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遊びの数論49の続き。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。
2025-10-06 「ニュートンの式」の実践的活用 フェルマーの最終定理に
解のべき和に関するニュートンのメタ公式。見掛けは簡単だが、証明は意外と面倒…
「ニュートンの式・軽妙な入門」では、それをうまく導入する方法(ライヒシュテインによる)を紹介した。でも証明が中心で、実際にその式をどう活用するのか?という、実践面が充実していなかった。「n 次方程式の n 個の解の m 乗和を求める」――そんな例題は「問題のための問題」のようなもんで、「それが何の役に立つの?」という展望に欠ける。
「フェルマーの最終定理の n = 7 の場合」のジェノッキによる巧妙な証明では、3次方程式の3解の7乗和の公式が一つの土台となる。「フェルマーの最終定理」は超有名問題だし、ジェノッキの証明法は平易で面白い。いい機会なので、そこで必要になる「7乗和の公式」を「ニュートンの式」から導出してみたい。「説明用の無味乾燥な例」ではなく「有名問題の解決に役立つ実例」。
「公式を再帰的に使うだけ」と言ってしまえばそれまでだが、この計算では符号ミスをしやすい。符号ミスを防ぐ工夫なども検討したい。
大文字の A, B, C, ··· で、次のように方程式の係数(定数項を含む)を表すことにする(最高次の係数は 1 とする)。
例 4次方程式なら、
x4 − Ax3 + Bx2 − Cx + D
5次方程式なら、
x5 − Ax4 + Bx3 − Cx2 + Dx − E
6次方程式なら、
x6 − Ax5 + Bx4 − Cx3 + Dx2 − Ex + F
等々。 m 次式の m−1 次の係数は A、 m−2 次の係数は B、·· ·。係数の文字の符号設定はマイナスとプラスが交互。
〔注〕 「係数の具体的な数値として、負の数・正の数が交互に現れる」という意味ではない。例えば、係数の具体的数値が 5, −2, −3, ··· なら A = −5, B = −2, C = +3, ··· となり、係数の具体的数値が −5, 2, 3, ··· なら A = +5, B = +2, C = −3, ··· となる。(要するに、奇数番目の係数は、符号を変えたものが A, C 等に格納され、偶数番目の係数は、そのまま B, D 等に格納される。)
「m 次方程式の m 個の解の m 乗和」を考える。具体的には…
1次方程式 x − A = 0 の解(その解を x = a とする)の1乗和(和といっても、とりあえず1項しかないが)を
ƒ1 = a1
とし、2次方程式 x2 − Ax + B = 0 の2解 x = a, b の2乗和を
ƒ2 = a2 + b2
としよう。3次方程式 x3 − Ax2 + Bx − C = 0 の3解 x = a, b, c の3乗和を
ƒ3 = a3 + b3 + c3
とし、4次方程式 x4 − Ax3 + Bx2 − Cx +D = 0 の4解 x = a, b, c, d の4乗和を
ƒ4 = a4 + b4 + c4 + d4
としよう。以下同様に進めて、一般に m 次方程式
xm − Axm−1 + Bxm−2 − ···
の m 個の解 a, b, c, ··· の m 乗和を
ƒm = am + bm + cm + ··· + (m 個目の解)m
とする。
このとき、次の関係が成り立つ(Newton の恒等式たちの一つの書き方。導出については後述)。
ƒ1 = Aƒ0
ƒ2 = Aƒ1 − Bƒ0
ƒ3 = Aƒ2 − Bƒ1 + Cƒ0
ƒ4 = Aƒ3 − Bƒ2 + Cƒ1 − Dƒ0
ƒ5 = Aƒ4 − Bƒ3 + Cƒ2 − Dƒ1 + Eƒ0
︙
ƒm = Aƒm − Bƒm−1 + Cƒm−2 − ···
上記の関係は「m 次方程式の m 個の解の m 乗和」に限らず、一般に「任意の n 次方程式の n 個の解の m 乗和」についても、同様の等式が成り立つ(方程式の次数 n は、 m より小さくても、 m に等しくても、 m より大きくてもいい)。ただし、方程式の次数 n つまり解の個数 n とは無関係に、解の m 乗和 ƒm を考える場合には ƒ0 = m と約束する。そのような ƒ0 を使って求めた ƒ1, ƒ2, ··· は、どれも m の値と無関係に有効。
(1) ƒ1 については ƒ0 = 1 なので、上の式から、 ƒ1 = Aƒ0 = A⋅1 = A。以下では、いつでも ƒ1 に A を代入することができる。
(2) 従って、
ƒ2 = Aƒ1 − Bƒ0 = A⋅A − B⋅2 = A2 − 2B
となる(前記のように、 ƒ2 を求めるときには ƒ0 = 2 であることに注意)。以下では、いつでも ƒ2 に A2 − 2B を代入することができる。
(3) 得られた ƒ1, ƒ2 の式を ƒ3 についての式に代入すると:
ƒ3 = Aƒ2 − Bƒ1 + Cƒ0
= A⋅(A2 − 2B) − B⋅A + C⋅3
= A3 − 3AB + 3C
(4) ƒ4 = Aƒ3 − Bƒ2 + Cƒ1 − Dƒ0
= A⋅(A3 − 3AB + 3C) − B⋅(A2 − 2B) + C⋅A − D⋅4
= A4 − 4A2B + 4AC − 4D + 2B2
ジラルの4乗和公式が得られた。参考までに、もう一段階進めてみる。
(5) ƒ5 = Aƒ4 − Bƒ3 + Cƒ2 − Dƒ1 + Eƒ0
= A⋅(A4 − 4A2B + 4AC − 4D + 2B2) − B⋅(A3 − 3AB + 3C)
+ C⋅(A2 − 2B)
− D⋅A + E⋅5
=
(A5 − 4A3Bア + 4A2Cイ − 4ADウ + 2AB2)
− (A3Bア − 3AB2 + 3BC)
+ (A2Cイ − 2BC)
− ADウ + 5Eエ
= A5 − 5A3Bア + 5A2Cイ − 5ADウ + 5Eエ + 5AB2 − 5BC
これらの公式は、見た目ほど複雑ではない。第一に、 m が何であれ、根の m 乗和の公式は、
ƒm = Am − mAm−2B + mBm−3 − ·· ·
という「単純部分」を含んでいる。例えば m = 5 なら、まず A5 と書いて、その後ろに、指数を 2 減らした項から順々に
A3, A2, A1, A0 (=1)
の項を書き、それぞれに B, C, D, E を掛けて全部 (m =) 5 倍すればいい。この型のべき和公式における符号については、アルファベット順で奇数番目の文字 A, C, E, ·· · はプラス、 B, D, F, ·· · はマイナス(偶数個あればプラス)に決まっているので、個々の公式の各項ごとに個別に記憶する必要もない。問題は「非単純部分」だが、 ƒ3 までの式には「単純部分」しかなく、 ƒ4 には 2B2 が一つあるだけ、 ƒ5 には 5AB2 と BC の二つがあるだけなので(それらの項の符号も今述べた同じ規則に従う)、 ƒ5 の公式の係数は A5 以外は全部 ±5 という事実と考え合わせると、覚えることは意外と少ない。
例題1 3次方程式 x3 + 3x2 + 9x + 14 = 0 の解を a, b, c とする。 ƒ2 = a2 + b2 + c2 と ƒ3 = a3 + b3 + c3 を求める。
〔解〕 与えられた式について x3 − Ax2 + Bx + C に当てはめると A = −3, B = 9, C = −14。よって:
ƒ2 = A2 − 2B = (−3)2 − 2⋅9 = 9 − 18 = −9
ƒ3 = A3 − 3AB + 3C = (−3)3 − 3⋅(−3)⋅9 + 3⋅(−14)
= −3 × (9 − 27 + 14) = (−3) × (−4) = 12
〔注〕 与式 x3 + 3x2 + 9x + 14 = (x + 2)(x2 + x + 7) の根は x = −2, (−1 ± 3√−3)/2。この三つの数を a, b, c として a2 + b2 + c2 を直接計算してもいいが、少し面倒。 a3 + b3 + c3 の直接計算はさらに面倒。解と係数の関係を使う方が手っ取り早い。
根の m 乗和の公式は、方程式の次数 n と無関係に同じ式が有効。その際、もし n が m より大きければ、余った係数は無視すればいい。
例題2 5次式 x5 − x4 − 10x3 + 10x2 + 16x + 12 の五つの根を a, b, c, d, e とする。それらの3乗和 ƒ3 = a3 + b3 + c3 + d3 + e3 を求める。
〔解〕 A = +1, B = −10, C = −10, D = +16, E = −12 に当たるが(奇数番目の文字 A, C, E の値は、方程式の係数とは符号を反転させることに注意)、根の3乗和の公式
ƒ3 = A3 − 3AB + 3C
では D 以下は不要。 A = 1, B = −10, C = −10 だけを使って:
ƒ3 = 13 − 3⋅1⋅(−10) + 3⋅(−10) = 1 + 30 − 30 = 1
〔参考〕 与えられた5次式 = (x + 3)(x4 − 4x3 + 2 x2 + 4x + 4) の一つの根は a = −3 だが、余因子 x4 − 4x3 + 2 x2 + 4x + 4 の根
b = 1 + √(2 + √), c = 1 − √(2 + √), d = 1 + √(2 − √), e = 1 − √(2 − √)
を求めることは、ちょっと面倒。まして、これらの数値を使って a3 + b3 + c3 + d3 + e3 を直接計算するのは大変。根のべき乗和の公式を使えば、上記のように簡単な処理で済む。
一方、もし方程式の次数 n が m より小さければ、根の m 乗和の公式の「過剰な文字」については、値 0 と見なして無視すればいい。例えば、3次方程式の係数データは A, B, C の三つだけで D, E はない。この場合、もし D, E の値が必要なら D = 0, E = 0 と見なす。
例題3 例題1と同じ3次方程式 x3 + 3x2 + 9x + 14 = 0 の3解 a, b, c について、 ƒ4 = a4 + b4 + c4 と ƒ5 = a5 + b5 + c5 を求める。
〔解〕 A = −3, B = 9, C = −14。ジラルの4乗和公式
ƒ4 = A4 − 4A2B + 4AC − 4D + 2B2
において −4D の項を(D = 0 と見なして)無視すると:
ƒ4 = (−3)4 − 4⋅(−3)2⋅9 + 4⋅(−3)⋅(−14) − 4⋅0 + 2⋅92
= 81 − 4⋅81 + 4⋅42 + 2⋅81 = (−1)⋅81 + 168 = 87
同様に、5乗和の公式
ƒ5 = A5 − 5A3B + 5A2C − 5AD + 5E + 5AB2 − 5BC
において D, E を含む項を無視すると(35 = 33⋅9 = 3 × 92 = 243 に留意):
ƒ5 = (−3)5 − 5⋅(−3)3⋅9 + 5⋅(−3)2⋅(−14)
− 0 + 0
+ 5⋅(−3)⋅92 − 5⋅9⋅(−14)
= −243 + 5⋅243 + 5⋅(−126)
+ 5⋅(−243) + 5⋅126
= −243
仮に話を「3次方程式」に限って解の4乗和・5乗和・6乗和などを考えるなら、どうせ解の m 乗和の公式の D, E, F などは無視されるのだから、最初から――公式を生成する段階から―― D, E, F などを無視してもいいことになる。つまり、汎用バージョンの
ƒ4 = Aƒ3 − Bƒ2 + Cƒ1 − Dƒ0
ƒ5 = Aƒ4 − Bƒ3 + Cƒ2 − Dƒ1 + Eƒ0
︙
の代わりに、3次方程式限定なら、
ƒ4 = Aƒ3 − Bƒ2 + Cƒ1
ƒ5 = Aƒ4 − Bƒ3 + Cƒ2
ƒ6 = Aƒ5 − Bƒ4 + Cƒ3
ƒ7 = Aƒ6 − Bƒ5 + Cƒ4
だけでも足りる。
具体的には(ƒ3 = A3 − 3AB + 3C と ƒ2 = A2 − 2B については既に知っているとすると):
ƒ4 = Aƒ3 − Bƒ2 + Cƒ1
= A⋅(A3 − 3AB + 3C) − B⋅(A2 − 2B) + C⋅A
= A4 − 4A2B + 4AC + 2B2
さらに、この3次方程式限定の ƒ4 を使って3次方程式限定の ƒ5 を生成すると:
ƒ5 = Aƒ4 − Bƒ3 + Cƒ2
= A⋅(A4 − 4A2B + 4AC + 2B2)
− B⋅(A3 − 3AB + 3C)
+ C⋅(A2 − 2B)
= A5 − 5A3B + 5A2C + 5AB2 − 5BC
例題3の計算内容を考えると、最初から「限定バージョン」の ƒ4, ƒ5 を使っても良かった。同様に進めると:
ƒ6 = Aƒ5 − Bƒ4 + Cƒ3
= A⋅(A5 − 5A3B + 5A2C + 5AB2 − 5BC)
− B⋅(A4 − 4A2B + 4AC + 2B2)
+ C⋅(A3 − 3AB + 3C)
= A6 − 6A4B + 6A3C
+ 9A2B2 − 12ABC − 2B3 + 3C2
そして:
ƒ7 = Aƒ6 − Bƒ5 + Cƒ4
= A⋅(A6 − 6A4B + 6A3C + 9A2B2 − 12ABC − 2B3 + 3C2)
− B⋅(A5 − 5A3B + 5A2C + 5AB2 − 5BC)
+ C⋅(A4 − 4A2B + 4AC + 2B2)
= A7 − 7A5B + 7A4C
+ 14A3B2
− 21A2BC
− 7AB3
+ 7AC2
+ 7B2C
3次方程式の解の7乗和の公式が得られた! フェルマーの最終定理の n = 7 の場合の研究に役立つ。
実際には、もちろん変数を表す文字は x とは限らず、係数を表す文字は A, B, C などとは限らない。例えば、もともとの3次方程式を
U3 − pU2 + qU − r = 0
としよう。その場合 A = p, B = q, C = r なので†、解の7乗和は:
ƒ7 = p7 − 7p5q + 7p4r
+ 14p3q2 − 21p2qr − 7pq3
+ 7pr2 + 7q2r
U3 − pU2 + qU − r = 0 の3解を a, b, c の代わりに x, y, z と呼ぶなら、それらの7乗和 x7 + y7 + z7 が上記 ƒ7 に当たる。
† 奇数番目の大文字 A, C の値は、方程式の対応する係数とは符号が逆になることに注意。2次の係数 −q から A = +q、定数項(0次の係数)の −r から C = +r だ。早い話、その下の p7 から始まる式は、 A7 から始まる公式の A, B, C をそれぞれ p, q, r に置き換えただけ。
この導出の理論的根拠となる「ニュートンの式」との関係は、次の通り。
ニュートンの恒等式たちは、表記のバリエーションが豊富だけど、例えば次のような形を持つ(詳細・証明については「ニュートンの式・軽妙な入門」参照)。
p1 + S1⋅1 = 0
p2 + S1⋅p1 + S2⋅2 = 0
p3 + S1⋅p2 + S2⋅p1 + S3⋅3 = 0
p4 + S1⋅p3 + S2⋅p2 + S3⋅p1 + S4⋅4 = 0
p5 + S1⋅p4 + S2⋅p3 + S3⋅p2 + S4⋅p1 + S5⋅5 = 0
ここで p1, p2 などは ƒ1, ƒ2 などと同じ意味(単に別の文字を使っただけ)。 S1, S2, S3 などは、与えられた方程式の係数をそのまま(奇数番目の値の符号を変えずに)使ったもの。前記 A, B, C などは、奇数番目の係数については、係数の値と符号を逆に設定するので、アルファベット順で奇数番目の大文字は、
A = −S1, C = −S3, E = −S5, ···
のように、符号が逆になる。偶数番目の大文字は、次のようにどちらの表記でも(符号も値も)等しい。
B = S2, D = S4, F = S6, ···
上の形式のニュートンの式をそのまま使う場合、まず p1 + S1⋅1 = 0 なので、
p1 = −S1
となる。次に p2 + S1⋅p1 + S2⋅2 = 0 なので、移項して上記の等式を代入すると、
p2 = −S1⋅p1 − 2S2 = (−S1)⋅(−S1) − 2S2 = (−S1)2 − 2S2
となる。ここでもちろん (−S1)2 は (S1)2 に等しいが、説明の便宜上、マイナスの2乗をマイナスの2乗のままで表記しておく。
同様に進めると:
p3 = −S1⋅p2 − S2⋅p1 − 3S3
= (−S1)⋅[(−S1)2 − 2S2] − S2⋅(−S1) + 3(−S3)
= [(−S1)3 − 2(−S1)⋅S2]
− (−S1)⋅S2
+ 3(−S3)
= (−S1)3 − 3(−S1)⋅S2 + 3(−S3)
となり、さらに、
p4 = −S1⋅p3 − S2⋅p2 − S3⋅p1 − 4S4
= (−S1)⋅[(−S1)3 − 3(−S1)⋅S2 + 3(−S3)]
− S2⋅[(−S1)2 − 2S2]
− S3⋅(−S1) − 4S4
= [(−S1)4 − 3(−S1)2⋅S2 + 3(−S1)(−S3)]
− (−S1)2⋅S2 + 2(S2)2
+ (−S1)(−S3) − 4S4
= (−S1)4 − 4(−S1)2⋅S2 + 4(−S1)(−S3)
− 4S4
+ 2(S2)2
となる。この最後の例は、ジラルの4乗和公式
A4 − 4A2B + 4AC − 4D + 2B2
と全く同じ意味だが、内容は同じでも符号がゴチャゴチャして、実用上扱いにくい。
ニュートンの恒等式たちを
p1 + S1⋅1 = 0
p2 + S1⋅p1 + S2⋅2 = 0
p3 + S1⋅p2 + S2⋅p1 + S3⋅3 = 0
︙
のように書くのは、導出(恒等式の証明)の仕方や目的によっては便利かもしれないけど、ジラルの公式のような実践的文脈では、
S1 = −A, S2 = B, S3 = −C, S4 = D, ···
と置いて、次のように書き換えた方が都合がいい。
p1 − A⋅1 = 0
p2 − A⋅p1 + B⋅2 = 0
p3 − A⋅p2 + B⋅p1 − C⋅3 = 0
︙
移項すると:
p1 = A⋅1
p2 = Ap1 − B⋅2
p3 = Ap2 − Bp1 + C⋅3
︙
このメモの前半では、この形式で p の代わりに ƒ を使い、さらに「ƒm の計算においては ƒƒ0 は整数 m を表す」と約束することで、表記を簡潔化した。実質は「普通のニュートンの式」全く同じ。変数名や符号の設定を変えたり、移項したりしただけなので…
S1, S2, S3, ··· の表記では、多項式の係数を(符号を変えずに)そのまま扱うことができる。方程式の研究などでは理論上、便利なことがある。他方、奇数番目の符号を変えたものは「解についての基本対称多項式」に等しく、別の文脈ではそっちの符号設定の方が便利。
そんなわけで「解と係数の関係」では、場合によって符号の設定の仕方が異なり、紛らわしい。その上、もともとの方程式も、
x5 + a1x4 + a2x3 + a3x2 + a4x + a5 = 0
の代わりに、しばしば「奇数番目の係数の符号」をマイナスにして、
x5 − a1x4 + a2x3 − a3x2 + a4x − a5 = 0
のような形式で記される。(その特定の文脈での)変数の符号設定を便利にするための措置だが、そのせいで、かえってますます符号の扱いに混乱が生じることも…。元祖ニュートン自身のノートの記述にも符号ミスや計算ミスがあったほどで、誰がやっても間違いやすい。
実践上、符号の混乱を避け余計な労力を省くため、この場合 A, B, C 形式を基本にするのが便利だと思われる。「奇数番目の文字 A, C 等はプラス属性、偶数番目の文字 B, D 等はマイナス属性」――と考えると、公式ごとに細かく符号を覚える必要がなくなる(この件については「忘れられた偉人ヒルシュ」参照)。最初に A, B, C 等の値を設定するときだけ、多項式の奇数番目の係数(A, C など)は符号を逆にして読み取ることに留意。このアプローチなら、符号の扱いの苦労からほぼ解放されるだろう。
例えば、
x7 + y7 + z7 = p7 − 7p5q + 7p4r
+ 14p3q2 − 21p2qr − 7pq3
+ 7pr2 + 7q2r
の右辺は、プラスの項とマイナスの項が複雑に入り乱れているように見える。ところが次の見方をすると、プラスかマイナスかは直ちに明白になる。すなわち p, q, r はそれぞれ A, B, C であり、上述のことから p, r はプラス属性なので、符号に関係しない。マイナスの原因になるのは、マイナス属性の q だけ。「因子 q を奇数個含む項」はマイナスになり、それ以外の項は全部プラスになる。