x17 = 1 の代数的解法(遊びの数論32)

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1 の5乗根を求める軽妙な方法を知って心を引かれ、数日後、ふと気付いたのです……その方法にはいろいろな応用・一般化が考えられること、特に、ガウス(Gauß)の恒等式と関連していることに。

このページの最初の方では、そんな流れで、特別な形の4次方程式について、ちょっと考えてます。その話は中断し、話題は Gauß の式を導く方法に。前半では n = 17 までを扱います。後半では、その n = 17 の式を利用して、方程式 x17 = 1 から二つの8次式の因子を得て、その二つの式の根を(変数の置換によって)それぞれ4次方程式として解きます。最終的には x17 = 1 の全部の解について、実部・虚部が求まります。有名な「正17角形の作図可能性の証明」の問題なんですが、三角関数も「ガウス周期」も使わず、純粋に古典代数的な方法で解決!

エレガントではないけど、エキセントリック。

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Summary: Gauss’s identity 4Φ5(x) = (2x2 + x + 2)2 − 5x2 immediately enables us to factor the 5th cyclotomic polynomial Φ5(x) over a certain quadratic field:
 x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x2 + (1/2)x + 1)2 − (5/2x)2
 = (x2 + [(1 + 5)/2]x + 1)(x2 + [(1 − 5)/2]x + 1),
from which one can find the exact values (surd expressions) of the primitive 5th roots of unity. A similar thing is possible with Φ17(x), giving us the exact values of the primitive 17th roots of unity (also proving, without using Gaussian periods, that a regular heptadecagon is constructible).

This method is rather inelegant, yes, but it is fun and interesting. Indeed it works (as it should).

On this page, we first determine Gauss’s Y and Z (aka An and Bn) for n = 5, 7, 11, 13, 17 using a childish-but-practical method noticed by Legendre. Secondly, using the identity for n = 17, we factor Gauss’s X, i.e. Φ17(x), into two palindromic polynomials of degree 8, and by putting y = x + 1/x, reduce them to two quartic equations. Thirdly, we solve them and find the (eight distinct) real parts of the primitive 17th roots of unity. The imaginary parts can be then easily determined by the sine half-angle formula. Note that one can simplify (170 − 2617) − 4(34 + 217) and similar expressions (a certain linear combination of nested radicals), which we already noted elsewhere in Japanese. However, we will not simplify them on this page, because what we want to show is the following fact: one can (and we actually will) write each of the primitive 17th roots of unity using nothing but integers, the four basic operators, and square root signs. Tricky denesting is non-essential here, and could become a red herring.


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2024-09-24 「1 の5乗根」について (x2 + x/2 + 1)2 の利用

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式 #x17 = 1

1 の5乗根とは、「5乗すると 1 になる数」つまり x5 = 1 の解。言い換えれば x5 − 1 = 0 の解。 x = 1 はもちろんその一つの解なので、 x5 − 1 は x − 1 で割り切れる。多項式の割り算、または一般公式から:
  x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1)
x = 1 はこの右辺の一つ目の丸かっこ内をゼロにする。二つ目の丸かっこ内をゼロにする数、つまり次の関係を満たす x は、何か?
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0  《あ》

教科書的には、両辺を x2 で割って y = x + 1/x と置くのだが、もっと直接的に下記のようにすることもできる。

(x2 + (1/2)x + 1)2 = x4 + x3 + (9/4)x2 + x + 1 という関係 †を利用。これは《あ》左辺より 5/4x2 過剰なので、次の式が成り立つ:
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x2 + (1/2)x + 1)2 − (5/2x)2  《い》
恒等式 A2 − B2 = (A + B)(A − B) を使うと、《い》は…
   = (x2 + [(1 + 5)/2]x + 1)(x2 + [(1 − 5)/2]x + 1)
…となるので、《あ》は次と同値:
  x2 + [(1 + 5)/2]x + 1 = 0  《う》
  または x2 + [(1 − 5)/2]x + 1 = 0  《え》
《う・え》は2次方程式なので、単純計算で機械的に解けるっ!

† 恒等式 (A + B + C)2 = A2 + B2 + C2 + 2(AB + BC + CA) を使うと…
  (x2 + (1/2)x + 1)2 = (x2)2 + ((1/2)x)2 + 12 + 2(x2(1/2)x + (1/2)x⋅1 + 1⋅x2)
   = x4 + (1/4)x2 + 1 + x3 + x2 + x + 2x2 = x4 + x3 + (9/4)x2 + x + 1

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《う》の判別式は、次の負数:
  ((1 + 5)/2)2 − 4⋅1⋅1 = (1 + 25 + 5)/4 − 16/4 = (−10 + 5)/4
その平方根は、虚数 ±(−10 + 25)/2 = ±i(10 − 25)/2 なので、《う》の解は:
  x = (−1 − 5)/4 ± i(10 − 25)/4  《お》
同様に《え》の解は:
  x = (−1 + 5)/4 ± i(10 + 25)/4  《か》

x5 = 1 にはちょうど五つの解がある: その一つは x = 1 だが、それ以外に《お》の二つの複素数と《か》の二つの複素数(それぞれ ± によって二つの数を表している)も「1 の5乗根」。上記の解法はスピーディーだけど、《い》の変形が天下り的でトリッキー。 (x2 + (1/2)x + 1)2 = x4 + x3 + (9/4)x2 + x + 1 さえ見えれば一本道だが、一目瞭然とは言い難い。さいわい《あ》を《い》にすることは、ひらめきに頼らなくても、アルゴリズム的に実行可能(入力の3次の係数の半分を、出力の1次の係数にするだけ)。

《あ》やそれと同様の(係数が回文的な)方程式に関する限り、一般の4次方程式として扱うくらいなら、 y = x + 1/x と置く方が手っ取り早い。そうと知りつつ、視野を広げ、あえて一般の4次方程式の例題として検討してみるのも、悪くあるまい。

〔参考文献〕 Gelin: Éléments de trigonométrie, p. 231
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015069248337&seq=237

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画像1 の5乗根は、イメージ的には、右向きの正五角形(複素平面上で単位円に内接する)の五つの頂点。《お》の実部は cos 72° に当たり、《か》の実部は cos 144° = −cos 36° に当たる(画像では、正負と無関係の「線分の長さ」を図示)。《お》の虚部は ±sin 36° で、《か》の虚部は ±sin 72° に等しい。

これらの数は一見複雑そうだけど、 18°, 36°, 54°, 72° の sin と cos は全部、分母が 4ということ(15°, 75° の sin と cos もそうだが)、そして sin 18° (= cos 72°) の分子が 5 − 1 であることだけ知ってれば、三角関数の基本公式を使って、他の値もだいたい何とかなる。例えば…
  sin 18° = (5 − 1)/4 ← これは知ってるとすると
  sin2 18° = (5 − 25 + 1)/16 = (6 − 25)/16  《き》
平方根が欲しいので、約分せずに、分母を平方数 16 のまま進めるのがコツ。しからば:
  cos2 18° = 1 − sin2 18° = 16/16 − (6 − 25)/16 = (10 + 25)/16  《く》
《く》の分子・分母の平方根を考えれば、容易に cos 18° (= sin 72°) の値を得る。分母が 4 ってことは分かってるので、分子としては 10 + 25 全体に根号を付けるだけ――二重根号、恐るるに足らず!

一方、《き》から《く》を引くと(倍角の公式):
  cos 36° = cos2 18° − sin2 18°
   = (10 + 25)/16 − (6 − 25)/16 = (4 + 45)/16 = (1 + 5)/4  《け》

45° < θ < 90° の角度については cos θ = sin (90° − θ), sin θ = cos (90° − θ) となる…。

しかし肝心の出発点となる sin 18° の分子は、 5 − 1 なのか 5 + 1 = 1 + 5 なのか。はたまた 1 − 5 なのか?

常識で考えれば、別に迷うことでもないだろう…。 sin 18° が正の数ということは明白。 5 = 2.2… なので 1 − 5 が分子になるわけないし、 1 + 5 = 3.2… を 4 で割った 0.8… は、 sin 18° としては、でか過ぎる。 sin 18° が sin 30° = 0.5 より大きいわけないっ!

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2024-09-26 回文4次方程式 右から読んでも「いろくろい」

#遊びの数論 #4次方程式 #x17 = 1

例題 x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 = 0 を満たす x を求める。

等号の左側にある4次式。 x の4乗の係数~0乗の係数(定数)は、左から読んでも右から読んでも、順に 1, 6, 9, 6, 1。こういう「どっち向きに読んでも同じ」という状況を回文的と称する――日本語の音節で言えば、「色黒い」とか「田植え歌」のようなもの。

係数が回文的な x についての4次方程式は、 x2 で割って y = x + 1/x と置くと y についての2次方程式になり、機械的に解くことができる(同様のテクニックは、4次方程式以外でも使える)。けれど、そのやり方は必ずしも便利ではなく(比較)、一般の4次方程式(回文的とは限らない)への発展性にも乏しい。別の良いアイデアは、与式の3次の係数(例題では 6)の半分を ℓ として、 (x2 + ℓx + 1)2 を考えること(詳細は後述)。
  x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 = (x2 + 3x + 1)2 − 2x2 = [x2 + (3 + 2)x + 1][x2 + (3 − 2)x + 1]
…と書けるので、次の2次方程式を解くことが、例題の4次方程式を解くことと同じ意味になる。
  x2 + (3 + 2)x + 1 = 0 または x2 + (3 − 2)x + 1 = 0

この手法を発展させ、より一般的に (x2 + ℓx + p)2 の形を考えることが、4次方程式の一般論の一つの入り口となる。

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3次の係数の半分を ℓ とすることには、もちろん根拠がある。
  (x2 + 3x + 1)2
…を展開してみよう。説明の便宜上、 y = 3x + 1 と置くと:
   = (x2 + y)2 = (x2)2 + 2x2y + y2
   = x4 + 2x2(3x + 1) + (3x + 1)2  ← y を 3x + 1 に戻した
   = x4 + (6x3 + 2x2) + (9x2 + 6x + 1) = x4 + 6x3 + 11x2 + 6x + 1

こいつから 2x2 を引いてやれば、例題の「いろくろい」の4次式…
  x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1
…とピッタリ一致。つまり例題の4次式は、次の式と等しい:
  (x2 + 3x + 1)2 − 2x2 = (x2 + 3x + 1)2 − ((2)x)2  《さ》

少し一般化して、とある数 ℓ を含む (x2 + ℓx + 1)2 を展開。上記の y に当たるものが ℓx + 1 になるので:
   = x4 + 2x2(ℓx + 1) + (ℓx + 1)2  ← y を ℓx + 1 に戻した
   = x4 + (2ℓx3 + 2x2) + (ℓ2x2 + 2ℓx + 1)
   = x4 + 2ℓx3 + (ℓ2 + 2)x2 + 2ℓx + 1  《し》

仮定の話として、もし《し》から何らかの2次式を引き算したものが、与えられた4次式…
  x4 + ax3 + bx2 + cx + d  《す》
…に一致するとしたら、《し》と《す》は4次・3次の項が同一でなければならない。理由は単純で、2次式を引き算しても、4次・3次の項は変わらないから。4次の係数は、既に《し・す》のどちらでも 1。よって、3次の係数の比較から a = 2ℓ つまり ℓ = a/2 とすればいい。要するに、4次式《す》を、
  (x2 + ℓx + p)2 − (ex2 + fx + g)  《せ》
…のような形に書き換えたければ(p, e, f, g は何らかの係数)、3次の係数の半分を ℓ とすることが出発点。この理屈が、実際に一般の4次方程式の解法に役立つためには、引き算される2次式 ex2 + fx + g が1次式の平方になってる必要がある、下記のように。
  (x2 + ℓx + p)2 − (qx + r)2  《そ》

このメモでは「簡単な4次方程式」(係数が回文的)だけを扱い、《そ》の真意に深入りすることはしないけど、原理的には、以下で述べる簡単な場合と全く同じ方針によって、一般の4次方程式を解くことができる。「係数が回文的」というのは特殊で限定的なケースではあるが、一般論の手掛かりとなり得るし、係数が回文的な4次式は、実用上もしばしば重要な意味を持つ(1 の5乗根参照)。

〔補足〕 もしも「e, f, g の選択は自由」だったら、「結果が《す》と等しくなるように、《し》から2次式を引き算すること」は簡単そうに思える。現実には ex2 + fx + g の部分は、2変数 q, r を使って (qx + r)2 の形にならねばならない(言い換えれば、 e = q2, f = 2qr, g = r2 のようになっている必要がある)――それが《そ》の意味で、一般の4次方程式に関して p, q, r を選択するアルゴリズムは、3次方程式の問題になる(別のメモ参照)。以下では「3次方程式を経由せず、いきなり2次方程式に還元できるケース」を扱う。

係数が回文的なら、《す》において d = 1, a = c なのだから、《し・す》で3次の項が一致するように ℓ を設定してしまえば、《し・す》の1次の項・定数項も自動的に一致する。

〔例〕 ℓ = 3 とすれば《し》は x4 + 6x3 + 11x2 + 6x + 1。これは、例題の x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 と比べて、2次の項を除く全部の項が等しい。

係数が回文的な4次式 x4 + ax3 + bx2 + ax + 1 は、ℓ = a/2 を使って (x2 + ℓx + 1)2 − ex2 と変形可能(そのことから、容易に二つの2次式の積に分解される)。ただし:
  e = (ℓ2 + 2) − b

〔証明〕 (x2 + ℓx + 1)2 は、《せ》において p = 1 の場合。この平方を展開した《し》は、仮定から x4 + ax3 + bx2 + ax + 1 とほとんど等しく、必要に応じて2次の係数だけを補正すれば完全に等しくなる(《せ》において f = g = 0 である)。《し》の2次項 (ℓ2 + 2)x2 から ex2 を引き算して、結果が《す》の2次項 bx2 に等しくなるとすると:
  (ℓ2 + 2)x2 − ex2 = bx2
  ∴ (ℓ2 + 2) − e = b つまり e = (ℓ2 + 2) − b ∎

冒頭の例題 x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 では、3次の係数を 2 で割って ℓ = 3、 b = 9 なので e = (32 + 2) − 9 = 2。つまり:
  x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 = (x2 + 3x + 1)2 − 2x2  《た》

〔注〕 e の決定に関して、上記の公式を使う代わりに、単に (x2 + 3x + 1)2 を実際に展開して、出てくる 11x2 を与式の 9x2 と比べてもいい(前者から 2x2 を引けば、後者と等しくなることは明白)。

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(x2 + ℓx + 1)2 − ex2 の形さえ作ってしまえば、後は単純計算。その手順・表現がベストかどうかはともかく、機械的に正しい解に到達できる。 e の平方根を q とすると(つまり q2 = e):
  与えられた4次式 = (x2 + ℓx + 1)2 − q2x2 = (x2 + ℓx + 1)2 − (qx)2
平方の差 A2 − B2 は和・差の積 (A + B)(A − B) に等しいので:
   = [(x2 + ℓx + 1) + (qx)][(x2 + ℓx + 1) − (qx)] = [x2 + (ℓ + q)x + 1][x2 + (ℓ − q)x + 1]  《ち》
《ち》の二つの [ ] 内のどちらかの値が 0 になるとき、《ち》の積(それは与えられた4次式に等しい)は明らかに 0 になる。結局、この4次方程式の解(重解がなければ計 4 個ある)を求める問題は、次の二つの2次方程式の問題(重解がなければそれぞれ 2 個の解を持つ)に帰着する。
  x2 + (ℓ + q)x + 1 = 0 または x2 + (ℓ − q)x + 1 = 0  《つ》

われわれの例題の4次式は《た》なので、《ち・つ》を適用すると:
  x2 + (3 + 2)x + 1 = 0  《て》
  または x2 + (3 − 2)x + 1 = 0  《で》
《て》は、判別式 (3 + 2)2 − 4⋅1⋅1 = 9 + 2⋅3⋅2 + 2 − 4 = 7 + 62 が正なので、二つの実数解を持つ。
  《て》の解 = [−3 − 2 ± (7 + 62)]/2
《で》は、判別式 (3 − 2)2 − 4⋅1⋅1 = 9 − 2⋅3⋅2 + 2 − 4 = 7 − 62 が負なので(7 から引き算される 62 は 7 より大きい。それどころか 6 × 1.4 = 8.4 より大きい)、実数でない二つの(共役)複素数解を持つ。
  《で》の解 = [−3 + 2 ± (7 − 62)]/2
分子にある負数の平方根については、そうしたければ虚数単位 i を使って i(62 − 7) と書いても同じこと。

〔参考〕 数値的には《て》の解が −2.20710… ± 1.96756… = −0.23953… or −4.17467…; 《で》の解が −0.79289… ± (0.60936…)i。左端の複号の前の 2.20710… という数の並び(絶対値)は 3 + 2 = 4.41421… の半分に他ならない。これら四つの数を x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 に入れてみると、確かに誤差の範囲でゼロになる。

以上をまとめると、「解の公式」を明示的に書くことができる。実用上、大して役立たないけど、まぁ遊び…

回文的な4次方程式の「解の公式」 x4 + ax3 + bx2 + ax + 1 = 0 の解は次の通り。 ℓ = a/2, e = ℓ2 + 2 − b とすると:
  [−ℓ − e ± (2 + e − 4 + 2ℓe)]/2 または [−ℓ + e ± (2 + e − 4 − 2ℓe)]/2
一般には、これらは四つの相異なる数だが、重解が生じることはあり得る。

〔証明〕 《つ》の二つの2次方程式のそれぞれに、解の公式を適用しただけ。《つ》の一方の式は +q を含み、他方の式は −q を含むので、 q2 = e の q の符号の設定は、正でも負でも全体としては同じ結果: 一般性を失うことなく q = e とできる。判別式は (ℓ + q)2 − 4⋅1⋅1 = ℓ2 + 2ℓq + q2 − 4 = ℓ2 + e − 4 + 2ℓq などとなり、それが分子の大きな根号下に入る。∎

例1 x4 − 6x3 + 7x2 − 6x + 1 = 0 の解。 3次の係数 −6 を半分にして ℓ = −3。 (x2 − 3x + 1)2 = x4 − 6x3 + 11x2 − 6x + 1 は与式より 4x2 大きいので:
  与式 = (x2 − 3x + 1)2 − 4x2 = (x2 − 3x + 1)2 − (2x)2 = (x2 − 3x + 1 + 2x)(x2 − 3x + 1 − 2x)
  ∴ x2 − x + 1 = 0 または x2 − 5x + 1 = 0
代わりに e = ℓ2 + 2 − 7 = 4 の平方根 q = 2 を《つ》に当てはめても、同じ結論に。前者の解は (1 ± −3)/2、ちなみにこの共役複素数は、どちらも 1 の原始6乗根(−1 の原始3乗根)。後者の解は (5 ± 21)/2。「解の公式」に直接 ℓ = −3(従って −ℓ = 3)と e = 4 を代入しても同じ解を得る。全然便利じゃないけど。

例2 x4 + 2x3 + 3x2 + 2x + 1 = 0 の解。この係数 1, 2, 3, 2, 1 は、ちょっと面白い。エレガントな(?)解法として 12321 = (111)2 という整数計算を応用すると、与式 = (x2 + x + 1)2 となり、 ω と ω2 つまり (−1 ± −3)/2 が、それぞれ二重根であることが見て取れる。

本質的に同じ二つの掛け算(整数 vs. 整係数多項式)

   111                 x^2 + x + 1
   111                 x^2 + x + 1
   ───                 ───────────
   111                 x^2 + x + 1
  111            x^3 + x^2 + x
 111       x^4 + x^3 + x^2
 ─────     ───────────────────────
 12321     x^4 +2x^3 +3x^2 +2x + 1

同様に 1111 × 1111 = 1234321 だから:
  x6 + 2x5 + 3x4 + 4x3 + 3x2 + 2x + 1 = (x3 + x2 + x + 1)2
  あっ こりゃ 便利!

実直に ℓ = 1 として (x2 + x + 1)2 を考え、普通に展開しても = x4 + 2x3 + 3x2 + 2x + 1。これは与式そのもので、結局 e = 0 のケースに当たる。与えられた方程式 ⇔ (x2 + x + 1)2 = 0 ⇔ x2 + x + 1 = 0 となって、この最後の2次方程式を普通に解けば、前記の共役複素数を得る(「解の公式」に ℓ = 1, e = 0 を入れても、同じ結論に)。これらは 1 の原始3乗根: x3 = 1 ⇔ (x − 1)(x2 + x + 1) = 0。

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2024-09-27 回文4次式・6次式についての覚書

#遊びの数論 #4次方程式 #x17 = 1

x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 = (x2 + 3x + 1)2 − 2x2 = 0 のような4次方程式の解法のショートカットから、いろいろな話題が派生する。特に「平方差への変形」は「円分多項式に関するガウスの公式」と関連している。 1 の原始7乗根を根とする6次式 x6 + x5 + ··· + x + 1 に対しても、同様のアイデアを適用できるであろう。

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(I) 係数が回文的な4次方程式について、平方差を利用する解法は、教科書的ないわゆる相反そうはん方程式のアプローチより平易で、分かりやすい。

(II) このテクニックは、回文4次式の因数分解にも活用可能。例えば「x4 − 6x3 + 7x2 − 6x + 1 を因数分解」という場合、和 u + v が −6 で積が uv = 7 − 2 = 5 の2数 u, v を考えるだけでいい。容易に u = −5, v = −1 が見つかり、与式は:
   = (x2 − 5x + 1)(x2 − x + 1)

(III) 回文4次式に限らず、3次・1次の符号が反対のケース(例: x4 − 6x3 + 7x2 + 6x + 1)にも利用可。のみならず、多少の一般化によれば、一見回文とは程遠い4次式、例えば x4 − 12x3 + 28x2 − 48x + 16 の分解 = (x2 − 10x + 4)(x2 − 2x + 4) にも利用可。

(IV) x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x2 + (1/2)x + 1)2 − (5/4)x2 は、両辺を 4 倍すると:
  4x4 + 4x3 + 4x2 + 4x + 4 = (2x2 + x + 2)2 − 5x2
これは円分多項式に関するガウスの公式であり、単に 1 の5乗根に関連するだけなく、 「5k+1」型素数を法として 5 が平方剰余であることの直接証明にも利用される。

(V) この手法のある種の一般化は、1 の原始7乗根を根とする回文6次式 x6 + x5 + ··· + x + 1 に適用可能。

詳細については後日記す予定。

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2024-09-28 x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 = 0 教科書の方法との比較

#遊びの数論 #4次方程式 #x17 = 1

このシリーズで紹介しているアイデアは、通常の方法より計算量的に約30%高速で見通しも良いが、4次式にしか通用しない。

文献に記されている定番の置換 y = x + 1/x は、この場合、少し遠回りになるけど、一般性が高い。両方のやり方を比較検討してみたい。

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【1】 x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 の係数 1, 6, 9, 6, 1 は回文的(左右対称)。このような4次式は、
   = (x2 + ℓx + 1)2 − ex2  《ア》
の形に変形すれば、直ちに二つの2次式に分解されるのであった(詳細)。ここで ℓ は入力の3次の係数の半分、この例では ℓ = 3 となる。 e の値は、 ℓ2 に 2 を足して入力の2次の係数を引いたものだが(この例では 32 + 2 − 9 = 2)、細かく覚えてなくても、単に (x2 + ℓx + 1)2 を展開して、与式と係数を比較すれば、簡単に決定できる。

この例では (x2 + 3x + 1)2 なので、仮に素朴に筆算しても、10秒かからないだろう:

掛け算
      1  3  1
      1  3  1
      ───────
      1  3  1
   3  9  3
1  3  1
─────────────
1  6 11  6  1

…となって = x4 + 6x3 + 11x2 + 6x + 1。あるいは、恒等式 (A + B + C)2 = A2 + B2 + C2 + 2AB + 2AC + 2BC を使うとすれば:
  (x2 + 3x + 1)2 = x4 + 9x2 + 1 + 2⋅x2⋅3x + 2⋅x2⋅1 + 2⋅3x⋅1 = x4 + 6x3 + 11x2 + 6x + 1

実際には、2次の係数だけ分かれば十分なので、さらに手抜きができる。 (x2 + ℓx + 1)2 を展開したときの、2次の係数の発生源は (ℓx)2 と 2⋅x2⋅1 の二つだけ。この例では (3x)2 + 2x2 = 11x2 となる(要するに、2次の係数は ℓ2 + 2)。

この部分の手順はお好みしだいとして、ともかく (x2 + 3x + 1)2 は与えられた4次式よりちょうど 2x2 大きいのだから、次の結論に至る。
  与式 = (x2 + 3x + 1)2 − 2x2 = (x2 + 3x + 1)2 − ((2)x)2
   = [x2 + (3 + 2)x + 1][x2 + (3 − 2)x + 1] = 0
  ∴ x2 + (3 + 2)x + 1 = 0 または x2 + (3 − 2)x + 1 = 0  《イ》

この先は、2次方程式を解くだけの一本道。ここに至る道筋も、ℓ が3次の係数の半分ってことさえ認識できれば、単純明快だろう。与式の2次の係数を b とすると e = ℓ2 + 2 − b であり、機械的に《ア》の形を作れるのだが、上述のように、その部分は細かく把握してなくても支障ない。

【2】 別解。この種の多項式に関しては、 y = x + 1/x と置いて y の多項式に書き換えるのが一つの定石となっている。その方法は次の通り(簡潔化のため 1/x の代わりに x−1 と記すことにする)。

まず x4 + 6x3 + 9x2 + 6x + 1 = 0 の解 x は明らかに 0 ではないので、この方程式の両辺を x2 で不都合は無い。割り算を実行すると、各項の次数が 2 ずつ減って、こうなる:
  x2 + 6x + 9 + 6x−1 + x−2 = 0 項を並び替えれば
  (x2 + x−2) + 6(x + x−1) + 9 = 0  《ウ》

変数を y に置換する手順には若干のバリエーションがあるけど、ここでは一番分かりやすいと思われる方法を記す。
  (x + x−1) = y  《エ》
と置くと:
  y2 = (x + x−1)2 = x2 + 2⋅x⋅x−1 + x−2 = x2 + x−2 + 2
  ∴ (x2 + x−2) = y2 − 2  《オ》
《オ》と《エ》を《ウ》に代入して…
  (y2 − 2) + 6(y) + 9 = y2 + 6y + 7 = 0  《カ》
  これを解くと y = −3 ± 2  《キ》

今、《エ》を使って、 y が満たすべき条件《キ》を x についての式で表すと:
  x + x−1 = −3 + 2 または x + x−1 = −3 − 2
それぞれ両辺を x 倍して:
  x2 + 1 = (−3 + 2)x または x2 + 1 = (−3 − 2)x

これを移項すれば《イ》になって、その先は【1】と全く同じ。

【3】 比較。 y = x + 1/x と置く方法の短所として、まず変数を x から y に変換すること自体が(難しくはないが)少々面倒くさい。 (x2 + ℓx + 1)2 の展開も(変数置換よりは単純だろうが)微妙に面倒くさいので、下準備の手間はどっちも同じくらいか。

定石の方法では、《イ》と同じ二つの2次方程式を導くために、別の2次方程式《カ》を解かなければならない。【1】のショートカットでは二つの2次方程式を直接導くことができ、三つ目の2次方程式は必要ない。「解かなければならない2次方程式の数」を目安とするなら、 2:3 の割合で、われわれの方法は計算量的に軽快(33%高速)。

他方において、(4次式に限らず)係数が回文的なら y = x + 1/x と置くだけでいつでも次数を半減させられるのは、定石的手順の大きなメリットだろう。強力で一般性が高いからこそ、4次方程式のような次数が低いケース(直接的に処理した方が手っ取り早い)では、若干オーバーヘッドがあり、結果的に遠回りになってしまうのだが…。 (x2 + ℓx + 1)2 の展開を利用する方法にも面白い応用があり、どちらも研究に値する。

このような4次方程式では、ある数 x1 が一つの解なら、その逆数 x2 = 1/x1 も一つの解(x1 = x2 = 1 の場合を除き、この二つの解は相異なる)。《イ》の2次方程式、例えば
  x2 + (3 + 2)x + 1 = 0  《ク》
を見ると、その2解 α, β の積は、解と係数の関係から定数項 1 に等しい。つまり αβ = 1、従って α と β は互いに逆数。《エ》の条件からも、もし x = α が解なら α + 1/α は一定の数 y に等しく(その y は《カ・キ》によって規定される)、逆に α + 1/α が一定の数 y に等しければ、その α は与えられた4次方程式の解。ところが、もし x = α が和についての条件《エ》を満たすなら、 x = 1/α も全く同じ条件を満たす。実際、
  (1/α) + 1/(1/α)
の第2項は「α の逆数の逆数」だから α 自身であり、結局この和は α + 1/α に等しい(足し算の順序を逆にしただけ)。

検算を兼ねて、《ク》の2解
  x1 = [−3 − 2 + (7 + 62)]/2, x2 = [−3 − 2 − (7 + 62)]/2
…が互いに逆数であること(つまり積が 1 であること)を直接確かめておく。 x1x2 は二つの分数の積。積の分子は「和・差の積」の形なんで、次の数に等しい:
  (−3 − 2)2 − (7 + 62) = 9 − 2⋅(−3)⋅2 + 2 − 7 − 62 = 4
一方、積 x1x2 の分母は 2⋅2 = 4 なんで、確かに x1x2 = 4/4 = 1 となる。

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「係数が回文的な4次式」を平方の差の形にするショートカットは、本質的には単純なことだろう。特に x4 + x3 + x2 + x + 1 を(4倍して)差の形にする変形については Gauß が既に観察し、一般化している。その小技は、第5補充法則の直接証明の一部としても使われるのだが、 Gauß の議論はおおむね円分多項式の文脈に属していて、一般の回文4次式との関係については、それほど明らかではない。

今回このショートカットを意識するきっかけになった次のシンプルな関係は、19世紀の古い本に記されていた:
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x2 + (1/2)x + 1)2 − (5/2x)2  《ケ》
1 の原始5乗根の根号表現」に関係のある式。両辺が等しいことを容易に確かめられるが、具体的にはどうやって左辺から右辺を導くのか。単に「左辺の3次の係数」の半分を「右辺の丸かっこ内の2次の係数」とすればいい(前述)。このアルゴリズムを一般の回文4次式に適用できること、等式《ケ》が Gauß の公式
  4(a4 + a3 + a2 + a + 1) = (2a2 + a + 2)2 − 5a2  《コ》
…と実質同じ内容であることに気付き、最初思ってた以上に話が広がってきた。日々情報があふれてる現代だけど、何世紀も前の文献からヒントやインスピレーションが得られることも意外と多い。 Euler は、この種の4次方程式の解法を別の方向に少し一般化している

† https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015069248337&seq=237

‡ D.A., art. 123 https://archive.org/details/werkecarlf01gausrich/page/n101/mode/1up

¶ 761–764 https://archive.org/details/ElementsOfAlgebraLeonhardEuler2015/page/248/mode/1up

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2024-10-06 ガウスの式 4X = Y2 ∓ nZ2 の簡易的な導出

#遊びの数論 #4次方程式 #1の原始根 #x17 = 1 #円分多項式

4(x4 + x3 + x2 + x + 1) = (2x2 + x + 2)2 − 5(x)2

4(x6 + x5 + ··· + x + 1) = (2x3 + x2 − x − 2)2 + 7(x2 + x)2

4(x10 + x9 + ··· + x + 1) = (2x5 + x4 − 2x3 + 2x2 − x − 2)2 + 11(x4 + x)2 等々

この種の恒等式(Gauß, D.A., art. 357)について、右辺を展開したものが左辺に等しいことは、機械的計算で確かめられる。一方、左辺が与えられたとき、それを右辺の形にすることは、一般にはやや難易度が高い。次数が低い場合に限っては、初等的な導出法(Legendre による)がある。

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【1】 n を 2 以上の整数とする。 x についての n 次式 xn − 1 は、次のように分解される。

xn − 1 = (x − 1)(xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1)  アア

〔例〕 x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1)

このことは、右辺を実際に展開してみれば明らかだろう:
  アアの右辺 = x(xn−1 + xn−2 + xn−3 + ··· + x + 1) − 1(xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1)
   = (xn + xn−1 + xn−2 + ··· + x2 + x) − (xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1)
便宜上 xn−1 + xn−2 + ··· + x を A とすると:
   = (xn + A) − (A + 1) = xn + A − A − 1 = xn − 1 = アア左辺

〔例〕 (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1) = x(x4 + x3 + x2 + x + 1) − 1(x4 + x3 + x2 + x + 1)
   = (x5 + x4 + x3 + x2 + x) − (x4 + x3 + x2 + x + 1) = x5 − 1

x ≠ 1 という了解の下で、アアの両辺を x − 1 で割ると:

(xn − 1)/(x − 1) = xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1  アイ

アアやアイは任意の 2 以上の整数 n に対して有効だが、その中でも n が素数の場合、アイの右辺をさらに因数分解して多項式の積にすることは、できない――有理係数の範囲では。「さらなる分解は不可能!」というこの状況は、日本語では既約と呼ばれることがある――「既に約されてる」(割られ、分解され尽くしている)というようなニュアンスだろう。

〔例〕 n = 2(素数)の場合 x2 − 1 = (x − 1)(x + 1) この因子 x + 1 は既約
  n = 3(素数)の場合 x3 − 1 = (x − 1)(x2 + x + 1) この因子 x2 + x + 1 は既約
  n = 4(合成数)の場合 x4 − 1 = (x − 1)(x3 + x2 + x + 1) この因子 x3 + x2 + x + 1 は既約でない
    実際 x3 + x2 + x + 1 = (x + 1)(x2 + 1) と分解可能★
  n = 5(素数)の場合 x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1) この因子 x4 + x3 + x2 + x + 1 は既約
  n = 6(合成数)の場合 x6 − 1 = (x − 1)(x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1) この因子は既約でない
    実際 x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x + 1)(x2 + x + 1)(x2 − x + 1) と分解可能★

★について n が 4 以上の偶数の場合の x3 + x2 + x + 1 や x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1 のような多項式は、偶数個の項を持つ。そこに x = −1 を入れると、奇数番目の項は −1 になり、偶数番目の項は +1 になるので、全体としては = 0 となる。つまり x = −1 は根; 式は x + 1 で割り切れる。この割り算を(筆算など何らかの方法で)実行すると:
  x3 + x2 + x + 1 = (x + 1)(x2 + 1)
この2次の余因子(商)は、 x2 + 1 = x2 − (−1) = (x + −1)(x − −1) なので、係数に虚数を許せば分解可能だが、有理数の範囲では既約。 n = 6 の例では:
  x5 + x4 + ··· + x + 1 = (x + 1)(x4 + x2 + 1)
この4次の余因子は、次のように分解可能:
  x4 + x2 + 1 = (x4 + 2x2 + 1) − x2
   = (x2 + 1)2 − (x)2 = (x2 + 1 + x)(x2 + 1 − x)

アイの右辺の形の n−1 次式(係数が全部 1)は、 n が素数なら既約、 n が合成数なら既約でない(可約)。ここで「既約」か否かというのは、あくまで有理係数(または整係数)の範囲で考えた場合の区別。もっと広い範囲で係数を考えれば、既約の多項式もさらに分解可能かもしれない。例えば、 x4 + x3 + x2 + x + 1 は、有理係数の範囲では既約だが、もし係数に無理数を使ってもいいとするなら可約となり、次のように分解される:
   = (x2 + [(1 + 5)/2]x + 1)(x2 + [(1 − 5)/2]x + 1)

† この場合、係数を「有理数」の範囲で考えても「整数」の範囲で考えても、多項式が既約かどうかの結論は変わらない。というのも、「有理数」の範囲で既約なら、当然(それより狭い)整数の範囲でも既約。一方、「有理係数」の範囲で可約の場合、実はより限定的に「整係数」の範囲でも可約。

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【2】 ここからは n を 5 以上の素数とする(2 を除外するのは n を奇数に統一するため。 n = 3 のケースも、以下の議論では例外的になるので除外)。アイの右辺の形の多項式を、大文字の X を使って Xn で表すことにする:
  X5 = x4 + x3 + x2 + x + 1
  X7 = x6 + x5 + ··· + x + 1
  X11 = x10 + x9 + ··· + x + 1 等々

これら一つ一つの既約多項式 Xn に対して、最高次の係数 2 の多項式 Y と、最高次の係数 1 の多項式 Z が存在して、
  4Xn = Y2 ∓ nZ2  アウ
と書くことができる――これは Gauß が、名高い数論研究書 Disquisitiones Arithmeticae (略して D.A.)の §357 で記した定理。ここで Xn の次数は n − 1 だが、 Y の次数は Xn の次数の半分、つまり (n − 1)/2 に等しく、 Z の次数はそれより 1 小さい。複号 ∓ の部分は、 n が 4 の倍数より 1 大きいときはマイナス、さもなければプラスとする(言い換えれば Y の次数が偶数ならマイナス、奇数ならプラス)。

† n は 5 以上の素数(従って奇数)なので n − 1 は偶数。分数 (n − 1)/2 は割り切れる。

アイの左辺の割り算には、条件 x ≠ 1 が必要。しかし、この割り算と無関係に、アイの右辺の多項式 Xn 自体は、 x = 1 に対しても値を持つ。 4Xn についての Gauß の公式アウも、任意の x に対して恒等的に成り立つ。

例えば n = 5 の場合、 Y = 2x2 + x + 2 そして Z = x となる(導出法については後述):
  4(x4 + x3 + x2 + x + 1) = (2x2 + x + 2)2 − 5(x)2  アエ
n = 7 の場合、 Y = 2x3 + x2 − x − 2 そして Z = x2 + x となる:
  4(x6 + x5 + ··· + x + 1) = (2x3 + x2 − x − 2)2 + 7(x2 + x)2  アオ
右辺の nZ2 の前の符号が、アエでは − だがアオでは + であることに注意。この違いは「n = 5 は 4 の倍数より 1 大きいが、 n = 7 は 4 の倍数より 3 大きい」という違いに対応。

一般の場合の Y, Z の存在証明は比較的難しく、具体的な Y, Z の構成に必要な計算量もやや大きい(Gauß 自身は Y, Z の存在を一般的に証明したものの、具体的な Y, Z の形は n = 23 までしか記していない)。他方において、 n ≤ 37 に範囲を制限するのなら、初等的方法で Y, Z を確定できる。

その原理は次の通り。 Legendre がその整数論・第3版 §511 で指摘しているように、この定理が成り立つことを事実と認めるなら、アウにより、 4Xn と Y2 には n の倍数の差しかない。よって mod n では、両者は合同:
  4Xn ≡ Y2 (mod n)  アカ
  両辺の平方根から Y ≡ ±2Xn  アキ

仮定により n は(5 以上の)素数なので、いわゆる新入生の夢
  (x − 1)n ≡ xn − 1 (mod n)
が成り立つ。 x ≠ 1 の場合、その両辺を x − 1 で割ると:
  (x − 1)n−1(xn − 1)/(x − 1) = Xn  アク
最後の等号は Xn の定義アイによる。 x = 1 のときも、真ん中の分数を無視すると、アクは成立(そのとき左辺は 0、右辺は n だが、 0 ≡ n は真)。

† 左辺を展開したとき、二項係数と素数の性質から、両端の2項以外はどれも n の倍数となり、従って mod n では ≡ 0 となって消滅。「新入生(一年生)の夢」というのは、「未熟者は (x + y)n = xn + yn との混同から (x + y)n = xn + yn のようなことを考えるが、それは非現実な夢想だ」というような意味らしい。普通なら妄想扱いされてしまうこの「本当だったら夢のよう」な計算が、素数を法とする二項展開では、実際に成立する!

‡ Xn は xn−1 から x (= x1) までの n−1 項と、末尾の定数項 1 の和。定数項も含めると n 項あり、 x = 1 の場合、全部の項が 1 に等しい。

アクの両辺の平方根を考えると(仮定により n−1 は偶数なので 2 で割り切れる):
  (x − 1)(n−1)/2 ≡ ±Xn
これをアキの右辺に代入すると:
  Y ≡ ±2(x − 1)(n−1)/2
Y の最高次の係数は 2 なので、複号のプラスが題意に適する。さて、 Legendre は、次の事実を報告した(その気になれば機械的に検証できる内容だが、手計算で確かめるのは、かなり大変だっただろう)。

Legendre の観察(1830年) n が 37 以下の素数なら Y ≡ 2(x − 1)(n−1)/2 (mod n) の合同記号(≡)を容易に等号にできる。
それには、右辺を展開し、各項の係数として絶対値最小の整数を選べばいい。

〔付記〕 絶対値最小の整数を選ぶ手順を例示すると、次の通り。それぞれの係数について、符号を無視して絶対値が n 以上なら、その係数の絶対値を n で割った余りに置き換える。すると各係数(c とする)は −n < c < +n の範囲の整数となる。符号を考慮して、もし c が正の数 +n/2 より大きければ、その c を負の整数 c − n で置き換え、もし c が負の数 −n/2 より小さければ、その c を正の整数 c + n で置き換える。最終的に、各係数は (−n/2, n/2) の範囲になる。

例1 n = 5 のとき Y ≡ 2(x − 1)(5−1)/4 = 2(x2 − 2x + 1) = 2x2 − 4x + 2。ところが −4 ≡ 1 (mod 5) であり、絶対値において −4 より 1 の方が小さいので、
  Y ≡ 2x2 − 4x + 2
の係数の −4 を 1 で置き換えると、合同記号を等号にすることができる:
  Y = 2x2 + x + 2  ← アエと一致
今、アウに基づき Z を決定する。先に Y2 を計算:
  Y2 = (2x2 + x + 2)2
   = (2x2)2 + x2 + 22 + 2(2x2⋅x + 2x2⋅2 + x⋅2)
   = 4x4 + x2 + 4 + (4x3 + 8x2 + 4x)
   = 4x4 + 4x3 + 9x2 + 4x + 4
従って、アウから:
  −5Z2 = 4X5 − Y2 = (4x4 + 4x3 + 4x2 + 4x + 4) − (4x4 + 4x3 + 9x2 + 4x + 4) = −5x2
両辺を −5 で割って:
  Z2 = x2
よって Z = ±x だが、 Z の最高次の係数は 1 なので、プラスが題意に適する:
  Z = x  ← アエと一致

例2 n = 7 のとき Y ≡ 2(x − 1)(7−1)/4 = 2(x3 − 3x + 3x − 1) = 2x3 − 6x2 + 6x − 2。ところが −6 ≡ 1, 6 ≡ −1 (mod 7) であり、絶対値において ∓6 より ±1 の方が小さいので、
  Y ≡ 2x3 − 6x2 + 6x − 2
の係数の −6, +6 をそれぞれ +1, −1 で置き換える:
  Y = 2x3 + x2 − x − 2  ← アオと一致
今、アウに基づき Z を決定する:
  Y2 = (2x3 + x2 − x − 2)2
   = 4x6 + x4 + x2 + 4 + 2(2x5 − 2x4 − 4x3 − x3 − 2x2 + 2x)
   = 4x6 + x4 + x2 + 4 + (4x5 − 4x4 − 8x3 − 2x3 − 4x2 + 4x)
   = 4x6 + 4x5 − 3x4 − 10x3 − 3x2 + 4x + 4
  ∴ 7Z2 = 4X7 − Y2
   = (4x6 + 4x5 + 4x4 + 4x3 + 4x2 + 4x + 4) − (4x6 + 4x5 − 3x4 − 10x3 − 3x2 + 4x + 4)
   = 7x4 + 14x3 + 7x2
両辺を 7 で割って:
  Z2 = x4 + 2x3 + x2 = x2(x2 + 2x + 1) = x2(x + 1)2
  ∴ Z = x(x + 1) = x2 + x  ← アオと一致

実際には n = 5, 7 のケースでは Y, Z を計算するまでもない。というのも、 n が 5 以上の素数のとき「Y の次数は n の半分(端数切り捨て)に等しい」「その係数は 2, 1, … と始まり、 n が 4 の倍数より 1 大きいなら逆から読んでも全く同じ(対称的)、 n が 4 の倍数より 3 大きいなら逆から読むと符号だけ反対(反対称的)」という性質がある。つまり、次のことは、計算しなくても事前に分かる:
  n = 5 のとき Y は2次式(3項)で、その係数は 2, 1, 2 (逆から読んでも 2, 1, 2)
  n = 7 のとき Y は3次式(4項)で、その係数は 2, 1, −1, −2 (逆から読むと −2, −1, 1, 2)

† 回文的(palindromic)という表現も使われる。

‡ 反回文的(antipalindromic)という表現も使われる。

一方、 n がどちらのタイプの素数(5以上)でも多項式 Z は x で割り切れ、 Z/x の係数は対称的で 1, … と始まる。

〔例〕 n = 7 のとき Z = x2 + x で、 Z/x = x + 1。その係数 1, 1 は対称的。

上記の計算を実行するより、お約束の「2, 1, …」と「1, …」を覚えた方が簡単で手っ取り早い(このお約束は n = 11 より先でも通用する)。

以下では n = 11 の場合について、 Y の反対称性と Z/x の対称性を利用することで、計算量を節約する。

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【3】 n = 11 のとき Y は5次式(6項)で、その係数は 2, 1, , , −1, −2。ここで二つの は絶対値が等しく符号が反対になるはず。従って、Y の3次の係数・2次の係数の少なくとも一方が確定すれば、残りは全部確定する。 Legendre の観察を利用するため 2(x − 1)5 の展開を考えると:
  Y ≡ 2(x5 − 5x4 + 10x3 − 10x2 + 5x − 1) = 2x5 − 10x4 + 20x3 − ···
合同記号を等号に変換するため −10 を 1 で置き換え、 20 を −2 で置き換えると:
  Y = 2x5 + x4 − 2x3 + ···
反対称性から、残りの係数を含めて六つの係数は 2, 1, −2; +2, −1 −2(真面目に逐一計算しても、そうなる):
  Y = 2x5 + x4 − 2x3 + 2x2 − x − 2  アケ

今、10次式 Y2 を求める。省力化のため、4次以下の項を省き、5次以上の項だけを考える。
  Y2 = (2x5 + x4 − 2x3 + 2x2 − x − 2)2
   = 4x10 + x8 + 4x6 + ··· + 2(2x9 − 4x8 + 4x7 − 2x6 − 4x5 − 2x7 + 2x6 − x5 − ··· − 4x5 + ···)
   = 4x10 + 4x9 − 7x8 + 4x7 + 4x6 − 18x5 + ···
  ∴ 11Z2 = 4X11 − (4x10 + 4x9 − 7x8 + 4x7 + 4x6 − 18x5 + ···) = 11x8 + 22x5 + ···
両辺を 11 で割って Z2 = x8 + 2x5 + ··· を得る。「···」の部分は、次のように復元可能。4次式 Z に関連して「3次式 Z/x の係数が対称的」ということは分かっている; それを平方した6次式 (Z/x)2 = Z2/x2 = x6 + 2x3 + ··· の係数も対称的のはず。よって、この6次式の0次の係数(定数項)は 1 で、1次と2次の係数は 0 だ(中央の係数 2 を軸として、右端の3個の係数は、左端の3個の係数と対称的)。

 6  5  4  3  2  1  0 ← 次数
 1  0  0  2  0  0  1 ← 係数

結局 (Z/x)2 = x6 + 2x3 + 1 = (x3 + 1)2 となって…
  Z/x = x3 + 1
その両辺を x 倍して Z = x4 + x を得る。上記アケと合わせて、次の結論に至る。

4(x10 + x9 + ··· + x + 1) = (2x5 + x4 − 2x3 + 2x2 − x − 2)2 + 11(x4 + x)2

この式の特徴は、お約束の「2, 1」の後ろに −2 があること。 Z について、常に 1 になる両端の係数を除き、全部の係数が 0 であること。

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既約多項式 Xn は、現代では、記号 Φn(x) で表されることが多い。例えば Φ3(x) = x2 + x + 1。この文字を使って、以上の結果をまとめると…

5(x) = (2x2 + x + 2)2 − 5(x)2

7(x) = (2x3 + x2 − x − 2)2 + 7(x2 + x)2

11(x) = (2x5 + x4 − 2x3 + 2x2 − x − 2)2 + 11(x4 + x)2

  → 2 1 −2 (2 −1 −2) ⇐反回文
  → 1 0 (0 1) ←普通の回文

† Φ は、もともとは帯気音の pʰ を表したギリシャ文字(日本語の「ぴったり」の子音と同じ。小文字は φ)。文字名は当初 ΦΕΙ だったらしいが、言葉は時代とともに変わる。古代ギリシャの二重母音 ei は、紀元前400年ごろから、狭い長母音 eː ないし iː になったという(日本語でも、例えば「時計」は「とけい」のはずなのに実際には「とけー」と発音される)。その結果、文字 Φ の名も、ラテン文字では PHI と書かれることに。英語では ph を /f/ と読み i を /ai/ と読むため、これが /fai/ と発音され、日本語でも一般には「ファイ」と呼ばれる。ドイツ語では「フィー」、フランス語では「フィ」。ギリシャ語学習者はこの文字を「ペhィ」「ペhェー」または「ピhー」と呼ぶかもしれない。

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n = 5, 7, 11, 13 の場合の Gauß の公式については、以前、強引な方法で既に導いている。今回のように「二項展開を利用」と考えた方が、多少見通しが良い。 Legendre の観察に基づくこのアイデアは、 Mathews による(リンク先の参考文献 [5], pp. 217–218, §195)。

Legendre の整数論・第3版(1830)では、この簡易計算法の有効範囲が曖昧だったが、同じ1830年の Mémoire において、 Legendre は次の事実を報告した。第一に n が 37 以下なら Y の各係数の絶対値は n/2 より小さく、この便法が成り立つ。第二に n が 41 以上のとき、この性質はもはや成り立たないが、それでも n が 59 以下なら各係数の絶対値は n より小さい; 「各係数の絶対値が n より小」という性質が成り立たない最小の素数は n = 61。

† Théorie des nombres, 3e édition (1830), tome II, p. 193 (§511)
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k42612x/f208.vertical

‡ Mémoire sur la détermination des fonctions Y et Z qui… (Lu à l’Académie, le 11 octobre 1830) [Mémoires de l’Académie royale des sciences de l’Institut de France, tome XI (1832), pages 81–99]
https://archive.org/details/mmoiresdelacad11memo/page/81/mode/1up
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k3226g/f319.vertical

¶ 38、39、40 は素数でないので「40以下の素数」「40未満の素数」と言ってもいい。ちなみに Gauß の公式は、「平方因子を含まない(5 以上の)任意の奇数」に拡張可能。 n がそのような合成数の場合、「Y の各係数の絶対値が n/2 より小さい」という性質は、既に n = 35 に対し不成立。

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2024-10-07 ガウスの式 4X = Y2 ∓ nZ2 の簡易的な導出(続き)

#遊びの数論 #1の原始根 #x17 = 1 #円分多項式

前回は n = 5, 7, 11 の場合を扱った。今回は n = 13 と n = 17 の場合を扱う。

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【4】 n = 13 の場合。 13 は 4 の倍数より 1 大きいので、6次式 Y の係数は対称的。7項中、最初の4項が分かれば、残りは対称性によって定まる。今、
  2(x − 1)6 = 2(x6 − 6x5 + 15x4 − 20x3 + ···) = 2x6 − 12x5 + 30x4 − 40x3 + ···
の係数について、絶対値最小の剰余を考えると 30 ≡ 4, −40 ≡ −1 (mod 13) なので、6次式 Y の係数は 2, 1, 4, −1, …と始まる。対称性から 7 個の係数は、順に 2, 1, 4, −1, 4, 1, 2 と確定:
  Y = 2x6 + x5 + 4x4 − x3 + 4x2 + x + 2  イア

† 右端の2項の係数は必ず 2, 1 なので、計算するまでもない。実際、上記の式で 2x6 の係数は 2、 −12x5 の係数は −12 ≡ 1。

次に 4X13 = Y2 − 13Z2 を満たす5次式 Z を求める。イアから:
  Y2 = (2x6 + x5 + 4x4 − x3 + 4x2 + x + 2)2  イイ
これを地道に全部展開してもいいのだが、とりあえず10次式 Z2 の係数が求まれば十分。ところが4次式 Z/x を W とすると、 W の係数は対称的。よって8次式 W2 = (Z/x)2 の 9 個の係数も対称的。その最初の 5 個が分かれば Z2 の全係数を確定できる。 Z は(従って Z2 も)最高次の係数が 1、ということは分かっているので、 W2 の7次・6次・5次・4次の係数を――言い換えれば、10次式 Z2 = x2W2 の9次・8次・7次・6次の係数を――求めれば十分。 13Z2 = Y2 − 4X13 であるから、イイを展開して9次・8次・7次・6次の係数を調べ、それぞれ 4 を引いて 13 で割ってやれば、それが求めるもの。

イイを展開したとき、9次の項は、次のいずれかの理由によって生じる。平方される6次式の――
  Ⓐ 6次の項と3次の項の積として。
  Ⓑ 5次の項と4次の項の積として。
  Ⓒ 4次の項と5次の項の積として。
  Ⓓ 3次の項と6次の項の積として。
ⒶⒷⒸⒹの積はどれも 1 回ずつ起きるが、ⒶとⒹは等しくⒷとⒸも等しいので、これら四つの積の中には等しい値が2個ずつ2組あ結局、Ⓐの2倍とⒷの2倍を足せばいい:
  イイを展開した9次の項 = 2[2x6⋅(−x3)] + 2(x5⋅4x4) = −4x9 + 8x9 = 4x9  イウ
以下同様に進める。ただし8次の項は「4次の項の自乗」としても発生し、このような「4次と4次の積」は 1 回しか生じない。一般に、偶数次の項には「項の平方に由来する部分」が含まれている。
  イイを展開した8次の項 = 2(2x6⋅4x2) + 2[x5⋅(−x3)] + (4x4)2 = 16x8 − 2x8 + 16x8 = 30x8  イエ
  イイを展開した7次の項 = 2(2x6⋅x) + 2(x5⋅4x2) + 2[4x4⋅(−x3)] = 4x7 + 8x7 − 8x7 = 4x7  イオ
  イイを展開した6次の項 = 2(2x6⋅2) + 2(x5⋅x) + 2(4x4⋅4x2) + (−x3)2 = 8x6 + 2x6 + 32x6 + x6 = 43x8  イカ

イウ・イエ・イオ・イカから Y2 の9次~6次の係数は順に 4, 30, 4, 43。それぞれの係数から 4 を引いて 13 で割ると、結果は 0, 2, 0, 3。 Z2 の最高次の係数は 1 なので:
  Z2 = (Y2 − 4X13)/13 = x10 + 0x9 + 2x8 + 0x7 + 3x6 + ···
対称性から残りの係数も確定する:
  W2 = Z2/x2 = x8 + 2x6 + 3x4 + 2x2 + 1
  従って W = Z/x = x4 + x2 + 1
  ∴ Z = x5 + x3 + x  イキ

イアとイキから、次の結論に至る。

4(x10 + x9 + ··· + x + 1) = (2x6 + x5 + 4x4 − x3 + 4x2 + x + 2)2 − 13(x5 + x3 + x)2

この式の特徴は、Y の中央の −1 を除き、 Y, Z の係数に負の数がないこと。お約束の 2, 1 の後ろに「4, −1」があること(これは二項係数 1, 6, 「15, 20」を 13 で割って、余りに符号を交互に付けた「2, −7」を 2 倍したものと合同)。 Z の係数は 1 または 0 だけ。その二つが交互に出現する。

13(x) = (2x6 + x5 + 4x4 − x3 + 4x2 + x + 2)2 − 13(x5 + x3 + x)2

  → 2 1 4 −1 (4 1 2) ←
  → 1 0 1 (0 1) ←

† 例えば (x3 + Lx2 + Mx + N)2 を展開した6次式の3次の項だけ知りたいとき、どうするか。全部真面目に展開して結果の3次の項をチェックしてもいいけど、この場合、下記のように、3次の項は「3次の項と定数項の積」「定数項と3次の項の積」として(その二つは等しい!)、そして「2次の項と1次の項の積」「1次の項と2次の項の積」として(その二つも等しい!)、それぞれ2回ずつ生じるのだから、実際に全部展開しなくても、展開後の3次の項だけを抜き出して考えることが可能。それと同じこと。
  (x3 + Lx2 + Mx + N)2 = (x3 + Lx2 + Mx + N)(x3 + Lx2 + Mx + N)
便宜上 x3 + Lx2 + Mx + N を J とすると:
   = (x3 + Lx2 + Mx + N)J = x3J + Lx2J + MxJ + NJ
   = x3(x3 + Lx2 + Mx + N) + Lx2(x3 + Lx2 + Mx + N) + Mx(x3 + Lx2 + Mx + N) + N(x3 + Lx2 + Mx + N)
   = (x3⋅x3 + x3⋅Lx2 + x3⋅Mx + x3⋅N) + (··· + Lx2⋅Mx + ···) + (··· + Mx⋅Lx2 + ···) + (N⋅x3 + ···)
   = ··· + 2(N)x3 + 2(LM)x3 + ··· = ··· + 2(LM + N)x3 + ···

‡ y = x2 と置くと W2 = x8 + 2x6 + 3x4 + 2x2 + 1 = y4 + 2y3 + 3y2 + 2y + 1 = (y2 + y + 1)2。よって W = ±(y2 + y + 1) = ±(x4 + x2 + 1) で、 Z = xW = ±(x5 + x3 + x) となるが、 Z の最高次の係数は 1 なので、プラスが題意に適する。――これは恒等式 y4 + 2y3 + 3y2 + 2y + 1 = (y2 + y + 1)2 を利用したショートカット。トリッキーなショートカットを使わないやり方をこの下に記す。

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【5】 4次式 W を平方した8次式
  W2 = x8 + 2x6 + 3x4 + 2x2 + 1  イク
が与えられたとき、次のように W を求めることもできる(このアプローチの方が応用が利く)。 W が4次式であること、係数が対称的で両端の係数が 1 であることは分かっているので、 L, M を未知の係数として、
  W = x4 + Lx3 + Mx2 + Lx + 1  イケ
と置く。イケの平方つまり (x4 + Lx3 + Mx2 + Lx + 1)2 について、それを展開した8次式の係数を幾つか選択的に考察する:
  7次の係数 = 2(1⋅L) = 2L
これをイクと比較すると 2L = 0(イクの8次式において、7次の係数は 0)。よって L = 0。同様に:
  6次の係数 = 2(1⋅M) + L2 = 2M + 02 = 2M
これをイクと比較すると 2M = 2、よって M = 1 となる。 L, M の正体が判明したので、イケにより4次式 W も確定。

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【6】 n = 17 の場合。 17 も 4 の倍数より 1 大きいので、8次式 Y は係数が対称的。9項あるので、先頭の5項を知りたい。
  2(x − 1)8 = 2(x8 − 8x7 + 28x6 − 56x5 + 70x4 − ···) ≡ 2(x8 − 8x7 + 11x6 − 5x5 + 2x4 − ···)
   = 2x8 − 16x7 + 22x6 − 10x5 + 4x4 − ··· ≡ 2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 − ··· (mod 17)
  ∴ Y = 2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2  イサ

7次式 Z について。 n = 13 の場合と同様に考えると、12次式 W2 = Z2/x2 の冒頭の七つの係数が必要。先頭の係数 1 は分かっているので、 W2 の11次~6次の係数、言い換えれば Z2 の13次~8次の六つの係数が問題となる。
  Y2 = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2  イシ
において:
  13次の係数 = 2(2⋅7 + 1⋅5) = 38
  12次の係数 = 2(2⋅4 + 1⋅7) + 52 = 55
  11次の係数 = 2(2⋅7 + 1⋅4 + 5⋅7) = 106
  10次の係数 = 2(2⋅5 + 1⋅7 + 5⋅4) + 72 = 123
  9次の係数 = 2(2⋅1 + 1⋅5 + 5⋅7 + 7⋅4) = 140
  8次の係数 = 2(2⋅2 + 1⋅1 + 5⋅5 + 7⋅7) + 42 = 174
これら六つの数から 4 を引いて 17 で割ると、結果は順に 2, 3, 6, 7, 8, 10。
  ∴ W2 = x12 + 2x11 + 3x10 + 6x9 + 7x8 + 8x7 + 10x6 + 8x5 + 7x4 + 6x3 + 3x2 + 2x + 1  イス

† イシを展開した場合の13次の項は、次の式で表される:
  2(2x8⋅7x5) + 2(x7⋅5x6) = 2(2x8⋅7x5 + x7⋅5x6) = 38x13
ここで重要なのは係数だけなので、本文ではこれを単に 2(2⋅7 + 1⋅5) = 38 とし xk を省いた。12次以下の係数も同様。

‡ 17 の 1 倍 ~ 9 倍を意識すると暗算しやすい: 17, 34, 51 そして 68 は 34 の倍。 85 は 170 の半分(以上が 17 の 1~5 倍)。 10251 の倍(17 の 6 倍)、それに 17, 34, 51 を足すと、それぞれ 119, 136, 153(17 の 7・8・9 倍)。

イスから6次式 W を求める一つの方法は次の通り。 L, M, N を未知の係数として W = x6 + Lx5 + Mx4 + Nx3 + Mx2 + Lx + 1 と置き、その平方をイスと比較:
  W2 の11次の係数 = 2L = 2 よって L = 1
  W2 の10次の係数 = 2M + L2 = 2M + 1 = 3 よって M = 1
  W2 の9次の係数 = 2(N + LM) = 2(N + 1) = 6 よって N = 2
従って W = x6 + x5 + x4 + 2x3 + x2 + x + 1。
  ∴ Z = Wx = x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x  イセ

イスとイセから、次の結論に至る。

円分多項式に関するガウスの恒等式(n = 17)
  4(x16 + x15 + ··· + x + 1) = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − 17(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2

この式の特徴は、 Y, Z の係数に負の数が一つもないこと(Z の定数項を別にすれば 0 もない)。お約束の 2, 1 の後ろに「5, 7, 4」があること(二項係数 1, 8, 「28, 56, 70」を 17 で割った余り「11, 5, 2」について、 2 倍して符号を交互に付けたもの「+22, −10, +4」と合同)。 W の係数は 1 か 2 だけ――真ん中に 2 がある他は、全部 1。

17(x) = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2
  − 17(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2

  → 2 1 5 7 4 (7 5 1 2) ←
  → 1 1 1 2 (1 1 1) ←

〔追記〕 この恒等式が成り立つことの検証

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これらの式には、面白い応用が考えられる。例えば「コンパスと定規だけで正17角形が作図可能なこと」を――言い換えれば「17次方程式 x17 − 1 = 0 の解は、通常の四則演算と平方根の組み合わせだけで解けること」を――直接、実証できるであろう。

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2024-10-10 x17 = 1 の代数的解法 ガウスの式の応用

#遊びの数論 #1の原始根 #4次方程式 #正17角形 #x17 = 1 #円分多項式

問題 置換 y = x + 1/x を使って、16次方程式 x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 を解く。

「正17角形の作図可能性」(四則演算・平方根だけで 1 の17乗根を表現できること)は有名な話題だが、特別な予備知識がなくても理解できるような形で扱うことは、少々難しい。「正17角形は作図可能?」のアプローチでは、群論的考察も複素数も必要ない代わり、三角関数を湯水のように使った。

以下では別の方法として、 x17 = 1 を直接、4次方程式に帰着させる。4次方程式を導くところまでは、加減乗除の計算と平方根しか使わない(4次方程式の解法は一般的な知識とはいえないが、頑張れば普通に理解できるだろう)

Gauß の式
 4(x16 + x15 + ··· + x + 1) = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − 17(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2
わざわざ導いたのも、この(ちょっと変な)応用を試してみたかったから。

特別な予備知識は必要ないとはいうものの、この方法はかなり強引(説明としては、三角関数を使った方が気軽で分かりやすい)。けれど見方によっては斬新で面白いし、ある意味、問題の本質に触れている。

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【7】 17乗すると 1 になる数、つまり x17 = 1 を満たす数(1 の17乗根)は、17個ある。それらは
  x17 − 1 = (x − 1)(x16 + x15 + ··· + x + 1) = 0
の解で、 x − 1 = 0 または x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 を満たす。「または」の前の1次式の解が x = 1 であること(要するに 1 自身を 17乗すれば 1 になること)は明白。問題は、16次方程式
  x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0
の解。

このように「係数が対称的(回文的)な多項式」では、 y = 1 + 1/x と置けば次数が半分になる。この場合、次数が半分でもまだ8次式なので(しかも有理係数の範囲で既約)、その根を直接的に求めることは、不可能とも思える(5次方程式以上は、一般には四則演算・根号の範囲では解くことができないことが知られている)

参考として、この壁を突破する一つの方法は次の通り。 x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 が与えられたとき、 y = 1 + 1/x と置くと、機械的な単純計算(詳細は略)によって次の形になる:
  y8 + y7 − 7y6 − 6y5 + 15y4 + 10y3 − 10y2 − 4y + 1 = 0  ウア
ウアの8次式は、有理係数の範囲では既約だが、係数に 17 を許容すると、次のように二つの4次式の積に分解される。
  [y4 + (1 + 17)/2y3 + (−3 + 17)/2y2 + (2 − 17)y − 1]
   × [y4 + (1 − 17)/2y3 + (−3 − 17)/2y2 + (2 + 17)y − 1] = 0  ウイ

けれど「ウアをウイのように分解できる」という事実は(古典数論の範囲では)全く明らかでなく、天下り的にウイを示されても承服できないだろう。係数の範囲が「有理数体に 17 を添加した二次体」に拡大されたとき、どのように多項式の分解ができるか?という問題は、初等の範囲を超えている。

ところが、円分多項式に関する Gauß の式を利用すると、自然にウイの分解が得られる。

【8】 実際に16次式を扱う前に、手順のミニ・サンプルとして、4次式の場合を考える。次の恒等式を使う。
  4(x4 + x3 + x2 + x + 1) = (2x2 + x + 2)2 − 5(x)2  ウウ
ウウの右辺を A2 − B2 の形にできる:
   = (2x2 + x + 2)2 − (5)2(x)2 = (2x2 + x + 2)2 − ((5)x)2
2x2 + x + 2 を A(5)x を B と見て、公式 A2 − B2 = (A + B)(A − B) に当てはめると:
   = (2x2 + x + 2 + (5)x)(2x2 + x + 2 − (5)x)
同類項をまとめると:
   = [2x2 + (1 + 5)x + 2][2x2 + (x − 5) + 2]
これがウウの左辺と等しいのだから:
  4(x4 + x3 + 22 + x + 1) = [2x2 + (1 + 5)x + 2][2x2 + (x − 5) + 2]  ウエ
ウエの両辺を 4 で割ると(右辺については、二つの [ ] 内をそれぞれ 2 で割る):
  x4 + x3 + 22 + x + 1 = (x2 + [(1 + 5)/2]x + 1)(x2 + [(1 − 5)/2]x + 1)  ウオ

結局 x4 + x3 + 22 + x + 1 = 0 は、ウオの右辺の積が 0 であることと同値であり、従ってこの4次方程式を解く代わりに、二つの2次方程式(ウオ右辺の二つの因子のそれぞれについて = 0 としたもの)を解けばいい。等式ウオについては、 Gauß の恒等式を使うまでもなく、4次式の考察から導出可能

† 例えば 15 = 3⋅5 の両辺を 4 で割ると、 15/4 = (3/2)(5/2)それと同様に、ウエの左辺を 4 で割り、右辺の各因子を 2 で割る。

‡ F = x2 + [(1 + 5)/2]x + 1, G = x2 + [(1 − 5)/2]x + 1 と置くと、ウオにより x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0 ⇔ FG = 0。ところが FG = 0 ⇔ (F = 0 or G = 0)。

【9】 次の恒等式(Gauß の式の n = 17 の場合)を出発点に、上記のミニ・サンプルと同様の変形を行う。
  4(x16 + x15 + ··· + x + 1)
   = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − 17(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2  ウカ

簡潔化のため 17 を h と略すと(従って h2 = 17)、ウカの右辺は、こうなる。
  (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − h2(x7 + x6 + x5 + 2x4 + x3 + x2 + x)2
   = (2x8 + x7 + 5x6 + 7x5 + 4x4 + 7x3 + 5x2 + x + 2)2 − (hx7 + hx6 + hx5 + 2hx4 + hx3 + hx2 + hx)2
これは A2 − B2 の形なので、ウエを導いたのと全く同様にして、次のように分解される。
   = [2x8 + (1 + h)x7 + (5 + h)x6 + (7 + h)x5 + (4 + 2h)x4 + (7 + h)x3 + (5 + h)2 + (1 + h)x + 2] × [2x8 + (1 − h)x7 + (5 − h)x6 + (7 − h)x5 + (4 − 2h)x4 + (7 − h)x3 + (5 − h)2 + (1 − h)x + 2]  ウキ

ウカの左辺 = ウキ。その両辺を 4 で割ると:
  x16 + x15 + ··· + x + 1
   = [x8[(1 + h)/2]x7[(5 + h)/2]x6[(7 + h)/2]x5(2 + h)x4[(7 + h)/2]x3[(5 + h)/2]x2[(1 + h)/2]x + 1]
   × [x8[(1 − h)/2]x7[(5 − h)/2]x6[(7 − h)/2]x5(2 − h)x4[(7 − h)/2]x3[(5 − h)/2]x2[(1 − h)/2]x + 1]

よって、16次方程式 x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 を解く代わりに、次の二つの8次方程式を解けばいい(【8】で4次方程式を二つの2次方程式に帰着させたのと同様)。
  x8[(1 + h)/2]x7[(5 + h)/2]x6[(7 + h)/2]x5(2 + h)x4[(7 + h)/2]x3[(5 + h)/2]x2[(1 + h)/2]x + 1 = 0  ウク
  または
  x8[(1 − h)/2]x7[(5 − h)/2]x6[(7 − h)/2]x5(2 − h)x4[(7 − h)/2]x3[(5 − h)/2]x2[(1 − h)/2]x + 1 = 0  ウグ

8次式ウク・ウグは、どちらも回文的(係数が左右対称)なので、置換 y = 1 + 1/x を利用すれば、4次方程式の問題になる。ウクの両辺を x4 で割って、 1/x の代わりに x−1 と書くことにすると:
  x4[(1 + h)/2]x3[(5 + h)/2]x2[(7 + h)/2]x(2 + h)[(7 + h)/2]x−1[(5 + h)/2]x−2[(1 + h)/2]x−3 + x−4 = 0
  整理すると (x4 + x−4) + [(1 + h)/2](x3 + x−3)[(5 + h)/2](x2 + x−2)[(7 + h)/2](x + x−1) + (2 + h) = 0  ウケ

同様に、ウグの両辺を x4 で割ると:
  x4[(1 − h)/2]x3[(5 − h)/2]x2[(7 − h)/2]x(2 − h)[(7 − h)/2]x−1[(5 − h)/2]x−2[(1 − h)/2]x−3 + x−4 = 0
  整理すると (x4 + x−4) + [(1 − h)/2](x3 + x−3)[(5 − h)/2](x2 + x−2)[(7 − h)/2](x + x−1) + (2 − h) = 0  ウゲ

【10】 ウケないしウゲは、次のようにして y の4次式になる。仮定により
  x + x−1 = y  ウサ
なので、簡単な計算(【11】参照)によると:
  x2 + x−2 = y2 − 2  ウシ
  x3 + x−3 = y3 − 3y  ウス
  x4 + x−4 = y4 − 4y2 + 2  ウセ

ウサ・ウシ・ウス・ウセをウケに代入すると:
  (y4 − 4y2 + 2) + [(1 + h)/2](y3 − 3y)[(5 + h)/2](y2 − 2)[(7 + h)/2](y) + (2 + h) = 0
  整理すると y4 + [(1 + h)/2]y3 + [(−3 + h)/2]y2 + (2 − h)y − 1 = 0  ウタ

同様に、ウサ・ウシ・ウス・ウセをウゲに代入すると:
  (y4 − 4y2 + 2) + [(1 − h)/2](y3 − 3y)[(5 − h)/2](y2 − 2)[(7 − h)/2](y) + (2 − h) = 0
  整理すると y4 + [(1 − h)/2]y3 + [(−3 − h)/2]y2 + (2 + h)y − 1 = 0  ウダ

ウタの左辺と、ウダの左辺は、 h の前の符号が反転している他は、完全に同じ4次式。この二つの4次式は、冒頭【7】で触れた「8次式を分解したウイ」の二つの因子(ただし 17 を h と略している)に他ならない!

ここまで来れば、後は4次方程式の問題。必ず解を求めることができる(少なくとも原理的には)。

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【11】 それに取り組む前に、後回しにした事柄を片付けておく。ウシ・ウス・ウセの導出。 y = x + x−1 = y なので:
  y2 = (x + x−1)2 = (x)2 + 2(x)(x−1) + (x−1)2 = x2 + 2 + x−2
右辺の + 2 を左辺に移項すると y2 − 2 = x2 + x−2 となり、左辺と右辺を入れ替えてウシを得る。

次に:
  y3 = (x + x−1)3 = (x)3 + 3(x)2(x−1) + 3(x)(x−1)2 + (x−1)3 = x3 + 3x + 3x−1 + x−3
  よって y3 = x3 + 3(x + x−1) + x−3 = x3 + 3y + x−3
3y を移項して、左辺と右辺を入れ替えるとウス。

最後に:
  y4 = (x + x−1)4 = (x)4 + 4(x)3(x−1) + 6(x)2(x−1)2 + 4(x)(x−1)3 + (x−1)4
  つまり y4 = x4 + 4x2 + 6 + 4x−2 + x−4 = x4 + x−4 + 4(x2 + x−2) + 6
  よって y4 = x4 + x−4 + 4(y2 − 2) + 6 = x4 + x−4 + 4y2 − 2  ← ウシを使った
4y2 − 2 を移項して、左辺と右辺を入れ替えるとウセを得る。

【12】 置換 y = x + 1/x の性質について。例えばウグの両辺を x4 で割ったウゲだが…
  (x4 + x−4) + [(1 − h)/2](x3 + x−3)[(5 − h)/2](x2 + x−2)[(7 − h)/2](x + x−1) + (2 − h) = 0  ウゲ(再掲)

ウゲにおいて、もし x = w が一つの解なら、その逆数 x = w−1 も一つの解。なぜなら x = w のとき
  (x + x−1) = w + w−1
…となるが、 x = w−1 のときも
  (x + x−1) = (w−1) + (w−1)−1 = w−1 + w
…となり、両者は等しい。同様に、入力が w でも w−1 でも (x2 + x−2) の値は一定。 (x3 + x−3) や (x4 + x−4) の値も一定。結局、ウゲの左辺の値は、入力 x をその逆数に置き換えても変わらない。

方程式を解く上で幾何学的解釈は不可欠ではないが、 1 の17乗根は「正17角形の作図可能性」という重大問題と関連している。細かい説明を省いて要点を記すと、 x17 = 1 の17個の解は、複素平面では「原点を中心とする単位円」の円周上にある。今 λ1, λ2 を 0 以外の任意の複素数とする。この二つの数の偏角がそれぞれ θ1, θ2 なら、積 λ1λ2 の偏角は θ1 + θ2。もし λ1 と λ2 が互いに逆数なら、それらの積 1 の偏角は 0 なので、 θ1 と θ2 は、絶対値が同じで符号が逆でなければならない(ただし偏角は −180° より大きく、 180° 以下とする)。ということは…

x = 1 以外の x17 = 1 の解――つまり x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 の解――について x = w が解なら x = w−1 も解。両者は互いに逆数なので、一方の偏角が θ なら他方の偏角は −θ。従って、「1 の17乗根」を「単位円上の点」とイメージした場合、互いに逆数に当たる2解 w, w−1 は、実部が同じで虚部の符号が逆。仮に w = u + vi なら(u, v: 実数)、 w−1 = u − vi で、両者の和は:
  w + w−1 = (u + vi) + (u − vi) = 2u

結局、置換 y = x + x−1 によって「x についての8次方程式」を「y についての4次方程式」に変換したとき、その解 y は、 1 の17乗根のいずれか(1 自身を除く)の実部 u の 2 倍に等しい。解 y を得たなら、それを 2 で割れば、本来の2解 x = w, w−1 の共通の実部 u になる。解の絶対値は 1(単位円の円周上)なので、実部 u さえ定まれば、原理的には、虚部 ±v も 1 − u2 の正負の平方根として定まる。

正17角形の画像画像では、赤い単位円と、それに内接する青い正17角形が表示されている。正17角形の「0番」の頂点は座標 (1, 0) の位置にある――「0番」は頂点の番号であり、複素数としては 1 + 0i つまり実数 1 に当たる。仮に解 x = w を「2番」の頂点とするなら、 w−1 は虚部が反対の「15番」の位置にあり、両者の和 y = x + x−1 は、共通の実部 u の2倍となる(虚部は 0、つまりこの y は実数)。

 y4 + [(1 − h)/2]y3 + [(−3 − h)/2]y2 + (2 + h)y − 1 = 0  ウダ(再掲)

実は4次方程式ウダの 4 解は、画像で言うと正17角形の頂点「1, 2, 4, 8」の実部の 2 倍に当たる。頂点「16, 15, 13, 9」の――言い換えれば頂点「−1, −2, −4, −8」の――実部の 2 倍、とも言える。

ウダを解くだけなら、こうした観察・予備知識は必要ないけど、とにかくウダの解釈としては、「正17角形の頂点のうち八つについて、横座標の 2 倍を求めている」。ペアとなる4次方程式ウタについても同様。

要約(置換 y = x + 1/x の意味) x の言葉で「1対の共役複素数の解」ごとに、y の言葉では「虚部を消して実部の2倍」を考えている。

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【13】 話を戻して、実際に4次方程式に取り組んでみたい。必須の処理ではないが係数の分数を解消するため、ウダで y = z/2 と置くと、 y, y2, y3, y4 はそれぞれ z/2, z2/4, z3/8, z4/16 になる:
  z4/16 + [(1 − h)/2](z3/8) + [(−3 − h)/2](z2/4) + (2 + h)⋅(z/2) − 1 = 0
両辺を 16 倍すると:
  z4 + (1 − h)z3 + (−6 − 2h)z2 + (16 + 8h)z − 16 = 0  ウナ
z = 2y なので、ウナの解 z は、ウダの解 y のさらに 2 倍。つまり、正17角形のどれかの頂点に当たる複素数の、実部の 4 倍に等しい。

4次方程式の古典的解法では、 z4 + az3 + bz2 + cz + d = 0 の形を、
  (z2 + (a/2)z + p)2 − (qz + r)2 = 0  ウハ
の形にすることが鍵となる。ここで p は次の3次方程式の:
  8p3 − 4bp2 + (2ac − 8d)p − a2d + 4bd − c2 = 0  ウヒ

ウヒを満たす p を使って、ウハの q, r を次のように表現できる。
  q = (a2/4 + 2p − b), r = (ap − c)/(2q)  ウフ
こうしてウハの形が確定すれば、
  ウハの左辺 = [(z2 + (a/2)z + p) + (qz + r)] × [(z2 + (a/2)z + p) − (qz + r)] = 0
…となって、問題は次の2次方程式に帰着する。
  z2 + (a/2 + q)z + (p + r) = 0  ウヘ
  または z2 + (a/2 − q)z + (p − r) = 0  ウホ

† Euler, Chap. XIV
https://archive.org/details/ElementsOfAlgebraLeonhardEuler2015/page/251/mode/1up

‡ もしくは r = (p2 − d), q = (ap − c)/(2r)  q, r のどちらか一方(どちらでもいい)の符号設定は任意で構わないが、一方の値が定まると、それが 0 でない限り、他方の値(符号・絶対値)も定まる。符号が逆の設定は、ウヘ・ウホにおいて自動的に考慮される。

ウナの場合、 a = 1 − h, b = −6 − 2h, c = 16 + 8h, d = −16 であるから、ウヒは次の3次方程式に当たる:
  8p3 + (24 + 8h)p2 + (−112 − 16h)p + (−672 − 160h) = 0
両辺を 8 で割って:
  p3 + (3 + h)p2 + (−14 − 2h)p + (−84 − 20h) = 0  ウマ

ウマが「有理数」または「有理数と h を組み合わせた範囲」の解を持つとすれば、解と係数の関係から、解は定数項 −84 − 20h = −4(21 + 5h) の正または負の約数になると予期される。実際に試すと、 p = ±1, ±2, ±4 のどれを入れても、ウマの左辺は 0 にならない。つまり「通常の整数の解」の可能性はない。 21 + 5h = (1 + h)(4 + h) も定数項の約数なので、 p = ±(1 + h), ±(4 + h), ±(21 + 5h) やその2倍、4倍が解になる可能性がある。絶対値が小さい順に試すと、果たして p = −(1 + h) = −1 − h はウマの解!

実際、 p = −1 − h のとき、ウマは:
  (−1 − h)3 + (3 + h)(−1 − h)2 + (−14 − 2h)(−1 − h) + (−84 − 20h)
   = (−1 − 3h − 3h2 − h3) + (3 + h)(1 + 2h + h2) + (14 + 2h2 + 16h) + (−84 − 20h)
   = (−1 − 3h − 51 − 17h) + (3 + h)(18 + 2h) + (48 + 16h) + (−84 − 20h)  ← h2 を 17 で置き換えた
   = (−52 − 20h) + (54 + 34 + 24h) + (−36 − 4h) = 0 + 0h = 0

† (1 + 17)(4 + 17) = (4 + 17) + (1 + 4)17  ∴ (1 + h)(4 + h) = 21 + 5h

この p と a, b, c の値をウフに入れると:
  q = [(17 − h)/2], r = −(34 + 2h)

p, q, r が確定したので、後は2次方程式の解の公式を使って、ウヘとウホを解くだけ(詳細については【14】以降)。機械的にできることとはいえ、多重根号の簡約まで考えると、意外と難しい面もある。「正17角形は作図可能?」で、その一例を見ることができる。

ウナの(言い換えればウヘ・ウホの)解 z は、本題の x16 + x15 + ··· + x + 1 = 0 の16個の解のうち8個について、 4 種類の実部をそれぞれ 4 倍したもの(正17角形の頂点「1, 2, 4, 8」の実部の 4 倍)。つまり z を 4 で割れば、本来の実部となる。同様に、ウタから出発すると、残りの 4 種類の実部の根号表現が判明するだろう。

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加減乗除と平方根は、コンパスと定規を使って幾何学的に表現可能なので、以上の考察は「正17角形は作図可能」ということを含意する。この「作図可能性」は理論上のもので、実用上便利な作図法が直ちに得られるわけではない(実際の作図法としては、 Richmond のものが巧妙)。

置換 y = x + 1/x と Gauß の恒等式は、どちらも次数を半減させる働きを持つ。両方使うことで、16次式が4次式になる。「n = 5 の場合」と「1 の5乗根」の対応を一般化して、 n = 17 に適用した。

4次方程式の問題は、機械的に3次方程式の問題に帰着する。3次方程式が与えられたとき、考えている係数の範囲で解を表現できるか否か――定数項の約数を入れてみる試行(いわゆる有理数解テスト、あるいはその二次体バージョン)が成功するか否か――は、一般の場合、事前には明らかではない。この問題に関する限り、「正17角形は作図可能」=「1 の17乗根は平方根までで表現可能」というのは有名な事実。立方根は必要ないはず。 Cardano の公式を使わずに、きれいに分解できることは、事前に予想がつく。

† https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN600494829_0026?tify=%7B%22pages%22%3A%5B218%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
Fig. 6 参照 https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN600494829_0026?tify=%7B%22pages%22%3A%5B301%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D

‡ 普通の整数の世界では、定数項の絶対値が小さいとき、その約数を漏れなく考えることは易しい。ところが、有理数に無理数 h = 17 を交ぜた世界(二次体)では、何が何の約数かは、必ずしも明らかではない。例えば 21 + 5h は 1 + h で割り切れる(本文参照)。それに気付かないと、最悪「定数項の約数の中に解があるのに、それを見つけることができない」という事態に陥る。とはいえ 21 + 5h の約数は 21 + 5h より「小さい」のだから、可能性は限られている。試行錯誤で3次方程式ウマの解を見つけることは、現実的に十分可能だろう。

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2024-10-11 x17 = 1 の代数的解法(その2)

#遊びの数論 #1の原始根 #4次方程式 #正17角形 #x17 = 1 #円分多項式

前回、二つの2次方程式を導いた。それらを実際に解いてみたい。

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【14】 1 の17乗根は、 1 自身の他に 16 個ある。その 16 個の複素数は、 2 個ずつ 8 組に分けることができ、各組の二つの数は等しい実部を持つ――直観的には、右向きの正17角形の頂点の横座標。正17角形の画像実部だけを問題にするなら 8 種類の値だが、そのうちどれか四つの実部をそれぞれ 4 倍したものは、次の4次方程式の四つの解に当たる(【13】参照)。
  z4 + (1 − h)z3 + (−6 − 2h)z2 + (16 + 8h)z − 16 = 0  エア(ウナ再掲)
ここで h = 17。 8 種の実部のうちの残り四つは、これと同様の4次式( h の前の符号だけが逆)の根(【10】ウタ・ウダ参照)。

† 置換 y = x + 1/x は、 u + vi の形の解と u − vi の形の解の足し算なので、 ±vi が打ち消し合い、実部 u が 2 倍される。その後、係数の分数を嫌って便宜上の再変換 z = 2y を行ったため、 z の世界では、解 y = 2u がさらに 2 倍されている。

任意の4次方程式 z4 + az3 + bz2 + cz + d = 0 は、原理的には次の二つの2次方程式(連立ではない)に分解される(【13】ウヘ・ウホ):
  z2 + (a/2 + q)z + (p + r) = 0
  または z2 + (a/2 − q)z + (p − r) = 0
p, q, r の値は、与えられた4次方程式によって異なる。エアの場合、 p = −1 − h, q = [(17 − h)/2], r = −(34 + 2h) を選択可能(【13】参照):
  z2 + [(1 − h)/2 + [(17 − h)/2]]z + (−1 − h − (34 + 2h)) = 0
  または z2 + [(1 − h)/2 − [(17 − h)/2]]z + (−1 − h + (34 + 2h)) = 0

† q, r を両方とも逆の符号にしても構わない(片方だけ逆にすることは不可)。その場合、「または」の前の式と後ろの式が入れ替わる(解くべき二つの2次方程式は、結局同じ)。

[(17 − h)/2] = [(34 − 2h)/4] = (1/2)(34 − 2h) なので、上の2式をこう整理できる:
  z2 + (1/2)(1 − h + (34 − 2h))z + (−1 − h − (34 + 2h)) = 0  エイ
  または z2 + (1/2)(1 − h − (34 − 2h))z + (−1 − h + (34 + 2h)) = 0  エウ

2次方程式の解の公式によると、エイの解は:
  z = [−(1/2)(1 − h + (34 − 2h)) ± D1] / 2
   = (1/4)(−1 + h − (34 − 2h) ± 2D1)  エエ
  ただし D1 = (1/4)(1 − h + (34 − 2h))2 − 4(−1 − h − (34 + 2h))
同様に、エウの解は:
  z = (1/4)(−1 + h + (34 − 2h) ± 2D2)  エオ
  ただし D2 = (1/4)(1 − h − (34 − 2h))2 − 4(−1 − h + (34 + 2h))

エエ・エオの計 4 解をそれぞれ 4 で割ると、単位円に内接する正17角形の頂点の横座標が四つ定まる。もう一つの4次方程式から、同様に四つの頂点の横座標が定まる。一般に、単位円上の点は、横座標(実部)さえ指定すれば、第1または第2象限に一つ、第3または第4象限に一つ定まるのだから(そしてこの二つの点のペアがどちらも頂点になるように、正17角形を配置できるのだから)、正17角形の作図可能性(座標を根号と四則演算だけで表現できること)は、ほぼ明らかだろう。

【15】 上記 D1, D2 の式を整理。まず h = 17 は 4 = 16 より大きいので、 1 − h は負。その平方は:
  (1 − h)2 = 1 − 2h + h2 = 18 − 2h  エカ
これは(負数の平方なので)正。 1 − h が負であることに注意しつつ、エカの両辺の負の平方根を考えると:
  (1 − h) = (18 − 2h)  エキ
今、エカ・エキを使って D1 の (  )2 の部分を計算する:
  [(1 − h) + (34 − 2h)]2 = (1 − h)2 + 2(1 − h)(34 − 2h) + (34 − 2h)
   = (18 − 2h) + 2((18 − 2h))(34 − 2h) + (34 − 2h)
二つの根号下のそれぞれから 2 をくくり出すと、どちらの根号下も半分になり、根号の前が 2 × 2 = 2 倍される:
   = 52 − 4h − 2⋅2(9 − h)(17 − h) = 52 − 4h − 4(170 − 26h)  エク
  なぜなら (9 − h)(17 − h) = 9⋅17 − 9h − 17h + h2 = 9⋅17 + 17 − 26h = 10⋅17 − 26h

エクの右辺各項から 4 をくくり出すと、上の計算は次のように要約される:
  (1 − h + (34 − 2h))2 = 4(13 − h − (170 − 26h))
エエの D1 の式は、この数の 1/4 を含む:
  D1 = (1/4)(1 − h + (34 − 2h))2 − 4(−1 − h − (34 + 2h))
   = (13 − h − (170 − 26h)) + 4 + 4h + 4(34 + 2h)
   = 17 + 3h − (170 − 26h) + 4(34 + 2h)  エケ
全く同様にして(途中計算略):
  D2 = 17 + 3h + (170 − 26h) − 4(34 + 2h)  エコ

これで一応 D1, D2 が求まった。エエの 1/4 とエオの 1/4 は、どちらも 1 の17乗根の実部。前者は、エエとエケから:
  (1/16)(−1 + h − (34 − 2h) ± 2[17 + 3h − (170 − 26h) + 4(34 + 2h)])
後者は、エオとエコから:
  (1/16)(−1 + h + (34 − 2h) ± 2[17 + 3h + (170 − 26h) − 4(34 + 2h)])

数値的には、前者が 0.739008917220… または −0.982973099683…、後者が 0.932472229404… または 0.092268359463… で、 360° = 2π の 1/17 を G とすると、順に cos 2G, cos 8G, cos G, cos 4G に当たる。

実はエケ・エコそれぞれの二つの根号は、一つの根号に簡約可能。今回はその議論に立ち入らない(「正17角形は作図可能?」の §9 参照)。エコは「正17角形は作図可能?」の《に》の (  ) 内と全く同じ式。

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「正17角形の作図可能性」については、既に(u = cos G = 0.932472229404… の根号表現を導いただけで)証明完了。一方、 1 の17乗根を求めるとなると、対応する虚部 v が問題になる。原理的には v = ±(1 − u2) のようにして機械的に計算可能だが(【12】参照)、その方法は必ずしも便利ではない。

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2024-10-18 x17 = 1 の代数的解法(その3)

#遊びの数論 #1の原始根 #4次方程式 #正17角形 #x17 = 1 #円分多項式

x17 = 1 の解は x = 1 の他、次の形式の 16 個の複素数:
  u1 ± v1i, u2 ± v2i, ···, u8 ± v8i

その2」では、上記 8 種の実部 u1, u2, ···, u8 のうち四つについて、明示的な根号表現を得た――4次方程式を二つの2次方程式として解くことによって。対になるもう一つの4次方程式から、残りの四つの実部にもアプローチできる。

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【16】 x17 = 1 の非実数解は、
  x16 + x15 + ··· + x + 1
の根。この16次式を Gauß の公式で二つの8次式の積に分解し、 y = x + 1/x と置くと、次の二つの4次方程式を得る(【10】):
  y4 + [(1 + h)/2]y3 + [(−3 + h)/2]y2 + (2 − h)y − 1 = 0  ウタ(再掲)
  y4 + [(1 − h)/2]y3 + [(−3 − h)/2]y2 + (2 + h)y − 1 = 0  ウダ(再掲)

二つの式は、 h = 17 の前の符号が反転していることを除けば、同一。われわれは既にウダを解いたが、係数に分数があると面倒そうなので、便宜上の置換 z = 2y を行って
  z4 + (1 − h)z3 + (−6 − 2h)z2 + (16 + 8h)z − 16 = 0  ❶ウナ(再掲)
の形にして、それを扱った(その解 z はウダの解 y の2倍で、もともとの16次式の根 x の実部の 4 倍)。

一般に、4次方程式 z4 + az3 + bz2 + cz + d = 0 が与えられたとき、それを2次式の問題に帰着させることができる。古典的な解法としては、三つの数 p, q, r を使う。ここで p は、3次方程式
  8p3 − 4bp2 + (2ac − 8d)p − a2d + 4bd − c2 = 0  オア
の任意の一つの解。 p さえ求まれば、 q, r は容易に設定可能(【13】参照)。

❶をオアに当てはめ両辺を 8 で割ると:
  p3 + (3 + h)p2 + (−14 − 2h)p + (−84 − 20h) = 0  ❷ウマ(再掲)
その一つの解は p = −1 − h だった(【13】)。同様の処理をもう一方の4次方程式ウタについて行うなら、❶に当たるものは:
  z4 + (1 + h)z3 + (−6 + 2h)z2 + (16 − 8h)z − 16 = 0  ❸
❷に当たるものは:
  p3 + (3  h)p2 + (−14 + 2h)p + (−84 + 20h) = 0  ❹

❶と❸、❷と❹は、どちらのペアもほとんど同じ式。違いは「整数 × h」の部分(それぞれ3カ所)の符号が逆になってることだけ。下記の理由から、実際に計算するまでもなく、 p = −1 + h は❹の解(❷の解 p = −1 − h について「整数 × h」の部分の符号を変えただけ)。

便宜上、有理数 A, B について、実数 A + Bh と実数 A − Bh を互いに「共役」と呼ぶことにする(注: 共役複素数という意味ではない)。 A = A + 0h と A = A − 0h も共役なので、「互いに共役の2数」には「同一の有理数」や「同一の整数」も含まれる。

命題 互いに共役の2数のそれぞれに、互いに共役の2数を足したり掛けたりした結果は、再び互いに共役

〔証明〕 A, B, C, D を任意の有理数とする。 A + Bh と A − Bh は共役、 C + Dh と C − Dh も共役。このとき:
  (A + Bh) + (C + Dh) = (A + C) + (B + D)h と (A − Bh) + (C − Dh) = (A + C) − (B + D)h
は共役。実際、E = A + C, F = B + D とすれば、上記の二つの和は E + Fh と E − Fh。同様に、
  (A + Bh)(C + Dh) = (AC + 17BD) + (AD + BC)h と (A − Bh)(C − Dh) = (AC + 17BD) − (AD + BC)h
も共役(h は 17 の平方根なので h2 = 17)。∎

補足 (A + Bh)(C + Dh) と (A − Bh)(C − Dh) のような積は互いに共役だが、ここで A, B, C, D は任意なので A = C, B = D でも構わない。つまり (A + Bh)2 と (A − Bh)2 も共役。従って、前者にもう一度 A + Bh を掛けたものと、後者にもう一度 A − Bh を掛けたものも、再び共役。要するに、互いに共役の数は、それぞれ 2 乗したり 3 乗したりしても、結果は依然として互いに共役

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y についての4次方程式ウタとウダは、対応する各係数が共役。 y から z への変数置換では、係数(定数項も含めていう)が整数倍される(4次の項から順に 1 倍・2 倍・4 倍・8 倍・16倍)。ウタ・ウダに同じ変数置換を施した結果として、 z についての4次方程式…
  z4 + (1 − h)z3 + (−6 − 2h)z2 + (16 + 8h)z − 16 = 0  ❶再掲
  z4 + (1 + h)z3 + (−6 + 2h)z2 + (16 − 8h)z − 16 = 0  ❸再掲
…も、対応する各係数が共役(例: ❶では a = 1 − h、 ❸では a = 1 + h)。よって、❶/❸に関連する3次方程式❷/❹は、対応する各係数が共役。ゆえに、❷の p に任意の数 A + Bh を入れたときの左辺の値と、❹の p に共役の数 A − Bh を入れたときの左辺の値は、再び共役。特に、❷に p = −1 − h を入れたとき値が 0 になるなら、❹に共役の p = −1 + h を入れたとき、値は 0 と共役(すなわち同じ 0)。つまり、直接方程式を解くまでもなく、❹の解は❷の解の共役。

〔補足〕 ❷/❹の係数は同一の式オアに基づき、「有理数と、4次式の係数 a, b, c, d」の間の一定の四則演算によって定まる。一方の係数 a1, b1, c1, d1 と他方の係数 a2, b2, c2, d2 がそれぞれ共役なら、オアの各係数も共役。さらに上記の命題と補足から、共役の入力 p = A ± Bh に対して p3 と p2 はそれぞれ共役の値を持ち、それらの値に共役の係数を掛けた結果も共役。これら互いに共役の項たちの和は、互いに共役。

【17】 4次方程式❸を2次方程式に分解するには、 p だけでなく q, r の値が必要。 p を定めれば、次のように q を選択でき、 p, q から連鎖的に r も定まる。
  q = (a2/4 + 2p − b), r = (ap − c)/(2q)  オサ
あるいは、次のように先に r を選択して、 p, r から q を定めることも可能。
  r = (p2 − d), q = (ap − c)/(2r)  オシ
オサでは q を正とし、オシでは r を正とする。 q, r を両方正に設定できる場合、オサ・オシの結果は同じだが、 q, r の符号が異なる場合、オサとオシでは符号の選択が逆になる(結局は q, r の符号を変えた二つの2次方程式を解くことになるので、どちらを正としても最終的な結論は変わらない)

4次方程式❶に関連する3次方程式❷(ウマ)について、 p = −1 − h にオサを適用し、次の結果を得た(【13】)。
  q = [(17 − h)/2], r = −(34 + 2h)  オタ(ウフ再掲)

係数が共役の4次方程式❸について、関連する3次方程式❹の解としては p = −1 + h を使えばいい。これは上記の p の共役であり、計算するまでもない。調子に乗って q, r についても、オタの根号下の共役から q = [(17 + h)/2], r = (34 − 2h) としたくなるかもしれない。確かに「それぞれ共役な数」の間の四則演算(2乗も含む)の結果は、再び共役。しかし q, r の選択には、四則演算だけでなく平方根が絡む(オサ・オシ参照)。実際にオサに p = −1 + h を入れて計算すると、正しくは:
  q = [(17 + h)/2], r = (34 − 2h)  オチ
オタと比べて q, r とも根号下は互いに共役だが、それだけでなく、「オタの r は負の平方根、オチの r は正の平方根」という違いがある。

〔参考〕 4次方程式❶では q, r の符号が逆だったが、もう一つの4次方程式❸では q, r が同符号。 q, r が同符号か否かは、 ap − c が正か負かに応じて決まる。 ap − c の符号に基づき q, r が同符号か否か判定するなら、オサの第一式とオシの第一式から q, r を設定することも可能。その場合、 q, r の符号が逆なら、 q, r どちらか一方(どちらでも可)の値にマイナスを付ける必要がある(オタのように)。ちなみに特殊なケースとして、オサ〚オシ〛の第一式で q 〚 r 〛 の値 0 になる場合、オシ〚オサ〛の第一式から r 〚 q 〛 の値を定める必要がある。

条件を満たす p, q, r を使うと、一般の4次方程式を次の二つの2次方程式に分解できる:
  z2 + (a/2 + q)z + (p + r) = 0  オツ
  z2 + (a/2 − q)z + (p − r) = 0  オヅ
❸の場合、オツ・オヅに a = 1 + h と上掲の p = −1 + h とオチの q, r を代入すると:
  z2 + [(1 + h)/2 + [(17 + h)/2]]z + (−1 + h + (34 − 2h)) = 0  オテ
  z2 + [(1 + h)/2 − [(17 + h)/2]]z + (−1 + h − (34 − 2h)) = 0  オデ

参考として、下記は、もう一つの4次式❶の分解(【14】参照)。
  z2 + [(1 − h)/2 + [(17 − h)/2]]z + (−1 − h − (34 + 2h)) = 0  オト
  z2 + [(1 − h)/2 − [(17 − h)/2]]z + (−1 − h + (34 + 2h)) = 0  オド

観察 「オテ・オデ」全体と「オト・オド」全体を比較すると、前者と後者では h の前の符号が全て反転し(共役のため)、加えて「q を正としたとき r は正か負か」の違いから、定数項に含まれる根号の前の符号も反転している(オツ・オヅの ±r に当たる: オテ・オデでは r 自身の値は正、オト・オドでは r は負)。「オテ・オデ」のペア、「オト・オド」のペアをそれぞれペア内で比較すると、どちらも1次の係数の中央付近にある符号と、定数項の中央にある符号が同時に入れ替わっている。それぞれ a/2 ± q と p ± r に当たる(複号同順)。そのうち ±r については、ペア内で正と負に分かれるだけでなく、前述のように、定数 r そのものが正か負かという違いが、最終的な式表現に影響する(r が負なら ±r の数値は ∓)。

かくして、 Φ17 で y = x + 1/x と置いた8次式(ウア)…
  y8 + y7 − 7y6 − 6y5 + 15y4 + 10y3 − 10y2 − 4y + 1 = 0
…が、二つの4次式に分解され、その二つがそれぞれさらに分解されて、合計四つの2次式になった!

オテ・オデ・オト・オドについて結果だけ見ると、随所に微妙な符号の違いがあり、紛らわしいと感じられるかもしれない。背後にある仕組みを考えると、符号の振る舞いには根拠があり、比較的単純なパターンに従っている。

† 正確に言うと、われわれはウア(【7】参照)の8次式を直接分解したのではなく、 Gauß の公式によって、16次式を二つの回文8次式に分解し、置換 y = x + 1/x によりそれを y についての4次式にした(【9】【10】)。結果は、8次式の直接分解と同じ。簡潔化のため、便宜上の再置換 z = 2y を実施。

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初等的な方法でこの分解を成し得たことは、悪い気分ではない。このような分解が可能なこと自体は分かり切っているが、古典代数だけで分解を実現できるか。「Gauß の恒等式」という奇手が奏功した。客観的には泥くさいアプローチで、最初のうち「玄妙な Gauß の理論をこんなふうに使うのは、一種の冒瀆ぼうとくでは」という後ろめたさもあった。四つの2次方程式のうち二つは既に明示的に解いているが、ここまで来たからには全部解くべきだろうし、二重根号の和の簡約の問題も扱うべきだろう。 1 の17乗根の観点からは、実部だけでなく虚部も求めねばなるまい。

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2024-10-20 x17 = 1 の代数的解法(その4) 草に酔う

#遊びの数論 #1の原始根 #4次方程式 #正17角形 #x17 = 1 #円分多項式

x17 = 1 の非実数解は 16 個。全部、求める。

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【18】 h = 17 とする。次の二つの4次式の根(計 8 個)は、どれも 1 の17乗根の実部の 4 倍。
  z4 + (1 + h)z3 + (−6 + 2h)z2 + (16 − 8h)z − 16  カア
  z4 + (1 − h)z3 + (−6 − 2h)z2 + (16 + 8h)z − 16  カイ

カアとカイは、 h の前の符号(3カ所)が全部逆で、それ以外の点は全く同じ。両式は、 y についての二つの4次式ウタ・ウダ(【10】参照)において、便宜上の変数置換 y = 2z を行ったもの。ウタ・ウダの起源は、
  (8次式)2 − h2(7次式)2 = (8次式 + h × 7次式)(8次式 − h × 7次式)
の右辺の 2 因子なので(【9】参照)、「h の前の符号が反対、それ以外は同一」なのは、当然だろう。

前回見たように、カア・カイは、それぞれ次の形式の二つの2次式の積に分解される(複号同順):
  z2 + (a/2 ± q)z + (p ± r) つまり z2 + (1/2)(a ± 2q)z + (p ± r)  カカ
ここで a は、4次式の3次の係数。カアの場合 a = 1 + h。さらにカアの場合…
  p = −1 + h
  q = [(17 + h)/2] よって 2q = (34 + 2h)
  r = (34 − 2h)
…となって、これらをカカに代入すると、カアの根を求める問題は、次の二つの2次式の根を求める問題となる。
  z2 + (1/2)(1 + h + (34 + 2h))z + (−1 + h + (34 − 2h))
  z2 + (1/2)(1 + h − (34 + 2h))z + (−1 + h − (34 − 2h))
第一式は、カカの複号で (+) を選んだバージョン。第二式は (−) を選んだバージョン。

カイから生じる二つの2次式もほぼ同じ形を持つが(違いは a, p, q, r の各 h の符号が全部逆になることと、 r の平方根の正負が逆になることだけ: 【17】参照)、それらの根については既にその2で求めたので、ここではカアに集中する。

【19】 2次方程式の解の公式によれば、 (+) 版の根は、判別式…
  D1 = (1/4)(1 + h + (34 + 2h))2 − 4(−1 + h + (34 − 2h))
…を使って、こう表現される:
  z = [−(1/2)(1 + h + (34 + 2h)) ± D1] / 2
   = (1/4)(−1 − h − (34 + 2h) ± 2D1)  カサ

同様に (−) 版の根は、
  D2 = (1/4)(1 + h − (34 + 2h))2 − 4(−1 + h − (34 − 2h))
…を使って:
  z = [−(1/2)(1 + h − (34 + 2h)) ± D2] / 2
   = (1/4)(−1 − h + (34 + 2h) ± 2D2)  カシ

どちらも同じような計算。その2とほぼ同様だが、次の通り。 D1 を求める準備として:
  (1 + h)2 = 1 + 2h + h2 = 18 + 2h
その両辺の正の平方根:
  (1 + h) = (18 + 2h)
上記二つの関係を利用して:
  [(1 + h) + (34 + 2h)]2
   = (1 + h)2 + 2(1 + h)(34 + 2h) + (34 + 2h)
   = (18 + 2h) + 2(18 + 2h) (34 + 2h) + (34 + 2h)
   = (18 + 2h) + 2⋅2(9 + h) (17 + h) + (34 + 2h)
   = (52 + 4h) + 4(170 + 26h)  ← 根号下は (9 + h)(17 + h)
  ∴ (1)/(4)(1 + h + (34 + 2h))2 = 13 + h + (170 + 26h)
  ∴ D1 = 13 + h + (170 + 26h) − 4(−1 + h + (34 − 2h)) = 17 − 3h + (170 + 26h) − 4(34 − 2h)
これをカサに入れれば (+) 版の根。

一方 (−) 版だが、
  [(1 + h) − (34 + 2h)]2 = (1 + h)2 − 2(1 + h)(34 + 2h) + (34 + 2h)
という展開は、右辺第2項の符号が − になっている他は、上記と全く同じ。結局:
   = (52 + 4h) − 4(170 + 26h)
  ∴ (1)/(4)(1 + h − (34 + 2h))2 = 13 + h − (170 + 26h)
  ∴ D2 = 13 + h − (170 + 26h) − 4(−1 + h − (34 − 2h)) = 17 − 3h − (170 + 26h) + 4(34 − 2h)
これをカシに入れれば (−) 版の根。

【20】 得られた四つの根 z のそれぞれは、 1 の17乗根(x = 1 を除く。以下同じ)の実部(計 8 種)のどれかを 4 倍したもの。 4 で割って、17乗根の実部そのものを記すと、次の通り。

カサと D1 から:
  (1/16)(−1 − h − (34 + 2h) ± 2[17 − 3h + (170 + 26h) − 4(34 − 2h)])

カシと D2 から:
  (1/16)(−1 − h + (34 + 2h) ± 2[17 − 3h − (170 + 26h) + 4(34 − 2h)])

数値的には、前者が −0.602634636379… または −0.850217135729…、後者が 0.445738355776… または −0.273662990072… で、 360° = 2π の 1/17 を G とすると、順に cos 6G, cos 7G, cos 3G, cos 5G に当たる(計 8 種ある実部のうちの残り 4 種については、【15】参照)。右端の長い根号下の
  (170 + 26h) − 4(34 − 2h) ないし −(170 + 26h) + 4(34 − 2h)
に関しては、二つの根号(2項)を一つの根号(1項)に簡約可能だが、その処理については割愛。

E = (34 + 2h), F = (34 − 2h); P = (170 + 26h), Q = (170 − 26h) とすると、 1 の17乗根の 8 種類の実部は次の通り(本来の数値、および 16 倍された根号表現を記す)。

〖表1〗 1 の17乗根の実部
番号 根号表現の例(16倍) 数値
#1 −1 + h + F + 2(17 + 3h + Q − 4E) +0.9324…
#2 −1 + h − F + 2(17 + 3h − Q + 4E) +0.7390…
#3 −1 − h + E + 2(17 − 3h − P + 4F) +0.4457…
#4 #1 の 2√ の前の符号を − にしたもの +0.0922…
#5 #3 の 2√ の前の符号を − にしたもの −0.2736…
#6 −1 − h − E + 2(17 − 3h + P − 4F) −0.6026…
#7 #6 の 2√ の前の符号を − にしたもの −0.8502…
#8 #2 の 2√ の前の符号を − にしたもの −0.9829…

【21】 虚部について。 1 の17乗根 x は、複素平面上、原点からの距離 1 の(円周上の)どこかにある。なぜなら、複素数が17乗されれば、その絶対値(原点からの距離)も17乗されるので、もしも x の絶対値が 1 を超えれば x17 の絶対値はますます大きく 1 を超えてしまうし、もしも x の絶対値が 1 未満なら x17 の絶対値はますます小さく 1 未満になってしまう。 x17 = 1 が成り立つためには、 x の絶対値が |x| ちょうど 1 であることが必要。

そこで x の実部を u、虚部を v として、1 の17乗根を x = u + vi とすると、三平方の定理から:
  u2 + v2 = |x|2 = 1  カタ
  ∴ v = ±(1 − u2)

8 種類の u の根号表現は表1の通り。それを使って ±(1 − u2) の直接計算も可能だが、大変面倒くさい。次のように考えた方が簡単で、見通しもいい。まず、カタから:
  u2 = 1 − v2  カチ

今、 1 の17乗根のうち任意の一つを x1 とすると、 (x1)2 も 1 の17乗根。実際、
  ((x1)2)17 = (x1)34 = ((x1)17)2 = (1)2 = 1
なので、 (x1)2 は「17乗すると 1 になる数」。このもう一つの17乗根 (x1)2 を x2 とすると、 x1 = u + vi との関係から:
  x2 = (x1)2 = (u + vi)2 = (u2 − v2) + 2uvi

x2 の実部は u2 − v2 だが、カチにより、それは (1 − v2) − v2 = 1 − 2v2 に等しい。 x2 の実部を C と呼ぶと:
  C = 1 − 2v2 つまり 2v2 = 1 − C
  ∴ v2 = (1 − C)/2

この最後の等式は、 x1 の虚部 v の便利な計算法を与えてくれる: v を知りたければ (1 − C)/2 を計算して、その(正または負の)平方根を考えればいい。ただし C は x2 = (x1)2 の実部。 x2 は x1 の 2 乗だから、 x1 と比べ偏角が 2 倍。要するに、 1 の17乗根のうち偏角が 2 倍のものの実部を C とすれば:
  v = ±[(1 − C)/2]

〔参考〕 三角関数の言葉では、これは sin の半角の公式。 x1 の偏角を θ とすれば v = sin θ, C = cos 2θ。あるいは、同じことだが、 x2 の偏角を θ とすれば v = sin (θ/2), C = cos θ。

例えば、実部 #1 に対応する虚部を求めるには、実部 #2 を C とすればいい。表1から:
  C = (1/16)(−1 + h − F + 2(17 + 3h − Q + 4E))
このとき:
  1 − C = 16/16 − (1/16)(−1 + h − F + 2(17 + 3h − Q + 4E))
   = (1/16)(17 − h + F − 2(17 + 3h − Q + 4E))
  ∴ (1 − C)/2 = (1/32)(17 − h + F − 2(17 + 3h − Q + 4E))

直接この数の平方根を求めるなら、分母 32 の分数を得る。その分母を有理化するには、分子・分母を 2 倍すればいい。同じことだが、最初から分子・分母を 2 倍して、分母を平方数 64 にしておく方が簡単だろう:
  v2 = (1 − C)/2 = (1/64)(34 − 2h + 2F − 4(17 + 3h − Q + 4E))
  ∴ v = ±(1/8)[34 − 2h + 2F − 4(17 + 3h − Q + 4E)]
これは実部 #1 に対応する虚部(縦座標)なので、複号で + を選べば頂点1の虚部、 − を選べば頂点16の虚部(下の画像参照)。

偏角 2 倍の17乗根」を利用するのだから、実部 #2, #3, #4 に対応する虚部を求めるには、それぞれ実部 #4, #6, #8 を C とする。実部 #5 に対応する虚部は、頂点10番の実部を C として計算可能; この C は、頂点7番の実部、つまり実部 #7 に等しい(画像参照)。同様に、実部 #6, #7, #8 に対応する虚部は、それぞれ頂点12番・14番・16番の実部を C として計算可能で、それらの C は実部 #5, #3, #1 に等しい。計算法はいずれも上の例と同様。表1の値(実部の 16 倍)を基準とするなら、「先頭の −1 を 34 に変え、残りの 3 項をそれぞれ −2 倍したもの」の平方根を 8 で割る。

〖表2〗 1 の17乗根の虚部の絶対値
番号 根号表現の例(平方の 8 倍) 数値
#1 34 − 2h + 2F − 4(17 + 3h − Q + 4E) 0.3612…
#2 34 − 2h − 2F + 4(17 + 3h + Q − 4E) 0.6736…
#3 34 + 2h + 2E − 4(17 − 3h + P − 4F) 0.8951…
#4 #1 の 4√ の前の符号を + にしたもの 0.9957…
#5 #3 の 4√ の前の符号を + にしたもの 0.9618…
#6 34 + 2h − 2E + 4(17 − 3h − P + 4F) 0.7980…
#7 #6 の 4√ の前の符号を − にしたもの 0.5264…
#8 #2 の 4√ の前の符号を − にしたもの 0.1837…

E = (34 + 2h), F = (34 − 2h); P = (170 + 26h), Q = (170 − 26h) の意味は、表1と共通。

【22】 これで x17 = 1 の非実数解 16 個が、一応全部求まった!

正17角形の画像正17角形の頂点 n に対応する複素数解は、(ア) n = 1, 2, 3, ···, 8 なら
  [実部 #n] + [虚部 #n] i
であり(虚部の符号は正)、(イ) n = 9, 10, 11, ···, 16 なら 17 − n が 8, 7, 6, ···, 1 の範囲にあるので、それを使って(ア)とほぼ同様に表現可能(虚部の符号は負):
  [実部 #(17−n)] − [虚部 #(17−n)] i

表1の実部(16倍されている)、表2の虚部(平方され8倍されている)を基準とするなら:
  (1/16)[表1の値] ± (i/8)[表2の値]

例えば n = 1 の場合:
  (1/16)(−1 + h + F + 2(17 + 3h + Q − 4E)) + (i/8)[34 − 2h + 2F − 4(17 + 3h − Q + 4E)]
   = 0.932472229404… + (0.361241666187…)i
  (草に酔う何に肉酔う) (見ろ人に良いけもの岩)

† けもの(獣) = けだものの数字(the beast’s number) 666

「頂点1」に当たるこの複素数は、 x17 = 1 の非実数解(1 の原始17乗根)の中でも基本的なもの。「主値」と呼んでもいいだろう。

1 の原始17乗根とは、 17乗されて初めて 1 になる数。つまり x17 = 1 を満たし、しかも n が 17 未満の正の整数のときには xn ≠ 1 であるような複素数。 x17 = 1 の 17 個の解のうち、 x = 1 以外の 16 個は、全て原始17乗根。「主値」は曖昧な用語だが、ここでは、そのような 16 個の値のうち、実部が最大で、虚部が負でないものを指す。

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多項式の根を求める代数的解法により、 x17 = 1 の全部の解(1 の17乗根)の根号表現を得た。二重根号の和・差に簡約の余地があるので、まだ最適の表現とはいえないかもしれないが、とりあえず満足すべき成果だろう。

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遊びの数論33』へ続く。


〔修正済みの箇所〕 最初 |x|2 が x2 になっていた(翌日訂正)。
n=7 の Gauß の式: 1カ所 Y の右端の −2 が +2 になっていた(約1週間後に訂正)。

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