他のメモへのリンク集。リンク集を飛ばして、このページの前書きへ。本文の目次へ。21、22などの数字は、メモの番号です。
第3部の続き。きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。
2025-08-04 コーシー/ミリマノフ多項式(その18) 主たる根の虚部
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
n ≥ 3 が奇数のとき、多項式 (x + 1)n − xn − 1 は因子 x2 + x をちょうど 1 個持つ。さらに n を 3 で割った余りが 0, 2, 1 のどれになるかに応じて、因子 x2 + x + 1 をちょうど 0 個、1 個、2個持つ(Cauchy の定理)。
〔例1〕 それ以外の(1次式以上の)因子がない場合。
n = 3 ⇒ (x + 1)3 − x3 − 1 = 3x2 + 3x
= 3(x2 + x)
n = 5 ⇒ (x + 1)5 − x5 − 1 = 5x4 + 10x3 + 10x2 + 5x
= 5(x4 + 2x3 + 2x2 + x) = 5(x2 + x)(x2 + x + 1)
n = 7 ⇒ (x + 1)7 − x7 − 1 = 7x6 + 21x5 + 35x4 + 35x3 + 21x2 + 7x
= 7(x6 + 3x5 + 5x4 + 5x3 + 3x2 + x) = 7(x2 + x)(x2 + x + 1)2
〔例2〕 それ以外の因子(余因子)が6次式の場合。
n = 9 ⇒ (x + 1)9 − x9 − 1
= 9(x2 + x)(x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1)
n = 11 ⇒ (x + 1)11 − x11 − 1
= 11(x2 + x)(x2 + x + 1)(x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1)
n = 13 ⇒ (x + 1)13 − x13 − 1
= 13(x2 + x)(x2 + x + 1)2(x6 + 3x5 + 8x4 + 11x3 + 8x2 + 3x + 1)
このうち x2 + x = x(x + 1) の根(値が 0 になるような x)が 0, −1 であること、 x2 + x + 1 ないし (x2 + x + 1)2 の根が 1 の原始3乗根 (−1 ± i√3)/2 であることは明白だが、余因子の部分の根は明らかではない。しかしもし余因子が6次式なら、その6次式は、
ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
という「回文的」な形式†を持つ。余因子の次数が 6 より大きい場合も、その次数は 6 の倍数で、余因子は上記 ε(x) の形の6次式の積に分解される。
† 6次式 ε(x) の係数は必ず 1, 3, ··· , 3, 1 で、2次と4次の係数は等しい値 τ になる。しかも、3次の係数はその τ の 2 倍から 5 を引いたものに等しい。余因子が 6 次式なら τ は有理数(特に、もし n が素数なら τ は自然数)。余因子の次数が 6 を超える場合、余因子を構成する ε たちのそれぞれの3次の係数 τ は、もっと複雑な形の実数になる。
定数 τ が与えられたとき(例えば n = 13 なら上記〔例2〕のように τ = 7)、その τ に応じて、 ε(x) の根、つまり
ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1 = 0 ‥‥①
を満たす x を求めたい。 x = 0 は根ではないから x3 ≠ 0。よって①の両辺を x3 で割っても差し支えない:
(x3 + 1/x3) + 3(x2 + 1/x2) + τ(x + 1/x) + (2τ − 5) = 0 ‥‥②
z = x + 1/x と置くと、
z2 = x2 + 2⋅x⋅(1/x) + (1/x)2
∴ x2 + 1/x2 = z2 − 2 ‥‥③
であり、
z3 = x3 + 3⋅x2⋅(1/x) + 3⋅x⋅(1/x)2 + (1/x)3
∴ x3 + (1/x)3 = z3 − 3(x + 1/x) = z3 − 3z ‥‥④
だ。②に④と③を代入して:
(z3 − 3z) + 3(z2 − 2) + τz + (2τ − 5) = 0
∴ z3 + 3z2 + (τ − 3)z + (2τ − 11) = 0 ‥‥⑤
z = s − 1 と置くと:
(s − 1)3 + 3(s − 1)2 + (τ − 3)(s − 1) + (2τ − 11) = 0
つまり† s3 + (τ − 6)s + (τ − 6) = 0 ‥‥⑥
† 上の左辺 = (s3 − 3s2 + 3s − 1) + 3(s2 − 2s + 1) + (τ − 3)s + (−τ + 3) + (2τ − 11)
= s3 + (3 − 6 + τ − 3)s + (−1 + 3 − τ + 3 + 2τ − 11)
⑥に対応する2次方程式 y2 + (τ − 6)y − (τ − 6)3/27 = 0 を解くと‡:
y = {−(τ − 6) ± (τ − 6)√[(4τ + 3)/27]}/2
‡ 判別式 = (τ − 6)2 + 4(τ − 6)3/27 = (τ − 6)2[1 + 4(τ − 6)/27] = (τ − 6)2(4τ + 3)/27
簡潔化のため ɡ = τ − 6 と置くと、 4τ + 3 = (4τ − 24) + 27 = 4ɡ + 27。従って、
y = {−ɡ ± ɡ√[(4g + 27)/27]}/2
= 2−1⋅27−1/2⋅(−ɡ√27 ± ɡ√(4ɡ + 27)) ‥‥⑦
となるが、「120° の壁」(定理16)により必ず τ > 6 であり、 ɡ は正の実数(定理17参照)。よって⑦の値は、正の実数
2−1⋅3−3/2⋅ɡ⋅(√(4ɡ + 27) − √27)
と負の実数
−2−1⋅3−3/2⋅ɡ⋅(√(4ɡ + 27) + √27)
であり、3次方程式⑥は、実数解を一つだけ持つ(それを s1 としよう)。 Cardano の公式から:
s1 = 2−1/3⋅3−1/2⋅g1/3 {3√[√( − )√] − 3√[√( + )√]}
= −2−1/3⋅3−1/2⋅g1/3 {3√[√( + )√] − 3√[√( − )√]}
= −2−1/3⋅3−2/3⋅g1/3 {3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )]}
この最後の等号では { } 内を 31/6 倍して { } 外を 3−1/6 倍した。
〔例3〕 n = 13 のとき τ = 8, ɡ = τ − 6 = 2 なので:
s1 = −2−1/3⋅3−2/3⋅21/3 {3√(√ + 9) − 3√(√ − 9)}
= [(3√3)/3](3√(√ + 9) − 3√(√ − 9)) = −0.7709169970…
この値は
(√3/3)(3√(√ + √) − 3√(√ − √))
とも表現可能(付録2参照)。 3−2/3 = 9−1/3 なので、
3√[√( − 1 )] − 3√[√( + 1 )]
とも表現可能。
ゆえに⑤の唯一の実数解 z1 は、
z1 = s1 − 1 = −1 − 2−1/3⋅3−2/3⋅g1/3 {3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )]}
であり、それに対応する①の解を x1 = eiθ と x2 = 1/x1 = e−iθ とすると、
z1 = x1 + 1/x1 = 2 cos θ
であるから(2π/3 < θ < π)、 ε(x) の主たる根 x1 の実部は次の通り(定理17の系1参照)。
cos θ = −1/2 − 2−4/3⋅3−2/3⋅g1/3 {3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )]}
= −1/2 − [(3√A)/12](3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )]) ‥‥⑧
ただし 12ɡ = 12(τ − 6) を A と略した。
対称性から、従たる根 x4 の実部は次の通り(x1 と x4 の虚部は等しい)。
−1/2
+ [(3√A)/12](3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
主たる根 x1 の虚部を求める一つの方法は、 x + 1/x = z1 すなわち
x2 − z1x + 1 = 0
の正の虚部を求めること(負の虚部は、共役の根 x2 の虚部)。それには、判別式(値は負の実数)の −1 倍――すなわち正の実数 4 − (z1)2 ――の平方根を 2 で割ればいい。言い換えれば 1 − (z1/2)2 の平方根であり、 1 − cos2 θ の平方根 sin θ に他ならない。
表記の簡潔化のため、
u = 3√[√( + 9 )]
v = 3√[√( − 9 )]
と置くと、⑧はこうなる。
cos θ = −1/2 − [(3√A)/12](u − v) ‥‥⑨
u, v の定義から:
u2 = 3√[(√( + 9)2 )]
= 3√[(81 + A) + 2⋅9⋅√( + 92 )]
= 3√[162 + A + 18√( )]
同様に v2 = 3√[162 + A − 18√( )]
一方 uv = 3√[(√( + 9)( )√( − 9) )]
= 3√[(81 + A) − 92] = 3√A なので:
(u − v)2
= u2 + v2 − 2uv
= u2 + v2 − 2⋅3√A
従って、⑨の両辺を平方すると:
cos2 θ = [−1/2 − [(3√A)/12](u − v)]2
= 1/4
+ 2⋅1/2⋅[(3√A)/12](u − v)
+ [(3√A2)/144](u2 + v2 − 2⋅3√A)
= 1/4
+ [(3√A)/12](u − v)
+ [(3√A2)/144](u2 + v2) − A/72 ‥‥⑩
なぜなら 3√A2 × 3√A
= 3√A3 = A。
⑩を通分し、恒等式 sin2 θ = 1 − cos2 θ を使うことで、次の補題を得る。
補題8 Mirimanoff 型の6次式 ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1 の主たる根の偏角 θ は、次の関係を満たす。
A = 12(τ − 6), u = 3√[√( + 9 )], v = 3√[√( − 9 )]
と置くと:
cos2 θ = (1/144)[36 − 2A + 12⋅3√A (u − v) + 3√A2 (u2 + v2)]
sin2 θ = (1/144)[108 + 2A − 12⋅3√A (u − v) − 3√A2 (u2 + v2)]
従って、主たる根の虚部は:
sin θ = (1/12)[108 + 2A − 12⋅3√A (u − v) − 3√A2 (u2 + v2)]1/2
あるいは同じことだが、 [··· ]1/2 の部分から 121/2 = 2√3 をくくり出すと:
sin θ = (√3/6)[(9 + A/6) − 3√A (u − v) − [(3√A2)/12](u2 + v2)]1/2
例えば n = 13 のとき τ = 8, A = 12(τ − 6) = 24 なので(〔例3〕参照):
u = 3√√ + 9, v = 3√√ − 9
3√A
= 3√24 = 2⋅3√3
3√A2
= 4⋅3√9
よって補題8から:
sin θ = (1/12)[156
− 24⋅3√3 (u − v)
− 4⋅3√9 (u2 + v2)]1/2
= 0.4647184603…
あるいは、同じことだが:
sin θ =
(√3/6)[13 − 3√24 (u − v) − [(3√9)/3](u2 + v2)]1/2 (✽)
n = 13 の場合の u, v の根号表現(上記)、および u2, v2 の根号表現(下記)を(✽)に代入すれば、主たる根の虚部を表す明示的な式――整数の加減乗除と平方根・立方根だけを使った表現――が得られる。 n = 13 の場合に限らず、一般に、次が成り立つ。
補題9 任意の正の実数 X の「立方根の平方」は、同じ X の「平方の立方根」に等しい。特に、
u, v = 3√[√( ± 9 )]
= 3√[√( ± 9 )]
の根号下は正の実数なので(τ > 6):
u2, v2
=
3√[162 + A ± 18√( )]
〔例〕 n = 13 の場合、 A = 24 なので u2, v2 = 3√[186 ± 18√]。
証明 r, s を任意の実数とする。一般に、任意の複素数 X ≠ 0 を r 乗、 s 乗、ないし rs 乗すると、 X の偏角はそれぞれ r 倍、 s 倍、ないし rs 倍されるが、偏角には主値の制約があるため、時として直観に反する現象が起きる。例えば (−13)1/2 = (−1)1/2 = i と (−11/2)3 = i3 = −i = (−1)3/2 は一致しない。一般に、複素数の範囲では、 (Xr)s = Xrs = (Xs)r のような「素朴な指数の交換法則」は必ずしも成り立たない。
しかし X が正の実数ならその偏角は 0。 X を実数乗しても偏角は 0 のままで、結果は再び正の実数。つまり X が正の実数なら実数乗は「絶対値だけの計算」(事実上、偏角が絡まない)となり、「素朴な指数の交換法則」が成り立つ――特に (X1/3)2 = (X2)1/3 であり、「立方根の平方」は「平方の立方根」に等しい。例えば補題9の u に関しては、
u2 =
(3√[√( + 9 )])2
= 3√[(√( + 9)2 )]
= 3√[(81 + A) + 2⋅9√( + 92 )]
= 3√[162 + A + 18√( )]
となる。同様に v に関しては、
v2 = (3√[√( − 9 )])2
= 3√[162 + A − 18√( )]
だ。∎
上記 n = 13 の例は、付録2と本質的に同内容。ただし「主たる根の虚部」を表す式を一般的に(n = 13 の場合に限定せずに)導きたいので、処理の便宜上、付録2の
α = 3√(√ + √), β = 3√(√ − √)
の代わりに、それぞれ値が 31/6 倍されたパラメーター u, v を使っている†(よって u2, v2 は α2, β2 の 31/3 倍‡)。もし α, β を使って(✽)を書き換えると、
sin θ = (1/12)[156
− 24√3 (α − β)
− 4⋅3√27 (α2 + β2)]1/2
= (√3/6)[13 − 2√3 (α − β) − (α2 + β2)]1/2
となって、より簡潔な表現が得られる。これは n = 13 の場合の例外的なことで、一般の場合には α, β に当たる値を使うより、それぞれ 31/6 倍した u, v を使う方が、必要な根号の数が減って表現がいくらか簡単になる。
† 根号の個数を減らす原理については、「その16」参照。そこでは u, v は、それぞれ α′, β′ と記されている。
‡ この場合、 α2, β2 は 3√(62 ± 6√) に等しい(付録2参照)。
別の例。 n = 11 のとき τ = 7, A = 12(τ − 6) = 12 なので:
u = 3√(√ + 9), v = 3√(√ − 9)
3√A
= 3√12
3√A2
= 3√144
= 2⋅3√18
補題8から:
sin θ = (1/12)[132
− 12⋅3√12 (u − v)
− 2⋅3√18 (u2 + v2)]1/2
= 0.5407802604…
あるいは、同じことだが:
sin θ =
(√3/6)[11 − 3√12 (u − v) − [(3√18)/6](u2 + v2)]1/2
この場合、もし仮に u, v の代わりに
α = 3√(√ + √), β = 3√(√ − √)
を使ったとすると(つまり α, β を 31/6 倍する「通分」を使わなかったとすると)、
sin θ = (1/12)[132
− 12⋅3√(12√) (α − β)
− 2⋅3√54 (α2 + β2)]1/2
= (√3/6)[11 − [3√(12√)] (α − β) − [(3√54)/6](α2 + β2)]1/2
となる。 n = 13 の場合と違い、この表現の方が簡潔とは言い難い。むしろ根号のネストが増え、少しややこしくなる。
3√(12√)
を
6√432
と書き換えれば、見かけ上ネストを一つ減らせる。
n = 9 の場合。 τ = 19/3, A = 12(τ − 6) = 4 なので:
u = 3√(√ + 9), v = 3√(√ − 9)
3√A
= 3√4
3√A2
= 3√16
= 2⋅3√2
補題8から:
sin θ = (1/12)[116
− 12⋅3√4 (u − v)
− 2⋅3√2 (u2 + v2)]1/2
= 0.6401108292…
あるいは、同じことだが:
sin θ =
(√3/6)[29/3 − 3√4 (u − v) − [(3√2)/6](u2 + v2)]1/2
この場合も、もし α, β を使って表記しても、 sin θ の式は特に簡単にならない(n = 11 のケースと同様)。むしろ α, β の表現が、
α = 3√[√( + )√], β = 3√[√( − )√]
のように、根号下に分数を含む煩雑なものになってしまう。
実際、この α, β = 3√[√( + )√]
の形の数の C の部分は 4(τ − 6) に等しく、 C が整数になるのは τ が整数の場合(またはその 1/2 か 1/4 の場合)に限られる(比較的まれなケース)。一方、
u, v = 3√[√( ± 81 )]
の形の数の A の部分は 12(τ − 6) に等しく、 τ が 1/12 の倍数であれば A は整数になる(比較的条件が緩い)。 n = 12 または n ≥ 14 の場合には τ は有理数ですらなく、 A は整数どころか有理数でもない。 Cauchy–Mirimanoff 多項式が6次式になるとき(n = 9, 11, 13 のとき、あるいは Muir 型において n = 6, 8, 10 のとき)に関しては、 τ の値はそれぞれ 19/3, 7, 8 あるいは 15/2, 10, 27/2 なので、少なくとも n = 9 の場合には、 u, v を使った表記は(α, β を使った表現と比べ)いくぶん簡潔。一般の場合(C ないし A が有理数とは限らない)においても、 u, v は α, β と比べどちらも根号が一つ少なく、主たる根の実部を表す式では、 u, v の形式を使うことによって、全体として根号を三つ削減できる。
虚部に関しても、もし根号表現が必要なら、比較的簡潔な u, v を使った表現から導出した方が便利だろう(n = 13 の場合のような例外もあるが)。とはいえ「根号下は整数でなければいけない」という決まりがあるわけではなく、このような表記上の工夫は、問題の本質とは必ずしも関係ない。
2025-08-05 コーシー/ミリマノフ多項式(その19) 長方形状に並んだ根
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
n ≥ 3 が奇数のとき、
Pn(x) = (x + 1)n − xn − 1 ‥‥①
は Cauchy の多項式と呼ばれる。 Cauchy は Fermat の最終定理と関連して、この種の多項式を1840年ごろに研究した。 Helou (1997) は n を奇数に限らず、①をそのまま n ≥ 2 の整数に対して拡張した。 n が偶数の場合、文脈によっては、
Pn(x) = (x + 1)n + xn + 1 ‥‥②
と定義する方が自然で美しい(この点については、既に Cauchy の研究の約40年後には Muir が気付いていた)。①と②をまとめて、
Pn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n ‥‥③
と書くことができる(n が奇数の場合、③右辺の第2項・第3項の符号はマイナスだから、③は①と一致する。同様に n が偶数の場合、③は②と一致)。
多項式③(すなわち n が奇数のときには①、n が偶数のときには②)は、 n の値に応じた一定の規則に従って、因子 x(x + 1) を 0 ~ 1 個、因子 x2 + x + 1 を 0 ~ 2個、それぞれ持つ。③からこれらの因子を(あれば)取り除いたときに残る余因子は――少なくとも n が奇数の場合には―― Cauchy–Mirimanoff 多項式と呼ばれ、しばしば En で表される。
〔例〕 n = 11 のとき、 P11(x) = (x + 1)11 − x11 − 1 は因子 x(x + 1) と x2 + x + 1 を一つずつ持ち、
P11(x) = 11x(x + 1)(x2 + x + 1)(x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1)
と分解される。この場合、
E11(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1
が Cauchy–Mirimanoff 多項式の例。根に関する限り、多項式の任意の定数倍(0 倍を除く)を「同じ多項式」と見なすことができる。このメモでは、なるべく最高次の項の係数が 1 になるように多項式やその因子を表記する。
われわれは n ≥ 2 が偶数の場合にも、③をベースにして、 n が奇数の場合と同様に Cauchy–Mirimanoff 多項式(略して Mirimanoff 多項式)を定義する。 n が偶数の場合、この定義は①をベースにした Helou の定義とは、内容が異なる。「Helou 型」とは異なるこの定義を「Muir 型」と呼び、この別定義による Mirimanoff 多項式を(通常の記号 En ではなく)記号 Ēn で表すことにしよう。 n が奇数なら En と Ēn は同一だが、 n が偶数なら両者は異なる。
Muir 型の Mirimanoff 多項式は、次数が 6 の倍数(6ν とする)であり、
ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
の形の「Mirimanoff 因子」(6次式)に等しいか、または(6次を超える次数であれば)二つ以上の「Mirimanoff 因子」の積に等しい。 Ēn の根に関する限り、最も素朴な問題は、第一に、 6ν 次の Mirimanoff 多項式 Ēn を ν 個の Mirimanoff 因子 ε1, ε2, ·· · , εν に分解することであり、第二に、特定の Mirimanoff 因子 ε が与えられたとき、その2次(および4次)の係数 τ に応じて定まる六つの根を求めることだろう。
〔注〕 「根を求める」(方程式を解く)ことは、この多項式を研究の核心ではなく、皮相的な事柄に過ぎない。しかし小さい次数(6 や 12 など)の Mirimanoff 多項式を具体的に考えることは、有用な実例を提供してくれるし、それ自体として、多少の好奇心の対象ともなる。
定理19(ミリマノフ因子の四つの根は長方形状に配置される) n を 6 以上で 7 ではない整数とする。 Mirimanoff 多項式 Ēn(x) は、
ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
の形の6次式(Mirimanoff 因子)の積に分解される(τ > 6 は実数)。各 ε の六つの根のうち四つ p′, p″, q′, q″ は、
p′, p″ = −1/2 − γ ± δi
q′, q″ = −1/2 + γ ± δi
の形を持ち、複素平面上で −1/2 + 0i を中心とする長方形(その辺は縦軸または横軸と平行である)の四つの頂点に当たる。ここで γ < 1/2 と δ < (√3)/2 は正の実数で、 A = 12(τ − 6) と置くと(A も正の実数):
γ = [(3√A)/12](3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
δ =
(1/12)[108 + 2A − 12⋅3√A (3√√( + 9 ) − 3√√( − 9 ))
− 3√A2 (3√162 + A + 18√( ) + 3√162 + A − 18√( ))]1/2
ε(x) の主たる根 p′ = −1/2 − γ + δi とその共役の根 p″ は、原点を中心とする単位円上にある。
この定理のポイントは、根たちが「規則的なパターンで配列される」という点にある。
証明 定理8と補題4から、主たる根 p′ = x1 とその共役の根 p″ = x2 は絶対値 1 であり(従って単位円上にある)、定理17の系1から p′ の実部は −1/2 − γ に等しい(その共役の根 p″ についても同様)。
根の六つ組の対称性から、主たる根 p′ = x1 と従たる根 q′ = x4 は、 −1/2 + 0i を通る縦軸に平行な直線に関して、対称の位置にある。ゆえに q′ の実部は −1/2 + γ に等しい(その共役の根 q″ = x3 についても同様)。
主たる根 p′ と従たる根 q′ の共通の虚部の値が δ であることを示せば、証明は完了する(それらの根の共役の根の虚部は −δ)。
u = 3√[√( + 9 )], v = 3√[√( − 9 )] (✽)
と置くと(どちらも正の実数)、補題8から、主たる根の虚部は、
(1/12)[108 + 2A − 12⋅3√A (u − v) − 3√A2 (u2 + v2)]1/2 (✽✽)
に等しい。(✽)と補題9を考慮すると、(✽✽)は定理19の δ の式と同一。∎
例えば Ē6(x) = x6 + 3x5 + (15/2)x4 + 10x3 + (15/2)x2 + 3x + 1 の場合、 τ = 15/2, A = 12(τ − 6) = 18 なので:
γ = [(3√18)/12](3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
=
[(3√18)/12](3√[√ + 9] − 3√[√ − 9])
ここで分子から 91/3 = 32/3 をくくり出し、立方根の差から (√9)1/3 = 31/3 をくくり出せば、その両方を合わせて 32/3⋅31/3 = 3 がくくり出される。この「3」と分母の「12」を約分すれば、分母は 4 になる。約分後の状態は:
γ =
[(3√2)/4](3√(√ + 3) − 3√(√ − 3))
=
(1/4)(3√(√ + 6) − 3√(√ − 6)) ‥‥④
= 0.3675696295…
主たる根の実部は −1/2 − γ に等しく、従たる根の実部は −1/2 + γ に等しい。
同様に:
δ =
(1/12)[144 − 12⋅3√18 (3√(√ + 9) − 3√(√ − 9))
− 3√182 (3√(180 + 18√) + 3√(180 − 18√))]1/2
=
(1/12)[144 − 12⋅3⋅3√2 (3√(√ + 3) − 3√(√ − 3))
− 18(3√(10 + √) + 3√(10 − √))]1/2
この [···]1/2 の部分から 91/2 = 3 をくくり出すと:
δ =
(3/12)[16 − 4⋅3√2 (3√(√ + 3) − 3√(√ − 3))
− 2(3√(10 + √) + 3√(10 − √))]1/2
=
(1/4)[16 − 4(3√(√ + 6) − 3√(√ − 6))
− 2(3√(10 + √) + 3√(10 − √))]1/2 ‥‥⑤
= 0.4973157326…
これが、主たる根と従たる根の共通の虚部。主たる根の偏角を θ とすると sin θ = δ だ。
〔注〕 δ をこう書くことも可能。
(1/2)[4 − (3√(2√ + 6) − 3√(2√ − 6))
− (1/2)(3√(10 + 3√) + 3√(10 − 3√))]1/2
あるいは:
(√2/4)(8 − 3√(16√ + 48) + 3√(16√ − 48)
− 3√(10 + 3√) − 3√(10 − 3√))1/2
検算として、われわれは⑤を平方して 16 倍し、
16 sin2 θ = 16δ2 =
16 − 4(3√(√ + 6) − 3√(√ − 6))
− 2(3√(10 + √) + 3√(10 − √)) ‥‥⑥
を得る。一方、主たる根の実部 cos θ は −1/2 − γ に等しいので、④は、
cos θ = −1/2 − γ
=
−1/2
− (1/4)(3√(√ + 6) − 3√(√ − 6))
=
−(1/4)(2 + 3√(√ + 6) − 3√(√ − 6))
を含意する。その両辺を平方して 16 倍すると:
16 cos2 θ = (2 + 3√(√ + 6) − 3√(√ − 6))2
= 4
+ 3√(80 + 12√)
+ 3√(80 − 12√)
+ 4⋅3√(√ + 6)
− 4⋅3√(√ − 6)
− 2⋅3√8
= 2(3√(10 + 3√) + 3√(10 − 3√))
+ 4(3√(√ + 6) − 3√(√ − 6)) ‥‥⑦
⑥と⑦から 16 sin2 θ + 16 cos2 θ = 16 つまり cos2 θ + sin2 θ = 1 となり、つじつまが合っている。これによって、主たる根が単位円上にあることも、再確認される。
一般に Mirimanoff 因子の六つの根のうち四つは、複素平面上で −1/2 + 0i を中心とする長方形 p′q′q″p″ の頂点の位置に配置され、その長方形の一つの辺は、単位円上の p′ = x1 = cos θ + i sin θ と p″ = x2 = cos θ − i sin θ を結ぶ線分(縦軸に平行)に当たる(p′ は主たる根で θ はその偏角)。長方形の幅(言い換えれば、主たる根 p′ と従たる根 q′ の距離)は 2γ で、 cos θ = −1/2 − γ が成り立つ。長方形の高さ(言い換えれば p′ と p″ の距離)は 2δ で、 sin θ = δ が成り立つ。
2025-08-07 コーシー/ミリマノフ多項式(その20) E11 の六つの根
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
Cauchy は、
ƒ11(x) = (x + 1)11 − x11 − 1 = 11(x2 + x)(x2 + x + 1) × [(x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2]
ƒ13(x) = (x + 1)13 − x13 − 1 = 13(x2 + x)(x2 + x + 1)2 × [(x2 + x + 1)3 + 2(x2 + x)2]
のような恒等式を発見し、一般に n が 3 以上の奇数なら、
ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1
が (x2 + x)(x2 + x + 1)λ で割り切れることを示した(λ の値は n の値に応じて 0 or 1 or 2)。複雑といえば複雑だが、独特の美しさがある。特に、
ƒ5(x) = (x + 1)5 − x5 − 1 = 5(x2 + x)(x2 + x + 1)
ƒ7(x) = (x + 1)7 − x7 − 1 = 7(x2 + x)(x2 + x + 1)2
の二つは、きれいな恒等式だ!
ƒn(x) が (x2 + x)(x2 + x + 1)λ で割り切れるのはいいとして、割り算の結果の商 En(x) は、どんな多項式か?
その研究を始めたのが、ロシアで生まれスイスに移住した Mirimanoff であった。この「Mirimanoff の多項式」(しばしば Cauchy–Mirimanoff 多項式と呼ばれる)も実に面白い――初等的なことから深遠なことまで、いろいろな「謎」を秘めている。例えば n = 11 の場合の
E11(x) = (x2 + x + 1)3 + (x2 + x)2 = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1
の六つの根のうち二つは、実部がちょうど −1/2 に等しい。複雑そうな6次式の根の実部が、なぜちょうど −1/2 になるのだろうか?
別の二つの根は絶対値 1 で、複素平面上では単位円上にあるのだが、 n = 11 の場合、一つの根 p′ は半円周を 11 等分した 9 番目の位置の近くにある。 φ = (180/11)° を単位とすると、 p′ の偏角は 8.9994195887… に当たり、 9φ に極めて近い。これも不思議な現象に思えるかもしれない!
Cauchy–Mirimanoff の多項式の性質の中には、一般向けの美しいパズルのような部分もあり(「ロシア公式」「Wolstenholme の問題113番」など)、趣味が合えば楽しい。一方、「En は有理係数の範囲で既約」という Mirimanoff 予想の証明は難問で、現在でも未解決の懸案となっている。 Cauchy のような数世紀前の研究者を源流とするからといって、「時代遅れのつまらない話題」と侮ることはできない。
画像は6次式 E11(x) の根 p′, q′, r′; p″, q″, r″ の(複素平面上での)位置を示している。六つの根は、横座標 −1/2 の縦線を軸に左右対称に、かつ、横軸に対して上下対称に整然と配置されている。しかも「r′ と q″ は互いに逆数」「q′ は −p″ − 1 に等しい」等々、六つの根のどの一つも、他の五つの根に対して相対的に一定の関係を持ち、全体として「対称群」とか「二面体群」と呼ばれる構造を秘めている。 Mirimanoff 多項式の根を題材に「抽象代数学入門」のようなこともできそうだ。
冒険に終わりはあるのだろうか? この冒険は、きっとそれ自体が目的地なのだ!
Mirimanoff の多項式は n が偶数の場合に対しても拡張されるが、拡張の仕方は一つではない。ここでは n ≥ 3 が奇数の場合 ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1 を n(x2 + x)(x2 + x + 1)λ で割った商 を En(x) とし、 n ≥ 2 が偶数の場合には ƒn(x) = (x + 1)n + xn + 1 を 2(x2 + x + 1)λ で割った商を En(x) とする。どちらの場合も、 n が 3 の倍数なら λ = 0、 n が 3 の倍数より 1 小さければ λ = 1、 n が 3 の倍数より 1 大きければ λ = 2(このように定義すると、 En(x) は、最高次の係数が 1 の、有理係数の多項式となる)。例えば…
ƒ6(x) = (x + 1)6 + x6 + 1 =
2 × [x6 + 3x5 + (15/2)x4 + 10x3 + (15/2)x2 + 3x + 1]
ƒ7(x) = (x + 1)7 − x7 − 1 =
7(x2 + x)(x2 + x + 1)2 × [1]
ƒ8(x) = (x + 1)8 + x8 + 1 =
2(x2 + x + 1) × [x6 + 3x5 + 10x4 + 15x3 + 10x2 + 3x + 1]
ƒ9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 =
9(x2 + x) × [x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1]
ƒ10(x) = (x + 1)10 + x10 + 1
= 2(x2 + x + 1)2 × [x6 + 3x5 + (27/2)x4 + 22x3 + (27/2)x2 + 3x + 1]
ƒ11(x) = (x + 1)11 − x11 − 1 =
11(x2 + x)(x2 + x + 1) × [x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1]
︙
この [ ] 内の多項式が、それぞれの n に対応する Mirimanoff 多項式 E6, E7, E8, ··· だ。 E7(x) = 1 は定数(0次式)だが、 E6, E8, E9 などは6次式。 n がもっと大きい場合、 En は12次式、18次式などになることもある(次数は必ず 6 の倍数)。
上の定義の仕方は、 n が偶数か奇数かで基となる ƒ が変わるようで、不自然に思われるかもしれない。事実 n が偶数の場合でも同じ ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1 を基にする定義の方が、普通のようだ。でも、
ƒn(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
と考えれば、上の定義も、 n が偶数か奇数かに関係なく同じ ƒ に基づく。実はこの(ある意味、不自然とも思える)定義にはむしろ多くのメリットがあり、 Cauchy とほぼ同時代の Thomas Muir や Édouard Lucas も、当たり前のようにこっちの定義を採用している。――とはいうものの、現在このように En(x) を定義することは必ずしも一般的ではなく、定義の違いによる誤解や混乱が生じる可能性もある。区別が必要な場合には、上記のように定義された Mirimanoff 多項式を Ēn(x) で表すことにしよう(E の上に横棒を付ける)。
定義の仕方が問題になるのは n が偶数の場合であり、 n が奇数の場合には、われわれの Ēn は、一般的な定義の En と同じ多項式を表す(定数倍の違いはあるかもしれないが)。
Mirimanoff の6次式の係数は、
たx6 + けx5 + やx4 + ぶx3 + やx2 + けx + た
のように、回文的(左から読んでも右から読んでも同じ)。 た = 1 になるように必要に応じて定数倍の調整をすると(上の例では最初からそうなっている)、 け は必ず 3。 や の値は式によって異なるが、ぶ は や の 2 倍から 5 を引いたものに等しい。や の値を τ とすると、
x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
というわけ。次数が12以上の Mirimanoff 多項式も、この形式の6次式(6次の因子)の積に等しい。定数 τ は n によって異なるが、必ず 6 より大きい実数。
Mirimanoff 多項式の重要テーマは、六つ一組の根たちが作る構造。一つ一つの根の具体的な値は、必ずしも重要ではない。けれど遊び半分で、実際に根を求めてみたい。
Ē11(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1
を例としよう。
六つの根のうち二つ p′, p″ は、原点を中心とする単位円の円周上にあり、前者の偏角を θ とすると、後者の偏角は −θ (実は θ は 120° より大きく 180° より小さい)。よって p′ と p″ を結ぶ線分は、縦座標と平行。一方、二つの根 q′, q″ は、 −1/2 + 0i を通る直線(縦軸と平行な)に関して、それぞれ p′, p″ と対称の位置にある。
要するに、四つの根 p′, q′, q″, p″ は −1/2 + 0i を中心とする長方形の四つの頂点に当たる。この長方形の幅を 2γ、高さを 2δ とすると、
p′, p″ = (−1/2 − γ) ± δi
q′, q″ = (−1/2 + γ) ± δi
だ。正の実数 γ は 1/2 より小さい。従って四つの根は、横座標が 0 より小さく −1 より大きい帯状の領域にある(残りの二つの根 r′, r″ も同じ領域にある)。正の実数 δ は √(3)/2 より小さく(なぜなら p′ の偏角は 120° より大きいので δ = sin θ はその範囲)、根 q′, q″ は単位円の内側にある(それぞれ第2・第3象限)。
γ を求めることは、比較的易しい。 Ē11 の例では τ = 7 であり、定理19から、 A = 12(τ − 6) = 12 を使ってこう書くことができる。
γ = [(3√12)/12](3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
=
[(3√12)/12](3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
= 0.3411639019…
従って p′, p″ の横座標は −1/2 − γ = −0.8411639019… であり、 q′, q″ の横座標は −1/2 + γ = −0.1588360980… だ。画像を見ても、だいたいそのくらいの位置にある。
δ の代数的表現は比較的ややこしい。定理19を使うと:
δ = (1/12)[120 − 12⋅3√12 (3√√( + 9 ) − 3√√( − 9 ))
− 3√122 (3√174 + 18√( ) + 3√174 − 18√( ))]1/2
この式は、次のように簡約可能(下記「補足」参照)。
δ = (1/12)[120 − 12⋅3√12 (3√√( + 9 ) − 3√√( − 9 ))
− 6⋅3√4 (3√29 + 3√( ) + 3√29 − 3√( ))]1/2
= 0.5407802604…
すなわち p′ ないし q′ の虚部 δ は約 0.54。画像からも、 δ が単位円の半径(それは原点から 0 + i までの距離に等しい)の半分よりやや長いことが見て取れる。 p″ ないし q″ の虚部は、もちろん −δ。
問題は、残りの二つの根 r′, r″ だ。この二つの根の実部はちょうど −1/2 なのだが、虚部をどうやって決定すればいいのか…。例えば r′ は q″ の逆数であり、 q″ の実部と虚部が既に分かっているのだから、 1/q″ を求めることは、原理的には、機械的な単純計算に過ぎない。しかし現実的には q″ の代数的表現は、上記のように多重の根号をいくつも含むもの。その逆数を直接的に代数計算することは、不可能ではないとしても、必ずしも得策ではないだろう。
さいわい、回文的な6次式の根 w を求めるとき、副産物として和 w + 1/w が自然に求まる(1/w も根)。この場合でいえば r′ + q″ の(正の)虚部と、その共役複素数 r″ + q′ の(負の)虚部は、次の値を持つ。
±(1/4)(3√(4√ + 4√) + 3√(4√ − 4√))
q″ の虚部は −δ だから、 r′ の虚部を X とすると:
X + (−δ) = (1/4)(3√(4√ + 4√) + 3√(4√ − 4√))
∴ X = δ + (1/4)(3√(4√ + 4√) + 3√(4√ − 4√))
= 1.7023216604…
画像からも、 r′ の虚部(縦座標)がそのくらいの値であることが分かる。 r″ の虚部は、もちろんその −1 倍。
根を数値的に求めること(ましてや根号表現すること)は、問題の本質とはあまり関係ないのだが、 Ē11 を例に、半ば興味本位で、六つの根の代数的表現を一応求めてみた。
E6 の図解と E11 の図解はよく似ているが、根の位置などは異なる。例えば、後者の δ は前者の δ より少し大きい。
補足 3√122 (3√174 + 18√( ) + 3√174 − 18√( )) の簡約について。単純な処理に過ぎないが、微妙にトリッキーな点があるので、念のため途中計算を記す。
まず 122 = (2⋅6)2 = 22 × 6 × 6 = 4 × 6 × 6 なので:
3√122
=
3√4 × 3√6 × 3√6 ‥‥①
次に 174 = 6 × 29, 18 = 6 × 3 なので:
3√174 + 18√( ) + 3√174 − 18√( )
=
3√6 × (3√29 + 3√( ) + 3√29 − 3√( )) ‥‥②
①と②を使うと:
3√122 (3√174 + 18√( ) + 3√174 − 18√( ))
= 3√4 × 3√6 × 3√6 × 3√6 × (3√29 + 3√( ) + 3√29 − 3√( ))
= 3√4 × 6 × (3√29 + 3√( ) + 3√29 − 3√( ))
要点: 6 の立方根 3√6 を三つ掛け合わせれば 6 になるのは当然だが、この場合、 3√122 から因子 3√6 を二つしか取り出せない。しかし、その後ろの部分から、②のように 3√6 を一つくくり出せるので、トータルでは 3√6 を三つ用意でき、簡約が成立。
2025-08-10 コーシー/ミリマノフ多項式(その21) 実部 −1/2 の証明
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1 のような6次式は、実数の根を一つも持たないが、実部がちょうど −0.5 の根を二つ持つ。たわいもない現象だが、素朴に好奇心を刺激された。最初、直接、方程式を解くことでこの仕組みを解明できるかと考えた。結果は…。多少のトリックによって確かに証明できるんだけど、どうも仕組みがピンとこない。もやもやもや…
若干の試行錯誤と
例とした挙げた6次式は、古典的な Cauchy の多項式、
(x + y)11 − x11 − y11 = (x2 + xy)(x2 + xy + y2)(x6 + 3x5y + 7x4y2 + 9x3y3 + 7x2y4 + 3xy5 + y6)
で y = 1 と置いたときの、右辺の6次の因子。簡略化のため y = 1 の場合に話を限る。 n ≥ 3 が奇数で、 x = w が
ƒ(x) = (x + 1)n − xn − 1 = 0
を満たすとすれば、 x = −w − 1 も同じ式を満たす。実際、仮定により、
ƒ(w) = (w + 1)n − wn − 1 = 0 ‥‥①
が成り立つわけだが、このとき、
ƒ(−w − 1) = ((−w − 1) + 1)n − (−w − 1)n − 1
= (−w)n − (−w − 1)n − 1 ‥‥②
は、①と全く同じ値を持つ。
〔補足〕 なぜなら n が奇数のとき (−1)n = −1 だから、任意の X に対して
(−X)n = (−1)n⋅(X)n = (−1)⋅Xn = −Xn
が成り立つ。②では仮定により n は奇数なので、このことから (−w)n は −wn に等しく、 (−w − 1)n = (−(w + 1))n は −(w + 1)n に等しい。ゆえに②は次の値に等しく、要するに①に等しい。
−wn − [−(w + 1)n] − 1 = −wn + (w + 1)n − 1
このように「w が根ならば −w + 1 も根になるんだぜっ」という性質がある場合、一見、根が無限に増殖してしまうように思えるかもしれない。
x1 が根なら x2 = −x1 + 1 も根
x2 も根なので x3 = −x2 + 1 も根
x3 も根なので x4 = −x3 + 1 も根
︙
のような無限ループが起きかねないから。さいわい(と言うべきか、当たり前と言うべきか)、例えば6次式には根は六つしかないはずなので、こんな無限ループは実質的に生じ得ない。なぜかって?
w を −w − 1 に対応させる写像
を α と呼ぶことにすると、 α は「2回繰り返すと元に戻ってしまう」。つまり α(x1) = x2 なら α(x2) = x1 だ。
α(w) = −w − 1 ⇒ α(α(w)) = α(−w − 1) = −(−w − 1) − 1 = (w + 1) − 1 = w
ってなわけで。
このことを複素平面上で可視化すると…
もし A が根なら、 α によって A は −A を経由して −A − 1 に送られる(行き先の −A − 1 を P をする)。 A を −A にする、ということは、もちろん原点を中心に 180° 正反対の位置に行くこと。それマイナス 1 ということは、(虚部が変わらず実部が 1 減るのだから)縦座標は変わらず、横座標だけが左に 1 動く、ということだ。同じ変換 α を P に適用すると、 P は 180° 正反対の −P を経由して −P − 1 に送られる。既に確かめたように、もともとの出発点 A に戻る!
ここで考えているタイプの6次式(ミリマノフ因子)は、絶対値 1 の根をちょうど二つ持つ(定理8)。つまり、六つの根のうち二つは、原点を中心とする単位円の円周上にある(しかも実部が同じで、虚部の符号だけが反対)。この二つの根を A, B としよう。すると P = α(A) = −A − 1 と Q = α(B) = −B − 1 も根。今 w = u + vi を任意の複素数として(u, v: 実数)、 α による w の像
α(w) = −w − 1 = −(u + vi) − 1 = (−u − 1) − vi
を w の伴侶と呼ぶことにすると、もともとの数 w から見て、 w の伴侶は虚部が −1 倍される(もともとの虚部が v なら伴侶の虚部は −v)。言い換えると、縦座標に関しては、横軸に対して上下反対の位置に送られる(実部は u から −u − 1 に変化するが、虚部に関しては、ちょうど −1 倍される)。
整理すると…
補題10 w = u + vi を任意の複素数(ただし v ≠ 0)とし、 α(w) = −w − 1 をその伴侶と呼ぶことにする。 w が Mirimanoff 因子 ε(x) の根なら α(w) も同じ ε(x) の根。
〘ⅰ〙 伴侶の伴侶は、もともとの数に等しい。つまり α(α(w)) = w である。言い換えると、もし「X の伴侶は Y」なら「Y の伴侶は X」であり、この状況について、単に「X と Y は伴侶」と言ってもいい。
〘ⅱ〙 w の虚部と、 w の伴侶 α(w) の虚部は、絶対値が等しく符号が反対。 v ≠ 0 である限り(言い換えると w が実数でないなら)、 w とその伴侶は等しくない。
〘ⅲ〙 w の実部と、 w の伴侶 α(w) の実部の平均は、 −1/2 に等しい。言い換えると、一方の横座標が −1/2 + d なら、他方の横座標は −1/2 − d である。ここで d は実数(正、負、または 0)。
証明 〘ⅰ〙は確認済み。〘ⅱ〙は w の虚部と α(w) の虚部が互いに −1 倍という意味であり、これも確認済み。 w の虚部は v で α(w) の虚部は −v なので、 v ≠ 0 なら明らかに w ≠ α(w)。
〘ⅲ〙について。 w = u + vi の実部 u と、 α(w) = (−u − 1) − vi の実部 −u − 1 の平均は、確かに
[u + (−u − 1)]/2
= −1/2
に等しい。 w の実部 u を −1/2 + d とすると d = u + 1/2。このとき、
−1/2 − d = −1/2 − (u + 1/2) = −1 − u
は、確かに α(w) の実部に等しい。あるいは逆に α(w) の実部 −u − 1 を −1/2 + d とするなら、 d = −u − 1/2 だが、このとき、
−1/2 − d = −1/2 − (−u − 1/2) = u
は、確かに w の実部に等しい。いずれにしても、 w の実部と α(w) の実部は、ある定数 d を使って −1/2 ± d と表現することができ、言い換えると、前者の横座標と後者の横座標は、 −1/2 から逆方向に等間隔、離れている。∎
画像からも、例えば A とその伴侶 Pが、(横座標に関する限り)横座標 −1/2 の縦線を軸に、左右に等距離の場所にあることを確かめることができる。ただし、この縦線を軸に左右対称というわけではなく、ある根とその伴侶の縦座標は、一致しない(互いに −1 倍)。
A と B はもともと複素共役(虚部が正反対)なので、 A の伴侶 P = α(A) は B と同じ虚部(縦座標)を持ち、 B の伴侶 Q = α(B) は A と同じ縦座標を持つ。結果的に P と Q も互いに複素共役。
この場合 A の偏角は 120° より大きいので A の実部(u とする)は −1 < u < −1/2 の範囲にある。従って A の実部は −1/2 ではない(−1/2 より小さい)。このとき、
1/2 < −u < 1
で、 A の伴侶 P の実部 −u − 1 は −1/2 より大きく 0 より小さい。すなわち P の実部も −1/2 ではない(負だが −1/2 よりは大きい)。
同様に B の実部は −1/2 ではなく、 B の伴侶 Q の実部も −1/2 ではない。
だから、もし何らかのメカニズムによって「実部 −1/2 の根」が生じるとすれば、その「実部 −1/2 の根」は、絶対値 1 の根 A, B ではなく、それらの伴侶 P, Q でもない。よって6次式の六つの根のうち「実部 −1/2」になるものがあるとすれば、 A, B, P, Q 以外の二つの一方または両方――その一方を C とすると、他方(R とする)は当然 C の伴侶 α(C) = −C − 1 であるが、 C と R の一方、または両方の実部が −1/2 に等しい可能性がある(それ以外の四つの根 A, B, P, Q の実部は −1/2 ではない)。
ここからがすてきなところなのだが、われわれは今、個々の方程式を一切解くことなく、 C と R の実部が −1/2 に等しいことを証明できる立場にある。しかも、
x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
のタイプの、無限個の「ミリマノフの6次式」に関して、このことを一括証明できるのであるっ!
定理20(ミリマノフ因子の二つの根は実部 −1/2) n を 6 以上で 7 ではない整数とする。 Mirimanoff 多項式 Ēn(x) は、
ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
の形の6次式(Mirimanoff 因子)の積に分解される(τ > 6 は実数)。各 ε の六つの根のうち、二つは、実部が区間 (−1, −1/2) にあり、別の二つは実部が区間 (−1/2, 0) にあり、残りの二つは実部が −1/2 に等しい。
証明 われわれは Mirimanof 因子(6次式)の基本性質を知っている(定理8)。すなわち、その六つの根のうち二つ(A, B とする)は、絶対値が 1 に等しく、実部が同じ共役複素数。偏角についての条件(定理16)から、 A, B の実部は、どちらも −1/2 より小さく −1 より大きい。
よって A, B 共通の実部を −1/2 − d とすると、 d は 1/2 未満の正の数。補題10によって、 A, B の伴侶(それぞれ P, Q とする)の実部は −1/2 + d であり、すなわち P, Q の実部は、どちらも −1/2 より大きく 0 より小さい。
〔注〕 この場合の d は、定理19によって定まる正の実数 γ に他ならない。 A, B の実部は −1/2 − γ に等しく、 P, Q の実部は −1/2 + γ に等しい。
六つの根のうちの残りの二つを C と R としよう。 C が根なら α(C) も根だが、Mirimanoff 因子の根は実数ではないので、 α(C) と C は異なる根(補題10)。 C の伴侶 α(C) も根なので、必然的に R = α(C)。よって、補題10から、両者の実部は −1/2 ± d′ の形を持つ。ところが C, R の一方は P の逆数、他方は Q の逆数(定理8参照)。 P と Q は複素共役なので、それらの逆数である C と R も複素共役で、従って C と R の実部は等しい。言い換えると −1/2 + d′ と −1/2 − d′ は等しい。これは d′ = 0 を意味する。ゆえに C の実部も R の実部も −1/2 に等しい。∎
C と P は偏角が等しく、 R と Q も偏角が等しい(なぜなら、任意の複素数 X ≠ 0 から見て、 X の共役複素数と X の逆数は偏角が等しい)。そのことを前提とした上で、定理20によって、この場合「C, R が P, Q の逆数であるためには(実際、逆数なのだが)、 C, R の実部が −1/2 でなければならない」ということが、明らかになった。では逆に、この場合「C, R の実部が −1/2 ならば、 C, R は P, Q の逆数」ということは、明らかだろうか?
論理的には、答えは Yes だ――六つ組の根が二つずつ互いに逆数になること、実部 −1/2 の根が存在することは、既に証明されているのだから(定理8、定理11など)。「C, R は P, Q の逆数」という事実に関しては、現状、直観的に一目瞭然とも言い切れないが、幾何学的な方法で簡単に直接証明可能。
2025-08-24 コーシー/ミリマノフ多項式(その22) 18次式の場合
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
回文的な18次式、
2⋅Ē18(x) = (x + 1)18 + x18 + 1
= 2x18 + 18x17 + 153x16 + 816x15 + 3060x14 + 8568x13 + 18564x12
+ 31824x11 + 43758x10 + 48620x9 + 43758x8 + ··· + 153x2 + 18x + 2
は、有理係数の範囲では既約。しかし係数の範囲を拡大すれば、 Ē18(x) はミリマノフ型の三つの6次式の積に分解される。
Cauchy の多項式の一つ、
(x + 1)23 − x23 − 1 = 23(x2 + x)(x2 + x + 1)
× (x18 + 9x17 + 57x16 + 252x15 + 836x14 + 2156x13 + 4423x12 + ···)
の18次の因子についても同様。
一般に、三つの Mirimanoff 因子、
ε1(x) = x6 + 3x5 + τ1x4 + (2τ1 − 5)x3 + τ1x2 + 3x + 1
ε2(x) = x6 + 3x5 + τ2x4 + (2τ2 − 5)x3 + τ2x2 + 3x + 1
ε3(x) = x6 + 3x5 + τ3x4 + (2τ3 − 5)x3 + τ3x2 + 3x + 1
の積 ε1(x) ε2(x) ε3(x) は、次の形の回文的18次式。
ƒ(x) = x18 + a1x17 + a2x16 + a3x15 + a4x14 + a5x13 + a6x12 + a7x11 + a8x10
+ a9x9 + a8x8 + a7x7 + a6x6 + a5x5 + a4x4 + a3x3 + a2x2 + a1x + 1
積 ε1(x) ε2(x) ε3(x) を展開して係数を比較すると、 ƒ(x) = ε1(x) ε2(x) ε3(x) が成立するためには、(少なくとも)次の三つの等式が成り立たなければならない。
a2 = τ1 + τ2 + τ3 + 27 ‥‥①
a4 = τ1τ2 + τ1τ3 + τ2τ3 + 22(τ1 + τ2 + τ3) − 90 ‥‥②
a6 = τ1τ2τ3 + 18(τ1τ2 + τ1τ3 + τ2τ3) − 41(τ1 + τ2 + τ3) + 132 ‥‥③
〔注〕 a3, a5 など ƒ(x) の他の係数も、 τ1, τ2, τ3 との関係において一定の条件を満たす必要がある。上記①②③が満たされるなら、それらも満たされる。 a1 は常に 9 に等しい。
①から τ3 = a2 − τ1 − τ2 − 27。これを②③に代入して整理すると、次の二つの等式を得る。
(τ1)2 + (τ2)2 + τ1τ2 + (27 − a2)(τ1 + τ2) + 684 − 22a2 + a4 = 0
(τ1)2(τ2 + 18) + (τ2)2(τ1 + 18) + (486 − 18a2)(τ1 + τ2) + (45 − a2)τ1τ2 − 1239 + 41a2 + a6 = 0
第一式の τ1 + 18 倍から第二式を引くと:
(τ1)3 + (27 − a2)(τ1)2 + (684 − 22a2 + a4)τ1 + 13551 − 437a2 + 18a4 − a6 = 0
これは τ1 についての3次方程式。①②③を同時に満たす未知数 τ1 は、この方程式を満たす。①②③は τ1, τ2, τ3 について対称なので、 τ2, τ3 も同じ3次方程式を満たす。上記の(τ1 についての)3次式において、変数を(τ1 の代わりに)単に t と書くと:
t3 + (27 − a2)t2 + (684 − 22a2 + a4)t + (13551 − 437a2 + 18a4 − a6) = 0 (✽)
この3次式の三つの根が τ1, τ2, τ3 だ。
Ē18 の場合、 a2 = 153/2, a4 = 1530, a6 = 9282 なので(付録7参照)、(✽)はこうなる:
t3 − (99/2)t2 + 531t − (3243/2) = 0
t = u + 33/2 と置くと:
u3 − (1143/4)u − (7377/4) = 0
これを解いて(下記・補足A参照):
u = [(3√3)/2](3√(2459 + 2√) + 3√(2459 − 2√))
t = 33/2
+ [(3√3)/2](3√(2459 + 2√) + 3√(2459 − 2√))
= 36.00175417541802974781…
上記の t の値(τ1 とする)は、立方根の主値に基づく。他の二つの解(立方根の非主値に基づく)は次の通り(大きい方を τ2 とする):
τ2 = 33/2 + [(3√3)/2](ω2⋅3√(2459 + 2√) + ω⋅3√(2459 − 2√))
= 7.464097080477558…
τ3 = 33/2 + [(3√3)/2](ω⋅3√(2459 + 2√) + ω2⋅3√(2459 − 2√))
= 6.034148744104412…
ここで ω = e2πi/3 は 1 の原始立方根。
ε1 の主たる根の実部 Re x1 を求めたい。表記の簡潔化のため、便宜上、
H = (2/3)⋅3√3⋅(3√(2459 + 2√) + 3√(2459 − 2√))
と置く。このとき:
τ1 = 33/2
+ 3H/4
定理17の系1〘ⅱ〙を使うと、
(4/3)(τ1 − 6) = (4/3)(21/2 + 3H/4) = 14 + H
であり:
Re x1 = −1/2 − 3√(14 + H)/4 × (3√[√( + 3 )] − 3√[√( − 3 )])
= −0.98480775301220827231…
この根は単位円上にあり、 Re x1 は次の数値に極めて近い。
cos (17π/18)
= −0.98480775301220805936…
同様に、
H′ = (2/3)⋅3√3⋅(ω2⋅3√(2459 + 2√) + ω⋅3√(2459 − 2√))
H″ = (2/3)⋅3√3⋅(ω⋅3√(2459 + 2√) + ω2⋅3√(2459 − 2√))
と置くと、 ε2, ε3 の主たる根の実部 Re x2, Re x3 を次のように表現できる。
Re x2 = −1/2 − 3√(14 + H′)/4 × (3√[√( + 3 )] − 3√[√( − 3 )])
= −0.8660252060…
Re x3 = −1/2 − 3√(14 + H″)/4 × (3√[√( + 3 )] − 3√[√( − 3 )])
= −0.6447493264…
これら二つの根も単位円上にあり、 Re x2, Re x3 は次の数値に近い。
cos (15π/18)
= cos (5π/6)
= −0.8660254037…
cos (17π/23)
= −0.6427876096…
補足A 1143 = 3⋅381 なので、 u3 − (1143/4)u − (7377/4) に関連する2次式は:
y2 − (7377/4)y + (381/4)3
= y2 − (3⋅2459/4)y + (3⋅127/4)3
その判別式は:
(3⋅2459/4)2 − 4⋅(3⋅127/4)3
= (32/42)(24592 − 3⋅1273)
= (9/16)(−98468) = (9)/(4)(−24617)
従って根は:
y = [3⋅2459/4 ± (3/2)√−24617] / 2
= (3/8)(2459 ± 2√−24617)
その立方根は:
u = [(3√3)/2]⋅3√(2459 ± 2√)
Ē23 の場合、 a2 = 57, a4 = 836, a6 = 4423 なので(付録7参照)、(✽)はこうなる:
t3 − 30t2 + 266t − 733 = 0
t = u + 10 と置くと:
u3 − 34u − 73 = 0
これを解いて:
u = 3√[73/2 + (√ )/18]
+ 3√[73/2 − (√ )/18]
根号下の分数を解消するため、立方根号下を 18 倍し、代わりに全体を 3√18 で割る(つまり 18−1/3 = 2−1/3⋅3−2/3 = (22/3⋅31/3)(2−1⋅3−1) 倍する):
u = [(3√12)/6](3√[657 + √] + 3√[657 − √])
従って:
t = 10 + [(3√12)/6](3√[657 + √] + 3√[657 − √])
= 16.70036751053108328571…
上記の t の値(τ1 とする)は、立方根の主値に基づく。他の二つの解は次の通り:
τ2 = 10 + [(3√12)/6](ω2⋅3√[657 + √] + ω⋅3√[657 − √]) = 7.223232688398764…
τ3 = 10 + [(3√12)/6](ω⋅3√[657 + √] + ω2⋅3√[657 − √]) = 6.076399801070152…
表記の簡潔化のため、便宜上、
H = 2⋅3√(12)⋅(3√[657 + √] + 3√[657 − √])
つまり、
τ1 = 10 + (1/6)⋅(H/2)
= 10 + H/12
と置き、定理17の系1〘ⅰ〙から、 ε1 の主たる根の実部 Re x1 を求める。すなわち、
12(τ1 − 6) = 12(4 + H/12) = 48 + H
を使って、次の等式を得る:
Re x1 = −1/2 − 3√(48 + H)/12 × (3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
= −0.96291728734779810205…
この根は単位円上にあり、 Re x1 は次の数値に極めて近い。
cos (21π/23)
= −0.96291728734779929501…
同様に、
H′ = 2⋅3√(12)⋅(ω2⋅3√[657 + √] + ω⋅3√[657 − √])
H″ = 2⋅3√(12)⋅(ω⋅3√[657 + √] + ω2⋅3√[657 − √])
と置けば、 ε2, ε3 の主たる根の実部 Re x2, Re x3 を次のように表現できる。
Re x2 = −1/2 − 3√(48 + H′)/12 × (3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
= −0.854419420086897…
Re x3 = −1/2 − 3√(48 + H″)/12 × (3√[√( + 9 )] − 3√[√( − 9 )])
= −0.6823809920…
これら二つの根も単位円上にあり、 Re x2, Re x3 は次の数値に近い。
cos (19π/23)
= −0.854419404546488…
cos (17π/23)
= −0.6825531432…
付録7 Ē18, Ē19, ···, Ē23 について
付録6と同様に、 pn = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n を U = x2 + x + 1 と C = x2 + x の式として表すと、次の通り。
p18 = (2U8 + 48U5C2 + 40U2C4)⋅U + (15U6C + 50U3C3 + 3C5)⋅C
= 2U9 + 63U6C2 + 90U3C4 + 3C6
p19 = (17U7C + 85U4C3 + 17UC5)⋅U + (2U8 + 48U5C2 + 40U2C4)⋅C
= 19U8C + 133U5C3 + 57U2C5
p20 = (2U9 + 63U6C2 + 90U3C4 + 3C6)⋅U + (17U7C + 85U4C3 + 17UC5)⋅C
= 2U10 + 80U7C2 + 175U4C4 + 20UC6
p21 = (19U8C + 133U5C3 + 57U2C5)⋅U + (2U9 + 63U6C2 + 90U3C4 + 3C6)⋅C
= 21U9C + 196U6C3 + 147U3C5 + 3C7
p22 = (2U10 + 80U7C2 + 175U4C4 + 20UC6)⋅U + (19U8C + 133U5C3 + 57U2C5)⋅C
= 2U11 + 99U8C2 + 308U5C4 + 77U2C6
p23 = (21U9C + 196U6C3 + 147U3C5 + 3C7)⋅U + (2U10 + 80U7C2 + 175U4C4 + 20UC6)⋅C
= 23U10C + 276U7C3 + 322U4C5 + 23UC7
Ē18(x) = [(x + 1)18 + x18 + 1]/2 については、 (x + 1)18 の二項展開を基にしてもいい(両端の係数 1 以外は半分になる)。
x18 + 9x17 + (153/2)x16 + 408x15 + 1530x14 + 4284x13 + 9282x12 + ···
Ē23(x) は、
(x + 1)23 − x23 − 1 = 23UC(U9 + 12U6C2 + 14U3C4 + C6)
= 23(x2 + x + 1)(x2 + x)[(x2 + x + 1)9 + 12(x2 + x + 1)6(x2 + x)2 + 14(x2 + x + 1)3(x2 + x)4 + (x2 + x)6]
の U9 + 12U6C2 + 14U3C4 + C6 の部分、つまり [ ] 内に当たる。
x18 + 9x17 + 57x16 + 252x15 + 836x14 + 2156x13 + 4423x12 + ···
2025-09-10 コーシー/ミリマノフ多項式(その23) 実根も重根もない
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
例えば多項式 (x + 1)17 − x17 − 1 は
17x(x + 1)(x2 + x + 1) Ē17(x)
と分解される。
ここで Ē17(x) は12次式で、具体的には次の形を持つ。
x12 +
6x11 +
26x10 +
75x9 +
156x8 +
240x7
+
277x6
+ 240x5
+ 156x4
+ 75x3
+ 26x2 + 6x + 1
係数が回文的(1, 6, 26, 75, ··· と始まり ···, 75, 26, 6, 1 と終わる)。
12次式 Ē17 は根を12個も持つのに、その中に実数の根は一つもない。重根もない。一般に、同様に定義(詳細は後述)される任意の Ēn(x) は、実根も重根も持たない。
n ≥ 2 を任意の整数とする。
多項式 Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
から因子 x2 + x と x2 + x + 1 を(あれば)あるだけ除去した余因子を Ēn(x) で表すことにする。ただし――われわれは主に多項式の根を問題にするので――多項式の定数倍の違い(それは結論に影響しない)については、特に必要ない限り細かく指定しない(もし必要なら、最高次の係数が 1 になるように全体を有理数倍する)。 Ēn(x) は「根の六つ組」を ν 個持ち、(重複度を含めて)合計 6ν 個(つまり 6 の倍数個)の根を持つ。ここで ν は、もし n が 6 の倍数より 1 大きければ (n − 7)/6 に等しく、さもなければ n/6 の端数を切り捨てたものに等しい(補題7)。
ある六つ組に属する六つの根はどれも相異なる。のみならず、六つの根のどれか一つ(w とする)が特定されれば、それに応じて残りの五つも確定する。すなわち w が根なら、
Ow = {w, 1/w, −w − 1, −1/(w + 1), −1 − 1/w, −w/(w + 1)}
の各元は、同じ六つ組に属する根(定理5)。
注記 上記のように Ow を定義した場合、もし w が全く任意の数だとしたら Ow の各元が相異なるとは限らない。例えば w = 1 なら 1/w も = 1 だし、 w = −1/2 なら −w − 1 も −1/2 だ。しかし w が Ēn(x) の任意の根なら Ow の各元は相異なる({後述})。
Ēn(x) は Cauchy–Mirimanoff 多項式と呼ばれる(ただし n が偶数の場合の Cauchy–Mirimanoff 多項式については、上記とは異なる定義の仕方もある)。 Ēn が実数の根を持たないことについては既に証明した。ここでは別の方法で再証明を試みる。
n が偶数のとき、
Ān(x) = (x + 1)n + xn + 1 ‥‥①
は明らかに実数の根を持たない――つまり Ān(x) = 0 を満たす実数 x は存在しない。実際、実数の偶数乗は 0 または正なので、 x が実数なら①の右辺第1・第2項は 0 以上、よって①右辺は 1 以上であり、決して = 0 にはならない。よって Ān(x) の因子である Ēn(x) も、実数の根を持たない。
一方 n が奇数のとき、 x が
Ān(x) = (x + 1)n − xn − 1 ‥‥②
を割り切ることは明白(∵②の定数項 = 0。あるいは、同じことだが Ān(0) = 1n − 0n − 1 = 0)。従って x = 0 は Ān(x) の根。のみならず、 x + 1 も
Ān(x) = (x + 1)n − (xn + 1)
= (x + 1)n − (x + 1)(xn−1 − xn−2 + xn−3 − ··· − x + 1)
を{割り切る}†。従って x = −1 も Ān(x) の根。つまり Ān(x) は、少なくとも二つの実根 0, −1 を持つ。
† 次のように論じた方が手っ取り早い: n が奇数なら、 Ān(x) = (−1 + 1)n + (−(−1))n + (−1)n = 0 + 1 − 1 = 0 なので x = −1 は Ān(x) の根。
Ān(x) が三つ以上の実根を持たないことを示せば、 Ān(x) を x(x + 1) = x2 + x で割った余因子は実根を持たないこと――従って Ēn(x) は実根を持たないこと――が示される。
そのためには、実関数としての②が極値を一つしか持たないことを示せばいい。もしそれができれば、 Ān(x) のグラフが減少から増加へ(または増加から減少へ)転じるのは一度だけということになり、グラフが横軸と交わる可能性は最大でも2回と結論される。
②の導関数
n(x + 1)n−1 − nxn−1 = n[(x + 1)n−1 − xn−1]
が = 0 になることは、
(x + 1)n−1 − xn−1 = 0 つまり (x + 1)n−1 = xn−1 ‥‥③
と同値。実関数としての②を考えているのだから x は実数。仮定により n−1 は偶数。従って③は、
x + 1 = x または x + 1 = −x
を含意する。この「または」の前の式は、明らかに成り立たない。「または」の後ろの式は、ちょうど一つの解 x = −1/2 を持つ。すなわち②の導関数は(x を実数に限るなら)一度だけ 0 になる。ゆえに②の実根は 2 個以下だが、実際に 2 個の実根を持つことは上述の通り。
〔参考〕 ②の次数は偶数(n は奇数だが最高次の項は消滅)。この極値は極小値であり、負数 −1 + 1/2n−1 に等しい。
要するに n が偶数のとき Ān は実根を持たず、 n が奇数のとき Ān はちょうど二つの実根 0, −1 を持つ。 n が奇数のときの根は因子 x2 + x の根だから、いずれにしても Ēn は実根を持たない。
次に複素関数としての②を考える(n: 奇数)。もしある複素数 x が②の重根なら、その x に対して、
(x + 1)n − xn − 1 = 0 ‥‥④
が成り立ち、しかもその x は②の導関数の零点だ(つまりその x は③を満たす)。このとき、④から:
1 = (x + 1)n − xn = (x + 1)⋅(x + 1)n−1 − x⋅xn−1
③から代入して:
1 = (x + 1)⋅(x + 1)n−1 − x⋅(x + 1)n−1
= (x + 1 − x)⋅(x + 1)n−1 = (x + 1)n−1
再び③から代入して:
1 = xn−1
仮定によりこの n は 3 以上の奇数なので、②が重根を持つとしたら、それは 1 の2乗根・4乗根・6乗根…のどれかでなければならない。しかるに②が 1 の原始 m 乗根に等しい根を持つとしたら、 m = 2 or 3 に限られる(定理13)。 1 の2乗根 ±1 のうち −1 は事実②の根だが(前述)、②の実根は重複度を含めて 0, −1 の二つだけなので、 −1 は重根ではない。よって、重根の可能性があるとすれば、それは「1 の原始3乗根に等しいような、 1 の非原始6乗根・非原始12乗根…」に限られる。事実、一定の条件において②は因子 (x2 + x + 1)2 を持ち、そのとき e2πi/3 と e4πi/3 は、どちらも重根となる。
これらは Ān(x) の因子 (x2 + x + 1)2 に由来する重根だ。この因子が除去された Ēn(x) は重根を持たないし、 Ān(x) もそれ以外の重根を持たない。
同様に、もしある x が複素関数としての①の重根なら(n: 偶数)、
(x + 1)n + xn + 1 = 0 ‥‥⑤
が成り立ち、かつ、その x は①の導関数の零点。すなわち:
n(x + 1)n−1 + nxn−1 = n[(x + 1)n−1 + xn−1] = 0
∴ xn−1 = −(x + 1)n−1 ‥‥⑥
このとき⑤から:
−1 = (x + 1)n + xn
= (x + 1)⋅(x + 1)n−1 + x⋅xn−1
⑥から代入して:
−1 = (x + 1)⋅(x + 1)n−1 + x⋅(−(x + 1)n−1)
= (x + 1)n−1 = −xn−1
∴ 1 = xn−1
ゆえに①が重根を持つとしたら、それは 1 の1乗根・3乗根・5乗根…のどれかでなければならず、 n が奇数の場合と同様の結論に至る。すなわち、一定の条件において①は因子 (x2 + x + 1)2 に由来する重根を持つが、それ以外の重根を持たず、この因子が除去された Ēn(x) は重根を持たない。
〔注〕 ①ないし②が重根(それは 1 の原始3乗根である)を持つことは、①ないし②が因子 (x2 + x + 1)2 を持つことと同値。そのための必要十分条件は n ≡ 1 (mod 6) である(補題12)。
Cauchy–Mirimanoff 多項式の根の六つ組は、実係数の6次式
x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
の根として表される(定理9参照)。もしもこの6次式が重根を持つとしたら、それは 1 の原始3乗根の三重根でなければならないが(定理12の補足参照)、 Cauchy–Mirimanoff 多項式の根の六つ組においては、それは起こり得ない(定理10の系2)。つまり、ある一つの六つ組に属する六つの根は、どれも相異なる。
前述のように Ān は一定の条件において重根を持ち得るが、その重根は 1 の原始3乗根に等しい。しかし 1 の原始3乗根は Ēn の重根ではない(根ですらない)。ゆえに Ēn は重根を持ち得ない。つまり、ある Ēn が根の六つ組を複数持つ場合(例えば Ē17 の12個の根)、どの六つ組を考えても六つ組内に重根は含まれないし、ある六つ組と別の六つ組を考えても、そこに含まれる各根は相異なる(言い換えると、それぞれの六つ組に対応する τ の値は異なる)。すなわち、ある Cauchy–Mirimanoff 多項式が、同一の「根の六つ組」を二つ以上持つことはない。
2025-09-11 コーシー/ミリマノフ多項式(その24) 「重根なし」の簡単化
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
Ēn(x) は重根を持たないという事実についての、前回の証明のショートカット。
n ≥ 3 を奇数とする。もし ƒ(x) = (x + 1)n − xn − 1 = 0 を満たす x が重根なら:
ƒ′(x) = n(x + 1)n−1 − nxn−1 = 0
両辺を n で割って:
(x + 1)n−1 − xn−1 = 0
移項すると:
xn−1 = (x + 1)n−1 = [x⋅(1 + 1/x)]n−1
= xn−1⋅(1 + 1/x)n−1 (✽)
ƒ(0) = −1 なので ƒ(x) の根 x は ≠ 0。よって等式(✽)に含まれる 1/x は意味を持つ。(✽)の両辺を xn−1 (≠ 0) で割ると:
1 = (1 + 1/x)n−1 = [(−1)⋅(−1 − 1/x)]n−1
= (−1)n−1⋅(−1 − 1/x)n−1 = (−1 − 1/x)n−1 (✽✽)
なぜなら仮定により n−1 は偶数なので、 (−1)n−1 = 1。
(✽✽)は −1 − 1/x が 1 の n−1 乗根†であることを含意する(n−1 = 2, 4, 6, ···)。ところが、 x が Ēn(x) ――それは ƒ(x) の因子である――の根なら、 −1 − 1/x も同じ Ēn(x) の根(定理5)。つまり、もしも ƒ(x) の重根 x = w が Ēn(x) の根だったなら、同じ Ēn(x) の根である −1 − 1/w は 1 の n−1 乗根。それは不可能なので(定理13の系)、
ƒ(x) = Ēn(x) = 有理数 × x(x + 1)(x2 + x + 1)λ Ēn(x) ここで n は奇数、 λ = 0, 1, or 2
が重根 x = w を持つとしたらその w は Ēn(x) の根ではなく、 ƒ(x) の因子のうち、 Ēn(x) 以外のどれかの因子‡の根でなければならない。
† 原始 n−1 乗根である必要はない。しかし 1 の原始 m 乗根(m ≥ 1)が ƒ(x) の重根になる可能性があるのは、 m = 3 の場合に限られるので(定理13参照)、 ƒ(x) が重根を持つ可能性があるのは n−1 = 6, 12, 18, ··· の場合(つまり n = 7, 13, 19, ··· の場合)のみ。 1 の原始2乗根 −1 も ƒ(x) の根だが(m = 2)、重根ではない(補題14参照)。
‡ この因子は、もちろん λ = 2 のときの (x2 + x + 1)2 である。それは n = 7, 13, 19, ··· の場合に他ならない。
n ≥ 2 が偶数の場合も同様。もし ƒ(x) = (x + 1)n + xn + 1 = 0 を満たす x が重根なら:
ƒ′(x) = n(x + 1)n−1 + nxn−1 = 0
両辺を n で割って移項すると(ƒ(0) = 2 なので根 x は ≠ 0):
−xn−1 = (x + 1)n−1 = xn−1⋅(1 + 1/x)n−1
∴ −1 = (1 + 1/x)n−1
n − 1 は奇数なので:
1 = [−(1 + 1/x)]n−1 = (−1 − 1/x)n−1
これは −1 − 1/x が 1 の n−1 乗根であることを含意する(n−1 = 1, 3, 5, ···)。もしも ƒ(x) の重根 x = w が Ēn(x) の根だったなら、同じ Ēn(x) の根である −1 − 1/w は 1 の n−1 乗根。それは不可能なので、
ƒ(x) = Ēn(x) = 有理数 × (x2 + x + 1)λ Ēn(x) ここで n は偶数、 λ = 0, 1, or 2
が重根を持つとしたら、その重根は Ēn(x) の根ではなく Ēn(x) 以外の因子の根。
〔注〕 n が奇数の場合と同様の考察によると、 n が偶数のときには、 n−1 = 3, 9, 15, ··· の場合(つまり n = 4, 10, 16, ··· の場合)に限って、 ƒ(x) は重根を持つ。
n ≥ 2 を整数(偶数または奇数)とする。 ƒ(x) = Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n が重根を持つとき、それはちょうど2種類の重根 e2πi/3, e4πi/3 を持つ(1 の2種類の原始3乗根 ω, ω2 に当たる)。 Ān(x) が重根を持つことは、 Ān(x) が因子 (x2 + x + 1)2 を持つことと同値。その必要十分条件は n ≡ 1 (mod 3)。この条件が満たされれば Ān(x) は重根を持つが、その重根は、 Ān(x) の因子 Ēn(x) の根ではない。結論として、 Ēn(x) は決して重根を持たない。 Ān(x) が ω, ω2 以外の重根を持つこともない。
2025-09-14 (x + 1)n − xn − 1 の因子
多項式 ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1 の因子について。
ƒ3(x) = (x + 1)3 − x3 − 1 = 3x(x + 1) は x2 + x + 1 で割り切れない。
ƒ5(x) = (x + 1)5 − x5 − 1 = 5x(x + 1)(x2 + x + 1) は x2 + x + 1 で割り切れるが、商 5x(x + 1) は x2 + x + 1 で割り切れない。
ƒ7(x) = (x + 1)7 − x7 − 1 = 7x(x + 1)(x2 + x + 1)2 は x2 + x + 1 で割り切れ、商 7x(x + 1)(x2 + x + 1) は x2 + x + 1 でもう一度割り切れるが、そのまた商 7x(x + 1) は x2 + x + 1 で割り切れない。
つまり n = 3, 5, 7 のとき ƒn(x) は、それぞれ因子 x2 + x + 1 をちょうど 0 個, 1 個, 2 個持つ。では例えば n = 9 ならどうなるか。より一般的に、任意の整数 n ≥ 1 について、 ƒn(x) は因子 x2 + x + 1 を何個持つか。
n = 1 のとき ƒn(x) = (x + 1)1 − x1 − 1 = 0 は零多項式(恒等的に 0)であり、 x2 + x + 1 で何度でも割り切れる。この特殊なケースを除外するため、以下では n ≥ 2 の場合に話を限る。
n = 3, 5, 7 の場合の単純なパターンが拡張できるとしたら、 n = 9 のとき
ƒ9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 =? 9x(x + 1)(x2 + x + 1)3
となって ƒ9(x) が因子 x2 + x + 1 を 3 個持つかもしれない。しかし実際に左辺を展開して因子に分解してみると、そうはなっていない:
ƒ9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 3x(x + 1)(3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3)
この右辺の6次の因子は、整係数の範囲では(有理係数・実係数の範囲でも)、これ以上の分解は不可能。もっとも、
3x6 + 9x5 + 19x4 + 23x3 + 19x2 + 9x + 3
=
3(x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1)
のような「分解」(定数 3 をくくり出すこと)は可能だ。だから、
ƒ9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = 9x(x + 1)(x6 + 3x5 + (19/3)x4 + (23/3)x3 + (19/3)x2 + 3x + 1)
と書くことはできる。あるいはこの右辺先頭の因子 9 を6次の因子に組み入れて(掛け算して)、
ƒ9(x) = (x + 1)9 − x9 − 1 = x(x + 1)(9x6 + 27x5 + 57x4 + 69x3 + 57x2 + 27x + 9)
と書くこともできる。でも因子を 1/3 倍したり 3 倍したりしても「その因子が x2 + x + 1 で割り切れるか否か」という問題とは無関係。そのような「定数(0次式)の因子」(因子の定数倍の違い)については、本質と関係ないので考察対象外とする。
さて x2 + x + 1 = 0 の解を ω, ω* とすると、
ω, ω* = −1/2 ± (√−3)/2
であり、
x2 + x + 1 = (x − ω)(x − ω*)
と書くことができる。だから ƒn(x) が x2 + x + 1 で割り切れるってことは、 ƒn(ω) = 0 かつ ƒn(ω*) = 0 と同値。ここで ω* の * は(ω の)共役複素数を意味する。
〔注〕 実際、 ƒn(x) が多項式として x2 + x + 1 で割り切れるなら、その商を Q(x) とすると、
ƒn(x) = (x2 + x + 1) Q(x) = (x − ω)(x − ω*) Q(x)
となって、 ƒn(ω) = (ω − ω)(x − ω*) Q(x) = 0⋅(x − ω*) Q(x) = 0 だ。 ƒn(ω*) についても同様。他方、もし仮に ƒn(x) が多項式として x2 + x + 1 で割り切れないなら、その余りを R(x) とすると、多項式 R(x) は ≠ 0 だ(つまり零多項式ではない)。このとき、
ƒn(x) = (x2 + x + 1) Q(x) + R(x) = (x − ω)(x − ω*) Q(x) + R(x)
なんで、 ƒn(ω) = (ω − ω)(x − ω*) Q(x) + R(x) = 0⋅(x − ω*) Q(x) + R(x) = R(x) ≠ 0。 ƒn(ω*) についても同様。
すなわち ƒn(x) が x2 + x + 1 で割り切れるかどうか知りたいとき、直接的な割り算などによって答えを出す代わりに、 x = ω と x = ω* が ƒn(x) = 0 を満たすかどうかを検討してもいい。
〔参考〕 x3 = 1 つまり 0 = x3 − 1 = (x − 1)(x2 + x + 1) の三つの解は 1 の3乗根。そのうち x = 1 は、明らかに原始3乗根ではない。 x2 + x + 1 の根 ω, ω* は原始3乗根。
ω, ω* = −1/2 ± (√−3)/2
の平方は、
1/4 + 2⋅(−1/2)⋅(±(√−3)/2) + −3/4
= −1/2 ∓ (√−3)/2
なので(複号同順)、 ω2 = ω* であり (ω*)2 = ω だ。
今、 σ = 1/2 + (√−3)/2 を 1 の原始6乗根(の一つ)とすると†:
ω + 1 = (−1/2 + (√−3)/2) + 1 = σ ‥‥①
一方:
σ2 = 1/4 + 2⋅1/2⋅(√−3)/2 + −3/4
= −1/2 + (√−3)/2 = ω ‥‥②
σ4 = (σ2)2 = ω2 (= ω*) ‥‥③
①②の関係に留意すると、
ƒn(ω) = (ω + 1)n − ωn − 1 = 0
の真偽を確かめることは、
σn − (σ2)n − 1 = 0 つまり σn − σ2n = 1 (✽)
の真偽を確かめることと同じ。
† x6 = 1 つまり 0 = x6 − 1 = (x2 − 1)(x4 + x2 + 1) =
(x2 − 1)[(x2 + 1)2 − x2]
= (x2 − 1)(x2 + x + 1)(x2 − x + 1)
の六つの解は 1 の6乗根。そのうち x = ±1 は、明らかに原始6乗根ではない。因子 x2 + x + 1 の根 ω, ω* は原始3乗根であり、やはり原始6乗根ではない。因子 x2 − x + 1 の二つの根(σ, σ* とする)が 1 の原始6乗根:
σ, σ* = 1/2 ± (√−3)/2
= 1/2 ± i⋅(√3)/2
1 の原始3乗根 ω, ω* と、 1 の原始6乗根 σ, σ* は、前者の実部 −1/2 と後者の実部 1/2 の符号が逆であることを別にすれば、全く同じ根号表現を持つ(どちらも虚部が ±(√3)/2)。
σ は 1 の6乗根だから、その指数を mod 6 で考えることができる(例えば σ8 は σ2 に等しい。なぜなら σ8 = σ6⋅σ2 = 1⋅σ2)。 mod 6 で n ≡ 0 のとき、(✽)の左辺は σ0 − σ0 = 1 − 1 = 0 なので、等式(✽)は不成立。同様に n ≡ 2, 4 のときにも(✽)は不成立。実際、②③から、
σ2 − σ4 = ω − ω2 = √−3
σ4 − σ8 = σ4 − σ2 = ω2 − ω = −√−3
であり、いずれも(✽)の右辺 1 に等しくない。さらに n ≡ 3 のときも、
σ3 − σ6 = −1 − 1 = −2
なので(✽)は不成立。
〔注〕 σ3 = σ⋅σ2 = σ⋅ω
= ((√−3)/2 + 1/2)((√−3)/2 − 1/2)
= −3/4 − 1/4 = −1
他方、 n ≡ 1 (mod 6) のとき、
σ1 − σ2 = σ − ω = 1
なので、等式(✽)が成り立つ(①から σ − ω = 1)。さらに n ≡ 5 の場合にも、
σ5 − σ10 = σ5 − σ4 = σ3⋅σ2 − σ4 = −ω − ω2 = 1
なので(✽)が成立(ω は x2 + x + 1 の根なので ω2 + ω + 1 = 0)。
要するに n ≡ 1, 5 なら(✽)が成り立ち、 x = ω は ƒn(x) の根。 n ≢ 1, 5 なら(✽)は成り立たず、 ω は ƒn(x) の根ではない。 x = ω* (= ω2) についても、全く同様のことが成り立つ†。結局:
補題11 n を 2 以上の整数とする。 n が 6 の倍数より 1 大きいか、または 6 の倍数より 1 小さいとき(そして、そのときに限って)、整係数の多項式
ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1
は、 x2 + x + 1 で割り切れる。言い換えれば、そのときには何らかの(整係数の)多項式 Q(x) が存在して、次の分解が成り立つ:
ƒn(x) = (x2 + x + 1) Q(x)
† 代数的共役の性質から(あるいは単に複素共役の性質から)、もし ω が ƒ の根なら ω* も ƒ の根。この抽象論の帰結を直接確かめることも易しい。根 ω についての議論と同様の考察から、問題は等式 (ω* + 1)n − (ω*)n = σ5n − σ4n = 1 の真偽に帰着する。もし n ≡ 1 (mod 6) なら、 σ5 − σ4 = σ3⋅σ2 − σ4 = −ω − ω2 = 1 なので、その等式は真。もし n ≡ 2 (mod 6) なら、 σ10 − σ8 = σ4 − σ2 = ω2 − ω = −√−3 ≠ 1 なので、その等式は偽。等々。
ƒn(x) が x2 + x + 1 で割り切れるとき、もしその商 Q(x) が再び x2 + x + 1 で割り切れるなら、 ƒn(x) は x2 + x + 1 で(少なくとも)2回、割り切れる――言い換えれば x2 + x + 1 は因子 (x2 + x + 1)2 を持つ。 n = 7 のときの
(x + 1)7 − x7 − 1 = 7x(x + 1)(x2 + x + 1)2
はそのようなシチュエーションだが、これは例外的なケースなのだろうか。それとも n = 7 以外でも、同様の状況が発生し得るか?
ƒn(x) が因子 (x2 + x + 1)2 を持つということは、 ω, ω* がどちらも ƒn(x) の重根であることを含意する。もし ω が重根なら、 x = ω は、 ƒn(x) の根であると同時に、その導関数
ƒ′n(x) = n(x + 1)n−1 − nxn−1 = n[(x + 1)n−1 − xn−1]
の根(理由)。この(導関数の根についての)条件は、 x = ω のとき [ ] 内が 0 になること、すなわち
(ω + 1)n−1 = ωn−1 つまり σn−1 = σ2n−2 (✽✽)
と同値。 ω が ƒn の重根であるためには、まず ω が ƒn の根であることが必要なので、補題11から n ≡ 1 or 5 (mod 6)。もし n ≡ 1 なら、
σ1−1 = σ2⋅1−2
なので、(✽✽)が成り立つ(両辺とも σ0 = 1 に等しい)。一方、もし n ≡ 5 なら、
σ5−1 ≠ σ2⋅5−2
なので(左辺は③から σ4 = ω* に等しく、右辺は σ8 = σ2 = ω に等しいので、両辺は等しくない†)、(✽✽)は不成立。
† 次のように論じてもいい。 a ≡ b (mod 6) なら σa = σb で、 a ≢ b (mod 6) なら σa ≠ σb。よって σ4 ≠ σ8。
次の結論に至る。
補題12 整数 n ≥ 2 が 6 の倍数より 1 大きいとき(そして、そのときに限って)、整係数の多項式
ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1
は、 x2 + x + 1 で 2 回割り切れる。言い換えれば、そのときには何らかの(整係数の)多項式 Q(x) が存在して、次の分解が成り立つ:
ƒn(x) = (x2 + x + 1)2 Q(x)
〔例〕 n = 13 のとき、分解 (x + 1)13 − x13 − 1 = (x2 + x + 1)2 Q(x) が成り立つ。ここで:
Q(x) = 13x(x + 1)(x6 + 3x5 + 8x4 + 11x3 + 8x2 + 3x + 1)
補題12の Q(x) がさらに x2 + x + 1 で割り切れる可能性――言い換えれば ƒn(x) が因子 (x2 + x + 1)3 を持つ可能性――は、あるか。もしそれがあり得たなら、そのとき ω は ƒn の三重根であり、 x = ω は
ƒ″n(x) = n(n − 1)[(x + 1)n−2 − xn−2] = 0
を満たす。この条件は [ ] 内が 0 になること、言い換えれば
(x + 1)n−2 = xn−2 (✽✽✽)
と同値。しかるに ω が ƒn の重根の場合には n ≡ 1 (mod 6) であり、 (ω + 1)1−2 = σ−1 = σ5 と ω1−2 = σ−2 = σ4 は等しくないので、(✽✽✽)は成り立たない。
補題13 整数 n ≥ 2 が n ≡ 2 or 4 (mod 6) を満たすとき(そして、そのときに限って)、整係数の多項式
ɡn(x) = (x + 1)n + xn + 1
は、因子 x2 + x + 1 を持つ。特に n ≡ 2 (mod 6) ならこの因子をちょうど一つ持ち、 n ≡ 4 (mod 6) ならこの因子をちょうど二つ持つ――言い換えれば、そのときには何らかの(整係数の)多項式 Q(x) が存在して、次の分解が成り立つ:
ɡn(x) = (x2 + x + 1)2 Q(x)
証明 ƒn(x) = (x + 1)n − xn − 1 の代わりに、
ɡn(x) = (x + 1)n + xn + 1
を考えると、前記(✽)に相当する条件――つまり ɡn(x) が x2 + x + 1 で割り切れる必要十分条件――は:
σn + σ2n = −1 (❖)
σ0 + σ0 = 2、 σ3 + σ6 = 0 なので、 mod 6 で n ≡ 0, 3 のとき(❖)は不成立。 σ1 + σ2 は両方の項の虚部が正、 σ5 + σ10 = σ5 + σ4 は両方の項の虚部が負なので、和は実数ではなく、従って n ≡ 1, 5 のときも(❖)は不成立。一方、 σ2 + σ4 も σ4 + σ8 も ω + ω2 = −1 に等しいので(σ8 = σ2)、 n ≡ 2, 4 のときには(❖)が成立。
前記(✽✽)に相当する条件は σn−1 = −σ2n−2。 σ2−1 = σ1 と −σ2⋅2−2 = −σ2 = σ5 は等しくないので n ≡ 2 のとき、この条件は満たされない。一方 σ4−1 = −1 と −σ4⋅2−2 = −1 は等しいので、この条件は満たされる。すなわち ɡn(x) は n ≡ 2, 4 (mod 6) のとき x2 + x + 1 で割り切れ、特に n ≡ 4 のときには (x2 + x + 1)2 で割り切れるが、 n ≡ 2 のときには (x2 + x + 1)2 で割り切れない。しかし n ≡ 4 の場合でも (x2 + x + 1)3 では割り切れない。なぜなら(✽✽✽)に相当する条件は
(x + 1)n−2 = −xn−2
だが、 (ω + 1)4−2 = σ2 と −ω4−2 = (−1)⋅ω2 = σ3⋅(σ2)2 = σ7 = σ は等しくない。∎
以上の考察を整理し、若干の情報を追加すると:
定理21(コーシーの多項式の自明な因子) n を 2 以上の整数とする。整係数の多項式
Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
は、 n ≡ 0 (mod 3) なら因子 x2 + x + 1 を持たず、 n ≡ 2 (mod 3) なら因子 x2 + x + 1 をちょうど一つ持ち、 n ≡ 1 (mod 3) なら因子 x2 + x + 1 をちょうど二つ持つ。さらに Ān(x) は、もし n が奇数なら因子 x と因子 x + 1 をちょうど一つずつ持つが、もし n が偶数なら、そのどちらの因子も持たない。言い換えると、分解
Ān(x) = [x(x + 1)]κ (x2 + x + 1)λ Qn(x)
が成り立ち、 Qn(x) は x でも x + 1 でも x2 + x + 1 でも割り切れない。ここで κ は n が偶数なら 0、奇数なら 1 であり、 n ≡ 0, 1, 2 (mod 3) に応じて λ = 0, 2, 1 である。
この命題については、既に定理10として、初等的だがトリッキーな方法で証明した。今回の証明法は解析的だが、単純でストレート。定理の内容の一部は Cauchy により、二項係数の飛び石和を使った別証明も可能。
証明 n の値に応じて Ān(x) が因子 x2 + x + 1 をいくつ持つかについては――言い換えれば Ān(x) が根 ω, ω* を持つか否か、およびその二つの根を持つ場合の正確な重複度については――、補題11・補題12・補題13による。
n が奇数のとき、
Ān(0) = 1n + 0n + (−1)n = 0
Ān(−1) = 0n + (+1)n + (−1)n = 0
であり、 n が偶数のとき、
Ān(0) = 1n + 0n + (−1)n = 2 ≠ 0
Ān(−1) = 0n + (+1)n + (−1)n = 2 ≠ 0
であるから、 n が奇数なら Ān は因子 x と因子 x + 1 を持ち、 n が偶数ならそのどちらの因子も持たない。 n が奇数のときの根 x = 0, −1 がいずれも単根であることを示せば、証明は完了する。 n が奇数のとき、 Ān(x) の導関数は:
Ā′n(x) = n(x + 1)n−1 − nxn−1 = n[(x + 1)n−1 − xn−1]
その値が 0 になるための必要十分条件は、 [ ] 内が 0 になること、つまり (x + 1) の n−1 乗と x の n−1 乗が等しいこと。それには x + 1 の絶対値と x の絶対値が等しいことが必要だが、 x = 0, −1 はその必要条件を満たさないので、 Ā′n(x) の根ではない。∎
注記 y = x + 1 と置く。もしも y の絶対値と x の絶対値が異なるなら yn−1 の絶対値と xn−1 の絶対値は異なるので(n ≥ 2)、 yn−1 = (x + 1)n−1 = xn−1 は成り立ち得ない。つまり x + 1 の絶対値と x の絶対値が等しいことは、 (x + 1)n−1 = xn−1 が成り立つための必要条件(十分条件ではない)。
yn−1 = xn−1 ――すなわち n−2 次方程式 (x + 1)n−1 − xn−1 = 0 ――が実数解を持つのは、 n が奇数(n−1 が偶数)の場合に限られる(その場合の唯一の実数解は x = −1/2)。 n が偶数(n−1 が奇数)のとき、この方程式は実数解を持たない。実際、 x と y = x + 1 は明らかに等しくないが、もし両者の絶対値が等しいなら y = −x が成り立つので、 x が実数なら y = x + 1 も実数で、両者の符号は異なる。そのとき、もし n−1 が奇数なら yn−1 と xn−1 も符号が異なり、両者は等しくない。一方、もし n−1 が偶数なら yn−1 も xn−1 も正で、両者は等しい。その場合 x + 1 = y = −x つまり 2x + 1 = 0 なので、 x = −1/2。
複素数の範囲では、 n−2 次方程式 (x + 1)n−1 − xn−1 = 0 は(n が偶数でも奇数でも)もちろん n−2 個の解を持つ。
2025-09-17 コーシー/ミリマノフ多項式(その25) 因子について
#遊びの数論 #コーシーの恒等式 #ミリマノフ多項式 #Ⅱ #Ⅲ #Ⅳ
コーシーの多項式 Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n は、 n の値に応じて自明な因子 x, x + 1, x2 + x + 1 をそれぞれ 0~2 個持ち、それらを除去した余因子は、
x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + x + 1
の形の6次の因子(ミリマノフ因子)の積に分解される。既に何度か証明した内容だが、あらためて整理してみたい。
多少の簡単化を試みる。ちょっとした手順の工夫によって、6乗・5乗などの二項展開と係数比較を用いることなく、簡明な方法でミリマノフ因子の形を決定できる。
n を 2 以上の整数とする。
1. n が奇数なら Ān(x) は因子 x(x + 1) を持つこと。
n が偶数なら、
Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
= (x + 1)n + xn + 1 = 0
は、実数の解 x を持たない。なぜなら x ないし x + 1 が正でも負でもその偶数乗は 0 より大きいので、
(x + 1)n + xn + 1 > 0 + 0 + 0
は正で、決して = 0 にはなり得ない。一方、 n が奇数なら、
Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n
= (x + 1)n − xn − 1 = 0
は、実数の解 x = 0, −1 を持つ。実際、 x にこれらの数を代入すると:
(0 + 1)n − 0n − 1 = 1 − 0 − 1 = 0,
(−1 + 1)n − (−1)n − 1 = 0 − (−1) − 1 = 0
補題14 n を 3 以上の奇数とする。関数 ƒ(x) = (x + 1)n − xn − 1 の実数の根は x = 0, −1 の二つしかない。どちらも重根ではない。
〔注〕 n が奇数なら Ān(x) = (x + 1)n + (−x)n + (−1)n の左辺第2項は [(−1)x]n = (−1)nxn = −xn に等しく、左辺第3項は (−1)n = −1 に等しいので、 Ān(x) は上記 ƒ(x) の形になる。
証明 もしも ƒ(x) が実数の重根 x を持つとしたら、その実数 x は ƒ(x) の導関数の零点であり、すなわち ƒ′(x) = n(x + 1)n−1 − nxn−1 = n[(x + 1)n−1 − xn−1] = 0 を満たさなければならない。この条件は、
(x + 1)n−1 − xn−1 = 0 つまり (x + 1)n−1 = xn−1
と同値。これが成り立つためには、 x + 1 の絶対値と x の絶対値が等しいことが必要(さもなければ、前者と後者の n−1 乗は等しくない)。
x が実数の場合、 x + 1 も実数だが、もしもそのとき x と x + 1 の符号が同じなら明らかに両者の絶対値は異なる。よって前者と後者は絶対値が同じで、符号が反対でなければならない。この必要条件
x = −(x + 1) つまり 2x = −1
を満たす実数 x は −1/2 に限られる。そして x = −1/2 は、確かに
ƒ′(−1/2) = n[1 + (−1/2)]n−1 − n(−1/2)n−1
= n(1/2)n−1 − n[(−1)n−1(1/2)n−1] = 0
を満たす(n−1 は偶数なので (−1)n−1 = 1)。
すなわち、実変数関数としての ƒ(x) は極値を一つだけ持つ。ゆえに、そのグラフは最大でも 2 回しか x 軸と交わることがない。つまり ƒ(x) = 0 の実数解は最大でも 2 個。既に見たように x = 0, −1 の二つは実数解なので、それ以外の実数解はない。のみならず x = 0, −1 は ƒ′(x) = 0 を満たさないので、 x = 0, −1 は ƒ(x) の重根ではない。∎
結論として、 Ān(x) は、 n ≥ 2 が奇数なら因子 x と因子 x + 1 をちょうど一つずつ持ち、 n が偶数ならどちらの因子も持たない。
〔注〕 n = 1 の場合、 Ān(x) = (x + 1)1 − x1 − 1 は(従ってその導関数・二階導関数、等々も)恒等的に 0 に等しく、(零多項式以外の)任意の因子で何度でも割り切れる。このつまらないケースを除外するため n ≥ 2 と仮定する。
2. n が 3 の倍数でなければ Ān(x) は因子 x2 + x + 1 と持つこと。
ω を 1 の原始3乗根の一つ、すなわち、
y3 = 1 つまり y3 − 1 = (y − 1)(y2 + y + 1) = 0
の非実数解の一つとする。 ω は2次方程式 y2 + y + 1 = 0 の(二つの)解の一つに他ならない。従って、
ω2 + ω + 1 = 0 つまり ω + 1 = −ω2 ‥‥①
が成り立つ。
n が 3 の倍数でなければ x = ω は Ān(x) = 0 を満たす。実際、
Ān(ω) = (ω + 1)n + (−ω)n + (−1)n
に①から代入すると、
Ān(ω) = (−ω2)n + (−ω)n + (−1)n
= [(−1)(ω2)]n + [(−1)ω]n + [(−1)⋅1]n
= (−1)n(ω2n + ωn + 1) ‥‥②
ω は y3 = 1 の解(1 の 3乗根)だから ω3 = 1 を満たす。よって、 n が 3 の倍数なら(n = 3k とする)、
ωn = ω3k = (ω3)k = 1k = 1
であり、そのとき ω2n = (ωn)2 = (1)2 も =1。つまり n が 3 の倍数なら、
ω2n + ωn + 1 = 1 + 1 + 1 = 3
であり、そのとき②は (−1)n⋅3 に等しいので = 0 ではない。
一方、 n が 3 の倍数でないなら、 ω2n + ωn + 1 は 0 に等しく、そのとき②は = 0 だ。実際、もし n が 3 の倍数より 1 大きいなら(n = 3k+1 とする)、
ωn = ω3k+1 = ω3k⋅ω1 = 1⋅ω = ω
であるが、そのとき ω2n = (ωn)2 = (ω)2
なので、 ω2n + ωn + 1 = ω2 + ω + 1 が成り立ち、この和は①から = 0。同様に、もし n が 3 の倍数より 2 大きいなら(n = 3k+2 とする)、
ωn = ω3k+2 = ω3k⋅ω2 = 1⋅ω2 = ω2
であるが、そのとき ω2n = (ωn)2 = (ω2)2 = ω4 = ω3⋅ω = ω
なので、 ω2n + ωn + 1 = ω + ω2 + 1 となり、やはり①から = 0。
上記のことは、「1 の二つの原始3乗根 −1/2 ± √−3/2 のどちらを ω と呼ぶか」と無関係に成り立つ。仮に、
ω = −1/2 + √−3/2, ω* = −1/2 + √−3/2
とすると、 n が 3 の倍数でなければ Ān(ω) = Ān(ω*) = 0 が成り立ち、そのとき Ān(x) は、因子
(x − ω)(x − ω*) = x2 + x + 1
を持つ。 n が 3 の倍数なら Ān(ω) = Ān(ω*) = 0 は成り立たず、 Ān(x) は上記の因子を持たない。
3. n が 3 の倍数より 1 大きければ Ān(x) は因子 x2 + x + 1 をちょうど 2 個持ち、 n が 3 の倍数より 2 大きければ Ān(x) は因子 x2 + x + 1 をちょうど 1 個持つこと(n ≥ 2)。
既に見たように n が 3 の倍数でなければ(そしてそのときに限って)、 x = ω と x = ω* は Ān(x) の根であり、従って Ān(x) は因子 x2 + x + 1 を(少なくとも一つ)持つ。もし x = ω と x = ω* が重根なら、 Ān(x) はこの因子を二つ持つ。 Ān(x) の根 x が重根であるための必要十分条件は、その x が導関数の零点であること。 n が奇数の場合、補題14と同様に考えると、この条件は、
(x + 1)n−1 = xn−1
と同値。ただし補題14では x を実数の範囲で考えた。ここでは、複素数 x = ω を問題にする。①から、
(ω + 1)n−1 = ωn−1
は、
(−ω2)n−1 = ωn−1 ‥‥③
と同値。もし n が 3 の倍数より 1 大きい奇数(n = 6k+1 とする)なら n−1 = 6k は 6 の倍数なので、条件③は成り立つ。実際、そのとき③の左辺は (−ω2)6k = [(−1)6⋅ω12]k = [(ω3)4]k = (14)k = 1 に等しく、③の右辺も (ω6)k = 1 に等しい。この議論は 1 の二つの原始3乗根のどちらを ω としても成り立つから、 n が 3 の倍数より 1 大きい奇数なら Ān(x) は因子 x2 + x + 1 を(少なくとも)二つ持つ。一方、 n が 3 の倍数より 2 大きい奇数の場合(n = 6k+5 とする)、③の左辺 (−ω2)6k+4 = ω12k+8 = ω2 と③の右辺 ωn−1 = ω6k+4 = ω は等しくない。従って、この場合、 Ān(x) は因子 x2 + x + 1 を一つだけ持つ。
同様に n が 3 の倍数でない偶数の場合、 ω が Ān(x) の重根となる必要十分条件は:
(−ω2)n−1 = −ωn−1 ‥‥④
もし n が 3 の倍数より 1 大きい偶数(n = 6k+4 とする)なら、 n−1 は奇数 6k+3 なので、④の左辺は (−1)6k+3(ω2)6k+3 = (−1)ω12k+6 = −1 に等しく、④の右辺も −(ω6k+3) = −1 に等しい。一方、もし n が 3 の倍数より 2 大きい偶数(n = 6k+2 とする)なら、 n−1 は奇数 6k+1 なので、④の左辺は (−1)6k+1(ω12k+2) = −ω2 に等しいが、④の右辺は −(ω6k+1) = −ω であり、両辺は等しくない。よって n が偶数の場合にも、 n が 3 の倍数より 1 大きいか 2 大きいかによって、因子 x2 + x + 1 の個数については n が奇数の場合と同じ結論になる。
n が 3 の倍数より 1 大きい場合に限って ω は Ān(x) の重根になる。この場合、潜在的には ω が Ān(x) の三重根になる可能性がある。 ω が三重根になるための必要十分条件は、二階の導関数から:
(ω + 1)n−2 = ±ωn−2 つまり (−ω2)n−2 = ±ωn−2 ‥‥⑤
ただし複号は n が奇数(n = 6k+1 とする)なら上、偶数(n = 6k+4 とする)なら下。前者の場合、⑤は −ω = ω2 を含意し、後者の場合、⑤は ω = −ω2 を含意する。どちらも偽なので、実際には Ān(x) は重複度 3 の根 ω を持たず、従って因子 x2 + x + 1 を 3 個持つことはない。
4. Ān(x) から自明な因子 x, x + 1, x2 + x + 1 を除去した余因子 Ēn(x) の次数は 6 の倍数であること。その次数を 6ν とすると、実係数の範囲では、 x6 + 3x5 + τx4 + (2τ −5)x3 + τx2 + 3x + 1 の形の6次の因子 ν 個に分解されること。
n が奇数の場合、 Ān(x) の次数は n−1。なぜなら、その場合 Ān(x) = (x + 1)n − xn − 1 の第1項から生じる xn は、第2項の引き算によって消滅する。 n が 3 の倍数より 0, 1, 2 大きい奇数のとき(それぞれ n = 6k+3, 6k+1, 6k+5 とする)、 Ān(x) の次数はそれぞれ 6k+2, 6k, 6k+4 であり、2次の因子 x2 + x + 1 をそれぞれ 0 個、 2 個、 1 個持つ。さらに、そのいずれの場合も、2次の因子 x(x + 1) を 1 個持つ。よって余因子 Ēn(x) の次数は、それぞれ (6k+2)−2⋅0−2 = 6k, (6k)−2⋅2−2 = 6k−6, (6k+4)−2⋅1−2 = 6k。一方、 n が偶数の場合には Ān(x) の次数は n で、 n が 3 の倍数より 0, 1, 2 大きい偶数なら(それぞれ n = 6k, 6k+4, 6k+2 とする)、 Ān(x) は2次の因子 x2 + x + 1 をそれぞれ 0 個、 2 個、 1 個持つが、因子 x も因子 x + 1 も持たない。よって Ēn(x) の次数は、それぞれ (6k)−2⋅0, (6k−4)−2⋅2, (6k−2)−2⋅1 であり、いずれも 6k に等しい。
言い換えると、 Ēn(x) の次数 d は、 n が奇数でも偶数でも n から「n を 6 で割った余り」を引いたものに等しい。ただし n が 6 の倍数より 1 大きいときに限っては、 n から「n を 6 で割った余り」を引いたものより、さらに 6 小さい(n が 6k+1 の形なら Ān の次数は 6k、 Ēn の次数は 6k−6。従って、この場合 d = n−7)。いずれにしても、 Ēn(x) の次数は 6 の倍数。
x = α が Ān(x) の根なら x = −α − 1 も Ān(x) の根。実際、
Ān(α) = (α + 1)n + (−α)n + (−1)n
は、
Ān(−α − 1) = (−α − 1 + 1)n + (−(−α − 1))n + (−1)n = (−α)n + (α + 1)n + (−1)n
に等しい。
n が奇数のとき Ān(x) は因子 x(x + 1) を持ち、従って根 0, −1 を持つが、これは上記 {α, −α − 1} 型のペアの一例だ。実際 α = 0 とすれば −α − 1 = −1 だし、 α = −1 とすれば −α − 1 = 0 である。 n が 3 の倍数でないとき Ān(x) は因子 x2 + x + 1) を持ち、従って根 ω, ω2 を持つが、これも {α, −α − 1} 型のペアの一例。実際 α = ω とすれば −α − 1 = −ω − 1 = ω2 だ(①参照)。すなわち Ān(x) の自明な因子に由来する根(n の値に応じて、その個数は 0, 2, 4, or 6)は、(0 個でなければ)二つずつ {α, −α − 1} 型のペアを作る。よって、余因子 Ēn(x) に由来する根(重複度を含めて 6 の倍数個――実際には重根はないので、各根は相異なる)も、 Ēn(x) の根たちの集合の中で、必ず二つずつ {α, −α − 1} 型のペアを作る。
Ēn(x) が根 α を持つなら、 −α − 1 も Ēn(x) の根であるから、複素係数の範囲では、 Ēn(x) は、2次の因子
(x − α)(x − (−α − 1)) = x2 + x + (−α2 − α)
を持つ。同様に Ēn(x) が別の根 β, γ を持つなら―― Ēn(x) の次数は 6 の倍数なので、一つでも根があれば、必ずそれに関連して計六つの根がある――、 Ēn(x) は、因子
x2 + x + (−β2 − β), x2 + x + (−γ2 − γ)
を持つ。簡潔化のため、 −α2 − α, −β2 − β, −γ2 − γ をそれぞれ U, V, W と略すと、 Ēn(x) は、6次の因子
ε(x) = (x2 + x + U)(x2 + x + V)(x2 + x + W)
を持つ。これを展開すると、
x6 + 3x5 + (U + V + W + 3)x4 + (2U + 2V + 2W + 1)x3 + ···
となるが、この3次の係数は、4次の係数 U + V + W + 3 を 2 倍して 5 を引いたものに等しい。すなわち、4次の係数を τ とすると、
ε(x) = x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + ···
のみならず、必ず係数が実数かつ回文的になるように6次式 ε(x) を構成することができる。これが Cauchy–Mirimanoff 多項式 Ēn(x) の Mirimanoff 因子
x6 + 3x5 + τx4 + (2τ − 5)x3 + τx2 + 3x + 1
であり、 Ēn(x) の次数(それは 6 の倍数である)を 6ν とすると、 Ēn(x)は、実係数の範囲において ν 個の Mirimanoff 因子に分解される。
付記 ω2 + ω + 1 = 0 を満たすような複素数(1 の原始3乗根)を ω とすると、 ω の具体的な値を確定するまでもなく、定義から直ちに ω2 = −ω − 1。あるいは、同じことだが −ω2 = ω + 1 が成り立つ(①参照)。参考までに、 ω の具体的な値(それは2次方程式 y2 + y + 1 = 0 の解
−1/2 ± √−3/2
である)が −ω2 = ω + 1 を満たすことを直接的に確かめておく。
ω2 = 1/4 ± 2⋅(−1)/2⋅√−3/2 + −3/4
= −1/2 ∓ √−3/2 (✽)
なので:
ω + 1 = 1/2 ± √−3/2 = −ω2
複号の上下どちらを選んでも(つまり y2 + y + 1 = 0 の二つの解のどちらを ω としても)、上記の関係は成り立つ(複号同順)。二つの解は複素共役だが、(✽)から分かるように、二つの解のどちらを ω としても、その共役複素数解 ω* は ω2 に等しい。すなわち ω2 = ω* かつ (ω*)2 = ω であり、前者を後者に代入すると (ω2)2 = ω4 = ω。この等式は少し奇妙に感じられるかもしれないが、 1 の3乗根 ω は当然 ω3 = 1 を満たすのだから、 ω4 = ω3⋅ω1 = 1 × ω という当たり前の関係に過ぎない。