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「正17角形は作図可能?」は超有名な話題で、世間的には「高級な問題!」として、うやうやしく扱われるものです。ここでは sin と cos の初歩的知識だけ使って、気軽に話を完結させちゃいましょう。教科書的方法と比べると、難易度は半分以下。前・中・後編。
もう一つの話題「ジラル(Girard)の公式」は、もともと「Morrie の法則」関連の補足メモ。発展性のある話題なので、後から「その2~その5」が追加されました。
「17角形」は「ジラル」と関係ないのですが、「ジラルその4」と「その5」の間で、気まぐれに書いたもの。半年後、関連するメモ「x17 = 1 の代数的解法」(遊びの数論32)が追加されました。
2024-04-11 正17角形は作図可能? 複素数を使わない気軽な散策
360° の 1/17 の角度(約21°)を G とすると:
cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4
Morrie の法則風の「ほんのり面白いけど、あまり役立たない式」…のようだが、実はこの式、数論の観光名所「正17角形の作図」と関係している!
「正17角形」については、文献・資料が既にたくさんある。でも一般向けの「気軽に楽しめる散歩道」のようなものは、あまりないようだ。「正17角形の話には興味あるけど、難し過ぎる」と感じてる方も少なくないのでは…
このメモでは「2次方程式」と「三角関数の加法定理」だけを使って、「正17角形は作図可能」という根拠を明らかにしたい。当面の目標は実際の作図ではなく、 cos (360/17)° を四則演算・平方根だけで表現すること(理論上「作図可能」と同等)。
ただの「遊び」だけど、散策の楽しさを共有できればなによりである。
(本題と直接関係ない話の枕。複素数が嫌いな方は、このセクションを飛ばしてネ…)
このアプローチでは、複素数・複素関数を使わない。けど、複素平面上の観点に全く触れないってのも、不自然でむしろ見通しが悪い。だって、多角形ってことは平面図形。2次元の対象。数直線だけの1次元より、縦・横の座標があった方が便利じゃん!
大抵の方は 1 の原始3乗根が −1/2 ± (√3/2)i であることをご存じだろう。これは x3 = 1 の解、つまり…
x3 − 1 = (x − 1)(x2 + x + 1) = 0 ☆
…の解: x = 1 も ☆ の解だが、それはそれとして x2 + x + 1 = 0 を満たす x も、 ☆ を成立させる。その2次方程式を解けば、複素数の範囲でさらに二つの解が見つかる。その二つは複素平面上の単位円で偏角 ±120° の点であり、実部は次の cos の値に相当する:
cos 120° = −1/2 ‥‥①
それに比べるとあまり一般的な話題ではないが、1 の原始5乗根は次の四つの数。
(−1 + √5)/4 ± [(√(10 + 2√))/4]i と (−1 − √5)/4 ± [(√(10 − 2√))/4]i
イメージ的には (1, 0) に頂点 A がある正五角形 ABCDE の、四つの頂点 B, E と C, D に当たる。 B の偏角を 72°、 C の偏角を 144° とすると…
cos 72° = (−1 + √5)/4
cos 144° = (−1 − √5)/4
∴ cos 72° + cos 144° = −1/2 ‥‥②
これは B, E の横座標 P と、 C, D の横座標 Q の和が −1/2 に等しい――ということを言っている。
原始○乗根としての(複素数としての)扱いは多少手ごわいかもしれないけど、作図から幾何学的に cos 36° を求めること、そこから加法定理で cos 72° などを求めることは、初歩的な三角関数の知識だけでも十分に可能。①や②を確かめること自体は難しくない。
「原始17乗根」という見方をするなら、正17角形は、こういう話題の延長線上にある。
(舞台の全体像はそんな感じだが、分かりやすく実数の範囲で…)
①の cos の角度は 360° の「3 分の 1」。②の角度は 360° の「5 分の 1」と「5 分の 2」。――後から証明するが、このパターンは拡張可能。例えば 360° の「7 分の 1」と「7 分の 2」と「7 分の 3」という 3 種類の角度のそれぞれの cos を足し合わせると、やはり −1/2 になる! 360°/7 を仮に S とすると:
cos S + cos 2S + cos 3S = −1/2 ‥‥③
少し不思議…?
同様に、360°/9 = 40° を N とすると:
cos N + cos 2N + cos 3N + cos 4N = cos 40° + cos 80° + cos 120° + cos 160° = −1/2 ‥‥④
何の役に立つのかはともかく、なかなか美しい! cos 120° 自体が −1/2 なのだから(①参照)、④は次の関係をも含意する:
cos 40° + cos 80° + cos 160° = cos 40° + cos (−80°) + cos 160° = 0 《た》
上の式の一つ目の等号は、三角関数の基本性質に基づく: 角度の正負を逆にしても、cos は値が変わらない(sin は、角度の正負を逆にすると、値の正負も逆になる)。
〔参考〕 「1 の原始3乗根の、そのまた立方根」を3解とする3次方程式の、解と係数の関係から、《た》は簡単に説明がつく。イメージ的には、次の通り。互いに 120° ずつ離れた三つの方向から、原点に置かれた物体を等しい力で引っ張るなら、三つの力は打ち消し合ってしまい、原点の物体は動かないであろう: 40°, −80°, 160° は、そのような角度の例。三つの力を v1, v2, v3 とすると v1 + v2 + v3 = 0。力の和が 0 なので、その横成分も縦成分もゼロ。事実、次の等式も成り立つ:
sin 40° + sin (−80°) + sin 160° = 0
てなわけで、ここから本題。
§1. 正17角形との関連では、次が成り立つ。
360°/17 = 21.176…° を G とすると:
cos G + cos 2G + cos 3G + cos 4G + cos 5G + cos 6G + cos 7G + cos 8G = −1/2
もちろん証明が必要なことだが、まずは「内容のイメージ」をつかみたい。
画像では、赤い単位円と、それに内接する青い正17角形が表示されている。正17角形の頂点 0 は座標 (1, 0) の位置にある。 cos G は頂点 1 の横座標で、つまり 1 と 16 を結ぶ縦線が横軸と交わる点の横座標。 cos 2G は頂点 2 の横座標。等々。
cos G は正、cos 8G は負だが、後者の方が絶対値が大きい(単位円の円周に近い)ことが作図から読み取れる。定量的には:
cos G = 0.93…
cos 8G = −0.98…
マイナスの値 cos 8G の方が、絶対値で 0.05 くらい大きい。もし cos G + cos 8G を計算したら、マイナス側が勝って和は負の数(約 −0.05)になる。
同様に cos 2G は正、 cos 7G は負だが、後者の方が絶対値が大きい。 cos 3G と cos 6G の関係、 cos 4G と cos 5G の関係もまたしかり。
従って cos G から cos 8G までを全部足し合わせると、マイナス側の絶対値の方がでかいので、和は負の数になる。面白いことに、その和がちょうど −1/2 になる…というのである!
かなり不思議かも…?
作図から明らかなように cos 9G = cos 8G, cos 10G = cos 7G, …, cos 16G = cos G であり、横軸より上の頂点の代わりに、横軸より下の対応する頂点を使っても、cos に関する限り、違いはない(対応する頂点は、番号の和が 17。つまり 17 から頂点の番号を引き算すると、対応する頂点の番号になる)。例えば上記の和について、次のように、「偶数番目の頂点」の代わりに「対応する奇数番目の頂点」を使っても、きれいな式になる(意味はどっちでも同じだが)。
cos G + cos 2G + cos 3G + cos 4G + cos 5G + cos 6G + cos 7G + cos 8G = −1/2
cos G + cos 3G + cos 5G + cos 7G + cos 9G + cos 11G + cos 13G + cos 15G = −1/2
§2. 一般に、次の定理が成り立つ(正17角形の式は m = 17 のケース)。一見ちょっぴり難しそうだけど、 §1 で見たいろんなきれいな式をまとめて証明しちゃいましょう!
マイナス½の定理 m を 3 以上の奇数とする。 360° の m 分の 1 の角度を θ としよう。 θ の奇数倍(ただし 1 倍以上、m 倍未満――言い換えれば 0° より大きく 360° 未満――の範囲)の角度に対する cos の和は −1/2 に等しい。すなわち:
cos (θ) + cos (3θ) + cos (5θ) + … + cos ((m−2)θ) = −1/2 〔※注1〕
さらに、0° より大きく 180° 未満の範囲の「θ の整数倍」の cos の和も、同じ値を持つ:
cos (θ) + cos (2θ) + cos (3θ) + … + cos ([(m−1)/2]θ) = −1/2 〔※注2〕
〔※注1〕 仮定により mθ = 360°、 m−1 は偶数なので、 m−2 倍(奇数倍)の θ が出るところまで足したら終了。
〔※注2〕 (mθ)/2 = (m/2)θ = 180° だが m/2 は 0.5 の端数を持つ。端数を切り捨てた m/2 − 1/2 = (m−1)/2 倍(整数倍)の θ までで終了。
具体例を考えれば、定理の「意味」は、全然難しくない…。
〔例〕 m = 9 の場合、第一の和は 360°/9 = 40° の奇数倍(360° 未満):
cos 40° + cos 120° + cos 200° + cos 280°
第二の和は、同じ 40° の整数倍(180° 未満):
cos 40° + cos 80° + cos 120° + cos 160°
角度を 360° を変えても、あるいは角度の符号を変えても、cos の値は変わらないので:
cos 280° = cos (−80°) = cos 80°
cos 200° = cos (−160°) = cos 160°
要するに、第一の和の前半は第二の和は奇数番目の項と同じで、第一の和の後半の各項は、第二の和の偶数番目の項のどれかと値が等しい。このような和が −1/2 になる…っていうのが定理の意味。
証明 二つの和は、頂点の番号の選択の仕方が違うだけで、内容に違いはない。よって、第一の和が −1/2 に等しいことを示せば十分。
準備として、次のことに注意しておく。仮定により mθ = 360° なので、(m−1)θ = mθ − θ = 360° − θ という角度は、三角関数にとって −θ という角度と同じこと(例えば −40° の方角は 320° の方角と同じ向き…だよね?)。 sin の性質から:
sin ((m−1)θ) = sin (−θ) = −sin (θ) 《ち》
さて、sin の加法定理によると、任意の α, β について次が成り立つ:
sin (α + β) = sin α cos β + cos α sin β
sin (α − β) = sin α cos β − cos α sin β
左辺同士・右辺同士、上から下を引くと、次の恒等式を得る。
sin (α + β) − sin (α − β) = 2 cos α sin β 《つ》
求めたい和を X とする:
X = cos (θ) + cos (3θ) + cos (5θ) + … + cos ((m−2)θ)
上の式の両辺(全部の項)を 2 sin (θ) 倍すると:
2X sin (θ) = 2 cos (θ) sin (θ) + 2 cos (3θ) sin (θ) + 2 cos (5θ) sin (θ) + … + 2 cos ((m−2)θ) sin (θ)
この右辺各項に《つ》――すなわち 2 cos (α) sin (β) = sin (α + β) − sin (α − β) ――を適用する:
2X sin (θ) = [sin (2θ) − sin (0)] + [sin (4θ) − sin (2θ)] + [sin (6θ) − sin (4θ)] + … + [sin ((m−1)θ) − sin ((m−3)θ)]
上の右辺では sin (2θ) と −sin (2θ)、 sin (4θ) と −sin (4θ)、等々が打ち消し合い、第2項と後ろから2番目の項だけが残る(下記の〔例〕参照)。ところが、第2項の sin (0) は値がゼロなので、無いのと同じ。結局、後ろから2番目の項だけが残る。すなわち:
2X sin (θ) = sin ((m−1)θ) = −sin (θ)
最後の等号は《ち》による。両辺を sin (θ) で割ると:
2X = −1 つまり X = −1/2
これが証明したいことだった。∎
〔例〕 m = 9 の場合:
X = cos 40° + cos 120° + cos 200° + cos 280°
2X sin 40° = 2 cos 40° sin 40° + 2 cos 120° sin 40° + 2 cos 200° sin 40° + 2 cos 280° sin 40°
= (sin 80° − sin 0°) + (sin 160° − sin 80°) + (sin 240° − sin 160°) + (sin 320° − sin 240°)
上の式の sin 80° と −sin 80°、 sin 160° と −sin 160°、 sin 240° と −sin 240° は、それぞれ打ち消し合う。結局:
2X sin 40° = −sin 0° + sin 320° = sin 320° = sin (−40°) = −sin 40°
最後の式の両辺を sin 40° で割れば 2X = −1 となって、X = −1/2 を得る。
より一般的に、角度が等差数列になっている場合の sin の和、あるいは cos の和の公式を導出できる。その場合、典型的には「等比級数の和の公式」を複素関数に適用するのだが、上記のようにすれば、複素関数を使わずに済む。 Michael P. Knapp [3] によると、これは1980年代に、高校生向けの定期刊行物に掲載されてた証明法なんだって…。
§3. かくして下記の事実が確立し、それは正17角形に取り組むための大きな一歩となる!
2π/17 つまり 360°/17 = 21.176…° を G とすると:
cos G + cos 2G + cos 3G + cos 4G + cos 5G + cos 6G + cos 7G + cos 8G = −1/2
この式は、眺めてきれいなだけでなく、有用性も高い。
x17 = 1 すなわち…
(x − 1)(x16 + x15 + x14 + … + x + 1) = 0
…を直接的に解こうとすると、二つ目の丸かっこの内側の16次式を扱わねばならない。 y = x + 1/x と置いて次数を半減させることは考えられるが、処理の難しい式になるだろう。いつものように(?)、17倍角の公式を使ってどうこう…というオプションも(少なくとも原理的には)あるのだが、それも複雑な式になるだろう。それに引き換え、上の式は規則的で、何ともシンプル。
とはいえ、仮に cos G + cos 2G + … + cos 8G を、2倍角~8倍角の公式を使ってばらしたとしても、結果はまだ8次方程式。一般論として、何とかして4次方程式以下に変換できないと、代数的には解きようがない。うわさによると正17角形は作図可能で、理論上、この方程式は代数的に解けるはずなのだが、そのためには一体どんな高度な技法が必要なのだろうか?
驚くべきことに、「2次方程式の解と係数の関係」という中学生の宿題のような知識だけで、この壁を突破できるのであるッ!
a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G, b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G を2解とする2次方程式を考えると、解の和 a + b が −1/2 ってことは、上記のように既に判明している。後述するように、単純な機械的計算によって、解の積 ab が −1 であることも確定できる。この二つの情報を組み合わせると、この a, b は、2次方程式…
x2 + (1/2)x − 1 = 0 つまり x2 + (1/2)x = 1
…の解、と断言できる。軽く変形すると:
(x + 1/4)2 = 17/16
∴ x + 1/4 = ±√17/4
∴ x = (−1 + √17)/4 または (−1 − √17)/4
解 x つまり a と b が求まる!
でも「または」って言われても、二つの解のどっちが a でどっちが b か分かんないぞ。一つ目の解が正、二つ目の解が負ってことは分かるが…
その件を検討しなければなるまい。ここでは大ざっぱな観察だけ…。作図から明らかなように、cos G, cos 2G, cos 4G はいずれも正で、 cos G, cos 2G は比較的絶対値が大きい; 他方 cos 5G, cos 6G, cos 7G はいずれも負。従って a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G は正で、b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G は負だろう。だとすると、次の結論に至る。
a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4
b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G = (−1 − √17)/4
同様に進めて u = cos G + cos 4G と v = cos 2G + cos 8G を2解とする2次方程式を考えると、解の和 u + v は上記の a。後述の計算法によると、解の積 uv は −1/4。よって u, v は次の2次方程式の解。
y2 − [(−1 + √17)/4]y − 1/4 = 0
それを解くと†:
y = (1/8)(−1 + √17 ± √(34 − 2√))
cos G, cos 4G はいずれも正なので、解 u = cos G + cos 4G は正; 複号のプラスに当たる。
cos G + cos 4G = (1/8)(−1 + √17 + √(34 − 2√))
ここまで来れば、流れは明らかだろう。和 cos G + cos 4G が判明したのだから、どうにかして積 cos G cos 4G を突き止めれば、cos G と cos 4G を2解とする2次方程式を構成できる。2次方程式を得れば、それを機械的に解くことができる。 cos G > cos 4G であるから、大きい方の解が cos G であろう。それこそが頂点 1 の横座標。横座標が四則演算と平方根で表されるのだから、原理的に、単位円上に正17角形を作図できることになる(対応する縦座標 sin G については、cos2 G + sin2 G = 1 という関係から、機械的に導かれる)。
† 途中計算は省くが、2次方程式の解き方については、ほぼ誰でも普通に知ってるかと…。ちなみに、この方程式の判別式は、次の通り。
(−1 + √17)2/16 − (−1)
= (1/16)(1 − 2√17 + 17 + 16)
= (1/16)(34 − 2√17)
その平方根 ±(1/4)√(34 − 2√) を使う。
「正17角形が作図可能であること」を示す一つの具体的な道筋が見えてきた。「2解の和と積が分かれば、2次方程式の問題として、2解は確定する」ってことが、ポイントらしい。――2解の積の計算については「後述する」と称して後回しにしてしまったが、必要なツールは既にほぼ出そろってる。続きは次回に!
正17角形で本当に難しいのは、具体的な計算というより「そもそもその計算法をどうやって設定するか?」「このような計算ができる場合・できない場合があるという現象の本質は何なのか?」という別次元の問題。「正5角形・15角形・17角形は作図できるが、正7角形・9角形・11角形・13角形・19角形は作図できない」というのは、表面的にはランダムな現象に思える。一体、何が起きてるのか…。正17角形についても、本文では 8 個の頂点のうち 1, 2, 4, 8 を a に入れ、残りを b に入れたけど、「なぜそうするのか」を説明しなかった。もっと単純に、例えば 1, 2, 3, 4 を a に入れては駄目なの…?
とはいえ、あまりあれこれ考えると、前へ進めない。どんな感じかとりあえず一通りやってみて、細部については後からゆっくり検討しよう。
2024-04-13 正17角形は作図可能? 実践編 他の道を行きましょう
360° を 3 等分した角度、 5 等分した角度など、 360° を m 等分した角度を考える(m は 3 以上の奇数)。それを θ として、 θ の 1 倍・2 倍・3 倍…の角度に対する cos を(角度が 180° 未満の範囲で)足し合わせると、和は −1/2 になる。 m = 9 の例:
cos 40° + cos 80° + cos 120° + cos 160° = −1/2
前回、実数の範囲でこの「マイナス½の定理」を証明した。別証明をチラッと記してから、アイデアを実際に試してみたい。
(別証明。複素数が嫌いな方は、飛ばしてネ…)
9次方程式 x9 = 1 つまり x9 − 1 = 0 の 9 個の解 x0, x1, …, x8 について、解と係数の関係から:
x0 + x1 + … + x8 = 0
x = 1 は明らかにこの方程式 x9 = 1 の一つの解なので、それを x0 とすると:
1 + x1 + … + x8 = 0 つまり x1 + … + x8 = −1 = −1 + 0i
すなわち x1 から x8 までを全部足した和は、実部が −1 に(そして虚部が 0 に)なる。言い換えると:
cos 40° + cos 80° + … + cos 280° + cos 320° = −1
この左辺は cos 40° + cos 80° + … + cos (−80°) + cos (−40°) = cos 40° + cos 80° + … + cos 80° + cos 40° つまり
2(cos 40° + cos 80° + cos 120° + cos 160°)
に等しい。その値が −1 なのだから、cos 40° + cos 80° + cos 120° + cos 160° = −1/2 になるのは当たり前!
m を 3 以上の奇数とすると、 m = 9 に限らず、 xm = 1 つまり 360° の m 等分について、同様の議論が成り立つ。
この「正17角形」のメモでは、複素数を使わずに話が完結する。ハードルが低くなる半面、「少し遠回り」ってことでもある。「等差数列の角度に対する cos の和」という別の景色を楽しめたんで、遠回りも悪いことばかりじゃないけどね♪
他の道を行きましょう 誰の都合でもない あなただけの道を
前回の話はアイデア中心で、実装が一部後回しになっていた。その部分を…
§4. 360° の 1/17 の角度を G とする。 17G = 360° となる。
仮に a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4 という和が分かっているとしよう。この和を…
u = cos G + cos 4G と v = cos 2G + cos 8G の和
…に分解したとして、和 u + v が = a であることは言うまでもないが、積 uv は何だろうか? その積さえ分かれば、2次方程式…
y2 + (−a)y + (uv) = 0
…の解として、 u, v を機械的に求めることができる――それが前回のアイデアだった(§3)。この積の処理を実装しよう。
uv = (cos G + cos 4G)(cos 2G + cos 8G) = cos G cos 2G + cos G cos 8G + cos 4G cos 2G + cos 4G cos 8G なので、2個の cos の積――つまり cos α cos β の形――をどうにかすればいいわけである(角度 α 〔アルファ〕は任意の値を取り得る変数。上述の4項の和 a 〔エー〕とは関係ない)。その方法は、§2 の《つ》とほとんど同じ。 cos の加法定理から:
cos α cos β − sin α sin β = cos (α + β)
cos α cos β + sin α sin β = cos (α − β)
上と下の左辺同士・右辺同士を足すと、左辺の第2項はプラマイゼロで消滅:
2(cos α cos β) = cos (α + β) + cos (α − β)
両辺を 2 で割って、次の便利なツールを得る。
積→和の公式(積を和に変換) cos α cos β = [cos (α + β) + cos (α − β)]/2
〔例1〕 α = 4G, β = 2G とすると:
cos 4G cos 2G =
[cos (4G + 2G) + cos (4G − 2G)]/2
=
[cos (6G) + cos (2G)]/2
〔例2〕 α = 4G, β = 8G とすると:
cos 4G cos 8G =
[cos (4G + 8G) + cos (4G − 8G)]/2
=
[cos (12G) + cos (−4G)]/2
例2は正しい計算だが、cos 4G cos 8G と cos 8G cos 4G はもちろん同じなので(掛け算の交換法則)、 α = 8G, β = 4G と解釈しても良かった。その解釈だと、何が変わる? cos (α + β) は、どっちが α でどっちが β でも結果に違いはない。 cos (α − β) は、どっちを α と思うかによって、引き算の順序が変わり、(α − β) の符号が反転する。要するに、例2の cos (−4G) が cos (4G) に置き換わる。 cos (−4G) = cos (4G) なので、どっちでも正解だけど、一般的には、余計なマイナスが無い方がすっきりしていいだろう。
cos 同士の積→和の解釈 cos α cos β = (1/2)[cos (角度の和) + cos (角度の差)]
「角度の差」については、どっちからどっちを引いてもOK。でかい数から小さい数を引く方が簡単だけど、負の角度がむしろ好都合なら、逆向きに引き算しても構わない。
〔補足〕 引き算の順序が自由である理由は、 cos (α − β) = cos (β − α) が成り立つこと。 sin については、このようなイコールは成り立たないので、上記をむやみに拡大解釈して sin が絡む公式にまで適用してはいけない。特に…
2 cos α sin β = sin (α + β) − sin (α − β)
…の (α − β) については、 cos 側の角度が α となる(§2《つ》参照)。
さっそくこのツールを使い、 u = cos G + cos 4G と v = cos 2G + cos 8G の積を求める。
uv = (cos G + cos 4G)(cos 2G + cos 8G)
= cos G cos 2G + cos G cos 8G + cos 4G cos 2G + cos 4G cos 8G
= (1/2)(cos 3G + cos G) + (1/2)(cos 9G + cos 7G) + (1/2)(cos 6G + cos 2G) + (1/2)(cos 12G + cos 4G)
= (1/2)(cos G + cos 2G + cos 3G + cos 4G + cos 6G + cos 7G + cos 9G + cos 12G)
最後の等号は、全体を (1/2) でくくって、足し算の順序を角度の昇順に整理しただけ。ここで cos 9G = cos 8G, cos 12G = cos 5G という事実†を使うと、この足し算はさらに整然とする:
uv = (1/2)(cos G + cos 2G + … + cos 7G + cos 8G)
= (1/2)(−(1/2))
= −(1/4)
後ろから2番目の等号は、「マイナス½の定理」(§2)による。――これが、前回「後述する」と約束した積 uv の計算法であるッ!
† cos の値は、角度を 360° 加減しても変わらないので: cos 9G = cos (−9G) = cos (360° − 9G) = cos (17G − 9G) = cos 8G。 cos 12G についても同様。
かくして、われわれは次の事実を確立した。
命題1 もし a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4 が成り立つなら、 u = cos G + cos 4G と v = cos 2G + cos 8G は、2次方程式…
y2 − [(−1 + √17)/4]y − 1/4 = 0
…の2解であり、前回見たように(§3)、それを解くとこうなる。
u = cos G + cos 4G = (1/8)(−1 + √17 + √(34 − 2√))
v = cos 2G + cos 8G = (1/8)(−1 + √17 − √(34 − 2√))
ただし、2解のどちらが u で どちらが v かの判断は、次の通り。 G = 360°/17 = 約 21°、従って 8G = 約 168° ――正確には約 169° だが、いずれにしても 17G = 360°, 8.5G = 180° なので 8G は 180° より小さい。 0° ~ 180° の区間では、角度がでかいほど cos は小さいので、 cos G > cos 2G そして cos 4G > cos 8G。この二つの不等式の左辺同士・右辺同士を足すと cos G + cos 4G > cos 2G + cos 8G なので、大きい方の解が u。
§5. 命題1は「もし a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4 が成り立つなら」という仮定に基づく。この「もし」が事実であることを確かめないと、全ては仮定上の話で終わってしまう。
そもそもこの仮定は、どこから出てきたのか?
cos G + cos 2G + cos 3G + cos 4G + cos 5G + cos 6G + cos 7G + cos 8G = −1/2
…という和を、
a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G と b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G の和
…に分解したとき、a + b = −1/2 であることと、 ab = −1 であることを前提とすれば、 a, b は2次方程式 x2 + (1/2)x − 1 = 0 の2解。上記の a は、この方程式の解として登場する(§3)。
a + b = −1/2 は明白なので、 ab = −1 を確かめればいい。
それは、今やったばかりの uv の計算と同様: 積→和の公式を使って、
ab = (cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G)(cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G)
…を処理すればいい。展開すると 16 項の和になるが、ここでは次のように 4 項ずつ A, B, C, D に分けて記す。
A = cos G × b = cos G cos 3G + cos G cos 5G + cos G cos 6G + cos G cos 7G
= (1/2)[(cos 4G + cos 2G) + (cos 6G + cos 4G) + (cos 7G + cos 5G) + (cos 8G + cos 6G)]
B = cos 2G × b = cos 2G cos 3G + cos 2G cos 5G + cos 2G cos 6G + cos 2G cos 7G
= (1/2)[(cos 5G + cos 1G) + (cos 7G + cos 3G) + (cos 8G + cos 4G) + (cos 9G + cos 5G)]
これで半分。
C = cos 4G × b = cos 4G cos 3G + cos 4G cos 5G + cos 4G cos 6G + cos 4G cos 7G
= (1/2)[(cos 7G + cos 1G) + (cos 9G + cos 1G) + (cos 10G + cos 2G) + (cos 11G + cos 3G)]
D = cos 8G × b = cos 8G cos 3G + cos 8G cos 5G + cos 8G cos 6G + cos 8G cos 7G
= (1/2)[(cos 11G + cos 5G) + (cos 13G + cos 3G) + (cos 14G + cos 2G) + (cos 15G + cos 1G)]
これで完了。 A, B, C, D の [ ] 内に発生した各 8 項(計 32 項)を一覧表にすると…
1G | 2G | 3G | 4G | 5G | 6G | 7G | 8G |
---|---|---|---|---|---|---|---|
16G | 15G | 14G | 13G | 12G | 11G | 10G | 9G |
A | A A | A | A A | A | A | ||
B | B | B | B B | B | B B | ||
C C | C | C | C | C C | C | ||
D | D D | D D | D | D | D |
計算完了後、この表はあっという間に作れる: 例えば [ ] の中に (cos 4G + cos 2G) + (cos 6G + cos 4G) があれば、数字の「4, 2, 6, 4」だけ読んで、 4G, 2G, 6G, 4G の欄に印を付ける。気楽な単純作業。結局、8 種類の cos の値が全部 4 回ずつ出現してるんで:
ab = A + B + C + D = (1/2)[(上記の32項)]
= (1/2)[(cos G + cos 2G + … + cos 8G) × 4]
= (1/2)[(−1/2) × 4] = −1
これが、前回「後述する」と約束したもう一つの式 ab = −1。少しゴチャゴチャしてるけど、実質、小学生の算数だよね。だって「1 桁の数同士の足し算・引き算」を 16 回やっただけじゃん!
§6. 以上によって、次の関係が証明された。
命題2 下記の二つの式が成り立つ。その結果として、命題1の u, v の値も正しい。
a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4
b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G = (−1 − √17)/4
a, b は a + b = −1/2, ab = −1 という性質を持ち、 x2 + (1/2)x − 1 = 0 の2解である。
a, b のどっちがどっちかの判断は、直観的には作図から明らか。厳密には、例えば次のように論じることができる。 0° ~ 90° にある 1G ~ 4G の cos は正。 90° ~ 180° にある 5G ~ 8G の cos は負。
G = 360° × 1/17
…なので:
180° = 360° × 1/2 = 360° × 8.5/17 = 8.5G
∴ cos 6G = −cos (180° − 6G) 〔※注3〕
= −cos (8.5G − 6G) = −cos (2.5G)
この負の数は、絶対値において cos 3G より大きい――なぜなら、この範囲の cos は角度が大きいほど値が小さいので cos (2.5G) > cos 3G。従って:
cos 3G + cos 6G = 絶対値の大きい負の数 + 絶対値の小さい正の数 = 負の数
cos 5G と cos 7G は負なので:
b = (cos 3G + cos 6G) + cos 5G + cos 7G = (負の数) + 負 + 負 = 負
〔※注3〕 三角関数の基本性質として cos θ = −cos (180° − θ)。証明:
−cos (180° − θ) = −[cos 180° cos θ + sin 180° sin θ] = −[(−1) cos θ + 0 sin θ] = −[−cos θ] = cos θ
さて √17 は √16 = 4 より大きいので、第一の解…
(−1 + √17)/4 > (−1 + 4)/4 = 3/4
…は正。第二の解…
(−1 − √17)/4
…は明らかに負。従って、負の数 b は第二の解であり、消去法により a が第一の解。
〔補足〕 a, b の正負の判定法は、他にもいろいろ考えられる。直接的に a が正であることを示す一つの方法は、次の通り。 G, 2G はどちらも 60° より小さいので cos G + cos 2G > cos 60° + cos 60° = 0.5 + 0.5 = 1。 つまり cos G + cos 2G だけでも 1 より大きい; cos 4G も正なので、 X = cos G + cos 2G + cos 4G は、ますます 1 より大きい。一方、 Y = cos 8G の正確な値は不明だが、どんなに小さいとしても −1 以上なので a = X + Y > 1 + (−1) は 0 以下にはなり得ない。
本来まず a + b と ab を確定させて a, b を求め(命題2が先)、それを使って u + v と uv を確定させ u, v を求めるのだが(命題1が後)、話の便宜上、あべこべの順序で記した(積 ab の計算と積 uv の計算は同様だが、後者の方が簡単なので、易しい方から片付けた)。
ともかく u = cos G + cos 4G の値が分かったので、今までの原理からすると、後は積 cos G cos 4G の値さえ分かれば、cos G, cos 4G を個別に求めることができ、問題は解決する。どうやってこの積を求める? ここまでの流れだと、積→和の公式を使って cos G cos 4G = (cos 3G + cos 5G)/2 とするのが自然な発想だろう。けれど、それは「2項の和」。8項そろわないと「マイナス½の定理」を発動できないので、今までと全く同様というわけにもいかない。
他方において、われわれは既に u = cos G + cos 4G という「2項の和」を得ているし、 v = cos 2G + cos 8G という「2項の和」も得ている。他の「2項の和」だって、求められるかもしれない。というのも、ここまでの検討の副産物として、 b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G の値も確定している。まだその情報を利用していない。仮に b を…
U = cos 3G + cos 5G と V = cos 6G + cos 7G の和
…に分解したとして、積 UV がこれまで同様に計算可能なら(UV に積→和の公式を適用して、もし 1G ~ 8G の8項を過不足なく作れるなら、「マイナス½の定理」を発動できる)、 U, V を求めることができるはず。――それが駄目でも cos G + cos 4G は t = cos G の4次式相当。4次方程式は代数的に解けるのだから、いざとなれば、何らかの方法で強行突破も可能かも…?
この先については次回に記す予定だけど、もし興味が湧いたら「自分の冒険」を試してみよう。別にこの問題じゃなくてもいいし、数論じゃなくてもいい。どうせ生きては出られないんだから、滞在を楽しもう!
2024-04-14 正17角形は作図可能? 完結編 2次方程式は侮れない
最初のメモでは、アイデアと全体の流れを紹介。2番目のメモで、後回しにした部分を記した。
今回は最後の仕上げ。「2次方程式を解くだけ」だが、それがなかなか難しい。高校くらいの数学教師だと、かなり研究熱心な人でも、自力じゃうまくできないらしい…?!
「2次方程式のどこが難しいっていうんだ。解の公式に入れるだけだろ」「われこそは!」という方は、次の方程式を自力で解いてみよう(文脈については §8 参照)。確かに「公式に当てはめるだけ」なんだけど…
z2
+ (1/8)(1 − √17 − √(34 − 2√))z
− (1/16)(1 + √17 − √(34 + 2√)) = 0
§7. ここまでの粗筋。
360° の 1/17 の角度を G とする。 cos G を求めたい――弧度法を使えば cos (2π/17) である。
「マイナス½の定理」(§2)から、次が成り立つ(このことは、解と係数の関係からも容易に示される)。
cos G + cos 2G + cos 3G + cos 4G + cos 5G + cos 6G + cos 7G + cos 8G = −1/2
天下り的だが、この和を次のように二つに分ける。
(cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G) + (cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G) = −1/2
ここで…
a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G, b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G
…と置くと a + b = −1/2。さらに…
ab = (cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G)(cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G)
…を展開した 16 項について、積→和の公式(§4)を使って…
ab = 1/2[(cos 4G + cos 2G) + (cos 6G + cos 4G) + … + (cos 15G + cos 1G)]
…の形にすると、[ ] 内には「cos G ~ cos 8G の 8 種類の値と等しい cos」がちょうど 4 回ずつ現れる(§5)。よって「マイナス½の定理」から ab = −1。解と係数の関係から、a, b は次の2次方程式の2解。
x2 + (1/2)x − 1 = 0
これを解くと:
(解 a, b) = (−1 ± √17)/4
a が正、 b が負であることを考慮すると(命題2):
a = cos G + cos 2G + cos 4G + cos 8G = (−1 + √17)/4
b = cos 3G + cos 5G + cos 6G + cos 7G = (−1 − √17)/4
同様に a の 4 項の和について、 u = cos G + cos 4G, v = cos 2G + cos 8G と置くと、 u + v = (−1 + √17)/4, uv = −1/4 となる。従って u, v は、次の2次方程式の2解。
y2 − [(−1 + √17)/4]y − 1/4 = 0 《て》
これを解き、 u, v の大小を考慮すると(命題1):
u = cos G + cos 4G = (1/8)(−1 + √17 + √(34 − 2√))
v = cos 2G + cos 8G = (1/8)(−1 + √17 − √(34 − 2√))
§8. 和 cos G + cos 4G は、上記のように、四則演算と平方根を使って具体的に判明している。もし積 cos G cos 4G が分かれば、上記と同様の手法により cos G と cos 4G の個別の値を同様に表現できる。積→和の公式によれば、
cos G cos 4G = 1/2(cos 3G + cos 5G)
…であるから、この積を求めることは、和 cos 3G + cos 5G を求めることに帰着。ところが b の 4 項について、 U = cos 3G + cos 5G, V = cos 6G + cos 7G と置くと、 U + V = b = (−1 − √17)/4, UV = −1/4 となる。なぜなら:
UV = (cos 3G + cos 5G)(cos 6G + cos 7G)
= cos 3G cos 6G + cos 3G cos 7G + cos 5G cos 6G + cos 5G cos 7G
= (1/2)[(cos 9G + cos 3G) + (cos 10G + cos 4G) + (cos 11G + cos 1G) + (cos 12G + cos 2G)]
= (1/2)[(cos 8G + cos 3G) + (cos 7G + cos 4G) + (cos 6G + cos 1G) + (cos 5G + cos 2G)]
最後の等号では、9 以上の n について cos nG の項を cos ((17−n)G) に置き換えた。すると [ ] 内には cos 1G ~ cos 8G がちょうど一つずつあるので、「マイナス½の定理」から UV の値は上記の通り。従って U, V は、次の2次方程式の2解。
y2 − [(−1 − √17)/4]y − 1/4 = 0 《と》
《と》は、《て》において √17 の前の符号がプラスからマイナスに代わっただけ。 U > V なので†、解 U, V は、前記 u, v とほとんど同じ形になる‡:
U = cos 3G + cos 5G = (1/8)(−1 − √17 + √(34 + 2√))
V = cos 6G + cos 7G = (1/8)(−1 − √17 − √(34 + 2√))
† cos 3G > cos 6G そして cos 5G > cos 7G。この二つの不等式の「左辺の和」つまり U は、当然「右辺の和」つまり V より大(「大」同士の和は、「小」同士の和よりでかい)。
‡ 《と》の判別式は、次の通り。
(−1 − √17)2/16 − (−1)
= (1/16)(1 + 2√17 + 17 + 16)
= (1/16)(34 + 2√17)
その平方根 ±(1/4)√(34 + 2√) を使う。
以上をまとめると…
cos G + cos 4G = u
= (1/8)(−1 + √17 + √(34 − 2√))
cos G cos 4G = (1/2)(cos 3G + cos 5G)
= (1/2)U
= (1/16)(−1 − √17 + √(34 + 2√))
…となるので(符号の微妙な違いに注意)、 cos G と cos 4G は、次の2次方程式の2解。
z2 − (1/8)(−1 + √17 + √(34 − 2√))z + (1/16)(−1 − √17 + √(34 + 2√)) = 0 つまり
z2
+ (1/8)(1 − √17 − √(34 − 2√))z
− (1/16)(1 + √17 − √(34 + 2√))
= 0
後は「解の公式に当てはめるだけ」のはずだが…。次の節では、このラスボスに挑む!
§9. 便宜上、上記の方程式を z2 + Pz + Q = 0 と略すことにする。ただし:
P =
(1/8)(1 − √17 − √(34 − 2√))
Q =
−(1/16)(1 + √17 − √(34 + 2√))
解の公式によると、 P2 − 4Q の平方根 d を求めれば、解は (−P ± d)/2 だ。 P2 − 4Q を計算したいので、まずは P2 から。
8P = (1 − √17) − √(34 − 2√) の両辺を平方すると:
(8P)2
=
[(1 − √17) − √(34 − 2√)]2
64P2 = (1 − √17)2 − 2(1 − √17) √(34 − 2√)
+ (34 − 2√17) 《な》
(1 − √17)2 = 1 − 2√17 + 17 = 18 − 2√17、そしてその両辺の負の平方根を考えると(1 − √17 は負である):
1 − √17 = −√(18 − 2√)
従って《な》から:
64P2 = (18 − 2√17)
− 2(−√(18 − 2√)) √(34 − 2√)
+ (34 − 2√17)
= 52 − 4√17 + 2√[(18 − 2√)(34 − 2√)]
右端の根号下、つまり 2√ の後ろの積は 2(9 − √) × 2(17 − √17)
= 4(170 − 26√17) なので:
64P2 = 52 − 4√17 + 2√[4(170 − 26√)]
∴ P2 = (1/64)(52 − 4√17 + 2⋅2√(170 − 26√))
= (1/16)(13 − √17 + √(170 − 26√))
これと −4Q = (1/16)(4 + 4√17 − 4√(34 + 2√)) から:
P2 − 4Q = (1/16)(17 + 3√17 + √(170 − 26√) − 4√(34 + 2√)) 《に》
めでたく P2 − 4Q が求まった! これは正しい計算であり、これを直接使って d の表現を確定し、2次方程式の解を得ることは難しくない。それでもいいのだが、実は《に》の 1/16 の後ろの 4 項の和は、 3 項の和に簡約可能。分数で例えれば《に》は 4/12 みたいなもんで、「まだ約分が済んでない」。
簡約でき
るか検討
この簡約は「正17角形の散歩道」の中で、ある意味、一番難しい。オプションと考えて構わない――「約分が済んでない」としても答えは合ってるし、「これが加減乗除・平方根で表されるから、正17角形は作図可能」という結論に変わりはないのだから。以下、参考までに、このオプションの部分を略述する。
二重根号 √(A + B√) が現れたら根号下の数の平方差 A2 − B2n を調べ、それが平方数になってないか確かめる(もし平方数なら、基本パターンの二重根号除去が可能)。上記《に》では、二つの二重根号は、どっちもこの差が平方数じゃないので、基本パターンによる簡約は不可。しかしそれとは別に、二つの二重根号の和・差については、一つの二重根号にまとめられるケースがある。
一般に、二重になっている二つの根号 √(p + q√), √(r + s√) について、もし
積 √(p + q√)√(r + s√) = k 《ぬ》
が簡約可能なら、次の形の 2 項を 1 項にまとめられる。
L√(p + q√) + M√(r + s√) 《ね》
《に》の √(170 − 26√) − 4√(34 + 2√) の部分に当てはめると L = 1, M =1, n = 17; p, q, r, s は順に 170, −26, 34, 2。
簡約の可否は、二つの根号の積を計算してみれば検証できる。果たして次のように、積は(二重根号除去の基本パターンによって)簡約可能†。
√(170 − 26√)√(34 + 2√)
=
2√(85 − 13√)√(17 + √)
= 2√{1224 − 136√}
= 2⋅2√{306 − 34√}
= 4(√289 − √17)
= 4(17 − √17) 《の》
† {根号下の数}の平方差 3062 − 342⋅17 = (34⋅9)2 − 342⋅17 = 342(81 − 17) = 342⋅64 は平方数。その平方根 34⋅8 と整数部分 306 = 34⋅9 の平均は 34 × 8.5 = 289 (= 172)、整数部分 306 と 289 のずれは 306 − 289 = 17。
簡約を実行
このケースが生じた場合、簡約したい式が「2 項の和または差」そのものなら、単に式全体を平方することによっても解決可能。だが《に》のように 4 項もある複雑な式は、平方するとますますゴチャゴチャしてしまい、収拾がつかない。
そういう場合に役立つのが、Borodin のアルゴリズム [4]。その仕組みは次の通り。《ね》の 2 項を √(p + q√) でくくって 1 項にすると…
L√(p + q√) + M√(r + s√)
= (L + {M√(r + s√) / √(p + q√)}) √(p + q√)
ここで分数の分子・分母を √(p + q√) 倍すると、分子は《ぬ》によって簡約され、分母では(同じ平方根の2乗なので)外側の根号が外れる:
= (L + {√(p + q√) × M√(r + s√) / [√(p + q√) × √(p + q√)]}) √(p + q√)
= (L + {Mk / (p + q√)}) √(p + q√) 《は》
この方法を使えば、《に》に含まれる…
√(170 − 26√) − 4√(34 + 2√) 《ひ》
…という二つの項を、《は》の型の一つの項に置き換えることができる。《は》に当てはめると:
= [1 + {−4⋅4(17 − √17)/(170 − 26√17)}] √(170 − 26√)
=
[1 − {8(17 − √17)/(85 − 13√17)}] √(170 − 26√)
分子の 4(17 − √17) の部分は《の》; アルゴリズムの k に当たる(《ぬ》参照)。
この一つの項を整理しよう。分母を有理化するため、分数の分子・分母を 85 + 13√17 倍:
= [1 − {8(17 − √17)(85 + 13√17)/(852 − 132⋅17)}] √(170 − 26√) ← [ ] 内を普通に計算すると…
= [1 − {8(1224 + 136√17)/4352}] √(170 − 26√) ← これを整理・約分すると…
= (1 − {(9 + √17)/4}) √(170 − 26√) = −[(5 + √17)/4]√(170 − 26√)
ここで (A + B√n)√(C + D√) 型の処理を行う(5 + √17 が正であることを別にすれば、《な》を扱ったときと同様)。
= −(5 + √17) √(170 − 26√) / 4 = −√[(5 + √)2] √(170 − 26√) / 4
= −√(42 + 10√) √(170 − 26√) / 4
= −2√(21 + 5√) √(85 − 13√) / 4
= −2√(680 + 152√) / 4
= −2⋅2√(170 + 38√) / 4
= −√(170 + 38√) 《ふ》
《ひ》が《ふ》に簡約されるのだから、結局《に》はこうなる:
P2 − 4Q = (1/16)(17 + 3√17 + √(170 − 26√) − 4√(34 + 2√))
= (1/16)(17 + 3√17 − √(170 + 38√)) 《へ》
その(正の)平方根は:
d = (1/4)√{17 + 3√17 − √(170 + 38√17)}
∴ −P ± d = (1/8)(−1 + √17 + √(34 − 2√) ± 2√{17 + 3√17 − √(170 + 38√17)})
∴ (−P ± d)/2 = (1/16)(−1 + √17 + √(34 − 2√) ± 2√{17 + 3√17 − √(170 + 38√17)})
ついに方程式 z2 + Pz + Q = 0 の2解 cos G と cos 4G が得られたッ!
cos G > cos 4G なので、最終的な結論は†:
cos G = (1/16)(−1 + √17 + √(34 − 2√) + 2√{17 + 3√17 − √(170 + 38√17)})
cos 4G = (1/16)(−1 + √17 + √(34 − 2√) − 2√{17 + 3√17 − √(170 + 38√17)})
† 書き方には、いろいろなバリエーションがある(どの書き方でも本質的には同じ式)。
正17角形の作図可能性を含意する根号表現(一つの例)
cos (2π/17)
=
[−1 + √17 + √(34 − 2√)] / 16 + [√{17 + 3√17 − √(170 + 38√17)}] / 8
数値的には:
cos (2π/17) = 0.9324 7222 9404… (草に酔う 何に肉酔う)
判別式の根号下が 4 項の和から成る《に》のような形式も、決して間違いではない。 Gauß 自身、簡約しない形を記している(D.A., art. 365)。しかしこの 4 項の和について、なるべく短く簡潔に表現しようとしても、簡約の可能性に気付くのは、なかなか難しいことのようだ。ある高校の熱心な先生が、この17角形の話題を実験的に授業に取り入れたものの、簡約できず 4 項の形を記していた。実際、基本パターン以外の多重根号簡約のアルゴリズムは、一般にはコンピューターを使っても難しく、2020年代の今もなお研究が続き、時々新規論文も発表されている。もっとも、このメモで使った処理については解決済みだろう。
「原始17乗根」なのに「複素数・原始根の概念を使わないで、やりくり」ってのは、かなりむちゃな設定で、常識的に考えると、不透明でかえって面倒な議論になる可能性が高い。確かに「マイナス½の定理」については、複素数解を考えた方が、はるかに手っ取り早い。
しかし何事もやってみるもので、全体としては予想以上に楽しく、実りある散策となった。16項から入る普通の(?)方法と比べ、われわれのアプローチだと最初から8項なので(John Casey と Hobson のアイデアに基づく。角度が等差数列の cos の和については [3] に基づく)、計算量が半分で済む。抽象的な高所からの展望は数論の醍醐味だが、平明な手法を繊細に組み合わせて具体的な問題を解決するのも、数論の楽しさであり、難しさでもある。「気軽な散策」と言いつつ、最後の最後で Borodin のアルゴリズムを使ったけれど(これはオプション)、多重根号の奥深さをあらためて実感できた。
(2π/17) の角度を G で表したのは、もちろん Gauß へのリスペクト。
〔参考文献〕
[1] Gauß: D.A., artt. 354, 361, 365
[2] E. W. Hobson (1957): A Treatise on Plane and Advanced Trigonometry, p. 113, (4)
https://archive.org/details/treatiseonplanea0000ewho_7thedition/page/113/mode/1up
Originally titled: A Treatise on Plane Trigonometry, p. 111, (4)
{*} https://archive.org/details/treatiseonplanet0000ewho/page/111/mode/1up
[3] Michael P. Knapp (2009): Sines and Cosines of Angles in Arithmetic Progression
https://maa.org/sites/default/files/Knapp200941575.pdf
https://math.loyola.edu/~mknapp/papers/knapp-sv.pdf
[4] Allan Borodin, et al. (1985): Decreasing the Nesting Depth of Expressions Involving Square Roots, Journal of Symbolic Computation, Volume 1, Issue 2, pp. 169–188. (See p. 184, §5 “Denesting Rational Combinations of Radicals”)
https://www.cs.toronto.edu/~bor/Journal-Papers.html
https://www.cs.toronto.edu/~bor/Papers/decreasing-nesting-depth-for-expressions.pdf
https://web.archive.org/web/20210827161743/https://researcher.watson.ibm.com/researcher/files/us-fagin/symb85.pdf
〔追記〕 Hobson [2] の初版 A Treatise on Plane Trigonometry は1891年。1888年、 John Casey が同じ題名の著書において、同様のアイデアを既に記していた。
A Treatise on Plane Trigonometry, p. 220, Exercises XXXVI 〔9. に誤植があるようだ〕
https://archive.org/details/treatiseonplanet00caseuoft/treatiseonplanet00caseuoft/page/220/mode/1up
{*} は Hobson 第2版(1897)の高品質スキャン。1957年版と内容は同じ。
〔修正済みの箇所〕 §9 ①680 が 608 になっていた。 ② −4Q = で右辺各項が 4 倍されるのに、1カ所 4 が抜けていた。どちらも単なる誤字・脱字で、計算結果に影響なし。7カ月後(2024年10月)に気付き、②を訂正、①については計算自体を簡単化し 4 分の 1 の 170 を使うようにした。
2024-03-19 ジラルの公式 3次方程式の解の立方和
#遊びの数論 #1 の原始根 #Morrie の法則 #3次方程式
cos3 20° − cos3 40° − cos3 80° = 3/8
遊びとして、眺めてきれいな式。「ゾクッとする式・きれいな式」の中で、この3乗の式にもチラッと言及しました。そこでは、この式の導出の仕組みの説明を(少々ややこしいので)省略しました。その省略部分に関連する話題。
2次方程式 x2 + hx + p = 0 の解が x = a, b のとき、 h = −(a + b), p = ab であること(なぜ?)、3次方程式 x3 + Hx2 + Px + Q = 0 の解が x = a, b, c のとき、 H = −(a + b + c), P = ab + bc + ca, Q = −(abc) であること(なぜ?)は、よく知られている。どちらも解の和は、大文字または小文字の −H に等しく、解の平方和は、係数を使うと次のように表現される。
a2 + b2 = (a + b)2 − 2ab = h2 − 2p
a2 + b2 + c2 = (a + b + c)2 − 2(ab + bc + ca) = H2 − 2P 〔※注1〕
どちらも、大文字または小文字の H2 から 2P を引いたもの。個々の解が不明でも、解の和や平方和が分かるのが便利。では解の立方和は、どう表現されるか?
〔※注1〕 (a + b + c)2 = (a + b + c)(a + b + c)
= a(a + b + c) + b(a + b + c) + c(a + b + c)
= (a2 + ab + ac) + (b2 + ab + bc) + (c2 + ac + bc)
整理すると:
(a + b + c)2 = a2 + b2 + c2 + 2ab + 2ac + 2bc = a2 + b2 + c2 + 2(ab + bc + ca)
∴ (a + b + c)2 − 2(ab + bc + ca) = a2 + b2 + c2
2次方程式については、難しくない。
a3 + b3 = (a + b)3 − (3a2b + 3ab2) = (a + b)3 − 3(a + b)(ab) = −h3 + 3hp
3次方程式の解の立方和 a3 + b3 + c3 も、3次方程式の係数を使うと、同じ形の −H3 + 3HP に等しいだろうか?
それを調べるため、次の恒等式に注目したい。
(a + b + c)3 = a3 + b3 + c3 + 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 6(abc)
〔補足〕 右辺の真ん中の係数 3 は明らかだろう―― (a + b + c)(a + b + c)(a + b + c) から生じる「三つの数の積たち」のうち a2b については、a が 2 回、b が 1 回、選択される必要がある。それには「第1・第2の丸かっこから a を選び、第3の丸かっこから b を選ぶ」「第1・第3の丸かっこから a を選び、第2の丸かっこから b を選ぶ」「第2・第3の丸かっこから a を選び、第1の丸かっこから b を選ぶ」という、ちょうど三つの選択肢がある。 ab2 等々についても同様。末尾の係数 6 も同様に説明可能だが(組み合わせ論的に考えれば 3! である)、比較的数えにくい。この係数が不明のときには、それを例えば X として、次の手も使える: 恒等式はどんな入力に対しても成立するのをいいことに、
(a + b + c)3 = a3 + b3 + c3 + 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + X(abc)
に a = b = c = 1 を代入すると、 27 = 1 + 1 + 1 + 3⋅6 + X⋅1。そこから容易に X = 6 を得る。ここで 27 は (1 + 1 + 1)3 = 33 = 3 × 3 × 3。
従って:
(−H)3 = (a + b + c)3 = a3 + b3 + c3 + 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 6(abc) ①
一方:
(a + b + c)(ab + bc + ca) = (a2b + a2c + b2c + b2a + c2a + c2b) + 3(abc)
∴ 3(−H)P = 3(a + b + c)(ab + bc + ca) = 3(a2b + a2c + b2c + b2a + c2a + c2b) + 9(abc) ②
①から②を引くと:
−H3 + 3HP = a3 + b3 + c3 − 3(abc) = a3 + b3 + c3 − 3(−Q)
∴ a3 + b3 + c3 = −H3 + 3HP − 3Q
2次方程式バージョンの −h3 + 3hp とは、3(abc) = −3Q の違いに過ぎない。
A = a + b + c (= −H) ← 一つずつの和
B = ab + bc + ca (= +P) ← 二つずつの積の和
C = abc (= −Q) ← 三つずつの積(の和)…といってもこの場合 1 項しかない
…と置くと:
Girard の立方和の公式 a3 + b3 + c3 = A3 − 3AB + 3C
= (a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca) + 3(abc)
これは、べき乗和についてのより一般的な公式――「Newton の恒等式」とか「Newton の関係」と呼ばれる――の一例だが、Newton より約40年早く、フランス生まれの Albert Girard(アルベル・ジラル: 1592–1632)によって発見され、1629年に出版された†。 Girard は、
A3 − 3AB + 3C
…の代わりに、次の記法を使っている。
A cub − A B 3 + C 3
† Albert Girard: Invention nouvelle en l'algèbre
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k5822034w/f48.item
式の一部を次のように変形できる。
(a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca)
= (a + b + c)[(a + b + c)2 − 3(ab + bc + ca)] ★
= (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca)
〔注〕 ★ は (a + b + c) でくくっただけ。その後の変形は、3 個の平方和の計算法と同様。
それを利用すると、恒等式…
a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca)
…をこう書くこともできる[式 (5) 参照]。
a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca) ★★
3数の平方和から「3数を二つずつ掛けた積」を引いたもの(右端の丸かっこ内)…
a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca
…を「長い6項式」と呼ぶと:
3数の立方和から3数の積の3倍を引いたものは、3数の和と「長い6項式」の積に等しい。
★ の [ ] 内のように、「長い6項式」は…
(a + b + c)2 − 3(ab + bc + ca)
…に等しいので、★★ を Girard の公式に変換することは難しくない。
2次の項がない3次方程式 x3 + Px + Q = 0 の場合、H = 0 なので、解のべき乗和と係数の関係はシンプル。
a2 + b2 + c2 = H2 − 2P = −2P 《甲》
a3 + b3 + c3 = −H3 + 3HP − 3Q = −3Q 《乙》
例えば x3 − (3/4)x + 1/8 = 0 の解は x = cos 40°, cos 80°, cos 160° に等しいので(そして cos 20° = −cos 160° なので):
cos2 40° + cos2 80° + cos2 160° = cos2 20° + cos2 40° + cos2 80° = −2(−3/4) = 3/2
同様に:
cos3 40° + cos3 80° + cos3 160° = −cos3 20° + cos3 40° + cos3 80° = −3(1/8) = −3/8
∴ cos3 20° − cos3 40° − cos3 80° = 3/8
《甲・乙》の導出だけなら、最初から「2次項がない3次式」として扱う方が分かりやすい。
2024-04-07 ジラルの公式(その2) 解の平方和・立方和
#遊びの数論 #4次方程式 #Morrie の法則
ジラル(Girard)の公式とは、解と係数の関係を使って、2次方程式・3次方程式…の解の平方和・立方和などを表現するもの。4次方程式にもそのまま通用する。「解と係数の関係」という枠組みに限定されず、有用な恒等式とも結び付く。
一般の場合の「基本対称多項式とべき乗和の関係」はニュートンの功績とされるが、少なくとも立方和・4乗和までは、Newton より何十年も前に Girard が発見した。
一見、神秘的なモリーの法則…
cos 20° cos 40° cos 80° = 1/8
…は、いろいろに分析され、いろいろに拡張されているようだが、「3次方程式の解と係数の関係」からも透明に説明される。その流れで、
tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = 33
tan 10° tan 30° tan 50° tan 70° = 1/3
…のような、美しい式も得られた。――ここまでの遊びは、だいたい3次方程式の解の平方和までの範囲だったが、立方和や4乗和、あるいは4次方程式などを考えれば、新たな発見・面白い体験ができるかもしれない。
【1】 解と係数の関係。
(x − a)(x − b) = x2 − (a + b)x + ab = 0
…の解は x = a, b なので、それらが2次方程式 x2 + hx + p = 0 の2解なら:
h = −(a + b)
p = ab
〔例〕 (x + 7)(x − 13) = x2 − 6x − 91 = 0 の解は x = −7, 13。係数 −6 は −(−7 + 13) に等しい。定数項 −91 は −7⋅13 に等しい。――これは a = −7, b = 13 の例。解を書く順序に決まりはないので a = 13, b = −7 と見てもいい。足し算・掛け算には交換法則があるので、 a と b の和・積は対称的(どういう順序でも結果は同じ)。どっちがどっちでも構わない。
上の2次方程式の形を再利用して…
(x − a)(x − b)(x − c) = [x2 − (a + b)x + ab](x − c)
= x3 − (a + b)x2 + abx − cx2 + (a + b)cx − abc
= x3 − (a + b + c)x2 + (ab + ac + bc)x − abc = 0
…の解は x = a, b, c なので、それらが3次方程式 x3 + hx2 + px + q = 0 の3解なら:
h = −(a + b + c)
p = ab + ac + bc 《あ》
q = −abc
上の3次方程式の形を再利用して…
(x − a)(x − b)(x − c)(x − d) = [x3 − (a + b + c)x2 + (ab + ac + bc)x − abc](x − d)
= x4 − (a + b + c)x3 + (ab + ac + bc)x2 − (abc)x
− dx3 + (a + b + c)dx2 − (ab + ac + bc)dx + abcd
= x4 − (a + b + c + d)x3 + (ab + ac + ad + bc + bd + cd)x2 − (abc + abd + acd + bcd)x + abcd = 0
…の解は x = a, b, c, d なので、それらが4次方程式 x4 + hx3 + px2 + qx + r = 0 の4解なら:
h = −(a + b + c + d)
p = ab + ac + ad + bc + bd + cd 《い》
q = −(abc + abd + acd + bcd) 《う》
r = abcd
n 次方程式の解と係数 n 個の解を一つずつ足したもの、二つずつの積(可能な全部の組み合わせで)を足したもの、三つずつの積を足したもの…は、それぞれ一つ目の係数・二つ目の係数・三つ目の係数…と絶対値が等しい。ただし、奇数番目の係数にはマイナスが付く。
〔注意〕 ここでは、最高次の(n 次の)係数を 1 と仮定している(0番目の係数)。もし最高次の係数 g が 1 でなければ、「n 次式 = 0」の両辺を g で割ったとき上の関係が成り立つのだから、 h, p, q, … を左辺とする上記の各式は、それぞれ h/g, p/g, q/g, … を左辺とする式に置き換わる。
【2】 以上の原理は単純だが、《う》のような形を過不足なく確実に書くには、体系的に手際よく処理する必要がある。《あ》のように三つから二つずつを(可能な全ての組み合わせで)選ぶ場合、しばしばアルファベット順や番号順より ab, bc, ca という円環的な書き方が好まれる。それに加えて、次のオプションが使われることもある。
「a が無い・b が無い・c が無い」の順で書く → bc, ca, ab
《い》のように a, b, c, d 四つから二つずつ選ぶ場合、辞書順で書くしかないようだ…。アルファベット順で「a の後ろには b, c, d がある。 b の後ろには c, d がある。 c の後ろには d がある」と考えれば、まぁ間違いはないだろう。次のように、円環的に 4 項、書いてから、奇数番目の 2 項の積、偶数番目の 2 項の積を書く方法もあるが、あまり分かりやすくない。
ab, bc, cd, da; ac, bd
危険な曲がり角 「2個ずつの積」を調子よく円環的に書けるのは「3 項」の場合。「4 項」以上の場合、間違った類推から…
(a + b + c + d)2 =? a2 + b2 + c2 + d2 + 2(ab + bc + cd + da)
…などとやっては、いけない! あえてこの順序で書くなら、上記のように ac, bd を付け足す必要がある。それを忘れない自信があるならこの順序でもいいが、この 6 項については 3 + 2 + 1 の辞書順(ab, ac, ad; bc, bd; cd)が無難だろう。
《う》のように四つから三つを選ぶ場合、辞書順でもいいのだが、こっちは逆に辞書順だと、少々紛らわしい。
「abc, abd, bcd」だけで全部書いた気になってしまう(?)
…といった勘違いに注意。次のどちらかのオプションの方が分かりやすく、書き漏らしが起きにくいだろう。
円環的に書く → abc, bcd, cda, dab
「a が無い・b が無い・c が無い・d が無い」の順で書く → bcd, acd, abd, abc
あるいはそれを円環的にして bcd, cda, dab, abc
【3】 解の平方和。2次方程式では…
(a + b)2 = a2 + b2 + 2ab
∴ a2 + b2 = (a + b)2 − 2(ab)
= (−h)2 − 2p
= h2 − 2p
3次方程式では、既に見たように…
(a + b + c)2 = a2 + b2 + c2 + 2(ab + bc + ca)
∴ a2 + b2 + c2 = (a + b + c)2 − 2(ab + bc + ca) = h2 − 2p
同様に、4次方程式では…
(a + b + c + d)2 = a2 + b2 + c2 + d2 + 2(ab + ac + ad + bc + bd + cd)
∴ a2 + b2 + c2 + c2 = (a + b + c + d)2 − 2(ab + ac + …) = h2 − 2p
より一般的に n 次方程式の場合も、次の恒等式から同様の結論に至る。
(a1 + a2 + … + an)2 = a12 + a22 + … + an2 + 2(∑aiaj)
総和記号の部分は 1 ≤ i < j ≤ n の全ての組み合わせにわたる。
【4】 解の立方和。2次方程式では、比較的易しい。
(a + b)3 = a3 + b3 + 3(a2b + ab2) = a3 + b3 + 3(a + b)(ab)
∴ a3 + b3 = (a + b)3 − 3(a + b)(ab) = (−h)3 − 3(−h)p = −h3 + 3hp
3次方程式について。3項式の立方…
(a + b + c)3 = (a + b + c)(a + b + c)(a + b + c)
…を展開すると、同類項をまとめない生の形では、 3 × 3 × 3 = 27 個の項が生じる。27 項の内訳として:
a3 は1回しか生じない。
a2b は3回、生じる。対称性から ab2 も3回、生じる。
abc は6回、生じる。
a, b, c は立場が同じなので、上記のカウントは、例えば文字 (a, b) を (b, c) に置き換えても変わらない(ただし「abc」という積は、文字を置き換えても変化しないので、変化しないものを重複して何度もカウントしてはいけない)。結局、こうなる。
(a + b + c)3 = a3 + b3 + c3 + 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 6abc ‥‥①
〔注〕 右辺の丸かっこ内は円環的に記されている(辞書順にしても構わない)。右辺には、生の形で 1 + 1 + 1 + 3 × 6 + 6 = 27 項がある。
同様に考えると、(a + b + c)(ab + bc + ca) を展開すると生で 9 項、内訳として a2b と ab2 が 1 項ずつ、abc が計 3 項ある:
(a + b + c)(ab + bc + ca) = a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2 + 3abc
∴ 3(a + b + c)(ab + bc + ca) = 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 9abc ‥‥②
①②から:
(a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca)
= a3 + b3 + c3 − 3abc
∴ a3 + b3 + c3 = (a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca) + 3abc
= (−h)3 − 3(−h)p + 3(−q)
= −h3 + 3hp − 3q
E1 = a + b + c = −h, E2 = ab + bc + ca = p, E3 = abc = −q と置けば:
a3 + b3 + c3 = (E1)3 − 3E1E2 + 3E3
a3 + b3 + c3 = (E1)3 − 3E1E2 + 3E3 = −h3 + 3hp − 3q
〔注〕 解と係数の関係で「奇数番目の係数 h, q にはマイナスが付く」ということから、E1 等を使った表記と h 等を使った表記は、全く同じ意味。
(E1)3 − 3E1E2 の部分は、 a3 + b3 = (a + b)3 − 3(a + b)(ab) という関係(前記)を思い浮かべると、比較的分かりやすい。しかし、文字の数が a, b, c のように三つ以上ある場合、
a3 + b3 = (a + b)3 − 3(a + b)(ab)
…を単純に「拡張」して、
a3 + b3 + c3 =? (a + b + c)3 − 3(a + b + c)(ab + bc + ca)
…で済ませることはできない。それだと右辺は「引き過ぎ」――右辺の第1項・第2項は、どちらも展開すると生で 27 項あるはずで、「前者から後者を引いて a3 + b3 + c3 が残る」としたら、何かがおかしい。真相は次の通り:
2次方程式には解が二つしかないので、「解を三つずつ選ぶ」と空集合; ゼロ個の数の和はゼロなので「負債」が表面化しない。
【5】 4次方程式の解の立方和。第一に、次の展開を考える。
(a + b + c + d)3 = a3 + b3 + c3 + d3 + 3(a2b + ab2 + …) + 6(abc + bcd + cda + dab)
4項式の立方は、生で 4 × 4 × 4 = 64 項ある。 a3, b3, c3, d3 がそれぞれ 1 項しか生じないこと(小計 4 項)、 a2b, ab2 などがそれぞれ 3 項あること、そして abc, bcd などがそれぞれ 6 項あることは、(a + b + c)3 の場合と同様。
3(a2b + ab2 + …)
…の丸かっこ内では、○2△ の形も ○△2 の形も(それぞれ4文字から2文字を選ぶので)各 6 種・計 12 項あり、3(a2b + ab2 + …) 全体では 3 × 12 = 36 項に当たる。一方、
6(abc + bcd + cda + dab)
…は、6 × 4 = 24 項に当たる。トータルでは 4 + 36 + 24 = 64 項となって、つじつまが合う。
そのうち a3, b3, c3, d3 以外の項は、計 60 個。
第二に、3(a + b + c + d)(ab + ac + ad + …) の展開を考えると 3 × 4 × 6 = 72 個の項がある(この展開からは a3, b3 などの項は生じない)。
項数の違いの原因は、3次方程式の場合と同様:
以上のことから、次の恒等式が成り立つ。
a3 + b3 + c3 + d3 = (a + b + c + d)3 − 3(a + b + c + d)(ab + ac + ad + bc + bd + cd) + 3(abc + bcd + cda + dab)
すなわち、Girard の公式は、4次方程式の解の立方和についても、そのまま成り立つ。より一般的に…
a1, a2, …, an の立方和 = (E1)3 − 3E1E2 + 3E3 《え》
ここで E1 = ∑ai, E2 = ∑aiaj, E3 = ∑aiajak
4次方程式以降には、3次方程式以下にはないデータ E4 = abcd = r が存在するが、解の平方和・立方和に関する限り、この値は使われない。
【6】 上の恒等式を「長い6項式」風に変形することもできる。
a3 + b3 + c3 + d3 − 3(abc + bcd + cda + dab) =
(a + b + c + d)3
− 3(a + b + c + d)(ab + ac + …)
= (a + b + c + d)[(a + b + c + d)2 − 3(ab + ac + …)]
= (a + b + c + d)(a2 + b2 + c2 + d2 − ab − ac − ad − bc − bd − cd) ♥
一般に…
(a1)3 + (a2)3 + … + (an)3 − 3∑(aiajak) = (a1 + a2 + … + an)[(a1)2 + (a2)2 + … + (an)2 − ∑aiaj] 《お》
n = 2 の場合、条件 1 ≤ i < j < k ≤ n を満たす aiajak は存在せず、結局、次の形になる。
a3 + b3 = (a + b)(a2 + b2 − ab)
この恒等式は、次の形でよく知られている。 a = x, b = y と置くと:
x3 + y3 = (x + y)(x2 − xy + y2)
代わりに b = −y と置くと:
x3 − y3 = (x − y)(x2 + xy + y2)
n = 3 の場合、《お》は次の恒等式になる。
a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca)
《え》左辺の 3E3 を移項し右辺を E1 でくくった《お》の形式は、n = 2, 3 の場合には簡潔。 n = 4 では ♥ の式(長ったらしい)になり、直接的にはあまり使い道がないだろう。 Girard の公式《え》の形で使えば、ひょっとしたら、何か面白いものが得られるかもしれない…。
2024-04-08 ジラルの公式(その3) 3次方程式の解の4乗和
平方和・立方和が一応片付いたので、一歩進めて「解の4乗和」を考えてみたい。4乗和の式の完全版は、4次方程式以上でないと姿を現さないが、いきなり (a + b + c + d)4 を扱うのは大変。今回は、ウォーミングアップを兼ねて (a + b + c)4 に取り組む。
(a + b + c), (ab + bc + ca), (abc) を組み合わせて a4 + b4 + c4 を作れ――という問題。なるべく変なトリック・強引な計算を使わず、応用の利く形で整然と処理したいものである。
2次方程式 x2 + hx + p = 0 の2解を x = a, b とする。
(a + b)4 = a4 + 4a3b + 6a2b2 + 4ab3 + b4
= a4 + b4 + 4ab(a2 + b2) + 6(ab)2
…なので、次のように書くことができる。
a4 + b4 = (a + b)4 − 4ab(a2 + b2) − 6(ab)2
= (a + b)4 − 4(ab)[(a + b)2 − 2(ab)] − 6(ab)2
= (a + b)4 − 4(ab)(a + b)2 + 2(ab)2
解と係数の関係から:
= (−h)4 − 4p(−h)2 + 2p2
= h4 − 4ph2 + 2p2
2次方程式の解の4乗和 x2 + hx + p = 0 の2解が x = a, b なら:
a4 + b4 = h4 − 4ph2 + 2p2
〔例〕 x2 − 2x − 15 = 0 の解を x = a, b とすると、次が成り立つ:
a4 + b4 = (−2)4 − 4(−15)(−2)2 + 2(−15)2 = 16 + 240 + 450 = 706
実際、与式 = (x + 3)(x − 5) = 0 の解は x = −3, 5 なので:
(−3)4 + 54 = 81 + 625 = 706
この例では、(係数経由で考えなくても)簡単に解 a, b が求まり、そこから普通に a4 + b4 を計算できる。けれど、もっと複雑なケースで「解を代数的に求めることが困難あるいは不可能」だとしても、解の平方和・立方和・4乗和などを与式の係数から導ける――「具体的に解を求めずに(方程式を解かずに)、解全体のこと(例えば解の和)を高速に把握できる」という超強力なアルゴリズムなのだ!
上記のことから類推すると、大ざっぱに…
a4 + b4 + c4 =? (a + b + c)4 − 4(a + b + c)2(ab + bc + ca) + 2(ab + bc + ca)2 《か》
…が成り立つと予想され、多少の調整を加えれば、3次方程式 x3 + hx2 + px + q = 0 の3解 a, b, c の4乗和も h, p, q の式で表されるはず。ただし h = −(a + b + c), p = ab + bc + ca, q = −(abc) である[解と係数の関係]。
強引な直接計算によると、右辺に 4a2bc + 4ab2c + 4abc2 = 4(abc)(a + b + c) = 4(−h)(−q) = 4qh を付け足せば、《か》は真の等式になる。
3次方程式の解の4乗和 x3 + hx2 + px + q = 0 の3解が x = a, b, c なら:
a4 + b4 + c4 = h4 − 4ph2 + 4qh + 2p2
だけど「計算するとそうなります」では、あまりに天下り的で、身もふたもない。 (a + b + c)4 から a4 + b4 + c4 以外の項をどうやって除去するのか、考え方の原理、具体的手法を検討したい。
次の展開の右辺の係数について。
(a + b + c)4 = (a + b + c)(a + b + c)(a + b + c)(a + b + c)
= a4 + b4 + c4 《き》
+ 4(a3b + ab3 + b3c + bc3 + c3a + ca3) 《く》
+ 6(a2b2 + b2c2 + c2a2) 《け》
+ 12(a2bc + ab2c + abc2) 《こ》
《き》は四つの丸かっこ (a + b + c) の全てで同じ特定の文字(例えば a)を選んだ場合であり、特定の文字ごとに 1 項しか生じない。《く》は、三つの丸かっこで同じ文字を選び、残りの一つの丸かっこで別の文字を選んだ場合(例: 三つのかっこで a を選び、もう一つのかっこで b を選ぶ)。「別の文字を選ぶかっこ」の選択肢は四つあるので、4 項ずつ生じる。
《け》は、四つの丸かっこのうち二つで同じ特定の文字を選び、残りの二つで別の特定の文字を選んだ場合。 a, b, c から2文字を選ぶ方法は 3 種類なので、選び方そのものは 3 種類しかない。それぞれの選び方について、「四つの丸かっこのうち、どの二つから特定の文字を得るか」という選択肢は 6 種類ある。 3 パターンの選択が、6 回ずつ生じる。
《こ》は《け》と似ているが、二つの丸かっこで同じ特定の文字を選び、残りの二つで異なる文字を 1 回ずつ選んだ場合。例えば a2bc では a2 を選ぶ丸かっこの選択肢は 6 種類あるが、そのそれぞれについて、残りの(二つの)丸かっこのどっちで b を選ぶか?という二つの選択肢があるので、あるパターンごとに 12 項が生じる。
《き》の係数 1、《く》の係数 4、《け》の係数 6 は、それぞれ2項展開 (a + b)4 で a4 に付く係数、 a3b に付く係数、 a2b2 に付く係数と同じ。これは偶然ではない――月・火・水・木曜の連続4日の食事として毎日 1 回「A定食」と「B定食」を選ぶ場合、「A定食」を 3 回食べて「B定食」を 1 回食べるという曜日配分の選択肢は 4 種類あり、「A定食」を 2 回食べて「B定食」を 2 回食べるという曜日配分の選択肢は 6 種類あるが、これらの選択肢は「C定食」という別のメニューがあるにしても、ないにしても、増えも減りもしない。他方において、《こ》の係数 12 は、2項展開では存在しなかった―― (a + b)4 には a, b しかないので「3種類の文字の組み合わせ」は生じ得ないが、(a + b + c)4 には「C定食」があるので、「A定食」を 2 回、「B定食」「C定食」を 1 回ずつ…等々の新たなオプション(特定のどれかを 2 回、それ以外を 1 回ずつ)が生じる。
もしも係数を使わなければ(例えば 4a3b を a3b + a3b + a3b + a3b と表記したなら)、《き》~《こ》はトータルで 3 + 4 × 6 + 6 × 3 + 12 × 3 = 3 + 24 + 18 + 36 = 81 = 34 項ある。「3項式の4乗」なので、つじつまが合っている。
さて、繰り返し登場する E1 = a + b + c, E2 = ab + bc + ca, E3 = abc のような式は、基本対称多項式(略して基本対称式)と呼ばれる。符号の違いを別にすれば、係数 h, p, q などは、基本対称式と同等。従って、解の○乗和を係数で表す問題は、「解の○乗和を基本対称式で表す問題」と同等。
まず、《こ》は、基本対称式の組み合わせとして簡単に表現可能:
a2bc + ab2c + abc2 = (a + b + c)(abc) ☆
∴ 《こ》 = 12(a + b + c)(abc) = 12(−h)(−q) = 12hq 《ご》
次に、平方和のテクニックを応用しつつ ☆ の関係を再利用して:
(ab + bc + ca)2 = (ab)2 + (bc)2 + (ca)2 + 2(ab2c + bc2a + ca2b)
= a2b2 + b2c2 + c2a2 + 2(a + b + c)(abc)
従って a2b2 + b2c2 + c2a2 = (ab + bc + ca)2 − 2(a + b + c)(abc)
∴ 《け》 = 6[(ab + bc + ca)2 − 2(a + b + c)(abc)]
= 6[p2 − 2(−h)(−q)] = 6(p2 − 2hq) 《げ》
最後に、《く》の 4(a3b + ab3 + b3c + bc3 + c3a + ca3) を、どうやって基本対称式で書けばいいのか? 持ち駒は h, p, q の三つしかないので、その組み合わせといってもオプションは高が知れてるようだが、h, p, q を直接使おうとすると、見通しが悪い。平方和 a2 + b2 + c2 も基本対称式で表現可能なので、平方和を「部品」としても構わないわけである――それを念頭に、多少の試行錯誤を行うと、次の式が《く》とほぼ同じ:
4(a2 + b2 + c2)(ab + bc + ca)
= 4(a3b + ab3 + b3c + bc3 + c3a + ca3) + 4(a2bc + ab2c + abc2)
また ☆ を再利用して:
= 4(a3b + ab3 + b3c + bc3 + c3a + ca3) + 4(a + b + c)(abc)
要するに 4(a2 + b2 + c2)(ab + bc + ca) = 《く》 + 4(a + b + c)(abc) となる。
∴ 《く》 = 4(a2 + b2 + c2)(ab + bc + ca) − 4(a + b + c)(abc)
= 4[(a + b + c)2 − 2(ab + bc + ca)](ab + bc + ca) − 4(a + b + c)(abc)
= 4[(−h)2 − 2p](p) − 4(−h)(−q) = 4(h2 − 2p)p − 4hq
= 4h2p − 8p2 − 4hq 《ぐ》
以上を総合すると:
a4 + b4 + c4 = (a + b + c)4 − 《く》 − 《け》 − 《こ》
= h4 − 《ぐ》 − 《げ》 − 《ご》
= h4 − (4h2p − 8p2 − 4hq) − 6(p2 − 2hq) − (12hq)
= h4 − 4h2p + 2p2 + 4hq ☆☆
3次方程式の3解の4乗和の式を、理路整然と構成できた! あまりエレガントじゃないかもしれないが、実直な導出である。
例題 cos4 20° + cos4 40° + cos4 60° + cos4 80° = 19/16 を証明せよ。
この問題の解法は、いろいろある。以下では Morrie 風の観点からこれを「3次方程式の解の4乗和」に帰着させる。――ここまでは多項式の足し算・引き算・掛け算の単純な話だったのに、突然、三角関数と複素数が出てくること自体に違和感があるかもしれないけど、「こんな使い方もできますよ」という応用例。
解法 cos 60° = 1/2 は分かり切っている。さて 1 の原始立方根…
ω = −1/2 + √3/2⋅i
…は偏角が 120° なので、ω の三つの立方根(1 の9乗根の一種)は、偏角が 40° または 40° ± 120°。従って z3 = ω を満たす3種類の複素数 z の実部 は cos 40° または cos 160° = −cos 20° または cos (−80°) = cos 80° に等しい。 x, y を実数として z = x + yi と書くと:
(x + yi)3 = ω
∴ (x + yi)3 の実部 = x3 − 3xy2 = ω の実部 = −1/2
|ω| = 1 なので、ω の立方根の絶対値も |x + yi| = 1 を満たし、|x + yi|2 = x2 + y2 = 1。ゆえに y2 = 1 − x2。これを上の式に代入すると:
x3 − 3x(1 − x2) = −1/2 すなわち 4x3 − 3x + 1/2 = 0
両辺を 4 で割れば x3 − 3/4x + 1/8 = 0
この3次方程式の3解の4乗和は、☆☆ から:
(−cos 20°)4 + (cos 40°)4 + (cos 80°)4
= cos4 20° + cos4 40° + cos4 80°
= 04 − 4⋅02⋅(−3/4) + 2(−3/4)2 + 4⋅0⋅(1/8) = 2(9/16) = 9/8
これに cos4 60° = (1/2)4 = 1/16 を足して…
(cos4 20° + cos4 40° + cos4 80°) + cos4 60° = 9/8 + 1/16 = 19/16
…を得る。∎
会心の一撃!
「2次項がない3次方程式」の場合、解の平方和・立方和・4乗和などの公式で、ほとんどの項がゼロになって消滅――そのため計算もシンプル。3次方程式を解くときは、2次の係数がゼロになるように変数を変換するので、このパターンは珍しくない(上記の3次方程式では、もともと2次項がなかった)。実は「2次項のない3次式」の根の n 乗和の公式については、もっと直接的に導くこともできる。
今回とりあえず得た式は「2次方程式・3次方程式の解の4乗和」に関するもの。実用性はさておき、やはり「4次方程式以上にも適用できる一般形」を導かないと、好奇心が満たされない。その研究のためには (a + b + c + d)4 に取り組まねばなるまい。
4項式の展開には「D定食」があるので、「4日間、毎日違うメニューを選ぶ」という選択肢が追加される。 (a + b)4 と (a + b + c)4 には、なかったオプションだ。その違いに気を付ければ、たぶん (a + b + c)4 と同様にできるだろう。
2024-04-09 ジラルの公式(その4) 解の4乗和
#遊びの数論 #4次方程式 #Morrie の法則
前回、2次・3次方程式限定で、係数と解の4乗和の関係を考えた。この限定を外し、4次方程式(以上)でも使える一般公式を作る。
ある一つの2次方程式 x2 + hx + p = 0 を考え、その2解を a, b とする。同様に3次方程式 x3 + hx2 + px + q = 0 の3解を a, b, c とし、4次方程式 x4 + hx3 + px2 + qx + r = 0 の4解を a, b, c, d とする。
このとき、2次方程式、3次方程式、4次方程式において、解の和 E1 は、それぞれ a + b, a + b + c, a + b + c + d である。解の二つずつの積の和 E2 は、それぞれ:
ab, ab + bc + ca, ab + ac + ad + bc + bd + cd
2次方程式の場合、解が二つしかないので、解の三つの積は 0 個しか存在しない。従って、解の三つずつの積の和 E3 はゼロ。3次方程式、4次方程式の場合、 E3 はそれぞれ:
abc, abc + bcd + cda + dab
2次方程式、3次方程式の場合、解の四つずつの積の和 E4 はゼロだが、4次式の場合 E4 = abcd。
いずれの場合でも h = −E1, p = +E2, q = −E3, r = +E4 が成り立つ。これが「解と係数の関係」――この関係を利用して、例えば「解の平方和」や「解の立方和」といったものを表現できる。
2次~4次方程式のどれでも、解の和 a + b + … は −h に等しく、解の平方和 a2 + b2 + … は h2 − 2p に等しく、解の立方和 a3 + b3 + … は −h3 + 3hp − 3q に等しい(2次方程式には q がないので、その場合 q = 0 とする)。ここでは扱わないが、このような式は、5次方程式以降にも通用する。
〔例1〕 x = 2, 3, 5 のとき (x − 2)(x − 3)(x − 5) はゼロなので、3次方程式…
(x − 2)(x − 3)(x − 5) = (x2 − 5x + 6)(x − 5) = x3 − 5x2 + 6x − 5x2 + 25x − 30
= x3 − 10x2 + 31x − 30 = 0
…の3解は x = 2, 3, 5。解の和 2 + 3 + 5 = 10 は −(−10) に等しい。解の平方和 22 + 32 + 52 = 4 + 9 + 25 = 38 は、方程式の係数を使って次のように表される:
(−10)2 − 2 × 31 = 100 − 62 = 38
解の立方和 23 + 33 + 53 = 8 + 27 + 125 = 160 は、次のように表される:
−(−10)3 + 3 × (−10) × 31 − 3 × (−30) = 1000 − 930 + 90 = 160
〔例2〕 4次方程式 (x − 1)(x − 2)(x − 3)(x − 4) = x4 − 10x3 + 35x2 − 50x + 24 = 0 の4解は x = 1, 2, 3, 4。解の和 1 + 2 + 3 + 4 = 10 は −(−10) に等しい。解の平方和 12 + 22 + 32 + 42 = 1 + 4 + 9 + 16 = 30 は、方程式の係数を使って次のように表される:
(−10)2 − 2 × 35 = 100 − 70 = 30
解の立方和 13 + 23 + 33 + 43 = 1 + 8 + 27 + 64 = 100 は、次のように表される:
−(−10)3 + 3 × (−10) × 35 − 3 × (−50) = 1000 − 1050 + 150 = 100
前回、2次・3次方程式の解の4乗和が h4 − 4h2p + 2p2 + 4hq に等しいことを証明した。
〔例3〕 例1と同じ x3 − 10x2 + 31x − 30 = 0 の解の4乗和 24 + 34 + 54 = 16 + 81 + 625 = 722 は、次のように表される:
(−10)4 − 4 × (−10)2 × 31 + 2 × 312 + 4 × (−10) × (−30) = 10000 − 12400 + (2 × 961) + 1200
= −2400 + 1922 + 1200 = −1200 + 1922 = 722
この公式はまだ「完全版」ではなく、4次方程式以上には通用しない。
〔例4〕 例2と同じ x4 − 10x3 + 35x2 − 50x + 24 = 0 の解の4乗和 14 + 24 + 34 + 44 = 1 + 16 + 81 + 256 = 354 は、次の値とは一致しない:
(−10)4 − 4 × (−10)2 × 35 + 2 × 352 + 4 × (−10) × (−50) = 10000 − 14000 + (2 × 1225) + 2000
= −4000 + 2450 + 2000 = −2000 + 2450 = 450
例4の値は、正しい「解の4乗和」と比べ 450 − 354 = 96 つまり 4 × 24 過大なので、 h4 − 4h2p + 2p2 + 4hq に −4r を付ければ「完全版」の公式になると予想される。予想される式の h, p, q, r をそれぞれ a, b, c, d の多項式として表し、がむしゃらに計算して結果が a4 + b4 + c4 + d4 になるかどうか調べる――という方法でも、検証だけならできるだろう。もう少し構成的に、前回同様 h4 = (a + b + c + d)4 を出発点として、 h, p, q, r を使って a4 + b4 + c4 + d4 を表現する方法を導出したい。
【1】 出発点となる次の展開について。簡潔化のため、一部の項を省略して「…」で表記。
(a + b + c + d)4
= (a + b + c + d)(a + b + c + d)(a + b + c + d)(a + b + c + d)
= a4 + b4 + c4 + d4 《し》
+ 4(a3b + ab3 + a3c + ac3 + …) 《す》
+ 6(a2b2 + a2c2 + …) 《せ》
+ 12(a2bc + a2bd + a2cd + b2ac + …) 《そ》
+ 24(abcd) 《さ》
《し》~《そ》の係数 1, 4, 6, 12 は (a + b + c)4 の場合と全く同様(前回参照)。《さ》は前回なかった新しい種類の項: その係数 24 は「月・火・水・木曜の計4日に、毎日 1 回、A定食・B定食・C定食・D定食のどれかを食べるとして、全4種類を 1 回ずつ食べる方法は何パターンあるか?」に当たる。月曜にはどれを食べてもいいので選択肢が四つあり、月曜にどれを食べたとしても火曜にはそれ以外のどれかを食べる必要があるので選択肢が三つに減り…等々となるので、4 × 3 × 2 × 1 = 24 個のパターンがある。
《さ》は異なる 4 個の文字の積なので、この場合、abcd の 1 種類しかない。《し》は同じ文字の 4 乗なので、この場合 4 種類ある。では《す》《せ》《そ》の丸かっこ内には、それぞれ何項あるか。 ○3△ の形も ○△3 の形も、次の 6 種の選択肢があるので、《す》の丸かっこ内は計 12 項。
○△ = ab, ac, ad; bc, bd; cd
○2△2 の形も同様なので《せ》の丸かっこ内は計 6 項。最後に《そ》では a, b, c, d の中から平方される文字を選び(その選択肢は四つ)、その一つ一つの選択肢に対して、選択されずに残った 3 文字から異なる 2 文字(順序を区別しない)を使うのだから――言い換えれば残った 3 文字の中から「使わない 1 文字」を選択するのだから――、合計で 4 × 3 = 12 の選択肢が生じる。つまり《そ》の丸かっこ内は 12 項。結局、《し》《す》《せ》《そ》《さ》の合計項数は:
4 + 4 × 12 + 6 × 6 + 12 × 12 + 24 = 4 + 48 + 36 + 144 + 24 = 256
これは 44 に等しく、「4項式の4乗」の展開として、つじつまが合っている。
【2】 この展開を「成分」ごとに基本対称式で表すこと。《さ》が 24 × r であることは明白。《し》を間接的に表現するのが目的なので、《し》については何もする必要ない。問題は《す》《せ》《そ》。前回とほぼ同様に進めることを狙い、《そ》から考える。
前回の《こ》は、たった 3 項で、次のように簡単だった。
a2bc + ab2c + abc2 = (a + b + c)(abc) = (−h)(−q) = hq
それでは《そ》でも、
(a2bc + a2bd + a2cd + b2ac + …) =? (a + b + c + d)(abc + bcd + cda + dab) = hq
…が成り立つか?
《そ》の丸かっこ内、すなわち (a2bc + a2bd + a2cd + b2ac + …) は 12 項しかないのに、 (a + b + c + d)(abc + bcd + cda + dab) を展開すると 4 × 4 = 16 項が生じるので、この =? は何かがおかしい。右側の方が 4 項、多い。――少し考えると(いざとなれば全部展開して書いてみると)、容易に次の認識に至るだろう。
(a + b + c + d)(abc + bcd + cda + dab) からは abcd が 4 回生じる。
その 4 項が過剰。それ以外の 12 項は =? の右側と一致。
要するに、(a + b + c + d)(abc + bcd + cda + dab) から 4(abcd) を引いてやれば、《そ》の丸かっこ内と等しくなる。
《そ》の丸かっこ内 = a2bc + a2bd + a2cd + b2ac + b2ad + b2cd
+ c2ab + c2ad + c2bd + d2ab + d2ac + d2bc
= (a + b + c + d)(abc + bcd + cda + dab) − 4(abcd) = hq − 4r 《ぞ》
【3】 《せ》の丸かっこ内は (ab)2 + (ac)2 + (ad)2 + (bc)2 + (bd)2 + (cd)2 に等しく、「2乗の和」。基本対称式の考え方としては、「和の2乗」をベースに過剰な部分を後から引けばいい(コンセプト的には、前回の《け》→《げ》と同様)。6項もあるけど、変形自体は次のように、機械的にできる:
(X1 + X2 + X3 + X4 + X5 + X6)2 = (X1)2 + (X2)2 + (X3)2 + (X4)2 + (X5)2 + (X6)2
+ 2(X1X2 + X1X3 + X1X4 + X1X5 + X1X6
+ X2X3 + X2X4 + X2X5 + X2X6
+ X3X4 + X3X5 + X3X6
+ X4X5 + X4X6
+ X5X6)
従って:
(X1)2 + (X2)2 + (X3)2 + (X4)2 + (X5)2 + (X6)2 = (X1 + X2 + X3 + X4 + X5 + X6)2
− 2(X1X2 + X1X3 + X1X4 + X1X5 + X1X6
+ X2X3 + X2X4 + X2X5 + X2X6
+ X3X4 + X3X5 + X3X6 + X4X5 + X4X6 + X5X6)
具体的には次の通り。
《せ》の丸かっこ内 = (ab)2 + (ac)2 + (ad)2 + (bc)2 + (bd)2 + (cd)2
= (ab + ac + ad + bc + bd + cd)2
− 2[a2bc + a2bd + ab2c + ab2d + abcd
+ a2cd + abc2 + abcd + ac2d
+ abcd + abd2 + acd2 + b2cd + bc2d + bcd2]
引き算される [ ] 内の 15 項は、項の順序を別にすると、《そ》の丸かっこ内 + 3(abcd) に等しい。《ぞ》を再利用すると:
《せ》の丸かっこ内 = (ab + ac + ad + bc + bd + cd)2 − 2[《そ》の丸かっこ内 + 3(abcd)]
= p2 − 2[(hq − 4r) + 3(r)]
= p2 − 2hq + 2r 《ぜ》
【4】 最後に、《す》の 12 項については、平方和の p 倍(ここでは 4 × 6 = 24 項に当たる)から、「3乗と1乗の積」以外の 12 項を引けばいい(コンセプト的には《く》と同様)。
《す》の丸かっこ内 = (a2 + b2 + c2 + d2)(ab + ac + ad + bc + bd + cd)
− [a2bc + a2bd + a2cd + b2ac + …]
ここで a2 + b2 + c2 + d2 = h2 − 2p を確かめることは易しい。さらに、上で引き算される [ ] 内は《そ》の丸かっこ内に等しいので、また《ぞ》を再利用できる:
《す》の丸かっこ内 = (h2 − 2p)(p) − [hq − 4r]
= h2p − 2p2 − hq + 4r 《ず》
出発点となる式に、以上の結果を代入:
h4 = (a + b + c + d)4 = a4 + b4 + c4 + d4
+ 4(h2p − 2p2 − hq + 4r) 《す》→《ず》
+ 6(p2 − 2hq + 2r) 《せ》→《ぜ》
+ 12(hq − 4r) 《そ》→《ぞ》
+ 24(r)
= (4h2p − 8p2 − 4hq + 16r)
+ (6p2 − 12hq + 12r)
+ (12hq − 48r)
+ 24r
= 4h2p − 2p2 − 4hq + 4r
これを整理して、次の結論を得る。
a4 + b4 + c4 + d4 = h4 − 4ph2 + 4qh + 2p2 − 4r
上記の項の順序は、公式を h についての多項式のように見て、次数の降順に並べたもの。例えば 4ph2 と 4h2p は、もちろん同じ意味――その種の細かい違いに、本質的な意味はない。
この公式は、解の数が 4 でない場合にも成り立つ。3次方程式では、第4の解 d が(2次方程式では第3の解 c も)存在しない。その場合、それらの文字を無視して r = 0 と置けばいい(2次方程式では q も 0)。
係数 h, q は、基本対称式 E1, E3 と符号が反対になる。解の平方和・4乗和については、これらの文字は偶数乗(または偶数個の積)の形で現れ、符号の違いは表面化しない。 Girard 自身は、解の係数 h, p, q, r の代わりに基本対称式 A, B, C, D を使い、根の平方和・立方和・4乗和を次のように整理した。 A, C の符号が、対応する係数とは逆になることに注意。特に3乗和では、符号の違いを無視できない。
Girard の公式
根の2乗和 = A2 − 2B
根の3乗和 = A3 − 3AB + 3C
根の4乗和 = A4 − 4A2B + 4AC + 2B2 − 4D
2次式では C = 0、 3次式以下では D = 0 とする。
一般に、最高次の係数 1 を「0番」として奇数番目の係数は基本対称式と符号が逆になるが、その影響を受ける A, C は、この公式の2乗和・4乗和に関する限り、符号が両方とも逆のままでも、結果的には同じことになる。
〔例〕 基本対称式の正しい値が A = −3, C = 47 だとしよう。対応する係数はそれぞれ 3, −47 だが、正しい値 A = −3 の代わりに、係数に現れる符号が逆の 3 をそのまま A として使っても、 A4 や −4A2B の値は変わらない; 4AC も本来は 4⋅(−3)⋅47 だが、符号が逆のまま 4⋅3⋅(−47) としても、結果は同じ。――このような「のんきな符号処理」は、分かってやっているのなら、計算の便宜上、ある程度は許されるだろう(本来は「負の数」の平方になる部分で、「符号が逆の正の数」の平方を使う場合など)。しかし A = −3 なのに、それを A = 3 とすれば、3乗和では結果が変わってしまう。思わぬミスを防ぐため、「係数」を考えているのか「基本対称式の値」を考えているのかに応じて、常に正しい符号を使うのが無難だろう。
前回 (a + b + c)4 でワンクッション置いたのが奏功し (a + b + c + d)4 を結構うまく扱えた。これを使って、何か面白いことができないか…。一応「Morrie の法則」からの発展を予定している。散歩のようなもので、途中で面白そうなものが目に入れば、予定外の方向に進むかもしれない。以前、別の4乗和を考えたときは、「しげちー」の1円玉集めという予定外のネタが、どこからともなく発生した。
2024-04-16 ジラルの公式(その5) 平方和としての解の4乗和
#遊びの数論 #1 の原始根 #Morrie の法則 #3次方程式
モリーくん「20°, 40°, 80° のコサインの積って 8 分の 1 なんだよ」
ファインマン「20°, 40°, 80° のコサイン4乗の和は 8 分の 9 だよね」
解の4乗和の例題として cos4 20° + cos4 40° + cos4 60° + cos4 80° = 19/16 を得たが、ちょっと工夫すると、エキゾチックな4乗和の公式がなくても、平易にこの Morrie 風の和を求めることができる!
アイデア自体は普通に役立ちそう。調子に乗って、解の8乗和…
cos8 20° + cos8 40° + cos8 80° = 93/128
…を計算してみた。
例題で紹介した方法を要約すると、次の通り。 cos 60° = 1/2 については、とりあえず無視。
三つの角度 40°, 160°, −80° は、ちょうど「120° 間隔」(0°, ±120° にプラス 40° したもの)。これら三つの角度の cos が…
x3 − (3/4)x + 1/8 = 0 ♡
…の3解であることは、ω の立方根を考えると単純計算: ω の偏角は 120° なので、その立方根の偏角は 40° またはそれ ±120° となり、 (x + yi)3 = ω を整理して実部 x を考えるだけ。
♡ の3解が a = cos 160° = −cos 20°, b = cos 40°, c = cos (−80°) = cos 80° なので、本家 Morrie の法則は、♡ の定数項 = −abc という自明な関係に過ぎない(説明):
1/8 = −(−cos 20°)(cos 40°)(cos 80°)
ここで解の4乗和の一般形式を考えると、2次の係数がゼロなので、結局「1次の係数の平方の 2 倍」として a4 + b4 + c4 を表現できる:
(−cos 20°)4 + (cos 40°)4 + (cos 80°)4 = 2(−3/4)2 = 18/16 = 9/8
最初に無視した (cos 60°)4 = (1/2)4 = 1/16 を足して…
cos4 20° + cos4 40° + cos4 60° + cos4 80° = 19/16
…という結論に達する。
このアプローチは一見鮮やかだが、ツールに難点がある――解の4乗和の公式なんて、普通いちいち覚えてない。そこで、この4乗和を「簡単な平方和」として求めてみたい。
a, b, c を解とする3次方程式が ♡ であることは、分かっている。では −a, −b, −c を解とする3次方程式は何か。解と係数の関係を逆向きに使うと:
a + b + c = 0 ⇒ (−a) + (−b) + (−c) = −(a + b + c) = 0 ⇒ 2次の係数はゼロのまま
ab + bc + ca = (−a)(−b) + (−b)(−c) + (−c)(−a) ⇒ 1次の係数は同じ
(−a)(−b)(−c) = −(abc) ⇒ 定数項の符号が反対
分母を払って記述を簡潔化するため ♡ の両辺を 8 倍すると:
8x3 − 6x + 1 = 0 の解は a, b, c
8x3 − 6x − 1 = 0 の解は −a, −b, −c
従って、次の 6 次方程式の解は x = ±a, ±b, ±c:
(8x3 − 6x + 1)(8x3 − 6x − 1) = 0
左辺を展開:
(8x3 − 6x)2 − 12 = 64x6 − 96x4 + 36x2 − 1 = 0
y = x2 と置くと:
64y3 − 96y2 + 36y − 1 = 0
両辺を 64 で割って y3 − (3/2)y2 + (9/16)y − (1/64) = 0
解 x は ±a, ±b, ±c なのだから、この3次方程式の解は y = x2 = a2, b2, c2 となる。 A = a2, B = b2, C = c2 とすると、解と係数の関係から:
A + B + C = 3/2
AB + BC + CA = 9/16
4乗和 a4 + b4 + c4 = (a2)2 + (b2)2 + (c2)2 は、平方和 A2 + B2 + C2 に他ならない!
A2 + B2 + C2 = (A + B + C)2 − 2(AB + BC + CA) = 9/4 − 9/8 = 9/8
これが cos4 20° + cos4 40° + cos4 80° だから、そこに cos4 60° = 1/16 を足してやれば 19/16 という結論に達する。
今の例を少し一般化。2次項のない3次方程式 x3 + Px + Q = 0 の解を a, b, c として:
x3 + Px − Q = 0 の解は −a, −b, −c
∴ (x3 + Px + Q)(x3 + Px − Q) = 0 の解は x = ±a, ±b, ±c
左辺を展開すると:
x6 + 2Px4 + P2x2 − Q2 = 0
∴ y3 + 2Py2 + P2y − Q2 = 0 の解は y = a2, b2, c2
y についての方程式の、解と係数の関係から:
a2 + b2 + c2 = −2P ‥‥①
a2b2 + b2c2 + c2a2 = P2 ‥‥②
a2b2c2 = Q2 ‥‥③
よって a4 + b4 + c4 = (−2P)2 − 2(P2) = 4P2 − 2P2 = 2P2
〔注〕 これは A2 + B2 + C2 = (A + B + C)2 − 2(AB + BC + CA) という定型的計算に過ぎない。上記の例題参照。
「2次項のない3次方程式」の解の4乗和 x3 + Px + Q = 0 の解が a, b, c なら:
a4 + b4 + c4 = 2P2
もともとの3次方程式は、一般の3次方程式 x3 + Hx2 + Px + Q = 0 において H = 0 となったものだから、①は直接的に (−H)2 − 2P = −2P とでき、③も (abc)2 = (−Q)2 に他ならない。②は、直接的には、下記で H = 0 としたものに当たる:
(ab + bc + ca)2 = a2b2 + b2c2 + c2a2 + 2(ab2c + bc2a + ca2b) = a2b2 + b2c2 + c2a2 + 2(a + b + c)(abc)
∴ a2b2 + b2c2 + c2a2 = (ab + bc + ca)2 − 2(a + b + c)(abc) = P2 − 2(−H)(−Q)
一般の場合(H = 0 と限らない)には a2b2 + b2c2 + c2a2 = P2 − 2HQ となることが分かる。
〔例〕 (x − 1)(x − 2)(x + 5) = (x2 − 3x + 2)(x + 5)
= (x3 − 3x2 + 2x) + (5x2 − 15x + 10) = x3 + 2x2 − 13x + 10 = 0 の解は x = 1, 2, −5。 a = 1, b = 2, c = −5 とすると:
a2b2 + b2c2 + c2a2 = 1⋅4 + 4⋅25 + 25⋅1 = 129
しかし解を具体的に知らなくても、 x3 + 2x2 − 13x + 10 = 0 の係数 H = 2, P = −13, Q = 10 から:
a2b2 + b2c2 + c2a2 = P2 − 2HQ = (−13)2 − 2(−2)(−10) = 169 − 40 = 129
こうした個々の式に大した意味はないけど、「基本対称式 a + b + c, ab + bc + ca, abc を組み合わせて a2b2 + b2c2 + c2a2 等々の任意の対称多項式を作れる」ということが根源的で、応用範囲も広い。
最後に H = 0 の場合の a4 + b4 + c4 = 2P2 について。もし Girard の4乗和の公式…
a4 + b4 + c4 + d4
= h4 − 4ph2 + 4qh + 2p2 − 4r ♡♡
…が既にあるなら(3次方程式なので d = 0, r = 0 と見なす)、h = H = 0, p = P を入れれば一発だが、この公式の導出は面倒くさい。限定して「a + b + c, ab + bc + ca, abc を組み合わせて a4 + b4 + c4 を作れ」というのなら比較的簡単だが、それでもかなり面倒。「2次項のない3次方程式」――それはいろんな場面で登場する――の解を扱う場合、それだけのために(任意の多項式の根に対応可能な)一般公式を導くのは、必ずしも得策ではない。
他方において、例題についての今回のアプローチによると、次の3次方程式の解が A = a2 = (−cos 20°)2 = (cos 20°)2; B = b2 = (cos 40°)2; C = c2 = (cos 80°)2 だった。
y3 − (3/2)y2 + (9/16)y − (1/64) = 0
もし A, B, C に対し(それらは既にもともとの解の平方)、さらに ♡♡ を適用すると:
A4 + B4 + C4 = (−3/2)4 − 4(9/16)(−3/2)2 + 4(−1/64)(−3/2) + 2(9/16)2
= (81/16) − (36/16 × 9/4) + 6/64 + 2 × 81/256
= (324/64) − (324/64) + 12/128 + 81/128 = 93/128
Morrie 風の8乗和! cos8 20° + cos8 40° + cos8 80° = 93/128
cos8 60° = (1/2)8 = 1/256 も飾りとして足しておくと、 93/128 = 186/256 なので:
Morrie 風の8乗和(4項) cos8 20° + cos8 40° + cos8 60° + cos8 80° = 187/256
これが直接何かの役に立つというわけではないが、「手が届くとなると、やらずにはいられない」みたいな魔力がある。
まとめ 2次項のない3次方程式 f(x) = 0 について、解の 2n 乗和の問題を n 乗和の問題にすることが可能。「符号が反対の3解」を持つ3次方程式 g(x) = 0 を考えると、もともとの方程式と g の積 f(x) g(x) = 0 は「奇数乗の項のない6次方程式」。そこで y = x2 と置けばいい。
2次項のない3次方程式を「そのまま扱う」ことができれば、さらに便利で話が早い――このアイデアについては、後述する。
〔参考〕 「2次項のない3次方程式」は、上記の意味で必ず「奇数乗の項のない6次方程式」に変換可能だが、逆に任意の「奇数乗の項のない6次方程式」が与えられた場合、それが「2次項のない3次方程式」に分解されるとは限らない。しかし「2次項のある3次方程式」への分解も、上記と似た意味で役立つことがある。「ある種の6次式について」参照。