はじめての4次方程式(遊びの数論22)

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4次方程式の古典的解法に取り組んでみました。「1 の5乗根」の根号表現を正面から(y = x + 1/x の置換を使わず)代数的に求めてみたい…という、たわいもないことが、一つのきっかけだったようです。結果的には、次の三つの4次方程式を題材とすることになります。
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0
  3x4 + 6x3 − 3x + 1 = 0
  x4 − x3 − 4x2 + 4x + 1 = 0
順に「1 の原始5乗根」、「1, 2, 3, … の6乗和」、「1 の原始15乗根」に関係ある式。「6乗和」は無関係の話題ですが、他は 1 の原始根(言い換えれば円分多項式)の話題。比較的マイナーな15乗根(言い換えれば正15角形、 24° 系の三角関数)に興味を持ったものです。

ところが、経験不足から二重根号・三重根号をうまく処理できず…。予定の題材をいったん保留して、基礎を固めるべく「1 の原始5乗根」や 36° 系の三角関数に取り組むことにしました。「5乗根」強化月間!と銘打ってます(笑)。後続する「遊びの数論23」「遊びの数論24」で、正五角形に夢中になってるのもその流れ。

ここでの4次方程式の扱いは散漫なものでしたが、後に「遊びの数論32」で、再びこの話題に触れることになります。


2024-02-15 はじめての4次方程式 1 の5乗根・再考

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

1 の5乗根 x は x5 = 1 つまり x5 − 1 = 0 を満たす。

x = 1 は明らかに x5 − 1 = 0 の一つの解なので、x5 − 1 は x − 1 で割り切れる。割り算を実行すると:
  x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1)

x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1) = 0 の一つの解は x = 1 なので、残りの四つの解は…
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0  「ア」
…を満たす。「ア」を解く一つの方法は、両辺を x2 で割って y = x + 1/x と置くことだが(詳細)、その手法はごく一部のケースでしか使えない。小ざかしいトリックに頼らず、「ア」を一般の4次方程式と見て、正面から解いてみたい。

*

「ア」を変形して次の形にできたとする。
  (x2 + (1/2)x + p)2 − (qx + r)2 = 0  「イ」
そのとき (x2 + (1/2)x + p)2 = (qx + r)2 従って、こうなる:
  x2 + (1/2)x + p = qx + r または −(qx + r)  「ウ」
これはただの2次方程式なので、そこから普通に「ア」の解が得られる…。問題は、どうやって「ア」を「イ」の形にするか。謎の p, q, r をどう設定すれば、都合よく「イ」の左辺 = 「ア」の左辺になるのだろうか?

† 「イ」の丸かっこ内の2次式の1次の係数 1/2 は、与えられた4次方程式「ア」の3次の係数の半分。「「1 の5乗根」について」「簡単な4次方程式」参照。

*

手掛かりを得るため、「イ」を展開・整理して、係数と定数項を「ア」と比較してみる。


復習コーナー(以下でこの関係を使う)
♥ 三項式の2乗の展開
 (A + B + C)2 =
 = A2 + B2 + C2
 + 2AB + 2BC + 2CA


「イ」左辺を展開すると:
  (x4 + (1/4)x2 + p2 + x3 + px + 2px2) − (q2x2 + 2qrx + r2)
   = x4 + x3 + (2p − q2 + 1/4)x2 + (p − 2qr)x + (p2 − r2)

「ア」左辺 x4 + x3 + x2 + x + 1 と2次の係数・1次の係数・定数を比較すると:
  2p − q2 + 1/4 = 1  ‥‥①
  p − 2qr = 1  ‥‥②
  p2 − r2 = 1  ‥‥③

未知数が三つ、式も三つなので、理論的には解ける形っぽいが、具体的にここからどう進めるか? Euler 直伝の方法は――。移項すると ①は q2 = (p の式) になる。 ③も r2 = (p の式) になる。両者を掛け合わせると、(qr)2 = (p の式)。一方、②は 2(qr) = (p の式)、平方して 4(qr)2 = (p の式) になる。組み合わせると qr を消去できる!

①から q2 = 2p − 3/4、分母を払って 4q2 = 8p − 3  ‥‥④
③を変形した r2 = p2 − 1 と④を辺ごとに掛け合わせて:
  4q2r2 = (8p − 3)(p2 − 1) = 8p3 − 3p2 − 8p + 3  「エ」
一方、②を変形した 2qr = p − 1 の両辺を平方:
  4q2r2 = p2 − 2p + 1  「オ」
「エ」と「オ」は左辺が等しいからうんぬん…。てなわけで「エ」から「オ」を辺ごとに引いちゃうんだもんね:
  0 = 8p3 − 4p2 − 6p + 2  「カ」

これに有理数解があるとすれば p = ±1, ±2 またはその 1/2, 1/4, 1/8 だが、係数が 8 − 4 − 6 + 2 = 0 なので p = 1 は一つの解! 「カ」の解は他にも二つあるけど、他の解は有理数ではない。どの解を使っても構わないので、手っ取り早く p = 1 としよう。

〔参考〕 「カ」で次のようにしてもいい。 p = u/2 と置き u3 − u2 − 3u + 2 = 0 と簡単化。これに有理数解があるとすれば u = ±1, ±2。こっちの方が候補が絞れて、一つの解 u = 2 つまり p = 1 が見つかる。

さて p = 1 と決まったからには: ④から 4q2 = 8p − 3 = 5 つまり q2 = 5/4 ゆえに q = 5/2; ②から r = (p − 1)/(2q) = (1 − 1)/(2q) = 0。

〔注〕 q = 5/2 も可。下記のように q と −q は両方考慮されるので、符号の設定はどちらでもいい。

r = 0 なので、結局「ウ」から:
  x2 + (1/2)x + 1 = 5/2x または x2 + (1/2)x + 1 = −5/2x
それぞれ右辺を左辺に移項して整理すると:
  ⑤ x2 + (1 − 5)/2x + 1 = 0 または ⑥ x2 + (1 + 5)/2x + 1 = 0

あとは上の2次方程式を解くだけ…

⑤の判別式は (1 − 25 + 5)/4 − 4 = ( −10 − 25 )/ 4 その平方根は ± ( (10 + 25 ) / 2 i なので、⑤の解は:
  x = (−1 + 5)/4 ±  ( (10 + 25 ) / 4 i
同様に⑥の解は:
  x = ( −1 − 5 )/ 4  ±  ( (10 − 25 ) / 4 i

めでたく 1 の原始5乗根が、四つとも求まった。二重の根号がこれ見よがしに「おれさまは難しいんだぜ」という微妙な威圧感を漂わせてるが、まぁ、2次方程式の解だって根号が付くんだから、倍の4次方程式の解なら、根号の一つや二つや三つや四つ…。怖くないもん。できるもん!

この一例だけではまだ感覚がつかめない。もう少し別の具体例を検討する必要がある。けれど要するに、4次方程式は「2次式の平方、ひく、1次式の平方」に書き換えて、解くことができる。書き換え後に現れる係数 p, q, r の決定は、もともとの係数との比較から、3次方程式の問題になり、4次の問題を3次の問題に還元できる。3次方程式が有理数解を持つ場合には、意外と簡単そう…

「原始5乗根」そのものというより、それを例題に「4次方程式の解法」を検討した。

*

一般の4次方程式が解ければ、ツールが増えて世界が広がる。

だが3次方程式の解が「非実数の立方根」形式になってしまう場合、実用になるのだろうか?

わらべのときは「方程式は解くもの」と考え、解を求めることが目的だと思い込んでいた。解けなければ「負け」と、わらべのように考えた…。だが Cardano の不可解な形式を体験し、われわれは悟る。方程式と呼ばれるものの神髄は「解は何か?」ではなく「どの係数の範囲で多項式を分解でき、あるいはできないか?」という分解可能性の問題である、と。例えるなら「素数はそれ以上分解できない」というのが素数の真相。「一つの世界の中で答えを出そうとすること」への執着から離れ、「考えている世界の中に解がないなら、それがその世界の真相」と観じるパラダイムシフトに他ならない。一つの世界から無数の世界へ。そして、無限個の世界を越えて。さて、ここからどこへ行きましょう。ガロワは広大だわ…w

〔参考文献〕 Leonhard Euler: Elements of algebra, Pt. 1, Sect. 4, Chap. XIV
https://archive.org/details/elementsofalgebr00eule/page/278/mode/1up

⁂


2024-02-17 4次方程式(その2) 名著に誤りが…

#遊びの数論 #べき和 #4次方程式

前回「はじめての4次方程式」として、x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0 を解いた。復習を兼ね、次の方程式を考える:
  3n4 + 6n3 − 3n + 1 = 0 つまり n4 + 2n3 − n + 1/3 = 0

Bernoulli 数と関係があり、Knuth たちの名著 Concrete Mathematics にミスがあった…という、いわくつきの4次式。同書をお持ちの方は、第2版289ページ(第1版275ページ)を開いてみよう。 where α = 2−5/2 3−1/2 311/4 うんぬんとなっているバージョンは、間違い。 where α = 2−3/2 3−1/4 うんぬんとなっていれば修正済みバージョンで、技術的には正しいが、それが最適の表現か?となると依然、疑問が残る。2021~22年に修正されたらしい。改訂部分は、オンラインでも参照できる:
https://www-cs-faculty.stanford.edu/~knuth/gkp34.pdf

このメモでは正しい解を導出し、参考までに Knuth の複雑な表現との関係について記す。

*

問題の4次式は「6乗和」の式に現れる因数:
  S6(n) = 16 + 26 + 36 + … + n6
   = 1/42n(n + 1)(2n + 1)(3n4 + 6n3 − 3n + 1)
   = 1/7n(n + 1/2)(n + 1)(n4 + 2n3 − n + 1/3)

一般に e を自然数として(上記は e = 6 の例)、 Se(n) = 1e + 2e + … + ne を表す e + 1 次式は、n が自然数でなくても値を計算可能。その根(値が 0 になるような入力 n)の挙動は神秘的: 例えば e = 1, 2, 3, 4, 5 のとき Se の実数の根はそれぞれ 2, 3, 4, 5, 6 個だが、S6(n) = 0 の実数解は突然 3 個に減ってしまう。

n = 0, 1/2, −1 は S6(n) の根。 n4 + 2n3 − n + 1/3 = 0 を満たす n も根なので、それを求めたい。4次式の由来(背景)を気にせず、単に4次方程式の例題と考えてもいい。

*

方程式の気分を出すため変数名を x に変え、 x4 + 2x3 − x + 1/3 = 0 が与えられたとする。

まずはこう置く。
  x4 + 2x3 − x + 1/3 = (x2 + x + p)2 − (qx + r)2  「キ」

前回との違いとして、右辺の一つ目の丸かっこ内では、1次の係数(それを ℓ としよう)が 1 になっている。理由は単純:
  (x2 + ℓx + p)2 = x4 + 2ℓx3 + (2p + ℓ2)x2 + 2ℓpx + p2
…なので、その右辺の3次の係数 2ℓ が「与式の3次の係数」と一致するよう、与式の3次の係数の半分を ℓ としただけ!

「キ」の右辺を展開:
  (x2 + x + p)2 − (qx + r)2
   = x4 + x2 + p2 + 2x3 + 2px + 2px2 − (q2x2 + 2qrx + r2)
   = x4 + 2x3 + (2p − q2 + 1)x2 + (2p − 2qr)x + (p2 − r2)
それを「キ」の左辺(2次の係数は 0)と比較して:
  2p − q2 + 1 = 0  ‥‥①
  2p − 2qr = −1  ‥‥②
  p2 − r2 = 1/3  ‥‥③

ここで 4(qr)2 を p で表す式を二つ作るのだった。第一に、①から q2 = 2p + 1、 ③から r2 = p2 − 1/3、左辺同士・右辺同士を掛け算して:
  (qr)2 = (2p + 1)(p2 − 1/3) = 2p3 − (2/3)p + p2 − 1/3
  つまり 4(qr)2 = 8p3 + 4p2 − (8/3)p − 4/3  「ク」
第二に、②から 2qr = 2p + 1 つまり:
  4(qr)2 = 4p2 + 4p + 1  「ケ」
「ク」から「ケ」を辺ごとに引き算:
  0 = 8p3 − (20/3)p − 7/3 つまり p3 − (5/6)p − 7/24 = 0
分数をなくすため p = u/6 と置く:
  u3/63 − (5/62)u − 7/24 = 0
  両辺を 63 倍して u3 − 30u − 63 = 0
63 = 32⋅7 なので、上の3次方程式に有理数解があるとすれば p = ±1, ±3, ±9 またはそれらの7倍。絶対値の小さい順に試すと、一つの解 u = −3 を得る。

すなわち:
  p = u/6 = 1/2
このとき①から q2 = 2p + 1 = 0 なので:
  q = 0
③から r2 = p2 − 1/3 = 1/12 = 3/36 なので:
  r = −3/6
従って「キ」から:
  x2 + x − 1/2 = −3/6  ‥‥④
  または x2 + x − 1/2 = −3/6  ‥‥⑤

† 一般に、①から q を求める場合にも③から r を求める場合にも、それぞれ(平方根の)符号設定に曖昧さがある。片方の符号設定は任意で構わないが、通常、片方の値を設定したら、②によって他方の値を設定する必要がある(q の値と r の値は、条件②によって相互に関連しているため)。例外として、先に設定した変数の値が 0 のときには、②を使えない。上記では q を先に求めており、その q の値が 0 なので、③によって r を求める。

④を整理すると x2 + x − (3 + −3)/6 = 0 つまり:
  6x2 + 6x − (3 + −3) = 0
その判別式の4分の1は 9 + 6(3 + −3) = 27 + 6−3 なので、解は:
  x = [−3 ± (27 + 6−3)]/6 = −1/2 ± 1/6(27 + 6−3)  「コ」
同様に⑤の場合:
  x = −1/2 ± 1/6(27 − 6−3)  「ゴ」

4解が得られた。内訳は −1/2 に対する一定の複素数の和・差(「コ」参照)、そしてその二つの共役複素数(「ゴ」参照):
  実部 0.5 ± 0.8813732… = 0.3813732… or −1.3813732…
  虚部 ±0.1637644… (符号の組み合わせは4通り)
実数の根の場合と同様、複素数の範囲でも、実部 −1/2 に対し左右対称の位置に根のペア(この場合、二つのペア)が配置される。

*

式「コ」「ゴ」では、実部と虚部が分離されていない――どちらも ± の後ろの数は、「実数でない複素数」の平方根(の 1/6 倍)なんで、それ自体も「実数でない複素数」であり、純虚数ではない。「コ」「ゴ」は、「実数 ± 純虚数」の形じゃなく、「実数 ± 実数でも純虚数でもない複素数」の形なのだ。

「だから間違い」というわけではなく、むしろ「コ」「ゴ」の形の方が簡潔な気もするけど、話の流れとして、実部・虚部をそれぞれ抜き出してみたい。一般に A を正の実数、 B を負の実数として、A + B の平方は…
  (A)2 + 2(A)(B) + (B)2 = (A + B) + 2(AB)
…なので、 A + B(A + B) + 2(AB) の平方根。ここで (AB) は負の実数の平方根なので、虚数。この方法で、実部・虚部を分離できる。
  1/6(27 + 6−3) = 1/6(27 + 2−27)  (☆)
の根号部分に当てはめると:
  A + B = 27, AB = −27
第1式から B = 27 − A、それを第2式に入れて A(27 − A) = 27A − A2 = −27、これを解いて:
  A = (27 ± (272 + 4⋅27))/2 = (27 ± 3(93))/2 ← 272+4⋅27 = 27(27+4) = 9⋅3⋅31
  B = 27 − A = 54/2 − A = (27 ∓ 3(93))/2
複号同順だが、A は正で B は負と仮定しているので、上側の符号を選ぶ(393 > 381 = 27):
  A = (27 + 3(93))/2
  B = (27 − 3(93))/2 = (−1)(3(93) − 27)/2
結局(☆)について…
  (27 + 2−27) = A + B = ((27 + 393)/2) + i ((393 − 27)/2)
…と、実部・虚部に分離され、次の結論に至る。
  1/6(27 + 2−27) = 1/6((54 + 693)/4) + i/6((693 − 54)/4)
   = 1/12(54 + 693) + i/12(693 − 54)  (☆☆)
この数を α とすると、「コ」「ゴ」から 1/2 ± α と共役 1/2 ± α* が4解。

〔参考〕 Knuth たちは、単純な(☆☆)の表現 α = ((54 + 693) + i (693 − 54))/12 の代わりに、次の記法を採用した(値は同じ)。
  α = 2−3/2 3−1/4 ((31 + 27) + i (31 − 27))
   = ((31 + 27) + i (31 − 27)) / (22 ⋅ 43)
原文を画像で引用すると…
  PNG画像
分子だけの四つの根号で足りるのに、分母・分子に八つの根号(一つは4乗根)を使うのは、いかがなものか。だが Knuth のやる事、何か意味があるのだろう。(☆☆)との関係を実部のみ記すと(虚部も同様)、次の通り。
  1/12(54 + 693) = 2−2 3−1 (54 + 693)
   = 2−3/2 3−1 (27 + 393)  2 = 21/2 を根号の外へ
   = 2−3/2 3−1/2 (9 + 93)  3 を外へ
   = 2−3/2 3−1/2 [3 × (33) + 3 × 31]
   = 2−3/2 3−1/2 × 31/4 (33 + 31) = 2−3/2 3−1/4 (31 + 27)

*


66 = 46656

64 + 2⋅63 = 1296 + 2⋅216
= 1728 = 122

46 + 26 = 4096 + 64
= 4160 = 84 + 43


4次方程式とは関係ないが、
  16 + 26 + 36 + … + n6 = 1/42n(n + 1)(2n + 1)(3n4 + 6n3 − 3n + 1)
で少しだけ遊んでみたい。最初の六つの6乗数の和を直接計算すると…
  16 + 26 + 36 + 46 + 56 + 66 = 1 + 64 + 729 + 4096 + 15625 + 46656 = 67171

6乗和の公式経由だと…
  3n4 + 6n3 − 3n + 1 = 3⋅64 + 6⋅63 − 3⋅6 + 1
   = 4⋅64 − 17 = 4⋅1296 − 17 = 5184 − 17 = 5167
この 5167 を使って:
  1/42n(n + 1)(2n + 1)(3n4 + 6n3 − 3n + 1) = 1/42 × 6⋅7⋅13⋅5167 = 5167 × 13 = 67171

同じ6乗和の公式でも、この場合 1/7n(n + 1/2)(n + 1)(n4 + 2n3 − n + 1/3) を使った方が簡単かも。 n = 6 のとき n4 + 2n3 = 64 + 2⋅63 = (6 + 2)63 = 23⋅63 = 123 = 1728 なので:
  n4 + 2n3 − n + 1/3 = 1728 − 6 + 1/3 = 1722 + 1/3
しかも 1/7n(n + 1/2)(n + 1) = (1/7)⋅6⋅(13/2)⋅7 = 3⋅13 = 39 は、約分ですっきり。結局 1722 + 1/3 の 39 倍を求めればいい:
  1722 × 39 + 13 = 1722 × 40 − 1722 + 13 = 68880 − 1709 = 67171

*



6! = 720, 7! = 5040
B6 = 1/42
(1/6!) B6 = 1/30240
= 1/(6! × 42)
= 1/(7! × 6)


S6(n) = 16 + 26 + … + n6Bernoulli 形式で書くと:
  (1/7)n7 + (1/2)n6 + (1/2)n5 − (1/6)n3 + (1/42)n

Se(n) の最高次の項は 1/(e + 1)⋅ne+1 になり、次の項は (1/2)ne になる。3番目の項は e/12ne−1 で、そこから次数が2ずつ下がる。4番目の項は:
  −e(e − 1)(e − 2)/720ne−3
S6(n) の場合、この係数は −6⋅5⋅4/720 = −120/720 = 1/6 に等しい。
  B4/4! = (−1/30)/240 = −1/720 に 6↓3 を掛け算、ここで 6↓3 = 6⋅5⋅4

5番目の項は e(e − 1)(e − 2)(e − 3)(e − 4)/(720 × 42)⋅ne−5 だが、S6(n) の場合、この係数は 6⋅5⋅4⋅3⋅2/(720 × 42) = 6!/(720 × 42) = 1/42 = B6 に他ならない。
  B6/6! = (1/42)/720 = 1/30240 に 6↓5 を掛け算

⁂


2024-02-20 「5乗根」強化月間! 正15角形で遊ぶ

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

画像1。正15角形の作図。画像のように、円に内接する正五角形(緑)と正三角形(赤)を描くと、弦 WR が正15角形(同じ円に内接)の一辺の長さ。コンパスをその長さに開いて、折れ線状に次々に辺を新設すれば、正15角形の出来上がり。

うまくいく理由: ∠ROP = 144°, ∠WOP = 120° なので、扇形 OWR は中心角 24° つまり円を15等分。

1 の15乗根は面白そう…。15等分の土台となる円周5等分の点について、地味に復習する。

*

cos 36° が黄金比 (5 + 1)/2 = 1.618… の半分に等しいこと。黄金分割とは、例えばある長さの線分を「大」と「小」の二つの長さに分割して、「大」と「小」の比が、「全体」(もともとの線分の長さ)と「大」の比と同じ…になるようにすること。そのような比が黄金比。「大」「小」「全体」をそれぞれ a, b, a + b とすると…
  a + b : a = a : b
この比になじみがあれば cos 36° の理解に役立つが、なじみがなくても支障ない。

画像2。 cos 36° は、図の OF の長さ。赤い大きな二等辺三角形 OKL の、斜辺 OK の長さの半分に等しい(KL を底辺とする)。赤い二等辺三角形と、小さな青い二等辺三角形 KLR は、どちらも三つの角が 36°–72°–72° なので、相似。 RL の長さを b とすると…
  赤の斜辺と底辺の比 1 + b : 1 比の値 1 + b
  青の斜辺と底辺の比 1 : b 比の値 1/b
二つの三角形は相似なので、上の二つの比は等しい(黄金比の定義で a = 1 とした場合に当たる)
  1 + b = 1/b
両辺を b 倍すると…
  (1 + b)b = 1 つまり b2 + b = 1
この最後の式を次のように書くことができる
  (b + 1/2)2 − 1/4 = 1
  つまり (b + 1/2)2 = 5/4
両辺の正の平方根を考えると b + 1/2 = 5/2 従って b = (5 − 1)/2 となって…
  OK の長さ = OL の長さ = 1 + b = 1 + (5 − 1)/2 = (5 + 1)/2
  cos 36° = OK の長さの半分 = (5 + 1)/4

† b2 + b − 1 = 0 として、機械的に解の公式を使ってもいい。辺の長さ(絶対値)なので、正の解を選ぶ。OL 全体の長さが、「大」の区間 OR と「小」の区間 RL に黄金分割されている。

*

cos 72° については、cos 36° を基に、即物的に倍角の公式(2乗して2倍して 1 を引く)を適用するのが手っ取り早い:
  cos2 36° = ((5 + 1)/4)2 = (6 + 25)/16  ‥‥①
  cos 72° = 2((3 + 5)/8) − 1 = (3 + 5)/4 − 1 = (5 − 1)/4

‡ cos 2θ = cos (θ + θ) = cos θ cos θ − sin θ sin θ = cos2 θ − sin2 θ = cos2 θ − (1 − cos2 θ) = 2 cos2 θ − 1

もう一度、倍角にすると:
  cos2 72° = ((5 − 1)/4)2 = (6 − 25)/16  ‥‥②
  cos 144° = 2((3 − 5)/8) − 1 = (3 − 5)/4 − 1 = (5 − 1)/4
当然ながら −cos 36° と等しい。特に cos2 144° は①と一致。分子 −5 − 1 については −1 − 5 等々、他の書き方をしても構わない。 5 + 1 = 1 + 5 などについても同様。

1 の原始5乗根の実部
  cos 72° = (5 − 1)/4 = 約 1.236/4 = 0.309
  cos 144° = (5 − 1)/4 = 約 −3.236/4 = −0.809

画像3。前者は Q と Q′ の横座標、つまり数直線上の E に当たる。後者は R と R′ の横座標、つまり F に当たる。

次に縦座標、つまり sin を求める。②から:
  sin2 72° = 1 − (6 − 25)/16 = (10 + 25)/16
  従って ±sin 72° = ±(10 + 25)/4


382 = 1444
192 = 361 の 4 倍
392 = 1521
402 − 2⋅40⋅1 + 12

232 = 529
202 + 2⋅20⋅3 + 32
242 = 576
144 × 4 = 288 × 2


プラスは Q の縦座標(つまり G)、マイナスは Q′ の縦座標(その反対側)。ここで 10 + 25 = 約 10 + 4.472 = 14.472 は 3.82 = 14.44 よりわずかに大きく、3.92 = 15.21 よりかなり小さい。よって sin 72° は 3.8/4 = 0.95 よりわずかに大きい。図の G の位置もそれくらいの感じ。

同様に①から:
  sin2 144° = sin2 36° = (10 − 25)/16
  従って sin 144° = [(10 − 25)]/4
これは R の縦座標 H に当たる。ここで 10 − 25 = 約 10 − 4.472 = 5.528 は 2.32 = 5.29 と 2.42 = 5.76 のちょうど中間あたり。
  2.3 < (10 − 25) < 2.4
暗算の便宜上 4 で割りやすいように、この平方根を 2.36 とすると、その4分の1は 0.59。 作図からは「0.6 程度」くらいしか読み取れない。正三角形の辺 PW が縦軸を横切る点 J よりは、H は上にある

1 の原始5乗根の虚部(正の側)
  sin 72° = [(10 + 25)]/4 = 約 0.951
  sin 144° = [(10 − 25)]/4 = 約 0.588

† J の縦座標は tan 30° = 3/3 = 0.577…。ニアミスの詳細

*

ところで (10 + 25)(10 − 25) = 100 − 20 = 80 なので:

(10 + 25)(10 − 25) = 80 = 45  ‥‥③

sin 72° に倍角公式を適用してみる:
  sin 144° = 2 cos 72° sin 72° = 2((5 − 1)/4)(((10 + 25))/4)
   = (5 − 1)/8(10 + 25)  (☆)
   = (5 − 1)/8(10 + 25)[(10 − 25)]/[(10 − 25)]  ← トリッキー。もっといいやり方ないのか
   = (5 − 1)/8(45)/[(10 − 25)]  ← ③を使用
   = 1/8(20 − 45)/[(10 − 25)] = 1/4(10 − 25)/[(10 − 25)] = [(10 − 25)]/4

〔追記〕 次のように論じることができる。 a = (5 − 1) (10 + 25) = 1.236… × 14.472… は、正の実数。
その平方は:
  a2 = (5 − 1)2 (10 + 25) = (5 − 1)2 (255 + 25)
   = (5 − 1)(5 − 1)(5 + 1)⋅25 = 4(5 − 1)⋅25 = 4(10 − 25)
なぜなら (5 − 1)(5 + 1) = 5 − 1。従って a2 の正の平方根 a は
  2(10 − 25)
に等しい。(☆)は、その 8 分の 1。

〔追記2〕 次の手順で淡々と進める方が、分かりやすい。
  (☆) = (1/8)(5 − 1)(10 + 25) = (1/8)[(5 − 1)2](10 + 25) = (1/8)(6 − 25)(10 + 25)
   = (1/8)(40 − 85) = (1/4)(10 − 25)

今、1 の原始5乗根の主値…
  Q = cos 72° + i sin 72° = (−1 + 5)/4 + i [(10 + 25)]/4
…の平方が、偏角2倍の別の原始5乗根…
  R = cos 144° + i sin 144° = (−1 − 5)/4 + i [(10 − 25)]/4
…に一致することを直接計算で確かめる。
  Q2 = (6 − 25)/16 − (10 + 25)/16 + i (−1 + 5)/8(10 + 25)
Q2 の実部 (−4 − 45)/16 は R の実部と一致。 Q2 の虚部は(☆)以下と同様に R の虚部と一致。

1 の原始5乗根
  偏角 ±72°  Q = (−1 + 5)/4 + i [(10 + 25)]/4 とその共役 Q′
  偏角 ±144°  R = (−1  5)/4 + i [(10  25)]/4 とその共役 R′

*

画像4。単位円に内接する正五角形の頂点は、円周を5等分: ∠QOP = (360/5)° = 72°、∠ROP はその2倍で 144° 等々。

正三角形について ∠WOP = 120° なので ∠ROW = ∠ROP − ∠WOP = 24° = (360/15)° となって、単位円の弧 WR は円周のちょうど 15 分の 1

コンパスを使って弦 WR の長さをコピーし、折れ線状に(単位円上で)頂点をどんどん増やせば、円周が15等分される(正15角形の作図)。例えば R を中心に半径 |WR| の円を描き W の反対側で単位円と交わる点を D とすれば、W, R, D は正15角形の隣り合う頂点。

画像5。正15角形の15個の頂点のうち七つは、初めから図に描き込まれている。15頂点は、対応する扇形の中心角で言えば、360° = 2π の…
  0/15, 1/15, 2/15, 3/15, 4/15, 5/15, …, 14/15
…に当たる。このうち約分できる分数は、正三角形または正五角形の頂点と一致:
0/15 = 0, 5/15 = 1/3, 10/15 = 2/3 の点は P, W, W′
3/15 = 1/5, 6/15 = 2/5, 9/15 = 3/5, 12/15 = 4/5 の点は Q, R, R′, Q′

正15角形固有の「新しい」頂点は次の八つ(4ペア):
  弧 PQ を3等分する A, B 横軸を挟んで対称の位置にある A′, B′
  弧 QW を2等分する C 対称の位置にある C′
  弧 RR′ を3等分する D, D′

この個数は φ(15) ―― 15 以下にある 15 と互いに素な自然数の個数――に等しい。 15 = 3⋅5 なので φ(15) = (3 − 1)(5 − 1) = 8。従って、これら八つの原始15乗根を零点とする円分多項式は、8次式になるだろう。

⁂


2024-02-21 24° と 48° の cos と sin

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

黄金比の半分 cos 36° = (5 + 1)/4 をはじめ 18° の倍数の角度の cos, sin では、(5 ± 1)/4 のような形や ((10 ± 25))/4 のような形が現れる。

72°, 36°, 18° は、それぞれ円周を5等分・10等分・20等分した点。それとは別系列の 24° の倍数(円周の15等分)を考える。

*

点 P (1, 0) を基点に、単位円の円周を15等分(偏角 24° 刻み)。偏角 24°, 48° の点をそれぞれ A, B とする。

画像6。B の横座標・縦座標は次の通り。

横 cos 48° = cos (120° − 72°)
   = cos 120° cos 72° + sin 120° sin 72°
   = −1/2(−1 + 5)/4 + 3/2[(10 + 25)]/4
   = 1/8(1 − 5 + (30 + 65))

縦 sin 48° = sin 120° cos 72° − cos 120° sin 72°
   = 3/2(−1 + 5)/4 − −1/2[(10 + 25)]/4
   = 1/8(−3 + 15 + (10 + 25))

数値的には 0.669… と 0.743… で、それぞれ 2/33/4 に近い。一方 A の座標は:

横 cos 24° = cos (144° − 120°) = cos 144° cos 120° + sin 144° sin 120°
   = (−1 − 5)/4−1/2 + [(10 − 25)]/43/2
   = 1/8(1 + 5 + (30 − 65))

縦 sin 24° = sin 144° cos 120° − cos 144° sin 120°
   = [(10 − 25)]/4−1/2 − (−1 − 5)/43/2
   = 1/8(−(10 − 25) + 3 + 15)
   = 1/8(3 + 15 − (10 − 25))

数値的には (0.913…, 0.406…) となる。

*

以上によって、とりあえず次の表現を得た。

 cos 24° = 1/8(1 + 5 + (30 − 65))
 sin 24° = 1/8(3 + 15 − (10 − 25))


(x + y + z)2
 = x2 + y2 + z2
 + 2xy + 2yz + 2zx
…を使いまくる


単位円上の点なので cos2 24° + sin2 24° = 1 のはず。まず:
  cos2 24° = 1/64[1 + 5 + (30 − 65) + 25 + 25 (30 − 65) + 2(30 − 65)]
   = 1/64[36 − 45 + 2(5 + 1)(30 − 65)]  ‥‥①

①に含まれる (5 + 1) (30 − 65) を x とすると、それは正の実数で:
  x2 = (5 + 1)2 (30 − 65) = (5 + 1)2 (655 − 65)
   = (5 + 1)(5 + 1)(5 − 1)⋅65 = 4(5 + 1)⋅65
   = 4(655 + 65) = 4(30 + 65) = 22(30 + 65)
途中で (5 − 1)(5 + 1) = 5 − 1 = 4 という関係を使った。上記 x2 の正の平方根が x に等しいのだから:
  (5 + 1) (30 − 65) = x = 2(30 + 65)  ‥‥②

②を①に代入して:
  cos2 24° = 1/64[36 − 45 + 2(2(30 + 65))]
   = 1/16(9 − 5 + (30 + 65))  ‥‥③

† このようなトリックを使わない平明な計算法もある。

一方:
  sin2 24° = 1/64[3 + 15 + (10 − 25) + 245 − 2(150 − 305) − 2(30 − 65)]
   = 1/64(28 − 25 + 65 − 25 (30 − 65) − 2(30 − 65))
   = 1/64[28 + 45 − 2(5 + 1) (30 − 65)]
再び②を代入:
  sin2 24° = 1/64[28 + 45 − 2(2(30 + 65))]
   = 1/16(7 + 5 − (30 + 6√5))  ‥‥④

③と④の和は、確かに 1 に等しい。 cos 24°, sin 24° はそれぞれ③④の正の平方根なので、こう書くことも可能。
  cos 24° = 1/4[9 − 5 + (30 + 65)]
  sin 24° = 1/4[7 + 5 − (30 + 65)]

この表現の方が両者の関係が明確、分母も簡潔だが、その代わり三重根号が必要。前記の表現なら二重根号で済む。③を 2 倍して 1 を引くと cos 48° に一致する(cos の倍角の公式)。逆に言えば、cos 48° の「分子」の 1 を 9 に変え、分母の 8 を 16 に変えると③になる。

〔付記〕 ②を導く別の方法。 (30 + 65) (30 − 65) = (900 − 180) = 720 = 125 の両辺を (30 + 65) で割る:
  (30 − 65) = 12√5/(30 + 65)
その両辺を 5 + 1 倍:
  (5 + 1) (30 − 65) = (60 + 125)/(30 + 65) = 2⋅(30 + 65)/(30 + 65) = 2(30 + 65)

〔関連メモ〕 「加法定理からの tan 24°」「sin/cos からの tan 24°

⁂


2024-02-23 24° と 48° の cos と sin(続き)

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

画像7。36° と 72° を比べると、36° の cos は大きく 72° の cos は小さいので、
  (5 + 1)/4
にプラスがあり、
  (5 − 1)/4
にマイナスがある。 sin については、逆に 36° の sin は小さく、72° の sin は大きいので、
  [(10 − 25)]/4  (★)
にマイナスがあり、
  [(10 + 25)]/4
にプラスがある。 sin 36° の(★)では 10 − 25 = 10 − 4.472… = 5.527… の平方根が分かりにくい。
  2352 = 2402 − 240⋅5⋅2 + 52 = 57600 − 2400 + 25 = 55225
…と比較すると、上位3桁一致し、この平方根は 2.35 台; 4 で割って sin 36° は 0.5875 より少し上。正確には 0.5877…; tan 30° = 3/3 = 1.7320…/3 = 0.5773… より 0.0104… だけ大きい。ちょっとしたニアミス。

*

cos 48° = cos 120° cos 72° + sin 120° sin 72°
   = −1/2(5 − 1)/4 + 3/2((10 + 25))/4
   = 1/8(1 − 5 + (30 + 65))

cos2 48° = 1/64[1 + 5 + (30 + 65) − 25 − 25(30 + 65) + 2(30 + 65)]
   = 1/64[36 + 45 − 2(5 − 1) (30 + 65)]  「サ」
   = 1/64[36 + 45 − 2(2(30 − 65))]  「シ」
   = 1/16(9 + 5 − (30 − 65))  ‥‥⑤

「サ」→「シ」の仕組みは次の通り。 y = (5 − 1) (30 + 65) と置くと、それは正の実数で:
  y2 = (5 − 1)2 (30 + 65) = (5 − 1)2 (655 + 65)
   = (5 − 1)(5 − 1)(5 + 1)⋅65 = 4(5 − 1)⋅65
途中で (5 − 1)(5 + 1) = 5 − 1 = 4 という関係を使った。従って…
  y2 = 4(655 − 65) = 4(30 − 65) = 22(30 − 65)
…の正の平方根 y をこう書くことができる:
  y = 2(30 − 65)

cos2 24° の②参照。このようなトリックを使わない平明な計算法もある。

*

別の例。別の視点から。

sin 48° = sin 120° cos 72° − cos 120° sin 72°
   = 3/2(5 − 1)/4 − −1/2[(10 + 25)]/4
   = 1/8(−3 + 15 + (10 + 25))

次の計算では 15(10 + 25) の代わりに 5(30 + 65) と書く。

sin2 48° = 1/64[3 + 15 + (10 + 25) − 245 + 25(30 + 65) − 2(30 + 65)]
   = 1/64[28 + 25 − 65 + 2(5 − 1) (30 + 65)]  「ス」
   = 1/64(28 − 45 + 2⋅2(30 − 65))  「セ」
   = 1/16(7 − 5 + (30 − 65))  ‥‥⑥

「ス」→「セ」について。根号内から (65) をくくり出し、 [ ] 内の最後の項をこう見ることができる。
  2(5 − 1) (30 + 65) = 2(5 − 1) (5 + 1)(65)  「ソ」

「ソ」右辺の (5 − 1) を (5 − 1) (5 − 1) と見ると、一方の (5 − 1) は隣の (5 + 1) と反応して整数 2 になり、他方の (5 − 1) は右端の (65) と反応して (30 − 6√5) になる。結局 (5 − 1) は二つに割れて見掛け上消えてしまうのだが、二つに割れた片方は、長い根号(二重根号を含む)と合体、整数 2 として生まれ変わる――もう片方は (65) と合体して、新たに長い根号を発生させる。トータルでは (5 − 1) が 2 に変わると同時に、「ス」の長い根号の真ん中の符号が反転したように見える。「セ」の状態。

⑤⑥の和は 1: cos2 48° + sin2 48°; ⑤⑥の正の平方根を考えれば 48° の cos, sin の別表現を得る――三重根号が発生しちゃうけど、使い道によっては便利かも?

*

画像6。1 の原始15乗根の主値(偏角 24°)を A とする。
  A = cos 24° + i sin 24° = 1/8(1 + 5 + (30 − 65)) + i/8(3 + 15 − (10 − 25))

A2 が、偏角 48° の原始15乗根 B と一致することを、直接的な代数計算によって確かめたい。
  B = cos 48° + i sin 48° = 1/8(1 − 5 + (30 + 65)) + i/8(−3 + 15 + (10 + 25))

複素数の計算としても cos の倍角の計算としても、A2 の実部は cos2 24° − sin2 24° に等しいはず:
  [1/8(1 + 5 + (30 − 65))]2 − [1/8(3 + 15 − (10 − 25))]2

この二つの平方については、前回③④として計算済み:
  cos2 24° = 1/16(9 − 5 + (30 + 65))  ‥‥③再掲
  sin2 24° = 1/16(7 + 5 − (30 + 6√5))  ‥‥④再掲
上から下を引くと、確かに B の実部と一致:
  1/16(2 − 25 + 2(30 + 65)) = 1/8(1 − 5 + (30 + 65))

次に A2 の虚部、すなわち 2 cos 24° sin 24° は、複素数の計算としても sin の倍角としても、sin 48° に等しいはず:
  2[1/8(1 + 5 + (30 − 65))][1/8(3 + 15 − (10 − 25))]

上の式の展開については、付録参照。③④の形式なら次のようにきれいに表現でき、このとき丸かっこ内に現れる3項式は cos 48° の「分子」に他ならない:
  cos2 24° = 1/16[8 + (1 − 5 + (30 + 65))]
  sin2 24° = 1/16[8 − (1 − 5 + (30 + 65))]

A, B の実部・虚部は全部正だから、「2 cos 24° sin 24° が sin 48° に等しいこと」を言う代わりに、「前者の平方 4 cos2 24° sin2 24° が sin2 48° に等しいこと」を示しても同じ。次のように「和・差の積」から「2乗の差」になる:
  4 cos2 24° sin2 24° = 4⋅1/16[8 + (1 − 5 + (30 + 65))] 1/16[8 − (1 − 5 + (30 + 65))]
   = 1/64[82 − (1 − 5 + (30 + 65))2]
   = 1 − [1/8(1 − 5 + (30 + 65))]2

上の式で 1 から引き算される [ ]2 は、⑤の cos2 48° そのもの。⑤を代入すると、結果は⑥と一致:
   = 1 − 1/16(9 + 5 − (30 − 65)) = 1/16(7 − 5 + (30 − 65))

† 三角関数として見ると: 1 − cos2 2θ = sin2 2θ は sin 2θ = 2 cos θ sin θ の平方に等しい。

*

「サ」~「セ」の (5 − 1) (30 + 65) = 2(30 − 65) の簡約は、少々トリッキー。

65 の部分を少し一般化して n5 とすると:
  (5 − 1) (5n + n5) = 2(5n − n5)
  同様に (5 + 1) (5n − n5) = 2(5n + n5)

どちらの式も、左辺前半を (5 ∓ 1)1/2 (5 ∓ 1)1/2 と見て、左辺後半の平方根を (5 ± 1)1/2 (n5)1/2 と見ると、左辺は4因子の積となる。そのうち次の2因子の積は、整数 2 に等しい:
  (5 ∓ 1)1/2 (5 ± 1)1/2 = (5 − 1)1/2
残りの2因子の積は、下記のように「もともとの左辺後半の平方根」の真ん中の符号を変えたものに等しい:
  (5 ∓ 1)1/2 (n5)1/2 = (5n ∓ n5)1/2

u = (5 + 1)1/2, v = (5 − 1)1/2 と置くと:
  u⋅u = 5 + 1
  v⋅v = 5 − 1
  u⋅v = (5 + 1)1/2 (5 − 1)1/2 = [(5 + 1)(5 − 1)]1/2 = 41/2 = 2

今 c = (n5)1/2 とする。二重根号 cu = (5n + n5)1/2 を v⋅v = 5 − 1 倍すると、積は「中央符号が逆の二重根号」の 2 倍に等しい:
  cu⋅v⋅v = (u⋅v)⋅c⋅v = 2cv  【♪】
符号を入れ替えた積―― cv = (5n − n5)1/2 の u⋅u = 5 + 1 倍――も、同様:
  cv⋅u⋅u = (u⋅v)⋅c⋅u = 2cu
事実 u, v の定義は、どっちがどっちでも構わない。

(x + yz) には (x − yz) を掛ければ二重根号を解消できる――という漠然とした発想でも、ほぼ一本道で同じ結論に至る。まず:
  (5n + n5) (5n − n5) = (25n2 − 5n2) = (20n2) = 2n5
これは (cu)(cv) = 2c2 に他ならない。

次に、上の両辺を (5n − n5) で割って:
  (5n + n5) = 2⋅n5 / (5n − n5)
これは cu = 2⋅c2/(cv) に当たる。

最後に、上の両辺を 5 − 1 倍。分子の n5 にこの因数が掛け算されたとき、積は分母の平方となり(言い換えると、分母が分子の平方根となり)、分数が「割り切れる」:
  (5 − 1)(5n + n5) = 2⋅(5n − n5) / (5n − n5) = 2(5n − n5)
これは (cu)(vv) = 2⋅(cv)2/(cv) = 2cv ってこと。【♪】によれば (cu)(vv) は直ちに 2cv に簡約されるのだが、今書いた手順では「分子が 2(cv)2 で、分母が cv の分数」を経由して、同じことしてる。最初【♪】に気付かず、こんな変な方法を使っていた…。 sin 144° 参照。

〔追記〕 この種の「変なトリック」に依存しない一般的な方法を後述する。

*

(付録) A2 = B の虚部について、直接展開による検証。簡潔化のため 3, 5 をそれぞれ J, f と略す。

2 cos 24° sin 24° = 2[1/8(1 + 5 + (30 − 65))][1/8(3 + 15 − (10 − 25))]
   = 1/32(1 + f + J(10 − 2f))(J + Jf − (10 − 2f))

分数を省き、最後の式の右側を展開した 9 項だけを記す。すぐ 3 項にまとまる:
  (J + Jf − (10 − 2f)) + (Jf + 5J − f(10 − 2f)) + [3(10 − 2f) + 3f(10 − 2f) − J(10 − 2f)]
   = −4J + 4Jf + 2(10 − 2f) + 2f(10 − 2f)
   = −4J + 4Jf + 2(f + 1)(10 − 2f)

分数を記し、前述の簡約を行うと:
  1/32(−4J + 4Jf + 2⋅2(10 + 2f)) = 1/8(−J + Jf + (10 + 2f)) = sin 48°

⁂


2024-02-27 4次方程式(その3) x15 = 1 の代数的解法

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

15次方程式 x15 = 1 つまり x15 − 1 = 0 を代数的に解こうとする酔狂な人は、あまりいないだろう。三角関数経由の方が楽だし…

「山、高からざれば霊ならず」というが「山、高きがゆえにたっとからず」ともいう。矛盾したことわざだけど、ともかく15次は高い次数。この森を歩いてみたい。そこに山があるからだ!

*

とりあえず x15 − 1 を分解。初めの一歩は、
  (x5)3 − 1 = [(x5) − 1][(x5)2 + (x5) + 1]  「タ」
か、あるいは
  (x3)5 − 1 = [(x3) − 1][(x3)4 + (x3)3 + (x3)2 + (x3) + 1]  「チ」
とするか?

「タ」の方が簡単そう。右辺第1因子をさらに分解・第2因子を整理して:
  x15 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1)(x10 + x5 + 1)  「ツ」
末尾の10次の因子は、さらに x2 + x + 1 で割り切れるはず。

なぜなら「チ」のように x15 − 1 は x3 − 1 = (x − 1)(x2 + x + 1) で割り切れる――つまり (x − 1) と (x2 + x + 1) を因子に持つ。だがそのうち因子 (x − 1) は、既に「ツ」右辺に出現してるし、 x10 + x5 + 1 に x = 1 を入れても値は 0 にならないので、この10次式は x − 1 では割り切れない。

この仮説を検証し商を確定するため、地道に割り算。

              x^8  - x^7       + x^5 - x^4 + x^3       - x     + 1
            ┌─────────────────────────────────────────────────────────────
x^2 + x + 1 │ x^10                         + x^5                       + 1
              x^10 + x^9 + x^8
              ────────────────
                   - x^9 - x^8
                   - x^9 - x^8 - x^7
                   ─────────────────
                               + x^7       + x^5
                                 x^7 + x^6 + x^5
                               ─────────────────
                                     - x^6 +   0
                                     - x^6 - x^5 - x^4
                                     ─────────────────
                                           + x^5 + x^4
                                             x^5 + x^4 + x^3
                                             ───────────────
                                                       - x^3
                                                       - x^3 - x^2 - x
                                                       ───────────────
                                                             + x^2 + x + 1
                                                               x^2 + x + 1
                                                               ───────────
                                                                         0

割り切れたぜぃ!

画像5。 x15 − 1 を分解した4因子…
  (x − 1)(x2 + x + 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1)(x8 − x7 + x5 − x4 + x3 − x + 1)
…のうち x − 1 は 1 の1乗根(P = 1)、 x2 + x + 1 は 1 の二つの原始3乗根(W = ω, W′ = ω*)に対応。 x4 + x3 + x2 + x + 1 は四つの原始5乗根(Q, Q′, R, R′)に対応。割り算の結果見つかった8次式…
  x8 − x7 + x5 − x4 + x3 − x + 1
…の根は、八つの原始15乗根(A, A′, B, B′, C, C′, D, D′)に対応してるのだろう。

この8次式(原始15乗根に対応する円分多項式)には6次・2次の項が無く、それ以外の項について、係数 +1 と −1 が交互に現れる。言い換えると、真ん中の −x4 まで左から読んでも + − + − だし、右から読んでも + − + − で「たけやぶやけた」みたいな回文的な係数。

それを利用してこの8次式を4次式に圧縮し、4次方程式として解く――という作戦。

次の例のように、共役のペアは積が 1 であること(互いに逆数であること)が役立つ。
  A = cos 24° + i sin 24°, A′ = cos 24° − i sin 24° について:
  A × A′ = (cos 24° + i sin 24°)(cos 24° − i sin 24°) = (cos 24°)2 − (i sin 24°)2 = cos2 24° + sin2 24° = 1
共役のペアを足し合わせると虚部が消え、実部が2倍に:
  A + A′ = (cos 24° + i sin 24°) + (cos 24° − i sin 24°) = 2 cos 24°

例えば x = A = cos 24° + i sin 24° とすると 1/x = A′ = cos 24° − i sin 24° となり、 x + 1/x = A + A′ = 2 cos 24° となる。同様に x = B なら x + 1/x = B + B′ = 2 cos 48° となり、x = C なら x + 1/x = C + C′ = 2 cos 96° となる。 D, D′ についても同様。

置換 y = x + 1/x によって上記 x の8次式を y の4次式にした場合、その4次式の四つの根は――単に変数を置換しての途中計算というだけでなく――それ自身 y = 2 cos 24°, 2 cos 48°, 2 cos 96°, 2 cos 168° という四つの値になっていて、それぞれ 2 で割るだけで A, A′, B, B′, C, C′, D, D′ の横座標が得られる。おまけに変数置換を元に戻さなくても、sin2 θ = 1 − cos2 θ によって、対応する虚部(縦座標)も確定できる。

*

今、問題の8次方程式…
  x8 − x7 + x5 − x4 + x3 − x + 1 = 0
…の両辺を x4 で割り、左辺と右辺を入れ替えると:
  0 = x4 − x3 + x − 1 + x−1 − x−3 + x−4
y = x + 1/x つまり y = x + x−1 と置く。右辺左端の x4 を消すため、 y4 = x4 + 4x2 + 6 + 4x−2 + x−4 を上の式から引いて:
  −y4 = −x3 − 4x2 + x − 7 + x−1 − 4x−2 − x−3
「回文」の性質から右端にあった x−4 も同時消滅。以下同じ原理で進める。右辺左端の −x3 を消すため、上の式に y3 = x3 + 3x + 3x−1 + x−3 を足して:
  −y4 + y3 = −4x2 + 4x − 7 + 4x−1 − 4x−2
さらに y2 = x2 + 2 + x−2 の 4 倍、つまり 4y2 = 4x2 + 8 + 4x−2 を足して:
  −y4 + y3 + 4y2 = 4x + 1 + 4x−1
最後に −4y = −4x − 4x−1 を足して:
  −y4 + y3 + 4y2 − 4y = 1
  つまり y4 − y3 − 4y2 + 4y + 1 = 0

y についての4次方程式が得られた! 「はじめての4次方程式」「4次方程式(その2)」と同様、
  y4 − y3 − 4y2 + 4y + 1 = (y2 − 1/2y + p)2 − (qy + r)2  「テ」
と置いて展開し、係数を比較すると、p についての次の3次方程式を得る。
  8p3 + 16p2 − 16p − 33 = 0
この有理数解を直接検索してもいいのだが、p = u/2 と置くと、分数なしに最高次の係数が 1 になって、見通しがいい。
  u3 + 4u2 − 8u − 33 = 0
有理数解があるとすれば u = ±1, ±3, ±11, ±33; 試すと u = −3 が見つかり、p = u/2 = −3/2 を得る。

† y3 の係数は −1 なので、「テ」右辺の2次式の「1次の係数」はその半分の −1/2。なぜ?

その結果、4次方程式のいつもの解法によって p = −3/2, q = 5/2, r = −5/2 を選択でき、「テ」は次の2次式に帰着。
  y2 − 1/2y − 3/2 = 5/2y − 5/2 または = −5/2y + 5/2
分数をなくすため両辺を2倍すると:
  2y2 − y − 3 = 5y − 5 または = −5y + 5

結局、次の二つの2次方程式(連立ではない)から得られる計4個の解が、4次式「テ」の根。
  2y2 − (1 + 5)y + (−3 + 5) = 0  ‥‥①
  2y2 − (1 − 5)y + (−3 − 5) = 0  ‥‥②

画像5。①②は2次方程式なので普通に解ける。出てくる4解は、A, B, C, D の横座標(A′, B′, C′, D′ の横座標でもある)。けど、一体どれがどれだろう…。実際に解を求めて数値的に検討すれば分かることだが、解と係数の関係から推理してみる。①②どちらも2解の積は負、従って正の解と負の解を一つずつ持つ。しかし①の2解の和は正、②の2解の和は負なので、前者は (A or B) & C, 後者は (B or A) & D に当たる。①と②それぞれの2解の和は、次の通り:
  (1 + 5)/2 = 3.236…/2 = 1.618…  「ト」
  (−1 + 5)/2 = −1.236…/2 = −0.618…  「ド」
この解は、前述のように、実際の cos と比べて2倍されている。作図から、
  a = ∠POA, b = ∠POB, c = ∠POC, d = ∠POD
として、大ざっぱに…
  cos a = 0.8, cos b = 0.6, cos c = −0.1, cos d = −1
…とすると:
  《ア》 2 cos a + 2 cos c = 1.4, 2 cos b + 2 cos d = −0.8
  《イ》 2 cos b + 2 cos c = 1.0, 2 cos a + 2 cos d = −0.4
「ト」「ド」に《ア》は比較的近い。《イ》は、ずれがでかい。①が A, C の横座標に、②が B, D の横座標に、それぞれ対応する可能性が高そうだ。解法とは関係ない備考: 「ト」の和は、黄金比に(従って 2 cos 36° に)等しい。

*

①の判別式は [−(1 + 5)]2 − 4⋅2⋅(−3 + 5) = (1 + 25 + 5) + 24 − 85 = 30 − 65 なので、①の解は:
  y = 1/4(1 + 5 ± (30 − 65))
実際の cos はその半分なので:
  1/8(1 + 5 ± (30 − 65))
複号プラスの場合の値は、既出の cos 24°; A の横座標に当たる―― cos (−24°) つまり A′ の横座標でもある(以下同様)。複号マイナスの場合、数値的には −0.104… なので、上の推理通り C の cos 96° と見て間違いないだろう。「ト」から、次の副産物を得る。

cos 24° + cos 96° = cos 36°

こう整理すると、結構分かりやすい。

cos 36° = 1/4(1 + 5)
cos 24° = 1/8(1 + 5 + (30 − 65))
cos 96° = 1/8(1 + 5 − (30 − 65)) = −cos 84° = −sin 6°

同様に②の判別式は (1 − 25 + 5) + 24 + 85 = 30 + 65 なので、②の解は:
  y = 1/4(1 − 5 ± (30 + 65))
実際の cos の値は:
  1/8(1 − 5 ± (30 + 65))
複号プラスの場合の値は、既に導いてある cos 48°: C の横座標。複号マイナスの場合の値 −0.978… は D の cos 168° だろう。

cos 108° = 1/4(1 − 5) = −cos 72° = sin 18°
cos 48° = 1/8(1 − 5 + (30 + 65))
cos 168° = 1/8(1 − 5 − (30 + 65)) = −cos 12° = sin 78°

〔注〕 cos 108° の値は cos 72° の −1 倍。

*

かくして4種類の cos の値(1 の原始15乗根の実部)が得られた。その一つ(例えば A に対応する横座標)を選んで cos θ とし sin θ = ±1 − cos2 θ によって対応する ±sin θ を求めるなら、選んだ点と共役の点の縦座標(つまり虚部)が得られる。実部・虚部を合わせた複素数値は、次の通り:
  cos θ + 1 − cos2 θ と共役 cos θ − i 1 − cos2 θ

例えば cos 24° = 1/8(1 + 5 + (30 − 65)) の平方 cos2 24° = 1/16(9 − 5 + (30 + 65)) は、計算済みなので…
  sin 24° = (1 − cos2 24°) = 1/4[7 + 5 − (30 + 65)]
…となり A, A′ の複素数値は:
  A = 1/8(1 + 5 + (30 − 65)) + i/4[7 + 5 − (30 + 65)]
  A′ = 1/8(1 + 5 + (30 − 65)) − i/4[7 + 5 − (30 + 65)]

これは、もともとの8次方程式…
  x8 − x7 + x5 − x4 + x3 − x + 1 = 0
…の八つの解のうちの二つ(1対); 残りの六つ(3対)も、同様に y = cos θ の値から導出される。八つの複素数解は、どれも 1 の原始15乗根: 15乗して初めて 1 に等しくなる。

*

このように 1 の原始15乗根を代数的に求めることは可能だけど、この方法だと、虚部に三重根号が生じる。事前検討によると sin 24°, sin 48° などは、二重根号まででも表現可能なのに…

cos2 θ + sin2 θ = 1 を sin θ について解けば、必然的に平方根が絡む。その式を使わず、単に変数変換を元に戻したらどうか。 y = cos θ を使って y = x + 1/x を x について解こうとすると、 yx = x2 + 1 つまり x2 − cos θ x + 1 = 0 となり、その解は:
  x = [cos θ ± (cos2 θ − 4)]/2 = [cos θ ± i (4 − cos2 θ)]/2
この場合 y = cos2 θ に二重根号があるので、その方法でも結局、分子の平方根のところで同じ三重根号が生じてしまう。根号が二重でも三重でも大同小異かもしれないが、
  [7 + 5 − (30 + 65)]
のような三重根号を二重根号の形に変換するのは(可能とはいえ)トリッキー。どうしたものか…

⁂


2024-02-29 cos 36° のいろいろな求め方 作図を使えば簡単だが…

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

画像8。図の AE の長さは…?

赤い二等辺三角形 ABC の底辺 BC の長さを 1 とし、青い二等辺三角形 BCD の底辺 CD の長さを x とすると、求める長さ ? は、赤三角の斜辺 AB = AC = 1 + x の半分:
  (1 + x)/2

赤三角と青三角は相似なので、それぞれ底辺 ÷ 斜辺の比は同じ:
  (1 + x)/1 = 1/x
分母を払うため両辺を x 倍すれば x + x2 = 1; それを解けば、そこから ? が判明。――あるいは最初から ? の長さを h とすれば(hatena)、赤・青それぞれの斜辺 ÷ 底辺は…
  2h/1 = 1/(2h − 1)  ← 右辺の分母は CD の長さ。 AC = AB = 2h から AD = 1 を引き算
両辺を 2h − 1 倍すると 4h2 − 2h = 1。その左辺を軽く変形して…
  (2h − 1/2)2 − 1/4 = 1 つまり (2h − 1/2)2 = 5/4
両辺の正の平方根から…
  2h − 1/2 = 5/2 つまり 2h = (5 + 1)/2
両辺を 2 で割って h = (5 + 1)/4 となる。

このように作図を利用するのが、cos 36° を求める一番簡単な方法だろう。研究に値する図ってことは、間違いない。でも…こういう作図を思い付くのは、必ずしも簡単じゃないんだよね…。三角関数の値を一つ求めるごとに、いちいちそれ専用の巧妙な図を考えるってのは、あまり現実的ではない。作図に頼らない代数的アプローチを、幾つか検討してみる。

*

代数的解法では、5倍角の公式を利用できる。良いニュースとして、cos と sin の5倍角は、どちらも同じ形――符号が紛らわしい三角関数の世界では、こういうシンプルな関係は珍しい!

cos 5θ = 16 cos5 θ − 20 cos3 θ + 5 cos θ  「ナ」
sin 5θ = 16 sin5 θ − 20 sin3 θ + 5 sin θ  「ニ」

マイナス 20 とプラス 5 が目印。左端の 16 については、「n 倍角の最高次の係数は 2n−1」という原則から、自然に分かる。

便宜上、導出を後回しにして、既に「ナ」が得られているとしよう。ここから幾つかの進め方がある。 (I) cos 5θ = 0 と置けば、5倍の角度の cos が 0 のケースが検出される。 cos 90° = 0 なので cos 18° が検出され、倍角の公式を使って cos 36° を得る。 (II) cos 5θ = −1 と置くと、cos 180° = −1 なので、同様にして、5分の1の角度に対する cos 36° が直接検出される。一方、「ニ」が得られてるとして: (III) sin 5θ = 0 と置くと、sin 180° = 0 なので sin 36° が検出され、そこから cos 36° が求まる。

簡潔化のため、以下 cos θ を c と略す。

(I) 5次方程式 cos 5θ = 16c5 − 20c3 + 5c = 0 を成り立たせる解 c は、重解がないとして 5 種類。 cos 5θ = 0 となるような角度 5θ について、その5分の1の角度 θ に対する cos θ を考えると、それが解 c。

正の角度の cos も負の角度の cos も同じなので、正の角度だけ考える。 cos π/2 = cos 90° はゼロで、そこから角度が π = 180° 増えるごとに cos はゼロになるので cos 5θ = 0 を満たす 5θ は:
  5θ = π/2, /2, /2, /2, /2, 11π/2, …
対応する5分の1の角度 θ は:
  θ = π/10, /10, π/2, /10, /10, 11π/10, …

このうち6番目の θ は、 cos 11π/10 = cos π/10 なので、1番目の θ と同じ結果になり、以下ループ(最初の五つの cos と同じ値が)。 0 ≤ θ ≤ π の範囲で全種類の cos の値が現れ、上記のうち最初の五つの θ が、5次方程式の 5 種類の解 c = cos θ を与えてくれる。そのうち θ = π/2 は c = cos θ = 0 を意味するけど、c = 0 が
  16c5 − 20c3 + 5c = c(16c4 − 20c2 + 5) = 0
を満たすことは分かり切ってる。最初の五つの θ のうち θ = π/2 以外の四つが、問題の核心――それらの θ に対する c = cos θ が、4次の因子
  16c4 − 20c2 + 5
の根。 cos /10 = −cos π/10, cos /10 = −cos /10 だから、四つの根の正体は…
  正の実数 cos π/10 = cos 18° とその −1 倍
  正の実数 cos /10 = cos 54° とその −1 倍

解の目星が付いたところで、実際に方程式を解くとしよう。 16c4 − 20c2 + 5 = 0 で x = c2 と置いた 16x2 − 20x + 5 = 0 の解は:
  x = [10 ± (102 − 16⋅5)]/16 = (10 ± 25)/16
c = cos θ は、この x の平方根(正または負)だから:
  c = ±[(10 ± 25)]/4 複号は4通りの組み合わせが可能
cos 18° > cos 54° なので、正の解は c = cos 18° = [(10 + 25)]/4, cos 54° = [(10 − 25)]/4 となる。前者に倍角の公式を適用して:
  cos 36° = [2(10 + 25)]/16 − 1 = (5 + 5)/4 − 1 = (1 + 5)/4

最初の幾何学的方法に比べると cos 36° を導出するまでの道のりが長いけど、淡々とした一本道。

cos 18° は sin 72° に等しく、この数は 1 の原始5乗根の主値の虚部。 cos 54° の方は cos としては出番が少ないかもしれないが、数値的には sin 36° = sin 144° に等しく、1 の原始5乗根・10乗根の虚部としても登場。

*

(II) cos 5θ = 16c5 − 20c3 + 5c について、今度は = 0 ではなく = −1 と置いてみる。 cos の値が −1 になる正の角度は:
  5θ = π, , , , , …
対応する5分の1の角度 θ は:
  θ = π/5, /5, π, /5, /5, …

この手順なら c = cos π/5 = cos 36° が直接求められそう。五つの θ がリストアップされてるけど…
  cos /5 = cos π/5 = cos π/5  ← 偏角 36° × 9 = 324° = −36°
  cos /5 = cos /5 = cos /5  ← 偏角 ±108°
…なので、実際には一つ目と五つ目の θ に対応する cos は等しく、二つ目と四つ目の cos θ も等しい: 重解が 2 組生じ、それらは cos 36° と cos 108° に当たる(前者は正、後者は負)。他方、三つ目の c = cos θ = π を満たす θ はもちろん −1 なので、
  16c5 − 20c3 + 5c = −1 つまり 16c5 − 20c3 + 5c + 1 = 0
の一つの解は c = −1 で、左辺の5次式は c + 1 で割り切れる。割り算を実行すると:
  16c5 − 20c3 + 5c + 1 = (c + 1)(16c4 − 16c3 − 4c2 + 4c + 1)

c + 1 の根 c = −1 は分かり切っている。知りたいのは、4次の因子
  16c4 − 16c3 − 4c2 + 4c + 1  「ヌ」
の根。重根が 2 組あるので四つの根を仮に p, p, q, q とすると、上の4次式は――「重根 p を持つ2次式」と「重根 q を持つ2次式」の積になるか、あるいは(本質的には同じことだが)――「根 p, q を持つ一つの2次式」の平方に等しいはず。この場合、「相異なる2次式と2次式の積」と考えると、きれいに分解してくれない。同一の2次式(Lc2 + Mc + N としよう)の平方と見れば、ほぼ一本道:
  (Lc2 + Mc + N)2 = L2c4 + M2c2 + N2 + 2LMc3 + 2MNc + 2LNc2  「ネ」

「ヌ」と「ネ」の4次(c4)の係数を比べると 16 = L2 つまり L = 4 と設定できる。 3次の係数を比べると −16 = 2LM = 8M なので M = −2、最後に1次の係数を比べると:
  4 = 2MN = 2(−2)N = −4N 従って N = −1
結局、次の分解を得て、4次式「ヌ」 = 0 を解く代わりに 4c2 − 2c − 1 = 0 を解けばいいことが分かる!
  16c4 − 16c3 − 4c2 + 4c + 1 = (4c2 − 2c − 1)2

† L2 = 16 は L = ±4 を意味するが、一つ目の係数では、どちらの符号を選んでも構わない。 L = −4 とした場合、それに対応して M, N の符号も変わり、最終結果は −4c2 + 2c + 1 = 0 になる; その両辺を −1 倍すれば、本文の2次式と全く同じ意味。

‡ 定数項を比較して N2 = 1 と見た方が簡単そうだが、それだと N = ±1 になってしまい、N の符号を決められない。既に L の符号を固定してしまったため N の符号については自由に選択できない。

2次式の根は c = (1 ± 5)/4; 複号でプラスを選べば c は正で cos 36° だし、マイナスを選べば c は負で cos 108° ――この手順だと(倍角の公式を使わず)ダイレクトに cos 36° が求まる。その代わり、5次方程式を(2組の重根を持つことを見抜いた上で)因数分解する手間が生じる。

*

(III) sin θ は θ の正負が変わると、符号が変わる。 sin 5θ = 0 を満たす 5θ は:
  5θ = 0, ±π, ±2π, …
対応する5分の1の角度 θ は:
  θ = 0, ±π/5, ±/5, …

sin の5倍角「ニ」は cos の5倍角「ナ」と同じ形。 sin θ を s と略すと:
  sin 5θ = 16s5 − 20s3 + 5s = s(16s4 − 20s2 + 5)  「ノ」

だから sin 5θ = 0 の解法は (I) と全く同じ。文字が c から s に変わるだけ:
  s = ±[(10 ± 25)]/4 複号は4通りの組み合わせが可能

θ = 0 は「ノ」の自明解 s = sin θ = 0 を与える。それ以外の4解は θ = ±π/5 = ±36°, etc. なので、正の2解が s = sin 36°, sin 72° で負の2解が −sin 36°, −sin 72°: 四つの値は (I) で得た c = ±cos 18°, ±cos 54° と一致。解いた4次方程式が同一なのだから解が同じなのは当然だが、四つの解のどれがどれかに注意。 sin 36° は sin 72° より小さいので、根号の中にマイナスがある方が sin 36°、プラスがある方が sin 72° となる。

cos 36° の導出。 sin 72° = [(10 + 25)]/4 を、値が同じ cos 18° と見て、そこに倍角の公式を適用するなら、(I) と全く同じ。しかしそれでは (I) を遠回りにしただけで、わざわざ sin 経由でやる意味があまりない。新しい経路として sin 36° = [(10 − 25)]/4 をベースに…
  cos2 36° = 1 − sin2 36° = 1 − (10 − 25)/16 = (6 + 25)/16
…の正の平方根を求めると:
  cos 36° = [(6 + 25)]/4 = (5 + 1)/4
ここで分子の平方根については、次のように「内側の根号が 2 倍される基本パターン」を利用して、二重根号を外した。
  6 + 25 = 5 + 25 + 1 = (5)2 + 25⋅1 + 12 = (5 + 1)2
  両辺の平方根を考えると (6 + 25) = 5 + 1

cos 36° の導出としては、(III) は (I) と比べ(ひどく遠回りということはないけど)特に近道というわけでもない。
  sin 36° = [(10 − 25)]/4
を直接導出したい場合には (III) のやり方が役立つだろう。

*

(I)(II)(III) 全ての出発点となる「5倍角の公式」の導出については、次回に。「cos 36° の求め方の改善」では、別の方法 (IV) を紹介する。

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2024-03-02 5倍角の公式の高速生成 何っ、これだけ?!

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

36° や 72° の cos, sin は、1 の原始5乗根や正五角形の研究の土台。代数的には「5倍角の公式」がその出発点となる。

4倍角・5倍角…は比較的使用頻度が低いので無理に丸暗記せず、必要になったらその場で導出するのが現実的だろう。ところが加法定理をそのまま使って素朴にやると、5倍角の導出は結構面倒。

ハードルを下げ、安心して五角形で遊べるように、n 倍角の公式の高速生成法や裏技(?)を紹介したい。普通にやると10分くらいかかる面倒な導出が、1分くらいで楽にできる。教科書的な基本の方法も併記するので、どちらでもお好みで…

*

3倍角・4倍角は次のように普通にやっても、さほど面倒ではない。まず cos の2倍角:
  cos 2θ = cos θ cos θ − sin θ sin θ = cos2 θ − sin2 θ
この右辺は cos2 θ − (1 − cos2 θ) と見ることもできるし、 (1 − sin2 θ) − sin2 θ と見ることもできる。それぞれ、こうなる:
  cos 2θ = 2(cos θ)2 − 1  「ハ」
  cos 2θ = 1 − 2(sin θ)2  「バ」

4倍角は、2倍角の2倍。仮に x = 2θ, 2x = 4θ とすると…
  cos 4θ = cos 2x = 2(cos x)2 − 1  ←「ハ」で θ = x とする
   = 2[cos 2θ]2 − 1  ← x を 2θ に戻す
   = 2[2(cos θ)2 − 1]2 − 1  ← cos 2θ に「ハ」を代入
   = 2[4(cos θ)4 − 4(cos θ)2 + 1] − 1 = 8 cos4 θ − 8 cos2 θ + 1  「ヒ」

cos2 θ = 1 − sin2 θ なので cos の偶数乗の式は、必要なら sin-only に書き換え可能。上で「ハ」の代わりに「バ」を代入すると:
  cos 4θ = 2[1 − 2(sin θ)2]2 − 1 = 2(1 − 4 sin2 θ + 4 sin4 θ) − 1 = 8 sin4 θ − 8 sin2 θ + 1  「ビ」

一応 cos の4倍角が得られた! 次に sin の2倍角。
  sin 2θ = sin θ cos θ + cos θ sin θ = 2 sin θ cos θ  「フ」
この θ を 2θ に置き換えると…
  sin 4θ = 2 sin 2θ cos 2θ

上の式の sin 2θ に「フ」を、cos 2θ に「ハ」を、それぞれ代入:
  sin 4θ = 2(2 sin θ cos θ)[2(cos θ)2 − 1] = 4 sin θ (2 cos3 θ − cos θ)  「ヘ」
「ハ」の代わりに「バ」を代入するなら:
  sin 4θ = 2(2 sin θ cos θ)[1 − 2(sin θ)2] = 4 cos θ (sin θ − 2 sin3 θ)  「ベ」

sin の4倍角が得られた!

これをベースに、懸案の5倍角の公式を…。引き続き、教科書通りのベーシックな方法。
  cos 5θ = cos (θ + 4θ) = cos θ cos 4θ − sin θ sin 4θ
cos-only にしたいので、cos 4θ, sin 4θ にそれぞれ「ヒ」と「ヘ」を代入:
  cos 5θ = cos θ (8 cos4 θ − 8 cos2 + 1) − sin θ [4 sin θ (2 cos3 θ − cos θ)]
   = 8 cos5 θ − 8 cos3 + cos θ − 4 sin2 θ (2 cos3 θ − cos θ)
この第2項は…
  −4(1 − cos2 θ)(2 cos3 θ − cos θ) = −4(2 cos3 θ − cos θ − 2 cos5 θ + cos3 θ)
   = −4(3 cos3 θ − cos θ − 2 cos5 θ) = −12 cos3 θ − 4 cos θ − 8 cos5 θ
…なので:
  cos 5θ = 8 cos5 θ − 8 cos3 + cos θ − 12 cos3 θ + 4 cos θ + 8 cos5 θ
   = 16 cos5 θ − 20 cos3 θ + 5 cos θ

見通しの悪い計算だが、とにかく cos の5倍角の公式が得られた。この方法が非効率な原因は、第一に、cos の式が欲しいのに、途中計算で sin の4倍角(それ自体、生成が面倒)が必要なこと、第二に、加法定理の計算自体が複雑なこと。「1倍角と4倍角の和」の代わりに「2倍角と3倍角の和」にする手もあるが、その場合、今度は sin の3倍角が必要になるし、4倍角=倍角の倍角というショートカットも使えなくなる。

同様に sin の5倍角も、直接に加法定理を経由させると、かなり面倒。
  sin 5θ = sin θ cos 4θ + cos θ sin 4θ
sin-only にしたいので「ビ」「ベ」を代入:
  sin 5θ = sin θ (8 sin4 θ − 8 sin2 θ + 1) + cos θ [4 cos θ (sin θ − 2 sin3 θ)]
   = 8 sin5 θ − 8 sin3 θ + sin θ + 4(1 − sin2 θ)(sin θ − 2 sin3 θ)
   = 8 sin5 θ − 8 sin3 θ + sin θ + 4(sin θ − 2 sin3 θ − sin3 θ + 2 sin5 θ)
   = 16 sin5 θ − 20 sin3 θ + 5 sin θ

だが面倒といっても、やれば普通にできる。「トリッキーなアルゴリズムより、地道な経路の方がいい」と感じる人もいるかもしれない。

*

本題の高速生成。必須の知識というわけではなく、あくまで一つのオプション。確信が持てなければ、3倍角=加法定理、4倍角=倍角の倍角という基本路線の方が無難だろう。5倍角に関しては、この方法は圧倒的に速い。

多倍角の公式の高速生成(cos, sin) c = cos θ とすると:
  n+1 倍角の公式 = 2c (n倍角の公式) − (n−1 倍角の公式)

要するに 2c 倍して「一つ前」の公式を引けばいい――言い換えると、ある公式の係数を全部 2 倍にして次数を 1 ずつ増やしたものから、「一つ前」の公式を引き算。

cos の「1倍角」の公式 cos 1θ = cos θ = c と、2倍角の公式 cos 2θ = 2 cos2 − 1 = 2c2 − 1 を出発点とすると:
  cos 3θ = 2c(2c2 − 1) − (c) = (4c3 − 2c) − c
   = 4c3 − 3c  ← 3倍角
  cos 4θ = 2c(4c3 − 3c) − (2c2 − 1)
   = 8c4 − 6c2 − 2c2 + 1 = 8c4 − 8c2 + 1  ← 4倍角
  cos 5θ = 2c(8c4 − 8c2 + 1) − (4c3 − 3c)
   = 16c4 − 16c2 + 2c − 4c3 + 3c = 16c4 − 20c2 + 5c  ← 5倍角

何っ、これだけ?! 最初のあの長い計算は、一体何だったんだ…w

もしも出発点の2倍角の公式も分からなかったら…代わりに「0倍角」の公式 cos 0θ = cos 0 = 1 と「1倍角」の公式 cos 1θ = c を使って:
  cos 2θ = 2c(c) − (1) = 2c2 − 1

――極論すれば、2倍角の公式自体リアルタイム生成可能で、覚える必要なしッ!

加法定理も高速生成も、積み重ねタイプの計算: 途中で1カ所でもミスると、その先が全部おかしくなってしまう。危うきこと累卵るいらんのごとし…。次の三つのチェックを心掛けると、かなりの保険になる: cos の場合、①「n 倍角の公式は n 次式」、②「n が偶数か奇数かに応じて、偶数乗の項・奇数乗の項だけがある」(定数項=0次の項も偶数乗と見なす)、③「最高次の係数は 2n−1」。どれも一目で検証できるので、例えば5倍角の公式を導くとしたら、3倍角・4倍角・5倍角の各ステップで確認すると吉。

sin にも、同じアルゴリズムが通用するけど、 sin の偶数倍角は sin-only にできない。奇数倍角なら sin-only にできるが、その処理のためには c2 を 1 − s2 に変換しなければならず、次の例のように掛け算回数が増えてしまう(これを回避する裏技を後述)。

sin 1θ = sin θ = s と sin 2θ = 2 cos θ sin θ = 2cs からスタートすると…
  sin 3θ = 2c(2cs) − (s) = 4c2s − s = 4(1 − s2)s − s
   = 3s − 4s3  ← 3倍角
  sin 4θ = 2c(3s − 4s3) − (2cs) = 6cs − 8cs3 − 2cs
   = 4cs − 8cs3 = c(4s − 8s3)  ← 4倍角
  sin 5θ = 2c⋅c(4s − 8s3) − (3s − 4s3) = 2(1 − s2)(4s − 8s3) − (3s − 4s3)
   = 2(4s − 8s3 − 4s3 + 8s5) − 3s + 4s3 = 16s5 − 20s3 + 5s  ← 5倍角

sin の n 倍角の公式についても、cos のそれとほぼ同じエラーチェックを使える。 sin の偶数倍角では、c があれば s の次数と c の次数の和を「項の次数」とする; c を無視するなら、s の指数は常に奇数。最高次の係数は、絶対値 2n−1; 最高次の係数の符号は、1倍角・2倍角では正、3倍角・4倍角では負、以下同様に「正・正・負・負」と二つずつ交互にループ(言い換えると: n が 4 の倍数か、それより 1 小さければ負)。付録として、末尾に13倍角の公式までを掲載しておく。13倍角なんて、それ自体としては一生使わないかもしれないけど、係数のパターンを眺めるだけでも結構面白い!

ある公式の 2c 倍から一つ前の公式を引くと、次の公式
cos nθsin nθ
n = 0 1 0
n = 1 1c 1s
2c 倍 2c2 2sc
n = 2 2c2 − 1 2sc
2c 倍 4c3 − 2c 4s(−s2 + 1)
n = 3 4c3 − 3c −4s3 + 3s
2c 倍 8c4 − 6c2 (−8s3 + 6s)c
n = 4 8c4 − 8c2 + 1 (−8s3 + 4s)c
2c 倍 16c5 − 16c3 + 2c (−16s3 + 8s)(−s2 + 1)
n = 5 16c5 − 20c3 + 5c 16s5 − 20s3 + 5s

n が奇数の場合、 cos の n 倍角の公式を sin の n 倍角の公式として流用でき、その方が効率がいい(cos の n 倍角の方が生成しやすいので)。 n が 4 の倍数より 1 大きい場合、cos と sin の n 倍角の公式は全く同じ形(例: 5倍角の公式); n が 4 の倍数より 1 小さい場合、sin の n 倍角の公式は cos のそれと比べて、全部の係数が −1 倍になる(例: 3倍角の公式)。

結局、sin の5倍角に関しては何もせず、cos の5倍角だけ高速生成すれば十分: cos の5倍角の公式に含まれる「cos」という文字を全部「sin」に置き換えれば、それが正しい sin の5倍角の公式なのだ!

*

なぜこの方法で n 倍角の公式を高速生成できるのか?

仕組みはシンプル: 加法定理から、次の二つの恒等式が成り立つ。
  cos (n+1)θ = cos (nθ + θ) = cos nθ cos θ − sin nθ sin θ
  cos (n−1)θ = cos (nθ − θ) = cos nθ cos θ + sin nθ sin θ
二つの式を辺ごとに足し合わせると:
  cos (n+1)θ + cos (n−1)θ = 2 cos nθ cos θ
  つまり cos (n+1)θ = (2 cos θ) cos nθ − cos (n−1)θ

この最後の式を解釈すると: n+1 倍角の余弦 cos (n+1)θ というものは、n 倍角の余弦 cos nθ を 2 cos θ 倍して、そこから n−1 倍角の余弦 cos (n−1)θ を引いたものに等しい。一つ目の式だけを単純に使うと、cos (n+1)θ の計算に sin nθ が必要になるけど、二つ目の式と組み合わせることで、この「邪魔」な sin nθ が除去される。

同様に…
  sin (n+1)θ = sin nθ cos θ + cos nθ sin θ
  sin (n−1)θ = sin nθ cos θ − cos nθ sin θ
…を足し合わせると:
  sin (n+1)θ + sin (n−1)θ = 2 sin nθ cos θ
  つまり sin (n+1)θ = (2 cos θ) sin nθ − sin (n−1)θ

解釈すると: n+1 倍角の正弦 sin (n+1)θ は、n 倍角の正弦 sin nθ を 2 cos θ 倍して、そこから n−1 倍角の正弦 sin (n−1)θ を引いたものに等しい。「邪魔」な cos nθ は除去される。

1倍ずつ上がる漸化式ではなく、直接欲しい n 倍角を求める閉形式にできれば理論上より良いのだが、あいにくそれは簡単ではないし、5~9倍角程度なら、実用上、漸化式でも十分速い。下記付録で、参考までに cos の多倍角の最初の3項を閉形式で付記しておく――これで原理的には5倍角を直接計算できるけど、複雑な形なので、むしろかえって遅くなるかもしれない。他方、tan の多倍角なら、二項定理を利用して、容易に閉形式にできる。

*

付録 cos と sin の2倍角~13倍角の公式(本文の方法による形式)

2 : 2*c^2 - 1
2 : 2*s*c

3 : 4*c^3 - 3*c
3 : -4*s^3 + 3*s

4 : 8*c^4 - 8*c^2 + 1
4 : (-8*s^3 + 4*s)*c

5 : 16*c^5 - 20*c^3 + 5*c
5 : 16*s^5 - 20*s^3 + 5*s

6 : 32*c^6 - 48*c^4 + 18*c^2 - 1
6 : (32*s^5 - 32*s^3 + 6*s)*c

7 : 64*c^7 - 112*c^5 + 56*c^3 - 7*c
7 : -64*s^7 + 112*s^5 - 56*s^3 + 7*s

8 : 128*c^8 - 256*c^6 + 160*c^4 - 32*c^2 + 1
8 : (-128*s^7 + 192*s^5 - 80*s^3 + 8*s)*c

9 : 256*c^9 - 576*c^7 + 432*c^5 - 120*c^3 + 9*c
9 : 256*s^9 - 576*s^7 + 432*s^5 - 120*s^3 + 9*s

10 : 512*c^10 - 1280*c^8 + 1120*c^6 - 400*c^4 + 50*c^2 - 1
10 : (512*s^9 - 1024*s^7 + 672*s^5 - 160*s^3 + 10*s)*c

11 : 1024*c^11 - 2816*c^9 + 2816*c^7 - 1232*c^5 + 220*c^3 - 11*c
11 : -1024*s^11 + 2816*s^9 - 2816*s^7 + 1232*s^5 - 220*s^3 + 11*s

12 : 2048*c^12 - 6144*c^10 + 6912*c^8 - 3584*c^6 + 840*c^4 - 72*c^2 + 1
12 : (-2048*s^11 + 5120*s^9 - 4608*s^7 + 1792*s^5 - 280*s^3 + 12*s)*c

13 : 4096*c^13 - 13312*c^11 + 16640*c^9 - 9984*c^7 + 2912*c^5 - 364*c^3 + 13*c
13 : 4096*s^13 - 13312*s^11 + 16640*s^9 - 9984*s^7 + 2912*s^5 - 364*s^3 + 13*s

cos の n 倍角の公式において、最高次の項は 2n−1 cn: 係数 2, 4, 8, 16, 32, … は一目瞭然。

降順の第2項は −2n−3 n cn−2: 係数の絶対値は次のように並んでいる。
  2−1⋅2 = 1, 20⋅3 = 3, 21⋅4 = 8, 22⋅5 = 20, 23⋅6 = 48, 24⋅7 = 112, …
本当だろうか。果たして13倍角の公式の −13312 は、この数列に当てはまるのか。 −213−3⋅13 = −1024⋅13 = −13000 − 260 − 52 = −13312。おおっ、合ってるじゃねえか!

4倍角以降で存在する第3項は 2n−6 n(n − 3) cn−4: 係数はこう並んでいる。
  2−2⋅4⋅1 = 1, 2−1⋅5⋅2 = 5, 20⋅6⋅3 = 18, 21⋅7⋅4 = 56, 22⋅8⋅5 = 160, 23⋅9⋅6 = 432, …
13倍角の公式の 16640 で検証: 213−6⋅13(13 − 3) = 128⋅13⋅10 = 1280⋅13 = 12800 + 3840 = 16640。

こうした係数の性質は興味深いが、「5倍角」のような具体的な計算との関係では、一般性(抽象性)が高過ぎる。「二項係数の仲間みたいなもんらしい」という雰囲気は感じられる。

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2024-04-05 cos 36° の求め方の改善 多倍角の公式の盲点

#遊びの数論 #1 の原始根 #4次方程式

cos 36° の代数的表現の導出については、既に「多倍角」経由だけでも3種類記したが、他にもまだまだ面白い方法がある。このメモでは「多倍角の公式の盲点」を紹介したい。一見奇手のようだが実は理にかなっていて、「多倍角」経由の中ではこの方法が一番簡単でもある。

*

記述の簡潔化のため、sin θ を s、 cos θ を c と略す。 sin の n 倍角の式 sin nθ としては(n は 2 以上の整数)、n が奇数なら「s の多項式」の形がよく使われ、n が偶数なら「s の多項式の c 倍」の形が比較的よく使われる。しかし n の偶奇にかかわらず「c の多項式の s 倍」の形式にもできる。

なぜそれが「公式の盲点」なのか?

例えば…
  sin 3θ = 3 sin θ − 4 sin3 θ
…は、何の変哲もない sin の3倍角だが、それを次の形式にすると、2種類の関数が交ざってしまい「汚い」とさえ感じられる。
  sin 3θ = sin θ (3 − 4 sin2 θ) = sin θ [3 − 4(1 − cos2 θ)] = sin θ (4 cos2 θ − 1)

前者なら s = sin θ だけ分かれば sin 3θ が分かるのに、後者だと、同じ sin 3θ を求めるのに、s の他に c = cos θ の情報が必要になる。「こんなゴチャゴチャした形式は役立たない・考えても仕方ない」と軽視・無視してしまう…それが盲点なのだ。

「cos 36° という cos の問題を解くのに sin の多倍角が役立つ」ということ自体、普通に考えると、直観に反している。ところが、上の別形式は sin θ で割れば cos θ の多項式であり、sin の多倍角といっても、実質ほぼ cos についての式である。言われてみると単純なことだが、意外と気付きにくい。

この「公式の盲点」を活用すると、前記 (I)(II)(III) よりも明快な方法で、cos 36° を求めることができる。

cos 36° = cos π/5 の話なので、まず5倍角の式を準備しよう。

教科書通りにやると時間がかかり過ぎるので、高速生成する。今回は c がメインなので、c2 を 1 − s2 に置き換える必要がなく、その点でも手間が省けて都合がいい:
  sin 1θ = s
  sin 2θ = 2sc
…を出発点として:
  sin 3θ = (2sc)2c − s = s(4c2 − 1)
  sin 4θ = [s(4c2 − 1)]2c − 2sc = s(8c3 − 2c − 2c) = s(8c3 − 4c)
  sin 5θ = [s(8c3 − 4c)]2c − s(4c2 − 1) = s(16c4 − 8c2 − 4c2 + 1) = s(16c4 − 12c2 + 1)

すなわち:

sin の5倍角(別形式) sin 5θ = sin θ (16 cos4 θ − 12 cos2 θ + 1)

〔参考〕 6倍角以降を含む一覧表追加説明

これを基に、以下の簡潔な議論が成り立つ。

*

(IV) 5θ = 0°, 180°, 360°, 540°, 720° なら sin 5θ = 0 で、そのとき θ = 0°, 36°, 72°, 108°, 144°。 θ = 0° なら sin θ = 0 だから、
  16 cos4 θ − 12 cos2 θ + 1 = 0
…の四つの解は cos 36°; cos 72°; cos 108° = −cos 72°; cos 144° = −cos 36° に等しい(最初の二つは正、残りの二つは負)。

y = cos2 θ と置くと:
  16y2 − 12y + 1 = 0 ⇔ y = cos2 36° または cos2 72°
この2次方程式を解くと:
  y = (6 ± (36 − 16))/16 = (6 ± 25)/16 = (5 ± 1)2/42
cos 36° > cos 72° なので、符号の選択は:
  cos2 36° = (5 + 1)2/42
  cos2 72° = (5 − 1)2/42

両辺の正・負の平方根から、次の結論に至る。
  (ア) cos 36° = (5 + 1)/4  (イ) −cos 36° = cos 144° = −(5 + 1)/4
  (ウ) cos 72° = (5 − 1)/4  (エ) −cos 72° = cos 108° = −(5 − 1)/4

本題の cos 36° は(ア)の通り。同時に(ウ)として cos 72° も得られた。

*

(I) のように cos 5θ = 0 から行くと、出てくるのは cos 18° なので、そこから倍角の公式に乗り継がねばならない。それ自体、遠回りだし、 cos 18° には二重根号もあって、少々面倒くさい。 (II) のように cos 5θ = −1 から行けば直接 cos 36° が得られるものの、その経路では5次式の因数分解が必要になり、面白いけど面倒くさい。 (III) のように sin 5θ = 0 から行くのは好手となり得る。しかし、そこで sin-only の普通の5倍角の公式を使うと、出てくるのは sin 36° なので、それを cos 36° に変換する手間が生じる; (I) と大同小異の遠回り。

今回の (IV) 方式によれば、 cos 36° が直接、簡単に得られる。強いてこの方法の難所(?)を挙げれば、途中で 6 ± 25 の平方根(暗黙の二重根号外し)が必要になることだが、それはささいな問題だろう。

一般的には (I) か (III) が紹介されることが多いと思われる。しかし5倍角の公式を使って cos 36° を求めるなら、 (IV) が一番すっきりしている。「sin の多倍角の公式の盲点」は、うまく使えば、他のことにも応用が利きそうだ…。

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