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きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。
2024-03-03 一辺 1 の正五角形の面積 算数バージョン
一辺 1 の正三角形の面積は √3/4 = 0.433…。
一辺 1 の正六角形の面積は、一辺 1 の正三角形のタイル 6 枚分なので、3√3/2 = 2.598…。
では一辺の長さ 1 の正五角形の面積は?
正五角形では、一つの頂点から2本の対角線を引くことができる。2本の対角線によって、正五角形は、三つの二等辺三角形に分割される。各三角形の底辺と高さを決定できるので、三つの三角形の面積を足し算すれば、正五角形の面積が求まる。原理は単純。ところが、その足し算に関連して、思いがけない困難が生じる。「足し算のどこか難しいっていうんだよ。繰り上がりを間違えたとか、桁数がものすごいとか、そんなことか?」…まぁ、やってみましょう。
三角関数を使っていいなら、はるかに簡単な方法がある: cot 36° の問題になって、最速は sec 経由か csc 経由。だが、三角関数を使う場合でも、素直に sin, cos で済まそうとすると、ちょっとトリッキーな処理が必要。正五角形は侮れない!
まずは「正五角形を三つの三角形に分割」という素朴な発想で。面積を和で表すところまでは、穏やかな一本道。
¶1. 正五角形 OPQRS の対角線 OQ の長さ(= OR の長さ)は黄金比 φ (ファイ)。二等辺三角形(緑)の底辺となる重要な値なので、あらためてここで導出する(別解: 1, 2, 3)。「Q を通り OP と平行な直線」と「対角線 OR」の交点を B とすると、OPQB はひし形。従って、線分 OB の長さは 1。二等辺三角形 △ROQ と △BQR は相似なので、それぞれ斜辺 ÷ 底辺の比は同じ。
φ/1 = 1/(φ − 1)
両辺を φ − 1 倍して…
φ(φ − 1) = 1 つまり φ2 − φ = 1
この最後の式をこう変形できる…
(φ − 1/2)2 − 1/4 = 1 つまり (φ − 1/2)2 = 5/4
だから φ − 1/2 = √5/2 で、φ = (√5 + 1)/2。
OA の長さはその半分なので、三平方の定理から:
(AP の長さ)2 = 12 − ((√5 + 1)/4)2
= 1 − (6 + 2√5)/16
= (10 − 2√5)/16
従って AP の長さ = [√(10 − 2√)]/4
結局、緑の △OPQ の面積は:
底辺 × 高さ ÷ 2 = (√5 + 1)/2 × [√(10 − 2√)]/4 ÷ 2
= 1/16⋅(√5 + 1) √(10 − 2√) (★)
次のようにして(★)を計算できる。まず…
(√5 + 1)2 = (√5)2 + 2⋅(√5)⋅1 + 12 = 6 + 2√5
…の両辺の平方根を考えると:
√5 + 1 = √(6 + 2√)
この関係を使うと:
(√5 + 1) √(10 − 2√)
=
√(6 + 2√) √(10 − 2√)
=
√[(6 + 2√)(10 − 2√)]
= √(60 − 12√ + 20√ − 4⋅5)
= √(40 + 8√)
= √4 √(10 + 2√)
= 2√(10 + 2√)
よって:
△OPQ の面積 = (★) = 1/16⋅(√5 + 1) √(10 − 2√)
= 1/16 × 2√(10 + 2√)
= 1/8⋅√(10 + 2√) ‥‥①
〔参考〕 もし (√5 + 1) √(5n − n√) = 2√(5n + n√) という関係を使うなら、(★)を直ちに①の形にできる。「おやっ」と思うこのトリッキーな変形から、正五角形の世界の奥深さを垣間見ることができる。この先に立ち込めている暗雲の象徴なのかもしれない。
¶2. 緑エリアの面積は求まったので、あとは赤い二等辺三角形を片付ければいい。 △OQR の面積を求めたい。この三角形の底辺を QR とすると、底辺の長さは 1。この三角形の高さは、 O から QR の中点 C までの距離。三平方の定理から:
(OC の長さ)2 = ((√5 + 1)/2)2 − (1/2)2 = (6 + 2√5 − 1)/4
= (5 + 2√5)/4
従って OC の長さ = [√(5 + 2√)]/2 ← 三角形の高さ
△OQR の面積は:
底辺 × 高さ ÷ 2 = 1 × [√(5 + 2√)]/2 ÷ 2 = [√(5 + 2√)]/4 ‥‥②
正五角形は、緑の三角 2 個と赤の三角 1 個から成るので:
正五角形の面積 = ① × 2 + ② = 1/4⋅(√(10 + 2√) + √(5 + 2√)) 《あ》
面積が求まった! 一応、これで正しい数値も得られる。
だがここで、思わぬ事実が発覚する。《あ》の丸かっこ内は、次のように簡約できるのだ。
√(10 + 2√) + √(5 + 2√) = √(25 + 10√) 《い》
何、この足し算?! 一体どうして、この左辺の和が右辺になるの…?
¶3. 「等しいもの」の平方は等しいから、本当に《い》の等号が成り立つなら、《い》の両辺の平方は等しいはず。つまり、《い》右辺は「平方すると 25 + 10√5 になる正の数」という意味だから、もし《あ》の丸かっこ内(正の数である)の平方が本当に 25 + 10√5 に等しいのなら、《い》は正しい。
(√(10 + 2√) + √(5 + 2√))2
= (10 + 2√5)
+ 2√(10 + 2√)⋅√(5 + 2√)
+ (5 + 2√5)
=
15 + 4√5 + 2√(70 + 30√) 《う》
ただし、右端の根号の下の値については、公式 √u × √v = √(uv) に u = 10 + 2√5, v = 5 + 2√5 を当てはめて uv を求めた。つまり…
(10 + 2√5)(5 + 2√5) = 50 + 20√5 + 10√5 + (2√5)(2√5) = 50 + 30√5 + 20
= 70 + 30√5
さて √(70 + 30√) とは、平方すると 70 + 30√5 になる数。ところが…
70 + 30√5 = 25 + 2⋅15√5 + 45
= (5)2 + 2(5)(3√5) + (3√5)2 = (5 + 3√5)2
…なので、5 + 3√5 を平方すると 70 + 30√5 になる!
すなわち √(70 + 30√) = 5 + 3√5 《え》
《え》を《う》に代入すると:
(√(10 + 2√) + √(5 + 2√))2
= 15 + 4√5 + 2√(70 + 30√)
= 15 + 4√5 + 2(5 + 3√5)
= 25 + 10√5
確かに《い》の左辺の平方は、右辺の平方に等しい!
むむむ…これは、やり方を知らないと難しい…。大丈夫、これを機械的に淡々と実行する方法がある。ここではあまり話を広げないけど、《え》の変形(二重根号解消)が重要な鍵となってる。
ともかく《い》が成り立つので、結論は次の通り。
一辺 1 の正五角形の面積 √(25 + 10√)/4 = 1.7204774…
ちなみに、分子の根号下から 25 = 52 をくくり出すと、
5√(1 + 2√/5)/4
= (5/4)√(1 + 2/√) あるいは (5/4)√(1 + (2/5)√)
などと書くこともできる。
¶4. 《え》の左辺では根号が二重(ネスト、入れ子)になってるが、右辺では一重。このような denest(ing)――根号のネストの簡約・解消――は常に可能とは限らず、可能だとしても一般には難しい。特に《い》は単純な denesting ではなく、「個々の二重根号は簡約できないけど、それらの和(線型結合)は簡約可能」――という特殊なタイプ。このタイプについては、 Borodin たちの論文 [1] に記述がある。
[1] Borodin, et al.: Decreasing the Nesting Depth of Expressions Involving Square Roots, p. 184
《え》の部分だけなら、よくあるパターン: a + b√5 を平方して 70 + 2⋅15√5 になるとすれば…
(a + b√5)2 = (a2 + 5b2) + 2ab√5 = 70 + 2⋅15√5
…という関係から ab = 15。 a, b が整数であるとするなら ab = 15 なので {a, b} = {1, 15} or {3, 5} だろう。そのうち a2 + 5b2 = 70 になるものが見つかればいい: 一方が 15 だと過大なので、可能性としては a = 3, b = 5 か、または a = 5, b = 3。前者は過大、後者は条件を満たす。
[1] のアルゴリズムは、任意個の二重根号の和に関する一般的なもの。参考として、(任意個ではなく)二つの二重根号の和に話を限った簡易バージョンを引用する。
Borodin のアルゴリズム(機能限定版) ℓ√(a + b√) + L√(A + B√) の形の 2 項の和が与えられたとき、その 2 項の積
√(a + b√) √(A + B√)
= k の二重根号を除去できるか検討せよ。もし k の二重根号が解消されるなら、与えられた和は次の 1 項に簡約される:
(ℓ + kL/(a + b√)) √(a + b√) 《お》
〔注〕 分数の部分については、分母・分子に a − b√r を掛ければ簡単化できる(分母の有理化)。直ちにその処理を行ってもいいし、 ℓ と分数を足してからその処理をしてもいい。
《お》が正しい理由。分配法則を使って《お》を展開すると、第1項は、もともとの和の第1項と同じ。第2項…
kL √(a + b√) / (a + b√)
= (√(a + b√) √(A + B√)) L √(a + b√) / (a + b√)
…において、分子に生じる (√(a + b√))2 と分母は、約分されて消滅。だからこの第2項は、もともとの和の第2項に等しい。
われわれの例では √(a + b√) = √(10 + 2√), √(A + B√) = √(5 + 2√) で、それらの積 k = 5 + 3√5 では二重根号が解消される(《え》参照)。 ℓ = L = 1 なので、《お》に当たる式は:
(1 + (5 + 3√)/(10 + 2√)) √(10 + 2√)
= [(5 + √)/4] √(10 + 2√)
= (1/4) (5 + √5) √(10 + 2√) 《おお》
このような形の積は、以下の手順で √u × √v = √(uv) の計算になる。正の数 5 + √5 は、その平方 (5 + √5)2 の正の平方根に等しいので:
(5 + √5) √(10 + 2√)
=
√[(5 + √)2] √(10 + 2√)
=
√(30 + 10√) √(10 + 2√)
= √(400 + 160√)
= 4√(25 + 10√)
《おお》はその 1/4 だから、結果は《い》の通り。
《い》の左辺 √(10 + 2√) + √(5 + 2√)
については
√(5 + 2√) + √(10 + 2√) と見ることもできる。このように和の順序を入れ替えてから《お》を適用すると:
(1 + (5 + 3√)/(5 + 2√)) √(5 + 2√)
= √5 √(5 + 2√)
= √(25 + 10√)
最初より楽に同じ結論が出た。上記の Borodin のアルゴリズムを実行する場合、二つの項のどちらを第1項と見なしても構わないが、その選択によって、計算量(手間)が変わることがある。
〔追記〕 このアルゴリズムについては、正17角形の研究と関連して、再び扱う。
¶5. 教訓。一つ一つは二重根号を外せない項でも、「二重根号を外せない項」と「二重根号を外せない項」の和が「一つの二重根号」に簡約可能なケースがある。
√(10 + 2√) + √(5 + 2√) = √(25 + 10√)
特に「似た形の二重根号の和・差」は簡約できるかもしれないと考え、試しに掛けてみるべし。上の左辺が与えられたとき、2項の積…
√(10 + 2√) × √(5 + 2√)
…が denest 可能なら、2項の和を簡約できるかもしれない。すなわち…
√(10 + 2√) × √(5 + 2√)
= √(70 + 30√)
= 5 + 3√5
…ということから:
(√(10 + 2√) + √(5 + 2√))2
= (10 + 2√5) + (5 + 2√5) + 2(5 + 3√5) = 25 + 10√5
従って √(10 + 2√) + √(5 + 2√) = √(25 + 10√)
この場合、¶4 の一般的アルゴリズムを使うより、積の denest の後、単に「問題の和」の平方を考えるのが手っ取り早い。
最初は楽しいピクニック気分だったのだが、足し算の答えを簡約する部分で、青天のへきれき、予期せぬ事態が待ち構えていた。正五角形は、かわいい星形の仲間だけど、えたいの知れない何かを秘めている…。「かいじゅうペンタゴン」と名付けておこう。
三角関数を使う普通の方法については次回に…。「普通」の方法といっても、相手は「かいじゅうペンタゴン」。何が起きるか分からないぞ!
2024-03-05 一辺 a の正五角形の面積 cot バージョン
「一辺 1 の正五角形の面積」(算数バージョン)は、簡単そうに見えて意外な困難を含んでいた。話をいったんリセットして、今回は素直に三角関数を使う。
正五角形 ABCDE の中心 O と各頂点を線で結ぶと、正五角形は 5 個の合同な三角形に分割される。分割されてできる三角 1 個分の面積を求め、それを 5 倍したら、見通しが良さそう。
この三角形の面積は、三角関数を使えばスッキリ表現可能。画像のように、単位円(半径 1 の円)に内接する正五角形を描いたとすると、緑の △AOE について、底辺 AE の長さは |AP| = sin 36° の 2 倍、高さ |OP| は cos 36° なので…
緑三角の面積 = 底辺 × 高さ ÷ 2
= 2 sin 36° × cos 36° ÷ 2 = sin 36° cos 36°
AE が底辺なので、三角形の高さは図の「横」方向。
単位円だとすると |OA| = 1 で、そのとき、正五角形の一辺の長さ |AE| は――言い換えると、緑の三角形の底辺の長さは―― 1 じゃないけど、図を拡大・縮小したものを考えれば、その件については簡単に調整できる。縦横比を保って拡大しても縮小しても、緑の三角形の内角が 54°–54°–72° ってことは変わらないから、三角形の底辺と高さの比は一定。その比に従って、|AE| が望みの値のときの三角形の高さ |OP| を求めることは、ただの比例の問題…
¶6. 準備として、各部の角度を確認しておく。
分割されてできる △AOB, △BOC, △COD などの ∠O の大きさは、どれも…
360° ÷ 5 = 72°
正五角形の各頂点は中心に対して立場が対等なので(中心と各頂点の距離は等しい)、五つの三角形は合同、しかも二等辺! この二等辺三角形の、等しい 2 角の大きさは…
(180° − 72°) ÷ 2 = 54°
従って、中心 O と、一つの辺(例えば AE)の中点 P を線で結ぶと、「正五角形の 5 分の 1 サイズ」の三角形はさらに二等分され、36°–54°–90° の直角三角形が二つできる。
便宜上、仮に円(正五角形に外接する)の半径 |OA| を 1 とした場合…。三角関数の用語を使うと、∠AOP = 36° に対応する隣辺 OP の長さが cos 36°、対辺 AP の長さが sin 36° であること――従って正五角形の一辺 AE の長さが 2 cos 36° であること――は、明らかだろう。
結論として…
|AE| : |OP| の比 2 sin 36° : cos 36° 《か》
本題と関係ないけど、正五角形の一つの内角の大きさは 108° ってことも、図から読み取れる。その直接の根拠は、①三角形の内角の和が 180° ってことと、②正五角形は三つの三角形に分割できるってこと。 ①②から、正五角形の内角の和は「三角形の内角の和」の三つ分(180° × 3 = 540°)、そして正五角形の 5 個の内角は等しいんだから、一つの内角は 540° ÷ 5 = 108° となる。
このへんは、素朴な算数っぽい。
¶7. |OA| = 1 という便宜上の仮定を取り消して、以下、外接円の半径を指定せず、単に |AE| と |OP| だけを問題にしよう。 |AE| の長さを a とすると、それは正五角形の一辺の長さであり、(正五角形の 5 分の 1 サイズの)三角形の底辺の長さでもある。
|AE| = a のときの三角形の高さ |OP| を h とすると、《か》の関係から…
a : h = 2 sin 36° : cos 36° つまり a cos 36° = 2h sin 36°
両辺を 2 sin 36° で割ると…
h = (a cos 36°)/(2 sin 36°) = (a/2) cot 36°
ここで cot つまり cotangent(コタンジェント)は、cos を sin で割ったもの; tan というのは sin を cos で割ったものなので、cot は tan の逆数に当たる。
〔例〕 cot 30° = cos 30°/sin 30° = (√3 / 2)/(1 / 2) = √3
これは tan 30° = sin 30°/cos 30° = 1/√3 の逆数。
ってなわけで、(正五角形の 5 分 の 1 サイズの)三角形の面積ってのは…
a × h ÷ 2 = a × a/2 cot 36° ÷ 2 = a2/4 cot 36°
正五角形の面積は、その5倍なので…
一辺の長さ a の正五角形の面積 (5a2/4) cot 36°
ほれぼれするようなシンプルな式が得られた!
喜ぶのは
cot 36° を
求めてから
にしろよ…
特に一辺の長さ a = 1 なら、面積は 5/4 cot 36° となる。前回のあの難解な計算と比べると、何という優雅さであろう。
きれいな式は気持ちがいい!
¶8. 問題は cot 36° の計算に帰着した。ここまでで既に分かってることとして…
〔注〕 他のメモでは sin 36° が sin 144° として表記されていることもある。どちらの値も同じ。
この二つの値については、¶1 でやったように、作図から幾何学的に求めるのが最速だが、代数的に求めることもでき、その場合、cos の5倍角の公式から cos 18° を求め、倍角の公式を適用するのが比較的楽(他にも幾つか方法はある)。一方が求まったら、その2乗を 1 から引いた平方根により、他方も求まる。この場合、先に sin を求めると、cos の計算では、簡単な二重根号除去が必要になるかも。
三角関数の世界内で cot を求める方法は、いろいろある…。(I) そのまま cos を sin で割る。簡単な割り算で済めばいいのだが、 36° の場合、cos を sin で直接割ろうとすると、トリッキー。 (II) tan を求めて、その逆数を使う。この場合、tan の計算を sin ÷ cos でやるなら (I) と大同小異かもしれないが、恒等式…
cos2 θ + sin2 θ = 1
…の両辺を cos2 θ で割ると:
1 + tan2 θ = sec2 θ 《き》
ついでに同じ恒等式の両辺を sin2 θ で割ると:
cot2 θ + 1 = csc2 θ 《く》
〔注〕 《き》について、第2項は sin2 θ/cos2 θ = (sin θ/cos θ)2 = (tan θ)2、右辺は 1/cos2 θ = (1/cos θ)2 = (sec θ)2。 《く》についても同様。
《き》の関係を利用すると、sin を一切使わずに、sec ――つまり 1/cos ――だけから tan を求められる。二重根号を含む sin 36° で直接割り算すると面倒なことになるので、これは良いアイデアかも…。 (III) 《く》によって sin の逆数 csc からも cot を求められる。 sin 36° は二重根号を含んでいるものの、逆数 csc は分母と分子をひっくり返すだけ、しかも《く》では、その逆数が平方されるので、外側の根号が自然消滅してくれる。
その他、可能性としては、 (IV) 半角の公式の利用――などなど、さまざまな経路が考えられる。
実は sec 36° は、次のようにシンプルな形を持つ。
sec 36° = 1/cos 36°
= 4/(√5 + 1)
= 4(√5 − 1)/((√5 + 1)(√5 − 1))
= 4(√5 − 1)/(5 − 1)
= √5 − 1
分数がなくなり、いかにも簡単そうに見えるので、試しに (II) の方法を使ってみたい。《き》から:
tan2 36° = sec2 36° − 1 = (√5 − 1)2 − 1 = (6 − 2√5) − 1 = 5 − 2√5 《け》
その逆数を考えて、分母を有理化:
cot2 36° = 1/(5 − 2√5)
= (5 + 2√5)/(25 − 20)
= (5 + 2√5)/5
cos 36°, sin 36° は正なので、それらの商は正。従って、上記の値の正の平方根を考えれば…
cot 36° = (√(5 + 2√))/√
= (√(25 + 10√))/5
これを前節の結論に当てはめると:
一辺の長さ a の正五角形の面積 = 5a2/4 cot 36°
= 5a2/4⋅(√(25 + 10√))/5
= (a2√(25 + 10√))/4
a = 1 の場合は前回の計算と一致。今回は二重根号の魔性に惑わされることなく、とんとん拍子に計算が進んだ! 大ざっぱな暗算として、上の分子の大きな根号の中身は 25 + 22.36… = 47.36… なので、その平方根は 7 より少し小(なぜなら 47.36… は 72 = 49 より少し小)。従ってこの分数は 7a2/4 = 1.75a2 より少し小さい。
〔参考〕 6.882 = 47.3344 なので、問題の平方根は 6.88 よりわずかに大きい。よって a2 の係数は、 6.88/4 = 1.72 よりわずかに大。計算機によると、正確な値は 1.7204774…。
¶9. 別解。前節での経験によれば cot2 36° 経由は難しくない。よって (III) を使って、《く》から
cot2 36° = csc2 36° − 1
としても、いけるであろう。 sin の逆数の2乗から…
csc2 36° = 16/(10 − 2√)
= 16(10 + 2√)/(100 − 20)
= (10 + 2√)/5
だから:
cot2 36° = (10 + 2√)/5 − 1 = (5 + 2√)/5
この先は前節と同じ。こっちの方がさらに速いかも!
¶10. 魔の森。 cot = cos/sin という素朴な (I) の方法では、分母に二重根号が生じ、それを普通に解消すると、簡約しにくい積が分子に生じる。どう進めるのが本来なのか分からないけど、トリッキーな方法で計算自体は可能。参考までに記す。
cot 36° = cos 36° ÷ sin 36°
= (√5 + 1)/4 ÷ (√(10 − 2√))/4
= (√5 + 1)/(√(10 − 2√)) ‥‥➊
普通に考えると、分母の二重根号を外すため、分子・分母に √(10 − 2√) を掛けるか、または √(10 + 2√) を掛けるしかないだろう。前者の選択だと:
cot 36°
= [(√5 + 1) √(10 − 2√)]/(10 − 2√)
= [2 √(10 + 2√)]/(10 − 2√)
= [√(10 + 2√)]/(5 − √)
= [√ √(5 + √)]/(5 − √)
二つ目の等号では、いつものトリックを使った。
分母を有理化するため、分子・分母を 5 + √ 倍:
cot 36° = [√ (5 + √)3/2]/(25 − 5) ‥‥➋
ここで (5 + √)3
= 125 + 3⋅25√ + 3⋅5⋅5 + 5√ = 200 + 80√ なので、次の等式が成立:
(5 + √)3/2 = √(200 + 80√)
これを➋に入れて:
cot 36° = [√ √(200 + 80√)]/20
= [√(400 + 160√)](20
= [4√(25 + 10√)]/20
= [√(25 + 10√)]/5
求める式が得られた。――あるいは➊の分子・分母に √(10 + 2√) を掛けると:
cot 36° = [(√5 + 1) √(10 + 2√)]/(√(100 − 20))
= [(5 + √5) √(5 + √)⋅√]/(√5⋅√)
= [(5 + √5)3/2⋅√]/20
これは➋と等しいので、以下同じ。比較で言えば、こっちの方が少し速いか。
新たなトリックは (5 + √)√(5 + √) のような積を (5 + √)3/2 つまり (√(5 + √))3 と見て、展開すること。見通しのいい計算とは言い難いものの、Borodin [1] の例題に含まれる √(1 + √) と √(10 + 6√) の関係も (前者)3 = (後者) なので、多重根号処理に関連して一つの典型的パターンなのかも。
正五角形の世界では √(√ ± 1) ――あるいはそれを 4√ 倍した √(5 ± √) ――のような数が、しばしば基本単位のように機能するようだ。二つのトリックは、どちらもそれを軸とする。
¶11. tan = sin/cos から直接的に tan 36° を求め、その逆数として cot 36° を得ることも原理的には可能。この方法での tan の計算でも、上記「二重根号の立方」のトリックが奏功する。
tan 36° = sin 36° ÷ cos 36°
= [√(10 − 2√)]/(√5 + 1)
= [√(10 − 2√)(√5 − 1)]/(5 − 1)
= [√(2√)⋅{√(√ − 1)}(√ − 1)]/4
= [√(2√)]/4 × (√ − 1)3/2
= [√(2√)]/4 × (5√ − 3⋅5 + 3√ − 1)1/2
= [√(2√)]/4 × √(8√ − 16)
= 1/4(√80 − 32√) = (√5 − 2√)
この値は、《け》で求めた tan2 36° の値 5 − 2√5 と、つじつまが合っている。
cot は tan の逆数なので:
cot 36° = 1/(√5 − 2√)
= (√5 + 2√)/(√25 − 20)
= (√5 + 2√)/√5
= (√25 + 10√)/5
再び cot 36° を得た。 sec 経由や csc 経由に比べると、cos と sin の比として 36° の cot, tan を求めるやり方は、かなり面倒くさい。だが、上記のようなトリッキーな計算過程には、それ自体として好奇心を刺激する面もある。
教訓。 tan, cot を求めるとき、単純に sin/cos, cos/sin とする以外にも、やり方はいろいろある。直接の割り算が厄介なら、臨機応変に tan2 θ = sec2 θ − 1, cot2 θ = csc2 θ − 1 を活用すべし。
cos 36°, cos 72° = (√5 ± 1)/4 の逆数…
sec 36°, sec 72° = 4/(√5 ± 1)
= 4(√5 ∓ 1)/((√5 + 1)(√5 − 1))
= √5 ∓ 1
…のシンプルさは注目に値する。
それを認識した上で、効率ばかりを追求せず、あえて難路に踏み込んでみるのも、また一興。
2024-03-07 cot 36° の直接計算 珍奇なアプローチ
前回、正五角形の面積の計算に使う cot 36° を、間接的に―― cos 36° などの値を経由して――求めた。実は cot 36° を代数的に直接求める方法もある。
その一つは「tan 5θ の式を tan5 θ で割って4次方程式を得る」という奇手。意外とエレガントで、実質、2次方程式を一つ解くだけで cot 36° が求まる。もしかすると cot 36° の直接計算としては、この方法が最速かも…
¶12. tan の5倍角の公式…
tan 5θ = (5 tan θ − 10 tan3 θ + tan5 θ)/(1 − 10 tan2 θ + 5 tan4 θ) 《こ》
…は、いきなり提示されると難解・特殊に感じられるかもしれないけど、二項係数 1, 5, 10, 10, 5, 1 を交互に分母・分子に散りばめたに過ぎない(説明)。
この分子・分母を tan5 θ で割ると、 1/tan θ = cot θ なので:
tan 5θ = (5 cot4 θ − 10 cot2 θ + 1)/(cot5 θ − 10 cot3 θ + 5 cot θ) 《ご》
ただし (tan θ)5 での割り算にしても、 cot θ = 1/tan θ にしても、 0 で割ることは許されないので tan θ ≠ 0 という条件を付ける。従って、《ご》において θ = 0° という入力は許されない。
参考として cot θ のグラフ(青の実線)と tan θ のグラフ(オレンジの点線)の画像を挿入しておく。
5θ = 0°, ±180°, ±360° のとき tan 5θ = 0 となって《ご》の左辺はゼロ。このとき θ = 0°, ±36°, ±72° だが、単純に考えると、左辺がゼロならそれに等しい右辺もゼロ。そのとき《ご》の分子の値はゼロになるはず。ただし θ = 0° は許されないので、それを除外すると「θ = ±36°, ±72° のとき《ご》の分子はゼロ」という結論に。
θ に 180° の整数倍を加減しても同じ値が反復されるけど(tan, cot は 180° 周期なので)、反復される同じ値を区別せず、相異なる値だけを問題にすると、cot (±36°) と cot (±72°) の四つが、《ご》の分子の根。それら四つの根については、簡潔に ±cot 36°, ±cot 72° と表現できる――なぜなら cot (−θ) = −cot θ。
cot θ = x と置くと、結局…
《ご》分子 = 0 つまり 5x4 − 10x2 + 1 = 0
…の正の解は x = cot 36°, cot 72° に当たり(前者の方が大きい)、負の解は x = −cot 36°, −cot 72° に当たる(解の正負・大小については、青い cot のグラフの −90° から 90° の区間を参照)。四つの解は、絶対値が同じで符号が反対の 2 対。
従って、上の4次方程式で y = x2 と置いた2次方程式…
5y2 − 10y + 1 = 0
…の2解は y = cot2 36° と y = cot2 72° に相当し、数値的には前者の方がでかい。上の2次方程式を解くと:
y = (5 ± √25 − 5)/5
= (5 ± 2√5)/5
解の大小・正負についての条件から:
cot2 36° = (5 + 2√5)/5
∴ cot 36° = [√(5 + 2√)]/√
= [√(25 + 10√)]/5
前回と同じ結果が、意外とスムーズに得られた!
同様に、副産物として、次の値が得られる。
cot 72° (= tan 18°) = [√(25 − 10√)]/5
《こ》の分子・分母を tan5 θ で割るのが鍵となった。その後は単純計算で、二重根号が絡むトリッキーな状況も生じない。別解として、cot の5倍角を出発点とする方法もある。どちらも人気のない珍奇な方法らしく、文献には記されてないようだ…。
本題とは関係ないが、θ → 0 のときの《ご》の分数について。 θ = 0° は許されないのだが、その許されない角度に「等しくはならないが、限りなく近づく」とき(政治家の答弁のような怪しい表現w)、何が起きるのだろうか。
(5 cot4 θ − 10 cot2 θ + 1)/(cot5 θ − 10 cot3 θ + 5 cot θ)
tan θ の逆数という意味から(グラフの青線からも)明らかなように、θ がプラス側から 0° に近づくとき cot θ は +∞ に発散し、θ がマイナス側から 0° に近づくとき cot θ は −∞ に発散する。上の分数の分子に含まれる cot θ は偶数乗されてるので、それらの項は、いずれにしても +∞ に行く。逆に分母の cot θ は奇数乗されてるので、θ が正負どちらの側から 0° に近づくかに応じて、正または負の無限大に発散する。でも、分子は4乗、分母は5乗なので、発散する勢いは分母の方が激しい。いくら分子が +∞ に向かっても、それを上回る勢いで分母が ±∞ に突進するので、割り算的には分母が勝って、商は ±0 に近づく。
念のため、x = cot θ と置いて、このことをもう少し具体的に観察すると…上の分数はこうなる。
(5x4 − 10x2 + 1)/(x5 − 10x3 + 5x)
分子・分母を x4 で割ると:
[5(1/x) − 10(1/x3) + (1/x5)]/[1 − 10(1/x2) + 5(1/x4)] ☆
θ → ±0° のとき x = cot θ → ±∞ なので、丸かっこ内の 1/x や 1/x2 や 1/x3 などは、どれも分母の絶対値が限りなく大きくなり、丸かっこ内の値は限りなく 0 に近づく。その結果、☆ は限りなく次の値に近づく:
[5(0) − 10(0) + (0)]/[1 − 10(0) + 5(0)] = 0/1 = 0
この最後の計算は、《ご》の由来となった《こ》に θ = 0° を代入して tan θ = 0 となった場合と一致。より正確には、この分数の極限値は ±0/1 = ±0 だが、それが tan (±0°) = tan 0° と一致するということから、結局これは、次のような当たり前の主張とほぼ同じ意味(グラフのオレンジの点線参照): 「正の角度 θ がグラフの右側から 0 に近づくとき、正の値 tan θ は 0 に近づく」「負の角度 θ がグラフの左側から 0 に近づくとき、負の値 tan θ は 0 に近づく」―― θ = 0° 前後での tan θ の振る舞いは、ごく普通の連続的なもので、特殊な問題は生じない。
結局 θ が ±0° に限りなく近づくとき、《ご》の分子はゼロになるどころか +∞ に発散するけど、分母が ±∞ に発散する勢いの方が上なので、分数《ご》全体の値は ±0 に向かう――厳密な議論ではないかもしれないが、直観的にはそうなる。少なくとも θ = 0° は《ご》の分子の根(零点)ではない、ということは断言できる。そのとき分子は、ゼロになるどころか値が定義すらされない(あえて言えば無限大になる)のだから。
2024-03-09 cot 36° の直接計算(続き) cot の加法定理
前回の続き。今度は cot の5倍角から。 cot 18° の倍角として cot 36° を得るのは定型的なコースで、計算練習程度の意味しかない。
加法定理を使った cot (54° − 18°) の計算は、二重根号だらけで、初見では困惑するかもしれない。
(√(5 − 2√) √(5 + 2√) + 1)/(√(5 + 2√) − √(5 − 2√)) なんじゃこりゃ?w
あの手この手のトリックを重ね、華麗なのか強引なのか、とにかくコイツを簡約する。
¶13. sin (α + β) を cos (α + β) で割ると tan (α + β) を得る。ひっくり返して cos (α + β) を sin (α + β) で割れば cot (α + β) を得る。詳細については、tan の多倍角を参照。
cot (α + β) = (cos α cos β − sin α sin β)/(sin α cos β + cos α sin β)
= (cot α cot β − 1)/(cot β + cot α) 《さ》
最後の等号では、分子・分母を sin α sin β で割った。
cot の加法定理 cot (α + β) = (cot α cot β − 1)/(cot β + cot α)
〔注意〕 分母を cot α + cot β と書いても構わないし、その方が自然に思えるが、半面、その書き方をした場合、引き算バージョン cot (α − β) の分母の項の順序が逆になってしまい、若干紛らわしい。《さ》と同様に考えれば:
cot (α − β) = (cos α cos β + sin α sin β)/(sin α cos β − cos α sin β)
= (cot α cot β + 1)/(cot β − cot α)
まとめて複号で書けば:
cot (α ± β) = (cot α cot β ∓ 1)/(cot β ± cot α)
この式は、tan の加法定理 tan (α + β) = (tan α + tan β)/(1 − tan α tan β) の逆数からも、導出可能。
cot (α + β) = 1/tan (α + β)
= (1 − tan α tan β)/(tan α + tan β)
最後の分数の分子・分母を tan α tan β で割ると、こうなる:
分子 = 1/(tan α tan β) − 1
= 1/tan α⋅1/tan β − 1 = cot α cot β − 1
分母 = 1/tan β + 1/tan α = cot β + cot α
cot の加法定理で、二つの角度が等しい場合。 α = β = θ と置くと…
cot の2倍角 cot 2θ = (cot2 θ − 1)/(2 cot θ)
この式は、tan の2倍角 tan 2θ = (2 tan θ)/(1 − tan2 θ)
の逆数からも、導出可能。
cot 2θ = 1/tan 2θ
= (1 − tan2 θ)/(2 tan θ)
この最後の分数の分子・分母を tan2 θ で割れば、同じ結論に至る。
cot 3θ = cot (2θ + θ) について、2倍角と加法定理を組み合わせれば3倍角の式になり、そこからさらに4倍角・5倍角…の式を導出できるのだが、面倒なので一般的に n 倍角の公式を考えることにしよう。簡潔化のため cot θ を q と略す。仮に n 倍角の公式…
cot nθ = F/G 《し》
…が与えられたとする。ここで F, G は q (= cot θ) についての多項式で、その具体的な形は n に応じて定まる。加法定理で α = nθ, β = θ とすると:
cot (nθ + θ) = (cot nθ cot θ − 1)/(cot θ + cot nθ)
= [(F/G)q − 1]/[q + (F/G)]
左辺を整理し、右辺については F/G を簡約するため分子・分母を G 倍すると:
cot (n+1)θ
= (Fq − G)/(Gq + F) 《す》
n 倍角の公式《し》を基準にすると、n+1 倍角の公式《す》は次の性質を持つ――「もともとの分子も分母も q 倍されるが、新しい分子からはもともとの分母が引き算され、新しい分母にはもともとの分子が足し算される」。
〔例1〕 2倍角の公式では F = q2 − 1, G = 2q なので、3倍角の公式では:
分子 = (q2 − 1)q − 2q = q3 − 3q
分母 = (2q)q + (q2 − 1) = 3q2 − 1
〔例2〕 3倍角の公式では F = q3 − 3q, G = 3q2 − 1 なので、4倍角の公式では:
分子 = (q3 − 3q)q − (3q2 − 1) = q4 − 6q2 + 1
分母 = (3q2 − 1)q + (q3 − 3q) = 4q3 − 4q
〔例3〕 4倍角の公式では F = q4 − 6q2 + 1, G = 4q3 − 4q なので、5倍角の公式では:
分子 = (q4 − 6q2 + 1)q − (4q3 − 4q) = q5 − 10q3 + 5q
分母 = (4q3 − 4q)q + (q4 − 6q2 + 1) = 5q4 − 10q2 + 1
符号を無視するなら、cot の n 倍角の公式では (q + 1)n の二項展開の各項が、分子・分母に交互に現れる。最高次の項は分子へ。降順で(q の高次の項から低次の項へ)書いた場合、実際の符号は、分子・分母とも正・負・正・負…。二項係数が現れる理由は、帰納法で説明される。まず n = 1 のときには、 cot 1θ = q/1 つまり F = q, G = 1 なので、確かに F + G = (q + 1)1 = q + 1 が成り立つ。今、仮に全てのマイナス符号をプラスに読み替えるとして、もし n 倍角の公式が F + G = (q + 1)n を満たすなら、n+1 倍角の公式の分子と分母の和は (q + 1)n+1 に等しい――なぜなら、この仮定上において n 倍角の公式の分子と分母の和を F + G とすると、n+1 倍角の公式の分子と分母の和は (Fq + G) + (Gq + F) = (F + G)(q + 1) であり、もともとの F + G の q + 1 倍に等しい。実際には、新しい分子は Fq − G だが、マイナスをプラスに読み替えた。
¶14. 上の例3で得た次の関係を利用して、cot 36° を求める。
cot 5θ = (q5 − 10q3 + 5q)/(5q4 − 10q2 + 1) 《せ》
cot についての基本事実として、θ がちょうど 180° 変わっても(あるいは 180° の整数倍、変わっても)、cot θ の値は変わらない(グラフの青線。点線は逆数の tan θ)。さらに、180° の整数倍の違いを無視するなら、cot x = 0 になるような x は、たった 1 種類: x = 1/2π = 90° の場合に限られる(x = −90°, +270° などでも cot x = 0 になるが、ここでは 180° の整数倍の違いの角度は「同じ種類」と見ている――言い換えると −90° < x ≤ 90° の範囲の x だけを考えている)。この意味において、cot 5θ = 0 を満たす角度 5θ は 1 種類しかない。にもかかわらず、cot 5θ = 0 を満たす角度 θ は 5 種類存在する: θ = ±18°, ±54°, +90° がそれ。
〔補足〕 これについては、角度をラジアンで表現した方が見通しがいい。 cot 5θ = 0 は
5θ = ±1/2π, ±3/2π, ±5/2π, …
と同値だが、それは
θ = ±1/10π, ±3/10π, ±5/10π, …
と同値で、それらの θ の中に、上記の不等式の範囲内の角度が 5 種類ある。
何が起きているか、可視化してみる(二つ目の画像では、縦横の比が変更されている)。 cot 5θ のグラフ(黄緑・細線)は、cot θ のグラフ(青・太線)と同じ形を持つが、角度が5倍されるので、5倍に「加速」される―― cot θ が −90° から 90° までの1周期を完結する間に、同じ動きを 5 分の 1 の周期で 5 回繰り返す。言い換えると、グラフの縦が同じで横が 5 分の 1 に圧縮されている。従って cot 5θ は −90° < θ ≤ 90° の区間で 5 回ゼロになる(横軸と交わる); それは θ = ±18°, ±54°, 90° のとき起こり、そのときの――黄緑が横軸と交わるときの――青い cot θ の値が cot 18°, cot 54° など。 cot 18° が 3 よりわずかに大きいことが読み取れる。
θ がこの 5 種類のどれかなら、《せ》の左辺はゼロになり、それと等しい《せ》の右辺も当然ゼロ、従って《せ》の分子の5次式はゼロになる。言い換えると、《せ》の分子の五つの根 q (= cot θ) は、上記の五つの角度に対応している。そのうち θ = 90° つまり q = cot 90° = 0 は q5 − 10q3 + 5q = q(q4 − 10q2 + 5) = 0 の自明な解。われわれはそれ以外の解(つまり q ≠ 0 の場合)に、興味がある。要するに、次の4次方程式の解を知りたい。
q4 − 10q2 + 5 = 0
上記の考察から、その四つの解は q = ±cot 18°, ±cot 54° だが、そのうち正の解は cot 18°, cot 54° で、グラフから明らかなように、前者の方が大きい。 y = q2 と置くと、問題の4次方程式はこうなる。
y2 − 10y + 5 = 0
それを解くと:
y = −(−5) ± √((−5)2 − 1⋅5) = 5 ± 2√5
複号でどちらを選んでも、この y は正。複号が表す二つの実数それぞれの、正と負の平方根から(そして、解の正負・大小についての考察から)、次の結論を得る。
cot 18° = √(5 + 2√) = 3.0776835…
cot 54° = √(5 − 2√) = 0.7265425…
cot (−18°) = cot 162° = −√(5 + 2√)
cot (−54°) = cot 126° = −√(5 − 2√)
これらのデータから、肝心の cot 36° をどう導くか? 公式の形を眺めると cot 18° に2倍角の公式を適用するのが、比較的簡単そう。加法定理から cot (54° − 18°) とする手もあるけど、その方法だと、分母に二重根号の付いた数同士の引き算が生じる。
¶15. cot 18° = √(5 + 2√) を cot の2倍角の式…
cot 2θ = (cot2 θ − 1)/(2 cot θ)
…に代入すると:
cot 36° = ((5 + 2√) − 1)/(2√(5 + 2√))
= (√ + 2)/(√(5 + 2√)) 《そ》
《そ》の分母の二重根号を簡約するには、普通に考えると、分子・分母に √(5 + 2√) を掛けるか、あるいは、分子・分母に √(5 − 2√) を掛けるしかないだろう。前者を試すと:
cot 36° = ((√ + 2) √(5 + 2√))/(5 + 2√)
= ((5 − 2√)(√ + 2) √(5 + 2√))/(25 − 20)
二つ目の等号では、分母を有理化するため、分子・分母を 5 − 2√ 倍した。ラッキーなことに、分子のゴチャゴチャが自然に解消され (5 − 2√)(√ + 2) = √ となるため†、容易に次の結論に至る。
cos 36° = (√ √(5 + 2√))/5
= (√(25 + 10√))/5 《ぞ》
† このことは直接展開して整理すれば確かめられる。実は (5 − 2√)(√ + 2) = √(√ − 2)(√ + 2) = √ [(√)2 − 22] の角かっこ内が 1 になる。
一方、もし《そ》の分子・分母に √(5 − 2√) を掛ける選択をすると:
cot 36° = (√(5 − 2√) (√ + 2))/(√)
= (√(5 − 2√) (5 + 2√))/5
二つ目の等号では、分子・分母を √ 倍した。この場合、ほんの少しトリッキーだが、次のように、分子の丸かっこ内をあえて平方根の自乗と見て、分子に三つの大きな根号がある形を作り、その根号の一つ目と二つ目を掛け合わせれば、《ぞ》と同じ展開になる。
分子 = √(5 − 2√) (5 + 2√) = √(5 − 2√) √(5 + 2√) √(5 + 2√)
= √ √(5 + 2√)
最後の大きな根号の前の小さな √ の中身は、次の計算による:
(5 − 2√)(5 + 2√) = 52 − (2√)2 = 25 − 4⋅5 = 5
¶16. 加法定理による方法は、もっとトリッキー。 cot 54° = √(5 − 2√) と cot 18° = √(5 + 2√) を cot の加法定理…
cot (α ± β) = (cot α cot β ∓ 1)/(cot β ± cot α)
…に代入すると:
cot (54° − 18°) = (√(5 − 2√) √(5 + 2√) + 1)/(√(5 + 2√) − √(5 − 2√))
このゴチャゴチャした分数をどうするか。パズル感覚でやってみたら、結構、楽しめるかも…
以下の方法は、あくまで自己流の遊び。模範解答かどうかは、分からない。
分子は、前節同様、普通に計算すれば √ + 1 になる。問題は分母の引き算。分子・分母に √(5 + 2√) + √(5 − 2√) を掛けることで、分母を簡単化できるものの、それをやっても「問題を分子に丸投げ」するだけ(結局うまくいくけど、少し回り道になる)。第一の鍵となるのは、分母の有理化ではなく、二重根号の和や二重根号の差の簡約――積が denest 可能なら、簡約できる(「算数バージョン」で経験した手品のような現象)。積…
√(5 + 2√) × √(5 − 2√) = √
…では、二重根号が一重になるのだから、次のアイデアを使える: 「ゴチャゴチャ」の平方が「きれいな式」なら、「ゴチャゴチャ」は「きれいな式の平方根」に等しい(正負の設定に注意)。具体的に、分母のゴチャゴチャは正なので…
(√(5 + 2√) − √(5 − 2√))2
= (5 + 2√) − 2(√) + (5 − 2√) = 10 − 2√
…の正の平方根に等しい。前記の分子の計算と、今述べた分母の簡約をそれぞれ実行すると、最初の分数はこうなる。
cot 36° = (√ + 1)/(√(10 − 2√))
= ((√ + 1) √(10 + 2√))/(√)
二つ目の等号では、分母の有理化に向けて、分子・分母を √(10 + 2√) 倍した。
ここから幾つかの道が考えられるけど、一番素直なのは、分母を √ = 4√ と整理してから、分子・分母を √ 倍することだろう。
cot 36° = ((√ + 1) √(10 + 2√))/(4√) = ((5 + √) √(10 + 2√))/20
ここでもう一つのトリックを使う――この分子の大きな平方根から √ をくくり出すと、次のように (5 + √)3/2 を作れる(¶10参照)。
分子 = (5 + √) √(5 + √)⋅√
= √(5 + √) √(5 + √) √(5 + √)⋅√
ここまで来れば、後は単純計算の一本道。
分子 = √((5 + √)3)⋅√
= √(125 + 3⋅25√ + 3⋅5⋅5 + 5√)⋅√
= √(200 + 80√)⋅√ = √(400 + 160√) = 4√(25 + 10√)
従って、上記の分数は、こうなる。
((5 + √) √(10 + 2√))/20
= (4√(25 + 10√))/20
= (√(25 + 10√))/5
二つのトリックを使って、再び cot 36° を得た。 cot 36° を求めたいだけなら、こんな変な経路を選択する必要はないけど、二重根号だらけの分数を簡約することには「縄抜け」の奇術のような小気味よさがある。
もし cot (54° − 18°) = (√(5 − 2√) √(5 + 2√) + 1)/(√(5 + 2√) − √(5 − 2√)) の分子・分母に √(5 + 2√) + √(5 − 2√) を掛けて整理すると、次のように、分母は簡単になるものの、分子が面倒な形になる。
{(√ + 1)[√(5 + 2√) + √(5 − 2√)]}/(4√)
この経路からでも同じ結論が得られるので、興味を覚えた方は試してみよう。前記の方法より1ステップ遠回りになると思われるが、本質的な違いはない。すぐ [ ] 内からの「縄抜け」をしてもいいし、とりあえず分子・分母を √ 倍して分母を有理化した後で、それをしてもいい。その後「二重根号の立方」のトリックを使える。工夫すれば、もっと良い方法もあるかも…
1980年ごろから、主にコンピューターによる数式処理との関連で denesting のアルゴリズムが研究されるようになった。それ以外の分野(一般的な教科書など)では、多重根号の処理について(扱われているとしても)ごく基本的なパターンしか検討されていないようだ。「同じ二重根号(中身が共役のものを含む)を三つ掛けるパターン」を利用する幾つかのトリックと、「二重根号の和あるいは差からの縄抜け」を紹介したけど、手計算との関連では、まだまだ試行錯誤・探検の余地がある。
2024-03-12 正五角形の内接円・外接円 cot と csc
再び話をリセット、正五角形の面積を求めるところから。
∠P が直角の直角三角形 OAP があって、 ∠O = 36° に注目するとしよう。このとき対辺 AP ――「注目してる角がある頂点」の向かい側にある辺――の長さを 1 とすると、隣辺 OP ――「注目してる頂点」と「直角がある頂点」を結ぶ辺――の長さは cot 36° に等しい。
もう一つの辺(斜辺 OA)の長さは csc 36° に等しい。記号 cot, csc は、それぞれ cotangent, cosecant を略したもの。この二つの語は、語源的には「余角の接線」「余角の割線」というような意味だが、以下の話は語源の意味とあまり関係ない…。
隣辺を「底辺」、対辺を「高さ」あるいは「垂辺」とでも呼んだ方が、用語としては分かりやすい。その場合、縦横・上下などの位置関係が固定されていないことに注意。「底辺」というと、図の下部にある水平方向の辺を連想してしまうかもしれない…。隣辺はあくまで「注目してる角度に隣り合う辺」。作図上、どの位置にもなり得る。同じ △OAP でも ∠A に注目すれば AP が隣辺(底辺)、OP が対辺(高さ)。ここでは、直角三角形の直交する2辺(斜辺以外の2辺)について、選択された角に近い方を隣辺、遠い方を対辺と呼ぶことにする。
¶17. 「1辺 a の正五角形の面積」において、われわれは |OA| = 1 なら |OP| = cos 36°, |AE| = 2 sin 36° となることに着目し、その比から、1辺の長さ |AE| が a のときの |OP| を計算した。間違いはないけど、いまいち見通しが悪い―― cot の問題なのに直接 cot として考えず、いったん sin, cos に翻訳しているせいだろう。使い慣れている sin, cos にこだわらず、直接 cot を使って考えてみる。
斜辺 OA の長さが 1 のとき、 OP が cos θ で PA が sin θ ――というのは基本だけど(θ = ∠AOP)、これは3辺の長さの比を表しているだけで、実際には OA の長さが 1 でなくても構わない。
OA : OP : PA = 1 : cos θ : sin θ 《た》
の代わりに、右辺の全部を定数倍(例えば 2 倍)してこう書いても、比に違いはない。
OA : OP : PA = 2 : 2 cos θ : 2 sin θ
《た》の「定数倍」として 1/sin θ 倍を選べば…
OA : OP : PA = 1/sin θ : cos θ/sin θ : sin θ/sin θ
つまり…
OA : OP : PA = csc θ : cot θ : 1 《ち》
ここで sin θ の逆数 1/sin θ が csc θ であること、tan θ の逆数 cos θ/sin θ が cot θ であることは、これらの関数の定義であり、重要な事実ではあるけど、そういう間接的な(別の関数の逆数としての)理解と同時に、「対辺が 1 のときの斜辺と隣辺がそれぞれ csc, cot だ」という直接的な可視化が役に立つ。この可視化によると、例えば AP の長さが 2 なら OP の長さが 2 cot 36° であることは、明白だろう。すると AP の長さが a/2 なら――言い換えると正五角形の一辺の長さが a なら――、OP の長さが a/2 cot 36° であることも簡単に分かる。いちいち《た》の比を使って sin, cos を経由させず、直ちに《ち》を使う!
一辺 a の正五角形の内接円の半径 r = (a/2) cot 36°
これは「正五角形の中心から、ある一つの辺までの距離」でもある(apothem: 中心と辺を結ぶ垂線の長さ。日本語では「辺心距離」と呼ばれるらしい)。言い換えれば、正五角形の辺を底辺として、正五角形の中心を頂点とする二等辺三角形(例: △EOA)の高さ。
同様に AP の長さが例えば 1/2 なら外接円の半径 OA は 1/2 csc 36°、AP の長さが a/2 なら外接円の半径 OA は a/2 csc 36° となる。
一辺 a の正五角形の外接円の半径 R = (a/2) csc 36°
こっちは「正五角形の中心から、ある一つの頂点までの距離」でもある。
¶18. cot 36° = √(25 + 10√)/5 は既に何度も導出した(¶8 か ¶9 が実用的)。それを使うと、上記のことから:
r = (a/2) cot 36° = (a/10)√(25 + 10√)
底辺が a で、高さが r の(二等辺)三角形の面積は ar/2 なので――そして一辺 a の正五角形の面積は、その三角形の面積 5 個分なので:
ar/2 × 5
= (a/2)⋅(a/10)√(25 + 10√) × 5
= (a2/4)√(25 + 10√)
csc 36° は、普通 sin 36° の逆数と定義されるけど、定義通りに素朴に計算すると、分母に二重根号が発生する――そんな面倒なことをしなくても、三平方の定理から(あるいは 1 = cos2 θ + sin2 θ の両辺を sin2 θ で割った形から)…
csc2 θ = cot2 θ + 1
…が成り立つので、直接 csc の言葉で話をしよう。
csc2 36° = cot2 36° + 1 = (25 + 10√)/25 + 1 = (50 + 10√)/25
上の式の両辺の正の†平方根を考えれば:
csc 36° = √(50 + 10√)/5
† 0° < θ < 90° の範囲の角 θ に対して、全ての三角関数の値は正。 sin の言葉で言えば、sin 36° は正なので、その逆数 csc 36° も正。
従って R = (a/10)√(50 + 10√) を得る。大きな根号の中は 50 + 22.36… = 72 少々、√ は 6√ = 6 × 1.4… = 8.46 少々なので、ざっと 8.5 とすると、この R の式は「AE の長さが a なら OA の長さは 0.85a くらい」という意味。これは、作図とつじつまが合っている。というのも、もしも ∠OAE = 60° だったら、△OAE は正三角形になり |AE| = a なら |OA| = a になっていたはずだが、実際には ∠OAE = 54° なので、∠OAE は正三角形よりは少し背が低く、斜辺も底辺より少し短い…。より正確な数値は R = (0.8506508…)a。
csc 36° そのものは |AP| = 1 つまり a = |AE| = 2 の場合なので、上の係数 0.8506508… の 2 倍に当たる。
csc 36° = √(50 + 10√)/5 = 1.7013016…
¶19. 余興として(検算を兼ねて)、 sin 36° = (√(10 − 2√))/4 の逆数――という定義通りに csc 36° を求める。
4/(√(10 − 2√)) の分子・分母に √(10 + 2√) を掛けると、分母は √ = 4√ になり、その 4 は分子の 4 と約分されるので…
csc 36° = (√(10 + 2√))/√ = (√(50 + 10√))/5
あるいは、分母の二重根号を避けるため、まず sin 36° の逆数の平方(つまり csc2 36°)を考え、普通に分母を有理化してから分数の平方根を求めても、同じことになる(¶9 参照)。
¶20. いろんな三角関数の値が出てきたので、表の形で整理しておく。 18° 刻みの sin, cos には、符号を別にすると 2 種類の値が現れる。一つは (√5 ± 1)/4 の形で、黄金比と関係ある。もう一つは [√(10 ± 2√)]/4 の形で、二重根号を持つ。大小関係は、平方すると比較しやすい。前者の分子の平方は…
(√5 ± 1)2 = (√5)2 ± 2⋅√5⋅1 + 12 = 5 ± 2√5 + 1 = 6 ± 2√5
…なので、後者の分子の平方 10 ± 2√ との大小は明白。関連して、上の単純計算は、次の関係を意味している。
√5 ± 1 = √(6 ± 2√) 《つ》
三角関数表現 | 根号表現 | コメント |
---|---|---|
sin 18° = cos 72° | (√5 − 1)/4 | 1 の原始5乗根の主値の実部。 cos 36° に倍角の公式を適用することでも得られる。 |
sin 36° = cos 54° | [√(10 − 2√)]/4 | sin 144° として、1 の原始5乗根(第2象限)の虚部となる。直接的には sin の5倍角からも、 cos 5倍角からも導出可能。間接的には cos 36° から三平方の定理でも。 |
sin 54° = cos 36° | (√5 + 1)/4 | 黄金比の半分。正五角形の対角線の長さの半分。幾何学的に導出可能。代数的にも導出可能。 −1 倍は cos 144° として 1 の原始5乗根(第2象限)の実部となる。 |
sin 72° = cos 18° | [√(10 + 2√)]/4 | 1 の原始5乗根の主値の虚部。 cos 5倍角からも導出可能。 |
次に tan, cot。符号を別にすると 2 種類あって、片方は分母 5 の分数、他方は分数でない。どれも二重根号を持つ。
三角関数表現 | 根号表現 | コメント |
---|---|---|
tan 18° = cot 72° | [√(25 − 10√)]/5 | tan 18° は正五角形の「矢」に関係する。直接的には tan 5倍角から導出可能。 cot 72° は 5倍角の別形式からも導出可能。 |
tan 36° = cot 54° | √(5 − 2√) | 18° の倍数の tan, cot は、いずれも5倍角の公式から導出可能(参考)。 |
tan 54° = cot 36° | [√(25 + 10√)]/5 | cot 36° は正五角形の面積、内接円の半径に関係する。さまざまな方法で導出可能。直接的には tan 5倍角からも。 |
tan 72° = cot 18° | √(5 + 2√) | 直接的には cot 5倍角から導出可能。正五角形の高さに関係し、幾何学的にも導出可能。 |
最後に sec, csc。これも 2 種類あって、一方は、二重根号も分数もない非常にシンプルな形を持つ。もう一方では、50 を含む二重根号が分子にある。対応する tan, cot を自乗して 1 を足したものの平方根として、求めることができる(定義通りに sin, cos の逆数として、求めることもできる)。
〔例1〕 sec2 18° = tan2 18° + 1 = (25 − 10√)/25 + 1
= (50 − 10√)/25
∴ sec 18° = [√(50 − 10√)]/5
〔例2〕 csc2 18° = cot2 18° + 1 = 5 + 2√ + 1 = 6 + 2√
∴ csc 18° = √(6 + 2√) = √5 + 1 ←《つ》の関係
この場合、単に sin 18° の逆数を考えた方が手っ取り早い(参考リンク: csc 54° = sec 36°)。
csc 18° = 1/(sin 18°)
=
4/(√ − 1)
=
4(√ + 1)/(5 − 1) = √5 + 1
系として cot2 18° = csc2 18° − 1 = (6 + 2√5) − 1 = 5 + 2√5
三角関数表現 | 根号表現 | コメント |
---|---|---|
sec 18° = csc 72° | [√(50 − 10√)]/5 | 上記〔例1〕参照。 |
sec 36° = csc 54° | √5 − 1 | cos 36° の逆数。 |
sec 54° = csc 36° | [√(50 + 10√)]/5 | csc 36° は正五角形の外接円の半径に関係する。 cot 36° から導出可能。 |
sec 72° = csc 18° | √5 + 1 | 上記〔例2〕参照。一辺 2 の正五角形の対角線の長さ。黄金比の2倍。 |
csc 36° は、一辺の長さ 2 の正五角形の、外接円の半径に当たる(¶17)。それ以外の値は、今までのところ、ほとんど出番がなかった。今後、正五角形の作図法の研究において、csc は再び活躍するであろう。
われわれは往々「単位円の呪縛」にとらわれ、「斜辺が 1 の cos と sin」みたいな考え方に固執してしまう――「72° の角を持ち斜辺が 1 の三角形の隣辺は cos 72° で対辺は sin 72°」というように。だけど、同じ三角形について「隣辺が 1 なら対辺は tan 72° で斜辺は sec 72°」という見方も重要だし、ときには「対辺が 1 なら隣辺は cot 72° で斜辺は csc 72°」という考え方によって、話がすごく簡単になる。三つの観点を臨機応変に使えば、役立つだろう。
「sin, cos, tan の三つだけでも難しいのに、六つも考えたくない」「とりあえず基本の三つだけで十分」みたいな自己規制によって、むしろますます話が難しくなることもある――比は 6 種類あるのに、いつも特定の 3 種類に変換して議論するのは、場合によっては不自然で不便。 csc のようなマイナーな三角関数を軽視せず、いろんな観点を試してみたい。
2024-03-14 cot (θ/2) = csc θ + cot θ の可視化 正五角形の高さ
正五角形の「高さ」というものを定義するとしたら、それは、一つの辺を「底辺」として、そこと反対側の頂点との間の距離だろう。例えば、正五角形 ABCDE の頂点 C と、反対側の辺 AE を結ぶ垂線の長さ。この「底辺」つまり AE の中点を P とすると、線分 CP の長さに当たる。
〔注〕 正五角形の内部に引ける一番長い線分は対角線なので、その長さを「幅」なり「高さ」なりと呼ぶことも考えられる。しかし、ここでは辺から垂直に測ったものを「高さ」と約束する。一つの正五角形の各辺は立場が対等なので、どの辺を「底辺」としても高さは同じ。
正五角形の高さに当たる線分 CP は、正五角形の中心 O を通る。 CO と OP は、それぞれ外接円の半径、内接円の半径に等しい; AP の長さを 1 とすると csc 36° と cot 36° なので(前回参照):
一辺の長さ 2 の正五角形の高さ = csc 36° + cot 36° = cot 18° = 3.07…
この和が cot 18° に等しいという根拠は単純。 AC を斜辺とする直角三角形 ACP の ∠C = 18° に注目すると、対辺 AP の長さが 1 で、CP は隣辺だから(前回参照)――というだけ。二等辺三角形 ACO では ∠O が 180° − 36° = 144° なので、等しい2角の大きさは (180° − 144°)/2、よって ∠C = 18° となる。
正五角形の一辺の長さが半分の 1 なら、高さは cot 18°/2、一般に一辺 a の正五角形の高さは a cot 18°/2。
この作図で面白いのは cot の半角公式…
cot (θ/2) = csc θ + cot θ
…の具体例(θ = 36°)が、正五角形の高さとして、生き生きと目で見えること。「対辺 1 の直角三角形の隣辺は cot、斜辺は csc」という観点の効用だろう。「csc は sin の逆数で cot は…」と sin, cos を基準に考えたら面倒な事柄が、ちょっと見方を変えるだけで鮮明に。
¶21. 正五角形の高さについては、実は最初の「一辺 1 の正五角形の面積」で既に検討している。 ¶2 では、図の OC の長さが
[√(5 + 2√)]/2
という結果を得た。「赤い三角形の高さ」と考えてのことだったが、それは正五角形の高さでもある。一辺が 1 ではなく 2 の場合が cot 18° なんで、上の値を 2 倍すると…
cot 18° = √(5 + 2√) ⌘
¶2 での計算は、OQ の長さが黄金比 φ であることを利用して三平方の定理を使う――という素朴なものだった。 ¶14 では cot 18° を代数的に求めた。一方、¶12 では副産物として
tan 18° = [√(25 − 10√)]/5
を得ている。物は試し、こいつの逆数が本当に cot 18° と一致するのか、確かめてみる。
1/(tan 18°)
= 5/[√(25 − 10√)]
= [5√(25 + 10√)]/[√(25 − 10√) √(25 + 10√)] 《て》
二つ目の等号では、分母の二重根号を解消するため、分子・分母に √(25 + 10√) を掛けた。《て》の分母は…
√[(25 − 10√)(25 + 10√)]
= √[252 − (10√)2]
= √(625 − 500)
= √125 = 5√5
…なので:
《て》 = [5√(25 + 10√)]/(5√5)
= √(5 + 2√)
確かに cot 18° は、上の値に等しい(上記 ⌘ 参照)。大きな根号の中身は 5 + 2 × 2.2… = 9.4… なので、この平方根は 3 より大きいが 3.1 よりは小さい(9.4… は 32 = 9 より大、 3.12 = 9.61 より小)。一辺 2 の正五角形の高さが 3.0 台(一辺 1 の正五角形の高さが 1.5 台)というのは、作図からも「そんなもんだろう」と思える。
さて、この cot 18° が、正五角形の外接半径と内接半径の和 csc 36° + cot 36° に等しいことを、代数的にも確かめねばなるまい。
csc 36° + cot 36°
= √(50 + 10√)/5
+ [√(25 + 10√)]/5
初めて「算数バージョン」をやったときには、この種の足し算の簡約が「謎の魔術」のように感じられたものだが、今となってはピンとくる――「平方すれば簡約されるパターンだろう」と。平方するなら分母に平方根があっても構わないので、事前に分数を √ で約分・通分しておくと、扱う数値が小さくなって都合がいいだろう。
csc 36° + cot 36° =
√(10 + 2√)/√
+ [√(5 + 2√)]/√
= 1/√⋅[√(10 + 2√) + √(5 + 2√)] 《と》
この [ ] 内の和こそ、最初われわれを困惑させた《い》に他ならない。奇妙に思えたあの足し算の正体は、この辺りと関係してたのか…。《と》を平方すれば 1/5⋅[ ]2 になるわけだが、先に次の積を求めておく。
(10 + 2√) × (5 + 2√) = 70 + 30√
= 52 + 32⋅5 + 2(5⋅3√)
= (5 + 3√)2
∴ √(10 + 2√) × √(5 + 2√) = 5 + 3√
ここで √(10 + 2√) × √(5 + 2√) = √(70 + 30√) までは機械的な掛け算だが、その積から二重根号を除去できるというのが鍵。
その具体的手順だが…。扱う数値が簡単な場合には、内側の根号の係数の半分(この例では 15)を 2 個の自然数の積の形で書いて(この例では、積の順序を無視すると 1 × 15 と 3 × 5 の二つの可能性しかない)、試行錯誤と山勘でやる方が、手っ取り早いかもしれない(¶4 参照)。勘が冴えないとしても、次のように機械的にできる。 ① でかい根号に入った 70 + 30√ が与えられたとしよう。その二つの項の平方差を求める: 4900 − 900⋅5 = 400 を得る。 ② その数の平方根 20 と、根号内の第1項 70 の平均を求める: (70 + 20)/2 = 45 を得る。これを
u とする。 ③ 根号内の第1項 70 と平均 u のずれを v とする: v = 70 − 45 = 25。与えられた二重根号の数は √u + √v に等しい:
√(70 + 30√) = √45 + √25 = 3√5 + 5
このタイプの二重根号除去の詳細については ¶25 参照。その二重根号さえ外せば、あとは一本道。
《と》の平方 = 1/5⋅[(10 + 2√) + 2(5 + 3√) + (5 + 2√)]
= 5 + 2√
《と》自身は、上の数の正の平方根。すなわち、前記 cot 18° の値 ⌘ と一致。
¶22. 特殊な二重根号処理の話はさておき、一般論として、cot (θ/2) = csc θ + cot θ という関係は、任意の θ に対して成り立つ(csc θ と cot θ が定義される限りにおいて)。事実、同じ図において、正五角形と内接円を無視して ∠AOP が 36° 以外の角度だとしても、AP の長さを 1 とするなら、全く同様の状況となる。
この説明に対し、「角度に応じて変わる AP の長さを常に 1 と見るのは不当」という批判もあるかもしれない。けれど幾何学的には、三角関数の値は「辺の長さの比」。状況によって変わる辺の長さを 1 としても、その状況において他の辺の長さとの「比」を正しく捉える限り、何も問題はない。
とはいえ、余計な混乱が生じないよう、対辺の長さを固定しよう――次の図では、二つの(関連する)半角公式を同時に可視化している。
(I) AO を斜辺とする直角三角形 ADO において ∠O = θ として、その対辺 AD の長さを 1 とすると、前回確かめたように、隣辺 OD の長さは cot θ で、斜辺 OA の長さは csc θ に等しい†。 ADOP が高さ 1 の長方形になるよう、点 P を選択しておく――要するに座標の縦軸上の (0, 1) を P とする。
(II) 今 OD の延長線上(要するに座標の横軸上)において、長さが OA = OE になるように点 E を選ぶ。ひし形 AOEQ の一辺の長さは csc θ。ひし形の対角線 OQ が辺 OE と成す角度は θ/2 に等しい――なぜなら、ひし形は対角線によって、合同な二つの二等辺三角形に分割される。
(III) △QROが直角三角形(∠R が直角)になるように、横軸上に点 R を設定する。この三角形において ∠O は θ/2 であり、その対辺 QR の長さは 1。従って、隣辺 OR の長さは cot (θ/2) だが、その OR は PQ と長さが等しく、PQ は PA + AQ = cot θ + csc θ = csc θ + cot θ と等しい。この等式こそ、ここで考えている「シンプル版」の cot の半角の公式である!
〔補足〕 三角関数の基礎からも、直ちに PQ = csc θ + cot θ は ∠ROQ = (θ/2) に対応する cot と言える。あるいは OR = cot (θ/2) を直接 OE + ER と見てもいい。ひし形の各辺の長さは等しいので OE = csc θ。そして AO と QE は平行なので ∠QER = θ だが、ER を直角三角形 QER の隣辺と見ると、対辺の長さは 1 なので ER = cot θ。
(IV) ついでに AE を斜辺とする直角三角形 ADE を考えると、∠A = θ/2 であることを容易に確かめられる。この場合(対辺ではなく)隣辺の長さが 1 なので、対辺 DE の長さは tan (θ/2) に等しい。ところが DE の長さは、 OE から OD = PA = cot θ を引いたもの。 OE = csc θ なので下記第1式が成り立つ。
tan と cot の半角の公式(csc, cot バージョン)
tan (θ/2) = csc θ − cot θ
cot (θ/2) = csc θ + cot θ
シンプルで美しいペアだ!
上述のように、絶対的な長さにとらわれず「長さの比」に着目し、θ に応じて変わる正弦の長さを 1 とするなら、弓形の作図によっても、同じ関係を可視化できる。
† 「等しい」というより、単位円を横切る線分 OA の長さを csc θ の幾何学的定義とすることができる。つまり余角 90° − θ に対応する secant であり、余割 co-secant という名の由来かもしれない。同様に、線分 OD は「P を通る単位円への接線から、この割線によって切り取られる線分 PA の長さ」に当たり、余角に対応する tangent すなわち余接 co-tangent ということになる。――(余角ではない)メインの角 θ に対応する tangent とsecant の意味を参照。
参考リンク: 「tan (θ/2) = csc θ − cot θ の可視化」
¶23. tan, cot の半角の公式には複数のバージョンがあり、上の形が常に便利とは限らない。だがこのバージョンが、一番シンプル。紛れるところがあるとしたら tan の式――どっちから、どっちを引くか。対辺を 1 に固定して第1象限の角を考えると、csc は斜辺、cot は隣辺なので、当然、斜辺の方が長い。長い方から引き算するのが、筋だろう。第1象限の三角関数は、負にはならないのだから…。
このシンプル版は、(sin, cos の範囲の)ベーシックなバージョンにも容易に変換可能。単に csc θ = 1/sin θ と cot θ = cos θ/sin θ を代入して通分すれば、直ちに次の(ア)(イ)を得る。
(ア) tan (θ/2) = (1 − cos θ)/sin θ
(イ) cot (θ/2) = (1 + cos θ)/sin θ
tan と cot が互いに逆数であることから、右辺の分子と分母をひっくり返して、左辺の関数名を入れ替えれば、さらに別のバージョンを得る。(イ)は
(ウ) tan (θ/2) = sin θ/(1 + cos θ)
になり、(ア)は
(エ) cot (θ/2) = sin θ/(1 − cos θ)
になる。
だが(ア)(イ)(ウ)(エ)を漫然と眺めても、「どれが tan の式で、どれが cot の式か」「どっちが分子で、どっちが分母か」「cos の前の符号はどっちがどっちか」といった諸要素が絡み合い、訳が分からなくなりやすい。シンプル版は眺めてきれいなだけでなく、「こうした混乱が起きにくい」という実用上のメリットも持つ。
(ア)以下の式については、後でもう少し検討したい。
「それを乱すこと
欲するなかれ」
Noli istum
disturbare
「わが図から
離れて立て」
Ἀπόστηθι τοῦ
διαγράμματός μου
幾何学的説明には、大抵「θ の範囲が限られてしまう」といった論理的制約がある。この欠点にもかかわらず、現象を可視化すること、具体的イメージを持つことは、物事の理解・知識の整理の上で極めて有用だと思われる。
アルキメデス先生は、住んでた町が陥落し敵兵が押し寄せてきた非常時に、その騒ぎにも気付かず、夢中になって地面に何やら描きながら「おい君、私の作図を踏まないでくれよ」などとのんきなことを言って殺されてしまった――という伝説がある。ローマ軍の指揮官はアルキメデスの偉大さを熟知し「あの学者にだけは手荒なまねをしてはいかん。必ず生け捕りにせよ」と兵たちに厳命しておいたというが…。肝心の本人が名乗らず、ただの変なおじさんとして切り捨てられたともいう。何かの証明に没頭していて、連行に応じなかったともいう。持っていた幾何・天文の器具類が「珍しい金目の物」と思われ、「ぶっ殺して奪っちまえ!」となったという話もあり、「恐ろしい秘密兵器が出てくるのでは…」と敵兵がパニックを起こしたという話もある(アルキメデスは、兵器開発の天才でもあった)。
2024-03-17 二重根号除去の基本形 アルゴリズム的考察
√(5 + 2√) の二重根号は簡単にならない。 √(6 + 2√) の二重根号は簡単に除去できる。その違いは…
¶24. この素朴な疑問は、正五角形の対角線の長さについて考えていると、自然に生じてくる。
直角三角形 ACP の ∠C が 18°、対辺 AP の長さが 1 なら、斜辺 AC の長さは csc 18°、隣辺(底辺) CP の長さは cot 18°。[注: 対辺が 1 のときの、斜辺と隣辺が、それぞれコセカント csc とコタンジェント cot。] AC は正五角形の対角線なので、その長さは、正五角形の一辺に黄金比 φ = (√ + 1)/2 を掛けたもの(¶1)。 AP = 1 とすると、この正五角形は一辺の長さが 2、従って AC = csc 18° = 2 × φ = √ + 1 となる。
正五角形の高さ CP = cot 18° = √(5 + 2√) = 3.077… と、対角線 AC = √ + 1 = 3.236… は大ざっぱには等しい。傾きがたった 18° なんで、斜辺は底辺と比べ、大して長くならない。
もし △ACP に三平方の定理を適用して、斜辺の長さ(つまりは正五角形の対角線の長さ)を求めようとすると…
|AC|2 = |AP|2 + |CP|2
= (1)2 + (√(5 + 2√))2 = 1 + (5 + 2√) = 6 + 2√
その平方根から AC の長さは √(6 + 2√) となる。けれど前記のように AC の長さは √ + 1 とも書けるのだから:
√(6 + 2√) = √ + 1 《な》
《な》の左辺と右辺が等しいことは、次の二つのことから、容易に確認可能。第一に、両辺とも正。第二に、《な》右辺の平方…
(√ + 1)2 = (√)2 + 2⋅√⋅1 + 12 = 5 + 2√ + 1 = 6 + 2√
…は、《な》左辺の平方と等しい(¶20)。
それはいいのだが、《な》は
√(6 + 2√) の二重根号を簡約して一重にできる
ということを意味している。そこで生じる素朴な疑問―― CP = √(5 + 2√) の二重根号は外せないのか。ほとんど同じ形なのに、一方は外せて、他方は外せないってのは「不公平」じゃないか?
ある方程式(例えば x2 = 4)に整数解があり、似た形の別の方程式(例えば x2 = 5)には整数解がないこと――それは仕方がないことで、公平・不公平という問題じゃないけど、二重根号を外せる・外せないという違いは、具体的にはどういう違いなのか?
¶25. 《な》左辺の二重根号外しは、アルゴリズム的には次のように進む。
この結果が、二重根号の外れた《な》右辺に他ならない。
同じアルゴリズムを √(5 + 2√) に適用すると…
5 は整数の平方でないばかりか、有理数の平方ですらないので、ここで諦めることになる。
以上の観察を要約すると: √(5 + 2√) は、根号内の二つの項の自乗の差 52 − (2√)2 = 25 − 20 = 5 が「有理数の平方」ではないので、二重根号とおさらばできない運命。一方、√(6 + 2√) は、根号内の二つの項の自乗の差 62 − (2√)2 = 36 − 20 = 16 が平方数なので、二重根号を外せる。
二重根号除去の基本形 √(a ± b√) の二重根号を外せる? a2 − b2n が平方数 z2 なら Yes、そうでなければ No。 Yes のときは a と z の平均を u とし、 a の平均からのずれ a − u を v とせよ。入力は √u ± √v に等しい(注: 結果が負なら −1 倍する)。
この方法は、アルゴリズムとしては簡潔。けれど実際には、少し数が大きくなると a2 − b2n の計算が面倒になり、この差が平方数かどうかの判定も簡単とは限らない。そこで…実際には別のアルゴリズムも役に立つ。下記「第二の方法」でうまくいくなら、手っ取り早い。
二重根号除去の基本形(第二の方法) √(a ± b√) の二重根号を外せる? b が偶数なら見込みあり。 b/2 の(正の)約数を小さい順に選択して y とし、 b/2 を積 xy として書いてみる。考えている x, y の値を使って…
x2 + ny2
…が a に等しくなったら成功: 入力は x ± y√ に等しい。 ny2 < a と x2 < a の縛りによって x, y の選択肢は、かなり限られている。
〔例1〕 √(6 + 2√) では b の半分は 1。その約数は 1 しかないので xy = 1 の整数解は x = y = 1 という選択肢しかなく a = 6 を 12 + 5⋅12 = 1 + 5 と書くしかない。そう書けるということが、「成功」を意味する。
6 + 2√ = 1 + 5 + 2√
…は (1 + √)2 なので、外側の根号を外せる。
〔例2〕 √(5 + 2√) も例1と同様。 a = 5 と 1 + 5 を等しくできないので、こっちは見込みがない。
〔例3〕 √(37 − 20√): b = 20 の半分 10 = xy の分解には 1 × 10, 2 × 5 の可能性。 x2 + 3y2 = 37 (= a) を目指す。 10 が絡んでは過大なので、解が見つかるとすれば {x, y} = {2, 5}。 y = 5 は過大なので x = 5, y = 2 を試すと成功(52 + 3⋅22 = 37)。
37 − 20√ = 52 + 22⋅3 − 2⋅5⋅2√ = (5 − 2√)2
∴ √(37 − 20√) = 5 − 2√
第一の方法では a や b 自体の平方が必要だが、第二の方法では b/2 のそのまた約数の平方なので、桁数的にはざっと半分の計算で済む。 a, b が 100 程度の数として、大ざっぱに前者では3桁の数の平方・5桁の数の平方根を扱う必要があるが、後者なら1~2桁の掛け算・足し算くらいで何とかなる。半面、第二の方法は確実性が低く、うまく使うには試行錯誤と多少の「勘」が必要。第一の方法は決定論的で、できるときには機械的にできるので、第一の方法を原則とするべきだろう。
(参考リンク) 二重根号外しの四つの方法 / 多重根号簡約の基本アルゴリズム
¶26. √(5 + 2√) に第一の方法を適用すると、平方差は 25 − 20 = 5 が平方数でないので「諦める」という結論になるのだが、余興として、この平方差 5 を z = √ の平方と見て、無理やり先に進めてみる。与えられた根号内の数…
5 + 2√
…の第1項 5 と z の平均を求めると:
u = (5 + √)/2
第1項 5 と平均 u のずれを求めると:
v = 5 − (5 + √)/2 = (5 − √)/2
従って、次が成り立つ:
√(5 + 2√) = √u + √v
= √[(5 + √)/2] + √[(5 − √)/2] 《に》
√(5 + 2√) を《に》のように変形しても、簡約どころか、かえって複雑になってしまう。しかし逆に言うと、もし《に》の右辺が与えられたなら、それを √(5 + 2√) に簡約できる。
この逆方向の簡約が可能であることを見るには、《に》右辺の 2 項の積が、二重根号から一重根号になることに注目すればいい:
√[(5 + √)/2] √[(5 − √)/2] = √[(25 − 5)/4]
= √5
従って、《に》右辺の平方は:
[√[(5 + √)/2] + √[(5 − √)/2]]2 = (5 + √5)/2 + (5 − √5)/2 + 2√5 = 5 + 2√5 《ぬ》
これは、《に》右辺(明らかに正)が《ぬ》の正の平方根に等しいことを意味する。
ちなみに X = √(5 + 2√) の根号内を √ 倍すると――言い換えれば X を √(√) = 4√ 倍すると―― Y = √(10 + 5√) になる。そして Y の根号下の平方差 100 − 125 = −25 を z = 5i の平方と見ることができる。 Y の根号下の第1項 10 と z = 5i の平均は、 u = (10 + 5i)/2 = 5 + (5/2)i。そして v = 10 − u = 5 − (5/2)i。それらを使って、次の変形が可能。
51/4X = Y = √( + )√( )
∴ X = 5−1/4[√( + )√(] = )4√ (√( + )√() )
4乗根は平方根の平方根だし、それを別にしても、根号内の i は √ なのだから、本当の意味で X の二重根号が除去されたとは言いにくい。実数をわざわざ複素数の平方根を使って表現しても仕方ないだろう。けれど、これはこれで面白い。
2024-03-20 正五角形の作図 二つの証明
正五角形の作図自体は簡単。でも「なぜその方法で正五角形になるの?」という理由は、必ずしも簡単ではない。
たった3行の軽妙な証明を紹介したい。教科書などでは軽んじられ、無視されている csc, cot だが、うまく使うと威力はでかい!
同時収録――三角関数を一切使わない「平易」な別証明。三角関数なしだと「平易」どころか、むしろ面倒だけど、使えるツールを制限した「縛りプレイ」。
¶27. 正五角形の作図法。原点 O を中心に半径 1 の円を描く。点 B (0, 1) と O を線で結び、OB の中点を C とする。
点 C (0, 1/2) と点 A (1, 0) を線で結ぶ(∠COA = 90°)。 ∠ACO を二等分する直線を引き、その直線と OA の交点を D とする。 D を通り OB に平行な直線を引き、その直線と円の弧 AB の交点を P とすると、線分 AP はこの円に内接する正五角形の一辺。コンパスで AP の長さを次々と円周上にコピーすれば、正五角形の出来上がり!
このシンプルな方法(Richmond, 1893年)の根拠は、第1象限の ∠AOP が 72° になること:
cos ∠AOP = OD = (√ − 1)/4 = cos 72°
その証明を3行にまとめると…
証明終わり。仕組みとしては、第一に、三平方の定理。
|OA|2 + |OC|2 = |AC|2 つまり 12 + (1/2)2 = |OC|2
…を |OC| について解いただけ。第二に、対辺 1 の直角三角形は斜辺が csc で、隣辺(底辺)が cot という基本事実。作図自体と第一の事柄から、csc θ と cot θ の具体的な値が確定する。第三に、tan の半角公式(csc, cot バージョン)から tan ∠OCD を求めた。 tan というのは、隣辺(底辺)が 1 のときの対辺の長さ(言い換えれば、底辺方向に 1 進んだとき、斜辺は底辺からどのくらい離れるか)。この場合、底辺 OC = 1/2 なので、底辺からの距離(つまり対辺 OD の長さ)は tan ∠OCD の 1/2。その値が (√ − 1)/4 つまり cos 72° なので、∠POD = ∠AOP = 72° と結論される。それは 360° の 5 分の 1 であり、正五角形の一辺に対応する「中心角」。
代わりに tan の半角公式のベーシック版を使っても、同じ結論になるけど、やや遠回り。 csc, cot を使うと、すっきりする。
¶28. 次に、三角関数を使わない別証明(参考)。かなり長くなるけど、中学生でも理解できるような道具だけで、やりくり。準備として、この方法で正五角形が作図されれば OD の長さが (√ − 1)/4 になる――ということを確かめたい。
正五角形の対角線 PS の長さは、正五角形の一辺の長さを 1 として φ = (√ + 1)/2 に当たる――この事実については、三角関数を使わずに証明できる(¶1)。われわれの正五角形の一辺の長さは 1 ではないが、とにかく一辺の長さを求めて φ 倍すれば、PS の長さが分かり、その半分が PD の長さなので、そこから三平方の定理で OD の長さを確定できる。以下それを実行する。
|OE| = (√ + 1)/4 (= φ/2) については、三角関数を使わず証明できる。三平方の定理によれば、斜辺が 1、隣辺(底辺)が φ/2 の直角三角形の対辺 EQ の長さは [√(10 − 2√)]/4 に等しい(¶1)。
従って、この正五角形の一辺の長さは [√(10 − 2√)]/2 であり、上記の理由から:
PD の長さ = [√(10 − 2√)]/2⋅(√5 + 1)/2⋅1/2
= 1/8⋅[√(10 − 2√) (√5 + 1)] 《ね》
さて、正の数 √5 + 1 は、自分の平方 5 + 2√5 + 1 の正の平方根に等しい(当たり前だが)。
√5 + 1 = √(6 + 2√)
これを《ね》に代入すると:
PD の長さ = 1/8⋅[√(10 − 2√) × √(6 + 2√)]
= 1/8⋅[√{(10 − 2√)(6 + 2√)}]
= 1/8⋅[2√{(5 − √)(3 + √)}]
= 1/8⋅[2√(10 + 2√)]
= [√(10 + 2√)]/4
〔注〕 根号下の積は (5 − √5)(3 + √5) = 15 + 5√5 − 3√5 − 5 = 10 + 2√5
結局、三平方の定理から:
|OD|2 = |OP|2 − |PD|2 = 1 − (10 + 2√5)/16 = (6 − 2√5)/16
= (5 − 2√5 + 1)/16
= (√5 − 1)2/16
∴ |OD| = (√5 − 1)/4 (> 0)
|OD|2 は根号を含むが、その平方根に当たる上記 |OD| の分子には二重根号が生じない――途中計算で、簡単な二重根号外しを使った。
ようやく「あるべき OD の長さ」が確定したが、これはまだ証明の下準備。
¶29. もしもこの作図法が正しく、これで正五角形が作図されるなら、 OD の長さは上記の値 (√5 − 1)/4 になる。つまり OD の長さが本当にそうなっていることを確かめれば、この作図の正しさが証明される。三角関数を使っていいなら、半角の公式によって目的を達成できるが、今やっているのは(あえて)三角関数を使わない証明なので、別のアプローチが必要。
点 C (0, 1/2) と点 A (1, 0) の位置、∠OCA の二等分線と OA の交点を D とすることは、これまでと同じ(∠OCD = ∠DCA)。補助線として O を通り CD と平行な直線を引き、この補助線と直線 AC の交点を F とする。
△AFO と △ACD は相似。なぜなら両者は ∠A を共有し、しかも CD と FO が平行なので ∠AFO = ∠ACD。従って FA : OA = CA : DA、図のように文字を割り当てると…
(a + b) : (x + y) = b : y つまり (a + b)y = b(x + y)
両辺から by を引くと…
ay = bx 《の》
ところが △OFC は二等辺三角形なので、a = FC = OC = 1/2。さらに OA = x + y は、円の半径 1 なので、y = 1 − x。最後に b = AC = √5/2 は、三平方の定理から計算可能(¶27)。――これらを《の》に代入すると (1/2)(1 − x) = (√5/2)x となる。両辺を 2 倍して 1 − x = (√5) x。移項して整理すると…
1 = (√5 + 1)x 従って x = 1/(√ + 1)
分母を有理化するため、分子・分母に √5 − 1 を掛けると…
x = (√ − 1)/[(√ + 1)(√ − 1)]
= (√5 − 1)/(5 − 1)
= (√5 − 1)/4
これが確かめるべきことだった。∎
csc, cot 版の tan 半角を活用し、Richmond による正五角形の作図法をたった3行で証明するのは、鮮やかで気持ちがいい! 他方、三角関数を使わずに同じことを証明するのは面倒で見通しが悪いが、やってやれないことはない。参考までに…
2024-04-04 外径 R の正五角形の面積 sin 倍角の可視化
単位円に内接する正五角形 ABCDE を考える。点 A が偏角 36°、点 B が偏角 108° … としよう。
この五角形は、5 個の合同な三角形 OAB, OBC, …, OEA に分割される。 A, B の横座標をそれぞれ P, Q として △OBC の面積を考えると…
|CO| × |QB| ÷ 2 = 1 × sin 72° ÷ 2 = (sin 72°)/2
△OEA の面積を考えると…
|EA| × |PO| ÷ 2 = 2 sin 36° × cos 36° ÷ 2 = sin 36° cos 36°
二つの三角形は合同なので、面積が等しい:
(sin 72°)/2 = sin 36° cos 36°
これは sin の倍角の式 sin 2θ = 2 sin θ cos θ の明快な可視化になっている! 実際、両辺を 2 倍すると:
sin 72° = 2 sin 36° cos 36°
正五角形と無関係に、単に △OEA ≡ △OBC の等しい面積の話…と考えると、A の偏角 θ が 0° ~ 90° の範囲で、同様の作図が可能。
¶30. 「単位円に内接する正五角形」の一辺の長さ a は 2 sin 36° に等しい。なぜなら、同じ作図から a = |EA| = 2 × |PA| = 2 sin 36°。
より一般的に、半径 R の円に内接する正五角形の面積はどうなるか。言い換えると、外接円の半径――略して外径―― R が与えられたとき、そこに内接する正五角形の面積を知りたい。引き続き同じ作図を使い |OA| = R とすると、|PA| = R sin 36° で |EA| = 2R sin 36°。これが △EAO の底辺。この三角形の高さは |OP| = R cos 36° なので、その面積は:
2R sin 36° × R cos 36° ÷ 2 = R2 sin 36° cos 36° = (R2/2) sin 72°
五角形の面積は、この三角形 5 個分なので、次の通り。
外径 R の正五角形の面積 (5R2/2) sin 72°
この結論は、以前に得た他の式とつじつまが合うだろうか? 一辺の長さが a の正五角形の面積は、
(5a2/4) cot 36° = (5a2 cos 36°)/(4 sin 36°) 《は》
であった(¶7)。一辺 a の正五角形の外径は、
R = (a/2) csc 36° = a/(2 sin 36°)
であり(¶17)、従って:
a = 2R sin 36° 《ひ》
《ひ》を《は》に代入:
五角形の面積 = [5(2R sin 36°)2 cos 36°]/(4 sin 36°)
= 5R2 sin 36° cos 36° = (5R2/2) sin 72°
つまり、倍角の公式 sin 72° = 2 sin 36° cos 36° が正しい限り(上では、その両辺を半分にして使っている)、つじつまは合う!
¶31. sin の倍角の式は加法定理から直ちに明らかで、さっき幾何学的にも証明したばかりなので、疑いの余地はない。けれど、上の三角関数表現について、代数的に直接確かめてみるのも悪くあるまい(表1参照)。
2 sin 36° cos 36° = 2⋅[√(10 − 2√)/4]⋅[(√(5) + 1)/4] = (1/8)√(10 − 2√)(√(5) + 1) 《ふ》
この型の二重根号処理において、これまでしばしば変なトリックを使った。次のようにすれば、淡々とできる。
(1/8)√(10 − 2√)(√(5) + 1) = (1/8)√(10 − 2√)√(6 + 2√) 《へ》
これも一種のトリックだけど、単に (√(5) + 1) を √[(√( + 1)2 )] で置き換えた――この発想の方がシンプルで分かりやすく、一般性も高い。《へ》の根号下の積は:
(10 − 2√)(6 + 2√) = 60 + 20√ − 12√ − 20 = 40 + 8√
あるいは、同じことだが、掛け算を小さく済ませて:
(10 − 2√)(6 + 2√) = 2⋅2(5 − √)(3 + √)
= 4(10 + 2√)
いずれにしても結論は:
(1/8)√(10 − 2√)√(6 + 2√)
= (1/8)√(40 + 8√)
= (1/4)√(10 + 2√) 《ほ》
この値は、確かに sin 72° である!
比較として「変なトリック」を使うと、《ふ》から直接《ほ》に飛ぶことができる。その方が高速で便利なようだが、ロジックが少々分かりづらい: 《ふ》の (√(5) + 1) を √[(√( + 1)2 )] と見ることは上記と同じだが、根号内の2乗を展開せず温存しておく。同時に、《ふ》の √(10 − 2√) を
2√ √(√ − 1)
と見る。しからば:
√(10 − 2√)(√(5) + 1) = 2√ √(√ − 1) √(√ + 1) √(√ + 1)
ところが √(√ − 1) √(√ + 1) = √((√)2 − 12) = 2 なので…
√(10 − 2√)(√(5) + 1)
= 2 × 2√ √(√ + 1)
= 2 × √(10 + √)
…となり、《ふ》から《ほ》に直行できる。この「変なトリック」は、次のような特殊なケースでしか通用せず、使える場面が限られている。
√(5k − k√)(√(5) + 1) = 2√(5k + k√)
√(5k + k√)(√(5) − 1) = 2√(5k − k√)
一般に n を自然数として、無理数 √n を z で表すなら(n は平方数ではないとする)、 z についての任意の多項式
a0 + a1z + a2z2 + a3z3 + ··· ただし a0, a1 などは有理数とする
は、 z についての1次式(係数は有理数)に簡約される。なぜなら z の2次の項 a2z2 は有理数に戻り(仮定により係数 a2 は有理数、 z2 = n は自然数)、3次の項 a3z3 = (a3z2)z = (a3n)z は1次の項になり、4次の項 a4z4 = a4(z2)2 = a4n2 は有理数に戻り…等々。このことから、z(について)の多項式の平方根も、 z の1次式の平方根に簡約されるので、
( z の多項式 ) × ( z の多項式の平方根 )
…という形の実数の積は、
( z の1次式 ) × ( z の1次式の平方根 )
…と簡約可能。次の形になる。
(A + Bz) √(C + Dz)
= (A + B√n)√(C + D√) ここで A, B, C, D は有理数
(A + Bz) を、値の正負に応じて √[(A + Bz)2] あるいは −√[(A + Bz)2] で置き換えると、上記の積は z の3次式の平方根となり、それは z の1次式の平方根に簡約され、結局 √(E + Fz) つまり √(E + F√) の形の一つの二重根号になる。この方法は一般性が高い。
√(E + F√) をさらに簡約して、二重根号を外せるか? それは、根号下の平方差 E2 − F2n によって決まる。この差が平方数なら二重根号を外せる。
正五角形の冒険は、次のページへ続く…