フェルマーの最終定理 n = 7 (遊びの数論49)

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遊びの数論48の続き。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。


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2025-09-26 フェルマーの最終定理 n = 7 の場合(前編) イタリアでの研究

#遊びの数論 #根のべき乗和 #コーシーの恒等式 #FLT

最終定理の n = 7 の場合とは、
  x7 + y7 = z7
を満たすような整数 x, y, z は存在しない――という命題。問題の条件として、 x, y, z の中に 0 に等しいものがあっては駄目、と約束する。 z の符号を逆にして、
  x7 + y7 + z7 = 0  (☆)
を満たすような整数 x, y, z は存在しない――と言い換えることもできる(以下、こっちの形式を使う)。この定理を証明したい。

数の範囲を無制限に広げるなら(☆)は解を持つ。例えば x = 1, y = 2 のとき x7 + y7 = 1 + 128 = 129 なので、
  z = −7129 = −2.0022247051…
と置けば x7 + y7 + z7 = 0 が成り立つ。このような無理数の解は、いくらでも粗製乱造できる。もう少し面白い話として、 1 の原始立方根、すなわち t3 = 1 を満たす非実数(それは t2 + t + 1 の根である)を ω とすると、例えば、代数的整数
  x = 2, y = 2ω = −1 + −3, z = 2ω2 = −1 − −3
も x7 + y7 + z7 = 0 を満たす。実際:
  27 + (2ω)7 + (2ω2)7 = 27(1 + ω7 + ω14)
   = 27(1 + ω + ω2) = 27⋅0 = 0

上記の例の x, y, z は、整数 8 の(複素数の範囲での)三つの立方根に他ならない。このタイプの x, y, z は、
  x + y + z = 2 + 2ω + 2ω2 = 2(1 + ω + ω2) = 0
のように、和が 0 に等しい(この事実は自明に近い)。逆に、もしフェルマーの式(n = 7 の場合)を満たす x, y, z が「有理係数の3次式の三つの根」なら(整数でなくても良いとする)、それらは「ある有理数の三つの複素立方根」でなければならない(この事実は自明ではない)。

このような観点からの最終定理の拡張的研究は、19世紀イタリアの数学者ジェノッキ(Genocchi による。 n = 7 のケースの初等的証明は、めったに紹介されない珍しい話題であり、好奇心をくすぐられる。

† アンジェロ・ジェノッキ(Angelo Genocchi, 1817–1889)。イタリア北部ピアチェンツァ(Piacenza)出身の法律家・数学者。18世紀以降、イタリア北部はオーストリア(ハプスブルク帝国)の支配下にあり、ジェノッキはこの状況に強い不満を感じていたという。1848年の革命でイタリアはオーストリアの支配から解放されたが、オーストリアはすぐにイタリア北部を奪還。ジェノッキは失意のうちに故郷を捨ててイタリア北西部トリノ(Torino)に移り、約 100 の著書・論文などを執筆。トリノ科学アカデミー総長を務めた。専門分野は数論。 n = 7 の場合に関連する論文は三つ: 一つ目は1864年にイタリア語で出版され、二つ目は1874年、三つ目は1876年に、それぞれフランス語で出版された。

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1. U を未知数とする3次方程式
  U3 − pU2 + qU − r = 0  ‥‥①
の3解を U = x, y, z とする。解と係数の関係から:
  p = x + y + z
  q = xy + xz + yz
  r = xyz

x, y, z はどれも 0 以外の有理数、と仮定すると、 p, q, r も有理数。

①に解の7乗和の公式を適用すると:
  x7 + y7 + z7 = p7 − 7p5q + 7p4r
   + 14p3q221p2qr  ←ボブⅣ、ボックⅢ
   − 7pq3 + 7pr2  ←ボビーⅡ、コックⅡ
   + 7q2r  ←ボブC

よって x7 + y7 + z7 = 0 という条件は、次の関係を含意する:
  p7 − 7p5q + 7p4r + 14p3q221p2qr − 7pq3 + 7pr2 + 7q2r = 0  ‥‥②

† この公式は、いわゆる Newton の式を反復使用して導かれる(ここでは詳細略)。結論だけ言えば、リンク先の式の A, B, C にそれぞれ p, q, r を代入し、 D 以下を無視(0 扱い)したものに当たる。

ところで ℓ = pq − r と置いて ℓ2 = (pq − r)2 = p2q2 − 2pqr + r2 を 7p 倍したもの、すなわち
  7pℓ2 = 7p3q214p2qr + 7pr2  ‥‥③
は、②の左辺の整理に役立つ。実際、
  ② − p7 − ③ = −7p5q + 7p4r + 7p3q27p2qr − 7pq3 + 7q2r
   = −7(p5q − p4r − p3q2 + p2qr + pq3 − q2r)
   = −7[(pq)(p4 − p2q + q2) − r(p4 − p2q + q2)]
   = −7[(pq − r)(p4 − p2q + q2)] = −7ℓ(p4 − p2q + q2)  ‥‥④
という関係があり、②から p7 と ③ = 7pℓ2 を引いたものが④なので:
  ② − p7 − 7pℓ = ④ つまり ② = p7 + ④ + 7pℓ
  ∴ ② = p7 − 7ℓ(p4 − p2q + q2) + 7pℓ2 = 0  ‥‥⑤

もしも ℓ = 0 だったなら⑤から p7 = 0 つまり p = 0 となり、そのとき 0 = ℓ = pq − r = −r なので、 r = xyz は 0 に等しい。これは3解 x, y, z の中に 0 が一つ以上あることを含意し、問題の条件に反する。よって以下では ℓ ≠ 0 と仮定する。次の重大な定理が成り立つ。

Genocchi の定理(1876年) 有理係数の3次方程式の解 x, y, z が x7 + y7 + z7 = 0 を満たし、しかもそのどれも 0 ではないとすると、 x, y, z は、ある一つの有理数 r = xyz の(複素数の範囲での)三つの立方根である。言い換えれば、⑤が解を持つのは p = x + y + z = 0 の場合に限られる。

注記 この定理の系(副産物)として、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合が解決される。すなわち、
  命題《x7 + y7 + z7 = 0 は整数解を持たない》
は正しい。範囲を「整数解」から「有理数解」に広げても、この命題は依然正しい。

証明 核心は、「⑤が成り立つなら p = 0 でなければならず、 p ≠ 0 のときには決して⑤は成り立たない」という点にある。その部分は後回しにして、もし p = 0 だとしたら何が起きるかを先に見ておこう。

p = 0 のとき、⑤はこうなる:
  7ℓq2 = 0
前述のように ℓ ≠ 0 なので、これは q2 = 0 つまり q = 0 を含意する。そのとき(p = q = 0 なので)①はこうなる:
  U3 − r = 0 つまり U3 = r

つまり①の3解 x, y, z は、同じ有理数 r (= xyz) の三つの立方根。∎

複素数の範囲では、任意の有理数には三つの立方根があるが、そのうち二つは(有理数どころか)実数の範囲にも収まらない。従って、フェルマーの式(n = 7 の場合)は有理数解を持たない。

〔注〕 逆に言うと、もし仮にフェルマーの式が実数の範囲で無理数解を持つとしても、その解は、有理係数の3次式の根としては表現可能でない。

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2. 上記の証明法は Genocchi 自身によるもので、証明の本体(後回しにした)がないと無味乾燥かもしれない。しかし p = x + y + z = 0 の場合に何が起きるかについては直接的な別証明もあり、これがなかなか小気味いい。

別証明 [4, Theorem 124] もし x + y + z = 0 なら z = −(x + y) なので、
  x7 + y7 + z7 = 0
という条件を次のように書き換えることができる。
  x7 + y7 + [−(x + y)]7 = 0 つまり x7 + y7 − (x + y)7 = 0
両辺を −1 倍して:
  (x + y)7 − x7 − y7 = 0  (★)

Cauchy の恒等式
  (x + y)7 − x7 − y7 = 7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2
を適用すると、(★)は
  7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2 = 0
と同値。この最後の等式が成り立つ条件は x = 0 または y = 0 または x + y = 0 または x2 + xy + y2 = 0 であるが、そのうち x = 0 と y = 0 は問題の条件に反する。この場合、仮定により z = −(x + y) なので、 x + y = 0 は z = 0 を含意し、やはり条件に反する。よって必然的に
  x2 + xy + y2 = 0
が成り立つ。この等式の両辺を y2 で割ると:
  (x/y)2 + (x/y) + 1 = 0
これを (x/y) についての2次方程式と見ると、その解は x/y = (−1 ± −3)/2 すなわち 1 の原始立方根 ω だ(± の符号は状況に応じて適宜選ぶものとし、どちらを選んだ場合でもその複素数 x/y を ω と呼ぶことにする)。そして x/y = ω は x = ωy を含意する。もう一つの解は:
  z = −(x + y) = −(ωy + y) = (−ω − 1)y = ω2y
  ∴ xyz = (ωy)⋅y⋅(ω2y) = y3

仮定により r = xyz は有理数なので、結局 {x, y, z} は同じ有理数 r の(複素数の範囲での)三つの立方根。∎

Cauchy の恒等式(それはもともとフェルマーの最終定理との関連で発見されたものだ)が、クリーンヒットを放つ。

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3. メインディッシュ。 Genocchi の定理の本体の証明に入る(実質的なターゲットはフェルマーの最終定理の n = 7 の場合だが、より広い範囲の事柄が証明される)。

〔注〕 Nagell [4] では、この定理の証明が多少簡単化されている。 Ribenboim [5] も、それを再アレンジしている。そうした別バージョンについても機会があれば紹介したいが、ここでは Genocchi によるオリジナル版 [3] (オンラインで自由に参照可能)の流れに沿って内容を記す。

等式⑤を再掲。 ℓ ≠ 0 と仮定している。以下では p = x + y + z ≠ 0 と仮定して矛盾を導き、 p ≠ 0 が不可能であることを示したい(それに成功すれば、 p = 0 でなければならないという結論になる)。
  p7 − 7ℓ[p4 − p2q + q2] + 7pℓ2 = 0  ‥‥⑤(再掲)
この式を簡単化するため、
  q = p2Q, ℓ = p3L
と置く。結果は:
  p7 − 7(p3L)[p4 − p2(p2Q) + (p2Q)2] + 7p(p3L)2
   = p7 − 7L[p7 − p7Q + p7Q2] + 7p7L2 = 0
両辺を 7p7 で割って:
  1/7 − L(1 − Q + Q2) + L2 = 0 つまり
  L2 − (1 − Q + Q2)L + 1/7 = 0  ‥‥⑥

† 少しトリッキーな変数置換だが、一種の「同次化」のような変形。 p の指数がどれも 7 になるように、適切な次数の p のべき(p2 など)を含む補助的な表現(p2Q など)を使って p 以外の変数を置き換え、 p の指数が 7 にそろったところで、全体を p7 で割って、結局 L についての2次式にした。もともとの7次式より、扱いやすそうだ。

L = ℓ/p3 は有理数のはずだから、 L が満たすべき条件を定める2次方程式⑥は、有理数解を持たねばならない。すなわち、⑥の判別式
  D = (1 − Q + Q2)24/7  ‥‥⑦
の値は負になってはならず、 D = 0 も許されな

‡ D = 0 は (1 − Q + Q2)2 = 4/7 を含意し、それは 1 − Q + Q2 = ±(4/7) = ±(27)/7 を含意するが、この等式は成り立ち得ない。実際、 1 − Q + Q2 は有理数であり(なぜなら Q = q/p2 は有理数)、無理数 ±(27)/7 とは別の種類の数。

よって D は正。のみならず、⑥の解 L の表現には ±D が含まれるのだから、それが無理数を生じず L が有理数であるためには、 D が有理数の平方であることが必要(この必要条件は見掛けよりはるかに強く、実は強過ぎて、どうやってもこの条件を満たすことができない)。

さて Q は有理数だから 2Q − 1 も有理数。すなわち、
  2Q − 1 = s/t  ‥‥⑧
を満たす整数 s, t が存在する(もちろん t ≠ 0)。もし右辺の分数が約分可能なら徹底的に約分し、「これ以上約分できない分子・分母」をあらためて s, t とする――つまり整数 s, t の最大公約数は 1(言い換えれば s, t は互いに素)と仮定する。⑧を Q について解くと:
  Q = (s/t + 1)/2 = s/(2t) + 1/2
これを⑦に代入すると:
  D = [1 − (s/(2t) + 1/2) + (s/(2t) + 1/2)2]24/7
   = [1/2 − s/(2t) + (s2/(4t2) + s/(2t) + 1/4)]24/7
   = (s2/(4t2) + 3/4)2 − 4/7 = s4/(16t4) + 3s2/(8t2)9/16 − 4/7
   = s4/(16t4) + 3s2/(8t2) + (9⋅7 − 4⋅16)/(16⋅7) = s4/(16t4)3s2/(8t2) − 1/(16⋅7)

この D は、何らかの有理数の平方のはずであり、当然 D も有理数。分母を払うため、この数を 72⋅16t4 倍する。 72⋅16t4 = (7⋅4t2)2 自身も有理数(より正確には整数)の平方なので、結果の
  72⋅s4 + 72⋅2t2⋅3s2 − 7⋅t4 = 72(s4 + 6s2t2) − 7t4  ‥‥⑨
も有理数の平方。のみならず s, t は整数なので、⑨は明らかに整数であり、従ってそれは整数の平方であり、しかも⑨の値は素因子 7 を含むので、「7 の倍数」の平方だ。その「7 の倍数」を 7u としよう――つまり何らかの整数 u があって、
  72(s4 + 6s2t2) − 7t4 = (7u)2
を満たすはず。上記右辺の形から、この等式が表す整数は 72 = 49 で割り切れる。両辺を 72 で割ると:
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2  ‥‥⑩

〔参考〕 Genocchi 自身は、少し違う手順で⑩を導出している(付録A)。

注記 整数 u の符号は、正でも負でも構わない(例: 仮に左辺が 81 なら u = 9 でも u = −9 でも構わない)。この符号は自由に再選択可能なので、必要ならいつでも符号を反転させることができる。

⑩の右辺 u2 は、もちろん整数。それに等しい左辺も整数なんで、左辺には (1/7)t4 が含まれるけど、これも整数。 t4 は 7 で割り切れ、当然 t は 7 の倍数でなければならない。

〔例〕 仮に t = 14 なら(それは 7 の倍数である):
  (1/7)t4 = (t/7)t3 = (14/7)⋅143 = 2⋅143 = 5488

この節の締めくくりとして、次の観察を書き留めておく。

補題A ⑩において t と u は互いに素、つまり共通の素因数を持たない。 s と u も互いに素。

〔注〕 特に面白い内容でもないが、以降の証明の簡潔化にほんの少し役立つ。

証明 もしも t と u がどちらも同じ素数 c で割り切れたなら(言い換えると t, u がどちらも c の倍数だったなら)、⑩を移項した式
  s4 = u2 − 6s2t2 + (1/7)t4
の右辺各項はどれも c の倍数であり(どれも因子 c を含む)、従って、 c の倍数同士を加減した上記右辺は全体としても c の倍数、それに等しい左辺 s4 も c の倍数――必然的に s は c の倍数になってしまう。これは「s, t がどちらも c で割り切れる」ことを含意し、 s, t が互いに素という前提――分数 s/t は、これ以上、約分できないという仮定――に反する。ゆえに「t, u が共通素因子を持つ」という仮定は不合理で、実際には起こり得ない。

同様に「s, u が同じ素数 c で割り切れる」という仮定も不合理。まず t はもともと 7 で割り切れるので、仮に s, u も両方 7 で割り切れるとすると s, t は両方 7 の倍数になってしまい、「s, t は互いに素」という前提に反する。では s, u が 7 以外の共通素因子 c を持つことならあり得るか。もしもあり得たなら、⑩を移項した式
  (1/7)t4 = u2 − 6s2t2s4
の右辺各項はどれも c の倍数、よって右辺は全体として c の倍数、それに等しい左辺も c の倍数になり、必然的に t は c の倍数になってしまう。これも「s, t は互いに素」という前提に反する。∎

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4. ⑩の s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2 は、まあまあ簡単そうな式だ(u は何らかの整数)。この式を満たす整数 s, t が存在しないことを示すことができれば(つまり左辺の s, t にどんな整数を入れても、決して整数の平方に等しくはならないことを示せば)、⑥の判別式⑦は有理数の平方にはなり得ないことになり、⑥に当てはまる有理数 L は存在しないことになる。これは⑤を満たす有理数 ℓ が存在しないことと同値であり、
  有理係数の3次式の(0 ではない)根 x, y, z が x + y + z = 0 を満たさない ⇒ x7 + y7 + z7 = 0 は不可能
ということが証明されるであろう。

〔本音〕 Genocchi の証明に追随することは難しくない。でも正直、②から⑤への変形はトリッキーだし、⑧の設定も見通しが悪い。「何かが既約分数 s/t に等しくなる」と仮定すること(そして後から矛盾を導くこと)自体はいいとして、そのアプローチを適用するターゲットが3次式の係数 p, q, r のどれでもなく、係数 q に関連する補助変数 Q でもなく、 2Q − 1 だ――という点は天下り的。今は素直に原文通りに進めるけど、もうちょっと明快にできないものか…と感じる点もある。

簡単な補題(以下で必要になる)を導入する。今回の話に限らず、さまざまな場面で役立つ基本事実。

補題B 奇数の平方は 8 の倍数より 1 大きい。奇数の4乗も 8 の倍数より 1 大きい。記号で書くと:
  X が奇数 ⇒ X2 ≡ 1 (mod 8) かつ X4 ≡ 1 (mod 8)

〔例〕 奇数 3 の平方 9 は、 8 の倍数 8 より 1 大きい。奇数 3 の4乗 81 も、 8 の倍数 80 より 1 大きい。

証明 奇数は 4 の倍数より 1 大きいか(4N+1型)、または 4 の倍数より 1 小さい(4N−1型)。両方のタイプをまとめて 4N ± 1 と表記する(N は何らかの整数)。すると奇数の平方は、
  (4N ± 1)2 = 16N2 ± 8N + 1 = 8(2N2 ± N) + 1
という形を持つ。右端の第1項 8(2N2 ± N) は 8 の倍数。第2項も考慮すると、奇数の平方は、 8 の倍数プラス 1。

奇数の平方」は奇数であり(例: 32 = 9)、奇数の4乗は「奇数の平方」の平方――つまりそれ自身「奇数の平方」――なので(例: 34 = (32)2 = 92)、奇数の4乗についても、上と同じことがいえる。∎

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5. 証明本体の続き。⑩を再掲する。
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2  ‥‥⑩(再掲)
ここで s, t は互いに素な整数、 t は 7 の倍数、 u は整数。われわれの目的は、この式を証明することでも、この式を解くことでもない。正反対に、この関係を満たす整数 s, t, u が全く存在し得ないことを示したい(フェルマーの最終定理は「これこれの方程式には解がない」という内容なので、その証明も「これは不可能」「この仮定は矛盾している」というタイプの議論になる)。 Genocchi は、ここで s, t が両方とも奇数の場合、 t だけが奇数の場合、 s だけが奇数の場合の三つのケースに分けて議論している。

〔注〕 この場合分けについては簡単化の余地があるが(§14)、ここでは Genocchi 自身の記述に従う。この節の議論は(それ自体としては退屈かもしれないけど)、重要な手法の具体例だ。

アイデアは、恒等式 X2 − Y2 = (X + Y)(X − Y) に基づく――与えられた式を「2乗の差」の形に変形することが鍵。⑩でいえば、こんなふうにな
  (s2 + 3t2)2 − (64/7)t4 = u2  ‥‥⑪

† ⑪は、⑩の左辺を次のように変形したもの:
  (s4 + 2⋅3s2t2 + 9t4) − 9t4(1/7)t4 = (s2 + 3t2)2(64/7)t4

最初に s, t が両方奇数だ仮定しよう。このとき、補題Bにより、
  s2 + 3t2 ≡ 1 + 3⋅1 ≡ 4 (mod 8)
は 8 の倍数より 4 大きい。言い換えれば 4 の奇数倍に等しい。よって、
  (s2 + 3t2)2 = (4 × 奇数)2 = 16 × 奇数2
は 16 で割り切れる(商は、奇数2)。仮定により t は奇数、従って整数 (1/7)t4 も奇数なので、
  (64/7)t4 = 64 × 奇数 = 16 × 4 × 奇数
も、もちろん 16 で割り切れる(商は 4 × 奇数)。よって⑪の左辺各項は 16 で割り切れ、⑪の左辺が表す整数(16 の倍数同士の差)も 16 で割り切れる。それに等しい右辺も、当然 16 で割り切れるはず。そこで⑪の両辺を 16 = 42 で割ると:
  ((s2 + 3t2)/4)2 − (4/7)t4 = (u/4)2  ‥‥⑫

上述のように⑫の左辺第1項は奇数2、つまり奇数。左辺第2項は 4 × 奇数、つまり偶数。従って、左辺は奇数(奇数マイナス偶数だから)。当然それに等しい⑫の右辺も奇数であり、ゆえに u/4奇数。この仮定上では u は偶数であり 4 で割り切れる

† u/4 が整数(奇数)なのだから u は 4 で割り切れ、当然、偶数(4 の倍数)。[次のように論じることもできる: 仮定により s, t は両方奇数なので s2 + 3t2 = 奇数 + 奇数 = 偶数、その2乗も偶数。 64t4/7 は 64 の倍数で、もちろん偶数。よって⑪から u2 = (s2 + 3t2)2 − 64t4/7 = 偶数 − 偶数 = 偶数。つまり u2 は偶数。従って u も偶数。]

⑫が成り立つとすれば、それを次のように変形できる。
  ((s2 + 3t2)/4)2 − (u/4)2 = (4/7)t4  ‥‥⑬
  ∴ (s2 + 3t2 + u)/4 × (s2 + 3t2 − u)/4 = (4/7)t4  ‥‥⑭

s2 + 3t24 の奇数倍だから 4 で割ると奇数だし、 u/4奇数(どちらについても既述)。これらの事実から、
  (s2 + 3t2)/4 ± u/4 = 奇数 ± 奇数 = 偶数
であり、
  α = (s2 + 3t2 + u)/4 と β = (s2 + 3t2 − u)/4
はどちらも偶数。つまり、整数 α, β は、公約数 2 を持つ。他方、 4 = 22 は α, β の公約数ではない。

〔注〕 ⑭より α × β = (4/7)t4 であるが、この右辺は因子 2 を二つしか含まない(∵ t は奇数)。よって α と β が因子 2 を一つずつ分け合うと、それで因子 2 は尽きてしまう。

では α と β は、 3, 5, 7, 11 などの公約数を持ち得るか? 「もしも」の話として、 α, β の両方が 3 以上の何らかの素数 c で割り切れるとしたら――言い換えると α, β がどちらも c の倍数だとしたら――、当然、 c の倍数同士の和
  α + β = (2s2 + 6t2)/4 = (s2 + 3t2)/2
も c の倍数であり(従って s2 + 3t2 は c で割り切れる)、 c の倍数同士の差
  α − β = 2u/4 = u/2
も c の倍数になるはず(従って u は c で割り切れる)。しかし、この「もしも」は不合理…。まず c = 7 とすると、 t はもともと 7 の倍数なので、仮に s2 + 3t2 が 7 で割り切れるなら s も 7 で割り切れる(それを確かめるには、補題Aの証明でやったように、移項して s2 = の形にして、それが 7 で割り切れることを言えばいい)。これは s, t が互いに素という仮定に反する! 次に c ≠ 7 とすると、仮に s2 + 3t2 と u がどちらも c で割り切れるなら、⑬により t も c で割り切れる――つまり t, u が共通の素因数 c を持つことになるが、これは補題Aと矛盾。結局 α, β は 3 以上の共通素因子を持ち得ない。

t は 7 の倍数であり、ここでは仮定上、奇数。そこで t = 7T と置くと、 T は奇数。今、 T = AB のように、 T が整数 A, B の積にさらに分解されたとしよう(A, B は素数でも素数でなくてもいいが、互いに素とする。当然どちらも奇数)。⑭の分解
  α × β = 22(1/7)(7AB)4 = 22⋅73⋅A4⋅B4
に関連して、整数 α × β を構成する素因数たちがどのように α, β に配分され得るか考えると、 α, β の共通素因子は 2 だけなのだから、概念的には、
  α = 2⋅73⋅A4 そして β = 2⋅B4  ‥‥⑮
のように(因数たちが)配分されるはず(α と β の内容はあべこべになり得るが――例えば因子 73 を持つのは α ではなく β かもしれないが――、この二つの変数は u の符号設定を逆にするだけで値が入れ替わる。⑮のようになるように、 u の符号を選択したとしよう)。 T = AB の分解の仕方は、 A と B が互いに素で B が因子 7 を持たない限りにおいて、全く任意(極端な話、必要なら T の全部の素因子が A に入って B は = 1 になっても、構わない)。⑭の分解が成り立つなら、左辺の二つの分数つまり α, β の実際の値とつじつまが合うように、臨機応変に A と B の内容が設定されるものとする。

〔注〕 議論のポイントを明確にするため「悪い例」を挙げる。
  α = 2⋅72⋅A4 そして β = 2⋅7⋅B4
のような分解(因数の配分)は、 α, β が公約数 7 を持つことになるため、許されない。同様に A と B は、共通の素因子を持ち得ず、互いに素でなきゃ駄目、というわけ。

ところが、この「正しい(概念上、唯一の可能性のように思われる)分解の仕方」⑮も、矛盾をはらんでいる! 実際、⑮を念頭に置くと、
  (α + β =) (2s2 + 6t2)/4 = 2⋅73⋅A4 + 2⋅B4
となるが、両辺を 2 で割ると:
  (s2 + 3t2)/4 = 73⋅A4 + B4
この左辺の分数は奇数だが(前述)、 A, B が奇数であることに留意すると、右辺は補題Bから、
  ≡ (−1)3⋅1 + 1 ≡ 0 (mod 8)
であり、 8 の倍数。「奇数が 8 の倍数」というのは、ばかげている。矛盾!

† 7 ≡ −1 (mod 8) だ。これは「8 の倍数より 7 大きいこと」と「8 の倍数より 1 小さいこと」は同値、という意味。

要するに s, t が両方とも奇数だと仮定した場合、内部的に素因数がどう配分されると想定しても⑩の関係は成り立たず、矛盾が生じてしまう。われわれの目標は「不可能であることの証明」であり、不可能な等式を検討すれば、矛盾が生じるのは当たり前。むしろ矛盾が生じることが、証明の成功だ!

✿

まだ等式⑩を満たす整数 s, t の存在が全面的に否定されたわけではないが、これで「s, t が両方とも奇数」という可能性は排除された。 s, t は互いに素なので「両方とも偶数」ということも、あり得ない。可能性があるとすれば、「s が偶数で t が奇数」か、もしくは「s が奇数で t が偶数」ということになる。次回以降、これらの可能性を順につぶしていく。

s, t の導入がいささか天下り的なのが遺憾だが、それ以降の進め方は古典数論的で、普通に面白い。特に X2 − Y2 = Z のような形を (X + Y)(X − Y) = Z と変形して、 Z の因子が α = X + Y と β = X − Y の間でどう配分されるのか検討すること(もし α, β が公約数 c を持てば、その c は α + β = 2X や α − β = 2Y の約数でもある)――この発想は、いろんなことに応用が利きそうだ(次回以降、証明の続きの中でも、このテクニックは何度も使われるであろう)。

フェルマーの最終定理は、ある意味においては有名過ぎて「陳腐」な題材だが、うわべの知名度とは裏腹に、関連する事柄の中には、独特の面白さ・繊細さを持ちながら歴史に埋もれかけている事柄も多いようだ。 n = 7 のケースが Lamé によって証明されたこと、 n = 7 のケースより先に Dirichlet が n = 14 のケースを証明したことなどは、多くの文献に記されている。けれど、そうした歴史的証明の内容は複雑過ぎて、紹介されることがほとんどない。1840年ごろの Lamé による n = 7 の場合の証明は、同時期に Lebesgue によってより簡単な証明に置き換えられたが、まだ強引な力技だった。1860年代から1870年代に Genocchi は n = 7 の場合を再検討し、簡潔な別証明を完成させた。

n = 7 は、初等的・古典的な手法の限界に近いケースといえるだろう。問題の全体を見渡せるような、高度で見通しの良いアプローチを追求するのが本筋だが、素朴な方法で限界ギリギリのところを歩んでみるのも、また一興。

(続く)

✿

付録A 式⑩の導出(Genocchi 自身による方法)

不定方程式 s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2 は Genocchi の研究のキーポイント(本文§3の⑩)。この式は、2次方程式⑥の判別式
  D = (1 − Q + Q2)24/7
に Q = s/(2t) + 1/2 を代入すれば、機械的な単純計算で得られるものだが(§3)、 Genocchi 自身は、その途中計算を次の手順で進めている(本文 §3 で記した方法とは少し異なる)。参考までに記しておく。

Q = s/(2t) + 1/2 の代わりに、通分した Q = (s + t)/(2t) を使うと:
  1 − Q + Q2 = 1 − (s + t)/(2t)(s2 + 2st + t2)/(4t2)
   = (4t2)/(4t2) − (2st + 2t2)/(4t2)(s2 + 2st + t2)/(4t2) = (s2 + 3t2)/(4t2)
従って:
  D = ((s2 + 3t2)/(4t2))2 − 4/7 = (s4 + 6s2t2 + 9t4)/(16t4) − 4/7
   = 1/(16t4)(s4 + 6s2t2) + (9t4)/(16t4)(4)/(7)Nous aurons à rendre un carré la quantité
   = 1/(16t4)(s4 + 6s2t2 − (1/7)t4)  (❖)
なぜなら:
  (9t4)/(16t4)(4)/(7) = (7⋅9t4 − 4⋅16t4)/(7⋅16t4) = (−t4)/(7⋅16t4) = 1/(16t4)(−(1/7)t4)

問題は、式(❖)の値ではなく、この式が(何らかの整数 s, t を代入したときに)「有理数の平方に等しくなる可能性があるか否か」。式の値が「有理数の平方」になるかならないかは、その式に平方数 16t4 = (4t2)2 を掛け算しても変わらない。この掛け算を実行して、(❖)の左端の分数を取り払うと:
  s4 + 6s2t2 − 1/7t4  ← この式の値を仮に G とする

G を 7 倍した 7s4 + 7⋅6s2t2 − t4 は整数で(∵ s, t は整数)、
  t4 = 7s4 + 7⋅6s2t2 = 7(s4 + 6s2t2)
は 7 の倍数なので、 t は 7 で割り切れる。従って t/7 は整数で、 G も整数――整数なのだから、もし G が有理数の平方に等しくなったとしたら、そのとき G は何らかの整数 u の平方に等しい(整数でない有理数の平方は、整数にはならないから。例えば 3/4 の平方 9/16 のように)。すなわち、そのときには
  (G =) s4 + 6s2t2 − 1/7t4 = u2
が成り立つ必要がある。これが⑩だ。

✿

〔参考文献〕

[1] Angelo Genocchi (1864), Intorno all’equazione x7 + y7 + z7 = 0 [Annali di Matematica Pura ed Applicata, 6 (1864), pp. 287–288]
https://archive.org/details/annalidimatemat08unkngoog/page/n287/mode/1up

[2] A. Genocchi (1874), Sur l’impossiblité de quelques égalités doubles [Comptes rendus, 78 (1874), pp. 433–435]
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k3035z/f455.item

[3] A. Genocchi (1876), Généralisation du théorème de Lamé sur l’impossibilité de l’équation x7 + y7 + z7 = 0 [Comptes rendus, 82 (1876), pp. 910–913]
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k30396/f906.item
https://archive.org/details/comptes-rendus-hebdomadaires-academie-des-sciences_1876-04-17_82_16/page/910/mode/1up
[この論文の印刷ミス等については、付録B参照]

[4] Trygve Nagell (1951, 1964), Introduction to Number Theory, Chap. VII, §67, pp. 248–251

[5] Paulo Ribenboim (1999), Fermat’s Last Theorem for Amateurs, pp. 57–63
https://web.archive.org/web/20240724212823/https://euc.education/images/books/4/book/book.pdf
https://web.archive.org/web/20240724071719/https://euc.education/library/paulo-ribenboim-fermats-last-theorem-for-amateur

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2025-09-27 フェルマーの最終定理 n = 7 の場合(中編) アクロバット

#遊びの数論 #FLT

前回の粗筋 s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2 という等式⑩を満たす整数 s, t, u が存在しないことを証明できれば、最終定理の n = 7 の場合は解決する! 導出には少々厄介な点もあったものの、「ここまで来れば、何とかなりそう」というレベルの簡単な式が得られ、一安心。ここで t は 7 の倍数、従って (1/7)t4 は整数。そして s, t, u は、どの二つも互いに素(補題A)。さて s, t が両方奇数の場合には、等式⑩は成り立たない――その証明を完了したわれわれは、「あとは s, t の一方が偶数、他方が奇数のケースを片付けるだけだ」と、前進のモチベーションを高めるのであった。だがこの先は、一体どうなっているのか。ほとんど誰も通らない雑草ぼうぼうの細道に、踏み込んでいく。ちょっぴり不安だけど、ワクワク、ドキドキ…

✿

6. 本題に入る前に、簡単な補題を導入しておく。

補題C
〘ⅰ〙 偶数の2乗も、偶数の4乗も、4 の倍数。記号で書くと:
  X が偶数 ⇒ X2 ≡ X4 ≡ 0 (mod 4)
〘ⅱ〙 奇数の2乗も、奇数の4乗も、4 の倍数より 1 大きい。記号では:
  X が奇数 ⇒ X2 ≡ X4 ≡ 1 (mod 4)
〘ⅲ〙 奇数 X が 4 の倍数より 1 大きいなら X3 も 4 の倍数より 1 大きく、奇数 X が 4 の倍数より 3 大きいなら X3 も 4 の倍数より 3 大きい。記号では:
  X が奇数 ⇒ X3 ≡ X (mod 4)

〔例1〕 偶数 6 の2乗 36 は 4 の倍数。偶数 6 の4乗 1296 も 4 の倍数。

〔例2〕 奇数 7 の2乗 49 は 4 の倍数 48 より 1 大きい。奇数 7 の4乗 2401 も 4 の倍数 2400 より 1 大きい。

〔例3〕 奇数 5 は 4 の倍数 4 より 1 大きい。 53 = 125 も 4 の倍数 124 より 1 大きい。一方、奇数 7 は 4 の倍数 4 より 3 大きい。 73 = 343 も 4 の倍数 340 より 3 大きい。

証明 偶数は X = 2N の形の数なので(N は何らかの整数)、 X2 = (2N)2 = 4N2 が 4 の倍数であることは明白。一方、奇数は X = 2N + 1 の形の数なので、
  X2 = (2N + 1)2 = 4N2 + 4N + 1 = 4(N2 + 1) + 1
は、 4 の倍数 4(N2 + 1) より 1 大きい。

偶数の2乗は偶数、奇数の2乗は奇数。だから2乗したものをもう一度2乗しても(つまりトータルで4乗しても)、結論は変わらない。

最後に X が奇数なら、〘ⅱ〙から X2 ≡ 1 (mod 4) だ。よって、
  X3 = X⋅X2 ≡ X⋅1 ≡ X (mod 4)
となって、奇数 X を 4 で割ったときの余りと、 X3 を 4 で割ったときの余りは、一致する。∎

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7. 本題。等式⑪を再掲する(実質的内容は等式⑩と全く同じ):
  (s2 + 3t2)2 − (64/7)t4 = u2  ‥‥⑪(再掲)

これ以降、 s, t の一方が偶数、他方が奇数と仮定する。この仮定上では⑪の両辺は奇数従って u は奇数。

† s, t のどちらが偶数、どちらが奇数でも、 s2 + 3t2 は奇数(二つの項の一方は偶数、他方は奇数なので)。64の倍数 (64/7)t4 はもちろん偶数なので、⑪ = 奇数 − 偶数 = 奇数。

⑪を次のように変形し、前回同様、 α, β にどんな素因子が配分され得るか検討する。
  (s2 + 3t2)2 − u2 = (64/7)t4
  ∴ (s2 + 3t2 + u)(s2 + 3t2 − u) = 64⋅(t/7)⋅t3  ‥‥⑯

s2 + 3t2 も u も奇数なので(上述)、⑯左辺の二つの因子
  α = s2 + 3t2 + u そして β = s2 + 3t2 − u
は奇数 ± 奇数で、どちらも偶数。よって α, β は、公約数 2 を持つ。しかし α, β が公約数 4 を持つこと(言い換えれば α, β が両方 4 の倍数になること)は、あり得な

‡ もしも α, β が両方 4 の倍数だったら α − β = 2u も 4 の倍数になるはず。しかし、実際にはそうはなっていない(u は奇数なので 2u = 2 × 奇数は 4 の倍数ではない)。つまり α, β の少なくとも一方は、 4 の倍数ではない。

64 = 26 なので、等式⑯が表す整数には素因子 2 が少なくとも六つ含まれている(もし t が偶数なら素因子 2 の数は七つ以上に増える)。ところが、上述のように、 α, β の一方は 4 の倍数ではない(他方は 4 の倍数)。変数名 α, β は交換可能なので、どっちがどっちと考えても構わないのだが、話を具体的にするため「α は 4 の倍数ではない」「β は 4 の倍数」と仮定しよう(Genocchi の論文でも、同様のことが暗黙に仮定されている)。要するに、⑯が含む素因子 2 の総数を N とすると(N は 6 以上)、それらが α, β に配分されるとき、 α は N 個の 2 のうち 1 個だけを受け取り、 β が残りの N−1 個を独り占めする。

因子の配分の様子をより詳しく検討するため、前回同様、 t = 7AB と置く。ここで整数 A, B は、互いに素。それぞれは、素数でも素数でなくても構わない。しからば⑯の右辺は、
  26⋅AB⋅(7AB)3 = 26⋅73⋅A4⋅B4
に等しい。これは⑯の左辺――つまり αβ ――因数分解であり(A, B は素数とは限らないので、素因数分解とは限らない)、 αβ の因子の中には素因子 7 が少なくとも三つ含まれる。これら三つ(以上)の 7 たちについても、 α, β で仲良く分けるわけにはいかず、例えば α が素因子 7 を全部受け取って β は一つももらえない(あるいはその逆)という配分になる(α, β が公約数 7 を持つことが許されないため)。

以上の状況を踏まえると、⑯の因子を α, β に配分する方法のうちで実現可能性があるものは、
  ア α = 2⋅73A4, β = 25⋅B4
もしくは、
  イ α = 2⋅A4, β = 25⋅73⋅B4
しかない。どちらのケースでも α と β の値はあべこべになり得るが、この二つの変数は u の符号設定を逆にするだけで値が入れ替わる。ア・イのどちらかになるように、 u の符号が適切に選択されるものとする。

A × B は整数 t/7 に含まれる全部の因子を二つの整数の積に分解したもの。具体的な A, B の内容については、等式⑯とつじつまが合うように、臨機応変に設定されるものとする(そうすることが可能なら)。

注意 前述のように、「α は 4 の倍数ではない」「β は 4 の倍数である」というのは必然的なことではなく、(変数名の選択に関しての)規約に過ぎない。論理的には、あべこべ(α は 4 の倍数で β は 4 の倍数ではない)でも構わない。しかし、どちらかに決めておかないと議論を進めにくいので、規約に合致するように u の符号を選んだ――と仮定する(言い換えると、規約に合致するように、必要に応じて変数名 α, β を入れ替える)。その結果、等式⑯が成り立つなら、必ずアまたはイが成り立つ。

この規約の結果として:

補題D ア・イどちらにおいても A は奇数。

証明 規約により α は 4 = 22 の倍数ではない。ア・イどちらにおいても、もしも A が偶数つまり 2 の倍数なら、この前提に反する。∎

さて α = s2 + 3t2 + u と β = s2 + 3t2 − u の和は、アの場合には、
  (α + β =) 2s2 + 6t2 = 2⋅73A4 + 25B4
となり、イの場合には、
  2s2 + 6t2 = 2A4 + 25⋅73B4
となる。それぞれ両辺を 2 で割ると:
  s2 + 3t2 = 73A4 + 24B4  ‥‥㋐
  s2 + 3t2 = A4 + 24⋅73B4  ‥‥㋑

それでは㋐と㋑のどちらの選択肢が適切か(あるいは、両方とも可能性があるのか)?

補題Cを使うと、 s が偶数で t が奇数なら、
  s2 + 3t2 ≡ 0 + 3⋅1 ≡ 3 (mod 4)  ◆
であり、 s が奇数で t が偶数なら、
  s2 + 3t2 ≡ 1 + 3⋅0 ≡ 1 (mod 4)  ◇
だ。他方において、㋐の右辺第2項も㋑の右辺第2項も「24 = 16 の倍数」なので 4 で割り切れ、従って、㋐の右辺ないし㋑の右辺を 4 で割ったときの余りは、それぞれの右辺第1項のみによって決まる。 A が奇数であること(補題D)に留意しつつ補題Cを使うと:
  ㋐ ≡ ㋐の右辺第1項 ≡ 73⋅1 ≡ 73 ≡ 7 ≡ 3 (mod 4)
  ㋑ ≡ ㋑の右辺第1項 ≡ 1 (mod 4)

㋐㋑の左辺はどちらも s2 + 3t2 だが、この値は ◆ のケースでは ≡ 3 で、 ◇ のケースでは ≡ 1 だ。一方、㋐の右辺は ≡ 3 で、㋑の右辺は ≡ 1 だ(いずれも mod 4)。よって、可能性のある組み合わせは、 ◆ の s が偶数(t が奇数)のケースなら㋐に限られ、 ◇ の s が奇数(t が偶数)のケースなら㋑に限られる。

これら二つの可能性を分析し、「結局そのどちらも不可能」ということを突き止めれば、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合の証明が完了する。それがこの探検の目的だ!

† 7 を 4 で割った余りは 3 なので 7 ≡ 3 (mod 4)。

✿

8. まず s が偶数で t が奇数と仮定する。このケースでは、㋐の
  s2 + 3t2 = 73⋅A4 + 24⋅B4
が成立し得ないことを示せばいい。仮定により t = 7AB。㋐を移項して T に 7AB を代入すると:
  s2 = 73⋅A4 + 24⋅B4 − 3t2 = 73⋅A4 + 24⋅B4 − 3(7AB)2
  ∴ s2 = 24B4 − 3⋅72A2B2 + 73A4  ‥‥㋒

〔注〕 もっと簡潔に㋒を導く方法を後述する(§14, §15, §16)。

64倍のアクロバット ㋒の両辺を 26 (= 64) 倍すると:
  26s2 = 210B4 − 26⋅3⋅72A2B2 + 26⋅73A4
   = 210B4 − 2⋅(25B2)⋅(3⋅72A2) + 9⋅74A4 + 26⋅73A4 − 9⋅74A4
   = 210B4 − 2⋅(25B2)⋅(3⋅72A2) + 9⋅74A4 + 64⋅73A4 − 63⋅73A4
   = (25B2 − 3⋅72A2)2 + 73A4
右辺第1項を移項して:
  26s2 − (25B2 − 3⋅72A2)2 = 64s2 − (32B2 − 3⋅72A2)2 = 73A4
  ∴ (8s2 + 32B2 − 3⋅72A2)(8s2 − 32B2 + 3⋅72A2) = 73A4  ‥‥⑰

〔注〕 あとは⑰に「いつもの論法」を適用して矛盾を導くだけだが、上記の変形で「平方完成すると X2 = Y2 + Z の形になり X2 − Y2 = (X + Y)(X − Y) = Z の形にできる」というのが面白い。このトリックがうまくいくのは、 9⋅74 = 21609 と 64⋅73 = 21952 という二つの数の差が、ちょうど 73 = 343 に等しいため。実際、 9⋅74 = 9⋅7⋅73 = 63⋅73 は、 64⋅73 より、ちょうど 73 だけ小さい。煎じ詰めると、
  63 = 9 × 7 = (8 + 1)(8 − 1) = 82 − 1 = 64 − 1
という関係に基づく(下記⑱⑲などの処理でも、この関係が利用される)。⑰の導出では、このトリックを見越して、最初に等式の両辺を 64 倍している――見通しが良いかはさておき、ちょっとしたアクロバット!

⑰左辺の二つの因子
  γ = 8s2 + 32B2 − 3⋅72A2 と δ = 8s2 − 32B2 + 3⋅72A2
は互いに素

† もしも γ, δ が公約数 7 を持っていたら γ + δ = 16s2 は 7 で割り切れ、 s は 7 で割り切れる。これは s, t が互いに素という仮定に反する(t は 7 の倍数)。一方、もしも γ, δ が共通の素因子 c ≠ 7 を持っていたら、 γδ = 73A4 は c の倍数、よって A は c の倍数。このとき γ − δ = 64B2 + 3⋅72A2 も c の倍数、よって B は c の倍数。これは A と B が互いに素という仮定に反する。

仮定により t = 7AB は奇数なので、その因子 A は奇数。 A を臨機応変に「互いに素な二つの因子」に分解して A = ef とすると、当然 e, f も奇数。⑰から γδ = 73A4 = 73e4f4 であるが、それが互いに素な γ, δ に分解されるのだから、 γ, δ の一方は 73e4 に等しく、他方は f4 に等しゆえに γ − δ は、次の二つの整数のどちらかに等しい:
  (64B2 − 6⋅72A2 =) 64B2 − 6⋅72e2f2 = 73e4 − f4  ‥‥⑱
  または 64b2 − 6⋅72e2f2 = f4 − 73e4  ‥‥⑲

‡ 見掛け上 {γ, δ} = {73f4, e4} という分解オプションもあるが、その場合、単に変数名 e と変数名 f を入れ替えれば、本文と同じ結果に。この見掛け上のオプションは、単に変数の名前の選択の問題に過ぎない。

⑱は、次のように変形される:
  64B2 = 73e4 + 6⋅72e2f2 − f4 = 73e4 + 2⋅72e2⋅3f2 + 7⋅9f4 − 7⋅9f4 − f4
   = 7[72e4 + 2⋅(7e2)⋅(3f2) + 9f4] − 64f4
  ∴ 64B2 = 7(7e2 + 3f2)2 − 64f4
e, f が奇数であることと 7 ≡ −1 (mod 8) に留意すると、この最後の等式は、
  0 ≡ (−1)(−1⋅1 + 3⋅1)2 − 0 ≡ −4 (mod 8)
を含意する(補題B参照)。これは「8 の倍数は 8 の倍数より 4 小さい」というむちゃな主張であり、その条件は絶対に満たされない。⑱は実現不可能な等式だ!

⑲の右辺は⑱の右辺の −1 倍なので(左辺は共通)、上記のことから⑲は 0 ≡ +4 (mod 8) を含意する。「8 の倍数は 8 の倍数より 4 大きい」というむちゃな主張であり、これも実現不可能。

✿

以上を要約すると、次の通り。 s が偶数で t が奇数の場合に問題の等式⑩(ないしそれと同等の⑪)が成立するためには、㋐が成り立つ必要がある。しかし㋐が成立する可能性を検討すると、どの道も行き止まりで、㋐は不可能。すなわち、「フェルマーの最終定理の n = 7 の場合」の解 x, y, z を根とする有理係数の3次式を考え、しかも p = x + y + z が ≠ 0 という条件と付けると(この条件がないと x, y, z は有理数 r = xyz の複素立方根になってしまう)、関連する既約分数 s/t について、 s, t が両方奇数になることは不可能であり(前回のメモ)、 s が偶数で t が奇数になることも不可能である(今回のメモ)。

残された唯一の道は、 s が奇数で t が偶数という可能性だが…。その可能性をつぶすことができれば、「p ≠ 0 は無理(p = 0 でなければならない)」という Genocchi の定理が証明され、副産物として、「最終定理の n = 7 の場合」が解決される。

「同様に」と軽く流せないのが、この証明の難しいところ。場合分けしたそれぞれのケースについて、工夫が必要。最後のケース(s が奇数で t が偶数)は「有限的」操作では対処できず、 Genocchi は「無限降下法」によって証明を完成させている。有限の世界を超えて、いよいよ冒険は佳境に…!?

(続く)

✿ ✿ ✿


2025-09-29 フェルマーの最終定理 n = 7 の場合(後編) 無限降下

#遊びの数論 #FLT

前節(§8)では、s が偶数で t が奇数の可能性を検討し、「その可能性はない」という結論に達した。残された可能性は、s が奇数で t が偶数のケース。「その可能性もない」ことを示せば、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合の証明が完了する。なかなか一筋縄ではいかず、前回とは別のアプローチを使う。

✿

9. s が奇数で t が偶数なら、§7㋑が成り立たなければならない:
  s2 + 3t2 = A4 + 24⋅73B4  ‥‥㋑(再掲)
  ∴ s2 = A4 − 3t2 + 24⋅73B4
ここで t = 7AB であり(整数 A と B は互いに素)、従って:
  s2 = A4 − 3(7AB)2 + 24⋅73B4
  ∴ s2 = A4 − 3⋅72A2B2 + 24⋅73B4  ‥‥⑳

仮定により t = 7AB は偶数だが、われわれの規約では A は奇数なので(補題D)、必然的に B は偶数。そこで B を臨機応変に分解して、
  B = 2ef
としよう(ここで整数 e, f は、互いに素。素数でも素数でなくても構わない。前節の e, f とは無関係)。⑳の B に代入すると:
  s2 = A4 − 3⋅72A2(2ef)2 + 24⋅73(2ef)4
   = A4 − 22⋅3⋅72(Aef)2 + 28⋅73(ef)4
   = A4 − 2⋅A2⋅[2⋅3⋅(7ef)2] + [2⋅3⋅(7ef)2]2 + 28⋅73(ef)4 − 22⋅32⋅(7ef)4
   = [A2 − 2⋅3⋅(7ef)2]2 + 28⋅73(ef)4 − 22⋅32⋅74(ef)4
末尾2項を共通因子 22⋅73(ef)4 でくくると:
   = [A2 − 2⋅3⋅(7ef)2]2 + 22⋅73(ef)4⋅(26 − 32⋅7)
移項して(26 − 32⋅7 = 1 に留意):
  s2 − [A2 − 6(7ef)2]2 = 22⋅73(ef)4
  ∴ [s + A2 − 6(7ef)2][s − A2 + 6(7ef)2] = 22⋅73(ef)4  ‥‥㉑

㉑左辺の二つの [ ] 内を順に γ, δ としよう。仮定により s も A も奇数なので、
  γ = s + A2 − 6(7ef)2,
  δ = s − A2 + 6(7ef)2
は「奇数 ± 奇数 ∓ 偶数」で、どちらも偶数。つまり γ, δ は公約数 2 を持つ。他方において 4 は γ, δ の公約数ではなより一般的に、 γ, δ は 3 以上の公約数を持たなゆえに――㉑が意味する γδ = 22⋅73e4f4 において、 γ, δ は「一つの 2」以外の共通素因子を持たないのだから―― γ, δ の一方は 2⋅73e4 に等しく、他方は 2f4 に等し ―― γ, δ のそれぞれに因子 2 が追加されていることを別にすれば、前節の γ, δ への因数の配分法と同様。

† もしも γ, δ が両方 4 の倍数なら γ + δ = 2s も 4 の倍数。これは s が奇数という前提に反する。

‡ もしも γ, δ が両方 7 の倍数なら γ + δ = 2s も 7 の倍数。これは s, t が互いに素という前提に反する(t は 7 の倍数)。一方、もしも 3 以上の素数 c ≠ 7 が γ, δ の公約数だったなら、 c は γδ = 22⋅73(ef)4 の約数、従って ef の約数。ゆえに c は B = 2ef を割り切る。しかも c は γ − δ = 2A2 − 12(7ef)2 の約数でもあり、その右辺第2項は c の約数だから、第1項も c の約数。ゆえに c は A を割り切る。これは A, B が互いに素という仮定と矛盾。

¶ そして e, f は互いに素で f は因子 7 を持たない。 B = 2ef という分解における e, f は、条件に合うように、臨機応変に選択されるものとする(可能ならば)。「e, f がそれぞれ γ, δ のどちらの因子になるか」は逆になり得るが、必要に応じて変数名 e, f を入れ替えて、逆にならないようにする。

従って γ − δ = 2A2 − 12(7ef)2 という整数は、
  2⋅73e42f4 または 2f42⋅73e4
に等しい。両方の可能性を等式で表し、それぞれ両辺を 2 で割ると:
  A2 − 6(7ef)2 = 73e4 − f4  ‥‥㉒
  または A2 − 6(7ef)2 = f4 − 73e4  ‥‥㉓

A は奇数なので、㉒ないし㉓の左辺は奇数。それに等しい右辺も当然奇数。そうなるためには e, f の一方は偶数他方は奇数でなければならな従って ef は偶数。すると (7ef)2 は偶数の2乗なので 4 の倍数であり(補題C)、それをさらに偶数倍した 6(7ef)2 は 8 の倍数。従って㉒ないし㉓の左辺を 8 で割ったときの余りは、左辺第1項の A2 のみによって決まる。ところが A は奇数なので、補題Bによると、㉒は次を含意す
  e が偶数、 f が奇数なら ㉒ ⇒ 1 ≡ −f4 ≡ −1 (mod 8)
  e が奇数、 f が偶数なら ㉒ ⇒ 1 ≡ 73e4 ≡ (−1)3⋅1 ≡ −1 (mod 8)
いずれにしても「8 の倍数より 1 大きい数は 8 の倍数より 1 小さい」というむちゃくちゃな式であり、㉒が成り立つ可能性は全くない。

一方、㉓の右辺は㉒の右辺の符号を反転させたものなので、 1 ≡ 1 という、一応まともな式になる。具体的には:
  e が偶数、 f が奇数なら ㉓ ⇒ 1 ≡ f4 ≡ 1 (mod 8)
  e が奇数、 f が偶数なら ㉓ ⇒ 1 ≡ −73e4 ≡ −(−1)3⋅1 ≡ 1 (mod 8)

† γ と δ すなわち {2⋅73e4, 2f4} の最大公約数は 2 なので e, f が両方偶数になることは不可能だが、 e, f の一方だけは偶数。

‡ 6(7ef)2 は 8 の倍数なので、 mod 8 では ≡ 0 であり、消滅する(無視していい)。偶数の4乗も明らかに 8 の倍数なので、無視していい。例えば e が偶数なら 73e4 − f4 ≡ 73⋅0 − f4 ≡ −f4 (mod 8)。

等式㉓も成り立ち得ないことを示さないと、証明が完了しない。だが、直接攻略は難しそう。今までと違って、合同式をちょっといじるだけでは矛盾を導けない…

✿

10. 状況を整理・打開するため、出発点からここまでの道筋を振り返ってみたい。

そもそもの問題は、有理係数の3次方程式 U3 − pU2 + qU + r = 0 の3解 x, y, z が、
  7乗和の条件 x7 + y7 + z7 = 0
を満たす条件の検討だった。 p = x + y + z = 0 は十分条件であり、そのとき x, y, z は、有理数 r = xyz の三つの複素立方根となる(§1)。では p = x + y + z = 0 は必要条件であろうか。言い換えると、 p ≠ 0 の場合でも、条件を満たす x, y, z は存在し得るか?

「根の7乗和の公式」を土台とするややトリッキーな議論によって、 p ≠ 0 の可能性があるとすれば、2次方程式
  L2 − (1 − Q + Q2)L + 1/7 = 0
の解 L が有理数になることが必要――と判明した(§3, ⑥)。ここで、
  Q = q/p2, L = (pq − r)/p3
であるが、重要なのは Q, L の正確な定義ではなく「それらが有理数になり得るか否か」。

いくら係数が有理数でも、一般には、2次方程式の解は有理数ではない――解の公式には「判別式の平方根」が含まれ、多くの場合、その部分が無理数または虚数になってしまう。平方根が有理数になることは不可能ではないが、そのためには判別式の値が「有理数の平方」に等しくなければならない。具体的には、この場合、
  (1 − Q + Q2)24/7
が有理数の平方、というのが必要条件(§3, ⑦)。 Q は有理数なので 2Q − 1 も有理数だが、仮にこの 2Q − 1 を既約分数 s/t で表すと――言い換えると、
  Q = s/(2t) + 1/2
と置くと――、若干の変形の末、上記の必要条件を次の形式で記述できる(§3⑩)。

出発点となる条件
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2  (✽)
を満たす整数 s, t, u が存在する。

われわれは、場合分けによって、あの手この手でこの条件が成り立ち得ないことの立証を試み、 s, t が両方奇数の場合と、 s が偶数で t が奇数の場合については、その立証に成功した。問題は s が奇数で t が偶数の場合だが、少なくとも次のように条件を絞り込むことができた。すなわち、(✽)が成り立つ可能性があるとしたら、そのとき何らかの整数 A, e, f について、
  A2 − 6(7ef)2 = f4 − 73e4
が成り立つことが必要(前節㉓)。必要条件を表すこの式は、出発点の式(✽)と似ている。実際、移項して少し変形すると:
  f4 + 6f2(7e)2 − (73e4) = A2
7e = g と置くと:

「出発点となる条件」が成り立つなら次の条件も成立
  f4 + 6f2g2(1/7)g4 = A2  (✽✽)
を満たす整数 f, g, A が存在する。

(✽)から(✽✽)の導出では t = 7T = 7AB = 7A(2ef) = (2Af)g と置いたので、
  g = t/(2Af)
となる。 A, f は整数だから、 g は絶対値において t の 1/2 以下。(✽)と(✽✽)は全く同じ形式の不定方程式であり、前者の s, t, u が後者ではそれぞれ f, g, A に置き換わっている。

† A も f も 0 ではない。というのも s/t が有効な分数であるためには、分母 t = 7AB が 0 でないことが必要。 A = 0 だと、この条件が満たされない。同様に B も 0 ではない。そして B = 2ef なので(§9)、 f ≠ 0。

p ≠ 0 のとき「フェルマーの定理の n = 7 の場合」に有理数解が存在するなら、(✽)の形の方程式
  X4 + 6X2Y2(1/7)Y4 = Z2  (✽✽✽)
が整数解 X = s, Y = t, Z = u を持たなければならないわけだが…。もしもそのような整数解が存在するなら、同じ方程式は、必然的に別の整数解
  X = f, Y = g, Z = A
も持つ。要するに、(✽✽✽)を満たすような整数 s, t, u が存在するとしたら、別の整数 f, g, A も同じ式を満たし(これら三つの数を s′, t′, u′ とする)、しかも新しい解の t′ は、対応するもともとの解 t に比べて、絶対値が半分以下。

(✽✽✽)に何らかの解 s, t, u があれば、(✽✽✽)には必ず別の解 s′, t′, u′ もある…。ってことは、同じ理屈から、解 s′, t′, u′ があるんだから、さらに別の解 s″, t″, u″ もある、ってことだ。

この議論は何度でも反復でき、(✽✽✽)にはさらにさらに別の解、さらにさらにさらに別の解…が無限に存在する。しかし、それは無理な話というもの。別の解を作るたびに t → t′t″ → ··· の絶対値は半減していくわけだが、整数の絶対値は 0 が最小であり(この t などは分数の分母なので実際には 0 にはなれず、絶対値 1 が最小だが)、無限に半減を繰り返せるわけがない!

すなわち「条件を満たす s, t, u が存在する」という仮定は不合理であり、「条件を満たす s, t, u は存在しない」と結論される。

つまり「p ≠ 0 のときの有理数解の存在条件」は決して満たされず、 x7 + y7 + z7 = 0 が有理数解 x, y, z を持つ可能性があるとすれば、 p = x + y + z = 0 の場合に限られる(そして前編で見たように、 p = 0 の場合にも、 x7 + y7 + z7 = 0 は有理数解を持たない。ただし問題の条件により、 x, y, z のどれも 0 ではないとする)。

以上によって、 p = x + y + z ≠ 0 の場合には「有理係数の3次方程式の解」は決して「7乗和の条件」を満たさないことが確定し、 Genocchi の定理が証明された。その副産物として、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合の証明も完了した。∎

✿

結論は、非自明で興味深い。しかしこの証明法はトリッキーで、お世辞にも見通しが良いとはいえない――置換や式変形に、ミステリアスで天下り的な面も多く、改善の余地もありそうだ。

それでもジェノッキ(Genocchi)によるこの研究は、特筆に値する。初等的議論を巧妙・繊細に組み合わせて、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合を比較的簡潔に解決――最終定理の研究の本流ではないにせよ、独特の面白さがある。歴史に埋もれ、半ば忘れられてしまっている古い論文ではあるけれど、案外そういうところに「お宝」があるものだ!

✿

付録B 原論文 [3] の印刷ミス等

911ページ:

誤 p7 + 7ℓ(p4 − p2q + q2) + 7pℓ2 = 0

正 p7 − 7ℓ(p4 − p2q + q2) + 7pℓ2 = 0

誤 en posant q − 1/2 = s/t, fraction irréductible,

正 en posant 2q − 1 = s/t, fraction irréductible,

912ページ:

si t est impair, s2 + 3t2 sera de la forme 4n + 3, は正しいが、その後ろの et il faudra prendre m = 73, m′ = 16; には「一般性を失うことなく m が奇数で m′ が偶数と仮定すると」という暗黙の前提がある。 si t est pair, 以下も同様。

〔注〕 原論文ではしばしば「同名変数の再定義」が行われる。例えば「q を p2q で置き換える」という指示は「q/p2 をあらためて q と置く」ことに当たる。これは論理的に正当な処理だが、混乱の原因になり得る。このメモでは、そのような場合、例えば「q = p2Q と置く」のように記述した。これは「q/p2 に等しい新変数 Q を導入する」ことに当たる。そうしたこともあって、このメモと原論文では変数名などが若干異なる。

✿ ✿ ✿


2025-10-03 Genocchi の定理(解説 & Nagell 版) スウェーデンでの研究

#遊びの数論 #根のべき乗和 #FLT

x2 + y2 = z2 を満たす整数って、何となくすてき。

〔例1〕 32 + 42 = 52  ← 左辺は 9 + 16 = 25、右辺も 25

〔例2〕 122 + 52 = 132  ← 左辺は 144 + 25 = 169、右辺も 169

では x3 + y3 = z3 を満たす三つの整数は、あるだろうか。 x4 + y4 = z4 はどうか。一般に n が 3 以上のとき、
  xn + yn = zn
を満たす整数 x, y, z は存在するか?

03 + 03 = 03 とか 53 + 03 = 53 とか 23 + (−2)3 = 03 のような「0 を含む解」は存在する。当たり前でつまらない。「x, y, z がどれも 0 ではない場合」に話を限ろう。

そんな整数はない!」という主張が、有名なフェルマーの最終定理。フェルマーは、ある本のページの隅に「スゲェいかす証明発見。けどこの余白、狭過ぎて、ここには書かれへん、ギャハハハハ」という趣旨のメモを走り書きしたという(単なる自分用のメモで人に見せるつもりはなかったようだが、遺稿として出版された)。

そんな落書きのようなメモが「最終定理」なんて名前を与えられ、数世紀にわたる大問題になるとはねぇ…

内容は単純だが、一般の n についての証明は極めて難しく、フェルマーの時代から約350年後の1990年代に、ようやく解決を見た。

個別の小さい n についての証明は古くから知られていて、初等的で面白い証明が可能なケースもある。 n = 4 の場合は易しく、 n = 3 も比較的易しい(多くの数論入門に記載がある)。 n = 5 や n = 7 は、かなり手ごわそう…。そんな中、イタリアのジェノッキによる n = 7 の場合の証明は――知名度の低いマイナーな内容だけど――、意外とシンプル。別のメモではそれを紹介した。ナーゲッの数論教科書には、ジェノッキの証明が少し簡単化された形で収録されている。以下では定理の内容について解説し、ナーゲッル版の証明も紹介したい。

† トルグヴ・ナーゲッル(Trygve Nagell, 1895–1988)。ノルウェーのオスロ出身の数学者。1931年、スウェーデンのウプサラ(Uppsala)大学教授に就任、スウェーデンに住み始め、同国で生涯を閉じた。数論入門 [4] もスウェーデンで執筆・出版された。専門は数論、特にディオファントス方程式。もともと姓は Nagel (ナーゲル)で、初期の出版物では著者名 Nagel となっている。理由は不明だが、途中から Nagell (ナーゲッル)と名乗るようになった。

ジェノッキ版(§1~§10)の続編として §11 から始めますが、再び最初から証明を書くので、 §1~§10 を読まずに §11 から読み始めても構いません。好みによっては、むしろナーゲッル版の方が簡潔で分かりやすいかも…。§1~§10は手探り状態で書いた最初のメモなので、結構散漫。今回は、多少整理されてる。

✿

11. Genocchi (ジェノッキ)の定理は、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合(Lamé の定理)を拡張したものだ。
  x7 + y7 + z7 = 0  (✽)
には整数解がない――というだけでなく(✽)には有理数解もなく、そればかりか、
  任意に選択した有理係数の3次式の根
を x, y, z とすると、その三つの数は、有理数であろうとなかろうと(✽)を満たさない――という内容(詳細については後述)。

〔注〕 フェルマーの予想(n = 7 の場合)は、 x7 + y7 = z7 を満たす整数 x, y, z はない、というものだった。文字 z の代わりに a を使って、同じ式を x7 + y7 = a7 と書いてもいい。この別表記において、あらためて a = −z と置くと、フェルマーの式は、
  x7 + y7 = (−z)7 = −z7
  ∴ x7 + y7 + z7 = 0
となる。つまり(✽)が解を持つか否かと、フェルマーの式(n = 7 の場合)が解を持つか否かは、同じ質問。

有理係数の3次式うんぬんの意味は…。 P, Q, R を有理数として、3次方程式
  t3 + Pt2 + Qt + R = 0
の三つの解を t = x, y, z とすると[3次方程式には(重複度を含めると)必ず三つの解がある]
  P = −(x + y + z), Q = xy + xz + yz, R = −(xyz)
という「解と係数の関係」が成り立つ。

〔例1〕 t3 − 6t2 + 11t − 6 = 0 の解が t = 1, 2, 3 であることを確かめるのは、難しくない。このとき、係数 P = −6, Q = 11, R = −6 について:
  P = −6 = −(1 + 2 + 3)
  Q = 11 = 1⋅2 + 1⋅3 + 2⋅3
  R = −6 = −(1⋅2⋅3)

P の式と R の式のマイナス符号を解消するため、もともとの3次方程式を
  t3 − pt2 + qt − r = 0
の形で書くことにしよう(つまり p = −P, q = Q, r = −R と置く)。するとその解 x, y, z は、
  p = x + y + z, q = xy + xz + yz, r = xyz  (✽✽)
を満たす。

〔例2〕 例1の3次方程式では p = 6, q = 11, r = 6。このとき:
  p = 6 = 1 + 2 + 3
  q = 11 = 1⋅2 + 1⋅3 + 2⋅3
  r = 6 = 1⋅2⋅3

ジェノッキの定理のポイントは…

x, y, z を有理係数の3次方程式の3解とする。このとき、それら三つの数がフェルマーの式(✽)を満たすなら、 (p =) x + y + z = 0 が成り立つことが必要。それだけでは十分とは限らないが、とにかく必要。もし x + y + z ≠ 0 なら x7 + y7 + z7 = 0 は絶対に成り立たない。

なぜそれが、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合の証明になるの?

もしも(✽)を満たす整数ないし有理数 x, y, z が存在したとすれば、(✽✽)のように置くことで、その x, y, z を3解とする有理係数の3次方程式
  t3 − pt2 + qt − r = 0  ‥‥⓵
を構成できる。その場合の p, q, r は「有理数 x, y, z を使った足し算・掛け算の結果」だから、当然、有理数。ジェノッキの定理によると、このとき三つの解 x, y, z は x + y + z = 0 を満たす。ところが x + y + z = 0 を満たす数は、
  x7 + y7 + z7 = 7q2r  ‥‥⓶
という関係を満たすことが知られていここで q, r の意味は(✽✽)と共通。

〔例〕 x = 2, y = 1, z = −3 とすると p = x + y + z = 0。このとき:
  q = xy + xz + yz = 2 + (−6) + (−3) = −7
  r = xyz = −6
  ∴ 7q2r = 7⋅(−7)2⋅(−6) = −2058
この積は、
  x7 + y7 + z7 = 27 + 17 + (−3)7 = 128 + 1 − 2187 = −2058
に等しい。

† その証明法はいろいろあるが、「2次項のない3次式の根のべき和」を使うのが平明。リンク先の H, P, Q は、それぞれこのメモの −p, q, −r に当たる(a7 + b7 + c7 = −7P2Q ってのが上記⓶と同じ意味)。

問題の条件により x, y, z はどれも 0 でないので、それらの積 r = xyz は 0 ではない。一方、(✽)の条件と⓶から、
  x7 + y7 + z7 = 7q2r = 0
だ。 7q2r が 0 ってことは、 q = 0 ってこと…だよね(r ≠ 0 なんで)。その場合、3次方程式⓵は、
  t3 − 0t2 + 0t − r = 0 つまり t3 = r
に「退化」する(p も q も 0 なんで)。だから、その3解 t = x, y, z は「0 でない有理数 r の(三つの)立方根」ってこと。具体的には、一つの実数と二つの非実数だ。

〔例〕 r = 8 とする。 t3 = 8 の解 t の一つは、明らかに実数 2。この場合、残りの二つの解は、
  −1 + −3 と −1 − −3
という共役複素数のペアで、非実数。そんな変てこな数も 8 の立方根? 公式 (X + Y)3 = X3 + 3X2Y + 3XY2 + Y3 を使うと:
  (−1 + −3)3 = (−1) + 3⋅1⋅−3 + 3⋅(−1)⋅(−3) + (−3−3)
右辺第2項・第4項は打ち消し合うので、結果は = −1 + 9 = 8。立方するとちゃんと 8 になる!

要するに、「フェルマーの式(✽)を満たす三つの有理数がある」と仮定すると、「そのような x, y, z のうち二つは有理数ではない(実数ですらない)」という矛盾した結論が生じる。つまりその仮定は、矛盾していて間違い。正解は「そんな数はない」。フェルマーの最終定理の n = 7 の場合が示される。その証明の根拠となるのがジェノッキの定理、というわけ。

〔注〕 逆に言うと、任意の有理数 r の三つの立方根を x, y, z とするなら、それらは(✽)を満たす。そのとき、もし r が整数の立方なら、 x, y, z のうち一つは整数。例えば 8 の立方根 x = 2, y = −1 + −3, z = −1 − −3 は x7 + y7 + z7 = 0 を満たす。しかし、だからといって、もちろん(✽)を満たす三つの整数があるということにはならない。この場合の y, z は整数でも有理数でもないんで。

「x, y, z は有理係数の3次方程式の根」という条件をなくせば、ジェノッキの定理による制約もなくなる。例えば、
  x = −1, y = −1, z = 72 = 1.1040895136…
は(✽)を満たすが、明らかに x + y + z = 0 ではない。有理係数の範囲では、この z は(最小でも)7次の方程式 z7 = 2 の解であり、有理係数の3次方程式の解としては表現不可能。よってこの例は、ジェノッキの定理とは無関係。

ちなみに(✽✽)の関係を使うと、 x = −1, y = −1, z = 72 を解とする3次方程式
  t3 + (2 − 72)t2 + (1 − 7256)t − 72 = 0
を構成できる。しかし、この3次方程式は有理係数ではないから、やはりジェノッキの定理とは無関係。

このように「ジェノッキの定理の制約」を受けない x, y, z も存在する。でもそのことは、フェルマーの最終定理(n = 7)との関係では「抜け穴」にはならない。なぜなら、
  x, y, z は有理数 ⇒ x, y, z を解とする有理係数の3次方程式が存在
という論理的関係なんで、「有理係数の3次方程式」うんぬんは x, y, z が有理数になるための必要条件。その必要条件を満たさないような設定では、 x, y, z は有理数になり得ない!

✿

12. Genocchi の定理の意味と、証明の流れを要約すると…

(1) 有理数 p, q, r を係数とする3次式 ƒ(U) = U3 − pU2 + qU − r を考える。

〔注〕 変数名として x や y などのもっと普通っぽい文字を使いたいところだが、 x, y, z は(✽)で既に使われている。次善の選択は t か u あたりだが、それらの文字も後で別のことに使う。ギリシャ文字の ξ や η を使ってもいいのだが、不必要に小難しい表記は考えもの(平明な証明が目的なので)。大文字の X を使うのもありだけど、小文字の x と紛らわしい。そんなこともあってか、 Genocchi は、3次式の形式変数として小文字の v を使っている。われわれは大文字の U を使う。

(2) ƒ(U) = 0 を満たす3解を U = x, y, z として、その三つの数がどれも 0 ではなく(✽)を満たす、と仮定する。

(3) この条件では p = 0 でなければならないことを示す。 p ≠ 0 と仮定して矛盾を導けばいい

前節で見たように、以上によって、フェルマーの最終定理(n = 7)が、拡張された形で証明される。ジェノッキ自身の記述を論文の発表順序に従ってたどると…

第一の論文(1864年 [1])。

かくして問題は、直ちに方程式
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2
に帰着する。その不可能性が既に証明されたのなら、 x7 + y7 + z7 = 0 は不可能、とわれわれは結論するであろう――有理数の x, y, z に対してのみならず、有理係数の3次方程式の解となるような無理数に対しても。

〔注〕 記されている方程式は次節の⓸で、議論の鍵となる。その方程式を満たす(整数)解がないこと(具体的な証明は記されていない)から、フェルマーの最終定理の n = 7 の場合が解決する――と指摘した。

第二の論文(1874年 [2])。

これらの定理の中には、オイラーによって扱われた複数の特別なケースが含まれる。例えば、
  x4 − x2y2 + y4 = z2 [中略]
や、その結果として
  x2 − xy + y2 = u2, x2 + xy + y2 = v2
は、不可能。

私はこれらの例に、方程式
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2
を付け加えよう。これも整数解を持たない。そこから次の結論が導かれる。すなわち、有理係数の3次方程式の解であるような値 x, y, z が、方程式
  x7 + y7 + z7 = 0
を満たすことは不可能である。

〔注〕 第一の論文で記された4次の不定方程式を、より広く「この型の不定方程式は整数解を持たない」という一般論の中で眺めている。なぜこの方程式が整数解を持たないのか、具体的な証明は記されていない。

第三の論文(1876年 [3])。いよいよ具体的な証明を公表。

[1874年の論文]の中で、私は断言した――有理係数の3次方程式の解を x, y, z とすると、方程式 x7 + y7 + z7 = 0 は不可能である、と。そしてまた、そのことは、方程式
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2
を整数の範囲で解くことの不可能性に由来する、と。

この主張の証明は、次の通り。

〔注〕 この前置きの後で、いよいよ具体的な証明を公表。

ジェノッキの証明については、既に詳しく紹介した(前編中編後編)。以下では、その内容を整理・再検討してみたい。ナーゲッルによる簡単化についても記す。

✿

13. p = x + y + z = 0 のとき、 ƒ(U) = 0 の3解 x, y, z は、
  x7 + y7 + z7 = 7q2r
を満たす(§11⓶)。一方、 p = 0 とは限らない一般の場合には、
  x7 + y7 + z7
   = p7 − 7p5q + 7p4r + 14p3q2 − 21p2qr − 7pq3 + 7pr2 + 7q2r
   = p7 − 7(pq − r)(p4 − p2q + q2) + 7p(pq − r)2  ‥‥⓷
という関係が成り立つ(この式で p = 0 と置けば⓶になる)。

〔注〕 この複雑そうな式(3次式の根の7乗和の公式)をどうやって導くのか? それも大変面白く重要だが、話が脱線するので、今はこれが正しいと認めて本題に集中しよう(通例、方程式の根のべき和公式は、いわゆるニュートンの式を再帰的に使って導かれる。直前の式から⓷への変形については §1 参照)。

矛盾を導くため p ≠ 0 と仮定する。
  L = (pq − r)/p3, Q = q/p2
と置く。言い換えれば、
  pq − r = Lp3, q = p2Q
と置く。これらを⓷に代入すると:
  x7 + y7 + z7
   = p7 − 7(Lp3)[p4 − p2(p2Q) + (p2Q)2] + 7p(Lp3)2
   = p7 − 7Lp3(p4 − p4Q + p4Q2) + 7Lp7
   = p7 − 7Lp7(1 − Q + Q2) + 7L2p7

従って x7 + y7 + z7 = 0 というフェルマーの式(✽)は、
  p7 − 7Lp7(1 − Q + Q2) + 7L2p7 = 0
を含意する。両辺を 7p7 で割ると:
  1/7 − L(1 − Q + Q2) + L2 = 0 つまり L2 − (1 − Q + Q2)L + 1/7 = 0

これは L についての2次方程式であり、解の公式から:
  L = (1/2)[(1 − Q + Q2) ± D]
  ただし D = (1 − Q + Q2)24/7

L は有理数なので D も有理数でなければならない。そのためには D が有理数の平方であることが必要。この必要条件を次の形で述べることができる。すなわち、互いに素な整数 s, t と何らかの整数 u があって、
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2  ‥‥⓸
という関係を満たすことが必要。

条件⓸を導く方法については、§3 または付録A参照。トリッキーな置換 Q = s/(2t) + 1/2 に基づく。

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14. s, t は互いに素なので、「両方偶数」ではない。 Genocchi の原論文では、 1º として s, t が「両方奇数」になり得ないことを示し、 2º で「s が偶数で t が奇数」にもなり得ないことを示し、最後に 3º で「s が奇数で t が偶数」にもなり得ないことを示し、「偶数・奇数どの組み合わせを考えても⓸は不可能」という結論に至る(これによって p ≠ 0 という仮定が不合理であることが確定し、証明完了)。

ジェノッキの論文の約75年後、ナーゲッルは上記「三つのケースへの場合分け」を整理し、おおむね「二つのケースへの場合分け」で済むようにした。その他にもいくつかの工夫をして、証明をおよそ半分の長さにした。次節以降でそれを紹介する。準備として、簡単な補助命題を導入しておく。

補題E 平方数(整数の平方)は 8 の倍数になるか、 8 の倍数より 1 大きいか、さもなければ 8 の倍数より 4 大きい(あるいは、同じことだが 8 の倍数より 4 小さい)。記号で書くと:
  m は整数 ⇒ m2 ≡ 0, 1, or ±4 (mod 8)

〔例〕 42 = 16 や 122 = 144 は 8 の倍数。 32 = 9 や 52 = 25 は 8 の倍数より 1 大きい。 62 = 36 は 8 の倍数 32 より 4 大きい(あるいは、同じことだが 8 の倍数 40 より 4 小さい)。それ以外のタイプの数――例えば 7, 15, 23, 31, ··· のような「8 の倍数より 1 小さい数 = 8 の倍数より 7 大きい数」――は、決して平方数になり得ない。

証明 補題Bにより、奇数の平方は 8 の倍数より 1 大きい。偶数のうち、 4 の倍数(4N とする)の平方は 16 の倍数であり、従って 8 の倍数だ。実際、 (4N)2 = 42N2 = 16N2

一方、「4 の倍数ではない偶数」(2, 6, 10 など。 4N + 2 の形を持つ)の平方は、 8 の倍数より 4 大きい。なぜなら:
  (4N + 2)2 = (4N)2 + 2⋅4N⋅2 + 22 = 16N2 + 16N + 4 = 8(2N2 + 2N) + 4
この右辺第1項の 8(2N2 + 2N) は 8 の倍数なので、右辺は 8 の倍数より 4 大きい。同じ数は
  8(2N2 + 2N) + 8 − 4 = 8(2N2 + 2N + 1) − 4
とも表現可能であり、 8 の倍数より 4 小さいともいえる。∎

式⓸は、
  (s2 + 3t2)2 − (64/7)t4 = u2  ‥‥⓹
と同値だ(§5⑩⑪参照)。あるいは、同じことだが、項を入れ替えれば:
  (s2 + 3t2)2 − u2 = (64/7)t4  ‥‥⓺

Genocchi による証明では、⓹(=⑪)と⓺(=⑯)、ないし⓹の両辺を 16 で割った形(=⑫)が場当たり的に混用されている。 Nagell は⓺を土台に全ケースを扱い、議論を緊密にした。

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15. この節は Nagell [4] に基づく。

t は奇数と仮定する。⓺の左辺は整数だから、それに等しい右辺
  64⋅(t/7)⋅t3 = 26(t/7)⋅t3
も整数。当然 t は 7 で割り切れる。仮定により t は(従って t/7 も)奇数なので、⓺の右辺は「因子 2 をちょうど 6 個持つ偶数」(つまり 64 で割り切れるが 128 では割り切れない)。それに等しい左辺も、もちろん同じ性質を持つ。ゆえに s, u の一方は偶数で他方は奇⓺を
  (s2 + 3t2 + u)(s2 + 3t2 − u) = 26(t/7)⋅t3  ‥‥⓻
と分解したとき、左辺の ( ) 内を順に α, β とすると、
  α = s2 + 3t2 + u,
  β = s2 + 3t2 − u
はどちらも偶数だ(右辺の3項のうち二つは奇数、一つは偶数なんで)。つまり α, β は共通素因子 2 を(少なくとも一つ)持つ。他方において、 3 以上の素数 c が α, β の共通素因子になることはな

† t が奇数という仮定に留意すると、もしも s, u が両方偶数だったら s2 + 3t2 は奇数で、⓺の左辺は (奇数)2 − (偶数)2 = 奇数になってしまう。同様に、もしも s, u が両方奇数だったら ⓺の左辺は (偶数)2 − (奇数)2 = 奇数になってしまう。どちらも不合理(⓺の値は偶数なんで)。

‡ もしも α, β が 3 以上の共通素因子 c を持ったなら、 α と β の積である⓻右辺も当然同じ因子を持ち、従って t は因子 c を持つ。その場合、
  α + β = 2s2 + 6t2
は(c の倍数同士の和なので) c で割り切れ、従って
  2s2 = (α + β) − 6t2
も(t は c の倍数なので) c で割り切れる。ゆえに s は因子 c を持つ。これは「s, t が互いに素」という仮定に矛盾。

7 の倍数 t を t = 7T と書くと t/7 = T であり、
  αβ = 26⋅T⋅(7T)3 = 26⋅73⋅T4
の α と β は、どちらも因子 2 を一つ以上持つが、因子 73 については、 α, β のどちらか一方が、三つの 7 を三つとも受け取る(α, β は 3 以上の共通素因子を持たないので、一方が 71 を受け取り他方が 72 を受け取るといった「シェア」は不可能)。同様に、奇数 T に含まれる素因子があるとすれば、その一部または全部(A とする)が α に割り当てられ、残り(B とする)が β に割り当てられる。すなわち、臨機応変に分解して t = 7T = 7AB とすると、 A は α の因子、 B は β の因子となって、
  α = s2 + 3t2 + u = 2m⋅73⋅A4,
  β = s2 + 3t2 − u = 26−m⋅B4
となる(A, B は互いに素、 α, β は 2 以外の共通素因子を持たない)。

〔注〕 T4 = (AB)4 = A4B4 には、 T = AB に含まれる各素因子(T は奇数なので、どれも 3 以上)が、それぞれ 4 倍の個数含まれている。例えば T が特定の素因子 c を k 個含むとすると、 T4 にはその因子 c が 4k 個含まれる。しかるにこの 4k 個の c は、 α, β のどちらか一方に全部割り当てられ、他方には 1 個も配分されない(α, β は 3 以上の共通素因子を持たないので)。ゆえに T に含まれる因子 A が α に配分されるなら、 T4 に含まれる A4 は全部 α に配分される。 T の余因子 B についても同様。

因子 73 は α ではなく β に割り当てられる可能性もあるが、必要なら u の符号を反転させることにより「α, β のうち 7 で割り切れる方が α で、 β は 7 で割り切れない」と約束する。 m は α が持つ素因子 2 の個数で、 1, 2, 3, 4, 5 のいずれか(因子 2 は計 6 個あり α, β のどちらも因子 2 を少なくとも 1 個持つので)。

† u は、その平方が⓸を満たすような整数であり、正でも負でも構わない。例えば、もし仮に⓸の値が 36 だとすると u = ±6 のどちらでも可であり、
  α = s2 + 3t2 + u そして β = s2 + 3t2 − u
という設定において u = 6 では不都合なら、 u = −6 とすることで α と β の内容を入れ替えることができる。

今 α と β の和を考えると:
  2s2 + 6t2 = 2m⋅73⋅A4 + 26−m⋅B4
この両辺は、次のように 2 で割り切れる(2m と 26−m はどちらも 21 以上なので)。
  s2 + 3t2 = 2m−1⋅73⋅A4 + 25−m⋅B4
  ∴ s2 = 2m−1⋅73⋅A4 + 25−m⋅B4 − 3t2  ‥‥⓼

仮定により t は奇数、その因子 A, B も奇数なので、補題Bにより、⓼は mod 8 ではこうなる。
  s2 ≡ 2m−1⋅(−1)3 + 25−m − 3 ≡ 25−m − 2m−1 − 3

m = 1 ないし 2 のとき 25−m は 8 の倍数なので、 mod 8 においては消滅し、それぞれ
  s2 ≡ −21−1 − 3 ≡ −4 ないし −22−1 − 3 ≡ −5
となる。 m = 3 のとき 25−m − 2m−1 ≡ 22 − 22 は消滅し、
  s2 ≡ −3
となる。最後に m = 4 ないし 5 のとき 2m−1 は 8 の倍数なので消滅し、それぞれ
  s2 ≡ 25−4 − 3 ≡ −1 ないし 25−5 − 3 ≡ −2
となる。補題Eによると、以上五つの選択肢のうちで左辺の平方数 s2 と整合性があるのは、 m = 1 のときの s2 ≡ −4 のみ。

これで m = 1 と確定した。それを⓼に代入すると:
  s2 = 73A4 + 24B4 − 3t2 = 73A4 + 24B4 − 3(7AB)2
  ∴ s2 = 24B4 − 3⋅72A2B2 + 73A4  ‥‥⓽

ジェノッキ版の㋒(§8)と同じ式が、比較的簡単に得られた!

このように「積 αβ に因子 2 が何個含まれるか」を明示的に考え、 α, β にそれぞれ何個の 2 が配分されるかをブルート・フォース(全数検索の試行錯誤)で決定する――ってのが Nagell によるアレンジの特色。「ブルート・フォースはエレガントでない」という気もするけど、 s が偶数か奇数か場合分けして考える必要がなくなる。

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16. 以上は t が奇数と仮定した場合の議論だが、この先はしばらくジェノッキのオリジナルと同様に進む(§8参照)。「64 倍のアクロバット」を使うことで、
  γ = 8s2 + 32B2 − 3⋅72A2 と δ = 8s2 − 32B2 + 3⋅72A2
の一方は 73e4 に等しく、他方は f4 に等しい――という結論に至る(e, f は奇数)。

Genocchi のオリジナルでは、 t が奇数という仮定が結局不合理であると結論するため、 γ − δ を考える。 Nagell は代わりに次の論法を使った。 A, B, e, f が奇数であることに留意しつつ mod 8 で考えると、
  γ ≡ −3(−1)2 ≡ −3, δ ≡ 3(−1)2 ≡ +3
であり、このような γ ≡ −3 が、
  73e4 ≡ (−1)3 ≡ −1, f4 ≡ +1 (mod 8)
の一方に等しくなることは不可能。同様に δ ≡ +3 も ≡ ±1 にはなり得ない。高速で明快!

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この定理の証明の Nagell 版は、大筋では Genocchi 版と同じだが、20世紀のテキスト。客観的には Nagell 版の方が簡潔に整理されていて、優れているというべきだろう。しかしオリジナルの Genocchi 版の方が、(少々冗長だけど)平明で分かりやすいようにも思われる。 Nagell はこの定理について stated and proved by V. A. Lebesgue とコメントしているが、 by A. Genocchi の書き間違いだろう。もっとも Lebesgue が n = 7 のケースに大きな貢献をしのも事実。数論の歴史の研究者としても有名な数学者 Dickson は、こう要約してい「Lamé は Fermat の定理の指数 7 の場合を証明した。 Lebesgue と Genocchi によって簡単化が行われ、 Genocchi は《x, y, z が有理係数3次式の根になるような(非自明な)解はない》という一般化を与えた」

t が偶数と仮定する場合に関しても、 Nagell は若干の簡単化を行っている。

(続く)

† https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k163849/f284.item
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k163849/f356.item

‡ https://archive.org/details/jstor-2007234/page/n6/mode/1up
https://archive.org/details/HistoryOfTheTheoryOfNumbersVolII/page/746/mode/1up
[747ページと脚注93も参照]

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2025-10-05 Genocchi の定理(Nagell 版・続き) t が偶数の場合

#遊びの数論 #FLT

x7 + y7 = z7 ――あるいは同じことだが x7 + y7 + z7 = 0 ――を満たすような三つの整数 x, y, z はない(ただし x, y, z はどれも 0 でないとする)。これが Fermat の最終定理の n = 7 の場合だ。 Lamé によって最初に証明(1839年)されたので Lamé の定理とも呼ばれる。

Lamé と同時代の Cauchy や Lebesgue は証明の簡単化に取り組み、特に Lebesgue は新しい証明を完成させた(1840年ごろ)。1860年代から1880年代、イタリアの Genocchi は Lamé の定理を拡張しつつさらに簡単化―― Fermat の定理の n = 7 の場合の、初等的で平明な証明を公開した。

Nagell は、この Genocchi の定理の証明をコンパクトな形にまとめている。 Nagell 版の証明の前半(t が奇数の場合)について、前回一応紹介した。 t が偶数の場合の Nagell の扱いを記し、 Nagell 版の証明を完結させておく。

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17. Fermat のもともとの主張(n = 7 の場合)は、「不定方程式 x7 + y7 + z7 = 0 には、非自明な整数解はない」というもの。 Genocchi は、拡張された形でこれを再証明した。その拡張とは「整数解・有理数解だけでなく、 x, y, z が同じ有理数の複素立方根になる場合を除けば、3次の代数的数の解もない」。 Genocchi の結論は、
  s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2  ‥‥㋚
を満たす整数 s, t, u が存在しない、ということに基づく(§13)。㋚は次のように変形可能:
  (s4 + 6s2t2 + 9t4) − 9t4(1/7)t4 = (s2 + 3t2)2(64/7)t4 = u2
  移項して (s2 + 3t2)2 − u2 = (64/7)t4  ‥‥㋛

〔注〕 −9 − 1/7 = (9⋅7 + 1)/7 = 64/7 は簡単な分数計算だが、「9 × 7 = 63 が 64 = 82 と 1 違い」という単純な事実が、この証明では繰り返し重要な役割を果たす。もちろん、この事実は 9 × 7 = (8 + 1)(8 − 1) = 82 − 12 = 63 という関係に基づく。

t は偶数とする。仮定により s, t は互いに素なので s は奇数。このとき㋚の左辺第1項は奇数、第2・第3項は偶数であり、㋚の値は奇数。従って右辺に含まれる u は奇数。 Nagell [4] は㋛を
  (s2 + 3t2)2 − u2 = (4/7)⋅16t4 = (4/7)(2t)4 = (4/7)(λμ)4
と見て、その左辺を分解して得られる因子、
  α = (s2 + 3t2) + u,
  β = (s2 + 3t2) − u
に、右辺 (4/7)(λμ)4 の因子がどう配分されるか考えた。ここで λμ = 2t は、 2t を適宜、二つの整数 λ, μ の積に分解したもの。当然、次の関係が成り立つ。
  t = (1/2)λμ  ‥‥㋜

α, β はどちらも偶数なので、それぞれ因子 2 を少なくとも一つ持つ。しかし 22 は α, β の公約数ではなく、 α, β は 3 以上の公約数も持たな αβ = (4/7)(λμ)4 は素因子 7 を少なくとも三つ含むが、それらの 7 たちは、全部 α, β の一方だけに割り当てられる(7 は α, β の公約数ではないので)。 λ, μ の少なくとも一方は 7 の倍数。仮に λ が 7 の倍数として α が因子 7 を受け取るとすると、以上の諸条件から、
  α = (s2 + 3t2) + u = 2⋅(λ/7)⋅λ3 = (2/7)λ4  ‥‥㋝
  β = (s2 + 3t2) − u = 2μ4  ‥‥㋞
となすなわち (4/7)(2t)4 = (4/7)(λμ)4 は、
  (2/7)λ4 × 2μ4
と分解されて、 α と β に割り当てられる。ここで λ, μ は互いに素で、 λ は 7 の倍数(μ は 7 の倍数ではない)。

† 仮定により t は偶数、 s, u は奇数なので s2 + 3t2 = 奇数 + 偶数 = 奇数。よって (s2 + 3t2)2 ± u2 = (奇数)2 ± (奇数)2 = 偶数。

‡ もしも α, β が両方 4 の倍数なら α − β = 2u も 4 の倍数。これは u が奇数という前提と矛盾。もしも 3 以上の素数 c が α, β の公約数なら、 α + β = 2(s2 + 3t2) は c の倍数(仮に s2 + 3t2 = cN とする)。その場合、 αβ = (64/7)t4 も(㋛参照)――従って t も―― c の倍数なので、 c の倍数同士の差 s2 = cN − 3t2 は c の倍数。 s, t 両方が c の倍数になってしまい、 s, t は互いに素という前提と矛盾。

¶ 分解される整数に含まれる見掛け上の分数 1/7 は、全体としては(因子 7 と結合されて)整数を表す。当然、因子 7 を含む λ 側に配分される。

α と β の値はあべこべになり得るが、必要に応じて u の符号を反転させれば、因子 7 を持つ側が α になるように固定できる。㋝と㋞の和から:
  2(s2 + 3t2) = (2/7)λ4 + 2μ4
両辺を 2 で割り、移項して㋜を代入:
  s2 + 3t2 = (1/7)λ4 + μ4 つまり s2 = −3t2 + (1/7)λ4 + μ4
  ∴ s2 = −3⋅(1/4)λ2μ2 + (1/7)λ4 + μ4  ‥‥㋟

2t = λμ は偶数なので λ, μ の少なくとも一方は偶数。 λ, μ は互いに素なので、両方が偶数ではない。もしも μ が偶数(λ が奇数)だったなら、 μ = 2M, λ = 7N と置けば μ2 = 4M2 で、㋟に代入すると、
  s2 = −3⋅λ2M2 + 73N4 + 16M4
となってしまい、矛盾が生じる。というのも、仮定により s, λ, N は奇数なので、上の等式は補題Bから
  1 ≡ −3M2 + (−1)3 つまり 3M2 ≡ −2 (mod 8)
を含意するが、考え得る選択肢 M2 ≡ 0, 1, ±4 のどれも(補題E参照)、この合同式を満たさない。ゆえに㋟が成り立つ可能性があるとすれば、 λ が偶数で μ が奇数の場合に限られる。

〔参考〕 λ が偶数(μ が奇数)として λ = 2⋅7B と置くと λ2 = 4⋅72B2 で、㋟は、
  s2 = −3⋅72B2μ2 + 24⋅73B4 + μ4
となる。仮定により s, μ は奇数なので、次が含意される。
  1 ≡ −3B2 + (−1)3B4 + 1 (mod 8)
この合同式は、成り立つ可能性がある――必要条件は B2 ≡ 0 (mod 8) で、この文脈では「B が 4 の倍数」であること。つまり「λ が偶数」というだけでは不十分で、 λ = 2⋅7B の B が 4 の倍数であること、すなわち「λ が 8 の倍数」であることが必要。

Nagell は上記〔参考〕の代わりに、次のように論じている。 λ が偶数(μ が奇数)として λ = 2κ と置くと、㋟はこうなる:
  s2 = −3κ2μ2 + (1/7)(2κ)4 + μ4
この右辺第2項は 8 の倍数なので mod 8 では消滅する。 s, μ が奇数という仮定から、
  1 ≡ −3κ2 + 1 つまり 3κ2 ≡ 0 (mod 8)
となり、 3κ2 は 8 の倍数、よって κ は 4 の倍数(λ = 2κ は 8 の倍数)。

✿

18. ㋟に λ = 2κ を代入し、次のように平方完成する:
  s2 = −3⋅(1/4)(4κ22 + (1/7)(16κ4) + μ4
   = μ4 − 3κ2μ2 + (9/4)κ4 − (9/4)κ4 + (16/7)κ4
   = (μ2 − (3/2)κ2)2 + (1/28)κ4
  ∴ s2 − (μ2 − (3/2)κ2)2 = (1/28)κ4  ‥‥㋠

λ = 2κ は 7 の倍数だから κ は 7 で割り切れる。 4 の倍数でもある κ は、 4⋅7 = 28 で割り切れる。よって上の各項は整数。いつものように、㋠の左辺を分解した因子
  γ (ないし δ) = s + (μ2 − (3/2)κ2)  ‥‥㋡
  δ (ないし γ) = s − (μ2 − (3/2)κ2)  ‥‥㋢
を考えると γ, δ はどちらも偶数で、 3 以上の公約数を持たない。 γ, δ の積である㋠の右辺は素因子 7 を(少なくとも三つ)持つので、 γ, δ のどちらか一方だけは因子 7 を持つ。便宜上 δ が 7 の倍数(γ は 7 の倍数ではない)としよう(もしあべこべだったら、「ないし」の後ろのように変数名 γ, δ を入れ替え、あべこべにならないようにする)。

κ は少なくとも素因子 22⋅7 を持つが、 Nagell はシンプルに κ = 2fg と置いた(f, g は互いに素)。 f, g の一方だけは素因子 7 を持つ。便宜上 g が 7 の倍数(f は 7 の倍数ではない)として、 g を δ に割り当てる。上記の諸条件から、㋠の右辺
  (1/28)κ4 = (1/28)(16f4g4) = (1/7)⋅22⋅f4⋅g4
の因子は、次のように γ, δ に配分される:
  γ = 2⋅f4 そして δ = 2⋅(1/7)⋅g4
  ∴ γ − δ = 2(f4 − (1/7)g4)  ‥‥㋣

㋡㋢を使って γ − δ を計算する。どっちが γ でどっちが δ かによって符号が変わるが、複号を使って併記すると:
  γ − δ = ±2(μ2 − (3/2)κ2) = ±(2μ2 − 3κ2)
   = ±[2μ2 − 3(2fg)2] = ±(2μ2 − 12f2g2)  ‥‥㋤

㋤は㋣に等しく、従って㋤の半分は㋣の半分に等しい:
  ±(μ2 − 6f2g2) = f4 − (1/7)g4  ‥‥㋥
g が 7 の倍数であること(そして μ, f は 7 の倍数ではないこと)に留意しつつ、等式㋥を mod 7 で考えると:
  ±(μ2) ≡ f4 (mod 7)  ‥‥㋦
後述の補題Fを使うと、この合同式は、複号でプラスを選んだ場合には
  1, 2, 4 のどれかと 1, 2, 4 のどれかは合同 (mod 7)
という含意を持ち(この含意は、もちろん真)、複号でマイナスを選んだ場合には
  −1, −2, −4 のどれかと 1, 2, 4 のどれかは合同 (mod 7)
という含意を持つ(これは偽)。ゆえに㋥が成り立つとしたら、複号でプラスを選ぶ必要があり、われわれは、
  μ2 − 6f2g2 = f4 − (1/7)g4 すなわち
  f4 + 6f2g2 − (1/7)g4 = μ2  ‥‥㋧
を得る。ところが㋧は出発点の㋚ s4 + 6s2t2(1/7)t4 = u2 と同じ型の不定方程式であり、しかも
  2t = λμ = (2κ)μ = (2⋅2fg)μ つまり t = 2fgμ
なので、㋚を満たすはずの整数 t に比べ、(㋚から派生した式㋧の)対応する整数 g は、絶対値が小さい。これは不合理な無限降下を含意し、この不定方程式は解を持たないと結論される。すなわち t が偶数の場合にも「ジェノッキの不定方程式」は不可能。定理の証明が完了した。∎

〔付記〕 原文では㋦の代わりにそれを移項した f4 ∓ g2 を考え、 f4 + g2 が 7 で割り切れないことを根拠に、複号の下側を否定している。その方法だと {1, 2, 4} のどれかと {1, 2, 4} のどれかの和が 7 にならないことを 9 通りのパターンについて確かめることになり、困難ではないが微妙に面倒くさい。

Genocchi 版をベースとした最初の証明では、 t が偶数の場合に t = 7AB = 7A(2ef) とし、 g = 7e と置いた。 t = 2Afg ということになる。 Nagell は代わりに 2t = 22Afg を起点として、それを λ (= 2κ) = 22fg と μ = A の積としている(κ = 2fg)。本質的な流れは、どちらの証明でも同様。 Nagell が実際に使った変数名は (λ =) a, (μ =) b, (κ =) a1; (f =) c, (g = 7e =) d。統一のため c, d については第一の証明と同じ文字に置き換え、 a, b, a1 については、変数名を変えてある。 α, β, γ, δ などは便宜上の一時変数で、文脈によって意味が異なる。

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19. Nagell 版の証明では mod 7 で最後の符号の選択を行うところが軽妙。次の補助命題に基づく。

補題F
〘ⅰ〙 7 の倍数以外の整数 m を平方したもの(あるいは 4 乗したもの)は、 7 の倍数より 1 または 2 または 4 大きい。記号では:
  整数 m は 7 の倍数ではない ⇒ m2 ≡ 1, 2, or 4 (mod 7) かつ m4 ≡ 1, 4, or 2 (mod 7)
〘ⅱ〙 「7 の倍数より 1 または 2 または 4 大きい」数が、同時に「7 の倍数より 1 または 2 または 4 小さい」ことはない。記号では:
  m ≡ 1, 2, or 4 (mod 7) ⇒ m ≢ −1, −2, or, −4 (mod 7)

証明 〘ⅰ〙 7 の倍数ではない整数は 7N ± 1 または 7N ± 2 または 7N ± 3 の形を持つ(N は何らかの整数)。
  (7N ± 1)2 = 49N2 ± 14N + 1 = 7(7N2 ± 2N) + 1
なので、 7N ± 1 型の整数の平方は 7 の倍数より 1 大きい。同様に 7N ± 2 型の整数の平方は 7 の倍数より 4 大きい。一方、
  (7N ± 3)2 = 7(7N2 ± 2N) + 9 = 7(7N2 ± 2N + 1) + 2
なので、 7N ± 1 型の整数の平方は 7 の倍数より 2 大きい。これで平方の場合が証明された。

整数 m が 7 の倍数でないときには m2 も 7 の倍数ではないので、その整数 m2 の平方も上記の法則に従う。すなわち、
  m4 ≡ (m2)2 ≡ 1, 2, or 4 (mod 7)
が成り立つ(∵ m2 は 7 の倍数ではない整数)。

〘ⅱ〙 「7 の倍数より 1 または 2 または 4 小さい数」は、「7 の倍数より 6 または 5 または 3 大きい数」なので、「7 の倍数より 1 または 2 または 4 大きい」数ではない。別の言い方をすると、今日の 1 日・2 日・4 日と、今日の 1 日・ 2 日・ 4 日の中に、同じ曜日の日はない。∎

mod 7 で m ≡ ±1, ±2, or ±3 のとき、それぞれ m2 ≡ 1, 2, or 4 であり、 m4 ≡ 1, 4, 2 だ。

mod 7 において 7 の倍数を度外視すると、 1, 2, 4 が平方剰余(かつ四乗剰余)、 3, 5, 6 が平方非剰余(かつ四乗非剰余)。

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