[遊びの数論] 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32
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世の中には 2 種類の人がいる。例えれば、円周率を「習う」者と、円周率を「学ぶ」者だ。
習う者は、円周率が約 3.14 であることを記憶し、それを「勉強」だと思う。学ぶ者は、円周率が約 3.14 であることを自力で突き止め、それを「遊び」だと思う。この差は大きい。そして円周率に限らない!
どんなに面白いゲームでも、最初から攻略本に頼って、そこに書いてあるコマンドを機械的に暗記したり、入力したりするだけの作業に終始するのなら、ひどく退屈だろう。ストレスに満ち、結果は表面的だろう。遊びの達人は、徹底的に楽しんだ上で「攻略本にも載ってないあの手この手のトリック」まで熟知している。全てはスリリングな冒険。試行錯誤を重ね、作戦を練り、攻略法を編み出し、ついに発掘する思わぬ宝物…。
「攻略本通りにやると面倒だけど、こういうショートカットが使えるんだよね」
「どこでそんな裏技、覚えたの?」
「遊んでて!」
――少なくとも心構えとしては、そんな「遊びの達人」になりたいものである。
2024-02-03 目で見る円周率 君は黄緑の長さをどう思うか?
A 地点から C 地点まで、赤コースを歩けば道のりは 4、青コースを歩けば道のりは 3。円周の黄緑コースは 3 より少し長いが、4 よりかなり短い。
黄緑コースの長さは、どのくらいだろうか?
A から B まで黄緑コースを歩くと、直線の青コース(距離 1)に比べ、目分量で1割くらい遠回りになる。 2割の遠回りになるか…は、目分量では微妙?
「1割遠回り」とした場合、A 地点から C 地点までの黄緑コースの長さは 3.3、「2割遠回り」なら 3.6。半径に対する半円周の長さの比(言い換えれば、直径に対する円周の長さの比)――円周率の推定である!
青コース(距離 3) vs. 赤コース(距離 4)でいえば、黄緑コースが青コースに近いことは、確実だろう――青はまあまあ黄緑に近いが、赤はどう見ても遠回り過ぎる。だから、黄緑コースは赤(距離 4)よりは青(距離 3)に近く 3.5 より短いはず。 ABの「2割遠回り」説は、冷静に考えて大げさ過ぎるようだ。「1割遠回り」説を採用したい。
ほとんどの人は、黄緑の長さが約 3.14 であることを(知識として)知っている。ってことは A から B への黄緑コースの長さは 3.14 ÷ 3 = 約1.047 で、直線コースの青に比べ、黄緑コースは遠回りといっても違いは 5% 未満、という計算に…?!
感覚と少しずれてる気が…。だって、黄緑コースで行くと 10% くらい遠回りになる感じがするじゃん(言い換えると、青の方が 10% くらい短い感じ)。脳の認識では、この違いが実際の約 2 倍に強調されるのだろうか。生物の進化の過程で生じた「認識・強調処理」なのだろうか?
捕食者から逃げるとき、急な方向転換をして逃げ切る手もあるだろうが、基本とにかく最短コースを選択できる個体の生存確率が上がるので、「わずかの遠回りでも強く認識する遺伝子が残る」という進化圧がかかる(てきとーな仮説w)。弱肉強食の厳しい自然界を生き残った子孫の遺伝子は、たった5%未満の違いでも鋭敏に「そっちは遠いから駄目!」と瞬時に判断…。「5%くらいの違いは誤差の範囲・気にしない」というのん気な遺伝子の持ち主は、先に食べられてしまい生き残れないッ!
かもね(笑)? 上の推論が不正確…っていうか、そもそも作図が不正確なだけという説もあるが…
まぁ、ともかくこの画像からは、円周率はざっと 3.2 か 3.3 くらい。約 3.3 という認識でも、真の値 3.14… との誤差は 5% 程度なので、目分量としては、意外と優秀な近似値だ。
「円周率なんて、がきでも知ってる世界の常識だろ…」「3.14 どころか10桁くらい言えるよ…」みたいな人は多いだろうが、それは大抵「どこかで読んだ」「誰かから聞いた」という受け売りの情報。自力で導出した人、約3.14 である根拠を心で分かり、自分の言葉で説明できる人は、あまりいない。正三角形を三つ、半円の中に敷き詰めてみると「4 よりだいぶ小さくて 3 よりちょっと大きい」ってとこまでは、感覚的にも論理的にも確信できる。
2024-02-05 円周率の近似値 正12角形の窓から
半径 1 の円の中に、正三角形(辺の長さ 1)のタイルを敷き詰めると、円周率(半径 1 の半円周の長さ)が 3 より少し大きいことは一目瞭然。「円を正六角形で近似すること」に当たる。
正六角形は単純明快だけど、それほど円に近い図形でもない…。近似精度を上げるため、中心角 60° ごとではなく、その半分の 30° ごとに考えてみたい。つまり、正12角形で円を近似する。
円周率が約 3.1 ~ 3.2 であることは、簡単な計算。それと「目分量」の合わせ技で、良好な推定値 3.14 ± 0.01 が得られる。「目分量」は侮れない!
正三角形の辺 AC(青)をたどる代わりに、中間地点で円周にタッチする「ヘ」の字状のコース ABC(赤)をたどれば、円周(黄緑)に、もっと密着できる。「ヘ」の字の長さの 3 倍、言い換えれば線分 AB の長さの 6 倍が、円周率の小さめの近似値。
点 B の座標が (√3/2, 1/2) であることは、簡単に確かめられる。点 A の座標は (1, 0) なので:
(線分 AB の長さ)2 = (1 − √3/2)2 + (0 − 1/2)2
= 1 − √3 + 3/4 + 1/4 = 2 − √3
= 2 − 1.7320508… = 0.2679491…
AB の長さは、上の数の正の平方根: 下記の計算†によると約 0.5176。半円周の近似値はその 6 倍なので、次のように「円周率 π は少なくとも 3.105」と結論される!
π > 0.5176 × 6 = 3.1056 > 3.105
† 0.52 = 0.25 なので、2 − √3 = 約 0.2679 の平方根 r は 0.5 より少し大。その少しの差を e として r = 0.5 + e とすると、近似的に 0.2679 = r2 = (0.5 + e)2 = 0.25 + 1.0e + e2。最後の項を無視して 0.2679 = 0.25 + 1.0e を解くと e = 0.2679 − 0.25 = 0.0179 なので、r の第1近似値 0.5 + e = 0.5179 を得る。もう一度 r = 0.5179 + e2 として (0.5179 + e2)2 = 約 0.2682 + 1.0358e2 + e22、最後の項を無視して 0.2679 = 0.2682 + 1.0358e2 を解くと、近似的に e2 = 0.2679 − 0.2682 = −0.0003。本当は 1.0358 で割る必要があるが、大勢に影響ないので省略。この e2 は1000分の1以下だから、無視した e22 は100万分の1以下。第2近似値 r = 0.5179 − 0.0003 = 0.5176 は精度十分: その2乗は 2 − √3 より小さいが、小数4桁全部正しい。
今の計算では、「半径 1 の円に内接する正12角形の、一辺の長さの 6 倍」を使って、半円周の長さを近似した。今度は、同じ円に外接する正12角形を使ってみる: 内接する正12角形の各頂点 A, B, C, … で円に接線を引き(水色)、接線と接線の交点を頂点 P, Q, R, … とすれば、正12角形。細かく作図するまでもなく、AP の長さ(一辺の長さの半分)を求め 12 倍すれば、半円周の大きめの近似値。――小さめの近似値・大きめの近似値で、真の値を挟み撃ちにする作戦。
直線 QP は、円周上の点 B における円の接線。傾き 30° の半径 OB と直交するのだから QP の傾きは −60° つまり −√3 だ〔※注1〕。直線 QP の式を
y = −(√3)x + a ‥‥①
として定数 a を決定したい(横座標を x、縦座標を y とする)。この直線は点 B (√3/2, 1/2) を通るので x = √3/2, y = 1/2 は①を満たす。それらの値を①に代入すると:
1/2 = −(√3)⋅√3/2 + a
つまり 1/2 = −3/2 + a
だから a = 2 となり、①の正体は:
y = −(√3)x + 2 ‥‥②
この直線 QP が AP と交わる場所――つまり x が 1 のときの②の縦座標――が P なんで〔※注2〕、②に x = 1 を入れると AP の長さが求まる:
(AP の長さ) = −(√3)⋅1 + 2 = 2 − (√3)
その 12 倍が π の(大きめの)近似値。次のように「円周率は 3.216 未満」と結論される:
π < 12(2 − √3) = 24 − 12√3 = 3.2153903… < 3.216
以上によって、とりあえず「円周率は 3.105 と 3.216 の間にある」と言い切れる。
小さめの近似値・大きめの近似値を平均すれば、その中間にある真の値に近づくだろう。足して 2 で割ると 3.1605(誤差の範囲は ± 0.0555)。
図を観察すると、内接12角形(赤)の方が、外接12角形(水色)より真の円周(黄緑)に近い。「外接による近似値」(誤差が大)より「内接による近似値」(誤差が小)を重視し、そっちに寄せた方が、より良い近似値になるはず…。「内接による近似値」をどのくらい重視すればいいか、厳密な評価は難しそうだけど、目分量によると、弧 OA(黄緑)と折れ線 APB(水色)のずれは、弧 OA(黄緑)と弦 AB(赤)のずれの 2 倍くらいに思える。
つまり「内接による近似値」の方が「外接による近似値」より 2 倍くらい優秀そう(真の値に近そう)なので、前者に重み 2、後者に重み 1 を付けて平均してみる:
(3.105 × 2 + 3.216 × 1)/(2 + 1) = 3.142
これは、目分量による参考値(重み付き平均)。
正12角形を使った円周率の近似値 およそ3.1~3.2の間にあることは確定的。目分量込みの推定(参考値)は 3.142。
この推定は、真の値 3.14159… にかなり迫っている。簡易な作図・計算にしては、満足すべき結果だろう!
参考値が良好である背景として、「外接による近似値は誤差が 2 倍」という目分量がラッキーヒット。この作図において、内接 vs. 外接の誤差の比は、実際には 1:2.06 くらい。大ざっぱな「2倍」という判断が、結果的には有効数字 2 桁の精密な重み付けとなった。単なる「ラッキー」なので正式に小数第2位を確定させたとは言えないが、外接側の誤差が内接側の誤差の 1.5 ~ 3 倍の範囲にあることは、目分量とはいえ妥当な見積もりだろう。その見積もりに対応する円周率の推定値は 3.133… ~ 3.149… となり、小数第1位は事実上確定していて、第2位も ±1 程度の推定が成り立つ。
〔※注1〕 60° の傾きで上昇あるいは下降すると、横に 1/2 進むごとに、縦は (√3)/2 変動する。従って、水平距離 1 ごとに高度が √3 変わる――これが 60° の直線の傾き。
〔※注2〕 直線 AP は垂直(縦の座標軸と平行)。なぜなら点 A における円周の接線なので、傾き 0 の半径 OA と直交。実は三角関数の意味から AP の長さ = tan 15° だが、その解釈はここでは必要ない。
60° の傾きは √3 ≈ 1.73 そして 15° の傾きは 2 − √3 ≈ 0.27
(傾きとは水平に 1 進むごとの垂直の変動。 45° を超える急上昇なら 1 よりでかく、さもなければ 1 以下。)
半径 1 の円に
内接する正12角形の一辺の長さ √2 − √ = 0.517638…
外接する正12角形の一辺の長さ 2(2 − √3) = 0.535898… = 2 tan 15°
参考として、もし正12角形の代わりに正24角形を使って、同じ議論を繰り返すと(中心角 15° での分割):
3.1326 < π < 3.1597 参考値 3.1416
正48角形を使うと(中心角 7.5° での分割):
3.13935 < π < 3.14609 参考値 3.14159
3.139… の可能性を厳密に否定し、小数第2位が「4」と断定するためには、さらに辺の数を増やす必要があるようだ。他方、重み付き平均による参考値は、既に小数第5位まで正しい!
15° や 7.5° などの cos, sin(言い換えれば 1 の原始24乗根・48乗根など)は、日常生活とあまり関係ないようだが、「円周率の近似値」という意外と身近な話題にも利用できる。
(付録) 本文では 2 − √3 を tan 15° という認識で直接使ったわけではないけど、せっかくなので、三角関数の立場から tan 15° = 0.2679491… を求めてみたい。
(ア) sin 15° を cos 15° で割る方法。 sin 15° = (√6 − √2)/4 と cos 15° = (√6 + √2)/4 を知っているか、あるいはそれらの値を加法定理(減法定理)から―― 45° と 30° の cos, sin を使って――導出したとしよう。
傾きは「横の変化 1 当たりの縦の変化」なので sin を cos で割る。 15° の cos, sin は似た形をしてるんで、混同に注意(急いで分数を書くと、無意識にプラスを上にしたくなるし)。小さい角の cos はでかく(1 に近い)、sin は小さい(0 に近い): 真ん中の符号がプラスのやつが cos で、割り算ではそっちが分母。そして…
sin 15°/cos 15° の代わりに (4 sin 15°)/(4 cos 15°) = (√6 − √2)/(√6 + √2)
…を計算しても同じこと。最後の分数の分母・分子に √6 − √2 を掛けると、分母は 6 − 2 = 4 になり、分子は
(√6 − √2)2 = 6 − 2√12 + 2 = 8 − 4√3
になり、約分して 2 − √3 を得る。 √3 = 1.73… なので、この引き算は 0.27 くらい。 15° の傾きなんで、こんなもんだろう。
(イ) tan の加法定理…
tan (α ± β) = (tan α ± tan β)/(1 ∓ tan α tan β)
…を使ってみる。
α = 60°, β = 45° のとき tan α = √3, tan β = 1 なので:
tan 15° = tan (60° − 45°)
= ((√3) − 1)/(1 + (√3)⋅1)
= ((√3) − 1)/((√3) + 1)
分母を整数にするため、分子・分母を (√3) − 1 倍すると…
分子は ((√3) − 1)2 = 3 − 2(√3) + 1 = 4 − 2√3
分母は ((√3) + 1)((√3) − 1) = 3 − 1 = 2
…になるので、約分して:
tan 15° = 2 − √3
(イの別解) tan 45° = 1, tan 30° = 1/(√3) を当てはめると(後者は tan 60° の逆数―― 60° の傾きのグラフで x と y の意味を入れ替えたものなので):
tan (45° − 30°) = (1 − 1/(√3))/(1 + 1⋅1/(√3)) = ((√3) − 1)/((√3) + 1)
二つ目の等号では、「分数の中の分数」を解消するため、分母・分子の全部の項を √3 倍した。以下同じ。
(ウ) tan の半角公式 tan (θ/2) = (1 − cos θ)/sin θ を使う方が楽かも。
tan 15° = (1 − cos 30°)/sin 30° = (1 − (√3)/2)/(1/2) = 2 − √3
最後の等号では、分母・分子を 2 倍した。
(エ) 最速は tan (θ/2) = csc θ − cot θ を使うことだろう。
tan 15° = csc 30° − cot 30° = 2 − √3
tan の半角はバージョンが多いが、この場合、なるべく分母が簡単になるやつを選ぶと吉。 30° の sin, tan は、それぞれ 1/2, 1/(√3) と書けるので、逆数の csc, cot なら、最初から分数がなく最強。 1/(√3) のようなものは、一般的には分母を有理化して (√3)/3 と書くのが良いとされるけど、この場合は逆数が欲しいので、むしろ分子が 1 の方が良い。
(エ)の公式は(ウ)の公式と実質同じ:
tan θ/2 = 1/sin θ − cos θ/sin θ = csc θ − cot θ
幾何学的意味は次の通り: (0, 1) で単位円に接する水平線を使い csc θ, cot θ を定義したとき、一辺 csc θ のひし形の辺の長さから cot θ の長さを除外した部分が、底辺 1 の直角三角形の高さになっている。その高さを対辺とする角度が θ/2 に等しい。
普段あまり使い道のない csc (cosec), cot だけど、地味に便利…。
2024-02-01 1 の3乗根(立方根)と6乗根
1 の立方根ってのは x3 = 1 を満たす x のこと。 x = 1 はその解の一つだが、複素数の範囲では、他にも二つ解がある。
x = 1 以外の二つの解は、
−1 + √−3/2 = −1/2 + √3/2⋅i = −0.5 + 0.8660254… i
とその
−1 − √−3/2 = −1/2 − √3/2⋅i = −0.5 − 0.8660254… i
この二つの変な数は、どこから出て来た何者なのか? たまには基本的なことを…
1 の立方根(実数以外)のうちの一つ目は、「複素平面」(横が実部、縦が虚部の座標)に「原点を中心とする半径 1 の円」を描いたとして、円周上の方位 120° の点に当たる。図の点 P。もう一つは、方位 −120° に当たる。点 Q。
どういうこと?
−1 倍が 180° の回転であることには、異論ないだろう――数直線上で 1 のある方向を 0° とすると、−1 は 180° 反対側にある(原点を中心として)。その −1 をもう1回 180° 回転させれば(つまり −1 倍すれば)もともとの 3 に戻る。
(−1) × (−1) = +1
実数の世界には「2乗すると −1 になる数」はない。複素数の世界には、それが付け加わっている: その数は i で表され i2 = i × i = −1 という性質を持つ。
i 倍を2回繰り返せば i2 倍つまり −1 倍になるのだから、上記の発想によれば、i 倍は 90° の回転、と考えるのが合理的だろう。事実 i に当たる点は、複素平面上で 90° の向きにあるし、「90° 回転を4回繰り返せば、元に戻る(1 倍)」という事実は、次の計算とつじつまが合う。
i4 = (i2)2 = (−1)2 = 1
同様に x3 = 1 の(x = 1 以外の)解を x = ω(オメガ)とすると、 ω3 = 1 なのだから、ω 倍は 120° の回転に当たる。 ω 倍(つまり 120° 回転)を3回繰り返すと 360° 回転になって、元に戻るからね!
具体的な値を考えてみると…。図の点 P と点 C は、それぞれ ω と −1 に当たる。どちらも半径 1 の円周上にあるので、PC を底辺とする △POC(黄色)は、二等辺三角形。そればかりか ∠POC = 60° なので △POC は正三角形(一辺の長さ 1)。図の PA はその正三角形を二等分するので、OA の長さは 1/2 で A の横座標は −1/2。これが ω の横座標(実部)に当たる。一方、ピンクの直角三角形 OBP を考えると、BP = OA の長さは 1/2 で、斜辺 OP の長さは 1 なので(円の半径)、三平方の定理から:
(OB の長さ)2 + (1/2)2 = 12 つまり
(OB の長さ)2 = 1 − (1/2)2 = 3/4
従って、OB の長さ = √3/2 となり、これが点 P の縦座標(虚部)に当たる。
1 の原始立方根(主値†) ω = −1/2 + √3/2⋅i
この数を実際に 3 乗して、ホントに 1 になるか確かめてみたい。 ω2 を求めて、その値をもう1回 ω 倍すればいいだろう。
ω2 = (−1/2)2 + 2(−1/2)(√3/2⋅i) + (√3/2⋅i)2
= 1/4 − √3/2⋅i + 3/4⋅i2
= 1/4 − √3/2⋅i + 3/4⋅(−1)
= 1/4 − √3/2⋅i − 3/4 = −2/4 − √3/2⋅i = −1/2 − √3/2⋅i
ω2 は ω と実部が同じで、虚部の符号だけが逆になることが分かる(共役)。幾何学的には P をもう1回 120° 回転させた点 Q を見ている: P と Q は横座標が同じで縦座標が反対側なのだから、共役になって当然だろう。
和・差の積は2乗の差
(A + B)(A − B)
= A2 − AB + BA − B2
= A2 − B2
前提: 交換法則 AB = BA
でもって、もう1回 ω を掛けると…
ω3 = ω × ω2 = (−1/2 + √3/2⋅i)(−1/2 − √3/2⋅i)
= (−1/2)2 − (√3/2⋅i)2 = 1/4 − (−3/4) = 1
ここで「和・差の積は2乗の差」という関係を使った。
共役の ω2 も x3 = 1 の解で、もう一つの「1 の原始立方根」。実際…
(ω2)3 = (ω × ω)3
= (ω × ω) × (ω × ω) × (ω × ω) = (ω × ω × ω) × (ω × ω × ω)
= ω3 × ω3 = 1 × 1 = 1
1 自身も、もちろん x3 = 1 の解なので 1 の立方根には違いないが、「3乗して初めて 1 になる」という性質を持たないので――当たり前だが 1 は 1 乗しただけで(要するに最初から) 1 に等しい――、1 の原始立方根ではない。
† i 倍は 90° の回転だが、−90° の回転つまり −i 倍を4回繰り返しても −360° の回転になる…。逆回りだけど、結果は 360° 回転と同じで、それも次のように、つじつまが合う。
(−i)2 = (−1 × i)2 = (−1)2(i)2 = (+1)(−1) = −1
だから (−i)4 = [(−i)2]2 = (−1)2 = 1
同様に −120° の回転 ω2 をあらためて ω としても、つじつまは合う(その場合 +120° = −240° の回転が ω となる)。
i と −i は、本質的には「どっちがどっちか分からない」。 ω と ω2 も同様。でも、それでは具体性に欠け実用上不便。ここでは素直に、虚部がプラスの側を ω としておく。
「解が複数あるけど、特定の一つの値を代表として選ぶ」という場合、それを主値という。普通、実部が一番大きい値(実部が同じなら虚部が正の側)を主値とする。
作図に頼らず式変形だけで、x3 = 1 つまり x3 − 1 = 0 を解いてみたい。 x = 1 が一つの解であることは明白なので、左辺の多項式は x − 1 で割り切れる。割り算を実行して、左辺を分解すると:
(x − 1)(x2 + x + 1) = 0
今、x = 1 以外(つまり x − 1 ≠ 0)という条件で、上の左辺の2因子の積が 0 に等しくなるようにしたいのだから、要するに†次の性質を持つ x を求めればいい:
x2 + x + 1 = 0
これは単なる2次方程式なので、普通に解けば前記の結果と一致する。
† A ≠ 0 という前提で AB = 0 を成立させたいなら、B = 0 は明らかに十分条件。それは必要条件だろうか…。言い換えると A ≠ 0 かつ B ≠ 0 でも AB = 0 が成立、という可能性はあるだろうか。常識で考えると「そんな可能性あるわけない!」と思える。さいわい複素数の世界では、その常識が通用する。
三角関数というものを使うと、ω = −1/2 + √3/2⋅i = −0.5 + 0.8660254… i を簡潔に表記できる:
ω = cos 120° + i sin 120° 略して ω = cis 120°
つまり cos 120° は ω の実部 −1/2 に等しく sin 120° は ω の実部 √3/2 に等しい…。cis は、ドイツ語風に「ツィス」と読むと音楽用語では「ドのシャープ」のことだが、それとは関係なく単に cos i sin を略したもの。ラテン語風にキスと読んだ方が印象に残りやすいかも…。
単位円(原点を中心とする半径 1 の円)は、三角関数の
具体的にどんな値だろうか?
点 R に当たる複素数を σ(シグマ)とすると ω = −1/2 + √3/2⋅i との関係から、次のようになることは一目瞭然だろう…。
σ = 1/2 + √3/2⋅i
ω の実部の符号を変えただけ。で R の横座標(数直線上の D)が cos 60° = 1/2。 sin 60° = sin 120° = √3/2 は ω の虚部と同じ。虚部ってのは i の係数の実数: 虚部の単位 i そのものは、虚部の一部ではない。
〔参考〕 0.8660254… というのは、一見、無味乾燥な数値に思える。多くの方は √3 = 1.7320508…(人並みにおごれや)という語呂合わせをご存じだろう。 1700 の半分は 850 で 32 の半分は 16 なので、1732(人並みに)の半分は 850 + 16 = 866。でもって、0508(おごれや)の半分は 0254。あまり関係ないけど 866(はろろ)は、メルセンヌ数 M149 = 2149 − 1 の最小素因数の最初の3桁でもある!
実は 30° の cos, sin は 60° の cos, sin が入れ替わっただけなので、ω の値一つで、普通に使う三角関数のデータはほとんど網羅される。三角関数を使って ω を理解するより、逆に ω を使って三角関数を理解した方が、見通しがいいかもしれない。
ちなみに 45° の cos, sin は…。三角関数の幾何学的意味から cos 45° = sin 45° なので、その共通の値を x とすると x2 + x2 = 1 つまり x2 = 1/2。従って x = 1/√2 = √2/2 となる。
点 R に当たる σ = 1/2 + √3/2⋅i は 1 の原始6乗根(の主値)―― 6乗して初めて 1 になる。 60° 回転を2度繰り返せば 120° 回転になって、それが 1 の立方根(3乗根)の ω なのだから、ω = σ2 言い換えれば σ = √ω ってことに。それだけだと「だから何?」って感じだけど…
作図によらず、代数的に ω の平方根を得る一つの方法は、σ = x + yi と置いて(x, y: 実数)、
ω = σ2 = (x2 − y2) + 2xyi
の実部・虚部を ω の実部・虚部と比較すること:
x2 − y2 = −1/2 ‥‥①
2xy = (√3)/2 ‥‥②
真面目にやるなら②から y = (√3)/(4x) を得て、それを①に代入し両辺を x2 倍:
x4 − 3/16 = −x2/2
z = x2 と置いて整理すると z2 + 1/2⋅z − 3/16 = 0、その解は z = 1/4 or −3/4 だが、z は実数 x の平方なので負ではなく、後者は題意に適さない。従って x = ±1/2, y = ±√3/2(複号同順)。これは ±σ = ±√ω に当たる。複号でマイナスを選んだ場合の値は ω2 に等しく(図で R の 180° 反対側にある Q に相当)、それは 1 の原始立方根なので、6乗根には違いないが、原始6乗根ではない(3乗しただけで 1 になる)。
近道: 単位円上の点なので x2 + y2 = 1 が成り立ち、それを①と辺々足し算すると、2x2 = 1/2 すなわち x2 = 1/4 を得て、直ちに上と同じ結論に。
1 の立方根 ω と ω2 は 1 の6乗根でもある――「6乗すると 1 になる」から。どっちも3乗すれば 1 になるんだから、そのまた2乗の6乗でも 1 ってのは、まぁ当然かと…
ω6 = (ω3)2 = 12
(ω2)6 = [(ω2)3]2 = 12
〔補足〕 ω の平方 ω2 が ω の平方根の一つでもある(−σ)…というのは、奇妙に感じられるかもしれない。 ω2 を平方すると ω4 = ω3ω = 1⋅ω = ω なので、事実そうなっている。奇妙に感じられる原因は ω4 = ω だろう。素朴に考えると、2乗・3乗・4乗…と指数を増加させれば、どんどんでかくなるように思える。絶対値が 1 よりでかい数ならそうなる: 32 = 9, 33 = 27, 34 = 81, … のように。もっとも絶対値が 1 より小さい数、例えば 1/2 なら、指数を増やすと 1/2 の 1/2、そのまた 1/2…のように、絶対値がどんどん小さくなる。では絶対値がちょうど 1 ならどうなるか。
11 = 1, 12 = 1, 13 = 1, 14 = 1, …
(−1)1 = −1, (−1)2 = 1, (−1)3 = −1, (−1)4 = 1, …
のように「循環」が起きる(最初の例では周期 1、次の例では周期 2)。 ω は周期 3 で循環するから、当然、4乗は1乗に等しい:
ω1 = ω, ω2 = ω2, ω3 = 1, ω4 = ω, …
1 の6乗根なら、ゴチャゴチャ言わず x6 = 1 を直接解きゃぁいいじゃん――ってのも、合理的にして豪快な発想だ。 x6 − 1 = 0 は自明な解 x = 1, −1 を持つので左辺は x − 1 と x + 1 で割り切れる。 x = ω, ω2 もこの6次方程式の解だから、x6 − 1 は、次の多項式でも割り切れる†。
(x − ω)(x − ω2) = x2 + x + 1
これらの割り算を敢行すると、実係数の範囲では、こう分解される:
x6 − 1 = (x + 1)(x − 1)(x2 + x + 1)(x2 − x + 1) ‥‥③
† ω と ω2 は x2 + x + 1 = 0 の解なのだから、この主張は明らかだろう。一般に、2次式 x2 + px + q が複素数の範囲で = (x − α)(x − β) と分解される場合、x = α なら当然 x − α = 0 なので (x − α)(x − β) = 0(x − β) = 0。これは x = α が x2 + px + q = 0 の解であることを意味する。 x = β についても同様。この2次方程式を (x − α)(x − β) = 0 と書いて、左辺を展開すれば:
x2 − (α + β)x + αβ = 0
これが x2 + px + q = 0 と同じ意味なのだから、1次の係数・定数項をそれぞれ比較すると:
p = −(α + β), q = αβ (☆)
具体例として、x2 + x + 1 = 0 の解 α = ω, β = ω2 について言えば、両者は実部が同じで虚部の符号が反対なので、足し合わせると実部が 2 倍になり、虚部が消滅: α + β = ω + ω2 = −1。掛け合わせると、もちろん αβ = ωω2 = ω3 = 1。(☆)に当てはめれば p = −(−1) = 1, q = 1 となって、出発点となった2次方程式 x2 + 1x + 1 = 0 が復元される。
③右辺の四つの因子の積が = 0 になるとしよう。そのとき x の値が、次のどれかの等式を満たすなら、もちろんその x は上記の4解のどれかに等しい(最初の三つの因子のどれかがゼロになるケース):
x + 1 = 0, x − 1 = 0, x2 + x + 1 = 0
もしこれら三つの因子がどれもゼロでないにも関わらず、③右辺の積がゼロになるとすれば――つまり上記の4解以外の「新しい」解があるとすれば――、必然的に残った最後の因子が = 0 になる。すなわち:
x2 − x + 1 = 0
これは単なる2次方程式なので普通に解くことができ、解は x = (1 ± √−3)/2。複号がプラスの場合が前記の σ で、マイナスの場合はその共役。図の点 R と点 S に当たる。前者は 60° 後者は −60° の回転に対応し、どちらも6回繰り返せば ±360° = 0° の方位になって、単位円上で実数 1 に到達。
x6 − 1 の因数分解には、エレガントなショートカットがある。 x6 = (x2)3 なので y = x2 と置くと与式は y3 − 1 だが、1 の立方根を求めたときの計算から、次の分解は既に分かってる:
y3 − 1 = (y − 1)(y2 + y + 1)
変数を x に戻すと:
x6 − 1 = (x2 − 1)(x4 + x2 + 1)
この右辺の第1因子は、「和・差の積は2乗の差」という性質から (x + 1)(x − 1) と分解される。実は第2因子についても、同様の分解が可能。一見したところ x4 + x2 + 1 は「2乗の差」の形には見えないが、
(x2 + 1)2 = x4 + 2x2 + 1
という関係を利用すると、次の妙手が成り立つ:
x4 + x2 + 1 = (x2 + 1)2 − x2 = (x2 + 1 + x)(x2 + 1 − x)
割り算なしに x6 − 1 の分解が完了!
ω の共役 ω* の偏角は −120° = 240° で ω* = ω2 だった(図の点 Q)。同様に σ の共役 σ* の偏角は −60° = 300° で、理屈からも作図からも σ* = σ5 となるはず(図の点 S)。確かめてみたい。 σ2 = ω ということと、ω2 = (−1 − √−3)/2 ということは、はっきりしている。従って:
σ5 = (σ2)2σ = ω2σ = (−1 − √−3)/2 × (1 + √−3)/2
= 1/4 × [−1 − √−3 − √−3 − (−3)] = (2 − 2√−3)/4 = (1 − √−3)/2
確かに σ = (1 + √−3)/2 の共役 σ* が得られた。この σ* は −ω に等しい。図の点 P と点 S が 180° 反対方向にあることに対応する。
1 の6乗根は六つある 原始6乗根は σ = (1 + √−3)/2(主値)とその共役 σ* = (1 − √−3)/2
1 の原始立方根 ω = (−1 + √−3)/2(主値)とその共役 ω* = (−1 − √−3)/2 も 1 の6乗根(原始6乗根ではない)
±1 も 1 の6乗根(原始6乗根ではない)
相互関係の例 σ4 = ω2 = ω*, σ5 = σ*, σ = −ω2, σ* = −ω
基本的なことばかりだが、これを土台に9乗根・12乗根などを考えてみたら面白いかも…?
八元数や十六元数のことを書くつもりだったのに、四元数の平方根に脱線して、そこからどんどん話がそれてしまった。成り行き任せの散策は楽しい半面、書きかけの話がそれていくと、「せっかく検討して面白いことを見つけたのに、きちんとメモせずそのまま」みたいな状態があちこちに発生してしまう。忘れないうちに書いておくと、Cayley–Dickson process には、文献にある2種の他、さらに少なくとも二つ(合計四つ)のバリエーションがある。けど、その四つ以外にも「擬似的な八元数」を生成するプロセスがあって、その「擬似的な八元数」ではノルムが合わないものの、七つの triads から成る掛け算がきちんとできる。ノルムが正しくないので「正しい八元数」とは言えないのだが、掛け算の整合性は取れている(交代代数にはならないが、回遊法則が成り立つ)――「正しさ」って何なんだろう?という哲学的疑問を感じる(十六元数ではどうせ崩壊するのに、ノルムにこだわる意味は何か)。十六元数の九九は、四次元立方体で視覚化できる他、いろいろなパターン性を秘めている。コンピューターを活用する実験数学や、エレガントな抽象代数も良いけど、具体的な対象に泥くさく踏み込んでいくのも面白い。
2024-02-04 1 の12乗根 ド♯・ファ・ソ・シ
+1 を方位 0° として −1 倍は 180° の回転――というのが (−1) × (−1) = +1 の、一番自然な解釈かも。粗っぽく「マイナスかけるマイナスはプラス」と言い切ってしまうと、
(−2i) × (−3i) = −6
のような事実に直面したとき「マイナスかけるマイナスはプラスじゃないじゃん。大人の言うことは信用できないぜッ!」ってことになるし。回転で考えると −i は −90° なので、上の事実についても説明がつく(−90° の方向転換を2回繰り返せば、向きは −180°、逆回りでちゃんと −1 の方向に)。
120° の回転が ω(1 の原始3乗根)の掛け算、60° の回転が「1 の原始6乗根」の掛け算…という流れ(前々回)から、30° の回転が「1 の原始12乗根」の掛け算…というのは予想可能だろう。12乗根について最初、作図と三角関数を使って幾何学的イメージをつかみ、その後で、三角関数などに頼らず、純粋に代数的に考えてみたい。
1 の原始12乗根の主値は、三角関数で書けば cos 30° + i sin 30° で、図の点 P に当たる。 sin 30° は TP の長さ。それは OC の長さに等しい: 一辺の長さ 1 の黄色い正三角形 OBP の、辺の長さ OB の半分なので 1/2。
一方 cos 30° は OT の長さだが、それは(辺の長さ 1 の)正三角形の高さ CP に等しく、おなじみ「はろろ」、つまり √3 = 1.7320508…(人並みにおごれや)の半分:
√3/2 = 0.8660254…
計算としては、直角三角形 OTP に三平方の定理を適用すると(OP の長さは単位円の半径なので 1):
(OT の長さ)2 + (1/2)2 = 12
これを解けば OT の長さは上記の通り。結局 30° の sin と cos は、それぞれ 60° の cos と sin と同じ。それもそのはずで、顔を 90° 右に傾け OB が数直線の正の向きだと思えば(正負の向きが通常と逆だが無視!)、sin 30° と呼ばれていた TP の長さが横座標 cos 60° になり、cos 30° と呼ばれていた OT の長さは縦座標 sin 60° に。
というわけで 1 の原始12乗根(の主値)を δ(デルタ)とすると:
δ = √3/2 + i/2 = [(√3) + i]/2
検証として、原理的には δ2, δ3, δ4, … を計算して δ12 で初めて = 1 になることを確かめればいいのだが、δ 倍は 30° の回転なので、12回繰り返して初めて 360° の倍数(つまり実数 1 のある 0° の方位)になることは明らかだろう――「倍数」と言っても、この場合 1 倍だが。念のため δ2 が 1 の原始6乗根
σ = (1 + √−3)/2
に等しいことを確かめておく。もしそうなら δ12 = (δ2)6 = σ6 となるが、σ6 = 1 なので、つじつまが合う。
δ2 = 1/4((√3) + i)2 = 1/4[3 + 2(√3)i + (−1)] = 1/4(2 + 2(√−3))
約分すると確かに = σ となる!
i の立方根
δ3 は 90° なので δ3 = i になるはず。逆に言うと i の立方根 3√i の一つは上記 δ なのだ。面白そうなので、確かめてみたい:
δ3 = 1/8((√3) + i)3 = 1/8[3(√3) + 3⋅3i + 3(√3)(−1) + (−i)] = 1/8(9i − i) = i
結論を頭で分かっていても、少し不思議な感じがする…。
i の立方根の残り二つは何か? 0 以外の全ての立方根について言えることだが、ある数 z の立方根 c の偏角に 120° を加減したもの――言い換えれば cω と cω2 ――も、同じ z の立方根。 c3 = z なら (cω)3 も = c3(ω3) = c3⋅1 = c3 = z となり、(cω2)3 も = c3(ω3)2 = c3⋅12 = c3 = z となるから。 i の立方根の一つは偏角 30° の δ なので、120° を加減すると、残りの二つは偏角 150° と偏角 −90°。後者は −i に当たる。事実、−i を立方すれば (−i)3 = (−1)3i3 = (−1)(−i) = i。つまり i の立方根(立方すると i になる数)の一つは、自分自身の符号を変えた −i。
偏角 150° の方は、図の点 Q に当たり、P に当たる δ と比べ、実部(横)の符号だけが反対:
−√3/2 + i/2 = [−(√3) + i]/2
立方すると:
1/8(−(√3) + i)3 = 1/8[−3(√3) + 3⋅3i − 3(√3)(−1) + (−i)] = 1/8(9i − i) = i
偏角 30° の δ、偏角 150° の上記の数、偏角 −90° の −i は、どれも単位円上にあり絶対値 1。立方されると偏角が 3 倍され、それぞれ 90°, 450°, −270° になるが、360° の整数倍の違いを無視すると、いずれも i がある方位 90° を向く。
i の立方根 [±(√3) + i]/2 と −i の三つ。 3 乗すると i になる。
δ = [(√3) + i]/2 は12乗して初めて 1 になる数なので、δ, δ2, δ3, δ4, …, δ11, δ12 = 1 の12個は、いずれも値が異なる(δ13 = δ12δ = 1δ = δ 以降は同じ12個の値がループする)。それぞれ単位円上の偏角 30°, 60°, 90°, 120°, …, 330°, 360° = 0° の点なので、明らかに全部別々の点。もしも12個の中に等しい数があったなら――つまり δm = δn を満たす相異なる正の整数 m, n が 12 以下にあったなら――、m > n と仮定して等式の両辺を δn で割ると:
δm/δn = 1 つまり δm−n = 1
この m − n は 12 未満の正の整数なので「δ は12乗して初めて 1 になる」という前提と矛盾してしまう。 m < n と仮定しても同様。
x12 − 1
の分解
作図や三角関数を使わず、純粋に代数的に 1 の12乗根を決定したい: 12次方程式 x12 = 1 つまり x12 − 1 = 0 の解は何か?
最後の式の左辺は、次のように分解される:
x12 − 1 = (x6)2 − 12 = (x6 + 1)(x6 − 1) ‥‥(☆)
もし(☆)の値が 0 なら、そのとき、その二つの因子の少なくとも一方は 0:
x6 + 1 = 0 または x6 − 1 = 0
後者の解は 1 の6乗根: 6乗すると 1 になるのだから、そのまた平方の12乗でも 1 になり、12乗根には違いない。 1 の6乗根については前々回、六つの値を確かめ、次の分解も導いてある:
x6 − 1 = (x + 1)(x − 1)(x2 + x + 1)(x2 − x + 1)
問題は、他方の因子 x6 + 1 をどう料理するか…。とりあえず y = x2 か z = x3 と置いて、次数を下げたい。第一の選択肢を試してみる:
y3 + 1
さて y3 + 1 = 0 に†有理数解があるとすれば y = ±1 だが、y = 1 だと左辺は 2 になってしまう。 y = −1 は確かに解。従って、多項式 y3 + 1 は y + 1 で割り切れる。割り算を実行し‡、変数を元に戻すと:
y3 + 1 = (y + 1)(y2 − y + 1) = (x2 + 1)(x4 − x2 + 1) ‥‥(☆☆)
† 定数項を移項すると y3 = −1: 要するに −1 の立方根を尋ねている。
‡ 下記の通り。
y^2 - y + 1 ╭────────────────── y + 1 │ y^3 + 1 y^3 + y^2 ───────── - y^2 - y^2 - y ───────────── + y + 1 y + 1 ───── 0
一般に y3 − a3 = (y − a)(y2 + ay + a2)
a = −1 と置くと上記の割り算に
(☆☆)の値が 0 なら x2 + 1 = 0 または x4 − x2 + 1 = 0。前者の解 x = ±i は4乗すると 1 になるから、そのまた3乗の12乗でも 1 になり、つじつまは合う。われわれは後者の解に興味がある。この4次式の四つの解こそ、1 の原始12乗根のはず。 y2 − y + 1 = 0 を解くと(これは 1 の原始6乗根を求めたときの方程式と同一):
y = 1/2 ± √3/2⋅i
y = x2 なので、平方すると上記の y になるような x を求めればいい。 x = a + bi と置くと(a, b は実数):
x2 = (a + bi)2 = (a2 − b2) + 2abi
上の y と実部・虚部を比較して:
a2 − b2 = 1/2 ‥‥①
2ab = ±√3/2 つまり b = ±√3/(4a) ‥‥②
y は負の実数ではないから x は純虚数ではなく a ≠ 0。だから②の割り算はOK。②を①に代入:
a2 − 3/(16a2) = 1/2
分母を払うため、両辺を 16a2 倍:
16a4 − 3 = 8a2
A = a2 と置いて整理すると:
16A2 − 8A − 3 = 0
これを解くと A = 3/4 or −1/4 だが a は実数なので A = a2 は負ではなく、A = 3/4 が題意に適する。ゆえに:
(ア) a = √3/2 または (イ) a = −√3/2
②から(ア)の場合 b = ±1/2、(イ)の場合 b = ∓1/2 となり、x = a + bi としては次の4通りの選択が可能:
x = √3/2 ± i/2 または −√3/2 ± i/2
前者は図の P, P′ に当たり、後者は Q, Q′ に当たる。いずれも実部は ±0.866… で虚部は ±0.5 に等しい。仮に数直線の正の方向(偏角 0°)を「ド」の音とするなら、負の方向(偏角 180°)は「ファ♯」で、1 の原始12乗根は「ド♯・ファ・ソ・シ」に当たる。主値
δ = √3/2 + i/2
を使って書くと、偏角 ±30° が δ とその共役 δ11、偏角 ±150° が δ5 とその共役 δ7。指数 1, 5, 7, 11 は「12 と互いに素な 12 以下の正整数」に他ならない。
1 の12乗根は計12個 下記の四つは原始12乗根(12乗して初めて 1 になる):
主値 δ = [(√3) + i]/2 その共役 δ11 = [(√3) − i]/2
実部が負 δ5 = [−(√3) + i]/2 その共役 δ7 = [−(√3) − i]/2
六つの6乗根と二つの原始4乗根 ±i も12乗根(12乗すると 1 だが、12乗より前にも 1 になる)。
上では正直に①②を使ったが、x = a + bi の絶対値が 1 であるという事実を前提とするなら、a2 + b2 = 1 という別の条件を活用でき、計算が少し簡単になる。(☆☆)の2因子は、いずれも実数の零点を持たないため、有理係数(あるいは実係数)の範囲では、これ以上、分解できない。ところで y = x2 の代わりに z = x3 と置くと x6 + 1 = 0 は z2 + 1 = 0 つまり z = x3 = ±i となる。この3次方程式は多項式の分解には役立たないものの、i の三つの立方根の予備知識があるなら(−i の三つの立方根はその共役なので)、直ちに6次方程式の解が得られる。一方、x12 − 1 = 0 の段階で z = x3 と置くと:
z4 − 1 = (z2 + 1)(z + 1)(z − 1) = (x6 + 1)(x3 + 1)(x3 − 1)
この場合 x3 − 1 の分解は既知として、何らかの方法で
x3 + 1 = (x + 1)(x2 − x + 1)
と分解したとき、その知識を x6 + 1 = (x2)3 + 1 の分解にも利用できる。
「何らかの方法」としては、−1 がこの3次式の零点であることから、x + 1 で直接割るのが手っ取り早い。あるいは x3 + 1 = 0 は x3 = −1 と同じなので、−1 の実数以外の立方根を考えればいい。それは偏角 ±60° の σ と σ*――図の点 R と点 S ――なので、解と係数の関係から、これらを根とする2次式は:
x2 − (σ + σ*)x + σσ* = x2 − (1)x + (1) = 0
1次の係数について、原点を O とすると、ベクトル OR とベクトル OS の和は O, R, S を頂点とするひし形のもう一つの頂点 (1, 0) つまり実数 1。定数項について、+60° の回転と −60° の回転を合成すれば、打ち消し合ってこれも 1 に(1倍)。
6乗根との関係を重視せず、単に x12 − 1 の分解だけを考えるなら、q = x4 と置いて、こう進めてもいい:
q3 − 1 = (q − 1)(q2 + q + 1) = (x4 − 1)(x8 + x4 + 1)
この8次の因子について、x6 − 1 の分解と同様、次のトリックを 2 回、使える:
x8 + x4 + 1 = (x8 + 2x4 + 1) − x4 = (x4 + 1)2 − (x2)2 = 以下略
出てくる x4 − x2 + 1 は円分多項式。
実用上、普通に手計算する範囲(1 < n < 105)では、xn − 1 を分解した因子の係数・定数項は 0 でなければ ±1。他の数値が出たら、何か間違ってると判断できる。
オクターブの音程差は、周波数が 2 倍(例: ドの音が仮に523 Hz の周波数なら、オクターブ上のドは 1046 Hz)。オクターブを周波数比で12等分する12平均律の調律(近現代の音楽の主流)では、ある音の「2 の12乗根」倍(約 1.059 倍)の周波数の音を「半音上」とする。
物理世界で耳に心地よい音程は、周波数が 2:3 とか 3:4 のような整数比。ところが √2 = 1.41421356…(人よ人よに人見ごろ) は無理数だし、上記の 12√2 = 1.05946309…(ひとり王国・読むさ王宮)は、ますます複雑な無理数。――無理数の周波数比に基づく12平均律の調律では、和音は完全にはハモらない。例えば、純正な完全5度(ドミソの和音のドとソの関係)は周波数がちょうど 1.5 倍なのだが、平均律ではこの音程は半オクターブ(3全音)と半音、つまり 7 半音なので:
(12√2)7 = 1.49830707…
ほぼ 1.5 だが、正確に 1.5 倍にはなっていない! 「だったら、完全5度をちょうど 1.5 倍に調律すればいいじゃん」と思えるが、その考えだと今度はソの 1.5 倍がレ、そのまた 1.5 倍がラ…等々となり、どこまで行っても「ド」(とオクターブ違いの音)に戻ってこられず、どっちにしても、どこかに無理が生じる。「m 回、純正な完全5度上に進むと n オクターブ上に到達する」という方程式 1.5m = 2n には、正の整数解がないからだ(右辺は整数、左辺は非整数)。
上手なトロンボーン・弦楽・合唱などのハーモニー(音高をスライドさせ半音未満の微調整ができる)が非常にきれいに聞こえる一方、12平均律に固定された楽器(特に鍵盤楽器)の和音が少々硬く、微妙なうなりさえ聞こえるのは、そのせいだろう。それでも鍵盤がオクターブあたり12個で足りる実用性、好きなだけ転調できるメリットの大きさに加え、積極的に「平均律だからこそ可能な表現」もある。例えば、
複素平面に当てはめると 30° の回転(原始12乗根)は半音上(隣の音)、60° の回転(原始6乗根)は全音上(隣の隣、つまり2半音上)。ある音(例: ファ♯)に「半音上げる処理」を 12 回繰り返せば元の音(ファ♯)に戻るように(オクターブの違いは生じる)、ある複素数に「1 の原始12乗根をかける処理」を 12 回繰り返せば、元の数に戻る(360° の偏角の違いは生じる)。
2024-01-23 1 の5乗根と7乗根 三角関数抜きで
x5 = 1 の解は何か? 移項した x5 − 1 = 0 は解 x = 1 を持つので、左辺は x − 1 で割り切れる。割り算結果:
x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1) = 0
1 以外の解 x は x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0 を満たす。その両辺を x2 で割り:
x2 + x + 1 + 1/x + 1/x2 = 0
y = x + 1/x と置くと y2 = x2 + 2 + 1/x2
で、上の方程式はこうなる:
y2 + y − 1 = 0 その解は y = (−1 ± √5)/2 ‥‥①
y = x + 1/x の両辺を x 倍して整理すると x2 − yx + 1 = 0、その解は:
x = (y ± √(y2 − 4))/2
= (1/2)y ± (1/2)√(y2 − 4) (☆)
①を平方すると y2 =
(
1 ∓ 2√5 + 5
)/
4
= (6 ∓ 2√5)/4 なので:
y2 − 4 = (6 ∓ 2√5 − 16)/4
= −((10 ± 2√5)/4)
つまり √(y2 − 4) = (√(10 ± 2√)/2)i ‥‥②
①と②(複号同順)を(☆)に代入し、次の四つの解を得る:
x = (−1 + √5/4) ± (√(10 + 2√)/4)i ← ①の ± が + の場合
x = (−1 − √5/4) ± (√(10 − 2√)/4)i ← ①の ± が − の場合
この四つは 1 の原始5乗根(5乗して初めて 1 になる数)。最初の二つが偏角 ±72° (第1・第4象限)、残りの二つが偏角 144° (第2・第3象限)。
1 の原始5乗根の主値 (−1 + √5/4) + (√(10 + 2√)/4)i = 約 0.309 + 0.951i
「5 乗して初めて 1 になる数」のうち、第1象限にあるもの。絶対値 1 なので、
絶対値2 = 実部2 + 虚部2 = 1
を満たす(単位円上の 72° の位置)。実部 0.309… は √5 = 2.236…(富士山麓) から 1 を引いて 4 で割ったもの。虚部 0.951… は「実部の平方 (6 − 2√5)/16 を 1 = 16/16 から引いた数」の平方根。
〔補足〕 主値は「二つ以上の選択肢の中から、代表として(最も基本的だとして)選ばれる値」。 1 の n 乗根については、複素平面上で単位円に内接する正 n 角形――頂点の一つが (1, 0) にあるとする――の(n 個の)頂点を(n 個の)n 乗根と解釈でき、そのうち「一つ目の頂点に当たる複素数」を主値とするのが自然だろう。ここで「一つ目」とは、(1, 0) を「頂点 0 番」として、反時計回りに番号を振ったときの「頂点 1 番」。より一般的に n 乗根の主値の通常の定義は「実部が最大のもの」(実部が最大のものが二つあるときは、そのうち虚部が正のもの)。従って「1 の 5 乗根」の主値は、実数 1 そのもの。だがそれは「原始 5 乗根」ではない。1 の原始 5 乗根のうち実部最大のものは 0.309… ± 0.951… i なので、そのうち複号プラスのものを主値とする。要するに、原始 n 乗根(n = 3, 4, …)の主値は (1, 0) に一番近く、虚部が負でないもの: n が 5 以上なら、主値は第1象限にある。
〔参考〕 1 の原始 5 乗根(主値を p とする)を三角関数で表すと p = cos 72° + i sin 72° 略して cis 72° = cis 2π/5。 p2 = cis 144° と p3 = cis 216° = cis (−144°) と p4 = cis 288° = cis (−72°) も、それぞれ 1 の原始5乗根。指数関数で表すと p = exp(2π/5⋅i) そして pm = exp(2mπ/5⋅i) となる(m = 1, 2, 3, 4)。
cos 72° などは、正五角形を使った幾何学的方法や、三角関数を使った方法でも求められるが(別記事)、上のやり方は簡潔で良い。 x = 0 は明らかに x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0 の解ではないので、x や x2 の逆数を使っても 0 での割り算(反則)は生じない。②の平方根では、本来、両辺の先頭に ± が付くはずだが、これは(☆)の右端の項の計算。その位置には既に ± があるので、複号を省略した。
この手法を 1 の7乗根に応用してみたい。
x7 − 1 = (x − 1)(x6 + x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1) = 0
…の非自明な六つの解を求めるため、次の6次方程式を考えよう:
x6 + x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0 (☆☆)
最初と同様 y = x + 1/x と置くと:
y2 = x2 + 2 + 1/x2
y3 = x3 + 3x + 3/x + 1/x3
(☆☆)の両辺を x3 で割ったものは、 y についての3次方程式になる:
y3 + y2 − 2y − 1 = 0
〔補足〕 次のように考えると、上記3次方程式の係数を簡単に決定できる。
(x^6 + x^5 + x^4 + x^3 + x^2 + x + 1)/x^3 ← これを作りたい y^3 = (x^6 + 3*x^4 + 3*x^2 + 1)/x^3 ← 係数3が過大△ y^2 = ( x^5 + 2*x^3 + x )/x^3 ← 係数2が過大▲ y = ( x^4 + x^2 )/x^3 ← マイナス2倍すれば△を補正できる 1 = ( x^3 )/x^3 ← マイナス1倍すれば▲を補正できる (x^6 + x^5 + x^4 + x^3 + x^2 + x + 1)/x^3 = y^3 + y^2 - 2*y - 1
y3 + y2 − 2y − 1 = 0 から2次の項をなくすため y = z − 1/3 と置く:
(z − 1/3)3 + (z − 1/3)2 − 2(z − 1/3) − 1 = 0
展開・整理すると z3 − (7/3)z − 7/27 = 0
3次の項の係数を 1 に保ったまま、式から分数をなくすため z = s/3 と置く:
(s/3)3 − (7/3)(s/3) − 7/27 = 0
両辺を 27 倍して s3 − 21s − 7 = 0
3次方程式
s3 + Ps + Q = 0
に関連する2次方程式
t2 + Qt − (P/3)3 = 0
その共役複素数解
が t = α, β なら
3√α + 3√β は前者の解
関連する2次方程式 t2 + (−7)t − (−21/3)3 = t2 − 7t + 73 について:
判別式は 72 − 4⋅73 = 72(1 − 4⋅7) = 72(−33) = 212(−3)
解は t = (7 ± 21√−3)/2
従って、カルダノの公式から:
s = ((7 + 21√−3)/2)1/3 + ((7 − 21√−3)/2)1/3 = 4.7409…
この式は三つの解を含意する。すなわち…
u = ((7 + 21√−3)/2)1/3, v = ((7 − 21√−3)/2)1/3
…を立方根(1/3 乗)の主値とすると、s = u + v = 4.7409… だけでなく、s = uω + vω2 = −4.4058… と s = uω2 + vω = −0.3351… も s3 − 21s − 7 = 0 を満たす(理由)。ここで ω(オメガ)は 1 の原始立方根 (−1 + √−3)/2 で、実数ではないが、上記 s の値は実数(共役複素数の和なので虚部が消える)。
置換した変数を y に戻し、さらに x に戻す:
y = z − 1/3 = s/3 − 1/3 = 1/3⋅[((7 + 21√−3)/2)1/3 + ((7 − 21√−3)/2)1/3 − 1]
簡潔化のため、上記 u, v を使って次のように表記しよう:
y = x + 1/x = 1/3⋅A ただし A = u + v − 1 または uω + vω2 − 1 または uω2 + vω − 1
両辺を 3x 倍して整理すると:
3x2 − Ax + 3 = 0 ‥‥③
s3 − 21s − 7 = 0 の三つの解は前記の通り。そこから 1 を引いた A の値は、次の実数:
A = 3.7409… または −5.4058… または −1.3351…
従って A2 は (−5.4058…)2 = 29.2228… 以下の正の実数。このことから③の解は:
x = 1/6⋅(A ± √(A2 − 36))
= 1/6⋅(A ± i √(36 − A2)) ‥…④
複号が(つまり虚部が)正の場合の④の三つの値(近似値)は、次の通り(主値を x = ζ とする):
ζ = 0.62349 + 0.78183i ζ3 = −0.90097 + 0.43388i ζ2 = −0.22252 + 0.97493i
複号が負の場合の、④の三つの近似値は:
ζ6 = 0.62349 − 0.78183i ζ4 = −0.90097 − 0.43388i ζ5 = −0.22252 − 0.97493i
④は6次方程式(☆☆)の解なので、合計 6 個の解がある。
いずれも7乗すると 1 になる: ζ7 = 1, (ζ2)7 = (ζ7)2 = 12 = 1 等々。 ζ の実部 cos (2π/7) = 0.6234898… を a とすると、④から:
a = 1/6⋅(A) = 1/6⋅(u + v − 1)
= 1/6⋅[((7 + 21√−3)/2)1/3 + ((7 − 21√−3)/2)1/3 − 1]
あるいは、同じことだが†:
a = (3√(28 + 84√) + 3√(28 − 84√))/12 − 1/6
対応する虚部 b = sin (2π/7) = 0.7818314… は √(1 − a2) に等しい:
((3√(28 + 84√) + 3√(28 − 84√))/36
− (3√(−2548 + 588√) + 3√(−2548 − 588√))/72
+ 7/12)1/2
1 の原始7乗根の主値 a + bi = 0.6234898… + 0.7818314… i
実部 a と虚部 b は、それぞれ 2π/7 = (360/7)° = 約51.4° の cos と sin に当たる。
3√(m + n√) + 3√(m − n√)
を C(m, n) と略すと:
a = C(28, 84)/12 − 1/6
b = √(C(28, 84)/36 − C(−2548, 588)/72 + 7/12)
† 上の式の先頭の分数を半分にし、代わりに角かっこ内を 2 倍つまり (8)1/3 倍したのが下の式。 sin の式は cos の式から単純計算で導かれる。この場合、途中計算で「立方根の平方」=「平方の立方根」が成立: 複素数 z の偏角の絶対値 φ が π/2 未満なら(正確には −π/2 < φ ≤ π/2 の範囲なら)、すなわち z の実部が正なら(または実部が 0 で虚部が正なら)、主値は (3√z)2 = 3√(z2) を満たす。
1 の原始7乗根・14乗根の主値
Y = 3√(28 + 84√) + 3√(28 − 84√) と置くと:
cos 2π/7 = (−2 + Y)/12
= 0.6234898018 587… (娘に見初めし白馬)
sin 2π/7 = √[140 + (4 − Y)Y]/12
= 0.7818314824 680… (菜っ葉
Y′ = 3√(−28 + 84√) + 3√(−28 − 84√) と置くと:
cos π/7 = (2 + Y′)/12
= 0.9009688679 024… (苦戦苦労の母)
sin π/7 = √[140 − (4 + Y′)Y′]/12
= 0.4338837391 175… (夜道で見栄張る、闇の中)
cos π/14 =
√[84 + 6Y′]/12 =
sin 3π/7 = 0.9749279…
sin π/14 =
√[60 − 6Y′]/12 =
cos 3π/7 = 0.2225209…
さらに(参考リンク):
sec 3π/7 = (4 + Y)/3 = 4.4939592…
cos 3π/7 = 3/(4 + Y)
= sin π/14
若干の明示的表現:
追記:
sin π/14 = cos 3π/7
= √[60 − 6Y′]/12
= 3/(4 + Y)
= 1 − (Y − 2)2/72
Ferro–Tartaglia–Cardano の公式では、上記 u + v のように「共役複素数のペア(どちらも実数ではない)の、それぞれの立方根の和」として、実数を表す――ということが珍しくない。実数を書き表すのに「複素立方根の和」を使うのは回りくどいようだが、3次方程式の解が三つとも無理数の実数のケースでは、その解を実数の範囲の加減乗除・有理数乗(平方・立方・四乗…または平方根・立方根・四乗根…)の組み合わせで書き表すことはできない――「簡約不可能ケース」(ラテン語: casus irreducibilis)と呼ばれる。演算の制限を緩めて三角関数・逆三角関数を使うなら、実数の範囲内で同じことを簡潔に表現できる。
「実数なのに、虚数を使わないと書き表せないことがある」という事実は、16世紀の学者たちを困惑させた。けれど研究・理解が進むにつれ、これは「珍奇で特殊な現象」ではなく、重大な哲学的意味を秘めていることが分かってきた: たとえ実数解だけに興味があるとしても、複素数の範囲で考えるのが不可避――ということは、虚数は「数の世界にもともと内在する必然」であり、「人間が考え出した理論上・便宜上のツール」ではなかったのである!
複素数は「発明」されたのではなく「発見」された――たとえ別の時空、別の宇宙であっても、知的生命体が数論を考える限り、必ず複素数はそこにある。恐らく、広い宇宙の中では「これと全く同じこと」を考え畏怖の念を感じた者がたくさん存在したであろうし、これからも存在するだろう。
2024-01-26 1 の9乗根 立方根の立方根
9乗根は「立方根の立方根」。5乗根や7乗根より扱いやすい。
1 の9乗根は、単位円上の偏角 0°, 40°, 80°, 120°, 160° そして 200° = −160°, 240° = −120°, 280° = −80°, 320° = −40° の九つの点に相当。このうち 0° は実数 1 = (1, 0) そのもの、±120° は 1 の原始立方根 ω, ω2 = (−1 ± √−3)/2 なので、残りの六つ…
±40°, ±80°, ±160°
…の点(図の P, P′, Q, Q′, R, R′)が、原始9乗根に当たる。 y = x3 のとき x から見ると y は立方、y から見ると x は立方根。さらに z = y3 = (x3)3 = x9 とすると z から見て y は立方根、x は9乗根。要するに z の9乗根を求めるには、まず z の立方根 y を求め、そのまた立方根 x を求めればいい。 1 の原始立方根の主値は ω なので、そのまた立方根…
3√ω = (3√(−1 + √) )/2 = 0.7660444… + 0.6427876… i
…が 1 の原始9乗根の主値であり、点 P に当たる。 P の実部 a と虚部 b を(近似値ではなく)式として書き表したい。三角関数を使えば a = cos 40°, b = sin 40° だが、加減乗除・根号(有理数乗)の範囲で表現できるだろうか?
P に当たる複素数 a + bi について、その立方…
(a + bi)3 = (a3 − 3ab2) + (a2b − b3)i
…が ω = −1/2 + √3/2⋅i に等しいという条件から、実部と虚部をそれぞれ比較して:
a3 − 3ab2 = −1/2 ‥‥①
3a2b − b3 = √3/2 ‥‥②
単位円上の任意の点 (a, b) は a2 + b2 = 1 を満たすから b2 = 1 − a2、これを①に代入:
a3 − 3a(1 − a2) = 4a3 − 3a = −1/2
つまり 4a3 − 3a + 1/2 = 0
3次の係数を 1 にして分数もなくすため a = x/2 と置くと 4x3/8 − 3x/2 + 1/2 = 0、両辺を 2 倍して:
x3 − 3x + 1 = 0
関連する2次方程式 t2 + (1)t − (−3/3)3 = t2 + t + 1 = 0 の解 t = (−1 ± √−3)/2 を使って(この t は 1 の原始立方根そのもの)、Cardano の公式から:
x = ((−1 + √−3)/2)1/3 + ((−1 − √−3)/2)1/3
つまり a = x/2 = 1/2⋅[((−1 + √−3)/2)1/3 + ((−1 − √−3)/2)1/3]
実部 a が得られた。式の幾何学的意味は次の通り。図の点の名前と、それが表す複素数を同一視する。偏角 120° の ω の立方根(の主値)は、偏角 40° の
P = ((−1 + √−3)/2)1/3
= 0.7660444… + 0.6427876… i
に当たり、偏角 −120° の ω2 の立方根(の主値)は、偏角 −40° の
P′ = ((−1 − √−3)/2)1/3
= 0.7660444… − 0.6427876… i
に当たる。 P, P′ は実部が等しく、虚部の符号が反対なので(共役複素数)、和は実数。 P, P′ どちらの実部も A の横座標だから、和 P + P′ はひし形 OPCP′ の C に当たる。
P + P′ = 1.5320888…
それを 2 で割れば A の横座標 cos 40° = 0.7660444… が得られる(P の横座標、P′ の横座標でもある)。 ω の立方根 P が得られた段階でその実部・虚部は確定しているのだから、回りくどい方法で実部を抜き出したようなものだが、「共役複素数の立方根の和として実数を表す」という Cardano の公式の意味が端的に表れている。
〔付記〕 cos 40° = 0.766044443118978… は、小数5桁目から8桁目まで「4」が 4 個続く。三角関数の性質上 sin 50° も同じ値。
同様に P の虚部を抜き出せば、それが b。つまり b は (P − P′)/(2i) = (P′ − P)i/2 に等しい:
b = i/2⋅[((−1 − √−3)/2)1/3 − ((−1 + √−3)/2)1/3]
本来的には連立3次方程式①②が問題だったが、②を使わず、a2 + b2 = 1 に基づき b を消去して、①を a について解いたら、成り行きで b の値も求まった。
u = ((−1 + √−3)/2)1/3, v = ((−1 − √−3)/2)1/3 と略記し、ここまでを整理すると:
1 の原始9乗根の主値 ω の原始立方根の主値でもある:
u = 3√ω = ((−1 + √−3)/2)1/3 = 0.7660444… + 0.6427876… i
実部 cos 40° は 1/2⋅(u + v) に等しく、虚部 sin 40° は i/2⋅(v − u) に等しい。
u, v は、それぞれ図の P, P′ に当たる共役複素数。上記のように実部・虚部を抜き出すことで cos 40° と sin 40° を表現できる(実用性はともかく、式としては正しい)。P を 120° 回転させた Q、そして P′ を −120° 回転させた Q′ を考えると、同様に uω, vω2 がそれぞれ Q, R′ に当たる共役複素数。従って:
cos 160° = (uω + vω2)/2 = −0.9396926…
sin 160° = (vω2 − uω)i/2 = 0.3420201…
全く同様に、P を −120° 回転させた R、そして P′ を 120° 回転させた R′ を考えると:
cos (−80°) = (uω2 + vω)/2 = 0.1736481…
sin (−80°) = (vω − uω2)i/2 = −0.9848077…
以上の P, Q, R が ω の立方根に当たる(主値は P)。 共役の ω2 の立方根 P′, Q′, R′ は(主値は P′)、P, Q, R と比べ、それぞれ実部が等しく、虚部の符号が反対: −40°, −160°, +80° の cos, sin に当たる。以上が 1 の原始9乗根で、ちょうど六つある。
±40° の u, v を基準に ±80° と ±160° をそれぞれ u2, v2 と u4, v4 で表すことも可能。
cos 80° = (u2 + v2)/2 = 0.1736481… 等々
ところで u(偏角 40° の P に当たる複素数)の平方根 √u は、偏角 20° の複素数 cos 20° + i sin 20° に等しい。この複素数(1 の原始18乗根の主値である)を仮に d としよう。 u が ω の立方根であるように、√u は √ω の立方根――この場合、主値に関して次の単純計算が成り立つ:
d = √u = u1/2 = (ω1/3)1/2 = (ω1/2)1/3 = (√ω)1/3
次の値は、いろいろな方法で容易に決定できる(1 の原始6乗根の主値):
√ω = cos 60° + i sin 60° = (1 + √−3)/2 (♪)
(♪)の立方根に等しい d だが、この場合も、共役の立方根との和・差を利用して d の実部・虚部を抽出できる:
cos 20° = 1/2⋅[((1 + √−3)/2)1/3 + ((1 − √−3)/2)1/3] = 0.9396926…
sin 20° = i/2⋅[((1 − √−3)/2)1/3 − ((1 + √−3)/2)1/3] = 0.3420201…
従って、三角関数の性質上、1 の9乗根のうち偏角 ±160° の Q, Q′ については、次のように書くこともできる:
cos 160° = −cos 20° = −1/2⋅[((1 + √−3)/2)1/3 + ((1 − √−3)/2)1/3]
sin 160° = sin 20° = i/2⋅[((1 − √−3)/2)1/3 − ((1 + √−3)/2)1/3] 等々
代数的には①を解いて3種の a を求め、それぞれに対応する b = ±√(1 − a2) の符号を②から決定するのが本来だろう。同様に ω2 の三つの立方根について、①に当たる式は同一だが、②に当たる式(右辺の符号は反転)よって、適切な b の符号を選択できるだろう。実際には、作図(幾何学的解釈)により、それらの手間が省けた。
主値に関連して、複素数の世界では…
d = (ω1/3)1/2 = (ω1/2)1/3
…のような「指数の交換法則」は、一般には成り立たない。具体例として (ω1/3)2 と (ω2)1/3 は主値が等しくない: 前者は偏角 40° の u の平方、すなわち偏角 80° の R′ を表すが、後者は偏角 −120° の ω2 の立方根、すなわち偏角 −40° の v = P′ を表す。上記の d の式がオーケーなのは、偏角 120° を6等分するとき「3等分してから2等分」でも「2等分してから3等分」でも同じ結果になるため。他方 ω2 は、素朴な観点では偏角 240° のはずだが、偏角 240° というのは「偏角の主値」としては −120° なので、3等分したとき単純に 80° にならない。
偏角自体は +1000° でも −2000° でもグルグル考えることができるけど、360° の違いは、角度としては同じ向き。結果的に、同一方向をいろいろな角度で呼ぶことができる(例: −90° = 270° = −450° 等々)。このような曖昧さがあっては困る場合、規約として −180° より大きく +180° 以下の範囲を「偏角の主値」とする(これは一般的な定義の仕方だが、本質的な理由があるわけではない: 理論的には 0° 以上 360° 未満を主値としても構わないのである)。副作用として、途中計算で 240° のような「主値の範囲外の偏角」が生じた場合、暗黙のうちに「偏角の主値の範囲内」への変換が起き、話がややこしくなる…。入力が少しずつ滑らかに変化していても、内部的に「偏角の主値の範囲」の境界を超えた瞬間、出力が突然、不連続的にジャンプする!
とはいえ、主値の選択をなくすと、ある種の入力に対する出力が一つに定まらず、ますます話が難しくなる。数値計算などの実用上の観点からすれば、主値の設定は――不自然で紛らわしい面もあるとはいえ――どうしても必要なことだろう。
2024-02-07 ゾクッとする式・きれいな式 tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = 33
cos 20° cos 40° cos 80° = 1/8 は Jacobs–Feynman の等式、通称 Morrie の法則と呼ばれる。ノーベル賞物理学者 Feynman が、子ども時代に友達から聞いて好奇心を刺激され、生涯記憶に残り、人に話すときもその子の名を言った――という逸話の式。モリー君、まさかこんなことで100年後にまでネタにされるとは、夢にも思わなかっただろう(笑)。
証明 cos 20° = −cos (180° − 20°), cos 80° = cos (−80°) なので、次を示せば同じこと:
cos 40° cos (40 + 120)° cos (40 − 120)° = −1/8
1 の原始3乗根の主値を ω とすると、上の三つの cos は ω の(三つの)立方根の実部に等しい。従って (x + yi)3 = ω を満たす三つの x の積が −1/8 であることを言えばいい。左辺を展開、実部を右辺と比べると:
x3 − 3xy2 = −1/2
単位円上の点なので y2 = 1 − x2 を代入:
x3 − 3x(1 − x2) = x3 − 3x + 3x3 = −1/2
つまり 4x3 − 3x + 1/2 = 0 なので、解と係数の関係から3解の積は上記の通り。∎
ω の代わりに 1 の原始6乗根 σ を使えば符号の反転がなくなるが、ω の方が分かりやすいかと…。上の証明の各ステップについて簡単に記してから、関連する話題を少々。ほんのり面白い式をいろいろ見つけた。
複素平面の単位円上で ω は偏角 120° の点。その立方根としては、偏角が 3 分の 1 の点 P がある――それは 40° の回転(1 の原始9乗根を掛ける処理)に当たる。点 P の 120° 前と後の点 Q, R も ω の立方根。
P, Q, R に当たる複素数の実部、つまり横座標 p, q, r が、それぞれ cos 40°, cos 160°, cos (−80°)。このうち q = cos 160° は、S の横座標 s = cos 20° と絶対値が同じで、符号が反対。 r = cos (−80°) は R′ の横座標 cos 80° と同じ。だから、
積 cos 20° cos 40° cos 80° = spr
を考える代わりに qpr = cos 160° cos 40° cos (−80°) を考えても、符号が逆なだけで絶対値は同じ(なぜなら q = −s)。
都合がいいことに p, q, r は ω の立方根(三つある)の実部。 ω の立方根を a + bi とすると(a, b は実数):
ω = (a + bi)3 = a3 + 3a2bi + 3a(bi)2 + (bi)3
= (a3 − 3ab2) + (3a2b − b3)i
これを ω = −1/2 + √3/2⋅i と比較すると:
a3 − 3ab2 = −1/2 ‥‥①
3a2b − b3 = √3/2 ‥‥②
ω の立方根は単位円上にあるから a2 + b2 = 1 つまり b2 = 1 − a2、これを①に代入して整理すると:
4a3 − 3a + 1/2 = 0 ‥‥③
3次の係数を 1 にするため両辺を 4 で割ると:
a3 − 3/4⋅a + 1/8 = 0 ‥‥④
〔付記〕 a = cos θ と置けば、③は 4 cos3 θ − 3 cos θ = −1/2 = cos 120° になる。 θ = 40° がその一つの解であることは分かっていて、その場合に関しては 120° = 3θ なので、これは3倍角の公式の一例。けど θ = 40° に限らず θ = ±40°, ±80°, ±160° は、どれもこの方程式の解。
この場合、欲しいのは3解の積 pqr = qpr で、個々の解はどうでもいい。一般に、3次の項が 1 の3次方程式
f(x) = x3 + C2x2 + C1x + C0 = 0 (☆)
の一つの解が x = p なら――つまり f(p) = 0 なら――、多項式 f(x) は x − p で割り切れる。理由: もしも割り切れなかったなら 0 以外の余りが発生するが、f(x) を x − p で割って商が g(x)、余りが A ≠ 0 と仮定すると、
f(x) = (x − p) g(x) + A
となり f(p) = 0⋅g(p) + A = A ≠ 0 となってしまう。これは f(p) = 0 という前提に反し不合理だから、実際には A = 0 でなければならない。同様に x = q, x = r も解なら f(x) は x − q で割り切れ、x − r でも割り切れる。他方 f(x) は3次式なので、1次式の因子をちょうど 3 個持つ。結局、
f(x) = (x − p)(x − q)(x − r)
というシンプルな関係が成立。展開すると:
f(x) = [x2 − (p + q)x + pq](x − r)
= x3 − (p + q)x2 + pqx − rx2 + (p + q)rx − pqr
つまり f(x) = x3 − (p + q + r)x2 + (pq + qr + rp)x − pqr
これを(☆)と比較して、次の結論に至る。
C2 = −(p + q + r), C1 = pq + qr + rp, C0 = −pqr (☆☆)
この一般論を④に当てはめると、定数項から 1/8 = −pqr つまり pqr = −1/8。より一般的に(3次の係数が必ずしも 1 ではないとして)、3次方程式を a3x3 + a2x2 + a1x + a0 = 0 とした場合、その両辺を a3 で割ると:
x3 + (a2/a3)x2 + (a1/a3)x + (a0/a3) = 0
これは(☆)の形なので(☆☆)の性質を持つ:
a2/a3 = −(p + q + r), a1/a3 = pq + qr + rp, a0/a3 = −pqr
③の場合で言えば (1/2)/4 = −pqr 従って pqr = −1/8。
④の3解の積 pqr それ自体は、次の値:
cos 40° cos 160° cos (−80°) = cos 40° cos 80° cos 160° = −1/8
(☆☆)から、面白い関係がいろいろ出る。第一に、3解の和が「2次の係数 C2 の符号を変えたもの」に等しいのだから(そして③では C2 = 0 だから):
cos 40° + cos 80° + cos 160° = 0 (なぜなら cos (−80°) = cos 80°)
従って cos 20° = cos 40° + cos 80° (なぜなら cos 20° = −cos 160°)
第二に、3解を 2 個ずつ掛けて足し合わせたものが、1次の係数に等しいのだから:
cos 40° cos 80° + cos 80° cos 160° + cos 160° cos 40° = −3/4
両辺を −1 倍し −cos 160° の代わりに cos 20° を使うと:
cos 20° cos 40° − cos 40° cos 80° + cos 80° cos 20° = 3/4
第三に、p2 + q2 + r2 = (p + q + r)2 − 2(pq + qr + rp) = (C2)2 − 2C1 なので、3解の平方和は、④の1次の係数の −2 倍に等しい:
cos2 40° + cos2 80° + cos2 160° = 3/2
cos 20° = −cos 160° の両辺の平方は等しいので:
Morrie 風の2乗和 cos2 20° + cos2 40° + cos2 80° = 3/2
sin2 20° + sin2 40° + sin2 80° = 3/2 (sin の式については後述)
次の例のように、3乗バージョンも作れる(ジラルの公式参照)。
cos3 20° − cos3 40° − cos3 80° = 3/8
sin バージョン。②に a2 = 1 − b2 を代入して:
−4b3 + 3b = √3/2 つまり b3 − 3/4⋅b + √3/8 = 0 ‥‥⑤
P, Q, R の横座標の積は、⑤の定数項の符号を変えたもの:
sin 40° sin 160° sin (−80°) = −√3/8
sin (−80°) = −sin 80° なので:
sin 40° sin 80° sin 160° = √3/8
さらに sin 160° = sin 20° なので Morrie の法則の sin 版も上と同じ値:
sin 20° sin 40° sin 80° = √3/8
ついでに sin 版を cos 版で割ると:
tan 20° tan 40° tan 80° = √3
tan 40° tan 80° tan 160° = −√3
次のように書くと、なかなか味わい深い:
tan 20° tan 40° tan 80° = tan 60°
tan 20° tan 40° tan 60° tan 80° = 3
⑤の2次の係数 0 から:
sin 40° + sin 160° + sin (−80°) = 0 従って sin 20° + sin 40° = sin 80°
⑤の1次の係数から:
sin 20° sin 40° − sin 40° sin 80° − sin 80° sin 20° = −3/4
Morrie 風の2乗和 sin2 版では、cos2 版と同様、3解の平方和が⑤の1次の係数の −2 倍に等しい(前記)。tan2 版はどうなるか?
tan θ についての3次方程式 tan3 θ − 3(√3) tan2 θ − 3 tan θ + (√3) = 0 を考えると†、その解は tan (−40°) = −tan 40°, tan (−100°) = tan 80°, tan 20° に等しく、3解の平方和は:
tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = (−3√3)2 − 2(−3) = 27 + 6 = 33
ゾクッとする式 tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = 33
† 3θ = 60° or 3θ = (60±180)° のとき tan 3θ = √3。 3倍角の公式を使ってこれを tan θ の多項式の商 = 0 の形にすると、分子 = 0 という条件から、 tan θ についての3次方程式を得る。
同じ3次方程式から:
tan 20° (−tan 40°) + (−tan 40°) tan 80° + tan 80° tan 20° = −3
つまり tan 20° tan 40° + tan 40° tan 80° − tan 80° tan 20° = 3
tan 20° = −tan 160° なので、次のように書くことができる。
きれいな式 tan 20° tan 40° + tan 40° tan 80° + tan 80° tan 160° = 3
Cardano 形式(非実数の立方根)が絡む三角関数の表現は、実用性が低く、あまり人気がない。でも「個々の解」の表記にこだわらず「3解の関係」だけを問題にするなら、3次方程式の解と係数の関係は、強力なツールとなる。
〔参考文献〕 Loi de Morrie https://fr.wikipedia.org/wiki/Loi_de_Morrie
Formules trigonométriques en kπ/9 https://fr.wikipedia.org/wiki/Formules_trigonom%C3%A9triques_en_k%CF%80/9
2024-02-10 続・ゾクッとする式 tan の多倍角の高速生成
前回記した cos 20° cos 40° cos 80° = 1/8 の証明はエレガントだが、最速ではない。最速はこう†: x = cos 20° cos 40° cos 80°, y = sin 20° sin 40° sin 80° ≠ 0 と置くと:
8xy = (2 cos 20° sin 20°)(2 cos 40° sin 40°)(2 cos 80° sin 80°)
= sin 40° sin 80° sin 160° = sin 40° sin 80° sin 20° = y
両辺を y で割って 8x = 1。証明終わり(詳しくは本文で)。
† Melzak: Companion to Concrete Mathematics (1973), Vol. 1, Chap. 4.1
ゾクッとする式 tan2 20° + tan2 40° + tan2 80° = 33 について、前回は詳しい説明を省いた。基となる式は、3倍角の公式から得られる。これらの話題、関連する話題(特に tan の n 倍角の公式)について、加法定理の導出から全ステップ記す。あまり予備知識は必要ないが、四則演算と平方根、三平方の定理(距離の公式)などについては、説明抜きで使う。
「三角関数とは何か?」については、別の場所に説明のようなものがある――ここでは繰り返さない。 sin と cos の加法定理(導出については付録参照)が以下の話の出発点:
sin (α + β) = sin α cos β + cos α sin β (最高コスプレサイン会†)
cos (α + β) = cos α cos β − sin α sin β (ここでさっさと符号を変える‡)
† sin cos を「サイコー」、 cos sin を「コス(プレ)サイン」と読んだ語呂合わせ。
‡ cos cos を「ココ(で)」、 sin sin を「サッサ」と読んだもの。「ここで」と「さっさ」の間で符号を変えることを思い出すように「さっさ(と符号を変える)」という語句を付け加えてある:
cos (α + β) プラスの加法定理 = cos α cos β − sin α sin β 「ここ」で符号をマイナスに
cos (α − β) マイナスの加法定理(減法定理) = cos α cos β + sin α sin β 「ここ」で符号をプラスに
sin の式で α = β = θ と置くと sin 2θ = 2 sin θ cos θ = 2 cos θ sin θ。「最速」では、この式で θ = 20°, 40°, 80° と置くことで…
2 sin 20° cos 20° = sin 40°
2 sin 40° cos 40° = sin 80°
2 sin 80° cos 80° = sin 160°
…として、三つの式の左辺全部の積・右辺全部の積から 8xy = sin 40° sin 80° sin 160° を得ている。 sin 160° = sin 20° なので、そこから 8xy = sin 40° sin 80° sin 20° = y となり、8x = 1 つまり x = 1/8 となる。小気味よい。
さて tan θ = sin θ/cos θ なので、sin の加法定理を cos の加法定理で辺ごとに割れば、tan の加法定理が得られる。
tan (α + β) = sin (α + β)/cos (α + β) = (sin α cos β + cos α sin β)/(cos α cos β − sin α sin β)
このゴチャゴチャした分数を (ア + イ)/(ウ − エ) として、分子・分母をウ(つまり cos α cos β)で約分すると:
約分後の分子 = ア/ウ + イ/ウ = (sin α cos β)/(cos α cos β) + (cos α sin β)/(cos α cos β) = sin α/cos α + sin β/cos β = tan α + tan β
約分後の分母 = ウ/ウ − エ/ウ = 1 − (sin α sin β)/(cos α cos β) = 1 − tan α tan β
従って、約分後の全体像はこうなる。
tan (α + β) = (tan α + tan β)/(1 − tan α tan β) ‥‥①
ゴチャゴチャした分数が、「1 ひく積」分の「和」にまとまって、なかなか爽快!
〔例〕 東京・大阪間は直線距離 400 km だという。東京を離陸して、大阪に向かって 15° の角度で上昇を続ける飛行体が、大阪上空に達したときの高度は?
地球は平面ではないが、便宜上、地表を平面と考える。傾き 15° の上昇、つまり tan 15° は、どのくらいの勢いか? α = 60°, β = −45° のとき tan α = √3, tan β = −1 なので:
tan 15° = tan (60° + (−45°))
= ((√3) + (−1))/(1 − (√3)(−1))
= ((√3) − 1)/(1 + (√3))
= ((√3) − 1)/((√3) + 1)
分子・分母を (√3) − 1 倍すると:
分子は ((√3) − 1)2 = 3 − 2(√3) + 1 = 4 − 2√3
分母は ((√3) + 1)((√3) − 1) = 3 − 1 = 2
約分して:
tan 15° = 2 − √3 ≈ 2 − 1.732 = 0.268
400 km × 0.268 = 約107 km エベレストの12倍の高さ、人工衛星に衝突しそうな勢い!
計算上の飛行距離は 414 km で、水平飛行の場合の 400 km と大して変わらない。
tan の加法定理①で α = θ, β = θ とすると、tan の倍角の公式を得る:
tan 2θ = tan (θ + θ) = (tan θ + tan θ)/(1 − tan θ tan θ) = (2 tan θ)/(1 − tan2 θ) ‥‥②
3倍角の公式を得るため、tan の加法定理①で α = 2θ, β = θ とすると:
tan 3θ = tan (2θ + θ) = (tan 2θ + tan θ)/(1 − tan 2θ tan θ) (★)
倍角の公式②を使って、(★)の分子・分母に含まれる tan 2θ を [2 tan θ / (1 − tan2 θ)] に置き換えよう。すると下記のように、分子・分母どちらも、それ自身、分数を含む形になる。それを解消するため、分子・分母をどちらも (1 − tan2 θ) 倍しよう:
(★) = {[2 tan θ / (1 − tan2 θ)] + tan θ}/{1 − [2 tan θ / (1 − tan2 θ)] tan θ}
= [2 tan θ + tan θ(1 − tan2 θ)]/[(1 − tan2 θ) − 2 tan θ tan θ]
= [2 tan θ + tan θ − tan3 θ]/[1 − tan2 θ − 2 tan2 θ]
つまり:
tan 3θ = (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − 3 tan2 θ) ‥‥③
〔別の方法〕 ②を代入すると:
tan 2θ + tan θ = (2 tan θ)/(1 − tan2 θ) + tan θ
通分して足し算:
= (2 tan θ)/(1 − tan2 θ) + (tan θ(1 − tan2 θ))/(1 − tan2 θ) = (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − tan2 θ) 「上」
同様に:
1 − tan 2θ tan θ = 1 − (2 tan θ)/(1 − tan2 θ)⋅tan θ
= (1 − tan2 θ)/(1 − tan2 θ) − (2 tan2 θ)/(1 − tan2 θ)
= (1 − 3 tan2 θ)/(1 − tan2 θ) 「下」
従って:
tan 3θ = (★) = (tan 2θ + tan θ) ÷ (1 − tan 2θ tan θ)
= 「上」 ÷ 「下」 = (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − tan2 θ) ÷ (1 − 3 tan2 θ)/(1 − tan2 θ)
= (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − tan2 θ) × (1 − tan2 θ)/(1 − 3 tan2 θ) = (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − 3 tan2 θ)
二項式の3乗の展開
(A + B)3 = (A + B)(A + B)2
= (A + B)(A2 + 2AB + B2)
= A3 + 2A2B + AB2
+ A2B + 2AB2 + B3
= A3 + 3A2B + 3AB2 + B3
②と③については、次のように考えれば、統一的に理解可能。 tan θ を T と略すと、2倍角の公式②は…
(1 + Ti)2 = 1 + 2Ti − T2 = (1 − T2) + (2T)i
…の実部が分母、虚部が分子。 3倍角の公式③は…
(1 + Ti)3 = 1 + 3Ti − 3T2 − T3i = (1 − 3T2) + (3T − T3)i
…の実部が分母、虚部が分子。この考え方は tan の4倍角以降にも通用する(理由は後述)。
前回の「ゾクッとする式」「きれいな式」は、どちらも③から説明がつく。 tan 60° = √3 なので、 3θ = 60° のとき――あるいは 3θ = 60° ± 180° = 240° or −120° のとき†――、次の関係が成立。
tan 3θ = √3 = (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − 3 tan2 θ)
ここで 3θ = −120° or 60° or 240° つまり θ = −40° or 20° or 80°
T = tan θ と略して分母を払うと:
√3(1 − 3T2) = 3T − T3 つまり T3 − 3(√3)T2 − 3T + √3 = 0
これは T についての3次方程式。由来から明らかなように、3解は p = tan (−40°) = −tan 40°, q = tan 20°, r = tan 80° だから、それら3種の tan の値は、解と係数の関係に従う。タネはそれだけだが、下記の三つの無理数の平方和がちょうど整数 33 に等しい――というのは、琴線に触れるものがある。
tan 20° = 0.3639702… その平方 0.1324743…
−tan 40° = −0.8390996… その平方 0.7040881…
tan 80° = 5.6712818… その平方 32.1634374…
† tan は周期 180° の周期関数なので、もし θ がちょうど 180° 増加または減少しても tan θ の値は最初と同じ。
参考にした資料では、本質的に同じ3次方程式を9倍角の公式から導いていた。無駄な遠回りだが、別の意味で好奇心が湧く。こっちの経路だと、後述のように、6次式の分解が難関となる。まずは、tan の9倍角の公式をどうやって導出するか…。3倍角の公式③に③自身を入れれば機械的にできるとはいえ、それでは無味乾燥で、見通しが利かない。
(★)を計算したとき、 (tan 2θ + T)/(1 − (tan 2θ)T) の tan 2θ を、②の分数 f/g で置き換えた(ただし g = 1 − T2, f = 2T)。その結果、分子と分母がそれぞれ f/g を含む形…
(f/g + T)/(1 − (f/g)T)
…になった。それを解消すると:
分子では f/g + T が g 倍されて f + gT に置き換わる。
分母では 1 − (f/g)T が g 倍されて g − fT に置き換わる。
観察 2倍角の公式 tan 2θ = f/g が与えられたとする。 tan 2θ = tan α と T = tan θ を組み合わせて、加法定理①…
tan (α + θ) = (tan α + tan θ)/(1 − tan α tan θ) = (f/g + T)/(1 − (f/g)T)
…から3倍角の公式を作ると、2倍角の公式の分子 f に gT が足し算され、2倍角の公式の分母 g に −fT が足し算される。
4倍角以降も同じパターンが続く。
tan 3θ = f/g, tan θ = T
と置くと:
tan 4θ = tan (3θ + θ) = (tan 3θ + tan θ) / (1 − tan 3θ tan θ)
= (f/g + T)/(1 − (f/g)T) ← この分子・分母を g 倍すると…
= (f + gT)/(g − fT)
このパターンは、f, g の具体的な値とは無関係。同様にして、一般に tan の n 倍角の公式から (n+1) 倍角の公式を導出可能。
しばらくの間、プラスとマイナスの違いを無視し、符号が全部 + と仮定する。その上で (1 + T)2 = 1 + 2T + T2 のうち、両端の 1 + T2 を g、真ん中の 2T を f と想定してみる。倍角の公式②によれば、正しくは…
tan 2θ = (2 tan θ)/(1 − tan2 θ) つまり f = 2T, g = 1 − T2
…になるはずだけど、符号の違いを無視すれば、われわれの想定 f = 2T, g = 1 + T2 は事実と一致している。このとき「観察」に従い f に gT を足すと:
2T + (1 + T2)T = 3T + T3
g に fT を足すと(本来は −fT を足すのだが、今はマイナスを無視):
1 + T2 + (2T)T = 1 + 3T2
この二つの和は、トータルでは (1 + T)3 = 1 + 3T + 3T2 + T3 に等しい。それもそのはず、もともと (1 + T)2 = g + f と想定した上で、そこに gT と fT を足したんだから、結果の分子と分母の合計は:
g + f + gT + fT = (g + f) + (g + f)T = (g + f)(1 + T) = (1 + T)2(1 + T)
上記では、(1 + T)2 を展開した項のうち、T の偶数乗を含むもの(定数項、つまり整数 × T0 もその一つ)を分母 g に、奇数乗を含むものを分子 f に、それぞれ振り分けた。 T 倍によって指数は 1 増えるので、gT は T の奇数乗の項だけを含み、fT は T の偶数乗の項だけを含む。結局…
g に fT を加減したものは再び T の偶数乗の項だけを含む。
f に gT を加減したものは再び T の奇数乗の項だけを含む。
(1 + T)3 を展開した 1 + 3T + 3T2 + T3 のうち、「偶数乗」の項たち 1 + 3T2 が新しい分母になり、「奇数乗」の項たち 3T + T3 が新しい分子になる――この理論は(符号の違いに目をつぶれば)観測事実③と一致:
tan 3θ = (3 tan θ − tan3 θ)/(1 − 3 tan2 θ)
4倍角以降も同様で、符号を別にすれば、tan の n 倍角は (1 + T)n の展開になる。2倍角→3倍角→4倍角→…の公式で、係数の整数値が単純に蓄積されていくのは、特定の次数(T3 なら T3)の項の係数が、どの公式でも一定の符号を持つから。
そのことを確かめ、正しい符号を決定したい。「1倍角の公式」…
(1 + T)1 = 1 + T つまり単に tan (1θ) = T/1 = tan θ
…は、マイナスを含んでいない。マイナスの発生原因は、分母に −fT を足す操作だけ。ところが f は T の奇数乗の項だけを含み、具体例の観察によると、ここまでのところ1乗ならプラス、3乗ならマイナス(T の係数は正、T3 の係数は負)。すると −fT によって生じる T の偶数乗の項(T の指数が 1 増える)は、2乗ならマイナス、4乗ならプラスになるはず。分母 g に含まれるマイナス符号は、分子に gT を足す操作により分子にも飛び火するが、gT という積は(g の +T 倍なので)、g から見ると符号は同じ; T の指数だけが 1 増える。 g は T の偶数乗(2乗・4乗など)の項だけを含むので、gT に含まれる項は3乗ならマイナス、5乗ならプラス、等々。以下同様にループして 1・2・3・4乗, 5・6・7・8乗, … の符号は + − − +, + − − +, … の繰り返し。
tan の n 倍角の符号規則 T = tan θ の指数が 4 の倍数、または 4 の倍数より 1 大きいなら、係数は正、それ以外では係数は負。
〔例1〕 3倍角の公式③から、4倍角の公式を導く。 tan 3θ = f/g, f = 3T − T3, g = 1 − 3T2 と置くと:
tan 4θ = (f + gT) / (g − fT) ← 前記「観察」
= (3T − T3 + T − 3T3) / (1 − 3T2 − 3T2 + T4)
= (4T − 4T3) / (1 − 6T2 + T4)
4乗の展開(これについては後述)…
(1 + T)4 = 1 + 4T + 6T2 + 4T3 + T4
…と比較すると奇数乗が分子・偶数乗が分母になり、符号は上記の規則に合致。
〔例2〕 逆に言うと、n 乗の展開(二項係数)が分かるなら、いきなり欲しい n 倍角の公式を導ける。漸化式のように順々に進める必要はない。後述の方法により、
(1 + T)5 = 1 + 5T + 10T2 + 10T3 + 5T4 + T5
…であることは簡単に分かるので、tan 5θ = (5T − 10T3 + T5) / (1 − 10T2 + 5T4) となる。検算として、例1の結果を利用し tan 4θ = f/g, f = 4T − 4T3, g = 1 − 6T2 + T4 と置くと:
tan 5θ = (f + gT) / (g − fT)
= (4T − 4T3 + T − 6T3 + T5) / (1 − 6T2 + T4 − 4T2 + 4T4)
= (5T − 10T3 + T5) / (1 − 10T2 + 5T4)
虚数単位 i は i2 = −1, i3 = −i, i4 = 1 を満たすので (Ti)1 = +T1i, (Ti)2 = −T2, (Ti)3 = −T3i, (Ti)4 = +T4 となり、tan の n 倍角は、形式的には (1 + Ti)n を展開して、偶数乗の項を分母・奇数乗の項を分子にすることに当たる(虚数単位 i を分子に含めない)。
tan の n 倍角の公式 形式的に (1 + i tan θ)n = g + fi とすると tan nθ = f/g
↑あくまで形式的な話。角度が実数のとき tan の値はもちろん実数。
9倍角の公式が欲しいとき (1 + T)9 ないし (1 + i tan θ)9 を実際に掛け算して展開する必要はない。単に二項係数を書けばいい。具体的な二項係数が分からない場合――理論的には二項定理で係数だけ計算すればいいのだが――、指数が小さいときは、次のような三角状の図を書くのが手っ取り早い。
1 1 1 2 1 1 3 3 1 1 4 6 4 1 よろしい 1 5 10 10 5 1 古都統合 1 6 15 20 15 6 1 ジャムいちごの煮汁 1 7 21 35 35 21 7 1 なんか太~い産後 1 8 28 56 70 56 28 8 1 蜂!庭で転んで難渋 1 9 36 84 126 126 84 36 9 1 来る!見ろ蜂よ!一匹踏む
(x + y)9 = x9 + 9x8y + 36x7y2 + 84x6y3 + 126x5y4 + 126x4y5 + 84x3y6 + 36x2y7 + 9xy8 + y9
(1 + T)9 = 1 + 9T + 36T2 + 84T3 + 126T4 + 126T5 + 84T6 + 36T7 + 9T8 + T9
昇順で、奇数乗(偶数番目)を分子に、偶数乗(奇数番目)を分母に書き、符号は先頭を正(無記入)にして正負を交互に:
tan 9θ = (9T − 84T3 + 126T5 − 36T7 + T9)/(1 − 36T2 + 126T4 − 84T6 + 9T8)
われわれは θ = ±20°, ±40° などの tan に興味がある。それに対応する 9θ は ±180°, ±360° などで、そのとき tan 9θ = 0 になるから、tan 9θ = 上の分数 = 0 を解く方向でも、前記と同じ結論が得られるだろう。この分数の分母は 0 になり得るが、そのとき tan 9θ = 未定義; これが tan 9θ = 0 と両立することはないので:
tan 9θ = 0 ⇔ 分子 = 0 ⇔ T(9 − 84T2 + 126T4 − 36T6 + T8) = 0
このうち、自明な解 T = tan θ = 0 は θ = 0° の場合に当たる。 θ = ±120° のときも tan 9θ = 0 で、そのとき T = ∓√3 なので、丸かっこ内の8次式は (T + √3)(T − √3) = T2 − 3 で割り切れる。割り算を実行すると商は T6 − 33T4 + 27T2 − 3。この6次式は、事実としては
(T3 + 3(√3)T2 − 3T − √3)(T3 − 3(√3)T2 − 3T + √3)
に等しい。このような分解は、可能であるとしても一般には難しそうに思える。この部分、どう進めるのが良策か…。
この6次式さえ分解できれば、前記の「③から説明がつく」に道がつながる。この6次式、解の平方についての3次方程式と見ることができる――「ゾクッとする式」で現れた3解の平方和 33 が、4次の係数として出現している。「ゾクッとする式」は、ここから直ちに導かれる。さらに、
tan2 20° tan2 40° tan2 80° = 3
ということも分かるので、二つの3次式に分解できるとすれば、それらの定数項は ±√3 だろう。こうした情報を積み重ねることで、うまく分解できるのかもしれない。(3倍角の公式から直接3次方程式にできるのに)9次にしてしまったせいで歩きにくい道に迷い込んでしまったが、入り口の部分では tan の多倍角で遊べたので、今回はこれで良しとしたい。続きは次回に。
(付録) sin, cos の加法定理の導出。特に面白い内容ではないが、本文の内容に必要なので、一応付記。
作図から、次が成り立つ:
cos2 θ + sin2 θ = 1 ド
cos (90° − θ) = sin θ レ
sin (90° − θ) = cos θ ミ
cos (−θ) = cos θ そして sin (−θ) = −sin θ ファ
単位円上で、方位 A の点 P (cos A, cos A) と方位 B の点 Q (cos B, sin B) を考える。 PQ の距離の平方は:
|PQ|2 = (cos A − cos B)2 + (sin A − sin B)2
2個の平方を展開すると、ドで θ = A としたものと θ = B としたものから、整数 2 が生じる。整理すると:
|PQ|2 = 2 − 2(cos A cos B + sin A sin B) ソ
原点を O とすると ∠POQ = A − B なので、Q が (0, 1) にある場合、P は (cos (A − B), sin (A − B)) にあって:
|PQ|2 = (cos (A − B) − 1)2 + (sin (A − B) − 0)2 = 2 − 2 cos (A − B) ラ
平方を展開後、ドで θ = A − B としたものを使った。ラはソと等しいので、右辺の比較から:
2 − 2 cos (A − B) = 2 − 2(cos A cos B + sin A sin B)
従って cos (A − B) = cos A cos B + sin A sin B シ
レで θ = α + β と置くと:
sin (α + β) = cos (90° − (α + β)) = cos (90° − α − β)
これはシの左辺で A = 90° − α, B = β としたものなので、シの右辺から:
sin (α + β) = cos (90° − α) cos β + sin (90° − α) sin β
レ・ミを使うと:
sin (α + β) = sin α cos β + cos α sin β 「最高コスプレサイン会」
一方、シで A = α, B = −β としてファを使うと:
cos (α − (−β)) = cos α cos (−β) + sin α sin (−β) つまり
cos (α + β) = cos α cos β − sin α sin β 「ここでさっさと符号を変える」
sin をサ、cos をコと読むと、サコ・コサとココ・ササだが、後者では符号が変わる。本文に戻る。
2024-02-13 ある種の6次式について 続々・ゾクッと
Morrie の法則 cos 20° cos 40° cos 80° = 1/8 と関連して、次の面白い関係を見つけた。
tan 10° tan 30° tan 50° tan 70° = 1/3
こんなのとか…
tan2 10° + tan2 30° + tan2 50° + tan2 70° = 28/3
さて θ = ±20°, ±40°, ±80° に対する tan θ は、その3倍の角度の tan が分かっているのだから、3倍角の公式を適用すれば、直ちに3次方程式の問題となる。遠回りになるが、9倍の角度を経由させることもでき、その場合、次の6次式が出てくる。
T6 − 33T4 + 27T2 − 3 = 0
この6次式の分解を理路整然と行いたい。 y = T2 と置いた3次式が有理数の根を持てば話は早いが、この例はそうではない。変数変換 T = w/(√3) によって、有理係数の範囲で分解可能になるけど、少々天下り的。もっと自然な方法はないものか…
以下、T の代わりに x と書く。
アイデア F(x) = x6 − 33x4 + 27x2 − 3 は、六つの相異なる実数の根(零点)…
x = ±tan 20°, ±tan 40°, ±tan 80°
…を持つ。「絶対値が同じで符号が反対」の3ペア。究極的には、次のように1次式の積に分解される:
F(x) = (x + tan 20°)(x − tan 20°)(x + tan 40°)(x − tan 40°)(x + tan 80°)(x − tan 80°)
従って、少なくとも理論上、F(x) は「一方の3次式は根が p, q, r で、他方の3次式は根が −p, −q, −r」という二つの3次式の積に分解可能。例えば、次の角かっこ内を展開した二つの3次式を順に f(x), g(x) とすると、f(x) の根は p = tan 20°, q = −tan 40°, r = tan 80° となり、g(x) の根は −p, −q, −r となる:
[(x − tan 20°)(x + tan 40°)(x − tan 80°)][(x + tan 20°)(x − tan 40°)(x + tan 80°)]
解と係数の関係から、二つの3次方程式の2次の係数は −(p + q + r) と (p + q + r)、対応する定数項はそれぞれ −pqr と pqr、そして1次の係数はどちらも pq + qr + rp。従って L, M, N を未知の係数・定数として、次の分解が予期される。
x6 − 33x4 + 27x2 − 3 = (x3 + Lx2 + Mx + N)(x3 − Lx2 + Mx − N) ☆
ここで M = pq + qr + rp の符号は一定。 L, N には符号の曖昧さがある。便宜上 N ≥ 0 としよう†。
† pqr ≥ 0 なら p, q, r は ☆ の後半の3次式の根で L = p + q + r となり、pqr < 0 なら p, q, r は前半の3次式の根で L = −(p + q + r) となる。
実践 ☆ の右辺を次のように展開。
[(x3 + Mx) + (Lx2 + N)][(x3 + Mx) − (Lx2 + N)]
= (x3 + Mx)2 − (Lx2 + N)2
= (x6 + 2Mx4 + M2x2) − (L2x4 + 2LNx2 + N2)
= x6 + (2M − L2)x4 + (M2 − 2LN)x2 − N2
定数項の比較から N = √3。係数の比較から:
2M − L2 = −33 ‥‥①
N = √3 なので M2 − 2(√3)L = 27 ‥‥②
②から:
L = (M2 − 27)/(2√3) ‥‥③
それを①に代入:
2M − (M2 − 27)2/12 = −33
両辺を −12 倍し、展開して整理すると:
M4 − 54M2 − 24M + 32⋅37 = 0 ‥‥④
④に有理数解があるとすれば M = ±1, ±3, ±9 またはそれらの 37 倍だが、|M| = 9 は既に過大なので、候補は最初の四つ。試すと一つの解 M = −3 が見つかる。そのとき③から L = −3√3 となり、次の分解を得る。
x6 − 33x4 + 27x2 − 3 = (x3 − 3(√3)x2 − 3x + √3)(x3 + 3(√3)x2 − 3x − √3)
〔補足〕 6次方程式 x6 − 33x4 + 27x2 − 3 = 0 で y = x2 と置くと、p2, q2, r2 を3解とする3次方程式 y3 − 33y2 + 27y − 3 = 0 を得る。解と係数の関係から 3 = p2q2r2 = (pqr)2 なので、N = √3 という事実は初めから確定的。
3組の解(符号だけ反対)を持つ6次式は、もし L, M の少なくとも一方が有理数なら、このような手順で3次式の積に分解可能かもしれない――係数の決定は4次方程式の問題だが、その4次方程式が有理係数か、または有理係数に変換可能で、しかも有理数解を持つなら、淡々と進められるだろう。
4次方程式④には M = −3 の他にも三つ解がある。「係数の少なくとも一方は有理数」という制限を外すと、この形式の分解は、上記を含め理論的には合計4パターン可能(いずれも他方の3次式の根は −p, −q, −r):
〔I〕 一方の3次式の根が p = tan 20°, q = tan 40°, r = tan 80°
〔II〕 一方の3次式の根が p = −tan 20°, q = tan 40°, r = tan 80°
〔III〕 一方の3次式の根が p = tan 20°, q = −tan 40°, r = tan 80°
〔IV〕 一方の3次式の根が p = tan 20°, q = tan 40°, r = −tan 80°
tan 20° = 0.36…, tan 40° = 0.83…, tan 80° = 5.67… を使って M = pq + qr + rp を求めると I, II, III, IV において、それぞれ M = 7.12…; 2.38…; −3; −6.51… なので、上記の分解は III に当たる。それ以外の分解は実用的ではない(有理数に √3 を添加しただけの係数の範囲では不可能)。
次のように整理できる。 P = tan 20°, Q = tan 40°, R = tan 80° と略すと:
x6 − 33x4 + 27x2 − 3 = (x3 + λx2 + μx + √3)(x3 − λx2 + μx − √3)
ここで 〔I〕 λ = P + Q + R = 6.87435168…, μ = PQ + QR + RP = 7.12835554…
または 〔II〕 −λ = −P + Q + R = 6.14641121…, μ = −PQ + QR − RP = 2.38918542…
または 〔III〕 −λ = P − Q + R = 5.19615242… = 3√3, μ = −PQ − QR + RP = −3
または 〔IV〕 −λ = P + Q − R = −4.46821195…, μ = PQ − QR − RP = −6.51754096…
〔注〕 解と係数の関係から、次のようになる。 I の場合 pqr = √3 なので、3解は後半の3次式 x3 − λx2 + μx − √3 の根。従って、3解の和は λ。それ以外の場合 pqr = −√3 なので、3解は前半の3次式 x3 + λx2 + μx + √3 の根。従って、3解の和は −λ。この分解は一意的ではない: 二つの3次式は「素数」ではなく、1次式の三つの積なので、3次式の作り方には複数のパターンがある。
結局、x3 − 3(√3)x2 − 3x + √3 = 0 の3解は p = tan 20°, q = −tan 40°, r = tan 80° であり、従って:
−tan 20° tan 40° tan 80° = −√3
−tan 20° tan 40° − tan 40° tan 80° + tan 80° tan 20° = −3
tan 20° − tan 40° + tan 80° = 3√3 等々
すごい遠回りになったが、前々回と同じ結論に至る。
上記では ① 2M − L2 = −33 と ② M2 − 2(√3)L = 27 を前提に、②を L について解き、それを①に代入した。この手順だと L = (M2 − 27)/(2√3) を①に代入したとき根号が消えて都合がいい。もし逆に①から M = (L2 − 33)/2 を得て、それを②に代入した場合、こうなる:
(L2 − 33)2/4 − 2(√3)L − 27 = 0 整理して L4 − 66L2 − 8(√3)L + 981 = 0
この4次方程式は、比較的解きにくい。根号を除去するため L = w/(√3) と置くと†:
w4/9 − 66w2/3 − 8w + 32⋅109 = 0 両辺を 9 倍して
w4 − 198w2 − 72w + 34⋅109 = 0
有理数解があれば w = ±1, ±3, ±9, ±27, ±81 またはそれらの 109 倍だが、w = |27| だと過大なので、候補は最初の六つ。試すと解 w = −9 を得て、L = w/(√3) = −3√3 となり、従って M = (L2 − 33)/2 = −6/2 = −3。当然ながら、前記の結果と一致。
† 代わりに L = (√3)z と置くと、9z4 − 198z2 − 24z + 981 = 0。これを z4 − 22z2 − (8/3)z + 109 = 0 として、分数をなくすため z = w/3 と置くのなら、最初から L = (√3)z = (√3)(w/3) = w/(√3) と置いたのと同じ。 9z4 − 198z2 − 24z + 981 = 0 を直接解く選択肢はある(981 = 32⋅109)。有理数解があるなら z = ±1, ±3, ±9, ±1/3, ±1/9 またはそれらの 109倍。試すと解 z = −3 を得て、L = (√3)z = −3√3 となる。
p = tan 20°, q = −tan 40°, r = tan 80° を解とする x3 − 3(√3)x2 − 3x + √3 = 0 においても(あるいは分解前の6次式などにおいても)、変数変換 x = w/(√3) によって係数を有理化できる:
w3 − 9w2 − 9w + 9 = 0 (★★)
その3解は p, q, r をそれぞれ √3 倍したもの。
同様のことを6倍角の公式からやってみる。 T = tan θ と略すと:
tan 6θ = (6T − 20T3 + 6T5)/(1 − 15T2 + 15T4 − T6)
6θ = 120° or −60° のとき tan 6θ = −√3 なので:
6T − 20T3 + 6T5 = −√3(1 − 15T2 + 15T4 − T6)
(√3)T6 − 6T5 − 15(√3)T4 + 20T3 + 15(√3)T2 − 6T − (√3) = 0 ‥‥⑤
T = w/(√3) つまり
w = (√3)T = (√3) tan θ と置いて、両辺を 9√3 倍すると:
w6 − 6w5 − 45w4 + 60w3 + 135w2 − 54w − 27 = 0
左辺の6次式は、6種類の根 w = (√3) tan θ を持つ。従って、それに対応する6種類の tan θ があり、6種類の角度 θ がある。――6種類の θ とは、具体的にどういう角度か?
式の由来から tan 6θ = −√3 なので、一番明らかな角度は 6θ = −60° つまり θ = −10° だろう。だが tan (−60°) = tan 120° なので、同じ理屈から 6θ = 120° つまり θ = 20° も解を与える。さらに tan (−60°) = tan (−240°) でもあるので、 6θ = −240° つまり θ = −40° も解を与える。以上の三つの角度は 6θ = −60° or −60° ± 180° に対応する。――同様に 6θ = −60° ± 360° に対応する θ = 50° と θ = −70° も解を与え、 −60° ± 540° に対応する θ = 80° or −100° も解を与える。ただし、この最後のやつは、 80° ≠ −100° といえども tan 80° = tan (−100°) なので、 tan θ の値としては「1種類」: θ = 80° と θ = −100° は tan から見れば「同じ種類の角度」だ。
以上で6種類の根に対応する tan θ、言い換えれば6種類の角度 θ が出そろった。(さらにこれ以上、例えば 6θ = −60° ± 720° つまり θ = 110° or −130° を考えても、それらに対応する tan θ は θ = −70° or 50° のときの tan θ と同じ; 既出の根と同じ値の根がリピートするだけで、新しい根は出てこない。)
6種の根のうち三つは、 θ = 20°, 80°, −40° のときの w = (√3) tan θ であり、(★★)の3根と一致。ゆえに、この6次式は(★★)左辺の3次式で割り切れる。割り算を実行すると:
(w6 − 6w5 − 45w4 + 60w3 + 135w2 − 54w − 27) ÷ (w3 − 9w2 − 9w + 9) = w3 + 3w2 − 9w − 3
つまり、この6次方程式は次のように分解される:
w6 − 6w5 − 45w4 + 60w3 + 135w2 − 54w − 27 = (w3 − 9w2 − 9w + 9)(w3 + 3w2 − 9w − 3) = 0
商として現れる新しい因子 w3 + 3w2 − 9w − 3 の「新しい」3根は、上述の6種の根のうち、(★★)の根でもある3種以外だから、 tan (−10°) = −tan 10°, tan 50°, tan (−70°) = −tan 70° をそれぞれ √3 倍したもの。解と係数の関係から、3解の和について:
√3(−tan 10° + tan 50° − tan 70°) = −3 つまり tan 10° − tan 50° + tan 70° = √3
3解の積について:
3√3 tan 10° tan 50° tan 70° = 3 つまり tan 10° tan 50° tan 70° = 1/(√3) = tan 30°
最後の両辺を tan 30° 倍すると、次のチャーミングな等式を得る。
tan の Morrie 風 tan 10° tan 30° tan 50° tan 70° = 1/3
w3 + 3w2 − 9w − 3 に相棒の因子 w3 − 3w2 − 9w + 3 を掛けると w6 − 27w4 + 99w2 − 9。 今 w = (√3)T と置いて変数を元に戻し 27 で割ると、最初と同じタイプの6次式を得る:
T6 − 9T4 + 11T2 − 1/3 (♯)
根は ±tan 10°, ±tan 50°, ±tan 70° に等しい。
ゾクッとする式の仲間 tan2 10° + tan2 50° + tan2 70° = 9
従って tan2 10° + tan2 30° + tan2 50° + tan2 70° = 28/3。
〔追記〕 6次式 w6 − 27w4 + 99w2 − 9 とその分解については「tan 10° に関連する問題」参照。
変数変換なしの強行突破も可能(便利ではない)。⑤の両辺を √3 で割ると:
T6 − 2(√3)T5 − 15T4 + (20(√3)/3)T3 + 15T2 − 2(√3)T − 1 = 0
左辺は T3 − 3(√3)T2 − 3T + √3 で割り切れ、商は:
T3 + (√3)T2 − 3T − 1/(√3)
この3次式の根が −tan 10°, +tan 50°, −tan 70° になる。
〔付記〕 この式で T = w/(√3) と置き 3√3 倍すれば、前記 w3 + 3w2 − 9w − 3 に。もし T = (√3)z と置き 3√3 で割れば z3 + z2 − z − 1/9 となる――その根は −tan 10°, +tan 50°, −tan 70° をそれぞれ √3 で割ったもの。
相棒の因子を掛けると、再び(♯)を得る:
(T3 + (√3)T2 − 3T − 1/(√3))(T3 − (√3)T2 − 3T + 1/(√3)) = T6 − 9T4 + 11T2 − 1/3
ところで tan 70° の数の並びは面白い(小数の最初の7桁は 4 と 7 だけ)。 tan 80° と並べると、全体的に自然対数の底に似ている。
10進展開の謎
e = 2.71828 18284 59045… (フナ一羽二羽一羽二羽・至極惜しい)
tan 70° = 2.74747 74194 54622… (フナ夜な夜な・南洋行くよ)
tan 80° = 5.67128 18196 17709… (コロナ1~2羽・いっぱい苦労)
最後に F(x) = x6 − 33x4 + 27x2 − 3 = 0 を直接解く。 y = x2 と置いて:
y3 − 33y2 + 27y − 3 = 0
2次の項をなくすため y = z + 11 として:
z3 − 336z − 2368 = 0
関連する2次方程式 u2 − 2368u + 1123 = 0 を解いて:
u = 1184 ± 32√−3
従って:
y = (1184 + 32√−3)1/3 + (1184 − 32√−3)1/3 + 11
= 4[((37 + √−3)/2)1/3 + ((37 − √−3)/2)1/3] + 11
この主値 y = 32.1634374… は tan2 80° で、その平方根が ±tan 80° に当たり、形式的には他の解も得られる。だが、この平方根を代数的な変形で簡約するのは困難。
因子の3次式(★★)から再出発。
w3 − 9w2 − 9w + 9 = 0
w = v + 3 と置いて2次項をなくす:
v3 − 36v − 72 = 0
関連する2次方程式 u2 − 72u + 123 = 0 を解いて:
u = 36 ± 12√−3
従って:
w = (36 + 12√−3)1/3 + (36 − 12√−3)1/3 + 3
x = w/(√3) なので、こうなる†:
x = (4(√3) + 4i)1/3 + (4(√3) − 4i)1/3 + √3
† 右辺各項を √3 で割った。最初の2項については (…)1/3 の中身を 3√3 で割った。
主値 x = 5.6712818… が tan 80° に当たり、数値的には y = x2。これらの立方根から 2 を(立方根の内側から 8 を)くくり出すと、次のように、立方根(1/3乗)の内側は 1 の原始12乗根になる(一方は主値、他方はその共役)。従って、下記の二つの立方根は、どちらも 1 の原始36乗根に当たり(一方は主値、他方はその共役)、いずれも実部は cos 10° = sin 80° に等しく、虚部は符号が反対。 Cardano 形式のやぶを抜け、思いがけない結論に!
tan 80° = 3√[4(√ + 4i )] + 3√[4(√ − 4i )] + √3
= 2[([(√3) + i]/2)1/3 + ([(√3) − i]/2)1/3] + √3 = 4 cos 10° + √3 = 4 sin 80° + √3
Morrie の法則について書いたときの参考資料の一つでは†、9倍角の公式を使って 20°, 40°, 80° に対する三角関数の値を検討している(2024年2月現在)。その方法の難点は、9倍角の公式を用意する手間がかかること; 9次式→6次式→3次式の分解の手間が大きいこと; 分解ができたとき I, II, III, IV のどれになったのか見通しが悪く、数値的に確かめる必要があること。3倍角の公式経由なら、9倍角の公式は必要なく、分解の手間もなく、扱っている3次式の根が何なのか最初から明確。だが
† https://fr.wikipedia.org/wiki/Formules_trigonom%C3%A9triques_en_k%CF%80/9