ミリマノフ多項式・第2部(遊びの数論46)

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第1部の続き。きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。


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2025-07-11 コーシー/ミリマノフ多項式(その9) τ > −0.75

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

n ≥ 2 を整数とする。 Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n は、因子 x2 + x を 0 個または 1 個だけ持ち、因子 x2 + x + 1 を 0 個・ 1 個または 2 個だけ持つ。それらを除外した余因子を En(x) とする。 w がその一つの根なら、 w と一定の関係にある6種類の根(w 自身を含む)は「根の六つ組」を成す。 Mirimanoff は1903年、それら六つの数を根とする6次式が、
  ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
という形を持つことを示した。ここで τ は六つ組 Ow に応じて定まる一つの実数。逆に言えば、たった一つの実数 τ によって Ow の六つの数の行方が決まる。責任重大なパラメーターだっ!

τ の値の具体例:
  n = 6 ⇒ τ = 15/2 = 7.5
  n = 8 ⇒ τ = 10
  n = 9 ⇒ τ = 19/3 ≈ 6.333
  n = 10 ⇒ τ = 27/2 = 13.5
  n = 11 ⇒ τ = 7
  n = 12 ⇒ τ = 12 + (69/2) ≈ 17.873 または τ = 12 − (69/2) ≈ 6.126
  n = 13 ⇒ τ = 8
n = 7 の E7(x) は0次式、0種類の τ を持つ(n = 2, 3, 4, 5 も同様)。 E12(x) は12次式――二つの六つ組(計12個の根)を持ち、よって2種類の τ がある。以上の例を見る限りでは τ は約 6 以上のように思われるが…?

τ が取り得る値の範囲を検討することで、 En(x) の性質について何らかの洞察が得られるかもしれない。とりあえず「τ は −0.75 より大きく、かつ 5.5 でも 6 でもない」という範囲制限を得た。

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補題4 複素数 X が実数の場合(虚部 = 0)、自分自身と逆数の和 X + 1/X はもちろん実数。一方 X が実数ではない場合(虚部 ≠ 0)、もし X + 1/X が実数なら、
  |X| = |1/X| = 1
であり、 X と 1/X は共役複素数。

証明 X = A + Bi とする(A, B: 実数)。このとき、
  1/X = 1/(A + Bi) = [A − Bi]/[(A + Bi)(A − Bi)] = (A − Bi)/(A2 + B2)
であり(仮定により B ≠ 0 なので分母 ≠ 0。 A2 + B2 は X の絶対値の2乗):
  X + 1/X = (A2 + B2)(A + Bi)/(A2 + B2) + (A − Bi)/(A2 + B2)
  その虚部 = [(A2 + B2)B − B]/(A2 + B2)
分数の値 = 0 ⇔ 分子 = 0 なので:
  X の虚部 ≠ 0 かつ X + 1/X の虚部 = 0 ⇒ B ≠ 0 かつ (A2 + B2)B − B = 0
右端の式の両辺を B で割って:
  (A2 + B2) − 1 = 0 つまり A2 + B2 = 1 つまり |X|2 = 1

ゆえに |X| = 1、その逆数の絶対値も 1 であり、 X, 1/X はどちらも複素平面において(原点を中心とする)単位円(半径 1 の円)の円周上にある。仮定により X + 1/X は虚部 = 0 なので、 X の虚部 B に対し 1/X の虚部は −B。従って 1/X は、単位円上で X の 180° 反対側にあるか(1/X = −X)、または両者は共役複素数。しかし 180° 反対側にあって共役ではないなら、両者は加法逆元(−1 倍)であり、一般には逆数(−1 乗)ではない。すなわち X と 1/X は共役(X = ±i かつ 1/X = ∓i の場合のみ、共役かつ 1/X = −X)。∎

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定理12(可能な τ の範囲: 定理9の若干の精密化)  En(x) の任意の根を x = w とし、 w を含む根の六つ組を
  Ow = {w, 1/w, −w − 1, −1/w − 1, −1/(w + 1), −w/(w + 1)}
とする(定理5参照)。 Ow の六つの数は、実係数の回文的6次式、
  ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
の根として、表現可能(定理9)。ここで実数 τ の値は 3/4 より大きく、しかも 11/2, 6 ではない

証明 回文的な6次方程式
  ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1 = 0
の解を考える。 x = 0 は解ではないので、代わりに両辺を x3 で割った次の方程式を考えても同じこと:
  (x3 + x−3) + 3(x2 + x−2) + τ(x + x−1) + (2τ − 5) = 0
z = x + x−1 と置くと、次の3次方程式を得る:
  (z3 − 3z) + 3(z2 − 2) + τz + (2τ − 5) = 0
  つまり z3 + 3z2 + (τ − 3)z + (2τ − 11) = 0  (✽)

(✽)は実係数の3次方程式なので、その実数解の数は(重複度を含めて)ちょうど一つか、または三つ。もしも(✽)が三つの実数解 z1, z2, z3 を持つとしたら、 ε(x) = 0 の六つの解は、
  xj + 1/xj = 実数 zj
の形式の x = xj と x = 1/xj の3ペアから成る(j = 1, 2, 3)。

これが起こり得るとしたら、まず考えられるのは xj, 1/xj が全て実数のケース。でも En(x) の根は(従って、その部分集合である ε(x) の根も)決して実数ではないので(定理7)、そのケースは起こり得ない。では xj, 1/xj がどれも実数ではなく、しかも j = 1, 2, 3 のそれぞれについて、
  xj + 1/xj = 実数 zj
となる可能性はあるか? もしそれが起きたとすると、補題4により xj, 1/xj の各ペアは(従って六つの根はどれも)単位円上にある。しかるに六つの根のうち少なくとも一つ(正確にはちょうど二つ)は実部 −1/2 を持つ(定理11)。「単位円上で実部 −1/2 を持つ共役複素数」は 1 の原始立方根 ω, ω2 だけであり、 ε(x) = 0 がその一方または両方を解とすることは不可能(定理10の系2)。――どっちにしても(✽)が三つの実数解を持つという仮定は不合理。すなわち(✽)は実数解を一つだけ持つ。

今、(✽)の2次の項を除去するため z = s − 1 と置くと:
  (s − 1)3 + 3(s − 1)2 + (τ − 3)s + (2τ − 11)
   = (s3 − 3s2 + 3s − 1) + (3s2 − 6s + 3) + (τ − 3)(s − 1) + (2τ − 11)
   = s3 + (τ − 6)s + (τ − 6) = 0  (✽✽)
これがちょうど一つの実数解を持つのだから、(✽✽)と関連する(実係数の)2次方程式
  y2 + (τ − 6)y − [(τ − 6)/3]3 = 0
の判別式 D = (τ − 6)2 − 4⋅1⋅[−(τ − 6)3/27]
   = (τ2 − 12τ + 36) + (4/27)3 − 3⋅6τ2 + 3⋅62τ − 63)
   = (τ2 − 12τ + 36) + ((4/27)τ3(8/3)τ2 + 16τ − 32)
  つまり D = (4/27)τ3 − (5/3)τ2 + 4τ + 4
の値は、正でなければならない。 D の符号は、
  27D = 4τ3 − 45τ2 + 108τ + 108 = (4τ + 3)(τ − 6)2
の符号と一致。 τ ≠ 6 なら (τ − 6)2 > 0 なので 27D の符号は 4τ + 3 の符号と一致し、 τ = 0 なら 27D = 0。よって条件 D > 0 は、
  −3/4 < τ かつ τ ≠ 6
と同値。

最後に τ ≠ 11/2 を示す。もし仮に τ = 11/2 なら、
  ε(x) = x6 + 3x5 + (11/2)x4 + 6x3 + (11/2)x2 + 3x + 1
は根 x = i を持つ。実際、上記 ε(x) についての直接計算によると: ε(i) の実部は 1⋅(−1) + (11/2)⋅(+1) + (11/2)⋅(−1) + 1 = 0、虚部は 3⋅(+1) + 6⋅(−1) + 3⋅(+1) = 0。ところが、簡単な考察(付録4参照)によると、いかなる n ≥ 2 に対しても、実際には x = i は En(x) の根になり得ず、上記の仮定は不合理。すなわち―― En(x) と無関係に6次式 ε(x) それ自体を考えるなら、 τ = 11/2 の場合 ε(i) = 0 になるのは事実だが――、 En(x) との関係においては x = i は決して根ではなく、 τ = 11/2 のときの ε(x) は En(x) の因子ではない。∎

われわれは後に示すであろう―― 1 の原始4乗根 i に限らず、 1 のいかなる m 乗根(m ≥ 4)も En の根になり得ないことを。

† この D は正式には「3次方程式そのものの判別式」ではないが、実用上、それと似た機能を持つ。2次方程式の判別式としての D は、もし D < 0 なら、「その2次方程式は実数解を持たない」という意味。「実係数の3次方程式に関連する2次方程式の判別式」としての D も、2次方程式に関する意味はもちろん同じだが、同時に、もし D < 0 または D = 0 だと「その3次方程式は実数解しか持たない」ことが含意される。この証明の文脈では「3次方程式が実数解しか持たない」のは条件に反するので、 D > 0 であることが必要。

‡ この仮定上では ε(x) = (x2 + 1)(x2 + 2x + 2)(x2 + x + 1/2) と分解され、根 x = i だけでなく根 x = −i と、根 −1 ± i, −1/2 ± i/2 を持つ。

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エッジケース D = 0 は τ = 6 または τ = −3/4 を含意する。重複度を含めると、どちらも(✽)が三つの実数解を持つことを意味するので、証明本文の理由から可能な選択肢ではない。具体的詳細は次の通り。もしも τ = 6 だったなら、(✽)は
  z3 + 3z2 + 3z + 1 = (z + 1)3 = 0
となり、三重解 z = −1 を持つ。このとき、
  ε(x) = x6 + 3x5 + 6x4 + 7x3 + 6x2 + 3x + 1 = (x2 + x + 1)3
は、二つの三重根 {ω, ω2} を持つ。しかしそれは不可能(定理10の系2)。これは証明の中で、補題4を経由して否定したケースに含まれる。

一方、もしも τ = −3/4 だったなら、(✽)は
  z3 + 3z2 − (15/4)z − 25/2 = (z + 5/2)2(z − 2) = 0
となり、二重解 z = −5/2 と単純解 z = 2 を持つ。このとき、
  ε(x) = x6 + 3x5 − (3/4)x4 − (13/2)x3 − (3/4)x2 + 3x + 1 = (x + 2)2(x + 1/2)2(x − 1)2
は、三つの二重根 {−2, −1/2, 1} を持つ。しかし En(x) が実数の根を持つことは不可能(定理7)。これは証明の中で、真っ先に否定したケースに含まれる。

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図解: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置定理12によると、 En(x) との関連において、可能な τ の範囲は一応 τ > −3/4 だが、これはかなり弱い不等式かもしれない(もしかすると、より強く、例えば τ > 6 が成り立つのかもしれない)。しかしその研究には多少の準備が必要であり(定理13以下)、ここではとりあえず τ > −3/4 で満足しなければならない。もし仮に τ > 6 を示すことができれば、3次方程式(✽✽)の定数項は正、ということになる。

−3/4 より大きい実数の中に、例外となる二つの値 τ ≠ 5.5, τ ≠ 6 がある。この例外ポイントによって、可能性のある τ の範囲は三つの区間に分けられ、区間ごとの状況の違いを検討することで、 τ の値の範囲に応じた ε(x) の六つ組の根の配置(軌道)の性質について、その幾何学的イメージを整理できる。

便宜上、 Ow の六つの根の中で w + 1/w = 実数を満たす {w, 1/w} を主たる共役ペア、または第一共役ペア(略して第一ペア)と呼び(両者は互いに逆数かつ互いに共役。どちらも絶対値 1 で単位円上にある)、そのうち虚部が正の根を(六つ組の)主たる根と呼ぶことにしよう。画像は E9(x) の場合の図解で、 {x1, x2} が第一ペア、 x1 が主たる根。

第一ペアから派生する {−w − 1, −1/w − 1} を第二共役ペアと名付け、第二ペアそれぞれの逆数 {−1/(w + 1), −w/(w + 1)} を第三共役ペアと名付ける。

第三ペアは、実部 = −1/2 の縦線上にある。画像では {x3, x4} が第二ペア、 {x5, x6} が第三ペア。

定理12の補足 Ow に対応する6次式 ε(x) について、そのパラメーター τ と Ow の根の配置の関係は、次の通り。 Ow の主たる根の偏角を θ とする。
  〘ⅰ〙 τ > 6 のとき 120° < θ < 180° であり、そのとき、六つの根はどれも第2・第3象限にある。第二ペアは単位円の内側にあり、両者の絶対値は 1 未満。第三ペアは単位円の外側にあり、両者の絶対値は 1 より大。
  〘ⅱ〙 120° の壁。 τ = 6 のとき θ = 120° であり、 Ow は二つの三重根 {ω, ω2} から成る。どの根も絶対値は 1 で実部 −1/2 を持つ。 ω, ω2 は、たとえ一つでも En(x) の根となることはなく、この配置は起こり得ない(定理10の系2)。
  〘ⅲ〙 11/2 < τ < 6 のとき 90° < θ < 120° だ。これが起こり得たとすると、その場合の根の配置は〘ⅰ〙と似ているが、ただしこれ以降、第二ペアは単位円の外側にあり、両者の絶対値は 1 より大。第三ペアは単位円の内側にあり、両者の絶対値は 1 未満(依然として実部 −1/2 を持つ)。
  〘ⅳ〙 90° の壁。 τ = 11/2 のとき θ = 90° であり、第一ペアは x = ±i、第二ペアは x = −1 ∓ i、第三ペアは −1/2 ± i/2。この配置は起こり得ない(定理12)。
  〘ⅴ〙 −3/4 < τ < 11/2 のとき 0° < θ < 90° だ。これが起こり得たとすると、その場合の根の配置は〘ⅲ〙と似ているが、ただし、第一ペアは第1・第2象限にある。
  〘ⅵ〙 0° の壁。 τ = −3/4 のとき θ = 0° であり、第一ペアは x = 1 ± 0i の重根。第二ペアは −2 ± 0i の重根。第三ペアは −1/2 ± 0i の重根。この配置は起こり得ない定理7)。

〔付記〕 τ → +∞ のとき θ → 180° で第一ペア → −1 ± 0i。そのとき第二ペア → −0 ∓ 0i、第三ペア → −1/2 ± ∞。 θ = 180° は第一ペア = −1 ± 0i = 実数を含意するため、不可能(180° の壁)。

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付録4 次の命題(τ ≠ 11/5 を含意)の証明。

命題 任意の整数 n ≥ 2 に対して、 P(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n とする。 x = i は決して P(x) = 0 を満たさない。 x = i は P(x) の因子 En(x) の根でもない。(En(x) の意味については、本文参照。)

この命題は自明に近い。 x = i のとき
  (x + 1)n = (1 + i)n
の値は、 n が大きくなれば、限りなく大きくなる。というのも、 1 + i の絶対値は 2 = 21/2 であり、 (1 + i)n の絶対値は (21/2)n = 2n/2 だ。(1 + i と絶対値が等しい共役複素数 1 − i についても、同様。以下についても、ほとんど同じ議論が成立)。

〔例1〕 (1 + i)6 を二項展開。
  1⋅16⋅i0 + 6⋅15⋅i1 + 15⋅14⋅i2 + 20⋅13⋅i3 + 15⋅12⋅i4 + 6⋅11⋅i5 + 1⋅10⋅i6
    [ジャム、イチゴの煮汁、イチゴ・ジャム]
i0 = i4 = 1; i1 = i5 = i; i2 = i6 = −1; i3 = −i に留意すると(i4 = 1 なので i の指数の 4 の違いは結果に影響せず):
   = 1⋅(1) + 6⋅(i) + 15⋅(−1) + 20⋅(−i) + 15⋅(1) + 6⋅(i) + 1⋅(−1)
整数 × (1) の同類項、整数 × (−1) の同類項を集めれば、結果の実部が得られ、整数 × (i) の同類項、整数 × (−i) の同類項を集めれば、結果の虚部が得られる:
   = [1 + 15]⋅(1) + [15 + 1]⋅(−1) + [6 + 6]⋅(i) + [20]⋅(−i)
   = 12i − 20i = −8i
この場合、 (1) の係数と (−1) の係数は等しいので、実部は消滅し純虚数が残る。結果の絶対値は 8 = 26/2 だ。二項係数を刻み幅 4 で(4 個に一つの割合の飛び飛びで)足し算していることに注目。最初の項から足し始めた飛び石和(オフセット 0)が 1 の係数、二つ目の項から足し始めた飛び石和(オフセット 2)が −1 の係数。同様にオフセット 1, 3 がそれぞれ +i, −i の係数となる!

〔例2〕 同様に (1 + i)8 を二項展開。
  1⋅18⋅i0 + 8⋅17⋅i1 + 28⋅16⋅i2 + 56⋅15⋅i3 + 70⋅14⋅i4  [蜂! 庭で転んで難渋]
   + 56⋅13⋅i5 + 28⋅12⋅i6 + 8⋅11⋅i7 + 1⋅10⋅i8  [転んで庭で蜂]
   = 1⋅(1) + 8⋅(i) + 28⋅(−1) + 56⋅(−i) + 70⋅(1) + 56⋅(i) + 28⋅(−1) + 8⋅(−i) + 1⋅(1)
   = [1 + 70 + 1]⋅(1) + [28 + 28]⋅(−1) + [8 + 56]⋅(i) + [56 + 8]⋅(−i)
   = 72 − 56 = 16
今度は虚部が消滅し、実部が 16 になった。絶対値 16 = 28/2 だ。

このように (1 + i)n は n = 6, 7, 8, ···  のとき、絶対値が 26/2, 27/2, 28/2, ··· と n の値が 2 大きくなるごとに、倍々の勢いで増える(n の値が 1 大きくなるなら 2 倍)。 n が奇数の場合、
  Pn(i) = (i + 1)n − in − 1n
だが、引き算される in は i の奇数乗だから = ±i に過ぎず、引き算される 1n は、もちろんただの 1。一方 n が偶数の場合、
  Pn(i) = (i + 1)n + in + 1n
だが、足し算される in は i の偶数乗だから = ±1 に過ぎず、足し算される 1n は、もちろんただの 1。

n ≥ 6 とすると (i + 1)n の絶対値は 26/2 = 8 以上。絶対値 8 以上の大きな数に ±1, ±i を一つか二つ加減しても、結果が 0 になるわけないっ! ゆえに、
  Pn(i) = (i + 1)n + (−i)n + (−1)n
が = 0 になることは、少なくとも n ≥ 6 の場合には不可能。よって n ≥ 6 の場合、 x = i は Pn(x) の根ではなく、従って、その因子 En(x) の根でもない。 n = 2, 3, 4, 5 の場合、 En(x) の根は 0 個なので、どっちにしても x = i がその根になるわけない。

直接計算によると、
  P2(i) = (1 + i)2 + i2 + 1 = (2i) + (−1) + 1 = 2i
  P3(i) = (1 + i)3 − i3 − 1 = (−2 + 2i) − (−i) − 1 = −3 + 3i
  P4(i) = (1 + i)4 + i4 + 1 = (−4) + (1) + 1 = −2
  P5(i) = (1 + i)5 − i5 − 1 = (−4 − 4i) − (i) − 1 = −5 − 5i
となって、 n = 2, 3, 4, 5 の場合にも、 x = i は Pn(x) の根ではない。∎

上記では単に (1 + i)n や Pn(i) などが = 0 にならないという漠然とした事実だけを扱った。その気になれば、二項係数の飛び石和を利用して、 (1 + i)n や Pn(i) が具体的にどんな値を持つのか、明示的な公式――二項展開をバイパスして高速に計算するための――を導くこともできる。 Cauchy の定理との関連では、二項係数の刻み幅 3 の飛び石和が意外と重要だったが、この場合、刻み幅 4 の飛び石和を活用することになるだろう。

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2025-07-12 コーシー/ミリマノフ多項式(その10) 予想

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

数日前、「すごい発見をしたッ!」と始まる訳の分からないメモを公開しました。「発見」といっても表面的な現象の発見で、仕組みなどは把握できてないのですが、少なくとも「現象」面では、少し焦点が絞れてきました。

一つのポイントは、 Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n の根の一部は、 1 の 2n 乗根(つまり xn = −1 の解)の一部と極めて値が近い――ということ。

例えば n = 12 とすると、
  P12(x) = (x + 1)12 + x12 + 1 = 0
という方程式は、
  x12 + (x + 1)12 = −1  ‥‥①
と同値。そしてそれは、「24 個ある 1 の 24 乗根のうちの 12 個」を根とする式、
  x12 = −1  ‥‥②
と似てますから、ある程度、似た性質を持つことは不思議ではないのかもしれません。どちらも12次式ですし…。とはいえ②の解の一部が①によって近似されることは、直ちに明らかとも思えない。また例えば n = 31 とすると、
  P31(x) = (x + 1)31 − x31 − 1 = 0
という式は、
  x31 − (x + 1)31 = −1  ‥‥③
と同値。③は、「62 個ある 1 の 62 乗根のうちの 31 個」を根とする式、
  x31 = −1  ‥‥④
とそれなりに似てますが、③は30次式で、④は31次式ですから、④の解の一部が③によって近似されるってのは、ますます不思議。

次の四つは③の解の一部。「主たる根」という種類のもの。
  x(1)1 = −0.979529941252494493938004443918… + i⋅0.201298520088660079141538695068…
  x(2)1 = −0.918957811620237799050464457068… + i⋅0.394355855113301872204639089716…
  x(3)1 = −0.820763438918751418381809862978… + i⋅0.571268218382805722068450769977…
  x(4)1 = −0.688981812431117152299510413871… + i⋅0.724778629747823692179881053779…
次の四つは④の解の一部。 ζ = exp (πi/31) の一定範囲の奇数乗。「主たる根」がこれらと近似的に等しいこと、特に偏角の大きい根(実部が −1 に近い)では、小数20桁以上の異常な精度で一致することが観察される。
  ζ29 = −0.979529941252494493938006442811… + i⋅0.201298520088660079141528968339…
  ζ27 = −0.918957811620230629127188173278… + i⋅0.394355855113318580101626103021…
  ζ25 = −0.820763441207276326363544561355… + i⋅0.571268215094792279157424543628…
  ζ23 = −0.688966919075686567800866803818… + i⋅0.724792787229119958865484662440…

何か面白いことが起きてるのは、間違いない!

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画像は、
  x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1 = 0
を満たす 6 個の x の値 x1, x2, ··· , x6 を図示したもの。この6次式は、どこから出てきたのか?というと、実は、
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 0
の因子。
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 9(x2 + x)(x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1)
となっている。画像: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置

より一般的に n が任意の奇数(3 以上)のとき、
  (x + 1)n − xn − 1 = n(x2 + x)(x2 + x + 1)λ En(x)
という分解が成り立ち、 n が任意の偶数(2 以上)のとき、
  (x + 1)n + xn + 1 = n(x2 + x + 1)λ En(x)
という分解が成り立つ。ここで λ は、 n を 3 で割った余りが 0 or 1 or 2 のどれになるかに応じて λ = 0 or 2 or 1 の値を持つ。 En(x) は有理係数の多項式(Cauchy–Mirimanoff 多項式)で、 n の値に応じて 6 の倍数(6m とする)の次数を持つ。

〔注〕 具体的に n が 6m or 6m + 2 or 6m + 4 の形の偶数か、もしくは 6m + 3 or 6m + 5 or 6m + 7 の形の奇数なら En(x) は 6m 次式。言い換えると、 n が 2 以上の整数のとき、もし n を 6 で割った余り r が 1 でなければ m = (n − r)/6 であり、 r = 1 であれば m = (n − 7)/6。

En(x) の 6m 個の根は m 個の「六つ組」に分かれる――六つ組は、一定の関係を持つ 6 個の根の集団で、三つの共役ペア(実部が等しく、虚部の絶対値も等しく、虚部の符号だけが反対)から成る。そのうち第一の共役ペア(x1, x2 とする)は、絶対値が 1 に等しい――つまり原点からの距離が 1。従って、このペアは、原点を中心とする半径 1 の円(画像のオレンジの円。単位円と呼ばれる)の上にある(画像の二つの赤い矢印)。第二の共役ペア x3, x4 は、第一の共役ペア x2, x1 と、それぞれ虚部(縦座標)が等しい(画像の二つの青い矢印)。第三の共役ペア x5, x6 は、それぞれ原点と x4 ないし x3 を結ぶ二つの半直線(画像の二つの緑の矢印)が、実部(横座標) = −1/2 のライン(画像のオレンジの縦線)と交わる場所にある。

要するに、 x1 は、原点からある方向に伸びる「赤い半直線」と単位円の交点に当たり、 x4 と x5 はどちらも、原点からある方向に伸びる「緑の半直線」の上にある。「新発見」(?)の内容は、この二つの半直線の「傾き」が興味深い性質を示す――というもの。ここで「傾き」は、原点から見て、横軸の正の方向(真横・右)を 0° とし、縦軸の正の方向(真上)を 90° とし、横軸の負の方向(真横・左)を 180° とする――この角度は「偏角の主値」、略して偏角と呼ばれ、しばしば記号 arg または Arg で表される。角度の ° を単位とする代わりに、 180° を π と約束して、例えば 90° を π/2、 120° を 2π/3 のように偏角を表すこともある。

† 共役ペアの相棒についても同様。ペアになってる相手は、横軸を挟んで反対側にある。 x1 から見た x2 のように。

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興味深い性質(予想)のうち、目立つものを幾つか記す。

En(x) = 0 が解を持つ場合、その根の六つ組の一つは、次の性質を持つ。 x1 の偏角 θ つまり赤い矢印の傾きについて:
  n が偶数なら θ は (n − 1)π/n = 180° × (n − 1)/n に極めて近い
  n が奇数なら θ は (n − 2)π/n = 180° × (n − 2)/n に極めて近い
一方、 x4, x5 の(共通の)偏角 η つまり緑の矢印の傾きについて:
  n が偶数なら η は (n + 1)π/(2n) = 90° × (n + 1)/n に極めて近い
  n が奇数なら η は (n + 2)π/(2n) = 90° × (n + 2)/n に極めて近い

より一般的に n を 2 以上の任意の整数とすると、 En(x) が持つ根の個数 m は、 n ≢ 1 (mod 6) なら n/6 の整数部分に等しく、 n ≡ 1 (mod 6) なら n/6 − 1 の整数部分に等しい。言い換えると En(x) は、根の六つ組をちょうど m 個持つ(根を一つだけ持つ、といったことはあり得ず、根の個数は常に 6 の倍数)。 En(x) の根の中で「絶対値が 1 で正の虚部を持つもの」を主たる根と呼ぶことにする(主たる根は六つ組の中の x1 に当たり、六つ組一つにつき一つある。つまり En(x) は、主たる根を m 個持つ)。

予想1(主たる根の偏角 θ) n ≠ 7 を 6 以上の整数とし、 Ēn(x) が持つ「根の六つ組」の個数を ν とする。 En(x) の主たる根を偏角の大きい順に並べると、それら ν 個の根のそれぞれの偏角は、次の値に極めて近い(等しくはない):
  n が偶数なら (n + 1 − 2j)π/n = 180° × (n + 1 − 2j)/n
  n が奇数なら (n − 2j)π/n = 180° × (n − 2j)/n
ただし j = 1, 2, ··· , ν。この j が ν に近づくにつれ、実際の θ と上記の値との誤差は増える(n が小さい場合には「極めて近い」というほどでもない場合もあるが、誤差は最大でも ± 0.01 radians 程度)。

〔例1〕 n = 12 の場合。 E12(x) は ν = 2 個の六つ組を持つ。そのうち、一方の六つ組(他方の六つ組と比べ、より大きい θ を持つ)の θ は、
  180° × (12 + 1 − 2⋅1)/12 = 180° × 11/12 = 165°
に極めて近い。実際の値は 164.9999995217…° だ。他方の六つ組の θ は、
  180° × (12 + 1 − 2⋅2)/12 = 180° × 9/12 = 135°
に極めて(というほどでもないが)近い。実際の値は 135.1841367750…° であり、誤差が増えている。

〔例2〕 n = 23 の場合。 E23(x) は ν = 3 個の六つ組を持つ。それぞれの θ は、 j = 1, 2, 3 に対する (23 − 2j)π/23 に近い。この分子の ( ) 内は、順に 21, 19, 17。対応する実際の値は:
  20.9999999999999676…
  19.000000218…
  16.998275…

予想1の系1120° の壁) En(x) の根のうち絶対値が 1 のものは、どれも偏角の絶対値が 2π/3 = 120° より大きく π = 180° より小さい。

定理12の補足」参照。

予想1の系2(1 の 2n 乗根の近似) n ≥ 6 かつ n ≠ 7 とし、 n 以上の最小の奇数を N とする(n が奇数なら N は n 自身。 n が偶数なら N = n + 1)。 ζ2n = exp (πi/n) を 1 の原始 2n 乗根(の主値)としよう。
  〘ⅰ〙 En(x) の主たる根のうちで偏角が最大のものは、 (ζ2n)N−2 に極めて近い値を持つ。
  〘ⅱ〙 1 の 2n 乗根(原始 2n 乗根とは限らない)のうち、下記リストの m 個(およびその共役の根)は、 En(x) の主たる根(およびその共役の根)によって近似される:
    (ζ2n)N−2, (ζ2n)N−4, (ζ2n)N−6, ···, (ζ2n)N−2m
これらの各数は、偏角が (奇数 × π)/n であり、逆にもし n ≢ 1 (mod 6) ならば、偏角の範囲が
  2π/3 < Arg < π  (✽)
であるような ζ の奇数乗の値が、過不足なくこのリストに含まれる。 n ≡ 1 (mod 6) の場合もほぼ同様だが、(✽)の範囲の偏角を持つ ζ の奇数乗のうち、偏角が 2π/3 に最も近いものだけは、除外される。すなわち n = 6k + 1 の形の場合、 (ζ2n)4k+1――その偏角は(✽)の範囲にあるものの――上記リストに含まれない。

x1 を En(x) の主たる根として、 x1 = −A + Bi とすると(A, B: 正の実数)、 x1 と共役の根 x2 は −A − Bi に等しい。このとき、
  x4 = −x2 − 1 = (A + Bi) − 1 = (A − 1) + Bi
も x1, x2 と同じ「根の六つ組」に属する。この根 x4従たる根と呼ぶことにする。

予想1の系3(従たる根の絶対値) En(x) の従たる根 x4 の絶対値は 1 より小さい。つまり x4 は、第2象限の単位円内にある。従たる根 x4 の共役複素数 x3 ――それも x4 と同じ六つ組に属する根である――は、第3象限の単位円内にある。

✿

ある En(x) の六つ組たちについて、その主たる根 x1 の偏角 θ が大きければ大きいほど、同じ六つ組に属する従たる根 x4 の偏角 η は小さい。主たる根の偏角 θ が小さければ小さいほど、従たる根の偏角 η は大きい。よって、最大の θ を持つ六つ組は、最小の η を持つ。とはいえ、どんなに小さくても η は 90° より大きい。実際、 x4 と x5 は同じ偏角 η を持ち、 x5 は必ず第3象限にある(実部 −1/2)。

予想2(従たる根の偏角 η) En(x) が、根の六つ組を ν ≥ 1 個持つとき、 En(x) の従たる根を偏角の小さい順に並べると、それら ν 個の根のそれぞれの偏角は、次の値に極めて近い(等しくはない):
  n が偶数なら (n − 1 + 2j)π/(2n) = 90° × (n − 1 + 2j)/n
  n が奇数なら (n + 2j)π/(2n) = 90° × (n + 2j)/n
ただし j = 1, 2, ··· , ν。この j が ν に近づくにつれ、実際の η と上記の値との誤差は増える(n が小さい場合には「極めて近い」というほどでもない場合もあるが、誤差は最大でも ± 0.01 radians 程度)。

〔例3〕 n = 12 = 6ν の場合。 E12(x) は ν = 2 個の六つ組を持つ。そのうち、一方の六つ組(他方の六つ組と比べ、より小さい η を持つ)の η は、
  90° × (12 − 1 + 2⋅1)/12 = 90° × 13/12 = 97.5°
に極めて近い。実際の値は 97.5000002391…° だ。他方の六つ組の η は、
  90° × (12 − 1 + 2⋅2)/12 = 90° × 15/12 = 112.5°
に極めて(というほどでもないが)近い。実際の値は 112.4079316124…° であり、誤差が増えている。

〔例4〕 n = 14 = 6ν + 2 の場合。 E14(x) は ν = 2 個の六つ組を持つ。そのうち、一方の六つ組(他方の六つ組と比べ、より小さい η を持つ)の η は、
  90° × (14 − 1 + 2⋅1)/14 = 90° × 15/14 = 96.4285714285…°
に極めて近い。実際の値は 96.4285714269…° だ。他方の六つ組の η は、
  90° × (14 − 1 + 2⋅2)/14 = 90° × 17/14 = 109.2857142857…°
に極めて(というほどでもないが)近い。実際の値は 109.2919029339…° であり、誤差が増えている。

〔例5〕 n = 17 の場合。 E17(x) は 2 個の六つ組を持つ。それぞれの η は、 d = 15, 13 に対する (1 − (d)/(17)(1)/(2))π = (d′/34)⋅π に近い(d′ = 19, 21)。数値的には:
  η = π⋅18.9999999870…, π⋅21.0012739916…

〔例6〕 n = 23 の場合。 E23(x) は 3 個の六つ組を持つ。それぞれの η は、 d = 21, 19, 17 に対する (1 − (d)/(23)(1)/(2))π = (d′/46)⋅π に近い(d′ = 25, 27, 29)。数値的には:
  η = π⋅25.000000000000032…, π⋅26.9999997810…, π⋅29.0017243292…

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En(x) または xn = −1 を関数と見て解析的に検討したとき、たぶん何らかの意味で一方が他方の近似になっているということなのだろう。自分的には偶然「発見」した現象だけど、恐らく既知の事実であるか、既知でないとしても、専門知識がある人が見れば、たぶんすぐ理由が分かるようなことなのだろう。

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付録5 6 ≤ n ≤ 20 の範囲の En(x) について、主たる根の偏角 θ と従たる根の偏角 η の値(radians 表示と degrees 表示)。 PARI により計算・作成。(このリストを飛ばす

 *** Cauchy-Mirimanoff Polynomials E_n(x) =
 ((x+1)^n+(-x)^n+(-1)^n) / ((x^2+x)^(n%2)*(x^2+x+1)^(-n%3))

E_6(x) has 6 roots. Their |Arg|s are:
 theta =  5.0059143788968547691644*Pi/6
       = 150.1774313669056430749316 degrees
   eta =  3.4970428105515726154178*Pi/6
       = 104.9112843165471784625342 degrees

E_7(x) has 0 roots.

E_8(x) has 6 roots. Their |Arg|s are:
 theta =  6.9998287766155675931853*Pi/8
       = 157.4961474738502708466699 degrees
   eta =  4.5000856116922162034073*Pi/8
       = 101.2519262630748645766651 degrees

E_9(x) has 6 roots. Their |Arg|s are:
 theta =  7.0099957874384975704752*Pi/9
       = 140.1999157487699514095032 degrees
   eta =  5.4950021062807512147624*Pi/9
       = 109.9000421256150242952484 degrees

E_10(x) has 6 roots. Their |Arg|s are:
 theta =  9.0000028606332105236110*Pi/10
       = 162.0000514913977894249975 degrees
   eta =  5.4999985696833947381945*Pi/10
       = 98.9999742543011052875012 degrees

E_11(x) has 6 roots. Their |Arg|s are:
 theta =  8.9994195887556396830152*Pi/11
       = 147.2632296341831948129767 degrees
   eta =  6.5002902056221801584924*Pi/11
       = 106.3683851829084025935116 degrees

E_12(x) has 12 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 10.9999999681153051321542*Pi/12
       = 164.9999995217295769823135 degrees
   eta =  6.5000000159423474339229*Pi/12
       = 97.5000002391352115088432 degrees
 theta =  9.0122757850051828238297*Pi/12
       = 135.1841367750777423574455 degrees
   eta =  7.4938621074974085880852*Pi/12
       = 112.4079316124611288212773 degrees

E_13(x) has 6 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 11.0000220193130425850544*Pi/13
       = 152.3079971904882819469066 degrees
   eta =  7.4999889903434787074728*Pi/13
       = 103.8460014047558590265467 degrees

E_14(x) has 12 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 13.0000000002537427238127*Pi/14
       = 167.1428571461195493061636 degrees
   eta =  7.4999999998731286380936*Pi/14
       = 96.4285714269402253469182 degrees
 theta = 10.9990373213900717002901*Pi/14
       = 141.4161941321580647180159 degrees
   eta =  8.5004813393049641498549*Pi/14
       = 109.2919029339209676409920 degrees

E_15(x) has 12 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 12.9999993883743653368843*Pi/15
       = 155.9999926604923840426110 degrees
   eta =  8.5000003058128173315579*Pi/15
       = 102.0000036697538079786945 degrees
 theta = 11.0137084425383791036242*Pi/15
       = 132.1645013104605492434902 degrees
   eta =  9.4931457787308104481879*Pi/15
       = 113.9177493447697253782549 degrees

E_16(x) has 12 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 14.9999999999984858723106*Pi/16
       = 168.7499999999829660634947 degrees
   eta =  8.5000000000007570638447*Pi/16
       = 95.6250000000085169682527 degrees
 theta = 13.0000530147389806245129*Pi/16
       = 146.2505964158135320257704 degrees
   eta =  9.4999734926305096877435*Pi/16
       = 106.8747017920932339871148 degrees

E_17(x) has 12 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 15.0000000129480850739050*Pi/17
       = 158.8235295488620772531120 degrees
   eta =  9.4999999935259574630475*Pi/17
       = 100.5882352255689613734440 degrees
 theta = 12.9987260083333732590546*Pi/17
       = 137.6335695000004227429315 degrees
   eta = 10.5006369958333133704727*Pi/17
       = 111.1832152499997886285343 degrees

E_18(x) has 18 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 17.0000000000000070261627*Pi/18
       = 170.0000000000000702616265 degrees
   eta =  9.4999999999999964869187*Pi/18
       = 94.9999999999999648691867 degrees
 theta = 14.9999977336448373584728*Pi/18
       = 149.9999773364483735847282 degrees
   eta = 10.5000011331775813207636*Pi/18
       = 105.0000113317758132076359 degrees
 theta = 13.0146883431695833527218*Pi/18
       = 130.1468834316958335272182 degrees
   eta = 11.4926558284152083236391*Pi/18
       = 114.9265582841520832363909 degrees

E_19(x) has 12 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 16.9999999997840686836507*Pi/19
       = 161.0526315769017033187958 degrees
   eta = 10.5000000001079656581747*Pi/19
       = 99.4736842115491483406021 degrees
 theta = 15.0000871759738522715320*Pi/19
       = 142.1060890355417583618823 degrees
   eta = 11.4999564120130738642340*Pi/19
       = 108.9469554822291208190588 degrees

E_20(x) has 18 roots. Their |Arg|s are:
 theta = 18.9999999999999999739195*Pi/20
       = 170.9999999999999997652754 degrees
   eta = 10.5000000000000000130403*Pi/20
       = 94.5000000000000001173623 degrees
 theta = 17.0000000771178458363062*Pi/20
       = 153.0000006940606125267555 degrees
   eta = 11.4999999614410770818469*Pi/20
       = 103.4999996529696937366222 degrees
 theta = 14.9984768178416381588539*Pi/20
       = 134.9862913605747434296847 degrees
   eta = 12.5007615910791809205731*Pi/20
       = 112.5068543197126282851576 degrees

より高い精度で 0 ≤ n ≤ 100 の範囲を計算したものを添付(radians 表示のみ): cauchy-mirimanoff-20250712.txt

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2025-07-13 コーシー/ミリマノフ多項式(その11) 理由

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

En(x) の「絶対値 1 の根」が円周 2n 等分点の非常に近くにある理由。

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偏角 θ、絶対値 1 の複素数 x = cos θ + i sin θ は、 e つまり exp (iθ) とも表現可能(Euler の公式)。

前回までと同様に、多項式 Pn(x) と En(x) を定義し、 Pn(x) の絶対値 1 の根 x = e を考える。 n が奇数の場合、 Pn(e) = 2e ƒn(θ) と書くことができる。ここで、
  ƒn(θ) = 2n−1 cosn (θ/2) − cos (nθ/2)  (✽)
は、実数 θ を実数値に対応させる関数。 x = e±iθ が En の(共役複素数の)根になる必要十分条件は、 θ が (0, π) の範囲(ただし θ ≠ 2π/3)において、 ƒn(θ) = 0 を満たすこ

θ = 2π/3 のとき cosn (θ/2) = 2−n なので、 2n−1 cosn (θ/2) = 2−1 であるが、 θ がそれより小さい正の数のとき 2n−1 cosn (θ/2) は大きい。一方 θ が 2π/3 を超えると、 θ = π に近づくにつれ、正の数 2n−1 cosn (θ/2) の絶対値は急激に小さくなり、 ƒn(θ) の値はほぼ −cos (nθ/2) によって決まる。例えば n = 31 のとき、 θ = 28π/31, 29π/31, 30π/31 に対応する −cos (31θ/2) の値は、それぞれ −1, 0, +1 であり、(✽)の右辺第1項(0 に近い)を無視するなら −cos (31θ/2) が(✽)の値となる。画像

つまり (2π/3, π) の範囲では θ が π/31 の奇数倍のとき、 ƒ31(θ) は 0 に近(✽)の右辺第1項に由来する誤差は、 θ = π の近くでは極めて小さく、そこから離れるにつれ少しずつ大きくなる。この誤差のため、 ƒn の(従って En の)絶対値 1 の根は、正確な円周 2n 等分点とはわずかに異なる。この n = 31 の例では、 θ = 21π/31 は―― 2π/3 より大きい角度だが―― ƒ31(θ) の根ではない。 ƒ31(θ) の根の正の偏角 θ が ℓπ/31 に近づくのは、 ℓ = 23, 25, 27, 29 の四つの場合(六つ組の個数に当たる)に限られる(ƒ31 の根は E31 の絶対値 1 の根と関連する)。

一般に 2/3 < ℓ < 1 を満たす任意の奇数 ℓ について、 En の主たる根のどれかは、 ℓπ/n に極めて近い偏角を持つ。例外として n ≡ 1 (mod 6) の場合には、 ℓ = (2n + 1)/3 はこのリストから除外される。

† 詳細。 Helou [2], Lemma 1 では補助的関数 wn(x) = 2n−1 cosn x − cos (nx) が使われ、 Pn(e) = 2wn(θ/2) einθ/2 と表記されている。ここでは ƒn(θ) = wn(θ/2) と置いて同じことを表す。 n が偶数の場合の Pn, En について、 Helou の定義とわれわれの定義は異なる。

‡ 画像では ℓ = 23, 25, 27, 29 に対する θ = ℓπ/31 が、 ƒ31 の零点のように見えるかもしれない。実際には θ がこれらの値のとき、 ƒ31(θ) の値は 0 とわずかに異なる。

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 n = 31 の場合(前回の冒頭の数値例参照)、主たる根の偏角のうち、最大のもの θ1 は 29π/31 と極めて近かった。このことは、「230 cos31 (29π/62) が極めて 0 に近いこと」に対応している。一方、主たる根の偏角のうち、最小のもの θ4 = 23.0002027658… × π/31 は 23π/31 より少し大きい(その結果、対応する主たる根は ζ23 より少し実部が小さい)。この背景として、 θ′ = 23π/31 に対応する −cos(31θ′/2) の値は確かに 0 なのだが、そのとき「誤差」に当たる
  230 cos31 (θ′/2) = 0.0003187402…
は比較的大きく、その結果 ƒ31(θ′) は = 0 と少しずれる。他方において、わずかに大きい偏角 θ4 に対応する
  −cos(31θ4/2) = −0.0003185038…
は、 0 ではないものの、この値は、
  230 cos31 (θ4/2) = +0.0003185038…
と打ち消し合うため ƒ314) = 0 となる。この根の偏角は θ′ = 23π/31 ではなく θ4 だ。

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n が偶数の場合についても、従たる根の偏角 η についても、恐らく似た仕組みになっているのだろう。

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2025-07-14 根になるもの・ならぬもの コーシー型の式について

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

例えば、
  P(x) = (x + 1)11 − x11 − 1 = x(x + 1)(x2 + x + 1)(x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1)
の右辺は x = 0, −1 のとき、それぞれ因子 x, x + 1 が = 0 になって P(x) = 0。因子 x2 + x + 1 を = 0 にするような x は 1 の原始3乗根 ω, ω2 だが、この二つも P(x) = 0 の解には違いない。それではもう一つの(6次の)因子が = 0 になるような x は何か?

一般に、
  (x + 1)n − xn − 1 = 0 あるいは (x + 1)n + xn + 1 = 0
を満たすような x について、何が言えるか?

実は 1 の原始4乗根・5乗根・6乗根などは、決してこの形の式の解にはならない。結論は地味だが、証明の手法が小気味よい。

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複素数 X の絶対値とは、複素平面上で、原点からその X を表す点までの距離。 X の実部(横座標)を A、虚部(縦座標)を B とすると――つまり X = A + Bi とした場合(A, B: 実数)――、 X の絶対値の2乗は、
  |X|2 = A2 + B2
であり、 X の絶対値 |X| は、上記の値の平方根(の主値)だ:
  |X| = (A2 + B2)

複素数の絶対値は 0 以上の実数。複素数 0 の絶対値は 0 に等しく、 0 以外の複素数の絶対値は 0 より大きい。

もし二つの複素数 X, Y が等しければ、もちろん |X||Y| も等しい。逆は必ずしも成り立たない。つまり |X| = |Y| だからといって、 X と Y が等しいとは限らない。

〔例〕 1 の絶対値は 1 だが −1 の絶対値も 1 だ。 i の絶対値も 2/2 + i2/2 の絶対値も 1 だ。

X と Y が同じ絶対値 r を持つってことは、 X と Y が、どちらも「複素平面上で原点を中心とする半径 r の円」の円周上のどこかにある、ってことを意味する。「同じ円周上のどこか」ってだけじゃ、もちろん「同一の点」(X = Y)とは言い切れない。半面、もし X と Y の絶対値が等しくないなら、 X ≠ Y と断言できる。絶対値が異なる X と Y は、原点からの距離が異なるのだから、等しいわけがないっ!

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複素数の絶対値には、定義上、平方根が絡んでくる。絶対値(原点からの距離)そのものの代わりに絶対値の2乗(原点からの距離の2乗)を考えると、平方根が絡まず、便利なことがある。
  X, Y それぞれの絶対値が等しい ⇔ X, Y それぞれの絶対値の2乗が等しい
  X, Y それぞれの絶対値が等しくない ⇔ X, Y それぞれの絶対値の2乗が等しくない
という関係があるので、絶対値の2乗は、絶対値そのものと、同じような役割を果たす。例を兼ねて、簡単な補題を…

補題5 任意の複素数 X について、 X の絶対値と −X の絶対値は等しい。すなわち:
  |X| = |−X|

証明 X = A + Bi とすると(A, B: 実数)、 −X = −(A + Bi) = (−A) + (−B)i だ。前者の絶対値の2乗は、
  A2 + B2  ‥‥①
であるが、これは後者の絶対値の2乗、
  (−A)2 + (−B)2  ‥‥②
に等しい。よって、両者の絶対値は等しい。∎

〔注〕 論理的には、絶対値そのものを直接使っても構わないのだが、それだと①全体と②全体にそれぞれ長い平方根記号を付かなければならず、ゴチャゴチャする。同じことなら、そんな根号、省いた方が簡明じゃん…ってわけ。

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x = 2 は x3 = 8 の一つの解であり、 8 の立方根(3乗根)と呼ばれる。同様に、
  x3 = 1
の解は 1 の立方根(3乗根)と呼ばれる。 x = 1 は明らかに 1 の立方根の一つだが、
  x = (−1 + i3)/2 と x = (−1 − i3)/2
も、 1 の立方根だ――これら二つの複素数は 1 の原始立方根原始3乗根)と呼ばれ、その一方(典型的には虚部が + のやつ)を文字 ω で表すことが多い(どちらを ω としても、もう一方は ω2 に等しい)。さらに、
  x4 = 1
の解は 1 の4乗根と呼ばれる。 x = 1, −1, i, −i の四つが、これに当てはまる。より一般的に、任意の正の整数 m について、
  xm = 1
を満たす x は、1 の m 乗根と呼ばれ、複素数の範囲では m 個ある。 1 の 2 乗根は x2 = 1 の解であり、 x = 1 はもちろんこれを満たすが、その他に x = −1 も条件を満たす(−1 は 1 の原始2乗根と呼ばれる)。 1 の 1 乗根は x1 = 1 の解であり、もちろん x = 1 の一つ。 1 の m 乗根はどれも絶対値が 1 であ複素平面上では、原点を中心とする半径 1 の円(単位円と呼ばれる)の円周上にある。

† なぜなら「絶対値 a の数と絶対値 b の数の積は、絶対値が ab」という性質があるから(この性質は、絶対値の性質から機械的に出てくる。ここでは証明略)。要するに、
  |X| = a かつ |Y| = b ⇒ |XY| = ab
  言い換えれば |X⋅Y| = |X|⋅|Y|
が成り立つ。三つ以上の数の積についても同様で、
  |X1⋅X2···Xk| = |X1|⋅|X2|···|Xk|
が成り立つ。今、例えば ζ を 1 の5乗根とすると、それは x5 = 1 の解であるから、
  ζ5 = ζ⋅ζ⋅ζ⋅ζ⋅ζ = 1
を満たす。そして上記の性質から、
  |ζ|⋅|ζ|⋅|ζ|⋅|ζ|⋅|ζ| = |1| = 1  ★
が成り立つ。もしも |ζ| が 1 より大きければ(小さければ)、★ の左辺は 1 より大きく(小さく)なってしまい、等号が成り立たない。よって ζ の絶対値 |ζ| は、ちょうど 1 でなければならない。5乗根以外でも全く同様。

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定理13(1 の原始4乗根・5乗根などはコーシー型の式の根ではない) n ≥ 2 を任意の整数とする。 m を正の整数とする。 ω, ω2 を 1 の原始3乗根とする。「1 の原始2乗根または原始3乗根」つまり x = −1, ω, ω2 の三つの数の中には、
  (x + 1)n − xn − 1 = 0  ‥‥③
を満たすものがあるかもしれない。しかし「上記の三つの数以外の 1 の原始 m 乗根」は、 n がどんな値であっても(そして m をどのように選択しても)、決してこの方程式を満たさない。
  (x + 1)n + xn + 1 = 0  ‥‥④
の解についても、全く同じことがいえる。

−1, ω, ω2 の三つは③や④の解になり得るが、それ以外の「1 の原始 m 乗根」は③や④の解になり得ない――というのが、この定理の意味。「−1, ω, ω2 が必ず解になる」という意味ではないし、「それ以外に解がない」という意味でもない。しかし、例えば 1 の原始4乗根
  ±i = cos 90° ± i sin 90° = cos (2π/4) ± i sin (2π/4)
は、決して解にならないし(n をどう設定しても)、 1 の原始6乗根
  (1 ± i3)/2 = cos 60° ± i sin 60° = cos (2π/6) ± i sin (2π/6)
も、決して解にならない。 1 の原始5乗根
  cos 72° ± i sin 72° = cos (2π/5) ± i sin (2π/5)
等々についても、また同様。定理13自体は「これらの数は根ではない」という限定的・消極的内容だが、このアイデアを発展させることにより、「絶対値 1 の根」の偏角について(ひいては多項式の根全体について)、本質的な結論を得ることができるであろう。

〔注〕 −1, ω, ω2 は③または④の解になり得るのだから、それと同一の値を持つ 1 の非原始 m 乗根も、もちろん解になり得る。例えば −1 は 1 の(非原始)4乗根・6乗根…であり、 ω は 1 の(非原始)6乗根・9乗根…であるが、定理13は、このような「1 の m 乗根」を排除するものではない。

証明 n = 2 のとき、③は (x + 1)2 − x2 − 1 = 2x = 0 となるが、その解 x = 0 は 1 の何乗根でもないので定理の内容と無関係。 ④は (x + 1)2 + x2 + 1 = x2 + 2x + 2 = 2(x2 + x + 1) = 0 となるが、その解 x = ω, ω2 は 1 の原始3乗根。よって n = 2 の場合、定理は正しい。

以下 n ≥ 3 とする。定理13は、方程式③ないし④の解が {−1, ω, ω2} である可能性を認める一方、「それら三つの数以外の 1 の m 乗根」が解になることを否定している。「1 の m 乗根」の中には 1 自身も含まれる。しかし x = 1 のとき、④の左辺は正で、④は絶対に成り立たないし、③の左辺も 2n − 2 なので(定理の仮定である n ≥ 2 の場合には)やはり正で、③も絶対に成り立たない。よって x = 1 が解になる可能性はない。

結局、次のことを証明したい。「x = −1, ω, ω2 を例外として、 1 の 4 乗根・5乗根・6乗根…のどれも(m ≥ 4 として 1 の m 乗根のどれも)、③も④も満たさない」

もしも 1 の原始 m 乗根の主値、
  ζ = e2πi/m = cos (2π/m) + i sin (2π/m)
が、③すなわち (x + 1)n − xn − 1 = 0 を満たしたならば、
  (ζ + 1)n − (ζn + 1) = 0 つまり (ζ + 1)n = ζn + 1  (✽)
が成り立つはず。実際には、この等式が成り立ち得ないことを示す。

一方において、
  ζ + 1 = cos (2π/m) + i sin (2π/m) + 1
絶対値の2乗は:
  (1  + cos (2π/m))2 + sin2 (2π/m) = 1 + 2 cos (2π/m) + cos2 (2π/m) + sin2 (2π/m)
   = 2 + 2 cos (2π/m)
この値は 2 以上。従って ζ + 1 の絶対値2 以上であり、 (ζ + 1)n の絶対値は (2)n 以上。仮定により n ≥ 3 なので、
  (ζ + 1)n
の絶対値は、最小の n = 3 のケースでも (2)3 = 22 であり、 n が大きくなればなるほど(文字通り指数関数的な)ものすごい勢いで増大。

他方において、単位円上の点 ζn の絶対値は(n の値と無関係に)ちょうど 1 なので、 ζn + 1 の絶対値は、最大でも 1 + 1 = 2。すなわち(✽)の等式は、「絶対値 22 以上の複素数が、絶対値 2 以下の複素数と等しい」と言っている。それは無理というもの!

† 仮定により m ≥ 4 なので θ = 2π/m は 0 < θ ≤ π/2 の範囲にある。よって 1 > cos θ ≥ 0。

われわれは今、定理の条件の下で、
  X = (ζ + 1)n と Y = ζn + 1 は絶対値が等しくなり得ない
こと、つまり |X||Y| を証明した。ところが補題5によると、
  |Y| = |−Y|
である。よって |X||Y| が示されたことで、自動的に |X||−Y| も証明されたっ!
  X = (ζ + 1)n と −Y = −ζn − 1 も常に絶対値が異なる
ってことだ。もしも ζ が④すなわち (x + 1)n + xn + 1 = 0 を満たしたならば、
  (ζ + 1)n + ζn + 1 = 0 つまり (ζ + 1)n = −ζn − 1
が成り立つはずだが、上述のように、この最後の式の左辺と右辺は絶対値が異なるので、その「もしも」は無理。結局、 1 の原始 m 乗根の主値 ζ は、③の解にも④の解にもならない(m ≥ 4)。

以上をまとめると:
  × 1 の原始1乗根 1 自身は、③ないし④の解となり得ない
  ◎ 1 の原始2乗根 −1 および 1 の原始3乗根 ω, ω2 は、③ないし④の解となり得る
  × 1 の原始4乗根・原始5乗根・原始6乗根、等々の主値は③ないし④の解となり得ない
当然の疑問は:
   1 の原始 m 乗根(m = 4, 5, 6, ··· )のうち主値以外はどうなのか。

〔注〕 1 の原始 m 乗根とは「xm = 1 を満たすが、 m 未満の正の整数 ℓ については x ≠ 1 となるような複素数」をいう。 k を任意の正の整数とすると、 1 の k 乗根(合計 k 個ある。原始 k 乗根とは限らない)のどれも、 k の約数のどれかを m として、原始 m 乗根だ。例えば 1 の 12 乗根は「12乗すると = 1 になる数」だが、その中には「12乗しなくても、最初から = 1 である 1 自身」や、「12乗しなくても、2乗するだけで = 1 になる −1」や、「12乗しなくても、3乗するだけで = 1 になる ω, ω2」や、「12乗しなくても、4乗するだけで = 1 になる i, −i」等々も含まれている。このうち x = i についていえば、 x4 = i4 = 1 は 4 乗して初めて 1 になるので「1 の原始4乗根」であるが、 x12 = (x4)3 = (i4)3 = 13 = 1 なので、 x12 = 1 を満たすことには変わりなく、 i は―― 1 の原始4乗根であると同時に―― 1 の12乗根の一つでもある。他方において、
  ζ = cos 30° + i sin 30°
は12乗して初めて 1 になる「1 の原始12乗根」であり、しかも、そのうち最小の正の偏角を持つ(これが主値)。さらに、
  ζ11 = cos 330° + i sin 330° = ζ−1 = cos 30° − i sin 30°
  ζ5 = cos 150° + i sin 150°
  ζ7 = cos 210° + i sin 210° = ζ−5 = cos 150° − i sin 150°
の三つも、主値ではないけど「1 の原始12乗根」だ。

仮に③ないし④の解 x = α が 1 の k 乗根だったとして、しかもその α が 1 の原始 k 乗根ではなかったとすると、 α は(k より小さい)正の整数 m について原始 m 乗根であるから(実は m は k の約数)、結局「1 の原始 m 乗根が③ないし④を満たす」ってことになる。この理由から m ≥ 4 について原始 m 乗根だけ考えれば、それで 1 の全ての k 乗根が(原始 k 乗根も、非原始 k 乗根も)カバーされる。

のみならず、下記の理由から、原始 m 乗根の主値だけを考えれば十分。

例えば ζ を 1 の原始12乗根の主値としよう。この ζ が「何らかの多項式の根」ってことは、確かだろう。事実それは x12 = 1 の解なのだから、とりあえず12次式 x12 − 1 の根。けど、この ζ って数を表現するのに「12次」もある多項式が、どうしても必要なのだろうか。もうちょっと分解とか、整理とかできないのか…。実は、この12次式は、有理係数の範囲でとことん分解すると、
  x12 − 1 = (x + 1)(x − 1)(x2 + x + 1)(x2 + 1)(x2 − x + 1)(x4 − x2 + 1)
となる! ζ がこの右辺の六つの因子の(少なくとも)どれか一つの根であること――それは理屈からいって、明らかだろう。実は ζ は、4次式
  F(x) = x4 − x2 + 1
の根。で、他の三つの「1 の原始12乗根」も同じ4次式 F(x) の根で、これら四つの「1 の原始12乗根」たちは「代数的に共役」と呼ばれる(必ずしも共役複素数ではない。しかし、共役複素数の概念をもっと広げた考え方だ)。この意味において ζ は(そしてそれと「代数的に共役」な根たちは)4次式で「表現可能」。「12次」もある多項式を持ち出すまでもない。他方、3次以下の多項式では「表現可能」ではない。

〔注〕 数を多項式の根として表現するためには、その数の「複雑さ」に応じて、どうしてもある程度の次数が必要になる。例えば 2 をこのように表現するには、最低でも x2 − 2 (= 0) という2次式(またはそれと同様の式)が必要で、 2 は有理数ではないのだから、有理数 c を使って1次式 x − c (= 0) の根が 2 だ、と言い張るのは無理だよね…。 1 の原始12乗根のような「それなりに複雑な数」となるなると、2次式でも足りず、それを表現するのに、最低でもどうしても4次式が必要

一般に「ある数」が有理係数の代数方程式の根として表現されるのなら、必ず「それを表現するのに必要な最小の次数の多項式」というものが存在する。

例えば、もし仮に、「1 の原始12乗根のうち主値以外」の一つ(それを x = ζ′ としよう)が、③の (x + 1)n − xn − 1 = 0 ないし④の (x + 1)n + xn + 1 = 0 の少なくとも一方を満たしたとしよう。 ζ′ が満たした多項式を P(x) とする――つまり P(ζ′) = 0 だ。1 の原始12乗根は(主値であろうがあるまいが)上記の「最小次数」の多項式 F(x) の根であるから、この ζ′ という数は、もちろん F(ζ′) = 0 という関係をも満たす。

そして、この仮定上では、③ないし④の多項式 P(x) は、多項式として、4次式 F(x) で割り切れる。理由は次の通り。

多項式としての割り算で P(x) を F(x) で割り、商を Q(x)、余りを R(x) とすると(ここで R(x) は P(x) を4次式 F(x) で割った余りなので、その次数は 3 以下):
  P(x) = F(x) Q(x) + R(x)
x に ζ′ を代入すると:
  P(ζ′) = F(ζ′) Q(ζ′) + R(ζ′)
仮定により P(ζ′) = 0 かつ F(ζ′) = 0 なので、上の式は、
  0 = 0⋅Q(ζ′) + R(ζ′) つまり R(ζ′) = 0
を含意する。この「つまり」の後ろの式に注目する。もしも R(x) が例えば1次式だったなら、 R(ζ′) = 0 は ζ′ を根とする有理係数の1次式が存在することを含意するが、それは F(x) の性質に関する前提―― ζ′ を有理係数の多項式の根として表現するためには、どうしても4次式が必要という現実――に矛盾する。多項式 R(x) が2次だとしても3次だとしても、同じ矛盾が生じる。必然的に R(x) は、「通常の割り算でいえば余り 0」に当たる多項式(零多項でなければならない――要するに、多項式 P を多項式 F で割ると、割り切れて何も余らない!

† 入力 x と無関係に、恒等的に 0 に等しい多項式、すなわち R(x) = 0 のこと。普通の意味での0次式(=0 以外の定数項)ですらない。

このことは、定理13の証明において重大な意味を持つ。すなわち、
  P(x) = F(x) Q(x)
と分解される(割り切れる)のだから、 F(x) = 0 を満たすような任意の x は、自動的に P(x) = 0 の解でもある。ところが4次式 F(x) = 0 を満たすような(四つの)数とは「1 の原始12乗根」たちに他ならない。よって 1 の原始12乗根のどれか一つが P(x) = 0 を満たすなら、必ず計四つの 1 の原始12乗根たち(「代数的に共役」な連中)は、全部 P(x) = 0 を満たす。

だが既に証明したように、1 の原始12乗根のうち(他はさておき)主値は P(x) = 0 の解となり得ないのである。主値以外の三つのどれかがもしも解になり得たならば、自動的に主値も解になるのだが、それが起こり得ないってことが確定済み。ってことは…

「1 の原始12乗根の主値 ζ が解になる可能性」が否定されてる結果として、自動的に、主値以外も含めて「1 の原始12乗根が解となる可能性」がまるごと否定されるっ!

同様に、「1 の原始 m 乗根(m ≥ 4)の主値 ζ が解になる可能性」が否定されてるのだから、主値以外も含めて「1 の原始 m 乗根が解となる可能性」全体が否定される。すなわち定理13の証明は、既に完了している。∎

定理13の系 1 の m 乗根(m = 1, 2, ···)は、決して Cauchy–Mirimanoff 多項式 Ēn(x) の根ではない。

証明 Ēn(x) は③または④の因子なので、 1 の m 乗根のうち −1, ω, ω2 以外のものは、その根になり得ない。ところが定理7から、実数 x = −1 も Ēn(x) の根ではなく、定理10の系2から x = ω, ω2 も Ēn(x) の根ではない。∎

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証明後半の「最小多項式」「代数的に共役」の理論を厳密に扱うには、それなりにテクニカルな難しさがあるだろう。でもコンセプト的には、別に難解でもない。例えば 1 の17乗根は 17 個あるわけだが、そのうち 1 個だけについて定理を証明することで、自動的に 17 個全部について証明完了(しかも個別的に細かく証明せず、 1 の m 乗根をまとめて扱った)。広い範囲のターゲットが一括して省力的に扱われ、なかなかクール。っていうか、むしろ「1 の17乗根とは…」といったことを具体的・個別的に細かく考えると、ひどく面倒。抽象的・概念的に扱うことで、透き通った観点が得られる。

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2025-07-15 「1 の m 乗根」プラス 1 ひし形の対角線

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

1 の1乗根 1 に 1 を足すと、和は 2 に等しい。

1 の2乗根 −1 に 1 を足すと、和は 0 に等しい。

1 の3乗根 (−1 ± −3)/2 に 1 を足すと、 1 の6乗根 (1 ± −3)/2 に等しい(絶対値 1、偏角 ±60°)。

1 の4乗根 ±−1 に 1 を足すと、 1 ± −1 に等しい(絶対値 2、偏角 ±45°)。

このような素朴な観察だけからでも、 Cauchy 型の多項式の根について、かなり強いことが言えるようだ。

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一般に 1 の m 乗根は、次の三角関数表現を持つ。
  cos (2π/m) + i sin (2π/m)
ここで m は 1 以上の整数、 ℓ は(とりあえず)任意の整数。「単位円上にあって、偏角が 2π(つまり 360°)の ℓ/m の点」なので、その横座標(実部)と縦座標(虚部)は、上記のようになる。

円周を m 等分した ℓ 番目の点(偏角 0° を 0 番として反時計回りにカウント)、というシンプルなコンセプトの割に、三角関数表現は長ったらしく、ちょっと仰々しい。
  cis (2π/m)
という省略表現が使われることもあるが(cis とは cos + i sin の略)、それほど一般的でもない。より広く使われるのは、
  e2πiℓ/m
のような指数関数表現。この表現は、一般的とはいえ、考えてみると少し奇妙だ。自然対数のてい e = 2.71828 18284 59045… という謎めいた定数はともかくとして、その「虚数乗」―― e を虚数乗する――って、一体どういう意味なのだろうか。その真意を理解するには、極限値に関する扱いなどが絡んでくる。悩むのをやめ「これはそういう記号なのだ」と割り切るなら、この表現が最初の三角関数表現と同じものを表すことは、「Euler の公式」によって、保証されている。

〔注〕 普通、虚数単位を表す i は「係数」の後ろに表記される(例えば 3i とか 1 − 2i のように)。便宜上、前に表記されることもある(例えば i sin θ のように)。ところが、上記のような表現では、その分子の 2πiℓ のように、しばしば虚数単位の記号 i が「真ん中」に挿入される。これは少し変てこだけど、 2π は 360° を意味する実数なので 2πi というところまでは不自然ではないだろう。この 2πi を N 倍したとき、 N⋅2πi と 2Nπi と 2πNi と 2πiN のどの表記を使う?というのは、好みの分かれるところかも。

上記のような指数関数表現は e の右上の小さい文字がゴチャゴチャしやすく、偏角の表現が複雑になると、実用上不便。そこで、同じ意味のことが、しばしば
  exp (2πiℓ/m)
のように表記される。あるいは「それでもまだ長過ぎる」として、
  e(ℓ/m) あるいは em(ℓ)
のような略記法を使う著者もいる。

✿

実部と虚部を直接的に操作したいときは、実部と虚部が分離されている三角関数表現が、むしろ便利だ。
  ζ = cos (2π/m) + i sin (2π/m)
を 1 の m 乗根として、それに 1 を足した数 ζ + 1 を考えてみたい。
  ζ + 1 = (cos (2π/m) + 1) + i sin (2π/m)
この数の絶対値の2乗は:
  |ζ + 1|2 = (cos (2π/m) + 1)2 + (sin (2π/m))2
   = cos2 (2π/m) + 2 cos (2π/m) + 1 + sin2 (2π/m)
  ∴ |ζ + 1|2 = 2 + 2 cos (2π/m)  (✽)
最後の等号は、三角関数の基本公式 cos2 θ + sin2 θ = 1 による。では(絶対値の2乗ではなく)絶対値そのもの、
  |ζ + 1|
は、どんな値か?

答えは(✽)の両辺の平方根だが…。実は(✽)の値の平方根は、きれいな形になる。なぜなら、任意の実数 x について:
  cos 2x = cos (x + x) = cos2 x − sin2 x = cos2 x − (1 − cos2 x) = 2 cos2 x − 1
  ∴ 1 + cos 2x = 2 cos2 x
  ∴ 2 + 2 cos 2x = 4 cos2 x
よって 2 + 2 cos 2x の平方根は ±2 cos x に等しい。 2x = θ つまり x = θ/2 と置けば:

補題6 (2 + 2 cos θ) = ±2 cos (θ/2)
複号については、右辺が負にならないように選択する。 θ が [−ππ] の範囲なら + を選択できる。

〔注〕 (✽)の角度は 2π の ℓ/m 倍(つまり有理数倍)であるが、補題6の導出において r は(従って 2r = θ も)任意の実数であり、「この話は、偏角が 2π の有理数倍のとき限定」みたいな制約は、どこにもない。補題6は(✽)専用の命題ではなく、任意の角度 θ に対して有効。

(✽)の場合、角度 θ = 2π/m が上記の範囲にあるという前提において、
  |ζ + 1| = 2 cos (π/m)
となる。 θ/2 は、ちょうど π/m だから。幾何学的には、これは次の意味を持つ。

定理14(ひし形の対角線の長さと方位) 複素平面において、 0 を中心とする単位円上の任意の点 ζ を考える。その偏角の主値を θ としよう。このとき 0, 1, ζ, ζ + 1 を頂点とするひし形(一辺の長さ 1)の「0 と ζ + 1 を結ぶ対角線」の長さ(つまり ζ + 1 の絶対値)は 2 cos (θ/2) に等しい。もし長さが 0 でなければ、この対角線の方位(すなわち ζ + 1 の偏角)は θ/2 に等しい(もし長さが 0 なら方位の定義は不要)。特に ζ を 1 の m 乗根
  cos (2π/m) + i sin (2π/m)
とすると(原始 m 乗根でなくてもいい)、
  |ζ + 1| = 2 cos (π/m)
が成り立つ。ただし −π < 2π/m ≤ π とする。

注意 定理14は「絶対値 1 の任意の複素数」についてのもの。「1 の m 乗根」のケースは、その一例に過ぎない。以下の証明でも、 ζ が「1 の m 乗根」という仮定は使われない。

画像: 定理13のひし形の例と A, B, X などの位置関係

証明 0 と ζ + 1 を結ぶ線分の長さについて。(✽)と全く同様にして、
  |ζ + 1|2 = 2 + 2 cos θ
となり、補題6から、
  |ζ + 1| = 2 cos (θ/2)
を得る(θ は主値なので、右辺の cos (θ/2) は負ではない)。

0 から見た対角線 ζ + 1 の向きについて。対角線によって、ひし形は二つの合同な三角形に分割されるので、 0 と ζ + 1 を結ぶ直線は、 ζ の偏角 θ を二等分する。ゆえに ζ + 1 の偏角は θ/2 に等しい。∎

別証明 ひし形の2本の対角線(0 と ζ + 1 を結ぶ線分、 1 と ζ を結ぶ線分)の交点を X とする。 X は「0 と ζ + 1 を結ぶ、ひし形の対角線」の中点に当たる。直角三角形 ζ0X において、斜辺 ζ0 の長さは 1 で ∠ζ0X は θ/2 なので、隣辺 0X の長さは cos (θ/2)。よって「0 と ζ + 1 を結ぶ、ひし形の対角線」の長さは 2 × 0X = 2 cos (θ/2)。∎

〔付記〕 同じことだが、次のように論じてもいい。0 から ζ + 1 への半直線が単位円と交わる点を A、その横座標(A から横軸に引いた垂線が横軸と交わる点)を B とする。二つの直角三角形 ζ0X, A0B は、どちらも頂点 0 の部分の角が θ/2 で、どちらも斜辺の長さが 1 なので、合同(画像のピンクと緑の三角形)。ゆえに、それぞれの底辺 0X, 0B は長さが同じ。そのうち 0B は ∠A0B = θ/2 の正弦なので、その長さは cos (θ/2) に等しい(それは 0X の長さでもある)。等々。

幾何学的な別証明の方がシンプルだが、三角関数を使った証明(それもさほど複雑ではない)には「幾何学的に扱いにくい θ = 0° と θ = 180° も統一的に扱える」というメリットがある。

定理14には「関連する角度 θ が −π < θ ≤ π を満たす」という指定がある(いわゆる偏角の主値)。これによって、あらゆる方位が一意的に表現される。 θ = π のとき、代わりに θ = −π を使っても構わないのだが(補題6)、定理14では、その場合の角度の符号を + に統一している。

〔補足〕 実際には θ = −π でも定理は成立するのにその角度を除外する理由は、全部の方位の表し方を一通りにして、「方位 180° に限って、同じ方位を2通りに表現できる」という曖昧さをなくすため。

1 の m 乗根 ζ = cos (2π/m) + i sin (2π/m) については、従って、 −m/2 < ℓ ≤ m/2 という制限が付く。

例えば m = 6 の場合、単純に考えると ℓ = 0, 1, 2, 3, 4, 5 の六つが「1 の6乗根」を過不足なく与えてくれる(そのうち ℓ = 1, 5 が原始6乗根)。しかし定理14との関連では、代わりに ℓ = 0, ±1, ±2, 3 の六つを使う(そのうち ℓ = ±1 が原始6乗根)。つまり ℓ が m/2 を超える場合には、そこから m を引き算する。

〔付記〕 ここにおいて、角度 −π を除外しておいたことが吉と出る。この除外がなかったら ℓ = 0, ±1, ±2, ±3 の七つが有効になってしまい、あたかも「1 の6乗根」が 7 種類あるかのような錯覚・混乱の原因となるかもしれない。 m = 6 の場合、 ℓ = 3 でも ℓ = −3 でも ζ = −1。「そのケースに限って、同じ ζ にわざわざ2通りの ℓ を対応させる」というのも変だろう。

引き続き m = 6 の具体例を検討する。 ℓ = 0 なら θ = 0, ζ = 1 + 0i, ζ + 1 = 2 であり、定理14の主張は 2 = 2⋅cos (0/2) = 2⋅1 という自明な等式となる。「ひし形」はぺちゃんこにつぶれて「ただの線分」になってしまうが、その結果、2辺の長さの和が対角線の長さに一致。

ℓ = ±1 なら θ = ±π/3, ζ = (1 ± i3)/2, ζ + 1 = (3 ± i3)/2 なので:
  |ζ + 1|2 = 9/4 + 3/4 = 3
  ∴ |ζ + 1| = 3
となるが、これは確かに 2 cos (±π/6) と一致。

ℓ = ±2 なら θ = ±2π/3, ζ = (−1 ± i3)/2, ζ + 1 = (1 ± i3)/2 なので:
  |ζ + 1|2 = 1/4 + 3/4 = 1
  ∴ |ζ + 1| = 1
となるが、これは確かに 2 cos (±π/3) と一致。

最後に ℓ = 3 なら θ = π, ζ = −1 + 0i, ζ + 1 = 0 であり、本来は 2 次元の「ひし形」は、1 次元の「線分」どころか 0 次元の「点」に退化してしまう! よって辺の長さも対角線の長さも 0。これは 2 cos (π/2) = 2⋅0 = 0 という自明な事実と合致する。

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定理13の証明では ℓ = 1 に話を限った上で、任意の m ≥ 4 に対して、
  |ζ + 1| ≥ 2
という評価を利用した。実際、 ℓ = 1 かつ m ≥ 4 なら、
  0 < θ = 2π/m ≤ 2π/4 = π/2
であり、この範囲の θ に対して、
  |ζ + 1| = 2 cos (θ/2)
の右辺は最小でも 2 だ(この等号は定理14による)。その結果、
  |(ζ + 1)3| = |(ζ + 1)|3 ≥ (2)3 = 22
   > 2 = 1 + 1 = |ζ3| + |1| ≥ |ζ3 + 1|  [右端の ≥ は三角不等式による]
という不等式が成り立つわけだが(そして定理13の証明の上では、それで十分なのだが)、この不等式は、左辺が 22 以上という保証がなくても、左辺が 2 より大きい保証さえあれば成立する。ぎりぎりのポイントを突くなら:
  |(ζ + 1)3| > 2 つまり 2 cos (θ/2) = |ζ + 1| > 32 = 1.2599210498…
  ∴ cos (θ/2) > 2−2/3 = 0.6299605249…
0 < θ < π の区間で cos θ は単調に減少するから、上の不等式は、正の θ の下限を与える:
  0 < θ/2 < arccos (2−2/3) = 0.8892939451…
  ∴ 0 < θ < 2 arccos (2−2/3) = 1.7785878902… ≈ 101.905°

従って(定理13では θ ≤ 90° としたが)、 θ ≤ 100° = 2π⋅5/18 でも同様の結論が得られる。 θ = 100° のときには(言い換えると ζ がこの偏角に対応する 1 の18乗根のとき)、 (ζ + 1)3 の絶対値は、既に 2 より十分大きい。より一般的に θ の絶対値が 101° 以下なら、定理13と同様のことがいえる。このことは「第1・第2象限に主たる根は現れない」ことを暗示する。

Cauchy 型の多項式の根に関して、 n = 2, 3, 4 のケースについては直接確認することにして n ≥ 5 に話を限ると、同様の議論から、
  |θ| ≤ 109° ⇒ |(ζ + 1)5| > |ζ5 + 1|
が成り立つ。

例えば θ = 3π/5 (= 108°) のとき、
  ζ = (1 − 5)/4 + [i(10 + 25)]/4
  ζ + 1 = (5 − 5)/4 + [i(10 + 25)]/4
であるが、定理14から:
  |ζ + 1| = 2 cos (3π/10) = [(10 − 25)]/2
  ∴ |(ζ + 1)2| = (5 − 5)/2
  ∴ |(ζ + 1)6| = (125 − 3⋅255 + 3⋅5⋅5 − 55)/8 = (200 − 805)/8 = 25 − 105
この数は = 25 − 22.36… なので 2 より大きい。実は 6 乗しなくても、 5 乗するだけで 2 より大きくなる。つまり、この ζ が示す「1 の10乗根」が問題の多項式の根になり得ないことは、直接的にも証明可能。

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他方、単位円上の点 ζ の偏角の絶対値が 120° を超える場合、 ζ + 1 は単位円の内側にあるので(つまりその絶対値は 1 未満なので)、そのような ζ + 1 を2乗・3乗…しても大きくはならず、同様の論法を使えない。

関連する事実。偏角が 120° を超える「1 の m 乗根」の近似値は、
  Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
の(非自明な因子の)根となり得る。例えば、 E13(x) の主たる根は、
  −0.8854584985… + i⋅0.4647184603…
であるが(付録2)、これは、偏角約 152.3° の exp (2πi⋅11/26) =
  −0.8854560256… + i⋅0.4647231720…
、小数5桁程度まで一致する。定理13によって、円周 m 等分点の正確な値が En(x) の根となることは不可能だが、それに極めて近い値が根となることは起こり得る。

† この点は、円周26等分点の一つ(約 152.3° の偏角は 360° の 11/26 に当たる)。円周13等分点の「5番」と「6番」の中間にあり、「1番」から見ると、縦軸を挟んで対称の位置に当たる。つまり、
  0.8854560256… + i⋅0.4647231720…
葉っぱ紅葉の頃、鬼の頃/城よ何見る、独り何思う)と比べ、実部の符号だけが反対。

しかし、前述のような考察によれば、偏角の絶対値 |θ| が 120° より小さいとき、絶対値 1 の複素数 ζ が En(x) の根になることは(円周 m 等分点の近似値であろうがあるまいが)、少なくとも
  |θ| が十分に小さい場合、または n が十分に大きい場合
においては、一切不可能であろう。というのも、 ζ が 1 の m 乗根であるか否かと無関係に、絶対値 1 の複素数 ζ については、もし偏角が小さいなら、不等式
  |(ζ + 1)n| > |ζn + 1|
が成り立つ。従ってこのような ζ は、 Cauchy 型の多項式の根となり得ない。

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2025-07-16 「絶対値 1 の 数」プラス 1 捨ててこそ

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

計算間違いが好きな人はあまりいないだろうが、「符号のミス」ってのは、なんとも嫌なもんだ。

根号の符号のような「主値」が絡むケースは、特に微妙で、時に素朴な直観が裏切られる。 (−1)3/2 みたいなもんを見て、一瞬フリーズ。「えーと…こ、これはつまり [(−1)3]1/2 ってこと…かな? 要するに −1 の平方根、つまり i …?」

符号、ヤバい!

そんな中で、「符号ミスに符号ミスを重ねても、大丈夫」という、常識では考えられないような状況もある。「ミスが起きることは織り込み済み。起きるときは、ちょうど 2 回、起きる」と事前に分かってる場合だ。一つのミスで符号が逆になり、二つ目のミスでまた符号が逆になるので、「間違いに間違いを重ねてるけど、元に戻って答えは合ってる」と。

かなり珍しいシチュだが、そんなこともあるんだね~と。

✿

定理14の系1(絶対値 1 の数と 1 の和: 一般の偏角) ζ を絶対値 1 の任意の複素数とし、その偏角(必ずしも主値ではない)を θ とする。このとき:
  ζ + 1 = u⋅2 cos (θ/2) ただし u = cos (θ/2) + i sin (θ/2) = eiθ/2

証明 左辺 ζ + 1 が = 0 になる場合、右辺も = 0 となり命題は正しい。というのも、その場合 ζ = −1 の偏角 θ は ±π, ±2π, ±3π, ··· のいずれか。そのとき cos (θ/2) = 0 なので u⋅2 cos (θ/2) = u⋅2⋅0 = 0。(u の値は 0 ± i = ±i だが、結果に関係しない。)

以下では ζ + 1 ≠ 0 の場合を考える(そのとき θ ≠ ±π, ±2π, ±3π, ···)。

もし偏角 θ が主値を使って表現されているなら――すなわち、もし −π < θ < π なら――定理14から ζ + 1 の絶対値は 2 cos (θ/2) であり:
  ζ + 1 = u⋅2 cos (θ/2)  (✽)
ここで u は、偏角が θ/2 で絶対値が 1 の複素数(いわば ζ + 1 の偏角を表す単位ベクトル)であり、次のように表現可能。
  u = cos (θ/2) + i sin (θ/2) または同じことだが u = eiθ/2
すなわち命題は正しい。

今、偏角 θ が主値の範囲にないとする。その場合の θ の値には、主値で表現された「本来の」偏角(それを θ′ としよう)と比べ 2π の整数倍のずれがある。つまり何らかの正の整数 N があって、
  θ = θ′ ± 2π⋅N
が成り立つ。もし N = 2k が偶数なら(k: 整数)、
  θ = θ′ ± 2π⋅2k
  ∴ θ/2 = θ′/2 ± 2π⋅k
となり、角度 θ/2 は「本来の」値 θ′/2 と比べて 2π の整数倍のずれがある。 cos, sin の値は角度が 2π の整数倍ずれても同じなので、この場合、方位を表す u の値は本来と同じになり、絶対値を表す 2 cos (θ/2) の値も本来と同じ。つまり、この場合には本来の(✽)と同じ値を持つ。

もし N = 2k + 1 が奇数なら:
  θ = θ′ ± 2π⋅(2k + 1) = θ′ ± (4kπ + 2π)
  ∴ θ/2 = θ′/2 ± (2kπ + π)  (✽✽)
角度に ±2kπ のずれがあっても、その角度に対する cos, sin の値は「本来の値」と一致する。しかし(✽✽)の θ/2 は、そのような「問題にならないケース」と比べ、さらに ±π ずれている。その結果 u の実部も虚部も符号が本来の逆になって、 u は「本来の値」の −1 倍になってしまう。 2 cos (θ/2) も符号があべこべになり、(絶対値のはずなのに)値が負になってしまう。にもかかわらず、それら両方が「本来の値」の −1 倍なので、結果的に(✽)の右辺の積は正しい符号に戻り、本来と同じ値を持つ(下記の例参照)。

要するに、どのケースでも等式(✽)が成立。∎

〔例〕 1 の原始6乗根の一つ ζ = (1 − i3)/2 を考える。偏角の主値を使って表現すると θ = −60° のときの cos θ + i sin θ に当たる。 ζ + 1 を直接計算すると (3 − i3)/2 だ。公式(✽)を検証してみよう。この場合 θ/2 = −30° なので:
  u = cos (−30°) + i sin (−30°) = 3/2 + i⋅−1/2  正しい
  2 cos (−30°) = 3  正しい
  ∴ ζ + 1 = (3/2 + i⋅−1/2)⋅3 = (3 − i3)/2  もちろん正しい
ζ + 1 を直接計算したものと一致した。同じ公式でも、主値 θ = −60° の代わりに θ = 300° を使うとどうなるか。その場合 θ/2 = 150° なので:
  u = cos 150° + i sin 150° = 3/2 + i⋅1/2  符号が逆
  2 cos 150° = −3  符号が逆
最初に計算した u および絶対値と比べると、どちらも符号があべこべ。特に 2 cos 150° は、絶対値(距離)のはずなのに、値がマイナスというばかげた状態。にもかかわらず、符号が間違ってるデータを二つ掛け合わせると「裏の裏は表」で間違いが帳消しになり、結局、正しい答えが得られる:
  (3/2 + i⋅1/2)⋅(−3) = (3 − i3)/2  結局正しいッ!

符号が2回逆になるとき「放っておいても元に戻る」と読み切って、間違った途中計算を放置。捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ!

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定理14の系2(絶対値 1 の数と 1 の和: n 乗) x を絶対値 1 の任意の複素数とし、その偏角(必ずしも主値ではない)を θ とする。 n を正の整数とする。このとき、次が成り立つ。
  ㋐ (x + 1)n = einθ/2⋅2n cosn (θ/2)
  ㋑ xn + 1 = einθ/2⋅2 cos (/2)

証明 定理14の系1で ζ = x と置くと:
  x + 1 = u⋅2 cos (θ/2)  ㋒
  ただし u = cos (θ/2) + i sin (θ/2) = eiθ/2  ㋓

㋒ の両辺を n 乗すると:
  (x + 1)n = un⋅2n cosn (θ/2)
  ただし un = (eiθ/2)n = einθ/2
㋐が示された。

次。仮定により x の絶対値は 1、偏角は θ。従って、 xn の絶対値は 1、偏角は nθ 絶対値が 1 なので、定理14の系1を適用可能。 ζ = xn と置き、 ζ の偏角が nθ であることに留意すると:
  xn + 1 = u⋅2 cos ((nθ)/2)
  ただし u = cos ((nθ)/2) + i sin ((nθ)/2) = ei(nθ)/2
㋑が示された。∎

† 三角関数表示を使うなら:
   = cos (nθ/2) + i sin (nθ/2)
㋓の三角関数表示
  u = cos (θ/2) + i sin (θ/2)
の両辺を n 乗して、ド・モアブルの定理を使っても、同じ結論に。

‡ 任意の複素数 X ≠ 0 について、その偏角を θ、絶対値を r とすると、 Xn の偏角は nθ で絶対値は rn になる。この例では x の絶対値は r = 1 なので、 x を n 乗しても絶対値は rn = 1 のまま。

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2025-07-19 コーシー/ミリマノフ多項式(その12) θ > 116.025°

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

前回 (−1)3/2 は [(−1)3]1/2 = (−1)1/2 = i かな? という紛らわしいネタを書いたが、正しくはシンプルに…
  (−1) は偏角 180° で絶対値 1 ⇒ その 3/2 乗は偏角 180° × 3/2 = 270° で絶対値 13/2 = 1
   ⇒ 答えは単位円上の偏角 270° の点つまり −i

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Cauchy は、多項式 (x + y)n − xn − yn の分解などについて研究した(n は 3 以上の奇数)。特に y = 1 の場合には:
  P3(x) = (x + 1)3 − x3 − 1 = 3(x2 + x)
  P5(x) = (x + 1)5 − x5 − 1 = 5(x2 + x)(x2 + x + 1)
  P7(x) = (x + 1)7 − x7 − 1 = 7(x2 + x)(x2 + x + 1)2
  P9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 9(x2 + x) E9(x)
  P11(x) = (x + 1)11 − x11 − 1 = 11(x2 + x)(x2 + x + 1) E11(x)
  P13(x) = (x + 1)13 − x13 − 1 = 13(x2 + x)(x2 + x + 1)2 E13(x)
   ︙
一般に n ≥ 3 が奇数のとき Pn(x) は (x2 + x)(x2 + x + 1)λ で割り切れる(n を 3 で割った余りが 0, 1, 2 のどれになるかに応じて λ = 0, 2, 1)。

この(多項式としての)割り算の商 En は Mirimanoff によって研究され、 Cauchy–Mirimanoff 多項式と呼ばれる。 E3(x) = E5(x) = E7(x) = 1 は0次式であり、上のリストでは表記が省略されている。

n を奇数と限定せず、 Cauchy の多項式を任意の n ≥ 2 に対して拡張するには、
  Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
とするのが最も自然に思われるが、
  Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1
というもともとの定義を、機械的に n ≥ 2 に対してもそのまま使う――という選択肢もある(Helou はそのように定義を拡張している)。 n = 3, 5, 7, ··· の場合、どちらの定義も同じ意味だが、 n = 2, 4, 6, ··· の場合、 Pn(x) は、第一の定義では、
  Dn(x) = (x + 1)n + xn + 1
に一致し、第二の定義では、
  Cn(x) = (x + 1)n − xn − 1
に一致する。

〔注〕 n = 1 の場合、どちらの定義でも P1(x) は零多項式であり、任意の因子を持ち、次数が定義されない。実質的な興味も少ないので、どのように拡張するにせよ n は 2 以上の偶数または奇数とするのが妥当だろう(必要なら n = 0, 1 のケースを考えてもいいが)。

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Cauchy の多項式や、その因子である Cauchy–Mirimanoff 多項式は、 n ≥ 3 が奇数のときには、通例、上記 Cn によって定義されるのだが、 n ≥ 2 が偶数のときには Cn を使う定義と Dn を使う定義の両方があり得る。しかしながら、絶対値 1 の根を考える限りにおいて、 Cn も Dn もよく似た性質を持つ。

偏角 θ で絶対値 1 の複素数 x = e
  Cn(x) = (x + 1)n − xn − 1 = (x + 1)n − (xn + 1) = 0  ‥‥①
を満たすためには、
  (x + 1)n = einθ⋅2n cosn (θ/2)  ‥‥②
と、
  xn + 1 = einθ⋅2 cos (/2)  ‥‥③
が等しくなければならない(定理14の系2参照)。逆にこの条件が満たされれば Cn(x) = 0 が成り立つ。すなわち、 Cn(x) = 0 は、
  2einθ (2n−1 cosn (θ/2) − cos (/2)) = 0  ‥‥④
と同値(②③を①に代入して、共通因数をくくり出した)。絶対値 1 の複素数 einθ は ≠ 0 なので(偏角 nθ)、④は次の等式と同値。
  2n−1 cosn (θ/2) − cos (/2) = 0  (✽)

同様に x = e が Dn(x) = 0 を満たすことは、
  2einθ (2n−1 cosn (θ/2) + cos (/2)) = 0
と同値であり、それは、次の等式と同値:
  2n−1 cosn (θ/2) + cos (/2) = 0  (✽✽)

(✽)も(✽✽)も、左辺第2項 cos (nθ/2) は [−1, 1] の範囲の実数だから、左辺第1項が 1 より大きければ、どちらの等式も成り立ち得ない。 n = 2 の場合、 C2(x) = (x − 1)2 − x2 − 1 = 2x の根は x = 0 だけなので、 C2 は絶対値 1 の根を持たない。一方 D2(x) = (x + 1)2 + x2 + 1 = 2(x2 + x + 1) の根は 1 の原始3乗根 ω, ω2 なので、 D2 は絶対値 1 の根を二つだけ持つ。

n = 3 かつ −π/2 ≤ θ ≤ π/2 の場合、 cos (θ/2) は最小でも (2)/2 = 2−1/2 なので、(✽)ないし(✽✽)の左辺第1項は、最小でも
  23−1⋅(2−1/2)3 = 22⋅2−3/2 = 21/2 = 2 > 1
であり、等式(✽)ないし(✽✽)は成り立ち得ない。より一般的に n ≥ 3 なら、同じ第1項は最小でも
  2n−1⋅(2−1/2)n = 2n−1⋅2−n/2 = 2n/2−1 ≥ 23/2 − 1 = 21/2
であるから、やはりこれらの等式は成り立ち得ない。

他方において、 Cn(x) ないし Dn(x) は、 n の値によっては因子 x2 + x + 1 を一つまたは二つ持つ(定理10)。従って Cn ないし Dn は、 n の値によっては、 1 の原始3乗根 ω, ω2 を根とする(ω, ω2 は、偏角が ±2π/3 で絶対値が 1 の複素数)。

✿

以上の観察を利用して、次の結論を導くことができる。

定理15(Cauchy–Mirimanoff 多項式の主たる根の偏角) n を 2 以上の整数、 m を 4 以上の整数とする。
  〘ⅰ〙 Cn(x) = (x + 1)n − xn − 1 ないし Dn(x) = (x + 1)n + xn + 1 の「絶対値 1 の根」の中には、偏角が ±2π/3 のものが存在する場合があるが、偏角の絶対値が π/2 以下のものは決して存在しない。のみならず、 1 の m 乗根が Cn ないし Dn の根になることもない。
  〘ⅱ〙 En(x) をこれまで通りに定義する[すなわち n が奇数なら (x + 1)n − xn − 1 の非自明な余因子として、 n が偶数なら (x + 1)n + xn + 1 の非自明な余因子として。定理7の「拡張」参照]。 En の主たる根の偏角は π/2 以下ではなく、 2π/3 でも π でもなく、より一般的に π の有理数倍ではない。
  〘ⅲ〙 このように定義された En(x) の主たる根の偏角は、 29π/45 = 116° 以下ではな

注意 主たる根の偏角 θ については(偏角を主値で表現する。以下同じ)、もっと強いことが言えるはずだが(予想1およびその系参照)、ここではとりあえずの結論をまとめておく。予想1の系1では 120° < θ < 180° となっているが、ここでは 116.025° < θ < 180° を示すことができる。

† Nanninga (2012) の Tn に当たる。
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/D9AC799F4D6F80B07AE140F6163B320C/S1446788712000195a.pdf/cauchymirimanoff_and_related_polynomials.pdf

‡ もし En(x) の定義を変更するなら、 n < 12 のとき、少数の例外が生じる(末尾の追記参照)。

証明 〘ⅰ〙 前述の観察によると、 ω, ω2 は Cn ないし Dn の根となり得るが、「絶対値が 1 で偏角の絶対値が π/2 以下の複素数」は、 Cn, Dn の根とはなり得ない。特に、整数 k ≥ 4 について、 1 の原始 k 乗根の主値(その偏角は 2π/k である)は、 Cn, Dn の根とはなり得ず、従って、 1 の原始 k 乗根と「代数的に共役」の数も Cn, Dn の根とはなり得ない(定理13参照)。

〘ⅱ〙 En の主たる根(偏角が正で絶対値が 1)の偏角が π/2 でもそれ未満でもないことは、〘ⅰ〙から直ちに明らか。 −1, ω, ω2 は En の根ではないので(定理7定理10の系2)、主たる根の偏角は π でも 2π/3 でもない。今 ℓ ≥ 1 と m ≥ 4 を任意の整数とする。〘ⅰ〙により、 1 の m 乗根は Cn または Dn の根になり得ない。ゆえに En の主たる根の偏角が 2π⋅ℓ/m に等しいことは、あり得ない。以上のことから、主たる根の偏角は 2π の有理数倍ではなく、従って π の有理数倍ではない。

〘ⅲ〙 まず 2 ≤ n ≤ 11 と仮定し、かつ En が主たる根を持つ場合を考える(n = 6, 8, 9, 10, 11)。これら(計 5 個)の根の偏角が、どれも 2π/3 = 120° より大きいことは、実際に根を求めることによって直接確認可能。よって n ≤ 11 に対しては、主張は正しい。

今 n ≥ 12 と仮定する。もし (x + 1)n の絶対値が 2 を超えてしまうと、
  (x + 1)n ± (xn + 1) = 0  ‥‥⑤
は「絶対値 1 の解」を持ち得ない(なぜならば x の絶対値が 1 なら、 xn + 1 の絶対値は 2 以下)。つまり⑤が解を持つとすれば、 (x + 1)n の絶対値が 2 以下であることが必要。 n = 12 の場合、
  (x + 1)n の絶対値が 2 以下
という条件は、
  |x + 1| ≤ 122 = 1.0594630943…  [(調律の)王道、高級、城満つ音奇し
を含意する。定理14から、そのとき x の偏角の主値 θ は、次の不等式を満たす必要がある。
  2 cos (θ/2) ≤ 122 つまり
  |θ| ≥ 2 arccos(21/12/2) = 2.0250246054… ≈ 116.0253°

もし |θ| が 116.025° 以下ならこの不等式が満たされない。そのような θ に対応する |e + 1| = |x + 1| は、12乗されると 2 を超えるのだから、13乗・14乗…されれば、ますます 2 を超えてしまう。よって n ≥ 12 のときの En の主たる根の偏角は、少なくとも 116.025° より大きい必要がある(n ≥ 12 なら必ず根の六つ組が存在し、従って主たる根が存在する)。∎

〔追記〕 n が偶数のときの En(x) の定義を変更して (x + 1)n − xn − 1 とした場合、「絶対値 1 の根」の偏角の絶対値が 120° 未満になることがある(n が 6 の倍数のとき)。その場合でも n ≥ 12 なら、定理15の下界 116.025° は守られる。しかし n = 6 のとき、偏角 112.683…° の根が生じる。 n = 6 の場合の下界は、
  2 arccos (21/6/2) = 1.9498478383… ≈ 111.7180°
だ。一方、もし n が奇数のときの En(x) の定義を変更して (x + 1)n + xn + 1 とした場合、「絶対値 1 の根」の偏角の絶対値が 120° 未満になることがある(n が 6 の倍数より 3 大きいとき)。その場合でも n ≥ 12 なら定理15の下界は守られるが、 n = 3, 9 のときには、もっと偏角の小さい根が生じる。一般に、この意味での偏角の下界は、
  2 arccos (21/n/2) = 2 arccos 2−(n−1)/n
だ。どちらの方法で定義を変更した場合にも、根の六つ組のメカニズムは、必ずしも成り立たなくなる。(2025年7月20日)

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2025-07-21 コーシー/ミリマノフ多項式(その13) 120° の壁

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

多項式 P(x, y) = (x + y)n − xn − yn は、もともと Fermat の最終定理(特に n = 7 の場合)との関連で1839年以降、 Cauchy と Liouville によって研究された。 n は 3 以上の素数ないし奇数に限定されていた。当初の重要な観察は、 P(x, y) が (x2 + xy + y2)λ で割り切れるということだった(Cauchy の定理)。ただし n ≡ 0, 1, 2 (mod 3) のとき、それぞれ λ = 0, 2, 1 とする。

Mirimanoff (1903) は、 y = 1 の場合の、
  Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1
について研究した(n は素数)。Helou (1997) は、上記 Mirimanoff の多項式の n を任意の整数 ≥ 2 に拡張した。

他方において、 Cauchy の多項式を異なる方法で n ≥ 2 に対して拡張すること――すなわち、
  Pn(x, y) = (x + y)n + (−x)n + (−y)n
と定義すること――の自然さは、遅くとも1870年代には Thomas Muir (1844–1934) によって認識されてい Muir の形式の大きなメリット(美しさ)は、 Pn(x, y) を x2 + xy + y2 と xy(x + y) の組み合わせだけで表現できること(この事実は、少なくとも n が 3 以上 13 以下の素数の場合については Cauchy 自身によって発見されていた。任意の整数 ≥ 0 に対して拡張可能)。鍵となる再帰的公式については、1880年代に Lucas によっても記述されていのみならず y = 1 の場合の Muir/Lucas の形式、
  Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
については(n ≥ 2)、「根の六つ組」(Mirimanoff によって記述された)を自然に拡張できる。この点については、21世紀の現在でも必ずしも広く知られていないようだが、理論的に重要だと思われる。

† Thomas Muir, Cauchy’s Theorem Regarding the Divisibility of (x + y)n + (−x)n + (−y)n, The Messenger of Mathematics, Vol. VIII, May, 1878–April 1879 (1879), 119–120.
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN599484047_0008?tify=%7B%22pages%22%3A%5B123%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
https://www.digitale-sammlungen.de/en/view/bsb11390654?page=127
―――, On an expansion of (x + y)n + (−x)n + (−y)n, The Quarterly Journal of Pure and Applied Mathematics, Vol. XVI (1879), 9–14.
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN600494829_0016?tify=%7B%22pages%22%3A%5B15%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D

‡ Édouard Lucas, Sur un théorème de Cauchy, Association française pour l’avancement des sciences, Oran (1888), 29–31.
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k201169f/f32.item

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定義の違いによる混乱を防ぐため、必要に応じて、多項式
  An(x) = (x + 1)n − xn − 1 = x(x + 1)κ′(x2 + x + 1)λ′ En(x)
ないしその非自明因子 EnHelou 型と呼び、
  Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n = xκ(x + 1)κ(x2 + x + 1)λ Ēn(x)
ないしその非自明因子 ĒnMuir 型と呼ぶことにする(n が奇数なら、どちらもオリジナルの Cauchy 多項式 Pn の y = 1 の場合に一致)。ここで n ≡ 0, 1, 2 (mod 3) に応じて λ = 0, 2, 1 であり、 n が奇数なら κ = κ′ = 1, λ′ = λ だが、 n が偶数なら κ = κ′ = λ′ = 0 だ。

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補題7 Muir 型の Cauchy–Mirimanoff 多項式 Ēn の次数(n ≥ 2)は 6 の倍数。 Ēn の根は、六つずつ組を成し、各六つ組において、根のちょうど一つ――それを主たる根と呼ぶ――は、絶対値が 1、かつ偏角の主値が正(言い換えると虚部が正)。主たる根の個数 ν は、もし n を 6 で割った余りが 1 なら、 ν = n/6 − 1 = (n − 7)/6、さもなければ、 ν = n/6。ここで n/6 は n/6 を超えない最大の整数を表す。

証明 Ēn(x) の次数は 6 の倍数(定理7の補足)。より具体的に、 Muir–Cauchy の多項式
  Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
は、 n が奇数なら明らかに n−1 次式、 n が偶数なら明らかに n 次式だ(n ≥ 2)。もし Ān(x) が因子 x(x + 1) を κ 個、持つなら x = 0, −1 はその自明な根であり(κ = 0 or 1: この因子は 1 個以下)、非自明な根の数は 2κ 個、減る。もし Ān(x) が因子 x2 + x + 1 を λ 個持つなら、 x = ω, ω2 はそれぞれ重複度 λ の自明な根であり(λ = 0, 1, or 2: この因子は 2 個以下)、非自明な根の数は 2λ 個、減る。

要するに Ān は、自明な根を 2κ + 2λ 個、持つ。定理10(y = 1 とする)から n ≡ 3, 1, 5; 0, 4, 2 (mod 6) のとき、それに対応して Ān の自明な根の数は、
  2 + 0, 2 + 4, 2 + 2; 0, 4, 2 つまり 2, 6, 4; 0, 4, 2
であり、従って非自明な根の数は:
  n が奇数 ≡ 3, 1, 5 (mod 6) なら (n−1) − 2, (n−1) − 6, (n−1) − 4
  n が偶数 ≡ 0, 4, 2 (mod 6) なら n − 0, n − 4, n − 2

結局、任意の整数 n ≥ 2 に対して、 Ān の非自明な根の数(つまり Ēn の次数)は、 n ≡ 1 (mod 6) なら n − 7 に等しく、 n ≡ r ≠ 1 (mod 6) なら n − r に等しい(0 ≤ r ≤ 5)。

Ēn が根を持つとき(n = 6 または n ≥ 8)、根は六つ一組で「一定の構造を持つ緊密な集団」(軌道)を成す(定理8定理12)。それぞれの六つ組の中には、「絶対値 1 の根」「絶対値が 1 より大きい根」「絶対値が 1 より小さい根」が、それぞれ 1 ペアずつ存在する。各ペアは共役複素数で、虚部 ≠ 0。虚部が正の根の偏角を θ ∈ (0, π) とすると、対応する共役の根の偏角は −θ に等しい。∎

† 「絶対値が 1 より大きい根」と「絶対値が 1 より小さい根」は、一つずつ、互いに逆数。

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次の性質は、絶対値 1 の根の偏角に関するもの。定理15〘ⅲ〙の 116.025° の下界を 120° の下限に改善する。

定理16(主たる根の偏角 120° の壁) ĒnMuir 型の任意の Cauchy–Mirimanoff 多項式とする。 Ēn の根のうち、絶対値が 1 で虚部が正のものを ζ とする。 ζ の偏角の主値は (2π/3, π) の範囲にある。つまり、その偏角(の主値)が 120° 以下になることはない。

内容はシンプルだし、定理15の 116.025° から見るとたった 4° ほどの「範囲制限のわずかな強化」に過ぎないが、それが大きな意味を持つ――これによって条件 τ > 6 が確立され、複素平面上での根の六つ組の配置について、基本的な特徴付けが得られる(定理12の補足参照)。直観的(幾何学的)には、画像の x1, x2 は、単位円上において、常に虚部 −1/2 を表すオレンジの縦線より左側にある。図解: E₉(x) の六つの根の複素平面上での配置

n が奇数の場合、定理16は Helou (1997) の Lemma 1, Lemma 2 の副産物といえる(以下の証明も Helou による証明と同様の同じアイデアによる)。 n が偶数の場合(Muir 型)についても同様。

注意 n が偶数で En の定義が Helou 型の場合には、定理16は必ずしも成り立たない({n が 6 の倍数の場合が反例}となる)。 n が偶数の場合の定理16は、定義が Muir 型であることを条件とする。

証明 Ēn(x) の根のうち、定理の条件を満たすものを x = ζ = e としよう(0 < θ < π はその偏角の主値)。仮定により、 ζ は、
  (ζ − 1)n + (−ζ)n + (−1)n = (ζ − 1)n ∓ (ζn + 1) = 0
を満たす。ただし複号では、 n が奇数なら上、偶数なら下が選択される。定理14の系2から、この条件は次と同値:
  einθ/2⋅2n cosn (θ/2) ∓ einθ/2⋅2 cos (/2) = 0
両辺を 2einθ/2 (≠ 0) で割って:
  2n−1 cosn (θ/2) ∓ cos (/2) = 0  (✽)

Cauchy–Muir の多項式 Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n の「絶対値 1 の根」は、重複度を含めて(✽)の根と1対1対応する。これらの根の中には Mirimanoff 多項式 Ēn(x) の根だけでなく、 n が奇数なら Ān(x) の自明な因子 x + 1 の根 −1 も含まれるし、 n が 3 の倍数以外なら Ān(x) の自明な因子 x2 + x + 1 の根 ω, ω2 も含まれる(x = ω, ω2 が Ān(x) の重根なら θ = ±2π/3 は(✽)の重根)。

まず n が奇数の場合。変数 θ が区間 [2π/3, π] にあるとき、連続関数 cos (θ/2) の値は [0, 1/2] の範囲を単調に減少するので、 cosn (θ/2) の値は [0, 2−n] の範囲を単調に減少し、従って 2n−1 cosn (θ/2) は [0, 1/2] の範囲を単調に減少する。ゆえに、変数 θ が同じ区間 [2π/3, π] にあるとき、連続関数 cos (nθ/2) の値が「0 から 1/2 に増加する」たびごとに、あるいは「1/2 から 0 に減少する」たびごとに、それぞれちょうど 1 回ずつ
  cos (/2) = 2n−1 cosn (θ/2)  (✽✽)
が成り立ち、条件(✽)が満たされる。当該区間において cos (nθ/2) の値が「0 から 1/2 に増加」または「1/2 から 0 に減少」の全過程を完了しないとしても、もし区間の始点 θ = 2π/3 または終点 θ = π において cos (nθ/2) の値が [0, 1/2] の範囲にあって(✽✽)を満たすなら、その場合にも条件(✽)が成り立つ――具体的には、「始点 θ = 2π/3 において、 1 へ向かって増加中の cos (nθ/2) が値 1/2 を持ち 2n−1 cosn (θ/2) = 1/2 と一致する場合」、もしくは「終点 θ = π において、 負から正へと増加中の cos (nθ/2) が値 0 を持ち 2n−1 cosn (θ/2) = 0 と一致する場合」だ。前者は n ≡ −1 (mod 6) のときに生じ、後者は n ≡ 1 (mod 6) のときに生じる。

議論の要点は、
  緩やかに単調減少する 2n−1 cosn (θ/2) のグラフの曲線が、
  短い周期で上下動を繰り返す cos (nθ/2) のグラフの曲線と交わる(または重なる)回数
を数えることにある。区間 [2π/3, π] においてこの回数を{具体的に検討}すると――ただし、始点 θ = 2π/3 または終点 θ = π において重なる場合(それは Ēn の根にではなく、自明な根に対応している)をカウントから除外する――、結果は n ≡ 1 (mod 6) なら n/6 − 1 に等しく、 n ≢ 1 なら n/6 に等しい。これは Ēn の主たる根の個数(言い換えれば六つ組の個数)と一致する(補題7参照)。すなわち、上記のカウントは、 Ēn の主たる根の総数と過不足なく対応する。ゆえに Ēn の主たる根の偏角 θ は開区間 (2π/3, π) に含まれ、それ以外の範囲には決して含まれない。

n が偶数の場合も、同様。∎

この考察では、 [0, π] の範囲にある(✽)の解のうち、区間 [2π/3, π] 内にあるものだけが、直接的に検討された。 Ēnn/6 − [n ≡ 1 (mod 6)] 個の主たる根に対応する θ は区間 (2π/3, π) 内に過不足なくあることが示され、その結果、この区間外には「主たる根に対応する θ」が存在しないことが、間接的に証明された。

「上記区間外にも Ēn の主たる根に対応するような θ が存在し得るか?」という問いに対する答えは、事前に明らかであったといえるか。必ずしもそうではない。ここでは No という結論が出たが、定義を Helou 型に変えれば θ < 2π/3 に対応する主たる根が存在し得て、答えは Yes に変わる。

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区間の始点 θ = 2π/3 での(✽)左辺の値について。第1項の値は 2n−1(1/2)n = 1/2。第2項 cos (nθ/2) の値は、もし n ≡ ±1 or 3 (mod 6) ならそれに対応して 1/2 or −1 であり、もし n ≡ ±2 or 0 (mod 6) ならそれに対応して −1/2 or 1。ゆえに(✽)左辺の値は:
  n が奇数なら 1/2 − (1/2 or −1) ⇒ n ≡ ±1 (mod 6) なら = 0 で、 n ≡ 3 なら = 3/2
  n が偶数なら 1/2 + (−1/2 or 1) ⇒ n ≡ ±2 (mod 6) なら = 0 で、 n ≡ 0 なら = 3/2
いずれにしても n ≡ ±1 (mod 3) なら値は 0 だが n ≡ 0 (mod 3) なら値は 3/2 ≠ 0 だ。これは「n が 3 の倍数でなければ(そしてそのときに限って)、 Ān(x) は x2 + x + 1 で割り切れる」という事実と対応する(定理10)。

このうち n ≡ 1 (mod 3) のケース(つまり n が奇数で n ≡ 1 (mod 6) か、または n が偶数で n ≡ 4 (mod 6) のケース)では、重根が生じる――すなわち、その場合には Ān(x) は (x2 + x + 1)2 で割り切れる。実際、(✽)左辺の(θ についての)導関数
  2n−1⋅(n cosn−1 (θ/2))⋅(−sin (θ/2))⋅(1/2) ∓ (−sin (/2))⋅(n/2)
   = (−n/2)(2n−1 cosn−1 (θ/2) sin (θ/2) ∓ sin (/2))
が θ = 2π/3 において値 0 を持つことは、次と同値:
  2n−1⋅(1/2)n−1⋅((3)/2) ∓ sin (nπ/3) = 0
   ⇔ n が奇数で (3)/2 = sin (nπ/3) または n が偶数で (3)/2 = −sin (nπ/3)
   ⇔ n ≡ 1 (mod 6) または n ≡ 4 (mod 6)

〔追記〕 オランダの Frits Beukers も Helou 型の Cauchy–Mirimanoff 多項式 (x + 1)n − xn − 1, n ≥ 2 を考察し(“On a sequence of polynomials”: Journal of Pure and Applied Algebra, Vol. 117–118, May 1997)、その非自明因子が既約だと予想した(恐らく Mirimanoff の先行研究とは独立に)。米国の Charlse Helou の “Cauchy-Mirimanoff polynomial” (Comptes rendus mathématiques: Mathematical Reports, Vol. 19 (2), December 1997)と同じく、1997年付けで、 Beukers の論文は 発表されている。出版は約半年早かったようだ。2007年に Beukers はこの小論を “The MEGA-cake problem” と改題して、再公開している。
https://webspace.science.uu.nl/~beuke106/
https://webspace.science.uu.nl/~beuke106/megaproblem.pdf
Beukers の Lemma 2.1 でも、絶対値 1 の根の数が評価されている。その手法は Helou のものと似ている。(2025年7月22日)

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2025-07-22 コーシー/ミリマノフ多項式(その14) τ > 6

#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #ミリマノフⅡ

ミリマノフの6次式 ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1 は置換 z = x + 1/x によって
  z3 + 3z2 + (τ − 3)z + (2τ − 11)  ‥‥①
となり、再置換 z = s − 1 によって
  s3 + (τ − 6)s + (τ − 6)
となる(定理12参照)。ここで τ は実数だが、 120° の壁の存在が証明されたことにより、シャープな不等式 τ > 6 が確立された。これまで場当たり的・試行錯誤的に幾つかの事例を検討してきたが、そのやぶを抜け、 E11, E13 などの挙動を統一的に眺めるための、ちょっとした展望台のような場所に到達した!

すなわち ɡ = τ − 6 と置くと ɡ は正の実数であり、上記の3次式を
  s3 + ɡs + ɡ  ‥‥②
と書くことができる。

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ε(x) の根の六つ組の性質上、①は実数の根をちょうど一つ持つ。のみならず、 ε(x) の「絶対値 1 の根」のペア x = e±iθ の和
  e + e−iθ = 2 cos θ
が①の実根 z1 であり、 θ は (2π/3, π) の範囲にあるのだから、 −2 < z1 < −1。対応する②の根は −1 < s1 < 0 の範囲にある(∵ s = z + 1)。3次式②を「実数から実数への連続関数」と見ると、それは単調に増加する。そのグラフの曲線と縦軸の交点 ɡ が正であることからも、②の(唯一の)実根 s1 が負であることは明白。

〔注〕 τ > 6 すなわち ɡ > 0 が確立したことによって、この展望が開けた。もともと「恐らくそうではないか」と予想していたものの、「3次式①や②の定数項は、負になってはいけない」ということは明らかではなく、例えば τ = 5.5 の可能性を個別的に否定するような変な回り道(付録4)もした。

②に関連する2次式 y2 + ɡy − ɡ3/27 の根は、判別式が
  ɡ2 − 4⋅1⋅(−ɡ3/27) = ɡ2(1 + 4ɡ/27) > 0
であることに留意すると:
  y1 = {−ɡ + ɡ(1 + 4ɡ/27)}/2 = 2−1⋅ɡ[(1 + 4ɡ/27) − 1]
  y2 = {−ɡ − ɡ(1 + 4ɡ/27)}/2 = −2−1⋅ɡ[(1 + 4ɡ/27) + 1]
ここで y1 は正の実数、 y2 は負の実数。なぜなら ɡ は正なので 1 + 4ɡ/27 は 1 より大きく、従って (1 + 4ɡ/27) も 1 より大きい。

根号下の分数を解消するため上記 [ ] 内を 27 = 33/2 倍して、代わりに [ ] 全体を 3−3/2 倍すると:
  y1 = 2−1⋅3−3/2⋅ɡ[(27 + 4ɡ) − 27] > 0
  y2 = −2−1⋅3−3/2⋅ɡ[(27 + 4ɡ) + 27] < 0

ゆえに Cardano の公式から:
  s1 = (y1)1/3 − (−y2)1/3 = −[(−y2)1/3 − (y1)1/3]
   = −2−1/3⋅3−1/2⋅ɡ1/3⋅[((27 + 4ɡ) + 27)1/3 − ((27 + 4ɡ) − 27)1/3]
   = −[(34)/2][(3)/3]3ɡ⋅[((27 + 4ɡ) + 27)1/3 − ((27 + 4ɡ) − 27)1/3]

表記の簡潔化のため、
  α = ((27 + 4ɡ) + 27)1/3, β = ((27 + 4ɡ) − 27)1/3
と置くと、
  s1 = −[(3)/6]3() (α − β)
と書くことができる(②の実数の根)。②の残りの二つの根(共役複素数)は:
  s2, s3 = −[(3)/6]3()⋅[α⋅(−1 ∓ i3)/2 − β⋅(−1 ± i3)/2]
   = [(3)/12]3()⋅[(α − β) ± i(α + β)3]
   = [(3)/12]3()⋅(α − β) ± i⋅[3()/4](α + β)
   = [3()/4][(3/3)(α − β) ± i(α + β)]

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以上をまとめると、次の通り。 ε(x) の「互いに逆数の根 x, 1/x の和」である zj が、 −1 + sj に等しいことに留意する(j = 1, 2, 3)。

定理17(ミリマノフの6次因子の根) Muir 型の Cauchy–Mirimanoff 多項式 Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n の非自明な因子を Ēn(x) とする(n ≥ 6 かつ n ≠ 7)。最高次の係数が 1 になるように Ēn(x) を表記すると、 Ēn(x) は、次の形の回文的6次因子ちょうど ν 個の積に等しい(ν の定義については補題7参照):
  ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
ここで τ は 6 より大きい実数。 ɡ = τ − 6 と置くと ɡ は正の実数。
 〘ⅰ〙 ε(x) の根のうちの二つ x1 = e,  x2 = e−iθ は(θ > 0)、どちらも絶対値が 1 で、互いに逆数かつ複素共役。両者の和は、
  2 cos θ = −1 − [(3)/6]3() (α − β)
に等しい。ここで、
  α = 3[(27 + 4ɡ) + 27] と β = 3[(27 + 4ɡ) − 27]
は、正の実数。 x1 の偏角の主値 θ は (2π/3, π) の範囲にある。
 〘ⅱ〙 ε(x) の根のうち残りの四つは、互いに逆数の二つのペアから成る。一つのペアを {x3, x5}、もう一つのペアを {x4, x6} とすると、前者の和 x3 + x5 と後者の和 x4 + x6 は共役複素数で、それぞれ次の値を持つ。
  −1 + [3()/4][(3/3)(α − β) ± i(α + β)]

補足 絶対値 1 の共役複素数のペア {x1, x2} について、一般性を失うことなく、 x1 の虚部は正と仮定できる。一方 x3, x4, x5, x6 は、いずれも絶対値が 1 ではない。一般性を失うことなく、 0 < |x3| < 1, 0 < |x4| < 1, |x5| > 1, |x6| > 1 かつ x4, x5 の虚部は正、と仮定できる(この番号の付け方は便宜上のもので、本質的ではない)。このとき {x3, x4} と {x5, x6} の二つのペアは、それぞれ複素共役(従って絶対値が等しい)。さらに x5, x6 は、いずれも実部が −1/2 に等しい。定理17の表現については、ある種の簡単化の余地がある(定理17の系1系2参照)。

〔例1〕 Ē11 = E11 は、 ε(x) 型の(6次の)因子をちょうど一つ持つ(最初のメモと、付録1参照):
  x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1
この場合 τ = 7 なので(3次の係数 9 は 2τ − 5 に等しい)、 ɡ = τ − 6 = 1, 4ɡ = 4 であり:
  x1 + x2 = 2 cos θ = −1 − [(3)/6]34 (3[(31) + 27] − 3[(31) − 27])
   = −1.6823278038…
  ∴ θ = 2.5702282242… = 147.26322…°

〔例2〕 Ē13 = E13 は、 ε(x) 型の因子をちょうど一つ持つ(付録2参照):
  x6 + 3x5 + 8x4 + 11x3 + 8x2 + 3x + 1
この場合 τ = 8 なので(3次の係数 11 は 2τ − 5 に等しい)、 ɡ = τ − 6 = 2, 4ɡ = 8 であり:
  x1 + x2 = 2 cos θ = −1 − [(3)/6](38) (3[35 + 27] − 3[35 − 27])
   = −1 − [(3)/3](3[35 + 27] − 3[35 − 27]) = −1.7709169970…
  ∴ θ = 2.6582760280… = 152.30799…°

一つの因子 ε から成る Cauchy–Mirimanoff 多項式をそれなりに見通すことができるようになったのは、喜ばしい。けれど、必ずしも一つではない6次因子 ε から成る一般の Cauchy–Mirimanoff 多項式を、どのように眺めればいいのか。「問題解決」どころか、研究すればするほど、あれこれ問題が増えていく。この種の状況では、よくあることだが…

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6次式 ε(x) の六つの根の中には、絶対値 1 で虚部が正のものが、ちょうど一つ存在する(上記の x1)。われわれはそのような根を ε の主たる根と呼ぶ。 Ēn――あるいは Ān――どれか一つの因子 ε の主たる根を指して、それを Ēn――あるいは Ān――(一つの)主たる根と呼ぶこともある(この意味での主たる根は、 Ān ないし Ēn ごとに、ちょうど ν 個ある。便宜上、自明な因子 x2 + x + 1 の根については「主たる根」と見なさない)。

Helou は n ≥ 2 が奇数でも偶数でも、 En(x) = (x + 1)n − xn − 1 と定義している。われわれは、偶数 n ≥ 2 に対しては、特に断らない限り En(x) = (x + 1)n + xn + 1 と定義する―― n が偶数のときのこの定義は、例えば Muir (1878) の選択と一致する。表記 Ēn(x) は、 Helou の意味での En(x) との定義の違いを強調するもの。しかし Ēn(x) の代わりに単に En(x) と記すこともある。 n ≥ 3 が奇数なら、どちらの定義でも同じこと―― n が奇数なら Ēn(x) は Helou の意味での En(x) と一致する。

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遊びの数論47』へ続く。

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