デザートからの3次方程式入門(遊びの数論27)

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「デザートから始める3次方程式入門」


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2024-05-05 あんみつ・バナナ・チョコレート デザートから始める3次方程式入門

#遊びの数論 #ジラルの公式 #3次方程式

(a + b + c)3 の展開やら、
  a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca)
…のようなものは、一見手ごわそう? 無理に「公式として暗記」しなくても、背後にある仕組みが分かれば案外、簡単なんですよ。ジラルの公式・対称多項式の基本操作だけでなく、3次方程式の解法の研究にも利用でき、有用性も抜群。

学校的設定に慣れさせられてしまった人は、2次方程式⇒解の公式という固定観念から、3次方程式というと「複雑怪奇なカルダノの公式⇒覚えられない⇒自分には無理」と思い込んでしまうかもしれませんが、実際には、3次方程式を2次方程式に帰着させる操作は、2次方程式の解の公式自体より易しいのです。

その準備として、「あんみつ・バナナパフェ・チョコパフェの 3 種類のデザートを選べるよ♪」といううれしい例え(?)の「超! 入門」から、「冒険の入り口となる恒等こうとう式」まで、てきとーに話を進めてみます。

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実は「ジラルその3」の「A定食・B定食・C定食」という例えと同じことだが…。月曜と火曜に、好きなデザートを選べるとしよう。メニューは 3 種類。
  a あんみつ
  b バナナパフェ
  c チョコレートパフェ

(a + b + c)2 の展開は、とりあえず地道にやるなら、バナナパフェとチョコパフェ b + c を P (パフェたちの箱)にまとめて入れて:
  (a + b + c)2 = (a + P)2 = a2 + 2aP + P2
ここでパフェの箱に入れておいたバナナパフェとチョコパフェを取り出すと:
   = a2 + 2a(b + c) + (b + c)2
   = a2 + (2ab + 2ac) + (b2 + 2bc + c2)
   = a2 + b2 + c2 + 2ab + 2ac + 2bc

一度はやって納得する必要がある計算ではあるが、毎回こんなことをしていては日が暮れてしまうので、別の角度から眺めてみましょう。月曜・火曜に、特定の同じデザートメニュー(例: あんみつ)を選ぶ方法は、一つのパターンしかありません: 「月曜にあんみつ、火曜にあんみつ」。月曜・火曜に、特定の2種類のデザートメニュー(例: あんみつとチョコパフェ)を選ぶ方法は、二つのパターンがあります: 「月曜にあんみつ、火曜にチョコパフェ」でもいいし「月曜にチョコパフェ、火曜にあんみつ」でもいい。――この当たり前の事実に思いを致すと、上の展開公式は「計算するまでもなく当たり前」でしょう。

月曜の選択火曜の選択代数表現
あんみつあんみつaa
バナナパフェab
チョコパフェac
バナナパフェあんみつba
バナナパフェbb
チョコパフェbc
チョコパフェあんみつca
バナナパフェcb
チョコパフェcc

「あんみつ・あんみつ」は aa の 1 パターンしかないけど、「あんみつ・バナナ」は ab と ba の 2 パターン(掛け算の交換法則から ab = ba である)。同様に bb は 1 回、 cc は 1 回しかないけど、 bc = cb と ac = ca は、それぞれ 2 回ずつ。他方において、分配法則によれば:
  (a + b + c)(a + b + c) = a(a + b + c) + b(a + b + c) + c(a + b + c)
   = (aa + ab + ac) + (ba + bb + bc) + (ca + cb + cc)

このことから、次の恒等式は「当たり前じゃん!」と思えるでしょう? (最初は何を言っているのか意味不明かもしれないが、ホントに単純なことなんで、ちょっと考えてみて。)

(I) 初めの一歩 (a + b + c)2 = a2 + b2 + c2 + 2ab + 2bc + 2ca = a2 + b2 + c2 + 2(ab + bc + ca)

3項の場合に限っては a→b→c→a→b→c と循環的に書いた方が便利なので、ac の代わりに ca としている。 ab などの係数 2 が、(a + b)2 = a2 + 2ab + b22 と同じである理由が、直観的に明らかと感じられるだろうか…。公式を丸暗記した方が手っ取り早いようだけど、それでは暗記の苦労の割に応用が利かない上、忘れてしまったらそれまで。直接の応用としては…

(I.1) 2乗和の抽出 a2 + b2 + c2 = (a + b + c)2 − 2ab − 2bc − 2ca

(I.2) 引き過ぎちゃった式 (a + b + c)2 − 3ab − 3bc − 3ca = a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca

(I.2) の右端の形――3項の3乗和から「2項ずつの積」を引いたもの――を仮に「長い6項式」と呼ぶことにしよう。 (I.1) のように、「余計なもの(大抵2倍されている)を引き算して、2乗和を抽出する」というのは便利なテクニックで、さまざまな場面で使われるものだが、この場合、(2倍ずつ引けばちょうどよく抽出できるのに)あえて3倍引くと、(I.2) のように「長い6項式」が得られる(ab, bc, ca を1回ずつ余計に引き算するのだから、当然だろう)。恒等式 (I.2) はそんなに重要ではないが、以下の話では一つの鍵となる。

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もっと重要な応用の一つが (a + b + c)3 の展開。 aaa, bbb, ccc が 1 回しか出ないことは、すぐ分かる。 aab や abb は 3 回ずつ発生する(なぜでしょう?)。 abc の発生回数、つまり月・火・水曜に毎日別のデザートを食べると決心した場合にそれを実行するパターンの数: 月曜の選択肢は「あんみつ・バナナパフェ・チョコパフェ」の三つ、火曜の選択肢は「月曜に選ばなかった二つのどちらか」なので二つ、水曜の選択肢は「月曜にも火曜にも食べてないデザート」なので一つしかない。すなわち 3! = 3 × 2 × 1 = 6 であり、実際に計算するまでもなく、次の展開が見える。

(II) 二歩目の式 (a + b + c)3 = a3 + b3 + c3 + 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 6abc

真ん中にある係数 3 が、 (a + b)3 = a3 + 3(a2b + ab2) + b33 と「同じ」である理由も考えてみたい。

(II.1) 3乗和の抽出 a3 + b3 + c3 = (a + b + c)3 − 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) − 6abc

毎回、具体的に「あんみつ」とかを思い浮かべるのはかえって面倒なので、慣れたら補助輪を外し、純粋に恒等式として考えよう。

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超入門コーナーはこのくらいにして、ちょっぴり高度(?)な掛け算…
  (a + b + c)(ab + bc + ca)
   = a(ab + bc + ca) + b(ab + bc + ca) + c(ab + bc + ca)
   = (aab + abc + aca) + (bab + bbc + bca) + (cab + cbc + cca)
積の順序を整えると:
   = (aab + abc + caa) + (abb + bbc + abc) + (abc + bcc + cca)
   = (a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) + 3abc

右端の 3abc を移項して、左辺と右辺を入れ替えると:

(III) 単純6項式のレシピ a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2 = (a + b + c)(ab + bc + ca) − 3abc

3項3乗系の対称式では、よく a2b + ab2 + … の形の 6 項が発生する。 (II) でも、発生している。この形を仮に「単純6項式」と呼ぶと、 a + b + c と ab + bc + ca と abc という三種類の基本対称式の組み合わせとして、上記右辺のように「単純6項式」を表現できる。その根拠は何かといえば…
  (a + b + c)(ab + bc + ca)
…を展開して生じる 9 項は、「単純6項式」と比べて abc が 3 回、過剰なので、それを引いてやればいい。なぜ基本対称式で表現できると、うれしいのか。ダイレクトな応用は「解の3乗和」の処理だけど、それとは別に、次のようなことも…。

純粋3乗和の抽出 (II.1) からスタートします。
  a3 + b3 + c3 = (a + b + c)3 − 3(a2b + ab2 + b2c + bc2 + c2a + ca2) − 6abc
右辺に現れた「単純6項式」を (III) で処理すると:
   = (a + b + c)3 − 3[(a + b + c)(ab + bc + ca) − 3abc] − 6abc
簡潔化のため a + b + c を S(シングル), ab + bc + ca を D(ダブル), abc を T(トリプル)と略すと:
   = S3 − 3[SD − 3T] − 6T
   = S3 − 3SD + 9T − 6T
   = S3 − 3SD + 3T
   = S[S2 − 3D] + 3T
略したのを元に戻すと:
   = (a + b + c)[(a + b + c)2 − 3(ab + bc + ca)] + 3abc
   = (a + b + c)[(a + b + c)2 − 3ab − 3bc− 3ca] + 3abc
この [ ] 内は (I.2) の「引き過ぎちゃった式」だから、「長い6項式」に等しい。
   = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca) + 3abc

この右端の 3abc を移項して、次の結果を得る。

冒険の入り口となる恒等式 a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca)

言葉で述べると: 「3項の立方和」から「3項の積の3倍」を引いたものは、「3項の和」と「長い6項式」の積に等しい

「歴史の年号や用語」のように「公式を文字列として記憶する」のではなく(←忘れちゃったらアウト)、導出の流れを納得いくまで検討しよう(←結果を忘れても、いつでも心の中で再構成できる)。

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この一見、無味乾燥な恒等式から、いろいろな面白いことが出てくる。その一つが、3次方程式の解法。いわゆる Cardano の公式の伝統的な導出法と比べると、この経路の方がいくぶん分かりやすいかもしれない。――それを別にしても、上記のさまざまな小技・恒等式は、解と係数の関係などの研究では基本ツールとなる。例えば、もし (a + b + c)3 についてまだもやもやがあるとしたら、「あんみつ・バナナパフェ・チョコパフェ」の27通りの選択を一覧表に整理してみれば、一点の曇りもなく全てを見通せるだろう。

ジラルの公式では (a + b + c)4 や (a + b + c + d)4 も扱う(さすがにそれらは、基礎というより少々マニアックな事柄だが)。比較で言えば (a + b + c)3 や3乗和の抽出くらいは、それほど面倒なことでもなく、いろんな場面で役立つこともあるだろう。このコースからの3次方程式の冒険は、そのうち書く予定。準備だけしといて、本体がないとは、いいかげんだな。だから「てきとーに」って言ったじゃん!w

下に続く。

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2024-05-06 お菓子で分かる ☆ 3次方程式の解法 ココナツ・カシュー・チア

#遊びの数論 #3次方程式

あんみつ・バナナ・チョコレート」の…
  a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca)
…なんていう変な式が、一体どう3次方程式の解法と関係するというのでしょうか?

これは恒等こうとう式――つまり a, b, c に何を入れても成り立つ式。何を入れてもいーんだから、ちょっと c = x としてみましょう。すると、左辺はこうなりますよね?
  a3 + b3 + x3 − 3abx
項の順序を並び替えると…
  x3 − (3ab)x + (a3 + b3)  《ココナツ》

おや…突然、3次方程式っぽくなってきたぞ!?

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c = x としたとき、同じ恒等式の右辺は、こう。
  (a + b + x)(a2 + b2 + x2 − ab − bx − xa)  《カシュー》

恒等式なんだから a, b, x がどんな値を取ろうと、ココナツとカシューは等しい。

ポイント a, b, x をどう設定しても、ココナツとカシューは値が同じ!

この等式では a, b, x の設定は自由なんだけど、自由にあれこれやってるうちには、たまたま x の値が −a − b に等しいってことも、起きるかもしれないよね。ってゆーか「自由」なんだから、意図的にそう設定しても、どこからも文句は出ない。――注目すべき事実は、 x が −a − b に等しいとき、カシューの値が 0 になるってこと。だって、そのとき…
  a + b + x = a + b + (−a − b) = 0
…じゃん? ってことは、その場合、カシューの値は…
  (a + b + x)(a2 + b2 + x2 − ab − bx − xa) = (0)(a2 + b2 + x2 − ab − bx − xa) = 0
二つ目の丸かっこ内〔長い6項式〕がどーゆー値になるかはともかく、 0 倍されちまうんだから、積は 0。

x = −a − b のときカシューの値は 0。ココナツとカシューは等しいので、そのときココナツの値も 0。言い換えると:
  x = −a − b なら x3 − (3ab)x + (a3 + b3) = 0
さらに言い換えると:
  3次方程式 x3 − (3ab)x + (a3 + b3) = 0 の一つの解は x = −a − b

かくしてわれわれは、3次方程式の秘孔を突いた。「おまえは、もう解けている…」

〔例1〕 a = 2, b = 3 とすると、 a3 = 23 = 8, b3 = 33 = 27 なので、ココナツは:
  x3 − (3ab)x + (a3 + b3) = x3 − (3⋅2⋅3)x + (8 + 27) = x3 − 18x + 35
ココナツ・カシュー理論(?)によると、3次方程式 x3 − 18x + 35 = 0 の一つの解は x = −a − b = −2 − 3 = −5 となる。本当だろうか。試してみると…
  (−5)3 − 18⋅(−5) + 35 = −125 + 90 + 35 = 0
おおおっ、合ってるじゃん!

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だが、いろいろな疑問が生じるかもしれない。そもそも3次方程式というものは、一般には、
  Gx3 + Hx2 + Px + Q = 0
…という形をしてるもんである。ココナツ・カシューでは G = 1 に決め打ちされている上、 x2 の項がない(H = 0)。つまり、上の方法は G = 1, H = 0 という限定的な場合には通用するけれど、一般の3次方程式には通用しないのではないか?

心配ご無用。3次の係数 G については、単に与えられた式の両辺を G で割れば直ちに 1 になるのだから、最初から 1 になってると考えても、差し支えない。さらに、簡単な変数変換によって 2 次の項を消せるので(H = 0 にできるので)、これも最初から無いものと考えて差し支えない。 2次項 H の消し方は、3次方程式の必須テクニックなので後できちんと検討するけど、結論から言えば、単に変数から H の3分の1を引くだけ。

〔参考のための例〕 t についての3次方程式 t3 + 6t2 − 10t + 20 = 0 が与えられたとすると t = x − 2 と置くだけで、機械的な単純計算によって、2次項のない形 x3 − 22x + 56 = 0 が得られる(t = x − 2 の「2」は、もともとの2次の係数「6」の 3 分の 1)。この x についての式を解いたら、変数を元に戻せば(つまり t = x − 2 とすれば)、与えられた t の式の解となる。要するに「2乗の項は簡単に消せる⇒最初から無いと考えてOK」ってこと。

ポイント 一般の3次方程式に対する「解の公式」を考える必要はない。
  x3 + Px + Q = 0  《チア》
…の解き方さえ理解していれば、後はどうにでもなる。

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われわれは既に、ココナツ・カシュー形式…
  x3 − (3ab)x + (a3 + b3) = 0
…の3次方程式を一応、解くことができる(一つの解は x = −a − b であると知っている)。従って、チアをココナツ・カシューと見なすことができれば――すなわち、
  P = −(3ab), Q = (a3 + b3)
…と書くことができれば――、チアの一つの解が求まる。話が分かりにくい? じゃ、具体例で説明するね!

〔例2〕 例1では a = 2, b = 3 として、ココナツ・カシューが
  x3 − 18x + 35 = 0
であること、そしてその一つの解が x = −a − b = −5 であることを確かめました(必要なら例1を読み返してね)。逆に言うと、
  x3 − 18x + 35 = 0
…が与えられたとき、ココナツ・カシューの a, b が分かれば――つまり −3ab = −18 と a3 + b3 = 35 を同時に満たす a, b を求めることができれば――、与えられた3次方程式を解けるわけです。このケースでは、 a = 2, b = 3 ってことは最初から分かってるわけですが、もしそのことを知らないとしたら、どうやって P, Q から a, b を逆算すればいいのでしょうか?

〔注〕 これは、あくまで「説明のための例」。実用上 x3 − 18x + 35 = 0 は、もっと簡単な方法で解くことができる。しかし、理論上、この問題は極めて重大な意味を持つ――なぜなら、それさえ解決してしまえば、「もっと簡単な方法」では解けないような、一般の3次方程式も解けるのだから。

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チア(チアシード)というのは、ゴマみたいなもので、ブルーベリーとかに入れてかき回すだけで、お手軽にジャムっぽいものができる。以下の解法もお手軽。
  −3ab = −18 と a3 + b3 = 35 を同時に満たす a, b は?
とりあえず第1式の両辺を −3 で割って簡単にしよう:
  ab = 6 と a3 + b3 = 35 を同時に満たす a, b は?
A = a3, B = b3 と置くと、A と B の和 A + B が 35。ふーむ、では A と B の積は?

勘のいい人なら、電球がともるでしょう! 上記 ab = 6 の両辺を 3 乗すれば:
  (ab)3 = 63 つまり a3b3 = 216
われわれは A = a3, B = b3 と置いているのだから AB = 216 であるッ!!

よって問題は「二つの数があります。和が 35 で積が 216 です。二つの数を求めなさい」という小学生の算数のよーなもんに帰着する。答えを出すには、
  y についての2次方程式 y2 − 35y + 216 = 0
…を解けばいい(理由)。解は y = 8 または 27 なので、 A = 8, B = 27 とできる(順序は A = 27, B = 8 でも構わない)。ところが A = a3, B = b3 なのだから、a = 2, b = 3 となる。

ちょっと、ここまでを整理してみましょうか…

  1. x3 − 18x + 35 = 0 が与えられた。
  2. ココナツ・カシューにするには −3ab = −18, a3 + b3 = 35 を満たす a, b を求めればいい(そのとき −a − b は与式の解)。
  3. それには A = a3, B = b3 として AB = [(−18)/(−3)]3 = 63, A + B = 35 を解けばいい。
  4. y2 − 35y + 216 = 0 の解が A, B に当たり、それぞれの立方根が a, b に当たる。

より一般的に:

  1. x3Px + Q = 0 が与えられたとする。
  2. ココナツ・カシューにするには −3ab = P, a3 + b3 = Q を満たす a, b を求めればいい(そのとき −a − b は与式の解)。
  3. それには A = a3, B = b3 として AB = [P/(−3)]3 = −(P/3)3, A + B = Q を解けばいい。
  4. y2 − Qy − (P/3)3 = 0 の解が A, B に当たり、それぞれの立方根が a, b に当たる。

まとめると、次の通り。

3次方程式の解法(あんみつ・バナナパフェ方式) 3次方程式 x3Px + Q = 0 を解くには、2次方程式…
  y2 − Qy − (P/3)3 = 0
…の解 A, B を求めればいい。
  x = −a − b = −3A − 3B
…は、与えられた3次方程式の一つの解。

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実際には「これと本質的に同じだけど、もうちょっとだけシンプルな書き方」ができるのですが、その説明は後回しにして、「あんみつ・バナナパフェ方式」の実践例を。2次方程式の解でも一般には平方根が出現するので、3次方程式となると、立方根やら二重の根号やらが出没しますが、あまり気にしない方向で…

〔例3〕 3次方程式 x3 − 6x + 7 = 0 の解を求める。

さっき書いた方法で、この3次方程式に関連する2次方程式…
  y2 − 7y − (−6/3)3 = 0 つまり y2 − 7y + 8 = 0
…を作ったとしましょう。でもって、その(2次方程式の)解を y = A, B とすると、 x = −3A − 3B が、例題の(3次方程式の)解です。2種類の方程式があって、ちょっとややこしいけどね…

で、その A, B を求めるため、今、作った(y についての)2次方程式を解きますね。
  y2 − 7y + 8 = 0
…の判別式は (−7)2 − 4⋅1⋅8 = 49 − 32 = 17 なんで、解は:
  y = [−(−7) ± 17]/2 = (7 ± 17)/2
この2個の解を…
  A = (7 + 17)/2
  B = (7 − 17)/2
…とすると、例題の3次方程式の解は:
  x = −3A − 3B = −3[(7 + 17)/2] − 3[(7 − 17)/2]

一応これが答え♪ 3次方程式の解ってのは、だいたい↑こーゆー形になる(2個の立方根を含む)。

参考までに、計算機によると、数値的には:
  A = (7 + 17)/2 = 5.5615528…
  a = 3A = 1.7717346…
  B = (7 − 17)/2 = 1.4384471…
  b = 3B = 1.1288371…
  x = −a − b = −2.9005718…

〔検算〕 x3 = −24.4034312…, −6x = +17.4034312…, x3 − 6x = −7、つまり x3 − 6x + 7 = 0。

注意 上記でもチラッと触れましたが、一般には(このサイトの別のメモでも)、中間変数の符号を逆に設定して a, b の代わりに u = −a と v = −b を使います。最終的な答えが −a − b の代わりに u + v と書けて、少しすっきり。途中計算の符号設定の違いに過ぎず、最終的な答えはもちろん同じ。例えば「あんみつ・バナナ方式」で a = 2, b = 3 として解が −2 − 3 = −5 となる場合(本文参照)、一般には u = −2, v = −3 として同じ −5 という解を u + v と書くわけです(少なくとも原理的には…)。なぜ初めから後者の(普通の)方法を紹介しないのか?というと、単に話の便宜上。この符号設定の方が「あんみつ・バナナ・チョコレート」の「冒険の入り口となる恒等式」から自然につながるし。ストーリー展開の都合もあるし。――これは入門編なので、テクニカルな細部を気にせず、全体的な雰囲気と流れをつかんでいただければと思います。

もう一つの重大な注意事項として、2次方程式に解が二つあるように、3次方程式には本当は解が三つあるのです。上の説明だと解が一つしか出てこないが、残りの二つはどうなってるのか。その話は、またそのうち…

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(付録) 二つの未知数 A, B の和と積が分かっている場合に、A と B を求める方法(例: 足すと 35 で掛けると 216 になる二つの数は何か)。

例えば (y + 5)(y − 8) = y2 − 3y − 40 という2次式の値は、 y = −5 のときと y = 8 のときゼロになる。なぜなら y = −5 のとき y + 5 = 0 なので (y + 5)(y − 8) = 0(5 − 8) = 0 だし、 y = 8 のとき、同様に (y + 5)(y − 8) = (8 + 5)0 = 0。

より一般的に A, B を定数として (y − A)(y − B) という積の値は、 y = A または y = B のときゼロ。

ところが、この積を展開すると (y − A)(y − B) = y2 − (A + B)y + AB となる。

すると、次の三つのことは、どれも同じ意味。

最後の2次方程式について: y の係数は「A と B の和」の符号を変えたもの(−1 倍)、定数項は A と B の積。要するに、「2数 A, B の正体が個別には分からないけど、その二つの数の和 W と積 S なら分かってる」という状況では、
  y2 − Wy + S = 0
…を成り立たせる y を求めれば(2次方程式なので、そういう y は二つある)、その二つの y が A と B になる。(本文に戻る

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