ガウス和の符号(遊びの数論52)

[遊びの数論]  37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20

遊びの数論51の続き。誤字脱字・間違いがあるかも。


✿ ✿ ✿ ✿ ✿


2025-12-09 ガウス和に関連する不思議な恒等式

#遊びの数論 #ガウス和 #ガウス和の平方 #ガウス和の符号

1811年のガウスの論文「ある種の特別な数列の和」では、
  [(1 − xm)(1 − xm−1)···(1 − xm−μ+1)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xμ)]
という多項式の商が、簡略な記号 (m, μ) で表されている。例えば:
  (6, 2) = [(1 − x6)(1 − x5)]/[(1 − x)(1 − x2)]
  (6, 3) = [(1 − x6)(1 − x5)(1 − x4)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)]

これらは一見「意味不明」な分数だが、 1 − xk の形の因子たちの指数 k だけを見ると、
  (6⋅5)/(1⋅2) や (6⋅5⋅4)/(1⋅2⋅3)
のようになっている。形式的には「意外と単純」、コンセプト的・感覚的には「二項係数の仲間」といえるだろう(実際、割り切れて、整係数の多項式になる)。――これらの分数は、ある種の足し算・引き算に対して、非常に不思議な反応を示す。

ガウスは、次の関係(恒等式)を証明した。いわく、 m が任意の正の偶数のとき、
  1 − (m, 1) + (m, 2) − ··· ± (m, m)
は、積 (1 − xm−1)(1 − xm−3)···(1 − x3)(1 − x) に等しい。例えば:
  1 − (6, 1) + (6, 2) − (6, 3) + (6, 4) − (6, 5) + (6, 6) = (1 − x5)(1 − x3)(1 − x)

左辺の謎めいた「足し算・引き算」と、右辺のシンプルな「掛け算」が等しいというのは、奇妙な現象だ! 証明自体は平易で、(技巧的ではあるが)初等的な操作の組み合わせ。証明できるからといって、「不思議さ」のもやが晴れるわけではないのだが…

ガウスは、この恒等式を鍵として、「ガウス和の符号決定」(天才ガウスをして何年も悩ましめた難問題)をついに――そして鮮やかに――解決した。その前段階に当たる上記「不思議な恒等式」の証明について、順を追って紹介したい。

† 証明が完成したのは、1805年8月30日。論文にまとめて提出したのは、3年後の1808年8月24日。実際に出版・公開されたのは、さらに3年後の1811年だった。ガウス和は有限個の項の和なので、原題(ラテン語)の series を「級数」ではなく「数列」と訳しておく。

✿

§1 二項係数に似た感じ

(6, 2) = [(1 − x6)(1 − x5)]/[(1 − x)(1 − x2)] と (5, 2) = [(1 − x5)(1 − x4)]/[(1 − x)(1 − x2)] を比べると、どちらも分母は同じだが、分子に関しては、前者にだけ因子 1 − x6 があり、後者にだけ因子 1 − x4 がある(それ以外の因子は共通)。足りない因子を掛けてやれば、
  (6, 2)⋅(1 − x4) = [(1 − x6)(1 − x5)(1 − x4)]/[(1 − x)(1 − x2)] = (5, 2)⋅(1 − x6)
のように、 (6, 2) と (5, 2) の関係を式で表現できる。すなわち (6, 2) について、もしその左側のインデックス 6 を 1 小さい 5 に変更したければ、上記のように因子を調整すればいい―― (6, 2) を含む式は、次数を減らした (5, 2) を含む式に帰着される、と。

一般に μ を正の整数として、次の《上》と《下》を比べてみる【※補足1】。
  (m, μ) = [(1 − xm)(1 − xm−1)···(1 − xm−μ+1)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xμ)]  《上》
  (m−1, μ) = [(1 − xm−1)(1 − xm−2)···(1 − xm−μ)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xμ)]  《下》
すると《上》にだけ因子 1 − xm があり、《下》にだけ因子 1 − xm−μ があって、それ以外は同じなのだから、《上》と《下》それぞれに「足りない因子」を掛けてやることで、直ちに次の公式を得る。

公式1 (m, μ)⋅(1 − xm−μ) = (m−1, μ)⋅(1 − xm)

(m, μ) の定義も、それについての上記のような公式も、二項係数についての操作と似た感じがする。 μ (ミュー)はガウスが使ったギリシャ文字だが、単なる変数名。 u の筆記体と思ってもいい。

※補足1】 ガウスの記号 (a, b) が表すのは、 1 − xk の形の因子 b 個の積を分子として、同じ形の因子 b 個の積を分母とするような、分数。よって各因子の k の値さえ指定すれば、その意味は定まる。分母の側の b 個の k は、単に
  k = 1, 2, 3, ···, b
だ。これは明らかに b 種類の数で、数え間違える余地はない。一方、分子の側の b 個の k は、最高次の k = a から始まって、降べき順(1 ずつだんだん小さくなる)で、
  k = a, a−1, a−2, ···, a−b+1
となっている。この右端に +1 が付く理由は、次の通り。もし a = m−1 なら、
  k′ = m−1, m−2, m−3, ···, m−b
が b 種類の数であることは明らかだろう(マイナスの後ろの数を目印にすると 1, 2, 3, ···, b なので)。で、もし a = m なら、上の行の各数を 1 増やして、
  k = m−0, m−1, m−2, ···, m−b+1
となる。 k′ の数と1対1なので、これも b 種類の数。出発点の m−0 はもちろん m と同じだが、 m−0 から始まっているときには、終点は m−b+1、と。

1 を基準に数え始めるときと比べると、 0 から数え始める場合には、 0 を含めた分、カウントが 1 ずれる。だから終点の目印も 1 ずらす必要がある。基本中の基本の初歩的な事柄だが、分かっていても(どんなに優秀なプログラマーでも)必ず生涯に 100 回は間違えて off-by-one と呼ばれるバグを発生させる鬼門である!

ところで分子の側の指数 k は、だんだん小さくなるのだから、場合によっては負になり得る。しかし以下の議論では、 x の指数が負になる場合を考える必要はない。よって(無用な複雑化を避けるため)、 (a, b) の a は「b と比べて小さ過ぎない」整数、ということを暗黙の了解とする。 b は因子の個数なので 1 以上の整数であれば意味が明快だが、 b = 0 の可能性も許容した方が都合がいい: a と無関係に (a, 0) = 1 と約束する(その真意については後述)。

§2 m を 1 減らす

公式1の両辺を 1 − xm−μ で割ると:
  (m, μ) = (m−1, μ)⋅(1 − xm)/(1 − xm−μ)  ア

アの左辺が (m, μ) そのものになったのは良いとして、右辺に掛け算されている分数がいかにも邪魔くさい。この分数は、分子が m 次式、分母が m−μ 次式なので、多項式として分子が分母より「大きい」――感覚的には、例えば 7/5 のようなもので、それを (5 + 2)/5 = 1 + 2/5 のような形に簡約したいと願うのは、自然な発想だろう(7次の因子より、2次の因子の方が扱いやすいだろうから)。実際の処理としては、この邪魔な分数の分子に −xm−μ + xm−μ を足せばいい:
  (1 − xm)/(1 − xm−μ) = (− xm−μ + xm−μ − xm)/(1 − xm−μ) = 1 + (xm−μ − xm)/(1 − xm−μ)  イ

− xm−μ + xm−μ はもちろん 0 なので、この変形(分子に 0 を足すこと)は、式の値に影響しない。ガウスの (m, μ) 記法との関係では、分子・分母が 1 − xk の形になっていることが望ましい。それには、関係
  xm−μ − xm = (1 − xμ)⋅xm−μ
を利用して、イの分子から xm−μ をくくり出せばいい。こうなる:
  (1 − xm)/(1 − xm−μ) = イ = 1 + (1 − xμ)/(1 − xm−μ)⋅xm−μ  ウ
ウをアに代入して:
  (m, μ) = (m−1, μ)⋅[1 + (1 − xμ)/(1 − xm−μ)⋅xm−μ]
   = (m−1, μ) + (m−1, μ)⋅(1 − xμ)/(1 − xm−μ)⋅xm−μ
   = (m−1, μ) + [(1 − xm−1)(1 − xm−2)···(1 − xm−μ+1)(1 − xm−μ)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xμ−1)(1 − xμ)](1 − xμ)/(1 − xm−μ)⋅xm−μ
第2項の左側にある長い分数は (m−1, μ) の定義による。この長い分数の分子・分母両方について、右端の因子は、その右隣にある短い分数ときれいに約分される:
   = (m−1, μ) + [(1 − xm−1)(1 − xm−2)···(1 − xm−μ+1)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xμ−1)]⋅xm−μ

約分後の(上記の)分数は、 1 − xm−1 を最高次の因子として、分子・分母にそれぞれ μ−1 個の因子を持つのだから、定義により (m−1, μ−1) に他ならない【※補足2】。すなわち、邪魔な分数が解消され「m を 1 減らす公式」が得られた。それを素直にそのまま書くと、
  (m, μ) = (m−1, μ) + (m−1, μ−1)⋅xm−μ
となる。右辺の足し算を逆順で書いた方が、後々都合がいい:

公式2 μ が 1 以上なら:
  (m, μ) = (m−1, μ−1)⋅xm−μ + (m−1, μ)

(a, b) の b は因子の個数なので、負ではない。公式2では「右辺に含まれる μ−1 が負でない」という制約から、 μ は 1 以上。 μ = 1 だと (m−1, μ−1) の部分は (m−1, 0) になるが、規約により (a, 0) = 1 なので、 μ = 1 に対しても公式2は有効。実際、恒等式
  xn − 1 = (x − 1)(xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1)
に留意すると、
  (m, 1) = (xm − 1)/(x − 1) = xm−1 + xm−2 + ··· + x + 1
は、次の値に等しい:
  (m−1, 0)⋅xm−1 + (m−1, 1) = 1⋅xm−1 + (xm−1 − 1)/(x − 1)
   = xm−1 + (xm−2 + xm−3 + ··· + x + 1)

※補足2】 次の k が μ 種類の数であることは、前述の通り。
  k = m−0, m−1, m−2, ···, m−μ+1
よって先頭の m−0 を取り除いて
  k = m−1, m−2, ···, m−μ+1
とすると、それは μ−1 種類の数であり、これらが (m−1, μ−1) の分子の k だ。 (m−1, μ−1) の分母の k は、もちろん、
  k = 1, 2, 3, ··· , μ−1
の μ−1 個。

§3 空についての禅問答

(m, 0) とは、どういうことか?

(m, 0) の定義によれば、その分子には 1 − xm を最高次の因子として、降べき順に 1 − xk の形の因子が 0 個あり、その分母には 1 − x を最低次の因子として、昇べき順に 1 − xk の形の因子が 0 個ある。

要するに、分子も分母も空っぽ(空積)。

0 ですらない。因子が空集合。全くなんにもない。

x を 0 回掛け算する x0 や、二項係数に関連してしばしば登場する 0! もそうだが、このような空積の値は 1 と解釈されるのが通例だ。ここでも、 m の値と無関係に (m, 0) = 1 と約束している。 (0, 0) も = 1 とする。

「なんにもない」はずの空積が、なぜ 0 ではなく 1 なのか。このような規約を不可解・理不尽と感じる人もいるだろう。理路整然と言葉で説明することは可能だが、説明されて一応理屈は分かっても、心では「納得がいかない」かもしれない。けれど、そのうち悟り(?)が開けると、空積が 1 であることは当たり前――というより不可避的――と感じられ、ついには 00 すら 1 でなければならないという確信が生じる(00 の定義については異論もあるだろうが、 00 = 1 と考えないと、二項展開のつじつまが合わない)。

「乗法的世界では空が 1 である」という直観的根拠を略述すると…

「0 回掛ける」すなわち「何も掛けない」とは、「何もしないこと・いかなる作用も及ぼさないこと」であり、乗法的世界において「いかなる作用も及ぼさない」ような(無益にして無害の)操作とは 1 倍写像に他ならない。 0 倍写像は問答無用で入力を破壊し、情報を消滅させる――入力を消す「作用」を持つ写像であり、真の「無」ではない。 1 倍写像は入力に「無」を施す。何の干渉もしない。増やしもせず、減らしもしない。これこそが真の「無」だっ!

(とりわけ乗法群ともなれば、逆元を持たない 0 には、そもそも参加資格すらない。これは乗法群限定の論点だが、 0 はその世界の一員ではなく、群演算は世界内で完結するのだから、その世界内でどういう群演算をしたところで「0」という結果が生じる余地はない。)

納得できる・できないは別として、 (m, 0) = 1 は「便宜上の約束」であり「定義」である。

一方、
  (m, m) = [(1 − xm)(1 − xm−1)···(1 − xm−m+1)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xm)]
のように左右のインデックスが等しい場合の (a, b) が 1 に等しいことは明白(分子・分母が、全く同じ因子たちを逆順で含むので)。もちろん (m−1, m−1) なども = 1 だ。

§4 謎の交代和 ƒ(x, m)

記号 ƒ(x, m) によって、ガウスは次の交代和(プラスの項とマイナスの項が交互に現れる足し算)を表現した。
  ƒ(x, m) = (m, 0) − (m, 1) + (m, 2) − (m, 3) + ··· ∓ (m, m−1) ± (m, m)  エ
複号は m が偶数なら上、奇数なら下。 (m, μ) の分子・分母の因子はそれぞれ μ 個だが、それらの交代和 ƒ(x, m) は、定義エによって、 m 項ではなく m+1 項ある。よって m が偶数なら奇数項となり、 +, − が m/2 回繰り返されたあと + で終わる。 m が奇数なら偶数項となり − で終わる。

〔注〕 定義エの右辺第1項を (m, 0) でなく単に 1 と書いても同じ意味。規約により (m, 0) = 1 なので。

ƒ という加法的な式(足し算・引き算)を「積の形」でも表現できる――という点が重大なのだが、その証明は ƒ(x, m) が ƒ(x, m−2) の式に帰着することに基づく(後述)。 ƒ の各項について、直ちに m を 2 減らすわけにはいかないだろうが、とりあえず m を 1 減らすこと―― (m, k) の形を (m−1, k) についての式に変換すること――は、難しくない(§2)。

エの右辺について。 a と無関係に (a, 0) は一定(= 1)と約束しているので、最初の項の m については、何も考えずに強制的に 1 を引いていい:
  (m, 0) = (m−1, 0)  カ
次の項 −(m, 1) については、公式2
  (m, μ) = (m−1, μ−1)⋅xm−μ + (m−1, μ)
の右辺に μ = 1 を入れて、全体を −1 倍すればいい:
  −(m, 1) = −(m−1, 0)⋅xm−1 − (m−1, 1)  キ
それ以降の項についても、同じ公式に μ = 2, 3, ···, m−1 を代入し、 μ が奇数のときは符号をマイナスにするだけ:
  (m, 2) = (m−1, 1)⋅xm−2 + (m−1, 2)  ク
  −(m, 3) = −(m−1, 2)⋅xm−3 − (m−1, 3)  ケ
   ︙
  ∓(m, m−1) = ∓(m−1, m−2)⋅x1 ∓ (m−1, m−1)  サ
これでエ右辺の後ろから2番目の項までが処理された。エ右辺の最後の項 ±(m, m) は ±1 なので、形式的に、
  ±(m, m) = ±(m−1, m−1)⋅x0  シ
と書き換えることができる(§3参照)。 x0 倍は 1 倍のことなので、あってもなくても値は同じだが、表記の統一性のためこう記しておく。

このカキクケ…の左辺の和が ƒ(x, m) だから、それはカキクケ…の右辺の和に等しい。すなわち:
  ƒ(x, m) = (m−1, 0) − (m−1, 0)⋅xm−1 − (m−1, 1) + (m−1, 1)⋅xm−2 + (m−1, 2) − (m−1, 2)⋅xm−3 − (m−1, 3) + ···
   = (m−1, 0)⋅(1 − xm−1) − (m−1, 1)⋅(1 − xm−2) + (m−1, 2)⋅(1 − xm−3) − ···

〔注〕 この最後の等号は、単に分配法則による:
  (m−1, 0) − (m−1, 0)⋅xm−1 = (m−1, 0) × (1 − xm−1),
  −(m−1, 1) + (m−1, 1)⋅xm−2 = −(m−1, 1) × (1 − xm−2), etc.
P = (m−1, 0), Q = (m−1, 1) と置けば、
  P − P⋅xm−1 = P(1 − xm−1)
  −Q + Q⋅xm−2 = −Q(1 − xm−2)
に過ぎない。

この調子でどんどん処理していくと、やがてサの前半(およびその前の行の後半)を組み合わせた
  ± (m−1, m−2)⋅(1 − x1)  ザ
が生じ、その後ろの最終項として、サの後半とシを組み合わせた
  ∓ (m−1, m−1)⋅(1 − x0)  ジ
が生じる。けれど 1 − x0 = 1 − 1 = 0 なので、ジは 0 に等しく、計算結果に影響しない。事実上、ザが末尾の項と考えて差し支えない。

以上を要約すると、次の通り。

命題3 ƒ(x, m) は次の値に等しい。複号は m が偶数なら上、奇数なら下。
  (m−1, 0)⋅(1 − xm−1) − (m−1, 1)⋅(1 − xm−2) + (m−1, 2)⋅(1 − xm−3) − ··· ± (m−1, m−2)⋅(1 − x1)

この命題はゴチャゴチャしていて、特に印象的でもない。普通に考えると「m を 1 小さくしたら、ゴチャゴチャした式が出た。ここからさらに m を減らせば、ますます複雑になる」と予想されるであろう。ところが…

§5 アッと驚く再帰ループ

最初に導出した公式1を再掲する。ただし便宜上、文字 m の変わりに文字 N を使う。
  (N, μ)⋅(1 − xN−μ) = (N−1, μ)⋅(1 − xN)  ス

スが μ = 0 に対しても有効であることは、容易に直接確認可能。実際、 (N, 0) = (N−1, 0) = 1 なのだから、 μ = 0 のときのスは、
  1⋅(1 − xN−0) = 1⋅(1 − xN)
という自明な等式に過ぎない。

さて、 (N, μ) の N などの左側インデックスは、単に xN − 1 という最高次の因子の指数であるから、一応そこにどんな整数値を代入しても構わない。もっとも x の指数が負にならないというのが暗黙の了解なので、スに含まれる N と N−1 は 0 以上。要するに N は 1 以上。よって「m は 2 以上の整数」と仮定しておけば、スの N に m−1 を代入できる。それを実行すると:
  (m−1, μ)⋅(1 − xm−1−μ) = (m−2, μ)⋅(1 − xm−1)  セ

今、セで μ = 0 と置くと、
  (m−1, 0)⋅(1 − xm−1) = (m−2, 0)⋅(1 − xm−1)  タ
を得る。同様に μ = 1, 2, ···, m−2 と置くと:
  (m−1, 1)⋅(1 − xm−2) = (m−2, 1)⋅(1 − xm−1)  チ
  (m−1, 2)⋅(1 − xm−3) = (m−2, 2)⋅(1 − xm−1)  ツ
   ︙
  (m−1, m−2)⋅(1 − x1) = (m−2, m−2)⋅(1 − xm−1)  ト

命題3による ƒ(x, m) の表現
  (m−1, 0)⋅(1 − xm−1) − (m−1, 1)⋅(1 − xm−2) + (m−1, 2)⋅(1 − xm−3) − ··· ± (m−1, m−2)⋅(1 − x1)  ナ
の各項は、符号を別にすると、順にタチツ…トの左辺であるから、 ƒ(x, m) はタチツ…トの左辺の交代和に等しい。それはもちろん、タチツ…トの右辺の交代和にも等しい(要するに、ナの各項にタチツ…トを代入)。つまり、
  ƒ(x, m) = (m−2, 0)⋅(1 − xm−1) − (m−2, 1)⋅(1 − xm−1) + (m−3, 1)⋅(1 − xm−1) − ··· ± (m−2, m−2)⋅(1 − xm−1)
となる。この右辺各項は因子 (1 − xm−1) を持ち、それでくくると:
  ƒ(x, m) = (1 − xm−1)⋅[(m−2, 0) − (m−2, 1) + (m−2, 2) − ··· ± (m−2, m−2)]

なぜか自然に (m−2, k) の式になってしまった!

しかもッ! この最後の等式の [ ] 内は、定義により ƒ(x, m−2) に他ならない。かくして、次のシンプルな再帰的公式(漸化式)に至る。

公式4 ƒ(x, m) = (1 − xm−1)⋅ƒ(x, m−2)

〔コメント〕 ある m についての ƒ の計算は、この公式によって、 m−2 についての ƒ の計算に帰着され、 m−2 についての ƒ の計算は同じ公式によって m−4 についての ƒ の計算に帰着され…等々となるので、結局、二つの値 ƒ(x, 0), ƒ(x, 1) だけを基にして、任意の m ≥ 2 について ƒ(x, m) を求めることができる――少なくとも原理的には。この手の漸化式は、往々にして m がちょっと大きくなると実用的でなくなるものだが、以下ですぐ記すように、公式4による再帰ループは、驚くほど単純な計算になる。

ƒ(x, m) は m+1 個の項を持ち、最初の項は (m, 0) つまり 1 だ(§4、定義エ参照)。 ƒ(x, 0) は項を 1 個しか持たないので、定義から直ちに
  ƒ(x, 0) = 1
となる。この ƒ(x, 0) の値(多項式としての 1 である)に留意しつつ、公式4で m = 2 と置くと:
  ƒ(x, 2) = (1 − x2−1)⋅ƒ(x, 0) = (1 − x)⋅1 = 1 − x

これで ƒ(x, 2) が表す多項式が 1 − x であることが判明した。この事実に留意しつつ、公式4で今度は m = 4 と置くと、
  ƒ(x, 4) = (1 − x3)⋅ƒ(x, 2) = (1 − x3)(1 − x)
となる。これで ƒ(x, 4) が表す多項式が 1 − x3 と 1 − x の積であることが判明した。この事実に留意しつつ、再び公式4で m = 6 と置くと、
  ƒ(x, 6) = (1 − x5)⋅ƒ(x, 4) = (1 − x5)(1 − x3)(1 − x)
となり、以下同様に、
  ƒ(x, 8) = (1 − x7)⋅ƒ(x, 6) = (1 − x7)(1 − x5)(1 − x3)(1 − x)
   ︙
等々。この再帰的なループは、望むだけ続けることができる。すなわち、次の恒等式が証明された!

公式5(Gauß [0] p. 18, [1] p. 470) m が正の偶数のとき、 (m, μ) たちの交代和
  ƒ(x, m) = (m, 0) − (m, 1) + (m, 2) − ··· + (m, m)
   = 1 − (1 − xm)/(1 − x) [(1 − xm)(1 − xm−1)]/[(1 − x)(1 − x2)] − [(1 − xm)(1 − xm−1)(1 − xm−2)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)] + ··· [(1 − xm)···(1 − x)]/[(1 − x)···(1 − xm)]
は、次の m/2 個の因子の積に等しい(つまり、整係数の多項式に簡約される)。
  (1 − x)(1 − x3)(1 − x5)···(1 − xm−1)

〔コメント〕 これはすごい恒等式だ! 難解そうな ƒ が、結果的に、こんなきれいな積の形で表されるとは…。 ∑ で表されるような足し算・引き算の世界と、 ∏ で表されるような掛け算の世界。ガウス和は、そのような二つの世界を結び付けるトンネル(あるいはワームホール)のようなもの、といえるかもしれない。公式5は、いわばその先進導坑。

上記 ƒ(x, m) の交代和表現は、最初の項 (m, 0) = +1 を別にすると (m, 1) から (m, m) までの m 項だから、 m が偶数なら、第2項以降の符号は −, + が m/2 回繰り返され、最後の項には + が付く。符号を無視して (m, μ) が表す分数そのものを考えると、最後の項 (m, m) は 1 に等しい(分子と分母が同じなので: §3)。つまり (m, m) = (m, 0)。後ろから2番目の項
  [(1 − xm)(1 − xm−1)···(1 − x2)]/[(1 − x)(1 − x2)···(1 − xm−1)]
は、分子・分母の共通因子を約分すると (1 − xm)/(1 − x) に等しい。つまり (m, m−1) = (m, 1)。同様に (m, m−2) = (m, 2), (m, m−3) = (m, 3), 等々。

〔付記〕 一般に m > d ≥ 1 のとき、 (m, d) = (m, m−d) だ(理由は、単なる分数の約分)。この等式を拡張して形式的に d = 0 と置くなら、 (m, 0) = (m, m) が予期される。 m ≥ 1 のとき (m, m) = 1 であることは明白なので、それに等しいと予期される (m, 0) について = 1 とする規約は、この観点からも自然なことだろう。規約 (m, 0) = 1 は公式1・公式2などとも整合性があり、もはや「空積すなわち 1」は不可避的§3)な要求だ。論理的な建前としては (m, 0) = 1 は「便宜上の規約」だが、「そう考えるしかないでしょ!」ってのが本音。

m が偶数の場合、最初の項 (m, 0) = 1 と最後の項 (m, m) = 1 に付く符号はどちらもプラス、2番目の項 (m, 1) に付く符号と最後から2番目の項 (m, m−1) に付く符号はどちらもマイナス、等々なので、 0 以上 m/2 未満の各 k に対して ±(m, k) と ±(m, m−k) は、中身も符号も一致する。個別に計算する代わりに、一方だけ計算して 2 倍すれば同じこと。真ん中の項 ±(m, m/2) だけは、そのような「等しい相棒」を持たない。以上のことから、 m が偶数なら、
  ƒ(x, m) = 2[(m, 0) − (m, 1) + (m, 2) − ··· ∓ (m, m/2−1)] ± (m, m/2)
とすることで、 (m, μ) 記号の数を(従って計算量を)約半分に節減できる。複号は m/2 が偶数なら上、奇数なら下。つまり m が 4 の倍数なら上、そうでなければ下。

ちなみに m が正の奇数の場合には、 ƒ(x, m) は常に = 0 になってしまう。例えば、
  ƒ(x, 3) = (0, 3) − (1, 3) + (2, 3) − (3, 3)
の項を両端から二つずつペアにしていくと、各ペアは「とある分数」と「その分数の −1 倍」の和に当たり、つまり 0 に等しい。定義に基づいて
  ƒ(x, 1) = (1, 0) − (1, 1) = 1 − (1 − x)/(1 − x) = 1 − 1 = 0
を求めた上で、再帰的な公式4を使うことでも、容易に同じ結論に至る: ƒ(x, 3) は ƒ(x, 1) = 0 との積の形なので 0 になり、 ƒ(x, 5) はその ƒ(x, 3) = 0 との積の形なので 0 になる、等々。

§6 簡単な具体例

A − B と B − A は(値が 0 でない限り)符号が反対――より正確に言えば、互いに他方の −1 倍だ。

実際、前者 A − B = A + (−B) と後者 B − A = B + (−A) = (−A) + B を比べると、どちらからどちらを見ても各項が −1 倍されている。

A − B = 0 つまり A = B の場合 B − A = 0 だが、 0 も 0 の −1 倍。その場合も含めて、 A, B それぞれの値が何であろうと、 A − B と B − A は互いに −1 倍の関係にある。簡単に言えば: 引き算の順序をひっくり返すと、結果の符号が反転する。便宜上、一方が +0 で他方が −0 の場合(要するにどちらも 0 の場合)も、「符号が反転する」と見なす。

(m, μ) の計算では、そうしたければ、 1 − xk の形の全部の因子をそれぞれ −1 倍して xk − 1 に置き換えることができる。その場合 (m, μ) の分子・分母は、どちらも符号が μ 回反転するので、結果的には符号も含めて同一の商が得られる。 ƒ の交代和表現においては、任意の項(あるいは全部の項)にこのような変更を施しても構わない(そうしたければ)。一方、同じ ƒ でも、 m が偶数の場合の積表現
  (1 − xm−1)(1 − xm−3)···(1 − x)
について、各因子で同様の置き換えを行った場合、因子の個数 m/2 が偶数(m が 4 の倍数)なら無害だが、因子が奇数個の場合、明らかに積の符号が逆になる(積の因子の符号が奇数回反転するので)。

〔注〕 以下の例では、計算の都合に合わせて、ほどほどに多項式の因数分解を行う。必ずしも(既約多項式の積へと)徹底分解しない。分解の根拠や途中計算をいちいち記さないが、大半はよく知られた基本公式に基づく。

例1 m = 4 のとき(因子を xk − 1 の形で表記):
  (4, 0) = (4, 4) = 1
  (4, 1) = (4, 3) = (x4 − 1)/(x − 1) = x3 + x2 + x + 1
  (4, 2) = [(x4 − 1)(x3 − 1)]/[(x − 1)(x2 − 1)] = [(x2 + 1)(x + 1)(x − 1)⋅(x − 1)(x2 + x + 1)]/[(x − 1)⋅(x + 1)(x − 1)]
   = (x2 + x + 1)(x2 + 1) = x4 + x3 + 2x2 + x + 1  ← 111 × 101 = 11211
  ∴ ƒ(x, 4) = 2[1 − (x3 + x2 + x + 1)] + (x4 + x3 + 2x2 + x + 1) = x4 − x3 − x + 1

この右辺は、確かに (1 − x3)(1 − x) = (x3 − 1)(x − 1) に等しい。

例2 m = 6 のとき(因子を xk − 1 の形で表記):
  (6, 0) = (6, 6) = 1
  (6, 1) = (6, 5) = (x6 − 1)/(x − 1) = x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1
  (6, 2) = (6, 4) = [(x6 − 1)(x5 − 1)]/[(x − 1)(x2 − 1)]
   = [(x4 + x2 + 1)(x2 + 1)⋅(x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1)]/[(x − 1)⋅(x + 1)(x − 1)]  ← この分数を A とする
   = (x4 + x3 + x2 + x + 1)(x4 + x2 + 1)  ← 11111 × 10101 = 112232211
   = x8 + x7 + 2x6 + 2x5 + 3x4 + 2x3 + 2x2 + x + 1  ← これを B とする

最後に (6, 3) = [(x6 − 1)(x5 − 1)(x4 − 1)]/[(x − 1)(x2 − 1)(x3 − 1)] の計算では、分数 A を (x4 − 1)/(x3 − 1) 倍、つまり (x3 + x2 + x + 1)/(x2 + x + 1) 倍すればいい(結果は整係数多項式。 x4 + x2 + 1 は (x2 + x + 1)(x2 − x + 1) に等しいので、 A = B は x2 + x + 1 で割り切れる)。要するに B を x2 + x + 1 で割って x3 + x2 + x + 1 を掛ければいい。整数演算
  112232211 ÷ 111 × 1111 = 1123333211
と同様に、 x9 + x8 + 2x7 + 3x6 + 3x5 + 3x4 + 3x3 + 2x2 + x + 1 を得る(この多項式を C とする)。
  ∴ ƒ(x, 6) = 2[1 − (x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1) + B] − C = −x9 + x8 + x6 − x5 + x4 − x3 − x + 1

この右辺は、確かに (1 − x5)(1 − x3)(1 − x) に等しい。 実際、 (1 − x5)(1 − x3) = (x5 − 1)(x3 − 1) = x8 − x5 − x3 + 1 に留意すると、その 1 − x 倍は、
  (x8 − x5 − x3 + 1) + (−x9 + x6 + x4 − x)
だ。

公式5がまぁ正しそうだ(証明は間違ってないようだ)ということが、二つの具体例によって、一応確認された。実際には、この公式の主目的は、具体的な ƒ についての上記のような計算ではない。かなり意表を突く形で、この恒等式が使われることになるであろう。

✿

(m, μ) の分子・分母は、どちらも 1 − xk の形の因子の積だから、各因子を徹底分解すれば、結局「円分多項式の積」であり、その観点からすると、約分が成立して商が整係数多項式になるのは、不思議ではないだろう(やはり二項係数と似ている)。

他方、そうして作られる商たちの(複雑そうな)交代和 ƒ が、 (1 − x)(1 − x3)(1 − x5)··· のようなシンプルな積に等しくなるのは――形式的には本文で証明した通りだが、内容的には――、不思議な現象だ。

(1 − x)(1 − x3)(1 − x5) のようなものも (m, μ) のようなものも、それが円分多項式の積であることは明白だが、
  m が偶数のとき ƒ(x, m) は上記のような積に一致する
という「現象」をどう捉えるか。円分多項式は、この場合 1 − xk から生じる。本来的には、掛け算の因子。しかし ƒ によって、円分多項式の積を足したり引いたりした場合にも、結果は再び円分多項式の積(規則的に生成される積!)になる――「そういう現象が起きる」という表面的事実(公式5)は証明されたものの、現象の核心は、もやに包まれている。「積の和」イコール「積」…。多分 ƒ は深い意味を持つ交代和で、霧の奥のどこかに、乗法的世界と加法的世界を交錯させるような「メカニズム」があるのだろう。

◆ 参考文献
[0] Gauß (1811), Summatio quarumdam serierum singularium
https://archive.org/details/werkecarlf02gausrich/page/n18/mode/1up
導出のステップや数値例などが、やけに懇切に記されている(時代に先行し過ぎていて、当時の読者に内容を理解してもらうためには、丁寧に書く必要があったのかもしれない)。主題はガウス和の符号決定。系として相互法則の第四証明も収録。URL にあるデータは、論文が最初に掲載された学会誌のスキャンではなく、後にガウス全集に再録されたときのバージョン(Werke II, pp. 9–45)。
[1] Summierung gewisser Reihen von besonderer Art
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/download/pdf/PPN373456743/LOG_0015.pdf
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN373456743?tify=%7B%22pages%22%3A%5B479%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
Disquisitiones ドイツ語版(1889)の付録より。ラテン語原文 [0] のドイツ語訳。
[2] Nagell (1951, 1964), Introduction to Number Theory, Chap. V, §§51–53, pp. 173–180
ガウス自身の記述より圧縮されていて少し行間が広いが、概して平明。フェルマーの最終定理の n = 7 の場合の話題でも、一部のメモで本書の内容を紹介した。残念ながら、2025年現在、まだウェブ上では自由に読めないようだ。

初出は Commentationes Societatis Regiae Scientiarum Gottingensis recentiores の Vol. 1, 1808–1811 で、
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/download/pdf/PPN35283028X_0001_2NS/LOG_0029.pdf
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN35283028X_0001_2NS?tify=%7B%22pages%22%3A%5B195%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
にある。この出版物では long s が使われている(例えば fusiusfuſius と表記。その他、語頭の u を v 表記)。全集版 [0] の方が、表記が近代的で読みやすい。

〔追記〕 原論文 [0] の英訳があった。
https://en.wikisource.org/wiki/Translation:Summatio_quarandum_serierum_singularium
下記 URL には [0] を書き起こしたテキストデータもある。
https://la.wikisource.org/wiki/Pagina%3AWerkecarlf02gausrich.djvu/21
https://la.wikisource.org/wiki/Summatio_quarandum_serierum_singularium
もし PDF 版でエラーになるなら HTML ページそのものを保存してもいいが、ローカルに保存した HTML をそのままの状態で開くとリモートにアクセスしようとするため、プライバシー上の懸念あり。 Epub 版というオプションもある。(2025年12月13日)

✿ ✿ ✿


2025-12-12 ガウス和の符号・前編 名画・名曲・名証明

#遊びの数論 #ガウス和 #ガウス和の平方 #ガウス和の符号

名画や名曲を鑑賞する活動があるのなら、名証明を鑑賞する活動があってもいい。ゆったりと美しさを味わい、楽しむための数論。

前回、準備として ƒ(x, m) という不思議なコンセプトを紹介した。 m が正の偶数のとき、
  1 − (1 − xm)/(1 − x) [(1 − xm)(1 − xm−1)]/[(1 − x)(1 − x2)] − [(1 − xm)(1 − xm−1)(1 − xm−2)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)] + ···
という m+1 項の式が、
  (1 − x1)(1 − x3)(1 − x5)···(1 − xm−1)
という積に等しい、という恒等式。ガウスはこの関係をどう使ったのか、という核心部を紹介したい。

✿

§7 準備

ガウスによる証明の面白さを(さわりだけでも)堪能できるよう、一応、話の前提のような事柄を記す。この節では、 1 以上の整数(1, 2, 3, ···)を「自然数」と呼ぶ。

自然数 n が与えられたとき、方程式 xn = 1 の解を「1 の n 乗根」という。 1 自身も(1n = 1 を満たすので)「1 の n 乗根」だが、一般には 1 以外の「1 の n 乗根」も存在する。例えば n = 2 の場合の x2 = 1 は、二つの解 x = ±1 を持つし、 n = 4 の場合の x4 = 1 は、四つの解 x = ±1, ±i を持つ。ここで i は −1 を表す。

「1 の n 乗根」のそれぞれは、定義によって n 乗すると 1 になるが、そのような数の中には「n 乗しなくても、もっと小さい自然数乗でも 1 になる」という性質を持つものもある。例えば −1 は 4 乗すると 1 になるので「1 の 4 乗根」には違いないが、 4 乗しなくても、 2 乗するだけでも 1 になる。他方において、特定の n が与えられたとき、「n 乗して初めて 1 になる。もっと小さい自然数乗では 1 にならない」という性質を持つ数が必ず(一般には複数個)存在し、 1 の原始 n 乗根と呼ばれる。例えば i は 1 の原始 4 乗根。 −i もそうだ。

1 の原始 4 乗根の一つである i を使って、合計四つある「1 の 4 乗根」たちを次の形式で過不足なく表現できる:
  i1 = i, i2 = −1, i3 = −i, i4 = 1
もう一つの「1 の原始 4 乗根」である −i を使っても、同様のことができる:
  (−i)1 = −i, (−i)2 = −1, (−i)3 = i, (−i)4 = 1
出現順序は異なるが、四つある「1 の 4 乗根」たちが過不足なく現れる。

同様に「1 の n 乗根」はちょうど n 種類あり、それら n 種の数は、「1 の原始 n 乗根」の一つを r として次の形式で過不足なく表現される:
  r, r2, r3, ···, rn

r の指数が n より大きくなったら、何が起きるか? 再び n = 4 の場合の具体例 r = i で考えてみると(i4 = 1 に注意):
  i5 = i4⋅i1 = i1, i6 = i4⋅i2 = i2, i7 = i4⋅i3 = i3, i8 = i4⋅i4 = i4, i9 = i8⋅i1 = i1, ···
要するに i1, i2, i3, i4 がループする。一般に r が 1 の原始 n 乗根のとき、 rk の値はちょうど n 種類。周期 n でループする。「n 種類のうちの、どの値になるか?」は――基点 r の選択に依存するのは当然だが、特定の r に対しては――「指数 k が n の倍数よりいくつ大きいか」によって決まる。例えば:
  rn+1 = rn⋅r1 = 1⋅r1 = r,
  r3n+2 = (rn)3⋅r2 = 13⋅r2 = r2

上記の性質は、指数が正でなくても成り立つ。 rn = 1 なのだから、その逆数 (rn)−1 = r−n も 1 だ(1 の逆数なので)。従って、例えば、
  r−1 = r−n⋅rn−1 = 1⋅rn−1 = rn−1
となる。指数の −1 は、 n の倍数(−1 倍)である −n よりも、 n−1 大きい。

〔例〕 n = 4 の場合、指数の −1 は、 4 の倍数 −4 より 3 大きい。もし r として i を 選ぶと:
  i−4 = (i4)−1 = 1−1 = 1 よって i−1 = i−4⋅i3 = i3

補題6 r が 1 の原始 n 乗根なら、任意の整数 k について:
  rn−k = r−k

証明 r−k = 1⋅r−k = rn⋅r−k = rn−k だ。∎

大抵 r−k は、補題6のように扱われる。けれど、違う観点もある。次の r は n 乗根と関係なく、分母が 0 にならない限り、何でもいい。

補題7 (1 − rk)/(1 − r−k) = −rk
あるいは、同じことだが:
  (1 − r−k)/(1 − rk) = −r−k

証明 第1式。 rk⋅r−k = 1 なので、分子の 1 − rk = −(rk − 1) は、
  −[rk⋅(1 − r−k)]
に等しい。分母の 1 − r−k でこれを割ると、割り切れて商は −rk だ。第1式の両辺の逆数を考えると(あるいは、結果的には同じことだが、 k の符号を全部逆にすると)、第2式になる。∎

ついでに 1 + 3 + 5 + 7 + 9 のような足し算では、
  1 3 5 7 9
と、逆順の
  9 7 5 3 1
を縦に足すと 10 が 5 個なので、 10 × 5 ÷ 2 = 25。順方向と逆方向で二重に足し算したので 2 で割る。要するに、
  (最初の項 + 最後の項) × 項数 ÷ 2
ってわけ。

ではでは、ガウスの名証明をお楽しみください…

✿

§8 古典数論の精緻!

n を 3 以上の奇数とする。偶数 m = n − 1 について、公式5が成り立つ。 ƒ(x, m)、すなわち
  1 − (1 − xm)/(1 − x) [(1 − xm)(1 − xm−1)]/[(1 − x)(1 − x2)] − [(1 − xm)(1 − xm−1)(1 − xm−2)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)] + ···  ハ
の x として、ガウスは 1 の原始 n 乗根 r を代入した。補題6から、
  1 − xm = 1 − rn−1 = 1 − r−1  ← m = n−1 と置いたので
  1 − xm−1 = 1 − rn−2 = 1 − r−2
  1 − xm−2 = 1 − rn−3 = 1 − r−3 等々(✽)
が成り立つ。 x = r と置いたとき、上記の関係と補題7に留意すると、ハの一つ一つの項(各項の先頭の符号を除く)は、
  (1 − r−1)/(1 − r1) = −r−1
  (1 − r−2)/(1 − r2) = −r−2
  (1 − r−3)/(1 − r3) = −r−3 等々
を順に 0 個、 1 個、 2 個、 3 個…掛けたものに他ならない。

〔例〕 ハの第3項を 2 個の分数の積と見て、各分子に(✽)の関係を適用し、各分母では単に x = r と置くと:
  (1 − xm)/(1 − x)(1 − xm−1)/(1 − x2) = (1 − r−1)/(1 − r1)(1 − r−2)/(1 − r2) = (−r−1)⋅(−r−2)

よってハは、こうなる:
  1 − (−r−1) + (−r−1)⋅(−r−2) − (−r−1)⋅(−r−2)⋅(−r−3) + ···
   = 1 + r−1 + r−1−2 + r−1−2−3 + ··· + r−E  ← E については下記

もともとのマイナスの項は、 (−rk) の形の因子が奇数個あるのでプラスに変わり、もともとのプラスの項は、同様の因子が偶数個あるのでプラスのまま。つまり全項プラスに。各項の指数は 1 + 2 + 3 + ··· のような和を −1 倍したもの。 ƒ(x, m) は m+1 項あり(§4)、それはすなわち n 項なので(そして第1項は −rk の形ではないので)、末尾の項の指数の絶対値 E は:
  E = 1 + 2 + 3 + ··· + (n−1) = n(n−1)/2

結局、公式5から次の等式が成り立つ。
  1 + r−1 + r−3 + r−6 + ··· + r−n(n−1)/2 = (1 − r1)(1 − r3)(1 − r5)···(1 − rn−2)  ヒ

すげぇ~! 魔法みたいな変形。さすがガウス。だが、核心はここから。

ヒの r は任意に選択された「1 の原始 n 乗根」であるが、「1 の原始 n 乗根」の整数乗は、その整数が n と互いに素である限りにおいて、再び(一般には別の)「1 の原始 n 乗根」になる。 n は奇数なので −2 とは互いに素。そこで、もし仮にヒの r を全部 −2 乗した場合、ヒの r の選択が別の「1 の原始 n 乗根」に置き換わるだけで、結果の両辺は依然として等しい。 (rk)−2 = r−2k なので、要するに、ヒの各指数を −2 倍しても等号は維持される:
  1 + r2 + r6 + r12 + ··· + rn(n−1) = (1 − r−2)(1 − r−6)(1 − r−10)···(1 − r−2(n−2))  フ

〔注〕 もしこの操作が不当(あるいは分かりにくい)と感じられるなら、ヒの各 r を大文字の R に置き換えて(変数名を変えるだけで、内容は同じ)、そこに R = r−2 を代入してもいい。 r−2 = rn−2 も「1 の n 乗根」(§7)。しかも上述のように「原始 n 乗根」だから、有効な R の値だ(なぜなら R の定義は、任意に選んだ「1 の原始 n 乗根」)。

任意の k について 1 − r−2k = r−k(rk − r−k) なので、フの右辺を(各因子にその関係を適用し)次のように変形できる。
  r−1(r1 − r−1)⋅r−3(r3 − r−3)⋅r−5(r5 − r−5)···r−(n−2)(rn−2 − r−(n−2))
   = [r−1⋅r−3⋅r−5···r−(n−2)] ⋅(r1 − r−1)(r3 − r−3)(r5 − r−5)···(rn−2 − r−(n−2))  ブ
この [ ] 内の r の指数たちの絶対値は、 1, 2, ···, n−1 という n−1 個(偶数個)の整数から「奇数(半分の個数)だけ」を抜き出したものだから (n−1)/2 個あって、それらの和は:
  [(1 + n−2) × (n−1)/2]/2 = ((n − 1)/2)2  ← これを H2 = HH とする(H = (n − 1)/2
  ∴ フ右辺 = ブ = r−HH⋅(r1 − r−1)(r3 − r−3)(r5 − r−5)···(rn−2 − r−(n−2))

この最後の式から因子 r−HH を除去できれば、残りは rk − r−k の形の因子の積になり、この各因子は「1 の n 乗根」から「その逆数を引き算したもの」なので、具体的な値を計算する道が開ける。しかも…。この因子を除去するためにフの両辺を rHH 倍すると、副作用でフ左辺も rHH 倍されるけど、うまく処理すると、これが「非常に都合のいい副作用」となる。結果的に、フ左辺をきれいな形式(ガウス和)にまとめることができる。

まずフの左辺の r の指数 2, 6, 12 等々は 1⋅2, 2⋅3, 3⋅4 など k(k + 1) の形。ヒ左辺では −(1 + 2 + 3 + ··· ) だった各指数(それは −k(k+1)/2 の形を持つ)がフ左辺では −2 倍され 2 + 4 + 6 + ··· になったのだから、当然そうなる。上述のようにフ左辺が rHH 倍されるとしたら、最初の項 1 も rHH 倍されるのだから、最初の項を r0 と見て統一的に扱った方がいいだろう。指数 0 も 0⋅1 なので k(k + 1) の形を持つ。もともとの r の指数を k(k + 1) で表すとき、 k = 0, 1, 2, ···, n−1 のように、 k が 0 から始まって n−1 まで動くことに注意しておく(フ左辺の指数たちについて)。

例えば n = 7 の場合、もともとのフ左辺は:
  r0 + r2 + r6 + r12 + r20 + r30 + r42  ← 指数は 0⋅1, 1⋅2, 2⋅3, 3⋅4 等々
H = (7 − 1)/2 = 3 なので、もし rHH 倍つまり r9 倍されると各指数は 9 ずつ増えて:
  r9 + r11 + r15 + r21 + r29 + r39 + r51
この例では r は 1 の原始 7 乗根なので r7 = 1。従って、各項の指数に 7 やその倍数を加減しても、各項の値は変わらない。負にならない範囲で、各指数から 7 を引けるだけ引くと(言い換えれば 7 で割った余りで置き換えると):
  r2 + r4 + r1 + r0 + r1 + r4 + r2
多少のひらめきが必要かもしれないが、各指数が「平方数に対応」してることに気付くのは、さほど難しくないだろう。両端の指数 2 にあえて 7 を足してやると:
  r9 + r4 + r1 + r0 + r1 + r4 + r9  ← 指数は 32, 22, 12, 02
左右対称(回文的)であることも予想される。左端の指数 9 は、もともと r0 = 1 だった項が rHH 倍されて発生したのだから H2 に他ならない(この例では H = 3)。次の指数 4 は (H − 1)2 で、そのまた次は (H − 2)2 で…と考えると、つじつまが合う。 0 になった後、今度は指数が増え始めるように見えるが、計算上、 (−1)2, (−2)2 のように「平方される数は順調に減っている」とも考えられる。 n = 7 に限らず、他の奇数の例もいくつか確かめてみれば「どれも同じパターンらしい」と思えるだろう。とどのつまりは次の問題に。

問題 n を 3 以上の奇数、 H = (n − 1)/2 として、 r を 1 の原始 n 乗根とする。 k = 0, 1, 2, ···, n−1 に対して、
  rk(k+1)
という数を考える。この数を rHH 倍すると、何らかの意味で、結果の r の指数 ℓ が平方数になる?

 平方数 ℓ = (H − k)2 すなわち
  ℓ = ((n − 1)/2 − k)2 = ((n − 1)/2)2 − (n − 1)k + k2
   = H2 + k2 + k − kn = HH + k(k + 1) − nk
指数として r の肩に乗っているとすると、問題の r とは、
  r = rHH+k(k+1)−nk = rHH⋅rk(k+1)⋅(rn)−k
だ。因子 (rn)−k = 1−k = 1 を無視すると、
  r = rHH × rk(k+1)
となる。逆に言うと、 rk(k+1) を rHH 倍したものは r に等しい。ただし、この指数 ℓ は = (H − k)2 の形を持つ。∎

ℓ = (H − k)2 という点に留意すると: rk(k+1) の形の各項が rHH 倍されて生じる r の形の各数の、指数たち ℓ について、真ん中の一つは ℓ = 02 = 0 で(k = H の場合)、真ん中より前には ℓ = 12, 22, 32, ··· , H2 があり(k = 0, 1, ···, H の場合。逆順で整列)、真ん中より後ろには ℓ = (−1)2, (−2)2, (−3)2, ···, (−H)2 がある(k = H+1, H+2, ···, n−1。末尾の n−1 は = 2H)。マイナスの平方は普通に考えるとプラスの平方と同じだけど、この場合、次のように考えると便利。すなわち (−d)2 が指数のとき、
  r(−d)(−d) = r−d⋅r−d = rn−d⋅rn−d = r(n−d)(n−d)  ヘ
なので(補題6)、 (n−d)2 が指数、と読み替えることができる。

〔例〕 n = 7 とする。 r は 7 乗根なので、 r−1 = r6 であり、従って
  r(−1)(−1) = r−1⋅r−1 = r6⋅r6 = r6⋅6
となるので、指数は (−1)2 = 1 でも 62 = 36 でも同じこと。実際 r36 = (r7)5⋅r1 = r1。同様に r(−2)(−2) = r5⋅5, r(−3)(−3) = r4⋅4

要するに、指数として現れる平方数は、実質的には 02 が 1 回、 12 から H2 がそれぞれ 2 回だが、 2 回のうち 1 回ずつは「何かの平方」の「何か」の符号を逆にして上記のように整理し、形式的に H+1, H+2, ···, n−1 の範囲の数のそれぞれの平方も指数になると解釈すると【※補足3】、トータルでは 02 から (n−1)2 までの n 種の指数(どれも平方数)が、全部 1 回ずつ。公平でバランスが良く、結果的に式もシンプルになる。

結論 フの左辺には、最初の 1 = r0 も含めて r の k(k+1) 乗がちょうど n 個ある(k = 0, 1, ···, n−1)。それぞれ rHH 倍した場合、各項は順に r の (H − k)2 乗と等しくなる。それら n 個のべきは、並び替えると、全体としては r0⋅0 = 1, r1⋅1, r2⋅2, ···, r(n−1)(n−1) に等しい。

上記の結論と、フ左辺の rHH 倍がフ右辺の rHH 倍(ブ)に等しいことから、次の玄妙なる「和→積」公式を得る。

公式8(Gauß [0] p. 24, [1] p. 475) n が 3 以上の奇数、 r が 1 の原始 n 乗根のとき:
  r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + r(n−1)(n−1) = (r1 − r−1)(r3 − r−3)(r5 − r−5)···(rn−2 − r−(n−2))

この左辺が「ガウス和」(ガウスの和)の一つの表現。軽妙な導出、優美な等式!

実際の証明はこれで終わりではなく、左辺の値を決定するため、右辺の積の値を評価することになる。右辺の各因子 rk − r−k はどれも純虚数なので、符号に関しては、(基準となる r に対して)虚部が負になる因子の個数を検討すればいい(このへんの感覚は、相互法則のある種の証明法と似ている)。この先も面白いのだが、とりあえず今回はここまで。続きは次回に。

※補足3】 各 r の指数 ℓ は、本来的には (H − k)2 だ(本文の「問題」参照)。ここで H = (n − 1)/2 は奇数 n に応じて定まる整数で(n の半分・端数切捨て)、 k は 0 から n−1 = 2H までを動く。 B = H − k と置くと、 k = 0, 1, ···, 2H に対応して:
  B = H, H−1, H−2, ···, 2, 1, 0, −1, −2, ···, −H
このうち前半の正の数(H から 1 まで)と真ん中の 0 については、そのまま ℓ = (H − k)2 = B2 とすれば、
  ℓ = 02, 12, 22, ···, H2
が逆順に生じる。一方、後半の負数 B = −1, −2, ···, −H については、本文で述べたように(ヘ参照)、それぞれ n を足しても結果は同じなのだから、
  B = n − 1, n − 2, ···, n − H
と解釈しても差し支えない。 n = 2H + 1 なので末尾の n − H とは (2H + 1) − H = H + 1 だ。要するに:
  B = n − 1, n − 2, ···, H + 1
これらに対応する ℓ′ = (H − k)2 = B2 を逆順に並べると:
  ℓ′ = (H + 1)2, (H + 2)2, ···, (n − 2)2, (n − 1)2
よって ℓ と ℓ′ のトータルでは、
  02, 12, 22, ···, H2, (H + 1)2, ···, (n − 1)2
の n 種の指数(どれも平方数)が過不足なく、ちょうど一つずつ現れる。

〔付記〕 Gauß [0] も Nagell [2] も、「真ん中の ℓ = 02 の後ろでは ℓ が《負数の平方》になる」という考え方をせず、真ん中までと、それより後ろを別々の式で処理している。その方がさらに疑問の余地がなくなるのかもしれないが、本質的な違いはないと思われる。実装が少し違うだけで、もちろん結論は同じ。

✿

公式8の左辺は、一見 n 個の n 乗根の「和」だが、指数が 0, 1, 2, 3, ··· でなく(もしそうだったら和は単に 0 になる)、平方数 0, 1, 4, 9, ··· というところが特徴的。なぜこのように指数を平方数にするのか?

その真相については、後編で一応明らかになるであろう。「意味不明の足し算」とも思える「ガウス和」は、実は「相互法則」のような「数の世界の深遠な事柄」と関連している。

✿ ✿ ✿


2025-12-16 ガウス和の符号・中編

#遊びの数論 #ガウス和 #ガウス和の平方 #ガウス和の符号

前回、「ガウス和」を求めるためのツールとなる公式(ガウス自身が使ったもの)を導いた。ここまで来たら、その先は易しい。

結論もシンプル: n が正の奇数のとき、基本の「ガウス和」は +(n) または +i(n) に等しい(奇数 n が 4 の倍数より 1 大きいときは前者、 4 の倍数より 3 大きいときは後者)。

どういうこと?

n = 5 の具体例で図解してから、一般の場合について、ガウスによる証明の続きの部分を紹介したい。

✿

§9 ガウス和とは(図解)

公式8を再掲すると、 n が 3 以上の奇数のとき、ガウス和 W とは:
  W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + r(n−1)(n−1)
ここで r は、 1 の原始 n 乗根(§7)。

例えば n = 5 のとき:
  W = r0 + r1 + r4 + r9 + r16 = 1 + r1 + r4 + r4 + r1 = 1 + 2(r1 + r4)

この場合 r は「1 の原始 5 乗根」だが、それは具体的にどういう数か。幾何学的イメージとして、中央に 0 を表す点(原点)がある、として、 1 という数は、原点から右(3時の方角)の距離 1 の場所にある、としよう。当然 −1 は、原点から見て左(6時の方角)、距離 1 の場所にある。さらに「2次元的な数」を考え、原点の上(12時の方角)の距離 1 の場所に i = −1 を表す点があるとする。

〔注〕 その根拠を略述すると、次の通り。原点から見て 1 がある「3時の方角」を 0° として反時計回りに偏角(向き)を定義するなら、 −1 の偏角は 180° だ。 (−1)2 = 1 ということは、「2乗すると偏角が 2 倍になる」ことを暗示する(偏角 360° は 0° と同じ向き、と解釈)。このアイデアに従うと i が偏角 90° としておけば、 i2 = −1 は偏角 180° なので、つじつまが合う。

1 の原始 4 乗根である i の偏角が 360°/4 = 90° であること、 i を 4 乗すると偏角が 4 倍に増えて i4 = 1 が成り立つことに、留意する。

正五角形の画像そこから類推すると、問題の r は「5乗して初めて 1 になる数」なので――「5乗すると、偏角は 5 倍」と考えると――、 r の偏角は 360°/5 = 72° かもしれない。だとしたら r1 = r は、原点から見て 72° の方角の距離 1 の場所にある、と考えることができる。そして r2 の偏角はちょうど 2 倍、 r3 の偏角はちょうど 3 倍といったことから、 r0 = 1, r1 = r, r2, r3, r4 の五つの数は、原点を中心とする半径 1 の円周を 5 等分することになる。早い話が、正五角形の頂点の一つ一つが rk たち。

今言ったように r を選択するなら、 r1 の横座標 a は、目分量で 0.3 くらいだろう(画像参照)。縦座標 b は 0.95 くらいだと思える。このような2次元的な数を a + bi で表す。すると r4 は a − bi だ。なぜなら、正五角形の上半分と下半分は明らかに合同だから、頂点 1 番と頂点 4 番は、横座標が等しく、縦座標の符号が逆になるはず。すると上記のガウス和は:
  W = 1 + 2(r1 + r4) = 1 + 2(a + bi + a − bi) = 1 + 2(2a) = 1 + 4a
a は約 0.3 なので、この和は約 1 + 1.2 = 2.2 だ。

実は、きちんと計算すると、この場合 W = 5 = 2.2360679… (富士山麓オウム鳴く)となる!

〔参考〕 a = (−1 + 5)/4 = 1.2360679…/4 = 0.3090169… を示すことができる。その詳細については、あまり気にする必要ない。この議論の主眼は、細かい個々の例の計算ではなく、もっと大局的・一般的なことなので。

正五角形から 5 が出てくることは、感覚的には、特に不思議でもないだろう。

しかし、例えば今 r2 と呼んだ数を q とすると、この場合 q (= r2) も一つの 1 の原始 5 乗根だから(§7参照)、
  W = 1 + 2(q1 + q4) = 1 + 2(r2 + r8) = 1 + 2(r2 + r3)
も一つのガウス和だ。 r2 と r3 は、やはり横座標が同じで(目分量で約 −0.8)、縦座標は符号だけ反対なので、 r2 + r3 は約 −1.6。すると W = 1 + 2(−1.6) = 1 − 3.2 = −2.2 くらいの値になる。実はこの場合、 W = −5 = −2.2360679… だ。

事前に結論の一部を記す。 n = 5 のときのガウス和は ±5 であり、符号がどちらになるかは r の選択によって決まる。より一般的に、奇数 n が 4 の倍数より 1 大きいとき、対応するガウス和は ±n だ。一方、奇数 n が 4 の倍数より 3 大きいとき、対応するガウス和は ±−n = ±−1n = ±in だ。

証明は次の通り。

§10 ガウス和の平方

公式8によって、 W は、
  (r1 − r−1)(r3 − r−3)(r5 − r−5)···(rn−2 − r−(n−2))  マ
という積に等しい。各因子は (rk − r−k) の形で、 k は 1, 3, 5, ···, n−2 という奇数の値。
  (rk − r−k) = −(r−k − rk) = −(rn−k − r−(n−k))  ミ
に留意すると(一つ目の等号については§6、二つ目の等号については補題6参照)、マの各因子は順に、
  −(rn−1 − r−(n−1))
  −(rn−3 − r−(n−3))
  −(rn−5 − r−(n−5))
   ︙
  −(r2 − r−2)
に等しい。ここで、 −(rc − rd) の形の c の部分は、ミに従って n−k の k に 1, 3, 5, ··· を代入したもの(d については機械的に c の符号を反転させたもの)。末尾の c は、 n−k の k に n−2 を代入した結果: n−(n−2) = n−n+2 = 2。

これら H = (n − 1)/2の因子の積がマに(つまり W に)等しいのだから、因子を逆順に並べると:
  W = ±(r2 − r−2)(r4 − r−4)···(rn−3 − r−(n−3))(rn−1 − r−(n−1))  ム
ここで複号は、因子の個数 H が偶数なら(マイナスが偶数個あるのだから)上で、奇数なら下。 H = (n−1)/2 が偶数か奇数かは、 (n−1)/2 がもう一度 2 で割り切れるかどうか?の区別。 Yes なら (n−1) は 4 の倍数なので n は 4 の倍数より 1 大きい。 No なら n はそれ以外の種類の奇数なので、 4 の倍数より 3 大きい。

† 文字 H は Half あるいは Hanbun の意。奇数 n に対して、その半分(端数切り捨て)――つまり偶数 n−1 のちょうど半分――の整数を、われわれは H で表す。 H = (n − 1)/2 という分数も、なんとなく H の形に似ている。

マもムも W に等しいのだから、両者の積を考えて、因子をきれいに並べると:
  W2 = ±(r1 − r−1)(r2 − r−2)(r3 − r−3)···(rn−1 − r−(n−1))
この各因子を、
  rk − r−k = rk(1 − r−2k)
のように変形すると:
  W2 = ±[r1(1 − r−2)][r2(1 − r−4)][r3(1 − r−6)]···[rn−1(1 − r−2(n−1))]
   = ±rE⋅(1 − r−2)(1 − r−4)(1 − r−6)··· (1 − r−2(n−1))  メ
ここで rE は r1⋅r2⋅r3···rn−1 をまとめたもので、 1 に等しいので、この因子は無いのと同じ――実際、指数 E = 1 + 2 + 3 + ··· + (n−1) = n(n−1)/2 で、従って rE = (rn)(n−1)/2 だが、 r の意味から rn = 1。よって R = r−2 と置くとメはこうなる。
  W2 = ±(1 − R1)(1 − R2)(1 − R3)···(1 − Rn−1)  モ

R もまた 1 の原始 n 乗根なので、モの右辺に含まれる n−1 個の Rk たちは、計 n 個ある「1 の n 乗根」のうち 1 自身を除いた n−1 個を、過不足なく含む(R0 は含まれず、 R は n 乗して初めて 1 になるのだから、どの Rk も ≠ 1)。言い換えると、モの Rk たちは、
  xn = 1 つまり xn − 1 = (x − 1)(xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1) = 0
の解のうち x = 1 以外のもの。すなわち、
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = 0
の n−1 個の解たちと(順序はともかく全体として)同一【※補足4】。仮にこの n−1 次方程式の解を q1, q2, ··· , qn−1 として、方程式の左辺を無理やり1次式の積に分解するなら、
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = (x − q1)(x − q2)···(x − qn−1)
となるが【※補足5】、この q1, q2, ···, qn−1 は(並び方の違いを無視して) R1, R2, ···, Rn−1 と全く同じ数たちなので:
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = (x − R1)(x − R2)···(x − Rn−1)  ヤ

ヤで x = 1 と置く。すると左辺の値は:
  1n−1 + 1n−2 + ··· + 11 + 10 = n  ← 1 が n 個
従って(x = 1 と置くことで)ヤから次の等式が出る:
  (1 − R1)(1 − R2)···(1 − Rn−1) = n  ユ
ユの左辺は、モの右辺の「複号の後ろの部分」と全く同じ。これをモに代入して:
  W2 = ±n  ヨ
複号は n が 4 の倍数より 1 大きければ上、うんぬん。ついでに n = 1 のとき r = 1 しかなく W = r0 = 1 なので、ヨの性質は、 n が 3 以上の場合に限らず、 n = 1 の場合にも成り立つ。

定理9(Gauß [0] p. 25, [1] p. 476) n が 1 以上の奇数のとき、ガウス和
  W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + r(n−1)(n−1)
の平方は、 n 自身または −n に等しい:
  W2 = ±n
複号は、もし n が 4 の倍数より 1 大きければ上、もし n が 4 の倍数より 3 大きければ下。

※補足4】 x − 1 = P, xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = Q と置くと xn − 1 = PQ = 0 が成り立つとき P, Q の少なくとも一方は 0 に等しい(P も Q も 0 でなければ、それらの積 PQ は = 0 になり得ないから)。 P = x − 1 = 0 が成り立つのは x = 1 の場合に限るので、 x = 1 以外の解(一般には複数個)がこの方程式を満たすなら、必ずどの解も B = 0 を満たす。

※補足5】 例えば2次方程式 x2 + bx + c = 0 の解が x = α, β なら、その2次式は
  x2 + bx + c = (x − α)(x − β)  (✽)
と分解される。実際、(✽)の右辺は x = α を入れると (α − α)(α − β) = 0⋅(α − β) = 0 だし、 x = β を入れても同様に 0 になる。 x = α, β は x2 + bx + c = 0 の解なのだから、当然(✽)の左辺も x = α ないし x = β を入れると 0 になる。よって(✽)右辺は――言い換えると、それを展開した2次式 x2 − (α + β)x + αβ は――、(✽)左辺の2次式と、多項式として同一。同様に、例えば x3 + bx2 + cx + d = 0 の解が x = α, β, γ なら、その3次式は
  x3 + bx2 + cx + d = (x − α)(x − β)(x − γ)
と分解される。全く同様に、 n−1 次方程式 xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = 0 の解が q1, q2, ··· , qn−1 なら、その n−1 次式は本文に記したように分解される。このような分解を加減乗除・根号の範囲で実行することは一般には困難あるいは不可能だが、手段を選ばなければ、無理やり分解することができる。ここでは「具体的にどうやって分解するか?」は問題でなく、「理論的にこのような分解が存在する」というだけで十分。

§11 ガウス和の符号

W2 の値が確定した。次に W そのものについて。例えば n = 9 のとき W2 = 9 なので、 W = 3 または W = −3 のどちらかが正しい。どちらになるのかは r の選択にも依存する――偏角が 360°/n の r を選択した場合(多角形に例えれば、 1 に当たる頂点を「0 番」として、反時計回りに「1 番」の頂点を選択)が基本的であり、他のケースは基本ケースとの相対関係に帰着する(少なくとも n が素数の場合には)。以下では、この基本ケースについて考える。

n が奇数の場合、 4 の倍数より 1 大きいか 3 大きいかに応じて W は ±n ないし ±in であるから、もはや絶対値は分かっていて、単に ± の一方を選ぶ方法を見つければいい。

例えば n = 9 の場合、公式8から、
  W = (r1 − r−1)(r3 − r−3)(r5 − r−5)(r7 − r−7)
であるが、最初の因子
  r1 − r−1 = r1 − r8
は 1 番の頂点が表す数から 8 番の頂点が表す数を引き算したものだ。

正九角形の画像仮に r1 の横座標を a、縦座標を b として r1 = a + bi とすれば r−1 = r8 は a − bi なので、
  (a + bi) − (a − bi) = 2bi
という計算になる。この場合 r1 の縦座標は正なので b は正。
  r3 − r−3 = r3 − r6
についても同様の形に。他方において、
  r5 − r−5 = r5 − r4
の場合、 r5 の縦座標は負(それをあらためて −b とする)、 r4 の縦座標は正なので、 b をこの正の数として、
  (a − bi) − (a + bi) = −2bi
という形の計算になる。
  r7 − r−7 = r7 − r2
についても同様。要するに「上から下を引く」形なら(引き算の結果である因子の)符号はプラス、「下から上を引く」形なら因子の符号はマイナス。この n = 9 の例では、
  W = (2bi)(2bi)(−2bi)(−2bi)
のような計算になる。本当は因子によって b の値は異なるのだが、符号さえ分かれば、細かい数値はどうでもいい(符号以外のデータは確定済み)。その観点からは 2b の部分はどうでもよく(b 自身は正なので結果の符号に影響しない)、重要なのは、第一に「マイナス符号が偶数個か奇数個か」、第二に「因子たちの中に i が合計何個あるか」。

〔注〕 上記の W の例では − の因子が二つ(偶数個)あるので、第一の件に関しては − は消える――もしも − の因子が奇数個だったら、ここで − が発生しただろう。一方、同じ例では因子 i が合計 4 個あるので、それらをまとめると i4 = 1 であり、これも符号に影響しない――もしも i が例えば 6 個あったとしたら、 i6 = i2 = −1 なので(§7)、ここでもマイナスが生じただろう。これが第二の件。――マイナスの発生原因を二つに整理すると、その二つの相互作用によって、最終的な符号が決まる。

第一の件。引き算の数――すなわち公式8の積に含まれる因子の数――は、 H = (n − 1)/2 に等しい。この数が偶数なら「上から下」と「下から上」の数は半々になる。当面そのケース(n が 4 の倍数より 1 大きい)に話を絞る。マイナスの発生原因である「下から上」の引き算の回数は、 H の半分つまり (n − 1)/4 だ。この数が偶数ならマイナスは消え、奇数ならマイナスが残る。よって n − 1 が 8 の倍数なら(言い換えれば n が 8 の倍数より 1 大きいなら)、マイナスは消える(上記 n = 9 の例のように)。 n − 1 が「4 の倍数だが 8 の倍数ではない」なら(つまり n が 8 の倍数より 5 大きいなら)、マイナスを生む引き算が奇数個あるので、マイナスが残る。

第二の件。 i は因子の数だけあるので、ちょうど H 個。 n − 1 が 8 の倍数なら H = (n − 1)/2 は 4 の倍数なので、 iH = 1 だ。 n − 1 が「4 の倍数だが 8 の倍数ではない」なら、H = (n − 1)/2 は「2 の倍数だが 4 の倍数ではない」つまり「4 の倍数より 2 大きい」。そのとき iH = i2 = −1。

n の型 ↓(−1)H/2iH両者の積
8u+1+1+1+1
8u+5−1−1

よって u を整数として n が 8u+1 の形なら、もちろん W はプラス。 n が 8u+5 の形なら、マイナスが二つあるので、やはり W はプラス。いずれにしても、 n が 4 の倍数より 1 大きいなら、符号はプラスである!

正七角形の画像次に、 n が 4 の倍数より 3 大きい場合(画像は n = 7 の例)。積の因子の数 H = (n − 1)/2 は奇数なので、「上から下」と「下から上」が半々にはなり得ない。前者の方が 1 大きく、後者の方が小さい。よって「下から上」の引き算回数(マイナスの発生回数)は、 H/2 端数切り捨て。つまり偶数 H−1 の半分。

〔注〕 一列に並べて置いた奇数個のミカンを二人が交互に右端から一つずつ取るなら、最初の 1 個を取った人は最後の 1 個も取るので、 1 個得する。同様に、引き算は交互に並ぶ。右から見て最初に現れる r1 − r−1 は「上から下」なので、引き算が奇数個なら「上から下」の方が 1 個多い。

n = 8u+3 なら H = (8u+2)/2 = 4u+1 で (H−1)/2 = 2u は偶数。マイナスは消滅。 iH = i1 = i なので、結果は +i (虚部が正の純虚数)。

n = 8u+7 なら H = (8u+6)/2 = 4u+3 で (H−1)/2 = 2u+1 は奇数。マイナスは残存。 iH = i3 = −i と組み合わせると、やはり結果は −(−i) = +i。

n の型 ↓(−1)(H−1)/2iH両者の積
8u+3+1+i+i
8u+7−1−i

要約すると、すべてのケースにおいて、基本位置では結果の符号はプラスだっ! この事実は数値例から容易に予想がつくのだが、その証明が一筋縄ではいかず、4年以上にわたってガウスを悩ませた。

定理10(Gauß [0] p. 26, [1] p. 477) n を 1 以上の奇数とする。 1 の原始 n 乗根のうち、偏角が 360°/n のものを r とする。このとき、
  W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + r(n−1)(n−1)
は、もし n が 4 の倍数より 1 大きければ +n に等しく、もし n が 4 の倍数より 3 大きければ +in に等しい。

ガウス和についての議論では、しばしば n を 3 以上の素数 p に限定する。その点、上記の形式のガウス和はもっと一般的で、 n が(奇数の)合成数でも構わない。例えば n = 9 や n = 15 も、同じ公式に従う。

✿

しばしば難問題とされる「ガウス和」の符号。その一応の証明が、さらさらっと、できてしまった。

蒸留に蒸留を重ねた最終結果だけを見ると、さほど難しいとは思えないかもしれない。けれどこの証明法の入り口となる「不思議な恒等式」の導出は多少トリッキーだし、そもそもあの恒等式がこの結果の入り口となること自体――説明されれば容易に理解できるものの――、自力で思い付くのは、困難だろう。

本当の理想は、「こんな工夫をしなくても、自然に解決するような観点」だ。しかし、それはかなり高い境地。そこまで到達できたとして、そのときには「なるほど、ガウス和とはこういうことだったのか」と事実関係がよく分かり、達成感が得られるだろうけど、最初から一足飛びにその境地を目指すのは、現実的ではない。

「ガウス和の平方」だけなら、このようなツール(複雑な恒等式)がなくても決定可能で、それはそれで役立つ。平方されていない「ガウス和」そのもの、つまり「ガウス和の符号」が問題。結局、ガウス自身によるこの証明法が、初心者にとってはアクセスしやすい。それは巧妙・繊細な工夫の産物ではあるけれど「技巧が鼻につく」といった性質のものではなく、優美で心地よい。「巧妙な工夫」の部分も含めて、丸ごと楽しめる。

✿ ✿ ✿


2025-12-18 ガウス和の符号・後編

#遊びの数論 #ガウス和 #ガウス和の平方 #ガウス和の符号

n が任意の正の奇数のときの「ガウス和の平方」(§10)と、基本ケース(特定の r が選択される)における「ガウス和そのもの」(ガウス和の符号)を決定した(§11)。

しめくくりとして、一般のガウス和(r の選択を特定の一つに限らない)について検討する。便宜上 n が 3 以上の素数の場合に話を限定する(最も重要なケース)。結果として生じる和の値は「基本ケースと同じか、その −1 倍」で、特に複雑な話でもない。この考察の副産物として、「ガウス和のもう一つの形式」とも自然に話がつながる。

✿

§12 一般のガウス和(具体例)

ガウス和 W の意味は、定理10の通り。例えば n = 7 なら:
  W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r6⋅6
   = 1 + r + r4 + r9 + r16 + r25 + r36
ここで r は 1 の原始 7 乗根であり、つまり r7 = 1 という性質を持つのだから(従って r14 = 12 = 1, r21 = 13 = 1 等々でもある)、上の式の各指数を 7 未満に簡約して、
   = 1 + r + r4 + r2 + r2 + r4 + r = 1 + 2(r + r2 + r4)
と整理することもできる。この r については、原点から見て、偏角(方位)が 360°/7 = 約51.4° で絶対値(距離)が 1 の点に対応する2次元的な数、とイメージできる。

正七角形の画像n が与えられたとき、 r は本来、任意の原始 n 乗根。しかし r の選択が任意だとガウス和 W の符号が決まらないので(§9の具体例参照)、定理10では、そのうち特定の一つを r として選択・固定した。定理10が得られた今、それを基準として、任意の r から生じる W の符号を検討できる。 n = 7 に対する「基本」の――定理10の場合と同じように選択された―― r を基準にすると、 r2, r3, ···, r6 のそれぞれも 1 の原始 7 乗根だ。そのうち、例えば q = r2 をあらためて r として選ぶとどうなるか。「あらためて」と称して同じ文字が指す対象を急に変更するのは混乱のもとなので、ここでは r の意味を固定しておいて r の代わりに文字 q を使って和を表記する:
  W′ = 1 + q + q4 + q9 + q16 + q25 + q36
が新しい和。 q = r2 だから:
   = 1 + r2 + r8 + r18 + r32 + r50 + r72
   = 1 + r2 + r + r4 + r4 + r + r2 = 1 + 2(r + r2 + r4)
これは q = r2 に関するガウス和だが、もともとの r に関する基本のガウス和と等しいことが見て取れる。

一方 r3 に関するガウス和を考え、上記 W′ の式に q = r3 を代入すると:
   = 1 + r3 + r12 + r27 + r48 + r75 + r108
   = 1 + r3 + r5 + r6 + r6 + r5 + r3 = 1 + 2(r3 + r5 + r6)
この結果は、これまでの和とは異なる。

n が 4 の倍数より 3 大きい場合のガウス和は、各数の縦座標のみによって決まること、そして r3, r5, r6 の中には縦座標が負のものが二つあることから、この場合、「マイナスがプラスより強く、和は符号がマイナス(−i7)になる」と予想される。

このような個々の事例は結構単純だが、「どういう条件で W の符号がプラスあるいはマイナスになるのか」を一般的・統一的に見通すには、「平方剰余・非剰余」というコンセプトが必要になる。以下 n を 3 以上の素数とする。 mod n というのは、「n で割った余りで整数を分類して、余りが同じなら同じ仲間と見なす」という考え方を表す。例えば、
  2 ≡ 9 (mod 7)
という式は、「7 で割った余りに関しては 2 も 9 も同じ仲間」(どちらも 7 で割ると 2 余る)という意味。「同じ仲間」であることを合同、「同じ仲間」でないことを不合同という。 7 の倍数は、 7 で割ると 0 余る(割り切れる)ので 0 と合同。

7 で割った余りは、 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6 の 7 種類しかないので、 mod 7 の世界には 7 種類の「仲間たちの組」(クラス)があって、どの整数も、どれか一つだけのクラスに属する。 0 と不合同な整数 a が与えられたとき、もし x2 ≡ a (mod 7) を満たす整数 x が存在するなら、そのような a を平方剰余という。
  a ≡ 1 のときの x2 ≡ 1 (mod 7)
  a ≡ 4 のときの x2 ≡ 4 (mod 7)
は、明らかに解を持つので(前者は x ≡ ±1、後者は x ≡ ±2)、 1 も 4 も平方剰余。のみならず、
  a ≡ 2 のときの x2 ≡ 2 (mod 7)
も解を持つ。なぜなら 2 ≡ 9 (mod 7) なので、上の式は x2 ≡ 9 と同じ意味であり、従って x ≡ ±3 が解。 1, 2, 3 の平方は、それぞれ 1, 4, 9 ≡ 2 と合同、 6 ≡ −1, 5 ≡ −2, 4 ≡ −3 の平方もそれぞれ 1, 4, 2 と合同なので(実際 62 = 36, 52 = 25, 42 = 16 をそれぞれ 7 で割った余りを考えれば、順に 1, 4, 2)、 mod 7 の平方剰余は 1, 2, 4 の三つの種類(クラス)しかない――整数としては 2 も 9 も mod 7 の平方剰余だが、両者は同じクラスの数なので、分類上は一つのものと見なされる。平方剰余ではない 3, 5, 6 は、平方非剰余(略して非剰余)と呼ばれる。

mod 7 以外でも、コンセプトは全く同様。もちろん mod n の n によって、何が平方剰余で何が非剰余かは、多少変化する。例えば 3 は mod 7 の非剰余だが、 mod 11 では 3 ≡ 25 ≡ (±5)2 なので、 3 は平方剰余。

mod 7 では 1, 2, 3, 4, 5, 6 の六つの数(クラス)の中に、平方剰余と非剰余が半々の三つずつ含まれていた。同様に n が 3 以上の奇数のとき、 1, 2, ··· , n−1 の n−1 個(偶数個)の数の中には、 mod n の平方剰余と非剰余がちょうど半分ずつ含まれる。このことは、直接的には「原始根」というものを使って証明可能(付録1)。平方数との比較(次節)からも、そうなって当然と感じられるだろう――つまり、 1 から n−1 までの n−1 個の数の中に、平方剰余は (n−1)/2 個しかなく残りの (n−1)/2 個の数は非剰余。

x2 ≡ 0 (mod n) には、もちろん常に解 x ≡ 0 がある。だから 0 も(一応)平方剰余といえる。けれど 0 を同列に扱うと議論が無駄にややこしくなるので、ここでは「0 の仲間」(0 自身やそれと合同な数)を――つまり n の倍数、言い換えれば n で割り切れる数を――平方剰余に(非剰余にも)含めない。

§13 一般のガウス和の符号(n: 奇素数)

n を 3 以上の素数とする。簡潔化のため、偶数 n−1 の半分 (n − 1)/2 を H と記す。従って n − 1 = 2H, n = 2H + 1。

2H 個の平方数 12, 22, 32, ···, (n−1)2 は、 mod n の平方剰余たちを、それぞれちょうど 2 回ずつ含む。実際、
  12, 22, 32, ···, H2  ラ
の各数は、明らかに mod n の平方剰余であり、どの二つも mod n において不合同【※補足6】。つまりラは H 種類の平方剰余を一つずつ含む。しかも 12 ≡ (−1)2 ≡ (n−1)2, 22 ≡ (−2)2 ≡ (n−2)2, ···, H2 ≡ (−H)2 ≡ (n−H)2 ≡ (H+1)2 なの
  (n−1)2, (n−2)2, ··· , (H+1)2  ララ
もそれぞれラの各数と合同であり、やはり H 種類の平方剰余を一つずつ含む。ラとララを合わせると、
  12, 22, 32, ···, H2, (H+1)2, ··· , (n−1)2
は H 種類の平方剰余をちょうど 2 回ずつ含む。

〔例〕 n = 7 の場合 mod 7 にて 12 ≡ 1, 22 ≡ 4, 32 ≡ 9 ≡ 2; 42 ≡ 16 ≡ 2, 52 ≡ 25 ≡ 4, 62 ≡ 36 ≡ 1。よって 1, 2, 4 の三つが平方剰余(三つの平方剰余のどれを考えても、六つの平方数 12, 22, 32, 42, 52, 62 の中に、その仲間が 2 回ずつ含まれる)。残りの三つ 3, 5, 6 は非剰余(同じ六つの平方数の中に、これらの数の仲間は全く含まれない)。

† mod n では n の倍数は ≡ 0 なので、任意の整数 d に対して (n−d)2 = n2 − 2dn + d2 ≡ 0 − 0 + d2 だ。 n = 2H + 1 なので、 (n − H)2 = ((2H + 1) − H)2 = (H + 1)2

mod n には 0 と不合同な数は 1, 2, ··· , n−1 の n−1 = 2H 種類しかない。上記のように、それら全種類の数をそれぞれ平方しても H 種類の平方数(平方剰余)しか生じないのだから、結局 mod n には平方剰余は H 種類しかなく、残りの H 種類の数は非剰余。

よって、定数 K を n で割り切れない整数とするとき、
  12K, 22K, ···, (n−1)2K
は、もし K 自身も(mod n の)平方剰余なら、上記同様 H 種類の平方剰余をちょうど 2 回ずつ含み、反対にもし K が非剰余なら、 H 種類の非剰余をちょうど 2 回ずつ含む【※補足7】。

今、定理10と同じように 1 の原始 n 乗根 r を選択する。この r について、次のような累乗を考えてみる。
  r1⋅1K, r2⋅2K, ···, r(n−1)(n−1)K
これらの各指数は、もし K が平方剰余なら、定理10の各指数(0 を除く)を並び替えたものに過ぎなこの場合、その K に対応する「1 の原始 n 乗根」 q = rK に関して定理10と同様の計算を行うなら(例えば K = 4 なら q = r4。そのとき、定理10と同様の計算とは q0 + q1 + q4 + ···  = r0 + r4 + r16 + ··· )、結果は定理10と同じ。

‡ 12, 22, ···, (n−1)2 の n−1 個の指数(仮に甲と総称する)は、互いに不合同。 12K, 22K, ···, (n−1)2K の n−1 個の指数(乙と総称)も、互いに不合同(補足7・第二点参照)。甲も乙もそれぞれ n−1 種の数(クラス)を含むが、 mod n の世界に 0 と不合同な数は n−1 種しかないのだから、甲も乙も全種類の数を一つずつ含む。言い換えれば、甲と乙は(順序を度外視して mod n で分類すれば)全く同じ集団であり、乙は単に甲を並び替えたもの(たまたま甲と同順になったとしても、それも並び替えの一種とみなす)。

一方 K が非剰余の場合、同様の和は、定理10の結果と比べて符号だけが逆(値がちょうど −1 倍)になる。そのことは、次のように示される。

1 の原始 n 乗根は、 xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = 0 を満たすような x だ(n は 3 以上の素数と仮定している)。特に、上記の r に関して:
  rn−1 + rn−2 + ··· + r + 1 = 0
  ∴ rn−1 + rn−2 + ··· + r = −1  リ

リ左辺の r の指数(逆順に読んで) 1, 2, ··· , n−1 の中には、 mod n の H 種の平方剰余と H 種の非剰余が、どれも一つずつ含まれている。従って、 mod n において
  A = {a, a′, a″, ···}  を 平方剰余たちの集合
  B = {b, b′, b″, ···}  を 非剰余たちの集合
として(どちらの集合も (n−1)/2 個の要素から成る)
  W1 = {for ℓ∈A} r = ra + ra′ + ra″ + ··· 
  W2 = {for ℓ∈B} r = rb + rb′ + rb″ + ··· 
と置くと【※補足8】、リは W1 + W2 = −1 を含意する。よって:
  W2 = −1 − W1

定理10の和は 1 + 2W1 に当たる(なぜなら冒頭の 1 を別にすると、指数に H 種類の平方剰余が 2 回ずつ現れ、 r1⋅1 と r(n−1)(n−1) は等しい、 r2⋅2 と r(n−2)(n−2) は等しい、等)。 K が非剰余の場合、 q = rK に関する同様の和において W1 が W2 に置き換わるのだから、その場合の新しい和は:
  1 + 2W2 = 1 + 2(−1 − W1) = −1 − 2W1 = −(1 + 2W1)
つまり定理10の和の −1 倍。

¶ r は 1 の n 乗根なので rn = 1。今、 d = 1, 2, 3, ···  について (n − d)2 = n2 − 2nd + d2 = n(n − 2d) + d2 を r の肩に乗せる、 d2 = d⋅d を dd と表記すると:
  rn(n−2d)+dd = (rn)n−2d⋅rdd = (1)n−2d⋅rdd
これは rdd に等しい。

W1 = −1 − W2 に留意すると、一般に K が平方剰余のとき、 q = rK に関する定理10と同様の和 W は、
  1 + 2W1 = 1 + W1 + (−1 − W2) = W1 − W2
に等しい(K が非剰余なら、和 W の値はその −1 倍)。言い換えると ℓ = 1, 2, ··· , n−1 の各数に対して、その ℓ が平方剰余なら (+r) を足し、その ℓ が非剰余なら (−r) を足せば、同じ結果になる――すなわち:
  W = {ℓ=1 to n−1} (/n) r = (1/n) r1 + (2/n) r2 + ··· + ((n−1)/n) rn−1  ル

ここで (/n) は Legendre 記号と呼ばれ、 ℓ が平方剰余なら +1 を意味し、非剰余なら −1 を意味する。 ℓ = 1, 2, ···  に対して、平方剰余と非剰余は交互に現れるとは限らず、両者の出現パターンは多少不規則だが、いずれにしてもルの各項には + か − の符号(同順とは限らない)があって、ルは
  (±1)⋅r + (±1)⋅r2 + (±1)⋅r3 + ··· = ±r ± r2 ± r3 ± ··· 
のような足し算を表し、 + の項と − の項をそれぞれまとめれば:
  ル = W1 − W2 = 1 + 2W1 = W

一連のメモでは、主に n が正の奇数の場合の「指数が 1, 4, 9 などの平方数になる形式でのガウス和」(定理10)を一応のゴールとした。しかし n を 3 以上の素数に制限するなら、同じ和をルのような別形式で表現することもできる。のみならず、 r を任意の q = rK に置き換えた場合も(K は n の倍数以外の整数)、二つの形式は同じガウス和を表す。すなわち K が平方剰余なら基本の r を使った場合と同じ和(符号プラス)になり、 K が非剰余なら、その −1 倍になる(符号マイナス)。

ここではルの形式について立ち入ることはしないが、二つの形式の違いを簡単にまとめておく。第一に、ルの指数は単純な整数 1, 2, 3, ··· だが、定理10では、指数が平方数。第二に、定理10は 0 乗の項 r0⋅0 から足し始め(最初に 1 + に当たる項があり)、形式的にプラスの項だけから成る。ルは 1 乗の項 r1 から足し始め(最初に 1 + に当たる項がなく)、プラスの項とマイナスの項が交ざっている(符号は、 Legendre 記号によって間接指定される)。

〔参考〕 (0/n) = 0 という規約の下で、 {ℓ=0 to n−1} (/n) r のように 0 乗の項からルの和を足し始めることも可能。その場合、最初の項は 0 倍されて消えるのだから、和の観点からは実質無いのと同じ。

※補足6】 「u と v が不合同」というだけでは「u2 と v2 も不合同」とは限らない。 v ≡ −u のような場合には u ≢ v であってもそれは u ≢ −u ということなので、両辺を平方すれば、 u2 ≡ v2 になってしまう。しかし mod n の 0 と不合同な数たちは「1 以上 n−1 以下の範囲」に全種類があり、そのうち v ≡ −u のような関係を満たすのは「1 と n−1」「2 と n−2」···「H と H+1」だけなので、もし u, v が「1 以上 H 以下の範囲」の相異なる数であるか、または「H+1 以上 n−1 以下の範囲」の相異なる数であれば、 u2 と v2 は不合同。このことは u, v, w 等、三つ以上の数についても同様。

※補足7】 K は n の倍数ではないとする。次の二つのことについて、理由を記す。第一に、 mod n の平方剰余(ここでは 12, 22, ··· と表現されている)の K 倍は、再び平方剰余になり得るし(K 自身も平方剰余の場合)、あるいは非剰余にもなり得る(K 自身が非剰余の場合)。第二に、互いに不合同な数たちをそれぞれ K 倍すると、結果の各数は再び互いに不合同。

第一点の理由。 a を平方剰余とする。このとき a のインデックスは偶数(付録1参照)。もし K も平方剰余なら K のインデックスも偶数なので、
  aK = g偶数⋅g偶数 = g偶数+偶数 = g偶数
のインデックスも偶数、よって aK は平方剰余。反対に K が非剰余なら、
  aK = g偶数⋅g奇数 = g偶数+奇数 = g奇数
のインデックスも奇数、よって aK は非剰余。

第二点の理由。 u, v は互いに不合同、としよう。このとき、それぞれの数に K を掛けた uK, vK も互いに不合同。

〔証明〕 u ≢ v (mod n) と仮定する。矛盾を導くため、
  uK ≡ vK (mod n)  ★
が成り立ったとする(K ≢ 0)。 n は素数で K は n の倍数ではないので、 K と n は互い素。よって ★ の両辺を K で割ることが許され(割り算の規則1)、結果は:
  u ≡ v (mod n)
これは u ≢ v という仮定に反し不合理。∎

u, v, w 等、三つ以上の不合同な数についても同様。

※補足8】 例えば n = 7 の場合: mod 7 では A = {1, 2, 4} が平方剰余、 B = {3, 5, 6} が非剰余なので、 W1 = r1 + r2 + r4, W2 = r3 + r5 + r6。この例では、ルは次の意味を持つ:
  W = W1 − W2 = r1 + r2 + r4 − (r3 + r5 + r6)
右辺を指数順にソートし、各項の符号を強調すると:
  W = (+1⋅r1) + (+1⋅r2) + (−1⋅r3) + (+1⋅r4) + (−1⋅r5) + (−1⋅r6)
Legendre 記号は、このような +1 ないし −1 を表す。
  ((1)/7) = ((2)/7) = +1 しかし ((3)/7) = −1 等々

✿

付録1(原始根から見た平方剰余・非剰余) n を 3 以上の素数とする。 mod n の世界には、必ず次の性質を持つ数 g が(少なくとも一つ)存在し、「原始根」と呼ばれる(「1 の原始 n 乗根」とは意味が異なるが、コンセプトはよく似ている)。その性質とは「mod n において 0 と不合同な n−1 種類の数は、 g1, g2, ··· , gn−1 ≡ 1 の形で過不足なく表される」。例えば g = 3 は mod 7 の原始根の一つ:
  31 ≡ 3
  32 ≡ 9 ≡ 2
  33 ≡ 27 ≡ 6
  34 ≡ 81 ≡ 4
  35 ≡ 243 ≡ 5
  36 ≡ 729 ≡ 1
1, 2, 3, 4, 5, 6 がどれも gx の形で表された。 0 と不合同な y が与えられたとき、 gx ≡ y を満たす整数 x を y のインデックスと呼ぶことにする。もしインデックスが偶数なら、その y は平方剰余。実際、 gx/2 を平方すると ≡ gx ≡ y になる。例えば、上の例で 1 のインデックスは 6、つまり 1 ≡ 36 であり、これは 36/2 = 33 ≡ 6 の平方に等しい: (33)2 = 36 なので。こんな計算をするまでもなく ±1 の平方が 1 であることは自明だけど、まぁこれは説明のための例…。一方、もしインデックスが奇数なら、その数は平方非剰よって 0 と不合同な n−1 種(偶数個)の数の中には、平方剰余と非剰余がちょうど (n−1)/2 個ずつある。

† 例えばもしも mod 7 のインデックス 5 (奇数)の数 y ≡ g5 について、条件 x2 ≡ y を満たす x が(一つ以上)存在したとしよう。そのような一つの x のインデックスを例えば 3 とすると y ≡ x2 ≡ (g3)2 ≡ g6 となる。しかし仮定によって y ≡ g5 でもある。 g1, g2, ··· , gn−1 の n−1 種の数はどれも不合同で重複がない――という mod n の原始根の基本性質に反し、不合理。この数値例に限らず、一般に「奇数インデックスの半分」のインデックスに対応する数をでっち上げようとすれば、矛盾が生じる。

✿ ✿ ✿


2025-12-20 第二の恒等式 n が偶数の場合のガウス和

#遊びの数論 #ガウス和 #ガウス和の平方 #ガウス和の符号

n が奇数のときの「1 の原始 n 乗根に対応するガウス和」について一通りの紹介が済んだので、今度は n が偶数の場合を検討してみたい。

n が奇数・偶数両方の場合を俯瞰ふかんした全体像は、印象深い。複雑な数値たちの間に、神秘的な規則性が潜んでいる…。ガウスはそれを「極めてエレガント」と形容し、日記では「極めてビーナス的」(美の女神のように愛らしい)とも記している。

現代の教科書では「重要でない・必要ない・そんなことやってる暇はない」と偶数ケースを無視し、 n が奇数(特に素数)の場合だけを扱うのが通例かもしれない。われわれは有用性や効率によってではなく、美しさによって道を選ぶ!

例えば、
  (6, 2) = [(1 − x6)(1 − x5)]/[(1 − x)(1 − x2)]
のようなガウスの (m, μ) 記号と、「6 個の物から 2 個の物を選ぶ」ときの選択肢の数…
  6C2  「6 choose 2」
  すなわち二項係数 (6 C 2) = (6⋅5)/(1⋅2)
…は、それぞれの指す値(計算結果)は無関係でも、計算の形式が似ている。ガウスの記号に関連する恒等式と、二項係数に関連する恒等式にも、ある種の平行性が感じられる。

(m, μ) 記号が表すものは、現代では「q-二項係数」(q-binomial coefficient――別名「ガウス二項係数」――と呼ばれる(「係数」といっても「数」ではなく多項式)。より広い概念「q-類似」(q-analog, q-analogue)――別名「q-拡張」(q-extension)――の一種とされる。ガウスの1811年の論文は、「二項係数についての恒等式の q-類似」をツールとした論考だ。

そんな現代的認識とは関係なく、ガウスはインスピレーションに導かれて (m, μ) に関連する公式を巧妙に使い、「1 の原始 n 乗根に対応するガウス和の符号決定」という難事業を達成。「さすがは天才!」――と言いたいところだが、ガウスは(現象そのものについては予想できたものの)なぜそうなるのか、なかなか証明できなかった。4年3カ月の試行錯誤、大変な苦労、数え切れないほどの挫折と再試行の繰り返しの末、ようやくこの細道を発見、そこからさらに丸3年を費やして「細道」を整理・整備して、分かりやすい形にまとめたのだった。「才能」の90%は「努力」なのかもしれない。

† https://mathworld.wolfram.com/q-BinomialCoefficient.html

✿

§14 もう一つの入り口

第1部では n が奇数の場合を扱うために、まず公式5(不思議な恒等式)を準備し、それをツールに公式8(ガウス和の積表現)を導いた。どちらの公式も「和を積で表す式」だ。原論文 [0] では、公式5と並列的に「n が偶数の場合にも(奇数の場合にも)使える類似の公式」が導入される。

「偶数・奇数両対応」のバージョンは、奇数用バージョン(不思議な恒等式)と雰囲気が似ているが、より精妙。「指数を整数に限らず 1/2 単位で考える」という、ちょっぴり変わったアイデア。以下の記述で
  (m, 0) = 1, (m, 1) = (1 − xm)/(1 − x), (m, 2) = [(1 − xm)(1 − xm−1)]/[(1 − x)(1 − x2)] 等々
の意味は第1部と共通―― (m, 0) = (m, m) = 1 については§3参照。

さて n が奇数の場合の入り口は、
  ƒ(x, m) = (m, 0) − (m, 1) + (m, 2) − (m, 3) + (m, 4) − ··· ± (m, m)  ア
だった(§4)。

一方、 n が偶数の場合にも使える入り口は、
  F(x, m) = x0/2⋅(m, 0) + x1/2⋅(m, 1) + x2/2⋅(m, 2) + x3/2⋅(m, 3) + x4/2⋅(m, 4) + ··· + xm/2⋅(m, m)
つまり、
  F(x, m) = 1 + x1/2⋅(m, 1) + x1⋅(m, 2) + x3/2⋅(m, 3) + x2⋅(m, 4) + ··· + xm/2  イ
の形式を持つ。アの ƒ(x, m) と対照的に、ガウスはこの関数を大文字の F(x, m) で表した。

アは (m, μ) の形の項の交代和。イは同様の和だが、どの項の符号もプラスで、各項には xμ/2 が掛かっている(μ = 0, 1, 2, ···)。「1/2 の端数のある指数」の意味は、本来的には:
  x1/2 = x, x3/2 = x⋅x1/2 = xx 等々
しかしながら、イについての便利な恒等式を導いた後、すぐに t = x のような変数置換を行い、結局、指数は全部整数になる:
  t = x ⇒ x = (x)2 = t2, x3/2 = xx = t2⋅t = t3 等々

つまり x1/2 についての式は、 t についての普通の多項式になる。「端数のある指数」については難しく考えず、機械的に(整数の指数を扱う場合と同様の指数法則に従って)処理して構わない。

危険な曲がり角〕 「整数でない指数」を扱う場合、一般には「普通の指数法則」が適用可能とは限らない。例えば x = −1 なら x3 = (−1)3 = −1 だが:
  (x3)1/2 = (−1)1/2 = −1 = i しかし x3/2 = x⋅x1/2 = (−1)⋅i = −i
これは指数法則「積」 (xa)b = xab が成り立たない例(a = 3, b = 1/2)。この現象の一般論は、かなり難しい。さいわい指数法則「和」 xa⋅xb = xa+b は、指数が整数でなくても成り立つ。よって「しかし」の後ろの x3/2 = x1+1/2 = x1⋅x1/2 は正しい変形。同様に t = x1/2 と置いたとき、
  x3/2 = (x1/2)3 = t3  ☆
としていいのか(指数法則「積」の理論が)分からないとしても、
  x3/2 = x1+1/2 = x1⋅x1/2 = t2⋅t1 = t2+1 = t3
なら安全な変形(指数法則「和」のみ使用)。結果的に ☆ のような計算は、正しい。

イの具体例:
  F(x, 5) = x0/2⋅1 + x1/2(1 − x5)/(1 − x) + x2/2[(1 − x5)(1 − x4)]/[(1 − x)(1 − x2)]
   + x3/2[(1 − x5)(1 − x4)(1 − x3)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)] + x4/2[(1 − x5)(1 − x4)(1 − x3)(1 − x2)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)(1 − x4)] + x5/2⋅1

最後の項の「分数」に当たる (5, 5) は、分子・分母とも (1 − x)(1 − x2)⋅⋅⋅(1 − x5) に等しいので、約分されて 1 になる(上記では約分後の 1 だけを表記)。後ろから2番目の項の分数 (5, 4) は、約分によって第2項の分数 (5, 1) と一致。同様に、後ろから3番目の項の分数 (5, 3) は、約分によって第2項の分数 (5, 2) と一致。すなわち、
  F(x, 5) = x0/2⋅(5, 0) + x1/2⋅(5, 1) + x2/2⋅(5, 2) + x3/2⋅(5, 2) + x4/2⋅(5, 1) + x5/2⋅(5, 0)
と整理できる。あるいは、同じことだが、項を逆順に書いて少しひねると:
  F(x, 5) = x5/2⋅(5, 0) + x4/2⋅(5, 1) + x3/2⋅(5, 2) + x2/2⋅(5, 3) + x1/2⋅(5, 4) + x0/2⋅(5, 5)
なぜなら (5, 5) = (5, 0), (5, 1) = (5, 2) 等々。

一般に (m, μ) = (m, m−μ) が成り立つ(m−μ が負にならない範囲において)。この基本性質については、第1部でも(公式5について)観察した。

§15 スピーディーだが細かい処理

F(x, m) の定義イ(前節)に従って、 F(x, N) を考える。ここで N は、任意の(たぶん m とは別の)整数。以下全ての計算において、 (a, b) の形の a, b がどちらも負にならないように、扱う整数は「どれも小さ過ぎない」と仮定する。
  F(x, N) = x0/2(N, 0) + x1/2(N, 1) + x2/2⋅(N, 2) + ···
   + x(N−2)/2⋅(N, N−2) + x(N−1)/2⋅(N, N−1) + xN/2(N, N)  ウ

前節末尾で見たように、ウの左端の (N, 0) は右端の (N, N) に等しい。左から2番目の (N, 1) は右から2番目の (N, N−1) に等しい。以下同様なので、各項の xd/2 の部分を固定したまま N 個の (a, b) の部分を次のように逆順に並べても、同じこと:
  F(x, N) = x0/2(N, N) + x1/2⋅(N, N−1) + x2/2⋅(N, N−2) + ···
   + x(N−2)/2⋅(N, 2) + x(N−1)/2(N, 1) + xN/2(N, 0)

足し算の順序は自由なので、上記の右辺各項を逆順に書くことにしよう:
  F(x, N) = xN/2⋅(N, 0) + x(N−1)/2⋅(N, 1) + x(N−2)/2⋅(N, 2) + ···
   + x2/2⋅(N, N−2) + x1/2⋅(N, N−1) + x0/2⋅(N, N)

今 N = m−1 と置くと、上の式は、
  F(x, m−1) = x(m−1)/2⋅(m−1, 0) + x(m−2)/2⋅(m−1, 1) + x(m−3)/2⋅(m−1, 2) + ···
   + x2/2⋅(m−1, m−3) + x1/2⋅(m−1, m−2) + x0/2⋅(m−1, m−1)  エ
となり、ウはこうなる:
  ① F(x, m−1) = x0/2(m−1, 0)  オ
   + x1/2(m−1, 1)  カ
   + x2/2⋅(m−1, 2)  キ
   + x3/2⋅(m−1, 3)  ク
   + ··· + x(m−1)/2(m−1, m−1)  ケ

エの両辺(左辺と右辺各項)を xm/2 倍して指数法則「和」を使うと、 xm/2⋅x(m−1)/2 = x(m+m−1)/2 等々なので x の肩の指数たちは m/2 ずつ増えて:
  ② xm/2⋅F(x, m−1) = x(2m−1)/2⋅(m−1, 0) + x(2m−2)/2⋅(m−1, 1) + x(2m−3)/2⋅(m−1, 2)
   + ··· + x(m+1)/2⋅(m−1, m−2) + xm/2⋅(m−1, m−1)
右辺各項の xP の形を xQ⋅xR の形に“分割”することができる(P = Q + R なら)。
   = x1/2⋅xm−1⋅(m−1, 0)  ガ  ← (2m−1)/2 = 1/2 + (2m−2)/2
   + x2/2⋅xm−2⋅(m−1, 1)  ギ  ← (2m−2)/2 = 2/2 + (2m−4)/2
   + x3/2⋅xm−3⋅(m−1, 2)  グ  ← (2m−3)/2 = 3/2 + (2m−6)/2
   + ··· + x(m−1)/2⋅x1⋅(m−1, m−2)  ゲ
   + xm/2⋅x0⋅(m−1, m−1)  ゴ

①オ・カキク…ケと②ガギグ…ゲ・ゴの和、すなわち (1 + xm/2)⋅F(x, m−1) を求める。
  公式2 xm−μ⋅(m−1, μ−1) + (m−1, μ) = (m, μ)
を使うと、ガとカの和は(μ = 1):
  x1/2⋅[xm−1⋅(m−1, 0) + (m−1, 1)] = x1/2⋅(m, 1)  サ
ギとキの和は(μ = 2):
  x2/2⋅[xm−2⋅(m−1, 1) + (m−1, 2)] = x2/2⋅(m, 2)  シ
グとクの和は(μ = 3):
  x3/2⋅[xm−3⋅(m−1, 2) + (m−1, 3)] = x3/2⋅(m, 3)  ス
次々続けて、ついにゲとケの和は(μ = m−1):
  x(m−1)/2⋅[x1⋅(m−1, m−2) + (m−1, m−1)] = x(m−1)/2⋅(m, m−1)  セ
セの後ろに、
  ゴ = xm/2⋅1⋅1 = xm/2⋅(m, m)  ソ
を置き、サシス…セソの前にオ = x0/2⋅1 = x0/2⋅(m, 0) を置くと、求める和(総計)は:
  x0/2⋅(m, 0) + x1/2⋅(m, 1) + x2/2⋅(m, 2) + x3/2⋅(m, 3) + ··· + x(m−1)/2⋅(m, m−1) + xm/2⋅(m, m)

再び定義(§14・イ)により、この和は F(x, m) に他ならない。それが (1 + xm/2)⋅F(x, m−1) と等しいのだから、次の関係が成り立つ。

公式11 F(x, m) = (1 + xm/2)⋅F(x, m−1)

以上の導出を要約すると――
  ① F(x, m−1) の 1 倍 と、
  ② 同じ F(x, m−1) を逆順に書いて xm/2 倍したもの
を、足し合わせて、
  F(x, m−1) + xm/2⋅F(x, m−1) = (1 + xm/2)⋅F(x, m−1)
を作った。うまく細工すると、公式2が適用可能になる。すなわち、公式2の形を考慮しつつ、ガギグ…のような(xP = xQ⋅xR 型の)変形を行って、 xR の部分が「公式2の左端にある xm−μ に相当する累乗」になるようにする。このとき、余った xQ の部分が、 F(x, m) の各「分子」の「係数」の xd/2 となる(d = 0, 1, 2, ··· )。

「これでうまくいく」という結末を知っていれば、そう困難な導出でもないが、自力でゼロからこれを思い付くのは大変だろう!

〔注〕 公式11は、最初の「不思議な恒等式」の土台となった公式4に相当するもの。公式4が交代和 ƒ(x, m) に関して「2 小さい m」への再帰であるのに対し、公式11は、少し違う和 F(x, m) に関して「1 小さい m」への再帰。 F は(この再帰公式も)、 1/2 単位の指数を含む。再帰的に m が 1 ずつ小さくなるとき x の指数 m/2 は 1/2 ずつ小さくなる。

さ~て、細工は流々、楽しいドミノ倒しの時間です! ƒ も F も最初の項は 1 であり、たった 1 項から成る F(x, 0) の値が 1 であることは明白。この自明なる値に留意しつつ、 m = 1 に対して公式11を使うと:
  F(x, 1) = (1 + x1/2)⋅F(x, 0) = (1 + x1/2)⋅1 = 1 + x1/2
得られた F(x, 1) の値(多項式)に留意しつつ、再び公式11(m = 2)を使うと:
  F(x, 2) = (1 + x2/2)⋅F(x, 1) = (1 + x2/2)(1 + x1/2)
得られた F(x, 2) の値に留意しつつ、再び公式11(m = 3)を使うと:
  F(x, 3) = (1 + x3/2)⋅F(x, 2) = (1 + x3/2)(1 + x2/2)(1 + x1/2)
   ︙
一つの出力が次の計算の入力となり、どこまでも進んでいく。結論として:

公式12(Gauß [0] p. 21, [1] p. 472) m が正の整数(奇数でも偶数でも可)のとき、 m+1 項の和
  F(x, m) = x0/2⋅(m, 0) + x1/2⋅(m, 1) + x2/2⋅(m, 2) + ··· + xm/2⋅(m, m)
   = 1 + x1/2(1 − xm)/(1 − x) + x⋅[(1 − xm)(1 − xm−1)]/[(1 − x)(1 − x2)] + x3/2[(1 − xm)(1 − xm−1)(1 − xm−2)]/[(1 − x)(1 − x2)(1 − x3)] + ··· + xm/2
は、次の m 個の因子の積に等しい。
  (1 + x1/2)(1 + x2/2)(1 + x3/2)···(1 + xm/2)

公式5と違い、積表現の各因子が (1 − x奇数) ではなく (1 + xd/2) の形であることに留意。

§16 指数を整数に

指数に 1/2 単位の端数があると、ことあるごとに平方根がしゃしゃり出て、扱いづらい。そこで公式12の x1/2 = x を t と置く。言い換えると x = t2 と置く(文字を x から t に変えると、肩の指数が 2 倍される)。しからば公式12は、扱いやすい下記の形(指数が全部整数)に変換される:

公式13 m が正の整数のとき、次の恒等式が成り立つ(左辺は m+1 項、右辺の因子は m 個)。
  1 + t⋅(1 − t2m)/(1 − t2) + t2[(1 − t2m)(1 − t2m−2)]/[(1 − t2)(1 − t4)] + t3[(1 − t2m)(1 − t2m−2)(1 − t2m−4)]/[(1 − t2)(1 − t4)(1 − t6)] + ··· + tm
   = (1 + t)(1 + t2)(1 + t3)···(1 + tm)

もともとの(公式12の)分数に当たる (m, μ) では、分子〚分母〛に含まれる 1 − xd 型の因子たちは、左から右へ、指数 d が 1 ずつ小さく〚大きく〛なりながら、並んでいた。今 x = t2 と置いたので、同じ因子は 1 − (t2)d = 1 − t2d の形になり、指数は偶数。左から右へ 2 ずつ小さく〚大きく〛なる。他方、積表現に含まれる xd/2 の形は (t2)d/2 = td の形になり、指数が 1 刻みの整数となる。

これで平方根が一掃された。この変数置換は「無料」というか無害で、面倒な副作用はない。実際、 x の値を定めれば t = x1/2 の値は一つに定まり、逆に、このようにして得られた t の値の一つ一つに対して x = t2 の値は一つに定まる。

〔参考〕 t = x1/2 = x が x の平方根の主値を表すという前提において(x ≠ 0, t ≠ 0 とする)、 t の偏角は −90° より大きく +90° 以下。 x の値が異なれば、もちろん t の値も異なる。この範囲の任意の t (≠ 0) について、 t2 = x の偏角(の主値)は、単純に t の偏角の2倍(−180° より大きく +180° 以下)。情報の損失なく x は t に変換され、曖昧さなくその t からもともとの x が逆算される。 x = 0 ⇔ t = 0 も1対1対応。

公式13の左辺には、見掛け上、(分子・分母が多項式の)分数が含まれる。しかし左辺は、右辺の積(明らかに整係数の多項式)と恒等的に等しいのだから、もちろん左辺も整係数の多項式であり、つまり分数たちは全部約分されて解消される。約分後の具体的な形は、 m の値によって異なる。

例3 m = 3 のとき (3, 1) = (3, 2) = (1 − x3)/(1 − x) = x2 + x + 1 = t4 + t2 + 1 なので、公式13の左辺は:
  1 + t⋅(3, 1) + t2⋅(3, 2) + t3⋅(3, 3)
   = 1 + t(t4 + t2 + 1) + t2(t4 + t2 + 1) + t3⋅1
   = t6 + t5 + t4 + 2t3 + t2 + t + 1
この多項式は、公式13の右辺 (1 + t)(1 + t2)(1 + t3) = (t + 1)(t5 + t3 + t2 + 1) と確かに等しい。

例4 m = 4 のとき。§6の例1の途中計算を一部再利用:
  (4, 1) = (4, 3) = x3 + x2 + x + 1 = t6 + t4 + t2 + 1
  (4, 2) = x4 + x3 + 2x2 + x + 1 = t8 + t6 + 2t4 + t2 + 1
公式13の左辺は:
  1 + t(t6 + t4 + t2 + 1) + t2(t8 + t6 + 2t4 + t2 + 1) + t3(t6 + t4 + t2 + 1) + t4
   = 1 + (t7 + t5 + t3 + t) + (t10 + t8 + 2t6 + t4 + t2) + (t9 + t7 + t5 + t3) + t4
容易に確認できることとして、この和には t10, t9, t8 がそれぞれ一つだけ含まれ、 t2, t1, 1 もそれぞれ一つだけ含まれ、そして t3 から t7 がそれぞれ二つずつ含まれる。ゆえに求めるものは:
  t10 + t9 + t8 + 2t7 + 2t6 + ··· + 2t3 + t2 + t + 1  【左】
これが、公式13の右辺(すなわち下記)と一致することを確かめたい。
  【右】 = (1 + t)(1 + t2)(1 + t3)(1 + t4)
   = (1 + t)(1 + t4) × (1 + t2)(1 + t3) = (t5 + t4 + t + 1) × (t5 + t3 + t2 + 1)
普通に筆算してもいいし、整数計算 110011 × 101101 = 11122222111 で代用してもいい。【右】と【左】は、各係数が一致。

公式13の主目的はこのような計算ではないけど、以上によって、公式13は正しそうという感触が得られる。最後に、「公式12から公式13への変数置換で、予期せぬバグが入り込んでいないか?」を具体例で検証する。

例5(例3参照) m = 3 のとき、公式12の左辺は:
  1 + x1/2⋅(3, 1) + x2/2⋅(3, 2) + x3/2⋅(3, 3)  ‥‥①
   = 1 + (x)(x2 + x + 1) + x(x2 + x + 1) + x(x)
   = 1 + (x)(x2 + 2x + 1) + (x3 + x2 + x)
   = 1 + (x2.5 + 2x1.5 + x0.5) + (x3 + x2 + x)
   = x3 + x2.5 + x2 + 2x1.5 + x1 + x0.5 + 1  ‥‥②
これは(x = t2 と置けば)例3の左辺と同じ。一方、このとき公式12の右辺は:
  (1 + x1/2)(1 + x)(1 + x3/2)  ‥‥③
   = (1 + x1/2)(1 + x + x3/2 + x5/2)
   = (1 + x1 + x1.5 + x2.5) + (x0.5 + x1.5 + x2 + x3)
   = 1 + x0.5 + x1 + 2x1.5 + x2 + x2.5 + x3
これは②と同じ式で、例3の右辺(公式13に基づく)とも同等。公式12・公式13は恒等式――分母が 0 にならない限り、任意の x ないし t について有効。検算用サンプルとして x = 25 を代入すると、①②③どのステップでも式の値は 19656 となり(途中計算略)、例3の t6 + t5 + t4 + 2t3 + t2 + t + 1 に t = 25 = 5 を代入した場合も同じ結果になる。 x = −25 で同様の検証をすると、結果は −15024 + 2880i で一致。さらに念のため x = 5 を試すと結果は 156 + 365 で一致し、 x = −5 を試すと結果は −104 + 16i5 で一致。平方根の符号に関連する不具合は、なさそうだ(もともと理論的に問題ないはずだが、一応、動作確認した)。

✿

このメモの F(x, m) の意味は、ガウスの原論文におけるそれと同じ。 Nagell [2] では F の意味が異なり、ガウスの (m, μ) 記号が F(x, m, μ) のように記されている。ガウスも Nagell も、
  公式2 (m, μ) = (m−1, μ−1)⋅xm−μ + (m−1, μ)
の代わりに、その μ に u + 1 を代入した次の形を使っている(実質的な意味に違いはない):
  公式2′ (m, u+1) = (m−1, u)⋅xm−u−1 + (m−1, u+1)
その影響で、
  公式11 F(x, m) = (1 + xm/2)⋅F(x, m−1)
をガウスは
  公式11′ F(x, m+1) = (1 + x(m+1)/2)⋅F(x, m)
のように記し、公式12の導出過程において、見掛け上 m の式が 1 ずれている(本文の式と比べて)。実際には、どちらも本質的に同内容。公式11の m をあらためて m+1 と置けば公式11′ になる。どちらを経由しても、結論は同じ。公式12が導かれる。

〔注〕 例えば「m の値が 1 から 5 まで動きつつ m2 を印字」と「m の値が 0 から 4 まで動きつつ (m+1)2 を印字」の二つのシナリオでは、どちらでも 1, 4, 9, 16, 25 が出力される。見掛け上、前者では m2 が、後者では (m+1)2 が使われているが、挙動は同じ。それと同様。このメモ自体の流れ・分かりやすさを優先した結果、途中計算の進め方などが原論文と多少違うこともある。

これで「第二の恒等式」公式12は、準備完了。この恒等式(をアレンジした公式13)が、「n が偶数の場合のガウス和」の入り口となる。

✿ ✿ ✿ ✿ ✿

遊びの数論53』へ続く。

<メールアドレス>