フェルマーの定理の拡張(遊びの数論51)

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遊びの数論50の続き。誤字脱字・間違いがあるかも。

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2025-11-01 x3 + y3 = 3z3 フェルマーの最終定理の拡張

#遊びの数論 #アイゼンシュタイン整数 #FLT(3)

フェルマーの定理によると
  x3 + y3 = z3
を満たすような、 0 でない整数 x, y, z は存在しない。それでは、
  x3 + y3 = 2z3
  x3 + y3 = 3z3
  x3 + y3 = 4z3
   ︙
は、どうか? つまり立方数と立方数の和が、立方数の整数倍になることが、あるだろうか?

x3 + y3 = 2z3 については、
  53 + 53 = 2 × 53 つまり 125 + 125 = 2 × 125
のように x = y = z ならいつでも式は成り立つが、この「自明」な(当たり前でつまらない)パターンを除外して「整数 x, y, z がどれも 0 でなく、全部等しくもないという条件の下で x3 + y3 = 2z3 に解があるか」と問うことにしよう。より一般的に k を整数の定数として、 x3 + y3 = kz3 に非自明な解があるか。

k = 1 の場合に解がないというのが、いわゆる「フェルマーの最終定理」の指数 3 の場合(証明済み)。 k = 2, 3, 4, ··· などについて若干の試行錯誤を行うと、どれもこれも解がないのではないか、という気がしてくる。ところが、
  43 + 53 = 64 + 125 = 189
は、桁の和が 9 の倍数なので 9 で割り切れる。 189 = 21 × 9 = (7 × 3) × (3 × 3) だ。これは、
  43 + 53 = 189 = 7 × 33
を意味するので、少なくとも k = 7 の場合の x3 + y3 = 7z3 には、立派な解 (x, y, z) = (4, 5, 3) があるっ。それほど立派ではないかもしれないが、
  23 + (−1)3 = 7 × 13
なので (2, −1, 1) も解だ。 k = 7 の場合より見つけにくいが、実は k = 6 の場合にも2桁の整数解がある。

一般の k についての x3 + y3 = kz3 は見掛け以上に深い問題だが、だからこそ興味深い探検ができるかもしれない。「k = 3 の場合に解がないこと」に話を限ると、オリジナルのフェルマーの定理とほとんど同様に証明できるので、そこから手を付けるのが順当だろう。

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オリジナルのフェルマーの最終定理(n = 3 の場合)――すなわち x3 + y3 = z3 に整数解がないこと――の証明は、その気になれば古典数論の範囲でも可能だろう。しかし、有理数の世界に ω = (−1 + −3)/2 を添加した「少し広い世界」における「拡張された意味での整数」の一種(いわゆるアイゼンシュタイン整数)を利用することで、見通しの良いエレガントな議論が成立する。実数ですらない 1 − ω とか 3 + 6ω のような数を「整数」と考えることには、最初、抵抗や混乱を感じるかもしれないが、要するに、「明確に定義された特定の集合」の要素たちを便宜上「整数」と呼んでいるに過ぎない。アイゼンシュタイン整数に限らず、拡張された意味での整数(代数的整数)は強力なツールであり、最初の違和感を克服することによって得られるメリットは大きい。

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フェルマーの最終定理(n = 3 の場合)の証明を簡単に振り返っておく。 x3 + y3 = 3z3 に整数解がないことの証明は、これとよく似ている。

0 でない整数 x, y, z が x3 + y3 = z3 つまり x3 + y3 + (−z)3 = 0 を満たすことはない――ということを証明する代わりに、われわれは潜在的な解の範囲をもっと広くして、 0 でないアイゼンシュタイン整数 A, B, C が A3 + B3 + C3 = 0 を満たすことはない、ということを証明した。アイゼンシュタイン整数の世界は、複素数全体から見れば極めて狭い世界であり、“アイゼンシュタイン有理数”(有理数に ω を添加した世界。正式な用語では「二次体」と呼ばれるものの一種)よりもかなり狭いが、普通の意味での整数たちを包み込み、普通の意味での整数の世界よりは一回り大きい。従ってアイゼンシュタイン整数の範囲で探しても解がなければ、もちろん普通の整数の範囲でも解がない。

証明の概要。まず「A, B, C は、どの二つも互いに素」と仮定しても一般性が損なわれない(§3)、というのが重要なポイント。この仮定と λ = 1 − ω というの性質から、次のことが示される(定理2)。すなわち、もしも A3 + B3 + C3 = 0 が成り立つなら、 A, B, C のうちどれか一つだけは λ の倍数で、残りの二つは λ の倍数ではない。 A3 + B3 + C3 という和における A, B, C の役割は対称的なので、そのうちどれが λ の倍数だとしても、議論の大勢に影響はない。仮に C が λ の倍数で因子 λ をちょうど m 個持つ――として、
  C = λm⋅D
と書くと(余因子 D は λ で割り切れない)、 m は 2 以上。なぜなら、
  A3 + B3 = −C3 = −(λmD)3 = λ3m⋅(−D3)  ‥‥①
の左辺 A3 + B3 が λ4 の倍数(簡単に言えば 9 の倍数)になることが示され、従って、それに等しい①の右辺も因子 λ を 4 個以上持たなければならない(定理3)。つまり C = λmD は因子 λ を最低 2 個持つ必要がある(簡単に言えば C は 3 の倍数ってこと)。

† 1 − ω は、アイゼンシュタイン整数の世界における素数の一つ。イメージ的には、普通の意味での素数 3 を二つに細分した「超素数」というか「微細素数」。複素平面上では第4象限にあって、偏角が −30° で絶対値が 3。言い換えると、純虚数 −3−3 の立方根。

その結果として(①参照)、
  λ3m⋅(−D3) = A3 + B3 = (A + B)(A + ωB)(A + ω2B)  ‥‥②
の右辺の三つの因子
  A + B, A + ωB, A + ω2B
のうち、どれか一つは素因子 λ をちょうど 3m−2 個持ち、残りの二つは、それぞれ素因子 λ を 1 個だけ持つ(§8)。どれが「どれか一つ」でも大勢に影響ないので、具体的に、
  A + B = λ3m−2⋅ɡ1
  A + ωB = λ⋅ɡ2
  A + ω2B = λ⋅ɡ3
と決めておこう。ここで三つの数 ɡ1, ɡ2, ɡ3 は互いに素で、それぞれ自分自身が立方数の単数倍でなければならない(§8⑪参照)。つまり、
  A + B = λ3m−2⋅ɡ1 = λ3m−2⋅(u1⋅H3)
  A + ωB = λ⋅ɡ2 = λ⋅(u2⋅E3)
  A + ω2B = λ⋅ɡ3 = λ⋅(u3⋅F3)
と書くことができる(u1 等は単数。 E, F, H は λ の倍数ではない)。このとき、補題3〘ⅰ〙から
  (λ3m−2⋅u1⋅H3) + ω(λ⋅u2⋅E3) + ω2(λ⋅u3⋅F3) = 0
が導かれ、両辺を λωu2 で割って、
  λ3m−3⋅v⋅H3 + E3 + v′ F3 = 0
となる――ここで v = u1/(ωu2) と v′ = (u3⋅ω2)/(ωu2) = u3⋅ω/u2 は単数だが、 v′ は ±1 でなければならず、(必要なら −F をあらためて F と置くことにより)等式
  E3 + F3 = λ3(m−1)⋅(−vH3) ‥‥③
が成り立つ。

だが③が成立するということは、自己矛盾をはらんでいる。というのも、 A3 + B3 + C3 = 0 を少し拡張して A3 + B3 + uC3 = 0 を考えると(u は任意の単数)、①の C3 は uC3 に置き換わり、①②の −D3 は −uD3 に置き換わるが、それ以降の変形は(u1⋅u2⋅u3 = −u という、どうでもいい条件が付く以外は)全く同様に進み、次のような結論に至る。すなわち、もしも
  A3 + B3 + uC3 = 0
を成り立たせるような、(どれも 0 でない)アイゼンシュタイン整数 A, B, C が存在したら、その等式は
  A3 + B3 + u(λm⋅D)3 = 0
の形でなければならず、しかもそのとき、③によって、
  E3 + F3 + v(λm−1⋅H)3 = 0
を成り立たせるような、(どれも 0 でない)アイゼンシュタイン整数 E, F, H も存在しなければならない。このことは―― G = λm−1⋅H と置くと――、もしも方程式 A3 + B3 + UC3 = 0 に、因子 λ を m 個含む解 A, B, C, U = u が存在したなら(U は何らかの単数)、同じ方程式には、因子 λ を m−1 個しか含まない解 E, F, G, U = v も存在する――ということを含意する。同様の議論を反復すれば、因子 λ を m−2 個しか含まない解、 m−3 個しか含まない解、等々も次々に生成される。しかし解に含まれる因子 λ の個数はもとより 0 より小さくはなれないのだから、このような「無限降下」は不合理であり、証明済みの定理3による制限(因子 λ の数は最低でも 2)に反する。

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以上の議論をなぞるようにして、次の定理を証明する。

定理4 A3 + B3 = 3C3 を満たすような、 0 でないアイゼンシュタイン整数 A, B, C は存在しない。結果として(通常の整数もアイゼンシュタイン整数の一種だから)、 x3 + y3 = 3z3 を満たすような、 0 でない(通常の)整数 x, y, z は存在しない。

証明 3 = −ω2⋅λ2 なので(補題1)、定理4の方程式は、
  A3 + B3 = −(−ω2⋅λ2)C3 つまり A3 + B3 = ω2⋅(λ2⋅C3)
と同値。便宜上、問題を拡張して、(U = ω2 に限らず)任意の単数 U に関して、
  A3 + B3 = U⋅(λ2⋅C3)  ‥‥④
に解がないことを示そう。 A, B, C のどの二つも互いに素、と仮定して構わない。 A も B も 3 の倍数ではな従って λ の倍数ではない。よって、補題2から、
  A3 + B3 ≡ (±1) + (±1) (mod λ)
が成り立つ。二つの複号(同順とは限らない)で同じ符号が選ばれた場合、 A3 + B3 ≡ ±2 ≢ 0 (mod λ) となるが、これは「A3 + B3 = 3C3 が 3 の倍数(従って λ の倍数)」という事実に反する。よって二つの複号では異なる符号が選択され、 A, B の一方は λ の倍数より 1 大きく、他方は λ の倍数より 1 小さい。

† 3C3 に等しい A3 + B3 は、 3 の倍数。もし A も 3 の倍数なら(A = 3a としよう)、 B3 = 3C3 − A3 = 3C3 − (3a)3 = 3(C3 − 9a3) も 3 の倍数。従って B も 3 の倍数。これは「A, B は互いに素」という仮定に反する。同様に「B は 3 の倍数」と仮定すると、 A も 3 の倍数になってしまう。

ゆえに定理1から:
  A3 + B3 ≡ (±1) + (∓1) ≡ 0 (mod λ4)  複号同順
すなわち④左辺は、因子 λ を少なくとも 4 個持つ。それに等しい④右辺も因子 λ を 4 個(以上)持つから、 C3 は因子 λ を 2 個以上持たねばならず、従って C は λ の倍数(その結果、実際には C3 は因子 λ を 3 個以上持つ)。単体の C が因子 λ を合計 m 個持つと仮定して C = λm⋅D と置くと(m は 1 以上。余因子 D は λ で割り切れない)、④はこうなる:
  A3 + B3 = U⋅(λ2⋅(λm⋅D)3) = U⋅(λ3m+2⋅D3)

よって補題3〘ⅱ〙から、次の等式が成り立つ。
  (A + B)(A + ωB)(A + ω2B) = A3 + B3 = U⋅(λ3m+2⋅D3)  ‥‥⑤
⑤の右辺は因子 λ を 3m+2 個(少なくとも 5 個)持つから、⑤の左辺の三つの因子
  A + B, A + ωB, A + ω2B
のうちどれか一つは因子 λ を 3m 個持ち、残りの二つは因子 λ を一つずつ持つ。

一般性を損なうことなく、
  A + B = λ3m⋅ɡ1, A + ωB = λ⋅ɡ2, A + ω2B = λ⋅ɡ3
と仮定できる(余因子 ɡ1 などは互いに素で、どれも λ で割り切れない)。これらを⑤に代入して、両辺を λ3m+2 で割ると:
  ɡ1⋅ɡ2⋅ɡ3 = U⋅D3
ここで ɡ1, ɡ2, ɡ3 は、それぞれ立方数の単数倍。これら三つの数を順に u1⋅H3, u2⋅E3, u3⋅F3 と書くと(u1 などは単数)、
  A + B = λ3m⋅u1⋅H3, A + ωB = λ⋅u2⋅E3, A + ω2B = λ⋅u3⋅F3
となり、補題3〘ⅰ〙から次の等式を得る:
  (λ3m⋅u1⋅H3) + ω(λ⋅u2⋅E3) + ω2(λ⋅u3⋅F3) = 0
両辺を λ⋅u2⋅ω で割って:
  λ3m−1⋅v⋅H3 + E3 + v′⋅F3 = 0
ここで v = u1/(u2⋅ω) と v′ = (ω2⋅u3)/(u2⋅ω) = ω⋅u3/u2 は、それぞれ単数。上の式を移項して、単数 −v を V で表すと、
  E3 + v′⋅F3 = V⋅(λ2⋅λ3m−3⋅H3) = V⋅(λ2⋅λ3(m−1)⋅H3)
となる。 G = λm−1⋅H と置くと:
  E3 + v′⋅F3 = V⋅(λ2⋅G3)  ‥‥⑥

E, F は λ の倍数ではないので、定理1の系と同様に、 E3, F3 はどちらも λ2 の倍数より 1 大きいか 1 小さい。一方、⑥の右辺は λ2 の倍数なので、次の合同式が成り立つ。
  ±1 ± v′ ≡ 0 (mod λ2)  ‥‥⑦
⑦の左辺(複号同順とは限らない)が取り得る値(同値類)は 1 ± 1 か 1 ± ω か 1 ± ω2、もしくはそのどれかの −1 倍。そのうち 1 + 1 ≡ 2 が⑦を満たさないこと、 1 − 1 ≡ 0 が⑦を満たすことは、明白。他方、 1 ± ω, 1 ± ω2 は⑦を満たさない(これらの数は単数であるか、または λ の単数倍なので、 λ2 の倍数ではない)。 0 と合同〚不合同〛な数の −1 倍も 0 と合同〚不合同〛であり、⑦を満たす〚満たさない〛。結局、⑦の左辺は +1 − 1 または −1 + 1 になるしかなく、単数 v′ は ±1 のいずれか。 v′ = 1 なら⑥をそのまま使い、 v′ = −1 なら (−F)3 をあらためて F3 と置くことにより、⑥はこう要約される:
  E3 + F3 = V⋅(λ2⋅G3)  ‥‥⑧

⑧は、④と同じ型の等式で、④の A, B, C, U をそれぞれ E, F, G, V に置き換えたものに他ならない。のみならず、④の変数 C は、因子 λ をちょうど m 個含んでいたが、⑧(従って⑥)において C に相当する変数 G は、因子 λ を m−1 個しか含んでいない。つまり、もしも方程式④が成り立つとしたら、そこから派生する⑥も成り立つことになり、このような派生を次々と反復すると、因子 λ の個数に関して無限降下(矛盾)が生じる。ゆえに④は所定の解を持ち得ない。∎

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この定理と証明法は Landau, Satz 902 をはじめ、多数の文献で紹介されている。 Hardy & Wright の Theorem 232 の証明には、第6版の時点で次のような誤植があるようだ。
  誤 ξ + η = ελ3mθ3, ξ + ρη = ε1λφ3, ξ + ρ2η = ε1λψ3
  正 ξ + η = ε1λ3mθ3, ξ + ρη = ε2λφ3, ξ + ρ2η = ε3λψ3

命題自体は Legendre にまでさかのぼる。「同様にして x3 + y3 = 6z3 の不可能性も容易に証明できるであろう」という Legendre の記述は錯覚であり、 x = 17, y = 37, z = 21 は、その式を満たす(両辺とも 55566)。ある時代において権威があるとされる文献でも完璧ではなく、数論は常に現在進行形、ということが感じられる。われわれは間違いを犯すが、少なくとも正しい方向へ進んでいきたいと願う。

† https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k42612x/f26.item
このスキャンの原本を読んだ誰かも間違いに気付いたらしく、 impossible pour les valeurs A = 3, 5, 66 の上に抹消線が書き込まれている。

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2025-11-04 x3 + y3 = 2z3 虫食いパズル

#遊びの数論 #アイゼンシュタイン整数 #FLT(3)

パズル《3個の3乗を足して3》 三つの空欄に当てはまる整数(等しいとは限らない)は?
  (/4)3 + (/6)3 + (/12)3 = 3

よくある「四つの 4 で~を作れ」と同種の、数字の遊戯。 □ に当てはまる数はおおむね1桁、最大でも10台なので、ブルートフォース(全パターンを試すこと)で答えを見つけることは易しい。とある錯覚に陥らなければ…

「フェルマーの最終定理の拡張」には、こんな娯楽パズルのようなものも含め、いろんな話題がある。前回、 x3 + y3 = 3z3 には(x = −y かつ z = 0 の自明解を除いて)整数解がないことを証明した。その定理の簡単な応用として、「二つの有理数 p, q をそれぞれ立方して足し合わせても、 3 に等しくすることはできない」。実際、 p, q を(必要なら)通分して
  p = x/z, q = y/z  (x, y, z: 整数)
と書いたとして、もしも
  p3 + q3 = (x/z)3 + (y/z)3 = 3
が成り立つとしたら、両辺を z3 倍することで、
  x3 + y3 = 3z3
を得る。だが上記の定理により、この式に解はない! p = 0 つまり x = 0 の場合にも解はないので、 03 + q3 = q3 = 3 の解 q = 33 = 1.4422495703… は、整数の比 y/z の形で書けないことも分かる。 33 が無理数であることの、風変わりな証明法。

「有理数の立方」が 3 に等しくならないのは、立方根が無理数なのだから当然だけど、上記によると「有理数の立方」を二つ足し合わせても、決して 3 に等しくならない。このことは意外ではないが、自明でもない。ここで「立方根は無理数なのだから、有理数の立方を幾つ足し合わせても 3 になるわけないに決まってる」と早合点してはいけない。冒頭のパズルのように「有理数の立方」を三つ足し合わせるなら 3 を作れる。実は「有理数の立方」を三つ足すと、どんな整数・有理数でも作れるのだッ!

この事実は多少意外な感じがするし、「一体なぜ?」「どうやって?」と好奇心を刺激する。

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上記の話題や冒頭のパズルの仕組みなどについては、機会があれば後日書くとして…。 x3 + y3 = z3 の不可能性(フェルマーの最終定理)と x3 + y3 = 3z3 の不可能性(定理4)が証明された今、その中間の x3 + y3 = 2z3 はどうなってるのか――現時点ではそっちがもっと気になるので、今回は、その問題に取り組みたい。

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1/3. アイゼンシュタイン整数を 2 で割ったときの余りについて。

a, b を普通の意味での整数とする。アイゼンシュタイン整数 P = a + bω は、もし a, b が両方とも偶数なら(そしてそのときに限って)、 2 の倍数になる(言い換えると 2 で割り切れる。下記の例を見れば、これは当たり前のことだと感じられるだろう)。
  12, −2, 4ω, −10ω, 6 + 8ω, −4 − 20ω
などは、2 の倍数の例。一方、 2 で割り切れないアイゼンシュタイン整数の中には、
  13, −1, 1 + 4ω, 1 − 10ω, 7 + 8ω, −3 − 20ω
のように、2 の倍数より 1 大きい数もあるし(2 の倍数より 1 小さいともいえる)、
  12 + ω, −2 + ω, 5ω, −9ω, 6 + 9ω, −4 − 19ω
のように、2 の倍数より ω 大きい数もある(2 の倍数より ω 小さいともいえる)。前者は、 a + bω の a が奇数、 b が偶数の場合。後者は a が偶数、 b が奇数の場合だ。さらに a, b が両方奇数の場合、例えば
  13 + ω, −1 + ω, 1 + 5ω, 1 − 9ω, 7 + 7ω, −3 − 19ω
などは、2 の倍数より 1 + ω 大きい(2 の倍数より 1 + ω 小さいともいえる)。

以上で a, b がそれぞれ偶数の場合・奇数の場合の 4 パターンが網羅された――それ以外の組み合わせはないので、任意のアイゼンシュタイン整数は、そのどれかの種類になる。記号で書くと:

2 で割った余りの観点からは、アイゼンシュタイン整数 P は、次の四つのタイプに分類される。
  ㋐ P ≡ 0 (mod 2) つまり 2 で割り切れる(2 の倍数)
  ㋑ P ≡ 1 (mod 2) つまり 2 の倍数より 1 大きい
  ㋒ P ≡ ω (mod 2) つまり 2 の倍数より ω 大きい
  ㋓ P ≡ 1 + ω (mod 2) つまり 2 の倍数より 1 + ω 大きい

注記 ω2 = −1 − ω も(2 の倍数 −2 − 2ω より 1 + ω 大きいので)㋓に属する。よって㋓の数たちを ω2 で代表させて
  ㋓ P ≡ ω2 (mod 2)
と言ってもいい。これは「2 の倍数より ω2 = −1 − ω = −(1 + ω) 大きい」ということで、要するに「2 の倍数より 1 + ω 小さい」。内容的には、最初の記述の㋓と全く同じ数たちを表す。同様に、㋑を P ≡ −1 と書くこともでき(2 の倍数より 1 小さい)、㋒を P ≡ −ω と書くこともできる(2 の倍数より ω 小さい)。㋓を P ≡ 1 + ω つまり P ≡ −ω2 と書くこともできる。要するに mod 2 では、 ±1 は同じクラス㋑に属し、 ±ω は同じクラス㋒に属し、 ±ω2 は同じクラス㋓に属する。

問題 アイゼンシュタイン整数の世界において、単数 P = ±1, ±ω, ±ω2 のどれかについて、
  条件 Q3 ≡ P (mod 2)
を満たす Q が存在することはあり得るか。もしあるとすれば、どの単数がそのような性質を持つか。

 mod 2 では、アイゼンシュタイン整数 Q には Q ≡ 0, 1, ω, ω2 の四つの種類しかない。そのどれを立方しても Q3 ≡ 0 or 1 になる。実際:
  03 ≡ 0
  13 ≡ 1
  ω3 ≡ 1
  (ω2)3 ≡ (ω3)2 ≡ 12 ≡ 1

つまり問題の条件を満たす単数 Q があるにせよ、ないにせよ、任意の Q は Q3 ≡ 0 または Q3 ≡ 1 という性質を持つ。言い換えると、問題の条件を満たす単数があるとすれば、㋐または㋑タイプの単数に限られる。㋐タイプ(2 の倍数)の単数は存在しないので、㋑タイプの数(2 の倍数より 1 大きい)だけが条件を満たす。単数 P = 1 は、もちろんこれに当てはまる(実際、 Q ≡ 1 なら Q3 ≡ 1)。単数 P = −1 も(2 の倍数 −2 より 1 大きいので)、条件を満たす(実際、 Q ≡ −1 なら Q3 ≡ −1)。他方、単数 P = ±ω, ±ω2 は㋑タイプではないので、条件を満たさない。∎

以上の観察は次のように要約される。この一見地味な命題が、一つの鍵となる。

補題7 アイゼンシュタイン整数の単数 1, −1, ω, −ω, ω2, −ω2 のうち、どれが一つを任意に選んで P とする。もし P = 1 か P = −1 を選んだのなら、
  t3 ≡ P (mod 2)
を満たす解 t が存在するが、 ±1 以外の単数を P として選んだのなら、上記の合同式を満たす解 t はない。

〔補足〕 mod 2 でのこの問題に関する限り、合同記号 ≡ を単に等号 = に置き換えても、同様の結論が得られる。つまり t3 = P が解を持つのは P = 1 or −1 の場合であり、 P = ω, −ω, ω2, or −ω2 の場合に t3 = P は解を持たない。それを検証することも、難しくない(単数 P の絶対値は 1 なので、「何か」を立方したものが単数に等しくなるとしたら、その「何か」も絶対値が 1 であり、そのことから解の候補は六つに絞られる)。しかし以下で必要になるのは、そのような「等号バージョン」ではなく、あくまで補題7だ。

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2/3. 補助命題を二つ。次の関係は、3次方程式の研究ではかなり重要な役割を果たす。

補題8 A, B を任意のアイゼンシュタイン整数として、三つの数
  P = A + B, Q = ωA + ω2B, R = ω2A + ωB
を考える。次の恒等式が成り立つ。
〘ⅰ〙 P + Q + R = 0
〘ⅱ〙 PQR = A3 + B3

〔参考〕 入力 A, B に対応する上記の値 P, Q, R は、 Lagrange の分解方程式と呼ばれるものと関連している(詳細については割愛)。

証明 〘ⅰ〙 補題3〘ⅰ〙と実質同じ。すなわち P + Q + R = (A + B) + (ωA + ω2B) + (ω2A + ωB) は、
  A(1 + ω + ω2) + B(1 + ω + ω2) = A⋅0 + B⋅0 = 0
に等しい。

〘ⅱ〙 補題3〘ⅱ〙の恒等式
  (A + B)(A + ωB)(A + ω2B) = A3 + B3
と実質同じで、 (A + ωB)(A + ω2B) が QR = (ωA + ω2B)(ω2A + ωB) に置き換わっただけ。よって、
  (A + ωB)(A + ω2B) = (ωA + ω2B)(ω2A + ωB)  (♪)
を示せば十分。それには、次のように(♪)の右辺を 1 倍、つまり ω3 = ω2 × ω 倍するだけでいい。 ω3 = 1 と ω4 = ω3⋅ω = ω に留意すると、
  (♪)の右辺 = (ωA + ω2B)ω2 × (ω2A + ωB)ω
   = (A + ωB) × (A + ω2B) = (♪)の左辺
だ。∎

補題8の P, Q, R の最大公約数が、後々、技術的に重要な役割を果たす。

補題9 補題8と同じ三つの数
  P = A + B, Q = ωA + ω2B, R = ω2A + ωB
を考える――ただし(補題8にはない追加条件として)、 A, B は互いに素で P, Q, R はどれも 0 でない、と仮定する。このとき一般には P, Q, R のどの二つも互いに素だが、もし P, Q, R の中に互いに素でない二つの数があるなら、その二つの数の最大公約数は λ = 1 − ω であり、しかも λ は三つの数 P, Q, R の最大公約数でもある。

〔要点〕 A, B がどのように選択されるにせよ、もし P, Q, R が単数以外の公約数を持つなら、その公約数は λ またはその単数倍に限られる。

証明 補題8〘ⅰ〙から P + Q + R = 0。従って、 P と Q が何らかの公約数 D を持つなら(P = Dp, Q = Dq としよう)、
  R = −P − Q = −Dp − Dq = D(−p − q)
も D で割り切れる。 P, R あるいは Q, R が公約数を持つ場合も同様。よって、もし P, Q, R のどれか二つが互いに素でないなら(単数以外の公約数 D を持つなら)、三つの数全部がその公約数 D を持つ。

P, Q, R が、単数以外の公約数 D を持つと仮定しよう――上記のことから、 R を無視して「P, Q が公約数 D を持つ」と仮定するだけで、同じことになる。すると、この仮定により P は D の倍数、 Q も(従って ω2Q も) D の倍数なので、それらの差
  P − ω2Q = (A + B) − (A + ωB) = B − ωB = B(1 − ω)
も D の倍数。同様に、この仮定上では ωQ も P も D の倍数なので、
  ωQ − P = ω(ωA + ω2B) − (A + B) = (ω2A + B) − (A + B)
   = ω2A − A = ω2A − ω3A = ω2A(1 − ω)
も D の倍数。要するに、この場合、
  ㋕ ω2A(1 − ω) と ㋖ B(1 − ω)
は、どちらも(単数以外の)因子 D を持つ。しかし命題の仮定により A, B は互いに素なので、 D は A または B の因子ではない。では D は何か。㋕㋖の(単数以外の)共通因子は、素数 λ = 1 − ω (およびその単数倍)だけなので、必然的にそれが D だ。∎

〔補足〕 上記のように P, Q, R が公約数 λ = 1 − ω を持つことは、あり得る。しかし無条件で常にこの公約数を持つわけではない。 λ が公約数であるためには、まず λ は P = A + B の約数でなければならないが、この必要条件が満たされるかどうかは A, B の値によって決まる。例えば A = 4, B = −3ω のとき、 λ は P = A + B = 4 − 3ω の約数ではない(この P は λ の倍数 3 − 3ω より 1 大きいので、 λ で割り切れず、割ると 1 余る)。

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3/3. メインディッシュ。

〔注〕 下記の定理(k = 2 のケース)の証明は、少しややこしい。比較的単純な k = 4 のケースを先に(あるいは平行的に)研究した方が、要点を理解しやすいかもしれない。

定理5 アイゼンシュタイン整数の範囲において、 A3 + B3 = 2C3 には自明な解しか存在しない(通常の整数の範囲において、 x3 + y3 = 2z3 には自明な解しか存在しない)。ここで「自明な解」とは、 A3 = −B3 かつ C = 0 の場合(通常の整数で x = −y かつ z = 0 の場合)と、 A3 = B3 = C3 の場合(通常の整数で x = y = z の場合)の、両方を指す。

証明 いつものように問題を少し拡張して、
  A3 + B3 = 2UC3  (✽)
を考える。ここで U は任意に選択可能な単数で、 U = 1 の場合が定理5の式に当たる。一般性を損なうことなく「A, B, C はどの二つも互いに素」と仮定できる。

A, B, C がどれも 0 でない場合に話を限ろう。その場合、絶対値最小の解は |A| = |B| = |C| = 1 だ(例えば A = B = C = 1 や A = B = C = −1 や A = ω, B = ω2, C = 1 など。いずれも自明な解)。もしも絶対値がもっと大きい解 A, B, C ――三つの数はどれも絶対値 1 以上で、少なくとも一つの数の絶対値は 1 より大きい――が存在するとしたら、
  |ABC| > 1
が成り立つであろう。実際にはそれがあり得ないことを証明したい。そのためにわれわれは、上記の不等式を満たすような(あり得ないはずの)解が存在するとあえて仮定し、その仮定が間違っていること(矛盾を生むこと)を示す。

(✽)の A, B, C を
  |ABC| > 1 を満たす解のうち |ABC| の値が最小のもの
とする。

〔注〕 上記条件を満たす (A, B, C) が少なくとも一組存在するなら、 A の値と B の値を入れ替えたものや、 A の値を ω 倍したもの等々も、同じ方程式を満たす。われわれは、条件を満たす (A, B, C) のうち任意の一つを選択したとしよう。

さて、
  P = A + B, Q = ωA + ω2B, R = ω2A + ωB
と置くと、補題8から:
  P + Q + R = 0  ‥‥⑨
  P⋅Q⋅R = A3 + B3 = 2UC3  ‥‥⑩

〔補足〕 仮定により C ≠ 0 なので、(✽)から A3 + B3 = 0。従って⑩から PQR ≠ 0 であり、 P, Q, R はどれも 0 でない。

P, Q, R は(少なくとも理論上では)単数以外の公約数を持ち得る。 P, Q, R の最大公約数(=絶対値最大の公約数)の一を d とする。補題9によると、 d は λ またはその単数倍、もしくは 1 またはその単数倍だ。ここでは単数倍の違いを細かく考える必要はないので、規約として P, Q, R が公約数 λ を持つときは d = λ とし、それ以外の場合には d = 1 としよう。 P/d, Q/d, R/d は、当然どの二つも互いに素。

† ある数が最大公約数なら、その単数倍の数も最大公約数。例えば 14 と 21 の最大公約数は 7 だとされるが、それを −1 倍した −7 も「絶対値最大」の公約数には違いない。

⑩の両辺を d3 で割って:
  (P/d)(Q/d)(R/d) = 2U(C/d)3  ‥‥⑪

単数 U を度外視すると、⑪の右辺は(アイゼンシュタイン整数の)立方数の 2 倍。⑪の左辺の三つの因子はどの二つも互いに素なので、(単数倍の違いを無視すると)それぞれ自分自身が立方数または立方数の 2 倍(三つの因子のうち一つだけが立方数の 2 倍)でなければならない(説明)。つまり、
  P/d = U1⋅E3, Q/d = U2⋅F3, R/d = 2⋅U3⋅G3  ‥‥⑫
のような形に分解される。ここで U1, U2, U3 は何らかの単数で、⑫の三つの数の積が⑪の値と等しくなるように各数が選択されることは、言うまでもない。 E, F, G は(互いに素な P/d, Q/d, R/d それぞれの因子なので)どの二つも互いに素。⑪右辺において、因子 2 ――それはアイゼンシュタイン整数としても素数である――が (C/d)3 の分母と約分されて消えることはない(d = 1 or λ であり素数 2 は λ で割り切れないから)。この 2 は P/d, Q/d, R/d のどの因子にもなり得るが、どれの因子だとしても議論は同様に進む。ここでは R/d の因子としておく(この規の結果、変数 E, F は因子 2 を持たない)。

〔注〕 もし R/d が(従って R が)因子 2 を持たないなら、 P, Q のうち因子 2 を持つものが R と呼ばれるように、変数名を入れ替えればいい。⑨⑩などの等式は、三つの数 P, Q, R の「全部の和」や「全部の積」に関するものなので、 {P, Q, R} が全体として同じ三つの数を表している限り、変数名を入れ替えても同じ等式が成り立ち、議論に支障は生じない。

‡ 三つの数 P/d, Q/d, R/d の積は素因子 2 を(少なくとも一つ)持つが(⑪参照)、それら三つの数は、どの二つも互いに素。よって、三つの数のうちどれか一つだけが因子 2 を持ち、残りの二つは因子 2 を持たない。 R/d が因子 2 を持つという規約から、 E3 も F3 も(従って E も F も)、因子 2 を持たない。

⑫の三つの数の積は⑪の右辺に等しいから、この積を 2U1⋅U2⋅U3 = 2U で割った値を考えると:
  E3⋅F3⋅G3 = (C/d)3
両辺の絶対値を考えると:
  |(EFG)3| = |(C/d)3| よって |EFG|3 = |C/d|3
  ∴ |EFG| = |C/d|  ‥‥⑬

さて、⑨の両辺を d で割った等式 P/d + Q/d + R/d = 0 に留意すると、⑫の三つの数の和について:
  U1⋅E3 + U2⋅F3 + 2⋅U3⋅G3 = 0
  ∴ U1⋅E3 + U2⋅F3 = −2⋅U3⋅G3
両辺を U1 で割って、単数 U2/U1, −U3/U1 をそれぞれ V′, V と書くと:
  E3 + V′ F3 = 2VG3  ‥‥⑭

⑭を mod 2 で考えると(2 の倍数 2VG3 は ≡ 0 なので)、
  E3 + V′ F3 ≡ 0 (mod 2)
  ∴ V′ F3 ≡ −E3 ≡ (−E)3
となる。この最後の合同の右辺は立方数なので、左辺 V′ F3 も mod 2 の観点では立方数でなければならない。そのためには、 t3V′ を満たすアイゼンシュタイン整数 t が存在して、
  V′ F3 ≡ t3 F3 ≡ (tF)3 (mod 2)
のようになる必要がある。単数 V′ が mod 2 において何らかの立方数 t3 と合同になるためには、補題7により、 V′ が 1 または −1 であることが必要。 V′ = 1 なら V′ F3 を単に F3 と書き、 V′ = −1 なら V′ F3 = −F3 = (−F)3 の (−F) をあらためて F と置くと、⑭はこう要約される:
  E3 + F3 = 2VG3  (✽✽)

¶ mod 2 において、もしも E と F が両方 ≡ 0 だったら、この合同式は V′ と無関係に成り立つが、実際には E も F も因数 2 を持たないので(前述)、どちらも ≡ 0 ではない。

E, F, G, および単数 V についての関係(✽✽)と、議論の出発点となった A, B, C, および単数 U についての関係(✽)は、同じ形式。両者は、同じ方程式の(たぶん別の種類の)解だ。出発点となった A, B, C について、
  |ABC| の値が(1 を超える範囲において)最小
と仮定されているのだから、新しく構成された解 E, F, G について、もし |EFG| が 1 を超える範囲にあるのなら、
  |EFG| ≧ |ABC| > 1  ‥‥⑮
という不等式が成り立つ。他方、もし |EFG| が 1 を超えないのなら、
  |EFG| = 1  ‥‥⑯
でなければならない(E, F, G のどれも 0 ではな††から)。

†† E, F, G は、それぞれ P/d, Q/d, R/d (そのどれも 0 ではない)の約数(⑫参照)。別の観点として、もしも E, F, G のどれかが 0 だったら⑬の左辺は 0 になってしまい、 C ≠ 0 という前提に反する。

⑮の左側の不等式に⑬を代入すると:
  |C/d| ≧ |ABC|
両辺を |d/C| 倍して:
  1 ≧ |ABd|
A, B, d は、どれも 0 でないアイゼンシュタイン整数であり、上記の不等式から、それらの積の絶対値は 1(以下)であるから、それぞれ絶対値 1、つまり単数。よって(✽)の左辺は 0 または ±2 だが、右辺は 0 でないので、左辺は ±2 でなければならず、 C も単数。ゆえに |ABC| = 1 が含意され、⑮と矛盾。すなわち、不等式⑮は成り立たない。必然的に、もう一つの選択肢である⑯が成り立つはず。

ところが⑯に⑬を代入すると:
  |C/d| = 1  ‥‥⑰
すなわち C は d の単数倍。 d = 1 か d = λ かのどちらかだが(前述)、もしも d = λ だったら、 d の単数倍である C は、当然 λ で割り切れてしまう。すると C は λ2 の倍数になってしま‡‡⑰と矛盾(⑰によれば C は単数か、または λ の単数倍)。よって d = 1 でなければならない。ゆえに C も d も単数、 C の絶対値は 1、(✽)の両辺は絶対値が 2。 A, B は(どちらも 0 ではないので)、それぞれ絶対値 1。

結局 A, B, C はどれも絶対値 1 であり、
  |ABC| > 1
という当初の仮定と矛盾する。つまり当初の仮定は不合理であり、実際には(✽)を満たす A, B, C は、単数を組み合わた自明解に限られる。特に U = 1 のケースに話を限ると、定理5の方程式を満たす A, B, C は、単数を組み合わた自明¶¶(もしくは 0 を含む自明解)に限られる。要するに、
  x3 + y3 = 2z3
は、自明解以外の整数解を持たない――通常の整数の範囲でも、アイゼンシュタイン整数の範囲でも。∎

‡‡ A, B, C はどの二つも互いに素なので、 C が λ の倍数なら A, B は λ の倍数ではない。その場合 C3 は λ3 の倍数、しかも定理1から A3 + B3 ≡ 0 or ±2 (mod λ4)。定理3の証明と同様に A3 + B3 ≡ 0 (mod λ4) となり、結局(✽)の両辺は λ4 の倍数、従って C3 は因子 λ を 4 個(以上)持つ必要がある。そのためには、 C は(因子 λ を 1 個持つだけでは足りず)因子 λ を 2 個(以上)持たねばならない。

¶¶ 単数でなくても、例えば A = B = C = 2 も方程式を満たし |ABC| = 8 という「大きな」積を持つ。しかしそのような例は、「A, B, C がどの二つも互いに素」という前提に反する。すなわち、自明解 A = B = C = 1 などを入れた方程式の両辺を 23 倍(あるいは 33 倍、 43 倍、等々)したものは正しい等式ではあるが、そのような A, B, C は「水増し」された自明解に過ぎず、非自明解ではない。

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x3 + y3 = 2z3 についての(今回の)定理5は、 x3 + y3 = 3z3 についての(前回の)定理4ほどはポピュラーでなく、比較的少数の文献にしか収録されていない。歴史的には、定理5は定理4より早く、フェルマーの x3 + y3 = z3 の直接の拡張として、既に Legendre によって考察された。

[References]
L. J. Mordell (1969), Diophantine Equations, Chap. 15, Theorem 3
Trygve Nagell (1964), Introduction to Number Theory, Chap. VII, Theorem 122
A. Hurwitz (1917), Über ternäre diophantische Gleichungen dritten Grades, 217–221 [Vierteljahrsschrift, 62]
https://archive.org/details/naturforschendegesellschaftinzurich_vierteljahrsschriftdernaturforschendengesellschaft_v62_1917/page/n244/mode/1up

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2025-11-16 x3 + y3 = 4z3

#遊びの数論 #アイゼンシュタイン整数 #FLT(3)

x3 + y3 = z3 を満たすような、どれも 0 でない整数 x, y, z は存在しない――というフェルマーの定理。

その拡張として x3 + y3 = kz3 の解を考えてみたい。ここで k は一定の整数で、 k = 1 の場合が、オリジナルのフェルマーの定理だ。

第一に k = 3 の場合。 x3 + y3 = 3z3 にも、 0 でない整数解はない(定理4)。

第二に k = 2 の場合。 x3 + y3 = 2z3 についても、結論はほぼ同様(定理5)。ただし、この場合に限っては x = y = z のような別の種類の自明解が存在する。自明解を度外視して、「それ以外の解(非自明解)が存在しないこと」が、証明されるべき事柄となる。自明解が 2 パターンあるせいで、第一の拡張と比べると、技術的に少しややこしい(自明なものを除外するだけなので、本質的に難しいわけではないが)。そのため k = 1, 2, 3, ··· の順序に従わず k = 3 を先に扱った。

この k = 2 の場合の簡単な応用として、今回は k = 4 の場合にも(つまり x3 + y3 = 4z3 にも)、非自明な整数解がないことを証明する。この場合、自明解が 1 パターンに戻るので、証明は平明・簡潔になり、新たな補助命題も必要なく、一服できる。

要するに x3 + y3 = kz3 には、非自明な解がないのだろう――と予想したくなるかもしれないが、そうではなく、例えば k = 7 の場合の
  x3 + y3 = 7z3
には、(暗算可能な範囲に)きれいな非自明解がある:
  43 + 53 = 7⋅33
実際、左辺は 64 + 125 = 189、右辺も 7⋅27 = 189。

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定理6 x3 + y3 = 4z3 を満たすような、 0 でない整数 x, y, z は存在しない。

〔注〕 この定理(k = 4 のケース)の証明は、 定理5(k = 2 のケース)の証明の一部とほとんど同じ。 k = 2 のケースと重複する部分については、記述を簡略にする。

証明 問題を拡張して、
  x3 + y3 = 4uz3
には、アイゼンシュタイン整数の範囲でも解がないことを示す。ここで u は任意の単数であり u = 1 なら、定理6の方程式と同じ形式になる。

【1】 仮に上記の方程式に解があって、
  A3 + B3 = 4UC3  ‥‥⑱
を満たすような、 0 でないアイゼンシュタイン整数 A, B, C, U が存在したとしよう(U は何らかの単数)。一般性を損なうことなく A, B, C はどの二つも互いに素と仮定できる。このような解 (A, B, C, U) のうち、積 ABC の絶対値が(あるいはノルが)最小のものを一組選んで、固定する。

† アイゼンシュタイン整数(その正体はある種の複素数である)の世界では、ノルムは「絶対値の平方」に等しい。ある数の「規模」(0 からどのくらい離れた場所にある数か)を表すのに、複素数としての絶対値を使ってもいいのだが、一般にはノルムが好まれる(特別な場合を除き絶対値は無理数だが、ノルムは整数なので、概してノルムの方が扱いやすい)。この証明においては、どちらを「規模」の尺度としても構わない。

【2】 三つの数
  A + B, ωA + ω2B, ω2A + ωB  (▲)
の積は、補題8から A3 + B3 に等しく、 A3 + B3 は⑱により 4UC3 に等しい。つまり(▲)の三つの数の積は 4 の倍数。従って(▲)の数の中には、少なくとも「4 の倍数が一つあるか、または 2 の倍数が二つある」。

〔補足〕 (▲)の三つの数は、どれも 0 ではない。実際、もしもどれかが 0 だったら積は 0 なので A3 + B3 = 0 となり、⑱の両辺は 0 になってしまうが、それは仮定 C ≠ 0 に反する。

しかるに(▲)のどの二つの数も、公約数 2 を持たない(単数以外の公約数を持つとしても、補題9から、それは λ = 1 − ω の単数倍に限られる)。よって(▲)の三つの数の中には、因子 22 = 4 を持つものが一つだけある――この数を R としよう。残りの二つの数(どちらも因子 2 を持たない)の一方を随意に選んで P とし、他方を Q としよう。

〔要点〕 (▲)の三つの数の中に 4 の倍数が一つだけある(その数を仮に R と呼ぶ)こと、残りの二つの数(仮に P, Q と呼ぶ)は 2 の倍数ではないということ。(▲)の三つの数のうちのどれが R か? といった細かいことは、どうでもいい。

P, Q, R は、(▲)の三つの数(を何らかの順序で並べたもの)なので、補題8と⑱から:
  P + Q + R = 0  ‥‥⑲
  P⋅Q⋅R = A3 + B3 = 4UC3  ‥‥⑳

P, Q, R の最大公約数を d とすると、
  P/d, Q/d, R/d
は、どの二つも互いに素(分数表記されているが、どれもアイゼンシュタイン整数。公約数での割り算なので、割り切れる)。そのことに留意すると、⑳の両辺を d3 で割った等式
  (P/d)(Q/d)(R/d) = 4U(C/d)3  ‥‥㉑
において、左辺の三つの因子(分数)のうち二つは「立方数の単数倍」、残りの一つは「立方数の単数倍」の 4 だ(その理由は、立方数が互いに素な数の積に分解される場合と同様)。 P, Q, R のうち因子 2 を持つのは R だけなので、仮に E3, F3, G3 によって立方数を表すなら、
  P/d = U1⋅E3, Q/d = U2⋅F3, R/d = 4⋅U3⋅G3  ‥‥㉒
のようになる。ここで U1, U2, U3 は何らかの単数で、
  U1⋅U2⋅U3 = U
を満たす。明らかに E, F, G は、どの二つも互いに素。

† 補題9により d は因子 2 を持たないので、㉑右辺の係数 4 が約分されて消滅(あるいは半減)する可能性はない。

㉒の三つの数の積が㉑の値に等しいことから、
  E3⋅F3⋅G3 = (EFG)3 と (C/d)3
は、絶対値が(あるいはノルムが)等しい。従って、次の関係が成り立つ(絶対値の記号で表記するが、絶対値の代わりにノルムを考えてもいい)
  |EFG| = |C/d|  ‥‥㉓

【3】 ⑲の両辺を d で割った等式 P/d + Q/d + R/d = 0 に留意すると、㉒の三つの数の和について:
  U1⋅E3 + U2⋅F3 + 4⋅U3⋅G3 = 0
  ∴ U1⋅E3 + U2⋅F3 = −4⋅U3⋅G3
両辺を U1 で割って、単数 U2/U1, −U3/U1 をそれぞれ V′, V と書くと:
  E3 + V′ F3 = 4VG3  ‥‥㉔

㉔を mod 2 で考えると、
  E3 + V′ F3 ≡ 0 (mod 2)
  ∴ V′ F3 ≡ −E3 ≡ (−E)3
となる。定理5の証明と同様に、 V′ は 1 または −1 に等しい。 V′ = 1 なら V′ F3 を単に F3 と書き、 V′ = −1 なら V′ F3 = −F3 = (−F)3 の (−F) をあらためて F と置くと、㉔はこう要約される:
  E3 + F3 = 4VG3  ‥‥㉕

【4】 ㉕の関係を満たす (E, F, G, V) は、⑱と同じ型の方程式の一組の解だから、積 ABC の(絶対値ないしノルムの)最小性についての仮定から、
  |EFG| ≧ |ABC|
でなければならない。しかるに、この不等式の左辺に㉓を代入して両辺を |d/C| 倍すると:
  1 ≧ |ABd|

仮定により A, B はどちらも 0 ではなく、公約数 d も当然 0 ではないから、上記の不等式が成り立つためには ABd の絶対値が 1 でなければならず、従って A, B, d は、それぞれ単数。よって A3 + B3 は 0 または ±2 に等しい。結局、⑱が成り立つなら 4UC3 は 0 または ±2 に等しい。仮定 C ≠ 0 から 4UC3 ≠ 0 なので、
  4UC3 = ±2 つまり UC3 = ±1/2
でなければならないが、この条件を満たすアイゼンシュタイン整数 C が存在しないことは明白。すなわち⑱が所定の解を持つという仮定は、不合理。∎

〔付記〕 「A, B, C はどれも 0 でない」という制約(議論の前提となる仮定)を少し緩めて「A, B は 0 でないが C は 0 でも構わない」とするなら、⑱の自明解を得ることができる。すなわち、そのように緩めた前提において⑱が成り立つなら、上記証明の最後の部分を考慮すると、二つの単数 A, B が A3 + B3 = 0 を満たす必要がある――そのことから、 A を任意の単数とするとき、単数 B が −A または −Aω または −Aω2 に等しく、かつ C = 4UC3 = 0 であれば(U は任意の単数)、そのとき A, B, C は自明解(A, B は互いに素)。このような自明解に任意の立方数を掛けたものも、もちろん自明解(各項が定数倍されるので、もはや A, B は互いに素とは限らない)。

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x3 + y3 = kz3 に非自明解があるかないかは、 k の値次第。 k = 1, 2, 3, 4 の場合、非自明解がない。他方、冒頭で具体例を挙げたように k = 7 の場合には非自明解が存在する。

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