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きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかも。
2024-07-20 3分の1の角度の tan について
3次方程式を解くことにより、例えば tan 120° を使って tan 40° を表し、 tan 150° を使って tan 50° を表すことができる。それとは別に、このような「3 分の 1 の角度の tan」を「同じ角度の sin」を使って表せる。例えば…
tan 40° = 4 sin 40° − √3
tan 50° = (4 sin 50° − 1) / √3
59. θ2 を −30° より大きく 30° より小さい角度として、 θ1 = θ2 + 60°, θ3 = θ2 − 60° とする。θ1, θ2, θ3 は、 (−90°, 90°) の区間の 60° 間隔の三つの角度。
〔例1〕 θ1 = 80°, θ2 = 20°, θ3 = −40° は、そのような 60° 間隔の角度。 θ1 − θ2 = θ2 − θ3 = 60° であり、 θ3 − θ1 も ≡ 60° (mod 180°) である。
このような場合、 θ1, θ2, θ3 のどれを θ としても T = tan 3θ の値は一定; E = sec 3θ は、符号の違いを除き一定で、 E2 = sec2 3θ は符号も含めて一定の値を持つ。
〔例2〕 例1の場合 T = tan 240° = tan 60° = tan (−120°) = √3; E = sec 240° = sec (−120°) = −2 または E = sec 60° = 2 で、どちらの場合も E2 = 4。
定理2 θ が −30° より大きく 30° より小さい角度なら:
tan (θ + 60°)
=
tan (3θ) + 2 sec (3θ) cos (30° − θ)
=
tan (3θ) + 2 sec (3θ) sin (θ + 60°)
証明 この定理の θ は上記の θ2 に当たる。左辺にある角度 θ + 60° は、 30° より大きく 90° より小さい(θ1 に当たる)。 T = tan 3θ, E = sec 3θ と置くと、そのどちらも実数で、次の関係が成り立つ(§58、定理1)。
tan (θ + 60°) = T + [E2(T + i)]1/3 + [E2(T − i)]1/3
二つの立方根の和 [E2(T + i)]1/3 + [E2(T − i)]1/3 が 2 sec (3θ) cos (30° − θ) に等しいことを示せば、定理は証明される(sin を使った表現は cos X = sin (90° − X) による書き換えに過ぎない)。
さて、 E2 は実数なので、複素数 w = E2(T + i) の偏角は T + i の偏角に等しい。 T + i は実部が T で虚部が 1 なので、その偏角 η は第1または第2象限の角で、 cot η = T を満たす。すなわち:
cot η = T = tan 3θ = cot (90° − 3θ)
∴ η = 90° − 3θ 『り』
(仮定により −90° < 3θ < 90° なので、偏角 η は 0° < η < 180° を満たし、正しい象限にある。)
一方、この複素数 w = E2T + iE2 の絶対値の平方は:
(E2T)2 + (E2)2 = E4(T2 + 1) = E6
なぜなら T2 + 1 = tan2 3θ + 1 = sec2 3θ = E2
従って w の絶対値は E3 である(仮定により −90° < 3θ < 90° なので cos 3θ は正、よってその逆数 E は正で E3 も正)。
以上のことから、極座標表現を使うと…
E2(T + i) = w = E3(cos η + i sin η)
E2(T − i) = w* = E3(cos η − i sin η)
…となって:
[E2(T + i)]1/3 + [E2(T − i)]1/3
= w1/3 + (w*)1/3
= E(cos (η/3) + i sin (η/3))
+ E(cos (η/3) − i sin (η/3))
= 2E cos (η/3)
= 2 sec (3θ) cos (30° − θ)
なぜなら『り』から η/3 は 30° − θ に等しい。∎
60. 定理2の例 θ = 20° のとき:
tan 80° = tan 60° + 2 sec 60° cos 10° = tan 60° + 4 cos 10° = tan 60° + 4 sin 80°
実際、 T = tan 3θ = tan 60°, E = sec 3θ = sec 60° と置くと、定理1から:
tan 80° = T + [E2(T + i)]1/3 + [E2(T − i)]1/3
= tan 60° + [4(tan 60° + i)]1/3 + [4(tan 60° − i)]1/3
ここで w = E2(T + i) の偏角は arccot (tan 60°) = arccot (cot 30°) = 30° であり、
|w|2 = (4√3)2 + 42 = 64
…なので、 |w| = 8。従って:
[4(tan 60° + i)]1/3
= [8(cos 30° + i sin 30°)]1/3
= 2(cos 10° + i sin 10°)
∴ [4(tan 60° + i)]1/3 + [4(tan 60° − i)]1/3 = 4 cos 10°
代数的にも、次の二つの数が等しいことを容易に確かめられる。
[4(tan 60° + i)]1/3 = [4(√3 + i)]1/3
[8(cos 30° + i sin 30°)]1/3
= [8((√3)/2 + i 1/2)]1/3
= 2((√3)/2 + i 1/2)1/3
同様に θ = −20° のとき:
tan 40° = −tan 60° + 4 cos 50° = −tan 60° + 4 sin 40°
T = tan 3θ = tan (−60°) = −√3 の符号が反転する以外、既述の例とほとんど同じ; w に当たる複素数の偏角は arccot (tan (−60°)) = arccot (cot 150°) = 150° となる。 cot (−30°) = cot 150° なので、形式的には −30° も同様の式を成立させるが、 w は第1または第2象限にあるので、 −30° では偏角が間違った向き(正反対)になってしまう。
〔参考〕 実数 y に対する arccot y の値域を (0°, 180°) とすることは、実変数の y = cot x を考える場合には珍しくない(複素関数としての観点からは必ずしも自然ではないが)。
次の結論に至る。
tan 80° = √3 + 2[((√3 + i)/2)1/3 + ((√3 − i)/2)1/3]
=
√3
+ 3√(4√ + 4i)
+ 3√(4√ − 4i)
tan 40° = −√3 + 2[((−√3 + i)/2)1/3 + ((−√3 − i)/2)1/3]
=
−√3
+ 3√(−4√ + 4i)
+ 3√(−4√ + 4i)
定理2の例(その2) θ = 10° のとき:
tan 70° = tan 30° + 2 sec 30° cos 20° = tan 30° (1 + 4 cos 20°) = tan 30° (1 + 4 sin 70°)
実際、 T = tan 30° = 1/√3, E = sec 30° = 2/√3 = 2 tan 30° と置くと、定理1から:
tan 70° = T + [E2(T + i)]1/3 + [E2(T − i)]1/3
=
1/√3 + [(4/3)(1/√3 + i)]1/3 + [(4/3)(1/√3 − i)]1/3
= tan 30° + [(4/3)(tan 30° + i)]1/3 + [(4/3)(tan 30° − i)]1/3
ここで w = E2(T + i) の偏角は arccot (tan 30°) = arccot (cot 60°) = 60° であり、
|w|2 = (4/(3√3))2
+ (4/3)2
=
64/27
…なので、 |w| = 8/(3√3)。従って:
[(4/3)(tan 30° + i)]1/3
= [8/(3√3)(cos 60° + i sin 60°)]1/3
= 2/(√3)(cos 20° + i sin 20°)
∴ [(4/3)(tan 30° + i)]1/3 + [(4/3)(tan 30° − i)]1/3
=
4/(√3) cos 20°
= 4 tan 30° cos 20°
代数的には、次の二つの数が等しい。
[(4/3)(tan 30° + i)]1/3 = [4/(3√3)(1 + i√3)]1/3
[8/(3√3)(cos 60° + i sin 60°)]1/3
= [8/(3√3)((1)/2 + i √3/2)]1/3
同様に θ = −10° のとき:
tan 50° = −tan 30° + 2(2 tan 30°) cos 40°
=
tan 30° (−1 + 4 cos 40°) = tan 30° (−1 + 4 sin 50°)
次の結論に至る。
tan 70° = 1/√3
+ 2/(√3)[((1)/2 + i√3/2)1/3 + ((1)/2 − i√3/2)1/3]
=
(1/√3)[1 + 3√(4 + 4i√) + 3√(4 − 4i√)]
tan 50° = −1/√3
+ 2/(√3)[((−1)/2 + i√3/2)1/3 + ((−1)/2 − i√3/2)1/3]
=
(1/√3)[−1 + 3√(−4 + 4i√) + 3√(−4 − 4i√)]
tan 40°, tan 50° などが、それぞれ sin 40°, sin 50° との間で面白い等式(それほど自明ではない)を満たすことは、漠然と分かっていた(最初にたまたま tan 80° のケースに気付いたときは、かなりミステリアスな感じがした)。今回 cot, arccot を利用することで、この関係について仕組みを明らかにして、多少一般化できた。 θ が π の有理数倍なら、定理1における w = tan 3θ ± i の偏角 η = 90° − 3θ も π の有理数倍。よって w の立方根の偏角も π の有理数倍になり、もし −30° < θ < 30° なら tan (θ + 60°) = tan 3θ + 2 sec (3θ) sin (θ + 60°) が成り立つ。 θ が 10° の倍数の場合に限らず、例えば tan 65° = tan 15° + 2 sec 15° sin 65° となる。
この種の関係は(少なくとも個々のケースに関しては)、工夫すればもっと直接的に―― Cardano 形式を経由せず、一般的な三角関数の公式だけを使って――示すことができるのかもしれない。あまり人気のない Cardano 形式だが、この場合に関しては、なかなか気分のいい展望台。「実数の範囲の議論であっても、実数の範囲で考えるのでは見えない事柄がある」ということ、複素数の範囲で考えることが自然で必然的であるということが、あらためて実感される。
2024-07-25 円周36等分点・72等分点のタンジェント
#遊びの数論 #Morrie の法則 #tan の多倍角 #tan 半角
10°, 20°, 30°, 40°, … の tan について整理し、同じ手法で 5°, 15°, 25°, 35°, … の tan について検討。
61. t = tan θ とする。 tan の9倍角の公式…
tan 9θ = (9t − 84t3 + 126t5 − 36t7 + t9)/(1 − 36t2 + 126t4 − 84t6 + 9t8) 《あ》
…を考える(参考: 続・ゾクッとする式)。分母・分子を交互に見た係数 1, 9, 36, 84, 126, … は二項係数(来る・見ろ・蜂よ・一匹踏む)に順に + − を付けたもの。
分子の零点は θ = 0°, ±20°, ±40°, ±60°, ±80° に当たる(§19)。分子が t で割り切れることは明白(θ = 0° のときの t = tan θ = 0 は分子の零点)。 θ = ±60° のとき tan 9θ = 0 なので、 t = tan (±60°) = ±√3 も分子の零点。つまり、
(t + √3)(t − √3) = t2 − 3
…も分子を割り切る。割り算を実行し、下記の分解を得る:
《あ》の分子 = t(t2 − 3)(t6 − 33t4 + 27t2 − 3)
t^6 - 33t^4 + 27t^2 - 3 ┌───────────────────────────────── t^2 - 3 │ t^8 - 36t^6 + 126t^4 - 84t^2 + 9 t^8 - 3t^6 ─────────── - 33t^6 + 126t^4 - 33t^6 + 99t^4 ──────────────── 27t^4 - 84t^2 27t^4 - 81t^2 ───────────── - 3t^2 + 9 - 3t^2 + 9 ────────── 0
問題は、この余因子 t6 − 33t4 + 27t2 − 3 の扱い。
一つの方法は y = t2 と置いて、3次方程式 y3 − 33y2 + 27y − 3 = 0 を考えることだろう。このアプローチは tan2 20°, tan2 40°, tan2 80° の関係を扱うときに便利。解と係数の関係から、直ちに…
tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = 33
従って tan2 20° + tan2 40° + tan2 60° + tan2 80° = 36
…を得る。さらに:
tan2 20° tan2 40° tan2 80° = 3 《い》
従って tan2 20° tan2 40° tan2 60° tan2 80° = 9
応用として:
tan4 20° + tan4 40° + tan4 80° = 332 − 2⋅27 = 1035
従って tan4 20° + tan4 40° + tan4 60° + tan4 80° = 1044
これらの等式はどれもそれなりに面白いが、 tan 20°, tan 40°, tan 80° そのものを扱うためには、あまり便利でない。上記 y の式を解けば、次のような表現を得る:
tan2 80° =
3√(1184 + 32√)
+ 3√(1184 − 32√)
+ 11
tan2 80° に興味がある場合には良くても、 tan 80° を得るには、もう一重の根号が必要になり煩雑。
f(t) = t6 − 33t4 + 27t2 − 3 を「符号が反対の根を持つ二つの3次式」の積に分解したい。一方の3次式の根を α, β, γ とすると、他方の3次式の根は −α, −β, −γ だが、 α, β, γ の絶対値は、根の順序を度外視すると tan 20°, tan 40°, tan 80° で、積 αβγ は √3 または −√3 に等しい。なぜなら《い》により:
(αβγ)2 = α2β2γ2 = 3
よって二つの3次式の定数項は √3 と −√3; 有理係数の範囲で f を分解することは不可能。係数の範囲に、少なくとも √3 を添加する必要がある。解と係数の関係から、何らかの定数 L, M があって…
t6 − 33t4 + 27t2 − 3 = (t3 + Lt2 + Mt + √3)(t3 − Lt2 + Mt − √3) 《う》
…の形の分解が成立。
《う》の右辺を展開し、左辺と係数を比較すれば、機械的に L, M の値を確定できる。実用上は、次のように考えた方が見通しがいい。因子の3次式の根 α, β, γ は 60° 間隔の三つの角度に対するタンジェント tan θ, tan (θ ± 60°) であり、 T = tan 3θ と置くと、この種の3次式は次の形を持つ(§56)。
t3 − 3Tt2 − 3t + T 《え》
《う》右辺の第1因子 t3 + Lt2 + Mt + √3 は T = √3 = tan 60° のケースなので(θ = 20°)、《え》に当てはめれば、
t3 − 3√3t2 − 3t + √3 《お》
…となり、その根は tan (−40°), tan 20°, tan 80° に等しい。同様に《う》の第2因子は T = −√3 = tan (−60°) のケースなので、次のようになる(単に《お》の係数の符号を調整することでも、同じ結論に至る):
t3 + 3√3t2 − 3t − √3
その根は tan (−80°), tan (−20°), tan 40° に等しい。
結局《う》は次のようになり、有理数に √3 を添加した範囲の係数において f は分解可能。
t6 − 33t4 + 27t2 − 3 = (t3 − 3√3t2 − 3t + √3)(t3 + 3√3t2 − 3t − √3)
もし変数を置換して t = u/√3 と置き t6 − 33t4 + 27t2 − 3 = 0 の両辺の (√3)6 = 27 倍を考えるなら、この分解を次のように記すことができる。
u6 − 99u4 + 243u2 − 81 = (u3 − 9u2 − 9u + 9)(u3 + 9u2 − 9u − 9)
二つの3次式の因子が、きれいに係数 ±9 を持つ。
《お》の根と係数の関係から、 Morrie の法則の tan 版を再び得る。
tan 20° tan 40° tan 80° = −(tan 20° tan (−40°) tan 80°) = −(−√3) = √3
62. 一方、《あ》の分母…
1 − 36t2 + 126t4 − 84t6 + 9t8
…の零点を tan θ の形で表すなら、それらは θ = ±10°, ±30°, ±50°, ±70° に当たる。よってこの8次式は、
(t + tan 30°)(t − tan 30°) = t2 − 1/3
…で割り切れる。言い換えれば 3t2 − 1 で割り切れる(係数の範囲が有理数かまたはそれより広いとき、多項式 P が多項式 Q で割り切れる・割り切れないという性質は、P あるいは Q に 0 以外の有理数を掛けても変わらない)。割り算を実行すると、商は:
3t6 − 27t4 + 33t2 − 1
3t^6 - 27t^4 + 33t^2 - 1 ┌────────────────────────────────── 3t^2 - 1 │ 9t^8 - 84t^6 + 126t^4 - 36t^2 + 1 9t^8 - 3t^6 ──────────── - 81t^6 + 126t^4 - 81t^6 + 27t^4 ──────────────── 99t^4 - 36t^2 99t^4 - 33t^2 ───────────── - 3t^2 + 1 - 3t^2 + 1 ─────────── 0
この6次式に 1/3 を掛けた式、すなわち t6 − 9t4 + 11t2 − 1/3 は、前節と同様に、「符号が反対の根を持つ二つの3次式」の積に分解される。そのうち一つの因子は、《え》で T = tan 30° = 1/√3 としたケースであり、次の通り:
t3 − √3t2 − 3t + 1/√3 《か》
その根は tan (−50°), tan 10°, tan 70° だ。もう一つの因子…
t3 + √3t2 − 3t − 1/√3
…の根は tan (−70°), tan (−10°), tan 50° だ。
以上のことから、《あ》の分子あるいは分母の非自明な零点を根号表現することは、3次方程式(係数の範囲は有理数に √3 を添加したもの)の問題となり、機械的に解決可能。得られる結果は、既に得ている結果(§58 等)と一致。
この問題で特徴的なのは、《あ》の分子の零点(0 を除く)と、分母の零点が、互いに逆数になること。例えば、分子の零点は tan 20°, tan 40° などだが、それに対応して、分母の零点は tan 70° = cot 20°, tan 50° = cot 40° など。その結果として、上記、因子の3次式についても、例えば《お》の根を α, β, γ とするなら《か》の根は 1/α, 1/β, 1/γ となる。実際、《か》を t3 で割って x = 1/t と置くと…
1 − √3x − 3x2 + 1/√3x3
…となるが、これを √3 倍すれば、《お》と同じ多項式になる。言い換えると、《か》 = 0 という3次方程式の解と、《お》 = 0 という3次方程式の解は、互いに逆数になる。
63. tan 18θ について同様のことを考える。18倍角の公式の分子 Im (1 + ti)18 の零点は、 θ = 0°, ±10°, ±20°, …, ±80° に対する tan θ だ(円周36等分点――言い換えれば 10° の倍数の角度――のタンジェント)。この17次式は、《あ》の分子と分母の積に他ならない。
われわれは、分母の18次式 G(t) = Re (1 + ti)18 の零点、つまり θ = ±5°, ±15°, ±25°, …, ±85° に対する tan θ に興味がある。
tan (±45°) = ±1 が G の零点であることは明らか; G は (t + 1)(t − 1) で割り切れる。 tan 15°, tan 75° = tan (45 ± 30)° = 2 ∓ √3 が G の零点であることも明白なので、 t2 − 4t + 1 も G を割り切る。同様に −tan (45 ± 30)° も零点なので、 t2 + 4t + 1 も G を割り切る。
〔補足〕 p = tan 75° = 2 + √3 と q = tan 15° = 2 − √3 を根とする2次式 t2 + Bt + C について: 1次の係数は B = −(p + q) = −4; 定数項は C = pq = 1。
G(t) をこれらの因子で割って −1 倍すると、次の回文的(palindromic)な12次式を得る。
t12 − 138t10 + 975t8 − 1868t6 + 975t4 − 138t2 + 1 《き》
この12次式を得る割り算、あるいはそれを二つの6次式の積(さらには四つの3次式の積)に分解する作業は、困難ではないが面倒くさい。多項式の分解はそれ自体として重要な問題ではあるが、この場合 top-down に分解するまでもなく、単に《え》の t3 − 3Tt2 − 3t + T を使えば、因子の3次式は直ちに決定される。例えば T = tan 3θ = tan 75° = 2 + √3 の場合…
t3 − 3(2 + √3)t2 − 3t + (2 + √3) 《く》
…の根は、 θ = 25°, (25 ± 60)° のときの tan θ に対応する。 E = sec 75° = 4 / (√6 − √2)
= √6 + √2、よって E2 = 8 + 4√3 なので、定理1から:
tan 85° = (2 + √3)
+ [(8 + 4√3)(2 + √3 + i)]1/3
+ [(8 + 4√3)(2 + √3 − i)]1/3
= 2 + √3
+ [28 + 16√3 + i(8 + 4√3)]1/3
+ [28 + 16√3 − i(8 + 4√3)]1/3
定理2から:
tan 85° = 2 + √3 + 2(√6 + √2) sin 85°
同様に、
t3 − 3(2 − √3)t2 − 3t + (2 − √3) 《け》
…の根は tan 65°, tan 5°, tan (−55°) で、次が成り立つ。
tan 65° = 2 − √3 + 2(√6 − √2) sin 65°
従って《く・け》は《き》の因子であり、《く・け》の積である回文的な6次式…
t6 − 12t5 + 3t4 + 40t3 + 3t2 − 12t + 1 《こ》
…は、《き》を割り切る。《こ》の根、言い換えれば《く・け》の根は、
tan 85°, tan 25°, tan (−35°); tan 65°, tan 5°, tan (−55°)
…であり、余因子の根はそれらの −1 倍。根と係数の関係から、余因子は、《こ》の奇数次の項――《く・け》で言えば偶数次の項――の係数の符号を逆にしたもの:
t6 + 12t5 + 3t4 − 40t3 + 3t2 + 12t + 1
= [t3 + 3(2 + √3)t2 − 3t − (2 + √3)][t3 + 3(2 − √3)t2 − 3t − (2 − √3)]
結局:
《き》 = (t6 − 12t5 + 3t4 + 40t3 + 3t2 − 12t + 1)(t6 + 12t5 + 3t4 − 40t3 + 3t2 + 12t + 1)
Morrie 風の等式が幾つか派生する。例えば…
tan 35° tan 95° tan 155° = 2 + √3
tan 55° tan 115° tan 175° = 2 − √3
tan 5° tan 65° tan 125° = −2 + √3
tan 25° tan 85° tan 145° = −2 − √3
定理1・定理2から次の表現が生じる(一部既述)。
tan 85° = 2 + √3
+ 3√[28 + 16√ + i(8 + 4√)]
+ 3√[28 + 16√ − i(8 + 4√)]
= 11.4300523027613…
= 2 + √3 + 2(√6 + √2) sin 85°
tan 35° = −2 − √3
+ 3√[−28 − 16√ + i(8 + 4√)]
+ 3√[−28 − 16√ − i(8 + 4√)]
= 0.7002075382097…
= −2 − √3 + 2(√6 + √2) sin 35°
同様に、 tan 15° = 2 − √3 なので、そして
sec 15° = 4 / (√6 + √2) = √6 − √2;
sec2 15° = (√6 − √2)2 = 8 − 4√3;
(8 − 4√3)(2 − √3)
= 28 − 16√3 なので:
tan 65° = 2 − √3
+ 3√[28 − 16√ + i(8 − 4√)]
+ 3√[28 − 16√ − i(8 − 4√)]
= 2.1445069205095…
= 2 − √3 + 2(√6 − √2) sin 65°
tan 55° = −2 + √3
+ 3√[−28 + 16√ + i(8 − 4√)]
+ 3√[−28 + 16√ − i(8 − 4√)]
= 1.4281480067421…
= −2 + √3 + 2(√6 − √2) sin 55°
2024-07-29 円周40等分点のタンジェント
#遊びの数論 #Morrie の法則 #tan の多倍角 #tan 半角
1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7 + 8 + 9 = 45
= tan2 π/20
+ tan2 3π/20
+ tan2 5π/20
+ tan2 7π/20
+ tan2 9π/20
1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7 + 8 = 36
= tan2 π/9
+ tan2 2π/9
+ tan2 3π/9
+ tan2 4π/9
の親戚のような、面白い式。
64. tan の10倍角の公式…
tan 10θ = (10t − 120t3 + 252t5 − 120t7 + 10t9)/(1 − 45t2 + 210t4 − 210t6 + 45t8 − t10) 《さ》
…を考える。ただし t = tan θ。分子の零点は、 θ = 0°, ±18°, ±36°, ±54°, ±72° (9° の偶数倍の角度)に対する tan θ で、その根号表現は既知。分母の零点は、 θ = ±9°, ±27°, ±45°, ±63°, ±81° (9° の奇数倍の角度)に対する tan θ; それらの値を求めたい。原理的には、半角の公式を使って個別的にも処理できそうだが(例えば tan 18° から見た tan 9°)、ここでは《さ》の分母の分解を試みる。
分母の零点には t = tan (±45°) = ±1 が含まれるので、分母は (t + 1)(t − 1) = t2 − 1 で割り切れる。今、分母の −1 倍を t2 − 1 で割ると…
t^8 - 44t^6 + 166t^4 - 44t^2 + 1 ┌─────────────────────────────────────────── t^2 - 1 │ t^10 - 45t^8 + 210t^6 - 210t^4 + 45t^2 - 1 t^10 - t^8 ──────────── - 44t^8 + 210t^6 - 44t^8 + 44t^6 ──────────────── 166t^6 - 210t^4 166t^6 - 166t^4 ─────────────── - 44t^4 + 45t^2 - 44t^4 + 44t^2 ──────────────── t^2 - 1 t^2 - 1 ─────── 0
つまり、《さ》の分母は = −1(t2 − 1)(t8 − 44t6 + 166t4 − 44t2 + 1) で、その値が = 0 になるような t は、上記 t = ±1 の他、次の8次方程式の(八つの)解:
t8 − 44t6 + 166t4 − 44t2 + 1 = 0 《し》
この左辺は t の偶数次の項だけしか含んでいないので、 t2 についての4次式: y = t2 と置けば4次方程式になる。
y4 − 44y3 + 166y2 − 44y + 1 = 0 《じ》
《し》の8解は、《じ》の4解それぞれの正と負の平方根: 絶対値が同じで符号だけが逆の4ペアから成る。《し》の8解は t = ±tan 9°, ±tan 27°, ±tan 63°, ±tan 81° で、《じ》の4解は y = t2 = tan2 9°, tan2 27°, tan2 63°, tan2 81° だ。《じ》の解と係数の関係から、次のきれいな等式を得る。
tan2 9° + tan2 18° + tan2 63° + tan2 81° = 44
tan2 9° + tan2 18° + tan2 45° + tan2 63° + tan2 81° = 45
65. 《し・じ》は係数が回文的なので、次数をさらに半分にでき、8次方程式《し》は、単なる2次方程式に帰着する。すなわち《し》の両辺を t4 で割って、項を並び替えると:
t4 − 44t2 + 166 − 44t−2 + t−4
= (t4 + t−4) − 44(t2 + 44t−2) + 166 = 0 《す》
4次の項を消すために、《す》から次の式を引き算する:
(t + t−1)4 = t4 + 4t3(t−1) + 6t2(t−1)2 + 4t(t−1)3 + (t−1)4
= t4 + 4t2 + 6 + 4t2 + t−4
= (t4 + t−4) + 4(t2 + 44t−2) + 6
結果は…
《す》 − (t + t−1)4 = −48(t2 + 44t−2) + 160
2次の項も消すため、そこに (t + t−1)2 = (t2 + 44t−2) + 2 の 48倍を足すと…
《す》 − (t + t−1)4 + 48(t + t−1)2 = 160 + 48⋅2 = 256
∴ 《す》 = (t + t−1)4 − 48(t + t−1)2 + 256
従って、もし u = t + t−1 と置くなら、《す》はこうなる:
u4 − 48u2 + 256 = 0 《ず》
これを x = u2 についての2次方程式 x2 − 48x + 256 = 0 と見ると、解は:
u2 = x = 24 ± √320
= 24 ± 8√5
∴ u = √(24 ± 8√) または u = −√(24 ± 8√)
以上が4次方程式《ず》の4解だが、これらの二重根号は基本アルゴリズムによって簡約可能。次のようになる。
u1 = 2 + 2√5, u2 = −2 + 2√5, u3 = −2 − 2√5 (= −u1), u4 = 2 − 2√5 (= −u2)
仮定により u = t + t−1、その両辺を t 倍すれば ut = t2 + 1。つまり t についての2次方程式…
t2 − ut + 1 = 0 《せ》
…を得る。《せ》の1次の係数 u は上記4種の値を取ることができ、その一つ一つに対して《せ》は二つの解 t を持つので、計8解が生じる。例えば u = u1 = 2 + 2√5 の場合、《せ》は…
t2 − (2 + 2√5)t + 1 = 0
その解は(判別式の 4 分の 1 が (1 + √5)2 − 1 = 1 + 2√5 + 5 − 1 = 5 + 2√5 なので):
t = 1 + √5 ± √(5 + 2√) ‥‥①
同様に u = u2 = −2 + 2√5 の場合、《せ》の2解は:
t = −1 + √5 ± √(5 − 2√) ‥‥②
①②は、《し》の8解 t = ±tan 9°, ±tan 27°, ±tan 63°, ±tan 81° のうちの四つ; これら4解はいずれも正。最大の解は、①の複号で + を選んだ場合。しかも、解と係数の関係から、①の2解の積も、②の2解の積も 1 であり、言い換えれば、それぞれ2解は互いに逆数。よって①の2解は…
tan 9π/20 = tan 81° = 1 + √5 + √(5 + 2√)
tan π/20 = tan 9° = 1 + √5 − √(5 + 2√)
同様に②の2解は…
tan 7π/20 = tan 63° = −1 + √5 + √(5 − 2√)
tan 3π/20 = tan 27° = −1 + √5 − √(5 − 2√)
《せ》で u = u3 ないし u = u4 とした場合の計4解は、上記4解の符号を変えたもの。
tan 81° = cot 9° = 1 / tan 9° などの逆数関係については、次のような単純な直接計算も可能。
tan 81° tan 9° = (1 + √5 + √(5 + 2√))(1 + √5 − √(5 + 2√))
= (1 + √5)2 − (√(5 + 2√))2
= (1 + 2√5 + 5) − (5 + 2√5) = 1
66. 代わりに《じ》を経由した方が、途中計算が少し簡潔になる。《じ》の両辺を y2 で割り、左辺と右辺を入れ替えると:
0 = y2 − 44y + 166 − 44y−1 + y−2
そこから (y + y−1)2 = y2 + 2 + y−2 を引くと:
0 − (y + y−1)2 = −44y + 164 − 44y−1
この等式の両辺に 44(y + y−1) を足すと、右辺は 164 になる。 z = y + y−1 と置けば:
0 − z2 + 44z = 164 つまり z2 − 44z + 164 = 0
∴ z = 22 ± 8√5
z = y + y−1 = t2 + t−2 = (t + t−1)2 − 2 = u2 − 2 つまり u2 = z + 2 なので、上の結論から、次のことが分かる:
u2 = z + 2 = 24 + 8√5 または u2 = 24 − 8√5
これは前節の《ず》の解に他ならない。
67. 《さ》の分母の8次の因子《し》は、究極的には八つの1次式の積として、次のように分解される。
(t + tan 9°)(t − tan 9°)…(t + tan 81°)(t − tan 81°)
言い換えると、それは《せ》左辺の形の四つの2次式の積:
(t2 − u1t + 1)(t2 − u2t + 1)…(t2 − u4t + 1) 《そ》
《そ》の各因子の1次の係数 uj は ±2 ± 2√5 の形を持つ(複号については4種の符号の組み合わせが可能)。つまり、有理数に √5 を添加した範囲の係数では、《し》は4因子に分解可能。では《し》は、有理係数の範囲では分解可能か?
もし《そ》の因子の2次式に含まれる √5 を消すことができれば、そのような分解も可能だろう。
(t2 − u3t + 1)(t2 − u2t + 1) = [t2 − (−2 − 2√5)t + 1][t2 − (−2 + 2√5)t + 1]
= [(t2 + 2t + 1) + 2(√5)t][(t2 + 2t + 1) − 2(√5)t]
= (t2 + 2t + 1)2 − (2(√5)t)2
= (t2 + 2t + 1)2 − 20t2
…は整数係数。つまり《そ》の因子を二つずつ適切に組み合わせれば、《そ》は整数係数の二つの4次式に分解される。第一の因子は…
(t2 + 2t + 1)2 − 20t2
=
t4 + 4t2 + 1 + 2(2t3 + 2t + t2) − 20t2
= t4 + 4t3 − 14t2 + 4t + 1
同様に、第二の因子は…
(t2 − u4t + 1)(t2 − u1t + 1)
= (t2 − 2t + 1)2 − (2(√5)t)2
= t4 − 4t3 − 14t2 − 4t + 1
結論として、《し》は、有理係数の範囲では次のように分解される:
t8 − 44t6 + 166t4 − 44t2 + 1 = (t4 + 4t3 − 14t2 + 4t + 1)(t4 − 4t3 − 14t2 − 4t + 1)
この因子の4次式――例えば t4 + 4t3 − 14t2 + 4t + 1 ――が与えられたとすると、容易にその四つの根を求めることができる(係数は回文的なので u = t + t−1 と置けば u についての2次方程式に帰着)。われわれは8次式《し》、すなわち t8 − 44t6 + 166t4 − 44t2 + 1 を出発点に八つの根を求め、今そこから逆算して有理係数の範囲での《し》の分解を得たが、別解の可能性として、先にこの8次式を二つの4次式に分解したとすれば、その因子の4次式を経由して、同じ八つの根に至ることができる。8次式の分解は一般には簡単なことではないだろうけど、この場合、係数の回文性を考慮すれば実行可能だろう。
2024-08-05 cos 9°, sin 9° と逆数
前回 tan 9° = 1 + √5 − √(5 + 2√) とその逆数 cot 9° を求めた。参考として con 9°, sin 9° と逆数 sec 9°, csc 9° も求めておく。
68. cos 36° = (1 + √)/4, sin 36° = [√(10 − 2√)]/4 は、いろいろな方法で求めることができる(参考リンク)。 cos 45° と sin 45° は等しいので(どちらの値も (√)/2 = 1/(√))、次の二つの数は、真ん中の符号が逆であることを除けば、同じ形の式で表される。
cos 9° = cos (45° − 36°)
= cos 45° cos 36° + sin 45° sin 36°
= [1/(√] )⋅(1 + √)/4
+ [1/(√] )⋅[(√10 − 2√)]/4
=
[1/(4√)](1 + √ + √(10 − 2√)) ‥‥①
=
(1/8)(√2 + √10 + √(20 − 4√)) = (1/8)(√2 + √10 + 2√(5 − √))
sin 9° = sin (45° − 36°) = sin 45° cos 36° − cos 45° sin 36°
= [1/(√] )⋅(1 + √)/4
− [1/(√] )⋅[√(10 − 2√)]/4
=
[1/(4√)](1 + √ − √(10 − 2√)) ‥‥②
=
(1/8)(√2 + √10 − √(20 − 4√)) = (1/8)(√2 + √10 − 2√(5 − √))
1 の原始40乗根の主値
ζ40 = (1/8)(√2 + √10 + 2√(5 − √)) + (i/(8)(√2 + √10 − 2√(5 − √))
69. sec 9° ――つまり cos 9° の逆数――を求めたい。簡潔化のため √5 を ε と略すと、①から:
sec 9° = 1/cos 9° = (4√)/[1 + ε + √(] )
= 4√⋅{1/[1 + ε + √(]} ) 《た》
《た》の分母を2段階に分けて有理化する。まず…
1/[1 + ε + √(] )
=
[(1 + ε) − √(]/{[(1 + ε) + )√(][(1 + ε) − )√(]} ) 《ち》
= [(1 + ε) − √(]/[(6 + 2ε) − (10 − 2ε)] )
=
[(1 + ε) − √(]/(4ε − 4) )
=
[(ε + 1) − √(]/[4(ε − 1)] )
《つ》
なぜなら ε2 = (√)2 = 5 なので:
《ち》の分母 = (1 + ε)2 − (√()2
= (1 + 2ε + ε2) − (10 − 2ε) = (6 + 2ε) − (10 − 2ε) )
次に《つ》の分母に含まれる ε = √ を解消する。
1/[1 + ε + √(] )
= 《つ》 =
{[(ε + 1) − √(](ε + 1)}/[4(ε − 1)(ε + 1)] ) 《て》
=
[(6 + 2ε) − √(]/16 )
=
[6 + 2ε − 2√(]/16 )
=
[3 + ε − √(]/8 ) 《と》
なぜなら (ε + 1)2 = 6 + 2ε、従って
ε + 1 =
√( なので: )
《て》の分子 = (ε + 1)2 − √(⋅ )√(
= (6 + 2ε) − )√( )
[右端の根号下は (10 − 2ε)(6 + 2ε) = 60 + 20ε − 12ε − 4⋅5 = 40 + 8ε]
《て》の分母 = 4(ε2 − 1) = 4(5 − 1) = 16
《と》を《た》に代入して、次の結論に至る。
sec 9° =
4√⋅{[3 + ε − √(]/8} )
=
[(√)(3 + ε − √()]/2 )
= [3 + ε − √(]/ )√
言い換えれば:
sec 9°
=
(1/2)(3√2 + √10 − √(20 + 4√))
=
(1/2)(3√2 + √10 − 2√(5 + √))
同様に②から…
csc 9° = 1/sin 9° = 4√⋅{1/[1 + ε − √(]} )
= [3 + ε + √(]/ )√
=
(1/2)(3√2 + √10 + √(20 + 4√))
=
(1/2)(3√2 + √10 + 2√(5 + √))
2024-08-07 半角の公式からの cos 9° 三重根号の簡約
余弦の加法定理 cos (α + β) = cos α cos β − sin α sin β で β = α の場合、倍角の公式・半角の公式が生じる。
cos (2α) = cos2 α − sin2 α = cos2 α − (1 − cos2 α) = 2 cos2 α − 1
∴ 2 cos2 α = 1 + cos (2α)
70. cos 18° =
[√(10 + 2√)]/4 を既知として、上記で α = 9° の場合(つまり 2α = 18° の場合)を考えると…
2 cos2 9° = 1 + cos 18° = 1 + [√(10 + 2√)]/4
=
[4 + √(10 + 2√)]/4
∴ cos2 9°
=
[4 + √(10 + 2√)]/8
簡潔化のため √5 を ε と略すと:
cos2 9°
=
(1/8)(4 + √(10 + 2ε)) 《な》
《な》の両辺の平方根が
cos 9° ―― cos 9° は正なので、下記の結論に至る(分母が平方数 16 の方が都合いいので、《に》では《な》の分子・分母を 2 倍)。
cos2 9° = (1/16)(8 + 2√(10 + 2ε)) 《に》
∴ cos 9° = (1/4)√[8 + 2√( )] 《ぬ》
ここまでは単純計算。さて、(半角の公式ではなく)加法定理 cos 9° = cos (45° − 36°) からの計算によると(§68):
cos 9° =
(1/8)(√2 + √10 + 2√(5 − √)) =
[1/(4√)](1 + ε + √(10 − 2ε)) 《ね》
《ぬ・ね》どちらも、同じ cos 9° を表す。確かめたい――三重根号を使った《ぬ》と(ε = √5 は一重根号)、二重根号で収まる《ね》が、事実等しい数を表していることを。
24° の倍数の三角関数でもそうだが、根号のネスト(入れ子)を増やす方向の《ね》→《ぬ》は、難しくない。単に《ね》を平方して《な》になることを見ればいい。
《ね》の平方 = cos2 9° = [1/(16⋅2)][(1 + ε) + √(10 − 2ε)]2
= (1/32)[(1 + ε)2 + 2(1 + ε)√(10 − 2ε) + (10 − 2ε)]
= (1/32)[(6 + 2ε) + 2√(40 + 8ε) + (10 − 2ε)]
= (1/32)[16 + 2⋅2√(10 + 2ε)]
途中計算は §69 と同様。この最後の数は、約分すると確かに《な》に等しい。
71. 逆方向の変形。三重根号形式の《ぬ》を簡約して二重根号形式にするには、多重根号簡約の基本アルゴリズムが役立つ。簡潔化のため《ぬ》を 4 倍して分数を解消し、
4 cos 9° = √[8 + 2√( )]
…の外側の根号を問題とする。基本アルゴリズムによれば、根号下の和(または差)を作っている二つの数…
a = 8, b = 2√(10 + 2ε)
…について、もしそれらの平方差…
q = 82 − (2√(10 + 2ε))2
= 64 − 4(10 + 2ε) = 24 − 8ε = 22(6 − 2ε)
…が平方数 r2 なら、根号を簡約できる。ここで r は、二重根号簡約の場合には有理数でなければならないが、三重根号簡約の場合、ある種の無理数でも構わない(§47)。この例では 6 − 2ε = (ε − 1)2 なので†、 q は r = 2(ε − 1) = 2ε − 2 の平方; この r は無理数 ε = √5 を含むが、ここで考えている世界――有理数に √5 が添加されている――では、「平方数」に当たる。
† これは、正の実数 6 − 2ε = 6 − 2⋅2.236… の平方根を求めることに当たり、もし暗算できないとしても、それ自体、基本アルゴリズムによって解決する。仮に r の符号を逆にして r = 2 − 2ε としても r2 = q が成り立つ; そのように r を設定しても結果は同じだが(下記の U と V が入れ替わるだけ)、ここでは単純に「r は正」としておく。
a = 8 と r = 2ε − 2 の平均は U = (a + r)/2 = (6 + 2ε)/2 = 3 + ε。一方、 a と U の差は V = a − U = 8 − (3 + ε) = 5 − ε。基本アルゴリズムによって、次のように、三重根号を二重根号に簡約できる:
4 cos 9° = √[8 + 2√( )]
= √(U) + √(V)
= √(3 + ε) + √(5 − ε) 《の》
のみならず、《の》の右端二つの二重根号のうち一つは、さらに簡約可能。
《の》右端の第2項 √(5 − ε) については、根号下の平方差 52 − ε2 = 25 − 5 = 20 が「有理数の平方」ではないので、二重根号を解除できない。一方、第1項 √(3 + ε) については、 32 − ε2 = 9 − 5 = 4 が平方数(2 の平方)なので、二重根号を解除できる。すなわち 3 と 2 の平均 u = 5/2 および v = 3 − u = 1/2 を使って:
√(3 + ε)
= √(u) + √(v)
= √(5/2) + √(3/2)
これを《の》に代入すると:
4 cos 9° = √(5/2) + √(1/2) + √(5 − ε)
両辺を √2 倍して:
4√(2) cos 9° = √(5) + √(1) + √(10 − 2ε)
= 1 + ε + √(10 − 2ε)
確かに、《ね》の両辺を 4√2 倍したものと一致。
《ぬ》の三重根号を二重根号に簡約するため、メインとなる U, V の計算において、多重根号簡約の基本アルゴリズムを使った。途中計算でも、 24 − 8ε の平方根の計算において、そして 3 + ε の平方根の計算において、同じアルゴリズムを使った†。
† このうち 24 − 8ε = 4(6 − 2ε) = 22(ε − 1)2 は、難しい計算ではない。 X = 3 + ε の平方根について、 2X = 6 + 2ε は (ε + 1)2 なので、 2X の平方根は ε + 1 の √2 倍に等しい。従って X の平方根は ε + 1 = √(5) + √(1) の √2 分の 1 に等しい――つまり √(X) = √(5/2) + √(1/2) となる。
「9° の奇数倍の角度」の三角関数それ自体はさほど重要な問題でもないだろうが、二重根号表現・三重根号表現の相互変換や、大局的な高次方程式の扱いは、それなりに奥が深く、面白い。
2024-08-15 半角の公式からの sin 9° と tan 9°
余弦の加法定理から cos (2α) = cos2 α − sin2 α = (1 − sin2 α) − sin2 α = 1 − 2 sin2 α
∴ 2 sin2 α = 1 − cos (2α)
72. よって §70 と同様に:
2 sin2 9° = 1 − [√(10 + 2ε)]/4
=
[4 − √(10 + 2ε)]/4
sin2 9°
=
(1/8)(4 − √(10 + 2ε)) = (1/16)(8 − 2√(10 + 2ε))
∴ sin 9° = (1/4)√[8 − 2√( )]
a = 8, b = 2√(10 + 2ε) と置くと
4 sin 9° = √(a − b) となるが、この多重根号は
4 cos 9° = √(a + b) と全く同様に簡約可能(§71)。その結果は §68 と一致:
sin 9° = (1/8)(√2 + √10 − 2√(5 − √))
73. 半角の公式経由で、 tan 9° = 1 + ε − √(5 + 2ε) を求めたい(§65参照)。
tan の半角の公式には多くの種類がある。上記(§72)の…
2 sin2 α = 1 − cos (2α)
…を、前回の…
2 cos2 α = 1 + cos (2α)
…で割って 2 で約分するなら:
tan2 α
=
((sin α)/(cos α))2
=
(sin2 α)/(cos2 α)
=
[1 − cos (2α)]/[1 + cos (2α)]
今 α = θ/2 と置けば:
tan の半角の公式(原型) tan2 (θ/2) = (1 − cos θ)/(1 + cos θ) 《は》
両辺の平方根を考えれば
tan (θ/2)
についての式となる。
−180° < θ < 180° のとき −1 < cos θ < 1 なので、《は》右辺は決して負にならない。一方、
tan (θ/2)
の値は 0° < θ < 180° なら正、 θ = 0° ならゼロ、 0° > θ > −180° なら負だから、《は》左辺の平方根
tan (θ/2)
は θ の値に応じて正・ゼロ・負のいずれにもなり得る。具体的に、 θ が第1・第2象限の角なら:
tan (θ/2)
= √[(1 − cos θ)/(1 + cos θ)] 《はあ》
θ が第3・第4象限の角なら:
tan (θ/2)
= −√[(1 − cos θ)/(1 + cos θ)] 《はい》
〔例〕 θ = 120° の場合 cos θ = −1/2 だから、《は》の右辺は:
[1 − (−1/2)]/[1 + (−1/2)]
=
(3/2)/(1/2)
= 3
この場合、 tan (θ/2) = tan 60° = √3 は、上記 3 の正の平方根。つまり《はあ》が成り立つ。一方、 θ = −120° の場合も cos θ = −1/2 で、《は》の右辺は 3 に等しいが、その場合、
tan (θ/2) = tan (−60°) = −√3 なのだから、今度は 3 の負の平方根を考えねばならず、《はあ》ではなく《はい》が成り立つ。
要するに θ の象限に応じて、《は》の平方根は《はあ・はい》のどちらにもなり得る。この条件分岐(根号の前に付く符号の選択)は、実用上やや面倒くさい。tan 18° を出発点に《は》経由で tan 9° を求める計算も、比較的ややこしい。
ここではまず、比較的簡単な別経路を検討する。
《は》を少し変形することで、符号の選択を「自動化」できる。《は》右辺の分子・分母を (1 − cos θ) 倍すると:
tan2 (θ/2)
= [(1 − cos θ)2]/[(1 + cos θ)(1 − cos θ)]
この右辺の分母は = 1 − cos2 θ = sin2 θ なので:
tan2 (θ/2)
= (1 − cos θ)2/sin2 θ
= ((1 − cos θ)/(sin θ))2 《ひ》
1 − cos θ は決して負にならないので、 (1 − cos θ)/(sin θ) が負になるかどうかは、 sin θ が負になるかどうかによって決まる。具体的に、もし θ が「第1・第2象限の正の角度」なら sin θ は正になり、もし θ が「第3・第4象限の負の角度」なら sin θ は負になるが、既に見たように、
θ が「第1・第2象限の正の角度」かあるいは「第3・第4象限の負の角度」かに応じて、
tan (θ/2)
も正あるいは負の値を持つ。《ひ》の両辺の平方根は、理論的には…
tan (θ/2)
= ±((1 − cos θ)/(sin θ))
…になるはずだが、この場合に関しては、上記の考察により、右辺の ± において常に + を選択できる。
〔注〕 ただし θ = 0° の場合には《ひ》は――従って下記《ふ》は――無効なので(分母が 0 になってしまう)、 θ ≠ 0° とする。原型の《は》は、 θ = 0° でも有効な等式だが(両辺の値は 0)、《は》から《ひ》への変形では、分子・分母がそれぞれ 1 − cos θ 倍される; もしも θ = 0° なら、分子・分母が 0 倍されることになってしまい、有効な変形ではない。
同様に《は》右辺の分子・分母を (1 + cos θ) 倍すると:
tan2 (θ/2)
= [(1 − cos θ)(1 + cos θ)]/[(1 + cos θ)2]
この右辺の分子は = 1 − cos2 θ = sin2 θ なので:
tan2 (θ/2)
= sin2 θ/(1 + cos θ)2
= ((sin θ)/(1 + cos θ))2
1 + cos θ も決して負にならないので、左辺の平方根
tan (θ/2)
の値は、 sin θ の値が正・ゼロ・負のどれになるかに応じて、正・ゼロ・負のいずれにもなり得る(θ = 0° でも構わない)。
以上をまとめると…
tan の半角の公式(二つの基本形)
tan (θ/2)
= (1 − cos θ)/sin θ 《ふ》
tan (θ/2)
= sin θ/(1 + cos θ) 《ぶ》
これら二つの恒等式は、しばしば幾何学的に導出される。ここでは余弦の加法定理を出発点として、代数的に(sin と cos の倍角の公式・半角の公式を経由して)同じ結論を導いた。
74. θ = 18° として、 cos 18° = [√(10 + 2ε)]/4 と
sin 18° = (−1 + ε)/4 を《ふ》に当てはめると(§38参照)…
tan 9°
=
{1 − [√(10 + 2ε)] / 4}/[(ε − 1) / 4]
=
[4 − √(10 + 2ε)]/(ε − 1)
=
[(4 − √(10 + 2ε))(ε + 1)]/[(ε − 1)(ε + 1)]
この右端の分母は = ε2 − 1 = 5 − 1 = 4 なので:
tan 9°
=
[4(ε + 1) − √(10 + 2ε)(ε + 1)]/4
=
1 + ε − √(5 + 2ε)
なぜなら √(10 + 2ε)(ε + 1)
=
√(10 + 2ε) √(6 + 2ε)
=
√[(10 + 2ε)(6 + 2ε)]
=
√(80 + 32ε)
= 4√(5 + 2ε)
tan 9° の根号表現 1 + ε − √(5 + 2ε) をうまく得ることができた。
同様に《ぶ》から…
tan 9°
=
[(ε − 1) / 4]/{1 + [√(] / 4} )
=
(ε − 1)/[4 + √(] )
この分子・分母を 4 − √(10 + 2ε) 倍すると:
分子 = (ε − 1)(4 − √(10 + 2ε))
=
4(ε − 1) − (ε − 1)√(10 + 2ε)
=
4(ε − 1) − √(6 − 2ε) √(10 + 2ε)
=
4(ε − 1) − √(40 − 8ε)
=
4(ε − 1) − 2√(10 − 2ε)
分母 = 42 − (10 + 2ε) = 6 − 2ε
よって…
tan 9°
=
[4(ε − 1) − 2√(10 − 2ε)]/(6 − 2ε)
=
[2(ε − 1) − √(10 − 2ε)]/(3 − ε)
この分子・分母を 3 + ε 倍すると:
分子 = 2(ε − 1)(ε + 3) − (3 + ε)√(10 − 2ε)
=
2(2 + 2ε) − √(14 + 6ε) √(10 − 2ε)
= (4 + 4ε) − √[(14 + 6ε)(10 − 2ε)]
=
4(1 + ε) − √(80 + 32ε)
=
4(1 + ε) − 4√(5 + 2ε)
分母 = 32 − 5 = 4
分子を分母で割って、再び tan 9° = 1 + ε − √(5 + 2ε) を得る。
75. 以上は比較的簡単な経路だった。
《は》の tan2 (θ/2) = (1 − cos θ)/(1 + cos θ) を直接使うと、下記のように三重根号の処理が絡んでくる。
まず
cos 18° = [√(10 + 2ε)]/4 なので:
tan2 9°
=
{1 − [√(] / 4}/{1 + [ )√(] / 4} )
=
[4 − √(]/[4 + )√(] ) 《へ》
《へ》の分子・分母をそれぞれ 4 − √(10 + 2ε) 倍すると…
分子 = (4 − √(10 + 2ε))2
=
16 − 8√(10 + 2ε) + (10 + 2ε)
=
26 + 2ε − 8√(10 + 2ε)
分母 = 16 − (10 + 2ε) = 6 − 2ε
分子を分母で割り 2 で約分すると:
tan2 9°
=
[13 + ε − 4√(10 + 2ε)]/(3 − ε) 《へへ》
《へへ》の分子・分母を 3 + ε 倍すると…
分子 = (13 + ε)(3 + ε) − 4(3 + ε)√(10 + 2ε)
=
(44 + 16ε) − 4√(14 + 6ε) √(10 + 2ε)
分母 = 9 − 5 = 4
分子を分母 4 で割ると†:
tan2 9°
=
(11 + 4ε) − √[(14 + 6ε)(10 + 2ε)]
=
(11 + 4ε) − √(200 + 88ε) 《へへへ》
tan 9° は正。《へへへ》の正の平方根…
tan 9° = √[11 + 4ε − √( )]
…を求めればいい。この多重根号を簡約できるか?
a = 11 + 4ε, b = √(200 + 88ε)
…と置くと、平方差は次のように r = 1 の平方:
a2 − b2 = (121 + 88ε + 80) − (200 + 88ε) = 1 = r2
基本アルゴリズムによれば、
U = (a + r)/2 = (11 + 4ε + 1)/2 = 6 + 2ε
V = a − U = (11 + 4ε) − (6 + 2ε) = 5 + 2ε
…を使って tan 9° = √U − √V と書ける。あらためて次の結論に至る。
tan 9° = √(6 + 2ε) − √(5 + 2ε)
= 1 + ε − √(5 + 2ε)
† b に当たる平方根を、次のように扱うことも可能。
b = √[(14 + 6ε)(10 + 2ε)]
= 2√[(7 + 3ε)(5 + ε)]
= 2√(50 + 22ε)
b2 = 22(50 + 22ε) = 200 + 88ε
《へ》では半角の公式《は》を使って tan2 9° を求めた。代わりに、次のようにしてもいい。 §70 《な》から:
8 cos2 9°
= 4 + √(10 + 2ε) ‥‥Ⓒ
同様に §72 から:
8 sin2 9°
= 4 − √(10 + 2ε) ‥‥Ⓢ
ⓈをⒸで割り、《へ》と同等の式を得る:
Ⓢ/Ⓒ
=
[4 − √(]/[4 + )√(] )
=
(8 sin2 9°)/(8 cos2 9°)
=
(sin2 9°)/(cos2 9°) = (sin 9°/cos 9°)2 = tan2 9°
2024-08-31 tan の半角公式 csc 版 二重根号の和・差
tan の半角公式の基本形 tan (θ/2) = (1 − cos θ)/sin θ は = 1/sin θ − cos θ/sin θ = csc θ − cot θ と変形可能。この csc(コセック)バージョン†は、正五角形の研究でもちょっと活躍するが、 9° = π/20 系の角度に関しては「ほとんどチート」とも言える威力を発揮するッ!
例えば csc 18° = √5 + 1 と cot 18° = √(5 + 2√) を前提とすると(参考リンク)…
半角の公式(通常版)を使った §74 に比べると、ほとんど何もせず、瞬時に同じ結論に(文字 ε は単に √5 の省略記法)。
いつでも楽ができるとは限らない。別の局面では、次の例のように、同じ公式から奇妙な結論(内容は正しい)が生じる。
簡約できない二重根号から、簡約できない二重根号を引いたら、その結果は別の(簡約できない)二重根号に…。一見したところ「なんじゃこりゃ?」「平方根と平方根の間で、何でこんな引き算ができるんだ?」と首をひねってしまいそうだが、好奇心を刺激する式には違いない。
† cosecant(コセカント=余割)は、対辺 1 の直角三角形の斜辺の長さに当たり、cosec(コセック)と略される。しばしばさらに略して csc と表記される。
76. sin, cos の加法定理から2倍角の式を得て、 sin2 ÷ cos2 から tan の半角の公式の原型を得ること、そこから基本形を導くことは、難しくない(§73)。幾何学的な方法で、同じ結果を導くのはさらに易しい。代数的にも、ひとたび…
tan (θ/2)
= (1 − cos θ)/sin θ
= 1/sin θ − cos θ/sin θ
…が得られれば、それを…
tan (θ/2)
=
csc θ − cot θ 《ほ》
…と書くことは、単に「sin の逆数、 tan の逆数をそれぞれ csc, cot で表す」という約束事(定義)に過ぎない。
次のように視覚化できる。
言葉で説明すると、以下の通り。原点 O から偏角 θ 方向へ伸びる半直線上において、縦座標 1 の点を A とする。 A の座標†は (cot θ, 1) で、線分 OA の長さは csc θ だ。座標 (cot θ + csc θ, 1) の点を Q とすると、ひし形‡ OAQE の対角線 OQ は、角 θ を二等分する。 A から横軸 OE に下ろした垂線の足を D とする。 ∠DAE の大きさも θ の半分であることを容易に証明できる。
直角三角形 DAE の底辺(頂点 A から見た隣辺)の長さは 1、高さ(対辺)は csc θ − cot θ なので、あらためて恒等式《ほ》を得る:
tan (θ/2) = csc θ − cot θ
† (0, 1) の点を P とすると、三角関数の定義から PA (= OD) = cot θ。
‡ 四つの頂点のうち三つが O, A, Q で、一辺の長さが csc θ のひし形なので、もう一つの頂点 E (0, csc θ) は自動的に定まる。
《ほ》は簡潔できれいな式というだけでなく、 θ が 18° や 54° の場合などに、 tan 9° や tan 27° の根号表現(普通にやると計算が面倒)について、便利なショートカットを与えてくれる。例えば、
csc 54° = √5 − 1 そして cot 54° = √(5 − 2√)
…なので、その二つを《ほ》に当てはめるだけで、次の答えを得る(§65と一致)。
tan 27° = √5 − 1 − √(5 − 2√)
tan 27° つまり tan (3π/20) の根号表現を求める方法としては、一番手っ取り早いかも?
77. 半面、 θ の値によっては《ほ》の計算は少々トリッキー(遊びとしては、そこが面白いのだが…)。例題として、 θ = 72° として tan 36° を求めてみる。
csc 72°
=
[√(50 − 10√)]/5 そして cot 72°
=
[√(25 − 10√)]/5 (⌘)
この二つに《ほ》を適用すると:
tan 36° = csc 72° − cot 72° = [√(50 − 10√) − √(25 − 10√)]/5 ‥‥❶
しかし tan 36° は、次の値を持つ。
tan 36° = √(5 − 2√) ‥‥❷
どちらも明らかに正の数だが、❶と❷は等しいのか?
とりあえず❶の分母を払って:
5 tan 36° = √(50 − 10√) − √(25 − 10√)
両辺を平方して:
25 tan2 36° = (50 − 10√) + (25 − 10√) − 2√(50 − 10√) √(25 − 10√)
= 75 − 20√ − 2√(1750 − 750√)
=
75 − 20√ − 2⋅5√(70 − 30√)
根号簡約の基本アルゴリズムによれば √(70 − 30√)
= 3√ − 5 という簡約が可能(下記「補足」参照)。それを上の式に代入して:
25 tan2 36°
=
75 − 20√ − 10(3√ − 5) = 125 − 50√
両辺を 25 で割ると:
tan2 36° = 5 − 2√ ‥‥❸
❸の両辺の正の平方根を考えると(tan 36° は正)、❷を得る。つまり❶を整理すると、確かに❷に等しい!
計算はこれで合ってるが、ちょっと普通と違う感じ。一つの二重根号を外すのはありふれた処理だけど、この場合、二重根号と二重根号の線型結合(和・差など。上の例では差)――トータルで根号が四つある状態――を一つの二重根号(トータルで根号が二つ)に簡約している(Borodin のアルゴリズムの特別な場合に当たる)。
別解 上の変形では、どうせ途中で両辺を平方する。分母が √ でも、それを平方すればただの整数 5 になって、扱いやすそう。そこで出発点(⌘)の分数を √ で約分しておけば、計算量を節約できるかも。
csc 72°
=
[√(10 − 2√)]/√ そして cot 72°
=
[√(5 − 2√)]/√ ← (⌘)の「約分」結果
何度も √5 と書くのはうざいので、いつものようにそれを ε と略す。❶に当たる式は…
tan 36° = [√(10 − 2ε) − √(5 − 2ε)]/ε
両辺を ε 倍して:
ε tan 36° = √(10 − 2ε) − √(5 − 2ε) ‥‥❹
❹の両辺を平方する。 ε2 = 5 と (10 − 2ε)(5 − 2ε) = 70 − 30ε に注意すると、結果は:
5 tan2 36° = (10 − 2ε) + (5 − 2ε) − 2√(70 − 30ε)
=
15 − 4ε − 2(3ε − 5)
=
25 − 10ε
この両辺を 5 で割れば❸と一致。以下同じ。
補足 最初の方法でも別解でも、結局はほぼ機械的な単純計算に過ぎない。問題になる部分があるとすれば、 √(70 − 30√)
= 3√5 − 5 の二重根号外し――速記法を使えば
√(70 − 30ε) = 3ε − 5 だが――。基本アルゴリズムをベタで使うと、根号下の平方差は:
702 − (30√)2
= 4900 − 900⋅5 = 400 = 202
70 と 20 の平均 U = (70 + 20)/2 = 45、そして 70 の平均からのずれ V = 70 − 45 = 25 を使うと、与えられた二重根号は次の値に等しい。
√U − √V = √45 − √25 = 3√5 − 5
上の手順は十分シンプルだが、お好みで次のようにすることもできる。
√(70 − 30ε)
=
ε√(14 − 6ε)
この右辺の根号下の平方差は 142 − 62⋅5 = 196 − 180 = 16 = 42。そこで 14 と 4 の平均 u = 9 および 14 の平均からのずれ v = 5 を使うと:
ε√(14 − 6ε)
= ε(√9 − √5)
= ε(3 − ε) = 3ε − 5
最初のやり方と比べ、桁数の少ない計算で済む。
78. さて、❷の両辺を ε 倍すると:
ε tan 36° = √ √(5 − 2√)
=
√(25 − 10√)
この値が❹の値と等しいことから、次の等式が成り立つ。
√(10 − 2√) − √(5 − 2√)
=
√(25 − 10√) 《ま》
見た感じ、ちょっと不思議な式だけど、この等式のマイナスをプラスに変えても、正しい式になる。すなわち…
√(10 + 2√) + √(5 + 2√)
=
√(25 + 10√) 《み》
《ま・み》が偶然のはずがなく、何か面白いことが起きているに違いない!
《ま》は半角の公式(csc版)で tan 18° を求めようとすると副産物として生じるのだが(前節)、《み》は同様に tan 72° を csc 144° − cot 144° として計算した場合に、副産物として生じる。のみならず、一辺の長さ 1 の正五角形の面積を三つの三角形の面積の和として求めようとすると、自然と《み》の形が生じる。
ところで《ほ》の tan (θ/2)
=
csc θ − cot θ
とペアになるのが、次の式。
cot (θ/2)
=
csc θ + cot θ
その代数的導出法は《ほ》と同様で、このバージョンの二つの半角公式(tan と cot の)は、幾何学的イメージにも関連性がある(¶22)。ここでは tan と cot が互いに逆数ということから、両者の積が 1 になることだけ確かめておく。
tan (θ/2) cot (θ/2)
=
(csc θ − cot θ)(csc θ + cot θ) = csc2 θ − cot2 θ = 1
〔注〕 最後の等号は、単なる三平方の定理。対辺 1 の直角三角形の斜辺が csc、高さが cot なので cot2 θ + 12 = csc2 θ つまり csc2 θ − cot2 θ = 1 が成り立つ。あるいは(同じことだが)、基本公式 cos2 θ + sin2 θ = 1 の両辺を sin2 θ で割れば:
(cos2 θ)/(sin2 θ) + 1
=
1/(sin2 θ) つまり ((cos θ)/(sin θ))2 + 1
=
(1/(sin θ))2
∴ cot2 θ + 1 = csc2 θ
csc 版の半角公式を使って 144° の csc, cot から 72° の tan あるいは cot を求めることができ、 72° の csc, cot から 36° の tan あるいは cot を求めることができ、同様に 36° の csc, cot から 18° の tan, cot を求めることができる(cot 18° の具体的計算例)。――これらの計算では、結果を通常のように一つの項にまとめようとすると、前節で見たようにトリッキーな「二重根号の和・差の処理」が絡んでくる。「三角関数の値(根号表現)」そのものが目的で半角の公式を使うなら、半角公式・通常版か、加法定理を経由しが方が手っ取り早いだろう。
他方、18° の csc, cot から 9° の tan, cot を求める場合には、結果が和・差の形でいいのなら、csc 版の公式を使えば、ほとんど何もしないでいい(結果を一つの根号にまとめようとすれば三重根号の処理が必要になるが、一般には、二重根号までで済むのなら、三重根号を使わない表記の方が簡潔)。 54° の csc, cot から 27° の tan, cot を求める場合も同様。
tan, cot の半角公式は種類が多いが、実用上の観点では、通常版以外はあまり使う機会がない。だけど csc バージョンは「役立たないマイナーな公式」とも言い切れない。なぜなら…
もう少し踏み込んでみると、すてきな展望が得られるのかもしれない。
2024-09-01 tan の半角公式 csc 版(続き)
α = 72°, 36°, 18° をそれぞれ 144°, 72°, 36° の半角として、csc 経由で tan α, cot α を求める。その道筋では「二重根号同士の和あるいは差」が「一つの二重根号」に簡約される――という現象を見ることができる。計算の方法としては便利でなく、実用上、もっと見通しの良いやり方があるけど、このタイプの二重根号処理は興味深い。
79. §77と同様に、
csc 36°
=
[√(50 + 10√)]/5 そして cot 36°
=
[√(25 + 10√)]/5
…をそれぞれ ε = √5 で約分して、前者から後者を引くと:
tan 18° = [√(10 + 2ε) − √(5 + 2ε)]/ε
両辺を ε 倍して:
ε tan 18° = √(10 + 2ε) − √(5 + 2ε) 《む》
(10 + 2ε)(5 + 2ε) = 70 + 30ε と √(70 + 30ε) = 3ε + 5 に注意すると:
5 tan2 18° = (10 + 2ε) + (5 + 2ε) − 2√(10 + 2ε) √(5 + 2ε)
= 15 + 4ε − 2(3ε + 5) = 5 − 2ε
両辺の正の平方根から:
ε tan 18° = √(5 − 2ε) 《め》
《め》から tan 18°
= [√(5 − 2ε)]/ε
= [√(25 − 10ε)]/5 となるが、ここではむしろ《む・め》が等しいことに注目したい。
√(10 + 2ε) − √(5 + 2ε)
=
√(5 − 2ε)
言い換えれば √(10 + 2√)
=
√(5 + 2√)
+
√(5 − 2√) 《も》
《も》の左辺から右辺を見ると、再び「二重根号同士の和を一つの二重根号に簡約」という形になっている。逆に右辺から見ると、「基本アルゴリズムを使って
√(10 + 2√)
の二重根号を無理やり簡約しようとした場合の結果」が、左辺に当たる。すなわち
√(10 + 2√)
の根号下の平方差は:
102 − (2√)2 = 100 − 4⋅5 = 80 = 16⋅5 = (4√)2
10 と r = 4√ の平均は U = (10 + 4√)/2 = 5 + 2√ で、 10 の平均からのずれは V = 10 − U = 5 − 2√ なので:
√(10 + 2√)
=
√U + √V
=
√(5 + 2√)
+
√(5 − 2√)
全く同様にして、次が成り立つ(§80参照)。
√(10 − 2√)
=
√(5 + 2√)
−
√(5 − 2√) 《もも》
前回取り上げた《み》と《ま》の関係(下記)は、基本アルゴリズムからは説明がつかないけれど、大ざっぱに言えば上記《も・もも》と似たパターンを持つ。
√(25 + 10√)
=
√(10 + 2√) + √(5 + 2√)
√(25 − 10√)
=
√(10 − 2√) − √(5 − 2√)
80. 《む》と同様にして ε cot 18° = √(10 + 2ε) + √(5 + 2ε) を得る。両辺を平方して:
5 cot2 18° = (10 + 2ε) + (5 + 2ε) + 2(3ε + 5) = 25 + 10ε
その正の平方根から ε cot 18° = √(25 + 10ε) となり、両辺を ε = √ で割れば:
cot 18° = √(5 + 2√)
代わりに §77 の❹を応用すれば、 ε cot 36° = √(10 − 2ε) + √(5 − 2ε) となり、平方して:
5 cot2 36° = (10 − 2ε) + (5 − 2ε) + 2(3ε − 5) = 5 + 2ε
∴ ε cot 36° = √(5 + 2ε)
これらの関係からも、容易に《もも》を確かめられる。ついでに、上の式の両辺を ε で割れば:
cot 36° = [√(5 + 2ε)]/ε
=
[√(25 + 10ε)]/5
144° の半角として、同様の方法で 72° の tan, cot を求める。
csc 144° = csc 36° = [√(10 + 2ε)]/ε
cot 144° = −cot 36° = −[√(5 + 2ε)]/ε
…を使うと:
ε tan 72° = ε(csc 144° − cot 144°)
=
√(10 + 2ε)
+
√(5 + 2ε)
平方して:
5 tan2 72° = (10 + 2ε) + (5 + 2ε) + 2(3ε + 5) = 25 + 10ε
∴ ε tan 72° = √(25 + 10ε)
従って tan 72° = √(5 + 2ε) となる。
途中計算の副産物 ε tan 72° = √(10 + 2√) + √(5 + 2√) = √(25 + 10√) として、われわれは「驚きの式」に再会した――正五角形の面積を素朴に計算しようとすると現れる「驚きの式」に。この等式は、初めて見ると結構びっくりするし、その本質は依然として謎めいている!
さて、最後に ε cot 72° = ε(csc 144° + cot 144°)
=
√(10 + 2ε)
+
√(5 + 2ε) を平方すると…
5 cot2 72° = (10 + 2ε) + (5 + 2ε) − 2(3ε + 5) = 5 − 2ε
∴ ε cot 72° = √(5 − 2ε)
従って cot 72° = [√(5 − 2ε)]/ε = [√(25 − 10ε)]/5 となる。
csc 経由の tan 36° については §77 参照。 cot 36° についても同様。
これらの例では、「csc バージョンの半角公式」を使うと途中計算がトリッキー。しかし使い方次第で、このバージョンは非常に強力なツールとなる。既に見たように、「18° の半角としての 9°」や「54° の半角としての 27°」のような場合、むしろこのアプローチが最速。別の例として、正五角形の作図法は意外とややこしいが、 csc バージョンの半角公式を使うと、たった3行のエレガントな証明が成り立つ!
2024-09-09 tan の半角公式 珍しい sec 版
tan の半角公式 tan (θ/2) = (1 − cos θ)/sin θ において、右辺の分子・分母を cos θ で約分すると = (1/cos θ − cos θ/cos θ)/(sin θ/cos θ) = (sec θ − 1)/tan θ となる。もう一つの基本形 tan (θ/2) = sin θ/(1 + cos θ) を同様に約分すると = tan θ/(sec θ + 1) となる。
導出も幾何学的イメージも csc 版とほとんど同じで、ことさら公式と呼ぶほどのもんでもないけど、 sec2 θ = tan2 θ + 1 なので、半角のタンジェント tan (θ/2) を tan θ 自身の式として表せるってとこに、若干の面白さがある。
81. tan の半角を sec, tan で表すことは、 tan の半角を csc, cot で表すこと(§76)とほとんど同じ。次のように視覚化できる。
言葉で説明すると、以下の通り。原点 O から偏角 θ 方向へ伸びる半直線上において、横座標 1 の点を F とする。 F の座標は (1, tan θ) で、線分 OF の長さは sec θ だ。座標 (1 + sec θ, tan θ) の点を T とすると、ひし形 OFTH の対角線 OT は、角 θ = ∠FOH を二等分する――ここで H は、横軸上の座標 (sec θ, 0) の点。 T から横軸に下ろした垂線の足を U として直角三角形 OUT を考えると、 OU = sec θ + 1 で TU = tan θ なので
tan (θ/2)
= tan θ/(sec θ + 1)
となる。
一方、座標 (1, 0) の点を G として直角三角形 FGH を考えると、 ∠GFH も θ/2 に等しい。 FG = tan θ で GH = OH − OG = sec θ − 1 なので tan (θ/2) = (sec θ − 1)/tan θ となる。
cot は tan の逆数なので、以上のことから、次の四つの恒等式が生じる。
〔例1〕 cos 60° = 1/2 なので sec 60° = 2。 tan 60° = √3。よって…
tan 30° = (sec 60° − 1)/tan 60°
= (2 − 1)/√
= 1/√
tan 30° = tan 60°/(sec 60° + 1)
= √/(2 + 1)
= √/3
sec2 θ = tan2 θ + 1 なので sec θ を ±√(tan2 θ + 1) で置き換えることもできる。平方根の符号は sec θ の(従って、その逆数 cos θ の)符号に対応し、 θ が第1・第4象限の角なら正、さもなければ負。
これは「半角の tan を tan 自身だけで表現した式」であり、ある意味、最も純粋な tan の半角公式。形がややこしい上、符号の選択が面倒なので、実用上の価値はあまりなさそうだが…
〔例2〕 tan 60° = √3 なので(そして 60° は第1象限の角なので):
tan 30°
= [+√(3 + 1) − 1]/√
= (2 − 1)/√
= 1/√
82. 遊びとして tan 54° = [√(25 + 10ε)]/5 だけを使って、 tan 27° を求めてみたい(ε = √)。
まず tan2 54° = (25 + 10ε)/25 で
tan2 54° + 1 = (50 + 10ε)/25 なので…
√(tan2 54° + 1)
= [√(50 + 10ε)]/5
…となる(これは sec 54° に他ならない)。従って:
tan 27° = ([√(50 + 10ε)]/5 − 1) ÷ [√(25 + 10ε)]/5
= ([√(50 + 10ε)]/5 − 1) × 5/[√(25 + 10ε)]
= [√(]/[ )√(] ) − 5/[√(] )
必須ではないが、簡潔化のため分子・分母を √5 で約分すると:
= [√(]/[ )√(] ) − √/[√(] )
最後の式の第1項・第2項の分子・分母をそれぞれ √(5 − 2ε) 倍して整理すると、第1項は…
[√(]/( )√)
= √(6 − 2ε)
= √(5) − 1
…となり、第2項は…
[√(]/( )√)
= √(5 − 2ε)
…となる(これらは、それぞれ csc 54° と cot 54° であり、 tan 27° = csc 54° − cot 54° を回りくどく計算したことに当たる。その代わり計算の出発点はシンプル: csc, cot ではなく tan 54° だけを使う)。結論は次のように §76 と一致。
tan 27° = √(5) − 1 − √(5 − 2ε)
= 0.5095254494944…
画像の ∠FOG を 54° とするなら、 tan 54° は GF の長さ、 tan 27° は GJ の長さに当たる(J は OT と GF の交点)。
tan の半角公式のうち、今回の sec 版は、比較的マイナーな csc 版と比べてもさらにマイナーで、教科書には載ってない珍しい恒等式だろう。前回の csc 版にせよ今回の sec 版にせよ、基本の公式の分子・分母を「約分」してるだけで、同じ内容の式の亜種といったところ…。 csc 版は使い道によっては非常に便利だが、 sec 版は大して役立たないかもしれない。けど、どっちのバージョンも、イメージ的には実質同じ「ひし形の対角線」。まとめて整理してみると、結構すっきり気分がいい!
2024-09-12 tan の半角公式の「ひし形」解釈
tan の半角公式の csc 版と sec 版は、どちらも「ひし形」を使って同じようにイメージ可能。 cos と sin を使った基本形の半角公式についても、全く同様の「ひし形」解釈が成り立つ。
幾何学的アプローチには、代数的アプローチに比べ、証明の一般性に関して多少の制約がある。けれど「イメージとして、関係がパッと分かる」っていうのは、幾何学的解釈のメリットだろう――いちいち細かく暗記していなくても、公式が「見える」。
tan (θ/2) = (1 − cos θ)/sin θ のような基本公式は、幾何学的には「単位円上の点を頂点とし、直径を底辺とする三角形」を使って説明されることが多い。そのアプローチはシンプルで分かりやすく、第2象限の角も問題なく扱える。一方、ひし形を使った視覚化には、「第2象限の角の扱いが比較的分かりにくい」という難点がある。それでも「基本版、 csc 版、 sec 版」を統一的に理解・イメージできるメリットはあるし、「公式を理解する補助」と割り切るなら、第1象限の角を考えるだけでも十分役立つ。
83. tan の半角を cos, sin で表す式の「ひし形」解釈は、 tan の半角を csc, cot で表す場合(§76)あるいは sec, tan で表す場合(§81)と、全く同様。
言葉で説明すると、以下の通り。原点 O を中心とする単位円上の点 K (cos θ, sin θ) を考え、∠KOG = θ とする――ここで G は横軸上の座標 (1, 0) の点。一辺の長さ 1 のひし形 OKWG を考えると、画像の ★ の角度 ∠GOW は (θ/2) だ。 W は、座標 (cos θ + 1, sin θ) の点。
W から横軸上に下ろした垂線の足を X とすると ―― X の座標は (1 + cos θ, 0) ――、直角三角形 OXW から、 tan (θ/2) = sin θ/(1 + cos θ) となることは明らかだろう。
K から横軸上に下ろした垂線の足――座標 (cos θ, 0) の点――を L とすると、∠LKG も ★ と同じ (θ/2) であることを容易に確かめられる(§84)。よって、直角三角形 KLG から、 tan (θ/2) = (1 − cos θ/(sin θ となることも明らかだろう。
どちらの恒等式も、結論自体はよく知られている。代数的に導出するなら、正弦・余弦それぞれの加法定理で二つの角が等しい場合(つまり倍角の公式)から 2 sin2 α と 2 cos2 α の式を作り、前者を後者で割れば、tan の半角公式の原型に至る。その平方根を考え、平方根の複号を外す部分が少しトリッキーだが(§73)、結果としては、複号のないシンプルな半角の公式が得られる。――別のアプローチとして、単位円の直径を使った幾何学的アプローチも、よく知られている。
84. ひし形を使ったこの幾何学的説明の土台となるのは、ひし形の対角線 OW が ∠KOG = θ を二等分すること、そして ∠LKG も θ の半分に等しいということ(画像の ★ の角)。どちらも簡単なことだが、念のため証明しておきたい。
ひし形の内角が対角線によって二等分されること ∠KOW = ∠GOW を示す。 △OKW は二等辺三角形なので、二つの底角は等しい: ∠KOW = ∠KWO。同様に ∠GOW = ∠GWO。さらに OG と KW は平行なので ∠GOW = ∠KWO。これら三つの等式から、 ★ 印の四つの角 KOW, KWO, GOW, GWO は等しい。∎
△GOK も二等辺三角形なので ∠OGK = ∠OKG。上記と同様に、♥ 印の四つの角 OGK, OKG, WGK, WKG も等しい。
よって、ひし形をその2本の対角線によって四つの三角形に分割した場合、それら四つの三角形は合同。対角線の交点を N とすると、△ONK ≡ △ONG ≡ △WNK ≡ △WNG。従って、ひし形の2本の対角線は直交する。なぜなら四つの三角形は合同なので、対応する角 ∠ONK, ∠ONG, ∠WNK, ∠WNG は等しい。これの四つの角の和は 360° なので(∵点 N の周りをちょうど一周)、一つ一つの角は 360° の 4 分の 1、つまり 90° だ。
☆ 印の ∠LKG が ★ に等しいこと △WNK の内角の和 ∠W + ∠N + ∠K は = 180° だが ∠N = 90° なので ∠W + ∠K = 90° で、つまり ★ + ♥ = 90° だ。
一方、 L は K から OG に下ろした垂線の足で、しかも KW と OG は平行なので ∠WKL = ∠KLG = 90° で、つまり ☆ + ♥ も = 90° だ。
以上のことから ★ + ♥ = ☆ + ♥ (= 90°) で、★ = ☆ だ。∎
☆ が ★ に等しいことの別証明 任意の二つの三角形 △ABC, △A′B′C′ について、対応する二つの内角が互いに等しいと仮定する: 例えば ∠A = ∠A′ かつ ∠B = ∠B′ としよう。その場合、二つの三角形は、(対応する二つの内角だけでなく)対応するもう一つの内角も等しい(要するに、このような二つの三角形は相似)。なぜなら ∠A + ∠B + ∠C = ∠A′ + ∠B′ + ∠C′ (= 180°) の場合、 ∠A = ∠A′ かつ ∠B = ∠B′ なら、自動的に ∠C = ∠C′ (= 180° − ∠A − ∠B)。
さて △OLM と △KNM は、どちらも直角三角形(∠L = ∠N = 90° である理由は前述)。ところが ∠OML = ∠KMN なので、この二つの三角形は、対応する二つの内角が互いに等しく、従ってもう一つの内角同士も等しい。つまり ★ と ☆ は等しい。∎
この他にも、証明の仕方はいろいろ考えられるだろう。
ひし形を使った幾何学的解釈は、 tan の半角公式の基本版、 csc 版、 sec 版のどれに関しても、全く同様。
θ が第2象限の角の場合、 W と X が単位円の(外側ではなく)内側になり、 L がひし形の(辺上ではなく)外側に来て、作図上のイメージは若干変わってしまうけど、式の形に変わりはない。
一般に、三角関数の恒等式の幾何学的証明は、任意の角 θ に対して自然に成り立つものではないが、式の内容が可視化されるところに意義がある。有効範囲が限定されてしまうとはいえ、「ひし形の作図」は tan の半角の公式の意味を考える上で、参考となるだろう。
2024-09-16 csc の倍角の公式 tan と cot の平均
tan とその逆数 cot の平均は、倍角の csc に等しい:
(tan θ + cot θ)/2 = csc 2θ
85. 次の恒等式が成り立つ。
csc 2θ =
(cot θ + tan θ)/2 《や》
csc 2θ =
(1 + tan2 θ)/(2 tan θ) 《ゆ》
csc 2θ = (csc θ sec θ)/2 《よ》
どれも実質同じ内容だが、《や》の形は、比較的知られていないと思われる。
証明 正弦の倍角の公式 sin 2θ = 2 sin θ cos θ から、次の式が成り立つ。
csc 2θ = 1/(sin 2θ)
=
1/(2 sin θ cos θ)
=
1/2(1/(sin θ cos θ)) ‥‥①
ここで、
1/(sin θ cos θ)
=
(cos2 θ + sin2 θ)/(sin θ cos θ)
=
(cos2 θ)/(sin θ cos θ) + (sin2 θ)/(sin θ cos θ)
= cos θ/sin θ + sin θ/cos θ
= cot θ + tan θ
…なので、①は《や》を含意する。
《や》右辺の分子・分母を tan θ 倍すれば《ゆ》になる。最後に、
1/(sin θ cos θ)
=
(1/sin θ)(1/cos θ)
=
csc θ sec θ
…なので、①は《よ》も含意する。 ∎
例1 tan 15° = 2 − √3 を基に、《や》を使って csc 30° = 2 を求める。
cot 15° = 1 / (2 − √3)
…の分子・分母を 2 + √3 倍して:
cot 15° = (2 + √3) / (22 − 3) = 2 + √3
∴ csc 30° =
(cot 15° + tan 15°)/2
=
[(2 + √) + (2 − √)]/2
=
4/2 = 2
これは「恒等式《や》が成り立つこと」の例示。実際にはこんな計算をするまでもなく、 sin 30° = 1/2 の逆数が 2 であることは明らか。
例2 同じ tan 15° = 2 − √3 から、《ゆ》を使って csc 30° を再び求める。
《ゆ》の分子 = 1 + (2 − √3)2
=
1 + (22 − 2⋅2⋅√3 + 3) = 8 − 4√3
《ゆ》の分母 = 2(2 − √3) = 4 − 2√3
∴ 《ゆ》の分数 = (8 − 4√3) ÷ (4 − 2√3) = 2
例3 sin 15° =
(√6 − √2)/4
の逆数は:
csc 15° =
4/(√ − √)
=
[4(√ + √)]/[(√ − √)(√ + √)]
=
[4(√ + √)]/(6 − 2)
=
√6 + √2
同様に cos 15° = (√6 + √2)/4 の逆数は sec 15° = √6 − √2。今、《よ》を使うと:
csc 30° = [(√ + √)(√ − √)]/2
=
(6 − 2)/2 = 2
2024-09-19 csc の倍角の公式(続き) 小さな貝殻
半角の公式から:
cot (θ/2) = csc θ + cot θ ❶
tan (θ/2) = csc θ − cot θ ❷
❶❷を縦に足し合わせれば:
cot (θ/2) + tan (θ/2) = 2 csc θ
(θ/2) を α と書くと(θ = 2α)、上の式はこうなる:
cot α + tan α = 2 csc 2α 従って csc 2α = (cot α + tan α)/2
倍角の csc が「tan と cot の平均」に等しい――という前回の観察は、こう考えると計算上はシンプル。イメージをつかむため、これを幾何学的に解釈してみたい。
86. 倍角の csc が「cot と tan の平均」に等しいことを可視化するため、§76 の作図を拡張する。
原点 O、点 A (cot θ, 1)、点 Q (cot θ + csc θ, 1) は、黄緑のひし形 OAQE の頂点。この黄緑のひし形の半分 △OAE を共有し、OA を対角線とする黄色のひし形 OEAZ を考える。二つのひし形は、どちらも一辺の長さが csc θ。従って ZQ = ZA + AQ = 2 csc θ だが、この長さは…
ZP (= csc θ − cot θ) = tan (θ/2) と
PQ (= cot θ + csc θ) = cot (θ/2)
…の和でもある。すなわち、半角の tan と半角の cot を足せば、全角の csc の2倍に。あるいは(同じことだが)、全角の tan と全角の cot を足せば、倍角の csc の2倍になる。 2 で割れば csc そのもの。
ところで、❶と❷を足す代わりに、❶から❷を縦に引くと:
cot (θ/2) − tan (θ/2) = 2 cot θ
角度 θ/2 を α とすると、 θ = 2α なので:
cot α − tan α = 2 cot 2α 従って cot 2α = (cot α − tan α)/2 《ら》
珍しいバージョンの、cot の倍角公式が得られたっ!
《ら》の分子・分母を cot α 倍すると:
cot 2α = (cot2 α − 1)/(2 cot α) 《り》
《り》は、 cot の加法定理…
cot (α + β) = (cot α cot β − 1)/(cot β + cot α)
…で α = β の場合に当たる。 cot の倍角公式としては、《り》が普通のバージョン。
一方、《ら》の分子・分母を tan α 倍すると:
cot 2α = (1 − tan2 α)/(2 tan α) 《る》
《る》も余接の倍角公式の一種だが、これは正接の倍角の公式の逆数(分子と分母をひっくり返したもの)に過ぎない: tan の加法定理…
tan (α + β) = (tan α + tan β)/(1 − tan α tan β)
…で α = β の場合を考えると、
tan 2α = (2 tan α)/(1 − tan2 α) 《るる》
…となるが、《る》は実質これと同じ。《る》と《るる》は、互いに「等しいものの逆数は等しい」という当たり前の関係。
87. 倍角の公式と半角の公式は、コインの裏表(例えば 60° を全角とすれば 30° は半角だが、 30° を全角とすれば 60° は倍角)。角度 2α = θ をあらためて文字 x で表すと、《るる》は、角度 x の正接 tan x を「半分の角度の正接 tan (x/2) を使って表した式」になる。つまり t = tan (x/2) と置くと《るる》は:
tan x = (2t)/(1 − t2) その逆数は cot x = (1 − t2)/(2t)
半角の tan の値を t = tan (x/2) として、「x に対する各種三角関数を t についての有理式に変換」すること(俗に Weierstraß-Substitution と呼ばれる)は、積分では置換の一つの定石とされ、積分に限らずいろいろな場面で役立つ。差し当たり必要ないけど、せっかくなので簡単に整理してみたい。
第一に、ちょっとトリッキーだが、正弦の倍角の公式 sin 2α = 2 sin α cos α を使うと…
sin 2α = (sin 2α)/1
=
(2 sin α cos α)/(cos2 α + sin2 α)
右端の分子・分母を cos2 α で割ると:
sin 2α
=
(2 sin α / cos α)/[1 + (sin2 α / cos2 α)]
=
(2 tan α)/(1 + tan2 α)
2α = x と置くと、 α = x/2 で t = tan α なので、次の結論に至る。
sin x = (2t)/(1 + t2) その逆数は csc x = (1 + t2)/(2t)
逆数 csc の式は、恒等式《ゆ》 csc 2α = (1 + tan2 α)/(2 tan α) と同内容。
第二に、余弦の倍角の公式 cos 2α = cos2 α − sin2 α を出発点に、同様に進めると…
cos 2α
=
(cos2 α − sin2 α)/(cos2 α + sin2 α)
=
(1 − tan2 α)/(1 + tan2 α)
cos x = (1 − t2)/(1 + t2) その逆数は sec x = (1 + t2)/(1 − t2)
第三に、 tan, cot については前記の通りだが、上の第一式を第二式で割ることでも、次のように、同じ結果になる。
tan x = sin x ÷ cos x
=
(2t)/(1 + t2) ÷ (1 − t2)/(1 + t2)
=
(2t)/(1 − t2) 等々
前回・今回のメモの内容には、基本的で重要な事柄も含まれてるものの、何の役に立つのか分からないようなネタも多い。「tan と cot の平均が csc の倍角になる」ってのは、ほんのり面白いけど、実用上の価値はあまりなさそうだし、それを幾何学的に図解してみても何の得にもならないかも。まぁ遊びなんで…。客観的にはごみのようなもんでも、一つ一つの小さな貝殻には、それを見つけた者にしか分からない面白みがある(笑)。
『遊びの数論32』へ続く。