ガウスの和(遊びの数論33)

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きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。


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2024-10-22 x17 = 1 の代数的解法/まとめ 補足・反省・展望

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式 #正17角形 #x17 = 1 #ガウス和

① x17 = 1 の 1 を移項して (x − 1)(x16 + x15 + ··· + x + 1) = 0 と書ける。右側の丸かっこ内 = 0 を解きたい。

② 次の恒等式を利用。
  4(x16 + x15 + ··· + x + 1) = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − 17(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2

③ すると x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 の左辺は、二つの8次式の積に分解

④ y = x + 1/x と置くと、二つの4次式になる

⑤ 4次式は、二つの2次式の積に分解。2次方程式の解は、機械的に求まる。

⑥ 第一の4次式に対応する解第二の4次式に対応する解。計 8 個の解 y は全て実数で、③ の解 x の実部の 2 倍(実際には、便宜上 z = 2y と置いた: z は x の実部の 4 倍)。 ③ の 16 個の解の実部(2 個ずつ等しい)が全て判明。

⑦ ±[(1 − C)/2]解 x の虚部。ここで C は、③ の解のうち x から見て「偏角が 2 倍の数」の実部。

群論的考察も三角関数も不使用。真に良い解法ではないが、それなりに面白い。

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この問題の本来の解法は、群論的。群論的考察を隠して、三角関数を使うことも珍しくない(多少のバリエーションはあるだろうが、天下り的に特定の解の和を考えることになる)。

群論的アプローチは、次の事実に基づく。 mod 17 の原始根(群論の言葉で言えば生成元)の一つを g とすると、 g0, g1, ···, g15 によって mod 17 の 0 以外の各要素が過不足なく表現される。この本来のアプローチについては、多くの文献・資料で見ることができる。ただし肝心の「なぜそれでうまくいくのか」の説明が抜けていたり、分かりにくかったりすることもあるようだ。

三角関数バージョンについて、複素数を使わない平易な方法を「週末は17角形で!」として以前記した。普通に複素数を使えば、工夫の余地がある。インドの Resonance 誌に掲載された方法では、三角関数の使い方が(天下り的だが)うまく簡単化されていて、しかも、作図可能性の証明がそのまま正17角形の実用的な作図法を与えてくれる。作図の正しさの証明に関する限り、標準的な Richmond の方法より分かりやすいかも。

† D Surya Ramana: “Carl Friedrich Gauss”, Resonance, Vol. 2, Issue 6 (June, 1997), pp. 60–67
https://www.ias.ac.in/listing/articles/reso/002/06
https://web.archive.org/web/20220623063713/https://www.ias.ac.in/listing/articles/reso/002/06

とはいえ、結局のところ、天下り的な議論は良くない。本来の方法をバイパスする「別解」を 2 通り試してみて、ひしひし感じる。これは邪道だな…と。「週末は17角形で!」「x17 = 1 の代数的解法」、どちらも楽しい遊びだったし収穫もあったけど、技術的には正しくても、核心が不透明。実用上も、代数的解法では、途中で3次方程式の解を試行的に見つけなければならない。実行可能だが、面倒くさい。

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最大の欠点は、恒等式
  4(x16 + x15 + ··· + x + 1) = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − 17(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2
の導出法が「便宜的」であること(この種の恒等式の存在を一般的に論じるためには、本来の理論に取り組まなければならないだろう)。得られた恒等式が正しいこと自体は、小学生の宿題のような単純計算で検証できる:

                                       2   1   5   7   4   7   5   1   2
                                       2   1   5   7   4   7   5   1   2
掛け算
                                       4   2  10  14   8  14  10   2   4
                                   2   1   5   7   4   7   5   1   2
                              10   5  25  35  20  35  25   5  10
                          14   7  35  49  28  49  35   7  14
                       8   4  20  28  16  28  20   4   8
                  14   7  35  49  28  49  35   7  14
              10   5  25  35  20  35  25   5  10
           2   1   5   7   4   7   5   1   2
       4   2  10  14   8  14  10   2   4
足し算
       4   4  21  38  55 106 123 140 174 140 123 106  55  38  21   4   4 [*]

回文8次式の平方は、回文16次式になるはずだから、実際には、和の中央の 174 がある列とその右側だけを求めれば足りる。掛け算の後半では、前半で得た行を再利用できる。以下も同様に、本当は約半分の計算で十分。こっちの掛け算は、ほとんど同じ行のコピペ。

                            1   1   1   2   1   1   1
                            1   1   1   2   1   1   1
掛け算
                            1   1   1   2   1   1   1
                        1   1   1   2   1   1   1
                    1   1   1   2   1   1   1
                2   2   2   4   2   2   2
            1   1   1   2   1   1   1
        1   1   1   2   1   1   1
    1   1   1   2   1   1   1
足し算
    1   2   3   6   7   8  10   8   7   6   3   2   1
17倍
   17  34  51 102 119 136 170 136 119 102  51  34  17 [**]

       4   4  21  38  55 106 123 140 174 140 123 106  55  38  21   4   4 [*]
              17  34  51 102 119 136 170 136 119 102  51  34  17         [**]
引き算
       4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4   4

これで恒等式が成り立つことが確認された。∎

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2024-10-25 正17角形の正道を求めて ガウス周期とガウス和

#遊びの数論 #1 の原始根 #正17角形 #x17 = 1 #ガウス和

正17角形(ないし 1 の17乗根)の研究は、原始根を使うと「魔法のように」うまくいく。そのこと自体は比較的よく知られているが、往々にして「なぜそれでうまくいくのか」が不明瞭。「魔法」の正体を探る。

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§1. 正17角形の画像1 の17乗根とは、17乗すると 1 になる数(つまり x17 = 1 の解)で、 x = 1 自身を除くと16個ある。それらは
  x16 + x15 + ··· + x + 1
の(非実数の)根。どれも絶対値(原点からの距離)が 1、偏角は 360° = 2πn/17 に等しい(n = 1, 2, ···, 16)。幾何学的には「単位円の円周を17等分する点」で、作図に利用すれば正17角形を描ける。

これら 16 個の複素数(幾何学的には 16 個の点)は、どれも実部または虚部(またはその両方)が多少違うけど、対称的な性質を持ち、どの一つを基準としても大抵の議論は成り立つ。だが「頂点1」を基準にするのが最も素直で、具体的イメージを持ちやすいだろう。ここで「頂点1」というのは、偏角 2π/17 = 約 21° の複素数で、三角関数を使うなら、次のように表現される:
  cos (2π/17) + i sin (2π/17) = 0.9324722294… + i⋅0.36124166618…

〔参考〕 この実部について、近似分数 1588/1703 = 0.9324721… は、小数6桁まで正しい。虚部について 384/1063 = 0.3612417… も、小数6桁まで正しい。
  (1588/1703 + 384i/1063)17
を実際に計算してみると:
   = 0.999998705… + i⋅0.000002368…
実部・虚部とも本当は無理数なのに有理数で代用してるんで、正確に 1 + 0i にはなり得ないが、まあまあの精度で「17乗すると 1 になる」。

「頂点1」「頂点2」「頂点3」などを全部同様に定義して 16 個の複素数をその順序で x1, x2, ···, x16 とすると(頂点1 が x1)、「頂点2」「頂点3」…は頂点1から見て偏角が2倍・3倍…なので:
  x2 = (x1)2, x3 = (x1)3, ···

一般に、任意の n に対応する複素数 xn を (x1)n と表すことができる――基準とする一つの数 x1 の累乗として。ここで n は、本来的には 1 ~ 16 の自然数だが、 n = 0 の場合の (x1)0 = 1 という値も「頂点0」という合理的な意味を持つ(1 も 1 の17乗根)。さらに、指数 n が 17 以上になった場合、 17 で割った余りで置き換えることができる。例えば n = 19 とすると:
  (x1)19 = (x1)17+2 = ((x1)17)(x1)2 = (x1)2 なぜなら (x1)17 = 1
あるいは n = 81 とすると:
  (x1)81 = (x1)68⋅(x1)13 = ((x1)17)4⋅(x1)13 = (1)4⋅(x1)13 = (x1)13
  なぜなら 81 を 17 で割ると商 4、余り 13 つまり 81 = 17⋅4 + 13

よって、少し柔軟な見方をすると、入力値 n は任意の整数と考えられる(この柔軟さが Gauß の理論の出発点)。それでも、 n の値を mod 17 で(つまり 17 で割った余りで)整理すると、出力 (x1)n は 17 種の値しか持ち得ない: n が 17 の倍数なら (x1)n は実数値 1 を持ち(頂点0に当たる)、 n が 17 の倍数以外なら、それを 17 で割った余りに応じて、 (x1)n は (x1)k, k = 1, 2, ···, 16 の 16 種の非実数値のいずれか(つまり頂点1~頂点16のどれか)に等しい。

§2. 16 種の非実数については、 (x1)n, n = 1, 2, ···, 16 と表すのが単純で分かりやすいように思えるが、 n が ≡ 1, 2, ···, 16 (mod 17) の 16 種の値を過不足なく取るなら、どういう順序で n を並べても構わない。 g を mod 17 の原始根とすると、 16 種の値 n ≡ gk (k = 0, 1, 2, ···, 15) は、まさにそのような性質を持つ。

〔補足〕 p を 3 以上の素数とする。 mod p の原始根 g とは、位数――すなわち gn ≡ 1 (mod p) を満たす最小の正の整数 n ――が p−1 であるような g である。 g が原始根なら gn (n = 0, 1, 2, ···, p−2) は、どれも不合同な(p で割った余りが異なる)値を持ち、それらの値は、全体として 1, 2, ···, p−1 と合同。

具体例として g = 3 を選択すると: 30 = 1, 31 = 3, 32 = 9。以下、次々と 3 倍して 17 以上になったら 17 で割った余りに置き換えると: 33 = 27 ≡ 10; 34 ≡ 10⋅3 = 30 ≡ 13; 35 ≡ 13⋅3 = 39 ≡ 5; 36 = 5⋅3 = 15; 37 = 15⋅3 = 45 ≡ 11; 38 ≡ 11⋅3 = 33 ≡ 16 (≡ −1)
これで −1 が出たので、さらに次々と 3 倍すると、前記の数のマイナス・バージョンが生じる: −3, −9, −10, −13, −5, −15, −11, −16 (≡ 1)。これで 30 = 1 に戻った(さらに続けたとすると、今のと同じ 16 個の数がループする)。マイナスの数は、 mod 17 では、17 を足した正の数と合同。表にまとめると:

mod 17 で考えた g = 3 の k 乗
k01234 567
3k1391013 51511
k89101112 131415
3k1614874 1226

(x1)n の n に直接的に 1 ~ 16 を入れる代わりに、 3k を入れても(k = 0, 1, 2, ···, 15)、全体として見れば (x1) の指数として 1 ~ 16 を一回ずつ使ったのと同じことになる――順序は変わるが。指数の順序を単純に 1, 2, 3, 4, ··· とせず 1, 3, 9, 10, ··· などと奇妙に「シャッフル」することのメリットは、次第に明らかになるであろう。

正17角形の画像(再掲)円周17等分(正17角形の作図可能性など)に関連する伝統的な議論では、 k が偶数のときの上記 3k の値(1, 9, 13 など)に対応する頂点(複素数)の和を A として、 k が奇数のときの 3k の値(3, 10, 5 など)に対応する頂点(複素数)の和を B とする。つまり:
  A = x1 + x9 + x13 + x15 + x16 + x8 + x4 + x2
  B = x3 + x10 + x5 + x11 + x14 + x7 + x12 + x6

「頂点1」と「頂点16」、「頂点2」と「頂点15」などは、それぞれ横座標が同じで縦座標の符号だけが逆。 A の 8 項は、そのような 4 ペア(共役複素数)から成り、足し合わせると虚部が消滅して実数になる。 B の 8 項についても同様。この「虚部が消滅して、値が実数になってくれる」というだけでも A, B の設定は便利。単純に
  A = x1 + x2 + ··· + x8
などとしてしまっては、和が実数になってくれない。しかし「和が実数になってほしい」というだけなら、
  A = (x1 + x16) + (x2 + x15) + (x3 + x14) + (x4 + x13)
のように、横軸を挟んで反対側の頂点とペアを作れば何でもいいはず; gk を使うのには、もう少し深い意味がある。

† 慣用的に17乗根(一般に 1 の原始 p 乗根)の一つ(x1 など)をギリシャ文字の ζ で表し、A, B をそれぞれ η0, η1 で表すことが多い。「1 の原始 p 乗根」と「mod p の原始根」は別の概念。

ちなみに、簡単化された「三角関数バージョン」のアプローチでは、最初から横座標 cos だけを使う。複素数 xn の偏角を θn とすると:
  a = cos θ1 + cos θ2 + cos θ4 + cos θ8
あるいは、同じことだが θ1 = 360°/17 = 約 21° を G とすると:
  a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G
この 4 項の和は、上記 A の和のうち、 x1, x2, x4, x8 の実部だけを考え、残りの 4 項 x16, x15, x13, x9 を無視したもの。考慮される 4 項と無視される 4 項は、実部がそれぞれ等しいので、 8 項の和 A と比べると、 4 項の和 a は、ちょうど半分の値を持つ(虚部はどちらも 0)。同様に 3G, 5G, 6G, 7G の cos の和として、 B の半分の b を構成できる。初期状態で項の数が半分なので計算量が削減され、複素数を使わずに議論を進めることも可能。

以下では簡略な「三角関数バージョン」を使わず、本来の 8 項の和を考える。

§3. A, B の設定。2数の和と積(つまり A+B と AB)の値が分かれば、2次方程式 t2 − (A+B)t + AB = 0 の解として A, B の根号表現を決定できる(A, B を簡略化した a, b についても同様)。よって A+B と AB の値が肝心で、特に作図可能性の証明では、それらが「有理数と平方根の組み合わせの範囲」で表現可能でなければならない。

仮定により x1 は x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 の解、つまり (x16 + x15 + ··· + x1) + 1 = 0 が成り立つので、
  x1, x2, ···, x16
の和は −1。それをどのように二つの組 A, B に分けても A + B = −1。しかし x1, x2 等はどれも非実数なので、よほどうまく分けないと、「8項和」同士の積 AB は整数や有理数にならないだろう。

A の一つの項 xm と B の一つの項 xn の積は:
  (x1)m⋅(x1)n = (x1)m+n
指数 m+n を適宜 17 で割った余りで置き換えると、この積は (x1)0 = 1 または x1, ···, x16 のどれか。しかし積 1 つまり m+n ≡ 0 は不可能。なぜなら、それが起きるためには m ≡ −n (mod 17) でなければならないが、われわれの設定では:
  A 組が m ≡ ±1, ±2, ±4, ±8 に対応
  B 組が m ≡ ±3, ±5, ±6, ±7 に対応
符号が反対の指数は必ず同じ組の中にあって、A 組のどれかと B 組のどれかが符号反対の指数を持つことはあり得ない。ゆえに、64個の積の内訳は:
  x1, ···, x16 のそれぞれが 0 個以上(トータルで 64個)
つまり:
  AB = c1x1 + c2x2 + ··· + c16x16  各 ck は xk の個数(0 以上の整数)で総計 64

のみならず、組をさらに半々の項数に細分していって最終的に 2 項のペアになったとき、各ペアの指数は、何らかの n に関して ±n に対応する(言い換えれば、ペアは互いに逆数)。よって、符号が反対の指数の組は、必ずどれかのペアによって占有され、「あるペアと別のペアが符号反対の指数を持つこと」はない。その前段階の「二つのペアが集まった 4 項の小さな組」の指数は、何らかの ±m, ±n に対応している。よって、4 項の組と別の 4 項の組が符号反対の指数を持つこともなく、4 項ずつの二つの組を U, V とするなら、同じ
  UV = C1x1 + C2x2 + ··· + C16x16  Ck の合計は 16
の形を持つ。

そうなる理由は、原始根 g の位数が p−1 であること(つまり gp−1 ≡ 1)。原始根の性質上、その半分の指数ではまだ ≡ 1 にならず、従って g(p−1)/2 ≡ −1 になること(これは Euler の基準とも関連)。よって指数 n = 3k は順に次のパターンを持つ:
  n0 (≡ 1), n1, n2, n3, n4, n5, n6, n7;
  n8 (≡ −1), −n1, −n2, −n3, −n4, −n5, −n6, −n7;
このような 16項から、一つおきに 8 項ずつを取り出して A 組、B 組を作るなら、符号が反対の指数は全部、同じ組に入る。四つに一つの割合で 4 項ずつを取り出して四つの組を作る場合も、そうなる。八つに一つの割合で 2 項ずつを取り出して八つの組(ペア)を作るときも、そうなる。

重要なのはこの構造; 具体的な g = 3 という選択に、特別な意味はない。 g として 3 以外の原始根を使っても――「シャッフル」の仕方が変わり、組内の要素の順序・組の順序は変わるかもしれないが――、本質的に全く同じ議論が成り立つ。

§4. 今、簡潔化のため x1 を単に z と書くと、 A は ∑ zR の形の和。ただし R は 3k (k = 0, 2, 4, ···, 14) の値を持つ。この場合、指数 R = 3k は 3 の偶数乗なので、 k = 2ℓ とすると ℓ は整数。よって 3(あるいはその −1 倍)を平方すると 32ℓ = 3k = R になる。要するに、 k が偶数のときの各 R = 3k は mod p の世界において平方根(r2 ≡ R を満たす r)を持つ(このような数 R は、平方剰余と呼ばれる)。

対照的に B は ∑ zN の形の和。ただし N は 3k (k = 1, 3, 5, ···, 15) の値を持つ。この場合、上記と逆の理由から、各 N = 3k は mod p では平方根を持たないことが示される(平方非剰余、略して非剰余と呼ばれる)。 16 個の非実数 zn を A, B 二つの組に 8 項ずつ分けたことについて、表面的には n が原始根 3 の偶数乗か奇数乗かで振り分けたのだが、別の角度から言うと、 n が「平方剰余」か「平方非剰余」かで振り分けている。値 A − B は Gauß 和と呼ばれるものの一種で、「mod 17 の 0 以外の各要素 n に対する次の総和」に当たる:
  ∑ (n|17) zn (n = 1, 2, ···, 16)
ここで (n|17) は Legendre 記号: n が mod 17 の平方剰余か非剰余かに応じて +1 または −1 の値を持つ。

さて、もし z を zg で(つまり z3 で)置き換えたら、何が起きるか。言い換えると z = x1 の代わりに、別の17乗根 z = (x1)3 = x3 を使うと?

もともと (x1)n だった項は (x3)n = ((x1)3)n = (x1)3n に変わるので、各項の指数は 3 倍される。つまり、もともと 3k だった指数は 3k+1 に。すると:
  もともとの A = (x1)30 + (x1)32 + (x1)34 + ··· + (x1)314 は、
  もともとの B = (x1)31 + (x1)33 + (x1)35 + ··· + (x1)315 と等しくなる。
  もともとの B は (x1)32 + (x1)34 + (x1)36 + ··· + (x1)316 になるが、
  それはもともとの A に等しい(なぜなら 316 ≡ 1 ≡ 30)。
要するに、 z の値を x1 から x3 に変えると、もともとの A と B は入れ替わる!

§5. 上記 Gauß 和 A − B の平方を考えてみたい――というのも (A + B)2 − (A − B)2 = 4AB であり A + B = −1 は既知なので、 (A − B)2 を経由して積 AB について、手掛かりが得られるかも。 A − B は
  (x1)30 − (x1)31 + (x1)32 − (x1)33 + ··· − (x1)315
   = (x1)1 + (x1)2 − (x1)3 + ··· + (x1)16
のような値で、 16 個の17乗根が (x1) のべきとして表現され、並んでいる(符号は指数が平方剰余なら正、非剰余なら負)。その平方は 256 項あるはずだが、どんなに項があっても、原理的に各項は ±(x1)n (n = 0, 1, 2, ···, 16) のいずれかに等しい。この場合 ±1 の型の項(n = 0)は生じ得る; その型の項(+1 or −1)の合計を整数 s とする。それ以外の項については、 A, B そのものの定義と同様に (x1)3k を使って表すことにして、各 k に対応する係数(+1 or −1)の合計を整数 dk とする:
  (A − B)2 = s + d0(x1)30 + d1(x1)31 + d2(x1)32 + ··· + d15(x1)315
ここで x1 を x3 = (x1)3 に置き換えると、左辺の A, B は入れ替わり、右辺において、整数 s, d0, ···, d15 は変わらないが、各指数 3k は 3k+1 に増える:
  (B − A)2 = s + d0(x1)31 + d1(x1)32 + d2(x1)33 + ··· + d15(x1)316

(A − B)2 と (B − A)2 は等しい。それぞれを展開した各項も、完全に一致。よって上記二つの等式において、 (x1)1 の係数、 (x1)2 の係数、 (x1)3 の係数…は、それぞれ等しい――実際には (x1)n の形式ではなく (x1)3k の形式で表現されているのだが、対応する係数は一致: 下と上の (x1)31 の項の係数比較から d0 = d1 となり、 (x1)32 の項の係数比較から d1 = d2 となり、以下同様に進んで d2 = d3, d3 = d4, ··· となるので、結局、全ての dk は同一の値 d を持つ。 316 ≡ 1 ≡ 30 (mod 17) なんで、上下の式の右辺では全17項が1対1対応。 (x1)3k の一つ一つは (x1)n のどれかと過不足なく一致するので、次の結論に至る:
  (A − B)2 = s + dx1 + dx2 + ··· + dx16 = s + d(x1 + x2 + ··· + x16) = s + d(−1) = 整数
  ∴ 4AB = (A + B)2 − (A − B)2 = (−1)2 − 整数 = 整数

よって AB = 整数/4 = 有理数(具体的には整数 or 整数の半分 or 整数の 4 分の 1)なので、作図可能性の証明に好都合な2次方程式が得られる。しかも、
  AB = c1x1 + c2x2 + ··· + c16x16  各 ck は 0 以上で合計 64
ということが分かっている(§3)。これが有理数であるためには、 64 という項数を均等に 4 ずつ各 ck に配分して、
  AB = 4(x1 + x2 + ··· + x16) = 4(−1) = −4
とするしかあるまい(厳密には証明が必要だが x1 は既約の16次式の根なので、15次以下の多項式の根にはなり得ない)。ちなみに、そのことから:
  (A − B)2 = (A + B)2 − 4AB = (−1)2 − 4(−4) = 17
  ∴ A − B = ±17
どちらの符号を選択するべきか直ちに明らかではないけど、この場合、幾何学的考察から A > B なんでプラスだろう。

「原始根 g に基づき 16 個の非実数を 8 項ずつ二つの組 A, B に分ける」という巧妙な設定(Gauß による)が、このような考察を可能にしてくれた。

† 「1 の17乗根として具体的にどの数値を選んだか?」によって、結論は変わり得る。実際 z = x1 の代わりに z = x3 とすると A, B の値が入れ替わり A − B と B − A の値も入れ替わるのだから、 A − B が一定という保証はない(= 0 でない限り)。

§6. 一般に p を 3 以上の素数とするとき、 1 の非実数の p 乗根は p−1 個ある。その一つを z とすると p−1 個の根たちは:
  z, z2, z3, ···, zp−1

p についての仮定から p−1 は合成数; 何らかの二つの自然数 e, f を使って p−1 = ef と分解される(p−1 は偶数なので e = 2 という選択肢は常にあるが、それ以外の選択肢もあるかもしれない)。 e 個の組を考え、各組が f 項の和になるようにすること――それが Gauß のアイデアの基本仕様であり、実装においては mod p での原始根 g を利用して「gk (k = 0, 1, 2, ···, p−2) と合同な指数 n を持つ zn」を一定の順序で、周期的に e 個の組に振り分ける。 f 項の Gauß 周期と呼ばれる。項数 f が合成数なら、再びそれを f = EF のように分解して、 E 個の小さい組(各組は F 項)に細分できる。第二ステップ以降では、第一ステップで使ったインデックス k を等間隔で振り分ける。例えば p = 13 の場合、(e = 3 などからスタートすることも可能だが)仮に最初に e = 2 として、
  A 組 k = 0, 2, 4, 6, 8, 10;
  B 組 k = 1, 3, 5, 7, 9, 11;
と分けたとすると、各組は 6 項から成る。第二ステップでは、再び E = 2 として一つおきに
  A1 組 k = 0, 4, 8  A2 組 k = 2, 6, 10;
  B1 組 k = 1, 5, 9  B2 組 k = 3, 7, 11;
と細分することもできるし、あるいは E = 3 として、3 項につき 1 項を取り出して
  A1 組 k = 0, 6  A2 組 k = 2, 8  A3 組 k = 4, 10;
  B1 組 k = 1, 7  B2 組 k = 3, 9  B3 組 k = 5, 11;
と細分することもできるだろう。

e 項のものを E 項ずつに分割する操作は、もちろん有限ステップで停止する。特別な場合として、 p が Fermat 素数(21, 22, 24, 28, 216, ··· のどれかに、 1 を足した数。それが素数になるケース)の場合、各ステップで「各組を二つの組に分割して、項数を半分(組の総数を 2 倍)にすること」ができる。例えば Fermat 素数 p = 17 = 24 + 1 の場合、 p − 1 = 24 = 16 を次々と半分にできる、 8, 4, 2 と。この操作は2次方程式を解くことと同等なので、 p が素数の場合、それが Fermat 素数なら、正 p 角形はコンパスと定規だけで作図可能。正5角形・正17角形が作図可能なのに正7角形が作図不可能なのも、 5, 17 は Fermat 素数だが 7 は違う、という理由による。

p = 17 のケースで、第2ステップ(以降)にも作図可能な数が得られること――それは §5 と同様の方法でも確認可能。例えば A を次のように分けた場合、A1 + A2 = A が作図可能な数であることは明白; 問題は積 A1A2 だが、この場合 x1 をその 32 乗である x9 で置き換えれば、各指数 3k は 3k+2 に増えて A1 と A2 が入れ替わるだろう。
  A1 = (x1)30 + (x1)34 + (x1)38 + (x1)312
  A2 = (x1)32 + (x1)36 + (x1)310 + (x1)314
この説明法が最善かどうかはともかく、積 A1A2 も作図可能な数であることの理論的裏付けが得られるだろう。よって和 A1 と和 A2 も、それぞれ作図可能な長さ。実際に計算を行えば、必ずそうなる――もはや「魔法のように」ではなく「当然のこととして」。

✿

Gauß は、19歳のときのこの研究を誇りに思い、「自分の墓には正17角形を刻んでほしい」と願ったという(史実かどうかは不明)。これは実現されなかったらしい。時代背景として、正17角形のエレガントで実用的な作図法が発見されたのは、 Gauß が亡くなってから約40年後であった(とはいえ、その気になれば大きな碑を建てて、そこに近似的に正17角形を描くことは可能だっただろう)。

〔参考文献〕
[1] Ben Lynn: Number Theory, “23 Gaussian Periods”
https://crypto.stanford.edu/pbc/notes/numbertheory/gaussperiod.html
https://crypto.stanford.edu/pbc/notes/numbertheory/book.pdf
[2] Mathews: Theory of numbers, Chap. VII
https://archive.org/details/theoryofnumbers00math/page/184/mode/1up
https://archive.org/download/theoryofnumbers00math/theoryofnumbers00math.djvu
[3] Davenport: Multiplicative Number Theory, §§2–3

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2024-10-31 ガウス和の平方 その優美さゆえに

#遊びの数論 #1 の原始根 #正17角形 #ガウス和

1 の原始 p 乗根を任意に一つ選んで z とする(p は 3 以上の素数)。ガウス(の)和 S とは:
  S = ±z1 ± z2 ± z3 ± ··· ± zp−1
ただし複号については、各項の z の指数 1, 2, 3, ···に応じて、それが mod p の平方剰余なら + とし、非剰余なら − とする。

この和には、秘められている――若かりし頃の Gauß が「これらの定理は、その優美さゆえに強く心を打つ」と記した魅惑的性質が。正17角形の研究とも関連。

† p 乗して初めて 1 になる数。 xp = 1 の解のうち x = 1 以外。

‡ D.A., art. 356: quae theoremata propter elegantiam suam valde sunt memorabilia.

✿

【1】 一番簡単な p = 3, 5 の場合は、直接計算も難しくない。 p = 3 の場合:
  x1 = −1/2 + i3/2 と x2 = −1/2 − i3/2
…は 1 の原始3乗根(よく ω と ω2 で表される非実数)。どちらを z としてもいい(どちらを選んでも、他方は選んだ数の平方)。仮に z = x1 すると、 z2 = x2 だ。 1 = 12 はもちろん平方数だが 2 は mod 3 の平方数ではない。よって、その場合の Gauß 和は z1 に +、 z2 に − が付いて…
  S = +z1 − z2 = x1 − x2 = (−1/2 + i3/2) − (−1/2 − i3/2) = i3  ❶

† (x1)2 = (−1/2 + i3/2)2 = 1/4 − i23/43/4 = −1/2 − i3/2 = x2
そして (x2)2 = (−1/2 − i3/2)2 = 1/4 + i23/43/4 = −1/2 + i3/2 = x1
この一見複雑そうな計算は、単に「偏角 ±120° の 2 倍 ±240° は ∓120° と同じ方位」と解釈可能。

あるいは z として = x2 を選択すると、 z の意味が変わり今度は z2 = x1 なので:
  S = +z1 − z2 = x2 − x1 = (−1/2 − i3/2) − (−1/2 + i3/2) = −i3  ❷

❶ は x1 − x2 で ❷ は x2 − x1 = −(x1 − x2) なので、 −1 倍の違いがある。平方すれば、この符号の違いはなくなる:
  S2 = (±i3)2 = (±i)2(3)2 = (−1)(3) = −3

結論 二つの原始3乗根のどっちを z としても、 p = 3 の場合の Gauß 和の平方は −3 つまり −p。

【2】 p = 5 の場合。画像では符号を考慮せず、単に線分の長さ(絶対値)が記されている。単位円に内接する正五角形の画像

符号も考慮すると、 1 の原始5乗根は…
  x1 = (−1 + 5)/4 + i((10 + 25))/4 と x2 = (−1 − 5)/4 + i((10 − 25))/4
…そして、それぞれの共役(逆数でもある):
  x4 = (−1 + 5)/4 − i((10 + 25))/4 と x3 = (−1 − 5)/4 − i((10 − 25))/4
これら四つは、単位円上でそれぞれ偏角が 72° の 1 倍・2倍・3倍・4倍の点に当たり、仮に z = x1 とすると z2 = x2, z3 = x3, z4 = x4。さて 1 と 4 はもちろん平方数だが、 2 と 3 は mod 5 の平方数ではないので、この場合の Gauß 和は:
  z − z2 − z3 + z4 = x1 − x2 − x3 + x4  ☆

〔注〕 1 はいつでも平方数(平方剰余)なので、以下 z1 の前の + を省略し、指数の 1 も省く。

話を簡単にするため、実部・虚部を別々に考える。「x1 と x4」「x2 と x3」は、それぞれ虚部の符号が反対なので x1 + x4 = 0, −x2 − x3 = −(x2 + x3) = −(0) = 0 つまり ☆ の和の虚部は 0。一方、「x1 と x4」「x2 と x3」は、それぞれ実部が等しいので (x1 − x2) と (x4 − x3) は、実部が等しい。どちらも:
  ( ) 内の実部 = (−1 + 5)/4(−1 − 5)/4 = 25/4
  ∴ ☆ の実部 = (x1 − x2) の実部 + (x4 − x3) の実部 = 45/4 = 5

観察 p = 5 の場合の Gauß 和の平方は 5 つまり p 自身に等しいようだ。 p = 3 の場合(S2 = −3)と似ているが、負ではなく正の数。

【3】 別の選択肢の例として z = x2 とすると、 ☆ は:
  (x2) − (x2)2 − (x2)3 + (x2)4 = x2 − x4 − x6 + x8 = x2 − x4 − x1 + x3
なぜなら x6 = (x5)(x1) = 1(x1) = x1 等々。この場合の Gauß 和は次の値に等しいが、それは ☆ のちょうど −1 倍:
  x2 − x4 − x1 + x3 = x2 − x4 − x1 + x3 = −x1 + x2 + x3 − x4
よって Gauß 和自体は、符号が変わって −5 だが、平方してしまえば符号の違いは消え、 Gauß 和の平方は【2】と同じ 5 になる。

同様に z = x3 なら ☆ は x3 − x6 − x9 + x12 = x3 − x1 − x4 + x2 なので今のと同じ。 z = x4 なら ☆ は x4 − x8 − x12 + x16 = x4 − x3 − x2 + x1 なので【1】と同じ。

結論 四つある原始5乗根のどれを z としても、 p = 5 の場合の Gauß 和の平方は 5 つまり p 自身に等しい。

【4】 さて p が 7 以上の場合、実部・虚部の根号表現は複雑なので、上記のような直接計算は困難。しかしその場合でも、 Gauß 和が実数または純虚数になることは容易に示される。単位円に内接する正七角形の画像例えば p = 7 として、六つの原始7乗根を
  xn = cos (2nπ/7) + i sin (2nπ/7)
とする(n = 1, 2, ···, 6)。単純に z = x1 とし、各項の符号を確定しない状態で Gauß 和を記すと:
  z1 ± z2 ± ··· ± z6 = x1 ± x2 ± ··· ± x6

p = 7 の場合の「x1 と x6」「x2 と x5」「x3 と x4」は、それぞれ共役。一般の p の場合、 xn と xp−n は共役。なぜなら z = x1 とすると xn = zn で xp−n = zp−n = zpz−n = z−n だが、 zn は (1, 0) から反時計回りに偏角が n 単位(正 p 角形の頂点 n 個分)進んだ点、 z−n は逆回りで偏角が n 単位進んだ点

† 正七角形の画像で、例えば n = 2 とすると zn は x2 に当たり、 z−n は x5 に当たる。どちらも (1, 0) から見て、円周上で頂点 2 個分の「移動」(回転)だが、前者と後者では回転の向きが正反対。

よって両者の実部(横座標)は等しく、虚部(縦座標)の符号は反対: 一方を u + vi とすれば他方は u − vi となる。もし n と −n ≡ p − n が両方とも平方剰余、または両方とも非剰余なら、そのペアに対応する Gauß 和の2項は、前に付く符号が同じ。つまり zn と zp−n になるか、または −zn と −zp−n になる。

zn = u + vi として、複号を使ってまとめると:
  ① ±zn ± zp−n = ±(u + vi) ± (u − vi) = ±2u  複号同順
となって、虚部が消滅

同様のシチュエーションで、もし n と −n ≡ p − n の一方が平方剰余、他方が非剰余なら、今度は Gauß 和において zn = (u + vi) と zp−n = (u − vi) に付く符号があべこべになるので、2項の和は:
  ② ±(u + vi) ∓ (u − vi) = ±2vi  複号同順
となって、実部が消滅

第一補充法則によれば、(ア) p が 4 の倍数より 1 大きい素数(5, 13, 17 など)のとき −1 は平方剰余、(イ) p が 4 の倍数より 1 小さい素数(3, 7, 11, 19 など)のとき −1 は非剰余。よって n と −n は(ア)なら「平方剰余か非剰余か」が一致:
  (−1/p) = +1 ⇒ (−n/p) = (−1/p)(n/p) = +(n/p)
(イ)なら「平方剰余か非剰余か」が一致しない:
  (−1/p) = −1 ⇒ (−n/p) = (−1/p)(n/p) = −(n/p)

〔注〕 分数に丸かっこを付けた (−1/p) などは Legendre 記号

結局、 (p−1)/2 個の各ペアについて、(ア)なら①が起き Gauß 和 S は実数、(イ)なら②が起き Gauß 和 S は純虚数(Gauß 和の平方 S2 は、それぞれ正の実数・負の実数)。例として p = 7 なら(12 = 1, 22 = 4, 32 ≡ 2 は平方剰余、他の三つは非剰余)、ガウス和は:
  z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6
これが純虚数になるのだから、実部 = 0。つまり 2π/7 = θ として:
  cos θ + cos 2θ − cos 3θ + cos 4θ − cos 5θ − cos 6θ = 0

正七角形: 頂点の横座標この実部は、不思議ではない: cos θ = cos 6θ なので cos θ − cos 6θ = 0 となり(x1, x6 の横座標は等しい)、同様に cos 2θ − cos 5θ = 0, cos 3θ − cos 4θ = 0 だから、確かにトータルで 0。

他方、虚部について、 sin 6θ = −sin θ 等のペアを考慮すると:
  sin θ + sin 2θ − sin 3θ + sin 4θ − sin 5θ − sin 6θ
   = 2 sin θ + 2 sin 2θ − 2 sin 3θ = 2(sin θ + sin 2θ − sin 3θ)

正七角形: 頂点の縦座標この和が sin θ + sin 2θ − sin 3θ の 2 倍であることは分かるが、具体的な値は簡単には分からない。大ざっぱな目分量で sin θ ≈ 0.8, sin 2θ ≈ 0.95, sin 3θ ≈ 0.4 とすると 0.8 + 0.95 − 0.4 = 1.35 なので Gauß 和の虚部は 2.7 程度と推定されるが…

Gauß 和の理論によると、この「2.7 程度」の虚部の正体は、7 = 2.645751311… である!

後で証明する予定だが、素数 p に対応する Gauß 和の平方 S2 は、正の整数 p または負の整数 −p のどちらか。どちらになるかは、 p が 4k+1 型か 4k−1 型かによる。

よって p = 7 のケースでは、次の美しい等式が成り立つ。
  sin (2π/7) + sin (4π/7) − sin (6π/7) = 7/2
  あるいは sin (2π/7) + sin (4π/7) + sin (8π/7) = 7/2
この一見シンプルな等式を三角関数の問題として導こうとするなら、不可能ではないにせよ、面倒だろう…。対応する p = 5 の場合の式は:
  cos (2π/5) − cos (4π/5) = 5/2
  あるいは cos (π/5) + cos (2π/5) = 5/2
この関係については、根号表現に基づく直接検証も容易。

cos 36° = (1 + 5)/4 と cos 72° = (−1 + 5)/4 の和を考えるだけ。

Gauß 和は、正17角形の AB の計算にも活用可能。 A + B = −1 は既知、 (A − B)2 は p = 17 に対する Gauß 和の平方なので 17 に等しい。よって:
  4AB = (A + B)2 − (A − B)2 = (−1)2 − (17) = −16
  ∴ AB = −4
8項式の平方を具体的に計算するまでもなく、要となる積 AB が確定するっ!

A − B = 17 については、既に別の方法で求めたが、 Gauß 和の理論を使う方が見通しが良い。

✿

人との競争のためではなく、何かのための道具としてでもなく、ただその優美さ・奥深さゆえに、数論に心を遊ばせる。森の香りに引かれるように、星のきらめきに見とれるように。

Gauß 和の理論の全体像は、古典数論の範囲をはるかに超え、二次体などの代数的数論も通り越えて、解析的数論と関連している。けれど Gauß 和 S そのものに深入りせず、主にその平方 S2 を考えるなら、初等的な扱いができる。

今回、例えば p = 5 のときの S = z − z2 − z3 + z4 について、入力 z の数値(根号表現)を直接的に考えた。その方が、どんな計算をしているのか具体的に分かりやすい。半面、 z は p − 1 = 4 種類の値(1 の原始5乗根・4種のいずれか)を取り得るので、場合分けが少々面倒。 S2 = (z − z2 − z3 + z4)2 を多項式として考えることもできる; p が 7 以上になると、具体的な z の根号表現は複雑なので、多項式として扱った方が良いだろう。(続く)

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2024-11-02 ガウス和の平方(その2) 証明の本体

#遊びの数論 #1 の原始根 #ガウス和

3 以上の素数 p に対する Gauß 和の平方が ±p に等しいこと。

代数的整数論の入り口辺りのいろいろな話題は、簡単過ぎず、難し過ぎず、少し不思議で美しい。具体例を構成し、現象を観察し、好奇心の赴くままに数値実験をする。受験やら何やらの俗世の利害関係とはほとんど無縁の話題なので、純粋にそれ自体を楽しむことができる…。「遊びの数論」としては、最もすてきな散策エリアの一つだろう!

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【5】 p = 5 のときの Gauß 和は S = z − z2 − z3 + z4 だが、説明の便宜上、符号が未確定として、
  S = ±z1 ± z2 ± z3 ± z4
と書くと、その平方は:
  S2 = (±z1 ± z2 ± z3 ± z4)2
   = (±z1)(±z1 ± z2 ± z3 ± z4)  ア
   + (±z2)(±z1 ± z2 ± z3 ± z4)  イ
   + (±z3)(±z1 ± z2 ± z3 ± z4)  ウ
   + (±z4)(±z1 ± z2 ± z3 ± z4)  エ

アイウエを展開した計 16 項について。符号を無視すると、アから
  z1+1 = z2, z1+2 = z3, z1+3 = z4, z1+4 = z5
の 4 項が生じる。イから
  z2+1 = z3, z2+2 = z4, z2+3 = z5, z2+4 = z6
の 4 項が生じる。同様に、ウ・エからは、それぞれ
  z3+m と z4+m  (m = 1, 2, 3, 4)
の形の項が生じる。より一般的に、アイウエの 16 項全体は、符号を無視すると、次の形:
  zℓ+m
ここで ℓ と m は、それぞれ独立に 1 から 4 の値をちょうど一回ずつ取る。このようにして生じる計 16 項の和を総和記号で書けば:
  ∑ ∑m (zℓ+m)
ℓ, m の範囲は上記の通りで、大抵は ∑ の真下と真上にそれぞれ小さく「ℓ = 1」と「4」を書くものだが、それと同じことを ∑ と略した。 ∑m についても同様。

さて、実際には z ないし zm は、それぞれ指数に応じた符号 + or − を持つ。前者の符号は (/p)、後者の符号は (m/p) なので、 zzm = zℓ+m として生じる項は、符号も考慮すると、次の通り:
  (/p) z × (m/p) zm = (/p)(m/p) zℓ+m

仰々しく (/p)(m/p) と書かれている符号ビットは、 ℓ, m が「両方とも平方剰余」か「両方とも非剰余」なら +、さもなければ − ということだ。

【6】 p = 5 のとき、
  S2 = ∑ ∑m [(/p)(m/p) zℓ+m]
の右辺は、とりあえず 16 項の和だけど、 zℓ+m は実際には 5 種類の値しか取り得ない: 例えば z7 = z2 であるから(なぜなら z は 1 の5乗根なので、 z7 = z5z2 = 1⋅z2 だ)、もしそうしたければ…
  ±z7(= ±z2) と ±z2 の 2 項の和
…を kz2 の形の 1 項にまとめることができる。もちろんこの係数 k は、足し算される 2 項の符号が両方とも + なら +2 だし、両方とも − なら −2 だし、片方が + でもう片方が − なら 0。より一般的に zℓ+m という累乗は、指数 ℓ+m を mod p で p 種類に分類するなら、
  z0 (=1), z1 (=z), z2, ···, zp−1
の p 種類の数のどれかと等しい。そのような p 種類の数、あるいはその −1 倍の数を、それぞれ幾つか足し合わせるなら、総和は次の形になるだろう:
  s0z0 + s1z1 + s2z2 + ··· + sp−1zp−1 つまり
  ☆ s0 + s1z + s2z2 + ··· + sp−1zp−1 ただし s0, s1 などは整数

p = 5 の場合の、実際の値(符号も考慮)は:
  S2 = (z − z2 − z3 + z4)(z − z2 − z3 + z4)
   = (+z)(z − z2 − z3 + z4)  ア
   + (−z2)(z − z2 − z3 + z4)  イ
   + (−z3)(z − z2 − z3 + z4)  ウ
   + (+z4)(z − z2 − z3 + z4)  エ
   = (+z2 − z3 − z4 + z5)  あ
   + (−z3 + z4 + z5 − z6)  い
   + (−z4 + z5 + z6 − z7)  う
   + (+z5 − z6 − z7 + z8)  え
z5 = 1, z6 = z, z7 = z2, z8 = z3 なので、上記 16 項の和は:
   = (+z2 − z3 − z4 + 1)  あ
   + (−z3 + z4 + 1 − z)  い
   + (−z4 + 1 + z − z2)  う
   + (+1 − z − z2 + z3)  え
同類項をまとめると:
   = 4 + (−1 + 1 − 1)z + (+1 − 1 − 1)z2 + (−1 − 1 + 1)z3 + (−1 + 1 − 1)z4
   = 4 − z − z2 − z3 − z4  お

☆ に当てはめるなら s0 = 4 で s1 = s2 = s3 = s4 = −1 となる。「お」から:
  S2 = 4 − z − z2 − z3 − z4 = 4 − (z + z2 + z3 + z4) = 4 − (−1) = 5  〔注〕
この結果は、前回直接求めた Gauß 和の平方(p = 5 の場合)と一致。

〔注〕 z + z2 + z3 + z4 = −1 の根拠。 z は 1 の 5 乗根(ただし z ≠ 1)なので、 z5 = 1 つまり
  z5 − 1 = (z − 1)(z4 + z3 + z2 + z + 1) = 0
を満たす。 z ≠ 1 なので z − 1 ≠ 0 だから、上の等式は次を含意する:
  z4 + z3 + z2 + z + 1 = 0
この左辺の +1 を移項して、足し算の順序を逆にすれば z + z2 + z3 + z4 = −1。

【7】 p = 7 の場合。 0 を別にすると、 mod 7 の平方剰余は (±1)2 = 1, (±2)2 = 4, (±3)2 = 9 ≡ 2 の三つ(1, 2, 4)。残りの三つ(3, 5, 6)は非剰余。 1 の原始7乗根を任意に一つ選んで z とすると、 Gauß 和の平方は:
  S2 = (z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)2
   = (+z)(z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)  ア
   + (+z2)(z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)  イ
   + (−z3)(z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)  ウ
   + (+z4)(z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)  エ
   + (−z5)(z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)  オ
   + (−z6)(z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6)  カ
   = (z2 + z3 − z4 + z5 − z6 − z7)  あ
   + (z3 + z4 − z5 + z6 − z7 − z8)  い
   + (−z4 − z5 + z6 − z7 + z8 + z9)  う
   + (z5 + z6 − z7 + z8 − z9 − z10)  え
   + (−z6 − z7 + z8 − z9 + z10 + z11)  お
   + (−z7 − z8 + z9 − z10 + z11 + z12)  か

この 36 項の和について、「あ」の右端から「か」の左端へ斜めに眺めると −z7 = −1 が 6 項ある; それらの和は、もちろん −6 に等しい。同様に「い」の右端から斜め下に眺めると ±z8 = ±z の項が五つあり、符号は + が三つ − が二つなので、それらの和は (+3 − 2)z = z に等しい。

「う」の右端から斜め下に ±z9 = ±z2 の 4 項を眺めると + と − が二つずつなので、それらの和は 0。しかし、それとは別に「あ」の左端に z2 があるので、結局 ±z9 = ±z2 の形の項(計 5 項)の和は z2 に等しい。次に、「え」の右端から斜め下へ、そして「い」の左端から斜め上に眺めると ±z10 = ±z3 の形の項が + は三つ − は二つあるので、それらの和は (+3 − 2)z3 = z3 に等しい。同様に ±z11 = ±z4 も ±z12 = ±z5 も ±z11 = ±z4 も + が三つ − が二つあり、最後に ±z6 も + が三つ − が二つ。

要するに合計 36 項から「整数 −1 に等しい 6 項」を除いた 30 項は、5 項ずつ均等に非実数 ±z, ±z2, ±z3, ···, ±z6 の 6 種に配分され、 6 種のそれぞれは、どれも + が三つ − が二つなので:
  S2 = (−1)⋅6 + (z + z2 + z3 + ··· + z6) = −6 + (−1) = −7

これが p = 7 に対する Gauß 和の平方であり、 Gauß 和そのものは ±−7 に等しい。根号の前の符号は z の選択に依存するが、 z = cos (2π/7) + i sin (2π/7) の場合には +−7 = i7 となる(この符号については、例えば幾何学的考察によって決定可能)。この数は、実部が 0 で虚部が +7 なので、実部の和 = cos の和と、虚部の和 = sin の和に分離するなら:
  cos (2π/7) + cos (4π/7) − cos (6π/7) + cos (8π/7) − cos (10π/7) − cos (12π/7) = 0
  sin (2π/7) + sin (4π/7) − sin (6π/7) + sin (8π/7) − sin (10π/7) − sin (12π/7) = 7

この第一式の結論自体は、当たり前; 左辺の 6 項を両端から 2 項ずつペアにして考えると、それら 2 項は絶対値が同じで符号が反対なので、各ペアの和は 0 だから。というのも、三角関数の基礎によると cos θ = cos (−θ) = cos (2π − θ) なので、 cos (2π/7) = cos (12π/7) あるいは cos (4π/7) = cos (10π/7) などとなる。一方、第二式については、三角関数の基礎によると sin θ = −sin (−θ) = −sin (2π − θ) なので、端から 2 項ずつペアにすると、各ペアの 2 項は絶対値も符号も同じ。よってこう書くこともできる:
  2(sin (2π/7) + sin (4π/7) − sin (6π/7)) = 7
  ∴ sin (2π/7) + sin (4π/7) − sin (6π/7) = 7/2
前回、証明なしに言及された式だが、今きっちり証明された!

【8】 p = 11 以降についても全く同様の個別的考察を続けることは可能だが、項数が多くなると(単純計算ではあるが)面倒くさいし、素数は無限にあるので、個別に考えていてはきりがない。具体例はこのくらいにして、任意の素数 p ≥ 3 を対象としたい。 p = 5, 7 の二つの例からは、整数 s0 は比較的絶対値の大きい数になること、係数 s1, s2 などはどれも等しくなることが予想されるが…

まず z が 1 の p 乗根のときの
  S = (1/p) z + (2/p) z2 + (3/p) z3 + ··· + ((p − 1)/p) zp−1
という和は、形式的には z の p−1 次式だが、 z = 1 はこの多項式の根である――言い換えると、この p−1 次式に z = 1 を代入すると、値は 0 になる。実際 z = 1 のとき、
  S = (1/p) + (2/p) + ··· + ((p − 1)/p)
の右辺には Legendre 記号が偶数個あるが、そのうち半分は +1 で半分は −1 なので、合計すると 0 に等しい。なぜなら mod p において 0 を除く p−1 種類の数の中には、平方剰余と非剰余が (p−1)/2 個ずつ存在。より具体的に言えば、 g を原始根として g2, g4, ···, gp−1 という偶数乗が平方剰余、 g1, g3, ···, gp−2 という奇数乗が非剰余である。

z = 1 のとき p−1 次式 S の値は 0 なのだから、その多項式を平方した 2p−2 次式 S2 の値もまた、 z = 1 のときには、当然 02 つまり 0 に等しい。すなわち S, S2 のどちらも、それぞれ係数(定数項があればそれも含む)の和は 0 である。

〔例〕 p = 5 のとき S = z − z2 − z3 + z4 の係数の和は 1 − 1 − 1 + 1 = 0。
  S2 = z8 − 2z7 − z6 + 4z5 − z4 − 2z3 + z2
の係数の和も 1 − 2 − 1 + 4 − 1 − 2 + 1 = (+6) + (−6) = 0。

実際、もしも S2 の係数の和が 0 でなかったら、 z = 1 を代入したとき S2 の値は 0 にならず、不合理。

【9】 さて、 z についての多項式 S2 は、S(それは定数項のない p−1 次式である)の平方だから、定数項はなく、最も次数が低い項でも 2 次(最も次数が高い項は 2p−2 次)。上記の p = 5 の例で言えば、 S2 の最高次の項は z8 で最低次の項は z2 だ。 1 の p 乗根 z の累乗として整数 1 が生まれるチャンスがあるとすれば z0, zp, z2p などが考えられるが、多項式 S2 には z0 の項(つまり定数項)はなく、 zp−2 より高い次数の項もないのだから、整数 1 の発生源は p 次の項 zp に限られる。

では p 次の項 zp = 1 の係数は幾つか?

そもそも S2 = S × S における p 次の項は、いつどうやって発生するか?

一方の S の和に含まれる ±z の形の項と、他方の S の和に含まれる ±zm の形の項(複号同順とは限らない)。両者の積 ±zℓ+m について、指数 ℓ+m が = p のとき、そして、そのときに限って発生する!

ℓ, m はどちらも 1, 2, ···, p−1 の範囲を動くので、
  ℓ = 1 で m = p−1 のとき
  ℓ = 2 で m = p−2 のとき
  ℓ = 3 で m = p−3 のとき
  ···
  ℓ = p−1 で m = 1 のとき
の合計 p−1 回、条件が満たされる。符号はどうなるか。 ℓ と m が両方とも平方剰余か両方とも非剰余なら + になり、一方が平方剰余で他方が非剰余なら − になる。 + になる必要十分条件は、 ℓ = 1 と m = p−1 ≡ −1 について「平方剰余か非剰余か」が一致すること、 ℓ = 2 と m = p−2 ≡ −2 について「平方剰余か非剰余か」が一致すること、等々。ところが、0 と不合同な数 n と −n について、 mod p で「平方剰余か否か」が一致するかしないかは、 −1 が平方剰余か非剰余かによって決まる。実際、もし (−1/p) = +1 なら:
  (−n/p) = (−1/p)(n/p) = (n/p) ⇒ n, −n について「平方剰余か否か」が一致
他方、もし (−1/p) = −1 なら:
  (−n/p) = (−1/p)(n/p) = −(n/p) ⇒ n, −n について「平方剰余か否か」が不一致

ゆえに S2 の合計 (p−1)2 個の項の中には、整数 ±1 (= ±zp) がちょうど p−1 回、含まれるが、それらの項の符号はどれも同じで、第一補充法則によって支配される: p が 4 の倍数より 1 大きければ + となり(p = 5, 13, 17 など)、 p が 4 の倍数より 1 小さければ − となる(p = 3, 7, 11 など)。
  p = 3 のとき p−1 = 2 ⇒ S2 = −2 + 残りの項
  p = 5 のとき p−1 = 4 ⇒  S2 = +4 + 残りの項
  p = 7 のとき p−1 = 6 ⇒  S2 = −6 + 残りの項
  p = 11 のとき p−1 = 10 ⇒  S2 = −10 + 残りの項
  p = 13 のとき p−1 = 13 ⇒  S2 = +12 + 残りの項
等々。「±(p−1) + 残りの項」の ± は、上述のように p ≡ ±1 (mod 4) に応じて定まる。

【10】 最後に「残りの項」を確定したい。 S2 に含まれる z の累乗の指数を mod p で(0, 1, 2, ···, p−1 の範囲に)簡約して、次のように表現することができる(【6】参照)。
  S2 = s0 + s1z + s2z2 + ··· + sp−1zp−1  ①

①の値は、もし z に 1 を代入すると 0 になる; 言い換えると、①の右辺の係数(定数項も含む)の和 は 0 に等しい(【8】参照):
  s0 + s1 + s2 + ··· + sp−1 = 0  ②

ところが、定数項 s0 は ±(p−1) に等しい(【9】参照)。それを②に代入すると:
  ±(p−1) + s1 + s2 + ··· + sp−1 = 0
  ∴ s1 + s2 + ··· + sp−1 = ∓(p−1)  ③

実は s1, s2, ···, sp−1 は、どれも値が等しい――この事実については p = 5 と p = 7 については確認済み、一般の場合については、本質的には既に「正17角形の正道を求めて」において証明済みだが(z を zg に置き換える操作を利用して)、後で別の(願わくはもっと分かりやすい)証明法を紹介するであろう。

とりあえず話を完結させるため、 s1, s2, ···, sp−1 がどれも等しい、ということを暫定的に事実と認める。すると…。③の左辺には、値の同じ項が p−1 個あり、その p−1 項の和が③の右辺――すなわち正の整数 p−1 またはその符号を変えた負の整数 −(p−1)――に等しいのだから、③の右辺が正なら s1, s2 などは全部 1 に等しく、③の右辺が負なら s1, s2 などは全部 −1 に等しい!

③の右辺の正負は s0 = ±(p−1) の複号に依存する。 p が 4k+1 型の素数であれば、複号の上の符号が選択され、従って s1, s2 などは全部 −1 であり、①はこうなる:
  S2 = +(p−1) + (−1)z + (−1)z2 + ··· + (−1)zp−1 = (p−1) − (z + z2 + ··· + zp−1) = (p−1) − (−1) = p
具体例は p = 5 のときの S2 = 5。一方、 p が 4k−1 型(4k+3 型)の素数であれば、複号の下の符号が選択され、従って s1, s2 などは全部 +1 であり、①はこうなる:
  S2 = −(p−1) + (+1)z + (+1)z2 + ··· + (+1)zp−1 = −(p−1) + (z + z2 + ··· + zp−1) = −(p−1) + (−1) = −p
具体例は p = 7 のときの S2 = −7。

以上によって、 Gauß 和の平方の値が(一応)示された――暫定的に認めた等号については、もう少し検討が必要だけど。

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Gauß がこのような現象に感銘を受け、「そのエレガントさゆえに」(propter elegantiam suam)、「強く心を打つ」(valde sunt memorabilia)とコメントしたのも、「ここには奥深い何かがある」と感じたからだろう。円周の等分という一見シンプルな話題、 cos や sin の一見ランダムにも見える和が、実は平方剰余の属性、二次体の整数論と関連している…。 4 の倍数より 1 大きい素数と、 4 の倍数より 1 小さい素数は、どちらも素数なのだが、両者の間にはなにやら本質的な違いがある。その違いは単に「相互法則の形式的な計算規則」といった無味乾燥なものではなく、例えば Gauß 和として「目に見える形で」現れてくる。

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2024-11-04 ガウス和の平方(その3) S の二つの値

#遊びの数論 #1 の原始根 #ガウス和

p−1 個の原始 p 乗根のどれを基準にしても S2 の値は変わらないが、 Gauß 和 S の符号は変わり得る。

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【11】 p = 5 の例。 1 の原始5乗根のうち、偏角 (72n)° = 2πn/5 の複素数を xn とする。例えば (x1)2 = x2 であり、 (x1)3 = x3 である。 n は 4 までとは限らず x6 = x1, x7 = x2, ··· などと定義できる。つまり、右下の数字が 5 以上になったら、 5 で割った余りで置き換えることにしよう。単位円に内接する正五角形の画像

  x1 = (−1 + 5)/4 + i⋅(10 + 25)/4 と
  x4 = (−1 + 5)/4 − i⋅(10 + 25)/4
…の和を A = x1 + x4 = (−1 + 5)/2 と書くことにする(この例では虚部が消滅)。

  x2 = (−1 − 5)/4 + i⋅(10 − 25)/4 と
  x3 = (−1 − 5)/4 − i⋅(10 − 25)/4
…の和を B = x2 + x3 = (−1 − 5)/2 とする。 x2, x3 の横座標は、画像で cos 36° と記されている赤い線だが、この cos 36° は線の長さ(絶対値)。第2・第3象限の点なので、座標は −cos 36° だ。

さて、1 の原始5乗根 z には、四つの選択肢がある。もし z = x1 を選ぶなら、 Gauß 和 S = z1 − z2 − z3 + z4 は:
  S = x1 − x2 − x3 + x4 = (x1 + x4) − (x2 + x3) = A − B
   = (−1 + 5)/2(−1 − 5)/2 = (−1 + 5)/2 + (+1 + 5)/2 = 5

もし z = x2 を選ぶなら、 S = x2 − x4 − x6 + x8 = x2 − x4 − x1 + x3 なので:
  S = (x2 + x3) − (x1 + x4) = B − A
   = (−1 − 5)/2(−1 + 5)/2 = (−1 − 5)/2 + (+1 − 5)/2 = −5

同様に z = x3 のときの S = x3 − x6 − x9 + x12 = x3 − x1 − x4 + x2 は、上記の二つ目 S = −5 と同じ値。 z = x4 のときの S = x4 − x8 − x12 + x16 = x4 − x3 − x2 + x1 は、一つ目の S = 5 と同じ値。

このように、四つの原始5乗根のどれを z とするかによって Gauß 和 S の符号は変わるが、 S の絶対値は一定。従って Gauß 和の平方 S2 = 5 は、 z の選択と無関係に、一定の値を持つ。

〔参考〕 A + B = x1 + x2 + x3 + x4 = −1 は明白。 (A − B)2 = 5 であるから 4AB = (A + B)2 − (A − B)2 = (−1)2 − 5 = −4、よって AB = −1。つまり A, B の和と積が分かるので、上記のような直接計算をしなくても A, B それぞれの値を決定することができる。単に2次方程式 t2 − (A + B)t + AB = 0 すなわち t2 + t − 1 = 0 を解けばいい。一方において、
  t2 + t + 1
の根が 1 の原始3乗根であること、他方において、
  t2 + t − 1
の根が 1 の原始5乗根を二つずつ足した和であることは、ほんのり面白い!

【12】 Gauß 和 S は、絶対値が同じで符号だけ反対の二つの値を持つ。この現象を理解するためには、 S = z − z2 − z3 + z4 を次のように解釈すると都合がいい:
  S = z1 − z2 + z4 − z8

この最後の右辺において、われわれは z の指数 n を単純に n = 1, 2, 3, 4 とする代わりに(そして n が平方剰余か非剰余かに応じて zn に + or − を付ける代わりに)、
  n = 20, 21, 22, 23 つまり n = 1, 2, 4, 8
として、 n = 20, 22 に対応する項には + を付け、 n = 21, 23 に対応する項には − を付けた。 z8 = z3 なので(なぜなら z は 1 の5乗根だから z8 = z5z3 = 1⋅z3)、どちらの指数の選択法でも、実質的に z の指数 1, 2, 3, 4 が(従って 1 の原始5乗根・4種が)過不足なく一度ずつ使われる。

z の指数 n をこのように 2k の形(k = 0, 1, 2, 3)で表現することは、「z の ○ 乗」の ○ の部分が再び「何かの k 乗」の形になっているわけで、第一印象としてはごちゃごちゃして分かりにくいのだが、第一印象の違和感さえ乗り越えるなら、この考え方によって、現象をすっきり整理できる。

k のてい(下にある数)である「2」は、 mod 5 の原始根と呼ばれるものの一つだが、この数は、 mod 5 の原始根でありさえすれば、別に 2 でなくても構わない。例えば 3 も mod 5 の原始根なので、代わりに 3k を使っても、一向に差し支えない。 z の ○ の部分は、必ず 2k の形にしなければいけない、というわけではないのだ。ここで扱っているのは p = 5 の例だが、 p が 5 以外の素数のときには、もはや「2」が mod p の有効な原始根とも限らない。例えば p = 7 あるいは p = 17 のとき、 2 は mod p の原始根ではないので、指数を 2k の形で表してもうまくいかず、代わりに 3k が有効な選択肢となる。

関連する要点だけを列挙すると:

この方法の一つの大きなメリットは n が平方剰余か非剰余か?による分かりにくい符号設定を、単に k が偶数か奇数か?による機械的な符号設定にできる、ということだろう。

「なぜそうなるのか?」「そもそも原始根 g をどうやって求めればいいのか?」という別の疑問は当然生じてくるし、それらは重要な問題だが、その検討については後日に譲り、話を先へ進める。

他方、デメリットとして、指数が二重になっていると式表現が複雑になってやや読みにくいし、普通の指数と比べると「難しそう」な感じがする。 Gauß は、印刷(写植)上の困難に対処するため、このような二重指数については、一番下の底を略して [gk] と記している。「難しそう」な印象については、単に心理的な問題なので、「こんなもんは慣れれば何でもない」と気を強く持てば、直ちに克服されるだろう!

p = 5 の例に戻る。項の順序と符号を無視すれば、 S を構成する 4 項 z1, z2, z3, z4 は、
  ☆☆ z1, z2, z4, z8
と1対1に対応(後者の指数は 2k, k = 0, 1, 2, 3)。そして☆☆の順序に項を並べるなら、どの項も直前の項の 2 乗になっている(z8 の「次の」項は z16 = z1 に戻るので、☆☆の最初の項 z1 の「直前」の項は z8 と解釈可能)。次々と 2 乗になり、周期 4 でループする項たち…
  z1 → z2 → z4 → z8 → z16 = z1 → z2 → ···
…において、仮に z = x1 を代入すると:
  x1 → x2 → x4 → x8 → x1 → x2 → x4 → ···

この「ループ」において「x1 から始めた 4 項の和」が z = x1 のときの z + z2 + z4 + z8 だが、それは S = z1 − z2 − z3 + z4 と似た足し算であり、項の符号の違いを度外視するなら(つまり符号を考えず、あらゆる項を + として足し算するなら)、どちらも完全に同じ和。なぜなら z = x1 のとき、 z3 = x3 = x8 であり、それ以外の 3 項は、どちらの和でも共通。

同様に x2 から始めた 4 項の和が z = x2 のときの z + z2 + z4 + z8 ――言い換えれば z = x1 のときの z2 + z4 + z8 + z16 ――であり、今述べた z + z2 + z4 + z8 と等しい値を持つ(なぜなら x16 = x1)。 x4 から始めた 4 項の和、 x8 から始めた 4 項の和も全く同様で、それぞれ z = x4 ないし z = x8 のときの z + z2 + z4 + z8 だが、どれも値は同じ。

符号も考慮すると、4項のうち偶数番目(21 乗と 23 乗)の項に − が付くのだから S = z − z2 + z4 − z8 つまり
  S = z − z2 − z3 + z4  ア
となる(なぜなら z8 = z3)。 A = x1 + x4, B = x2 + x3 という表記を再び使うと:
  z = x1 なら S = x1 − x2 − x3 + x4 = A − B  イ
  z = x2 なら S = x2 − x4 − x6 + x8 = x2 − x4 − x1 + x3 = B − A  ウ
  z = x3 なら S = x3 − x6 − x9 + x12 = x3 − x1 − x4 + x2 = B − A  エ
  z = x4 なら S = x4 − x8 − x12 + x16 = x4 − x3 − x2 + x1 = A − B  オ

〔補足〕 イ・ウ・エ・オは、それぞれアに z = x1, x2, x3, x4 を代入したもの。 x1 の 2 乗は x2、 3 乗は x3 といった性質、 x2 の 2 乗は x4、 3 乗は x6 といった性質を利用。

結局、四つある 1 の原始5乗根のどれを z として選択しても、 Gauß 和 S は A − B または B − A = −(A − B) のいずれかの値を持つ。二つの値は、絶対値が同じで、符号だけが異なる。

【13】 一般に 1 の原始 p 乗根のどれを z としても、対応する Gauß 和 S は、必ず 2 種類の値(絶対値が同じで符号だけ反対)のいずれかを持つ。実際、 g を mod p の原始根とすると、次々に g 乗される列
  x1 → (x1)g → (x1)gg → (x1)ggg → …
は、周期 p−1 の「ループ」を成すが、そこにおいて z = x1 からスタートした p−1 項の和と、 z = (x1)g = xg からスタートした p−1 項の和は、もし仮に全部の項に + を付けるなら、同一の値を持つ。例えば、第一の和を仮に
  a1 + a2 + a3 + a4 + a5 + a6  カ
とすれば、「ループ」の性質上、第二の和は
  a2 + a3 + a4 + a5 + a6 + a1  キ
となる。実際には、全部の項が + ではなく、それぞれの和の偶数番目の項に − が付くのだから、第一の和は
  a1 − a2 + a3 − a4 + a5 − a6  ガ
のようになり、第二の和は
  a2 − a3 + a4 − a5 + a6 − a1  ギ
のようになる。ガとギは、対応する全部の aj の符号が反対なので、ガの和とギの和は、互いに −1 倍。つまり、符号が逆で絶対値が等しい。

ここで (x1)gg とか (x1)ggg というのは、例えばもし g = 3 なら (x1)9 ないし (x1)27 のこと(gg = 3 × 3 = 9 等々)。もちろん次のように書いてもいい。
  (x1)g0 → (x1)g1 → (x1)g2 → (x1)g3 → ···

以上を要約すると、次の通り。 原始 p 乗根の主値(虚部が正の p 乗根のうち、実部最大のもの。言い換えると、偏角 2π/p のもの)を x1 として、
  A = ∑ (x1)n  (n = g0, g2, g4, ···, gp−3)
  B = ∑ (x1)n  (n = g1, g3, g5, ···, gp−2)
と置く。もし z = x1 なら S = A − B だが、もし z = xg なら、 S は符号が反対の = B − A になる。ちなみに、さらに進めて z = xgg とすれば S は A − B に戻り、 z = xggg とすれば S は B − A となり、以下同様に、符号だけ違う二つの値が交互に現れる。

【14】 p = 7 の例。 mod 7 では g = 3 が原始根であること、 (±1)2 = 1, (±2)2 = 4, (±3)2 = 9 ≡ 2 の三つが平方剰余で 3, 5, 6 の三つが非剰余であることに注意する。

単位円に内接する正七角形の画像

❶ 1 の原始7乗根の主値 x1 = 0.623489801… + i⋅0.781831482… を z として、直接的に数値計算を行うと:
  A = z + z2 + z4 = −0.5 + i⋅1.322875655…
  B = z3 + z5 + z6 = −0.5 − i⋅1.322875655…

虚部の 1.322875655… は 7/2 であり、この場合の Gauß 和 S = A − B = i⋅2.64575131106… は +−7 に等しい。 S2 が −p = −7 に等しいことは言うまでもない。

〔補足〕 x1 = cos (2π/7) + i sin (2π/7) だが、 Euler の公式から、指数関数を使ってより簡潔に x1 = exp (2πi/7) と表現することも可能。

❷ 1 の原始7乗根 z として、偏角が 3 倍の x3 = −0.900968867… + i⋅0.433883739… を選択すると:
  A = z + z2 + z4 = −0.5 − i⋅1.322875655…
  B = z3 + z5 + z6 = −0.5 + i⋅1.322875655…
この場合の Gauß 和 S = A − B = −i⋅2.64575131106… は −−7 に他ならない。 ❶(主値 x1 を z とした場合)と比べると、符号が逆。平方してしまえば符号の違いは消滅し、 ❶ と同じく S2 = −7 となる。 ❶ と比べ A, B の値が入れ替わっていることに注目。 A, B を2次方程式の解のペアと見るなら、どちらの解を A と呼びどちらの解を B と呼ぶかは、(2次方程式の解法に関する限り)本質と関係ない。具体的に 4AB = (A + B)2 − (A − B)2 = (−1)2 − (−7) = 8 つまり AB = 2 なので、 A, B は
  t2 + t + 2 = 0
の2解。この2次式は、1 の原始3乗根を根とする t2 + t + 1 とよく似ているが、定数項が 2 になっている。

❸ 1 の原始7乗根 z として、主値と比べて偏角が 32 = 9 倍(あるいは 2 倍)の x9 = x2 = −0.222520933… + i⋅0.974927912… を選択すると:
  A = z + z2 + z4 = −0.5 + i⋅1.322875655…
  B = z3 + z5 + z6 = −0.5 − i⋅1.322875655…
この場合の A, B は、❶(主値 x1 を z として選択した場合)と全く同じ。もちろん Gauß 和 S = A − B の符号も ❶ と同じに戻る。

❹ 1 の原始7乗根 z として、主値と比べて偏角が 33 = 27 倍(あるいは 6 倍)の x27 = x6 を選択すると、再び ❷ と同様になる。このことは、前述の理論的考察からも明らかだが、幾何学的に考えると x6 は x1 の共役複素数。従って、この z に対する A = z + z2 + z4 の右辺の三つの項の値は、どれも ❶ の場合と比べて実部が同じ・虚部の符号が反対に。よって、それらの和である A 自体も、 ❶ と比べて実部が同じ・虚部の符号が反対。 B についても同様。要するに A と B の値が入れ替わり、 Gauß 和は ❷ と同じになる。

✿

Gauß 自身は D.A., art. 356 において、われわれの p の代わりに文字 n を使っている(素数 p という条件を付けず、一般の自然数 n について定理を拡張できる――という観点だろう)。 1 の原始 n 乗根(われわれの z)を任意に選択し、固定する。 Gauß は、その a 乗を [a] のように略し、
  ∑ [R] によって [R′] + [R′′] + [R′′′] + ··· を表し、
  ∑ [N] によって [N′] + [N′′] + [N′′′] + ··· を表した。
ここで R′ 等は mod n の全種類の平方剰余(0 を除く)、 N′ 等は全種類の非剰余。 1 の原始根のどれを選択しても ∑ [R] と ∑ [N] の差は、 n ≡ 1 ないし n ≡ 3 (mod 4) に応じて ±n ないし ±in になること。それを Gauß は示した。

∑ [R] ないし ∑ [N] については、それぞれ [g0] + [g2] + ··· + [gp−3] ないし [g1] + [g3] + ··· + [gp−2] と書くことができる。前者と後者の差というのは、 ∑ [R] の各項と −1 倍された ∑ [N] の各項の和に他ならず、われわれの S と同じ意味(1 の原始根として x1 が選択された場合の ∑ [R] と ∑ [N] が、それぞれ A と B だ)。 Gauß が述べている事柄は S2 = n or −n と同値で(われわれの文字では p or −p)、ここで検討しているのと本質的に同内容。しかし Gauß は S2 の検討だけでは満足せず「S 自身の符号が + になるか − になるか?」という問題に取り組む。「z として主値を選ぶと Gauß 和 S の符号は + になる」ということは数値実験から容易に予想されるが(上記 ❶ のように)、証明は難しく、今ここで紹介することはできない。高木の整数論では、最終章の最終節において、「はなはだ困難で、さすがの Gauss が数年苦心の後ようやく解決することを得た」というコメントと共に、その証明が述べられている。

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2024-11-09 ガウス和・別証明 クロネッカー博士の異常な足し算 または 私はいかにして心配するのをやめ三重和を愛するようになったか

#遊びの数論 #1 の原始根 #ガウス和

「毎月の2日・4日・6日・8日・10日・12日・14日(最初の七つの偶数日)は、全部曜日が違う」――日常生活に潜むこの単純な現象を「当たり前」と感じるか、それとも…?

3・6・9・12・15・18・21日(最初の七つの 3 の倍数日)にも、同じ曜日はない。――これらの現象自体は、カレンダーを見るなりメモ用紙に書くなりして、簡単に確認できるだろう。

同様のことは一般に「n の倍数日」(n: 任意の整数)について成り立つ; 例外として n が 7(あるいは 7 の倍数)の場合だけは、全部同じ曜日になってしまう(曜日は 7 日周期で同じになるので、この例外は、まぁ当たり前)。

もしも曜日の数が六つ(日~金の繰り返し)だったり、八つ(日~土の後に「天曜日」がある)だったりすると、状況は激変: 最初の六つないし八つの偶数日は、曜日がばらばらにならない。一方、もしも曜日の数が九つ(「天曜日」の後に「海曜日」がある)だと、最初の九つの偶数日は曜日がばらけて、再び秩序が回復する(ように思える)。もしかして、曜日の数が偶数だと駄目で、奇数だとうまくいく…?

いや、奇数でも、曜日の数が九つの世界では「最初の九つの 3 の倍数日」は、曜日がばらばらにならない!

では結局、曜日ばらばら現象が起きるためには、曜日の数は 7 でなければ駄目なのかっ?

そうではない。曜日の数が 5 や 11 でもうまくいく!

一体 5 や 7 や 11 の何が他と違うのかっ?

素数だよ、ベイビー! 素数の「素」はすてきの「す」。ってなわけで、このメモでは Ireland & Rosen [4] に従って、ガウス和についての別証明を紹介する――数学専攻・大学院生向けの証明をそのまま紹介するんじゃ「遊びの数論」にならんので、「曜日ばらばらの原理」を使い、ほとんど何も予備知識が必要ないようアレンジ。

[4] Ireland & Rosen (1990, 1992): A Classical Introduction to Modern Number Theory (2nd ed.), Chap. 6, §3, “Quadratic Gauss Sums”, pp. 70–72

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§1. p を 3 以上の素数とする。 p 乗すると 1 になるような数、つまり xp = 1 を満たす x を「1 の p 乗根」と呼ぶ。例えば p = 3 とすると x3 = 1 の三つの解が 1 の3乗根。あるいは右辺の 1 を移項するなら:
  x3 − 1 = 0
x0 = 1 は、明らかにこの3次方程式を満たすが、それ以外にも
  x1 = (−1 + −3)/2 と x2 = (−1 − −3)/2
という解が存在する。どーやって解を求めるのか・具体的な解は何か?ということは、この際どーでもいい。重要なのは xp − 1 = 0 は合計 p 個の解を持つこと(どの解も 1 の p 乗根である)、そしてその p 個の解を足し合わせると、和が 0 になるということ。

その証明は難しくないが(例えば、解と係数の関係)、ここでは単に直観的イメージを記す: 円の中心に置いてある宝物を、円周 p 等分点にいる p 人の人が同じ力で引っ張った場合、力が釣り合ってしまい宝物はどっちにも動かない――これは「p 個の解を p 個のベクトルと考えたらベクトルの和が 0」ってことだろう(円周2等分点の綱引きの場合が最も分かりやすいが、3等分以降でもそうなる)。え…ますます訳が分からない?

ともかく「1 の p 乗根を全種類足すと 0」ってことで…。以下、文字 z で 1 の p 乗根のどれか(1 自身を除く)を表す。すると p 個ある「1 の p 乗根」たち(1 自身を含む)の一覧表は:
  z0, z1, z2, ···, zp−1
このうち z0 = 1 が 1 の p 乗根であることは明らか(1 を p 乗した結果はもちろん 1)。 z が 1 の p 乗根であることも、文字 z の定義そのもの。だが、なぜ z2 以降も「1 の p 乗根」と言えるの…?

z2 を p 乗すれば (z2)p = z2p = (zp)2 だが、その最後の丸かっこ内は、仮定により zp = 1。つまり z2 も p 乗すれば (1)2 = 1 になる。このことは「2」を「3」などに変えても、そのまま成り立つ。では指数 p−1 で止まらず zp も一覧表に加えて良いか。加えても間違いではないけど、仮定により zp = 1 で、 1 という数は z0 として既に一覧表に含まれているので、重複して加えない方が良い。同様に zp+1 以降も「1 の p 乗根」には違いないが、既出のどれかと等しい。

この節で証明する命題は「クロネッカー博士のクリスマス・プレゼント」(仮称)。簡単な内容ながら、すぐ後で「これは天の恵みのように、ありがたい!」と感じるであろう。

命題1 c を整数の定数とする。 p 個の数の和、
  z0c + z1c + z2c + ··· + z(p−1)c  「ア」
は、もし定数 c が p の倍数なら p に等しく、さもなければ 0 に等しい。

これは当たり前(理由は下記)。ただし 0 も p の倍数(0 倍)であることに注意。

証明 まず c = 0 のとき、「ア」の全部の項は z0 つまり 1 に等しいので、「ア」は 1 を p 個足すことに当たる。結果はもちろん p。

一般に c が p の倍数のとき c = kp とでも書くと(k: 整数)、「ア」の各項は:
  z0kp, z1kp, z2kp, ··· 計 p 項
それぞれ下記と同じ:
  (zp)0k, (zp)1k, (zp)2k, ··· 計 p 項
丸かっこ内はどれも zp = 1 だから、上記 p 個の数はそれぞれ 1 の整数乗、すなわち 1。よって、それらの合計は p。

これで c が p の倍数の場合が片付いた。次に c = 1 とすると、「ア」はこうなる:
  z0 + z1 + z2 + ··· + zp−1  「イ」
これは p 種類(つまり全種類)の「1 の p 乗根」の和なので、前述のように 0 に等しい。一般に c が p の倍数以外のとき、 p 種類の指数は、
  {0, 1, 2, ···, p−1}
のそれぞれを c 倍したもの:
  {0c, 1c, 2c, ···, (p−1)c}
結果として生じる p 種類の指数は、「曜日ばらばらの原理」から、過不足なく、もともとの集合
  {0, 1, 2, ···, p−1}
と一致する―― mod p では。よって和「ア」は、単に「イ」の足し算の順序を並び替えたもの; 結果は「イ」と同じ 0 になる。∎

ここで「mod p では」というのは、「日付そのものではなく、その日付の曜日を考えると」――つまり「p で割った余りを考えると」という意味。なぜ余りを考えるのか。例えば p = 7 で c = 2 のとき、
  z0, z2, z4, z6, z8, z10, z12  「あ」
の和が生じるが、 z8 は 8 個の z の積なので「7 個の z の積」にもう 1 個 z を掛けたもの:
  z8 = z7 × z1
ところが仮定により z7 = 1 なので、 z8 は z1 に等しい。つまり「8」という指数を、それを 7 で割った余り「1」で置き換えても、値は変わらない。同様に、
  z10 = z7 × z3 = z3 そして z12 = z7 × z5 = z5
となるので、「あ」の 7 項は、順に次の 7 項に等しい:
  z0, z2, z4, z6, z1, z3, z5  「い」
「い」の 7 項は c = 1 の場合の「あ」の 7 項を並び替えただけなので、和は c = 1 の場合と同じ(すなわち 0)。「あ」と「い」の関係については、「8日・10日・12日は、それぞれ1日・3日・5日と曜日が同じ」と解釈することもできる。

命題1が分かれば、以下の二つの命題は、ほぼ自動的。

命題2 k, ℓ を整数の定数とする。 p 項の和
  z0(k−ℓ) + z1(k−ℓ) + z2(k−ℓ) + ··· + z(p−1)(k−ℓ)  「ウ」
は、もし k−ℓ が p の倍数なら p に等しく、さもなければ 0 に等しい。

証明 k, ℓ は定数なので k − ℓ も定数。そこで、命題1で c = k − ℓ と置いただけ。∎

命題3 定数 k, ℓ がどちらも {0, 1, 2, ···, p−1} の範囲にあるとする。そのとき、命題2の和「ウ」は k = ℓ なら p に等しく、 k ≠ ℓ なら 0 に等しい。

証明 定数 k, ℓ についての範囲制限から、 k と ℓ をどのように選んでも k − ℓ の値は p 以上にならない(最大でも p − 1)。 −p 以下にもならない。従って、この条件では:
  (i) k − ℓ = 0 の場合に限って k − ℓ は p の倍数(そのとき k = ℓ)。
  (ii) k − ℓ ≠ 0 なら k − ℓ は p の倍数でない(そのとき k ≠ ℓ)。

よって、命題2から (i) の場合に和「ウ」は p になり、 (ii) の場合に和「ウ」は 0 になる。∎

命題2の和「ウ」は、下記の形(テンプレート)で □ に 0, 1, 2, ···, p−1 を入れたとき生じる計 p 項を、足し合わせたもの:
  z□(k−ℓ)
便宜上、このような和を次の記号で表すことにする:
  ∑n [ zn(k−ℓ) ]  「う」
「う」は「ウ」と全く同じ意味。ここで n は 0 から p−1 の範囲を動く形式変数で、使用中の他の変数名と重複しなければ n 以外の好きな文字を使っても構わない。例えば、次はどれも同じ意味:
  ∑m [ zm(k−ℓ) ] あるいは ∑j [ zj(k−ℓ) ] など

この ∑ は総和記号と呼ばれる。この記号を使って、命題3を簡潔に整理すると…

Kronecker のクリスマス・プレゼント
定数 k, ℓ がどちらも {0, 1, 2, ···, p−1} の範囲にあるとき、 1 の p 乗根 z についての和、
  n [ zn(k−ℓ) ] ただし n = 0, 1, 2, ···, p−1
は、ほとんどの場合 = 0 になって消滅。 k = ℓ の場合に限って、この和は消滅せず = p になる。

Kronecker (クロネッカー)の…という形容について。「二つの数(例えば i, j)が等しいとき値が 1 になり、等しくないときは値が 0」という一見ひどく単純な関数は Kronecker のデルタと呼ばれ、記号 δ(i, j) で表される。ちなみに、この記号を使うと「クリスマス・プレゼント」は、
  n [ zn(k−ℓ) ] = δ(k, ℓ) p
と表現可能だが、以下ではそんな暗号のような記法は使わないので、別に覚えなくてもいいです…

§2. Gauß (ガウス)の和、略して Gauß 和、というのは、次のような形式の和。
  p = 3 なら z − z2
  p = 5 なら z − z2 − z3 + z4
  p = 7 なら z + z2 − z3 + z4 − z5 − z6
  等々(符号については下記)

§1 で考えた和と似てるけど、とりあえず z0 = 1 が参加してない。 z0 が抜けたため、項数は p から p−1 に減少。 p は 3 以上の素数だから奇数; Gauß 和の項数 p−1 は偶数。各項は + とは限らず、見たところ不規則に −1 倍されている項がある。実は + の項と − の項は、個数が半々(項数が偶数なので、ちょうど半々にできる)。どういうルールで ± が決まるのか?

それを明快に説明するには、ちょっとした専門用語を使わねばなるまい。いわく……

「上記の書き方で、それぞれの和の n 番目の項は、 mod p において n が平方剰余なら + になり非剰余なら − になる。」

……どーいう意味か?

本質的には難しい概念ではないのですが、とりあえず 1, 2, 3, ···, p−1 の p−1 個(偶数個)の数たちは、「平方剰余じょうよ」というものと「非剰余」というものに、半々に分かれるのです。

普通の自然数の世界で 12 = 1, 22 = 4, 32 = 9 などは平方数。 2, 3, 5, 6, 7 などは平方数ではない(非平方数)。それと同様の区別の mod p バージョンが、平方剰余・非剰余。例えば mod 7 の世界において 1, 4 が平方数(平方剰余)であることは、普通と同じ(それぞれ 12 と 22 ですから)。そして mod 7 というのは「7 で割った余りの世界」なので 32 = 9 が 2 と同等になり(どちらも 7 で割った余りが 2 ですから。簡単に言うと「9日と2日は曜日が同じ」ということ)、 mod 7 では 2 も平方剰余。 それ以外の 3, 5, 6 は mod 7 では平方非剰余(略して非剰余)。なぜなら
  x2 = 3 や x2 = 5 や x2 = 6
を満たす x が、mod 7 の世界 {0, 1, 2, ···, 6} には存在しないのです。 02 = 0 も平方剰余の定義に当てはまりそうですが、 0 は別扱いとします…。

✿

まぁ平方剰余・非剰余の概念は、いいとしよう(実際、大して難解でもないし)。しかし、である…。n が mod p の平方剰余か非剰余かに応じて n 番目の項を ±1 倍しながら「1 の p 乗根」たち(複素数)を足し合わせるって――それは一体どういう意味の足し算なのか?

Gauß 和のコンセプトは、定義を提示されても、直観的には意味不明に思われる。なぜそんな足し算を考えるのか、と。実はこのような和は、数の世界の深い性質と関連していて、重要な研究対象であり、研究ツールともなる。例えば「正17角形はコンパスと定規だけで作図可能」というのは有名な事実だが、かなり好奇心を刺激する。 Gauß 和は、この正17角形の問題とも関連している。具体的な Gauß 和の値は、
  ±−3  ±5  ±−7
のような数(p または −p の平方根)なのだが、 1 の p 乗根たち(それは複素平面上の円周 p 等分点に対応し、一般に非常に複雑な値を持つ)を足したり引いたりした結果が、このようなある意味シンプルな数になるという事実は、美しくもあり、深遠でもある。「そうなる訳を知りたい・一体この現象は何なのか?」と感じるのは当然だろう。

Gauß 和の真意を直ちに理解できないのは、当たり前。よく分からないからこそ、探検は楽しい。「分かり切ったこと」は退屈だが、「未知」にはスリルとロマンが…

§3. p が異なれば「p 乗根たちの和」が異なるのは当然として、 p が一定でも「1 の p 乗根のどれを基準にするか?」によって Gauß 和の符号は変わり得る。そこで、ある一つの素数 p について
  「n 番目の p 乗根 zn に対応する Gauß 和」
を記号 Sp(n) で表すことにする。 1 番目の p 乗根 z1 = z とは具体的にどれか? 1 の p 乗根のうち「最小の正の偏角を持つもの」を z とする。

〔注〕 直観的には: 複素平面上の単位円(原点を中心とする)に内接し、 (1, 0) を一つの頂点とする正 p 角形について、頂点 (1, 0) を 0 番として各頂点に反時計回りに番号を付けたときの「頂点 1」。それを z とする。「Gauß 和の平方」についての議論では、実際には「どの頂点を z としたか」という仮定は一度も使われず、「頂点 0」以外のどの頂点を z としても構わない。要するに、とりあえずあまり気にしなくてもいい…。

n = 1 の場合の Gauß 和の定義は:
  Sp(1) = (1/p)z1 + (2/p)z2 + (3/p)z3 + ··· + ((p−1)/p)zp−1

ここで分数に丸かっこを付けたような (k/p) の形は Legendre 記号というもので、 k が mod p の平方剰余か非剰余かに応じて +1 か −1 の値を持つ。以下の議論では Legendre 記号についての実質的知識は、ほとんど必要ない。ともかく k が平方剰余か非剰余かに応じて、 k 番目の項を +1 倍または −1 倍する係数(+1 倍は、実質、何もしないのと同じだが)。

上記 Sp(1) は Gauß 和の一般形、
  (1/p)y1 + (2/p)y2 + (3/p)y3 + ··· + ((p−1)/p)yp−1
において(y は 1 の p 乗根の一つ)、シンプルに y = z1 を選択した場合。もし y として、2 番目の p 乗根 z2 や 3 番目の p 乗根 z3 を選択するなら…
  Sp(2) = (1/p)z2 + (2/p)z4 + (3/p)z6 + ··· + ((p−1)/p)z2(p−1)
  Sp(3) = (1/p)z3 + (2/p)z6 + (3/p)z9 + ··· + ((p−1)/p)z3(p−1)
参考までに、 Sp(3) を総和記号で簡潔に書くと:
  Sp(3) = ∑k [ (k/p)z3k ] ただし k = 1, 2, ···, p−1
より一般的に n 番目の p 乗根 zn を使うと:
  Sp(n) = (1/p)zn + (2/p)z2n + (3/p)z3n + ··· + ((p−1)/p)z(p−1)n
これを総和記号で書くと、次の通り。

Gauß の和Gaußsche Summe
  Sp(n) = ∑k [ (k/p) zkn ]

〔参考〕 「ベータ」のような文字 ß は、ドイツ語のアルファベットの文字で ss に当たる(歴史的には sz: エス・ツェット)。「きざにドイツ語なんて書かれると気が散る」という批判もあるだろうが、ドイツ語抜きに19世紀の数論は語れない。あなただって英語で「ベクター」と言わずドイツ語で「ベクトル」、「ノーム」と言わず「ノルム」と言うでしょう。国際的にも、整数の集合を Z (Zahlen) と書くでしょう?

形式変数 k は、本質的には初期値 k = 1 から p−1 までの範囲を動くのだが、次の規約によって、初期値を k = 1 の代わりに k = 0 とすることができる。

Legendre 記号の拡張 k が p の倍数のとき(k = 0 や k = p などのとき)には (k/p) = 0 と約束する。

どういうこと? Gauß 和の足し算 ∑k を k = 1 の代わりに k = 0 から始めると、一番初めに次の項が加わる:
  (0/p) z0n
この項の値は? z0n = z0 = 1 ではあるが、それを考えるまでもなく、規約から「分子」が 0 の Legendre 記号は = 0 なので、この項は 0 に等しく、あってもなくても和には影響しない。「そんなテクニカルなルールを増やさなくても、素直に初期値を k = 1 にすればいいだけでしょう?」「どうせ消滅するのに、わざわざ k = 0 から足し始めるのは無駄な手間では?」というような気もするのだが、意外なことに、このテクニカルな拡張が下記の証明の要となる。

〔注意〕 この場合の形式変数 k は 1 から足し始めても 0 から足し始めても結果は同じだが、それは k = 0 に対する項の値が 0 だから。任意の総和がこの性質を持つわけではない。例えば ∑k 2k は k = 1, 2 に対しては 2 + 4 = 6 だが k = 0, 1, 2 に対しては 1 + 2 + 4 = 7 で、結果が異なる。

n = 1 の場合の Gauß 和が、一番シンプルで基本的:
  Sp(1) = ∑k [ (k/p) zk ]
k は 0 から p−1 の範囲を動く形式変数。名前は ℓ でも m でも何でも構わない。例えば、
  ∑m [ (m/p) zm ]
も、全く同じ Sp(1) を表す。足し算の順序は結果に影響しないので(例えば 1 + 2 + 3 = 2 + 1 + 3)、この種の総和 ∑k においては、形式変数が指定範囲 (0,) 1, 2, ···, p−1 の値を過不足なく一度ずつ取る限りにおいて、値の順序もどうでもいい。例えば k = 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6 の代わりに k = 0, 2, 4, 6, 1, 3, 5 のような順序で k を変化させても構わない。

§4. Gauß 和 Sp(n) の n は、任意の整数値を取ることができる。 n = 0 の場合は、ちょっと面白い:
  Sp(0) = (0/p)z0⋅0 + (1/p)z1⋅0 + (2/p)z2⋅0 + ··· + ((p−1)/p)z(p−1)⋅0
この場合 z の指数は全部 = 0 なので、各項とも z の累乗の部分は z0 = 1 に等しく、結局こうなる:
  Sp(0) = (0/p) + (1/p) + (2/p) + ··· + ((p−1)/p)
右辺の左端の項は、規約により = 0。それを無視すると:
  Sp(0) = (1/p) + (2/p) + ··· + ((p−1)/p)
この右辺各項は、 1, 2, ···, p−1 が mod p の平方剰余か非剰余かに応じて +1 または −1 に置き換わる。個々の項の値は明らかではないけど、平方剰余・非剰余の個数は半々なので、この和には全体として +1 と −1 が同じ数―― (p−1)/2 個ずつ――含まれている。よって、トータルでは:
  Sp(0) = (p−1)/2 × (+1) + (p−1)/2 × (−1) = 0

自明な Gauß 和 Sp(0) = 0

n が {0, 1, 2, ···, p−1} 以外の整数値の場合、その n を mod p で簡約して {0, 1, 2, ···, p−1} の範囲にしたものを m とするなら Sp(n) は Sp(m) に等しい。というのも z の指数は mod p で簡約されるし(例えば p = 7 のとき z3⋅9 = z3⋅2)、 z の累乗の係数となる Legendre 記号の「分子」も実は実質 mod p。その結果、例えば p = 7 のときの入力 n = 9 は入力 n = 2 と全く同じ結果を生む:
  S7(9) = S7(2)
入力 n = −1 は入力 n = 6 と全く同じ結果を生む:
  S7(−1) = S7(6)

要点: Sp(n) の n に、どんな(正または負の)整数を入れても、出力は
  Sp(0), Sp(1), Sp(2), ···, Sp(p−1)
のどれかと同じで、問題なく値が定義される。

この「要点」から、「ある一つの p に対して Sp(n) は計 p 種類の値を取る」という印象が生じるかもしれない。実際には:

命題4(Gauß 和の基本性質) ある一つの p に対する Sp(n) は、ちょうど 3 種類の値を持つ: もし n が p の倍数なら Sp(n) = 0; それ以外の場合、どの Sp(n) も絶対値が同じ――仮に 1 番目の和 Sp(1) を基準とすれば、 Sp(1) に等しいか、または −Sp(1) に等しい。どちらに等しいかは、 n が mod p の平方剰余か非剰余かによって決まる(平方剰余なら同符号)。

命題4の補足 n が p の倍数でない場合 Sp(n) = ±Sp(1) だが、 ± の曖昧さが残る。今述べた式の両辺を平方すると [Sp(n)]2 = [Sp(1)]2 となり、符号の曖昧さが無くなる。 Gauß 和そのものには、符号決定の問題がある; Gauß 和の平方では、符号の問題が表面化しない。

証明 この基本性質は、
  Sp(n) = (n/p) Sp(1)  ①
と要約可能。実際、 n が p の倍数のケースは n = 0 と同じなので ① の両辺は 0 に等しく(その場合の左辺 = 0 は自明な Gauß 和。右辺 = 0 は Legendre 記号の規約による)、それ以外の場合で n が平方剰余なら (n/p) = 1 なので ① は Sp(n) = Sp(1) を意味し、 n が非剰余なら (n/p) = −1 なので ① は Sp(n) = −Sp(1) を意味する。――以上三つの等式が、命題4の内容に他ならない。

よって ① を証明すればいいのだが、三つのパターンのうち「n が p の倍数のケース」は自明。以下、それ以外の二つのケースに話を絞る。一般性を失うことなく n ∈ {1, 2, ···, p−1} と仮定できる。 ① の代わりに
  (n/p) Sp(n) = Sp(1)  ②
を示しても同じこと。なぜなら ② の両辺を (n/p) 倍すると、右辺は ① の右辺と一致し、下記の理由から左辺も ① の左辺と一致する:
  理由 (n/p)(n/p) Sp(n) = [(n/p)]2 Sp(n) = Sp(n)
  [ ]2 の内側は +1 or −1 だが、どちらにしても 2 乗すれば = 1

さて Sp(n) の定義によると、② の左辺は
  (n/p) ∑k [ (k/p) zkn ]  ③
に等しい。 (n/p) は +1 or −1 の定数。これを総和記号の内側に入れて(※注1)、 ③ をこう変形できる:
  ∑k [ (n/p)(k/p) zkn ]

Legendre 記号の基本性質(※注2)から、上の値は、次の値に等しい。
  ∑k [ (kn/p) zkn ]  ④

n ∈ {1, 2, ···, p−1} は p の倍数ではないので、「曜日ばらばらの原理」によって、 k が {0, 1, 2, ···, p−1} の範囲を動くとき、 kn (mod p) も、順序を別にすれば、全く同じ範囲を過不足なく動く。そこで ④ において kn を一つの形式変数だと思うと、 k が
  0, 1, 2, ···, p−1
と変化するとき kn も同じ値を何らかの順序で一度ずつ持つ――mod p では。この「自由順序」の足し算は、前節末尾で特筆した Sp(1) の定義(形式変数の値の順序が自由なバージョン)に他ならない(分かりにくければ、2カ所の kn を = m と置いて ∑k の代わりに ∑m としてもいい)。

以上を要約すると、② の左辺は ③ に等しく、それは ④ に等しく、それは Sp(1) に等しいので、結局 ② の左辺は ② の右辺に等しい。すなわち ② が証明され、それと同値の ① が示された。∎

〔注1〕 (n/p) の値を c として、総和の「実体」を A0 + A1 + A2 + ··· + Ap−1 とすると、
  c ∑k [ Ak ] = c(A0 + A1 + A2 + ··· + Ap−1)
の代わりに
  cA0 + cA1 + cA2 + ··· + cAp−1 = ∑k [ cAk ]
としても同じ――という意味(当たり前)。

〔注2〕 一般に (a/p)(b/p) = (ab/p) が成り立つ(証明は、例えば原始根の指数の偶奇に基づく)。この場合、二つの「分子」の積から n × k = nk = kn となる。逆に、
  (ab/p) = (a/p)(b/p)
と分解することも可能。下記・命題5では a = −1, b = n の場合の次の関係を利用する:
  (−n/p) = (−1/p)(n/p)

命題4から、次の結論に至る。

命題5 任意の n ∈ {1, 2, ···, p−1} に対して:
  Sp(n) Sp(−n) = (−1/p) [Sp(1)]2

証明 ①から Sp(n) = (n/p) Sp(1) そして Sp(−n) = (−n/p) Sp(1)。この二つの等式の左辺同士の積と、右辺同士の積は、もちろん等しい。左辺同士の積が命題5の左辺であることは明白。一方、右辺同士の積は、
  (n/p)(−n/p) = (−1/p)(n/p)(n/p) = (−1/p)[(n/p)]2 = (−1/p)
という関係に注意すると、命題5の右辺に等しい。∎

〔付記〕 命題5は n = 0 に対しては不成立。この特殊ケースは下記・命題6の「もしくは」という部分によって吸収され、それ以下の議論では問題にならない。

§5. 命題5によると、 n が 1, 2, ···, p−1 のどの自然数でも、二つの Gauß 和の積 Sp(n) Sp(−n) は常に一定の値を持つ(具体的には ±[Sp(1)]2 であり、具体的な p の値を選択すれば、 −1 が mod p の平方剰余か非剰余かによって、 ± の符号はどちらか一方に決まる)。この観察は、感覚的には、示したい結論とそう遠くもない。だけど、この経路から [Sp(1)]2 を確定するには、若干の工夫が必要。まず各 n について、命題5の値を合算する――不透明で分かりにくいアプローチだが、下記の計算自体は易しい。

命題6 n = 1, ···, p−1 に対して、もしくは n = 0, ···, p−1 に対して:
  ∑n [ Sp(n) Sp(−n) ] = (p − 1)(−1/p) [Sp(1)]2

証明 p−1 種類の積(命題5により、どの積も値が同じ)を足し合わせることで、「もしくは」の前のバージョンは、容易に示される。さて、左辺の総和については、 n = 1 から足す代わりに n = 0 から足しても、結果は同じ。なぜなら n = 0 に対応する Sp(0) = 0 と Sp(−0) = 0 の積は、和を増やしも減らしもしない。∎

以下、全ての ∑ の形式変数の範囲を 0, 1, 2, ···, p−1 とすることができる。

今、「命題6の和と等しい値」を持つ別の表現を構成したい。その別表現と命題6の表現の値が等しいということから、余計な未知数のような部分を消去して Sp(n) の値に迫る、という発想。まず Sp(n) などについて、 Legendre 記号を () と略すと、Gauß 和の定義から:
  Sp(n) = ()z0n + ()z1n + ()z2n + ··· + ()z(p−1)n
  Sp(−n) = ()z−0n + ()z−1n + ()z−2n + ··· + ()z−(p−1)n  ★
両者の積は:
  Sp(n) Sp(−n)
   = [()z0n + ()z1n + ()z2n + ··· + ()z(p−1)n] Sp(−n)
これを展開して Sp(−n) を ★ 右辺で置き換えると:
   = ()z0n [()z−0n + ()z−1n + ()z−2n + ··· + ()z−(p−1)n]
   + ()z1n [()z−0n + ()z−1n + ()z−2n + ··· + ()z−(p−1)n]
   + ()z2n [()z−0n + ()z−1n + ()z−2n + ··· + ()z−(p−1)n]
   + ···
   + ()z(p−1)n [()z−0n + ()z−1n + ()z−2n + ··· + ()z−(p−1)n]
さらに展開して、指数法則 zaz−b = za−b を使うと:
   = ∑ [ ()() z(0n−ℓn) ]  ← ()() の中身は項ごとに異なる
   + ∑ [ ()() z(1n−ℓn) ]
   + ∑ [ ()() z(2n−ℓn) ]
   + ···
   + ∑ [ ()() z((p−1)n−ℓn) ]

各総和記号の ℓ は [ ] 内の −0, −1, −2, ··· に対応して ℓ = 0, 1, 2, ···, p−1 の範囲を動く。

〔注〕 上記の計算は複雑・難解に見えるかもしれないが、項数を 3 なら 3 に特定してみれば、小学生の算数のような当たり前の計算に過ぎない。項数が任意であちこちに ··· があってそれを ∑ でまとめると仰々しく見えるけど、見かけ倒し。内容は平凡な分配法則。

z の各指数から共通因子 n をくくり出し、省略していた Legendre 記号の中身まできちんと書くと:
  Sp(n) Sp(−n) = [ (0/p)(/p) zn(0−ℓ) ] + [ (1/p)(/p) zn(1−ℓ) ] + [ (2/p)(/p) zn(2−ℓ) ] + ··· + [ ((p−1)/p)(/p) zn((p−1)−ℓ) ]
   = ∑k { ∑ [ (k/p)(/p) zn(k−ℓ) ] }
この k も 0, 1, 2, ···, p−1 の範囲を動く。要するに (k, ℓ) は (0, 0), (0, 1), ···, (p−1, p−1) の p2 通りの組み合わせを総当たり的に動く。

命題6に含まれている総和は、この Sp(n) Sp(−n) という積に関して、 n を 0, 1, 2, ···, p−1 と変化させながら足し合わせたもの、つまり上記の二重総和をさらに積み重ねた三重総和。

先が見通せない状態で、総和記号やら何やらが二重になると、内心そわそわ、おろおろしてくる。こんな方向に進んでいいのか。もしかして方針を間違って、計算地獄に陥ってしまったのでは…。ましてや三重の総和記号となると、かなり心配。

もっとも、二重総和といっても、要するに
  (k/p)(/p) zn(k−ℓ)
という形の項の k, ℓ が p2 通りの総当たりにさえなっていれば、どういう順序で足しても構わない。

三重総和についても (n, k, ℓ) が (0, 0, 0) から (p−1, p−1, p−1) までの p3 通りの値を過不足なく取るなら、どういう順序で足しても構わない。この場合に関して言えば、多少の検討の後、次のことに気付く: (k, ℓ) を (0, 0) なら (0, 0) に固定した状態で、 n を動かして
  ()() z0(k−ℓ) + ()() z1(k−ℓ) + ()() z2(k−ℓ) + ··· + ()() z(p−1)(k−ℓ)
という足し算を考え、それが済んだら (k, ℓ) を (0, 1) に増やして、また
  ()() z0(k−ℓ) + ()() z1(k−ℓ) + ()() z2(k−ℓ) + ··· + ()() z(p−1)(k−ℓ)
という足し算を考え、同様の繰り返しの発想で (k, ℓ) が (p−1, p−1) に達するまで進めれば良い。その一つの理由として…… n が 0 から p−1 まで一回動く間は k, ℓ が固定されているので、 z の累乗の前にある符号情報
  (k/p)(/p)
は一定; それを「n を変化させる総和記号」の前にくくり出すことが可能。 Legendre 記号の積(各項の符号情報)を 1 項ごとに毎回毎回、評価するより、符号情報が同じ p 項は先に合算し、その後で一度だけ符号を掛ける方が合理的だろう。 n が 0 から p−1 まで動く一回の足し算(そして、足した結果に符号情報を掛けたもの)は、こうなる:
  (k/p)(/p) n [ zn(k−ℓ) ]
それを各 k, ℓ に対して実行し、全部の結果を足し合わせると:
  ∑k { (k/p)(/p) n [ zn(k−ℓ) ] }
三つの総和記号は、それぞれ 0 から p−1 の範囲を動く。……しかし以上の観察は、一つの理由に過ぎない。最大の理由は: このように足し算の順序を整理すると、一番内側のループ、
  n [ zn(k−ℓ) ]
が、 Kronecker の「クリスマス・プレゼント」となり、ほとんど全部、勝手に消滅してくれること。すなわち:

命題7 命題6の和 ∑ [Sp(n) Sp(−n)] は
  k { (k/p)(/p) n [ zn(k−ℓ) ] }  ☆☆☆
に等しく、それは (p − 1)p に等しい。

証明 命題の前半については、上述の通り。三重の総和 ☆☆☆ が (p − 1)p に等しいことを示す。

「クリスマス・プレゼント」を思い出すと、 ☆☆☆ の一番内側にある n [ zn(k−ℓ) ] は、ほとんどの場合 0 になって消滅し、唯一 k = ℓ の場合に限って、値が p になるのであった。三重和の計算地獄において、この「ほとんど消滅」は、まさに地獄に仏、天の助け!

(k, ℓ) が (0, 0) から (p−1, p−1) までの p2 通りの値の組み合わせを取る中で、 k = ℓ という状況は、
  (0, 0), (1, 1), (2, 2), ···, (p−1, p−1)
の p 回しか発生しない。こいつは都合がいい。計算量が一気に p3 から p のオーダーに激減。ますます都合がいいことに、 k = ℓ のときには Legendre 記号の値は単純: k = ℓ = 0 なら、規約により Legendre 記号の値は 0 で、そのケースは和に寄与しない; k = ℓ ≠ 0 の場合には、二つの Legendre 記号は両方とも +1 になるか(k = ℓ が平方剰余の場合)、または両方とも −1 になるから(k = ℓ が非剰余の場合)、どっちにしても符号は (+1)(+1) or (−1)(−1) で +1 である!

以上を要約すると、 n [  zn(k−ℓ) ] は p 回だけ = p になり、それ以外は全部 = 0。そして = p になる p 回のうち、 1 回だけは、直前に掛かっている係数(符号情報)が 0 になるので和に関係せず、残りの p−1 回は係数が +1 になる。ゆえに、この三重総和の結果は (+1)p = p を p−1 個足し合わせたもの、すなわち (p − 1)p に等しい。∎

ドイツの数論・代数学は世界一ィィィ! 足せない和などないイイィーッ!!

かくして、本日のメインディッシュに至る。

定理(Gauß 和の平方) Sp(n) の平方は、 n ≡ 0 なら 0 に等しく、 n ≢ 0 なら (−1/p) p に等しい(mod p)。

ここで n ≡ 0 と n ≢ 0 は、それぞれ「n は p の倍数」「n は p の倍数ではない」という意味。

証明 n ≡ 0 のケースは自明。 n ≢ 0 と仮定する。命題6により ∑n [Sp(n) Sp(−n)] は、 (p − 1)(−1/p) [Sp(1)]2 に等しい。命題7により、それは (p − 1)p にも等しい。従って:
  (p − 1)(−1/p) [Sp(1)]2 = (p − 1)p
両辺を (p − 1) で割ると:
  (−1/p) [Sp(1)]2 = p
両辺を (−1/p) 倍すると:
  [Sp(1)]2 = (−1/p) p
本来、左辺には (−1/p) の平方が掛かっているはずだが、値が ±1 の Legendre 記号の平方は = 1 なので、無いのと同じ。

結局 Sp(1) の平方は (−1/p) p に等しい。仮定により n は p の倍数ではないので、「命題4の補足」によって、任意の n について [Sp(n)]2 は [Sp(1)]2 に等しい。∎

(−1/p) というのは、要するに x2 ≡ −1 (mod p) に解があるかないかの判定。その判定は、第一補充法則と呼ばれる: 結論だけ書くと p が 4 の倍数より 1 大きいか 1 小さいかに応じて、解あり(+1)あるいは解なし(−1)に(p は 3 以上の素数なので、必ずそのどちらか)。対応して、 Gauß 和の平方は +p あるいは −p になる。

すなわち、任意の p, n に対する [Sp(n)]2 の値が、符号も含めて、完全に確定したのである: [Sp(n)]2 の符号は、単に第一補充法則に従う。 Sp(n) はその平方根だが、 Sp(1) と任意の Sp(n) との相対関係も、判明している(命題4)。そこで問題は、基準となる Sp(1) の符号がどうなるかだが…

§6. 例えば [S5(1)]2 = 5 という事実は S5(1) = ±5 を含意する。 z が特定されているとき、 S5(1) は特定の数たちの特定の和なので、実際には ± の一方の符号だけが題意に適する。 p = 5 の場合、数値計算によれば S5(1) = 5 であり、符号 + が正しい。

〔注〕 「頂点 1」を z とするという仮定が、ここでようやく意味を持つ。 p = 5 の場合、「頂点 2」を z としたら S5(1) は符号が逆に。

一般の p について、同様に生じる複号 ± の正しい符号選択はどうなるか。幾つか具体例を検討すると、いつも + になるようだが、いつもそうなると言い切れるか。

1801年5月半ば、 Gauß はいつもそうなると記し、ほとんど毎週あの手この手で攻略を試みたものの、失敗続きだったという。4年数カ月後の1805年8月、ようやく証明に成功。日記では「とても魅惑的な定理の…」(theorematis venustissimi)と形容している。この時期の Gauß は、数学より天文学に熱中していた――という事情もあるようだが、証明を公表したのはさらに 5 年以上後。 D.A. では澄まして「+ であることをわれわれは観察する」などと「観察」してるけど、ホントに常にそうなのか、執筆時点では未確定だったのだ。

† https://images.sub.uni-goettingen.de/iiif/image/gdz:DE-611-HS-3382323:00000021/full/full/0/default.jpg

当時より理論・ツールが整っている現代でも、依然として Sp(1) の符号決定は、 [Sp(1)]2 を求めることと比べ、かなり難しい。 Sp(1) に取り組みたいのはやまやまだが、少なくとも数倍長い議論になってしまうであろう。「遊びの数論」としては、ここでいったん止まらなければならない。丘に登ったことで展望が開け、そこで見たのは、かなたにそびえる高い峰。

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恐らくこの証明は、透明さ・自然さより、短さ・技巧を優先したもの。三重総和が一気に簡約される部分は気持ちいいが、全体的にどうも見通しが悪い。そもそも三重総和など考えなくても、もっと分かりやすくできるのでは…。 Legendre 記号の「分子」が 0 の場合――というテクニカルなアプローチは、悪くない。この拡張が単なる形式的なものではなく有用であることが実感されるし、総和記号の範囲が 0 から p−1 に統一されているのも、整然としている。

必ずしも最善の証明法ではないとしても、「三重の総和を経由する面白い別証明」と言えるだろう。

この件に関する Ireland & Rosen の記述で面白いのは、証明そのものより、関連する幾つかの話題(証明の前後で取り上げられている)。それらについては、後日、紹介する予定(→ 「正八角形と  i 」)。

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