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2024-06-06 tan の倍角公式のきれいな導出 複素数の積
tan の多倍角の公式について、arctan の倍数の式とセットで、少し違う観点から整理してみたい。「複素数の2乗・3乗・4乗…の挙動」という重要な問題とも関連する。
1. 0 以外の任意の複素数 z = x + yi について、複素平面上で z に対応する点 P を考える。原点 O と P を通る直線 ℓ の傾きは y/x つまり「虚部÷実部」。 ℓ 上の点に対応する複素数(≠ 0)は、どれも同じ傾き y/x を持つ(この傾きを t とする)。
z の偏角とは、「横軸の正の向き」と直線 ℓ が成す角度(その角度を θ とする)。 z の偏角が θ で ℓ の傾きが t なら:
t = tan θ ‥‥①
θ = arctan t ‥‥②
〔補足〕 ℓ の傾き t は z の「虚部÷実部」の比。いわば「縦横の比」であり、「増加率」とイメージしてもいい。一方、 z の偏角 θ は、その縦横比の傾きを持つ直線が成す「角度」。 tan は「傾きの角度」を「増加率」(縦横の比)に変換する。 arctan は逆に「増加率」を「傾きの角度」に変換する。
〔例〕 横に 1 進むごとに上に 1 上がる傾きは 1:1 つまり 1。 そのような傾きの成す角度(上昇角)は 45° なので tan 45° = 1 そして arctan 1 = 45° となる。
ここでは複素数 z の絶対値を気にせず、z の偏角だけを問題にする。話を簡単にするため、傾き t の直線 ℓ 上で「横座標(実部)が 1 の点」を選び、それに対応する複素数 z = 1 + ti を考える――つまり、傾き t の複素数の例として、実部 1 の数を使う。
2. z2 の偏角は z の偏角の 2 倍。 z3 の偏角は z の偏角の 3 倍。 z4 の偏角は z の偏角の 4 倍。等々…。これは複素数の、重要な基本性質の一つだろう(そうなる理由については、§6参照)。
原点と z = 1 + ti (に対応する点)を結ぶ直線の傾きは t だが、関連する数値を表す文字を②のように選択したのだから z の偏角は θ = arctan t。そして…
z2 = (1 + ti)2 = 12 + 2ti + (ti)2 = (1 − t2) + (2t)i
…なので、原点と z2 (に対応する点)を結ぶ直線の傾き(虚部÷実部)は (2t/1 − t2) だ。 z2 の偏角は z の偏角 θ の 2 倍、つまり 2θ だから、次が成り立つ:
2θ = arctan (2t/1 − t2) 《さ》
arctan の意味から、右辺は z2 の偏角の直接表現。それが 2θ に等しい、と。今、両辺の tan を考え、①を使うと:
tan 2θ = (2t/1 − t2)
= (2 tan θ/1 − tan2 θ) 《し》
〔補足〕 arctan X とは、tan φ = X を満たすような角度 φ のこと。そのような角度は原理的には複数あり得るが、いずれにしても、
φ = arctan X という数は tan φ = X を満たす
…のだから、当然 tan (arctan X) = tan φ = X となる。《さ》の右辺の tan つまり…
tan (arctan (2t/1 − t2))
…が (2t/1 − t2) に等しいのは、
そのため: X = (2t/1 − t2) に当たる。
《し》は単なる tan の倍角公式で、こんなことをしなくても、 tan の加法定理から(あるいは cos, sin の加法定理などから)容易に導くことができる。けれど、この導出法には全体像を見渡す上でのメリットがある。第一に、《さ》に②を適用するなら:
2 arctan t = arctan (2t/1 − t2) 《じ》
これは arctan の「2倍の公式」――つまり arctan の加法定理 arctan u + arctan v = arctan ((u + v)/(1 − uv)) において u と v が等しい数(それを t とする)になった場合――であり、 tan バージョンと arctan バージョンの公式を、統一的に理解できる(どうして両者は似た形をしているのか)。第二に、もっと重要なこととして、《し》や《じ》の形の分子・分母の各項の係数…
2, 1, −1
…の起源が一目瞭然。それは (1 + ti)2 の二項展開の係数 1, 2, 1 に対応している。傾きの分数は「虚部÷実部」なので、虚部が分子に行き、実部が分母に行く; i の奇数乗を含む項が虚部を構成し、それ以外の項は実部になるんだから、
(1 + ti)2 = 1⋅12 + 2⋅1⋅ti + 1⋅(ti)2
…の左辺の偶数番目の項(i の奇数乗を含む)の係数 2 が分子に行き、奇数番目の項の係数 1, 1 は分母へ行く。奇数番目の項(i の偶数乗を含む)のうちでも第3項は i2 = −1 を含むので、符号が反転。結局、 2 が分子に行き、 1, −1 が分母に行く:
tan 2θ
= (2 tan θ/1 − 1 tan2 θ)
この構造は arctan 版の《じ》でも全く同じ。――この観点は、2倍角の式の理解を深める上でも役立つが、3倍角以降において特に役に立つ。
3. z3 で同様のことを考えると…
z3 = (1 + ti)3 = 1 + 3(ti) + 3(ti)2 + (ti)3
あえて丁寧に二項係数を明記するなら:
(1 + ti)3 = 1⋅13 + 3⋅12⋅(ti) + 3⋅1⋅(ti)2 + 1⋅(ti)3
右辺の偶数番目の項は、 i の奇数乗を含むので虚部の成分となり、奇数番目の項は i の偶数乗を含むので実部の成分となる。奇数番目の項のうち、第3項が i2 = −1 の影響でマイナスになることは z2 = (1 + ti)2 の場合と同様。それに加えて、偶数番目の項のうち、第4項が i3 = (i2)i = (−1)i = −i の影響で(虚部の中で)マイナスの項になる。結局、
(1 + ti)3 = (1 − 3t2) + (3t − t3)i
…なので、対応する傾きは (3t − t3/1 − 3t2) に等しい。
z の偏角 θ を 3 倍した 3θ が、z3 の偏角なので:
3θ = arctan (3t − t3/1 − 3t2) ⌘
ここで両辺の tan を考え①を使うと:
tan 3θ = (3t − t3/1 − 3t2) = (3 tan θ − tan3 θ/1 − 3 tan2 θ) 《す》
あるいは単に②を使うと、同じ式の arctan 版を得る:
3 arctan t = arctan (3t − t3/1 − 3t2) 《ず》
《す・ず》は本質的に同じ式。 ⌘ の両辺の tan を考えれば《す》になり、 ⌘ で単に θ = arctan t と書けば《ず》になる。
符号(マイナスになる項)について: このように指数の小さい順に書く場合、分子・分母とも、プラスから始まって、プラスの項とマイナスの項が交互に現れる。分子(i の奇数乗を含む)は、
i1 = +i, i3 (= i2i) = −i, i5 (= i4i) = +i, i7 = −i, …
となり、分母は(i の偶数乗を含む)は、
i0 = +1, i2 = −1, i4 = +1, i6 (= i4i2) = −1, …
となるから。 (1 + ti)n の展開では (ti) はセットで奇数乗または偶数乗されるので、上記 i の肩の指数と同じ指数が t の肩にも付く(《ず》参照)。 tan θ の指数も全く同じパターンになる(《す》参照)。《ず》に対して t = tan θ という代入をしただけなので、当然、同じパターンに。どちらも分子の各項には、左から順に1乗・3乗・5乗…が付き、分母の各項には左から順に0乗・2乗・4乗…が付く。
事実としては「二項係数を分母・分子に交互に書くだけ」で大した問題でもない(実際、帰納法でちまちま証明することもできる)。でも、こうして見ると、何が起きているのか・どうしてそうなるのか?という全体像が透明に見渡せて、ちょっと「いい眺め」。
この仕組みが分かってしまえば、もはやいちいち zn = (1 + ti)n を展開するまでもない。 n = 4 で言えば、二項係数は 1, 4, 6, 4, 1 で、奇数番目の係数が下(分母)、偶数番目の係数が上(分子)に行くのだから:
tan 4θ = (4t − 4t3)/(1 − 6t2 + t4)
= (4 tan θ − 4 tan3 θ)/(1 − 6 tan2 θ + tan4 θ) 《せ》
4 arctan t = arctan (4t − 4t3)/(1 − 6t2 + t4) 《ぜ》
同様に n = 5 なら、二項係数は 1, 5, 10, 10, 5, 1 だから:
tan 5θ = (5t − 10t3 + t5)/(1 − 10t2 + 5t4)
= (5 tan θ − 10 tan3 θ + tan5 θ)/(1 − 10 tan2 θ + 5 tan4 θ) 《そ》
5 arctan t = (5t − 10t3 + t5)/(1 − 10t2 + 5t4) 《ぞ》
tan の n 倍角の式は、 n 乗の展開の二項係数を分母と分子に交互に書くだけ(最初の 1 は分母に行く)。分母も分子も指数が 2 ずつ増え、係数はプラスとマイナスが交互に出現。 arctan の n 倍の式の分数も、全く同じ形。
《せ・ぜ・そ・ぞ》のような式をスラスラ書いたら一見「ものすごい記憶力の持ち主」みたいだが、よく見ると、二項係数を下と上に交互に並べてるだけ…(笑)。瞬時に生成できるので、見掛け上スラスラ書けるけど、実際に記憶しているわけではない。
4. 応用例。 tan 18° つまり tan (π/10) を求める簡単な方法。 θ = 18° なら、《そ》の左辺は tan 90° になってしまい、値が定義されない(値が ±∞ になってしまう)。従って、それに等しい《そ》右辺も、値が ±∞ になってしまうはず。けれど、θ = 18° のとき tan θ は普通の正の数なので、《そ》の右辺の分子は問題なく定義される。そのことから、θ = 18° のときには《そ》の右辺の分母が 0 になる(ゼロ除算エラーが発生する)に違いない。 t = tan 18° は、
1 − 10t2 + 5t4 = 0 《た》
…の解。「分母が 0 になってしまう」という不具合を「値が満たす条件」として活用するッ!
だが《た》は4次方程式。解が四つあるはずだが、一体どういうことか?
tan 5θ の値が定義されないのは、何も θ = 18° の場合だけではない; tan (±90°) も tan (±270°) も「値が定義されない」という状況は同じなので、それらの角度を 5θ と見て 5 で割ると… θ = ±18°, ±54° のときの t = tan θ が、《た》の四つの解だろう――ちなみに tan (±180°) = 0 は普通に値が定義されるので、この場合、無関係。
しかし四つの解のどれがどれか、どうやって見分ければいいか?
θ = 18°, 54° のとき tan θ は正、θ = −18°, −54° のとき tan θ は負。 tan (±54°) の方が tan (±18°) より絶対値がでかいことから、四つの解のうち、正で値が小さいやつが cos 18° であるッ!
それさえ分かれば、あとは一本道。《た》で x = t2 と置くと:
5x2 − 10x + 1 = 0
それを解いて:
x = (5 ± √(52 − 5))/5 = (5 ± 2√5)/5
√5 は約 2.2 なので、複号で ± どっちを選んでも、この x は正。 t はこの x の正または負の平方根だが、正の解が欲しいんだから、正の平方根だけを考えよう。複号はどっちが題意に適するか。小さい方が tan 18° で大きい方が tan 54° のはずなので、マイナスを選ぶべきだろう。従って:
tan 18° = √[(5 − 2√)/5] = √(1 − 2/√)
副産物として:
tan 54° = √[(5 + 2√)/5] = √(1 + 2/√)
分母を有理化した形で表記するなら…
tan 18° = [√(5 − 2√)]/√5
=
[√(25 − 10√)]/5
同様に tan 54° = [√(25 + 10√)]/5
tan 18° の根号表現の導出法は他にもあるが、この経路が最速かも…
5. 応用例その2。 Machin の公式の検証では、途中計算として 4 arctan (1/5)
= arctan (120/119) を確かめた。そのためには arctan の加法定理…
arctan t + arctan u = arctan ((t + u)/(1 − tu)) 《ち》
…を使って arctan (1/5) + arctan (1/5) などを計算してもいいのだが、せっかくなので「4倍の公式」《ぜ》…
4 arctan t = arctan (4t − 4t3)/(1 − 6t2 + t4)
…を使ってみる。 t = 1/5 のとき、「4倍の公式」において:
分子 = 4(1/5) − 4(1/5)3 = 4(1/5 − 1/125) = 4(25/125 − 1/125) = 4 × 24/125 = 96/125
分母 = 1 − 6(1/5)2 + (1/5)4 = 1 − 6/25 + 1/625 = 625/625 − 150/625 + 1/625 = 476/625
従って、この分数は…
96/125 ÷ 476/625 = 96/125 × 625/476
= 24/1 × 5/129
= 120/119
途中で 125 と 625 を双方 125 で割って約分、 96 と 476 を双方 4 で割って約分した。 119 = 7 × 17 は素数ではないけど 3 では割り切れないので、これ以上の約分はできない。
〔注〕 n arctan t = arctan (f/g) の形の式には――ここで f, g は t の多項式――、主値に関連する問題がある: 左辺の角度の絶対値が π/2 以上、つまり 90° 以上になると、左辺と右辺の間に π の整数倍のずれが生じてしまう。 4 arctan t の式でいえば、絶対値が π/2 = 1.57… 以上だとこの問題が生じるので、それを避けるには |arctan t| が 1.57… の 4 分の 1 未満、つまり約 0.39 未満でないといけない。一方、 t = 1/5 = 0.2 のような小さい数について、 arctan t は t そのものと、だいたい同じ大きさ(具体的には arctan 0.2 = 0.197…)。結局、この例では arctan (1/5) = 約 0.2 なので、「絶対値が π/8 = 0.39… 未満」という条件が満たされている。
6. 土台となる事柄。 tan の多倍角の公式のこうした扱いは、「複素数 z を n 乗すると偏角が θ 倍に増える」という事実を基礎としている。この基礎を確認しておきたい。今 0 以外の任意の二つの複素数 z1, z2 を考える:
z1 = a + bi その偏角は arctan (b/a)
z2 = c + di その偏角は arctan (d/c)
ここで a, b, c, d は実数。
二つの複素数 z1, z2 の積は:
z1z2 = (a + bi)(c + di)
= ac + adi + bci + bdi2
= (ac − bd) + (ad + bc)i
その偏角は:
arctan (ad + bc)/(ac − bd) 《つ》
他方において、 z1 の偏角と z2 の偏角の和は、角の和の公式《ち》から:
arctan (b/a) + arctan (d/c) = arctan [b/a + d/c]/[1 − (b/a)(d/c)]
分数を簡約するため、分子・分母の各項を ac 倍すると:
= arctan [(b/a)ac + (d/c)ac]/[ac − (b/a)(d/c)ac]
= arctan [bc + ad]/[ac − bd] 《て》
《つ》と《て》は完全に等しい。よって、次の重大な結論に至る: 二つの複素数 z1, z2 の積の偏角は、z1 の偏角と z2 の偏角の和。
特に z1 = z2 の場合(この等しい複素数を z とする)、 z × z = z2 の偏角は、「z の偏角と z の偏角の和」、要するに z の偏角の2倍。 z の偏角を θ とすると、 z2 の偏角は 2θ に等しい。
さらに z3 = z2 × z の偏角は、 z2 の偏角 2θ と z の偏角 θ の和なので 3θ に等しい。
z4 = z4 × z の偏角は、 z4 の偏角 3θ と z の偏角 θ の和なので 4θ に等しい。
以下同様。一般に z の偏角が θ なら、zn の偏角は nθ となる(n: 自然数)。
これが今回の考察の土台となる事実で、それは arctan の加法定理《ち》に立脚している。《ち》自体は tan の加法定理を使って証明可能。
――今回、結論として導かれた tan の倍角公式は、 tan の加法定理の一種なので、これは循環論法では?!
さいわい tan の加法定理は、今回の結論と無関係に、sin と cos の加法定理から直接証明できるので、論理的には問題ないッ!
ただし技術的な細部には、若干、厄介な問題が…。 tan の多倍角の式の方は気軽に使って大丈夫だけど、分数なので、もちろん分母が 0 になってはいけない(その制限をむしろ活用できる場合もある: §4参照)。 arctan の公式に関しては、分母が 0 になってはいけないのは当然として、主値を考える場合、厳密な意味では等号が成り立たないことがある――多くの場合「180° の整数倍の違いを無視すれば」両辺は等しい、といった結論になる。この件の具体例については「円周率を8桁計算」参照。
tan の3倍角・4倍角などの公式は、それほど使用頻度の高いものではないが、使い道によっては役に立つ。「個々の公式を覚える必要がなく、その場で簡単に作れる」っていう点が便利かと。「複素数の積における偏角」との関連性についての洞察が得られるのは、大きな収穫だろう。
2024-06-07 tan 10° に関連する問題
問題 tan 70° = tan 20° + 2 tan 40° + 4 tan 10° を証明せよ。
一見、簡単な計算問題だが、簡単なやり方が分からない。強引でもよければ、どうにでもなりそうだが…
7. 証明 以下の方法はやや強引であまり面白くないが、簡潔ではある。 √3 を σ と略す。
A = tan 10° と置き、加法定理を使うと、与式の左辺は:
tan 70° = tan (60° + 10°) = (σ + A) / (1 − σA) ‥‥①
一方…
tan 20° = tan (30° − 10°) = (1/σ − A) / [1 + (1/σ)A] = (σ − 3A) / (3 + σA)
tan 40° = tan (30° + 10°) = (1/σ + A) / [1 − (1/σ)A] = (σ + 3A) / (3 − σA)
…なので、与式の右辺は:
(σ − 3A)/(3 + σA) + 2(σ + 3A)/(3 − σA) + 4A = (4A3 − 3σA2 − 16A − 3σ) / (A2 − 3) ‥‥②
①と②が等しいこと、つまり次が成り立つことを示せば、与式は証明される。
(σ + A) / (1 − σA) = (4A3 − 3σA2 − 16A − 3σ) / (A2 − 3)
分母を払うため、両辺を (1 − σA)(A2 − 3) 倍すると:
(σ + A)(A2 − 3) = (4A3 − 3σA2 − 16A − 3σ)(1 − σA)
つまり 4σA4 − 12A3 − 12σA2 + 4A = 0
両辺を 4 で割って整理すると A(σA3 − 3A2 − 3σA + 1) = 0 なので(そして A = tan 10° ≠ 0 なので)、
σA3 − 3A2 − 3σA + 1 = 0 ‥‥③
…を示せばいい。
今 tan 30° = tan (3⋅10°) = 1/σ に3倍角の公式を適用すると、 A = tan 10° は次の等式を満たす:
tan 30° = (3A − A3) / (1 − 3A2) = 1/σ
σ(1 − 3A2) 倍して分母を払うと:
σ(3A − A3) = 1 − 3A2 つまり
σA3 − 3A2 − 3σA + 1 = 0
従って③は成り立つ。∎
正しい答えは出るものの、なにやら不透明。
〔追記〕 ③は tan 10°, tan 70°, tan (−50°) を根とする3次式。そこを経由して、幾つかのきれいな式を導くことができる。
8. 別解 以下の方法は少し長いが、もっと見晴らしがいい。与式を一般化して…
tan 7θ = tan 2θ + 2 tan 4θ + 4 tan θ 《な》
…を考え、 θ = 10° がこの関係を満たすことを示す。その際、左辺をストレートに7倍角として扱ってもいいのだが、
cot 2θ = tan 2θ + 2 tan 4θ + 4 tan θ 《なな》
…に置き換えれば4倍角までの範囲で収まる(θ = 10° のとき tan 7θ = cot 2θ)。
tan θ = t
…と略すと、2倍角の公式から:
tan 2θ = 2t / (1 − t2)
従って:
tan 7θ = cot 2θ = 1 / tan 2θ = (1 − t2) / (2t)
一方、4倍角の公式から:
tan 4θ = (4t − 4t3) / (1 − 6t2 + t4)
以上のことから、《なな》は、こうなる:
(1 − t2) / (2t) = 2t / (1 − t2) + 2 (4t − 4t3) / (1 − 6t2 + t4) + 4t
通分・整理すると:
(9t8 − 84t6 + 126t4 − 36t2 + 1) / (2t7 − 14t5 + 14t3 − 2t) = 0
あるいは、同じことだが、両辺を 2 倍して:
(9t8 − 84t6 + 126t4 − 36t2 + 1) / (t7 − 7t5 + 7t3 − t) = 0
これが成り立つためには、分子 = 0 であることが必要:
9t8 − 84t6 + 126t4 − 36t2 + 1 = 0
両辺を 9 で割って X = t2 = tan2 θ と置くと:
X4 − (28/3)X3 + 14X2 − 4X + 1/9 = 0
分数を解消するため X = Y/3 つまり Y = 3X と置いて両辺を 34 倍すると:
Y4 − 28Y3 + 126Y2 − 108Y + 9 = 0
これが有理数解を持つなら、それは 9 の(正または負の)約数。試すと Y = 1 が解なので、左辺は Y − 1 で割り切れる。割り算を実行すると:
(Y − 1)(Y3 − 27Y2 + 99Y − 9) = 0 《に》
Y = 1 は明らかに《に》の一つの解で、そのとき tan2 θ = t2 = X = Y/3 = 1/3 となる; つまり tan θ = ±1/√3 すなわち θ = ±30° の場合だ(この角度が事実《な・なな》を満たすことは、直接計算で容易に確認可能)。 θ = 10° すなわち tan 10° も《な・なな》を満たすとすれば、それに対応する根 Y = 3X = 3 tan2 10° が《に》のもう一つの因子の中に存在しなければならない:
Y = 3 tan2 10° ⇒ Y3 − 27Y2 + 99Y − 9 = 0
この関係は次のことを暗示する: Y についての上記の3次式の根は Y = 3X = 3 tan2 θ = (√3 tan θ)2 の形であり、従って Y = y2 とした6次式…
y6 − 27y4 + 99y2 − 9
…の根は y = ±√3 tan θ の形を持つだろう。つまり α がこの6次式の一つの根なら −α も根、β, γ も根なら −β, −γ も根――と予想され、だとすれば、この6次式は、
(y3 − Py2 + Qy + R)(y3 + Py2 + Qy − R)
…の形に分解されるのでは? この可能性を検討すると、容易に次の分解を得る(§9参照):
y6 − 27y4 + 99y2 − 9 = (y3 − 3y2 − 9y + 3)(y3 + 3y2 − 9y − 3) 《ぬ》
得られた二つの3次式 y3 ∓ 3y2 − 9y ± 3 の根は、《なな》を満たす tan θ の値が √3 倍されたもの; 《なな》の解を t = tan θ とするなら y = (√3)t という関係。 √3 を σ と略すことにして…
y3 − 3y2 − 9y + 3 = 0 または y3 + 3y2 − 9y − 3 = 0 《ね》
…において y = σt と置き、両辺を σ で割ると:
3t3 − 3σt2 − 9t + σ = 0 または 3t3 + 3σt2 − 9t − σ = 0 《の》
t = tan 10° が《の》のどちらかの式を満たすなら、 tan 10° は《なな》を(従って《な》を)満たすことになって、証明が完了する。ところが、前節で既に tan 30° = tan (3⋅10°) を基に、 A = tan 10° が…
σA3 − 3A2 − 3σA + 1 = 0
…を満たすことを確かめてある。その両辺の σ 倍から、 t = A は《の》の第一式を満たす。∎
本来こんなややこしいことをする必要はないのだが、「ある種の6次式について」での遊びとつながる。
9. 補足。別解の要は、《ぬ》の6次式の分解。
(y3 − Py2 + Qy + R)(y3 + Py2 + Qy − R)
= [(y3 + Qy) − (Py2 − R)][(y3 + Qy) + (Py2 − R)]
= (y3 + Qy)2 − (Py2 − R)2
= (y6 + 2Qy4 + Q2y2) − (P2y4 − 2PRy2 + R2)
= y6 + (2Q − P2)y4 + (Q2 + 2PR)y2 − R2
…の展開結果が y6 − 27y4 + 99y2 − 9 になるとすれば、 R2 = 9 だから R = ±3、対称性からどちらの符号を選んでも2因子は全体として同じ; R = 3 として構わない。よって:
2Q − P2 = −27 かつ Q2 + 2PR = Q2 + 6P = 99
第一式から Q = (P2 − 27)/2、これを第二式に代入して:
(1/4)P4 − (27/2)P + 6P + 729/4 = 99 つまり (1/4)P4 − (27/2)P2 + 6P + 333/4 = 0
両辺を 4 倍して:
P4 − 54P2 + 24P + 333 = 0
これに整数解があるとすれば 333 = 32⋅37 の正または負の約数。絶対値の小さい順に試すと P = 3 が見つかる。対応する Q = −9 を使い、《ぬ》の分解を得る:
y6 − 27y4 + 99y2 − 9 = (y3 + 3y2 − 9y − 3)(y3 − 3y2 + 9y + 3)
因子の二つの3次式のうち、一方の根が α, β, γ で他方の根が −α, −β, −γ という想定†においては、
因子 (y3 − Py2 + Qy + R) と (y3 + Py2 + Qy − R)
…の項の符号設定は、「P, R はそれぞれ符号が逆、Q は符号が同じ」でありさえすれば、原理的にはどのようにしても構わない。
因子 (y3 + Py2 + Qy + R) と (y3 − Py2 + Qy − R)
…という表記の方が素直だったかも。
† あくまで「想定」。奇数次の項のない6次式だからといって、必ずこんな好都合な分解が(まして有理係数の範囲で)できるとは限らない。
設問では《な》の形のうち、 θ = 10° が取り上げられているが、《な》には、少なくとも八つの非自明解 θ = ±10°, ±30°, ±50°, ±70° がある。正の角度だけを使って〔例えば tan (−10°) をそれと等しい tan 170° に置き換えて〕式を記すと:
tan 70° = tan 20° + 2 tan 40° + 4 tan 10°
tan 30° = tan 60° + 2 tan 120° + 4 tan 30°
tan 170° = tan 100° + 2 tan 20° + 4 tan 50°
tan 130° = tan 140° + 2 tan 100° + 4 tan 70°
tan 50° = tan 40° + 2 tan 80° + 4 tan 110°
tan 10° = tan 80° + 2 tan 160° + 4 tan 130°
tan 150° = tan 120° + 2 tan 60° + 4 tan 150°
tan 110° = tan 160° + 2 tan 140° + 4 tan 170°
および自明解 θ = 0°:
tan 0° = tan 0° + 2 tan 0° + 4 tan 0°
〔注〕 自明解は《な》自身からは明白だが、《に》はこの解を持たない。その理由は、最初に tan 7θ を cot 2θ に置き換えたこと。θ = 10° なら tan 7θ = cot 2θ なので、この置き換えが正当化されるが、一般には tan 7θ ≠ cot 2θ なので《な》と《に》は別の方程式。《な》と《なな》が等しくなる条件を検討すると、それは tan θ の θ が 10° の奇数倍の場合(90° の倍数を除く); それら8種の値は《な・なな》共通の解でもあり、それらに関しては《な》と《なな》が同じであるかのように扱うことができる。しかし《な》には、《なな》にはない非自明解が他にも四つある(§12)。
3次方程式の解の根号表現。《ね》の第一式・左辺 y3 − 3y2 − 9y + 3 の根は、 tan 70°, tan 10°, tan (−50°) をそれぞれ √3 倍したもの、第二式・左辺の根は、それらの符号を逆にしたもの。 y = x + 1 と置くと:
x3 − 12x − 8
Cardano の公式から、その根の主値は:
x = 3√[4 + 4√] + 3√[4 − 4√]
従って:
tan 70° = (3√[4 + 4√] + 3√[4 − 4√] + 1) / √3 = 2.7474774194…
同様に、第二式から:
tan 50° = (3√[−4 + 4√] + 3√[−4 − 4√] − 1) / √3 = 1.1917535925…
〔問題の出典〕 Hobson, p. 57, 36.
https://archive.org/details/treatiseonplanet0000ewho/page/57/mode/1up
2024-06-09 4個の tan を含むきれいな式 透明に
tan 10° tan 30° tan 50° tan 70° = 1/3
tan 20° tan 40° tan 60° tan 80° = 3
有無を言わさぬ美しさ!
10. tan 30° = 1/√3。以下 √3 を何度も使うので、簡潔化のため √3 を σ と略す:
tan 30° = 1/σ ‥‥①
tan θ の値は θ が 180° 増減しても変わらない。
tan (30° + 180°) = tan 210° = 1/σ ‥‥②
tan (30° − 180°) = tan (−150°) = 1/σ ‥‥③
①②③から:
θ = 10° or 70° or −50° ⇒ tan 3θ = 1/σ
3倍角の公式から tan 3θ = (3 tan θ − tan3 θ) / (1 − 3 tan2 θ) だが、以下 tan θ という表現を何度も何度も使うので、 tan θ を t と略すことにする:
tan 3θ = (3t − t3) / (1 − 3t2)
以上のことから、 θ = 10°, 70°, −50° なら:
tan 3θ = 1/σ つまり
(3t − t3) / (1 − 3t2) = 1/σ 《は》
分数をなくすため、《は》の両辺を σ(1 − 3t2) 倍すると:
σ(3t − t3) = 1 − 3t2 つまり
σt3 − 3t2 − 3σt + 1 = 0 《ひ》
《ひ》は tan 3θ = 1/σ という等式を書き換えたもので、 θ = 10°, 70°, −50° という3種類の角度がその等式を満たすことは上記の通り。ところが《ひ》は t についての3次方程式なので、《ひ》を成り立たせる t = tan θ の値は3種類しかない。その3種類の値とは、もちろん tan 10°, tan 70°, tan (−50°) だ。
同様に θ = −10°, −70°, 50° に対して tan 3θ = tan (−30°) = tan (−210°) = tan 150° = −1/σ なので:
tan 3θ = (3t − t3) / (1 − 3t2) = −1/σ
両辺を σ(1 − 3t2) 倍すると:
σ(3t − t3) = −(1 − 3t2) つまり
σt3 + 3t2 − 3σt − 1 = 0 《ふ》
《ふ》を満たす t = tan θ の値は tan (−10°), tan (−70°), tan 50° のちょうど三つ。
〔注〕 このような計算をしなくても、解と係数の関係から、《ひ》の2次の係数・定数項の符号を変えれば《ふ》になる。
ゆえに《ひ》の3次式と《ふ》の3次式を掛け合わせた次の6次式は、 tan (±50°), tan (±10°), tan (±70°) を六つの根とする。
(σt3 − 3t2 − 3σt + 1)(σt3 + 3t2 − 3σt − 1)
= [(σt3 − 3σt) − (3t2 − 1)][(σt3 − 3σt) + (3t2 − 1)]
= (σt3 − 3σt)2 − (3t2 − 1)2
= (σ2t6 − 6σ2t4 + 9σ2t2) − (9t4 − 6t2 + 1)
ここで σ は √3 の略なので σ2 は 3。従って:
= 3t6 − 18t4 + 27t2 − 9t4 + 6t2 − 1
= 3t6 − 27t4 + 33t2 − 1
要するに、6次方程式…
3t6 − 27t4 + 33t2 − 1 = 0 《へ》
…の六つの解は、 t = tan (±50°), tan (±10°), tan (±70°); 6次方程式の解は6種類以下なので、《へ》にそれ以外の解はない。
X = t2 と置くと《へ》はこうなる:
3X3 − 27X2 + 33X − 1 = 0 《へへ》
あるいは、同じことだが、両辺を 3 で割って:
X3 − 9X2 + 11X − 1/3 = 0 《ほ》
ある数 t = α が《へ》を満たせば、 X = α2 が《ほ》を満たすことは言うまでもない。《へ》を満たす t = α とは、具体的には tan (±50°), tan (±10°), tan (±70°) のどれか; 言い換えれば ±tan 10°, ±tan 50°, ±tan 70° のどれかだが、そのどれを α としても、 α2 は tan2 10°, tan2 50°, tan2 70° のどれかになる。よって、その三つは《ほ》の解; 《ほ》は3次方程式なので、それ以外の解はない。
11. 《ほ》の3解は tan2 10°, tan2 50°, tan2 70° なので、解と係数の関係から、以下の情報を得ることができる。
解と係数は
使いよう
方程式は
解かずに使え
第一に、3解の和は…
tan2 10° + tan2 50° + tan2 70° = 9
ついでに、次のように tan2 30° = (1/σ)2 = 1/3 も足し算すると、面白い。
tan2 10° + tan2 30° + tan2 50° + tan2 70° = 28/3
第二に、3解の積は…
tan2 10° tan2 50° tan2 70° = 1/3
この場合も tan2 30° = 1/3 も積に加えてやると、いい感じ。
tan2 10° tan2 30° tan2 50° tan2 70° = 1/9
従って、両辺の(正の)平方根から:
tan 10° tan 30° tan 50° tan 70° = 1/3
第三に、2個ずつの積の和は…
tan2 10° tan2 50° + tan2 50° tan2 70° + tan2 70° tan2 10° = 11
ここでも tan2 30° = 1/3 を仲間に入れることが可能。《ほ》の3解を α, β, γ とすると、上記のように:
α + β + γ = 9
αβ + αγ + βγ = 11
ここで δ = 1/3 とすると:
αβ + αγ + αδ + βγ + βδ + γδ = (αβ + αγ + βγ) + αδ + βδ + γδ
= 11 + δ(α + β + γ) = 11 + 1/3 ⋅ 9 = 14
すなわち:
tan2 10° tan2 30° + tan2 10° tan2 50° + tan2 10° tan2 70° + tan2 30° tan2 50° + tan2 30° tan2 70° + tan2 50° tan2 70° = 14
「10°, 30°, 50°, 70° のタンジェントをそれぞれ平方して、2個ずつの積を足し合わせると 14 になるんだよ♪」――そんな和が、現実世界で、いったい何の役に立つというのだろう。この和を sweet と感じてしまうは、中二病みたいなもんかも…(笑)。 14 って数は、それを象徴してるかのようだ。きれいだから、いいじゃん!
第四に、 δ = tan2 30° も含めた 3 個ずつの積の和について、次が成り立つ。
αβγ + βγδ + γδα + δαβ = αβγ + δ(αβ + βγ + γα) = 1/3 + 1/3 ⋅ 11 = 4
すなわち:
tan2 10° tan2 30° tan2 50° + tan2 30° tan2 50° tan2 70° + tan2 50° tan2 70° tan2 10° + tan2 70° tan2 10° tan2 30° = 4
最後に、以上の四つの情報から、 tan2 10°, tan2 30°, tan2 50°, tan2 70° を四つの根とする4次式を構成できる:
X4 − (28/3)X3 + 14X2 − 4X + 1/9 《ま》
係数を整数にするため 9 倍するなら:
9X4 − 84X3 + 126X2 − 36X + 1 = (3X3 − 27X2 + 33X − 1)(3X − 1) 《まま》
《まま》は《へへ》左辺の 3X − 1 倍。《まま》の3解に X = tan2 30° = 1/3 つまり X − 1/3 = 0 つまり 3X − 1 = 0 の解を追加したのだから、つじつまは合っている。《ま》ないし《まま》を得ることだけが目的なら、単に《ほ》ないし《へへ》を X − 1/3 倍ないし 3X − 1 倍しても良かった。
12. 前回(§8)、 θ を未知数とする次の方程式を考えた(これは任意の θ について成り立つ恒等式ではない):
tan 7θ = tan 2θ + 2 tan 4θ + 4 tan θ 《み》 〔《な》を再掲〕
tan 7θ を cot 2θ に置き換え(θ = 10° なら両者は同じ値)、2倍角・4倍角の公式を使って、この方程式から、 t = tan θ についての次の8次式を得た:
9t8 − 84t6 + 126t4 − 36t2 + 1 = 0 《む》
両辺を 9 で割って X = t2 = tan2 θ と置くと:
X4 − (28/3)X3 + 14X2 − 4X + 1/9 = 0 《め》
《む・め》を得た瞬間には「正体不明の不透明な式」だったが、今、《め》の左辺が《ま》であることを透明に見通すことができる。すなわち《め》の解は X = tan2 10°, tan2 30°, tan2 50°, tan2 70° であり、《ま》の解は t = ±tan 10°, ±tan 30°, ±tan 50°, ±tan 70° だ。
従って θ = ±10°, ±30°, ±50°, ±70° の8種類の角度は、《み》を満たす――ただし tan θ の θ なので、もちろん 180° の整数倍の違いについては「別の種類の角度」とは考えない(例: θ = −70° の代わりに θ = 110° としても良いが、それを別の解とは認めない); mod 180° で考える。
一見これで《み》が完全解決したようだが、《み》を満たす θ には、以上の8種類だけではない。まず θ = 0° は《み》の自明解。それ以外にも、《み》には…
tan θ = ±√[(7 + 2√)/3] θ = ±63.7089940863…°
tan θ = ±√[(7 − 2√)/3] θ = ±37.0400902015…°
…という4種類の非自明解が存在する。前記の8種の角度は 10° の奇数倍(ただし 90° の整数倍を除く)という分かりやすいものだったが、それに比べ、この4種の角度はミステリアス。この「新しい」四つの解を得る方法は、次の通り。《み》において tan 7θ を cot 2θ に置き換えず、7倍角の公式を適用すると†(途中計算略):
[t(27t12 − 378t10 + 1617t8 − 2460t6 + 1389t4 − 266t2 + 7)] / (7t12 − 84t10 + 315t8 − 400t6 + 1894 − 28t2 + 1) = 0 (♪)
これが成り立つためには、分子 = 0 になることが必要十分。分子の零点のうち t = tan θ = 0 は、自明な θ = 0° に対応。残りの12次式の零点のうち、t = ±tan 10° 等の8個は既知。ゆえに、この12次式は《む》の8次式で割り切れる。割り算を実行すると、商は:
3t4 − 14t2 + 7
その根を求めるため u = t2 と置いて 3u2 − 14u + 7 = 0 を解くと:
u = (7 ± 2√7)/3
その平方根から、上記の四つの解を得る。
† 7倍角の公式を直接使うことは、必須ではない。正接の加法定理・倍角の公式だけを使って tan 2θ, tan 3θ, tan 4θ を t = tan θ の有理式として表すことができ、 tan 7θ = tan (4θ + 3θ) を t の有理式として表すこともできる。それらを組み合わせて tan 7θ = tan 2θ + 2 tan 4θ + 4 tan θ の成立条件を求めると、(♪)を得る。
13. ところで tan 60° = √3 = σ であり、
tan (60° + 180°) = tan 240° = σ
tan (60° − 180°) = tan (−120°) = σ
…でもあるので:
θ = 20°, 80°, −40° ⇒ tan 3θ = σ
このことから、§10 と同様に t = tan 20°, −tan 40°, tan 80° を根とする3次式を構成できる(「続・ゾクッとする式」参照):
t3 − 3σt2 − 3t + σ
この3次式と、符号が反対の t = −tan 20°, tan 40°, −tan 80° を根とする3次式…
t3 + 3σt2 − 3t − σ
…の積を考えると、次の6次式の根は ±tan 20°, ±tan 40°, ±tan 80°:
t6 − 33t4 + 27t2 − 3
あるいは X = t2 と置いて、次の3次式の根は tan2 20°, tan2 40°, tan2 80°:
X3 − 33X2 + 27X − 3
根と係数の関係から、tan2 20°, tan2 40°, tan2 80° の和は…
tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = 33
tan2 60° = 3 を加えると:
tan2 20° + tan2 40° + tan2 60° + tan2 80° = 36
三つの根の積は…
tan2 20° tan2 40° tan2 80° = 3
tan2 60° も掛けると:
tan2 20° tan2 40° tan2 60° tan2 80° = 9
従って 0 < tan 20° tan 40° tan 60° tan 80° = 3
この他、§11 と同様に、2個ずつの積の和、3個ずつの積の和などを考えると、面白いだろう。
今回得た式の中には、既に「ゾクッとする式・きれいな式」シリーズで得ているものも多い。ただし、以前「タンジェントの Morrie 風」を得たときは、6倍角の公式を経由していて、あまり見通しが良くなかった。今回、これを3倍角の公式経由に簡単化し、かなり透明にできた。
tan の Morrie 風 tan 10° tan 30° tan 50° tan 70° = 1/3
この式は次とペアにしてこそ、美しさが完成するというべきだろう。
tan 20° tan 40° tan 60° tan 80° = 3
tan 80° = cot 10°, tan 60° = cot 30°, tan 40° = cot 50°, tan 20° = cot 70° なので、二つの積が互いに逆数になるのは当然なのだが、眺めてきれいってことに変わりない!
2024-06-12 40°, 50°, 70°, 80° の tan と sin
θ = 40°, 50°, …, 80° の tan は、次のような意味でそれぞれ 4 sin θ と相性がいい:
tan 40° + tan 60° = 4 sin 40°
tan 50° tan 60° = 4 sin 50° − 1
tan 60° + tan 60° = 4 sin 60°
tan 70° tan 60° = 4 sin 70° + 1
tan 80° − tan 60° = 4 sin 80°
14. §9 から:
tan 70° = (3√[4 + 4√] + 3√[4 − 4√] + 1) / √3 = 2.7474774194…
tan 50° = (3√[−4 + 4√] + 3√[−4 − 4√] − 1) / √3 = 1.1917535925…
第一式の立方根号下の共役複素数 4 ± 4√ について、偏角 φ を考える。実部 4 に対して虚部 ±4√3 なので、
φ = arctan (±4√ / 4) = ±arctan √ = ±60°
…であり、二つの複素数の立方根(主値)の偏角は φ/3 = ±20° だ。
|4 ± 4√|2 = 42 + 42⋅3 = 64 = 82
|4 ± 4√| = 8 = 23
…なので、どちらの複素数も絶対値 8; そのどちらの立方根も、絶対値は 8 の立方根 2 に等しい。よって:
3√[4 + 4√] = 2(cos 20° + i sin 20°), 3√[4 − 4√] = 2(cos 20° − i sin 20°)
∴ 3√[4 + 4√] + 3√[4 − 4√] = 4 cos 20°
結局 tan 70° = (4 cos 20° + 1) / √3 となる。両辺を √3 = tan 60° 倍して、次の面白い関係を得る:
tan 60° tan 70° = 4 cos 20° + 1 = 4 sin 70° + 1
第二式の立方根号下の複素数について言えば、実部 −4 に対して虚部 ±4√3 なので、偏角 ±120° だ(ただし第一式の場合と違い、この偏角を arctan の主値として表現することはできない)。よって、二つの立方根の主値はそれぞれ偏角 ±40° であり、
tan 60° tan 50° = 4 cos 40° − 1 = 4 sin 50° − 1
…が成り立つ。
15. √3 を σ と略す。
f(t) = t3 − 3σt2 − 3t + σ
…の根は t = tan 20°, −tan 40°, tan 80° で、
g(t) = t3 + 3σt2 − 3t − σ
…の根は t = −tan 20°, tan 40°, −tan 80° だ(§13)。
f(t) の根の主値 tan 80° の根号表現を求める。2次項を消すため x = t + σ と置くと:
x3 − 12x − 8σ
Cardano の公式から、この3次式の根は、次の2次方程式の解と関連する:
z2 − 8σz + (12/3)3 = 0 つまり z2 − 8σz + 64 = 0
∴ z = 4σ ± √[(−4σ)2 − 64] = 4σ ± 4√−1
すなわち…
x = 3√[4σ + 4√] + 3√[4σ − 4√]
t = tan 80° = 3√[4σ + 4√] + 3√[4σ − 4√] + σ
この立方根号下の数は、実部 4σ に対して虚部 ±4 なので偏角 arctan (±1/σ) = ±30° で、前節と同じく、どちらも絶対値は 8。よって、二つの立方根の主値は 2(cos 10° ± i sin 10°) であり、こうなる:
tan 80° = 4 cos 10° + σ 言い換えれば
tan 80° − tan 60° = 4 cos 10° = 4 sin 80°
同様に g(t) については x = t − σ と置くと x3 − 12x + 8σ となり、その根は次の2次方程式と関連する:
z2 + 8σz + 64 = 0
∴ z = −4σ ± √[(4σ)2 − 64] = −4σ ± 4√−1
すなわち…
tan 40° = 3√[−4σ + 4√] + 3√[−4σ − 4√] − σ
この立方根号下の数は偏角 ±150° なので、次のようになる:
tan 40° = 4 cos 50° − σ 言い換えれば
tan 40° + tan 60° = 4 cos 50° = 4 sin 40°
16. 一般に、3次の項が 1 の二つの3次式 f, g について(係数は実数とする)、もし f の根が三つの(相異なる)実数 α, β, γ で g の根が −α, −β, −γ なら、根と係数の関係から、 f, g の2次の係数・定数項は絶対値が等しく符号が反対になり、1次の係数は絶対値も符号も同じ次の値になる:
αβ + βγ + γα = (−α)(−β) + (−β)(−γ) + (−γ)(−α)
同様の関係は、変数を変換して2次項を除去した後も維持される: f の2次項を除去した3次式を x3 − Px − Q とすると、 g の2次項を除去した3次式は x3 − Px + Q となる(1次の係数が等しく、定数項の符号だけが反対)。このことを直接的に確かめるには、
f(y) = y3 − (α + β + γ)y2 + (αβ + βγ + γα)y − αβγ
g(y) = y3 + (α + β + γ)y2 + (αβ + βγ + γα)y + αβγ
…において、それぞれ y = x + s, y = x − s と置いて2次の項を除去し、結果を比べればいい。ここで s = (α + β + γ)/3。
〔参考〕 便宜上 α = 3a, β = 3b, γ = 3c と置くと、次のようになる。
P = 3(a2 + b2 + c2) − 3(ab + bc + ca)
Q = 2(a3 + b3 + c3) − 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 12(abc)
従って、 f に関連する2次式 z2 − Qz + (P/3)3 と g に関連する2次式 z2 + Qz + (P/3)3 は定数項が等しく、1次の係数の符号だけが反対。前者の根が Q/2 ± √d なら後者の根は −Q/2 ± √d であり、2次方程式の解の公式から d = (Q/2)2 − (P/3)3 である。よって f の根を…
3√[Q/2 + √] + 3√[Q/2 − √] + s
…とすると g の根は次の通り。
3√[−Q/2 + √] + 3√[−Q/2 − √] − s
立方根の主値を考えるなら、前者は α, β, γ のうち最大のものに等しく、後者は −α, −β, −γ のうち最大のものに等しい。
f, g がそれぞれ三つの(相異なる)実数の根を持つ――という仮定から、 d は負であり、従って P は正で、しかも (P/3)3 は (Q/2)2 より大きい。
√d = i√[(P/3)3 − (Q/2)2]
…となる(右辺の根号下の引き算の結果は正)。従って、複素数 Q/2 ± √d の絶対値は…
{(Q/2)2 + [(P/3)3 − (Q/2)2]}1/2 = (P/3)3/2
…であり、立方根 3√[Q/2 ± √] の絶対値は (P/3)1/2 = √(P/3) に等しい。(複号によって示される)二つの立方根の偏角は、それぞれ複素数 Q/2 ± √d の偏角 ±φ の 1/3 (複号同順)。複素数 Q/2 + √d の「虚部÷実部」の arctan を使って――あるいは「実部÷絶対値」の arccos を使って――、この偏角 φ を表現することができる。偏角 φ が定まれば…
3√[Q/2 ± √] = √(P/3)[cos (φ/3) ± i sin (φ/3)] 従って
3√[Q/2 + √] + 3√[Q/2 − √] + s = 2√(P/3) cos (φ/3) + s
…であるから、 f の根は cos を使って表現可能。 g の根についても同様。
arctan を使って φ を求める場合、象限を適切に選択する必要がある。一方、複素数 Q/2 + √d は第1・第2象限にあるので(複素数 Q/2 − √d は第3・第4象限)、 Q/2 + √d の偏角 φ の正しい象限は、 arccos の主値として自動的に定まる。
〔参考〕 立方根 3√[Q/2 ± √] の絶対値(上記)を h = (P/3)1/2 とすると、 Q/2 ± √d の実部は Q/2、絶対値は
(P/3)3/2 なので:
cos φ = Q/2 ÷ (P/3)3/2
= Q/2/(P/3)3/2
ところが
3√[Q/2 + √] の実部も 3√[Q/2 − √] の実部も h cos (φ/3) なので(そして二つの立方根の虚部は、絶対値が同じで符号が反対なので)、次のようになる。
3√[Q/2 + √] + 3√[Q/2 − √] = 2h cos (φ/3) ここで φ = arccos [Q/2/(P/3)3/2] ‥‥❶
φ を少し違う形で表現することもできる: 例えば (P/3)3/2 = (P/3)(P/3)1/2 = (P/3)h = hP/3 という事実を使うと:
cos φ = Q/2 ÷ (P/3)3/2
= Q/2 ÷ hP/3
=
Q/2 × 3/(hP)
=
3Q/(2hP)
∴ φ = arccos [3Q/2hP] ‥‥❷
上記のように
(P/3)3/2 = hP/3 であるから、❷ の分数は ❶ の分数の分子・分母がそれぞれ 6 倍されたものに過ぎない。
tan 80° = 3√[4(√ + 4i )] + 3√[4(√ − 4i )] + √3
= 2[([(√3) + i]/2)1/3 + ([(√3) − i]/2)1/3] + √3 = 4 cos 10° + √3
…という関係に気付いたときはある種の意外性を感じたが、これは Cardano の公式において、立方根に関連する偏角が π = 180° の有理数倍になるケースに他ならない(主値において「立方根号下の複素数」の偏角と「立方根の値」の偏角は 3:1 なので、一方が π の有理数倍なら他方もそうなる)。三角関数を使った3次方程式の解法を考えるなら、「逆三角関数の部分が簡約され、一つの数値(π の有理数倍)になる特例」に当たる。
2024-06-14 tan 15°, tan 22.5°, tan 36° など
tan 15° = 2 − √3
tan 22.5° = √2 − 1
tan 36° = √(5 − 2√) = √5 tan 18°
17. t = tan θ と置くと、5倍角の公式から(§3《そ》):
tan 5θ = (5t − 10t3 + t5)/(1 − 10t2 + 5t4) 《も》
tan X という関数は、入力が X = 0 のとき値(出力)が 0 になり、 X = π/2 = 90° のとき値が定義されない(絶対値 ∞ に発散する)。
入力 X が 180° 変化しても、tan X の出力は変わらない。グラフのオレンジの点線のように、180° ごとに同じ値がリピートされる(グラフの青線は tan X の逆数の cot X)。
〔例〕 tan 45° は = 1 だが tan 225° や tan (−135°) も = 1。
ここでは X = 5θ なので:
(ア) 5θ = 0°, ±180°, ±360°, etc. ⇒ tan 5θ = 0
(イ) 5θ = ±90°, ±270°, etc. ⇒ tan 5θ は発散
tan X の周期性(180° ごとに同じ値がリピートされる)から、入力 X = 5θ が 180° の整数倍変わっても、出力は同じ。そのことから、以下では、実質的に Χ = 0° と X = 90° の二つのケースだけを考える。
(ア)では《も》の分子が 0 になり、(イ)では《も》の分母が 0 になる。一般的には、分母 = 0 は「いけないこと」――計算不能の例外ケース――とされる。しかし(ア)と(イ)のどちらのケースも、重要な情報を与えてくれる。分子または分母が 0 になるような 5θ の値と、そのときの t = tan θ の値を考えてみたい。
〔注〕 (ア)または(イ)を満たす 5θ は無限個あるけれど、そのような 5θ に対応する t = tan θ は、同じ値の繰り返しだったり、 t 自体の値が定義されなかったりして(例: 5θ = ±450° のとき θ = ±90° なので tan θ は定義されない)、有限個の種類しかない。具体的に、《も》の分子は5次式、分母は4次式なので、分子 = 0 に対応する t の値は5種類しかない(5次式の根だから)。同様に分母 = 0 に対応する t の値は4種類だけ。
§4 では(イ)のケース(分母の零点)を考えることで、 5θ = ±90°, ±270° つまり θ = ±18°, ±54° のときの t = tan θ の値を求めた。そのうち正の値は:
tan 18° = √[(5 − 2√)/5] = 0.32491969623…
tan 54° = √[(5 + 2√)/5] = 1.37638192047…
tan X = Y のとき tan (−X) = −(tan X) = −Y なので、負の値については、入出力ともに符号が逆になるだけ。
一方、《も》の分子の零点を考えれば、 5θ = ±180°, ±360° つまり θ = ±36°, ±72° のときの t を求められるはず:
5t − 10t3 + t5 = t(t4 − 10t2 + 5) = 0
上記5次式の自明な零点 t = tan θ = 0 は、 θ = 0° の場合に当たる。 ( ) 内の4次の因子について: x = t2 と置くと…
x2 − 10x + 5 = 0
これを解くと x = 5 ± 2√5; その正の平方根を考えると、 tan 36° と tan 72° の大小関係から:
tan 36° = √(5 − 2√) = 0.72654252800…
tan 72° = √(5 + 2√) = 3.07768353717…
従って:
tan 36° = √5 tan 18° 言い換えると tan (2π/10) = √5 tan (π/10)
tan 72° = √5 tan 54° 言い換えると tan (4π/10) = √5 tan (3π/10)
なかなか美しい関係だ! tan 36° tan 72° = √5 という関係も、面白い:
tan 36° tan 72° = (5 − 2√5)1/2(5 + 2√5)1/2
= [(5 − 2√5)(5 + 2√5)]1/2
= [52 − (2√5)2]1/2
= (25 − 4⋅5)1/2 = √5
〔参考〕 上記と似たことは、 cot θ に関しても成り立つ(cot θ は tan θ の逆数で tan (90° − θ) に等しい)。特に q = cot θ と置いて、
cot 5θ = (5q − 10q3 + q5)/(1 − 10q2 + 5q4) 《もも》
…を考えるなら(cot の5倍角の公式)、《もも》と《も》の分数は全く同じ形。ただし《も》では 5θ が 90° の偶数倍・奇数倍のとき、それぞれ分子・分母が 0 になるのに対して、《もも》では 5θ が 90° の偶数倍・奇数倍のとき、それぞれ分母・分子が 0 になる。特定の θ に対して tan θ とその逆数 cot θ は一般には等しくないが、
θ ∈ {18°, 36°, 54°, 72°}
…に対する4種類の tan θ と4種類の cot θ は、「全体としては」同じ値を持つ。 tan 18° = cot 72°, tan 36° = cot 54° 等々の関係から、このことは直接的にも明らかだろう。
tan 5θ が定義されないような θ に対しても、 tan θ は定義される場合がある(例: θ = 18°)。そのような場合、《も》の分母は 0 になってしまうものの、分母 = 0 という方程式を解くことで、その θ に対する t = tan θ の値を決定できる。
18. 同様のことは、一般の n 倍角の公式にも当てはまる。2倍角 tan 2θ = (2t)/(1 − t2)
の場合…
(ア) θ = 0° ⇒ 2θ = 0° ⇒ 分数 = 0 ⇒ 分子 2t = 0
(イ) θ = ±45° ⇒ 2θ = ±90° ⇒ 分数は発散 ⇒ 分母 1 − t2 = 0
2倍角の公式の分数 (2t)/(1 − t2) は、もちろん tan 2θ に等しい。(ア)の「分数 = 0」の根拠は、単に 2θ = 0° なら、分数に等しい tan 2θ が = 0 というだけ。(イ)の「分数は発散」の根拠も、単に 2θ = ±90° なら tan 2θ が発散するというだけ。
2t = 0 はもちろん t = tan θ = 0 という意味なので、(ア)は tan 0° = 0 という当たり前の事実に過ぎない。(イ)の 1 − t2 = 0 は t = ±1 を意味するが、結論としては、これも tan (±45°) = ±1 という当たり前の事実に過ぎない。 tan の値に関する限り、2倍角の公式からは、特に面白い事実は出てこない…。
3倍角 tan 3θ = (3t − t3)/(1 − 3t2) の場合…
(ア) θ = 0°, ±60° ⇒ 3θ = 0°, ±180° ⇒ 分数 = 0 ⇒ 分子 t(3 − t2) = 0
(イ) θ = ±30° ⇒ 3θ = ±90° ⇒ 分数は発散 ⇒ 分母 1 − 3t2 = 0
(ア)のうち、 θ = 0° のときに t = tan θ = 0 となることは自明。 θ = ±60° のとき t = tan θ ≠ 0 だが、 tan 3θ = 0 なので、分数の値(従って分子の値)は = 0 になる。これは t = ±√3 を意味するが(3 − t2 = 0 の解)、要するに tan (±60°) = ±√3 ということ(複号同順)。
(イ)は θ = ±30° ⇒ t = tan θ = ±1/√3 に当たる(1 − 3t2 = 0 の解)。
tan の値に関する限り、3倍角の公式からも、あまり面白い事実は出てこない。 tan 30° と tan 60° の復習になるだけ…。
4倍角 tan 4θ = (4t − 4t3)/(1 − 6t2 + t4) の場合…
(ア) θ = 0°, ±45° ⇒ 4θ = 0°, ±180° ⇒ 分数 = 0 ⇒ 分子 4t(1 − t2) = 0
(イ) θ = ±22.5°, ±67.5° ⇒ 4θ = ±90°, ±270° ⇒ 分数は発散 ⇒ 分母 1 − 6t2 + t4 = 0
(ア)の情報は既知: θ = ±45° なら 1 − t2 = 0 つまり t = tan θ = ±1。
一方、(イ)は半円周 180° = π の 1/8, 3/8 などの角度に対するタンジェントの話。これは新しい!
分母 1 − 6t2 + t4 = 0 を解く素直な方法は、 x = t2 と置いて x2 − 6x + 1 = 0 と書くことだろう。その根は
x = 3 ± 2√2。複号でプラスを選ぶと:
t = ±√(3 + 2√)
マイナスを選ぶと:
t = ±√(3 − 2√)
どちらも二重根号を外せる形:
√(3 + 2√) = √(2 + 2√ + 1)
= √2 + 1
同様に √(3 − 2√) = √2 − 1
〔補足〕 (√2 + 1)2 = (√2)2 + 2(√2)1 + 12 = 2 + 2√2 + 1 = 3 + 2√2 なので、 √2 + 1 の平方は 3 + 2√2。よって 3 + 2√2 の(正の)平方根は √2 + 1。ところで √2 = 1.41… なので 3 − 2√2 = 3 − 2.82… は正。その平方根は実数。
数値の大小を考慮し、次の結論を得る。
tan 22.5° = tan (π/8) = √2 − 1 = 0.4142135623 730950488…
tan 67.5° = tan (3π/8) = √2 + 1 = 2.4142135623 730950488…
シンプルで、印象的な結果だ。
√2 = 1.41421356237309504880 (ひとよひとよに人見ごろ、兄さん波多く困るよ母)
しかも cot θ = tan (π/2 − θ) なので、 tan (π/8) は cot (3π/8) に等しく、 tan (3π/8) は
cot (π/8) に等しい。言い換えれば、この二つの tan は互いに逆数。実際:
(√2 − 1)(√2 + 1) = 2 − 1 = 1
1 − 6t2 + t4 = 0 を解く別の方法として、少しトリッキーだが、この4次式を次のように分解することもできる:
(t4 − 2t2 + 1) − 4t2 = (t2 − 1)2 − (2t)2 = (t2 − 1 + 2t)(t2 − 1 − 2t) = 0
これは t2 + 2t − 1 = 0 または t2 − 2t − 1 = 0 を意味し、その解は上記の結果と一致:
t = −1 ± √2 または t = 1 ± √2
19. 以上の幾つかの例から、次のことが観察される:
180° を n 等分した角度を A とすると、 tan の n 倍角の公式の分子の零点は、 A の整数倍の角度の tan に当たる。
90° を n 等分した角度を B (= A/2) とすると、 tan の n 倍角の公式の分母の零点は、 B の奇数倍の角度の tan に当たる。
B = (90/n)° を基準にするなら: 分子の零点は B の偶数倍の角度の tan、分母の零点は B の奇数倍の角度の tan。
ここで「偶数倍」というのは「0 倍」や「負の偶数」倍でも構わないし、「奇数倍」というのは、「負の奇数」倍でも構わない。 tan θ の値は 180° 周期で同じことの繰り返しなので、実際には −90° < θ < 90° の範囲の θ = kB だけを考えれば十分(k: 整数)。
〔注〕 範囲指定の不等号は < であり ≦ ではない: t = tan 90° や tan (−90°) は定義されないので、 θ が ±90° に等しくなることは不可。
「どの分数の分子・分母に、どういう角度 θ が関連するか」について、前節・前々節で調べた具体例を表の形で整理すると…
分子の零点 | 分母の零点 | |
---|---|---|
θ は B の偶数倍 | θ は B の奇数倍 | |
n = 2 | B = (90/2)° = 45° | |
θ = 0° | θ = ±45° | |
n = 3 | B = (90/3)° = 30° | |
θ = 0°, ±60° | θ = ±30° | |
n = 4 | B = (90/4)° = 22.5° | |
θ = 0°, ±45° | θ = ±22.5°, ±67.5° | |
n = 5 | B = (90/5)° = 18° | |
θ = 0°, ±36°, ±72° | θ = ±18°, ±54° |
20. このアイデアを推し進めて n = 6 の…
tan 6θ = (6t − 20t3 + 6t5)/(1 − 15t2 + 15t4 − t6)
…を考えてみたい。上の理屈から言えば、 B = (90/6)° = 15° の偶数倍・奇数倍の角度に対する tan が得られるはず。分子の零点から得られるのは θ = 0°, ±30°, ±60° に対する tan θ で、それらの値自体は分かり切っているが、だからこそ検証に都合がいい。分母の零点から得られるのは θ = ±15°, ±45°, ±75° に対する tan θ で、そのうち tan (±45°) = ±1 以外の値は、比較的エキゾチック。
分子 = 2t(3t4 − 10t2 + 3) の自明な零点 t = 0 は tan 0° に当たる。 ( ) 内の4次式は、根が t = ±tan 60°, ±tan 30° のはずなので、理論上 (t2 − 3)(3t2 − 1) と分解できるはずだが、ここでは確認のため、直接的に4次方程式を解くことにする。 x = t2 と置くと…
3x2 − 10x + 3 = 0 その解は x = (5 ± √16)/3 つまり x = 3 or 1/3
∴ t = ±√3 または ±1/√3
確かに ±tan 60° と ±tan 30° だ!
問題は分母 = 0 の6次式。これも事実としては t = tan (±45°) = ±1 が解なので (t − 1)(t + 1) = t2 − 1 で割り切れるはずだが、直接的に確かめてみたい。 t2 = x と置くと…
1 − 15x + 15x2 − x3 = 0
両辺を −1 倍して x3 − 15x2 + 15x − 1 = 0
これが整数解を持つなら x = 1 or −1 だが、試すと x = 1 が解なので(容易に確かめられる)、左辺は x − 1 で割り切れる。
x^2 - 14x + 1 ╭────────────────────── x - 1 │ x^3 - 15x^2 + 15x - 1 x^3 - x^2 ─────────── -14x^2 + 15x -14x^2 + 14x ──────────── x - 1 x - 1 ───── 0
x = t2 = 1 つまり t = ±1 は tan (±45°) に当たる。残りの四つの根は、上記の割り算から…
x2 − 14x + 1 = t4 − 14t2 + 1 = 0
…の解。4解が ±tan 15°, ±tan 75° であることは(§19 の一般原理から)予期できるので、上の4次式は「解の符号だけが違う二つの2次式」の積に分解できるはず。そういう目で見ると、次の分解は(少しトリッキーだが)さほど難しくないだろう:
t4 − 14t2 + 1 = (t4 + 2t2 + 1) − 16t2
= (t2 + 1)2 − (4t)2 = (t2 + 4t + 1)(t2 − 4t + 1) = 0
t2 + 4t + 1 の根は −2 ± √3 で、
t2 − 4t + 1 の根は 2 ± √3。
√3 = 1.73… なので、複号で ± どちらを選んでも、前者は負、後者は正。正の値について記すと、数値の大小から:
tan 15° = tan (π/12) = 2 − √3 = 0.26794919… (= cot 75°)
tan 75° = tan (5π/12) = 2 + √3 = 3.73205080… (= cot 15°)
この二つも互いに逆数。 tan 22.5°, tan 67.5° と同様、シンプルで美しい。残り二つの負の根では、それぞれ角度の符号がマイナスになり、 tan の値もマイナスになるが、絶対値は対応する正の場合と同じ。
〔追記〕 求めるべき t は、x2 − 14x + 1 = 0 の解 x = 7 ± √48 の平方根。つまり
t = √(7 ± √)
または
−√(7 ± √)。ここで
√48 = 4√3 < 4 × 1.74 = 6.96 < 7 だから根号下は正。基本アルゴリズムを使い二重根号を外すと:
√(7 ± √) = 2 ± √3 そして −√(7 ± √) = −(2 ± √3)
このアプローチなら、トリッキーな4次式の因数分解は不要(二重根号解除は機械的に実行可能)。
より直接的に、 tan 6θ の式の分母 F(t) = 1 − 15t2 + 15t4 − t6 の零点を次のように求めるなら、3次式の因数分解も二重根号処理も不要。 u = t − 1/t と置いて F(t) = 12u − u3 = u(12 − u2)。その自明な零点 u = t − 1/t = 0 つまり t2 − 1 = 0 は t = ±1 = ±tan 45° に当たる。非自明な零点 u = ±√12 = ±2√3 は、次の二つの2次方程式の解に対応する。
u = t − 1/t = 2√3 つまり t2 − 2√3 − 1 = 0
u = t − 1/t = −2√3 つまり t2 + 2√3 − 1 = 0
どちらも、判別式の 4 分の 1 が (∓√3)2 − (−1) = 4 に等しいので、計四つの解(非自明な F(t) の零点)は次の通り。
t = −√3 ± 2 または t = √3 ± 2
複号で + を選ぶと、 t = −√3 + 2 = tan 15° と t = √3 + 2 = tan 75° を得る。複号で − を選ぶと、順に −tan 75° と −tan 15° を得る。(2024年7月11日)
−90° < θ < 90° の範囲の θ を使って、任意の実数値 t = tan θ を表すことができる。 tan (−θ) = tan θ なので、角度 θ が正の場合の tan θ が分かれば、 tan (−θ) は自動的に分かる。 tan 0° は(上昇角 0° で水平方向に 1 進んだときの上昇なので)、もちろん = 0。 tan 45° は(上昇角 45° で水平方向に 1 進んだときの上昇なので)、もちろん = 1。今回は、それ以外の角度の例として、 90° を3等分・4等分・5等分・6等分した角度や、その整数倍の角度に対する tan の値を体系的に考えてみた。
θ = 22.5°, 45°, 67.5° に対する tan θ の値は、90° の4等分から(4倍角の公式経由で)判明した。 90° の5等分からは θ = 18°, 36°, 54°, 72° の場合の tan θ が、6等分からは θ = 15°, 30°, 45°, 60°, 75° の場合の tan θ が、それぞれ判明した。 90° の3等分と6等分の場合の tan 30°, tan 60° のように一部同じ値の重複もあるものの、「より細かい等分」(例: 3等分と比べた6等分)に関連する多項式は、根として「新しいタンジェントの値」(例: tan 15°)を含んでいる。
2024-06-15 円周7等分点・14等分点のタンジェント tan (π/7) など
tan (π/7), tan (2π/7), tan (3π/7) の値(根号表現)を求める。
21. 直角の 1/7 の角度 12.857…° を V とする。 360° の 1/28 つまり π/14 に当たる。
tan 7θ = (7t − 35t3 + 21t5 − t7)/(1 − 21t2 + 35t4 − 7t6) を考える。
分子の零点は: θ = 0, ±2V, ±4V, ±6V に対する tan θ
分母の零点は: θ = ±V, ±3V, ±5V に対する tan θ
分子 = −t(−7 + 35t2 − 21t4 + t6) について: 6次式 t6 − 21t4 + 35t2 − 7 は有理係数の範囲では既約だが(=これ以上分解できない)、係数の範囲を拡大することで「符号が反対の3解を持つ二つの3次式」の積に分解される(§23)。
初めはシンプルに、有理係数の範囲で…。 z = t2 と置くと、上記6次式は、3次式 z3 − 21z2 + 35z − 7 になる。その根を求めたい。もともとの6次式の根が t = ±tan (2V), ±tan (4V), ±tan (6V) なのだから(§19)、この z の3次式の根 z = t2 は、三つの正の実数 tan2 (2V), tan2 (4V), tan2 (6V); そのうち tan2 (6V) が最大(なぜなら 0° ~ 90° の範囲で tan θ は単調に増加)。
z3 − 21z2 + 35z − 7 = 0 から2次項を除去するため z = y + 7 と置くと:
y3 − 112y − 448 = 0
関連する2次方程式 x2 − 448x + (112/3)3 = 0 の解は†:
x = 224 ± (224/3)(√−1/3)
従って Cardano の公式から:
y = 3√[224 + (224/3)(√ )]
+ 3√[224 − (224/3)(√ )]
z = y + 7 なので、もともとの3次方程式の解は:
z = 3√[224 + (224/3)(√ )]
+ 3√[224 − (224/3)(√ )] + 7
この右辺は、次のようにして、もう少しシンプルな形に書き換えることができる: 各項を 3/2 倍すると‡…
(3/2)z = 3√[756 + 84(√ )]
+ 3√[756 − 84(√ )] + (21/2)
…となるので、両辺を 2/3 倍すれば…
z = (2/3)(3√[756 + 84(√ )]
+ 3√[756 − 84(√ )]) + 7
得られた z は、立方根の主値を考えるなら、値が最大の根 tan2 (6V) に等しい。
z = t2 の正の平方根を考えると、 t = tan (6V) = tan (3π/7) について、次の結論に至る:
tan (3π/7) = [(2/3)(3√[756 + 84(√ )] + 3√[756 − 84(√ )]) + 7]1/2 = 4.3812862675…
この根号表現や値そのものは大して役立つとも思えないが、「こういう計算ができる」ということ自体が少し面白い。
† x = 224 ± √d とすると、2次方程式の解の公式から…
d = 2242 − (112/3)3 = 1122⋅22⋅27/27 − 1122⋅112/27
= 1122(4⋅27 − 112)/27 = 1122(108 − 112)/27 = 1122(−4)/33
= −1122⋅22/33 = −(2242/32)(1/3) = (224/3)2(−1/3)
‡ 3√[224 + (224/3)(√ )] × (3/2)
= 3√[224 + (224/3)(√ )] × 3√(27/8) なので、立方根号下の数は 27/8 倍される:
3√[224⋅27/8 + (224/3)⋅27/8(√ )]
= 3√[28⋅27 + 28⋅3⋅3(√ )]
= 3√[28⋅27 + 28⋅3(√ )] 等々。
補足 y3 − 112y − 448 = 0 を直接解くと、解の表現はやや複雑な形になる。本文ではそれを後から整理しているが、次のようにすれば、最初から散らからない(§28 参照)。いったん y = (2/3)v と置いて両辺を (3/2)3 倍すると:
v3 − 252v − 1512 = 0
関連する2次式の根は 756 ± 84√−3 なので:
v = 3√[756 + 84(√ )] + 3√[756 − 84(√ )]
y = (2/3)(3√[756 + 84(√ )] + 3√[756 − 84(√ )])
22. 前節の z3 − 21z2 + 35z − 7 の代わりに、次の3次方程式を考える; それは、符号が反対の三つの負の実数 −tan2 (2V), −tan2 (4V), −tan2 (6V) を解とする; そのうち −tan2 (2V) が最大。
z3 + 21z2 + 35z + 7 = 0
z = y − 7 と置くと:
y3 − 112y + 448 = 0
関連する2次方程式 x2 + 448x + (112/3)3 = 0 の解は:
x = −224 ± (224/3)(√−1/3)
〔付記〕 「符号が逆の実数の3根」を持つ二つの3次式は、1次の係数が同じ・定数項の符号が反対。それぞれに関連する2次式は、1次の係数の符号だけが反対で、定数項は等しい。よって二つの2次式の根を比べると、実部の符号だけが反対で、虚部は等しい。
z = 3√[−224 + (224/3)(√ )]
+ 3√[−224 − (224/3)(√ )] − 7 は、立方根の主値を考えるなら −tan2 (2V) に等しい。言い換えれば:
tan2 (2V) = −z = −3√[−224 + (224/3)(√ )]
− 3√[−224 − (224/3)(√ )] + 7
tan (2V) = tan (π/7) =
[−3√[−224 + (224/3)(√ )]
− 3√[−224 − (224/3)(√ )] + 7]1/2
前節と同様にして、よりシンプルに書き換えると:
tan (π/7) = [(2/3)(−3√[−756 + 84(√ )] − 3√[−756 − 84(√ )]) + 7]1/2 = 0.4815746188…
この角度は (180/7)° = 25.714…° なので、対応する tan は、 tan 30° = 1/√3 = 0.577… より少し小さい。
23. 6次の因子 t6 − 21t4 + 35t2 − 7 から(z = t2 と置いて)3次式を得る代わりに、この6次の因子を「二つの3次式の積」に分解することを考えてみたい。
上記6次の因子の根は ±α, ±β, ±γ の形だから、原理的には…
(t3 + Pt2 + Qt + R)(t3 − Pt2 + Qt − R) 《や》
…と分解できるはず。上記の積を展開した…
t6 + (−P2 + 2Q)t4 + (−2PR + Q2)t2 − R2
…が t6 − 21t4 + 35t2 − 7 と一致するとすれば、二つの式の定数項の比較から:
R = √7 (−√7 でもいいが、一般性を失うことなく R > 0 と仮定できる)
従って、2次の係数の比較から:
−2PR + Q2 = −(2√7)P + Q2 = 35 《ゆ》
4次の係数の比較から:
−P2 + 2Q = −21 《よ》
《よ》から Q = (P2 − 21)/2; これを《ゆ》に代入して:
−(2√7)P + [(P2 − 21)/2]2 = 35
展開し、両辺を 4 倍して整理すると:
P4 − 42P2 − (8√7)P + 301 = 0 (☆)
P についての4次式(☆)が有理数解を持つなら、それは定数項 301 = 7⋅43 の正または負の約数。しかし(☆)は、1次の係数が −8√7 なのだから、 P に 0 以外のどんな整数を入れても、「左辺 = 0」どころか「左辺 = 整数」になるわけない。 P = 0 は(☆)を満たさないので、(☆)は整数解を(従って有理数解を)持たない。
だがここで、ひらめくかもしれない…。 P = ±√7 なら、(☆)の1次の項は −8√7(±√7) = −8(±7) = ∓56 だし、 (±√7)4 = 49, (±√7)2 = 7 なので他の項も整数になって、(☆)の左辺は整数に。その整数が右辺の 0 に等しくなるか?は別問題だが、この場合、(☆)左辺に P = ±√7 を代入すると…
(±√7)4 − 42(±√7)2 − (8√7)(±√7) + 301
= 49 − 42⋅7 + (∓56) + 301
= 49 − 294 + 301 ∓ 56 = 49 + 7 ∓ 56 = 56 ∓ 56
…となるので(複号同順)、 P = ±√7 の複号で上側を選択すれば(つまり P = +√7 なら)、上の式は = 0 になるッ!
つまり P = √7 は(☆)の一つの解。そのとき Q = (P2 − 21)/2 = −14/2 つまり Q = −7。かくして P, Q, R のそれぞれを満たす数値が分かったので、今 t6 − 21t4 + 35t2 − 7 を《や》の形に分解できる。《や》から:
t6 − 21t4 + 35t2 − 7 =
(t3 + √(7)t2 − 7t + √7)(t3 − √(7)t2 − 7t − √7)
この分解を利用すると、上記 t の6次式の六つの根に、直接アクセスできる――比較として、最初にやったように z = t2 と置くと、 z = t2 にはアクセスできるものの、個々の t には、間接的に(z の平方根として)しかアクセスできない。
さて、二つの3次方程式…
(ア) t3 + √(7)t2 − 7t + √7 = 0
(イ) t3 − √(7)t2 − 7t − √7 = 0
…は、 ±tan (2V), ±tan (4V), ±tan (6V) の六つの中から、それぞれ三つずつを解とする。一方の解が α, β, γ なら他方の解は −α, −β, −γ だが、具体的に(ア)(イ)それぞれの解は何か?
解と係数の関係から、3解の積は「定数項の符号を変えたもの」に等しい。よって(ア)の3解の積は負、従って(ア)は負の解を一つ、正の解を二つ持つ。同様に(イ)は負の解を二つ、正の解を一つ持つ。さらに3解の和は2次の係数の符号を変えたものなので、(ア)の3解の和も負――「負の解を一つしか持たないのに、3解の和が負になる」ということは、(ア)の3解のうち、「絶対値最大の解」が負であることが必要(さもなければ正の解が「勝って」、3解の和は正になってしまう)。一方(イ)は、正の解を一つしか持たないのに3解の和が正なので、(イ)の3解のうち、絶対値最大のものは正。以上のことから、次の結論に至る:
(ア)の3解 −tan (6V), +tan (2V), +tan (4V) そのうち tan (4V) が最大
(イ)の3解 +tan (6V), −tan (2V), −tan (4V) そのうち tan (6V) が最大
前節・前々節で tan (2V), tan (6V) の根号表現を得たが、 tan (4V) についてはまだ簡潔な根号表現を得ていない。(ア)の根の主値 tan (4V) は、これを補完してくれるかも…
24. t3 + √(7)t2 − 7t + √7 = 0 のように、係数に一つおきに同じ平方根の因子がある場合、次のようにして係数を有理化できる(係数の分数を解消する手順に似ている)。
変数の置換: t = w/√7 と置いて…
(w/√7)3 + √(7)(w/√7)2 − 7(w/√7) + √7
=
w3/(√7)3 + w2/√7 − (√7)w + √7
= 0
両辺を (√7)3 倍すると…
w3 + 7w2 − 49w + 49 = 0
w = (√7)t なので、変数置換後の根 w は真の根 t の √7 倍になる。この変数での根 w を求めたとして、それを √7 で割れば、真の根 t が得られる。
後は整数係数の3次方程式を解くだけ。このまま進めてもいいのだが、ここでは「2次の係数が 3 の倍数の方が計算が楽かも…」という考えから、変数の置換をもう一工夫して、上記の置換の代わりに t = z/(3√7) と置き、両辺を (3√7)3 倍することにする。結果は:
z3 + 21z2 − 441z + 1323 = 0
この z は真の解 t の 3√7 倍に当たる。この3次方程式を満たす z を求めて、それを 3√7 で割ってやれば、本来の3次式の根 t が得られるわけである。
2次項を除去するため z = y − 7 と置くと:
y3 − 588y + 5096 = 0
関連する2次式 x2 + 5096x + (588/3)3 の根†…
x = −2548 ± 588√−3
…を使うと、 y の式の解は:
y = 3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )]
z の式の解は:
z = 3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )] − 7
従って t の式の解は:
t = (3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )] − 7) / (3√7)
三つの実数の根を持つ実係数の3次式では、3解のうち最大のものが、立方根の主値となる。前述のように、この3次式の最大の根は t = tan (4V) = tan (2π/7)。上記 t の分子・分母を √7 倍して、われわれは次の結論に至る。
円周7等分点のタンジェント
tan (2π/7)
=
(√(7)/21)(3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )] − 7)
= 1.2539603376627… (人にっこりサンキュー、ウェルカム王さん)
この角度は (360/7)° = 51.428…° なので、対応する tan は、 tan 45° = 1 と tan 60° = √3 = 1.732… の間にある。
tan 54° = √[(5 + 2√)/5] = 1.376… より、少し小さい。
† 5096/2 = 2548 = 22⋅72⋅13; (588/3)3 = (22⋅72)3 = 26⋅76
なので −2548 ± √d の d に当たる数は:
(22⋅72⋅13)2 − 26⋅76
= 24⋅74(132 − 22⋅72)
= 24⋅74(169 − 196)
= 24⋅74(−27)
∴ √d = 22⋅72⋅3√−3
= 196⋅3√−3
= 588√−3
25. §23 で6次式 t6 − 21t4 + 35t2 − 7 を二つの3次式の積に分解したが、やや面倒だった。次のようにすると、同じことを比較的簡単に実行できる。
まず √7 という記号を何度も書くのは、それ自体が既に面倒なので、これを1文字に略すことにする。ここでは J = √7 としよう。すると J2 = 7, J4 = 72 = 49, J6 = 73 = 343。
変数の置換。前節(§24)の経験から、この場合 t = w/√7 ――略して t = w/J ――のような置換が役立ちそう。
t6 − 21t4 + 35t2 − 7 = 0
…に対しても t = w/J と置いてみる。
(w/J)6 − 21(w/J)4 + 35(w/J)2 − 7
= w6/343 − 21w4/72 + 35w/7 − 7
= w6/343 − 3w4/7 + 5w − 7 = 0
分母を払うため、両辺を 73 = 343 倍すると:
w6 − 3⋅72w4 + 5⋅73w2 − 74 = 0
上記の6次式と (w3 + Pw2 + Qw + R)(w3 − Pw2 + Qw − R)
= w6 + (−P2 + 2Q)w4 + (−2PR + Q2)w2 − R2 の定数項・係数を比較すると、まず −R2 = −74 なので R = 72 = 49 を選択できる。そのとき…
(ア) −2PR + Q2 = −2⋅72P + Q2 = 5⋅73
(イ) −P2 + 2Q = −3⋅72
(イ)から Q = (P2 − 3⋅72)/2。これを(ア)に代入して:
−2⋅72P + (P2 − 3⋅72)2/4 = 5⋅73
両辺を 4 倍して:
−8⋅72P + P4 − 6⋅72P2 + 9⋅74 = 20⋅73
右辺から左辺に移項すると、定数項は 9⋅74 − 20⋅73 = (9⋅7 − 20)73 = 43⋅73 なので、上の式はこうなる:
P4 − 6⋅72P2 − 8⋅72P + 43⋅73 = 0
これが整数解を持つなら、可能性としては P = ±1, ±7, etc. だが、実際に試すと、比較的容易に解 P = 7 が見つかるだろう。従って:
Q = (72 − 3⋅72)/2 = −2⋅72/2 = −49
結局、次の分解を得る。
w6 − 3⋅72w4 + 5⋅73w2 − 74
= (w3 + 7w2 − 49w + 49)(w3 − 7w2 − 49w − 49)
これは §23 で得た分解…
t6 − 21t4 + 35t2 − 7 =
(t3 + √(7)t2 − 7t + √7)(t3 − √(7)t2 − 7t − √7)
…と本質的には同じ; t = w/J とおいて全体を J6 倍(右辺の二つの因子をそれぞれ J3 倍)したものに当たる。
本質的に同じなら、(既に答えが出ているのに)なぜわざわざこんなやり方をしたのか?
われわれは最初、6次式を二つの3次式(無理数の係数を含む)に分解して、分解後、因子の3次式に対し、係数を有理数(実際には整数)にするための置換 t = w/J を行い(J = √7)、上記の第一因子と同じ w3 + 7w2 − 49w + 49 = 0 を得た(§24 冒頭)。言うまでもなく、係数に √7 のような無理数が含まれる多項式より、整数係数の多項式の方が扱いやすい。だからこそ §24 では変数置換を行ったわけだが、同じことなら先回りして、分解前にこの置換を行っておけば、6次式の分解も(係数が整数になるので)扱いやすくなるだろう。要するに、処理の簡単化の試み。上記 w の3次方程式で w = z/3 として変数を再置換し、両辺を 27 倍すれば、結果は §24 で扱ったのと全く同じ3次方程式(z についての)。
だが、話はそう簡単でもない。第一に、6次式 t6 − 21t4 + 35t2 − 7 が与えられたとき、事実としては t = w/√7 と置換すれば便利であるとしても、そもそもどうやってその事実に気付けばいいのか。第二に、変数を置換するにしても、あまりに欲張って「出てくる因子の2次の係数が 3 の倍数の方が都合がいいだろう」などとあれこれ条件を付けると、置換自体はうまくいっても、結果として得られる多項式の係数・定数項が、無駄に大きな数になってしまう可能性がある。すると、別の意味で計算が面倒になるかもしれない。特に、6次式を二つの3次式に分解するとき、「係数を比較して連立方程式から4次方程式に持ち込むアプローチ」においては、定数項の約数に基づく試行錯誤で、解を見つけようとする――この部分は、定数項が大きいより小さい方が便利。
「係数の無理数をなくす変数置換」は、うまく使えば効果的。その場合、原則として、なるべく早く置換した方が得になる――ただし「うまい置換の仕方があるか・あるとしてその置換をどうやって見つければいいか?」は必ずしも自明ではなく、置換のやり方によっては、メリットとデメリットのトレードオフがあるかも。
今回は tan の7倍角の公式の分子の零点を利用して、「直角の 7 分の 1 の偶数倍」の角度に対する tan を――具体的には tan (π/7), tan (2π/7), tan (3π/7) の根号表現を――求めた。これらの値や根号表現そのものは特に有用ではないだろうけど、それを導く過程において、興味深い風景を垣間見ることができた。
2024-06-16 3次方程式の手計算について トリッキーなトレードオフ
y3 − 112y − 448 = 0 を例に、幾つかのアプローチについて、その意義や問題点を考えてみたい。
この3次方程式は、 y = 4u と置いて両辺を 43 で割ると、 u3 − 7u − 7 = 0 になる。「この形はシンプルで良い」と思える。ところが、実際には y = 2u と置いて両辺を 23 で割った u3 − 28u − 56 = 0 の方が扱いやすい。しかし、そのどちらも最善とは言い切れず、 y = (2/3)u と置いて両辺を (3/2)3 倍した u3 − 252u − 1512 = 0 がある意味ベストなのだ…。
26. y3 − 112y − 448 = 0 の解は tan (π/7) などと関係している(§21)。単なる3次方程式なので機械的に解くことができるが、やり方次第で途中計算が簡単になったり、面倒になったりする。
一般に、3次方程式 y3 + Py + Q = 0 の解は(P, Q: 定数)、関連する2次方程式 x2 + Qx − (P/3)3 = 0 の解を α, β として、
y = 3√α + 3√β
…に等しい(Cardano の公式)。標準形の(=2次の項のない)3次式 F(y) = y3 + Py + Q が与えられたとき、関連する2次式 G(x) = x2 + Qx + R を作るには、与式の定数項 Q をそのまま G(x) の1次の係数とし、与式の1次の係数 P の符号を変えて 3 で割って 3 乗したものを G(x) の定数項 R とすればいい。
次の例では、3次方程式 ① に対して、②が関連する2次方程式:
y3 − 112y − 448 = 0 ‥‥①
x2 − 448x + (112/3)3 = 0 ‥‥②
2次方程式 ② の解を Cardano の公式に当てはめれば、3次方程式 ① の解が得られる――原理は単純。途中計算をどのように進めるにせよ、この原理に従えば、正しい答えは出る。
始める前の注意事項: 与えられた3次方程式が整数や有理数の解を持つ場合には、その3次式を因数分解するだけで簡単に三つの解を求めることでき、立方根は必要ないので、 Cardano の公式も必要ない。単に「必要ない」というだけなく、有理数解を持つ場合に Cardano の公式を使うと、かえって厄介な事態になる(立方根を使わずに書ける数を、わざわざ立方根を使って複雑怪奇に表現する結果になってしまう)。従って、有理数解の有無の確認が先決。例題の ① は有理数の解を持たず(有理係数の範囲では因数分解できず)、そのような場合 Cardano の公式や、三角関数・双曲線関数を使った解法が役立つ。
Cardano の公式が役立つ場合でも、それを機械的に適用するのが得策とは限らない。上記 ② をばか正直に計算すると 1123 = 1404928 となって:
x2 − 448x + 1404928/27 = 0
2次方程式の解の公式によると(1次の係数 −448 を半分にした −224 を使い):
x = −(−224) ± √d
ただし d = (−224)2 − 1404928/27
= 50176 − 1404928/27
= 1354752/27 − 1404928/27
= −50176/27
= −2242/27
つまり d = −(2242/33) = (2242/32)(−1/3) なので:
x = −(−224) ± √d = 224 ± (224/3)√(−1/3)
そこで α = 224 + (224/3)√(−1/3) と β = 224 − (224/3)√(−1/3) を Cardano の公式に当てはめると:
y = 3√[224 + (224/3)(√ )]
+ 3√[224 − (224/3)(√ )] ‥‥③
複素数の立方根を扱える計算機によると(立方根記号は主値を表すものとする)、③の値は y = 12.195669358… で、それを①に入れれば確かに結果は、誤差の範囲で 0 になる。つまり③は正しい答えには違いないのだが、上記の導出法は、分子が 7 桁もある複雑な分数をベタに扱ったり、 −50176/27 の平方根の計算が必要だったりして、手計算するには必ずしも最適ではない。出発点となる数値(②参照)は 112 = 16⋅7 や 448 = 64⋅7 のように、比較的シンプル; そのような数を加減乗除して平方根を求めるのだから、手計算の場合、ある程度(あるいは完全に)素因数分解された形のままで扱う方が便利だろう。
例えば、②を…
x2 − 26⋅7x + (24⋅7/3)3 = 0
つまり x2 − 26⋅7x + (212⋅73/33) = 0
…と読み替えると†:
d = (25⋅7)2 − 212⋅73/33
= 210⋅72 − 212⋅73/33
通分して、分子の引き算から共通因子をくくり出すと:
d = (210⋅72⋅33 − 212⋅73)/33
= [210⋅72(33 − 22⋅7)]/33
= [210⋅72(27 − 28)]/33
= [(210⋅72)/32]⋅−1/3
∴ √d = (25⋅7/3)√(−1/3) = (224/3)√(−1/3)
この手順なら、面倒な 7 桁の分数計算などを回避できる! 最初に素因数分解のコストがかかるとはいえ、この場合 112 を 2 で割れるだけ割ると…
112 → 56 → 28 → 14 → 7
…なので「2 で 4 回割れて商は 7」。つまり 112 = 24⋅7 は難しい分解ではない。よって 224 = 25⋅7; 448 = 26⋅7。最終的に 25⋅7/3 を 224/3 に逆変換するのも、難しくない。
224 を直接平方したり、それを 27 倍したりするのは少し面倒。 25⋅7 の平方が 210⋅72 で、その 27 = 33 倍が 210⋅33⋅72 …といった計算なら簡単。素因数分解の手間とのトレードオフでどっちが得かは微妙だが、分解表現の場合、分子の引き算でも楽ができる。
† x = 224 ± √d の複号の前の 224 は、 448 = 26⋅7 の半分、つまり 25⋅7 に当たる。 d の計算では、その平方から定数項を引く。そうしたければ x = 25⋅7 ± √d と書くこともできるが、この場合、複号の前の 25⋅7 については、結局後で 224 に戻すことになる。特別なケースとして、 α = −Q ± √d の −Q が因子 p3 を含み d が因子 p6 を含むなら、 α の立方根から自然数 p をくくり出すことができ、 −Q, d の両方を因数分解された状態で扱うことが役立ち得る。
27. 前節の方法には、もっと根本的な工夫の余地がある。そもそも解 y の…
3√[224 + (224/3)(√ )]
+ 3√[224 − (224/3)(√ )]
…という形(③参照)が、ゴチャゴチャし過ぎ。 224 = 25⋅7 = 23(22⋅7) = 8⋅28 は 8 の倍数なのだから、
2 = 3√8
…を立方根の外にくくり出して、
3√[224 + (224/3)(√ )]
=
3√8 3√[28 + (28/3)(√ )]
= 2 3√[28 + (28/3)(√ )]
…のように書いた方がすっきりする。例えばの話 √12 を 2√3 と書けるが、それと同様。しからば:
y = 2(3√[28 + (28/3)(√ )] + 3√[28 − (28/3)(√ )]) ‥‥④
③ と比べると、いくらかすっきり(式の値は同じ)。しかし、平方根・立方根の記号の中にゴチャゴチャ小さい分数が入っているのも、あまりきれいではない。これらの立方根を 3 倍して――つまり 3√27 倍して――根号下の分数を解消し、全体を 3 で割ってもいいだろう。要するに、根号から 1/3 をくくり出す…。その際、立方根号下の各項は 27 倍されるので 28 は 28⋅27 = 756 になるが、 27 倍ということは 9√9 倍なので…
(28/3) × (√ の 27 倍は )
(28/3)⋅9 × (√⋅ )(√
= 84 × )(√ )
結局こうなる:
y = (2/3)(3√[756 + 84(√ )]
+ 3√[756 − 84(√ )]) ‥‥⑤
y = 2(3√[28 + (28/3)(√ )] + 3√[28 − (28/3)(√ )]) ←④再掲(比較用)
ゴチャゴチャした細かい分数が一本化され、④よりさらにすっきり。その代償として立方根号下の数が少しでかくなってしまったが、トータルでは ⑤ の方が簡潔だろう。
Cardano の公式を使ったとき、場合によっては、出てきた立方根をこのように「整理」することになる。でも「初めから立方根がゴチャゴチャしないような形」で Cardano の公式を使うことができれば、整理は不要。例えるなら「散らかしておいて、後から片付ける」より「初めから散らかさない」方がいい。
ここで考えている例題…
y3 − 112y − 448 = 0
…では、2次の係数 0 が 2 の倍数、1次の係数 −112 が 4 の倍数†、定数項 −448 が 8 の倍数。そのように、2次以下の係数・定数項が順に「2 の倍数 → 4 の倍数 → 8 の倍数」となっているとき、変数 y を「値が半分の新しい変数」(仮に Y とする)に置換することで、式を簡単化できる。実際 y = 2Y と置くと、上の式は、こうなる。
(2Y)3 − 112(2Y) − 448 = 0 すなわち
8Y3 − 224Y − 448 = 0
両辺を 8 で割って:
Y3 − 28Y − 56 = 0
この Y の3次式は、もともとの y の3次式と比べ、係数が小さく、扱いやすい。この式を Y について解いて、変数を逆置換することは易しい(与式とこの式は y = 2Y という単純な関係)。関連する2次方程式は:
x2 − 56x + (28/3)3 = 0
その解を x = 28 ± √d とすると:
d = 282 − (28/3)3 = 282(1 − 28/33) = 282(−1/27)
∴ √d = (28/3)√(−1/3)
すなわち x = 28 ± (28/3)√(−1/3) なので、 Cardano の公式から、
Y = 3√[28 + (28/3)(√ )] + 3√[28 − (28/3)(√ )]
y = 2Y ということを思い出せば、直ちに「少しすっきり」した ④ を得る。
† −112 は 4 の倍数であるだけでなく、8 の倍数でもあり、16 の倍数でもある。さらに −448 は 8 の倍数であるだけでなく、64 の倍数。従って、2次以下の係数・定数項は「4 の倍数 → 42 の倍数 → 43 の倍数」でもあり、置換 y = 4Y も有効。与式で y = 4Y と置いて両辺を 43 で割ると、非常にシンプルな次の形になる:
Y3 − 7Y − 7 = 0
関連する2次式は x2 − 7 + (7/2)3、その根は 7/2 ± √d、ここで d = (7/2)2 − (7/3)3 = −49/108 = (49/36)(−1/3)、よって √d = (7/6)√(−1/3)。従って:
Y = 3√[7/2 + (7/6)(√ )] + 3√[7/2 − (7/6)(√ )]
この場合 y = 4Y なので:
y = 4(3√[7/2 + (7/6)(√ )] + 3√[7/2 − (7/6)(√ )])
これ自体は ④ よりさらにすっきりしている。半面、細かい分数を整理して⑤の形にするには、立方根を 6 倍(立方根号下の各項を 63 倍)して全体を 6 で割らねばならず、その処理は ④→⑤ より面倒(難しくはないが)。形がシンプルなのに実用上かえって不便な面があるのは、関連する2次式との関係上、「2次項のない3次式」では、定数項が偶数の方が便利なため。 Y3 − 7Y − 7 の定数項は 7 なので、関連する2次式の係数に分数 7/2 が生じてしまう。
こうなると、自然な発想として、どうせなら「さらにすっきり」した表現 ⑤ を直接得られないものか?
実は、それも可能! その方法は、3次方程式に関する重要な実践的テクニックとも関連する。
28. 一般の3次方程式を扱う場合、2次の係数が 3 の倍数だと、計算が楽になる。素朴に考えれば「だったら両辺を 3 倍すればいい」ようだが、通例「最高次(3次)の係数は 1 のままでなくてはいけない」という制約があるため、単純な 3 倍では駄目で、ちょっとした工夫が必要。
一方、2次項のない3次方程式 y3 + Py + Q = 0 では、1次の係数 P が 3 の倍数だと都合がいい; P が 3 の倍数なら、関連する2次方程式 x2 + Qx − (P/3)3 の定数項が整数の 3 乗となり、面倒な分数計算を回避できる。われわれの例題…
y3 − 112y − 448 = 0
…の場合、そのままだと P = −112 が 3 で割り切れないので (112/3)3 という項が生じ、それが立方根号下のゴチャゴチャの原因となる。
3次の係数が 1 で、その他の係数が既に整数になっている場合、次のような簡単な処理によって、3次の係数を 1 に保ったまま、その他の係数を 3 の倍数にできる。第一に、方程式の未知数(ここでは y)を = w/3 と置く(新しい変数名は何でもいい。仮に w とする)。上の例で言うと…
(w/3)3 − 112(w/3) − 448 = 0 すなわち
w3/27 − 112w/3 − 448 = 0
第二に、分母を払うため、両辺を 27 倍して:
w3 − 1008w − 12096 = 0
これによって、新しい変数 w についての別の3次方程式が生じる; その3次の係数は 1 で、それ以外の係数は 3 の倍数。この新しい3次方程式を w について解いて y = w/3 の関係を使えば、もともとの式を y について解いたのと同じことになる。
実際、望み通り1次の係数 1008 は 3 の倍数になってくれたが、係数・定数項がずいぶんでかくなってしまった。「両辺を 27 倍」という処理の副作用。この解 w を求めることは可能だが、今度は「係数がでかくて、別の意味で計算が面倒」という事態が予想される。「そのとき素因数分解を使うことになる」と読んで、最初から分解した形で処理するのも一つの手だろう(例: 27 倍を 33 倍と考える)。――ところで、「1次の係数が 4 の倍数で定数項が 8 の倍数なら、変数を半分に置換†すれば簡単になる」のだった(§27)。仮にそのテクニックをここで使うなら、 w = 2v と置き両辺を 8 で割って…
v3 − 252v − 1512 = 0 (★)
係数を1桁、小さくできた! これを v について解いて y = w/3, w = 2v という関係――要するに y = 2v/3 という関係――を使えば、もともとの方程式の解 y が求まる。
† w = 2v と置換すると v = w/2; つまり新しい変数 v は、もともとの変数 w の半分の大きさ。
〔補足〕 前節の脚注で触れたように、置換 w = 4v も可能。 v3 − 63v − 189 = 0 というさらにシンプルな式が得られ、「小さめの係数」という点ではメリットがある; 半面、定数項が奇数なので、関連する2次方程式を解くとき分数 189/2 が発生する――というデメリットもある。もしこの経路を選ぶと、最終的には、⑤ と比べて「立方根を 2 で(立方根号下の各項を 8 で)割り、代わりに全体を 2 倍した形」(♪)を得る:
y = (2/3)(3√[756 + 84(√ )]
+ 3√[756 − 84(√ )]) ←⑤再掲
y =
(4/3)[3√[189/2 + (21/2)(√ )]
+ 3√[189/2 − (21/2)(√ )]] (♪)
ここでは「立方根号下の細かい分数の解消」が目標なので、(♪)が ⑤ より良いとはいえないけれど、どちらも全く同じ値を表していて、数学的にはどちらも正しい――われわれの選択は「どっちがすっきりしているか?」という美学的観点に基づく。
実際には、こんなふうに変数を置換・再置換するのは二度手間なので、このアプローチを使うつもりなら、
y3 − 112y − 448 = 0
…が与えられたとき、直接 y = 2v/3 と置いた方が手っ取り早い†。その結果は:
(2v/3)3 − 112(2v/3) − 448 = 0 すなわち
8v3/27 − 224v/3 − 448 = 0
両辺を 8 で割って 27 倍して:
v3 − 252v − 1512 = 0
1回の変数置換で、一気に(★)に至る。
252/3 = 84 なので、関連する2次方程式は x2 − 1512 + 84 = 0。その解を
x = 756 ± √d
とすると…
d = 7562 − 843 = (22⋅33⋅7)2 − (22⋅3⋅7)3
= 24⋅36⋅72 − 26⋅33⋅73
= 24⋅32⋅72(34 − 22⋅3⋅7)
= 24⋅32⋅72(81 − 4⋅21)
= 24⋅32⋅72(−3)
∴ √d = 22⋅3⋅7√−3 = 84√−3
つまり x = 756 ± 84√−3 となり、 Cardano の公式から:
v = 3√[756 + 84(√ )]
+ 3√[756 − 84(√ )]
y = 2v/3 = (2/3)v なので、これは前節の ⑤ を意味する。根号下の数を整理する手間が省け、最初から「すっきりした形」が得られた!
とはいうものの、変数の置換にはデメリットもある。置換自体の手間もあるし、係数が大きくなってしまい途中計算が面倒になるかも…。場合によっては、あまり変数をいじらず、(多少ゴチャゴチャした)根号表現を得てから、それを整理した方がむしろ手っ取り早く、分かりやすいかもしれない。
† もし仮に最終結果として上記〔補足〕の(♪)を望むなら、 y = 4v/3 と置き両辺を (3/4)3 倍すればいい。
3次方程式の解法には、「どうしても必要な変数置換」と、「オプションの変数置換」がある。オプションを利用するかしないかは状況次第、場合によっては「好みの問題」かもしれないが、手計算の場合、分数を回避して整数演算で済ませられれば、それに越したことはない。
デメリットもあり得ることを承知の上で一般論として言うなら、係数を 3 の倍数にする置換は便利。特に、一般の3次方程式では、(2次項を除去するために)2次の係数の 3 分の 1 を加減することになるので、2次の係数が 3 の倍数になっているとメリットが大きい。今回のメモでは少し違うこと(2次項のない3次式において、1次の係数を 3 の倍数にすること)を扱ったが、やり方はどちらもほとんど同じ。
係数が「2 の倍数 → 4 の倍数 → 8 の倍数」となっている場合にスケールを半分にする置換(§27)も、低コストで効果が大きいと思われる(定数項が 8 分の 1 になるので、かなり計算量を削減できる)。
関連する2次方程式を解くとき、ばか正直に「2次方程式の解の公式」の数値計算をすると、桁数の多い面倒な数が発生しやすい。 −Q ± √d の形の d を求めるとき、関係する数値の一部または全部を「素因数分解された状態」のままで扱うと、計算が簡潔になる可能性がある: p, q, r, … を素数として d = peqfrg… の指数 e, f, g, … に 2 以上のものがあれば、「素数の偶数乗」の因子を根号の外に出すことができ、その際、例えば p4 を実際に計算せず、根号の外で因子 p2 だけを計算すれば済む。
2024-06-20 tan (2π/7) の意味ありげな根号表現
1 の原始立方根を ω とすると:
tan (2π/7)
=
(2√(7)/21)[3√[49(−5 + 3ω)]
+ 3√[49(−8 − 3ω)]
− 7/2]
29. 下記(ア)の3解は
−tan (3π/7),
tan (π/7),
tan (2π/7); (イ)の3解は
−tan (−2π/7),
tan (−π/7),
tan (3π/7) だ(§23)。
(ア) t3 + √(7)t2 − 7t + √7 = 0
(イ) t3 − √(7)t2 − 7t − √7 = 0
§24で(ア)を解いた。同じ方法で(イ)を解く。 t = z/(3√7) と置き、両辺を (3√7)3 倍すると:
z3 − 21z2 − 441z − 1323 = 0
z = y + 7 と置くと:
y3 − 588y − 5096 = 0
関連する2次式 x2 − 23⋅72⋅13x + (22⋅3⋅72)3 の根を 2548 ± √d とすると:
d = (22⋅72⋅13)2 − (22⋅72)3
= 24⋅74(132 − 22⋅72)
= 24⋅74(−27)
つまり根は x = 2548 ± 22⋅72⋅3√−3 = 2548 ± 588√−3 なので:
y = 3√[2548 + 588(√ )]
+ 3√[2548 − 588(√ )]
t = z/(3√7) = (y + 7)/(3√7) の分子・分母を √7 倍して:
tan (3π/7) = (√(7)/21)(3√[2548 + 588(√ )] + 3√[2548 − 588(√ )] + 7) = 4.3812862675348…
この根号表現は、(ア)の解 tan (2π/7)
=
(√(7)/21)(3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )] − 7)
と一部の符号が違うだけ。(ア・イ)はペアとなる方程式(上記のように係数の符号だけが違う)なので(§24参照)。どちらも…
3√[2548 ± 588(√ )] あるいは 3√[−2548 ± 588(√ )]
…を含むが、次の表現も同じ立方根を含む:
sin2 (2π/7)
=
(3√(28 + 84√) + 3√(28 − 84√))/36
− (3√(−2548 + 588√) + 3√(−2548 − 588√))/72
+ 7/12
30. 上記の立方根について。
L = 3√(28 + 84√) = 2((7 + 21√−3)/2)1/3
…と置くと、その共役複素数…
L* = 3√(28 − 84√) = 2((7 − 21√−3)/2)1/3
…と組み合わせて
cos (2π/7) = (L + L* − 2)/12 が成り立つ。簡潔化のため λ = (1 + 3√−3)/2 と置くと L = 2(7λ)1/3 なので:
cos (2π/7)
= [2(7λ)1/3 + 2(7λ*)1/3 − 1]/12
= [(7λ)1/3 + (7λ*)1/3 − 1]/6 《ら》
〔注〕 約分により、右辺の分子各項は値が半分になっている。例えば、分子第1項 L = 2(7λ)1/3 は L/2 = (7λ)1/3 に変わる。
《ら》を使って cos2 (2π/7)
= 1 − sin2 (2π/7)
を考えてみたい。第一に、複素数 λ の偏角の絶対値は 90° 未満なので(つまり λ の実部は正なので)、 (λ1/3)2 = (λ2)1/3 が成立。 λ* についても同様。第二に:
λ2 = ((1 + 3√−3)/2)2
=
(1 + 6√−3 − 27)/4
=
(−13 + 3√−3)/2
同様に (λ*)2 = (−13 − 3√−3)/2
そして λ(λ*) = ((1 + 3√−3)/2)((1 − 3√−3)/2)
= (1 − 9(−3))/4 = 7
《ら》の両辺を平方し、以上の事実を使って整理すると…
cos2 (2π/7)
=
[(49λ2)1/3 + (49(λ*)2)1/3 + 1 + 2(49λ(λ*))1/3 − 2(7λ*)1/3 − 2(7λ)1/3]/36
= [(49⋅(−13 + 3√−3)/2)1/3 + (49⋅(−13 − 3√−3)/2)1/3 + 1 + 2(49⋅7)1/3 − 2(7λ)1/3 − 2(7λ*)1/3]/36
= [(49⋅(−13 + 3√−3)/2)1/3 + (49⋅(−13 − 3√−3)/2)1/3 + 15 − 2(7λ)1/3 − 2(7λ*)1/3]/36
分子・分母を 2 = 81/3 倍すると:
= {[49⋅4⋅(−13 + 3√−3)]1/3 + [49⋅4⋅(−13 − 3√−3)]1/3 + 30 − 2⋅2(7λ)1/3 − 2⋅2(7λ*)1/3}/72
この [ ]1/3 の部分が 3√[−2548 ± 588(√ )] に他ならない: 49⋅4⋅(−13) = −2548 等々。分子の最初の項について言えば、 L/2 = (7λ)1/3 を平方して L2/4 = (7λ)2/3 を求め、最後に分子・分母を 2 倍したので、 L2/2 = 2(7λ)2/3 に等しい:
3√[−2548 + 588(√ )]
=
[49⋅4⋅(−13 + 3√−3)]1/3
= L2/2 = 2(7λ)2/3
〔付記〕 L = 2(7λ)1/3 なので、分子の末尾2項は −2L − 2L* に等しい。
大ざっぱな観点として、「tan θ の根号表現に cos2 θ の根号表現と同様の要素(上の例では同じ立方根)が含まれる」ことは、不思議ではない。 tan θ = sin θ / cos θ だし、三平方の定理から 12 + tan2 θ = sec2 θ = 1/cos2 θ なのだから、もちろん tan の値は、対応する sin, cos の値と関係ある。だが Cardano 形式(共役複素数それぞれの立方個の和)が絡む根号表現について、直接的な代数的計算によって sin θ / cos θ を簡約し、具体的な tan θ の根号表現を得る――といったことは、手計算では困難だと思われる。
§21 では次の表現も得た。
tan (3π/7) =
[(2/3)(3√[756 + 84(√ )]
+ 3√[756 − 84(√ )]) + 7]1/2
これが前節で得た下記表現と等しいこと自体、一見したところ、全く明らかではない――どちらも、同じ6次方程式を解いたものなのに(§23参照)。
tan (3π/7)
=
(√(7)/21)(3√[2548 + 588(√ )]
+ 3√[2548 − 588(√ )] + 7)
事実としては、「第一式の三重根号のうち一番外側の [ ]1/2 は解消可能で、第二式のように二重根号で間に合う」「第二式の右辺を平方すると、第一式の [ ] 内になる」ということだが、それを手計算で直接確かめることは、可能だとしても、非常に面倒そうに思われる。
31. 3√[−2548 ± 588(√ )] を 2(7λ)2/3 ないし 2(7λ*)2/3 と表現できるのだから:
tan (2π/7)
=
(√(7)/21)(3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )] − 7)
=
(√(7)/21)(2(7λ)2/3 + 2(7λ*)2/3 − 7)
この最後の表現は、前節で λ = (1 + 3√−3)/2 と置いた結果から派生。前節では (7 + 21√−3)/2 などを扱っていたので、便宜上それを 7λ と略したのだが、この複素数 λ 自体に特別な意味はない。 λ の代わりに「もっと意味のある複素数」を単位として、 tan (2π/7) を表現してみたい。二つの選択肢を考える:
1 の原始3乗根の主値 ω = (−1 + √−3)/2
1 の原始6乗根の主値 σ = (1 + √−3)/2
後者の方が、実部のマイナスがない分、シンプルそう; σ を使って λ を表してみる。 λ の虚部は σ の虚部 (√−3)/2 の 3 倍; λ = 3σ + X と書けるはず。 X の値は…
X = λ − 3σ = (1 + 3√−3)/2 − (3 + 3√−3)/2 = −2)/2 = −1
…なので、 λ = 3σ − 1 = −1 + 3σ だ。同様に λ* の虚部は σ の虚部の −3 倍なので、 λ* = −3σ + Y とすると:
Y = λ* − 3σ = (1 − 3√−3)/2 − (−3 − 3√−3)/2 = 4)/2 = 2
よって λ* = 2 − 3σ だ。
注意 λ と λ* は共役だが、だからといって、二つの数を単純に −1 + 3σ と −1 − 3σ と書くことはできない。 σ は純虚数ではなく実部 1/2 を含んでいるので、
σ = (1 + √−3)/2 と −σ = (−1 − √−3)/2
…は共役ではなく、「符号を変えれば共役」という関係は不成立。
〔補足〕 「実数ではない複素数」を A + Bσ の形で表したとする(A, B は 実数、 B ≠ 0)。この形式は x + yi のような通常の複素数の表記と似ているが、複素数の虚部が、偏角 60° の σ の実数倍として表現される――複素平面上で、いわば「虚数軸が斜め」。複素数 z1, z2 を「実部は等しい; z2 の方が虚部は大きい」とすると、 z2 を表現するためには(z1 を表現する場合と比べて) B を大きくする必要がある; ところが B を大きくすると、連動して実部も大きくなってしまうので、「実部が同じ」なら(z1 を表現する場合と比べて) A を小さくする必要がある。同様に B の符号を変えると、虚部の符号が逆になるだけでなく、実部にも影響が及ぶ; もし別の二つの複素数 z1, z2 が互いに共役なら、 B の部分は「絶対値が同じで符号だけ反対」だが(虚部は B だけで決まる)、 A の部分は(z1 と z2 では)値が異なる(実部は A だけで決まるわけではない)。
λ = −1 + 3σ, λ* = 2 − 3σ と分かれば、後は機械的な代入:
tan (2π/7)
=
(√(7)/21)[2(7λ)2/3 + 2(7λ*)2/3 − 7]
=
(2√(7)/21)[(7λ)2/3 + (7λ*)2/3 − 7/2]
=
(2√(7)/21){[7(−1 + 3σ)]2/3 + [7(2 − 3σ)]2/3 − 7/2}
=
(2√(7)/21){[49(−8 + 3σ)]1/3 + [49(−5 − 3σ)]1/3 − 7/2}
最後の等号の根拠は、次の通り†。まず…
σ2 = ((1 + √−3)/2)2
=
(1 + 2√−3 − 3)/4
=
(−2 + 2√−3)/4
=
(−1 + √−3)/2
= σ − 1
〔注〕 σ2 = σ − 1 の解釈として、「1 の原始6乗根 σ の平方は、 1 の原始3乗根 ω に等しい」。 σ と ω は虚部が同じだが、実部は前者が 1/2、後者が −1/2; つまり ω = σ − 1。別の観点として、 σ は2次式 x2 − x + 1 の根。この2次式は、(x6 = 1 つまり) x6 − 1 = 0 の左辺の因子の一つで、根が 1 の原始6乗根に対応する。
この関係を使うと、次のようになる。
[7(−1 + 3σ)]2/3 = [49(−1 + 3σ)2]1/3
= [49(1 − 6σ + 9σ2)]1/3
= [49(1 − 6σ + 9(σ − 1))]1/3
= [49(1 − 6σ + 9σ − 9))]1/3
= [49(−8 + 3σ)]1/3
同様に [7(2 − 3σ)]2/3 = [49(2 − 3σ)2]1/3
= [49(4 − 12σ + 9σ2)]1/3
= [49(4 − 12σ + 9σ − 9)]1/3
= [49(−5 − 3σ)]1/3
† λ2 = (−13 + 3√−3)/2 なので(§30)、それを直接 A + Bσ の形にしてもいい; 明らかに B = 3、そこから A = −8 となる。 (λ*)2 についても同様。
σ に ω + 1 を代入すれば ω を使った表現に変換できる(σ = ω + 1 なので)。二つの表現をまとめると:
tan (2π/7)
=
(2√(7)/21)[3√[49(−8 + 3σ)]
+ 3√[49(−5 − 3σ)]
− 7/2]
= (2√(7)/21)[3√[49(−5 + 3ω)]
+ 3√[49(−8 − 3ω)]
− 7/2]
面白そうな式が得られた!
3√[−2548 ± 588(√ )] を使った変てこな表現と比べ、 σ あるいは ω を使った表現は、同じ内容でも、それなりに意味ありげ。 √7 などのスカラーを別にすると、円周7等分点の三角関数の値――少なくとも tan (2π/7) ――は「(複素数として共役の) Eisenstein 整数」の立方根を使って表現される、ということらしい。もともと立方根号下が a + b√−3 の形なのだから(a, b: 整数)、結論自体は当たり前といえば当たり前だが、逆に考えて、「この a, b を同時に半整数にする」って選択肢は自然なのかも…
1 の原始立方根のうち、虚部が正のものを ω としたが、もう一方の原始立方根 ω2 をあらためて ω としても、上記の式はそのまま成り立つ。なぜなら ω と ω2 は実部が等しく、虚部の符号だけが反対。よって −5 + 3ω を −5 + 3ω2 に置き換えると、 −5 + 3ω から見て「実部が同じで虚部の符号が反対」の数になる――それは、共役複素数 −8 − 3ω に他ならない。同時に −8 − 3ω を −8 − 3ω2 に置き換えれば、結果は −5 + 3ω に等しく、結局「二つの立方根記号の中身」が交換されるだけ; 式全体の値は変わらない。同じ理屈から、もう一つの 1 の原始6乗根 σ5 をあらためて σ としても、上の式はそのまま成り立つ。
2024-06-22 円周28等分点のタンジェント tan (π/14) など
tan (π/14) = (√(7)/21)(3√[−28 + 84(√ )] + 3√[−28 − 84(√ )] − 7)
32. V = π/14 とする。 tan 7θ = (7t − 35t3 + 21t5 − t7)/(1 − 21t2 + 35t4 − 7t6) の分母の零点は ±V, ±3V, ±5V だ(§21)。この分母の6次式については、 z = t2 についての3次式と見ることもできるし、二つの3次式の積に分解して処理することも可能(§23参照)。
まず前者のアプローチ。 1 − 21t2 + 35t4 − 7t6 = 0 の両辺を を −1/7 倍して:
t6 − 5t4 + 3t2 − 1/7 = 0 《り》
z = t2 と置くと:
z3 − 5z2 + 3z − 1/7 = 0 《る》
分数を解消し2次の係数を 3 の倍数にするため z = y/21 と置いて、両辺を 213 倍:
(y/21)3⋅(213) − 5(y/21)2⋅(213) + 3(y/21)⋅(213) − 1/7⋅(213)
y3 − 105y2 + 1323y − 1323 = 0 《れ》
2次の項を除去するため y = x + 35 と置くと:
x3 − 2352x − 40768 = 0
(必須ではないが)簡潔化のため x = 2w と置いて両辺を 8 で割ると:
w3 − 588x − 5096 = x3 − 22⋅3⋅72x − 23⋅72⋅13 = 0
関連する2次式 s2 − (23⋅72⋅13)s + (22⋅72)3 の根を s = 2548 ± √d とすると:
d = (22⋅72⋅13)2 − 26⋅76
= 24⋅74(132 − 22⋅72) = 24⋅74(−27) = 24⋅32⋅74(−3)
∴ s = 2548 ± 22⋅3⋅72√−3
= 2548 ± 588√−3
従って:
w = 3√[2548 + 588(√ )]
+ 3√[2548 − 588(√ )]
x = 2w = 2(3√[2548 + 588(√ )]
+ 3√[2548 − 588(√ )])
y = x + 35 = 2(3√[2548 + 588(√ )]
+ 3√[2548 − 588(√ )]) + 35
z = y/21 = (2/21)(3√[2548 + 588(√ )]
+ 3√[2548 − 588(√ )])
+ 5/3
この z = 4.3119411104… は、《る》の最大の解 z = tan2 5V = tan2 (5π/14) だ。
《る》の「絶対値最小の解」を求めるため、《れ》の3解それぞれの符号を変えた数 −tan2 V, −tan2 3V, −tan2 5V を3解とする方程式を考える:
y3 + 105y2 + 1323y + 1323 = 0 《ろ》
上と同様に進めると…
z = (2/21)(3√[−2548 + 588(√ )]
+ 3√[−2548 − 588(√ )])
− 5/3
…が −tan2 V なので(《ろ》の3解の中ではそれが最大)、次の結論に至る。
tan (π/14) = [5/3 − (2/21)(3√[−2548 + 588(√ )] + 3√[−2548 − 588(√ )])]1/2 = 0.2282434743…
また 3√[2548 ± 588(√ )] ないし 3√[−2548 ± 588(√ )] が登場した!
33. 次に《り》を分解したい。《り》で t = z/√7 と置き、両辺を (√7)6 = 73 倍すると:
z6 − 35z4 + 147z2 − 49 = 0
この左辺が、次の形に分解されるとすれば…
(z3 + Pz2 + Qz + 7)(z3 − Pz2 + Qz − 7)
= [(z3 + Qz) + (Pz2 + 7)][(z3 + Qz) − (Pz2 + 7)]
= (z3 + Qz)2 − (Pz2 + 7)2
= z6 + 2Qz4 + Q2z2 − (P2z4 + 14Pz2 + 49)
= z6 + (2Q − P2)z4 + (Q2 − 14P)z2 − 49 = 0
… 2Q − P2 = −35, Q2 − 14P = 147 となる。第一式から Q = (P2 − 35)/2、それを第二式に代入して:
(P2 − 35)2/4 − 14P = 147 整理すると
P4 − 70P2 − 56P + 637 = 0
これに有理数解があるとすれば、可能性は 637 = 72⋅13 の約数 P = ±1, ±7, etc.; 試すと P = −7 は解。そのとき Q = (72 − 35)/2 = 7 なので、結局、次の分解が成立。
(z3 − 7z2 + 7z + 7)(z3 + 7z2 + 7z − 7) = 0
因子 z3 − 7z2 + 7z + 7 は、3根の和が正、3根の積が負なので、負の根を1個だけ持つ。絶対値が小さい順に3根を α, β, γ とすると αβ + αγ + βγ = 7 > 0。もしも「β が負」だったら αβ, βγ は負で αγ は正だが、絶対値についての仮定から |αγ| < |βγ| なので αβ + αγ + βγ は負になってしまい、つじつまが合わない。同様に「γ が負」も不可能。よって三つの根は −tan V, tan 3V, tan 5V をそれぞれ √7 倍したもの。
他方の因子 z3 + 7z2 + 7z − 7 の根は、 tan V, −tan 3V, −tan 5V をそれぞれ √7 倍したもの。立方根の主値を使うと、前者から tan 5V、後者から tan V の根号表現がそれぞれ得られる(z について解いて √7 で割ることによって)。
第一に z3 − 7z2 + 7z + 7 = 0 を解く。 z = y/3 と置いて両辺を 27 倍すると:
y3 − 21y2 + 63y + 189 = 0
y = x + 7 と置くと:
x3 − 84x − 56 = 0
関連する2次式 s2 − 56s + 283 の根を s = 28 ± √d とすると:
d = 282 − 283 = 282(1 − 28) = 282⋅32(−3)
よって s = 28 ± 84√−3 となって:
x = 3√[28 + 84(√ )]
+ 3√[28 − 84(√ )]
y = 3√[28 + 84(√ )]
+ 3√[28 − 84(√ )] + 7
z = (1/3)(3√[28 + 84(√ )]
+ 3√[28 − 84(√ )] + 7)
t = tan (5π/14)
= (√(7)/21)(3√[28 + 84(√ )]
+ 3√[28 − 84(√ )] + 7)
= 2.0765213965…
第二に z3 + 7z2 + 7z − 7 = 0 を解く。上と同様に進めて y = x − 7 と置くと:
x3 − 84x + 56 = 0
これを解いて:
x = 3√[−28 + 84(√ )]
+ 3√[−28 − 84(√ )]
次の結論に至る。
tan (π/14) = (√(7)/21)(3√[−28 + 84(√ )] + 3√[−28 − 84(√ )] − 7) = 0.2282434743…
前節で得た tan (π/14) の根号表現より、シンプル。
§31, §32 どちらの方法でも、 tan 3V = tan (3π/14) について「立方根の主値」を使った根号表現は得られない。「立方根の非主値」を使えば、 §32 の第一の3次式の根の一つとして tan 3V を表現できる。 ω = (−1 + √−3)/2 とすると:
tan (3π/14)
= (√(7)/21)[(3√[28 + 84(√ )])ω*
+ (3√[28 − 84(√ )])ω + 7]
= 0.7974733888…