コーシーの定理・ラームスの公式(遊びの数論44)

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きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。


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2025-06-13 (x + y)n − xn − yn コーシーの定理の簡単化

#遊びの数論 #コーシーの恒等式

フェルマーの最終定理の n = 7 の場合と関連して、フランスの Liouville (リューヴィル と Cauchy (コーシー) は、
  (x + y)7 − x7 − y7 = 7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2
のような形の多項式(左辺)とその分解(右辺)を考えた。例えば、
  (x + y)8 + x8 + x8 は U = x2 + xy + y2 で割り切れる
  (x + y)10 + x10 + x10 は U2 = (x2 + xy + y2)2 で割り切れる
といった現象は、不透明に思われる。

Cauchy & Liouville の定理と「周期 6 の振る舞い」について、既存の文献の証明の簡単化に成功した。普通の高校生でも完全に理解できるような形で、簡潔に記述できる。アイデアの源泉は、別の場所で「ロシア公式」と呼んだもの。実際には、あのパズルの出典はロシアではなく、英国の Wolstenholme だった。

† フランス語のつづり字 -il, -ill は、母音の後ろではユ [j] と発音されることが多い(Versailles, soleil など。日本語での片仮名表記に反しイユ [ij] ではない)。しかし、母音の後ろ以外では、普通にイル [il] と発音されることが多い(ville, million など)。

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α, β, γ をとする3次式、
  ƒ(z) = (z − α)(z − β)(z − γ) = z3 − (α + β + γ)z2 + (αβ+ αγ + βγ)z − (αβγ)
を考える――言い換えれば z = α, β, γ は、3次方程式 ƒ(z) = 0 の3解。
  A = α + β + γ, B = αβ + αγ + βγ, C = αβγ
と置くと:
  ƒ(z) = z3 − Az2 + Bz − C
以下では、根の和 A = α + β + γ が = 0 だと仮定する。すると ƒ(z) の2次の項 −At2 は係数が 0 なので消滅し、
  ƒ(z) = z3 + Bz − C
となる。

ƒ(z) の根 α, β, γ をそれぞれ m 乗して足し合わせたもの(根の m 乗和)を pm で表すことにしよう:
  pm = αm + βm + γm
この記号を使うと、
  p0 = α0 + β0 + γ0 = 1 + 1 + 1 = 3
が成り立つ(α, β, γ の中に値が 0 のものがある場合でも、 00 = 1 と約束する)。さらに仮定 α + β + γ = 0 から、
  p1 = α1 + β1 + γ1 = 0
であり、
  p2 = α2 + β2 + γ2 = (α + β + γ)2 − 2(αβ + αγ + βγ) = 02 − 2(B) = −2B
も成り立つ(左から2番目の = は、基本公式 (X + Y + Z)2 = X2 + Y2 + Z2 + 2XY + 2XZ + 2YZ による)

三つの値 p0, p1, p2 についての上記の事実は、自明に近い―― 1 を三つ足しただけの p0 や、仮定をそのまま書いただけの p1 など。

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z = α, β, γ は ƒ(z) = 0 を満たすので、次の三つの値は、いずれも 0 に等しい:
  ƒ(α) = α3 + Bα − C  ‥‥①
  ƒ(β) = β3 + Bβ − C  ‥‥②
  ƒ(γ) = γ3 + Bγ − C  ‥‥③
従って、それらの和も 0 に等しい:
  ƒ(α) + ƒ(β) + ƒ(γ) = α3 + β3 + γ3 + B(α + β + γ) − 3C = 0
仮定により α + β + γ = 0 なので、上の式は、
  α3 + β3 + γ3 − 3C = 0 つまり p3 − 3C = 0
を意味する。よって:
  p3 = α3 + β3 + γ3 = 3C

より一般的に、 k を 0 以上の任意の整数として、①の αk 倍、②の βk 倍、③の γk 倍を考えよう。例えば①の αk 倍 とは、
  αk × (α3 + Bα − C) = αk⋅α3 + αk⋅Bα − αk⋅C = αk+3 + Bαk+1 − Cαk
である。同様に②の βk 倍、③の γk 倍を考え、三つを並べて書くと:
  αk+3 + Bαk+1 − Cαk
  βk+3 + Bβk+1 − Cβk
  γk+3 + Bγk+1 − Cγk
これら三つの値は、どれも 0 に等しい(なぜなら、それぞれ①②③の倍数であり、①②③はどれも 0 に等しいので)。従って、それらの和も 0 であり:
  αk+3 + βk+3 + γk+3 + B(αk+1 + βk+1 + rk+1) − C(αk + βk + γk) = 0
  つまり pk+3 + B(pk+1) − C(pk) = 0
  ∴ pk+3 = Cpk − Bpk+1  ‥‥④

k+3 = m つまり m = k−3 と置くと、次の結論に至る(これ自体は、別に目新しいアプローチではない)。

定理1 3次式 ƒ(t) = t3 + Bt − C の根の m 乗和 pm は、次の関係を満たす:
  pm = Cpm−3 − Bpm−2 ここで m は 3 以上の整数

この「再帰的公式」を使うために必要な初期値は、前述のように p0 = 3, p1 = 0, p2 = −2B ――「0 乗を三つ足したら 1 + 1 + 1 = 3」とか「仮定により根の和 = 0」とかの、たわいもない値であった。

例1 p3 を知りたいとしよう(m = 3)。その場合、 pm−3 つまり p0 = 3 と pm−2 つまり p1 = 0 を、定理1の式に当てはめればいい:
  p3 = Cp0 − Bp1 = C⋅3 − B⋅0 = 3C
この答えは、前述の p3 の値ともちろん一致。同様に:
  p4 = Cp1 − Bp2 = C⋅0 − B⋅(−2B) = 2B2
さらに、上記の p3 = 3C という情報を使うと:
  p5 = Cp2 − Bp3 = C⋅(−2B) − B⋅(3C) = −5BC
同様に、
  p6 = Cp3 − Bp4 = C⋅(3C) − B⋅(2B2) = 3C2 − 2B3
  p7 = Cp4 − Bp5 = C⋅(2B2) − B⋅(−5BC) = 7B2C
等々、その気になれば、次々とどこまでも単純計算で求めることができる。

B, C は、それぞれ ƒ(z) = z3 + Bz − C の「1次の係数」と「定数項の符号を変えたもの」。例えば、もし実数を係数とする具体的な3次式 ƒ(z) が与えられれば、それに応じて、具体的な B, C の値が定まる。しかし「B, C は何らかの数値」という考え方にこだわらず、単に「B, C は α, β, γ についての多項式を表す」と考えても構わない(例えば C は数値ではなく、3変数の式 αβγ だ――というように)。

〔参考〕 これらは Girard–Newton の一般公式の特別の場合に当たる――例えば p4 は、 Girard の4乗和の公式、
  A4 − 4A2B + 4AC − 4AD + 2B2
において A = D = 0 としたもの過ぎない。

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α, β, γ の内容については、条件 α + β + γ = 0 さえ成り立てば、どう設定しようが定理1の結論は同じなのだから、変数 x, y を使って、
  α = x + y, β = −x, γ = −y
としてもいい。このとき、確かに、
  α + β + γ = (x + y) + (−x) + (−y) = 0
が成り立ち、
  B = αβ + αγ + βγ = (x + y)(−x) + (x + y)(−y) + (−x)(−y) = −x2 − xy − y2 = −(x2 + xy + y2)
  ∴ x2 + xy + y2 = −B
  C = αβγ = (x + y)(−x)(−y) = xy(x + y)
となるから、例えば、
  p5 = α5 + β5 + γ5 = (x + y)5 + (−x)5 + (−y)5 = (x + y)5 − x5 − y5
が多項式として xy(x + y) と x2 + xy + y2 で割り切れる――という Cauchy–Liouville の1839年の定理(下記の定理2。以下 Cauchy の定理と略)の事例は、 B と C の言葉に翻訳(例1参照)すると、
  p5 = −5BC は C と B で(従って C と −B で)割り切れる
という当たり前の主張となる!

上記の例は「5乗」という一つのケースに過ぎない。簡単な「観察」と組み合わせることで、一般の「m 乗」について、統一的に見通すことができる。

例1の結果を再掲:
  p0 = 3, p1 = 0, p2 = −2B,
  p3 = 3C, p4 = 2B2, p5 = −5BC,
  p6 = 3C2 − 2B3, p7 = 7B2C

観察
 ㋐ m が 3 の倍数でないなら pm は B で割り切れる。
 ㋑ 特に m が 3 の倍数より 1 大きいとき、 pm は B2 で割り切れる。
 ㋒ m が奇数なら pm は C で割り切れる。

この「観察」は m = 0, 1, 2, ···, 7 限定ではなく、 m = 8 以降についても成り立つ。

「観察」の証明 定理1の公式を④の形で使う:
  pk+3 = Cpk − Bpk+1  ‥‥④再掲

3 の倍数でない数は、 3 の倍数より 1 大きいか、または 3 の倍数より 2 大きい。④の右辺第2項 −Bpk+1 は B の倍数なので、もし右辺第1項 Cpk も B の倍数なら、④の右辺は「B の倍数と B の倍数の和」、つまりそれ自身 B の倍数になる。従って、もし pk が B の倍数なら、④の左辺 pk+3 も B の倍数。言い換えると、もし番号 k の pk が「B の倍数」という性質を持つなら、その性質は自動的に三つ後ろの番号の pk+3 にも「遺伝」する。ところが p2 = −2B は事実 B の倍数なので、その性質は次々と三つ後ろの番号にも「遺伝」して、 p2, p5, p8, ··· は(すなわち番号が 3 の倍数より 2 大きい p は)、どれも B の倍数。

次。番号 k が、 3 の倍数より 1 大きい数 3n+1 に等しいとしよう。このとき k+3 = 3n+4 = 3(n+1)+1 も、 3 の倍数より 1 大きい。一方 k+1 = 3n+2 は 3 の倍数より 2 大きいので、この pk+1 は、上述のように B の倍数。 pk+1 を B で割った商を Q とし、 pk+1 = BQ と置いてそれを④に代入すると:
  pk+3 = Cpk − B(BQ)
この右辺第2項 −B2Q は B2 の倍数。よってこの場合、もし pk も B2 の倍数なら、左辺 pk+3 も B2 の倍数。要するに、もし3 の倍数より 1 大きい数が「B2 の倍数」という性質を持てば、その性質は三つ後ろの番号の p にも「遺伝」する。ところが p1 = 0 は事実 B2 の倍数なので、その性質は次々と三つ後ろの番号にも「遺伝」して、 p1, p4, p7, ··· は(すなわち番号が 3 の倍数より 1 大きい p は)、どれも B2 の倍数。従って、もちろん B の倍数でもある。㋐㋑が示された。

最後に㋒を示す。④の右辺第1項は C の倍数なので、もし④の右辺第2項も C の倍数なら、④の左辺は C の倍数。言い換えると、もし pk+1 が「C の倍数」という性質を持てば、その性質は二つ後ろの番号の pk+3 にも「遺伝」する。ところが p1 = 0 は事実 C の倍数なので、 p1, p3, p5, ··· は、どれも C の倍数。∎

〔注〕 「三つ後ろの番号に次々と遺伝」という表現が気に食わなければ「帰納法による」と言い換えてもいい。上記の証明の精密化

定理2(Cauchy & Liouville: 1839年) m を 3 以上の奇数とする。多項式 ƒ(x, y) = (x + y)m − xm − ym は、 xy(x + y) で割り切れる。のみならず、 m が 3 の倍数でなければ x2 + xy + y2 でも割り切れる――特に m が 3 の倍数より 1 大きいとき、 (x2 + xy + y2)2 で割り切れる。
 〔拡張〕 m ≥ 2 が偶数のときの (x + y)m + xm + ym は xy(x + y) では割り切れないが、上記「のみならず」以下と同じ性質を持つ。

証明 x + y, −x, −y を根とする3次式を考え、今までと同様に文字 A, B, C を使うと、
  A = (x + y) + (−x) + (−y) = 0
  B = (x + y)(−x) + (x + y)(−y) + (−x)(−y) = −(x2 + xy + y2)
  C = (x + y)(−x)(−y) = xy(x + y)
となる。 m が奇数のときの、
  pm = (x + y)m + (−x)m + (−y)m = (x + y)m − xm − ym
と、 m が偶数のときの、
  pm = (x + y)m + (−x)m + (−y)m = (x + y)m + xm + ym
は、どちらも m が 3 の倍数でないとき B で割り切れ(観察㋐)、従って −B = x2 + xy + y2 でも割り切れる――特に m が 3 の倍数より 1 大きければ B2 = (−B)2 = (x2 + xy + y2)2 で割り切れる(観察㋑)。一方、 m が奇数のときの、
  pm = (x + y)m − xm − ym
は、 C = xy(x + y) で割り切れる(観察㋒)。∎

再帰的公式の観察に基づくこの証明法では、 m に応じた pm つまり ƒ(x, y) の挙動が分かりやすい(しかも複素数・微分が不要で、極めて初等的)。帰納法的アイデアは Krechmar による。微分を使う標準的証明法については後述

† https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k2968p/f359.item

‡ [5], §6.15 №2 (pp. 297–298)。英訳版の誤植(p. 297ページ下から4行目): 誤 x2 + xy + y3 → 正 x2 + xy + y2

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実際の「多項式としての割り算」(因数分解)の例は次の通り。

Cauchy–Liouville 型の多項式の分解
  (x + y)3 − x3 − y3 = 3xy(x + y)
  (x + y)5 − x5 − y5 = 5xy(x + y)(x2 + xy + y2)
  (x + y)7 − x7 − y7 = 7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2

この三つ(特に最初の二つ)は Cauchy より前から経験的に知られていた可能性が高い。しかし一般の m に関して (x + y)m − xm − xm が同様の因子を持つことは、 Cauchy と Liouville によって1839年に発見された: m が 3 以上の奇数の場合の pm は自明な因子 C = xy(x + y) を持つだけでなく、それに加えて、 m が 3 の倍数(言い換えれば 6k + 3 型)以外であれば、非自明な因子 −B = x2 + xy + y2 を一つまたは二つ持つ(m が 6k + 5 型なら一つ、 6k + 1 型なら二つ)。時代背景として、 Lamé による Fermat の最終定理の n = 7 のケースの証明が1839年ごろ。それをきっかけとして Cauchy たちが (x + y)7 − x7 − y7 などを研究したのが1839~1841年ごろ。 Cauchy たちの研究は Lamé の証明に関連して、ツールとなる恒等式の一般化・簡単化の可否を検討するものだった。

† https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k163849/f203.item

7乗バージョンを{直接的な代数計算}で証明しようとすると、少し面倒くさい(それでも、一度はやる価値があると思われる)。このメモのアプローチだと、この分解は p7 = 7B2C = 7(−B)2C に過ぎない。 p7 については、 Newton の公式の一般形を使うことなく、定理1によって軽快に導出可能。

たとえ対称式のアプローチを使わず、 p7 = 7(−B)2C のような明示的表現を事前に得ていないとしても、 Cauchy の定理が確立されていれば、7乗バージョンの分解は難しくない。次のような論法が成り立つから。

xjyk の形の項(j, k: 0 以上の整数)を j+k 次と呼ぶことにする。
  (x + y)7 − x7 − y7
を展開すると、各項が7次の7次式になるが、 Cauchy の定理から、この多項式は、7次式 xy(x+y)(x2 + xy + y2)2 で割り切れる。従って、割り切った商を Q として、
  (x + y)7 − x7 − y7 = Q × [xy(x+y)(x2 + xy + y2)2]
と書くと、 Q は 0 次式つまり定数でなければならない(なぜなら、もしも Q が1次式以上だったら、左辺の7次式が右辺の8次式以上に等しいことになってしまい、つじつまが合わない)。この定数 Q が 7 であることを決定することは易しい。単に左辺の二項展開を考えてもいい。あるいは、両辺は多項式として等しいのだから x, y に何を入れても等号が成り立つ――そこで便宜上 x = y = 1 と置けば、
  27 − 1 − 1 = Q × [1⋅1⋅2⋅32] つまり 126 = 18Q
となり、 Q = 7。同様の論法は、3次・5次などの Cauchy–Liouville 型の多項式についても成り立つ。

Cauchy–Liouville 型の多項式(偶数次)の分解
  (x + y)2 + x2 + y2 = 2(x2 + xy + y2)
  (x + y)4 + x4 + y4 = 2(x2 + xy + y2)2
  (x + y)6 + x6 + y6 = 2(x2 + xy + y2)3 + 3[xy(x + y)]2

6乗バージョンは、 p6 = 3C2 − 2B3 = 2(−B)3 + 3C2 による。これは「因数分解」ではなく、 整数 × (−B)jCk の形の「和への分解」(j, k: 0 以上の整数)。

m が偶数の場合の pm は、因子 C = xy(x + y) を持たない。他方、 m が 3 の倍数(言い換えれば 6k 型)の場合を除き、因子 −B = x2 + xy + y2 を一つまたは二つ持つ(m が 6k + 2 型なら一つ、6k + 4 型なら二つ)。 m が 6k 型なら、どちらの因子も持たない。

このような「周期 6 での pm の振る舞い」に気付くことは、難しくない。例えば、1878年に Thomas Muir によって記述されている。

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pm = Cpm−3 − Bpm−2 の計算をもう少し進めてみる(機械的な単純計算だが、一つずつ進めるのは、やはりちょっと面倒)。
  p8 = C(−5BC) − B(−2B3 + 3C2) = −B(8C2 − 2B3)
  p9 = C(−2B3 + 3C2) − B(7B2C) = C(3C2 − 9B3)
  p10 = C(7B2C) − B[−B(8C2 − 2B3)] = B2(15C2 − 2B3)
  p11 = C[−B(8C2 − 2B3)] − B[C(3C2 − 9B3)] = −BC(11C2 − 11B3)
  p12 = C[C(3C2 − 9B3)] − B[B2(15C2 − 2B3)] = 3C4 − 24B3C2 + 2B6
  p13 = C[B2(15C2 − 2B3)] − B[−BC(11C2 − 11B3)] = B2C(26C2 − 13B3)
pm の因子が m に応じて変わることを再確認できる。 3 の倍数である m = 9, 12 の直前(m = 8, 11)には因子 −B があり、直後(m = 10, 13)には因子 (−B)2 がある。 m が奇数のときには、因子 C がある。

〔注〕 B のべきの符号 ± が煩雑で紛らわしい。実際には(絶対値において)係数の引き算は起きない――符号を無視して計算して、最後に B の奇数乗に当たる項にだけ − を付ければ同じことになる。あるいは、いっそのこと基本対称式 B = αβ + αγ + βγ を使うのをやめ、初めから B の代わりに U = −B = −(αβ + αγ + βγ) を使ってもいい。

Cauchy–Liouville 型の多項式の分解(続き)
  (x + y)9 − x9 − y9 = 3xy(x + y) × {3(x2 + xy + y2)3 + [xy(x + y)]2}
  (x + y)11 − x11 − y11 = 11xy(x + y)(x2 + xy + y2) × {(x2 + xy + y2)3 + [xy(x + y)]2}
  (x + y)13 − x13 − y13 = 13xy(x + y)(x2 + xy + y2)2 × {(x2 + xy + y2)3 + 2[xy(x + y)]2}

双子素数 m = 11, 13 に対応する二つの式は、似た形の「余因子」を持つ:
  (x2 + xy + y2)3 + [xy(x + y)]2 と
  (x2 + xy + y2)3 + 2[xy(x + y)]2
という微妙な違いだけ。この印象的な二つの分解は Cauchy 自身によって(m = 3, 5, 7 の三つの場合とともに)記載され(1841年)、 J. W. L. Glaisher によっても再発見された(1878年)。

Cauchy–Liouville 型の多項式の分解(偶数次・続き)
  (x + y)8 + x8 + y8 = 2(x2 + xy + y2) × {(x2 + xy + y2)3 + 4[xy(x + y)]2}
  (x + y)10 + x10 + y10 = (x2 + xy + y2)2 × {2(x2 + xy + y2)3 + 15[xy(x + y)]2}
  (x + y)12 + x12 + y12 = 2(x2 + xy + y2)3 × {(x2 + xy + y2)3 + 12[xy(x + y)]2} + 3[xy(x + y)]4

† https://archive.org/details/exercicesdanaly02caucrich/page/n142/mode/1up
Cauchy–Liouville の1839年の定理では、暗黙に m が(正の)奇素数と仮定されている。 Cauchy の1841年の記述では m が任意の(正の)奇数となった。偶数の場合については明記されていない。

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紹介した証明法は、当然、既に知られているに違いない。文献上は微分や対数関数の級数を使う方法が一般的で、このような平明なアプローチは一般的でないようだ。

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2025-06-17 (x + y)n − xn − yn コーシーの定理の別証明

#遊びの数論 #コーシーの恒等式

(x + y)5 − x5 − y5 = 5xy(x + y)(x2 + xy + y2) という分解や、その7乗バージョンは、独特の美しさを持つ。この分解は5乗と7乗のときだけの特殊現象ではなく、11乗・13乗等々の同様の式も、同様の因子を持つ。「二項係数の飛び石和」との関連性は、単純な観察だが面白い。

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n を 6k ± 1 型の 5 以上の奇数とする。このとき、
  (x + y)n − xn − yn
は、多項式として、
  xy(x + y)(x2 + xy + y2)
で割り切れる。特に、もし n が 6k + 1 型の奇数なら、
  xy(x + y)(x2 + xy + y2)2
で割り切れる。この定理は Cauchy と Liouville によって1839年に記され(暗黙に n は奇素数と仮定)、 Cauchy によって再び1841年に記された(明示的に n は奇数と仮定)。

〔例〕 n = 5 のとき (x + y)5 − x5 − y5 = 5xy(x + y)(x2 + xy + y2)
n = 7 のとき (x + y)7 − x7 − y7 = 7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2
n = 11 のとき (x + y)11 − x11 − y11 = 11xy(x + y)(x2 + xy + y2)(x6 + 3x5y + 7x4y2 + 9x3y3 + 7x2y4 + 3xy5 + y6)
n = 13 のとき (x + y)13 − x13 − y13 = 13xy(x + y)(x2 + xy + y2)2(x6 + 3x5y + 8x4y2 + 11x3y3 + 8x2y4 + 3xy5 + y6)

〔注〕 「n が素数」という限定の有無が違いを生む最小のケースは n = 25。実際、 3 以上 50 以下の 6k ± 1 型の奇数は、 25, 35, 49 を除き全て素数(5, 7; 11, 13; 17, 19; 29, 31; 41, 43 は双子素数)。 6k ± 1 型の合成数は、 6k ± 1 型の素数二つ以上(必ずしも相異ならない)の積から成る。 n を素数に限るなら、 (x + y)n − xn − yn は n で割り切れる(いわゆる新入生の夢)。

この定理については、既に(やや長いが)単純な証明を記した。以下では、微分を使う別証明を記す。

証明 ƒ(x) = (x + y)n − xn − yn を x についての多項式と見る。その場合 y は定数。 y = 0 なら ƒ(x) は零多項式であり、任意の因子を持つから、定理は自明。 y ≠ 0 と仮定する。 ƒ(x) が x で割り切れることは二項展開から明白。 ƒ(0) = yn − yn = 0 ということからも ƒ(x) は因子 x − 0 = x を持つ。(y を変数と見ると)対称性から ƒ(x) は y でも割り切れる。さらに、
  ƒ(−y) = 0n − (−y)n − yn = 0 − [−(yn)] − yn = 0
なので(∵ n は奇数)、 ƒ(x) は因子 x − (−y) = x + y を持つ。

今 1 の原始3乗根の任意の一つを ω とする。 ω2 + ω + 1 = 0 であり ω + 1 = −ω2。従って:
  ƒ(ωy) = (ωy + y)n − (ωy)n − yn
   = yn[(ω + 1)n − ωn − 1] = yn[(−ω2)n − ωn − 1]
仮定により n は奇数だから (−ω2)n = (−1)2nω2n = −ω2n であり、上の式はこうなる:
  ƒ(ωy) = −yn2n + ωn + 1]
n は 3 の倍数ではないので、上記最後の式の [ ] 内は 0 に等しい。よって ƒ(ωy) は = 0 であり、多項式 ƒ(x) は(複素係数の範囲では)因子 x − ωy を持つ。のみならず ω は原始3乗根の任意の一つであるから、 ω を ω2 に置き換えても同様の議論が成り立ち、 ƒ(x) は因子 x − ω2y を持つ。従って ƒ(x) は、両者の積で割り切れる。つまり、
  (x − ωy)(x − ω2y) = x2 − (ωy + ω2y)x + (ωy)(ω2y)
   = x2 − (ω + ω2)xy + (ω3)y2 = x2 + xy + y2
で割り切れる(最後の等号は ω + ω2 = −1 による)。

もし x = ωy が ƒ(x) の重根なら x = ω2y も重根であり、その場合 ƒ(x) は、
  (x − ωy)2(x − ω2y)2 = (x2 + xy + y2)2
で割り切れる。この重根の存在条件は次の通り。解析学によれば、
  x = ωy が ƒ(x) の重根 ⇔ x = ωy が ƒ′(x) の根
であり、 ƒ′(x) = n(x + y)n−1 − nxn−1 であるから、次の値が = 0 であることが、必要十分条件:
  ƒ′(ωy) = n(ωy + y)n−1 − n(ωy)n−1 = nyn−1(ω + 1)n−1 − nyn−1ωn−1
   = nyn−1[(ω + 1)n−1 − ωn−1]
   = nyn−1[(−ω2)n−1 − ωn−1]

n ≠ 0, y ≠ 0 であり n−1 は偶数なので、上記の値が = 0 になるか否かは、
  [ ] 内 = ω2n−2 − ωn−1 = ωn−1n−1 − 1)
が = 0 か否かで決まる。それは ωn−1 − 1 が = 0 か否かによって決まり(∵ ωn−1 ≠ 0)、それは n−1 が ≡ 0 (mod 3) か否かによって決まる。結局、上述の重根が存在するための必要十分条件は、奇数 n が 3 の倍数より 1 大きいこと(言い換えれば 6k + 1 型であること)。∎

† ω2 + ω + 1 = 0 や、それを移項して生じるさまざまな等式については、 0°, 120°, 240° 方向の長さ 1 のベクトルの足し算をイメージすると、感覚的に分かりやすい。例えば ω を 120° とすると ω + 1 は 120° と 0° の合体なので、向きが平均されて 60° 方向(1 の原始6乗根のうち第1象限にあるもの)。それは 240° の方向にある ω2 の 180° 反対、つまり −ω2 に他ならない。

‡ 多項式 ƒ(x) が = (x − α)(x − β)Q(x) と分解されたとする。
  ƒ′(x) = (x − α)′(x − β)Q(x) + (x − α)(x − β)′Q(x) + (x − α)(x − β)Q′(x)
   = (x − β)Q(x) + (x − α)Q(x) + (x − α)(x − β)Q′(x)
であるから、もし α = β が重根なら ƒ′(α) = ƒ′(β) は = 0 だ。反対に α が重根でないとしよう。もしも α = β または Q(α) = 0 だったら α は重根なので、「重根でない」という仮定は、
  α − β ≠ 0 かつ Q(α) ≠ 0
を含意し、その仮定においては、
  ƒ′(α) = (α − β)Q(α) + 0⋅Q(α) + 0⋅(α − β)Q′(α) = (α − β)Q(α)
は ≠ 0 だ。

〔付記〕 この証明法は [1] に基づく。 Krechmar [5], §6.15 も参考にした: p. 297 下から4行目の xn2n + 1 + εn} 等は −xn2n + 1 + εn} とした方がより良いだろう(英訳の誤植ではなく、ロシア語版にもある不備)。

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Cauchy の定理の上記の証明の中で、 5 以上の奇数 n が 3 で割り切れないとき、
  ƒ(ωy) = yn[(ω + 1)n − ωn − 1] = 0
が成り立つことが観察された(n = 1 に対しても真)。その根拠は基本性質 ω + 1 = −ω2 だった。別の観点から、そのことは、
  (ω + 1)n − ωn − 1
の二項展開の飛び石和が、次の性質を持つことを含意している。すなわち、 (ω + 1)n を展開したときの、
  A: ω3k = ω0 = 1 を含む項の二項係数たちの和
  B: ω3k+1 = ω1 = ω を含む項の二項係数たちの和
  C: ω3k+2 = ω2 を含む項の二項係数たちの和
を考えると、もし n が 3k+1 型なら A = B = C + 1、もし n が 3k+2 型なら A = C = B + 1。

〔例1〕 (ω + 1)5 = (1 + ω)5 = 1ω0 + 5ω1 + 10ω2 + 10ω3 + 5ω4 + 1ω5
   = (1 + 10)ω0 + (5 + 5)ω1 + (10 + 1)ω2
  → A = C = 11 は B = 10 より 1 大きい

〔例2〕 同様に (ω + 1)7 = 1ω0 + 7ω1 + 21ω2 + 35ω3 + 35ω4 + 21ω5 + 7ω6 + 1ω7
   = (1 + 35 + 7)ω0 + (7 + 35 + 1)ω1 + (21 + 21)ω2
  → A = B = 43 は C = 42 より 1 大きい

なぜそうなる? 飛び石和の性質(定理3.3)からも同じ結論が出るけど、直接的に、次のように論じることができる。上記 ƒ(ωy) = yn[(ω + 1)n − ωn − 1] の値が = 0 になるということは、 (ω + 1)n を展開してそこから ωn と 1 = ω0 を引き算したものが、
  1 + ω + ω2 = ω0 + ω1 + ω2 = 0
の整数倍に等しい、ということ。よって、もし ωn = ω1 なら、上記の引き算は、
  (Aω0 + Bω1 + Cω2) − 1⋅ω1 − 1⋅ω0 = (A − 1)ω0 + (B − 1)ω1 + Cω2 = 0
となるから A − 1 = B − 1 = C が成り立たねばならない。同様に、もし ωn = ω2 なら、
  (Aω0 + Bω1 + Cω2) − 1⋅ω2 − 1⋅ω0 = (A − 1)ω0 + Bω1 + (C − 1)ω2 = 0
となるから A − 1 = C − 1 = B が成り立たねばならない。

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逆にこの観察を出発点として、二項係数の刻み幅 3 の飛び石和の性質(定理3.3)について、簡潔な別証明が得られる。

命題 n を負でない奇数とする。
  A = {for k}(n C 3k), B = {for k}(n C 3k+1), C = {for k}(n C 3k+2)
は(記号についての説明)、もし n が 3 で割り切れないなら、次の関係を満たす。
  n ≡ 1 (mod 6) ⇒ A = B = C + 1
  n ≡ −1 (mod 6) ⇒ A = C = B + 1
いずれの場合も A = (2n + 1)/3 が成り立つ。一方、もし n が 3 で割り切れるなら、
  A + 1 = B = C
が成り立ち、 A は (2n − 2)/3 に等しい。

証明 ω2 + ω + 1 = 0 であり、 1 + ω = −ω2 である。従って、 n が 3 で割り切れない奇数なら、
  (1 + ω)n − ω0 − ωn = (−ω2)n − ω − ωn = −(ω2n + 1 + ωn) = 0
が成り立つ。今 (1 + ω)n を二項定理で展開し ω の指数を mod 3 で 0, 1, 2 のいずれかに簡約したとすると、
  (1 + ω)n = Aω0 + Bω1 + Cω2
となる。よって、もし n ≡ 1 (mod 3) なら、
  (1 + ω)n − ω0 − ωn = (A − 1)ω0 + (B − 1)ω1 + Cω2
が = 0 なのだから、 A − 1 と B − 1 と C は等しい。同様に、もし n ≡ 2 (mod 3) なら A − 1 と B と C − 1 は等しい。

二項係数の性質から A + B + C = 2n だが、 A, B, C のうちの最大値と最小値の違いは 1 なので、三つの値のそれぞれは、 2n/3 の端数を切り捨てたもの、または端数を切り上げたもの。 n が 3 で割り切れない奇数なら A = max(A, B, C) なので、 A は 2n/3 の端数を切り上げたものだ。

一方、 1 + ω は 1 の原始6乗根だから、もし n が 6k + 3 型の奇数なら (1 + ω)n = −1 が成り立つ。 ω0 + ω1 + ω2 = 0 と ω1 + ω2 = −1 に留意しつつ、上記と同様に考えると、
  Aω0 + Bω1 + Cω2 = ω1 + ω2 = −1
であるから、 A と比べ B, C が 1 大きいことは明白。この場合、 A は 2n/3 の端数を切り捨てたものだ。∎

〔注〕 n が負でない奇数なら 2n ≡ 2 (mod 3) であり、 2n/3 は 2/3 の端数を持つ。従って A, B, C のうち二つで +1/3 の切り上げが生じ、残りの一つで −2/3 の切り捨てが生じる。

n が偶数の場合の飛び石和についても、同様の証明の仕方が考えられる。 n が 6k ± 2 型の偶数なら (1 + ω)n + ω0 + ωn = 0 が成り立つことと、 n が 6k 型の偶数なら (1 + ω)n = 1 が成り立つことに、基づけばいいだろう。

† 偶数 n = 6k ± 2 を = 2u とすると、 u は 3 で割り切れない。 1 + ω は ω の平方根なので (1 + ω)n = (1 + ω)2u = ωu だが、この複素数は ωn = ω2u等しくない。あるいは、より簡潔に、
  ω0 + (1 + ω)n + ωn = 1 + ωu + ω2u
は、等比数列の和

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〔参考文献〕
[1] Paulo Ribenboim (1999), Fermat’s Last Theorem for Amateurs, pp. 220–234
https://web.archive.org/web/20240724071719/https://euc.education/library/paulo-ribenboim-fermats-last-theorem-for-amateur
[2] —— (1979), 13 Lectures on Fermat's Last Theorem, pp. 46–49
https://staff.math.su.se/shapiro/ProblemSolving/13%20Lectures%20on%20Fermat%27s%20Last%20Theorem.pdf
〔関連資料〕
Arthur Cayley (1879), An algebraical identity [Col. Math. Papers, vol. 11, pp. 63–64]
https://archive.org/details/collmathpapers11caylrich/page/n86/mode/1up
Eugène Catalan (1884, 1886), Sur le dernier théorème de Fermat
https://archive.org/details/moiresdelasociro2136soci/page/395/mode/1up
Edouard Lucas (1891), Théorie des nombres, p. 267, pp. 275–276
https://archive.org/details/thoriedesnombr01lucauoft/page/267/mode/1up

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2025-06-18 コーシー/ミリマノフ多項式 7乗を越えて

#遊びの数論 #コーシーの恒等式

コーシーの恒等式で y = 1 と置いたもののうち、
  (x + 1)5 − x5 − 1 = 5x(x + 1)(x2 + x + 1)
  (x + 1)7 − x7 − 1 = 7x(x + 1)(x2 + x + 1)2
の二つは、全部の根が一目瞭然。本当の冒険は「11乗バージョン」から。このタイプの多項式は、「コーシーの定理が保証する因子」以外の因子を持たない――1903年に Mirimanoff (ミリマノフ)はそう予想した。一般の場合については、依然として未解決問題のようだ。

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(x + y)11 − x11 − y11 は x についての10次式(x, y についての11次式)。コーシーの定理によれば、この多項式は
  xy(x + y)(x2 + xy + y2)
で割り切れる。よって展開して直接割り算してもいいのだが、それでは面白くないし発展性に乏しい。文字通り「0 から」再帰的に構成しよう。

根 a, b, c の和が 0 の3次式 t3 + Bt − C について、根のべき和 pn = an + bn + cn を考え
  p0 = a0 + b0 + c0 = 3
  p1 = a1 + b1 + c1 = 0
は自明。解と係数の関係 B = ab + ac + bc, C = abc と、解の平方和
  p2 = a2 + b2 + c2 = (a + b + c)2 − 2(ab + ac + bc) = 0 − 2B = −2B
もよく知られている。上記 p0, p1, p2 の表現を基に「二つ前の −B 倍と三つ前の C 倍の和」として、 p3 以降を次々と生成できる(定理1)。
  pn = pn−2 × (−B) + pn−3 × C

† p は「べき和」(power sum)の意。

7乗くらいまではこれで十分実用になるけど、上に行くにつれ B の前のマイナス符号の処理が煩わしくなってくる。なので U = −B と置いて、代わりに、
  pn = pn−2 × U + pn−3 × C
を試してみたい(もともとの3次式を t3 − Ut − C と解釈することに当たる。別の場所では文字 U, C の代わりに U, V を使っている)。 U を使えばマイナス符号が排除され、全部の項がプラスになるので、符号の点ではすっきり(参考までに、基本対称式 B を使った表現も併記)。
  p4 = (2U)U + 0⋅C = 2U2 → 2B2
  p5 = (3C)U + (2U)C = 5UC → −5BC
  p6 = (2U2)U + (3C)C = 2U3 + 3C2 → −2B3 + 3C2
  p7 = (5UC)U + (2U2)C = 7U2C → 7B2C

ここまでは比較的なじみ深い。問題はこの先(ここからは文字 B を使った表現の併記を省く)。
  p8 = (2U3 + 3C2)U + (5UC)C = 2U4 + 8UC2
  p9 = (7U2C)U + (2U3 + 3C2)C = 9U3C + 3C3
  p10 = (2U4 + 8UC2)U + (7U2)C = 2U5 + 15U2C2
  p11 = (9U3C + 3C3)U + (2U4 + 8UC2)C = 11U4C + 11UC3  ☆

次の原理に留意すると、結果の半分は予見可能。
  ・偶数乗和 p2k には必ず 2Uk という項があり、その係数は 2 固定: p6 の 2U3, p8 の 2U4, p10 の 2U5 など。
  ・同様に p3k には必ず 3Ck という項があり、その係数は 3 固定: p6 の 3C2, p9 の 3C3 など。
  ・「1次の係数が同じで定数項の符号が逆」の二つの多項式を比べると、 C の符号は逆、根も符号が逆。根の奇数乗和も符号が反対だが、偶数乗してしまえば符号が同じ。ゆえに奇数乗和の公式は C の奇数乗を含み、偶数乗和の公式は C の偶数乗を含む
  ・n が素数なら、 pn の各係数はその素数の倍数。特に k = 11 のときの二つの係数は 11 自身。

11乗和 ☆ から Cauchy 多項式への変換は、次の通り。 a = x + y, b = −x, c = −y と置くと:
  B = ab + ac + bc = (x + y)(−x) + (x + y)(−y) + (−x)(−y) = −x2 − xy − y2
  ∴ U = −B = x2 + xy + y2  ⓵
  C = abc = (x + y)(−x)(−y) = xy(x + y)  ⓶
従って:
  p11 = a11 + b11 + c11 = (x + y)11 − x11 − y11

☆ によれば、この p11 が 11U4C + 11UC3、つまり
  11UC(U3 + C2)
に等しいのだから、 U, C の意味⓵⓶から、次の結論(Cauchy の恒等式の一つ)に至る。

(x + y)11 − x11 − y11
   = 11(x2 + xy + y2)⋅xy(x + y) × {(x2 + xy + y2)3 + [xy(x + y)]2}

✿

今 y = 1 と置くと:
  11(x2 + x + 1)⋅x(x + 1) × {(x2 + x + 1)3 + [x(x + 1)]2}
この { } 内―― Cauchy の恒等式を既知の因子(Cauchy の定理による)と係数(11)で割った余因子――を E(x) とする。

E(x) は、 Cauchy–(Liouville–)Mirimanoff 多項式と呼ばれるものの一種。既約(=有理係数の範囲でこれ以上、分解できない)と予想されているが、本当にそうなのか、一般の場合については、2025年現在、未解決らしい。この例の E(x) を展開してみる。 1113 = 1367631 なんで:
  (x2 + x + 1)3 = x6 + 3x5 + 6x4 + 7x3 + 6x2 + 3x + 1
これに [x(x + 1)]2 = x2(x2 + 2x + 1) = x4 + 2x3 + x2 を足して:
  E(x) = x6 + 3x5 + 7x4 + 9x3 + 7x2 + 3x + 1

このような小さい次数の E(x) の既約性を個別的に確かめることは、さほど難しくないだろう(特にコンピューターを使えば)。遊び半分で、具体的に根を検討してみる。係数が回文的なので(二項展開に由来するもともと回文的な式を回文的な因子で割った結果だから、不思議ではない)、 x3 で割って z = x + x−1 と置けば次数を半分にできる(そして x = α が根なら x = 1/α も根)。
  z2 = x2 + 2 + x−2 つまり x2 + x−2 = z2 − 2
  z3 = x3 + 3x + 3x−1 + x−3 つまり x3 + x−3 = z3 − 3(x + x−1) = z3 − 3z
なので:
  E(x)/x3 = (x3 − x−3) + 3(x2 − x−2) + 7(x − x−1) + 9
   = (z3 − 3z) + 3(z2 − 2) + 7z + 9 = z3 + 3z2 + 4z + 3
2次項を除去するため z = s − 1 と置くと:
  (s − 1)3 + 3(s − 1)2 + 4(s − 1) + 3
   = (s3 − 3s2 + 3s −1) + (3s2 − 6s + 3) + (4s − 4) + 3
   = s3 + s + 1
この3次式が有理数の根を持つとしたら s = ±1 だが、どちらも根ではない。

対応する2次式 t2 + t − (1/3)3 の根は:
  正の実数 t1 = (−1 + (1 + 4/27))/2 = 2−1⋅((31/27) − 1)
  負の実数 t2 = (−1 − (1 + 4/27))/2 = −2−1⋅((31/27) + 1)
根号下の分数を解消するため ( ) 内を 27 = 33/2 倍して、代わりに全体にその逆数を掛けると:
  t1 = 2−1 3−3/2 (31 − 27)
  t2 = −2−1 3−3/2 (31 + 27)
従って、上記 s についての3次式の実数の根は:
  s1 = [2−1 3−3/2 (31 − 27)]1/3 − [2−1 3−3/2 (31 + 27)]1/3
   = 2−1/3 3−1/2 (3(31 − 27) − 3(31 + 27))
残りの二つの根(非実数)は、 1 の原始3乗根 (−1 ± i3)/2 を使って表現される:
  s2, s3 = 2−1/3 3−1/2 [(−1 ± i3)/2⋅3(31 − 27) − (−1 ∓ i3)/2⋅3(31 + 27)]
   = 2−4/3 3−1/2 [(−1 ± i3)⋅3(31 − 27) − (−1 ∓ i3)⋅3(31 + 27)]
   = 2−4/3 3−1/2 [(3(31 + 27) − 3(31 − 27)) ± i3(3(31 + 27) + 3(31 − 27))]
   = 2−4/3 [3−1/2 (3(31 + 27) − 3(31 − 27)) ± i(3(31 + 27) + 3(31 − 27))]

z = s − 1 = −1 + s であるから、結局 z3 + 3z2 + 4z + 3 の根は次の通り。

z1 = −1 + 2−1/3 3−1/2 (3(31 − 27) − 3(31 + 27))
   = −1 − 2−1/3 3−1/2 (3(31 + 27) − 3(31 − 27))
   = −1.68232 78038 28019…
z2, z3 = −1 + 2−4/3 [3−1/2 (3(31 + 27) − 3(31 − 27)) ± i(3(31 + 27) + 3(31 − 27))]
   = −0.65883 60980 85990… ± i⋅1.16154 13999 97251…

E(x) の根 x は z = x + x−1 の形だから、上記の数は、 E(x) の六つの根のうち互いに逆数の 3 ペアについて、各ペアの和に当たる。言い換えれば、上記三つの z たちのそれぞれに対して zx = x2 + 1 つまり x2 − zx + 1 = 0 の解が E(x) の根。2次式なので、その気になれば機械的に根を求めることは可能。見通しがいいとは言い難いが。

〔付記〕 第一の2次方程式は実係数であり、判別式 (z1)2 − 4 が負なので、共役複素数解を持つ。 z2, z3 は非実数なので、第二・第三の2次方程式も実数解を持たない。よって E(x) が(有理係数の範囲で)1次の因子を持たないことは明白(注: この事実については、もっと簡単で一般的な証明法あり)。 E(x) の根は「係数の一つが3次の無理数であるような2次式の根」なので、 E(x) が2次あるいは3次の因子を持たないことも、直観的に明らか。他方、自明ではない事実として、 E(x) の根のうち二つは実部が −1/2 に等しい

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印象深いこと。上記の根 z1, z2, z3 に関して、
   { from k=1 to n } k6 = (1/42)n(n + 1)(2n + 1)(3n4 + 6n3 − 3n + 1)
4次の因子の根
  n1, n2 = −1/2 + 2−3/2 3−1/4 ((31 + 27) ± i(31 − 27))
  n3, n4 = −1/2 − 2−3/2 3−1/4 ((31 + 27) ± i(31 − 27))
との類似性が感じられる。べき和や Bernoulli 関連の多項式と、雰囲気が似ているようだ。例えば、根たちが小集団(軌道)に分かれて一定規則で配置される(らしい)点や、決まった因子以外の余因子は既約(らしい)という点(これについては、べき和公式には二つの例外があるが)、さらに実部 −1/2 との相性(?)も…

z1 は s3 + s + 1 の実数根 −0.682327803828019… から 1 を引いたものだが、この3次式の根の符号を反転させたバージョン s3 + s − 1 は、ある種の再帰的数列と関連して、別の文脈で登場することがある。例えば https://oeis.org/A005374 参照。

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問題1 x3 − x + 1 の根を a, b, c とする。 a11 + b11 + c11 を求めよ。

 2次項のない3次式の1次の係数・定数項について、どちらも符号を変えたものをそれぞれ U, C とすると、 Cauchy の恒等式から、
  根の11乗和 = 11UC(U3 + C2)
となる。従って、求めるものは 11⋅(+1)⋅(−1)⋅[(+1)3 + (−1)2] = −11⋅[1 + 1] = −22。∎

問題2 x3 + 2x − 3 の根を a, b, c とする。 a11 + b11 + c11 を求めよ。

 11⋅(−2)⋅(+3)⋅[(−2)3 + (+3)2] = −66⋅[−8 + 9] = −66。∎

〔検算〕 x3 + 2x − 3 = (x − 1)(x2 + x + 3) の根は:
  a = 1, b = (−1 + −11)/2, c = (−1 − −11)/2 = −(1 + −11)/2
λ = −11 と置くと λ の奇数乗は虚数、偶数乗は実数:
  (1 + λ)11 = 1 + 11λ + 55λ2 + 165λ3 + 330λ4 + 462λ5 + 462λ6 + 330λ7 + 165λ8 + 55λ9 + 11λ10 + λ11
虚数でない項だけを抜き出すと:
  1 + 55(−11) + 330(−11)2 + 462(−11)3 + 165(−11)4 + 11(−11)5
   = 1 − 605 + 121(330 − 462⋅11 + 165⋅121 − 11⋅1331) = 68608 = 67⋅210
よって c11 = −(1 + λ)11/211 の実部は −(67⋅210)/211 = −67/2 に等しい。 b と c は実部が等しく虚部の符号だけが反対なので:
  b11 + c11 = (−67/2 + 虚数) + (−67/2 − 同じ虚数) = −67
  ∴ a11 + b11 + c11 = 111 + (−67) = −66

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2025-06-19 Wolstenholme の問題113番 (a11 + b11 + c11)/11

#遊びの数論 #コーシーの恒等式

1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 = 25/12 の分子は 52 で割り切れる。

1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 + 1/5 + 1/6 = 147/60 = 49/20 の分子は 72 で割り切れる。

一般に 5 以上の素数 p の「一つ手前の数」まで同様に逆数を足すと、分子は p2 で割り切れる! 昔この不思議な性質にたまたま気付いて強い印象を受け、やがてそれが Wolstenholme (ウォルステンホーム)の定理と呼ばれることを知った。――19世紀英国の Joseph Wolstenholme は、この種の興味深い関係をいろいろ記し、印象的な「パズル」も残している。その一つを紹介したい。

〔注〕 上記の性質は一見シンプルそうだが、証明はそれほど簡単ではない(CMath, 6.51 または H&W, §7.8 参照)。

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A Book of Mathematical Problems(数学問題集、1867年)の序文で Wolstenholme は I have been in the habit of devoting considerable time to the manufacture of problems(私は常々かなりの長時間を問題作成に費やす習慣だ)と打ち明けている。詰め将棋作家やチェス・プロブレムの作者のような「趣味」だろうか?

問題113番は、原理的にはさほど珍しいものではないものの、一つの式は8乗和・11乗和を含む。「11乗和」というのは、かなり珍しい。1840年前後の Cauchy の研究(当時としては「比較的新しい知見」であった)に触発されたのかもしれない。{114番・259番}では同種の4変数バージョン、6変数バージョンも扱われている。

本書の欠点は「問題の答え」が収録されてないこと。数学の教科書の「練習問題」には答えが付いていないこと――付いていても簡略であること――が多いけど、一般論としては良いことではない。「模範解答」が提示されてこそ、読者は答え合わせができ、自分の解法と「模範解答」を比べることで理解を深めることができる。より良い別解がないか・簡単化できないかという検討も、場合によっては実り多いものだろう。

ともあれ、無いものは仕方ない…。 Wolstenholme が想定した模範解答は、対数関数の級数展開を使うものかもしれないが、以下ではもっと初等的な方法を使う。

† https://archive.org/details/bookofmathematic00wolsuoft

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ところで、旧ソ連の文献複数は、この問題113番を借用してるようだ。特に Моденов の I, §2, №4(画像・下)の В), Г) は、項の並べ方も Wolstenholme の113番(画像・上)の一つ目・二つ目とそっくり。

JPEG画像: Wolstenholme の問題集より
PNG画像: Моденов の問題集より

数式や命題は「事実」であり、個人レベルの「創作」ではないので、もとより著作権のような問題はあり得ない。「他人が考えた式を無断で使うのは盗作だ!」などというのは、むしろばかげている。とはいうものの、こういう場合、出典が明示されてる方が、読者にとっては参考になる――面白そうな命題があれば、当然そのソースや歴史的背景をもっと知りたくなるので。

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元祖 Wolstenholme バージョンの証明問題は、次の通り。

Wolstenholme の問題113 a + b + c = 0 を仮定して、以下の等式を証明せよ。
  (a5 + b5 + c5)/5 = (a3 + b3 + c3)/3(a2 + b2 + c2)/2
  (a7 + b7 + c7)/7 = (a5 + b5 + c5)/5(a2 + b2 + c2)/2
  (a11 + b11 + c11)/11 = (a3 + b3 + c3)/3(a8 + b8 + c8)/2 − (a3 + b3 + c3)3/9(a2 + b2 + c2)/2

11乗和を直接的に処理するのは、実用的ではない。「公式を生成するメタ公式」を経由するべきだろう。一つ目と二つ目の式については「ロシア公式」(俗称)として既に検討したが、ここでは三つをまとめて扱う。

 a + b + c = 0 のとき pn = an + bn + cn と置くと、次の関係が成り立つ[定理1で U = −B と置いただけ。 U = −B = −(ab + ac + bc), C = abc だ]。
  p0 = 3, p1 = 2, p2 = 2U,
  k = 3, 4, 5, ··· ⇒ pk = U⋅pk−2 + C⋅pk−3  (★)

(a + b + c)/m = p/m であるから、第一式を示すには、
  p5/5 = (p3/3)⋅(p2/3)  ‥‥⦅ア⦆
を確かめればいい。(★)から、
  p3 = U⋅0 + C⋅(3) = 3C
  p4 = U⋅(2U) + C⋅(0) = 2U2
  p5 = U⋅(3C) + C⋅(2U) = 5UC
なので、⦅ア⦆は (5UC)/5 = (3C/3)⋅(2U/2) つまり UC = C⋅U となり、確かに成立。

同様に、第二式は、
  p7/7 = (p5/5)⋅(p2/2) = (p3/3)⋅(p4/2)  ‥‥⦅イ⦆
と同じこと。(★)から、
  p6 = U⋅(2U2) + C⋅(3C) = 2U3 + 3C2
  p7 = U⋅(5UC) + C⋅(2U2) = 7U2C
なので、⦅イ⦆は、
  7U2C/7 = (5UC/5)⋅(2U/2) = (3C/3)⋅(2U2/2)
  つまり U2C = UC⋅U = C⋅U2
となり、確かに成立。

最後に、第三式は、
  p11/11 = (p3/3)⋅(p8/2) − [(p3)3/9]⋅(p2/2)  ‥‥⦅ウ⦆
と同じ。(★)から、
  p8 = U⋅(2U3 + 3C2) + C⋅(5UC) = 2U4 + 8UC2
  p9 = U⋅(7U2C) + C⋅(2U3 + 3C2) = 9U3C + 3C3
  p10 = U⋅(2U4 + 8UC2) + C⋅(7U2C) = 2U5 + 15U2C2
  p11 = U⋅(9U3C + 3C3) + C⋅(2U4 + 8UC2) = 11U4C + 11UC3
なので、⦅ウ⦆は、
  (11U4C + 11UC3)/11 = (3C/3)⋅[(2U4 + 8UC2)/2] − [(3C)3/9]⋅(2U/2)
  つまり U4C + UC3 = C⋅[U4 + 4UC2] −[27C3/9]⋅U = CU4 + 4UC3 −3UC3
となり、確かに成立(右辺は、左辺 U4C + UC3 に等しい)。∎

✿

Cauchy–Liouville 型の多項式の観点からは、 p11 は 11UC(U3 + C2) であり、 p8 = 2U(U3 + 4C2) だ。この形を使うと、第三式は、
  11UC(U3 + C2)/11 = C⋅2U(U3 + 4C2)/2 − (27C3)/9 × U
となる。両辺を UC で割ると U3 + C2 = U3 + 4C2 − 3C2 であり、真。

ちなみに p8 に当たる Cauchy–Liouville 型の多項式は、
  (x + y)8 + x8 + y8 = 2(x2 + xy + y2) × {(x2 + xy + y2)3 + 4[xy(x + y)]2}
と分解される。 { } 内 を展開すると、回文的6次式を得る:
  (x6 + 3x5y + 6x4y2 + 7x3y3 + 6x2y4 + 3xy5 + y6) + x2y2(4x2 + 8xy + 4y2)
   = x6 + 3x5y + 10x4y2 + 15x3y3 + 10x2y4 + 3xy5 + y6

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pk は3次式 z3 − Uz − C の根の k 乗和であり、言い換えれば A = 0, D = E = ··· = 0 のときの Girard 型公式(べき和対称式を基本対称式で表したもの)に他ならない(ただし U = −B とする)。

† フル・バージョンの Girard 型公式(明示的)あるいは Newton の公式(再帰的)から見ると、有効範囲が非常に狭い。その代わり、高速に計算できる。

次の表のように整理すると、構造が分かりやすい。

pk を構成する項(k = 2, 3, ···, 11)
p22U
p33C
p42U2
p5 5UC
p62U33C2
p77U2C
p82U48UC2
p93C39U3C
p102U515U2C2
p1111U4C11UC3

p4 以降に含まれる全ての項は、フル・バージョンの Girard 型公式において「非単純部分」の「初代」。 pk の k が偶数のときの 2U, 2U2, 2U3, ··· および k が 3 の倍数のときの 3C, 3C2, 3C3, ··· は「シングル・オリジン」なので、係数が増加しない。

k = 5, 7, 9, ··· のときに現れる 5UC, 7U2C, 9U3C, ··· は、2世代前の同様の項の U 倍と 3 世代前の 2U 型の項の C 倍のブレンドなので、係数が 2 ずつ増える。さらに k = 5, 8, 11, ··· のときに現れる 5UC, 8UC2, 11UC3, ··· は、3世代前の同様の項の C 倍と 2 世代前の 3C 型の項の U 倍のブレンドなので、係数が 3 ずつ増える。――これら2系列の項は、係数が k と一致するので分かりやすい(例: k = 8 の p8 は 8UC2 を持つ)。

〔注〕 p13, p15, p17 がそれぞれ 13U5C, 15U6C, 17U7C を含むこと、 p14, p17 がそれぞれ 14UC4, 17UC5 を含むことも予見される。

p11 までの範囲で比較的「難しい」項は、 p10 が含む 15U2C2。二つ前の 8UC2 の U 倍 + 三つ前の 7U2C の C 倍のブレンドだ。

✿

「11乗和・8乗和」という非日常的題材が、わざとらしくなく、自然な流れのパズルの一部として使われている。

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2025-06-16 二項係数の飛び石和 パスカルの三角形

#遊びの数論 #二項係数 #ラームスの恒等式

パスカル(Pascal)の三角形は 1 + 2 = 3 のような単純な足し算でできている。すなわち各数は、自分の「左上にある数」と「右上にある数」(空欄なら 0 と見なす)の和。

パスカルの三角形のてっぺんの「1 だけ」を第 0 行、次の「1, 1」を第 1 行、そのまた次の「1, 2, 1」を第 2 行、一般に「1, n」から始まる行を第 n 行と呼ぶことにしよう。ある一つの行について、次のような「飛び飛びの和」を考える。例えば、第 7 行
  1, 7, 21, 35, 35, 21, 7, 1
から、数値を三つごと(二つ置き)の一定間隔で抜き出す――左端の 1 から始めた場合、 1357 が同じ「三つごと」の系列(仮に「ア」とする)に属し、それらの和は 1 + 35 + 7 = 43。同様に、同じ行において、左端の一つ隣の 7 から始めた「イ」の和は 7 + 35 + 1 = 43 で、左端の二つ隣の 21 から始めた「ウ」の和は 21 + 21 = 42。

問題 パスカルの三角形の 第 n 行について、このような「三つに一つの割合で飛び飛びに足し算」した和ア・イ・ウは、それぞれどんな式で表されるか?

上記の例では 43, 43, 42 となって、誤差 ±1 でア・イ・ウが一致するが、どの段でもそうなると言い切れるか?

より一般的に「s 個に一つの割合で飛び飛びに足した和」は?

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§1 これと本質的に同じ問題は、1829年にフランスの Cournot (クールノ) [3] によって考察され、そのとき s = 1, 2, 3, 4 のケースは解決した。1834年、デンマークの Ramus (ラームス) [4] によって、一般の場合も解決。このメモでは s = 3 の例を取り上げる。一つの具体的な s についてのアプローチを検討することで、自然と一般の s に対する解法が見えてくる。{個別的に考えた場合} s = 3 のケースは s = 4 のケースよりやや難しく、それ自体としても興味深い。
  (x + y)7 − x7 − y7 = 7xy(x + y)(x2 + xy + y2)2
のような「Cauchy の分解」とも関連する。

〔注〕 この連載(その2その3)では、最終的には任意の s に対する一般解(Ramus の恒等式)を導く。個別的なケース(例えば s = 4)については、必ずしも深く扱わない。 s = 3 のケースについてだけは、今回、かなり詳細に検討する。

このタイプの和を指す用語は、まだ標準化されていない。 Knuth は、引用符付きで wraparound binomial coefficients (巻き付けた二項係数)という表現を使っている。一方、 Howard & Witt は、これを lacunary sums (隙間のある和)と呼んでいる。ここでは後者を意訳し、飛び石和(とびいし・わ)という用語を使う。例えば、
  C0, C1, C2, C3, ···, C10
という11個の数があるとき、刻み幅(ステップ) 3 の飛び石和とは、
  ア C0 + C3 + C6 + C9
のこと。あるいは、
  イ C1 + C4 + C7 + C10
のこと。あるいは、
  ウ C2 + C5 + C8
のこと。このメモでは「刻み幅 3 の飛び石和」をメインテーマとして、アのタイプの足し算(ないしその和の値)を「アの和」あるいは単に「ア」と呼ぶ。「イの和」「ウの和」の意味も同様。

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§2 パスカルの三角形の第 n 行は、ちょうど n+1 個の数から成る。仮に n が 3 の倍数より 1 小さいとすると、そのときには n+1 が 3 の倍数だから、行は「アイウ」「アイウ」…という三つずつのトリオに、ぴったり分かれる。従って、次の例(n = 5)のように、行はアから始まり、ウで終わる。

n が 3 の倍数より 1 小さい例
1510 1051

パスカルの三角形は左右対称なので、この場合、左から右に考えた「アの和」と、右から左に考えた「ウの和」は全く同じ足し算。従って、この場合には、アの和とウの和は等しい!

同様に、もし n が 3 の倍数より 1 大きいなら、次の例(n = 7)のように行はアから始まりイで終わる。この場合、アの和とイの和が等しくなる(左から考えると、イの和は、アの和と全く同じ足し算だから)。

n が 3 の倍数より 1 大きい例
1721 353521 71

最後に、もし n が 3 の倍数なら、次の例(n = 6)のように行はアから始まりアで終わる。アの和の性質についてはまだ何とも言い難いが、左から考えたイの和と、右から考えたウの和は同一なので、その二つの飛び石和は等しい。

n が 3 の倍数に等しい例
1615 20156 1

以上の単純な観察だけからでも、ア・イ・ウの飛び石和のうち二つは常に等しい、と確信できる。より具体的に、もし n が 3 の倍数ならイとウが等しく、もし n が 3 の倍数 + 1 ならアとイが等しく、もし n が 3 の倍数 − 1 ならアとウが等しい。

✿

だが、ア・イ・ウのうち「等しい」と分かっている二つ以外の、もう一つの値はどうなるのか?

手掛かりを求めて、具体例をカウントしてみると…

【表1】 パスカルの三角形の第 n 行と刻み幅 3 の飛び石和
n
第 n 行の値とア・イ・ウの分類 飛び石和
0 1 1^00
1 11 110*
2 121 12^1
3 133 1 2*33
4 146 41 556^
5 1510 1051 1110*11
6 1615 20156 1 22^2121
7 1721 353521 71 434342*
8 1828 567056 2881 8586^85

…次の予想に至る。証明できるだろうか?

予想 各行において、ア・イ・ウそれぞれの飛び石和のうち、二つは等しい(どの二つが等しいかは、上記のように、 n を 3 で割った余りによって決まる)。この等しい値と比べると、残りの一つは 1 大きい(^印)か、または 1 小さい(*印)――大きいか小さいかは、 n が偶数か奇数かによって決まる。

以下では、{この問題の一つの解法}(s = 4 以上にも一般化しやすいアプローチ)を、 s = 1, 2 のケースとともに紹介する。別のメモで、 s = 3 のケース限定の、簡潔な第二の解法を記す。

✿

§3 パスカルの三角形の第 n 行は、 n 乗の二項係数に当たる。二項係数とは、二項式(例えば x + y)の n 乗――すなわち (x + y)n ――を展開したときに現れる係数であり、例えば、
  (x + y)3 = 1x3y0 + 3x2y1 + 3x1y2 + 1x0y3
の 1, 3, 3, 1 はパスカルの三角形の第 3 行に一致する。

n 乗の二項係数、つまりパスカルの三角形の第 n 行を C0, C1, C2, ···, Cn としよう。すると、
  (x + y)n = C0xny0 + C1xn−1y1 + C2xn−2y2 + ··· + Cn−1x1yn−1 + Cnx0yn
と書くことができる。今、この式で x = y = 1 と置くと、次のようになる(なぜなら 1 を何乗しても結果は 1 なので、 x = y = 1 のとき、 x の形の数と y の形の数は、どれも 1 に等しい):
  (1 + 1)n = C0⋅1⋅1 + C1⋅1⋅1 + C2⋅1⋅1 + ··· + Cn−1⋅1⋅1 + Cn⋅1⋅1

この最後の等式の右辺は、明らかに C0 + C1 + C2 + ···  + Cn に等しい。左辺は (1 + 1)n = 2n なので、次の重要な結論に至る。

定理3.0(二項係数の刻み幅 1 の飛び石和) パスカルの三角形の第 n 行の数を全部足したもの
  C0 + C1 + C2 + ···  + Cn
は、 2n に等しい。(注: 「刻み幅 1 の飛び石和」とは「普通に一つずつ全部足す」ということ。)

この結論は、実は二項係数の組み合わせ論的解釈からも明白。だが「2n は 3 で割り切れない」という事実に注目したい: n の値が何であるにせよ、刻み幅 3 の飛び石和ア・イ・ウが全部等しくなることは、あり得ない――ア・イ・ウの合計は 2n で、合計が 3 で割り切れないから。

† 2n という数は因子 3 を一つも持たないので、 3 では割り切れない。

同様に x = 1, y = −1 とした場合、その y の偶数乗(0 乗を含む)は 1 に等しく、奇数乗は −1 に等しいので:
  (1 + (−1))n = C0⋅1⋅(+1) + C1⋅1⋅(−1) + C2⋅1⋅(+1) + C3⋅1⋅(−1) + C4⋅1⋅(+1) + C5⋅1⋅(−1) + ···
この右辺は、
  C0 − C1 + C2 − C3 + C4 − C5 + ···
に等しい。 n ≠ 0 ならば、左辺 (1 − 1)n = 0n は = 0 に等しい。その場合、
  (C0 + C2 + C4 + ···) − (C1 + C3 + C5 + ···) = 0
  ∴ C0 + C2 + C4 + ··· = C1 + C3 + C5 + ···
となる。つまり n ≠ 0 なら、「偶数番」の数を足した刻み幅 2 の飛び石和 A と、「奇数番」の数を足した刻み幅 2 の飛び石和 B は、等しい―― n ≠ 0 なら 2n は偶数であり 2 で割り切れるので、この結論は筋が通っている。この議論では左端の数を「0 番」としている: 「偶数番」という言葉は「左端の数(一つ目の数)を含む刻み幅 2 の飛び石和」を指す(「一つ目」が第 0 番=偶数番)。一方、もし n = 0 なら、パスカルの三角形のてっぺんでは C0 だけが 1 なので A = 1, B = 0 となり、前者の方が 1 大きい―― n = 0 のとき 2n = 1 は 2 で割り切れないので、この結論も筋が通っている。

定理3.1(二項係数の刻み幅 2 の飛び石和) パスカルの三角形の第 n 行の数のうち、「偶数番」の数を足し合わせた飛び石和、
  A = C0 + C2 + C4 + ···
と、「奇数番」の数を足し合わせた飛び石和、
  B = C1 + C3 + C5 + ···
は、 n ≠ 0 の場合を除き、一致する。A + B の合計は 2n なので、この場合:
  A = B = 2n/2 = 2n−1
例外として、 n = 0 の場合にだけは、 A = 1 と B = 0 は一致しない。

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刻み幅 2 の飛び石和も比較的シンプルだが n ≠ 0 と例外 n = 0 の区別が生じる点が、少々、すっきりしない。議論を次のように整理し直すとこの曇りが解消される。あらためて次の二つの数値を考えよう。
  甲 2n = (1 + 1)n = C0 + C1 + C2 + C3 + ···
  乙 0n = (1 + (−1))n = C0 − C1 + C2 − C3 + ···

甲に対して、乙をそのまま足すと、甲の右辺の「奇数番」の数 C1, C3 等はマスク(除去)されて消滅するが、「偶数番」の数 C0, C2 等は 2 倍に増幅される。一方、甲に対して、乙を −1 倍したものを足すと、甲の右辺の「偶数番」の数はマスクされて消滅するが、「奇数番」の数は 2 倍に増幅される。ゆえに、
  「偶数番」の和 = (甲 + 乙)/2
  「奇数番」の和 = (甲 − 乙)/2
という関係は、例外なく成り立つ。

定理3.2(二項係数の刻み幅 2 の飛び石和: 統合バージョン) n = 0 の場合も含めて、常に次の関係が成り立つ。
  A = C0 + C2 + C4 + ··· = (2n + 0n)/2
  B = C1 + C3 + C5 + ··· = (2n − 0n)/2

〔解説〕  n ≠ 0 の場合には 0n = 0 であるから、上記の公式は、 A = B = 2n/2 という最初のバージョンの原則と一致する。一方、 n = 0 の場合には 20 = 00 = 1 であるから(0 自身を含めて、あらゆる数の 0 乗は 1 に等しいことに注意)、そのとき A = (1 + 1)/2 = 1, B = (1 − 1)/2 = 0 となって、上記の公式は、最初のバージョンの例外ケース A = 1, B = 0 も正しくカバーしている。

n ≠ 0 と n = 0 を統一的に扱うことのできる巧妙な公式が、自然と得られた!

乙を ±1 倍することで、甲の「奇数番」ないし「偶数番」を抜き出すための、2種類のマスクが用意される。巧妙な働きをする乙 (1 + (−1))n の本質は何か。 x = 1 の部分は甲と共通なので、 y = −1 の部分に秘密の鍵があるのだろう。 y = −1 は「2乗して初めて 1 になる数」だ。言い換えると、 z2 = 1 の解のうち z = 1 以外のものである。このような数は、1 の原始2乗根と呼ばれる。

このことから類推すると、 y に「3乗して初めて 1 になる数」――すなわち z3 = 1 の解のうち z = 1 以外のもの――を入れることで、刻み幅 3 の飛び石和をエレガントに扱うための 3 種類のマスクが得られるのでは?

✿

§4 そのアイデアは、うまくいく!

z3 = 1 の解――言い換えれば、
  z3 − 1 = (z − 1)(z2 + z + 1) = 0  ♪
の解――のうち、 z = 1 以外の二つ(1 の原始立方根)を、
  ω = (−1 + −3)/2 と ω2 = (−1 − −3)/2
としよう。これら二つの数は、どちらも ♪ の因子 z2 + z + 1 の根であり、従って、
  z2 + z + 1 = 0
の関係を満たす。言い換えると:
  ω2 + ω + 1 = 0  ☆
が成り立つ。のみならず z3 = 1 なのだから ω6 = (ω3)2 = 12 = 1 などとなり、次の関係も成り立つ:
  P = ω0 = ω3 = ω6 = ··· = 1
  Q = ω1 = ω4 = ω7 = ··· = ω
  R = ω2 = ω5 = ω8 = ··· = ω2
この事実と ☆ を組み合わせると:
  (P の数の任意の一つ) + (Q の数の任意の一つ) + (R の数の任意の一つ) = 1 + ω + ω2 = 0
  特に 1 + (Q の数の任意の一つ) + (R の数の任意の一つ) = 0

〔注〕 刻み幅 2 の場合の 1 + (−1) = 0 と同様に、ここでは「三つ足した和が 0 になる」ということが、マスクとしての機能の上で、重大。

ωj について、「P の数」とは j が 3 の倍数の場合であり、「Q の数」とは j が 3 の倍数より 1 大きい場合であり、「R の数」とは j が 3 の倍数より 2 大きい場合。よって、もし j, k, ℓ のそれぞれを 3 で割った余りが全部バラバラなら(つまり j, k, ℓ の一つが 3 の倍数、もう一つが 3 の倍数 + 1、残りの一つが 3 の倍数 + 2 なら)、
  ωj + ωk + ω
という和は 0 に等しい。特に、 j, k がどちらも 3 で割り切れず、一方が 3 で割って 1 余り、他方が 3 で割って 2 余る場合、
  1 + ωj + ωk = 0
が成り立つ(マスク機能)。他方において、もし j, k, ℓ が全部 3 の倍数なら、
  ωj + ωk + ω = 1 + 1 + 1 = 3
となることは明らかだろう(どれも P の数だから)。特に、 j, k が両方とも 3 の倍数の場合、
  1 + ωj + ωk = 3
が成り立つ(増幅機能)。

✿

今、
  (x + y)n = C0xny0 + C1xn−1y1 + C2xn−2y2 + C3xn−3y3 + ···
の x に 1 を代入し、 y には 3 種類の異なる値 1, ω, ω2 を代入する。 x = 1 のとき x の形の数は全部 1 なので、 y の値に応じて y の部分だけが変化し、次の三つの式が得られる:
  甲 (1 + 1)n = C0⋅10 + C1⋅11 + C2⋅12 + C3⋅13 + ···
  乙 (1 + ω)n = C0⋅ω0 + C1⋅ω1 + C2⋅ω2 + C3⋅ω3 + ···
  丙 (1 + ω2)n = C0⋅(ω2)0 + C1⋅(ω2)1 + C2⋅(ω2)2 + C3⋅(ω2)3 + ···

乙と丙をそのまま甲に足した場合、何がマスクされ、何が増幅されるか? 甲乙丙の右辺の和を整理すると、
  (1 + ω0 + ω2⋅0)C0 + (1 + ω1 + ω2⋅1)C1 + (1 + ω2 + ω2⋅2)C2 + (1 + ω3 + ω2⋅3)C3 + ···
となり、前述の性質から、 C0 の係数、 C3 の係数、 C6 の係数など、「3 の倍数番」の C の係数は 3 になる一方、「3 の倍数以外」の番号の C の係数は 0 になって消滅する:
  ∴ 甲 + 乙 + 丙 = 3C0 + 3C3 + 3C6 + ··· = 3(C0 + C3 + C6 + ···)
  ∴ C0 + C3 + C6 + ··· = (甲 + 乙 + 丙)/3  ★

〔解説〕 j が 3 の倍数のとき、 j 番の項、
  (1 + ωj + ω2j)Cj
の ( ) 内が 3 になることは明白。問題は、 j が 3 の倍数でないとき、同じ ( ) 内が 0 になる――という主張。その正しさについては、等比数列の和を使って説明することも可能だが、より直接的に、
  j が 3 の倍数でないとき、 j を 3 で割った余りと 2j を 3 で割った余りは異なる (✽)
という事実からも、説明可能(その結果 ωj と ω2j の一方は ω に等しく他方は ω2 に等しいので、問題の ( ) 内は 1 + ω + ω2 = 0 に等しい)。
合同記号を使えば mod 3 において j ≡ ±1 ⇒ 2j ≡ ±2 ≡ ∓1 複号同順であるから、(✽)は明白。念のため、合同記号を使わない証明を付記する:
第一の可能性として、もし j が 3 で割って 1 余る数なら j = 3d + 1 と書くことができる(d: 整数)。このとき 2j = 6d + 2 は、明らかに 3 で割って 2 余るので、 j と 2j をそれぞれ 3 で割った余りは異なる。
第二の可能性として、もし j が 3 で割って 2 余る数なら j = 3d + 2 と書くことができる。この場合 2j = 6d + 4 = (6d + 3) + 1 であり、 6d + 3 は 3 で割り切れるので、この 2j を 3 で割ると 1 余る。よって、第二の場合にも、 j と 2j をそれぞれ 3 で割った余りは異なる。
第三の可能性があるとしたら j が 3 で割り切れる場合だが、その可能性はない――ここでは「j が 3 の倍数でないとき」を問題にしているのだから。

他方において、甲乙丙の左辺の和は:
  甲 + 乙 + 丙 = (1 + 1)n + (1 + ω)n + (1 + ω2)n = 2n + (1 + ω)n + (1 + ω2)n
この右端の足し算について、便宜上、
  ƒ(n) = (1 + ω)n + (1 + ω2)n
と表記しよう。 ƒ(n) は n に応じて定まる数で、実は ±1 or ±2 の整数(詳細については後述)。この表記を使うと:
  甲 + 乙 + 丙 = 2n + ƒ(n)

これを ★ に代入すると:
  飛び石和「ア」 = C0 + C3 + C6 + ··· = [2n + ƒ(n)]/3

ブラックボックス ƒ(n) の解明という作業は残っているものの、大筋においては、流れるように飛び石和「ア」が求まった!

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§5 同じ乙・丙を「少しずらして」甲に加算することにより、「ア」の代わりに「イ」ないし「ウ」を抽出・増幅することができる。仕組みはシンプル:
  (1 + ωj + ω2j)Cj
において、もし j が 3 の倍数なら、この Cj は増幅されるわけだが、そのとき、仮に真ん中の ωj が ωj+1 に変わり、その右にある ω2j が ω2j+2 に変わったとすると、
  (1 + ωj+1 + ω2j+2)Cj
は消滅する。あるいは、仮に真ん中の ωj が ωj+2 に変わり、その右にある ω2j が ω2j+1 に変わったとしても、
  (1 + ωj+2 + ω2j+1)Cj
は消滅する。2種類の方法のどちらによっても、「ア」(デフォルトでは増幅される)をマスク(除去)できる――2種類の方法とは、すなわち「乙由来の ωj の指数を 1 増やし、丙由来の ω2j の指数を 2 増やす」か、もしくは、あべこべに「ωj の指数を 2 増やし、 ω2j の指数を 1 増やす」というもの。2種類で何が違うか。デフォルトではマスクされる「イ」と「ウ」のどちらが、代わりに増幅されるか――それが異なる。物の順序として、われわれが次に求めたいのは「イ」であり、つまり、
  (1 + ω1 + ω2⋅1)C1
のような項のマスクを外したい。そのためには、上記の ω1 が ω3 に変わり、 ω2⋅1 も ω3 に変わればいいのだから、甲に対して(乙・丙をそのまま足す代わりに)乙の ω2 倍と丙の ω 倍を足せばいい。この変更の結果、「ウ」系列はどうなるか。
  (1 + ω2 + ω2⋅2)C2
のような項において、 ω2 が ω4 に変わり、 ω2⋅2 が ω5 に変わるのだから、依然として「ウ」はマスクされる!

要するに、次の三つの値を足し合わせればいい:
  甲 (1 + 1)n
  乙 × ω2 = (1 + ω)n × ω2
  丙 × ω = (1 + ω2)n × ω

上記の和は、一方において、
  2n + (1 + ω)n × ω2 + (1 + ω2)n × ω
に等しい。便宜上、
  ƒ′(n) = (1 + ω)n × ω2 + (1 + ω2)n × ω
と置くと:
  甲 + 乙 × ω2 + 丙 × ω = 2n + ƒ′(n)
他方において、同じ和を展開してから足し算すると、上述の原理により「ア」「ウ」がマスクされ「イ」が 3 倍に増幅される:
  甲 + 乙 × ω2 + 丙 × ω = 3(C1 + C4 + C7 + ···)
  ∴ 3(C1 + C4 + C7 + ···) = 2n + ƒ′(n)
  ∴ 飛び石和「イ」 = C1 + C4 + C7 + ··· = [2n + ƒ′(n)]/3

全く同様に、乙の ω 倍と丙の ω2 倍を甲に足すと、今度は「ウ」が 3 倍されて抽出される:
  飛び石和「ウ」 = C2 + C5 + C8 + ··· = [2n + ƒ″(n)]/3
  ただし ƒ″(n) = (1 + ω)n × ω + (1 + ω2)n × ω2

✿

§6 以上をまとめると、アは [2n + ƒ(n)]/3 であり、イ、ウも同様の形を持つ――違いは ƒ(n) が ƒ′(n) ないし ƒ″(n) に置き換わることだけ。ア・イ・ウの合計は 2n であり(定理3.0)、飛び石和においては上記のように、ア・イ・ウそれぞれが 2n の約 1/3 ずつになる。正確な3等分と比べると、分子の ƒ(n) 等によって生じる「ずれ」があるけど、ア・イ・ウの合計 2n は 3 で割り切れないので、正確な3等分と多少ずれることは仕方ない。

「正確な三等分とのずれ」を記述した ƒ, ƒ′, ƒ″ は、具体的にどんな値を持つのか? 直接計算すると、
  1 + ω = 1 + (1 + −3)/2 = (1 + −3)/2
  および 1 + ω2 = 1 + (1 − −3)/2 = (1 − −3)/2
は、 1 の原始6乗根の主値 σ = cos 60° + i sin 60° とその共役複素数 σ* に他ならず、従って、
  ƒ(n) = (1 + ω)n + (1 + ω2)n
は、共役のペア σ と σ* をそれぞれ n 乗して足し合わせた和だ。共役のペアをそれぞれ n 乗した結果も、再び共役の複素数(σn は 1 の6乗根のいずれかだが、原始6乗根とは限らない)――足し合わせると、虚部が消え実部が 2 倍される。具体的には mod 6 で n が ≡ 0, ±1, ±2, 3 のどれになるかに応じて、それぞれ ƒ(n) = 2, 1, −1, −2 の値を持つ。要するに:
  ƒ(n) = [cos (60n)° + i sin (60n)°] + [cos (60n)° − i sin (60n)°] = 2 cos (60n)°

〔例〕 アの飛び石和の最初の六つの値 1, 1, 1, 2, 5, 11 は、次のように計算され、【表1】と一致する:
  n = 0 ⇒ 値の3倍 = 20 + 2 = 3
  n = 1 ⇒ 値の3倍 = 21 + 1 = 3
  n = 2 ⇒ 値の3倍 = 22 − 1 = 3
  n = 3 ⇒ 値の3倍 = 23 − 2 = 6
  n = 4 ⇒ 値の3倍 = 24 − 1 = 15
  n = 5 ⇒ 値の3倍 = 25 + 1 = 33
2n の後ろの +2, +1, −1, −2, −1, +1 が ƒ(n) = 2 cos (60n)° だ。

一方 ƒ′(n) = (1 + ω)n × ω2 + (1 + ω2)n × ω の第1項を支配する偏角は、 ƒ(n) において σn を支配する偏角に −120° の回転を加えたもの。第2項 (σ*)n の側には +120° の回転が加わるので、結果は共役であり、前者の実部だけを考えて 2 倍すれば同じこと。よって ƒ′(n) の値は 2 cos (60n − 120)° であり、 mod 6 での n ≡ 0, 1, 2, 3, 4, 5 の区別に応じて、 −1, 1, 2, 1, −1, −2 に等しい。言い換えれば ƒ′(n) = ƒ(n − 2) だ。

同様に ƒ″(n) = (1 + ω)n × ω + (1 + ω2)n × ω2 の値は 2 cos (60n + 120)° であり、 mod 6 での n ≡ 0, 1, 2, 3, 4, 5 の区別に応じて、 −1, −2, −1, 1, 2, 1 に等しい。言い換えれば ƒ″(n) = ƒ(n + 2) だ。

ƒ(n) = 2 cos (60n)° は、明らかに n = 0 または 6 の倍数のとき極大値 +2 となり、 n = 3 または 6 の倍数 + 3 のとき極小値 −2 となる。極値を与える特別な n は mod 3 で ≡ 0 であり、 ≢ 0 であれば極値にならない(±1 になる)。イに対応する ƒ(n−2) は ƒ(n) の周期を 2 ステップ遅らせたものなので、 ≡ 2 (mod 3) で極値となる。ウに対応する ƒ(n+2) は ƒ(n) の周期を 2 ステップ早めたものなので、 ≡ −2 ≡ 1 (mod 3) で極値となる。

【表2】 ア・イ・ウそれぞれについて
完全3等分 2n/3 とのずれの分布(単位: 1/3)
n (mod 6) ≡0 12 34 5
ア ƒ(n) 2 1−1 −2−1 1
イ ƒ(n−2) −1 1 2 1−1 −2
ウ ƒ(n+2) −1 −2−1 1 2 1

表2から明らかなように、この極値(すなわち ±2)の符号は、 n が―― mod 6 において、従って通常の整数としても――偶数ならプラス、奇数ならマイナス。以上を整理・要約すると、次の通り。

定理3.3(二項係数の刻み幅 3 の飛び石和) n が 3 の倍数ならアが、 3 の倍数より 1 大きければウが、 3 の倍数より 2 大きければイが、次の特別な値を持つ:
  [2n ± 2]/3
それ以外の二つの飛び石和は、どちらも次の値を持つ:
  [2n ∓ 1]/3
複号は同順で n が偶数なら上(n = 0 に対しても有効)、奇数なら下。

〔例〕 n = 7 のとき、ウが特別な立場になり、 (27 − 2)/3 = 126/3 = 42 という値を持つ。残りの二つ(ア・イ)は、 (27 + 1)/3 = 129/3 = 43 という値を持つ。これが冒頭で例としたア・イ・ウ = 43, 43, 42 だ。

結論はシンプルで美しい! 二項係数についての問題なのに、導出において、二項係数の計算や変形の公式を一度も使わない点が特筆に値する。

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一般の場合の飛び石和Ramus の恒等式)は、 Knuth [6] で取り上げられている(s = 3, 5 のケースは {CMath 5.75, 6.57} でも扱われている)。 s = 1, 2, 3, 4 は、 Yaglom & Yaglom の初等難問集(Challenging Mathematical Problems with Elementary Solutions)の58番でもある。 https://oeis.org/A024493 も参照。

「a + b + c = 0 のときに、これこれ(7乗和などの対称式)が成り立つことを証明せよ」というタイプのパズルについて考えているうちに、
  (x + y)7 − x7 − y7
のような多項式の分解の問題(Cauchy の定理)に行き当たった。関連して「二項係数の飛び石和」の問題に興味を持つようになった。飛び石和がこの文脈でどう絡んでくるのか――それについては、別のメモで記す。

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〔参考文献〕
[3] Antoine Augustin Cournot (1829), Solution d’un problème d’analyse combinatoire
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k9760699c/f125.item
[4] Christian Ramus (1834), Solution générale d’un problème d’analyse combinatoire, Crelle [Journal für die reine und angewandte Mathematik] 11, 353–355
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN243919689_0011?tify=%7B%22pages%22%3A%5B365%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
[5] V. A. Krechmar (1978), A Problem Book In Algebra, §6.59
https://archive.org/details/v.-a.-krechmar-a-problem-book-in-algebra-mir-1978/page/75/mode/1up
[6] Donald E. Knuth (1997), The Art of Computer Programming (3rd ed.), Volume 1, §1.2.6 “Binomial Coefficients”, Exercise 38

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2025-06-22 二項係数の飛び石和(その2) オフセット 0 の場合

#遊びの数論 #二項係数 #ラームスの恒等式

二項係数の和 (n C s+t) + (n C 2s+t) + (n C 3s+t) + ··· は、刻み幅 s が 2, 3, 4 程度であれば、比較的簡単に求められる。一般の場合の扱い(Ramus の恒等式の導出)は、やや難易度が高い。このシリーズの前回のメモでは、 s = 1, 2, 3 のケースを扱った。今回はアルゴリズムを整理・拡張し、任意の s ≥ 1 を扱う。ただし t = 0 に話を限る。その制限を外した一般の 0 ≤ t < s の扱いについては、次回に。

二項係数を一定間隔 s で抜き出して足す――この単純な操作の裏に「1 の s 乗根」があるとは、誰が予想しただろう!

時計仕掛けのコサインたちが吐き出し、組み合わされる複雑な数。観客席から見える和は普通の整数なのに、背後のからくりは、壮大にしてうつろ。

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§7 上側インデックス n の二項係数 (n C k) について(k = 0, 1, 2, ···)、刻み幅 s、オフセット 0 の飛び石和 R(s, 0, n) とは、次のように k = 0 を始点として、一定間隔 s で係数を足し合わせた合計。
  刻み幅 3 なら R(3, 0, n) = (n C 0) + (n C 3) + (n C 6) + ···
  刻み幅 4 なら R(4, 0, n) = (n C 0) + (n C 4) + (n C 8) + ···
実質的な足し算は、下側インデックスが上側インデックス n を超える直前で打ち切られる。例えば:
  R(3, 0, 7) = (7 C 0) + (7 C 3) + (7 C 6) = 1 + 35 + 7 = 43

ここで二項係数の定義を少し拡張しておくと、都合がいい。

上側インデックスが負でないことを前提に、「下側インデックスが n を超えた場合(および下側インデックスが負の場合)には二項係数の値は 0」と約束する。この規約により、飛び石和を(形式的に)無限和として表現することができる。例えば、
  (7 C 9) = (7 C 12) = 0, (7 C −3) = (7 C −6) = 0
などの約束があれば、上と同じ R(3, 0, 7) を次の無限和とも解釈可能:
  ··· + (7 C −6) + (7 C −3) + (7 C 0) + (7 C 3) + (7 C 6) + (7 C 9) + (7 C 12) + ··· 
   = ··· + 0 + 0 + 1 + 35 + 7 + 0 + 0 + ··· = 43

この規約によると、
  {k=0 to 2} (7 C 3k)
のように、いちいち総和の始点・終点を明示することなく、簡潔に、
  {for k} (7 C 3k) あるいは {for ℓ≡0 (mod 3)} (7 C )
と書くことが可能(始点・終点が指定されていない k は −∞ から +∞ の全ての整数値にわたる――この場合、実際には、上記有限和の簡略表記)。上側インデックスが変数の場合、この表記法は特に便利。すなわち、
  A = {k=0 to n/3} (n C 3k), B = {k=0 to (n−1)/3} (n C 3k+1), C = {k=0 to (n−2)/3} (n C 3k+2)
のような煩雑な表記を使うより、
  A = {k to } (n C 3k), B = {k to } (n C 3k+1), C = {k to } (n C 3k+2)
で済ませた方が、すっきりして良い(飛び石和の要点は「そこにある数を一定間隔で全部足す」ということであり、「具体的に何番から何番まで、何個の数を足すのか」といった枝葉末節が表記上で目立つと、シンプルなはずのコンセプトがぼやけてしまう)。

(7 C 9) = 0 のような規約は「7 個の物から 9 個を選ぶ選択肢は 0 個」(可能な選択肢が一つもない)という解釈から、「まあ当然」と感じられるかもしれない。二項係数の定義からも、形式的に、
  (7 C 9) = [7⋅6⋅5⋅4⋅3⋅2⋅1⋅0⋅(−1)]/9! = 0
は分子の積が 0 だから、正しい計算に思える。他方、階乗表現
  (n C k) = (n!)/(k! (n−k)!)
に n = 7, k = 9 を当てはめると、分母に「負の整数の階乗」が生じ、「どう解釈すればいいのか?」という疑問が生じる。「負の整数の階乗で割り算すると 0 になる」という現象は、直観的には理解しにくい(実は「ガンマ関数」の理論によると (−2)! のようなものは ∞ であり、従ってその逆数は 0 で正しいのだが)。ここでは定義の拡張を単に「規約」と考え、階乗表現との関係については立ち入らない。上側インデックスが負の場合の定義についても、ここでは必要ないので省略。

✿

§8 前のメモの結論の一部を要約・再録する。省力化のため、上側インデックスを略し、二項係数 (n C k) を Ck と記す。 1 の原始3乗根 ω = cos 120° + i sin 120° を考え、
  (1 + ω0)n = C0⋅ω0 + C1⋅ω0 + C2⋅ω0 + C3⋅ω0 + C4⋅ω0 + ··· 
  (1 + ω1)n = C0⋅ω0 + C1⋅ω1 + C2⋅ω2 + C3⋅ω3 + C4⋅ω4 + ··· 
  (1 + ω2)n = C0⋅ω0 + C1⋅ω2 + C2⋅ω4 + C3⋅ω6 + C4⋅ω8 + ··· 
の三つの二項展開を縦に足そう。右辺第 j 項の項ごとの和は、
  Cj × {ω0 + ωj + ω2j}
に等しい。このとき:
  j が 3 の倍数なら { } 内は = 1 + 1 + 1 = 3
  j が 3 の倍数でなければ { } 内は = 1 + ω + ω2 = 0 (補足1参照)

その結果、下側インデックスが「3 の倍数」の項だけが 3 倍されて抽出され(0 も 3 の倍数)、右辺同士の和は、
  3(C0 + C3 + C6 + ···)
に等しい。一方、左辺同士の和 2n + (1 + ω)n + (1 + ω2)n は、 1 + ω と 1 + ω2 が、それぞれ
  cos 60° + i sin 60° と cos 60° − i sin 60°
であることから(両者は 1 の原始6乗根で互いに共役)
  2n + (1 + ω)n + (1 + ω2)n = 2n + 2 cos (60n)° = 2n + 2 cos(nπ/3)
となり、結局、
  3(C0 + C3 + C6 + ···) = 2n + 2 cos(nπ/3)
  ∴ C0 + C3 + C6 + ··· = (1/3)(2n + 2 cos(nπ/3))
となる(刻み幅 3、オフセット 0 の飛び石和)。

〔注〕 ƒ(n) = 2 cos (60n)° と置いたときの [2n + ƒ(n)]/3 と同内容。§6参照。

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補足1 ω は 1 の3乗根だから、もちろん ω3 = 1。従って ω6 = (ω3)2 = 12 = 1 であり、 ω9 = (ω3)3 = 13 = 1 であり、一般に ω の指数が 3 の倍数なら = 1。 ω0 も = 1 だ(これは ω の性質というより、 0 乗の一般的性質だが)。よって、もし j が 3 の倍数なら ω0 + ωj + ω2j は = 1 + 1 + 1 = 3 に等しい。問題は j が 3 の倍数でないとき、
  ω0 + ωj + ω2j = 1 + ωj + ω2j = 0
が成り立つ根拠。一つの考え方は、次の二つの事実に基づく。第一に、 ω は2次方程式 1 + z + z2 = 0 の解であること。第二に j が 3 の倍数でないとき、
  ω0 + ωj + ω2j = 1 + ωj + ω2j
は 1 + ω + ω2 に等しいこと(言い換えれば、上記2次方程式に解 z = ω を入れた形に一致し、従って = 0 となること)――というのも、 j が 3 の倍数でないなら、 ωj と ω2j の一方は ω に等しく、他方は ω2 に等しい(解説)。別の便利な考え方として、
  1 + ωj + ω2j
について、「初項が 1 で、公比が ωj で、項数が 3 の等比数列(幾何級数)の和」と見ることもできる。初項が a で項数が N の等比数列の和は、公比 r が 1 でなければ、
  [a(rN − 1)]/(r − 1)
であり、われわれの例では、初項が a = 1、公比 r = ωj が 1 でないので:
  3項の和 = {1⋅[(ωj)3 − 1]}/(ωj − 1)
この分子の [ ] 内は = ω3j − 1 = 1 − 1 = 0 なんで(分母は ≠ 0)、3項の和 = 0。ところで公比 1 の等比数列の和は「初項 × 項数」なので、
  j が 3 の倍数 ⇒ 1 + ωj + ω2j = 3
も「等比数列の和」と解釈できる(各項が 1、つまり公比 1)。より一般的に ζ が 1 の原始 s 乗根のとき
  X = ζ0j + ζ1j + ζ2j + ···  + ζ(s−1)j
を等比数列の s 項の和と解釈すると、もし各項が 1 に等しければ X = s、さもなければ X = 0。この性質はいろいろな文脈で重要な意味を持ち、 Ramus の恒等式の導出の要となる。

† そのような n 項の和、
  X = ar0 + ar1 + ar2 + ··· + arn−1
を求めたいとしよう。両辺の r 倍、
  Xr = ar1 + ar2 + ar3 + ··· + arn
をもとの式の右辺と比較すると、「Xr = これこれ」には arn という項があるが「X = これこれ」にこの項はない。一方、 X には ar0 という項があるが Xr にその項はない。これら二つの違いを除けば Xr と X は同じ「これこれ」に等しい。よって:
  Xr − X = arn − ar0
  ∴ X(r − 1) = a(rn − r0) = a(rn − 1)
もし公比 r が ≠ 1 なら、上の等式の両辺を r − 1 で割るだけで、等比数列の和の公式が証明される。もしも r = 1 だったらこの割り算は許されないが、公比 r が 1 なら各項が a に等しいのだったら、そのときは単に a × n が求める和だ。

‡ なぜなら「j は 3 の倍数でない」と仮定している。 j を 3 で割った余りが 1 か 2 かに応じて ωj は ω1 か ω2 であり、どちらも ≠ 1。

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§9 刻み幅が 4 以上の場合にも、刻み幅が 3 の場合と似た議論が成り立つ。今、虚数単位 i ――すなわち 1 の原始4乗根のうち偏角 90° のもの――を使って、次の四つの二項展開を考える:
  (1 + i0)n = C0⋅i0 + C1⋅i0 + C2⋅i0 + C3⋅i0 + C4⋅i0 + ··· 
  (1 + i1)n = C0⋅i0 + C1⋅i1 + C2⋅i2 + C3⋅i3 + C4⋅i4 + ··· 
  (1 + i2)n = C0⋅i0 + C1⋅i2 + C2⋅i4 + C3⋅i6 + C4⋅i8 + ··· 
  (1 + i3)n = C0⋅i0 + C1⋅i3 + C2⋅i6 + C3⋅i9 + C4⋅i12 + ··· 

縦に足すと、右辺ではインデックスが 4 の倍数の項だけが 4 倍されて残る(上記の補足1参照):
  {ℓ=0 to 3} (1 + i)n = 4(C0 + C4 + C8 + ·· · )

一方、四つの式の左辺のうち (1 + i0)n = 2n と (1 + i2)n = 0n は明らか。残りの二つ (1 + i1)n と (1 + i3)n は (1 ± i)n に等しい。どれもシンプルな形の複素数であり、一つ一つを個別的に扱うことは容易(補足2参照)。しかし、任意の刻み幅への拡張を考える場合、「x + iy の形でどう表記されるか・シンプルに表記されるか」といったことを個別的に考えず、次のように数値を扱うことが役立つ。各 ℓ = 0, 1, 2, 3 に対して、少しトリッキーだが、
  1 + i = (1 + i) × 1/iℓ/2 × iℓ/2
  つまり 1 + i = (1 + i) × i−ℓ/2 × iℓ/2 = (i−ℓ/2 + iℓ/2) × iℓ/2
であるから、
  (1 + i)n = [(i−ℓ/2 + iℓ/2) × iℓ/2]n = (i−ℓ/2 + iℓ/2)n × (iℓ/2)n  ♪
と書くことができる。

〔注〕 刻み幅 3 の場合に、立方根 ω からスタートしつつ、途中で 1 の6乗根(やその共役複素数)が絡んできたのと似ている(付録1参照)。実際、
  i1/2 = cos 45° + i sin 45°
は 1 の原始8乗根であり i−1/2 は、その共役複素数(それも 1 の原始8乗根の一つ)。

♪ の右辺の二つの因子のうち (i−ℓ/2 + iℓ/2) の n 乗は、共役複素数同士の和の n 乗。実部が 2 倍され、虚部が消滅する。実際、 45° = π/4 を θ で表すと:
  i−ℓ/2 + iℓ/2 = (cos ℓθ − i sin ℓθ) + (cos ℓθ + i sin ℓθ) = 2 cos ℓθ
  ∴ (i−ℓ/2 + iℓ/2)n = (2 cos ℓθ)n  ☆

♪ の右辺のもう一つの因子、
  (iℓ/2)n = (cos ℓθ + i sin ℓθ)n = cos ℓnθ + i sin ℓnθ  ☆☆
について。個々の ℓ = 0, 1, 2, 3 に対応するこの因子の値は ℓ と n の値によって決まり、その虚部 sin ℓθ は必ずしも = 0 ではない。しかし、それらを足し合わせたもの(もともとの四つの二項展開の左辺に関して)を考えると、その和は、
  4(C0 + C4 + C8 + ·· · )
に等しい(四つの二項展開の右辺の和)。つまり ☆☆ の形の複素数を ℓ = 0, 1, 2, 3 に対し合算すると虚部が消え、整数に等しくなる。言い換えると、合算した結果だけを考えるなら、最初から虚部を無視して構わない(付録2参照)。そこで ☆ を――および虚部 i sin ℓnθ を無視した ☆☆ を―― ♪ に代入し、 ℓ = 0, 1, 2, 3 について足し合わせると:
  {ℓ=0 to 3} (1 + i)n = {ℓ=0 to 3} [(i−ℓ/2 + iℓ/2)n × (iℓ/2)n]
   = {ℓ=0 to 3} [(2 cos ℓθ)n × cos ℓnθ] = {ℓ=0 to 3} [(2 cos(π/4))n × cos(ℓnπ/4)]

これが上述の「四つの二項展開の和」に等しいのだから、結局:
  4(C0 + C4 + C8 + ·· · ) = {ℓ=0 to 3} [(2 cos(π/4))n × cos(ℓnπ/4)]
  ∴ C0 + C4 + C8 + ·· ·  = (1/4) {ℓ=0 to 3} [(2 cos(π/4))n cos(ℓnπ/4)]

得られた結果は、 Ramus の公式の一つの事例(刻み幅 4、オフセット 0)。刻み幅 5 以上の場合についても、オフセット 0 なら同じアプローチがそのまま有効(§10)。

〔注〕 cos(π/4) は、 ℓ = 0, 1, 2, 3 のそれぞれに対しシンプルな値を持つので、上の式は、もう少し整理可能(補足2参照)。下記の例からも、このままでは具体的な計算には便利でないことが感じられる。ここでは「どの刻み幅にも適用できる形式の例」として、あえてこのままで提示する。

 n = 7 とした {for } (7 C 4ℓ) = 1 + 35 = 36 について、上記公式を適用。
  (1/4) {ℓ=0 to 3} [(2 cos(π/4))7 cos(7ℓπ/4)]
   = (1/4) {[27 × 1] + [(2)7 × 2/2] + [07 × 0] + [(−2)7 × 2/2]}
   = (1/4) {128 + 8 + 0 + 8} = 144/4 = 36

✿

補足2 刻み幅 4 の場合について、本文の(拡張性のある)表現の代わりに、そのケース特有の「自然」な変形を使うと、次の通り。
  (1 + i0)n + (1 + i1)n + (1 + i2)n + (1 + i3)n
   = 2n + (1 + i)n + 0n + (1 − i)n
   = 2n + 0n + (2)n[((2)/2 + i(2)/2)n + ((2)/2 − i(2)/2)n]
この最後の [ ] 内は cos 45° + i sin 45° の n 乗と、その共役複素数の n 乗の和だから(どちらも 1 の原始8乗根):
  4(C0 + C4 + C8 + ··· ) = 2n + 0n + (2)n[2 cos (45n)°]
両辺を 4 で割って、われわれは次の定理を得る。

定理4.0(二項係数の刻み幅 4・オフセット 0 の飛び石和)
  {k to } (n C 4k) = (2n + 0n + 2(2)n cos (45n)°)/4

〔付記〕 n = 0 の場合の和 1 を別に扱い、 n ≥ 1 に限るなら、分子の 0n を取り除くことができる。 n を 8 で割った余りに応じて場合分けするなら、 cos の代わりに代数的表現を使うことも可能であり、その他にも複数の表記バリエーションが考えられる(例えば Yaglom & Yaglom, 58c や Krechmarm, §6.60 №1 を見よ)。 n = 0, 1, 2, ···  のときの出力、
  1, 1, 1, 1, 2, 6, 16, 36, 72, ···
の正しさは、表1https://oeis.org/A038503 で確認可能。例えば八つ目の 72 は、
  1*, 8, 28, 56, 70*, 56, 28, 8, 1* → 1 + 70 + 1
による。

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§10 刻み幅を s とする。 1 の原始 s 乗根 ζ = exp (2πi/s) = cos(2π/s) + i sin(2π/s) を使って、次の s 個の二項展開を考える。
  (1 + ζ0)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζ0 + C2⋅ζ0 + C3⋅ζ0 + C4⋅ζ0 + ··· 
  (1 + ζ1)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζ1 + C2⋅ζ2 + C3⋅ζ3 + C4⋅ζ4 + ··· 
  (1 + ζ2)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζ2 + C2⋅ζ4 + C3⋅ζ6 + C4⋅ζ8 + ··· 
    ︙
  (1 + ζs−1)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζs−1 + C2⋅ζ2(s−1) + C3⋅ζ3(s−1) + C4⋅ζ4(s−1) + ··· 

これら s 個の等式を縦に足し合わせるとどうなるか? 右辺の項ごとの和
  Cj × {ζ0j + ζ1j + ζ2j + ···  + ζ(s−1)j}
の一つ一つ(j は 0, 1, 2, ··· のうちの一つの数)について、
  { } 内は、 j が s の倍数なら Cj に等しく、さもなければ 0 に等しい
のだから(前記・補足1参照):
  右辺の和 = sC0s + sC1s + sC2s + ··· = s(C0s + C1s + C2s + ··· )  ➀

一方、左辺 (1 + ζ)n の一つ一つ(ℓ は 0, 1, 2, ···, s−1 のうちの一つの数)について、
  (1 + ζ)n = [(ζ−ℓ/2 + ζℓ/2)⋅ζℓ/2]n = (ζ−ℓ/2 + ζℓ/2)n × (ζℓ/2)n
であり、 ζ の意味から、
   = [(cos(π/s) − i sin(π/s)) + (cos(π/s) + i sin(π/s))]n × (cos(π/s) + i sin(π/s))n
   = (2 cos(π/s))n × (cos(ℓnπ/s) + i sin(ℓnπ/s))
であるから:
  左辺の和 = {ℓ=0 to s−1} [(2 cos(π/s))n × (cos(ℓnπ/s) + i sin(ℓnπ/s))]  ➁

➀ と ➁ から:
  s(C0 + Cs + C2s + ···) = {ℓ=0 to s−1} [(2 cos(π/s))n × (cos(ℓnπ/s) + i sin(ℓnπ/s))]  ➂

等式 ➂ の右辺 [ ] 内について、 × の左側は実数、右側は複素数。しかし ➂ の右辺は左辺(その値は実数)に等しいのだから、この ∑ を計算すると、最終的には虚部は必ず消滅する。言い換えると、 ∑ で足し算される各項に関して、虚部 i sin(ℓnπ/s) を無視して実部だけを足し算しても、結果は同じ(付録2参照)。すなわち ➂ を次のように簡約できる:
  s(C0 + Cs + C2s + ···) = {ℓ=0 to s−1} [(2 cos(π/s))n × cos(ℓnπ/s)]
  ∴ C0 + Cs + C2s + ··· = (1/s){ℓ=0 to s−1} [(2 cos(π/s))n × cos(ℓnπ/s)]

これが、一般の刻み幅 s に対応する Ramus の恒等式(ただしオフセットは 0 に固定)だ! どんなに複雑な値を持ち、つかの間の栄華を極めるとしても、結局 ➂ の虚部たちは相殺され、無に帰する――そは空動なり。

† 刻み幅 s = 4 の場合の「少しトリッキー」な処理(§9)を、任意の s に対して一般化。

‡ この最後の等号は、いわゆる de Moivre の定理による。それは「偏角 φ、絶対値 A の数を n 乗した結果は、偏角 nφ、絶対値 An」という、複素数の基本性質の現れに過ぎない(この場合 A = 1)。

〔例〕 n = 7 について、刻み幅 5、オフセット 0 の飛び石和を Ramus の公式から求める。 θ = 36° と置くと ℓ = 0, 1, 2, 3, 4 に対応する総和記号内の項は:
  R0 = (2 cos 0θ)7 × cos (0θ) = 128 × 1 = 128
  R1 = (2 cos 1θ)7 × cos (7θ) = (2 cos θ)7 × (−cos 2θ)
  R2 = (2 cos 2θ)7 × cos (14θ) = (2 cos 2θ)7 × (−cos θ)
  R3 = (2 cos 3θ)7 × cos (21θ) = (−2 cos 2θ)7 × (cos θ)
  R4 = (2 cos 4θ)7 × cos (28θ) = (−2 cos θ)7 × (cos 2θ)
R1 = R4, R2 = R3 なので、そして下記の理由から R1 + R2 = −9 なので:
  答えの 5 倍 = 128 + 2(R1 + R2) = 128 + 2(−9) = 110
  ∴ 答え = 110/5 = 22
実際、二項係数 *1, 7, 21, 35, 35, *21, 7, 1 の左端の項 *1 とその五つ右の項 *21 の和は 22 に等しい。

R1 + R2 = −9 の根拠は次の通り。半円周を5等分した cos の値
  cos 36° = (1 + 5)/4, cos 72° = (−1 + 5)/4
について、便宜上 h = 5 と略すと:
  cos θ = (h + 1)/4, 2 cos θ = (h + 1)/2
  cos 2θ = (h − 1)/4, 2 cos 2θ = (h − 1)/2
従って R1 と R2 の意味(上記)から、 R1 + R2 とは、
  −[(h + 1)/2]7[(h − 1)/4] と −[(h − 1)/2]7[(h + 1)/4] の和
だ。 −[(h + 1)/2][(h − 1)/4] = −(h2 − 1)/8 = −1/2 に留意すると、
  [(h + 1)/2]6 と [(h − 1)/2]6 の和
を求めて −1/2 倍すれば同じことになる。言い換えれば、
  (h + 1)6 と (h − 1)6 の和
を求めて −1/27 倍すればいい。この和は、
  (h + 1)6 を展開して h の偶数乗を含む項だけを足し合わせたもの (✽)
の 2 倍に等しいので、結局(✽)を −1/26 倍すればいい:
  h6 + 15h4 + 15h2 + 1 = 125 + 15⋅25 + 15⋅5 + 1 = 576
を −26 = −64 で割って、 R1 + R2 = −9 を得る。

Ramus の恒等式をそのまま使うと 2s 個の cos の評価が必要。上の具体例からも、実際の計算法としては必ずしも便利ではない、と感じられる。だが「実用性がないからこそ、純粋にそれ自体として美しい」ともいえる。

✿

付録1 {ℓ=0 to s−1} (1 + ζ)n の処理について。 1 の原始 s 乗根を ζ とする。 s 個の二項展開 (1 + ζ)n を足し合わせることで(0 ≤ ℓ < s)、 Ramus の公式(刻み幅 s、オフセット 0 の場合)が導出される。その際、
  (1 + ζ)n = [(ζ−ℓ/2 + ζℓ/2)⋅ζℓ/2]n  ⌘
という等式が役立つ(§10)。一つの例として s = 3 の場合、普通に考えると、
  {ℓ=0 to 2} (1 + ω)n = 2n + (1 + ω)n + (1 + ω2)n = 2n + σn + (σ−1)n
となるが(ここで σ = 1 + ω = cos 60° + i sin 60° = ω1/2 は 1 の原始6乗根)、それは ⌘ で ζ = ω としたものと同等。実際、
  (1 + ω)n = [(ω−ℓ/2 + ωℓ/2)⋅ωℓ/2]n
の右辺について、次の関係が成り立つ:
  ℓ = 0 のとき [(ω−0/2 + ω0/2)⋅ω0/2]n = [(1 + 1)⋅1]n = 2n
  ℓ = 1 のとき [(ω−1/2 + ω1/2)⋅ω1/2]n = σn  ㋐
  ℓ = 2 のとき [(ω−2/2 + ω2/2)⋅ω2/2]n = (σ−1)n  ㋑
等号㋐の根拠は:
  [(σ−1 + σ)⋅σ]n = [(2 cos 60°)⋅σ]n = [(+1)⋅σ]n
㋑の根拠は:
  [(ω−1 + ω)⋅ω]n = [(2 cos 120°)⋅ω]n = [(−1)⋅ω]n = (σ−1)n

✿

付録2 「合計すると実数(この場合、整数)になる。つまり足し算結果の虚部は消滅。だから、初めから虚部を無視して足し算してもいい」というロジックについて、感覚的に「そんな手抜きのような計算が本当に許されるのか?」といった疑念が生じるかもしれない。念のため s = 4 の例(§9)について、「虚部が消滅する具体的プロセス」を確認しておく:
  {ℓ=0 to 3} (i−ℓ/2 + iℓ/2)n⋅(iℓ/2)n = {ℓ=0 to 3} (2 cos ℓθ)n⋅(cos ℓnθ + i sin ℓnθ)
   = (2)n⋅(cos 0nθ + i sin 0nθ) + (2)n⋅(cos 1nθ + i sin 1nθ)
    + (0)n⋅(cos 2nθ + i sin 2nθ) + (−2)n⋅(cos 3nθ + i sin 3nθ)

n の値にかかわらず、この右辺第1項の虚部は sin 0nθ = 0、第3項の虚部も 0 ――なぜなら n = 0 なら sin 2nθ = 0 だし n ≠ 0 なら (0)n = 0。

よって第1項の虚部・第3項の虚部は、最初から勝手に消える。総和の虚部が消滅することを確かめるには、第2項・第4項の虚部の和が常に 0 になることを観察すればいい。

第一に n が偶数だと仮定する。そのとき (±2)n は、同一の正の実数。虚部が消滅するためには、 sin 1nθ と sin 3nθ の和が 0 になればいい。ところが、 n が 4 の倍数なら 1nθ と 3nθ は 180° の倍数(∵ θ = 45°)、よって sin 1nθ + sin 3nθ = 0 + 0。 n が 4 の倍数以外の偶数なら sin 1nθ = sin (45° × n) と sin 3nθ = sin (45° × 3n) の一方は +1 他方は −1 なので、やはり両者の和は 0。

第二に n が奇数だと仮定する。そのとき (±2)n は、絶対値が同じで符号が反対なので、 sin 1nθ = sin 3nθ なら、第2項・第4項の虚部の和は 0。第一の場合と同様に個々のケースを検討すれば、事実そうなることを容易に検証できる。あるいはより簡潔に ζ = cos 45° + i sin 45° とすると、 sin 1nθ が ζ±1, ζ±3 の虚部のとき、それに対応して sin 3nθ は ζ±3, ζ±9 = ζ±1 の虚部なので、確かに両者は等しい。

「具体的にどういうプロセスで虚部が消滅するのか」はケースバイケースで、具体的に細かく検討することは、不可能でないにせよ面倒。だが「二項係数は整数。その和も整数」ということは分かり切っている。ゼロになると分かり切っている虚部を無視するのは、良いアイデアだろう。

〔注〕 このような「手抜き」は、主に足し算・引き算・実数倍に関して許される(それらの計算では、虚部の値が実部に影響しないので)。それ以外の計算が絡む場合でも(例えば de Moivre の定理を使う場合)、その計算以降では実数倍と足し算しか行わないなら、その部分では、虚部を無視できる。

✿ ✿ ✿


2025-06-25 二項係数の飛び石和(その3) Ramus の恒等式

#遊びの数論 #二項係数 #ラームスの恒等式

オフセットが 0 ではない場合も含めて、 Ramus の恒等式の一般形を導く。

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§11 上側インデックス n の二項係数 C0, C1, C2, ··· , Cj, ·· ·  から、 s 個に 1 個の割合の一定間隔(刻み幅 s)で値を抜き出すとしよう。最も単純な選択肢は、左端の C0 を始点に、番号 j が s の倍数のもの、
  C0, Cs, C2s, ··· 
を抜き出すことだろう。この単純な「飛び石」設定は、より一般的な「飛び石」設定――すなわちオフセット t を付けて、
  Ct, Cs+t, C2s+t, ··· 
を抜き出す各種バリエーション――から見れば、そのうち t = 0 のケースに当たる(t は 0 以上 s 未満の整数とする)。

〔例〕 刻み幅 s = 5 の場合で言えば、
  C0, C5, C10, ··· , C5u, ···
を抜き出すのが、最もシンプルで分かりやすい(t = 0)。とはいえ、例えば、
  C1, C6, C11, ··· , C5u+1, ···
を抜き出すこと(t = 1)、あるいは
  C2, C7, C12, ··· , C5u+2, ···
を抜き出すこと(t = 2)、等々(5 で割った余り t の番号の C の抽出)もコンセプト的には同じようなもの。

問題は、「番号を s ずつ増やしながら、その番号の C たちを選び出す」という単純なコンセプトをどう実装するか?

✿

引き続き ζ = cos(2π/s) + i sin(2π/s) を 1 の原始 s 乗根とする。単に「s の倍数の番号」の C たちを抽出する場合には、次のように s 個の二項展開を考え、両辺を縦に足し合わせるだけで良かった(§10):
  (1 + ζ0)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζ0 + C2⋅ζ0 + C3⋅ζ0 + ···  + Cj⋅ζ0j + ··· 
  (1 + ζ1)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζ1 + C2⋅ζ2 + C3⋅ζ3 + ···  + Cj⋅ζ1j + ··· 
  (1 + ζ2)n = C0⋅ζ0 + C1⋅ζ2 + C2⋅ζ4 + C3⋅ζ6 + ···  + Cj⋅ζ2j + ··· 
    ︙
  (1 + ζ)n = C0⋅ζ0ℓ + C1⋅ζ1ℓ + C2⋅ζ2ℓ + C3⋅ζ3ℓ + ···  + Cj⋅ζjℓ + ··· 
    ︙

というのも、右辺の(第 j 列の)項ごとの和、
  Cj × {ζ0j + ζ1j + ζ2j + ··· + ζℓj + ··· + ζ(s−1)j}
の { } 内を X とすると、もし各 ζ の指数が s の倍数なら X = s、それ以外の場合には X = 0 だ(補足1参照)。ゆえに「番号 j が s の倍数であるような Cj たち」は s 倍に増幅されて抜き出され、それ以外の番号の C たちは、全体としては 0 倍されて消滅するのであった。

同様のメカニズムによって、例えば「番号 j が s の倍数より 1 大きい C たち」だけを抜き出すとしたら、
  「番号が s の倍数より 1 大きい C」と掛け算される ζ
の指数 ● が、 s の倍数になる必要がある。同時に「抜き出したい C たち」以外の C たちに関しては、全体として消滅してほしい。 ζ の指数をうまく調整(変更)して、そうなるようにできるだろうか?

✿

ある一つの番号 j について、それを s で割ると t 余るとしよう。つまり j = su + t としよう(u, t は整数で 0 ≤ t < s)。オフセット 0 の場合には、この番号(下側インデックス)の二項係数 Cj に掛け算される ζ の指数は、
  ● = ℓj = ℓ(su + t) = (ℓu)s + ℓt
であり、 t ≠ 0 なら、この指数は s の倍数ではない。もしそれを s の倍数に変えたいなら、この指数に −ℓt を足してやるのが手っ取り早い。すなわち ζℓj に ζ−ℓt を掛けると、その結果は、
  ζℓj × ζ−ℓt = ζ(ℓu)s + ℓt × ζ−ℓt = ζ(ℓu)s
となって、新しい ζ の指数 ℓj − ℓt = (j−t)ℓ は s の倍数。実際、仮定により j は s の倍数より t 大きいのだから、そこから t を引いた j−t は s の倍数だ。

ζ の指数について上記の調整を実現するには、足し合わされる s 個の二項展開、
  (1 + ζ)n ただし ℓ = 0, 1, 2, ··· , s−1
の一つ一つを ℓ に応じて ζ−ℓt 倍し、
  (1 + ζ)n × ζ−ℓt
を考えればいい。これを展開すると、各 ℓ に対応する n+1 個の和は、こうなる:
  (C0⋅ζ0ℓ + C1⋅ζ1ℓ + C2⋅ζ2ℓ + ···  + Cj⋅ζjℓ + ···  + Cn⋅ζnℓ) × ζ−ℓt
   = ({j=0 to n} Cj⋅ζjℓ) × ζ−ℓt = {j=0 to n} Cj⋅ζ(j−t)ℓ

整数 j − t は、もし j が s の倍数より t 大きければ s の倍数になり、それ以外の場合には s の倍数にならない。よって:
  j が s の倍数より t 大きい ⇔ j − t は s の倍数 ⇔ ζj−t = 1  (✽)

今、 t を与えられた定数として、 s 種類の二項展開の ζ−ℓt 倍、すなわち、
  (1 + ζ)n × ζ−ℓt ただし ℓ = 0, 1, 2, ···, s−1
の一つ一つを展開すると、それぞれから n+1 個の項が生じる。これら s 行 n+1 列の項たちの「第 j 列を縦に足し算」すると、その和は、
  Cj × {ζ0⋅(j−t) + ζ1⋅(j−t) + ζ2⋅(j−t) + ···  + ζℓ⋅(j−t) + ···  + ζ(s−1)⋅(j−t)}
に等しい。この { } 内の s 項は「初項 1、公比 ζj−t の等比数列」であり、従って { } 内の和は、
  もし公比 ζj−t が = 1 なら 和 = 1 × s = s
  もし公比 ζj−t が ≠ 1 なら 和 = {1⋅[(ζj−t)s − 1]}/[ζj−t − 1] = 0
だ(補足1)。後者が = 0 となる訳は、分子が 0 に等しいから。実際 (ζj−t)s = (ζs)j−t = (1)j−t = 1。

この事実と(✽)を組み合わせると、もし j が s の倍数より t 大きければ { } 内は s に等しく、もし j がそれ以外の値なら { } 内は 0 に等しい。すなわち、 t の値に応じて、
  「s の倍数より t 大きい」ような番号 j
に対応する Cj だけを s 倍に増幅して抽出し、それ以外の番号 j に対応する Cj を 0 倍して除去できる!

結論 そのためには (1 + ζ)n の代わりに、その ζ−ℓt 倍を考えればいい。

✿

§12 §10 では、オフセット t = 0 の場合に話を限って、
  (1 + ζ)n = (ζ−ℓ/2 + ζℓ/2)n × (ζℓ/2)n  【☆】
の形の数の和(ℓ = 0, 1, 2, ··· , s−1)を考えた。§11 で見たように、 t = 0 とは限らない一般の場合に話を拡張するには、この (1 + ζ)n を ζ−ℓt 倍して、
  (1 + ζ)n × ζ−ℓt
の形の数を考えればいい(t = 0 のとき、この拡張版の ζ−ℓt の部分は 1 に等しいので、§10で考えたバージョンもこの拡張版に内包される)。

そこで【☆】の両辺を ζ−ℓt 倍すると:
  (1 + ζ)n × ζ−ℓt = (ζ−ℓ/2 + ζℓ/2)n × ζℓn/2−ℓt  【☆☆】

【☆☆】の値を ℓ = 0, 1, 2, ··· , s−1 について足し合わせた総和は、
  s(Ct + Cs+t + C2s+t + ··· )
に等しい(§11)。一つ一つの ℓ について、【☆☆】の右辺の因子のうち、
  (ζ−ℓ/2 + ζℓ/2)n = (2 cos(π/s))n
は §10 と同じ。【☆☆】のもう一つの因子は、
  ζℓn/2−ℓt = (ζ1/2)ℓn−2ℓt = (ζ1/2)ℓ(n−2t)
   = (cos(π/s) + i sin(π/s))ℓ(n−2t) = cos(ℓ(n−2t)π/s) + i sin(ℓ(n−2t)π/s)
であるが、この総和では最終的に虚部は消滅するので、初めから虚部を無視しても同じこと。結局:
  s(Ct + Cs+t + C2s+t + ··· ) = {ℓ=0 to s−1} [(2 cos(π/s))n cos(ℓ(n−2t)π/s)]
その両辺を s で割って、次の結論に至る。

Ramus の恒等式(1834年) 上側インデックス n の二項係数の飛び石和(刻み幅 s、 オフセット t):
  (n C t) + (n C s+t) + (n C 2s+t) + ··· = (1/s){ℓ=0 to s−1} [(2 cos(π/s))n cos(ℓ(n − 2t)π/s)]

ここで n は 0 以上、 s は 1 以上、 t は 0 以上 s 未満で、いずれも整数(§10 で得た式は、上の式で t = 0 の場合に当たる)。

この議論では、求めるものを「二項係数の飛び飛びの部分和」と解釈、結論の式は現代の表記法による([6] に基づく)。19世紀に Ramus 自身が [4] で使った表記と少し異なるが、本質的には同内容。一般性を求めないなら、幾つかの小さい s に対しては(s = 2, 3, 4 など)、その s 限定のもっと具体的な表現を導くこともできる。

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遊びの数論45』へ続く。

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