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きちんとまとまった記事ではなく、雑多なメモ。誤字脱字・間違いがあるかもしれません。
2025-05-31 四次元サイコロ「目」は幾つまで?
#遊びの数論 #4次元幾何
3次元の普通の(立方体の)サイコロは、「目」が 1 から 6 まである。4次元の超立方体サイコロの「目」は 1 から幾つまであるのだろうか?
最初は強引に直接数えていたが、ちょっとしたアイデアで4次元・5次元をすっきり見通せる!
3次元空間のテーブルの上に「緑のサイコロ」(緑の立方体)が置いてあるとしよう。緑の立方体の底面のうち、一つの頂点を R、 R とつながっている底面の辺を RX と RY とする。 R からはもう一つ、真上に辺 RZ が延びている(Z はサイコロの上面の頂点の一つ)。 RX, RY, RZ の三つの辺は、互いに直交する。 X, Y, Z から見て、一番遠い(緑の立方体の)頂点をそれぞれ A, B, C とし、 R から見て一番遠い頂点を S とする。
これで3次元空間のサイコロの八つの頂点が記述された。このサイコロは、実は「4次元サイコロ」だとしよう。3次元空間内では普通の立方体に見えてるけど、それは「4次元サイコロ」の「底面」というか「底立方体」(2次元世界の人が、3次元の立方体の底面だけを見て「正方形」と認識しているようなもの)。緑のサイコロの八つの各頂点からは、4次元方向にも辺が延びている――としよう。
緑の立方体を、 RX, RY, RZ のどれとも直交する4次元方向に「平行移動」(?)した位置にある立方体を「青いサイコロ」と呼ぶことにする。六角柱に例えれば、テーブル上の緑のサイコロは「底面の六角形」、4次元上方の青いサイコロは「上面の六角形」に当たる(「六角形」はあくまで例えで、本当は「底面」や「上面」は3次元的な「六面体」=立方体だ)。「六角柱の六つの側面」に例えられる場所には、それぞれ(合計六つの)「側・立方体」(?)がある。よって、4次元サイコロは、「底面」に当たる緑の立方体、「上面」に当たる青い立方体、そして「側面」に当たる六つの立方体の、合計八つの立方体から成る。
かくして、4次元サイコロは、ちょうど八つの立方体で包まれている(3次元のサイコロが六つの正方形で包まれているように)。一つ一つの立方体にはもちろん六つの(2次元の)面があるのだから、数え方によっては、4次元サイコロは 8 × 6 = 48 の面を持つ。しかし、4次元サイコロの一つ一つの(2次元の)面は、どれも二つの立方体によって共有されている。例えば、緑のサイコロの面 RXBZ は、その4次元上方にある青いサイコロの面 rxbz との間にできる立方体の面でもある。このため 8 × 6 = 48 の面、という単純計算では、「二つの立方体に共有される各面」がそれぞれ 2 回ずつカウントされてる。サイコロの「目」を実際に書き込める「異なる面」の数は、その半分の 24 だ。このことは、図を描いてみて、直接カウントしても、容易に確認できるだろう。
4次元の超立方体サイコロには24個の面があり、従って 1 から 24 までの「目」がある!
4次元サイコロの24個の面の一つ一つは正方形で、各正方形にはもちろん四つずつ辺があるので、単純計算では、4次元サイコロは 24 × 4 = 96 の辺を持つ。しかしどの辺も、それぞれ異なる三つの面によって共有されている。実際、3次元空間内で一つの立方体を考えれば、どの面(アとする)にもその面と直交する面(イとする)があるのだから、それら二つの面が接する辺は、面アと面イによって共有されてる。
のみならず、4次元空間内では、どの辺も「対応する4次元方向の辺」と結ばれ、正方形の面(ウとする)を作っている(辺 RX に対する正方形 RXxr のように)。各辺はア・イ・ウ三つの面によって共有されている!
よって(共有による重複カウントを除外すると)4次元サイコロの異なる辺の数は、単純計算 24 × 4 の 3 分の 1 つまり 24 × 4 ÷ 3 = 32 本。そうしたければ、この辺の数を直接数えることも易しい(一つの立方体は12本の辺を持つのだから、緑の立方体・青い立方体の辺の合計は 24。それに加えて、それら二つの立方体の対応する 8 ペアの頂点同士を結ぶ4次元方向の辺が 8 本ある)。
では4次元サイコロには、頂点が幾つあるか? 辺は合計 32、辺の両端は頂点なので、単純計算では 32 × 2 だが、どの頂点もそれぞれ四つの辺によって共有されている――どの頂点からも、3次元的な縦・横・高さの辺が延びていて、さらに4次元方向にも辺が延びているから。ゆえに4次元サイコロの頂点は 32 × 2 ÷ 4 = 16 個。これを直接数えるのは大変易しい。緑のサイコロの頂点 8 と、青いサイコロの頂点 8 の和に過ぎない!
5次元バージョン。4次元空間内に、4次元サイコロ「甲」が置いてあるとする。それを新しい次元(5次元方向)に「平行移動」したもの――「甲」と同じ形の4次元サイコロ――を「乙」としよう。すると、5次元サイコロの「底面」は甲で、「上面」は乙。「側面」は、甲と乙の対応する立方体(超立方体である甲・乙は、それぞれ八つの立方体に包まれているのであった)を結んでできる八つの超立方体であるから、結局、超々立方体である5次元サイコロは、10個の「4次元立方体」(超立方体)に包まれている。
各4次元立方体は、それぞれ八つの3次元立方体を持つので、単純計算では、5次元サイコロは 10 × 8 = 80 個の立方体に包まれている。しかし、これらの立方体の一つ一つは、どれも二つの4次元立方体によって共有されている。例えば、「甲の青い立方体」は、4次元立方体・甲に属するだけなく、「甲の青い立方体と乙の青い立方体を結ぶ4次元立方体」にも、属している。よって、重複カウントを除外すると、5次元サイコロが持つ立方体の数は 10 × 8 ÷ 2 = 40 となる。
立方体が 40 あるなら、単純計算で面の数は 40 × 6 だが、これまでと同様に考えて、各面は三つの立方体によって共有されているので、5次元サイコロが持つ面の数 40 × 6 ÷ 3 = 80 となる!
5次元の超々立方体サイコロには80個の面があり、従って 1 から 80 までの「目」があるっ!
ついでに辺なども数えておこう。 80 個の(正方形の)面があれば、単純計算で辺の数は 80 × 4 だが、各辺は四つの正方形によって共有されているので、実際の辺の数は 80 × 4 ÷ 4 = 80 本。そして 80 の辺があれば、単純計算で頂点の数は 80 × 2 だが、各頂点は五つの辺によって共有されているので、実際の頂点の数は 80 × 2 ÷ 5 = 32 となる(5次元立方体では、どの頂点からも互いに直交する 5 本の辺が延びる)。頂点の数については、直接カウントすることも易しい。乙にも甲にもそれぞれ 16 個の頂点があり、それ以外に頂点はない――5次元サイコロの「側面」たち(八つの4次元立方体である)は、単に乙と甲の対応する頂点を(5次元方向の上と下で)結んでいるだけで、「側面」には新しい頂点は生じないから。
直接、頂点・辺・面などを数えると面倒。でも一つ上の次元の図形(正方形から見た立方体など)を基準に、「立方体には六つの面がある」「正方形には四つの辺がある」といった当たり前のことを考えると、おおむね単純な掛け算の問題になる(一つ上の次元の図形が何個あるかという情報があれば)。その際、頂点・辺・面などが、それぞれ一つ上の次元の「何個の」図形によって共有されてるかを考慮して、その数で割り算することで、正味の数を決定できる!
こんなことは、高次元幾何学の基礎中の基礎なんだろうけど(教科書のようなものを読めば、もっとちゃんと書いてあるに違いない)、「4次元サイコロって何面あるの?」みたいなたわいもない疑問からスタートして、それなりにエレガントな観点が得られたのは、ほんのりうれしい。
注意。筆者は高次元が苦手なので、このメモの記述には間違いがあるかもしれない!
「4次元立方体をクリアにイメージできるようになりたい」というモチベーションは、数年前(2023年)、十六元数について考えてたとき高まった(詳細は省くが、十六元数の計算規則を4次元立方体を使って可視化する方法がある)。このメモの添付画像も、当時、作ったもの。当時は辺の数などを(強引に数えられても)すっきり見通すことができず、まして5次元バージョンなど、思いも寄らなかった。しっかりした参考文献を使ってきちんと学習すれば、大したことじゃないんだろうけど、あくまで遊びなんで…。最初から「攻略本」を見たら、つまんないし。
2025-05-26 バーゼル問題のさらなる簡単化
バーゼル問題(バーゼルはスイスの地名)というのは、
1 + 1/4 + 1/9 + 1/16 + 1/25 + ···
という無限の足し算の結果が幾つになるか?というもの(分母は 2 × 2, 3 × 3, 4 × 4, ··· と増えていく)。答えが「円周率 × 円周率 ÷ 6」という極めて変てこな値になること(なぜこんなところに円周率が?!)を突き止めたのは、オイラーだった。
この件についてはいろんな証明法があるけど、中でもエレガントで人気が高いのは、ヤグロム(Yaglom & Yaglom)が1950年代に発表した方法。
ヤグロムたちの証明は、確かに初等的で美しい。しかし「ド・モアブルの定理」を使うところが
「ド・モアブルの定理」をバイパスする抜け道について記す。
m を 1 以上の整数とする。 2m+1 は 3以上の奇数だ。ヤグロム流の証明の要になるのは、 180° を 2m+1 等分した角度を θ として、
cot2 θ + cot2 2θ + cot2 3θ + ··· + cot2 mθ
という和がどんな値になるか?という点にある。この部分において、ヤグロムも、それに続く人々も「ド・モアブルの定理」を使っているのだが、次のシンプルな観察によって、この部分を(ある意味)ショートカットできる。
三角関数の基本として、 sin (α+β) と cos (α+β) の計算式(加法定理)というものがあり、特に α = β の場合、「ある角度の2倍の角度の sin や cos」を「もともとの角度の sin や cos」を使って表現できる(倍角の公式)。原理的には、加法定理を繰り返し使うことで(例えば、角度 α と角度 β = 2α の和を考えることで)、3倍角以降も同様に処理可能。
tan というのは sin ÷ cos なので、上記の事柄の簡単な応用として、 tan 2θ, tan 3θ, tan 4θ などを、いずれも t = tan θ を使って表すことができ、結果は「分数」になる。その「分数」の分子も分母も t についての多項式だ。例えば:
tan 7θ = (7t − 35t3 + 21t5 − t7)/(1 − 21t2 + 35t4 − 7t6)
= t(t6 − 21t4 + 35t2 − 7)/(7t6 − 35t4 + 21t2 − 1)
↑一見複雑そうだが、実は二項係数に交互に + と − を付けて、順に分母と分子に並べてるだけ。
この例で、もし 7θ が 90° の奇数倍なら左辺の tan 7θ は定義されないので(±∞ に発散)、そのとき、右辺の分数の値は定義されない。言い換えれば、分母 = 0 になる(参考リンク)。 7θ が 90° の奇数倍になるのは、 θ が 90° の 1/7 の場合、あるいは 90° の 3/7 の場合など。負の奇数倍でもいいので、
θ が 90° の ±1/7 倍か ±3/7 倍か ±5/7 倍ならば 7t6 − 35t4 + 21t2 − 1 = 0
が成り立つ。ただし t というのは tan θ のこと。今 cot x = tan (90° − x) = tan (−90° − x) という関係を使うと、
θ が 90° の ±1/7 倍か ±3/7 倍か ±5/7 倍のときの tan θ
というのは、
θ が 90° の ±6/7 倍か ±4/7 倍か ±2/7 倍のときの cot θ
に他ならない。言い換えれば、
θ が 180° の ±3/7 倍か ±2/7 倍か ±1/7 倍のときの cot θ
というわけだ。
cot (−x) = −cot x という関係に留意すると、
7t6 − 35t4 + 21t2 − 1 = 0
を満たす6種類の実数 t は、
t = ±cot θ, ±2 cot θ, ±3 cot θ
に等しい。ただし、ここでは θ = 180°/7 とする。従って、上の6次方程式を u = t2 についての3次方程式、
7u3 − 35u2 + 21u − 1 = 0
と解釈するなら、それを満たす3種類の実数 u は、同じ θ に対応する次の値に他ならない:
u = cot2 θ, cot2 2θ, cot2 3θ
よってヤグロム流の証明に必要な
cot2 θ + cot2 2θ + cot2 3θ
という和は、解と係数の関係から −(−35)/7 = 5 となる!
同様にして、より一般的に n = 2m + 1 が 3 以上の任意の奇数のとき、証明に必要な
cot2 θ + cot2 2θ + ··· + cot2 mθ ただし θ = 180°/n
の表現は、 tan の n 倍角の公式の分母の多項式から得られる。実のところ、ヤグロムたちが「ド・モアブルの定理」を経由して導いている多項式は、 tan の n 倍角の公式の分母と同一。
同一の多項式を導くのなら、「ド・モアブルの定理」を使った方が簡潔――というのは確かだろう。「ド・モアブルの定理」(正しくは「オイラーの定理」と呼ぶべきかもしれない)それ自体の重要性も、論をまたない。でもこの定理は本質的には複素解析に属するもの。「なるべく簡単に証明したい」という場合、ここで天下り的に複素数を使うのは必ずしも好ましくない。都合がいいことに、 tan の多倍角の公式なら、二項係数だけから直接構成できる。「ド・モアブルの定理」を使うよりは遠回りになる代わり、複素数を使わず、実関数の tan だけで証明が完結するので、一定のメリットがある。
ヤグロムの証明で「ド・モアブルの定理」を使うことに対する不満(大きな問題ではないが)については、別のメモでもコメントした。そのときには、ぼんやりしていて、「ド・モアブルの定理」をバイパスできることに気付けなかった。気付いてみると、当たり前のこと。 Ramanujan のパズルに関連して、
https://cs.uwaterloo.ca/journals/JIS/VOL10/Slota/witula13.html
を眺めていたら A. M. Yaglom and I. M. Yaglom の名前が出てきて、それを見て電球がともった。
2025-05-22 csc2 のある種の和について バーゼル問題関連
180° を 2a+1 等分した角度を β とする(a: 正の整数)。 β の奇数倍の角度(0° ~ 180° の範囲)について、それぞれの csc2 の和は 4a に等しい。例えば a = 2 で β = 180°/23 = 22.5° のとき:
csc2 β + csc2 3β + csc2 5β + csc2 7β = 16
同じことだが、0° ~ 90° の範囲の同様の和は、上記の半分の値に等しい。例えば:
csc2 β + csc2 3β = 8
バーゼル問題の証明(Hofbauer 版)――ポピュラーな Yaglom 版の証明とは別のもの――では、この一般的性質を使った。参考までに a = 2, 3 の場合の、具体的な数値計算例を記す。
sin 2θ = 2 sin θ cos θ の逆数から、
csc 2θ = csc θ sec θ/2
=
(1/2)[csc θ + csc (θ + π/2)]
が成り立つ(「csc の倍角の公式」も参照)。一方:
csc2 2θ =
1/(sin2 2θ)
=
1/(4 sin2 θ cos2 θ)
=
(1/4)((cos2 θ + sin2 θ)/(sin2 θ cos2 θ))
=
(1/4)(1/(sin2 θ) + 1/(cos2 θ))
=
(1/4)[csc2 θ + csc2 (θ + π/2)] ‥‥①
①で θ = π/4 とすると:
csc2 (π/2) = (1/4)(csc2 (π/4) + csc2 (3π/4))
∴ (1/4)(csc2 (π/4) + csc2 (3π/4)) = 1 ‥‥②
〔検算〕 csc (π/2) = 1, csc (π/4) = csc (3π/4) = √2
①で θ = π/8 あるいは θ = 3π/8 とすると:
csc2 (π/4) = (1/4)(csc2 (π/8) + csc2 (5π/8))
csc2 (3π/4) = (1/4)(csc2 (3π/8) + csc2 (7π/8))
②に代入して:
(1/42)(csc2 (π/8) + csc2 (3π/8) + csc2 (5π/8) + csc2 (7π/8)) = 1
∴ (2/42)(csc2 (π/8) + csc2 (3π/8)) = 1
〔検算〕 恒等式† sin2 θ = (1 − cos 2θ)/2 において θ = π/8 とすると:
sin2 (π/8) = (1 − (√2)/2)/2 = (2 − √2)/4
その逆数から csc2 (π/8) = 4/(2 − √2)。同じ恒等式において θ = 3π/8 とすると:
sin2 (3π/8) = (1 − (−(√2)/2))/2 = (2 + √2)/4
その逆数から csc2 (3π/8) = 4/(2 + √2)。従って:
csc2 (π/8) + csc2 (3π/8)
=
4/(2 − √)
+ 4/(2 + √)
=
[4(2 + √) + 4(2 − √)]/[(2 + √)(2 − √)]
= 16/(4 − 2) = 8
† cos 2θ = cos2 θ − sin2 θ = (1 − sin2 θ) − sin2 θ = 1 − 2 sin2 θ から、
2 sin2 θ = 1 − cos 2θ
を得て、両辺を 2 で割ると sin2 θ = (1 − cos 2θ)/2。
同様に進めて、次の等式を得る。
(2/43)(csc2 (π/16) + csc2 (3π/16) + csc2 (5π/16) + csc2 (7π/16)) = 1
これを確かめるには、上記 ( ) 内の和が 32 に等しいことを見ればいい。上記 sin2 (π/8) = (2 − √2)/4 を再利用して:
cos2 (π/8) = 1 − sin2 (π/8) = (2 + √2)/4
∴ 0 < cos (π/8) = √(2 + √)/2
∴ sin2 (π/16) = (1 − √(2 + √)/2)/2
= (2 − √(2 + √))/4
同様に cos (7π/8) = −√(2 + √)/2 なので:
sin2 (7π/16)
= (2 + √(2 + √))/4
従って:
csc2 (π/16) + csc2 (7π/16)
=
4/(2 + √(2 + √))
+ 4/(2 − √(2 + √))
= [4(2 + √(2 + √)) + 4(2 − √(2 + √))]/[4 − (2 + √)]
= 16/(2 − √)
= 8(2 + √2) ‥‥③
一方、 sin2 (3π/8) = (2 + √2)/4 から:
cos (3π/8) = √(2 − √)/2
∴ sin2 (3π/16)
= (2 − √(2 − √))/4
同様に sin2 (5π/16)
= (2 + √(2 − √))/4
従って:
csc2 (3π/16) + csc2 (5π/16)
=
4/(2 + √(2 − √))
+ 4/(2 − √(2 − √))
= [4(2 + √(2 − √)) + 4(2 − √(2 − √))]/[4 − (2 − √)]
= 16/(2 + √)
= 8(2 − √2) ‥‥④
③④から、確かに csc2 (π/16) + csc2 (3π/16) + csc2 (5π/16) + csc2 (7π/16) = 32 となる。
2025-05-24 sin (π/7) の根号表現 試算サンバ破産
180° の 7 分の 1(約 26°)を φ とする。 sin φ つまり sin (π/7) = 0.4338837… の根号表現を求めるエレガントな方法。
sin 7θ の値は、 7θ が 180° の倍数のとき、ゼロになる。言い換えると θ が φ = (180/7)° の倍数のとき、ゼロになる。この条件を満たす角度 θ は、円周14等分点に当たる。もし ±180° や ±360° などの違いを区別するなら、 sin 7θ = 0 を満たす θ は無限種類、存在する。しかし sin 7θ = 0 を満たす θ を「対応する sin θ の値が同じか違うか」で区別・分類するなら、ちょうど7種類の sin θ の値が、条件を満たす:
sin 7θ = 0 ⇔ sin θ = 0 または sin θ = ±sin φ
または sin θ = ±sin 2φ または sin θ = ±sin 3φ
正弦の7倍角の公式 sin 7θ = −64 sin7 θ + 112 sin5 θ − 56 sin3 θ + 7 sin θ が与えられたとする。上記のことから、この公式の値がゼロになるときの7種類の sin θ の値は、円周14等分点――自明な等分点 (1, 0) を含む――の7種類の縦座標に当たる(14等分点なのに縦座標が7種類しかないのは、例えば θ = φ の点と θ = 180° − φ の点は、縦座標が等しいから)。
x = sin θ と置くと、与式の右辺は、
−x(64x6 − 112x4 + 56x2 − 7)
に等しい。丸かっこ内について u = x2 と置けば、直ちに u についての3次方程式の問題になる。しかしその方法だと(機械的に解は得られるものの)三重根号が生じ、あまりきれいな表現にならない。代わりに丸かっこ内の
64x6 − 112x4 + 56x2 − 7
を3次式の積に分解したい。とりあえず、最高次の係数を 1 にするため x = y/2 と置くと:
64(y/2)6 − 112(y/2)4 + 56(y/2)2 − 7
= y6 − 7y4 + 14y2 − 7
= (y3)2 − (7y4 − 14y2 + 7) ‥‥❶
都合がいいことに、最後の式の二つ目の丸かっこ内は1次式の平方だっ!
7y2 − 14y + 7 = 7(y4 − 2y2 + 1) = (√7)2(y2 − 1)2
= ((√7)y2 − √7)2
従って:
❶ = (y3)2 − ((√7)y2 − √7)2
= (y3 + (√7)y2 − √7)(y3 − (√7)y2 + √7)
これで二つの3次式の根の問題となった。同じ二つの因子は x28 − 1 の分解からも得られるが、この因子だけが目的なら、上記の手順(Bromwich† による)は便利。
† https://archive.org/details/introductiontoth00bromuoft/page/188/mode/1up
https://archive.org/details/dli.ernet.5661/page/223/mode/1up
二つの因子の根――要するに、二つの3次方程式、
y3 + (√7)y2 − √7 = 0 ‥‥❷
y3 − (√7)y2 + √7 = 0 ‥‥❸
の解――を代数的に求めたい。事前に解の三角関数表現をはっきりさせておこう。 180° の 7 分の 1(約 25.7°)を φ とすると、❶の根が
±2 sin φ, ±2 sin 2φ, ±2 sin 3φ
であることは明らか。これら六つの実数が三つずつに分かれて、❷または❸の解となる。解と係数についての考察から、❷と❸のどちらの解も、絶対値は、
2 sin φ, 2 sin 2φ, 2 sin 3φ
の三つ。3解の積(定数項の符号を変えたもの)から、❷には負の解がちょうど二つ、❸には負の解がちょうど一つある。では❸に一つだけ含まれる負の解は、
−2 sin φ, −2 sin 2φ, −2 sin 3φ
のうちのどれか?
解と係数の関係から、❸の三つの解の和は √7 = 2.64… であり 2 より大きい。ところが、三角関数の基本的性質から
0 < 2 sin φ < 2 sin 2φ < 2 sin 3φ < 2
なので、もしも3解が y1 = 2 sin φ, y2 = 2 sin 2φ, y3 = −2 sin 3φ だったなら y2 + y3 は負になってしまい、3解の和は 2 より小さい。同様に、もしも3解が y1 = 2 sin φ, y2 = −2 sin 2φ, y3 = 2 sin 3φ だったなら y1 + y2 は負になってしまい、3解の和は 2 より小さい。いずれも条件に反するので、3解は
y1 = −2 sin φ, y2 = 2 sin 2φ, y3 = 2 sin 3φ
でなければならない。次の結論に至る。
❸の解は y = −2 sin φ, +2 sin 2φ, +2 sin 3φ
❷の解は y = +2 sin φ, −2 sin 2φ, −2 sin 3φ
ここで sin 3φ = sin 4φ と −sin φ = sin 8φ に留意すると、 Morrie の法則風の表現を得る。きれい!
2 sin 2π/7
+ 2 sin 4π/7
+ 2 sin 8π/7
= √7
つまり sin 2π/7
+ sin 4π/7
+ sin 8π/7
= √7/2
2 sin π/7
× 2 sin 2π/7
× 2 sin 3π/7
= √7
つまり sin π/7 sin 2π/7 sin 3π/7
= √7/8
〔参考〕 実際 sin (π/7) = 0.4338…(試算サンバ)、sin (2π/7) = 0.7818…(菜っ葉
−sin (π/7) + sin (2π/7) + sin (3π/7) ≈ (−43 + 78 + 97)/100 = 132/100
の 2 倍は約 2.64。 √7 = 2.64575…(煮蒸しコウナゴ)に近い値だ。より高精度の計算を行えば、両者が有効桁数の範囲で一致することを確認できる。
sin (π/7) × sin (2π/7) × sin (3π/7) = 0.3307… = (√7)/8
についても、同様に直接確かめることができる。
❷と❸の解は、絶対値が同じで符号が反対なので、実用上、一方を解けば十分。以下❷を解く。❷の最大の(唯一の正の)解は 2 sin (π/7) であり、それが主値となる。他方の方程式❸の解法は、別のメモの「4.」以下に記されているが、同じやり方を繰り返してもつまらないので、少し違うアプローチを試みる。
❷の係数の無理数を除去するため、いったん y = (√7)z と置くと:
7(√7)z3 + 7(√7)z2 − √7 = 0
両辺を 7√7 で割って:
z3 + z2 − 1/7 = 0
便宜上 z = w/21 と置くと(付録1参照):
(w/21)3 + (w/21)2 − 1/7 = 0
両辺を 213 = 33⋅73 倍して:
w3 + 21w2 − 33⋅72 = 0
2次の項を除去するため w = s − 7 と置くと:
(s − 7)3 + 21(s − 7)2 − 33⋅72 = 0
展開して整理すると(付録2参照):
s3 − 3⋅72s − 72⋅13 = 0 ‥‥❹
対応する2次方程式
t2 − 72⋅13t + 76 = 0 ‥‥❺
の判別式は、
(72⋅13)2 − 4⋅76 = 74(132 − 4⋅72) = 74(169 − 196) = 74(−27)
なので、2次方程式❺の解は:
t = [72⋅13 ± 72⋅3√(−3)]/2
= 72⋅[13 ± 3√(−3)]/2
従って、3次方程式❹の解(の主値)は:
s = (72⋅(13 + 3√(−3))/2)1/3 + (72⋅(13 − 3√(−3))/2)1/3
= 72/3 [((13 + 3√(−3))/2)1/3 + ((13 − 3√(−3))/2)1/3]
変数を元に戻すと:
w = −7 + s =
−7 + 72/3 [3√((13 + 3√)/2) + 3√((13 − 3√)/2)]
z = w/21
=
{−1 + 7−1/3 [3√((13 + 3√)/2) + 3√((13 − 3√)/2)]}/3
y = 71/2 z
=
{−71/2 + 71/6 [3√((13 + 3√)/2) + 3√((13 − 3√)/2)]}/3
結局、
x = y/2
=
{−71/2 + 71/6 [3√((13 + 3√)/2) + 3√((13 − 3√)/2)]}/6
となって、最終結果は次の通り。
sin (π/7)
= −√7/6
+
6√7/6 × [3√((13 + 3√)/2) + 3√((13 − 3√)/2)]
= −√7/6
+
6√7/12 × (3√(52 + 12√) + 3√(52 − 12√))
この表現自体は既に別経路で(円周28等分の副産物として)求めてあるが、今回は、正弦の7倍角の公式から直接同じ結果を得た。余弦 cos (π/7) の根号表現は比較的よく知られている。けれど、対応する正弦 sin (π/7) の表現は、知名度が低いと思われる。
❷の係数から無理数 √7 を除去しなくても、 ε = √7 などと置いて、そのまま処理することもできる。実質的な手間はほぼ同じかもしれないが、係数に無理数がない方が、いくらか見通しがいいともいえる。
付録1 z3 + z2 − 1/7 = 0 を直接解かずに z = w/21 と置換したのは、係数の分数を避けるため。分数 −1/7 を解消するだけなら z = v/7 と置いて、両辺を 73 倍してもいい。その結果は、
v3 + 7v2 − 49 = 0
であり、本文の置換結果より軽快。ただし2次の項を除去する計算が少し面倒になり、 s3 − (49/3)s − 637/27 = 0 の形になる。このような分数を嫌って、本文では置換後の2次の係数が 3 の倍数になるようにした。もし分数を気にしないなら、便宜上の(間接的な)置換を挟まず、直接 s = z − 1/3 と置けば、 s3 − (1/3)s − 13/189 = 0 の形になる。
付録2 (s − 7)3 + 21(s − 7)2 − 33⋅72 を展開すると、
= (s3 − 3⋅7s2 + 3⋅72s − 73)
+ 3⋅7(s2 − 2⋅7s + 72) − 33⋅72
となって、2次の項は消滅:
= s3 + (3⋅72s − 3⋅7⋅2⋅7s)
− 73 + 3⋅73 − 33⋅72
1次の係数は 3⋅72(1 − 2) = −3⋅72 に等しく、定数項は
72(−7 + 3⋅7 − 33)
= 72(−7 + 21 − 27) = 72(−13)
に等しい。
2025-05-25 sin (π/7) の根号表現(続き)
sin (π/7) などの根号表現を求める別の方法。円周14等分点の tan を経由するもの。 sin だけを考えるとすれば、前回の方法と比べ見通しが悪い。しかし tan (π/7) と sin (2π/7) のような二つの値の関係を利用するところが風変わりで、独特の面白さがある。
1. tan (kπ/7) を根(k = ±1, ±2, ±3)とする6次式が t6 − 21t4 + 35t2 − 7 であること。それが二つの3次の因子に分解されること(変数置換を介せば、有理係数の範囲で分解可能)。
180°/7 = π/7 を φ とする。 tan θ を t と略すと、
tan 7θ = (7t − 35t3 + 21t5 − t7)/(1 − 21t2 + 35t4 − 7t6)
= t(t6 − 21t4 + 35t2 − 7)/(7t6 − 35t4 + 21t2 − 1)
の分子の根は θ = 0, ±φ, ±2φ, ±3φ に対する tan に等しい(「円周7等分点・14等分点のタンジェント」)。分子の因子の6次式が、
t6 − 21t4 + 35t2 − 7 = (t3 + At2 + Bt + C)(t3 − At2 + Bt − C) 《あ》
のように二つの3次式の積に分解されること、それぞれの3次式の根の絶対値が tan φ, tan 2φ, tan 3φ であることが、予期される。
〔注〕 二つの3次の因子について、どちらも1次の係数 B の符号が同じである理由は、次の通り。一方の3次式の根が α, β, γ なら、他方の3次式の根は −α, −β, −γ であり、解と係数の関係から:
αβ + αγ + βγ = B = (−α)(−β) + (−α)(−γ) + (−β)(−γ)
《あ》のように直接分解されたと仮定すると | C | = √7 であり、係数には少なくともこの無理数が含まれる。考え方にもよるが、素朴な意味では、無理数を表に出さない方が簡単といえる。問題の6次方程式
t6 − 21t4 + 35t2 − 7 = 0 《い》
が偶数次の項だけから成ることに留意すると、次のどちらかの変数置換を試す価値がある。
オプション1 《い》で t = x/√7 と置き両辺を (√7)6 = 73 倍すると、こうなる:
(x6/73) − 21(x4/72) + 35(x2/7) − 7 = 0
よって x6 − 21⋅7x4 + 35⋅72x2 − 73⋅7 = 0
この左辺が、
= (x3 + Ax2 + Bx + 49)(x3 − Ax2 + Bx − 49)
と分解されたと仮定する。展開すると:
= (x3 + Bx)2 − (Ax2 + 49)2
= (x6 + 2Bx4 + B2x2) − (A2x4 + 98Ax2 + 492)
= x6 + (2B − A2)x4 + (B2 − 98A)x2 − 492
係数の比較から:
2B − A2 = −3⋅72, B2 − 98A = 5⋅73
これを満たす唯一の有理数解は、
A = 7, B = −49
であり†、次の分解は実際に可能:
(x3 + 7x2 − 49x + 49)(x3 − 7x2 − 49x − 49) 《う》
† 第1式から B = (A2 − 3⋅72)/2。それを第2式に代入して (A2 − 3⋅72)2/4 − 98A = 1715。展開・整理すると:
(A4/4 − 3⋅72A2/2 + 9⋅74/4)
− 2⋅72A − 5⋅73 = 0
両辺を4倍して:
A4 − 6⋅72A2 − 8⋅72A + (9⋅74 − 20⋅73) = 0
つまり A4 − 6⋅72A2 − 8⋅72A + 73⋅43 = 0
この4次式を満たす有理数 A が存在するなら、それは 73⋅43 の正または負の約数。 A = ±1 は、この4次式を満たさない。もし A = ±7 なら、4次式の値は 73 で割り切れて、 73(7 − 42 ∓ 8 + 43)
に等しい。よって A = +7 は根。そのとき B = (49 − 3⋅49)/2 = −49。一方、もし A の絶対値が 43 以上なら、 A4 > 404 = 2560000 が大き過ぎ、4次式の値は 0 になり得ない。
オプション2 《い》で t = x√7 と置き両辺を (√7)6 = 73 で割ると、こうなる:
(x6⋅73) − 21(x4⋅72) + 35(x2⋅7) − 7 = 0
よって x6 − 3x4 + (5/7)x2 − 1/72 = 0
この場合、分数を避けるため、 73 で割る代わりに 7 で割ると(言い換えると、最後の式の両辺を 72 倍すると)いいだろう:
49x6 − 3⋅72x4 + 5⋅7x2 − 1 = 0
この左辺が、
= (7x3 + Ax2 + Bx + 1)(7x3 − Ax2 + Bx − 1)
と分解されたとすると:
= (7x3 + Bx)2 − (Ax2 + 1)2
= (49x6 + 2⋅7Bx4 + B2x2) − (A2x4 + 2Ax2 + 1)
= 49x6 + (2⋅7B − A2)x4 + (B2 − 2A)x2 − 1
係数の比較から 2⋅7B − A2 = −3⋅72, B2 − 2A = 5⋅7、その有理数解† A = 7, B = −7 から、次の分解が成り立つ:
(7x3 + 7x2 − 7x + 1)(7x3 − 7x2 − 7x − 1) = 0 《え》
† もし第1式から B = (A2 − 147)/14 として、それを第2式に代入、分母を払うと、オプション1と同じ A4 − 294A − 392A + 14749 = 0 を得る(よって、もしこのアプローチを使うなら A = 7)。一方、第2式から A = (B2 − 35)/2 として、それを第1式に代入、分母を払うと B4 − 70B2 − 56B + 637 = B4 − 7⋅10B2 − 7⋅8B + 72⋅13 = 0 を得る。 B = ±7 を試すと、両辺は 49 で割り切れて 49(49 − 70 ∓ 8 + 13)、 B = −7 のとき丸かっこ内 = 0。
《い・う》は、変数の置換が違うものの、本質的には同内容。オプション2の《え》の方が係数が小さい(従って、扱いやすい――少なくとも、分解《え》は分解《う》より容易――だろう)。もともとの係数が因子 7 を含み、両辺を 7 で割るとき、もともとの係数も一部(整数係数の範囲で)約されるので。以下では《え》を使う。
2. 各因子の根がどの値に当たるか。《え》の第1因子 7x3 + 7x2 − 7x + 1 の三つの根の積は −1/7 なので、負の根は奇数個。しかし三つの根 x の和は −7/7 = −1 であり、対応する三つの t = tan θ の和は −√7 = −2.64… なので、根 x が三つとも負であることは不可能。というのも φ = 180°/7 > 25° であり、
tan 2φ > tan 45° = 1 かつ tan 3φ > tan 60° = √3 = 1.73… なので tan 2φ と tan 3φ の絶対値の和は √7 より大きい(つまり、もしも三つの負の根を持つとすると、根の和は (−tan 2φ) + (−tan 3φ) < −√7 より小さくなってしまう)。よってこの因子は、正の根を二つ、負の根を一つ持つ。三つの根の和 −1 は負なので、
tan φ < tan 2φ < tan 3φ
に留意すると、上記3次の因子の根は +tan φ, +tan 2φ, −tan 3φ でなければならない(さもなければ、負の根より絶対値の大きい正の根が存在し、残りのもう一つの根も正なので、3根の和は正になってしまう)。これら三つをそれぞれ −1 倍したものが他方の因子の根。
両辺を 72 で割ると、《え》はこうなる。
(x3 + x2 − x + 1/7)(x3 − x2 − x − 1/7) = 0 《お》
置換の設定から t = x√7 つまり x = t/√7 である。すなわち《お》の根 x は、各 t = tan kφ について(k = ±1, ±2, ±3)それぞれの 1/√7 であるから、 x = (tan kφ)/√ の形を持つ。
今、 x = t/√7 を《お》に代入して両辺を 7√7 倍すると:
(t3 + (√7)t2 − 7t + √7)(t3 − (√7)t2 − 7t − √7) = 0 《か》
これは《あ》の直接分解と同じこと(ただし変数置換を介することで、無理数の係数を直接扱うことを回避した)。
《か》の第一因子の根 tan 3φ, tan 2φ, −tan 3φ = tan 4φ の和も積も −√7 であることと tan 3φ = −tan 4φ に留意すると、次の印象的な等式を得る。
tan (π/7) tan (2π/7) tan (4π/7)
=
tan (π/7)
+ tan (2π/7)
+ tan (4π/7)
= −√7
tan (π/7) tan (2π/7) tan (3π/7)
= √7
3. 次のようにして、円周14等分点の tan から円周14等分点の sin を導くことができる。最終的な結論だけが欲しいなら遠回りだが、これはこれで面白い。まず…
命題1(sin の倍角の公式の一種) sin 2α = 2 tan α/(1 + tan2 α)
証明 cos α が定義されるような(つまり 90° の奇数倍以外の)任意の角度を α とする。
cos2 α + sin2 α = 1
の両辺を cos2 α で割って、次の恒等式を得る:
1 + tan2 α = 1/cos2 α あるいは同じことだが = sec2 α
∴ cos2 α = 1/(1 + tan2 α) (☆)
最も普通の sin の倍角公式(加法定理に基づく)を出発点として (☆) を使うと:
sin 2α = 2 sin α cos α = 2 sin α cos α/cos2 α × cos2 α
= 2 sin α/cos α × 1/(1 + tan2 α)
= 2 tan α/(1 + tan2 α) ∎
〔参考〕 命題1は 2α = θ, α = θ/2 のような形で使われることもある。すなわち u = tan (θ/2) と置くと:
sin θ = 2u/(1 + u2)
命題2 m を正の定数、 α を任意の角度(直角の奇数倍を除く)とすると:
x = (tan α)/√, y = (sin 2α)/√ ⇒ y = 2x/(1 + mx2)
証明 ⇒ の後ろの(右辺の)分数について。 ⇒ の前の仮定により、分子は (2 tan α)/√m に等しく、分母は
1 + m((tan α)/√)2
= 1 + tan2 α
に等しい。すなわち、
2x/(1 + mx2)
=
[(2 tan α)/√m]/(1 + tan2 α)
=
(2 tan α)/[(1 + tan2 α)√m]
=
(sin 2α)⋅1/√
は(最後の等号は命題1による)、仮定により y に等しい。∎
さて、《え》ないし《お》の第一因子の3次式についての考察(前述)から、
x3 + x2 − x + 1/7 = 0 《き》
の3解は、次の通り。
x = (tan kφ)/√ ただし k = +1, +2, −3 《く》
命題2で m = 7 とすることにより、 x = (tan kφ)/√ と y = (sin 2kφ)/√ を関連付けることができる。 k = 1, 2, −3 のときに成り立つ《き》の形は、都合がいい。実際、そのとき、
x3 + x2 = x − 1/7 つまり x2(x + 1) = x − 1/7
∴ x2 = (x − 1/7)/(x + 1)
なので、次の簡約が可能。命題2の右端の分数の形(分母 1 + 7x2 と分子 2x)を念頭に:
1 + 7x2 = 1 + 7((x − 1/7)/(x + 1))
=
(x + 1)/(x + 1) + (7x − 1)/(x + 1)
=
8x/(x + 1)
∴ y = 2x ÷ (1 + 7x2) = 2x⋅((x + 1)/(8x))
=
(x + 1)/4
∴ x = 4y − 1 《け》
〔注〕 例えば y = (sin 2φ)/√7 を 4 倍して 1 を引くと、 x = (tan φ)/√7 に等しくなる:
4(sin 2φ)/√7 − 1 = (tan φ)/√7 つまり 4 sin (2π/7) − √7 = tan (π/7)
あるいは同じことだが 4 sin (2π/7) − tan (π/7) = √7
3次方程式《き》を成り立たせる解、すなわち《く》の三つの実数 x については、等式《け》も成り立つのだから、 x と y の意味から、《き》に《け》の x = 4y − 1 を代入した式、
(4y − 1)3 + (4y − 1)2 − (4y − 1) + 1/7 = 0
展開・整理すると 64y3 − 32y2 + 8/7 = 0 《こ》
の三つの解は次の通り。
y = (sin 2kφ)/√ ただし k = +1, +2, −3
sin 2(1φ) = sin 2φ; sin 2(2φ) = sin 3φ; sin 2(−3φ) = sin (−1φ) に留意すると、こう整理できる:
y = (sin ℓφ)/√ ただし ℓ = −1, +2, +3
《こ》について、もし y = z/2 と置いて両辺を 23 倍すれば、
z3 − z2 + 1/7 = 0
を得る。これは前回扱った同様の3次式と、符号以外は全く同じ(上記の式の解は −φ, 2φ, 3φ の sin だが、前回の式の解は φ, −2φ, −3φ の sin であった)。あるいは《こ》について、 y = z/14 と置いて両辺を 143 倍すれば、
z3 − 7z2 + 49 = 0
を得る。この最後の3次方程式を z について解き、3解のそれぞれを 14 で割って √7 倍すれば(あるいは、同じことだが、二つの逆置換を一つにまとめ 2√7 で割れば)、 sin φ, −sin 2φ, −sin 3φ の根号表現を得ることができる(前回と全く同様なので、詳細略)。
結論自体は前回と同じだが、今回の議論は sin の7倍角ではなく、比較的単純な tan の7倍角に基づく――遠回りで見通しが良いともいえないけど、このアプローチには少し独特の面白さもある。
〔参考文献〕 Formules trigonométriques en kπ/7
https://fr.wikipedia.org/wiki/Formules_trigonom%C3%A9triques_en_k%CF%80/7
リンク先には若干の誤字あり: tan 7θ の分数の分子左端は t ではなく −t、分母の4次項は 25t4 ではなく 35t4。
2025-05-27 ラマヌジャンのパズルじゃん 生への執着・死への執着
〔定理〕(人生の有限性) 生きてる人は、よくもって数日くらいの命である。証明。帰納法による。数日しか生きられない人にとって、命題は自明。「よくもって数日くらい」の人より1日長く生きられる人も、「よくもって数日くらい」(寿命はたかだか可算の日数)であることに変わりはない。∎
〔系〕(幸せの法則) どうせ数日くらいしか生きられないのに、くよくよ悲しんでも楽しくない。楽しい気分の人は、明らかに楽しい。どちらが良いかは自明。∎
インドの天才ラマヌジャン(Ramanujan)は、さまざまな奇妙な式・深遠な式を残したことで知られる。今回紹介するのは、どちらかというと娯楽系のパズル。似た形の二つの式 (i) と (ii) を示せ、というもの。1914年、 [1] に掲載された†。 (i) は次の通り。
3√[cos (2π/7)]
+
3√[cos (4π/7)]
+
3√[cos (8π/7)]
=
3√[(5 − 3⋅3√)/2]
右辺の大きい立方根記号の下に、入れ子になって、ちっちゃい立方根記号が入ってるところが、ちょっぴりラマヌジャンっぽい。ラマヌジャンにしては、このくらいはかわいい方で、「なんじゃこりゃ?!」「どうやってこんな式を思い付いたんだ?」というような、超・不思議な式も多い。本人の説明も「夢で女神から教わった」みたいな、謎めいたものだったらしい…
ラマヌジャンの「発見者」で共同研究者となったハーディー(Hardy)は、後にラマヌジャンと関係を「ロマンチック」だったと形容する。うわさによると、どちらの数学者も自殺未遂の経歴がある。頭が良過ぎる人には、独特の不安定さがあるのだろうか。 a young man’s game
といわず、のんきに生きればいいのに。どうせ「よくもって数日くらいの命」なのだから…
注意。このパズルでは通常の「主値」の規約を使わず、「負の実数の立方根は負の実数」と約束する。例えば 3√−8 = −2 とする。 −2 の立方は −8 なので「−8 の立方根は −2」というのは、ある意味むしろ分かりやすいが、多少の混乱の原因となる‡。
† [1] の誤植については、断りなく修正して引用する。 [2] では、内側の 3√7 が √7 になっている。
‡ 通常の主値を使うソフトウェアとは非互換であることに注意。例えば PARI で表現すると、このパズルの立方根の定義は、
CBRT(x) = x^(1/3)
や CBRT(x) = sqrtn(x, 3)
ではなく、次の通り。
CBRT(x) = if(imag(x)==0 && x<0, -(-x)^(1/3), x^(1/3))
表記の簡潔化のため 2π/7 を θ とする。パズルは、 cos θ と cos 2θ と cos 4θ = cos 3θ のそれぞれの立方根の和が、どのような値になるか?という問題だ。
cos θ, cos 2θ, ··· , cos 6θ は「1 の六つの原始7乗根」それぞれの実部なので、
z7 − 1 = (z − 1)(z6 + z5 + z4 + z3 + z2 + z + 1) = 0
の6次の因子の根の実部に当たる。これら六つの根を
ζn = (cos θ + i sin θ)n = cos nθ + i sin nθ (n = 1, 2, ··· , 6)
とすると、 ζ1 と ζ−1 = ζ6 は互いに逆数で、実部が等しい。 ζ2 と (ζ2)−1 = ζ5 のペア、 ζ3 と (ζ3)−1 = ζ4 のペアについても、それぞれ同じことがいえる。よって、上記の6次の因子について y = z + z−1 と置いて y についての3次式を作ったとすると、その3次式の根は 2 cos θ, 2 cos 2θ, 2 cos 3θ だ。
z6 + z5 + z4 + z3 + z2 + z + 1 = 0 の両辺を z3 で割って(z = 0 は根ではないから、この割り算は許される):
z3 + z2 + z1 + 1 + z−1 + z−2 + z−3 = 0 《さ》
今、
z + z−1 = y 《し》
と置いて、その両辺を平方すると:
z2 + 2z(z−1) + z−2 = y2 つまり z2 + z−2 = y2 − 2 《す》
《し》の両辺を立方すると:
z3 + 3z2(z−1) + 3z(z−1)2 + z−3 = y3 つまり z3 + 3y + z−3 = y3
∴ z3 + z−3 = y3 − 3y 《せ》
《し・す・せ》を《さ》の左辺に代入し、次の3次式を得る。
(y3 − 3y) + (y2 − 2) + y + 1 = y3 + y2 − 2y − 1 《そ》
前述のように、3次式《そ》の根は a = 2 cos θ; b = 2 cos 2θ; c = 2 cos 3θ = 2 cos 4θ であり、パズルの要求は、
3√(a/2)
+
3√(b/2)
+
3√(c/2)
=
3√[(5 − 3⋅3√)/2]
を示すことだ(この右辺は与えられた式の右辺)。簡潔化のため、両辺を 3√2 倍した等式、
3√a
+
3√b
+
3√c
=
3√(5 − 3⋅3√)
を示せば同じことなので、以下ではそれを目標とする。この左辺は、
p = 3√a, q = 3√b, r = 3√c
についての対称式(というか、単なる和 p + q + r)なので、 p, q, r を根とする3次式を構成できれば、その3次式の係数から、問題は解決するはず。《そ》の2次の係数から、
p3 + q3 + r3 = a + b + c = −1
であるから、どうやら「3乗和 p3 + q3 + r3 を知って 1 乗和 p + q + r を求める」という系統の問題らしい。となると Girard の法則、
p3 + q3 + r3 = (p + q + r)3 − 3(p + q + r)(pq + pr + qr) + 3pqr 《た》
の出番かな。この公式を使うとすると、不足してる情報は pq + pr + qr と pqr だが…
不足情報のうち、 pqr = 3√a × 3√b × 3√c = 3√(abc) = 3√1 = 1 は簡単に求まる。なぜなら《そ》の定数項から abc = −(−1) = 1。
pq + pr + qr を求められるだろうか…。《そ》の1次の係数から、
−2 = ab + ac + bc = p3q3 + p3r3 + q3r3 《ち》
なので p, q, r の対称式をいじれば、なんだかんだで pq + pr + qr は自然に出てきそうな予感。だが、どこから手を付ければ…。苦し紛れに p + q + r を3乗してみる:
(p + q + r)3 = p3 + q3 + r3 + 3(p2q + pq2 + p2r + pr2 + q2r + qr2) + 6pqr
右辺の数値が分かれば、その立方根が求めたい p + q + r だ。けど右辺の両端は分かるものの、真ん中の丸かっこ内が不明。この道は駄目か?
作戦を変更して pq, pr, qr に対する基本対称式を考えてみる。
pq + pr + qr = 不明
(pq)(pr) + (pq)(qr) + (pr)(qr) = (pqr)(p + q + r) = p + q + r = 不明(それを知りたい)
(pq)(pr)(qr) = (pqr)2 = 1
途中計算では、前述の pqr = 1 を使った。依然として、ほとんど成果なし。和を直接3乗するより、《た》の形式の恒等式、
(X + Y + Z)3 = X3 + Y3 + Z3 + 3(X + Y + Z)(XY + XZ + YZ) − 3XYZ 《つ》
の X, Y, Z にそれぞれ pq, pr, qr を入れてみるか?
(pq + pr + qr)3 = (pq)3 + (pr)3 + (qr)3 + 3(pq + pr + qr)[(pq)(pr) + (pq)(qr) + (pr)(qr)] − 3(pq)(pr)(qr)
= −2 + 3(pq + pr + qr)[(p + q + r)(pqr)] − 3 ← 《ち》を利用
∴ (pq + pr + qr)3 = 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 5 《て》
なにやらきれいに整理されたが、まだ情報不足。《つ》の X, Y, Z に今度はそれぞれ p, q, r を入れてみる。 p3 + q3 + r3 = a + b + c = −1 に留意すると:
(p + q + r)3 = p3 + q3 + r3 + 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 3pqr
= −1 + 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 3
∴ (p + q + r)3 = 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 4 《と》
《て・と》の連立は、解けるかも…。 U = p + q + r, V = pq + pr + qr と置くと:
《と》から U3 = 3UV − 4 《な》
《て》から V3 = 3UV − 5 《に》
第一印象、《な》から《に》を引いて U3 − V3 = 1 としたくなる。これはこれでシンプルで面白い式だが、パズルを解くには直接役立たないか…? 別のアプローチとして《な・に》を辺ごとに掛け算すると:
U3V3 = 9(UV)2 − 27(UV) + 20
∴ (UV)3 − 9(UV)2 + 27(UV) − 27 + 7 = 0
∴ (UV − 3)3 + 7 = 0 つまり (UV − 3)3 = −7
狙ってやったわけではないが、結果的に立方 = 整数の形に。やれやれ、これでやっとどうにかなるかな…。両辺を −1 倍して:
(3 − UV)3 = 7
∴ 3 − UV = 3√7
∴ UV = 3 − 3√7
これを《な》に代入すると:
U3 = 3(3 − 3√7) − 4
= 5 − 3⋅3√7
求めるものは U = p + q + r すなわち上記 U3 の立方根であるから:
p + q + r = 3√(5 − 3⋅3√)
これが示されるべき事柄であった。∎
ゴチャゴチャやったら一応答えは出せたが、まだ問題の真意が見通せない! さすが Ramanujan、見た目は「ただの面白い式」だが、深い何かを秘めてるっぽい。21世紀初めの一連の研究によると、このタイプのべき和を拡張したものは「フィボナッチ的」性質を持つという(see e.g. [5])。
今回のはあくまで「最初の試み」。一応、雰囲気は分かった。
〔参考文献〕
[1] Question 524, The Journal Of The Indian Mathematical Society, 6 (1914), pp. 190–191
https://archive.org/details/dli.ernet.509605/page/190/mode/1up
[2] Collected Papers Of Srinivasa Ramanujan (1927), p. 329
https://archive.org/details/g.-h.-hardy-p.-v.-seshu-aiyan-b.-m.-wilson-ed.-collected-papers-of-srinivasa-ram/page/329/mode/1up
[3] Ramanujan’s Notebooks, IV, p. 39
[4] Jiří Herman, et al. (2000), Equations and Inequalities, pp. 81–82
[5] Roman Wituła & Damian Słota (2007), New Ramanujan-Type Formulas and Quasi-Fibonacci Numbers of Order 7
https://cs.uwaterloo.ca/journals/JIS/VOL10/Slota/witula13.html
2025-05-29 ラマヌジャンのパズル(続き)
ラマヌジャンのいろいろな式は、単に好奇の対象というだけでなく、「本質的に美しい何か」を秘めている。「何か」の正体は謎だが…。通常「バッハの音楽が何の役に立つのか?」というのが的外れの問いであるように、「ラマヌジャンの式が何の役に立つのか?」というのは、あまり意味のない問いだろう。
cos α の実数の立方根を cos1/3 α で表すとき、
cos1/3 40° + cos1/3 80° + cos1/3 160°
の代数的表現は何か。それがパズルの (ii) だ。 (i) つまり「1 の原始7乗根バージョン」から類推すると、 (ii) は「原始9乗根バージョン」。 ±40°, ±80°, ±160° の余弦(値は3種類)それぞれの2倍を根とする3次式を作れば、後はほとんど同じ一本道になりそう。だが、この道はどこを通ってどこへ続くのか。
桃李もの言わざれども
x9 − 1 = (x3 − 1)(x6 + x3 + 1) の6次の因子について、
x6 + x3 + 1 = 0
の両辺を x3 で割ると:
x3 + 1 + x−3 = 0 《ぬ》
y = x + x−1 と置いてその両辺を3乗すると:
y3 = x3 + 3(x2)(x−1) + 3(x)(x−2) + x−3 = x3 + 3(x + x−1) + x−3 = x3 + x−3 + 3y
∴ x3 + x−3 = y3 − 3y
これを《ぬ》に代入して:
y3 − 3y + 1 = 0 《ね》
《ね》の3解が 2 cos 40°, 2 cos 80°, 2 cos 160° = −2 cos 20° であることから、《ね》は Morrie の法則を含意する:
(−2 cos 20°)(2 cos 40°)(2 cos 80°) = −1
∴ cos 20° cos 40° cos 80° = 1/8
Morrie の法則の証明の仕方はいろいろあるが、この道は軽やか。本題と関係ないけど、楽しい道草!
ところで「道草」はなぜ「道草」というのだろうか(道草中のさらなる道草)。昔の旅人が馬に乗ってどこかに行くとき、馬が前へ進まず、のんきに道ばたの草を食べている様子であろうか?
cos 20° = 0.9396926207…(草黒く)
cos (360/17)° = 0.9324722294…(草に酔う)
がほぼ等しいこと、しかし後者の方が少しだけ小さいことは、 360/17 = 21.1… が 20 より少しだけ大きいことに基づく†。
† 21 = 3 × 7 なので 17 × 21 = (17 × 3) × 7 = 51 × 7 = 357 であり、 360 を 17 で割ると商が 21 で 3 余る。この余り 3 の中に 1.7 は一つしか入らないので 360/17 は 21.1 台。もしさらに割り算を続けるなら、余り 1.3 の中に 0.17 が幾つ入るか?が次のステップ。それは 130 ÷ 17 と同じことであり、 17 × 7 = 119 と 17 × 8 = 136 に注意すると 130 の中に 17 は 7 個入る。よって 360/17 = 21.17… だ。
関連する値として、
cos 40° = 0.766044443118978…
は 4 が四つ続くところが目に付くけど「766」という桁の並びにも注目したい(付録3参照)。これは、
cos 30° = 0.8660254037… = √3/2
の「866」と似ている。のみならず、その半分「433」は、
sin (180/7)° = 0.4338837391…(試算サンバ破産)
とも3桁一致する!
《ね》に関連する2次式 t2 + t − (−3/3)3 = t2 + t + 1 の根は、
ω, ω2 = (−1 ± i√3)/2
であり、《ね》の形は「1の二つの原始立方根それぞれの立方根(主値)を足せば、虚部が消え実数 2 cos 40° になる」という当たり前の事実に対応している。
春山の馬酔木の花の悪しからぬ
《ね》 y3 − 3y + 1 = 0 の3解を a, b, c とすると:
a + b + c = 0
ab + ac + bc = −3
abc = −1
この三つの条件に留意しつつ、恒等式
(X + Y + Z)3 = X3 + Y3 + Z3 + 3(X + Y + Z)(XY + XZ + YZ) − 3XYZ
に、
p = 3√a, q = 3√b, r = 3√c
を入れると(負の実数の立方根は主値ではなく負の実数を表すものとする):
(p + q + r)3 = p3 + q3 + r3 + 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 3(pqr)
= a + b + c + 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 3(−1)
∴ (p + q + r)3 = 3(p + q + r)(pq + pr + qr) + 3 《の》
ここでは「実数の立方根は実数」と約束しているので pqr は 3√(abc) = √−1 = −1 に等しい。
同じ恒等式に pq, pr, qr を入れると:
(pq + pr + qr)3 = (pq)3 + (pr)3 + (qr)3 + 3(pq + pr + qr)[(pq)(pr) + (pq)(qr) + (pr)(qr)] − 3(pq)(pr)(qr)
= ab + ac + bc + 3(pq + pr + qr)[(p + q + r)(pqr)] − 3(pqr)2
= −3 + 3(pq + pr + qr)[(p + q + r)(−1)] − 3(−1)2
∴ (pq + pr + qr)3 = −3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 6 《は》
U = p + q + r, V = pq + pr + qr と置いて、《の・は》を辺ごとに掛け合わせると:
U3V3 = (3UV + 3)(−3UV − 6) = −9U2V2 − 27UV − 18
∴ (UV)3 + 9(UV)2 + 27(UV) + 18 = 0
∴ (UV + 3)3 = 9 つまり UV = 3√9 − 3
従って《の》から:
U3 = 3UV + 3 = 3(3√9 − 3) + 3
= 3⋅3√9 − 6
∴ U = 3√(3⋅3√ − 6)
この最後の式の両辺を 3√2 で割ると Ramanujan の (ii) を得る。なぜなら:
U = p + q + r = 3√(2 cos 40°)
+
3√(2 cos 80°)
+
3√(2 cos 160°)
前回は迷ったが、その経験から、今回は滑らかに進むことができた。 (i) の第3項は cos1/3 (6π/7) と書いた方が簡単だけど、 (ii) との統一感のために、あえて cos1/3 (8π/7) としたのだろう。
み寺のいらか みどりにうるおい
Ramanujan の式の秘密を探ってみたい。3次式 y3 − Ay2 + By − C が三つの実数の根 a, b, c を持つとき、それらの根それぞれの実数の立方根を p, q, r とすると、一方において、
(p + q + r)3 = p3 + q3 + r3 + 3(p + q + r)(pq + pr + qr) − 3(pqr)
∴ U3 = A + 3UV − 3⋅3√C
が成り立ち、他方において、
(pq + pr + qr)3
= ab + ac + bc + 3(pq + pr + qr)[(p + q + r)(pqr)] − 3(pqr)2
∴ V3 = B + 3UV3√C − 3(3√C)2
が成り立つ。これがきれいになるためには、大前提として C つまり「もともとの3次式の定数項の −1 倍」が、立方数 C = m3 であることが望ましい。ところが θ = 360°/7, λ = 40° とすると、 2 cos θ, 2 cos 2θ, 2 cos 3θ = 2 cos 4θ を根とする3次式は、
y3 + y2 − 2y − 1 ‥‥⓵
であり、 2 cos λ, 2 cos 2λ, 2 cos 4λ を根とする3次式は、
y3 − 3y + 1 ‥‥⓶
であるから、それぞれ C = 1 = (+1)3 と C = −1 = (−1)3 だ。
今 C の実数の立方根を m とすると、われわれの連立方程式は、
U3 = 3UV + (A − 3m) ‥‥⓷
V3 = 3mUV + (B − 3m2) ‥‥⓸
であり、 A, B, m は既知なので、 z = UV の値さえ分かれば⓷から U3 が確定し、その立方根として U = p + q + r が求まる。そこで⓷と⓸の辺ごとの積を考えると:
z3 = 9mz2 + [3m(A − 3m) + 3(B − 3m2)]z + (A − 3m)(B − 3m2)
∴ z3 − 3⋅(3m)z2 + 3⋅(6m2 − Am − B)z − (9m3 − 3Am2 − 3Bm + AB) = 0
ここで鍵となるのは、 6m2 − Am − B = (3m)2 という条件が満たされること。すなわち条件
3m2 + Am + B = 0
が、満たされること(⓵では m = 1, A = −1, B = −2 で、⓶では m = −1, A = 0, B = −3 だから、どちらについても、この条件が満たされる)。すると z についての3次式は、
z3 − 3⋅(3m)z2 + 3⋅(3m)2z − (9m3 − 3Am2 − 3Bm + AB) = 0
∴ (z − 3m)3 + (3m)3 = 9m3 − 3Am2 − 3Bm + AB
∴ (z − 3m)3 = −18m3 − 3Am2 − 3Bm + AB
となるから、 m3 = C に留意すると、
z − 3m = −3√(3Am2 + 3Bm − AB + 18C)
∴ UV = z = −3√(3Av2 + 3Bm − AB + 18C) + 3m
となって、⓷から:
U3 = 3(−3√(3Av2 + 3Bm − AB + 18C) + 3m) + (A − 3m)
∴ (p + q + r)3 = (A + 6m) − 3⋅3√(3Av2 + 3Bm − AB + 18C)
ゆえに、三つの実数解 a, b, c を持つ整係数の3次方程式 y3 − Ay2 + By − C = 0 について、もし C = m3 が立方数で、条件 3m2 + Am + B = 0 が満たされるなら、
U = 3√a + 3√b + 3√c
の立方 U3 は、次の性質を持つ。第一に、 U3 の「整数部分」は A + 6m に等しい。第二に、 U3 の「無理数部分」は、もし
N = 3Am2 + 3Bm − AB + 18C
が正ならば −3⋅3√N に等しく、さもなければ +3⋅3√−N に等しい。
だが謎は残る。 1 の原始7乗根ないし原始9乗根に関連する⓵⓶について、条件 3m2 + Am + B = 0 が満たされるのは「偶然」なのだろうか。そして 1 の原始7乗根、原始9乗根に対応する上記 N の絶対値がそれぞれ 7 と 9 なのは、偶然にしては、でき過ぎている。
条件を満たすような、でたらめな例を作ることは易しい。例えば y3 − 2y2 − 5y − 1 は三つの実数の根 a, b, c を持つ。 A = 2, B = −5, C = 1, m = 1 だから 3m2 + Am + B = 3 + 2 + (−5) = 0 を満たす。このとき、
U = 3√a + 3√b + 3√c
の立方 U3 の「整数部分」は A + 6m = 8 に等しく、 U3 の「無理数部分」は、
N = 3Am2 + 3Bm − AB + 18C = 6 − 15 + 10 + 18 = 19
であるから −3⋅3√19
= −8.0052049461… に等しい。従って:
3√a + 3√b + 3√c
=
−3√(3⋅3√ − 8)
= −0.1733027339…
立方根記号についての臨時の規約によれば、この数は 3√(8 − 3⋅3√) とも表現される。
同様に y3 + 2y2 − 5y + 1 の根を a, b, c とすると:
3√a + 3√b + 3√c
=
3√(3⋅3√ − 8)
この種の問題は、次のようなタイプの問題とも解釈可能。すなわち、9次方程式 x9 + 2x6 − 5x3 + 1 = 0 を x3 についての3次方程式と見ると、条件を満たす実数 x3 が三つ存在する。よってこの9次式は、三つの実数の根 p, q, r を持つ(残りの六つの根は非実数。すなわち p, q, r をそれぞれ ω 倍ないし ω2 倍したもの)。 p + q + r は、代数的に表現される:
p + q + r = 3√(3⋅3√ − 8)
のみならず pq + pr + qr と pqr も代数的に表現可能なので(前者は⓸に基づく)、与えられた9次式の3次の因子(p, q, r を根とする)の代数的表現を得ることができる。
Let p, q, r be the real roots of x9 + 2x6 − 5x3 + 1.
We have p + q + r = 3√(3⋅3√ − 23).
↑ 一見 Ramanujan 風(?)の命題。
付録3 cos 40° の値が cos 30° = 0.866… と cos 45° = 0.707… の中間にあることは明白だが、 cos 40° が 0.7 台であること(0.8 より小さいこと)は、必ずしも明白ではない。しかし、この値は、
4 cos 36° = 1 + √5 = 3.236…
の 4 分の 1 より小さくなければならない。つまり 0.809… より小さい。
cos 36° = 0.809… という事実は、「もしも cos 40° が 0.7 台でなかったとしたら、それは 0.8 以上 0.809… 未満」ということを含意する。言い換えると「角度が 4° 変わっても、正弦の変化は 0.1 未満」ということを含意する。直観的にこの「もしも」は不可能であり、従って cos 40° は 0.7 台であろう。もう少しきちんと評価してみたい。
今 π を 22/7 = 3.142857… で代用し、
λ = 40° = π × 2/9 ≈ (4⋅11)/(7⋅9)
としよう。解析学によれば
cos x = 1 − x2/2! + x4/4! − ···
であり、
λ2 ≈ (4⋅11)2/(7⋅9)2 = (16⋅121)/(49⋅81) = 1936/3969
は 2000/4000 = 0.5 に近いので、大ざっぱには、
cos 40° ≈ 1 − 0.5/2 = 0.75
となる。ここにおいて、円周率を 22/7 で代用したことから生じる誤差は、最悪でも小数第2位が 1 ずれるだけだろう。 1936/3969 を 1/2 で代用したことは少々無責任な処理だけど、真の値とのずれは 100/4000 = 1/40 = 0.025 を超えないであろう。級数打切りによる誤差は λ4/4! ≈ (1/2)4/24 = 1/(16⋅24) = 1/384 ≈ 1/400 のオーダーなので、他の誤差との比較でいえば、ほぼ無視できる。よって、
cos 40° ≈ 0.75 誤差 ±0.03 程度
と推定される。
上記と同様の計算を十分な精度で再実行すると、
cos 40° ≈ 1 − λ2/2 = 0.7563… 誤差 λ4/24 = 0.0098…
∴ 0.74 < cos 40° < 0.77
cos 40° ≈ 1 − λ2/2 + λ4/24 = 0.7662… 誤差 λ6/6! = 0.0001…
∴ 0.7660 < cos 40° < 0.7664
となる。真の値は cos 40° = 0.766044… だ。
2025-06-01 ガウス周期を使わない円周13等分
cos (π/9) cos (2π/9) cos (4π/9) = 1/8 は「モリーの法則」と呼ばれる。
次の等式は、その変わり種。
cos (π/13) cos (3π/13) cos (4π/13)
=
(3 + √13)/(3 + 13)
〔注〕 「ラマヌジャンのパズル(続き)」では、副産物として Morrie の法則の軽妙な証明を得た。「
1 の原始13乗根、つまり x13 = 1 を満たす x = 1 以外の解について。言い換えれば、
Φ13 = x12 + x11 + ··· + x + 1
の根。ガウス周期を使う普通の方法は、既に(さんざん迷いながら)長々と検討した。本質的には同じようなことだが、ガウスの恒等式を使う別の経路を試す。
以下では √13 を h と略す。恒等式
4Φ13 = 4(x12 + x11 + ··· + x + 1)
= (2x6 + x5 + 4x4 − x3 + 4x2 + x + 2)2
− 13(x5 + x3 + x)2
の右辺は、 A2 − B2 の形なので†、二つの6次式の積に分解される:
= [2x6 + (1 + h)x5 + 4x4 + (−1 + h)x3 + 4x2 + (1 + h)x + 2]
× [2x6 + (1 − h)x5 + 4x4 + (−1 − h)x3 + 4x2 + (1 − h)x + 2]
† B2 = h2(x5 + x3 + x)2 = [h(x5 + x3 + x)]2 = (hx5 + hx3 + hx)2.
仮に第一の6次式の根、つまり
2x6 + (1 + h)x5 + 4x4 + (−1 + h)x3 + 4x2 + (1 + h)x + 2 = 0
の解を求めたいとしよう。 x = 0 は解でないから、両辺を x3 で割ってもいい:
2(x3 + x−3) + (1 + h)(x2 + x−2) + 4(x + x−1) + (−1 + h) = 0
y = x + x−1 と置くと x2 + x−2 = y2 − 2, x3 + x−3 = y3 − 3y なので、上記の最後の方程式はこうなる。
2(y3 − 3y) + (1 + h)(y2 − 2) + 4y + (−1 + h) = 0
つまり 2y3 + (1 + h)y2 − 2y + (−3 − h) = 0 ア
同様に、第二の6次式(それは第一の6次式と比べて、 h の符号だけが反転したもの)の根 x について、 y は次を満たす(y の定義は上と同じ)。
2y3 + (1 − h)y2 − 2y + (−3 + h) = 0 イ
ζ を 1 の原始13乗根とする。 4Φ13 の根、言い換えれば Φ13 の根は、 ζ±1, ζ±2, ··· , ζ±6 であり、各整数 k について ζk と ζ−k は共役複素数。従ってア・イの計六つの解は ζ1, ζ2, ··· , ζ6 の実部の2倍。 T = 360°/13 ≈ 27.7° とすると、ア・イの解は、全体として、次の通り。
2 cos T ≈ 2 cos 27.7° 1.73 ~ 2 の範囲(∵ 2 cos 30° = √3)
2 cos 2T ≈ 2 cos 55.4° 1 ~ 1.41 の範囲(∵ 2 cos 60° = 1, 2 cos 45° = √2)
2 cos 3T ≈ 2 cos 83.1° 0 ~ 1 の範囲の正数
2 cos 4T ≈ 2 cos 110.8° −1 ~ 0 の範囲の負数(∵ 2 cos 120° = −1)
2 cos 5T ≈ 2 cos 138.5° −1.73 ~ −1.41 の範囲(∵ 2 cos 150° = −√3, 2 cos 135° = −√2)
2 cos 6T ≈ 2 cos 166.2° −2 ~ −1.73 の範囲
このうち三つがアの解で、残りの三つがイの解だ。
そこまでは明らかだが、アとイにどう「三つずつ」分かれるのか。その決定は自明ではない。
h = √13 = 3.605551… の近似値として 3.60 を使うと(付録4参照)、アの3解の和 −(1 + h)/2 ≈ −2.30 は −2 より小。アは少なくとも二つの負の解を持つ(∵どの解も、それ一つだけだと −2 より小さくない)。実際、アの3解の積 (3 + h)/2 は正なので、アは負の解を二つ、正の解を一つ持つ。従って、イは負の解を一つ、正の解を二つ持つ。イの3解の和は −(1 − h)/2 = (h − 1)/2 ≈ 1.30。イの3解の積は (3 − h)/2 ≈ −0.30。
もしもイの二つの正の解が 2 cos T と 2 cos 2T だったとしたら、それらの和は 2.73 よりも大きいので、3解の和 ≈ 1.30 という条件から、イは −1 未満の負の解を持つ。しかし、その場合、イの3解のどれも絶対値が 1 以上になってしまい、3解の積 ≈ −0.30 という条件に反する。このことから、イの二つの正の解が 2 cos T と 2 cos 2T であることは不可能。イの正の解のうちの一つは 2 cos 3T でなければならない。
従って、アの正の解は 2 cos T または 2 cos 2T であり、いずれにしても +1 より大きい。よって、もしもアの二つの負の解が 2 cos 4T と 2 cos 5T だったとしたら、両者の和は −1 + (−1.73) = −2.73 より大きいので、3解の和は −1.73 より大きくなってしまい、3解の和 ≈ −2.30 という条件に反する。ゆえにアの負の解のうちの一つは 2 cos 6T でなければならない。
ではアの正の解は 2 cos T と 2 cos 2T のどちらか?
2 cos T + 2 cos 6T は 1.73 + (−2) = −0.27 より大きいので、もしもアの正の解が 2 cos T だったとしたら、アの3解の和 ≈ −2.30 という条件は、第三の解が −2 より小ということを含意。それは不可能なので、アの正の解は 2 cos 2T だ!
2 cos 2T + 2 cos 6T は −1 より大きいので、3解の和 ≈ −2.30 という条件から、アの残りの一つの解は −1.30 未満でなければならず、条件を満たす選択肢は 2 cos 5T しかない。結局:
アの解は 2 cos kT (k = 2, 5, 6)
イの解は 2 cos kT (k = 1, 3, 4)
次の結論に至る。 T = (2π)/13 のとき:
2 cos 2T + 2 cos 5T + 2 cos 6T = (−1 − √13/2) ウ
2 cos T + 2 cos 3T + 2 cos 4T = (−1 + √13/2) エ
8 cos 2T cos 5T cos 6T = (3 + √13/2) オ
8 cos T cos 3T cos 4T = (3 − √13/2) カ
エレガントじゃないけど、論理的に穴はないようだ。さらなる簡単化の余地があるかも。
T = 2π/13 と ((13−k)π/13) = −cos (kπ/13) に留意すると、オ・カそれぞれの両辺を 8 で割ったものを次のように整理できる。
拡張された Morrie の法則の一種
cos (4π/13) cos (10π/13) cos (12π/13)
=
cos (π/13) cos (3π/13) cos (4π/13)
=
(3 + √13)/16
cos (2π/13) cos (6π/13) cos (8π/13)
=
−cos (2π/13) cos (5π/13) cos (6π/13)
=
(3 − √13)/16
実際に3次式の根を求めて cos (2π/13) などの個々の代数的表現を得ることについては、既にかなりやったので、ここでは繰り返さない。今回の、地味だがちょっとうれしい収穫――ア・イが全体として六つの解 2 cos kT を持つことは明白だが(k = 1, 2, ··· , 6)、どのように三つずつアとイに分かれるのか確定するのは結構面倒。その答えを出す方法(その場しのぎだが、一応クリーンカットな手順)が見つかった。
ガウス理論によって mod 13 の原始根を使えば、全自動で解決することだろうけど、これはこれでまた一興。古人いわく「心の貧しい者は幸せだ。小さなことに喜びを感じるから」。
付録4 √13 = 3.605551… について。まず 362 = 1296 という事実に注目。実際:
362 = (9⋅2 × 2)2 = 81⋅4 × 4 = 324 × 4 = 1296
さて 1300 は 362 = 1296 に近いが、それより少し大きい。言い換えると 13.00 は 3.62 = 12.96 に近いが、それより少し大きい。従って √13 は 3.6 に近いが、それより少し大きい。他方において、
36.12 = (36 + 0.1)2 = 362 + 2⋅36⋅0.1 + 0.12 = 1296 + 7.2 + 0.01
は 1300 より大きいので、 3.612 は 13.00 より大きい。ゆえに √13 の近似値として 3.61 は過大、 3.60 は過小。その二つの数の間に、真の値がある。近似値 √13 ≈ 3.60 は、過小側の 3.60 を採用したもの――厳密に言うと √13 は 3.60 より 3.61 に近いが、どちらでも誤差は約 0.005。略算に使うには、切りがいい 3.60 が便利。
2025-06-08 1/27 = 0.037037… とその恋人
#遊びの数論 #循環小数の循環節
次の二つの数。無限に続く循環小数とはいえ、桁の並び方がシンプル。互いに「恋人同士」のようだ:
1/27 = 0.037 037 037…
1/37 = 0.027 027 027…
27 の逆数では「037」がループし、 37 の逆数は「027」がループする。このシンメトリックな性質は「偶然」だろうか?
同じ循環小数でも、
1/7 = 0.142857 142857 142857…
は「循環の周期」が長く、複雑だ。
1/13 = 0.076923 076923 076923076923…
のような例を観察すると、「分母が大きくなると事態はますます複雑化するだろう」と予想される。でも、
1/37 = 0.027 027 027…
のように、分母が大きめの素数でも、意外ときれいな小数になる場合もある。
37 × 3 = (30 + 7) × 3 = 90 + 21 = 111。
それを 9 倍すると 37 × 27 = 999 なので、
1000/37
=
999/37
+
1/37
=
27
+
1/37
となる。
例えば 1 キロメートルを 37 等分することは 1000 メートルを 37 等分することと同じであり、その結果は 27 m = 0.027 km 余り 1 m となる。余った 1 メートルを 37 等分することは 1000 ミリメートルを 37 等分することと同じであり、その結果は、上記と単位が変わるだけで実質的に同じこと。 27 mm = 0.027 m 余り 1 mm となる。余った 1 ミリメートルを 37 等分することも、同様(1000 マイクロメートル ÷ 37 = 27 マイクロメートル、余り1)。よって 027 027 027 の循環になる!
1 キロメートルを 27 等分する場合も、ほとんど同じ話になる。 999 が 27 × 37 であることから、 1000 を 37 で割れば商が 27 で 1 余るし、 1000 を 27 で割れば商が 37 で 1 余る。よって、上記の「37等分」の文章の「37」と「27」を全部スワップしても、正しい内容の文章になる。
1/27 = 0.037 037… と 1/37 = 0.027 027… の密接な関係は、 999 が 27 × 37 と分解されることに関係している、といえるだろう。
例えば 999 = 9 × 111 と分解することもでき、
1/9 = 0.111 111…
1/111 = 0.009 009…
も、同様の「恋人的」関係となる。
99999 = 271 × 369 に基づく次の「恋人関係」は、なかなか印象的だ。
1/271 = 0.00369 00369…
1/369 = 0.00271 00271…
例えば、
1/17 =
0.0588235294117647 0588235294117647…
は循環の周期が 16 もあり、ひどく複雑で「魅力に乏しい」ように感じられるかもしれない。しかしこの複雑さは 1/17 そのものに内在するものではなく、「10進法を使う」という地球人の習慣にも大きな責任がある。 255 = 17 × 15 は16進法では FF = 11 × 0F なんで(桁 F は 10進法の 15 に当たる)、もしこれが16進法の世界だったら、(10進法の 99 と似た)ぞろ目の数 FF が 11 × 0F と分解され、10進法でいうところの 1/17 と 1/15 は、次のようにキュートな恋人同士となる!
16進法 1/11 = 0.0F 0F 0F…
16進法 1/0F = 0.11 11 11…
16進法の小数とは? 第1位は10進法でいう 1/16 の単位、16進法の小数第1位は10進法でいう 1/162 の単位、等々なので、16進法の 0.0F0F… の意味を10進法で書けば、次の通り。
0/(16)
+
15/(162)
+
0/(163)
+
15/(164)
+
···
最初の4項(16進数の小数4桁まで)の値は 3855/65536 = 0.0588226… だ(奇数番目の桁は 0 なので無視しても構わない)。最初の6項の和は、
986895/16777216 = 0.05882 35259…
で、本物の 1/17 = 0.05882 35294… よりわずかに小さいけど、だいたい等しい。
さらに極端に言えば、 10進法でいう 1/17 は、17進法では割り切れる。
17進法 1/10 = 0.1
この最後の等式は「17進法」でなくても(例えば10進法でも)成り立つけど、17進法の「10」は、10進法の 17 に当たる。宇宙のどこかの星系では、触角が17本ある宇宙人が、こんな数のシステムを使っているかもしれない!
では逆に、日常、10進法で 1/10 = 0.1 と呼ばれている「切りのいい数」は、 16進法ではどんな表現になるであろうか?
16進法 1/0A = 0.1999999…
なんたることか! 「切りがいい」という地球人のでたらめな(?)感覚に反して、割り切れない無限小数になってしまう。
実際、例えば16進小数4桁までを考えることにして、16進法の 0.1999 を10進法で表現すると:
1/(16)
+
9/(162)
+
9/(163)
+
9/(164)
=
6553/65536
=
0.0999908447265625
この数は 0.1 に非常に近いが、厳密に一致するわけではない。日常的な影響として、ユーザーが「ちょうど 0.1」と意識していても、一般にはコンピューター内部では「ちょうど 0.1」という数値型のデータを扱うことができず、微妙な丸め誤差が生じる。この誤差は小さいので、問題が表面化しないことも多いだろう。でも、場合によっては分かりにくいバグの原因ともなる。
〔例〕 オンラインショッピングのサイトを作るとして、仮に税率 10% を端数切捨て仕様で計算したいとしよう。単純に考えると、
int tax = (int)( price * 0.1 );
などとなりそうだが、このコードだと、環境によって、 price
が 1000 のとき tax
が 100 にならず 99 になってしまう恐れがある。
分母 p が 3 以上の素数である場合の 1/p について。
1/37 が(無限小数とはいえ)意外とシンプルな小数になること。その事実は、 999 が 37 で割り切れること、言い換えれば
999 ≡ 0 (mod 37)
と、関係していた。より一般的に、
10e − 1 ≡ 0 (mod p)
言い換えれば 10e ≡ 1 (mod p)
を満たす最小の正の整数を e としよう。もし p が 9 を割り切れば e = 1。そうでなく、もし p が 99 を割り切れば e = 2。そうでもなく、もし p が 999 を割り切れば e = 3。そうでなく、もし p が 9999 を割り切れば e = 4、等々。
これは mod p での 10 の位数 e の問題であり、 e が小さければ循環小数は単純になり、 e が大きければ循環小数は複雑になる。
特定の p について e の値を具体的に確定することは簡単ではない。けれど一般論として、もし 10 が mod p の平方剰余であれば、 Euler の基準から、
10(p−1)/2 ≡ 1 (mod p)
であるから、 e は最大でも (p−1)/2 であり、 p−1 の半分、またはその約数となる。他方において、もし 10 が mod p の平方非剰余であれば、
10(p−1)/2 ≡ −1 (mod p)
であるから、 e は (p−1)/2 に等しくはなく、従って、それより大きい可能性がある。しかし Fermat の定理から、
10p−1 ≡ 1 (mod p)
であるから、その場合でも e は p−1 またはその約数であり、 e が (p−1)/2 より大きいなら、必ず e = p−1 となる。
複雑さが最大となる e = p−1 の事例に関していえば、 10 が mod p の平方非剰余であることが、その必要条件。例えば 1/17 の小数の循環周期が 16 であることから、われわれは、
x2 ≡ 10 (mod 17)
には解がない、と断言できる。他方において、 p = 37 のとき e = 3 であるから、
103 ≡ 1 (mod 37)
であり、必然的に、
10(p−1)/2 ≡ 1018 ≡ (103)6 ≡ 1 (mod 37)
となる。ゆえに 1/37 が周期 3 の循環小数になることを根拠として、われわれは、
x2 ≡ 10 (mod 37)
を満たす x が存在する、と断言できる。もっとも「解が存在する」と分かっても、自動的に「解が見つかる†」わけではないが…。この場合、 37 の 3 倍 111 は 37 で割り切れ、そして 112 = 121 なので:
112 − 10 = 111 ≡ 0 (mod 37)
∴ 112 ≡ 10 (mod 37)
すなわち x ≡ ±11 が上記の2次合同式の解だ。
1 ÷ 37 = 0.027027… のような割り算を「難しい」と感じる人は、ほとんどいないだろうけど、その背後には、意外と繊細な問題も潜んでるようだ。
† この種の解(mod 37 での平方根)を求める一つのアルゴリズムは、別のメモに記されている。 p が 8 の倍数より 5 大きい素数(言い換えると、 8 の倍数より 3 小さい素数)だとする。 p = 37 は、この条件に当てはまる。平方根を求めたい数 10 を (p + 3)/8 = 5 乗した数、
105 = 10000 = 37 × 2702 + 26
を 37 で割ると 26 余る。よって ±26 ≡ ∓11 は mod 37 において 10 あるいは −10 の平方根。本文で確かめているように ±11 は事実 10 の平方根だ。この計算の仕組みは、次の通り。一般にもし
a(p−1)/4 ≡ 1
が成り立つなら(すなわち a の位数が (p−1)/4 の約数なら―― p = 37 の場合 a = 10 の位数 3 は、この関係を満たす)、当然、
a × a(p−1)/4 ≡ a × 1 ≡ a キ
となる。キの左辺は、
a4/4 × a(p−1)/4 つまり a(p+3)/4 ク
に等しい。よってキは、
a(p+3)/4 ≡ a ケ
と整理される。ケは、
±a(p+3)/8 ≡ a の平方根 コ
を含意する(仮定により p は 8 の倍数より 3 小さいので、指数 (p+3)/8 は整数)。実際、下記のように、コの左辺の平方は、ケの左辺に等しい(従って ≡ a):
[±a(p+3)/8]2 = +[a(p+3)/8]2 = a(p+3)/4
2025-06-11 「ロシア公式」(Wolstenholme のパズル)について
#遊びの数論 #ジラルの公式 #根の5乗和 #コーシーの定理
A, B, C を定数とする。3次式 z3 − Az + Bz − C の根を a, b, c として、 a, b, c についての対称式の値を A = a + b + c, B = ab + ac + bc, C = abc を使って表すことは、ありふれた操作だ。例えば A = a + b + c = 0 という特殊な条件下では、 Newton 風の再帰的計算によって、
pm = am + bm + cm, m = 3, 4, 5, ···
を容易に求めることもできるし、そのような特殊な条件を付けず、一般の場合の pm の明示的公式を(m = 7 くらいまでについて)導出することもできる。
「ロシア公式」も、本質的には上記 pm に関する平凡な問題に過ぎない。ただし、対称式の理論を使わない別解の中に、興味深いものがある――ロシア語の(比較的マイナーな)問題集にチラッと記されている物珍しい内容なんで、あらためて検討してみたい。
「ロシア公式」の例題 a + b + c = 0 のとき、次の式が成り立つことを示せ。
(a5 + b5 + c5)/5 = (a3 + b3 + c3)/3⋅(a2 + b2 + c2)/2
あるいは同じことだが、示されるべき式の分母を払って(両辺を 5⋅6 倍して):
6(a5 + b5 + c5) = 5(a3 + b3 + c3)(a2 + b2 + c2)
分数の形は Modenov の問題集に現れ、 Litvinenko & Mordkovich にも再録されている。分母を払った形は Krechmar の問題集に現れる。後者の表現を使うと、要するに 6p5 = 5p3p2 を示せばいい。
普通の解法 Girard–Newton の公式から、一般に、
p2 = A2 − 2B
p3 = A3 − 3AB + 3C
p4 = A4 − 4A2B + 4AC − 4D + 2B2
p5 = A5 − 5A3B + 5A2C − 5AD + 5E + 5AB2 − 5BC
が成り立つ。特に A = 0 なら、
p2 = −2B
p3 = 3C
p4 = −4D + 2B2
p5 = 5E − 5BC
であり、しかもこの問題では文字が三つしかなく D = E = 0 なので、結局、示されるべき式 6p5 = 5p3p2 は、
6(−5BC) = 5(3C)(−2B)
という意味を持つ。これが成り立つことは明白(両辺とも −30BC に等しい)。∎
問題そのものは定型的で、既に3回くらい取り上げた(例題3, 問題4, 公式1)。以下、普通と違う解法を記す。
次のサ・シ・スは、対称式の理論と無関係に成り立つ代数的な恒等式だ。
両端が除去された奇数乗の二項展開
サ x3 + y3 − (x + y)3 = −3xy(x + y)
シ x5 + y5 − (x + y)5 = −5xy(x + y)⋅(x2 + xy + y2)
ス x7 + y7 − (x + y)7 = −7xy(x + y)⋅(x2 + xy + y2)2
〔注〕 恒等式サの証明は難しくない。シ・スの直接証明ついては「補題1」参照。より広い観点からはコーシーの定理を参照。
Modenov が示唆している解法は、次の観察に基づく。例題の「普通の解法」で使った p3 = 3C と p5 = −5BC は(そして、例題では未使用だが p7 = 7B2C は)、サ・シ・スのそれぞれで B = −(x2 + xy + y2), C = −xy(x + y) と置いたものと同等。実際、仮定により a + b + c = 0 であり、従って a = x, b = y と置くと c = −(x + y) だ。よって、サから、
p3 = a3 + b3 + c3
= a3 + b3 + [−(a + b)]3
= −3ab(a + b) セ
となり、シからこうなる:
p5 = a5 + b5 + c5
= a5 + b5 + [−(a + b)]5
= −5ab(a + b)⋅(a2 + ab + b2) ソ
スについても同様。
同様のことが、 p2 = −2B, p4 = 2B2, p6 = −2B3 + 3C2 に関連して、下記タ・チ・ツについても成り立つ。
両端が2倍された偶数乗の二項展開
タ x2 + y2 + (x + y)2 = 2(x2 + xy + y2)
チ x4 + y4 + (x + y)4 = 2(x2 + xy + y2)2
ツ x6 + y6 + (x + y)6 = 2(x2 + xy + y2)3 + 3[xy(x + y)]2
〔注〕 恒等式タは難しくない。チ・ツは、それぞれ「補題2・補題3」を使って証明可能。コーシーの定理も参照。
例えばタから:
p2 = a2 + b2 + c2 = a2 + b2 + [−(a + b)]2 = 2(a2 + ab + b2) テ
例題を解くためソ・セ・テを使うと、示されるべき式 6p5 = 5p3p2 は、
6[−5ab(a + b)⋅(a2 + ab + b2)] = 5[−3ab(a + b)][2(a2 + ab + b2)]
となり、明らかに真。特に Modenov 自身が用いている分数形式 p5/5 = (p3/3)⋅(p2/2) は、
−ab(a + b)⋅(a2 + ab + b2) = −ab(a + b)⋅(a2 + ab + b2)
となり、自明な等式だ。
コメント この別解は a + b + c = 0 という条件をそのまま代数的に扱ったもので、直接的には、対称式の理論に依存しない。
引き続き a + b + c = 0 とする。六つの恒等式サ・シ・ス、タ・チ・ツに対応する pm/m のうち(2 ≤ m ≤ 7)、
p2/2 = (a2 + b2 + c2)/2 = −B ト
p3/3 = (a3 + b3 + c3)/3 = C ナ
を使って、他の4種類の pm/m を表現できる。第一に p4/4 = 2B2/4 = (1/2)⋅(−B)2 だから:
(a4 + b4 + c4)/4 = (1/2)⋅((a2 + b2 + c2)/2)2 ニ
第二に p5/5 = (−5BC)/5 = (−B)⋅C だから:
(a5 + b5 + c5)/5 = (a2 + b2 + c2)/2⋅(a3 + b3 + c3)/3 ヌ
第三に p6 = −2B3 + 3C2 従って p6/6 = (1/3)⋅(−B)3 + (1/2)⋅C2 だから:
(a6 + b6 + c6)/6 =
(1/3)⋅((a2 + b2 + c2)/2)3
+
(1/2)⋅((a3 + b3 + c3)/3)2 ネ
第四に p7/7 = B2C = (−B)2⋅C だから:
(a7 + b7 + c7)/7 = ((a2 + b2 + c2)/2)2⋅(a3 + b3 + c3)/3 ノ
p7 に関連して、ノから三つの式が派生する(ノを経由しない直接証明も容易)。ノ右辺にヌを代入すると:
(a7 + b7 + c7)/7 = (a2 + b2 + c2)/2⋅(a5 + b5 + c5)/5 ハ
一方、ノ右辺にニの 2 倍を代入すると:
(a7 + b7 + c7)/7 = 2⋅(a4 + b4 + c4)/4⋅(a3 + b3 + c3)/3 ヒ
最後にノの両辺を p3/3 倍して、ヌの関係により右辺を整理すると:
(a7 + b7 + c7)/7⋅(a3 + b3 + c3)/3
= ((a5 + b5 + c5)/5)2 フ
A = a + b + c = 0 なら、3変数のべき和対称多項式 pm は B = ab + ac + bc と C = abc と係数だけを使って表現可能。上記では、 B と C の代わりに p2/2 と p3/3 が使われている。前者は −B に等しく、後者は C に等しい。同じ「基底」の別表現に当たる。
根の6乗和に関連する式は、出典(ロシアの問題集)には現れない。 m = 2, 3, 4, 5, 7 があって m = 6 だけないのは寂しいので、参考までに追加。 m = 6 の場合、対称式の理論を使う方が実用的だろう。
〔追記〕 「ロシア公式」(特に Modenov 形式)の元ネタは、19世紀英国の Wolstenholme の問題113番のようだ。(2025年6月19日)
『遊びの数論44』へ続く。