 : -3*Q^3 + 9*P^3*Q n = 10 : 15*P^2*Q^2 - 2*P^5 n = 11 : 11*P*Q^3 - 11*P^4*Q n = 12 : 3*Q^4 - 24*P^3*Q^2 + 2*P^6 n = 13 : -26*P^2*Q^3 + 13*P^5*Q n = 14 : -14*P*Q^4 + 35*P^4*Q^2 - 2*P^7 n = 15 : -3*Q^5 + 50*P^3*Q^3 - 15*P^6*Q n = 16 : 40*P^2*Q^4 - 48*P^5*Q^2 + 2*P^8 n = 17 : 17*P*Q^5 - 85*P^4*Q^3 + 17*P^7*Q n = 18 : 3*Q^6 - 90*P^3*Q^4 + 63*P^6*Q^2 - 2*P^9 n = 19 : -57*P^2*Q^5 + 133*P^5*Q^3 - 19*P^8*Q n = 20 : -20*P*Q^6 + 175*P^4*Q^4 - 80*P^7*Q^2 + 2*P^10 \\ Generated by PARI/GP P = varlower("P", 'Q); vec = Vec( [0, -2*P, -3*Q], 20 ); for( n=4, #vec, vec[n] = -P*vec[n-2] - Q*vec[n-3] ) for( n=1, #vec, print( "n = ", n, " : ", vec[n] ) )
〔参考文献〕 Smith, Charles: A treatise on algebra (5th ed.), pp. 124–125
https://archive.org/details/londonalgebra00smitrich/page/124/mode/2up
2024-05-21 20°, 40°, 60°, 80° の sec の4乗和 および cos の4乗和
sec θ = 1/(cos θ) は余弦の逆数。
整数 sec4 (π/9) + sec4 (2π/9) + sec4 (3π/9) + sec4 (4π/9) を求める三つの方法。
sec 60° = 2 は分かり切ってるので和から外し、3次式に帰着させるのが省力的。いつものように、
t3 − (3/4)t + 1/8 《タ》
…の根が −cos 20°, cos 40°, cos 80° であることを利用する。逆数を根とする3次式を作ることは、易しい:
z3 − 6z2 + 8 《チ》
…の根は −sec 20°, sec 40°, sec 80° となる。
《チ》は2次項を持つので、Girard の公式を使うか(第一案)、あるいは「平方和としての4乗和」のトリック(第二案)を使う必要がありそうだ。
第一案。 Girard の公式によると、《チ》の根の4乗和は、A = 6, B = 0, C = −8 として A4 − 4A2B + 4AC + 2B2 に等しい:
sec4 20° + sec4 40° + sec4 80° = 64 + 4⋅6⋅(−8) = 1296 − 192 = 1104
これに sec4 60° = 24 = 16 を足せば、直ちに答え 1120 を得る。
根の4乗和の公式が必要だが、恐らくこの方法が最速。
第二案。《チ》の根を仮に a, b, c と呼ぶと −a, −b, −c を根とする3次式は何か? 根と係数の初歩によれば、それは…
z3 + 6z2 − 8 《ツ》
…であり、従って《チ・ツ》の積…
(z3 − 6z2 + 8)(z3 + 6z2 − 8) = (z3)2 − (6z2 − 8)2
= z6 − (36z4 − 96z2 + 64)
…の根は z = a, b, c; −a, −b, −c ――要するに z = ±sec 20°, ±sec 40°, ±sec 80° の六つ。 y = z2 と置くと:
y3 − 36y2 + 96y − 64 《テ》
…の根は a2, b2, c2 つまり sec2 20°, sec2 40°, sec2 80° となる。 A = a2, B = b2, C = c2 と置くと、《テ》の根と係数の関係から:
A + B + C = 36, AB + BC + CA = 96
∴ A2 + B2 + C2 = (A + B + C)2 − 2(AB + BC + CA)
= 362 − 2 × 96 = 1296 − 192 = 1104
A2 + B2 + C2 = a4 + b4 + c4 = sec4 20° + sec4 40° + sec4 80° = 1104、後は第一案と同じ。
20°, 40°, 80° は、符号を別にすれば 120° 間隔で、それらの cos は 1 の原始9乗根(六つあるうちの三つ)の実部に対応する。よって《タ》のような3次式に関連付けるのは自然な発想だが、もしもそのアイデアが浮かばなかったら…?
第三案。 θ が π/9 の倍数(つまり 20° の倍数)なら、 9θ は π の倍数(つまり 180° の倍数)だから sin 9θ = 0 となる。この状況について、9倍角の公式の一種を使うと、
sin 9θ = sin θ × [(cos θ) の8次式] = 0 《ト》
…と書くことができる; 360° の倍数の違いを無視すると θ = 0°, ±20°, ±40°, …, ±160°, 180° の18種の角度が《ト》を満たすが、対応する sin θ の値は、半分の9種類しかない。なぜなら sin 0° = sin 180°, sin 20° = sin 160°, sin (−20°) = sin (−160°) 等々。
上記18種の角 θ に対し《ト》左辺はゼロ; それに等しい《ト》右辺も当然ゼロ。一番単純なのは θ = 0° or 180° のときで、そのとき sin θ = 0 なので、《ト》右辺は明らかにゼロになる。一方、18種の角度のうち、それ以外の16種(±20°, ±40°, …, ±160°)に対しては sin θ ≠ 0 なので、《ト》右辺がゼロになるためには [(cos θ) の8次式] がゼロにならねばならない。
θ = ±20°, ±40°, …, ±160° に対し [(cos θ) の8次式] = 0
この8次式の根は、角 θ でいえば16種; 実際には cos 20° = cos (−20°), cos 40° = cos (−40°) 等々なので、 cos θ の値でいえば、ちょうど8種(8次式が 8 個の解を持つというのは、つじつまが合っている)。
上記8次式: 根は cos 20°, cos 40°, …, cos 140°, cos 160° の八つ
しかも cos 160°, cos 140°, cos 120°, cos 100° は、それぞれ正の数 cos 20°, cos 40°, cos 60°, cos 80° の符号を変えたものなので(例: cos 160° = −cos 20°)、符号の違いを無視するなら――別の言い方をすると cos θ の代わりに x = cos2 θ を考えるなら――、根は4種類しかない。
上記8次式: x の4次式に書き換えれば、その根は cos2 20°, cos2 40°, cos2 60°, cos2 80° の四つ
よって A = cos2 20°, B = cos2 40°, C = cos2 60°, D = cos2 80° の四つの根を持つ4次式を構成できれば、根と係数の関係から、根の和 A + B + C + D や平方和、あるいは逆数の和や逆数の平方和を確定できる。この場合、A = cos2 θ の逆数は sec2 20°、 B の逆数は sec2 40° 等々だから、 A, B, C, D の逆数の平方和 = sec4 20° + sec4 40° + sec4 60° + sec4 80° となる。
以上を実践するには: (i) sin 9θ を《ト》の形で表し cos θ についての8次式を得てから、 x = cos2 θ と置いて x についての4次式を作る; (ii) その4次式に対し、解(の逆数)と係数の関係を適用。手間さえ惜しまなければ、単純な機械的計算。
第三案の実践。出発点となる sin の9倍角の式を高速生成。 cos θ, sin θ をそれぞれ c, s と略すと…
sin 1θ = sin θ = s ←当たり前
sin 2θ = 2 sin θ cos θ = 2sc ←倍角の公式
3倍角以降を作るには、一つ前の公式を 2c 倍して二つ前の公式を引けばいい:
sin 3θ = (sin 2θ) × 2c − (sin 1θ) = (2cs)2c − s = s(4c2 − 1)
sin 4θ = (sin 3θ) × 2c − (sin 2θ) = [s(4c2 − 1)]2c − 2sc = s(8c3 − 4c)
sin 5θ = (sin 4θ) × 2c − (sin 3θ) = [s(8c3 − 4c)]2c − s(4c2 − 1)
= s(16c4 − 8c2 − 4c2 + 1) = s(16c4 − 12c2 + 1)
この5倍角は、別の機会にも導いた。同様に続けると…
sin 6θ = [s(16c4 − 12c2 + 1)]2c − s(8c3 − 4c)
= s(32c5 − 24c3 + 2c − 8c3 + 4c) = s(32c5 − 32c3 + 6c)
sin 7θ = [s(32c5 − 32c3 + 6c)]2c − s(16c4 − 12c2 + 1)
= s(64c6 − 64c4 + 12c2 − 16c4 + 12c2 − 1)
= s(64c6 − 80c4 + 24c2 − 1)
原理の説明のため、途中計算を明記したが、実際には「一つ前の 2c 倍」を一気に暗算した方が手間が省ける――次のように係数が2倍、c の指数がプラス1。
sin 8θ = s(128c7 − 160c5 + 48c3 − 2c) − s(32c5 − 32c3 + 6c)
= s(128c7 − 192c5 + 80c3 − 8c)
sin 9θ = s(256c8 − 384c6 + 160c4 − 16c2) − s(64c6 − 80c4 + 24c2 − 1)
= s(256c8 − 448c6 + 240c4 − 40c2 + 1)
これで《ト》形式の sin の9倍角が得られた。速記 c, s を元に戻すと:
sin 9θ = sin θ (256 cos8 θ − 448 cos6 θ + 240 cos4 θ − 40 cos2 θ + 1)
従って、前述の (cos θ) の8次式は:
256 cos8 θ − 448 cos6 θ + 240 cos4 θ − 40 cos2 θ + 1
x = cos2 θ と置くと:
256x4 − 448x3 + 240x2 − 40x + 1 《ナ》
《ナ》の根は、前述の通り A = cos2 20°, B = cos2 40°, C = cos2 60°, D = cos2 80° で、係数の関係から:
A + B + C + D = 448/256 ‥‥①
AB + AC + AD + BC + BD + CD = 240/256 ‥‥②
ABC + BCD + CDA + DAB = 40/256 ‥‥③
ABCD = 1/256 ‥‥④
①~④を組み合わせて、逆数の平方和を表現する。分数の足し算なので、とりあえず通分:
1/A2
+ 1/B2
+ 1/C2
+ 1/D2
=
(B2C2D2 + C2D2A2 + D2A2B2 + A2B2C2)/(A2B2C2D2)
= [(ABC)2 + (BCD)2 + (CDA)2 + (DAB)2]/(ABCD)2 《ニ》
《ニ》の分子は(三つずつの積の)平方和。平方和を作るには、和の平方…
(ABC + BCD + CDA + DAB)2 = (③)2
…から、過剰な項…
2(ABC⋅BCD + ABC⋅CDA + ABC⋅DAB + BCD⋅CDA + BCD⋅DAB + CDA⋅DAB)
= 2(ABCD)(BC + AC + AB + CD + BD + AD) = 2(④)(②)
…を引けばいい。つまり《ニ》の分子は:
(40/256)2 − 2(1/256)(240/256) = (1600 − 480)/2562 = 1120/2562 《ヌ》
《ニ》の分母は (④)2 = 1/2562 なので、分数《ニ》は次の通り。
《ヌ》 ÷ (1/2562) = 1120/2562 × 2562 = 1120
これが答え(根の逆数の平方和)。
第一案・第二案と比べ、第三案は面倒くさい。《ナ》が有理数の根 C = cos2 60° = 1/4 を持つのに、それを分離しないこと(本来3次式で済むのに4次式として扱うこと)は、非効率かもしれない。けれど、四つの根の一括処理には、気持ちのいい面もある。
対となる cos4 (π/9) + cos4 (2π/9) + cos4 (3π/9) + cos4 (4π/9) = 19/16 について。
第一案と平行的な方法を既に記した。この場合、3次式が標準形なので、その根の4乗和は単に 2P2 = 2(−3/4)2 = 18/16 となり(P: 1次の係数)、そこに cos4 60° = 1/16 を足せばいい(参考リンク)。第二案と平行的な方法も既述。第三案と平行的な方法は、《ナ》の根の平方和:
(A + B + C + D)2 − 2(AB + AC + AD + BC + BD + CD)
= (①)2 − 2(②) = (448/256)2 − 2(240/256)
= (7/4)2 − 2(15/16) = (49 − 30)/16 = 19/16
正17角形の話題について Hobson の著書を参照したとき、たまたま隣のページ†に載っていて興味を引いた例題が、この「20°, 40°, 60°, 80° の cos の4乗和 19/16 と sec の4乗和 1120」の導出。もともと多倍角関連の例題で、 Hobson 自身の解法は9倍角経由の面倒なもの。多倍角の利用にこだわらなければ、別解(第一案・第二案)の方が、エレガントだろう。とはいえ、第三案は応用の利く手法を含み、考える価値がある: cos 中心の sin の多倍角の公式…
sin nθ = sin θ × [(cos θ) の式]
…は使い道が多いし、「逆数の2乗和」を基本対称式で表す方法は面白い。
† https://archive.org/details/treatiseonplanet0000ewho/page/110/mode/1up
付録2 sin の多倍角の公式(cos 中心型)
\\ s = sin t, c = cos t sin 1t = s sin 2t = 2*c*s sin 3t = (4*c^2 - 1)*s sin 4t = (8*c^3 - 4*c)*s sin 5t = (16*c^4 - 12*c^2 + 1)*s sin 6t = (32*c^5 - 32*c^3 + 6*c)*s sin 7t = (64*c^6 - 80*c^4 + 24*c^2 - 1)*s sin 8t = (128*c^7 - 192*c^5 + 80*c^3 - 8*c)*s sin 9t = (256*c^8 - 448*c^6 + 240*c^4 - 40*c^2 + 1)*s sin 10t = (512*c^9 - 1024*c^7 + 672*c^5 - 160*c^3 + 10*c)*s sin 11t = (1024*c^10 - 2304*c^8 + 1792*c^6 - 560*c^4 + 60*c^2 - 1)*s sin 12t = (2048*c^11 - 5120*c^9 + 4608*c^7 - 1792*c^5 + 280*c^3 - 12*c)*s sin 13t = (4096*c^12 - 11264*c^10 + 11520*c^8 - 5376*c^6 + 1120*c^4 - 84*c^2 + 1)*s \\ Generated by PARI/GP c = varlower("c", 's); vec = Vec( [s, 2*s*c], 13 ); for( n = 3, #vec, vec[n] = vec[n-1]*2*c - vec[n-2] ) for( n = 1, #vec, print( "sin ", n, "t = ", vec[n] ) )
2024-05-24 sin 9倍角について 20°, 40°, 60°, 80° への追記
ゴチャゴチャした9倍角の式には、整然とした構造が秘められている。
f(θ) = sin 9θ = sin θ (256 cos8 θ − 448 cos6 θ + 240 cos4 θ − 40 cos2 θ + 1) について。
x = cos2 θ と置くと:
256x4 − 448x3 + 240x2 − 40x + 1
これはゴチャゴチャしている。一方、 t = cos θ と置くと:
sin 9θ = sin θ (2t + 1)(2t − 1)(8t3 − 6t + 1)(8t3 − 6t − 1)
あるいは、さらに z = 2t と置くと:
sin 9θ = sin θ (z + 1)(z − 1)(z3 − 3z + 1)(z3 − 3z − 1)
この最後の分解は美しい。 Cardano の公式を考えると、 cos 40° や cos 20° の根号表現までが透けて見える。
この分解についての一つの観点は、もともとの f(θ) が sin 9θ であるという「式の意味」を利用するもの; 内容的な考察が必要な半面、見通しが良い。もう一つの観点は、正体不明の8次式 256t8 − 448t6 + 240t4 − 40t2 + 1 が与えられたとして、何も考えずに単に代数的に処理するもの。先に第一の観点から記す。
【1】 θ = ±60° or ±120° に対して f(θ) = 0 だが、そのとき sin θ ≠ 0 なので、他方の因子…
256 cos8 θ − 448 cos6 θ + 240 cos4 θ − 40 cos2 θ + 1 = 256 t8 − 448t6 + 240t4 − 40t2 θ + 1
…がゼロにならねばならない。 θ = ±60° or ±120° のとき t = cos θ = ±1/2 なので、この8次式は t − 1/2 と t + 1/2 という因子を持つ。言い換えれば 2t − 1 と 2t + 1 という因子を持ち、この8次式は (2t − 1)(2t + 1) = 4t2 − 1 で割り切れる。
x = t2 = cos2 θ と書くと、要するに 256x4 − 448x3 + 240x2 − 40x + 1 が 4x − 1 で割り切れる。
64x^3 - 96x^2 + 36x - 1 ┌──────────────────────────────────── 4x - 1 │ 256x^4 - 448x^3 + 240x^2 - 40x + 1 256x^4 - 64x^3 ─────────────── -384x^3 + 240x^2 -384x^3 + 96x^2 ──────────────── 144x^2 - 40x 144x^2 - 36x ──────────── -4x + 1 -4x + 1 ─────── 0
この商をいったん 64 で割るとともに x を t2 に戻すと:
t6 − (3/2)t4 + (9/16)t − 1/64 これを g(t) とする
実は g(t) は、ジラルの公式・その5で考察した y の式と同じ。そこでは、二つの3次式の積としてこれを構成したが、以下では逆に、この6次式を二つの3次式に分解することを考える。
【2】 f(θ) の性質から、 θ = ±20°, ±40°, ±80°, ±100°, ±140°, ±160° のとき、 f(θ) の因子 g(t) はゼロになる。その本質は単純で、20° (= π/9) の整数倍の角度を 9 倍すると、 180° (= π) の整数倍の角度になる(当たり前)。だから、上記のような θ に対して sin 9θ = 0」というだけ。
注意点。第一に、 g(t) 自体は sin θ についての式ではなく、 t = cos θ についての式。第二に、 θ = ±60° or ±120° も f の零点だが、それに対応する因子は、上記の割り算で 4t2 − 1 = (2t + 1)(2t − 1) として分離済み。第三に、これらの θ に対応する sin θ や cos θ の中には、値の重複がある。例えば sin 20° = sin 160° だし cos 20° = cos (−20°) である。そのため「12種の θ のそれぞれに対応して g(t) が12種の根 t = cos θ を持つ」ということにはならず、重複を排除すると g(t) の根は、 t = cos 20°, cos 40°, cos 80°; cos 100°, cos 140°, cos 160° のちょうど六つに等しい。そのうち前半の三つと後半の三つは、絶対値が同じで符号が反対:
−β = cos 20° = 0.9396… β = cos 160° = −0.9396…
α = cos 40° = 0.7660… −α = cos 140° = −0.7660…
γ = cos 80° = cos (−80°) = 0.1736… −γ = cos 100° = cos (−100°) = −0.1736…
多少のひらめきが必要かもしれないが(あるいは明白と感じられるかもしれないが)、これら6種の cos θ の値を「120° 間隔の偏角に対応する3種の cos の値」のトリオ2組と見ることができる。一つのトリオを cos 40° と cos 160° と cos (−80°) = cos 80° とすれば(40° とそれ ±120° の cos)、もう一つのトリオは cos 20° と cos 140° と cos (−100°) = cos 100° である(20° とそれ ±120° の cos)†。ゆえに g(t) は、「2次項のない3次式」二つの積に分解可能; しかも二つの3次式は、絶対値が同じで符号が反対の根を持つ。一方の3次式の根を α, β, γ とすれば、他方の3次式の根は −α, −β, −γ。根と係数の関係から、一方の3次式を t3 + Pt + Q とすると、他方の3次式は t3 + Pt − Q となる。結局 g(t) は、
(t3 + Pt + Q)(t3 + Pt − Q)
…と分解可能。これは和・差の積なので:
= (t3 + Pt)2 − Q2 = t6 + 2Pt4 + P2t2 − Q2
上記の6次式の形を g(t) = t6 − (3/2)t4 + (9/16)t − 1/64 と比較すると、 P = −3/4, Q = 1/8 であることが分かる。すなわち:
g(t) = t6 − (3/2)t4 + (9/16)t − 1/64 = [t3 − (3/4)t + 1/8][t3 − (3/4)t − 1/8]
この g(t) は、本来の因子を 64 で割ったものなので、上記の二つの [ ] 内をそれぞれ 8 倍すれば、本来の因子となる:
64x3 − 96x2 + 36x − 1 = 64t6 − 96t4 + 36t2 − 1
= (8t3 − 6t + 1)(8t3 − 6t − 1)
† これらは 1 の原始18乗根(12種)の、6種の相異なる実部。
【3】 結局 f(θ) = sin 9θ = sin θ (256 cos8 θ − 448 cos6 θ + 240 cos4 θ − 40 cos2 θ + 1) の丸かっこ内の8次式は、 t = cos θ と書くと、
(2t + 1)(2t − 1)(8t3 − 6t + 1)(8t3 − 6t − 1)
…と分解される。四つの因子のうち、 2t + 1 と 2t − 1 の根 −1/2, +1/2 は、それぞれ cos 120° と cos 60° に当たる。残りの二つの因子(3次式)は、どちらも三つの実数の根を持つが、一方は定数項が正、他方は定数項が負なので、前者の3根の積は負、後者の3根の積は正。従って、前者は正の根を二つ・負の根を一つ持ち、後者は正の根を一つ・負の根を二つ持つ。【2】の表記法を使えば:
8t3 − 6t + 1 の根は α, β, γ つまり 40°, 160°, 80° の cos
8t3 − 6t − 1 の根は −α, −β, −γ つまり 140°, 20°, 100° の cos
ところで、この第一の3次式の根と係数の関係から、
αβγ = cos 40° cos 160° cos 80° = −1/8
…が成り立つ。 cos 160° = −cos 20° なので、この積の cos 160° をそのように置き換え、両辺を −1 で割ると:
cos 20° cos 40° cos 80° = 1/8
これは Morrie の法則である!
cos 20°, cos 40°, cos 60°, cos 80° の四つに関連する問題は、多くの場合 cos 60° = 1/2 を別扱いすれば、簡単な3次式の問題に帰着する。実際 8t3 − 6t + 1 = 0 の両辺を 8 で割れば、見慣れた3次方程式になる:
t3 − (3/4)t + 1/8 = 0
【4】 以上の分解のロジックは、「9倍角の式」という f の内容に依存していた。この8次の因子の正体を知らない(あるいは利用しない)で分解を行うなら、次の通り。 256t8 − 448t6 + 240t4 − 40t2 + 1 が与えられたとして、 x = t2 と置くと:
F(x) = 256x4 − 448x3 + 240x2 − 40x + 1
最初の観点では、「この x が実は cos2 θ であること」、そして「θ が 20° の整数倍のとき F(x) = 0 になること」を根拠に、 t = cos 60° = 1/2 に対応する零点 x = t2 = 1/4 を見つけることができ、因子 x − 1/4 つまり 4x − 1 が判明した。
そのような情報がない場合(あるいはあっても使わない場合)、まず有理数の根の有無を確かめるべきだろう。最高次の係数を 1 にするため F(x) = 0 の両辺を 256 で割って、
x4 − (7/4)x3 + (15/16)x2 − (5/32)x + 1/256
…として、次に分数を解消するため x = y/4 と置いて両辺を 44 倍すると――あるいは同じことだが、F(x) で直接 x = y/4 と置くと――、次の4次式を得る。
y4 − 7y3 + 15y2 − 10y + 1
この4次式が整数の根を持つとしたら、それは定数項の約数、すなわち y = 1 or −1 でなければならない。 y = 1 が零点であることは、簡単に直接確認できる(y が負だと全部の項が正なので、y = −1 は根ではない)。よって、この4次式は y − 1 で割り切れる。筆算の割り算を実行すると:
y4 − 7y3 + 15y2 − 10y + 1 = (y − 1)(y3 − 6y2 + 9y − 1)
変数の相互関係は y/4 = x = t2 なので y = 4t2 となる。 z = 2t と置けば y = (2t)2 = z2。従って、一方において:
y − 1 = z2 − 1 = (z + 1)(z − 1)
他方において:
y3 − 6y2 + 9y − 1 = z6 − 6z4 + 9z2 − 1
= (z3 − 3z)2 − 12
= (z3 − 3z + 1)(z3 − 3z − 1)
この最後の因数分解は少しトリッキーだが、次のように整理できる。
奇数次の項のない6次式を見たら: 「4次の係数の半分」の自乗が「2次の係数」に等しくないか? もし等しいなら「2次項のない3次式」のペアへの分解が、名案かも。
X6 + 2pX4 + p2X2 − q2
= (X3 + pX)2 − q2
= (X3 + pX + q)(X3 + pX − q)
結論として z = 2t つまり t = z/2 と置くと:
256t8 − 448t6 + 240t4 − 40t2 + 1
= (z + 1)(z − 1)(z3 − 3z + 1)(z3 − 3z − 1)
あるいは変数を元に戻すなら:
= (2t + 1)(2t − 1)(8t3 − 6t + 1)(8t3 − 6t − 1)
【5】 ついでに cos 20°, cos 40°, cos 80° の根号表現を求めてみたい。【2】で見たように、 20° の倍数(ただし 60° の倍数を除く)の角度の cos は、符号の違いを別にすると3種類しかない; 8t3 − 6t + 1 の根の主値が α = cos 40° で、 8t3 − 6t − 1 の根の主値が −β = cos 20° だが、それぞれ z3 − 3z + 1 と z3 − 3z − 1 の根の主値を 2 で割ったもの。一つ目の3次式の根(主値)は、2次方程式…
w2 + w + 1 = 0
…の2解 w = (−1 ± √−3)/2 それぞれの立方根(主値)の和。分子・分母を 4 倍してから、立方根を求めると:
z = 3√[(−1 + √)/2] + 3√[(−1 − √)/2]
= [3√(−4 + 4√) + 3√(−4 − 4√)]/2
従って:
cos 40° = 3√[(−1 + √)/16] + 3√[(−1 − √)/16]
= [3√(−4 + 4√) + 3√(−4 − 4√)]/4
この計算の真意は、次の通り。 1 の原始立方根の主値†を ω = (−1 + √−3)/2 とすると、
3√ω = [3√(−4 + 4√)]/2
= 0.766044443118… + (0.642787609686…)i
…は、立方根の立方根、すなわち 1 の原始9乗根の主値。そこから実部を取り出すには、共役複素数と足し合わせて 2 で割ればいい。
同様に z3 − 3z − 1 の根を求めるには、
w2 − w + 1 = 0
…の2解 w = (1 ± √−3)/2 それぞれの立方根の和を求めればいい。 1 の原始6乗根の主値†を σ = (1 + √−3)/2 とすると、
3√σ = [3√(4 + 4√)]/2
= 0.939692620785… + (0.342020143325…)i
…は、6乗根の立方根、すなわち 1 の原始18乗根の主値。そこから実部を取り出すと:
cos 20° = 3√[(1 + √)/16] + 3√[(1 − √)/16]
= [3√(4 + 4√) + 3√(4 − 4√)]/4
最後に、 1 の原始12乗根の主値†を δ = (√3 + i)/2 とすると、
3√δ = [3√(4√ + 4i)]/2
= 0.984807753012… + (0.173648177666…)i
…は、12乗根の立方根、すなわち 1 の原始36乗根の主値。そこから実部・虚部を取り出すと:
cos 10° = sin 80° = 3√[(√ + i)/16] + 3√[(√ − i)/16]
= 1/2[3√[(√ + i)/2] + 3√[(√ − i)/2]]
= [3√(4√ + 4i) + 3√(4√ − 4i)]/4
sin 10° = cos 80° = [3√[(√ − i)/16] − 3√[(√ + i)/16]]i
= i/2[3√[(√ − i)/2] − 3√[(√ + i)/2]]
= [3√(4√ + 4i) − 3√(4√ − 4i)]/4i
4 cos 10° + √3 は tan 80° に等しい。
† ω = cos 120° + i sin 120°; σ = cos 60° + i sin 60°; δ = cos 30° + i sin 30° と整理できる。
2024-05-22 きょうの珍品 3乗和 = 1乗和
cos3 (2π/13) + cos3 (6π/13) + cos3 (8π/13) = cos (2π/13) + cos (6π/13) + cos (8π/13) = (−1 + √13)/4
ζ = cos (2π/13) + i sin (2π/13) と置くなら、 ζ + ζ3 + ζ4 の実部と (ζ)3 + (ζ3)3 + (ζ4)3 の実部が等しいことは明らか。同様の観点から、上記 cos の式も、簡単に説明がつきそうに思えるのだが…。挙動の明確な ζn の3乗ではなく ζn の「実部」の3乗。第一印象ほど明らかでもない?
2π/13 を T と略す。 cos T, cos 3T, cos 4T がそれぞれ ζ, ζ3, ζ4 の実部と等しいことは論をまたない。 (ζ)3, (ζ3)3, (ζ4)3 つまり ζ3, ζ9, ζ12 の実部がそれぞれ cos 3T, cos 4T, cos T と等しいことも明白。よって、それらの和が一致することは当たり前なのだが、冒頭の式は、それとは別の現象のようだ。実際 cos T は ζ の実部だが、 (cos T)3 は (ζ)3 の実部とは一致しない。
何が起きているのかはともかく、等式が成り立つこと自体は、容易に確かめられる。
証明 3倍角の公式 cos 3θ = 4 cos3 θ − 3 cos θ を変形して、恒等式 cos3 θ = (cos 3θ + 3 cos θ)/4 を得る†。それを使うと:
cos3 T + cos3 3T + cos3 4T = (cos 3T + 3 cos T)/4 + (cos 9T + 3 cos 3T)/4 + (cos 12T + 3 cos 4T)/4
= (cos 3T + 3 cos T)/4 + (cos 4T + 3 cos 3T)/4 + (cos T + 3 cos 4T)/4 = cos T + cos 3T + cos 4T
なぜなら cos 9T = cos 4T, cos 12T = cos T。
一方、cos T + cos 3T + cos 4T = (−1 + √13)/4 という関係は、それを根とする2次式に基づく。∎
† あるいは積→和の公式から: cos3 θ = cos θ (cos θ cos θ) = cos θ (cos 2θ + cos 0)/2 = (cos θ cos 2θ + cos θ)/2 = [(cos 3θ + cos θ)/2 + cos θ]/2 = (cos 3θ + 3 cos θ)/4。
別解 cos T, cos 3T, cos 4T は、次の3次式の根:
t3 + [(1 − √13)/4]t2 − (1/4)t + (−3 + √13)/16
根と係数の関係を利用して、
A = cos T + cos 3T + cos 4T = (−1 + √13)/4
B = cos T cos 3T + cos 3T cos 4T + cos 4T cos T = −1/4
C = cos T cos 3T cos 4T = (3 − √13)/16
…と置くと、Girard の公式から:
cos3 T + cos3 3T + cos3 4T
= A3 − 3AB + 3C = (−1 + √13)/4 となる。∎
〔補足〕 A3 − 3AB + 3C の計算。 √13 を h と略すと A3 の分子は:
−1 + 3h − 3h2 + h3 = −1 + 3h − 3⋅13 + 13h = −40 + 16h。
A3 の分母は 64 なので 8 で約分して A3 = (−5 + 2h)/8。
−3AB + 3C = (−3 + 3h)/16 + (9 − 3h)/16 = 6/16 = 3/8 をそれに足すと (−2 + 2h)/8 = (−1 + h)/4。
同様に、次が成り立つ。
cos3 (4π/13) + cos3 (10π/13) + cos3 (12π/13)
= cos (4π/13) + cos (10π/13) + cos (12π/13)
= (−1 − √13)/4
両方を足し合わせると:
cos3 (2π/13) + cos3 (4π/13) + … + cos3 (12π/13) = −1/2
cos の3次式について、「根の和」と「根の3乗和」が等しい――というのは、何かありそう。「根の3乗和」と「根の15乗和」が一致するケースとも、関連性がある?
原始根 ζn そのものなら比較的扱いやすいのだろうけど、実部だけを取り出して操作している。実部は (ζn + ζ−n)/2 なので…そういうことか!!
2024-05-26 20° の狂気と秩序 madness, yet there is method
長さ 1 の斜辺が、底辺と 20° の角を成す直角三角形――。人は、その底辺の長さをコサイン 20° と呼ぶ。
cos 20° = 0.93969 26207…
そんな無理数を3乗したり15乗したりすることに、何の意味があるというのか。一体われわれは、なぜこの数を15乗したのか…。だが、しかしッ!
cos3 20° − cos3 40° − cos3 80° = cos15 20° − cos15 40° − cos15 80° = 3/8
何という奇妙な等式だろう! この等式は、いわば狂気である。美しい狂気である。その狂気には、秩序がある…
【1】 cos 20° = −cos 160° なので、次の三つの式は同じ意味。
cos3 20° − cos3 40° − cos3 80° = 3/8
(−cos 160°)3 − cos3 40° − cos3 80° = 3/8
両辺を −1 倍すれば cos3 40° + cos3 80° + cos3 160° = −3/8 《ハ》
Morrie の法則との関連でこの「3乗」の式を導いたときには、普通にちょっと面白いかな…という程度の感覚だった。数カ月後、この「3乗」を「15乗」に変えても式の値が変わらないことを発見したとき、強い印象を受け、「びっくり15乗和」と呼んだ。「これは偶然なのか」という疑問を抱いた。
数日後、今後は「1乗」を「3乗」に変えても式の値が変わらない――という事例を発見。その式は (360/13)° を T として、次の形を持つ:
cos T + cos 2T + cos 4T = cos3 T + cos3 2T + cos3 4T 《ヒ》
cos 3T + cos 5T + cos 6T = cos3 3T + cos3 5T + cos3 6T 《ビ》
偶然にしては、でき過ぎている。何かあるに違いない。これらは同種の現象だが、「15乗」と比べれば「3乗」は扱いやすいので、まず《ヒ》を考える。
【2】 1 の原始13乗根の主値を ζ = cos (2π/13) + i sin (2π/13) とすると、 cos nT は ζn の実部(n: 整数)。 13 ステップで一周してループするのだから cos T = cos 14T, cos 2T = cos 15T 等々が成り立ち、一般に:
m ≡ n (mod 13) ⇒ ζm = ζn ⇒ cos mT = cos nT
さらに cos 12T = cos (−T) = cos T, cos 11T = cos (−2T) = cos 2T 等々なので、
ζ12 = ζ−1 の実部 = ζ1 の実部 = cos T
ζ11 = ζ−2 の実部 = ζ2 の実部 = cos 2T
…などとなる。ところが ζn と ζ−n の虚部――つまり sin nT と sin (−nT) ――は、絶対値が同じで符号が反対なので:
ζn + ζ−n = (cos nT + i sin nT) + (cos nT − i sin nT) = 2 cos nT
∴ cos nT = (ζn + ζ−n)/2
よって《ヒ》は、「次の二つが等しい」というのと同じ意味。
(ζ1 + ζ−1)/2 + (ζ3 + ζ−3)/2 + (ζ4 + ζ−4)/2
[(ζ1 + ζ−1)/2]3 + [(ζ3 + ζ−3)/2]3 + [(ζ4 + ζ−4)/2]3
次の関係に注意する。
(cos T)3 = [(ζn + ζ−n)/2]3 = (ζ3n + 3ζ2nζ−n + 3ζnζ−2n + ζ−3n)/8
= (ζ3n + 3ζn + 3ζ−n + ζ−3n)/8 = (cos 3T + 3 cos T)/4
実は、 T の値と無関係に、上の式の左端と右端は等しい(理由):
cos3 θ = (cos 3θ + 3 cos θ)/4 《フ》
従って、もし整数 a, b, c と角度 φ について、
cos (3aφ) + cos (3bφ) + cos (3cφ) = cos aφ + cos bφ + cos cφ 《ヘ》
…が成り立つなら、次が成り立つ。
cos aφ + cos bφ = cos cφ = cos3 aφ + cos3 bφ + cos3 cφ 《ホ》
実際、《フ》によると、次のように《ホ》の右辺は左辺に等しい:
(cos (3aφ) + 3 cos aφ))/4 + (cos (3bφ) + 3 cos bφ))/4 + (cos (3cφ) + 3 cos cφ))/4
= [cos (3aφ) + cos (3bφ) + cos (3cφ)]/4 + 3(cos aφ + cos bφ + cos cφ)/4
= [cos aφ + cos bφ + cos cφ]/4 + 3(cos aφ + cos bφ + cos cφ)/4 = cos aφ + cos bφ + cos cφ
最後から2番目の等号は、仮定《ヘ》による。
よって《ヒ》や《ビ》を示すには、単に《ヘ》の関係が成り立つことを言えばいい。
cos (3⋅T) = cos 3T, cos (3⋅3T) = cos 9T = cos 4T, cos (3⋅4T) = cos 12T = cos T
…であるから、《ヒ》については、確かにそうなっている。つまり cos T, cos 3T, cos 4T の和は、角度をそれぞれ3倍しても変わらない。同様に《ビ》についても:
cos (3⋅2T) = cos 6T, cos (3⋅5T) = cos 15T = cos 2T, cos (3⋅6T) = cos 18T = cos 5T
【3】 この現象の根源は、集合 S = {ζ1, ζ−1, ζ3, ζ−3, ζ4, ζ−4} の各元が3乗されても、結果として生じる六つの元の集合は S と等しい、ということ。構成の仕方から、 S の元の ζ の肩の指数は、 mod 13 の原始根 g = 2 の偶数乗:
20 = 1, 22 = 4, 24 = 16 ≡ 3, 26 ≡ −1, 28 ≡ −4, 210 ≡ −3 (mod 13)
言い換えると、これらの ind. は 0, 2, 4, 6, 8, 10。ところが S の各元を3乗するということは ζ の指数を3倍することであり、そのとき 3 = ind. 4 なので、指数の ind. は 4 ずつ増える。 {0, 2, 4, 6, 8, 10} という偶数の ind. たちがそれぞれ +4 されても、 13 − 1 = 12 を法として、六つの ind. は全体として変わらない: 「各元を3乗する」という操作に対し S は不動。同様に、奇数の ind. たちがそれぞれ +4 されても、並ぶ順序が変わるだけで、集合としては全く同じ奇数の ind. たちになる。これが《ヒ》と《ビ》のメカニズム。
【4】 3乗和と15乗和が一致するという《ハ》の関係も、同種の現象といえるだろう。もっとも 40° は円周9等分であり、13 と違って 9 は素数ではないので、若干扱いにくいかもしれない。
360° を 9 等分した角度、すなわち 40° を大文字の N で表すことにする。以下で、文字 ζ は cos N + i sin N を表すものとする。【2】と同様に:
a = cos3 N = (cos 3N + 3 cos N)/4 = (−1/2 + 3 cos N)/4 = (−1 + 6 cos N)/8
b = cos3 2N = (cos 6N + 3 cos 2N)/4 = (−1/2 + 3 cos 2N)/4 = (−1 + 6 cos 2N)/8
c = cos3 4N = (cos 12N + 3 cos 4N)/4 = (−1/2 + 3 cos 4N)/4 = (−1 + 6 cos 4N)/8
なぜなら 3N = 120° などの cos は −1/2。さて cos 2N = cos (−2N) であり、 −2N, N, 4N は 120° 間隔なので、 cos N + cos 2N + cos 4N = 0。よって3乗和 a + b + c が −3/8 に等しいことは、直ちに明らか。問題は a5 + b5 + c5 も同じ値になるメカニズムの確認。
cos N = (ζ1 + ζ−1)/2 なので:
a5 = (3ζ1 + 3ζ−1 − 1)5/85 つまり
85a5 = 215a5 = (3ζ1 + 3ζ−1 − 1)5
次の恒等式を使う。
(A + B + C)5 = A5 + B5 + C5
+ 5(A4B + AB4 + B4C + BC4 + C4A + CA4)
+ 10(A3B2 + A2B3 + B3C2 + B2C3 + C3A2 + C2A3)
+ 20(A3BC + B3CA + C3AB)
+ 30(A2B2C + B2C2A + C2A2B)
(3ζ1 + 3ζ−1 − 1)5 = 243ζ5 + 243ζ−5 − 1 《マ》
+ 5(243ζ3 + 243ζ−3 − 81ζ−4 + 3ζ−1 + 3ζ1 − 81ζ4) 《ミ》
+ 10(243ζ1 + 243ζ−1 + 27ζ−3 − 9ζ−2 − 9ζ2 + 27ζ3) 《ム》
+ 20(−81ζ2 − 81ζ−2 − 9) 《メ》
+ 30(−81 + 27ζ−1 + 271) 《モ》
= 486 cos 4N − 1 ← なぜなら 2 cos 5N = 2 cos 4N
+ 5(−243 − 162 cos 4N + 6 cos N) ← なぜなら 2 cos 3N = −1
+ 10(486 cos N − 27 − 18 cos 2N)
+ 20(−162 cos 2N − 9)
+ 30(−81 + 54 cos N)
= 6510 cos N − 3420 cos 2N − 324 cos 4N − 4096
5乗される数に含まれていた ζn + ζ−n の n = 1 に対して、《マ》で現れる指数 ±5 は ±5n だが ±4n に置き換えても、結果は同じ。《ミ》で現れる指数 ±3, ±1, ±4 はそれぞれ ±3n, ±1n, ±4n。同様に、複号を省略すると《ム》で 1n, 3n, 2n, 《メ》で 2n, 《モ》で 1n が出現。
ところで、入力において n が 2 or 4 に変わっても、展開式の係数・定数は変わらず、 ζ の指数だけが置き換わる。
n = 1, 2, 4 のいずれに対しても、出力に指数 ±3n が含まれる場合、結果は ζ3n + ζ−3n = ζ3 + ζ−3 = −1 になる。それ以外においては n = 1 の場合の ±1, ±2, ±4 が n = 2 の場合にはそれぞれ ±2, ±4, ±1 に置き換わり、 n = 4 の場合にはそれぞれ ±4, ±1, ±2 に置き換わる。
1n | 2n | 4n | |
---|---|---|---|
n = 1 | 1 | 2 | 4 |
n = 2 | 2 | 4 | −1 |
n = 4 | 4 | −1 | −2 |
ゆえに n = 2, 4 の場合も、上記の明示的計算(n = 1 に対する)とほとんど同じ結果になり、 ζw + ζ−w = 2 cos wN の形の w だけが変わる:
(3ζ1 + 3ζ−1 − 1)5 = 6510 cos N − 3420 cos 2N − 324 cos 4N − 4096
(3ζ2 + 3ζ−2 − 1)5 = 6510 cos 2N − 3420 cos 4N − 324 cos N − 4096
(3ζ4 + 3ζ−4 − 1)5 = 6510 cos 4N − 3420 cos N − 324 cos 2N − 4096
これら三つの式を足し合わせると、右辺には −4096 × 3 だけが残り(なぜなら cos N + cos 2N + cos 4N = 0)、各式の左辺は前記のように 85a5 = 215a5 あるいはその a を b, c に置き換えたものに等しいから:
215a5 + 215b5 + 215c5 = −4096 × 3 = −3⋅212
両辺を 215 で割ると:
a5 + b5 + c5 = −3/8
これが検証されるべきことだった。
【5】 今回のまとめ。和 cosn T + cosn 3T + cosn 4T と和 cosn 2T + cosn 5T + cosn 6T が、それぞれ n = 1, n = 3 に対して等しい値を持つこと。和 cosn N + cosn 2N + cosn 4N が n = 3, n = 15 に対して等しい値を持つこと。――これらの現象はどれも、内部的に「ある種の変数の入れ替えに対して、トータルでは結果が変わらない」という対称性がトリガーされて、発生する。このような現象は 1 の原始根のべき和を扱う場合には、円分多項式に関する Gauß の理論などの直接の結果として、ありふれたことかもしれないが、原始根の実部のべき和の場合にも起こり得る。
「ある種の変数の入れ替え」が置換(入れ替え前後でトータルで過不足が生じないような並び替え)になっていなければならないので、土台になる周期(原始根に基づく)と、べきの指数の置き換えの相互作用が「平等」でなければならない。例えば N のケースの n → 3n のように「入力が何であっても出力が同じ」といった偏り(非可逆変換)が至るところで起きるなら、当然、対称性は失われ、二つのべき和は等しくなり得ないであろう。他方において、まさにこの n → 3n のケースにように、変換の一部が双射でないとしても、トータルでは対称性が維持されるケースもあり得る。
二つのべき和 ∑ cosm kjθ = ∑ cosn kjθ が等しい値を持つ、という現象について、一応の説明はついた。この現象の特徴付け・一般的な扱いは、必ずしも簡単ではないだろう。円周9等分・13等分のどちらの例も、たまたま発見したものであり、何らかの理論に基づいて導いたものではない。しかし、この現象を透明に見通せるような観点が、あるのかもしれない。
2024-05-27 P. Rolli の等式 円周13等分
(i) cos2 (π/13) + cos2 (3π/13) + cos2 (4π/13) = (11 + √13)/8
(ii) sin (π/13) + sin (3π/13) + sin (4π/13) = {√[26 + 6√]}/4
証明 2π/13 = T とする。 cos (π/13)
= −cos (12π/13) = −cos 6T であり、
cos (3π/13)
= −cos (10π/13) = −cos 5T であるから、
(i) は cos 2T, cos 5T, cos 6T の2乗和。さて、
t3 + [(1 + √13)/4]t2 − (1/4)t − (3 + √13)/16
…の根は cos 2T, cos 5T, cos 6T なので(【11】)、問題の2乗和は:
[(1 + √13)/4]2 − 2(−1/4)
= (14 + 2√13)/16 + 1/2
= (11 + √13)/8
(ii) の左辺各項の平方和 = sin2 2T + sin2 5T + sin2 6T = (1 − cos2 2T) + (1 − cos2 5T) + (1 − cos2 6T) は、
3 − [(i) の左辺] = (13 − √13)/8
…に等しい。 (ii) の左辺の平方 = (sin 2T + sin 5T + sin 6T)2 を求めるためには、上記の平方和に、次の値を足せばいい。
2(sin 2T sin 5T + sin 5T sin 6T + sin 6T sin 2T)
sin の積→和の公式† 2 sin α sin β = cos (α − β) − cos (α + β) を使うと:
2(sin 2T sin 5T + sin 5T sin 6T + sin 6T sin 2T)
= cos 3T − cos 7T + cos T − cos 11T + cos 4T − cos 8T
= cos 3T − cos 6T + cos T − cos 2T + cos 4T − cos 5T
= (cos T + cos 3T + cos 4T) − (cos 2T + cos 5T + cos 6T)
= (−1 + √13)/4 − (−1 − √13)/4 = (√13)/2
最後から2番目の等号では、 cos 2T, cos 5T, cos 6T を根とする3次式(上掲)の2次の係数を使い、同様に cos T, cos 3T, cos 4T を根とする3次式の係数も使った。
ゆえに (sin 2T + sin 5T + sin2 6T)2 = (13 − √13)/8 + (√13)/2 = (13 + 3√13)/8。 (ii) の左辺は、この数の正の平方根なので、(ii) の右辺に等しい。∎
† cos (α − β) = cos α cos β + sin α sin β
から
cos (α + β) = cos α cos β − sin α sin β
を引くと:
cos (α − β) − cos (α + β) = 2 sin α sin β
(i), (ii) は P. Rolli が2004年に私信に記したものだという†。 1 の原始13乗根の実部に関連する二つの3次式から、どちらも容易に導かれる。 (i) に関連して、 cos T, cos 4T, cos 5T の「和」と「3乗和」が等しいこと(cos 2T, cos 5T, cos 6T についても同様)に気付いた。
† https://mathworld.wolfram.com/TrigonometryAnglesPi13.html
2024-05-28 ジラルの3乗公式の簡潔な導出
Newton の公式(漸化式)のうち4乗和までの部分は、Newton より数十年前に既に Girard によって記述されている。
3次式 g(x) = x3 + Px2 + Qx + R の根を x = a, b, c とすると:
g(a) = a3 + Pa2 + Qa + R = 0
g(b) = b3 + Pb2 + Qb + R = 0
g(c) = c3 + Pc2 + Qc + R = 0
縦に足し合わせて:
(a3 + b3 + c3) + P(a2 + b2 + c2) + Q(a + b + c) + 3R = 0
ゆえに:
a3 + b3 + c3 = −P(a2 + b2 + c2) − Q(a + b + c) − 3R
= (a + b + c)(a2 + b2 + c2) − (ab + bc + ca)(a + b + c) + 3(abc)
= A(A2 − 2B) − BA + 3C = A3 − 3AB + 3C
ただし A = a + b + c = −P, B = ab + bc + ca = Q, C = abc = −R。
同じ形は a3 + b3 + c3 + d3 についても成り立つ。
A = a + b + c + d, B = ab + ac + ad + bc + bd + cd, C = abc + bcd + cda + dab
…とすると:
A3 = ∑(a3) + 3∑(a2b + ab2) + 6∑(abc) 〔43 = 64項 = 4 + 3⋅12 + 6⋅4〕
AB = (a + b + c + d)(ab + ac + ad + bc + bd + cd) = ∑(a2b + ab2 + 3abc) 〔24項〕
∴ A3 − 3AB = ∑(a3) − 3∑(abc) = ∑(a3) − 3C 〔64−3⋅24項 → 4−3⋅4項〕
∴ A3 − 3AB + 3C = ∑(a3) = a3 + b3 + c3 + d3
〔注〕 上記 A = a + b + c + d の4項、 B = ab + … + cd の計6項、 C = abc + bcd + cda + dab の4項をそれぞれ ∑(a), ∑(ab), ∑(abc) と略す。 ∑(a2) や ∑(a3) も同様の4項の和、 ∑(a2b) = a2b + … + c2d も同様の6項の和を表す。従って、例えば:
3∑(a2b + ab2) = 3[(a2b + … + c2d) + (ab2 + … + cd2)]
同様に a3 + b3 + c3 + d3 + e3 についても:
A = a + b + c + d + e
B = ab + ac + ad + ae + bc + … + de 〔4 + 3 + 2 + 1 = 10項†〕
C = abc + abd + abe + acd + ace + ade + bcd + … + cde 〔6 + 3 + 1 = 10項‡〕
…とすると:
A3 = ∑(a3) + 3∑(a2b + ab2) + 6∑(abc) 〔53 = 125項 = 5 + 3⋅20 + 6⋅10〕
AB = (5項)(10項) = ∑(a2b + ab2 + 3abc) 〔50項〕
∴ A3 − 3AB = ∑(a3) − 3∑(abc) = ∑(a3) − 3C 〔125−3⋅50項 → 5−3⋅10項〕
∴ A3 − 3AB + 3C = ∑(a3) = a3 + b3 + c3 + d3 + e3
† 三角数 T4 = (4 + 3 + 2 + 1) = 4+1C2 = 5⋅4/2! = 10
‡ 四面体数 Δ3 = (3 + 2 + 1) + (2 + 1) + (1) = 3+2C3 = 5⋅4⋅3/3! = 10
基本対称式と3乗和 一定の個数(3以上)の変数の1個・2個・3個ずつの積の和をそれぞれ A, B, C とすると:
3乗和 = A3 − 3AB + 3C
A3 から生じる余計な 3∑(a2b + ab2) + 6∑(abc) は、引き算 A3 − 3AB によって除去されるが、その副作用として −3∑(abc) が「引き過ぎ」: A3 には 6∑(abc) が含まれるが AB には 3∑(abc) が――従って −3AB には −9∑(abc) が――含まれるから。それを +3∑(abc) = +3C で補正。
〔例〕 α3 + β3 + γ3 = (α + β + γ)3 − 3(α + β + γ)(αβ + βγ + γα) + 3(αβγ)
2024-05-29 ジラルの4乗公式
4項の4乗和 a4 + b4 + c4 + d4 を基本対称式の組み合わせで表すこと。 (a + b + c + d)4 の展開を考えて、全部「手作り」する過程は面白いけど、結論だけが欲しいのなら、4項の3乗和 a3 + b3 + c3 + d3 に帰着させる方が簡単。本質的には Newton の公式(漸化式)と同じ仕組み。
4次式 g(x) = x4 + Px3 + Qx2 + Rx + S の根を x = a, b, c, d とすると:
g(a) = a4 + Pa3 + Qa2 + Ra + S = 0
g(b) = b4 + Pb3 + Qb2 + Rb + S = 0
g(c) = c4 + Pc3 + Qc2 + Rc + S = 0
g(d) = d4 + Pd3 + Qd2 + Rd + S = 0
縦に足し合わせて:
(a4 + b4 + c4 + d4) +
P(a3 + b3 + c3 + d3) +
Q(a2 + b2 + c2 + d2) + R(a + b + c + d) + 4S = 0
ゆえに:
a4 + b4 + c4 + d4 = −P(a3 + b3 + c3 + d3)
− Q(a2 + b2 + c2 + d2)
− R(a + b + c + d) − 4S
= (a + b + c + d)(a3 + b3 + c3 + d3) − (ab + ac + ad + bc + bd + cd)(a2 + b2 + c2 + d2)
+ (abc + bcd + cda + dab)(a + b + c + d) − 4(abcd)
= A(A3 − 3AB + 3C) − B(A2 − 2B) + CA − 4D
= A4 − 3A2B + 3AC − A2B + 2B2 + AC − 4D
= A4 − 4A2B + 4AC + 2B2 − 4D
ただし A = a + b + c + d = −P, B = ab + ac + ad + bc + bd + cd = Q, C = abc + bcd + cda + dab = −R, D = abcd = S。
Girard の4乗和の公式が淡々と得られた。
a4 + b4 + c4 は、この式で d = 0 の場合だから:
A = a + b + c, B = ab + ac + bc, C = abc, D = 0
a4 + b4 + c4 = A4 − 4A2B + 4AC + 2B2
言い換えれば、3次式 (x − a)(x − b)(x − c) を4次式 (x − a)(x − b)(x − c)(x − 0) と見なして、前記の(4項の4乗和の)議論を適用することに当たる。
【1】 一般に、項数が指数より小さい場合の挙動は――つまり n 項の k 乗和が n < k の場合にも n = k の場合と同じ公式に従うことは――、上記と同様に、簡単に示される(一部の変数がゼロになるだけで、同じ k 乗和の式に従う)。
【2】 逆に、項数が指数より大きい場合について。例えば a3 + b3 + c3 + d3 が a3 + b3 + c3 と同じ形の公式に従うことは、比較的分かりにくい。4項または5項の3乗和については、前回、手っ取り早くこれを直接証明したけど、次のように論じることもできる。
a, b, c, d の中に 0 がある場合は簡単なので†、その四つがどれも 0 でないとする。 g(a) = a4 + Pa3 + Qa2 + Ra + S = 0 の両辺を a で割ると:
a3 + Pa2 + Qa + R + S/a = 0
同様に g(b) = 0 の両辺を b で割り、 g(c) = 0 の両辺を c で割り、 g(d) = 0 の両辺を d で割ると:
b3 + Pb2 + Qb + R + S/b = 0
c3 + Pc2 + Qc + R + S/c = 0
d3 + Pd2 + Qd + R + S/d = 0
上記四つの等式を縦に足すと:
(a3 + b3 + c3 + d3) + P(a2 + b2 + c2 + d2) + Q(a + b + c + d) + 4R + S(1/a + 1/b + 1/c + 1/d) = 0
S = abcd なので S(1/a + 1/b + 1/c + 1/d) = bcd + acd + abd + abc = C。従って:
a3 + b3 + c3 + d3 = −P(a2 + b2 + c2 + d2) − Q(a + b + c + d) − 4R − C
= A(A2 − 2B) − BA + 4C − C = A3 − 3AB + 3C
これは(A, B, C が4項バージョンになることを別にすれば)、3項の3乗和と全く同じ式。
一般に n 項の k 乗和は、 k = n − 1 ならこれと同じように処理できる(k = n − 2 の場合などにも類似の処理が成り立つが、それについては別に検討する必要がある)。
† x4 + Px3 + Qx2 + Rx + S = 0 の解 x = a, b, c, d のうち一つが 0 の場合は、次のように簡単に結論を出せる。必要に応じて解 a, b, c, d の名前を交換して = 0 の解を d としよう。 S = abcd = 0 だから:
x4 + Px3 + Qx2 + Rx = 0
両辺を x で割ると:
x3 + Px2 + Qx + R = 0
d = 0 だから A = a + b + c + d = a + b + c、同様に B = ab + bc + ca, C = abc なので、3項の3乗和から:
a3 + b3 + c3 + d3 = a3 + b3 + c3 = (a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca) + 3(abc) = A3 − 3AB + 3C。
【3】 a4 + b4 + c4 + d4 + e4 の5項の4乗和について、【2】のように処理する。
x5 + Px4 + Qx3 + Rx2 + Sx + T = 0
…の解を x = a, b, c, d, e とする。上の式の x に a, b, … を代入して、それぞれ両辺を a, b, … で割ると:
a4 + Pa3 + Qa2 + Ra + S + T/a = 0
b4 + Pb3 + Qb2 + Rb + S + T/b = 0
etc.
ここで T = −abcde, T/a + T/b + … + T/e = −bcde − acde − … − abcd = −D なので、上記の五つの式(etc. を含む)を縦に足して:
∑(a4) − A ∑(a3) + B ∑(a2) − C ∑(a) + 5D − D = 0
∴ ∑(a4) = A(A3 − 3AB + 3C) − B(A2 − 2B) + CA − 4D
つまり a4 + b4 + c4 + d4 + e4 = A4 − 4A2B + 4AC + 2B2 − 4D
基本対称式 A, B, C, D の組み合わせとしては、5項の4乗和は、4項の4乗和 a4 + b4 + c4 + d4 と全く同一の形式で表現される。ただし5項バージョンなので A = a + b + c + d + e, B = ab + ac + ad + ae + bc + … de などは、5文字から成る基本対称式を表す。
これで、5項までについて、3乗和と4乗和が解決した。任意項数の1乗和・2乗和は自明なので、5次式までの根に関する限り Girard の公式が全種類、再証明されたことになる(Girard は Newton と違い4乗和までを考え、5乗和以降を含む一般のべき和を扱わなかった)。
2024-05-30 2項の4乗和と3項の4乗和
a + b = A で ab = B のとき、 a2 + b2 = (a + b)2 − 2(ab) = A − 2B。それと同じように、 A と B を使って a4 + b4 を表すことを考える。
(a + b)4 = a4 + 4a3b + 6a2b2 + 4ab3 + b4 なので:
a4 + b4
= (a + b)4 − 4(a3b + ab3) − 6a2b2
= (a + b)4 − 4(ab)(a2 + b2) − 6(ab)2
= A4 − 4B(A2 − 2B) − 6B2 = A4 − 4A2B + 2B2
【1】 形式的な計算は以上のように簡単だが、内容的に何が起きているのだろうか?
A2B = (a2 + b2 + 2ab)(ab) = a3b + ab3 + 2(ab)2 《ヤ》
…なので、その4倍を…
A4 = a4 + 4a3b + 6(ab)2 + 4ab3 + b4
…から引いてやれば、 4a3b と 4ab3 が消え a4 と b4 が残るのはいいのだが、もう一つの項 6(ab)2 は、きれいに消えてくれず、
6(ab)2 − 4⋅2(ab)2 = −2(ab)2
…も残ってしまう。この後始末のため、 2(ab)2 = 2B2 をプラス補正している:
A4 − 4A2B = a4 + b4 − 2(ab)2 ← あと一歩
A4 − 4A2B + 2B2 = a4 + b4 ← 完成!
(a + b)4 を展開した各項は4次(同じ文字の重複もカウントして、4個の文字の積: aaaa, aaab 等々)。純粋な4乗和 a4 + b4 を抜き出すには、 A4 = (a + b)4 から 4a3b, 4ab3 等の余計な4次の項を除去すればいい。 A の各項(a, b 等)は1次、 B の各項(ab 等)は2次。従って A2B の各項は 1 + 1 + 2 = 4次だが、 AB2 の各項は 1 + 2 + 2 = 5次。余計な4次の項を除去するには、後者(5次)ではなく、前者(4次)の倍数を引き算すればいい。 a3b などの係数は 4 なので A4 − 4A2B という引き算が、土台になる。
【2】 この観点から、3項の4乗和を再考: A = a + b + c, B = ab + bc + ca, C = abc を使って a4 + b4 + c4 を表す。
A2B = [a2 + b2 + c2 + 2(ab + bc + ca)](ab + bc + ca)
= a3b + ab3 + b3c + bc3 + c3a + ca3 + a2bc + ab2c + abc2 + 2(ab + bc + ca)2 《ユ》
《ユ》が《ヤ》の一種の拡張であることが、観察される。
a2bc + ab2c + abc2 = (a + b + c)(abc) = AC
…なので:
B2 = (ab + bc + ca)2 = (ab)2 + (bc)2 + (ca)2 + 2(ab2c + abc2 + a2bc) = (ab)2 + (bc)2 + (ca)2 + 2AC
従って《ユ》は:
A2B = a3b + … + ca3 + 2[(ab)2 + (bc)2 + (ca)2] + 5AC
〔注〕 5AC のうち 4AC は《ユ》の 2(ab + bc + ca)2 から生じ、もう一つの AC は《ユ》の a2bc + ab2c + abc2 から生じる。
一方、 (a + b + c)4 − a4 − b4 − c4 はこうなる:
4(a3b + … + ca3) + 6[(ab)2 + (bc)2 + (ca)2] + 12AC
そこから 4A2B を引くと −2 倍の「引き過ぎ」が生じる。その点は、 (a + b)4 のケースと全く同じ:
A4 − 4A2B = a4 + b4 + c4 − 2[(ab)2 + (bc)2 + (ca)2] − 8AC ← もう少し
12AC − 4⋅5AC = −8AC は、2項の4乗和のときにはなかった変な成分だが、単なる AC の倍数なので(そして A, C は自由に使えるので)これを除去することは難しくない。
実は、2項の4乗和のときと同様のプラス補正 +2B2 を行うと、 −2[ ] の部分をきれいに除去できるばかりか、余計な −8AC も、部分的に相殺される: 2B2 = 2(ab + bc + ca)2 = 2[(ab)2 + (bc)2 + (ca)2] + 4AC のプラス補正には +4AC の「おまけ」が内在しているため、この補正の結果 −8AC が −4AC に変わるのだ。残った −4AC を消すため +4AC の追加補正を行えば、完成。
A4 − 4A2B + 2B2 = a4 + b4 + c4 − 4AC ← あと一歩
∴ A4 − 4A2B + 2B2 + 4AC = a4 + b4 + c4 ← 完成!
【3】 以上を振り返ると、次のようなことがポイントといえそうだ。第一に、
A4 = (a + b + c)4 = ∑(a4) + 4∑(a3b + ab3) + 6∑(a2b2) + 12[a2bc + ab2c + abc2]
…の [ ] 内が、ちょうど (a + b + c)(abc) = AC に等しいこと、従って、 A4 には 12AC が含まれること。第二に、
A2B = ∑(a3b + ab3) + 2∑(a2b2) + 5[a2bc + ab2c + abc2]
…となること、つまり A2B には 5AC が含まれること†。第三に、以上のことから A4 − A2B には 12AC − 4⋅5AC = −8AC が含まれること。第四に、 A4 − A2B から生じる −2∑(a2b2) を除去するため 2B2 = 2(ab + bc + ca)2 をプラス補正すると、内在する 4(a2bc + ab2c + abc2) = 4AC も加算され、上記 −8AC が −4AC になること。
結局、2項の4乗和 a4 + b4 = A4 − 4A2B + 2B2 の形と比較した場合、3項の4乗和 a4 + b4 + c4 には + 4AC の追加補正が必要だが、それ以外に本質的な違いはない。2項と3項では A, B 等の意味が異なるが(前者では A = a + b, 後者では A = a + b + c 等々)、論理的には、2項バージョンは3項バージョン…
a4 + b4 + c4 = A4 − 4A2B + 2B2 + 4AC
…に包含される。なぜなら a4 + b4 は、 a4 + b4 + c4 において c = 0 になった場合に当たる; そのとき C = abc = 0 なので、追加補正の +4AC の項は 0 に等しく、あってもなくても結果に影響しない; a4 + b4 についての A, B も、単に A = a + b + c, B = ab + bc + ca において c = 0 となった場合と考えることができる。この解釈によれば、2項の4乗和・3項の4乗和は、同一パターンに従う(ちなみに、そのどちらも、さらに一般的な「4項以上の4乗和」の軽量バージョンに当たる)。
土台 | プラス補正 | 追加補正 |
---|---|---|
A4 − 4A2B | +2B2 | +4AC |
† AC = (a + b + c)(abc) = ∑(a2bc) という成分は、 (a2 + b2 + c2)B = (a2 + b2 + c2)(ab + bc + ca) の展開から 1 個生じ、 B2 = (ab + bc + ca)2 の展開から 2 個生じる。よって A2B = [(a2 + b2 + c2) + 2B]B = (a2 + b2 + c2)B + 2⋅B2 から 1 + 2⋅2 = 5 個生じる。
2024-05-31 フェルマーの最終定理もどき x4 + y4 = z4
(I) 二つの数 x, y の和を 1 とする: x + y = 1。 それぞれの「4乗の和」も 1 とする: x4 + y4 = 1。この条件を満たす x と y の値は?
(II) x + y = 7 かつ x4 + y4 = 74 を満たす x, y を求める。一般に x + y = z という条件で x4 + y4 = z4 の解を求める。
x = ±1, y = 0 等の自明解を別にすると、x4 + y4 = z4 に整数解はない(Fermat の最終定理の一番簡単なケース)。それと少し似ているが、このメモでは x + y = z かつ x4 + y4 = z4 という問題を考える。「べき和を基本対称式で表すこと」がどう役立つのか、という簡単な具体例。
比較のため、まず (I) の素朴な(退屈で学校的?な)解法を記す。第一式から y = 1 − x として、それを第二式に代入し y を消去すると:
x4 + (1 − x)4 = 1
左辺を展開すると:
x4 + (1 − 4x + 6x2 − 4x3 + x4) = 1
つまり 2x4 − 4x3 + 6x2 − 4x = 0
x = 0 は自明解。以下 x ≠ 0 の場合を考え、上の式の両辺を 2x で割ると:
x3 − 2x2 + 3x − 2 = 0 《ラ》
ここで「3次方程式だから」といって Cardano の公式に飛び付いてはいけない(その理由は末尾の付録参照): 整数解の有無を調べるのが先決。整数解があるとすれば、定数項の約数 x = ±1, ±2 のどれか。順に試すと x = 1 が解であることを簡単に確認できる。よって上の3次式は x − 1 で割り切れ、3次方程式を直接解く必要はない。
x^2 - x + 2 ┌──────────────────── x - 1 │ x^3 - 2x^2 + 3x - 2 x^3 - x^2 ────────── -x^2 + 3x -x^2 + x ───────── 2x - 2 2x - 2 ────── 0
実直な筆算の結果、《ラ》の左辺は (x − 1)(x2 − x + 2) = 0 と分解される――そこから読み取れる自明解 x = 1 は既知。問題は残りの2解だが、それらは…
x2 − x + 2 = 0 《リ》
…の解なので:
x = (1 ± √−7)/2 対応する y は 1 − x = (1 ∓ √−7)/2 複号同順
結論として、 x, y の一方を a = (1 + √−7)/2 とし、他方を b = (1 − √−7)/2 とすると x + y = 1 で(これは明らか)、しかも x4 + y4 = 1 となる――こっちは全然明らかでないので、検算しておく。
√−7 を w と略すと w2 = −7 なので:
a2 = ((1 + w)/2)2
= (1 + 2w + w2)/4
= (−6 + 2w)/4
= (−3 + w)/2
従って:
a4 = (a2)2 = ((−3 + w)/2)2
= (9 − 6w + w2)/4
= (2 − 6w)/4
= (1 − 3w)/2
同様に(あるいは単に b は a の共役なので b4 は a4 の共役になるということから):
b4
= (1 + 3w)/2
確かに a4 + b4 = (1 − 3w)/2 + (1 + 3w)/2 = 1 となる!
a = (1 + √−7)/2 = 0.5 + (1.3228…)i とその共役 b の和は 1。
a4 = (1 − 3√−7)/2 = 0.5 − (3.9686…)i とその共役 b4 の和も 1。
〔参考〕 第一の虚部 1.32… は √7 = 2.64…(菜に虫)の半分。第二の虚部 3.96… は、この 2.64 にその半分を足したもの。
以上は参考のために「普通」の解法を記したもので、それほど面白くない。
別解…というか、ここからが本題だが… (I) を「2項の4乗和」の応用として扱ってみたい。任意の a, b について:
(a + b)4 = a4 + b4 + 4(a3b + ab3) + 6(a2b2)
これを「A = a + b と B = ab」についての式に変換すると:
a4 + b4 = (a + b)4 − 4(ab)(a2 + b2) − 6(ab)2 = A4 − 4B(A2 − 2B) − 6B2 = A4 − 4A2B + 2B2
内容的には: A2B = (a2 + 2ab + b2)(ab) の 4倍を (a + b)4 から引き算すると、 4a3b + 4ab3 がきれいに消えてくれる半面、 6a2b2 − 8a2b2 = −2a2b2 の負債†が生じるので +2a2b2 つまり +2B2 のプラス補正をしている。
† A4 = (a + b)4 の展開には 6a2b2 が含まれる。 4A2B = 4(a2 + 2ab + b2)(ab) の展開には 8a2b2 が含まれる。従って A4 から A2B を引くと、これらの項に関しては 6a2b2 − 8a2b2 = −2a2b2 = −2B2 となる。
a, b をそれぞれ x, y として上記の関係を使うと、 (I) の条件は:
1 = x4 + y4 = A4 − 4A2B + 2B2
同時に A = x + y = 1 という条件もあるので、それを上の右辺に代入すると:
1 = 14 − 4⋅12B + 2B2 つまり 2B2 − 4B = 2B(B − 2) = 0
これはもちろん B (= xy) = 0 という自明解を持つ(x, y の一方が 0 で他方が 1 の場合)。以下では、非自明解 B = xy = 2 について考える。
x + y = 1 と xy = 2 ということから、 x, y を解とする2次方程式を作れる:
t2 − t + 2 = 0 《ル》
未知数の名前を t としただけで《リ》と全く同じ方程式だが、その導出に関しては、「3次方程式の整数解を見つけて筆算の割り算で因数分解」という手間が省けた!
「4乗和の式の方がややこしい」(3次式の割り算の方が機械的にできて易しい)という見方もあるだろうが、「根の3乗和・4乗和などと基本対称式の関係」の方が、柔軟性が高い―― (II) を考えると、それがさらに実感されるだろう。
とりあえず (I) に決着を: 《ル》の解はもちろん《リ》の解と同じなので、以降は最初の解法と同じ。上記 xy = 2 については、
(1 + √−7)/2 × (1 − √−7)/2
= [1 − (−7)]/4
= 8/4 = 2
…なので、つじつまが合っている。
さて (II) の一般の場合。素朴なアプローチで x4 + y4 = z4 を処理するなら(z: 定数)、《ラ》に当たる式が…
x3 − 2zx2 + 3z2x − 2z3 = 0
…となる。この式は、定数項が整数かどうか(有理数かどうか、実数かどうかすら)不明なので、有理数解の有無を確かめることができない。それでも多少の試行錯誤によれば x = z が一つの解であるを確かめることができ、従って上の左辺は x − z で割り切れ、その割り算も実行可能――しかしこの手順は、あまり見通しが良いとはいえないだろう。一方、単に A = x + y, B = xy と置いて Girard の公式を使うと:
z4 = x4 + y4 = A4 − 4A2B + 2B2
問題の条件から A = x + y = z なので、それを右辺にぶち込めば:
z4 = z4 − 4z2B + 2B2 つまり 2B2 − 4z2B = 0
自明解に対応する B = xy = 0 を度外視して、上の最後の等式の両辺を 2B (≠ 0) で割ると:
B − 2z2 = 0 つまり B = 2z2
これで x, y の和 z と、積 xy = B = 2z2 が判明したので、自然に x, y を解とする2次方程式を構成できる:
t2 − zt + 2z2 = 0
これを満たす未知数 t が x, y なのだから、直ちに次の結論に至る:
x, y = [z ± √(z2 − 8z2)]/2
= (z ± z√−7)/2 《レ》
(I) は《レ》で z = 1 とした場合であった。 (II) の z = 7 のケースについても、単に《レ》で z = 7 として:
x, y = (7 ± 7√−7)/2
定数 z が与えられたとする。 x + y = z かつ x4 + y4 = z4 を満たす x, y は…
自明解 x = z, y = 0
非自明解 x = (z + z√−7)/2, y = (z − z√−7)/2
どちらについても、 x と y の値を入れ替えてもいい。
〔参考文献〕 Jiří Herman, et al.: Equations and Inequalities (2000), p. 57; Chap. 1, 5.12 Exercises (ix)
付記(Cardano の公式のわな) 冒頭の素朴な方法を使ったとして、3次方程式《ラ》…
x3 − 2x2 + 3x − 2 = 0
…が出てきたとき、もし有理係数の範囲での分解可能性を確かめず、直接方程式を解こうとするとどうなるか?
2次項を除去するため x = p + 2/3 と置くと:
p3 + (5/3)p − 16/27 = 0
分数を解消するため q = p/3 と置いて両辺を 27 倍すると:
q3 + 15q − 16 = 0
Cardano の公式によると、この3次方程式の実数解は:
q′ = 3√(8 + 3√) + 3√(8 − 3√)
ただし、この立方根記号は、実数の立方根を表すものとする。負数の立方根について、立方根号が主値を表すとするなら、 q′ は次のように表現される。
q′ = 3√(8 + 3√) − 3√(−8 + 3√)
q′ はどちらの表記でも複雑そうな形をしているが、実は 1 に等しい†。変数を元に戻した x = q′/3 + 2/3 = 1 は、自明解 x = 1, y = 0 に当たる。要するに、苦労して Cardano の公式を使ってもこの場合全く無意味; 最初から《ラ》で有理数解をチェックして x = 1 を検出した方が、はるかに良い。肝心の非自明解は、もしこの Cardano 形式に基づくなら:
[3√(8 + 3√) × (−1 ± √−3)/2 − 3√(−8 + 3√) × (−1 ∓ √−3)/2]/3 + 2/3
これが (−1 ± √−7)/2 に等しいことを確かめるのは、不可能ではないとしても、困難だろう!
† 不思議な偶然で、上記参考文献 Chap. 1, 3.24 は、この式が 1 に等しいことの証明を扱っている。
3次方程式の場合「解の公式に当てはめればいい」という考え方では、うまくいかないことがある(数値的には正しい表現が得られるが、実用にならない)。公式を使う前にまず有理数解チェックを行い、有理数解があれば分離(因数分解)するべしッ!
速攻 Cardano 形式に飛び込んでいいのは、「有理数の根がないこと」が事前に分かっているケースだけ(ある種の円分多項式など)。有理数解があるのに Cardano 形式にすると、泥沼の堂々巡りになる。
2024-06-01 円周率の Machin の公式
x4, y4 はそれぞれ x, y と比べて絶対値が4乗で、偏角が4倍。この「偏角」の部分は、円周率の計算の Machin の公式とも少し関連する。
【1】 x = [(1 + i√7)/2]z と y = [(1 − i√7)/2]z の和は z。 x4 = [(1 − 3i√7)/2]z4 と y4 = [(1 + 3i√7)/2]z4 の和は z。
x + y では ±i√7 が打ち消し合って = [(1 + 1)/2]z = z となる。同様に x4 + y4 = [(1 + 1)/2]z4 = z4。
[(1 ± i√7)/2] の4乗が
[(1 ∓ 3i√7)/2]
であることは、それほど明らかではない。 i√7 = √−7 を w と略すと:
(1 + w)4 = 1 + 4w + 6w2 + 4w3 + w4 = 1 + 4w + 6(−7) + 4(−7)w + (−7)2 = 8 − 24w
∴ [(1 + w)/2]4 = (8 − 24w)/16 = (1 − 3w)/2
従って [(1 + w)/2]z を4乗すれば、確かに [(1 − 3w)/2]z4 に。同様に [(1 − w)/2]z の4乗は [(1 + 3w)/2]z4。
【2】 x4 の絶対値が x の絶対値の4乗であることは当然だが、直接確認することもできる。
|z4| が |z| の4乗であること
…は自明なので、
|(1 − 3w)/2| が |(1 + w)/2| の4乗であること
…を見ればいい。前者は (1/2)2 + (−3w/2)2 の(正の)平方根; それは 1/4 + 9⋅7/4 = 64/4 = 16 の平方根なので 4 に等しい。後者は (1/2)2 + (w/2)2 の平方根; それは 1/4 + 7/4 の平方根なので √2 に等しい。 4 は確かに √2 の4乗。 y から見た y4 も同様。
【3】 x4 = [(1 − 3i√7)/2]z4 の偏角(の主値)が x = [(1 + i√7)/2]z の偏角の 4 倍であること(mod 2π)。 z4 の偏角が z の偏角の 4 倍であることは明白なので(特に z が実数なら、どちらも偏角 0 である)、
Arg [(1 − 3i√7)/2] ≡ 4 Arg [(1 + i√7)/2]
…を見ればいい。複素平面上で、原点 0 と、上の右辺に含まれる [(1 + i√7)/2]
を通る直線を考えると、その傾きは、実部が 1/2
増えるとき虚部が
√7/2
増えるのだから、言い換えれば、実部が 1 増えるとき虚部が √7 増える――実部・虚部に共通して含まれる分母 2 は、傾きには影響しない:
Arg [(1 + i√7)/2] = Arg (1 + i√7) = arctan √7 = arctan 2.645… = 1.209…
これは「横に 1 進むごとに 2.64 ほど上昇する傾き」で約 69.3° に当たる(1.209… × 180/π = 69.295…)。
同様に:
Arg [(1 − 3i√7)/2] = Arg (1 − 3i√7) = arctan (−3√7) = arctan (−7.937…) = −1.445…
これは「横に 1 進むごとに −7.94 ほどの急下降」で約 −82.8° に当たる。直観的には、上記の約 69.3° の 4 倍になっているとは思えないが、実は −82.8° の方位は +277.2° の方位と同じなので、ちょうど4倍。 arctan が気を利かせて −1.445… + 2π = 4.837… を返してくれれば、1.209… の 4 倍ってことが分かりやすいのだが、一般的な仕様では arctan は −90° ~ +90° の範囲の値(主値)を返す(ラジアンで言えば −π/2 = −1.5707… と π/2 = 1.5707 の間の値)。
実際、向きのない「直線」の傾きは、 −90° ~ +90° の範囲で、過不足なく表現可能――例えば、「原点と (1, 1) と通る直線」「原点と (−1, −1) を通る直線」は同一の直線なので、どちらも同じ傾き 45° を持つ。他方、「複素平面上の特定の点」を原点から見た場合の方位(偏角)には、「向き」がある――例えば (1, 1) と (−1, −1) は、原点から見て正反対の向き。そのため「偏角」を arctan で求める場合、 arctan の値をうのみにできない: 実部・虚部の正負から正しい象限を判断する必要があり、場合によっては、360° の倍数のずれも問題になる。ここで考えている [(1 − 3i√7)/2] などは、実部が正なので第1・第4象限にあり偏角が −π ~ π の範囲なので、単純に、偏角の主値と arctan の主値を同一視できる。
ところで 2π の整数倍のずれが生じる「欠点」を逆用すると、
4 arctan √7 = −arctan (3√7) + 2π
つまり 4 arctan √7 + arctan (3√7) = 2π
…といった、ちょっと面白い式を考えることもできる――ただし、ここでは上記のことに加え arctan (−3√7) = −arctan (3√7) という事実を使った。「横に 1 進むごとに u 上昇する場合の上昇角 arctan u と、横に 1 進むごとに −u 上昇(というか下降)する場合の上昇角は、大きさが同じで符号が反対」という当たり前のことだが…。
arctan (−u) = −arctan u
【4】 この 4 arctan √7 のような形について。例えば、
2 arctan √7 = arctan √7 + arctan √7
…であり、 4 arctan √7 なら arctan √7 を 4 個、足したものに等しい。自然と次のような疑問が浮かぶ:
? tan (α + β) とか tan 2α とかを計算する公式ってあるけど、
arctan u + arctan v とか 2 arctan u とかも、直接的に計算できるのだろうか?
実は tan の加法定理(下記)†から、簡単にそのような式が得られる。
tan (α + β) = (tan α + tan β)/(1 − tan α tan β)
両辺の arctan を考えると:
α + β = arctan ((tan α + tan β)/(1 − tan α tan β))
ここで u = tan α, v = tan β とすると α = arctan u, β = arctan β。これらを上の式に代入して:
arctan の加法定理(暫定版‡) arctan u + arctan v = arctan ((u + v)/(1 − uv))
特に u = v なら:
arctan u + arctan u = 2 arctan u = arctan ((2u)/(1 − u2))
u = √7 の場合には…
2 arctan √7 = arctan ((2√7)/(1 − 7))
= arctan (−√7/3)
同じ「2倍の公式」を u = −√7/3 として再び使うと:
4 arctan √7
= 2 arctan (−√7/3)
= arctan [(2(−√7/3))/(1 − 7/9)]
= arctan [(−2√7/3)/(2/9)]
= arctan [(−6√7)/(2)]
= arctan (−3√7)
x4 = [(1 − 3i√7)/2]z4 の偏角 arctan (−3√7) が x = [(1 + i√7)/2]z の偏角 arctan √7 のちょうど 4 倍であることが(ただし 2π の整数倍の違いを無視)、具体的な角度の数値を考えることなしに、直接示されたのである!
† tan (α + β) = [sin (α + β)] / [cos (α + β)] つまり…
[sin α cos β + cos α sin β] / [cos α cos β − sin α sin β]
…の分子・分母の全部の項を cos α cos β で「約分」すると:
[(sin α)/(cos α) + (sin β)/(cos β)] / [1 − (sin α sin β)/(cos α cos β)] = [tan α + tan β] / [1 − tan α tan β]
‡ この定理では、 uv = 1 だと分母が 0 になってしまう。従って uv ≠ 1 を条件とする。さらに、任意の角度 φ について、素朴に「tan φ の arctan は φ」と想定している。主値が絡む場合、この想定は必ずしも正しくない。これらの件の詳細ついては後述。
【5】 arctan の加法定理の簡単な例。 Euler など18世紀の研究者は、この種の関係に気付いていた(Euler† は arctan を At と記している)。
arctan 1/2 + arctan 1/3 = π/4
実際、左辺 = arctan {[1/2 + 1/3]/[1 − (1/2)⋅(1/3)]}
= arctan {[5/6]/[5/6]}
= arctan 1 = π/4
なぜなら tan π/4 = 1、要するに 45° の傾きでは横に 1 進むごとに縦に 1 上がる。
† https://scholarlycommons.pacific.edu/euler-works/74/
【6】 次の式は、有名な Machin の公式。英国の John Machin は1706年、この巧妙な等式に基づき、人類史上初めて円周率を100桁まで計算した!
4 arctan 1/5 − arctan 1/239 = π/4
この等式が成り立つことを確かめておきたい。
4 arctan 1/5 は【4】と同様、「2倍の公式」を2回使って計算可能:
2 arctan 1/5 = (2/5)/(1 − 1/25)
= arctan (2/5)/(24/25)
この分数は、分子・分母を 25 倍すると 10/24 = 5/12 に等しい。従って:
4 arctan 1/5 = 2 arctan 5/12
= arctan (5/12 × 2)/(1 − 25/144)
= arctan 120/119
さて、前記の arctan の加法定理で v を −v に置き換えると:
arctan u − arctan v = arctan ((u − v)/(1 + uv))
u = 120/119, v = 1/239 を代入すると:
4 arctan 1/5 − arctan 1/239
= arctan 120/119 − arctan 1/239
= arctan (120/119 − 1/239)/(1 + (120/119)⋅(1/239)) = arctan (28561/28441)/(28561/28441) = arctan 1 = π/4
対称多項式という本題から脱線してしまったが、Machin の公式はそれ自体として面白い。 Machin による100桁の計算は偉業だった。やがて一部の人々は取りつかれたように計算競争を行い、数世紀後の2024年現在、円周率の計算は、100桁どころか100兆桁のオーダーに達しているという。もはや純粋な学術というより「記録のための記録」――「ギネスに挑戦!」のような遊び、あるいは無意味な虚栄――の世界かもしれない。 Bill Gosper は、一時は円周率計算の桁数新記録も保持していたが(いわく† temporarily stealing the pi computation record from Japan
)、次のような興味深いことを述べている‡:
I resumably summed Ramanujan's series as an exact rational number […], converting to decimal now and then for comparison with Kanada, but with the ultimate purpose of computing the {3,7,15,1,292,...} continued fraction, which is actually mathematically interesting, as opposed to useless decimal or binary […]. Regrettably, (almost) everybody ignored my continued fraction and wasted their time computing (eventually trillions of) useless digits.
† https://gosper.org/bill.html
‡ https://hsm.stackexchange.com/a/11620
2024-06-02 円周率を8桁計算 お遊び
arctan の加法定理 arctan u + arctan v = arctan ((u + v)/(1 − uv)) を使って、円周率を8桁ほど計算してみる(Machin の公式)。
arctan の加法定理には、やや分かりにくい弱点がある。一つの問題点は、「u と v が互いに逆数のとき、左辺は計算可能なのに、右辺は分母が 0 になってしまい計算ができない」ということ。
〔例〕 sin 30° = 1/2, cos 30° = (√3)/2 なので tan 30° = sin 30° ÷ cos 30° = 1/(√3)、従って arctan (1/√3) = 30° = π/6。同様に tan 60° = √3、従って arctan √3 = 60° = π/3。よって arctan (1/√3) + arctan √3= π/6 + π/3 = π/2。これは u = 1/√3, v = √3 の場合の arctan u + arctan v で、普通に計算できる。にもかかわらず、定理の右辺にある分数は、分母が 1 − uv = 0 になってしまい、計算できない。
この欠点を解決するには uv = 1 の場合を個別に扱う必要がある。
【1】 三角関数の基礎によると sin θ = cos (π/2 − θ), cos θ = sin (π/2 − θ) なので:
tan (π/2 − θ) = sin (π/2 − θ) ÷ cos (π/2 − θ)
= cos θ ÷ sin θ = cot θ = 1 / tan θ
両辺の arctan を考えると:
π/2 − θ = arctan (1 / tan θ)
tan θ = u と置くと θ = arctan u なので:
π/2 − arctan u = arctan (1/u)
つまり arctan u + arctan (1/u) = π/2
1/u を v とすると uv = u(1/u) = 1。上の式はこうなる:
arctan u + arctan v = π/2
つまり uv = 1 の場合の arctan u + arctan v は計算可能で、一応 = π/2 となる。前記の〔例〕とも結果が一致。
【2】 上記の計算には、依然として主値の問題がある。 u = tan θ が正なら上記の通りだが、もし u が負なら v = 1/u も負で、それらの arctan の主値は −π/2 と 0 の間の負の値。そのとき arctan u + arctan v は負であり = π/2 では、つじつまが合わない。
この不具合の原因は、【1】の導出の過程において、「角 φ = π/2 − θ が arctan (tan φ) = φ を満たす」と想定していること。arctan の主値を考える場合、 0 < θ < π/2 なら想定通りだけど、 −π/2 < θ < 0 だと駄目。
θ がそのような角の場合、代わりに角 φ = −π/2 − θ を考えれば、その φ は −π/2 と 0 の間にあるので、 φ = arctan (tan φ) という単純な逆算が成り立つ。
〔補足〕 φ1 = π/2 − θ と φ2 = −π/2 − θ は、ちょうど 180° 違う角度なので、どちらを φ としても、多対1の関数 tan φ は同じ値 u を返す。しかし1対1の関数 arctan は少々気難しく、 arctan u は φ1 と φ2 の両方の値を取り得ない: arctan (tan φ) = arctan u = φ という「逆算」が成り立つためには――つまり「φ の tan の arctan」が φ に戻るためには――、 arctan の仕様に合うように、角度 φ の範囲を制限する必要がある。
その点だけ気を付ければ、【1】と全く同様。 −π/2 < θ < 0 の場合…
tan (−π/2 − θ) = tan (π/2 − θ) = 1 / tan θ
…の両辺の arctan を考え、 tan θ = u と置くと(θ についての条件から u は負):
−π/2 − θ = arctan (1 / tan θ) つまり −π/2 − arctan u = arctan (1/u)
従って、この場合 arctan u + arctan (1/u) = −π/2 となる。まとめると――
arctan u + arctan (1/u) = ±π/2 複号は u が正ならプラス、負ならマイナス
【3】 主値の問題は、それだけではない。 arctan w の主値は、いかなる実数 w に対しても絶対値が π/2 より大きくならないのだから†、 arctan u + arctan v という和の絶対値が π/2 より大きくなる場合も考慮して主値バージョンの arctan の加法定理を作るなら、次の補正が必要だろう: もし arctan u + arctan v が π/2 より大きければ〚 −π/2 より小さければ〛、 π を引く〚足す〛。
arctan の加法定理(主値バージョン) 第一に uv ≠ 1 なら:
arctan u + arctan v = arctan ((u + v)/(1 − uv))
ただし左辺の和の絶対値が π/2 を超える場合、右辺に π を加減する。
第二に uv = 1 つまり v = 1/u なら:
arctan u + arctan 1/u = ±π/2 複号は u の符号と同じ
第三に v を −v に置き換えた次の形については、 uv が = 1 でも ≠ 1 でも構わない(左辺の絶対値については、上と同じ注意が必要)。
arctan u − arctan v = arctan ((u − v)/(1 + uv))
† arctan の主値の絶対値は、決して π/2 より大きくならないだけでなく、 π/2 に等しくなることもない。従って arctan u + arctan v が ±π/2 に等しい場合にも、素朴な加法定理では、右辺で問題が生じる。そのケースについては、既に【1】【2】で個別に対処した。
【4】 前回 Machin の公式…
4 arctan 1/5 − arctan 1/239 = π/4 つまり
arctan 120/119 − arctan 1/239 = arctan 1
…の左辺の値を実直に計算し、右辺と等しいことを確かめた。公式の成立を確かめるだけなら、移項した…
arctan 120/119 − arctan 1 = arctan 1/239
…を示した方が、はるかに簡単。上掲の定理で u = 120/119, v = 1 の場合だから、
arctan ((120/119 − 1)/(1 + 120/119))
…を求めればいい。この分数の分子は 120/119 − 119/119 = 1/119、分母は 119/119 + 120/119 = 239/119 なので、分数の値は:
1/119 ÷ 239/119 = 1/239
Machin の公式の正しさが、あらためて確認された!
【5】 実際に円周率を計算してみましょう。解析学から、次の公式を引用する。
arctan x = x
− x3/3
+ x5/5
− x7/7
+ x9/9
− …
もちろん現実には、こういう「無限の足し算」を計算することはできないけど、 x が小さい数、例えば x = 1/5 = 0.2 なら、その7乗、9乗…はかなり小さい数なので、最初の数項だけ計算して後は無視しても、誤差は小さいであろう。「収束」というテクニカルな問題もあるが、今は細かいことを気にせず、とりあえず最初の3項だけ計算してみると(それを A とする):
A = arctan (1/5) ≈ (1/5) − (1/5)3/3
+ (1/5)5/5
= (1/5) − (1/125)/3 + (1/3125)/5 = 9253/46875 = 0.1973973333…
〔参考〕 正確には arctan (1/5) = 0.1973955598…。上記の計算は簡易的とはいえ、小数5桁まで正しい。
(1/239)3 は既にかなり小さいので、arctan (1/239) の方は手を抜いて、全然足し算をせず最初の1項だけ(それを B とする)をそのまま使うことにする:
B = arctan (1/239) ≈ 1/239 = 0.00418410041841…
Machin の公式によれば 4A − B が円周率の 4 分の 1。つまり (4A − B) × 4 = 16A − 4B が円周率ということになる。試してみると…
16A = 16 × 0.1973973333… = 3.1583573333…
4B = 4 × 0.0041841004… = 0.0167364016…
従って 16A − 4B = 3.1416209316…
円周率の真の値は 3.1415926535… なので、この程度の(半分手抜きのような)計算でも小数3桁まで正しい。正12角形、正24角形…などを使う円周率の近似と比べ、段違いに効率が良い!
【6】 調子に乗って、もう少し項を足してみる。 x = 1/5 とすると:
x − x3/3 + x5/5 − x7/7 = 323852/1640625
分母は、まだ7桁。もうちょっと精密な(例えば10億分の1くらいの解像度の)値にしたい…。
x − x3/3 + x5/5 − x7/7 + x9/9 = 24288907/123046875
分母が9桁になった。もう1項、追加する。
x − x3/3 + x5/5 − x7/7 + x9/9 − x11/11 = 6679449362/33837890625
この分数を C としよう。省略した次の項 x13/13 は、最終的に小数第9位に影響する程度なので、これでも8桁くらいの精度が得られるだろう。
一方、 y = 1/239 とすると…
y − y3/3 = 171362/40955757
次の項 y5/5 の影響は、小数第12位くらいの微々たるものなので(1/5 に比べて 1/239 は微小なので、5乗するとほとんどゼロで影響が小さい)、簡易計算としては、この分数 171362/40955757(それを D とする)で十分だろう。
先ほどと同様に 16C から 4D を引く。
16C = 6679449362 × 16 ÷ 33837890625 = 3.15832 89566 236…
4D = 171362 × 4 ÷ 40955757 = 0.01673 63040 072…
16C − 4D = 3.14159 26526 163…
円周率の真の値は 3.14159 26535… なので(産医師、異国に婿さんゴー)、今度は8桁まで正しい!
計算の仕方には工夫の余地もありそうだが、お遊びとしては、満足すべき結果が得られた。
2024-06-03 arctan 1 + arctan 2 + arctan 3 = π 三角形の内心
第一式 arctan 1 + arctan 2 + arctan 3 = π
第二式 arctan 1 + arctan (1/2) + arctan (1/3) = π/2
これら二つの面白い式については、いろいろな証明が可能。以下の幾何学的証明は、明快でエレガントだと思われる。辺の長さが 3, 4, 5 の直角三角形 ABC を考える(AB = 3, AC = 4, BC = 5)。 辺 AB 上で A からの距離 1 の点を P、辺 AC 上で A からの距離 1 の点を R として、一辺 1 の正方形 APQR を描き、 △BQP ≡ △BQS になるように辺 BC 上の点 S を選ぶ。
もちろん a = ∠PQA = 45° = π/4。 45° の傾きでは、水平(横)に 1 進むごとに垂直(縦)に 1 上昇するので、 tan a = tan (π/4) = 1、逆に言えば arctan 1 = π/4 = a。
今、 BQ を斜辺とする直角三角形 BQP を考え ∠BQP = d とすると、この斜辺の傾きでは(Q から P へ)横に 1 進むごとに垂直に 2 上昇するので、 tan d = 2 つまり arctan 2 = d。同様に CQ を斜辺とする △CQS を考え ∠CQS = e とすると tan e = 3 つまり arctan 3 = e。
a + a + d + d + e + e = 360° = 2π は Q の周りを一周する角度。その半分は:
π = a + d + e = arctan 1 + arctan 2 + arctan 3
全く同様に ∠ABC の半分 b について tan b = 1/2 つまり arctan (1/2) = b。 ∠BCA の半分 c について tan c = 1/3 つまり arctan (1/3) = c。 a + a + b + b + c + c = 三角形の内角の和 = 180° なので、 a + b + c = 90° = π/2。よって arctan 1 + arctan (1/2) + arctan (1/3) = π/2。∎
別証明 第一式。 arctan 1 = π/4 なので arctan 2 + arctan 3 = 3π/4 を示せば十分。加法定理によると、本質的には…
arctan 2 + arctan 3 と arctan [(2 + 3)/(1 − 2⋅3)] = arctan (−1) = −π/4
…は等しい。ただし、主値の都合により ±π のずれは生じ得る。正の数の arctan は正なので arctan 2 + arctan 3 は正。よって、主値を考えると、上記右端の −π/4 には +π の補正が必要: −π/4 + π = 3π/4。
第二式。 arctan (1/2) + arctan (1/3) = π/4 を示せば十分。
arctan (1/2) + arctan (1/3) = arctan [(1/2 + 1/3) / (1 − 1/6)] = arctan [(5/6) / (5/6)] = arctan 1
両辺とも正なので、補正不要。∎
「主値を考えると arctan u + arctan v = arctan [(u + v)/(1 − uv)] のイコールは、真のイコールではない」ということに注意(場合によって ±π のずれが生じる)。要するに mod π の ≡ である。
別証明2 第一式。 x = 1 + i, y = 1 + 2i, z = 1 + 3i の偏角はそれぞれ arctan 1, arctan 2, arctan 3。複素数の積の性質から、これら三つの偏角の和は――必要に応じて 2π の整数倍の違いを無視すれば―― xyz の偏角と等しい。
xy = 1 + 3i − 2 = −1 + 3i
よって xyz = (−1 + 3i)(1 + 3i) = (3i)2 − 12 = −9 − 1 = −10
従って、何らかの整数 n に対して、次が成り立つ:
arctan 1 + arctan 2 + arctan 3 = arg (−10) + 2nπ = π + 2nπ
この左辺各項は 0 ~ 0.5π の範囲にあるので、左辺の和は 0 ~ 1.5π の範囲にある。ゆえに n = 0。
第二式。 x = 1 + i, y = 2 + i, z = 3 + i とすると、 arg (xyz) = arctan 1 + arctan (1/2) + arctan (1/3)。
xy = 2 + 3i − 1 = 1 + 3i = i(3 − i)
よって xyz = i(3 − i)(3 + i) = i(32 − i2) = 10i
従って arctan 1 + arctan (1/2) + arctan (1/3) = π/2 + 2nπ と書ける。第一式と同様に n = 0。∎
作図から、次のことも観察される。 △BQP に関連して cos d = QP/BQ = 1/√5, sin d = BP/BQ = 2/√5なので:
cos (arctan 2) = 1/√5
sin (arctan 2) = 2/√5
これらの値は、もちろん三平方の定理を満たす:
cos2 (arctan 2) + sin2 (arctan 2)
= (1/√5)2 + (2/√5)2
= (1 + 4)/5 = 1
同様に:
cos (arctan 3) = 1/√10 sin (arctan 3) = 3/√10
一般に:
cos (arctan u) = 1/√u2 + 1 sin (arctan u) = u/√u2 + 1
それらの平方和 = 12/(u2 + 1)
+ u2/(u2 + 1) = 1
ところで、点 Q は △ABC の三つの内角それぞれの二等分線(AQ, BQ, CQ)の交点であり、三角形の内心と呼ばれる。内心は、その三角形において、各辺からの垂直距離が等しい点でもある(この例では PQ = RQ = SQ = 1)。言い換えれば、内心は、三角形の内接円の中心。
三角形の三つの頂点から(計3本の)内角2等分線を引くと、それらが一点(つまり内心)で交わる――ということ(しかも、それが内接円の中心と一致すること)。上記の作図の三角形に関する限り、そのことは「見れば分かる」というか、ほぼ一目瞭然だろう。
〔証明〕 ∠BAC の二等分線と ∠ABC の二等分線の交点を Q として、 Q から各辺へ垂線を引く(線分 QP, QR, QS)。 △AQP ≡ △AQR: なぜなら、どちらも直角三角形で、直角以外の角の少なくとも一つが等しいので(仮定から ∠PAQ = ∠RAQ)、対応する三つの内角が全て等しく、しかも斜辺の長さが一致(どちらの三角形も AQ を斜辺とする)。ゆえに、辺 QP = QR。同様に △BQP ≡ △BQS なので、辺 QP = QS。後は、直線 CQ が ∠ACB の二等分線であることを言えばいい。そのために △CQR ≡ △CQS を示す。この二つは直角三角形だが、辺 QS = QR であり、斜辺 CQ = CQ も共通。三平方の定理から†、「対応する二つの辺」の長さがそれぞれ等しい直角三角形は、「対応するもう一つの辺」の長さも等しい。すなわち △CQR ≡ △CQS は合同な直角三角形。∎
† この特定の三角形(3辺の長さが AB = 3, AC = 4, BC = 5)の場合、作図から線分 AR = AP = 1 であることは明白。辺 AB = 3 なので、必然的に BP = 2。従って △BQP と合同の △BQS において、対応する辺 BS も = 2。よって三平方の定理を使うまでもなく、辺の長さの引き算から CR = CS = 3 となり(なぜなら AC = 4, BC = 5)、緑の二つの直角三角形(△CQR と △CQS)は合同(3辺の長さが等しいので)。
2024-06-04 円周13等分に関連する4次式
円周13等分に関連して、ある種の強引なアプローチについて記す。 T = 2π/13 とすると:
cos T + cos 3T + cos 4T = (−1 + √13)/4 《あ》
cos 2T + cos 5T + cos 6T = (−1 − √13)/4 《い》
θ = π/13 として cos 4T = cos 8θ = −cos 5θ などに注意すると、それぞれこう書くこともできる:
cos 2θ − cos 5θ + cos 6θ = (−1 + √13)/4 《う》
−cos θ − cos 3θ + cos 4θ = (−1 − √13)/4 つまり
cos θ + cos 3θ − cos 4θ = (1 + √13)/4 《え》
【1】 cos T の根号表現を求める便利な方法は、《あ・い》から cos T, cos 3T, cos 4T を根とする3次式を構成し、その根の主値を求めること。しかし最初この問題を考えたとき、そのアイデアを思い付かず、《あ》に3倍角・4倍角の公式を適用してしまった。その方法だと、 x = cos T として、次の4次方程式が生じる。
8x4 + 4x3 − 8x2 − 2x + 1 = (−1 + √13)/4 《お》
《お》の左辺は、《あ》を多倍角でばらして x = cos T と置いたに過ぎず、《お》は《あ》と実質ほぼ同じ。ただし4次式なので、根が一つ増えている。
h = √13 として整理すると:
8x4 + 4x3 − 8x2 − 2x + (5 − √13)/4 = 0
両辺を 8 で割って:
x4 + (1/2)x3 − x2 − (1/4)x + (5 − √13)/32 = 0 《か》
《あ》の左辺の値は T を 3T に置き換えても変わらない。実際 cos (3T) + cos 3(3T) + cos 4(3T) = cos 3T + cos 9T + cos 12T = cos 3T + cos 4T + cos T。同様に T を 4T に置き換えても、《あ》の左辺は不変。従って x = cos T が《か》の一つの解なら(実際そうである)、 x = cos 3T, x = cos 4T も《か》の解。では4次方程式《か》の、もう一つの解(δ とする)は何か? 解と係数の関係から:
(cos T + cos 3T + cos 4T) + δ = −1/2
ここで cos T + cos 3T + cos 4T の値は《あ》の通りなので:
δ = −1/2 − (−1 + √13)/4 = (−1 − √13)/4
【2】 よって、少なくとも原理的には、《か》の左辺は…
x − δ = x + (1 + √13)/4 《き》
…で割り切れ(多項式の割り算。係数は、有理数に h を添加したもの)、商は cos T, cos 3T, cos 4T を根とする3次式となる。係数に無理数があるものの、この割り算は普通に実行可能。その準備として、簡潔化のため分数を解消しておく: 《か》で x = y/4 と置いて両辺を 44 = 256 倍すると…
y4 + 2y3 − 16y2 − 16y + (40 − 8h) = 0 《が》
因子《き》にも同じ変数変換を施すと y/4 + (1 + √13)/4 であり、《が》がこの因子で割り切れるのだから、《が》はそれを 4 倍した…
y + (1 + h) 《ぎ》
…でも割り切れる。 h2 = 13 に留意しつつ、筆算で《が》の左辺を《ぎ》で割る:
y^3 + (1-h)y^2 - 4y + (-12+4h) ┌────────────────────────────────────────── y + (1+h) │ y^4 + 2y^3 - 16y^2 - 16y + (40-8h) y^4 + (1+h)y^3 ────────────── (1-h)y^3 - 16y^2 (1-h)y^3 - 12y^2 \\ #1 ──────────────── - 4y^2 -16 y - 4y^2 -(4+4h)y ─────────────── (-12+4h)y + (40-8h) (-12+4h)y + (40-8h) \\ #2 ─────────────────── 0 #1: (1+h)*(1-h)y^2 = (1-13)y^2 = -12y^2 #2: (1+h)*(-12+4h) = -12+4*13 + (-12+4)h = 40-8h
この商の3次式…
y3 + (1 − h)y2 − 4y + (−12 + 4h)
…の零点は、x = cos T, cos 3T, cos 4T に対応する。 x = y/4 つまり y = 4x なので、具体的には y = 4 cos T, 4 cos 3T, 4 cos 4T がこの3次式 = 0 の解。2次の係数を 3 の倍数にするため y = z/3 と置き、両辺を 33 倍すると:
z3 + (3 − 3√13)z2 − 36z + (−324 + 108√13) = 0
既に得たのと同じ3次方程式が得られた!
この場合、上記のアプローチは遠回りで非効率だが、「係数の範囲が有理数より拡大している多項式でも、恐れてはいけない」「因子が分かっているなら、原始的な筆算でも分解可能」という教訓が得られる。その際、√13 のような数をそのまま根号を使って何度も書くのは煩雑なので、定数として文字を割り当てるのが便利だろう(ここでは h とした)。計算を簡潔にするため、必要に応じて変数を置換し、係数の分数も解消した方がいいだろう(特に筆算の場合)。
〔付記〕 有理数体に √D を添加して二次体の整数を作るとき、もし D ≡ 1 (mod 4) なら a + b√D の a, b を有理整数とは限らず、 a, b が両方とも半整数(奇数の半分)でも良いとする。よく知られている例として、Eisenstein 整数 a + b√−3 においては、 a, b は必ずしも有理整数ではなく、同時に半整数の値を取ることができる。同様に a + b√13 の形の数(a, b: 有理数)から「整数」を抜き出すなら、理論上 a, b は半整数でも良い。本文の計算では、主に表記の便宜上 √13 を h と略しているだけで、厳密に代数的整数の割り算を考えているわけではない(例えば、因子《き》には、半整数どころか h/4 の端数がある)。
2024-06-05 円周13等分に関連する4次式(続き)
【3】 《が》の4次式 y4 + 2y3 − 16y2 − 16y + (40 − 8h) は、
(y + 1 + h)[y3 + (1 − h)y2 − 4y + (−12 + 4h)]
…と分解される。その一つの根は y = −1 − h = 4(cos 2T + cos 5T + cos 6T) であり、残りの三つの根は、3次式…
y3 + (1 − h)y2 − 4y + (−12 + 4h)
…の零点 y = 4 cos T, 4 cos 3T, 4 cos 4T。この3次式の根を代数的に求めることは、比較的易しい。根の主値は:
4 cos T = {3√[104 − 20√ + 12√]
+ 3√[104 − 20√ − 12√]
− 1 + √13}/3
従って、《が》を4次方程式として直接解くことは、実用上必要ない。しかし4次方程式だから、原理的には解くことができる。それを試してみたい。
【4】 《が》の式…
y4 + 2y3 − 16y2 − 16y + (40 − 8h) = 0
…を、
(y2 + y + p)2 − (qy + r)2 = 0
…の形に変形した場合、p は次の3次方程式を満たさねばならない。
8p3 − 4(−16)p2 + [2⋅2(−16) − 8(40 − 8h)]p − 22(40 − 8h) + 4(−16)(40 − 8h) − (−16)2 = 0
つまり 8p3 + 64p2 + (−384 + 64h)p + (−2976 + 544h) = 0
両辺を 8 で割ると:
p3 + 8p2 + (−48 + 8h)p + (−372 + 68h) = 0
p = u/3 と置いて両辺を 27 倍すると:
u3 + 24u2 + (−432 + 72h)u + (−10044 + 1836h) = 0
u = v − 8 と置くと:
v3 + (−624 + 72h)v + (−5564 + 1260h) = 0
この3次方程式の解の主値 V は、対応する2次式…
w2 + (−5564 + 1260h)w + (208 − 24h)3
…の零点 2782 − 630h ± 30√(−858 − 234h) を使って、次のように表現される:
V = 3√[2782 − 630h + 30√( )]
+ 3√[2782 − 630h − 30√( )]
従って、求める p の主値は:
p = (V − 8)/3 = (3√[2782 − 630h + 30√( )]
+ 3√[2782 − 630h − 30√( )] − 8)/3
それに対応して:
q = √(17 + 2p), r = (8 + p)/√(17 + 2p)
これらの p, q, r を使って《が》は、次の形に変形される。
(y2 + y + p)2 = (qy + r)2 つまり
y2 + y + p = qy + r または y2 + y + p = −qy − r
第一式の解は y2 + (1 − q)y + (p − r) の根。つまり…
y2 + (1 − √(17 + 2p))y + [p − (8 + p)/√(17 + 2p)]
…の根。機械的に計算すると:
2y = −1 + √(17 + 2p) ± √{(1 − √()2 − 4[p − (8 + p)/ )√(] )}
この右辺は、複号でプラスを選ぶと 8 cos T に等しく、マイナスを選ぶと 8 cos 3T に等しい。同様に、第二式の根は:
2y = −1 − √(17 + 2p) ± √{(1 + √()2 − 4[p + (8 + p)/ )√(] )}
この右辺は、複号でプラスを選ぶと 8 cos 4T に等しく、マイナスを選ぶと…
8(cos 2T + cos 5T + cos 6T) = −2 − 2√13
…に等しい。
p が既に二重根号を含んでいることから、これらの根号表現は、3次方程式経由の根号表現と比べると、かなり複雑。特に、簡単な無理数 −2 − 2√13 が、四重根号で難解に表現されている。
実用性を度外視するなら、この方法でも cos T などの正確な値に対応する根号表現が得られる。実際には、この4次式を1次式と3次式に分解して、3次方程式を解いた方が簡潔な根号表現が得られるし、そのアプローチの方が、内容的にも整然としている(3次方程式の三つの解が対称的な役割を果たす)。4次方程式経由のこの方法は、それ自体としてはあまり便利ではないが、参考までに、どんな感じになるのか試してみた。多重根号などは多少簡約可能かもしれないが、原理的に、3次方程式経由の根号表現よりは簡単にならないだろう。
【5】 John Casey は、円周13等分がこのような4次方程式に依存すると記している†。その議論は、《え》の…
cos θ + cos 3θ + cos 9θ =
cos θ + cos 3θ − cos 4θ = (1 + √13)/4
…に基づく。これは
cos 2T + cos 5T + cos 6T
= (−1 − √13)/4 を考える代わりに、各項の符号を反転させたものに当たる。ここで θ = π/13, T = 2π/13。 −cos 2T, −cos 5T, −cos 6T つまり cos θ, cos 3θ, cos 9θ を根とする3次方程式は構成可能であり、3次方程式に帰着させるのが良い選択だろう。しかし仮に4次式を作ってしまった場合、どうなるか。
cos θ + cos 3θ − cos 4θ = cos θ + (4 cos3 θ − 3 cos θ) − (8 cos4 θ − 8 cos2 θ + 1)
= −8 cos4 θ + 4 cos3 θ + 8 cos2 θ − 2 cos θ − 1 = (1 + h)/4
従って 8 cos4 θ − 4 cos3 θ − 8 cos2 θ + 2 cos θ + (5 + h)/4 = 0
w = cos θ と置くと:
8w4 − 4w3 − 8w2 + 2w + (5 + h)/4 = 0
両辺を 8 で割って:
w4 − (1/2)w3 − w2 + (1/4)x + (5 + √13)/32 = 0 《く》
《く》は《か》と同様の式であり、その4解の和は 1/2、そのうち既に分かっている3解の和は (1 + h)/4 であるから、もう一つの解は (1 − h)/4 でなければならない。すなわち《く》は w − (1 − h)/4 で割り切れ、3次式の問題に帰着する。 Casey は、4次方程式を次の形にしているが、それは《く》で w = x/2 と置いて両辺を 24 倍したものに当たる:
x4 − x3 − 4x2 + 2x + (5 + h)/2 = 0 《け》
《け》の4解の和は 1、そのうち3解の和は 2 cos θ + 2 cos 3θ − 2 cos 4θ = (1 + h)/2 であるから、《け》のもう一つの解は (1 − h)/2 であり、《け》は x − (1 − h)/2 で割り切れる。
x4 − x3 − 4x2 + 2x + (5 + h)/2 = [x − (1 − h)/2][x3 − (1 + h)/2⋅x2 − x + (3 + h)/2]
《け》の4次式にしてしまった場合でも、それを直接4次式として解くのではなく、このように分解して、3次方程式…
x3 − (1 + h)/2⋅x2 − x + (3 + h)/2 = 0
…を解いた方が良い。
実際には《く》で w = y/4 と置いて両辺を 44 倍した方が、分数がなくなって式が簡潔になる。
y4 − 2y3 − 16y2 + 16y + (40 + 8h) = 0
この左辺は y − 1 + h で割り切れる:
(y − 1 + h)[y3 − (1 + h)y2 − 4y + (12 + 4h)] = 0
この [ ] 内 = 0 という3次方程式について、 y = z/3 と置いて両辺を 27 倍すれば:
z3 + (−3 − 3h)z2 − 36z + (324 + 108h) = 0
これは解決済みの3次方程式。
† https://archive.org/details/treatiseonplanet00caseuoft/treatiseonplanet00caseuoft/page/64/mode/1up
Casey のアプローチは原理的には間違っていないものの、円周13等分との関連では良くない。自分自身も一度は同じようなことを試しているが、結論としては、この4次方程式を直接的に解こうとすると複雑になってしまい、簡潔な根号表現を得られない。4次式を分解して3次方程式を解くなら、きれいな根号表現を得られるが、それは無駄な遠回り; 4次式を経由せず、最初からその3次方程式を構成した方が合理的だろう。