遊びの数論56 おばあちゃんが教えてくれた公式

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遊びの数論55』の続き。誤字脱字・間違いがあるかも。


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2026-02-23 コーシーの不等式とコーシー゠シュワルツ不等式

#遊びの数論

コーシーは、よりにもよって、1789年8月にパリで生まれた(バスティーユ襲撃の翌月)。革命・暴動のさなかでも、赤ちゃんは生まれ、成長する――生命のたくましさ。でも、現実問題、パンがなくて大変だったという。

三角不等式と関連して、コーシーの不等式
  (a1b1 + a2b2 + ··· + anbn)2 ≤ [(a1)2 + (a2)2 + ··· + (an)2] [(b1)2 + (b2)2 + ··· + (bn)2]
を導入した(a1, ···, an, b1, ···, bn は任意の実数)。しかしこの不等式、それだけ提示されると、どうも平板というか、中途半端な感じがする。大きな「森」の一部なのに「一本の木」を眺めるような感じ。

もう少し奥行きのある「コーシー゠シュワルツ不等式」の一部として、コーシーの不等式を再検討してみたい。

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n 項から成る実数の数列が 2 種類あるとする:
  第一の数列 a1, a2, ···, an
  第二の数列 b1, b2, ···, bn
このとき、同じ番号の項同士の積を足したもの
  a1b1 + a2b2 + ··· + anbn
は、あまり大きくなれないよ、というのがコーシーの不等式。具体的には、次の積を超えられない:
   ≤ [(a1)2 + (a2)2 + ··· + (an)2][(b1)2 + (b2)2 + ··· + (bn)2]

両辺を平方して、
  (a1b1 + ··· + anbn)2 ≤ ((a1)2 + ··· + (an)2)((b1)2 + ··· + (bn)2)  ➀
のように書いてもいい(簡潔化のため 2 番の項を省いた)。標語的に言えば「積の和の平方は、平方和の積を超えない」。

感覚的には、三角不等式の「チームプレーでは、個人のポテンシャルが100%発揮されにくい」というのと似ている。つまり、平方するなら、個々に平方(個人プレー)してから足した方がポテンシャルが大きく、先に足してから(チームプレー)平方すると、多かれ少なかれ、チーム内で「足の引っ張り合い」が生じる。実数の平方は絶対値の平方なので、似てるのは当たり前かも…

平方してないバージョンも有用で、特に n = 2 の場合の
  a1b1 + a2b2 ≤ [(a1)2 + (a2)2][(b1)2 + (b2)2]
は、三角不等式の手っ取り早い証明を与えてくる――あるいは、同じことだが、変数名を簡略化して:

ac + bd ≤ (a2 + b2)(c2 + d2)

コーシーの不等式の証明は難しくないけれど、以下ではそれ単体を証明するのではなく、違う角度から考えてみたい。

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仮にコーシーの不等式が証明済みとして、そこから何が言えるか、あるいはどんな拡張が可能か? コーシーの不等式の明らかな制約は、話が実数限定ということ。とはいえ、不等式は大小の比較なので a1, ··· , an, b1, ··· , bn そのものを複素数にするわけにはいかない。やるとしたら、各複素数の絶対値(それは 0 以上の実数で、大小の比較が可能)を考える必要がある。

今、任意の複素数 w1, ··· , wn が与えられ、それぞれ絶対値が a1, ··· , an だとしよう。 |w1| = a1, |w2| = a2 のように。同様に、複素数 z1, ··· , zn の絶対値を b1, ··· , bn としよう。このような絶対値たちも実数には違いないので、当然➀を満たす。「複素数の絶対値」というスタイルで➀を書くと:
  (|w1||z1| + ··· + |wn||zn|)2 ≤ (|w1|2 + ··· + |wn|2)(|z1|2 + ··· + |zn|2)
絶対値の積は積の絶対値」なので、左辺を次のように短く書くことができる:
  (|w1z1| + ··· + |wnzn|)2 ≤ (|w1|2 + ··· + |wn|2)(|z1|2 + ··· + |zn|2)  ➁

さて、三角不等式から
  |w1z1 + ··· + wnzn| ≤ |w1z1| + ··· + |wnzn|
が成り立つ。両辺を平方して:
  | w1z1 + ··· + wnzn |2 ≤ (|w1z1| + ··· + |wnzn|)2
これを➁と組み合わせて
  | w1z1 + ··· + wnzn |2 ≤ (|w1|2 + ··· + |wn|2)(|z1|2 + ··· + |zn|2)  ➂
を得る。

➂は、コーシー゠シュワルツ(Cauchy–Schwarz: コシ゠シュヴァーツ)不等式と呼ばれるものの一種で、実数限定のコーシーの不等式を、一応、複素数の世界に拡張している。といっても、➀に含まれる ( )2 を全部 | |2 に置き換えただけ。逆に、もし複素数についての不等式➂が証明されているなら、コーシーの不等式➀は、その特別な場合として容易に導出される――そのためには、単に次のことを示せばいい:

補題 r が実数なら |r|2 = r2

実際、 w たち z たちが全部実数なら、補題によって➂の右辺は➀の右辺に一致するし、そのとき w1z1 + ···  + wnzn も実数なので、補題によって➂の左辺は➀の左辺に一致する。補題が成り立つことは、直観的には当たり前。 r が 0 以上なら |r| = r だし、 r が負(−r が正)なら |r| = −r なので、いずれにしても
  |r| = ±r
であり、その両辺を平方すれば、
  |r|2 = (±r)2 = r2
だ。その「当たり前のこと」を定義にさかのぼって証明すると:

補題の証明 任意の複素数 t = r + si について(r, s: 実数)、複素数の絶対値の定義から:
  |t| = (r2 + s2) 両辺を平方して
  |t|2 = r2 + s2  ➃
実数は「虚部が 0 の複素数」と解釈可能。もし虚部 s が = 0 なら t = r + 0i = r であり、➃はこうなる:
  |r|2 = r2 + 02 = r2 ∎

結局、コーシーの不等式と➂は、本質的には同じ意味。以下では、コーシーの不等式と無関係に、別経路から➂を証明したい。それができれば、コーシーの不等式は、➂の特別な場合として、自動的に証明されるであろう。

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ここで「ビネの恒等式」を導入する。複素数の数列(いずれも n 項)が、4種類あるとしよう:
  甲 a1, a2, ···, an
  乙 b1, b2, ···, bn
  丙 x1, x2, ···, xn
  丁 y1, y2, ···, yn

次の2種類の式は、それぞれ二つの(n 項の)因子から成る。各因子は、甲(または乙)と丙(または丁)の「積の和」。
  P: (a1x1 + a2x2 + ··· + anxn)(b1y1 + b2y2 + ··· + bnyn)
  Q: (a1y1 + a2y2 + ··· + anyn)(b1x1 + b2x2 + ··· + bnxn)

P, Q は巨視的には同じ構造を持つが、両者を細かく比較すると、何が同じで何が異なるか。試しに n = 3 のケースを考えてみる:

P = (a1x1 + a2x2 + a3x3)(b1y1 + b2y2 + b3y3) を展開すると、
  ajxj⋅bkyk
の形の 9 項が生じる(j, k はそれぞれ 1, 2, 3 のどれかで、 3 × 3 通りの組み合わせが、総当たり的に 1 回ずつ)。

同様に、 Q = (a1y1 + a2y2 + a3y3)(b1x1 + b2x2 + b3x3) を展開すると、
  ajyj⋅bkxk
の形の 9 項が生じる。

P と Q の各 9 項を(積の順序を無視して)比較すると、どちらも
  a1b1x1y1, a2b2x2y2, a3b3x3y3
の 3 項を含むが(j = k のケース)、それ以外の各 6 項は一致しない。 P には
  ajbkxjyk の形の 6 項(j ≠ k)  【jkjk】
が含まれるが Q にはそれらがないし、 Q には
  ajbkxkyj の形の 6 項(j ≠ k)  〖jkkj〗
が含まれるが P にはそれらがない。

〔注〕 変数名 a, b, x, y は重要ではない。むしろそれら四つの変数に付いている添え字に注目。一方は (j, k, j, k) で他方は (j, k, k, j) だ。

Q を加工して P を作るとしたら、 Q に【jkjk】の 6 項(P にはあるが Q には不足している)を足して、さらに〖jkkj〗の 6 項(Q にはあるが P には不要)を引けばいい。次のように、【jkjk】の 6 項を二つの種類に分けることができる:
  j が k より小 a1b2⋅x1y2, a1b3⋅x1y3, a2b3⋅x2y3  【ア】
  j が k より大 a2b1⋅x2y1, a3b1⋅x3y1, a3b2⋅x3y2  【イ】
同様に〖jkkj〗の 6 項は:
  j が k より小 a1b2⋅x2y1, a1b3⋅x3y1, a2b3⋅x3y2  【ウ】
  j が k より大 a2b1⋅x1y2, a3b1⋅x1y3, a3b2⋅x2y3  【エ】

そして P = Q + 【jkjk】 − 〖jkkj〗 の 【jkjk】 − 〖jkkj〗の部分を
  R = [(a1b2 − a2b1)(x1y2 − x2y1)] + [(a1b3 − a3b1)(x1y3 − x3y1)] + [(a2b3 − a3b2)(x2y3 − x3y2)]
と書くことができる。というのも R 右辺の3種類の
  [(ab − ab)(xy − xy)]
を展開した
   = ab⋅xy − ab⋅xy − ab⋅xyab⋅xy
のうち、第1項・第4項によって、それぞれ【ア】と【イ】(の足し算)は網羅され、第2項・第3項によって、それぞれ【ウ】と【エ】(の引き算)は網羅される。つまり、トータルでは【jkjk】 − 〖jkkj〗と同じこと。要するに P = Q + R だ!

簡潔化のため(そして一般化を容易にするため)、 P = (a1x1 + a2x2 + a3x3)(b1y1 + b2y2 + b3y3) を総和記号で書くと:
  P = ({j=1 to 3} ajxj) ({j=1 to 3} bjyj)
同様に Q = (a1y1 + a2y2 + a3y3)(b1x1 + b2x2 + b3x3) は、
  Q = ({j=1 to 3} ajyj) ({j=1 to 3} bjxj)
となる。
  R = [(a1b2 − a2b1)(x1y2 − x2y1)] + [(a1b3 − a3b1)(x1y3 − x3y1)] + [(a2b3 − a3b2)(x2y3 − x3y2)]
を総和記号で書く方法は少しトリッキーだが、三つの [ ] 内は
  (ajbk − akbj)(xjyk − xkyj)
の形で、 j = 1 or 2 であること、そして k は j より大きいこと(ただし 3 以下)から、こう表現できる:
  {j=1 to 2}{k=j+1 to 3} (ajbk − akbj)(xjyk − xkyj)  ★
しかし、こう書いた方がシンプルで分かりやすい:
  {for 1≤j<k≤3} (ajbk − akbj)(xjyk − xkyj)
(この場合、 ∑ の下の条件によると j は 1 以上、 3 以下の数 k 未満なので、 j = 1 or 2 であり、 k は j より大きく 3 以下なので、全体として ★ と全く同じ意味。 2 種類のインデックス j, k の範囲を一つの不等式にまとめることで、二重の総和記号と同じ内容を一つの ∑ で表記した。)

要するに、 P = Q + R を総和記号で書くと、こうなる:
  ({j=1 to 3} ajxj) ({j=1 to 3} bjyj) = ({j=1 to 3} ajyj) ({j=1 to 3} bjxj) + {for 1≤j<k≤3} (ajbk − akbj)(xjyk − xkyj)  【オ】

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上記では P, Q のインデックス j, k を 1, 2, 3 に固定したが、項数がいくつあっても同様。インデックスが 1 から n までとすると、 P と Q から生じる ajbkxjyk ないし ajbkxkyj の形の各項は、 j = k の場合だけ P, Q に共有され、 j ≠ k の場合には共有されない。共有されない項のうち、 P にあって Q にないものに + を付け Q にあって P にないものに − を付けて、それら全体を R とすると P = Q + R が成り立つ。 R の各項、つまり
  +ajbkxjyk ないし −ajbkxkyj
は(j ≠ k)、
  (ab − ab)(xy − xy)  ‥‥➄
の形の積の和として、簡潔に表現される(ここで「小」は 1 以上「大」未満。「大」は「小」より大きく n 以下)。なぜなら j ≠ k のとき、
  +ajbkxjyk は +abxy または +abxy
であり、
  −ajbkxkyj は −abxy または −abxy
だ。実際 j ≠ k ってことは j が「小」で k が「大」か、あるいは j が「大」で k が「小」かのどっちか。上記の「または」は、この「あるいは」に当たる。そして➄を展開すれば、これらの各項が過不足なく生じる。

結局、 n = 3 の場合の【オ】は、単に 3 を n に置き換えるだけで一般化され、こうなる:

ビネの恒等式Jacques Binet, 1812年) — cf. TAOCP I, §1.2.3, Ex. 30
  ({j=1 to n} ajxj) ({j=1 to n} bjyj) = ({j=1 to n} ajyj) ({j=1 to n} bjxj) + {for 1≤j<k≤n} (ajbk − akbj)(xjyk − xkyj)

これが成り立つことは上記の観察により一応確認済みだが、証明の形で再整理しておく。

証明 j, k はどちらも区間 [1, n] を動くものとし、表記の簡潔化のため範囲指定を省く。与式の左辺は
  ({for j ajxj) ({for k bkyk) = {for j,k} ajbkxjyk  ‥‥➅
に等しい。与式の右辺第1項は
  {for j,k} ajbkxkyj
に等しく、第2項は
  {for j<k} [(ajbkxjyk + akbjxkyj) − (ajbkxkyj + akbjxjyk)] = {for j≠k} ajbkxjyk − {for j≠k} ajbkxkyj
に等しいので、与式の右辺は次の値を持つ:
  {for j,k} ajbkxkyj − ({for j≠k} ajbkxkyj − {for j≠k} ajbkxjyk)
   = {for j=k} ajbkxkyj + {for j≠k} ajbkxjyk  ‥‥➆
j = k のとき ajbkxkyj = ajbkxjyk なので、➆は➅に等しい。∎

➆の等号の根拠。左辺の最初の二つの ∑ は、どちらも ajbkxkyj の形の項の和。前者では j, k は任意で、範囲内の可能な組み合わせが総当たり的に生じる。後者では、そのうち j ≠ k の項だけを扱う。前者から後者が引き算(除去)されるのだから、結果として、範囲内の組み合わせのうち j ≠ k 以外の(要するに j = k の)ものだけが残る。それが➆右辺の第一の ∑ だ。そこでは j = k なので、 ajbkxkyj を例えば ajbjxjyj と書いてもよく、 ajbkxjyk と書いてもよい。

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ビネの恒等式
  (∑ ajxj)(∑ bjyj) = (∑ ajyj)(∑ bjxj) + ∑ (ajbk − akbj)(xjyk − xkyj)
において各 aj を任意の複素数、対応する xj を aj の共役複素数 (aj)* とすると、
  ∑ ajxj = ∑ aj(aj)* = ∑ | aj |2
であり、同様に各 bj を任意の複素数、対応する yj をその共役とすると、
  ∑ bjyj = ∑ bj(bj)* = ∑ | bj |2
だ。ゆえに、このとき恒等式の左辺は次の値を持つ:
  (∑ | aj |2) (∑ | bj |2)  【左】

上記と同じ仮定において、 ajyj = aj(bj)* と bjxj = xjbj = (aj)*bj も共役。すなわち、
  ∑ ajyj = ∑ aj(bj)* と ∑ bjxj = ∑ (aj(bj)*)*
は互いに共役。ゆえに、恒等式の右辺第1項は、次の値を持つ:
  {∑ aj(bj)*} {∑ aj(bj)*}* = | ∑ aj(bj)* |2  【右1】

ajbk − akbj と xjyk − xkyj = (aj)*(bk)* − (ak)*(bj)*  も互いに共役なので、恒等式の右辺第2項は、次の値を持つ:
  ∑ (ajbk − akbj)(ajbk − akbj)* = ∑ | ajbk − akbj |2  【右2】

【左】は【右1】と【右2】の和だが、これら三つの要素はいずれも 0 以上の実数。
  【左】 = 【右1】 + (0 以上の実数)
ということから、【左】は【右1】に等しいか、または【右1】より大きい:
  (∑ | aj |2) (∑ | bj |2) ≥ | ∑ aj(bj)* |2
bj の絶対値と (bj)* の絶対値は等しいので、左辺をこう書き換えても、値は変わらない:
  (∑ | aj |2) (∑ | (bj)* |2) ≥ | ∑ aj(bj)* |2
論理的には必要ないが、式をすっきりさせるため (bj)* をあらためて bj と呼ぶことにすると:
  (∑ | aj |2) (∑ | bj |2) ≥ | ∑ ajbj |2  ‥‥➇

➇では変数名 (bj)* と bj を入れ替えた。その場合、【右2】はこうなる(j < k):
  ∑ | aj(bk)* − ak(bj)* |2 ‥‥➈

具体例。総和が 2 項の場合(n = 2)、➇は次の形になる。
  (|A|2 + |B|2)(|C|2 + |D|2) ≥ |AC + BD|2
この不等式が正しいことは、次のように、直接確かめられる。すなわち、
  (|AD| − |BC|)2 ≥ 0 つまり
  |AD|2 + |BC|2 ≥ 2 |AD⋅BC| = 2 |AC⋅BD|
は明白。その両辺に |AC|2 + |BD|2 を足して、
  (|A|2 + |B|2)(|C|2 + |D|2) ≥ (|AC| + |BD|)2 ≥ |AC + BD|2
を得る。最後の不等号は、三角不等式 |AC| + |BD| ≥ |AC + BD| による(その両辺を平方)。

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∑ の範囲を明示すると、④はこうなる。

ビネの恒等式から派生する命題
任意の複素数 a1, ···, an, b1, ···, bn は、次の関係を満たす(いわゆる Cauchy–Schwarz 不等式)。
  ( {j=1 to n} | aj |2 ) ( {j=1 to n} | bj |2 ) ≥ | {j=1 to n} aj bj |2
特に、各 aj, bj が実数の場合、絶対値記号を外すことができる(Cauchy の不等式):
  ( {j=1 to n} ( aj )2 ) ( {j=1 to n} ( bj )2 ) ≥ ( {j=1 to n} aj bj )2

コーシーの不等式に関する限り、なかなか眺めの良い展望台だ! つまり、コーシーの不等式とは、複素数版「コーシー゠シュワルツ」において、変数を実数に限定し、絶対値記号を外したものに当たる。のみならず、ビネの恒等式から「コーシー゠シュワルツ」を導出すると、「積和の平方は、平方和の積を超えない」という一般論だけで終わらず、個々のケースにおいて「積和の平方は、平方和の積に比べ、どのくらい小さいか」が、自然に明示される(【右2】すなわち➈)。

複素数バージョンは、より広い意味での「コーシー゠シュワルツ」の一例に過ぎないし、ビネの恒等式は、行列に関するある種の公式の特別な場合に過ぎない。依然として、中途半端といえば中途半端…。論理的には、
  ビネの恒等式 ⇒ 「コーシー゠シュワルツ」 ⇒ コーシーの不等式
なので「コーシー゠シュワルツ」は「コーシーの不等式」の上位バージョンといえる。最初に記したように、
  コーシーの不等式と三角不等式 ⇒ 「コーシー゠シュワルツ」
でもあるから、三角不等式を前提とするなら、コーシーの不等式と「コーシー゠シュワルツ」(複素数バージョン)は同値、ということになる。

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Schwarz を片仮名表記しようとすると「シュワルツ、シュヴァルツ、シュヴァーツ」のような表記の揺れが生じ得る。ドイツ語系の名前 Schwarz 自体にも表記の揺れがある――「t のない Schwarz」(普通名詞としては「黒」という意と「t のある Schwartz」の、どちらも一般的な名字だろう。 Cauchy–Schwarz 不等式として名を残す Hermann Schwarz (1843–1921) は、「黒」の Schwarz で t がない。ドイツの数学者とされるが、正確に言うと、現在のポーランドに当たる場所(ポーランド・チェコ・ドイツ三国の境界近で生まれたという。

† 子音が並んでるとき、前の母音は短い。例えば Katze (猫)の a は短く Kater (雄猫)の a は長い――日本語で osama は ōsama かもしれないが ossan の o は短いのと似て、 tz は前の母音が短いことを表す。 Schwarz (黒)の z は母音の後ろにあるわけではないし、もともと2個の子音 rz が並んでいるので、綴りの規則上 rtz とする必要ない。けれど(日本語でもそうだが)人名の表記・読み方は、通常の規則と多少違うことがある。

‡ https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Map/#Sobieszow

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2026-02-28 おばあちゃんが教えてくれた公式

#遊びの数論

英国のある学生が「おばあちゃんから教わった」と教師に話したら、その先生も数学部の同僚たちも「こんな式、見たこともない」と感心したとい

それは π つまり 180° を3等分・5等分・7等分…した角度のうち、「直角未満の正の角度」の余弦についての、次のような関係:
  ㋐ 2 cos (π/3) = 1
  ㋑ 2 cos (π/5) × 2 cos (2π/5) = 1
  ㋒ 2 cos (π/7) × 2 cos (2π/7) × 2 cos (3π/7) = 1
  ㋓ 2 cos (π/9) × 2 cos (2π/9) × 2 cos (3π/9) × 2 cos 4π(/9) = 1
   ︙

なかなかきれい!

因子 2 cos (3π/9) = 2 cos 60° = 1 を取り除くと、㋓は
  2 cos 20° × 2 cos 40° × 2 cos 80° = 1
  ∴ cos 20° × cos 40° × cos 80° = 1/8
となる。これは有名(?)な Morrie の法則で、㋑㋒なども同種の等式だ。

Hey Richy, did you know that cos(20°)⋅cos(40°)⋅cos(80°)=1/8.

「おばあちゃんの公式」は美しく、面白い性質だけど、特に何かに役立ちそうには思えないかもしれない。でも、この種の等式(特に sin 版)は、例えばガウス和についての議論にも利用可能。研究価値がある。

本質的に「1 の n 乗根」の問題なので、指数関数を利用すると見通しが良い。

† Steve Humble (2004), “Grandma’s identity”. The Mathematical Gazette, Vol. 88, Note 88.62, pp. 524–525

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論理的には必要ないが、参考までに直接ベタで計算すると:
  cos 36° = (1 + 5)/4, cos 72° = (−1 + 5)/4
  ∴ ㋑ = (5 + 1)/2(5 − 1)/2 = (5 − 1)/4 = 1

というわけで、㋑は簡単に証明可能(cos 36°, cos 72° を既知とするなら)。とはいえ、個別のケースについて直接計算で等式の正しさを確かめることができたとしても、それは個別のケースの確認に過ぎず、一般の場合の証明にはならない。一般化の手掛かりを得るため、同じ㋑を別の角度から眺めてみる。

x5 − 1 = (x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1) = 0 の解は、 x − 1 = 0 の解 x = 1 と、
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0  ‥‥❶
の四つの解(仮に x = ζ1, ζ2, ζ3, ζ4 とする)。四つの1次式の積
  (x − ζ1)(x − ζ2)(x − ζ3)(x − ζ4)
は x = ζ1, ζ2, ζ3, ζ4 のとき(そしてそのときだけ)値が = 0 なので、展開した4次式を考えると、多項式として❶左辺に等しい:
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x − ζ1)(x − ζ2)(x − ζ3)(x − ζ4)
のみならず ζ1, ζ2, ζ3, ζ4 は x5 = 1 の五つの解(1 の5乗根)のうち x = 1 以外の四つだから、明示的には
  ζk = e2πik/5  ただし k = 1, 2, 3, 4
に当たる。すなわち:
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = (x − e2πi⋅1/5)(x − e2πi⋅2/5)(x − e2πi⋅3/5)(x − e2πi⋅4/5)  (✽)

円周5等分点 ζk = cos (2πk/5) + i sin (2πk/5) を e2πik/5 と表すことは、最初、理解しにくいかもしれない――「e = 2.718… の虚数乗って、一体どういう意味?」と。でも、両者が同じ値を表すことはオイラーの公式によって保証されている。「虚数乗」の意味を難しく考え過ぎず、とりあえず e2πik/5 は cos (2πk/5) + i sin (2πk/5) の省略記法、と割り切ってもいいだろう。慣れるととても便利で、三角関数だけの範囲で考えるより、はるかに見通しが良い。高木貞治も『数学雑談』で、多項式と指数函数 ez とだけでよいから、成るべく早く解析的の取扱いに接したいものである.ez の福音が宣伝されるならば[…]どれほど気持ちがよくなるか知れないと述べている。

簡潔化のため、(✽)を次のように表記する(総和記号 ∑ の掛け算バージョン):
  x4 + x3 + x2 + x + 1 = {k=1 to 4} (x − e2πik/5)  ‥‥❷

❷の両辺は多項式として等しい: x に何を入れても❷は成り立つ。とはいえ x に、でたらめなややこしい数を代入しても、メリットはないであろう。シンプルに x = ±1 を試すのが好手。 x = 1 と置くと❷は
  5 = {k=1 to 4} (1 − e2πik/5) = {k=1 to 4} [eπik/5 (eπik/5 − eπik/5)]  ‥‥❸
となる。 x = −1 と置くと❷はこうなる:
  1 = {k=1 to 4} (−1 − e2πik/5) = {k=1 to 4} [−eπik/5 (eπik/5 + eπik/5)]  ‥‥❹

❸❹とも、二つ目の等号では e の逆数が e−iθ であることを利用して、 ±1 をあえて ±e⋅e−iθ と書き、
  ±1 − e2iθ = ±e(e−iθ ∓ e)  ‥‥❺
のタイプの変形を行っている(複号同順)。

このように e2iθ の式を e の式に変換することは、定石的な「イディオム」(定番の小技)。三角関数の「半角の公式」に当たる。三角関数の半角公式は sin と cos で違う形をしていて少々扱いづらいが、複素関数で考えると、実質同じ変形を淡々と機械的に(単なる普通の指数計算として)実行できる。

❺の ( ) 内は、共役複素数同士の和または差だから、実数または純虚数。具体的に、
  e±πik/5 = cos (πk/5) ± i sin (πk/5) 複号同順
なので、❸の ( ) 内は、純虚数
  (cos (πk/5) − i sin (πk/5)) − (cos (πk/5) + i sin (πk/5)) = −2i sin (πk/5)
に等しい。❹の ( ) 内は、実数
  (cos (πk/5) − i sin (πk/5)) + (cos (πk/5) + i sin (πk/5)) = 2 cos (πk/5)
に等しい。要するに:
  5 = {k=1 to 4} [eπik/5 (−i⋅2 sin (kπ/5))]  ‥‥❸′
  1 = {k=1 to 4} [−eπik/5 (2 cos (kπ/5))]  ‥‥❹′

「おばあちゃんの公式」に関係する❹′の右辺は
  [−eπi⋅1/5 (2 cos (π/5))]× [−eπi⋅2/5 (2 cos (2π/5))]× [−eπi⋅3/5 (2 cos (3π/5))]× [−eπi⋅4/5 (2 cos (4π/5))]
だ。これを整理すると、
 甲 (−eπi⋅1/5)(−eπi⋅2/5)(−eπi⋅3/5)(−eπi⋅4/5) = eπi⋅(1/5+2/5+3/5+4/5) = e2πi = 1
 乙 (2 cos (π/5))(2 cos (2π/5))(2 cos (3π/5))(2 cos (4π/5))
の積に等しい。甲は = 1 なので積に影響せず。❹′の右辺を乙で置き換えて、
  (2 cos (π/5))(2 cos (2π/5))(2 cos (3π/5))(2 cos (4π/5)) = 1
を得る。

さらに cos (4π/5) = −cos (π/5), cos (3π/5) = −cos (2π/5) なので、
  (2 cos (π/5))(2 cos (2π/5)) = (2 cos (4π/5))(2 cos (3π/5))
が成り立ち、この等しい左辺と右辺の積が = 1 なのだから、結局、
  2 cos (π/5) × 2 cos (2π/5) = 2 cos (3π/5) × 2 cos (4π/5) = 1 = 1
となる。等式㋑が証明された。

全く同様に❸′から
  (2 sin (π/5))(2 sin (2π/5))(2 sin (3π/5))(2 sin (4π/5)) = 5  ‥‥❸″
を得る(❸′の右辺には i が含まれるが、因子が四つあるのでトータルでは i4 = 1 となり、積に影響しない)。これはきれいな等式だが、さらに sin (4π/5) = sin (π/5), sin (3π/5) = sin (2π/5) なので、
  (2 sin (π/5))(2 sin (2π/5)) = (2 sin (4π/5))(2 sin (3π/5))
が成り立ち、こうなる:
  2 sin (π/5) × 2 sin (2π/5) = 2 sin (3π/5) × 2 sin (4π/5) = 5
「おばあちゃんの公式」の sin バージョンだ!

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㋒㋓などを含む一般の場合も、ほとんど同様に証明可能。便宜上、問題を拡張して、次の二つの命題を考える。

命題1 n が 2 以上の整数(奇数でなくてもいい)なら:
  {k=1 to n−1} (2 sin (kπ/n)) = n

証明 1 の n 乗根、つまり xn = 1 の解、言い換えれば xn − 1 = (x − 1)(xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1) = 0 の解のうち x = 1 以外のものを考えると、それらは
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = 0
の(n−1 個の)解であり、具体的には
  e2πin/k (k = 1, 2, ···, n−1)
であるから、次の両辺は、多項式として等しい(x に何を入れても成り立つ):
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = (x − e2πi⋅1/k)(x − e2πi⋅2/k)···(x − e2πi⋅(n−1)/k)  ‥‥(✽✽)

x = 1 と置き、(✽✽)右辺を ∏ を使って簡潔表記すると:
  n = {k=1 to n−1} (1 − e2πik/n) = {k=1 to n−1} [eπik/n (eπik/n − eπik/n)] = {k=1 to n−1} [eπik/n (−2i sin (πk/n))]
(二つ目の等号は、前述の「イディオム」による。三つ目の等号では、 ( ) 内で共役複素数間の引き算を行った。虚部が負の数から、虚部が正の共役複素数を引けば、結果は虚部が負の純虚数。)結局、
  [eπik/n⋅(−i)⋅2 sin (kπ/n)]
の形の因子を k = 1 から n−1 まで n−1 個、掛け算すればいい。この掛け算の結果、第一に eπik/n の部分からは、
  eπi⋅1/n × eπi⋅2/n × ···  × eπi⋅(n−1)/n = eπi⋅(1+2+···+(n−1))/n
   = eπi⋅(n−1)/2 = (eπi/2)n−1 = in−1
が生じる[なぜなら 1 + 2 + ··· + (n−1) = n(n−1)/2 なので、その n 分の 1 は (n−1)/2]。第二に (−i) の部分からは、もちろん (−i)n−1 が生じる。第一と第二を合わせると in−1 × (−i)n−1 = (i × (−i))n−1 = 1n−1 = 1 なので、これらは結果の積に影響せず、無視していい。残るは 2 sin (kπ/n) の積(k = 1 から n−1 に対する n−1 種類の値を掛け合わせたもの)だが(結果は上記のように n に等しい)、それは証明すべき命題1の左辺に他ならない。∎

命題2 n を 2 以上の整数とする。 n が奇数なら
  {k=1 to n−1} (2 cos (kπ/n)) = ±1
が成り立つ。複号は n が 4 の倍数より 1 大きければプラス、 4 の倍数より 3 大きければマイナス。一方 n が偶数なら、同じ積は 0 に等しい。

証明 n が偶数なら n/2 は整数。よって k が 1 から n−1 までの整数値を取る途中で k = n/2 になる瞬間がある。しかしそのとき kπ/n = (n/2)π/n = π/2 であり、対応する cos は = 0 なので、掛け算される n−1 個の数の中には 0 が含まれ、積は当然 = 0。以下では n を奇数とする。

そのとき、(✽✽)左辺の最高次の項の指数は偶数。よって左辺には、定数項 1 を別にすると、 x の奇数乗と x の偶数乗が同数あり、 x = −1 と置くと、この左辺は 1 に等しい。すなわち x = −1 と置いたときの(✽✽)は:
  1 = {k=1 to n−1} (−1 − e2πik/n) = {k=1 to n−1} [−eπik/n (eπik/n + eπik/n)] = {k=1 to n−1} [−eπik/n (2 cos (πk/n))]
(最後の等号は、共役複素数同士の足し算による。)このうち 2 cos (πk/n) たちの積は、命題2の左辺そのものなので、残りの部分、つまり −eπik/n たちの積を決定するだけでいい。仮定により n−1 は偶数なので、この e の前のマイナス符号は無いのと同じ(偶数個の「マイナス」の因子の積は「プラス」)。結局、命題1の場合と同様に、
  eπi⋅1/n × eπi⋅2/n × ···  × eπi⋅(n−1)/n = in−1
の値を考えればいい。その値は、もし n が 4m+1 型の奇数なら i4m = (i4)m = +1 だし、もし n が 4m+3 型の奇数なら i4m+2 = i4m⋅i2 = 1⋅(−1) = −1。ゆえに奇数 n がそのどちらのタイプであるかに応じて:
  1 = {k=1 to n−1} [(±1) (2 cos (πk/n))] = ±{k=1 to n−1} [(2 cos (πk/n))]
n が 4m+1 型なら、これは命題2の等式そのものだし、 n が 4m+3 型の場合にも、この両辺を −1 倍すれば、命題2の等式となる。∎

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命題3(「おばあちゃんの公式」とその sin 版) n が 3 以上の奇数なら:
  {k=1 to (n−1)/2} (2 sin (kπ/n)) = n
  {k=1 to (n−1)/2} (2 cos (kπ/n)) = 1

証明 仮定により n−1 は 2 以上の偶数。 k = 1, 2, ···, n−1 のうち、前半〚後半〛の (n−1)/2 個の k たちに対応する kπ/n は、第1象限〚第2象限〛(境界を含まない)の点を指す角度(偏角)。命題3では、そのうち前半の角度に対応する sin ないし cos だけを計算に含める。 θ が第1象限の角度なら sin θ = sin (π − θ) であり、その値は正なので、命題1の「前半の因子」の積と「後半の因子」の積は等しく、どちらも正。その等しい積を A とすれば、命題1から A × A = n で、従って A = n は正の平方根。

一方、 θ が第1象限の角度なら cos θ は正で、 −cos (π − θ) に等しい。命題2の「前半の因子」の積を B とすると B は正。後半の各因子は負なので、それらが偶数個あれば「後半の積」は正の数 B に等しいが(そのとき命題2の積は B × B = 1)、奇数個あれば −B に等しい(そのとき命題2の積は B × (−B) = −1)。どちらの場合も B = 1。∎

〔例〕 n = 9 のとき、命題1から:
  [(2 sin 20°)(2 sin 40°)(2 sin 60°)(2 sin 80°)] × [(2 sin 100°)(2 sin 120°)(2 sin 140°)(2 sin 160°)] = 9
上記の一つ目の [ ] 内の値を A とすると、それは正の数で、二つ目の [ ] 内の値も A に等しい(よって A × A = 9 つまり A = 9 = 3)。なぜなら sin の性質から、
  sin 20° = sin 160°, sin 40° = sin 140°, sin 60° = sin 120°, sin 80° = sin 100°
はそれぞれ等しく、いずれも正。

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命題1から命題3では、因子の sin ないし cos がそれぞれ 2 倍されている。この形式だと「掛け算の結果」の表現が簡単な表現になる。しかし「2 倍」を含めない方が、「掛け算そのもの」の表現は簡潔になる。その方が便利なこともあるかもしれない。

命題4 n が 2 以上の整数(偶数でもいい)なら:
  {k=1 to n−1} (sin (kπ/n)) = n/2n−1
  {k=1 to n−1} (cos (kπ/n)) = 0 または ±1/2n−1
第2式の値は n が偶数なら = 0 で、 n が 4m+1 型の奇数なら 1、 4m+3 型の奇数なら −1。一方、 n が 3 以上の奇数なら:
  {k=1 to (n−1)/2} (sin (kπ/n)) = n/2(n−1)/2
  {k=1 to (n−1)/2} (cos (kπ/n)) = 1/2(n−1)/2

証明 命題1・命題2では、 n−1 個の因子がそれぞれ 2 倍されているのだから、これらの「2 倍」をなくせば、両辺が 2n−1 分の 1 になる。同様に、命題3に関しても、もし「2 倍」を省けば値が 2(n−1)/2 分の 1 になる。∎

n = 7 のとき、命題4から「もう一つの Morrie の法則」を得る:
  cos (π/7) × cos (2π/7) × cos (3π/7) = 1/8
「おばあちゃんの公式」㋒の両辺を 8 で割っただけだけど、いい感じ!

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この話題には、娯楽数論的にいろいろな散策・遊びの余地、拡張の余地がありそうだし、前述のように、ガウス和に関連して、真面目な活用もできる。(続く)

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2026-03-02 「おばあちゃんの公式」なぜ成り立つ?

#遊びの数論

前回、 2 cos (π/7) × 2 cos (2π/7) × 2 cos (3π/7) = 1 などの、一連のきれいな関係(おばあちゃんの公式)を証明した。証明したのだから、論理的に成り立つことは確かなのだが、公式が成立する真相っていうか直観的理由が、必ずしも透明になっていない。

画像

上記の例(n = 7 のケース)は、画像(原点を中心とする半径 1 の円)の横座標 a, b, c の積が 1/8 に等しいことを含意する。その意味をあれこれ考えてみると、次の観察に至る。すなわち、
  x6 + x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1
という6次式が与えられたとき、 y = x + 1/x と置いて、その6次式を y についての3次式に変換すると、その3次式の定数項は ±1 のどちらかになる。実際、上記の6次式は、
  y3 + y2 − 2y − 1
に変換される(詳細については後述)。この「変換後の定数項は ±1」という性質は、
  x2m + x2m−1 + ··· + x + 1
について、一般的に成り立つ。「定数項は ±1」という単純な事実(無味乾燥とさえ思える)と、「おばあちゃんの公式」(美しく興味深い)は、実は本質的に同じ意味を持つ。その関連性は一見して明らかではないけど、仕組みが分かってみると、結構面白い!

「定数項は ±1」という事実を示すことで、指数関数も三角関数の公式もほとんど使わずに、「おばあちゃんの公式」が再証明される。

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【1/6】 「おばあちゃんの公式」は 180° の3等分・5等分・7等分・9等分などについての一般的性質だが、具体例として「7等分」を取り上げる。

原点を中心とする単位円上において、「180°/7 = 約 26°」の k 倍の偏角を持つ点を「k 番」の頂点と呼ぶことにする。半円周の弧の7等分を考えることに当たる。単位円に内接する正14角形、ともいえる。

正14角形の画像

素朴に考えると、円周上の 14 個の点の位置が問題。でも、そのうち 0 番の頂点 (1, 0) と 7 番の頂点 (−1, 0) は分かり切っている。残りの 12 個の頂点も、ばらばらに存在するのではなく、符号を無視すると、横座標・縦座標はそれぞれ 3 種類しかない。

実際、偶数個の辺を持つ正多角形(例えば正六角形)は、上下対称。「頂点8, 9, ···, 13」は、それぞれ「頂点6, 5, ···, 1」と横座標が同じで、縦座標の符号だけが反対(±p, ±q, ±r)。左右対称でもあるので、「頂点4, 5, 6」は、それぞれ「頂点3, 2, 1」と縦座標が同じで、横座標の符号だけが反対(±a, ±b, ±c)。結局、正負の違いを無視するなら、「1, 2, 3」の三つの頂点を考えるだけで、全種類の座標値が出そろう。

例えば a = cos (3π/7) = 0.22252…(夫婦にっこり)は頂点3と11の共通の横座標で、符号を変えた −a = −0.22252… は頂点4と10の共通の横座標。 b = cos (2π/7) = 0.62348…(オーム兄さん)と c = cos (π/7) = 0.90096…(苦戦苦労)についても同様のことがいえる。縦座標 p, q, r の値も、やはり(符号を無視すれば)それぞれ四つの頂点で共有される。

この例(円周14等分)に限らず、正多角形の対称性から、一般に円周等分点を考えると、同じような座標値(± の違いを無視すれば)が繰り返し現れることは明らかだろう。

さて、偶数番目の「頂点 2, 4, 6, 8, 10, 12」は、円周7等分点つまり「1 の7乗根」に対応し、それらの座標は
  x6 + x5 + ··· + x + 1
の六つの根に当たる。もし ζ が一つの根ならその共役複素数 ζ* も一つの根。例えば、頂点2に当たる複素数 b + qi は「1 の7乗根」の一つだし、従って頂点12の b − qi も「1 の7乗根」の一つ。それら二つの根の和を考えると、虚部が消えて、実数(両者に共通の横座標の 2 倍)になる:
  (b + qi) + (b − qi) = 2b
しかも単位円上の数 ζ の共役複素数は、 ζ の逆数 ζ−1 = 1/ζ でもあ

複素数根 ζ を直接扱う代わりに、二つの根の和 ζ + 1/ζ を考えると、それは実数なので扱いやすいかもしれない。根を二つずつペアで探せば、次数が半減して話が簡単になるかもしれない。 x6 + x5 + ··· + x + 1 = 0 を直接解こうとせず、変数置換 y = x + 1/x によって次数を下げることは、その意味では理にかなっている。 y = x + 1/x と置いて y についての方程式に変換するなら、上述のように y = 2b はその一つの解。同様に y = 2a と y = 2c も同じ方程式の解となる。

† ζ = u + vi が単位円上の数なら、その絶対値(原点からの距離)は当然 1。つまり (u2 + v2) = 1 が成立。よって u2 + v2 = 1。従って ζζ* = (u + vi)(u − vi) = u2 + v2 = 1。すなわち ζ と ζ* の積は 1 なので、両者は互いに逆数。

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【2/6】 実際に変換してみる。
  x + 1/x = y  ‥‥①
と置いて、その両辺を平方すると:
  x2 + 2⋅x⋅1/x + (1/x)2 = x2 + 2 + 1/x2 = y2
  ∴ x2 + 1/x2 = y2 − 2  ‥‥②

さらに、①と②を辺ごとに掛けると(途中計算の詳細については後述):
  x3 + 1/x3 + x + 1/x = y3 − 2y
上記左辺の x + 1/x (= y) を移項して:
  x3 + 1/x3 = y3 − 3y  ‥‥③

さて 1 の7乗根は x7 = 1 の解、つまり
  x7 − 1 = (x − 1)(x6 + x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1) = 0
の解だが、自明な解 x = 1 を別にすると、
  x6 + x5 + x4 + x3 + x2 + x + 1 = 0  ‥‥④
の六つの解が問題。その両辺を x3 で割って、
  x3 + x2 + x + 1 + 1/x + 1/x2 + 1/x3 = 0 つまり
  (x3 + 1/x3) + (x2 + 1/x2) + (x + 1/x) + 1 = 0
を得る。③②①を代入して:
  (y3 − 3y) + (y2 − 2) + (y) + 1 = 0
  つまり y3 + y2 − 2y − 1 = 0  ‥‥⑤

1 の7乗根(x = 1 以外)を表す6次方程式④が、 y についての3次方程式になった!

正14角形の画像(再掲)

3次方程式は、その気になれば機械的に解けるけど、方程式を解くばかりが能ではない。

④の六つの解は、円周7等分点――頂点「2, 4, 6」とそれぞれの共役(逆数でもある)「12, 10, 8」――に当たる複素数:
  ア x = b + qi, x* = x−1 = b − qi
  イ x = −a + ri, x* = x−1 = −a − ri
  ウ x = −c + pi, x* = x−1 = −c − pi
これら3ペアのそれぞれについて、 y = x + x* = x + x−1 と置いたものが⑤の三つの解。つまり
  ア y = (b + qi) + (b − pi) = 2b
  イ y = (−a + ri) + (−a − ri) = −2a
  ウ y = (−c + pi) + (−c − pi) = −2c
の三つの実数が⑤の3解だ。「3次方程式の3解の積」は定数項の符号を変えたものだから(解と係数の関):
  (2b)⋅(−2a)⋅(−2c) = +1 つまり 8abc = 1

ところが a = cos (3π/7), b = cos (2π/7), c = cos (π/7) なので、上記の関係 8abc = 1 は
  8 cos (3π/7) × cos (2π/7) × cos (π/7) = 1
  つまり 2 cos (π/7) × 2 cos (2π/7) × 2 cos (3π/7) = 1
を意味する。「おばあちゃんの公式」の n = 7 のケースが証明された!

このアプローチは、「おばあちゃんの公式」の一つ一つの cos がなぜ 2 倍されているのか?について、洞察を与えてくれる。 3 以上の奇数 n について、
  xn−1 + xn−2 + ···  + x + 1
が与えられたとき、 y = x + 1/x と置いて得られる y についての多項式の根の一つ一つは、円周 n 等分点(x = 1 を除く)の「符号を無視した全種類」の横座標――つまり cos (2πk/n) ――2 倍したもの。だから「2 倍」が出てくる。上記の方程式は「頂点 2, 4, 6, 8, 10, 12」に関するもの、おばあちゃんの公式は「頂点 1, 2, 3」に関するものなので、微妙に違う話のようだけど、頂点の座標は同じような値の繰り返しなので、結局どっちも同じこと!

† P, Q, R を定数とする。3次方程式 ƒ(y) = y3 + Py2 + Qy + R = 0 の3解が α, β, γ なら、 ƒ(y) は、多項式として
  (y − α)(y − β)(y − γ) ★
と一致する。なぜなら α は解なので ƒ(α) = 0 であり、従って多項式 ƒ(y) は、因子 y − α を持つ(さもなければ y = α を代入したとき ƒ(y) = 0 になり得ない)。同様に ƒ(β) = ƒ(γ) = 0 なので、多項式 ƒ(y) は因子 y − β, y − γ を持つ。★を展開すると、どうなるか。機械的に単純計算すると8個の項が生じるけど、そのうち y を含まない項、つまり定数項が (−α)(−β)(−γ) = −αβγ であることは明白。★は、
  ƒ(y) = y3 + Py2 + Qy + R
と同一の多項式なのだから、この −αβγ という定数項は R に等しい。一般に n 次方程式 ƒ(y) の n 個の解が α, β, γ, δ, ··· なら、同様の理屈から、 ƒ(y) の定数項は、 n 個の解たちの積 αβγδ··· に等しいか、または、その −1 倍に等しい(n つまり解の個数が奇数なら、3次方程式の例のようにマイナスが奇数個あるので、 −1 倍される)。

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【3/6】 上記の例は、あくまで n = 7 という一つのケース。「一般の奇数 n について、一つ一つこんなふうに議論していたら、きりがない」とも思える。しかし、この議論を一般化することは、意外と易しい。円周 2m+1 等分点に現れる m 種類の cos の値(cos 0 = 1 を除き、符号の違いを度外視)を c1, c2, ···, cm とするとき、証明すべきことは、
  (2c1)(2c2)··· (2cm) = ±1
だ。上記 2m+1 = 7 の例で見たように、この左辺の m 個の因子は、 y についての m 次方程式の解。「おばあちゃんの公式」では、積が = +1 になっているけど、われわれの cos は正かもしれないし負かもしれない。負の値の cos が偶数個あるか奇数個あるかに応じて、積は正にも負にもなり得る。でも、最終的な公式では、第1象限の角に対する(正の値の) 2 cos だけを掛け算するのだから、積の絶対値が 1 であることさえ確かなら、符号は必ず正になる(例えば y についての方程式の解の一つが負数 y = −2a = 2 cos (4π/7) だとしても、公式にまとめるときには、対応する正の数 2a = 2 cos (3π/7) が使われるから)。

要するに y についての方程式の解たちの積が +1 または −1 でありさえすれば、符号は問題ではない。われわれの積と「おばあちゃんの公式」の積では掛け算の内容が多少違うけど、その違いは、(符号の違いに目をつぶれば)正多角形の対称性に吸収されてしまう。結局、この方程式の定数項が ±1 であることを証明すれば十分。

y についての方程式は、上記 m = 3 の具体例で見たように、
  (xm + 1/xm) + (xm−1 + 1/xm−1) + ··· + (x + 1/x) + 1
のそれぞれの ( ) 内を y についての多項式に置き換えることで、得られる。今、 xk + 1/xk を y の k 次式として表現したものを Pk(y) とすると(k ≥ 1)、実は次の性質が成り立つ。

命題5 もし k が奇数なら、 Pk(y) は定数項を持たない(定数項は 0 だ、という意味)。もし k が 4 の倍数なら、 Pk(y) の定数項は +2。もし k が 4 の倍数より 2 大きい数なら、 Pk(y) の定数項は −2。

仮に命題5を承認するなら、次の結論に至るであろう。すなわち、
  x2m + x2m−1 + ··· + x + 1
を xm で割って、 y についての m 次式
  Pm(y) + Pm−1(y) + ··· + P1(y) + 1  ‥‥⑥
に変換した場合(前掲の具体例で、 x についての6次式を y についての3次式に変換したように)、もし m が 4 の倍数なら、⑥の定数項は
  [2 + 0 + (−2) + 0] + [2 + 0 + (−2) + 0] + ··· + [2 + 0 + (−2) + 0] + 1 = +1
に等しい。この左辺は、 [2 + 0 + (−2) + 0] という和を m/4 個含む。 k が奇数のときの Pk(y) は定数項を持たないのだから、 m が 4 の倍数より 1 大きいときも、⑥の定数項は、
  0 + [2 + 0 + (−2) + 0] + ··· + 1
となり(足し算の先頭に 0 + が追加されただけ)、やはり +1。一方、もし m が 4 の倍数より 2 大きい数なら、⑥の定数項は
  [(−2) + 0] + [2 + 0 + (−2) + 0] + ··· + [2 + 0 + (−2) + 0] + 1 = −1
に等しい。 m が 4 の倍数より 3 大きいときも、またしかり。

結局、命題5が真なら y についての方程式⑥の定数項は ±1 であり、そのとき解と係数の関係から、
  (2c1)(2c2)··· (2cm) = ±1
となるが、これは「おばあちゃんの公式」と同等。命題5さえ証明できれば、とんとん拍子に話が完結する。

命題5の証明 1/x, 1/x2, 1/x3 などをそれぞれ x−1, x−2, x−3 のように書いた方が簡潔だし、分かりやすい。 y の定義
  P1(y) = x + x−1 = y
が出発点。この P1(y) の定数項は、もちろん 0。

P2(y) を得るため、 P1(y) を x + x−1 倍(= y 倍)しよう:
  (x + x−1)⋅(x + x−1) = (x + x−1)⋅x + (x + x−1)⋅x−1
   = (x2 + 1) + (1 + x−2) = (x2 + x−2) + (1 + 1) = P2(y) + 2
(x−1 は 1/x のことなので、その x 倍は 1。)これが y の y 倍と等しいのだから:
  P2(y) + 2 = y2
  ∴ P2(y) = x2 + x−2 = y2 − 2  ← ②と同じ
この多項式は、定数項 −2 を持つ。

P3(y) を得るため、 P2(y) を再び x + x−1 倍(= y 倍)する:
  (x2 + x−2)⋅(x + x−1) = (x2 + x−2)⋅x + (x2 + x−2)⋅x−1
   = (x3 + x−1) + (x1 + x−3) = (x3 + x−3) + (x1 + x−1) = P3(y) + P1(y)
これが y2 − 2 の y 倍と等しいのだから:
  P3(y) + P1(y) = (y2 − 2)y
  ∴ P3(y) = y3 − 2y − P1(y)
P1(y) は定数項を持たないので、上記 P3(y) も定数項を持たない。

より一般的に、 Pk+1(y) を得るため、 Pk(y) = xk + x−k を x + x−1 倍(= y 倍)すると(k ≥ 1):
  (xk + x−k)⋅(x + x−1) = (xk + x−k)⋅x + (xk + x−k)⋅x−1
   = (xk+1 + x−k+1) + (xk−1 + x−k−1) = xk+1 + x−(k−1) + xk−1 + x−(k+1)
   = [xk+1 + x−(k+1)] + [xk−1 + x−(k−1)] = Pk+1(y) + Pk−1(y)
これが Pk(y) の y 倍に等しいのだから:
  Pk+1(y) + Pk−1(y) = y⋅Pk(y)
  ∴ Pk+1(y) = y⋅Pk(y) − Pk−1(y)  (✽)

y⋅Pk(y) は、全部の項が因子 y を含むので、定数項を持たない。ゆえに Pk+1(y) が定数項を持つか持たないかは、(✽)の Pk−1(y) が定数項を持つか持たないかによって決まる。もし Pk−1(y) が定数項 C を持つなら、 Pk+1(y) は定数項 −C を持つ。もし Pk−1(y) が定数項を持たないなら(C = 0)、 Pk+1(y) も定数項を持たない。要約すると:

C = 0 の可能性も含めて、 Pk−1(y) の定数項が C なら Pk+1(y) の定数項は −C。

しかるに P1(y) = y は定数項を持たないので(C = 0)、 P3(y), P5(y), P7(y), ··· も定数項を持たない。一方 P2(y) = y2 − 2 は定数項 −2 を持つので、 P4(y), P6(y), P8(y), P10(y), ··· も定数項を持ち、その値は順に +2, −2, +2, −2, ··· となる。証明終わり。∎

✿

【4/6】 ①②③から、
  P1(y) = y
  P2(y) = y2 − 2
  P3(y) = y3 − 3y
は既知。せっかくなので、もう少し先まで具体的に計算してみる。

命題6の証明で使った漸化式(✽)を使うなら:
  P4(y) = y⋅P3(y) − P2(y) = y(y3 − 3y) − (y2 − 2) = y4 − 4y2 + 2
  P5(y) = y⋅P4(y) − P3(y) = y(y4 − 4y2 + 2) − (y3 − 3y) = y5 − 5y3 + 5y
  P6(y) = y⋅P5(y) − P4(y) = y(y5 − 5y3 + 5y) − (y4 − 4y2 + 2) = y6 − 6y4 + 9y2 − 2
  P7(y) = y⋅P6(y) − P5(y) = y(y6 − 6y4 + 9y2 − 2) − (y5 − 5y3 + 5y) = y7 − 7y5 + 14y3 − 7y
   ︙

〔注〕 必ずしも漸化式(✽)を使わなくてもいい。例えば P4(y) の計算では、②の両辺を平方して、次のようにするのも実用的だろう:
  x4 + 2 + 1/x4 = y4 − 4y2 + 4
  ∴ x4 + 1/x4 = y4 − 4y2 + 2

よって x8 + x7 + ··· + x + 1 を x4 で割ったものは、 y = x + 1/x と置くと、こうなる:
  P4(y) + P3(y) + P2(y) + P1(y) + 1
   = (y4 − 4y2 + 2) + (y3 − 3y) + (y2 − 2) + (y) + 1
   = y4 + y3 − 3y2 − 2y + 1  ‥‥⑦
前述のように、定数項は [2 + 0 + (−2) + 0] + 1 = 1。

⑦は、既出の式⑤に――すなわち円周7等分点の余弦の2倍を根とする P3(y) + P2(y) + P1(y) + 1 = y3 + y2 − 2y − 1 に――、 P4(y) = y4 − 4y2 + 2 を足したものに他ならない。

計算の意味から、4次式⑦の根は 2 cos 40°, 2 cos 80°, 2 cos 120°, 2 cos 160° だ。根と係数の関係によって、
  2 cos 40° × 2 cos 80° × 2 cos 120° × 2 cos 160° = 1
が成り立つ。ここで cos 120° = −cos 60° と cos 160° = −cos 20° の置き換えを行うと(偶数個のマイナスなので、トータルでは、マイナスは無いのと同じこと)、
  2 cos 40° × 2 cos 80° × 2 cos 60° × 2 cos 20° = 1
となる。これが「おばあちゃんの公式」(n = 9 の場合)だ!

ちなみに、もし⑦が有理数の根を持つなら、それは定数項の約数、すなわち 1 または −1。 y = −1 が根であることは明白(直接計算でも簡単に確かめられるが、そもそも 2 cos 120° = −1 が根の一つであることは分かり切っている)。従って、この4次式は、多項式として y + 1 で割り切れる。割り算を実行すると:
  y4 + y3 − 3y2 − 2y + 1 = (y + 1)(y3 − 3y + 1)
余因子 y3 − 3y + 1 の根が 2 cos 40°, 2 cos 80°, 2 cos 160° であり、それらは有理数でないので、有理係数の範囲では、この3次式をさらに分解することはできない。

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【5/6】 ⑦にさらに P5(y) = y5 − 5y3 + 5y を足すと、次の5次式を得る:
  y5 + y4 − 4y3 − 3y2 + 3y + 1  ‥‥⑧
その五つの根は、 k = 1, 2, 3, 4, 5 に対する 2 cos (2kπ/11)、すなわち円周11等分点の余弦の 2 倍。根と係数の関係から:
  2 cos (2π/11) × 2 cos (4π/11) × 2 cos (6π/11) × 2 cos (8π/11) × 2 cos (10π/11) = −1

これは「おばあちゃんの公式」の n = 11 の場合と本質的に同じ関係を表す。実際、直角を超える角度について、下記の三つの置き換えを行い、両辺を −1 倍すれば、
  2 cos (2π/11) × 2 cos (4π/11) × 2 cos (5π/11) × 2 cos (3π/11) × 2 cos (1π/11) = 1
となる。三つの置き換えとは:
  2 cos (10π/11) = −2 cos (1π/11)
  2 cos (8π/11) = −2 cos (3π/11)
  2 cos (6π/11) = −2 cos (5π/11)
どれも初歩的な性質 cos θ = −cos (180° − θ) の事例に過ぎない。

⑧にさらに P6(y) = y6 − 6y4 + 9y2 − 2 を足すと、次の6次式を得る:
  y6 + y5 − 5y4 − 4y3 + 6y2 + 3y − 1  ‥‥⑨
その六つの根は、 k = 1, 2, ···, 6 に対する 2 cos (2kπ/13)、すなわち円周13等分点の余弦の 2 倍。根と係数の関係から:
  2 cos (2π/13) × 2 cos (4π/13) × 2 cos (6π/13) × 2 cos (8π/13) × 2 cos (10π/13) × 2 cos (12π/13) = −1

左辺後半の三つの cos は、それぞれ 5π/13, 3π/13, 1π/13 に対する cos の −1 倍に等しい。その置き換えを行って、両辺を −1 倍すれば、「おばあちゃんの公式」(n = 13 の場合)となる。

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【6/6】 まとめ。これらの観察は、どれも次の事実を土台とする。 n = 2m + 1 が 3 以上の奇数のとき、 1 の n 乗根は
  x2m+1 − 1 = (x − 1)(x2m + x2m−1 + ··· + x + 1)
の n 個の根。 1 自身を除く 2m 種類の根を考えるなら、それらは
  x2m + x2m−1 + ··· + x + 1
の根。この 2m 次式を xm で割って y = x + 1/x と置くと、「y についての m 次式」を得る――その m 個の根は、 1 の n 乗根(1 自身を除く)の m 種類の実部を、それぞれ 2 倍したもの。言い換えると、円周 2m+1 等分点の m 種類の cos の値を、それぞれ 2 倍した実数。

この m 次式は定数項が必ず ±1 なので(なぜなら、命題5により、定数項は、昇べきの順で 1 に 0, −2, 0, 2 をその順でいくつか足したものである)、根と係数の関係から、 m 個の根
  y = 2 cos (2kπ/n) ただし k = 1, 2, ···, m
を全部掛け合わせた積は 1 または −1 に等しい。この等式は「おばあちゃんの公式」と実質的に同内容。「おばあちゃん」スタイルに書き直すには、「角度 θ = 2kπ/n が直角を超える cos」を、同じ値の −cos (π − θ) に置き換えるだけ。必要に応じて両辺を −1 倍すれば、置き換え後の cos の先頭のマイナス符号は全てキャンセルされ、「正の cos の積 = 1」の形の等式を得る。

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2026-03-03 おばあちゃんが教えてくれた公式/別証明 三角関数バージョン

#遊びの数論

複素指数関数を使わない「ハイスクール的?」アプローチ。このネタのソース “Grandma’s identity” に掲載されている証明法も紹介。

指数関数を使った証明は 1 + e2t = et(e−t + et) のような当たり前の等式を鍵とするもので、ほぼ一本道の機械的計算だった。指数関数を使わないと、かえってややこしくなったり、ある種のトリックが必要になったりする。それもまた一興。

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「複素指数」というと、なにやらただの「指数」より難しそうなイメージがあるかもしれない。でも、この場合、 cos θ + i sin θ を e と略すだけで、表記も楽だし、計算も楽だし、避けるメリットは何もないように思われる(オイラーの公式でモヤモヤしなければ)。

とはいえ、そうしたければ、三角関数表現だけで済ますことも可能。

おばあちゃんの公式」は、命題3のうちの cos バージョン―― n が 3 以上の奇数なら、
  {k=1 to (n−1)/2} (2 cos (kπ/n)) = 1  ㋕
が成り立つ、という主張だ。

証明(S. Humble, 2004年) xn − 1 = 0 の解(つまり 1 の n 乗根)は、次の n 個の複素数:
  x = cos (2πk/n) ± i sin (2πk/n) ただし k = 0, 1, ···, (n−1)/2
k = 0 の場合、上記の表現は x = 1 ± 0i = 1 という(一つの)自明解を表す。 k ≥ 1 の場合、 ± の後ろの虚部は 0 ではなく、各 k に対応して、二つの共役複素数解(仮に αk, βk としよう)が定まる。よって、 xn − 1 を1次式の積に分解するなら、
  xn − 1 = (x − 1) {k=1 to (n−1)/2} [(x − αk)(x − βk)]  ㋖
と表現可能。このような「1次式の積」の形で進めることも可能で(後述)、その方が応用も利く。しかし出典では一工夫して、 (x − αk)(x − βk) を先に展開。すなわち、
  x2 − (αk + βk)x + αkβk  ㋗
を考える。定義によって
  αk = cos (2πk/n) + i sin (2πk/n)
  βk = cos (2πk/n) − i sin (2πk/n)
なので、両者の和は 2 cos (2πk/n)、両者の積は 1。よって㋗は、
  x2 − (2 cos (2πk/n))x + 1
であり、㋖に代入すると:
  xn − 1 = (x − 1) {k=1 to (n−1)/2} [x2 − (2 cos (2πk/n))x + 1]
∏ の内容が、「2次式の積」の形に整理された。

ここで x = −1 と置くと(仮定により n が奇数であることに留意):
  −2 = (−2) {k=1 to (n−1)/2} [1 + (2 cos (2πk/n)) + 1]
両辺を −2 で割って:
  1 = {k=1 to (n−1)/2} [2 + 2 cos (2πk/n)] = {k=1 to (n−1)/2} [2(1 + cos (2πk/n))]  ㋘

㋘の右辺の ( ) 内に、恒等式 1 + cos 2α = 2 cos2 α を適用すると:
  1 = {k=1 to (n−1)/2} [2(2 cos2 (πk/n))] = {k=1 to (n−1)/2} (4 cos2 (πk/n))  ㋙
証明されるべき式㋕の左辺は、第1象限の角度の cos の積で、明らかに正。そこで、㋙の両辺の正の平方根を考えると、こうなる(積の平方根は、因子ごとの平方根の積に等しい):
  1 = {k=1 to (n−1)/2} (2 cos (πk/n))
㋕が証明された。∎

† 三角関数の基本公式の一つ cos 2α = 2 cos2 α − 1 を、並び替えたもの(付録A参照)。半角の公式の一種。

㋖では、自明な因子 x − 1 で両辺を割っておくのが普通だろう。ここでは、自明な因子をあえて放置している。その結果、左辺を
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1
と書く必要がなくなり、こぢんまりとした分かりやすい議論ができる。半面、このやり方は拡張性が低い。自明な因子を残していると x = 1 と置いたとき値が 0 になってしまうので、同様の方法で簡単に sin 版を導くことはできない(極限演算を使えば何とかなるかもしれないが、最初から多項式の割り算を済ませておく方が明快)

㋙では結局「半角の公式」が必要になるのだが、因子が2次式なのが吉と出て、比較的見通しが良い。コインの裏表として、やはり拡張性は低い。 n の偶奇を限定せず一般的に扱いたい場合には、1次の因子が偶数個とは限らず、うまく2次の因子にまとめられるとは限らない。

✿

問題を拡張・再検討する。「指数関数を使わないこと」以外は、最初のメモとほぼ同内容。 cos の積についての「おばあちゃんの公式」は「命題2」と同等。 sin 版の「命題1」を先に扱う。

命題1 {k=1 to n−1} (2 sin (kπ/n)) = n が成り立つ(n は 2 以上の整数)。

証明(Nagell, [2], p. 173) 多項式 xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 の根を
  cos (2kπ/n) + i sin (2kπ/n)
と書くと(k = 1, 2, ···, n−1):
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = {k=1 to n−1} [x − (cos (2kπ/n) + i sin (2kπ/n))]  (✽)
左辺には、合計 n 個の項がある(定数項 1 の他に、 x の 1 次から n−1 次までの n−1 個の項があるので)。

多項式についての等式(✽)で、 x = 1 とすると:
  n = {k=1 to n−1} [1 − cos (2kπ/n) − i sin (2kπ/n)]

簡潔化のため kπ/n を θ と略す。 [ ] 内の 1 − cos 2θ − i sin 2θ をうまく変形して cos θ + i sin θ あたりを含む形に整理したい。 sin 2θ は、通常 = 2 sin θ cos θ とするしかないが、 cos 2θ は(基本の範囲だけでも)3パターンに変形可能(付録A)。 = 1 − 2 sin2 θ とすれば、次のようにうまくいく:
  1 − cos 2θ − i sin 2θ = 1 − (1 − 2 sin2 θ) − (2i sin θ cos θ)
   = 2 sin2 θ − 2i sin θ cos θ = 2 sin θ (sin θ − i cos θ) = (−i)⋅2 sin θ (cos θ + i sin θ)

省略記法 θ を元に戻すと:
  n = {k=1 to n−1} [(−i)⋅2 sin (kπ/n) (cos (kπ/n) + i sin (kπ/n))]
   = (−i)n−1 {k=1 to n−1} (2 sin (kπ/n)) {k=1 to n−1} (cos (kπ/n) + i sin (kπ/n))
この右辺の二つ目の ∏ は (i)n−1 に等しく【※補足1】、因子 (−i)n−1 と合わせると (−i⋅i)n−1 = (1)n−1 = 1 なので、これらは積に影響せず。すなわち n は {k=1 to n−1} (2 sin (kπ/n)) に等しい。∎

※補足1】 複素数と複素数の積では、偏角が足し算され、絶対値が掛け算される。単位円上の点に当たる数たちは、どれも絶対値 1 なので、いくつ掛け合わせても絶対値は 1 のまま。偏角の足し算だけを考えればいい:
  (cos α + i sin α)(cos β + i sin β) = cos (α + β) + i sin (α + β)
この性質を繰り返し使うと、
  (cos α + i sin α)(cos β + i sin β)(cos γ + i sin γ) = cos (α + β + γ) + i sin (α + β + γ)
等々となり、一般に、掛け算される因子の偏角が α, β, γ, δ, ··· なら、積の偏角は α + β + γ + δ + ··· となる。ここで考えている具体的な事例では、積の因子の偏角は kπ/n の形だから(k = 1, 2, ···, n−1)、それら偏角たちの和を A とすると:
  A = 1⋅π/n + 2⋅π/n + ··· + (n−1)⋅π/n = π/n⋅[1 + 2 + ··· + (n−1)]
   = π/nn(n − 1)/2 = (n − 1)π/2
よって求める積は:
  cos A + i sin A = cos [(n − 1)π/2] + i sin [(n − 1)π/2] = (cos (π/2) + i sin (π/2))n−1 = (0 + i)n−1
後ろから2番目の等号は de Moivre の定理による: いわく、任意の整数 N に対して cos Nθ + i sin Nθ = (cos θ + i sin θ)N が成立。三角関数に執着しなければ eiNθ = eiθ⋅N = (e)N という簡単な計算に過ぎない。

複素数の範囲での指数計算では、一般には積についての指数法則 (za)b = zab が不成立。しかし外側の指数 b を整数に限るなら、和についての指数法則から、
  (za)b = za × za × ··· × za  ← b 個の za の積
   = za+a+···+a  ← 指数は b 個の a の和
  ∴ (za)b = zab
が成り立つ。要するに、「de Moivre の定理(またはその指数関数バージョン)は安全。ただし、調子に乗って、定理の整数 N を勝手に整数以外にまで拡張しちゃ駄目だよっ」と。

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命題2 {k=1 to n−1} (2 cos (kπ/n)) = 0 or ±1 が成り立つ(n は 2 以上の整数)。

証明 もし n が偶数なら n/2 は整数なので、上記の積において k = n/2 になる瞬間が存在する。そのとき 2 cos (kπ/n) = 2 cos ((n/2)π/n) = 2 cos (π/2) = 0 なので、この積は × 0 を含み、結果が = 0 であることは明白。以下では、それ以外の場合を考える―― n は奇数(n−1 は偶数)、と仮定する。

再び(✽)を――すなわち
  xn−1 + xn−2 + ··· + x + 1 = {k=1 to n−1} [x − (cos (2kπ/n) + i sin (2kπ/n))]
――利用し、今度は x = −1 と置く。このとき左辺では(仮定により n−1 は偶数なので)、 x の偶数乗から生じる (−1)n−1 = +1 等々と、 x の奇数乗から生じる (−1)n−2 = −1 等々が交互に並び、定数項 1 以外は無いのと同じこと。すなわち、左辺は 1 に等しく、次の等式が成り立つ:
  1 = {k=1 to n−1} [−1 − cos (2kπ/n) − i sin (2kπ/n)]

簡潔化のため kπ/n を θ と略す。 [ ] 内の −1 − cos 2θ − i sin 2θ をどうするか。 sin 2θ については普通に = 2 sin θ cos θ とするとして、 cos 2θ については、ここでは = 2 cos2 − 1 とすると、次のように都合がいい形になる:
  −1 − cos 2θ − i sin 2θ = −1 − (2 cos2 θ − 1) − 2i sin θ cos θ
   = −2 cos2 θ − 2i sin θ cos θ = −2 cos θ (cos θ + i sin θ)

省略記法 θ を元に戻すと:
  1 = {k=1 to n−1} [(−1)⋅2 cos (kπ/n) (cos (kπ/n) + i sin (kπ/n))]
   = (−1)n−1 {k=1 to n−1} (2 cos (kπ/n)) {k=1 to n−1} (cos (kπ/n) + i sin (kπ/n))
仮定により n−1 は偶数なので、この右辺先頭の (−1)n−1 は 1 に等しく、無いのと同じ。右辺二つ目の ∏ は、命題1の場合と同様に (i)n−1 に等しく(補足1参照)、 n−1 は偶数なので (−1)(n−1)/2 と書いてもいい。

結局、上記等式の実質的意味は:
  1 = (−1)(n−1)/2 × {k=1 to n−1} (2 cos (kπ/n))
両辺を (−1)(n−1)/2 倍し左辺と右辺を入れ替えると:
  {k=1 to n−1} (2 cos (kπ/n)) = (−1)(n−1)/2
ここで (−1)(n−1)/2 は、 (n−1)/2 の偶奇に応じて +1 ないし −1 に等しい。すなわち、もし偶数 n−1 が 4 の倍数なら(半分にしても偶数なら)プラス、さもなければ(半分にすると奇数なら)マイナス。言い換えると、奇数 n が 4 の倍数より 1 大きければプラスで、 4 の倍数より 3 大きければマイナス。∎

† (−1)(n−1)/2 が 1 であろうと −1 であろうと、その数を自乗すれば = +1 になる。つまり (−1)(n−1)/2 × (−1)(n−1)/2 は 1 に等しく、因子としては無いのと同じ(除去可能)。

✿

三角関数表現でアプローチしようとすると、どうしても「半角の公式」が出てくる。証明したい公式は、根源的には円周 n 等分に関連する。けれど、それを 180° の n 等分の形で表記するとなると、角度を半分にする処理が生じる…。指数関数なら一定の「イディオム」で切り抜けられるけど、三角関数表現では、複数の公式を臨機応変に使い分ける必要があり、ちょっぴり面倒。

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付録A sin 2α と cos 2α のしち変化へんげ

sin (α + β) ないし cos (α + β) についての公式で β = α と置いたときの
  sin 2α = 2 sin α cos α  ㈠
  cos 2α = cos2 α − sin2 α  ㈡
は基本的。㈡ については、 cos2 α を 1 − sin2 α で置き換えれば
  cos 2α = 1 − 2 sin2 α  ㈢
となり、 sin2 α を 1 − cos2 α で置き換えれば
  cos 2α = 2 cos2 α − 1  ㈣
となる――どちらも(本文でやったように)それ自体として常用される他、重要な「半角の公式」を含意している。すなわち、㈢から
  2 sin2 α = 1 − cos 2α  ♭
  ∴ sin2 α = (1 − cos 2α)/2
となり、㈣ から
  2 cos2 α = 1 + cos 2α  ♯
  ∴ cos2 α = (1 + cos 2α)/2
となる。いずれも α = θ/2 と置けば、半角の公式(の一種)であることが、よりはっきりする。

㈢㈣ を経由せず、次の手順でも導出可能。
  ㊤ cos2 α + sin2 α = 1 と
  ㊦ cos2 α − sin2 α = cos 2α  ← ㈡ より
を足すと:
  2 cos2 α = 1 + cos 2α  ♯
㊤から㊦を引くと:
  2 sin2 α = 1 − cos 2α  ♭

sin 2α, cos 2α の変形法は他にもある。上記 ㈠㈡㈢㈣ 以外は、さほど使用頻度が高くないが、まとめの意味で、全部リストアップしておく。

値が定義される限りにおいて、㈠ の右辺を sec2 α 倍してから sec2 α で割っても、もちろん値は変わらない。言い換えると 1/(cos2 α) 倍してから、 1 + tan2 α で割る:
  sin 2α = 2 sin α cos α × 1/(cos2 α) ÷ (1 + tan2 α)
   = 2 tan α ÷ (1 + tan2 α) = (2 tan α)/(1 + tan2 α)  ㈤
㈡に対しても、同様の変形法が有効:
  cos 2α = cos2 α − sin2 α = (cos2 α − sin2 α) × 1/(cos2 α) ÷ (1 + tan2 α)
   = (1 − tan2 θ) ÷ (1 + tan2 α) = (1 − tan2 α)/(1 + tan2 α)  ㈥

㈤㈥は、 α = x/2, t = tan (x/2) と置いた形で使われることが多い:
  sin x = (2t)/(1 + t2)
  cos x = (1 − t2)/(1 + t2)
代表的な用途は、置換積分。 sin x の式を cos x の式で割ることにより、容易に
  tan x = (2t)/(1 − t2)
を得る。この形は tan の倍角公式に過ぎない。実際、 tan の加法定理
  tan (α + β) = (tan α + tan β)/(1 − tan α tan β)
で β = α と置けば:
  tan 2α = (2 tan α)/(1 − tan2 α)
当然ながら、これは ㈤÷㈥ とも一致。

最後に、㈠ からの派生として(自明に近いが)、次の恒等式が成り立つ。
  sin 2α = 2 sin α cos α = (sin α + cos α)2 − 1  ㈦

〔参考文献〕 Abramowitz & Stegun, §4.3.24, §4.3.25
https://archive.org/details/handbookofmathem1964abra/page/72/mode/1up

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2026-03-06 「おばあちゃんの公式」分母が偶数だと?

#遊びの数論

おばあちゃんが教えてくれた公式」というのは、
  2 cos (π/3) = 1
  2 cos (π/5) × 2 cos (2π/5) = 1
  2 cos (π/7) × 2 cos (2π/7) × 2 cos (3π/7) = 1
  2 cos (π/9) × 2 cos (2π/9) × 2 cos (3π/9) × 2 cos 4π(/9) = 1
   ︙
のようなものだが、これを眺めていると「分母が偶数だと、どうなるんだろ?」という疑問が湧く。ためしに直接計算してみると:
  2 cos (π/4) = 2
  2 cos (π/6) × 2 cos (2π/6) = 3
  2 cos (π/8) × 2 cos (2π/8) × 2 cos (3π/8) = 4
  2 cos (π/10) × 2 cos (2π/10) × 2 cos (3π/10) × 2 cos 4π(/10) = 5
   ︙

おおおっっっ!! こ、これは、きれいっ!

(しかも上記「偶数バージョン」の各等式において、左辺の cos を全部 sin に置き換えても、同じ等式が成り立つ。)

こんな気高く美しい公式が、ほとんどどの文献にも載ってないのは、ふに落ちない。「××クラゲの法則」とかなんとか、固有名があってもおかしくないレベルだと思われるが…。辛うじて Yaglom & Yaglom の初等難問集に、本質的に同内容の式が収録されている。

✿

一般形は次の通り。

命題6 m が 2 以上の整数なら:
  {k=1 to m−1} (2 sin [kπ/(2m)]) = {k=1 to m−1} (2 cos [kπ/(2m)]) = m
言い換えれば:
  sin [π/(2m)] sin [2π/(2m)] sin [3π/(2m)]···sin [(m−1)π/(2m)] = (m)/(2m−1)
  cos [π/(2m)] cos [2π/(2m)] cos [3π/(2m)]···cos [(m−1)π/(2m)] = (m)/(2m−1)

m−1 個の各因子は「90° を m 等分した(90° 未満の)正の角度」に対応している。 sin (90° − θ) = cos θ なので、 sin 版と cos 版は同一の積であり、どちらか一方を証明すれば十分。われわれの立場では、 sin 版の方が扱いやすい。

証明 命題1で n = 2m と置くと:
  {k=1 to 2m−1} (2 sin [kπ/(2m)]) = 2m
上の等式の両辺を 2 sin [mπ/(2m)] = 2 で割ると(左辺については k が動く範囲から k = m だけを除外する):
  {k=1 to m−1} (2 sin [kπ/(2m)]) × {k=m+1 to 2m−1} (2 sin [kπ/(2m)]) = m

左辺の第一の ∏ の値を A とすると、それは明らかに正。しかも対称性から、第二の ∏ の値も A に等しい。実際、第二の ∏ の因子として、分子が
  (m + 1)π から (2m − 1)π まで
動くが、これらの因子を逆順で並べるなら、分子が
  (2m − 1)π から (2m − (m−1))π まで
動く、と言ってもいい。だから第二の ∏ をこう書いても、同じこと:
  {k=1 to m−1} (2 sin [(2m − k)π/(2m)])
この ∏ は第一の ∏ と全因子が等しい。なぜなら sin の初歩的性質から、各 k に対し、
  sin [kπ/(2m)] = sin (π − [kπ/(2m)]) = sin [(2m − k)π)/(2m)]
が成り立つ。

要するに A × A = m かつ A > 0。ゆえに A = m。∎

これで cos 版も、自動的に間接証明された。直接証明も難しくない(ほぼいつものパターン):

命題6の cos の式の直接証明(参考)
  x2m − 1 = (x2 − 1)(x2(m−1) + x2(m−2) + ··· + x2 + 1)
の根のうち、自明な根 x = ±1 以外のもの、すなわち
  x = exp (2πik/2m), k ∈ {1, 2, ···, m−1, m+1, m+2, ···, 2m−1}
を考えると、 k が上記範囲を動くという了解の下で、次の両辺は多項式として等しい:
  x2(m−1) + x2(m−2) + ··· + x2 + 1 = ∏ (x − exp [(2πik)/(2m)])
x = −1 と置くと:
  m = ∏ (−1 − exp [(2πik)/(2m)])
   = ∏ [−exp [(πik)/(2m)] (exp [(πik)/(2m)] + exp [(πik)/(2m)])]
   = ∏ [(−1)⋅(exp [(πik)/(2m)])⋅(2 cos [(πk)/(2m)])]  (✽)

k は 1 から 2m−1 までの m 以外の値を取るのだから、上記の ∏ は 2m−2 個、つまり偶数個の因子を持つ。よって (−1) は無いの同じ。 2m−2 種類の
  (exp [(πik)/(2m)])
の積は、次の値を持つ(k = m を除外するため、普通に全部足して後から m を引く):
  exp {(πi)/(2m)[1 + 2 + ··· + (2m−1) − m]} = exp {(πi)/(2m)[2m(2m − 1)/2 − m]}
   = exp {(πi)/(2m)[m(2m − 1) − m]} = exp {(πi)/(2m)[m(2m − 2)]}
   = exp [πi (m − 1)] = (−1)m−1
つまり m が奇数なら 1、 m が偶数なら −1。

(✽)に含まれる 2m−2 種類の (2 cos) の積は、次の値を持つ:
  {k=1 to m−1} (2 cos [kπ/(2m)]) × {k=m+1 to 2m−1} (2 cos [kπ/(2m)])
第一の ∏ の値を B とすると、そこに含まれる cos はどれも正、よって B は正。一方、第二の ∏ の値は ±B に等しい――こっちに含まれる cos はどれも負、そして因子は m−1 個なので、こちらの積は m が奇数なら = +B で、 m が偶数なら = −B。第二の ∏ と上記 (−1)m−1 の積は、常に +B に等しい。

要するに(✽)は B × (+B) = m を含意する。従って、正の数 B は m に等しい。∎

(✽)の3種類の因子について、符号の場合分けを明記したのは、確認・検算のため。 B が正であることは明白なので、命題の証明だけが目的なら、(✽)の絶対値が B2 であることを示せば十分で、「符号がどうなるか」の分析は必要ない。

✿

問題(Yaglom & Yaglom, Problem 143 次を証明せよ。
  sin [π/(2m)] sin [2π/(2m)] sin [3π/(2m)]···sin [(m−1)π/(2m)] = (m)/(2m−1)
  sin [π/(4m)] sin [3π/(4m)] sin [5π/(4m)]···sin [(2m−1)π/(4m)] = (2)/(2m)

† 英訳では問題143(下記リンク)。
https://archive.org/details/akivaisaak-m-yaglom.-challenging-mathematical-problems-with-elementary-solutions-vol-2/page/24/mode/1up
ロシア語原書では問題141。
https://ebooks.znu.edu.ua/index.php?action=url/view&url_id=6755

Yaglom 兄弟(双子)は、 de Moivre の定理の参照以外では複素数すら使わない、という、ストイックに初等的な解を提示した――バーゼル問題の「神が選んだ証明」(言葉のあや。 Proofs from THE BOOK のこと)と同様の、巧妙なアプローチ。{それについては後日に譲り}、ここでは短い別証明を記す。

 第1式は、命題6として証明済み。その式を
  ƒ(m) = (m)/(2m−1)
としよう。

π/(2m)π/2 = 90° の 1/m であるから、 ƒ(m) は、四半円(単位円の円周のうち、第1象限の部分)の m 等分点のうち、偏角 0 の点を「0 番」として、「1 番から m−1 番の点の、それぞれの縦座標の積」を表す。

一方、第2式の左辺は、四半円の 2m 等分点のうち、「奇数番目の点」だけを選んで、それぞれの縦座標を掛け算している―― 2m 等分点の一つ一つの縦座標を因子とする積と比べると、「偶数番目の点」の縦座標が、掛け算から除外される。「2m 等分点のうち、偶数番目の点」は「m 等分点」と同じなので、第2式の左辺の値は、
  ƒ(2m) の因子(sin たち)から ƒ(m) の因子(sin たち)を除外した残りの因子の積
に、等しい。すなわち、
  ƒ(2m) ÷ ƒ(m) = ((2m))/(22m−1) ÷ (m)/(2m−1)
   = ((2m))/(22m−1) × (2m−1)/(m) = (2)/(2m)
に等しい。第2式が証明された。∎

✿ ✿ ✿


2026-03-11 おばあちゃんとガウス和(その1)

#遊びの数論 #ガウス和n 偶数 | n 合成数 | 平方 | 第六証明

「おばあちゃんの公式」の sin 版によると、 n = 2H + 1 が 3 以上の奇数のとき、
  2 sin (kπ/n)  ⓵
の形の H 種類の因子(k = 1, 2, ···, H とする)の積は n に等しい。それを前提とするなら、
  2 sin (2kπ/n)  ⓶
の形の H 個の因子(k = 1, 2, ···, H)の積も n に等しいことが、容易に示される――これらの因子は、⓵の形式でいえば k = 2, 4, 6, ···, 2H に当たる(最初の H 個の正の偶数)。⓵で k = 1, 3, 5, ···, 2H−1 とした場合(最初の H 個の正の奇数)も、同じ結果になる。

さらに、⓶で k = 1, 3, 5, ···, 2H−1 とした場合の H 個の因子の積も n または −n に等しい。この事実は「n が奇数の場合のガウス和」についての、ガウス自身による古典的証明の一部の言い換えに過ぎないが、面白い面もある。古典的議論では、
  まずガウス和 W の平方 W2 の値(それは正または負の実数である)を求めて、
  次に W の符号を決定する、
という二段構えの攻略法を使う。例えば W2 = −7 とすれば W = ±i7 のどちらかなので、何らかの方法で ± を選択する。ところが、上記の sin の積の値を既知とするなら、そのような二段構えの計算をせずに W の値をダイレクトに求めることができる。本質的には「ガウス自身の証明の計算部分だけ、先に済ませておく」だけのことだが、要領が良い――ノルウェー出身の数論研究者 Nagell が [2] において、このアプローチを使った。すてきな「おばあちゃんの公式」と関連付ける点も、気が利いている。

この論法には拡張性もある。具体的には、⓶で k = 2, 6, 10, ···, 4H−2 とした場合の H 個の因子の積もまた ±n に等しく、その事実を「n が偶数の場合のガウス和」の決定に応用できる。

✿

上記⓵の正弦は「半円周」の n 等分点の縦座標であり、⓶の正弦は「円周」の n 等分点の縦座標。半円周(半円の弧)と円周は、ある意味では全然違うけど、正弦や余弦の値に関する限り、「全体としては同じようなもの」ともいえる。

正14角形の画像

例えば、円周14等分点――言い換えれば半円の弧の7等分点――を考え(偏角 0 の点を「0番」とする)、「1番」の点を
  ζ = cos (π/7) + i sin (π/7) = c + ip
とすると、「−1番」つまり「13番」の点は:
  ζ−1 = cos (π/7) − i sin (π/7) = c − ip
このとき(上から下を引くと):
  ζ − ζ−1 = 2i sin (π/7) = 2ip
同様に「2番・3番」の点の縦座標をそれぞれ q, r とすると:
  ζ2 − ζ−2 = 2i sin (2π/7) = 2iq
  ζ3 − ζ−3 = 2i sin (3π/7) = 2ir
従って:
  (ζ − ζ−1)(ζ2 − ζ−2)(ζ3 − ζ−3) = i3(2 sin (π/7))(2 sin (2π/7))(2 sin (3π/7)) = i3⋅8pqr  ⓷

積⓷から因子 i3 を除去した
  (2 sin (π/7))(2 sin (2π/7))(2 sin (3π/7)) = 8pqr
7 に等しいことをわれわれは知っている(命題3)。のみならず「点1・2・3」の代わりに「点2・4・6」を使った積
  (ζ2 − ζ−2)(ζ4 − ζ−4)(ζ6 − ζ−6) = i3(2 sin (2π/7))(2 sin (4π/7))(2 sin (6π/7))  ⓸
も⓷に等しく(「点2・4・6」は円周の7等分点である)、従ってそこから i3 を除去した
  (2 sin (2π/7))(2 sin (4π/7))(2 sin (6π/7))
7 に等しい。この具体例に関する限り、⓸が = (2iq)(2ir)(2ip) = i3⋅8pqr であること、従って⓷に等しいことは、作図から明白だが、同様のことが一般的に成り立つ:

命題7 n = 2H + 1 を 3 以上の奇数とする。次の3種類の集合(それぞれ H 個の正の実数を含む)は、どれも等しい。
  A1 = {sin (kπ/n) | k = 1, 2, 3, ···, H},
  A2 = {sin (kπ/n) | k = 2, 4, 6, ···, 2H},
  A3 = {sin (kπ/n) | k = 1, 3, 5, ···, 2H−1}
従って、例えば k = 1, 2, ···, H に対して:
   2 sin (kπ/n) =  2 sin (2kπ/n) = n

 sin 20° × sin 40° × sin 60° × sin 80° と sin 40° × sin 80° × sin 120° × sin 160° は等しい(どちらも = 3/16)。両辺の四つの因子は、順序の違いを除き同一だから。(ここでは関係ないが、和についても同様。)

証明 A1 の要素は、第1象限の角度に対する正弦であり、 A2, A3 の要素は、第1・第2象限の角度に対する正弦である――どの角度も、象限の境界に相当するもの(直角の倍数)ではなさて、等式
  sin (xπ/n) = sin (π − (xπ/n)) = sin ((n − x)π/n)
を利用して、 A1 の要素のうち「k が奇数 x の場合の正弦」を「k が偶数 n − x の場合の正弦」に置き換えても、その要素の値は変化しない。奇数 x は 1 以上かつ H 以下(H が偶数なら H − 1 以下)だから、置き換え後に生じる偶数は n − 1 = 2H 以下かつ n − H = H + 1 以上(H が偶数なら H + 2 以上)。

「置き換え後の偶数 k に対応する正弦」(第2象限の角度に当たる。 H が奇数なら k = H+1, H+3, ···, 2H で、 H が偶数なら k = H+2, H+4, ···, 2H)と、 A1 の要素のうち「k がもともと偶数の場合の正弦」(H が奇数なら k = 2, 4, ···, H−1 で、 H が偶数なら k = 2, 4, ···, H)を合わせると、結果は A2 の中身と全く同じ。

同様に、 A1 の要素のうち「k が偶数の場合の正弦」を置き換えれば、結果は A3 と同一。∎

† 半円の弧を2等分、4等分、6等分…すれば、真ん中の分割点は「中心角が 90°」だが、半円の弧を奇数 n 等分(3等分、5等分、7等分…)した場合には、このような「直角」は生じない。ここでは k = 0 と k = n = 2H+1 も除外されているので、考えている集合には、偏角 0° ないし 180° に相当する要素も含まれない。

✿

関連する命題。少々天下り的だが、後の議論で鍵となる。

命題8 命題7と同じ仮定の下で、次の集合(H 個の正または負の実数を含む)は、要素の符号の違いを無視するなら、集合 A1 (= A2 = A3) に等しい。
  A4 = {sin (kπ/n) | k = 2, 6, 10, ···, 4H−2}
(集合 A4 を定める k たちは、集合 A3 の各 k を 2 倍したもの。終端の k = 4H−2 は 2n−4 に等しい。なぜなら仮定により 2n = 4H+2。)
従って、 k = 2, 6, 10, ···, 4H−2 に対して:
   2 sin (kπ/n) = ±n
言い換えれば、 ℓ = 1, 2, 3, ···, H に対して:
   2 sin ((4ℓ − 2)π/n) = ±n
この ± は、奇数 n を 8 で割った余りが 1 か 3 ならプラス、 5 か 7 ならマイナスになる。

 2 sin (π/7) × 2 sin (3π/7) × 2 sin (5π/7) などは 7 に等しいが(命題7)、 2 sin (2π/7) × 2 sin (6π/7) × 2 sin (10π/7) は −7 に等しい(符号だけ逆)。「この形の積は常に負になる」とは限らない。例えば:
  2 sin (2π/11) × 2 sin (6π/11) × 2 sin (10π/11) × 2 sin (14π/11) × 2 sin (18π/11) = +11

証明 等式 sin (xπ/n) = −sin (2π − (xπ/n)) = −sin ((2n − x)π/n) を利用して、
  A2 の k たち つまり 2, 4, 6, 8, ···, 2H (☆)
に含まれる「4 の倍数 x」をそれぞれ「4 の倍数ではない偶数 2n − x」に置き換えると、その k に対応する要素の値は −1 倍されて正から負に変わるが、絶対値は変化しない。(☆)のうちの 4 の倍数 x は、 4 以上かつ 2H 以下(H が奇数なら 2H − 2 以下)だから、置き換え後に生じる「4 の倍数ではない偶数」は 2n − 4 以下かつ 2n − 2H = 2H + 2 以上(H が奇数なら 2H + 4 以上)。

置き換え後の「4 の倍数ではない偶数 k たち」(第3・第4象限の角度に当たる。 H が偶数なら k = 2H+2, 2H+6, ···, 2n−4 で、 H が奇数なら k = 2H+4, 2H+10, ···, 2n−4)と、 A2 の k たちのうち「もともと 4 の倍数ではない偶数」(H が偶数なら k = 2, 6, ···, 2H−2 で、 H が奇数なら k = 2, 6, ···, 2H)を合わせると、結果は A4 の k たちと一致。

ゆえに集合 A4 の H 個の要素たちの積と、集合 A2 の H 個の要素たちの積は、絶対値が一致し、(☆)の中に 4 の倍数が偶数個〚奇数個〛あれば、符号も一致〚符号だけが逆〛。なぜなら、そのとき A4 は、負の要素を偶数個〚奇数個〛含み、それらの積は正〚負〛になる(A2 の要素は全部正なので、それらの積は正)。

(☆)の偶数たちは 1, 2, 3, 4, ···, H をそれぞれ 2 倍したものだから、全部で H 個。もし H が偶数 2μ なら(つまり n = 2H+1 が 4μ+1 型なら)、(☆)は「4 の非倍数」から始まって「4 の倍数」で終わるから、非倍数と倍数が同じ個数あり、4 の倍数の個数は H/2 個。この場合、 H/2 = μ が偶数〚奇数〛なら(つまり n = 4μ+1 が 4 の偶数倍〚奇数倍〛プラス 1 なら)、 A4 の要素たちの積は正〚負〛。

一方、もし H が奇数 2μ+1 なら(つまり n = 2H+1 が 4μ+3 型なら)、(☆)は非倍数から始まって非倍数で終わるから、そこに含まれる 4 の倍数の個数は、非倍数の個数より 1 少ない。すなわち 4 の倍数の個数は H/2 の端数を切り捨てたものに――つまり H/2 − 1/2 = (H−1)/2 に――等しい。この場合、 (H−1)/2 = μ が偶数〚奇数〛なら(つまり n = 4μ+3 が 4 の偶数倍〚奇数倍〛プラス 3 なら)、 A4 の要素たちの積は正〚負〛。

要約すると、奇数 n が「4 の偶数倍プラス 1 or 3」なら(言い換えれば「8 の倍数プラス 1 or 3」なら)命題の ± はプラスになり、「4 の奇数倍プラス 1 or 3」なら(言い換えれば「8 の倍数プラス 5 or 7」なら)命題の ± はマイナスになる。∎

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命題8の内容(証明済み)を Nagell は、次の簡潔な形式で表現した。

命題9([2], §51 (5), p. 174) n が 3 以上の奇数なら:
  {k=1 to (n−1)/2} 2 sin [(4k − 2)π/n] = (−1)n/4n

われわれは n = 2H + 1 と置いている。よって (n−1)/2 と H は、同じ意味。実数 y が与えられたとき、 y は y を超えない最大の整数を表す(y が正なら、端数を切り捨てた整数部分)。命題9に含まれる指数 n/4 について言うと(その整数値を d としよう)、もし奇数 n が 4 の偶数倍(つまり 8 の倍数)に 1 か 3 を足したもの(例えば n = 9, 11)なら、 d は偶数だから (−1)d = +1。もし n が 4 の奇数倍に 1 か 3 を足したもの(つまり 8 の倍数に 5 か 7 を足したもの。例えば n = 13, 15)なら、 d は奇数だから (−1)d = −1。結局、命題9は、命題8と同じ意味。

命題9の積の「絶対値」も「符号」も、命題8によって既に確定してるけど、参考までに、仮に積の「絶対値」が n であることだけを既として、 Nagell 自身による「符号」の決定法を紹介する。 (−1)n/4 というあまり見慣れぬ表現が、どこからどうやって出てきたのか…

† 積の「絶対値」についての Nagell の説明は不十分。{補完すると長くなる}ので、ここではそれを引用しない。

(4k − 2)π/n を θ とすると、命題9の式の k に対応する θ は 0 より大きく 2π より小さその範囲では θ > π ⇔ sin θ < 0。よって、問題の積の符号は、
  θ = (4k − 2)π/n > π  ⓹
を満たすような k が、 0 から (n−1)/2 の範囲に幾つあるかによって決まる(偶数個なら正、奇数個なら負)。

‡ θ の最大値は k = (n−1)/2 のとき。そのとき 4k − 2 = 2n − 4 なので θ = (2n − 4)π/n < (2n)π/n < 2π

不等式⓹は、
  (4k − 2)/n > 1 つまり 4k − 2 > n つまり k > (n + 2)/4
と同値なので、問題は、閉区間 [n/4 + 1/2, (n − 1)/2] に整数が何個含まれるか?に帰する。 n は奇数なので、区間の始点自体は整数ではなく、カウントに含まれない。よって、求める個数は、
  (n − 1)/2 − n/4 + 1/2
に等しい【※補足2】。上記の値は、もし n が 4μ + 1 の形なら、
  2μ − μ + 1/4 + 1/2 = 2μ − μ = μ
で、もし n が 4μ + 3 の形なら、
  (2μ + 1) − μ + 3/4 + 1/2 = (2μ + 1) − (μ + 1) = μ
なので、 n = 4μ + 1 でも n = 4μ + 3 でも、求める個数は μ に等しい。つまり、奇数 n を 4 で割った整数商(端数の ¼ ないし ¾ を切り捨て)に、等しい。結局、負の sin はちょうど n/4 個あり、この個数が偶数〚奇数〛なら積の符号はプラス〚マイナス〛。従って、この符号を (−1)n/4 と表現できる。∎

※補足2】 「終点の整数部分」から「始点の整数部分」(どちらも正とする)を引き算することで、整数の個数を求めることができる。計算自体は単純だが、次の点に注意――「始点」自身がカウントに含まれるときには 1 を足す必要があり(例: 2.0 ~ 5.0 の範囲に、整数は 5 − 2 + 1 = 4 個ある)、「始点」自身がカウントに含まれないときには 1 を足してはいけない(例: 2.1 ~ 5.1 の範囲に、整数は 5 − 2 = 3 個ある)。

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「おばあちゃんの公式」から「n が奇数の場合のガウス和」への連絡通路が、完成した。(その2へ続く)

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遊びの数論57』へ続く。


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